説明

溶液製膜方法

【課題】光学特性にすぐれたフイルムを製造する。
【解決手段】流延ドラム32の上にドープ21を流延して流延膜33を形成する。流延膜33を周面32aから剥ぎ取って湿潤フイルム38を得る。湿潤フイルム38は、渡り部41を介して、フイルム20としてピンテンタ13へ案内される。ピンテンタ13は、搬送方向MDの上流側から第1〜第3ゾーン61〜63に区画される。第1ゾーン61では、ピンテンタ13の保持により幅を略一定に保ちながらフイルム20を搬送する。第2ゾーン62では、幅方向TDに延伸しながらフイルム20を搬送する。第3ゾーン63では、ピンテンタ13の保持を解除し、フイルム20を搬送する。第1〜第3ゾーン61〜63では、それぞれフイルム20の乾燥処理が行われる。第2ゾーン62における、フイルム20の残留溶媒量の変化量ΔZY2を、4重量%以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下、フイルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフイルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフイルム用支持体として利用されている。また、TACフイルムは、ポリマーフイルムの中でも光学等方性に優れていることから、液晶表示装置の偏光板の保護フイルム,光学補償フイルム(例えば、視野角拡大フイルムなど)などの光学フイルムとして用いられている。
【0003】
主なフイルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフイルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フイルムの厚さの精度を調節することが難しく、また、フイルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学フイルムの製造方法に適していない。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フイルムとし、十分に乾燥した湿潤フイルムをフイルムとして巻き取る方法である。この溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフイルムを得ることができるため、フイルム、特に光学フイルムの製造方法として、溶液製膜方法が採用されている。
【0004】
また、溶液製膜方法における流延膜に自己支持性を発現させる方法として、支持体上の流延膜を乾燥し、流延膜の残留溶媒量を所定の範囲になるまで低下させる方法(以下、乾燥法と称する)と、流延膜を冷却して、流延膜をゲル化させる方法(以下、冷却ゲル化法と称する)とが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−221833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の液晶表示装置等の需要の著しい増加に応えるため、生産効率の高い溶液製膜方法の確立が求められている。
【0006】
乾燥法を用いた溶液製膜方法にて、製膜速度が50m/分以上の高速流延を行う場合には、支持体の走行速度の高速化が必要になる。ここで、高速走行する支持体上の流延膜に自己支持性を発現させるためには、支持体の長大化や流延膜の乾燥の高速化が必要になる。しかしながら、支持体の長大化は、支持体の設置スペースを従前よりも確保しなければならなくなることや、乾燥条件等の均一化が困難になること等の弊害を生じさせる。一方、流延膜の乾燥の高速化は、フイルムの面状故障の原因である乾燥ムラを誘発するなどの弊害を生じさせる。したがって、高速流延を行う場合、乾燥法を用いた溶液製膜方法には限界がある。
【0007】
一方、冷却ゲル化法では、上述のような弊害が生じないため、高速流延に適している。したがって、溶液製膜方法における設備の設置スペースの低減化や生産効率の向上化の点より、流延膜に自己支持性を発現させる方法として、冷却ゲル化法が採用されることが多い。
【0008】
冷却ゲル化法により自己支持性が発現した流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取った後、ピンテンタを用いて、湿潤フイルムを搬送しながら、乾燥して、フイルムを製造する。ピンテンタを経たフイルムにシワやタルミ等がある場合には、クリップテンタ等を用いて、フイルムを幅方向に延伸し、フイルムに生じたシワやタルミ等をなくし、フイルムの表面を平滑にすることができる。
【0009】
ところが、クリップテンタを用いて、冷却ゲル化法により得られたフイルムを幅方向に延伸すると、フイルム内のポリマー分子の向きにばらつきが生じてしまうことがある。ポリマー分子の向きのばらつきは、光学フイルムの視野角特性や色味などの光学特性に異方性を生じさせる。したがって、溶液製膜方法を用いてフイルムを製造する場合において、フイルム内のポリマー分子の向きのばらつきを抑えることが大きな課題となっている。
【0010】
本発明は、フイルムのポリマー分子の向きのばらつきを抑え、表面が平滑であり、光学特性に優れたフイルムが得られる溶液製膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成する流延膜形成工程と、自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取る剥取工程と、前記溶媒を含む前記湿潤フイルムを乾燥して、フイルムを製造する乾燥工程と、前記フイルムを延伸する延伸工程と、を有する溶液製膜方法において、前記剥取工程にて、冷却によりゲル化した前記流延膜を前記湿潤フイルムとして剥ぎ取り、前記延伸工程にて、乾量基準における残留溶媒量が5重量%以上20重量%以下の前記フイルムに、延伸率Lxが0.5%以上5%以下の延伸を、前記フイルムの幅方向について行い、前記延伸の前後における前記フイルムの残留溶媒量の変化量が4重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、前記ポリマーがセルロースアシレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶液製膜方法によれば、乾量基準における残留溶媒量が5重量%以上20重量%以下の前記フイルムに、延伸率Lxが0.5%以上5%以下の延伸を、フイルムの幅方向について行い、延伸の前後におけるフイルムの残留溶媒量の変化量が4重量%以下であるため、乾燥処理及び延伸処理に起因するポリマー分子の向きのばらつきを抑えることが可能となり、表面が平滑で、視野角特性や色味など光学特性に優れた光学フイルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0015】
[溶液製膜方法]
図1に、本実施形態で用いる溶液製膜設備10の概略図を示す。溶液製膜設備10は、ストックタンク11と流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0016】
