説明

溶液製膜方法

【課題】ボーイング現象の発生が抑制されているTACフィルムを得る。
【解決手段】TACと添加剤と溶媒とからドープを調製する。ドープを流延バンド上に流延して流延膜を形成する。流延膜が自己支持性を有するものとなった後に湿潤フィルム120として流延バンドから剥ぎ取る。湿潤フィルム120をテンタ式乾燥機17内に搬送する。延伸部131で湿潤フィルム120を幅方向に延伸し、緩和部132で幅方向に緩和する。把持開始から0.1分間における延伸率X(%)と緩和部132における緩和速度Y(%/分)とが5X+Y<10の関係式を満たすように延伸と緩和とを行う。緩和した後にフィルム90としてテンタ式乾燥機17から送り出しロール状に巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルム、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として広く利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、通常、溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法は、溶融製膜方法などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性がより優れたフィルムを製造することができる。溶液製膜方法では、ポリマーを溶媒に溶解させた高分子溶液(以下、ドープと称する)をつくる。溶媒は、ジクロロメタンや酢酸メチル等を主たる成分とする混合物であることが多い。そして、ドープを流延ダイより流延ビードを形成させて支持体上に流延して流延膜を形成する。流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、この流延膜を支持体からフィルムとして剥ぎ取る。剥ぎ取ったときのフィルムは溶媒を含んでいるので、以下、これを湿潤フィルムと称する。この湿潤フィルムをテンタ式乾燥機により流延幅方向に延伸、緩和を行いつつ乾燥も行う。これにより、湿潤フィルムの表面の平面性を向上させることができる。そして、乾燥したフィルムを巻き取る(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、テンタ式乾燥機で湿潤フィルムの幅方向に張力を掛けると、ボーイング現象が生じる。この現象により、流延幅方向について、遅相軸の方向が異なるようになることが知られている。最近、液晶表示装置のコントラスト比の向上、画面輝度向上といった品質向上に関連して、光学フィルムの遅相軸方向の幅方向におけるばらつきに対する要求はますます厳しくなってきており、改良が望まれている。特に、偏光板の保護フィルムにおいては、遅相軸方向の精度を高める要求が強い。これは、偏光板の保護フィルムに対しては、直線偏光の楕円化を防止するために面内レターデーション値を非常に低い値(0nm〜5nm)とすることをも求められ、フィルムの長手方向と幅方向とのいずれかの方向に一様に分子を配向させることはできないからである。
【0005】
このボーイング現象の発生を防止する手法は、溶融製膜方法によるポリエステルフィルムの製造に際して2軸延伸を行う方法がよく研究されており、種々の改良方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら溶液製膜においては、残留溶媒量に応じフィルムの弾性率が変化するため、ボーイングのコントロールは非常に難しい。
【0006】
溶液製膜方法におけるボーイング現象の発生を防止する手段として、(1)湿潤フィルムの中央よりも端部の温度を高くする。(2)湿潤フィルムの中央より端部の溶媒量を大きくする。(3)テンタ式乾燥機内に温度の異なるゾーンを設けるといった手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、テンタ式乾燥機でフィルム両端を把持している区画におけるフィルム中の溶媒量変化を25重量%以下とすることにより、遅相軸の方向を均一にする手法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【特許文献1】特開2004−034536号公報
【特許文献2】特開2002−296422号公報
【特許文献3】特開2004−314529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献2記載の手法では、テンタ式乾燥機の延伸ゾーン内にいくつも異なる加熱条件のゾーンを設ける必要がある。また、湿潤フィルムの流延幅方向に精密な温度コントロールを行う必要もある。そのため、加熱手段の個数,制御装置の増加、構造の複雑化といった要因で設備コストの増大をもたらす問題が生じる。また、テンタ式乾燥機内で湿潤フィルムの乾燥を進めれば進めるほど、湿潤フィルムの平面性が向上し、湿潤フィルムの複屈折特性も変化する。しかしながら、前記特許文献3に記載の手法では、テンタ式乾燥機での湿潤フィルムの乾燥量が限定されるので、平面性、複屈折特性を必ずしも望ましい範囲に調整することが出来ない問題が生じる。
【0009】
本発明は、特別な設備を用いることなくボーイング現象の発生が抑制されたフィルムを製造することができる溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討した結果、ボーイングの発生はテンタ式乾燥機内での湿潤フィルムの乾燥中に湿潤フィルムの幅方向の延伸、緩和という幅の変更時に発生することを見出した。幅の変更速度が大きいとボーイングが発生することを見出した。そこで、本発明においては湿潤フィルムの幅の変更速度を遅くすることでボーイングの発生を抑制する。また、ボーイングの発生は湿潤フィルムがテンタ式乾燥機の入口直後で発生しやすいことも見出した。テンタ式乾燥機に入れられる前の湿潤フィルムは、その幅方向に張力が付与されていない。そこで、湿潤フィルムがテンタ式乾燥機に搬送され両縁が把持されると、湿潤フィルムの幅方向に張力が付与されボーイングが発生しやすくなることを見出した。そして、このテンタ式乾燥機入口直後における張力付与の影響は後に行われる緩和工程よりも約5倍の頻度でボーイングが発生することをも本発明者は見出した。そこで、以下に示す本発明によりテンタ式乾燥機入口における張力に起因するボーイングの発生及び湿潤フィルムを緩和するときのボーイングの発生を抑制できる。
【0011】
本発明の方法によれば、湿潤フィルムの幅方向で乾燥条件(例えば、温度など)を変える必要がない。また、テンタ式乾燥機内で湿潤フィルム中の溶媒の乾燥量が制限されるおそれもない。さらに、延伸パターンの変更により遅相軸精度を向上させることができることも見出した。
【0012】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体に流延して流延膜を形成する流延膜形成工程と、この流延膜を支持体からフィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、フィルムの両端を把持してフィルムを搬送しながら乾燥する把持乾燥工程とを有する溶液製膜方法において、把持乾燥工程は、フィルムを幅方向に延伸して大きくする延伸工程と、フィルムの幅を縮小する緩和工程とを有し、把持の開始時におけるフィルムの幅をLaとし、把持の開始から0.1分経過したときのフィルムの幅をLbとするときに、{(Lb−La)/La}×100で求める延伸率X(単位;%)と、前記緩和工程における単位時間あたりの緩和率Y(単位;%/分)とが、5X+Y<10の条件を満たすことを特徴として構成されている。XとYとは5X+Y<6を満たすことがより好ましく、5X+Y<5を満たすことがさらに好ましく、5X+Y<1を満たすことが最も好ましい。なお、単位時間あたりの緩和率Yを、以下、緩和速度Yと称する。
【0013】
前記延伸率X(%)を1.0%以下とすることが好ましく、0.50%以下とすることがより好ましい。前記緩和速度Y(%/分)を5.0%/分以下とすることが好ましい。そして、ポリマーがセルロースアシレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶液製膜方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体に流延して流延膜を形成する流延膜形成工程と、この流延膜を支持体からフィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、フィルムの両端を把持してフィルムを搬送しながら乾燥する把持乾燥工程とを有する溶液製膜方法において、把持乾燥工程は、フィルムを幅方向に延伸して大きくする延伸工程と、フィルムの幅を縮小する緩和工程とを有し、把持の開始時におけるフィルムの幅をLaとし、把持の開始から0.1分経過したときのフィルムの幅をLbとするときに、{(Lb−La)/La}×100で求める延伸率X(単位;%)と、前記緩和工程における緩和速度Y(単位;%/分)とが、5X+Y<10の条件を満たすから、前記フィルムの延伸時及び緩和時のボーイング現象の発生が抑制され、表面の状態、つまり面状が良好で且つ面内レターデーション(Re)が所望の範囲であるフィルムを得ることができる。そのフィルムは光学フィルムに好ましく用いられる。
【0015】
さらに上記の方法に加えて、
(1)前記フィルムの延伸率X(%)を1.0%以下とする。
(2)前記緩和速度Y(%/min)を5.0%/min以下とする。
の各条件のうち少なくとも1つを満たすことでよりボーイング現象の抑制効果がさらに高まり、面状をさらに良好なものとし、面内レターデーション(Re)を所望の範囲となるように制御しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0017】
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。ただし、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0018】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0019】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは
0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0020】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートを用いることにより好ましいドープが作製できる。特に非塩素系有機化合物を溶媒として用いるときには、良好なドープをつくることができる。さらに粘度が低く、濾過性の良いドープの作製が可能となる。
【0021】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでも良いが、リンター綿から得られたものがより好ましい。
【0022】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0023】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0024】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0025】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0026】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらも本発明に適用することができる。
【0027】
[ドープ製造方法]
上記原料を用いて、まずドープを製造する。ドープ製造ラインには、溶媒を貯留するための溶媒タンクと溶媒とTACなどとを混合するための混合タンクとTACを供給するためのホッパと添加剤を貯留するための添加剤タンクとが備えられている。さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置と調製されたドープの温度を調整する温調機と濾過装置とを備えている。また、溶媒を回収するための回収装置と、回収された溶媒を再生するための再生装置とが備えられている。そして、このドープ製造ラインは、ストックタンク11を介してフィルム製造ライン10と接続されている。
【0028】
まず始めに、バルブを開き、溶媒が溶媒タンクから混合タンクに送られる。次にホッパに入れられているが、計量されながら混合タンクに送り込まれる。また、添加剤溶液(主に可塑剤が含まれている)は、バルブの開閉操作により必要量が添加剤タンクから混合タンクに送り込まれる。添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で混合タンクに送り込むことが可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて混合タンクに送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンクの中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により混合タンクに送り込むこともできる。
【0029】
前述した説明においては、混合タンクに入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、TACを計量しながら混合タンクに送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンクに予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
【0030】
混合タンクには、その外面を包み込むジャケットと、モータにより回転する第1攪拌機とが備えられている。さらに、モータにより回転する第2攪拌機が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。そして、混合タンクには、ジャケットの内部に伝熱媒体を流すことにより温度調整されており、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機,第2攪拌機のタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液を得る。
【0031】
次に、膨潤液は、ポンプにより加熱装置に送られる。加熱装置は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液中の固形分を溶解させてドープを得る。以下、この方法を加熱溶解法と称する。なお、この場合に膨潤液の温度は、50℃〜120℃であることが好ましい。また、膨潤液を−100℃〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に充分溶解させることが可能となる。ドープを温調機により略室温とした後に、濾過装置により濾過してドープ中に含まれる不純物を取り除く。濾過装置に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープ12は、フィルム製造ライン10中のストックタンク11に送られここに貯留される。
【0032】
ところで、上記のように、一旦膨潤液を調製し、その後にこの膨潤液をドープとする方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなり、製造コストの点で問題となる場合がある。その場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを調製し、その後に目的の濃度とするための濃縮工程を行うことが好ましい。
【0033】
以上の方法により、TAC濃度が5重量%〜40重量%であるドープ12を製造することができる。より好ましくはTAC濃度が15重量%以上30重量%以下であり、最も好ましくは17重量%以上25重量%以下の範囲とすることである。また、添加剤(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体を100重量%とした場合に1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0034】
[溶液製膜方法]
次に、上記で得られたドープ12を用いてフィルムを製造する方法を説明する。図1はフィルム製造ライン10を示す概略図である。ただし、本発明は、図1に示すようなフィルム製造ラインに限定されるものではない。フィルム製造ライン10には、ストックタンク11、流延ダイ13、回転ローラ14,15に掛け渡された流延バンド16及びテンタ式乾燥機17などが備えられている。さらに耳切装置20、乾燥室21、冷却室22及び巻取室23などが配されている。
【0035】
ストックタンク11には、モータ30で回転する攪拌機31が取り付けられている。そして、ストックタンク11は、ポンプ32及び濾過装置33を備える配管34が接続されている。さらに、スタティックミキサ35が取り付けられ、流延ダイ13と接続している。
【0036】
ストックタンク40にはマット剤液41が貯留している。マット剤液41はドープ12を構成する溶媒とポリマーと添加剤などとを含みドープ12に混合し易いように調製されている。ストックタンク40は、ポンプ42が設けられている配管43が接続されている。なお、本発明に用いられるマット剤は特に限定されるものではないが、シリカ,アルミナなどが好ましく用いられる。また、濃度も特に限定されるものではないが、0.01重量%〜0.50重量%の範囲であることが好ましい。
【0037】