ストックタンク11は、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとを備える。ストックタンク11の内部には、フイルム20の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ21が貯留されている。ストックタンク11内のドープ21は、ジャケット11cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼11bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ21を均一な品質に保持している。ストックタンク11の下流には、ギアポンプ25及び濾過装置26が設置されており、これらを介してドープ21が流延ダイ30に送られる。
【0017】
流延室12には、流延ダイ30、支持体としての流延ドラム32、剥取ローラ34、温調装置35,36、及び減圧チャンバ37が設置されている。流延ドラム32は図示を省略した駆動装置により軸32aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室12内及び流延ドラム32は、温調装置35,36によって、流延膜33が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0018】
流延ダイ30は、回転する流延ドラム32の周面32bに向けて、ドープ21を吐出する。その後、流延ドラム32の周面32b上のドープ21から流延膜33が形成される。そして、流延ドラム32が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜33に発現し、流延膜33は剥取ローラ34によって流延ドラム32から剥ぎ取られる。
【0019】
減圧チャンバ37は、流延ダイ30に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ37内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム32の周面32bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム32の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ30と流延ドラム32との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜33を形成することができる。
【0020】
流延ダイ30の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0021】
流延ドラム32の周面32bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置36は、流延ドラム32の周面32bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の周面32bの温度が所望の温度に保持される。
【0022】
流延ドラム32の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム32の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム32の周面32bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0023】
また、流延室12内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)39と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40とが備えられている。凝縮器39で凝縮液化した溶媒は、回収装置40により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0024】
流延室12の下流には、渡り部41、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部41は、搬送ローラ42によって剥ぎ取られた湿潤フイルム38をピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フイルム38の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フイルム38に対し乾燥風が送られ、湿潤フイルム38は乾燥し、フイルム20となる。
【0025】
クリップテンタ14は、フイルム20の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフイルム20に対し乾燥風が送られ、フイルム20には、フイルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0026】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置43a、43bが設けられている。耳切装置43a、43bはフイルム20の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ44a、44bに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0027】
乾燥室15には、多数のローラ47が設けられており、これらにフイルム20が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過によりフイルム20の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置48が接続されており、フイルム20から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0028】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフイルム20が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)49が設けられており、フイルム20が除電される。さらに、強制除電装置49下流側には、ナーリング付与ローラ50が設けられており、フイルム20の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ52を有する巻取機51が設置されており、フイルム20が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0029】
次に、クリップテンタ14の詳細について説明する。図2のように、クリップテンタ14には、耳切装置43aを経たフイルム20を導入する入口14aと、クリップテンタ14を経たフイルム20を耳切装置43bへ送る出口14bとを有する。また、入口14aと出口14bとの間には、温度などの乾燥条件が異なる3つのゾーン(以下、第1ゾーン61〜第3ゾーン63と称する)を有する。
【0030】
第1ゾーン61〜第3ゾーン63には、空調機68a〜68cが設けられる。空調機68a〜68cは、第1ゾーン61〜第3ゾーン63内の空気の温度や湿度などを、独立に調節する。また、第1ゾーン61〜第3ゾーン63には図示しない循環機が備えられる。この循環器は、第1ゾーン61〜第3ゾーン63内の空気を循環させて、第1ゾーン61〜第3ゾーン63内の雰囲気の条件を均一に保つ。こうして、第1ゾーン61〜第3ゾーン63を通過するフイルム20の乾燥の進行度とフイルム20の温度とを所望のものにすることができる。なお、フイルム20の乾燥の進行度の指標として、フイルム20の残留溶媒量を用いることができる。
【0031】