ストックタンク45には紫外線吸収剤溶液46が貯留している。紫外線吸収剤溶液46はドープ12を構成する溶媒とポリマーと添加剤などとを含みドープ12に混合し易いように調製されている。ストックタンク45は、ポンプ47が設けられている配管48が接続されている。この配管48には前記マット剤液41が送液されている配管43と接続している。また、配管48にはスタティックミキサ49が取り付けられている。さらに、配管48は、スタティックミキサ49の下流側でドープ12が送液されている配管34と接続されている。なお、本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されるものではないが、ベンゾトリアゾール系,ベンゾフェノン系などが好ましく用いられる。また、濃度も特に限定されるものではないが、0.1重量%〜3.0重量%の範囲であることが好ましい。
【0038】
マット剤液41は、配管43を通り紫外線吸収剤溶液46に混合される。その後にスタティックミキサ49により均一に混合攪拌される。以下、混合攪拌された液を添加液と称する。
【0039】
添加液は、配管34内を送液しているドープ12に混合される。その後にスタティックミキサ35で混合攪拌されて均一な液となる。以下、この液を流延用ドープと称する。
【0040】
流延ダイ13の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ13の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いられる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ13を作製することが好ましい。これにより流延ダイ13内を流延用ドープが一様に流れ、後述する流延膜にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ13の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ13のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ13のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ13内部における流延用ドープの剪断速度が1(1/sec)〜5000(1/sec)となるように調整されていることが好ましい。
【0041】
流延ダイ13の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.1倍〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ13に温調機を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ13にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ13の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ13に備えられていることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)32の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フィルム製造ライン10中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて製品フィルムの幅方向の任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0042】
流延ダイ13のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ13と密着性が良く、ドープとの密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al,TiN,Crなどが挙げられるが、なかでも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0043】
流延ダイ13のスリット端に流出する流延用ドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、流延用ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5重量部,アセトン13重量部,n−ブタノール0.5重量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部、ダイスリット端部及び外気が形成する三相接触線の周辺部付近に供給することが好ましい。端部の片側それぞれに0.1mL/分〜1.0mL/分で供給することが、流延膜中への異物混合を防止するために好ましい。なお、この液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0044】
流延ダイ13の下方には、回転ローラ14,15に掛け渡された流延バンド16が設けられている。回転ローラ14,15は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド16は無端で走行する。流延バンド16は、その移動速度、すなわち流延速度が10m/分〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド16の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ14,15に伝熱媒体循環装置60が取り付けられていることが好ましい。流延バンド16は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ14,15内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ14,15の温度を所定の値に保持されるものとなっている。
【0045】
流延バンド16の幅は、特に限定されるものではないが、流延用ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド16は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド16の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0046】
なお、回転ローラ14,15を直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。この場合には、回転ローラ14,15の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、回転ローラの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性を持たせる。なお、支持体(流延バンド16や回転ローラ14,15)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0047】
流延ダイ13、流延バンド16などは流延室61に収められている。流延室61には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備(図示しない)と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)63とが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置64が流延室61の外部に設けられている。また、流延ダイ13から流延バンド16にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ65が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
【0048】
流延膜70中の溶媒を蒸発させるため送風口71,72,73が流延バンド16の周面近くに設けられている。また、流延直後の流延膜70に乾燥風が吹き付けられることによる流延膜70の面状変動を抑制するため流延ダイ13近傍の送風口71には遮風板74が設けられていることが好ましい。
【0049】
渡り部80には、送風機81が備えられ、テンタ式乾燥機17の下流の耳切装置20には、切り取られたフィルム90の側端部の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ91が接続されている。
【0050】
乾燥室21には、多数のローラ100が備えられており、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置101が取り付けられている。そして、図1においては、乾燥室21の下流に冷却室22が設けられているが、乾燥室21と冷却室22との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。冷却室22の下流には、フィルム90の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)102が設けられている。図1においては、強制除電装置102は、冷却室22の下流側とされている例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。さらに、本実施形態においては、フィルム90の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ103が、強制除電装置102の下流に適宜設けられる。また、巻取室23の内部には、フィルム90を巻き取るための巻取ローラ110と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ111とが備えられている。
【0051】
次に、以上のようなフィルム製造ライン10を使用してフィルム90を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ12は、攪拌機31の回転により常に均一化されている。ドープ12には、この攪拌の際にも可塑剤などの添加剤を混合させることもできる。
【0052】
ドープ12は、ポンプ32により濾過装置33に送られてここで濾過される。マット剤液41はポンプ42で配管43内に送液される。紫外線吸収剤溶液46はポンプ47で配管48内を送液される。配管43内のマット剤液41は配管48内の紫外線吸収剤溶液46内に混合される。その後にスタティックミキサ49で攪拌混合されて均一な添加液となる。添加液は配管48内を送液され、配管34内に送液されているドープ12に混合される。その後にスタティックミキサ35で攪拌混合されて組成が略均一な流延用ドープとなる。ドープ12とマット剤液41と紫外線吸収剤溶液46との混合比は特に限定されるものではないが、90重量%:5重量%:5重量%〜99重量%:0.5重量%:0.5重量%の範囲であることが好ましい。
【0053】
流延用ドープは、流延ダイ13から流延バンド16上に流延される。回転ローラ14,15の駆動は、流延バンド16に生じるテンションが10N/m〜10N/mとなるように調整されることが好ましい。また、流延バンド16と回転ローラ14,15との相対速度差は、0.01m/分以下となるように調整する。流延バンド16の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド16が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するために流延バンド16の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき流延バンド16の位置制御機(図示しない)にフィードバック制御を行い、流延バンド16の位置の調整を行うことがより好ましい。さらに、流延ダイ13直下における流延バンド16について、回転ローラ14の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。また、流延室61の温度は、温調設備(図示しない)により−10℃〜57℃とされていることが好ましい。なお、流延室61の内部で蒸発した溶媒は凝縮器63で凝縮液化した後に回収装置64により回収された後に、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
【0054】
流延ダイ13から流延バンド16にかけては流延ビードが形成され、流延バンド16上には流延膜70が形成される。流延時の流延用ドープの温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、この流延ビードの背面が減圧チャンバ65により所望の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は、前面よりも−2000Pa〜−10Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ65にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ65の温度は特に限定されるものではないが、用いられている有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために流延ダイ13のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
【0055】
流延膜70は、流延バンド16の走行とともに移動し、このときに送風口71,72,73により流延膜70に乾燥風があてられて溶媒の蒸発が促進される。そして、この乾燥風の吹き付けにより流延膜70の面状が変動することがあるが、遮風板74がこの変動を抑制している。なお、流延バンド16の表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。
【0056】
流延膜70は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム120として剥取ローラ121で支持されながら流延バンド16から剥ぎ取られる。剥ぎ取り時の残留溶媒量は、固形分基準で20重量%〜250重量%であることが好ましい。その後に多数のローラが設けられている渡り部80を搬送させて、テンタ式乾燥機17に湿潤フィルム120を送り込む。渡り部80では、送風機81から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルム120の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部80では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルム120にドローテンションを付与させることも可能である。
【0057】
テンタ式乾燥機17に送られている湿潤フィルム120は、その両端部がクリップで把持されて搬送されながら乾燥される。また、テンタ式乾燥機17の内部を温度ゾーンに区画して、ゾーン毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。テンタ式乾燥機17を用いて湿潤フィルム120を幅方向に延伸させることも可能である。渡り部80とテンタ式乾燥機17との少なくともいずれか一方で湿潤フィルム120の長手方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。なお、テンタ式乾燥機17による湿潤フィルム120の乾燥については後に詳細に説明する。
【0058】
湿潤フィルム120は、テンタ式乾燥機17で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、フィルム90として下流側に送り出される。フィルム90の両側端部は、耳切装置20によりその両縁が切断される。切断された側端部は、図示しないカッターブロワによりクラッシャ91に送られる。クラッシャ91により、フィルム側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。なお、このフィルム両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0059】
両側端部を切断除去されたフィルム90は、乾燥室21に送られ、さらに乾燥される。乾燥室21内の温度は、特に限定されるものではないが、50℃〜160℃の範囲であることが好ましい。乾燥室21においては、フィルム90は、ローラ100に巻き掛けられながら搬送されており、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置101により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室21の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室21は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置20と乾燥室21との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム90を予備乾燥すると、乾燥室21においてフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、これによりフィルム90の形状変化をより抑制することができる。
【0060】
フィルム90は、冷却室22で略室温まで冷却される。なお、乾燥室21と冷却室22との間に調湿室(図示しない)を設けても良く、この調湿室でフィルム90に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フィルム90のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
【0061】
また、強制除電装置(除電バー)102により、フィルム90が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とされる。図1では冷却室22の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ103を設けて、フィルム90の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0062】
最後に、フィルム90を巻取室23内の巻取ローラ110で巻き取る。この際には、プレスローラ111で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフィルム90は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム90の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルム90の厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0063】
本発明に係る溶液製膜方法におけるテンタ式乾燥機17による湿潤フィルム120の延伸緩和について図2を参照して説明する。テンタ式乾燥機17は、湿潤フィルム120の両端を保持手段で保持する入口部130と、湿潤フィルム120の幅を拡げる延伸部131と、湿潤フィルム120の幅を縮小する緩和部132と、湿潤フィルム120の把持を解除する出口部133とを有する。
【0064】
保持手段としてはクリップが用いられる。多数のクリップはチェーンに接続されており、チェーンはスプロケットと噛合い、レールに案内されて無端で走行する。チェーンの移動に伴い、湿潤フィルム120は入口部130から延伸部131、緩和部132を経て出口部133に搬送される。レールはシフト機構を備え、このシフト機構により変位する。レールの変位によりチェーンの移動路は変わるのでこれに伴いクリップが移動する軌道が変わる。クリップの軌道を変えることにより、湿潤フィルム120の幅を変える。また、テンタ式乾燥機17の内部は湿潤フィルム120を乾燥させるために60℃〜180℃の範囲に温度を制御されていることが好ましい。より好ましくは、乾燥条件を経時的に変化させるため、搬送路の方向で複数の区画にテンタ式乾燥機17の内部を分割してそれぞれの区画毎に温度制御を行うことが好ましい。その区画数は例えば2〜5とされる。
【0065】
湿潤フィルム120の両側端部はテンタ式乾燥機17の入口17a、つまり入口部130の上流端でクリップ(図示なし)により把持される。以下の説明において、符号L1〜L6で示す各フィルムの幅とは、クリップにより狭持された両端部の位置間の寸法である。クリップに把持を開始されたときの湿潤フィルム120の幅をL1(mm)、延伸部131で延伸されて幅が最大になったときの湿潤フィルム120の幅をL2(mm)、出口部133で把持を解除されるときのフィルム90の幅をL3とする。
【0066】
湿潤フィルム120は、入口部130では幅を変えないようにして搬送され、延伸部131に送られる。湿潤フィルム120は、延伸部131で幅方向に延伸される。その後、湿潤フィルム120は緩和部132で幅方向に緩和される。緩和後、湿潤フィルム120は一定の幅L3(mm)を保持されたまま、出口17bからフィルム90として送り出される。
【0067】
入口17aから0.1分間を経たときの湿潤フィルム120の幅をL4(mm)とする。図2では、入口17aから0.1分間を経たときの湿潤フィルム120の位置、つまりL4の位置は延伸部131にある場合を示しているが、この位置は湿潤フィルム120の搬送速度に応じて変わる。したがって、この位置が入口部130の範囲である場合もある。把持を開始されてから0.1分間経過したときまでの延伸率XをX(%)={(L4−L1)/L1}×100の式で求める値とする。本発明において延伸率Xは−10.0%以上1.0%以下であることが好ましく、より好ましくは−5.0%以上0.5%以下であり、最も好ましくは−2.0%以上0.5%以下である。延伸率X(%)が−10.0%未満であると湿潤フィルム120にたるみが生じて、湿潤フィルム120がテンタ式乾燥機17に接触し、スリキズやシワなどが生じるおそれがある。また、1.0%を超えると、湿潤フィルム120が急激に延伸されるため、ポリマー分子に配向が生じて面内レターデーション(Re)が上昇することがある。この場合には、ボーイング現象が生じることもある。
【0068】
なお、延伸部131においては、必ずしも一定の速度で幅を拡大する必要はないとともに、幅の拡大を連続的に実施しなくてもよい。例えば、幅の拡大と一定幅の保持とを交互に実施してもよい。
【0069】
緩和部132の入口132aから緩和が始まる。図2には、緩和部132で2段階の緩和をする場合、つまり、緩和速度が互いに異なる2回の緩和を実施した場合を示している。2回の緩和のうち先の一方を第1区間132b、後の他方を第2区間132cとする。ただし、第1及び第2の区間132b、132cを設けずに、緩和部132における緩和速度を変えないで一定の緩和速度で緩和を実施してもよいし、緩和速度が異なる3回以上の緩和を実施してもよい。
【0070】
図2は第2区間132cは第1区間132bよりも緩和速度が大きい区間である場合を示すものであるが、両者の緩和速度は逆であってもよい。緩和部132の入口132aで幅L2をもつ湿潤フィルム90は、第1区間132bで幅をL5(mm)とされ、第2区間132cで幅をL6(mm)とされる。
【0071】
第1及び第2区間132b,132cにおける緩和速度は、それぞれ、[{(L2−L5)/L2}×100]と[{(L5−L6)/L5}×100]とをそれぞれの区間132b,132cの通過時間で除した値である。本発明では、緩和部132において緩和速度を変えるときに、最も大きな緩和速度をYとする。したがって、本実施形態では第2区間における緩和速度をYとする。そして、第2区間を通過する時間をTとするときに、Y(%/分)=[{(L5−L6)/L5}×100]/Tの式で求められるYは、0.0%/分以上5.0%/分以下であることが好ましく、より好ましくは0.0%/分以上3.0%/分以下であり、最も好ましくは0.0%/分以上1.0%/分以下である。Yが10%/分を超えると、湿潤フィルム120が急激に収縮することによりフィルムの面状が悪化、例えば、ツレやシワが発生するおそれがある。なお、緩和部132で緩和速度を一定とするときには、その一定値をYとするとよい。
【0072】
本発明においては、X(%)とY(%/分)とは、5X+Y<10の条件を満たし、5X+Y<6.0の条件を満たすことがより好ましく、5X+Y<5.0の条件を満たすことがさらに好ましく、5X+Y<1の条件を満たすことが最も好ましい。
【0073】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0074】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0075】
[性能・測定法]
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
【0076】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0077】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0078】
さらに前記セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0079】
前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0080】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0081】
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるセルローストリアセテートフィルム(TACフィルム)を得ることができる。前記TACフィルムは、偏光板保護フィルムや写真感光材料のベースフィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途の液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどに用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【実施例1】
【0082】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、説明は実験1で詳細に行い、本発明に係る実験2ないし実験6及び比較例である実験7ないし実験9については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略する。また、実験結果については後に表1にまとめて示す。
【0083】
フィルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0084】
[実験1]
[ドープの調製]
ドープ12の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 92重量%
メタノール 8重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ12を調製した。なお、ドープ12の固形分濃度は19.3重量%とに調整した。ドープ12を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク11に入れた。
【0085】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0086】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液41を調製した。なお、TACは、ドープ12の調製に用いたものを同じ物を用いた。
シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972) 0.67重量%
セルローストリアセテート 2.93重量%
トリフェニルフォスフェート 0.23重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.12重量%
ジクロロメタン 88.37重量%
メタノール 7.68重量%
上記処方からマット剤液41を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士写真フイルム(株)製アストロポア10フィルタにてろ過した。そして、マット剤液用のストックタンク40に入れた。
【0087】
[紫外線吸収剤溶液の調製]
下記の処方から紫外線吸収剤溶液46を調製した。なお、TACは、ドープ12の調製に用いたものを同じ物を用いた。
2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert―ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 5.83重量%
2(2´−ヒドロキシ3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 11.66重量%
セルローストリアセテート 1.48重量%
トリフェニルフォスフェート 0.12重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.06重量%
ジクロロメタン 74.38重量%
メタノール 6.47重量%
上記処方から紫外線吸収剤溶液46を調製し、富士写真フイルム(株)製のアストロポア10フィルタにてろ過した後に紫外線吸収剤溶液用のストックタンク45に入れた。
【0088】
また、ジクロロメタンが86.5重量部、アセトンが13重量部、1−ブタノールが0.5重量部の混合溶媒Aを作製した。
【0089】
マット剤液41をポンプ42により配管43内に送液し、紫外線吸収剤溶液46をポンプ47により配管48内に送液した。紫外線吸収剤溶液46にマット剤液41を混合した後にスタティックミキサ49で混合攪拌して添加液を得た。ドープ12をポンプ32により配管34内に送液して、濾過装置33を通過させて濾過した後に前記添加液を混合した。その液をスタティックミキサ35で混合攪拌して流延用ドープを得た。
【0090】
図1に示すフィルム製造ライン10を用いてフィルム90を製造した。ポンプ32は、その1次側を増圧する機能を有しており、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりポンプ32の上流側に対するフィードバック制御を行い送液した。ポンプ32は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であるものを用いた。また、吐出圧力は1.5MPaであった。
【0091】
流延ダイ13は、幅が1.8mであり乾燥されたフィルムの膜厚が80μmとなるように、流延ダイ13の吐出口の流延用ドープの流量を調整して流延を行った。また流延ダイ13の吐出口からの流延用ドープの流延幅を1700mmとした。なお、流延速度は、45m/min〜55m/minとした。流延用ドープの温度を36℃に調整するために、流延ダイ13にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
【0092】
流延ダイ13と配管とはすべて、製膜中には36℃に保温した。流延ダイ13は、コートハンガータイプのダイを用いた。流延ダイ13には、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは、予め設定したプログラムによりポンプ32の送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フィルム製造ライン10に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。端部20mmを除いたフィルムにおいては、50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下となるように調整した。また、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0093】
また、流延ダイ13の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ65を設置した。この減圧チャンバ65の減圧度は、流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を設定した。また、減圧チャンバ65は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものを用いた。ダイ吐出口におけるビードの前面部、背面部にはラビリンスパッキン(図示しない)を設けた。また、流延ダイのダイ吐出口の両端には開口部を設けた。さらに、流延ダイ13には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)を取り付けた。
【0094】
流延ダイ13の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の析出硬化型のステンレス鋼を用いた。これは、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものであった。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬
しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有していた。流延ダイ13の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。流延ダイ13のリップ先端の接液部の角部分については、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。流延ダイ13内部での流延用ドープの剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲であった。また、流延ダイ13のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0095】
さらに流延ダイ13の吐出口には、流出する流延用ドープが局所的に乾燥固化することを防止するために、流延用ドープを可溶化するための混合溶媒Aを流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、それぞれ0.5ml/minずつ供給した。混合溶媒を供給するポンプの脈動率は5%以下であった。また、減圧チャンバ65により流延ビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。減圧チャンバ65の内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケット内には35℃に調整された伝熱媒体を供給した。前記エッジ吸引装置は、1L/min〜100L/minの範囲となるようにエッジ吸引風量を調整することができるものであり、本実施例ではこれを30L/min〜40L/minの範囲となるように適宜調整した。
【0096】
支持体として幅1.9mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを流延バンド16として利用した。流延バンド16は、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨した。その材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものを用いた。流延バンド16の全体の厚みムラは0.5%以下であった。流延バンド16は、2個の回転ローラ14,15により駆動させた。また、流延バンド16と回転ローラ14,15との相対速度差が0.01m/min以下になるように調整した。このときに、流延バンド16の速度変動を0.5%以下とした。また1回転の幅方向の蛇行が、1.5mm以下に制限されるように流延バンド16の両端位置を検出して制御した。流延ダイ13の直下におけるダイリップ先端と流延バンド16との上下方向の位置変動は200μm以下にした。流延バンド16は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室61内に設置した。この流延バンド16上に流延ダイ13から流延用ドープを流延した。
【0097】
回転ローラ14,15は、流延バンド16の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ13側の回転ローラ14には5℃の伝熱媒体を流し、他方の回転ローラ15には乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド16中央部の表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド16には、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であるものを用いた。
【0098】
流延バンド16上に流延された流延用ドープから形成された流延膜70には、最初に流延膜70に対して平行に流れる乾燥風を送り、流延膜70を乾燥した。乾燥風の温度は、流延バンド16上部の上流側の送風口71からは140℃の乾燥風を送風した。また下流側の送風口72からは140℃の乾燥風を送風し、流延バンド16下部の送風口73からは65℃の乾燥風を送風した。流延バンド16上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。また、流延室61内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)63を設け、その出口温度を−3℃に設定した。
【0099】
流延ダイ13近傍の静圧変動は、±1Pa以下に抑制した。流延膜70が自己支持性をを有するものとなった後に流延バンド16から剥取ローラ121で支持しながら湿潤フィルム120として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延バンド16の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。乾燥により発生した溶媒ガスは−3℃の凝縮器63で凝縮液化して回収装置64で回収した。回収された溶媒は、水分量が0.5%以下となるように調整した。また、溶媒が除去された乾燥風は、再度加熱して乾燥風として再利用した。湿潤フィルム120を渡り部80の2本のローラを介して搬送し、テンタ式乾燥機17に送った。この渡り部80では送風機81から60℃の乾燥風を湿潤フィルム120に送風した。
【0100】
テンタ式乾燥機17に送られた湿潤フィルム120は、クリップでその両端を固定されながらテンタ式乾燥機17の乾燥ゾーン内を搬送され、この間に乾燥風により乾燥された。クリップは、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。クリップの搬送は、チェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ式乾燥機17内では90℃の熱風を、幅方向風速が一定になるようにあらかじめ調整し、断続的に配置された給気ノズルにて湿潤フィルム120の法線方向(すなわち、上下方向から)から吹き付けた。乾燥風のガス組成は−10℃における飽和ガス濃度とした。テンタ式乾燥機17の出口におけるフィルム90内の残留溶媒量は、14重量%〜17重量%であった。テンタ式乾燥機17内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。なお、テンタ式乾燥機17の入口17aと出口17bとにおける湿潤フィルム120の幅から求められる最終延伸率(=(L3−L1)/L1×100)が4.5%となるようにクリップの搬送路を調整した。剥取ローラ121からテンタ式乾燥機17の入口に至るまでの延伸率(テンタ駆動ドロー)は103.0%とした。
【0101】
テンタ式乾燥機17内で蒸発した溶媒は、凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、−3℃の温度で凝縮させ液化して回収した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5重量%以下に調整されて再使用された。そして、テンタ式乾燥機17からフィルム90として送り出した。
【0102】
湿潤フィルム120が延伸部131に搬送されてから0.1分間(=6秒間)の延伸率X(={(L4−L1)/L1}×100)は0.11%とした。また、緩和部132におけるY(=[{(L5−L6)/L5}×100]/T)が0(%/分)となるように緩和部132での緩和速度を一定とした。この場合における5X+Y値は0.53であった。
【0103】
テンタ式乾燥機17の出口から30秒以内にフィルム90の両端の耳切を耳切装置20で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ91に風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。テンタ式乾燥機17の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室21で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフィルム90を予備加熱した。
【0104】
フィルム90を乾燥室21で高温乾燥した。乾燥室21を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム90のローラ100による搬送テンションを100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3重量%になるまで約5分間乾燥した。ローラ100のラップ角度(フィルムの巻き掛け中心角)は、80°〜190°とした。ローラ100の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ100の表面形状はフラットなものとディンプル加工したものとを用いた。ローラ100の回転によるフィルム位置の振れは、全て50μm以下であった。また、テンション100N/mでのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0105】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置101を用いて吸着回収除去した。ここに使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量を0.3重量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には、溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、凝縮法で回収する溶媒量は90重量%であり、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
【0106】
乾燥されたフィルム90を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室21と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルム90のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフィルム90を搬送した。第2調湿室では、フィルム90に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0107】
調湿後のフィルム90は、冷却室22で30℃以下に冷却した後に耳切装置(図示しない)で再度両端の耳切りを行った。搬送中のフィルム90の帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)102を設置した。さらにフィルム90の両端にナーリング付与ローラ103でナーリングの付与を行った。ナーリングはフィルム90の片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフィルム90の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラ103による押し圧を設定した。
【0108】
そして、フィルム90を巻取室23に搬送した。巻取室23は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室23の内部には、フィルム90の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。このようにして得られたフィルム(厚さ80μm)90の製品幅は、1340mmとなった。
【0109】
[遅相軸ズレの測定]
自動複屈折率計(KOBRA−21DH,王子機器計測(株)製)で軸ズレ角度を測定した。得られたフィルム90の端から15cmの位置(以下、フィルム端1と称する)及びフィルム中央からサンプルをカッティングプロッタを用いて正確に5cm×5cmに採取した。自動複屈折率計で、フィルム90の長手方向に対する遅相軸のなす角を測定し、フィルム端とフィルム中央での遅相軸の差の大きさで遅相軸ズレを評価した。この値を以下軸ズレ値1と称する。軸ズレ値1は2.2°であった。また、フィルム90の端から5cmの位置のフィルム端(以下、フィルム端2)もカッティングしてフィルム端1と同じ条件で測定した。この値を以下軸ズレ値2と称する。軸ズレ値2は8.7°であった。
【0110】
軸ズレ値1は及び軸ズレ値2がいずれも10°未満であるとき極めて良好(◎)、軸ズレ値1は10°未満であるが、軸ズレ値2が10°以上45°未満のとき良好(○)、軸ズレ値1は10°未満であるが、軸ズレ値2が45°以上のときやや不良(△)、そして、軸ズレ値1が10°以上のとき不良(×)の4段階評価を行った。実験1ではいずれの軸ズレ値も極めて良好であり、フィルムの評価は極めて良好(◎)であった。
【0111】
[実験2ないし実験5]
実験2ないし実験5では、XとYとを表1に示す値とした以外は実験1と同じ条件で行った。いずれの実験で得られたフィルムもその評価は極めて良好(◎)であった。
【0112】
[実験6]
実験6では、XとYとを表1に示す値とした以外は実験1と同じ条件で行った。いずれの実験で得られたフィルムもその評価は良好(○)であった。
【0113】
[実験7及び実験8]
実験7及び実験8では、XとYとを表1に示す値とした以外は実験1と同じ条件で行った。いずれの実験で得られたフィルムもその評価はやや不良(△)であった。
【0114】
[実験9]
実験9では、XとYとを表1に示す値とした以外は実験1と同じ条件で行った。得られたフィルムの評価は不良(×)であった。
【0115】
【表1】

【実施例2】
【0116】
実施例1のドープを他のドープに代えて実施した。本実施例2については、実施例1と異なる条件のみを説明し、実施例1と同じ条件については説明を略す。
【0117】
[実験1]
実施例1のドープ12の組成を以下に代え、その他の条件については実施例1の実験1と同じとした。XとYとの値等の条件と、評価結果については表2に示す。
[組成]
・セルローストリアセテート(TAC) 100質量部
(アセチル基による置換度2.81(酢化度60.2%),Mw/Mn=2.7,粘度平均重合度305,ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度350mPa・s)
・ジクロロメタン(第1溶媒) 430質量部
・メタノール(第2溶媒) 48質量部
・可塑剤A 7.6質量部
・可塑剤B 3.8質量部
なお、上記可塑剤Aはトリフェニルフォスフェート(TPP)、可塑剤Bはビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)である。
【0118】
化1に示すレターデーション制御剤と上記のドープ12の一部とジクロロメタン:メタノール=9:1(質量比)の溶媒とにより添加剤液Aをつくりろ過をした。
【0119】
【化1】

【0120】
さらに、微粒子(商品名;エアロジルR972,日本エアロジル(株))と、上記ドープ12の一部とジクロロメタン:メタノール=9:1(質量比)の溶媒とを混合して添加剤液Bをつくった。添加剤液Bにおいては、下記微粒子は体積平均粒径が0.7μmになるようにアトライタにて分散した。分散後の添加剤液Bをろ過した。
【0121】
インラインミキサを用いて添加剤液Bを添加剤液Aに混合し、この混合液を上記ドープ12にインラインミキサを用いて混合した。このようにして、フイルム90としたときにマット剤が1質量%、レターデーション制御剤が6質量%となるような液をつくって流延に供した。その他の条件は実施例1と同じである。
【0122】
[実験2ないし実験5]
実験2ないし実験5では、XとYとを表2に示す値とした以外は実験1の実験2ないし実験5と同じ条件で行った。いずれの実験で得られたフィルムもその評価は極めて良好(◎)であった。
【0123】
[実験6]
実験6では、XとYとを表2に示す値とした以外は実施例1の実験6と同じ条件で行った。いずれの実験で得られたフィルムもその評価は良好(○)であった。
【0124】
[実験7及び実験8]
実験7及び実験8では、XとYとを表2に示す値とした以外は実施例1の実験7及び8と同じ条件で行った。いずれの実験で得られたフィルムもその評価はやや不良(△)であった。
【0125】
[実験9]
実験9では、XとYとを表2に示す値とした以外は実施例1の実験9と同じ条件で行った。得られたフィルムの評価は不良(×)であった。
【0126】
【表2】

【0127】
表1及び表2に示すように、5X+Yが6未満である実験1ないし実験7で得られたフィルム90は、全幅にわたり軸ズレが小さく、好ましいものであった。特に延伸率X(%)が0.50%未満である実験1ないし実験5では、極めて好ましいものであった。これより、湿潤フィルム120がテンタ式乾燥機17のテンタクリップで把持されてから0.1分間延伸することを抑制する、もしくは延伸を行わないことによりボーイングの発生を防止することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に係る溶液製膜方法を実施するためのフィルム製造ラインの概略図である。
【図2】本発明に係る溶液製膜方法に用いられるテンタ式乾燥機の概略図である。
【符号の説明】
【0129】
10 フィルム製造ライン
17 テンタ式乾燥機
90 フィルム
120 湿潤フィルム
131 延伸部
131a 延伸部入口
131b 延伸開始幅
132 緩和部
132a 緩和部入口
132b 最大緩和速度区画
L4 延伸開始幅
L5 最大幅緩和率幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体に流延して流延膜を形成する流延膜形成工程と、前記流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、前記フィルムの両端を把持して前記フィルムを搬送しながら乾燥する把持乾燥工程とを有する溶液製膜方法において、
前記把持乾燥工程は、前記フィルムを幅方向に延伸して幅を大きくする延伸工程と、前記フィルムの幅を縮小する緩和工程とを有し、
前記把持の開始時における前記フィルムの幅をLaとし、前記把持の開始から0.1分経過したときの前記フィルムの幅をLbとするときに、{(Lb−La)/La}×100で求める延伸率X(単位;%)と、前記緩和工程における単位時間あたりの緩和率Y(単位;%/分)とが、5X+Y<10の条件を満たすことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記延伸率X(%)を1.0%以下とすることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記単位時間あたりの縮小率Yを5.0%/分以下とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、セルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−297913(P2006−297913A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76209(P2006−76209)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】