第1ゾーン61には、把持開始部71と、入口14aから把持開始部71へフイルム20を案内するローラ(図示しない)とが設けられ、第2ゾーン62と第3ゾーン63との境界には把持解除部72が設けられる。そして、第3ゾーン63には、把持解除部72を経たフイルム20を出口14bへ案内する搬送ローラ73が設けられる。
【0032】
また、クリップテンタ14は、第1ゾーン61〜第3ゾーン63内を走行する1対のチェーン77a、77bと、チェーン77a、77bに所定のピッチで取り付けられるクリップ78a、78bと、チェーン77a、77bの走行を案内するレール79a、79bとを備える。また、チェーン77a、77bは、駆動部81a、81bにより回転駆動するチェーンスプロケット80a、80bに巻き掛けられている。駆動部81a、81bの制御の下、クリップ78a、78bは、レール79a、79bに沿って、第1ゾーン61〜第3ゾーン63内をエンドレスに走行する。
【0033】
把持開始部71を通過するクリップ78a、78bは、把持開始部71に案内されたフイルム20の両側縁部20a、20bを把持する。両側縁部20a、20bが把持されたフイルム20は、クリップ78a、78bの走行により、把持開始部71から把持解除部72へ案内される。把持解除部72を通過するクリップ78a、78bは、フイルム20の両側縁部20a、20bの把持を解除する。両側縁部20a、20bの把持が解除されたフイルム20は、第3ゾーン63へ案内される。搬送ローラ73は、把持解除部72を経たフイルム20を、出口14bへ案内する。こうして、フイルム20は、第1ゾーン61〜第3ゾーン63を通過し、各ゾーン61〜63における各乾燥条件下で乾燥する。
【0034】
また、一対のレール79a、79bの間隔をレール間隔とすると、第1ゾーン61でのレール間隔は略一定であり、第2ゾーン62でのレール間隔は徐々に広がるように、一対のレール79a、79bが、クリップテンタ14に配される。このレール間隔を調節することにより、所望の延伸率Lxで、フイルム20を幅方向TDに延伸することができる。ここで、延伸率Lxとは、第1ゾーン61と第2ゾーン62との境界におけるフイルム20の幅をL1とし、把持解除部72におけるフイルム20の幅をL2とするときに、100×L2/L1(%)で表される。
【0035】
次に、図1を用いて、溶液製膜設備10によりフイルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転によりドープ21の状態を常に均一化している。適宜適量のドープ21を、ギアポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り込み濾過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。
【0036】
流延室12の内部温度は、温調装置35により10〜57℃の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が気化して浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0037】
流延ドラム32は、駆動装置により軸32aを中心に回転している。この回転により、周面32bは、方向Z1へ一定速度(50m/分以上200m/分以下)で走行している。
【0038】
流延ダイ30は、30℃以上35℃以下の範囲内で略一定に保持されるドープ21を、流延ドラム32の周面32b上に流延し、流延膜33を形成する。温調装置36により、流延ドラム32の周面32bの温度は−10以上10℃以下の範囲内で略一定になるように調整されている。したがって、周面32b上の流延膜33は冷却し、この冷却により、流延膜33がゲル化し、自己支持性が発現する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
【0039】
剥取ローラ34を用いて、自己支持性を有する流延膜33を、流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フイルム38とし、この湿潤フイルム38を搬送ローラ42によりピンテンタ13に送り込む。
【0040】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フイルム38の両側縁部に差し込んで固定した後、この湿潤フイルム38を搬送する間に乾燥を促進させてフイルム20とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフイルム20をクリップテンタ14に送り込む。クリップテンタ14では、フイルム20の両側縁部を多数のクリップで把持した後、搬送するフイルムに乾燥処理及び延伸処理を施す。なお、クリップテンタ14におけるフイルム20の乾燥処理及び延伸処理の詳細は後述する。
【0041】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフイルム20は、耳切装置43a、43bによって両側縁部が裁断される。両側縁部が切断されたフイルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取機51によって巻き取られる。また、耳切装置43a、43bによって切断された両側縁部はクラッシャ44a、44bにより粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0042】
巻取機51で巻き取られるフイルム20は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム20の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フイルム20の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0043】
次に、クリップテンタ14におけるフイルム20の乾燥処理及び延伸処理の詳細について説明する。図2のように、把持開始部71では、クリップ78a、78bが、把持開始部71に案内されたフイルム20の両側縁部20a、20bを把持する。走行するクリップ78a、78bの把持により、フイルム20は、把持解除部72まで搬送される。把持解除部72では、クリップ78a、78bによるフイルム20の把持が解除され、フイルム20は第3ゾーン63に案内される。搬送ローラ73は、把持解除部72を経たフイルム20を耳切装置43bへ案内する。空調機68a〜68cは、第1ゾーン61から第3ゾーン63の雰囲気を所定の乾燥条件に調節する。第1ゾーン61から第3ゾーン63を通過するフイルム20は、各ゾーン61〜63の乾燥条件に応じて、乾燥する。
【0044】
走行するクリップ78a、78bによって保持されたフイルム20は、フイルム20の幅がL1のまま、第1ゾーン61を通過し、フイルム20の幅がL1からL2まで徐々に広がるようにして、第2ゾーン62を通過する。その後、把持解除部72にて、クリップ78a、78bによる両側縁部20a、20bの保持が解除されるため、フイルム20は、幅を自然収縮させながら、第3ゾーン63を通過する。
【0045】
第2ゾーン62では、フイルム20に対し、幅方向TDに、0.5%以上5%以下の延伸率Lxの延伸処理が施される。この延伸処理により、シワやタルミ等がなくなり、フイルム20の表面が平滑になる。
【0046】
第2ゾーン62では、幅方向TDへの延伸処理と同時に、フイルム20の乾燥処理を行なうため、フイルム20の乾燥に起因して発生する収縮応力により、フイルム20内のポリマー分子の向きが変わる。図2に、延伸によって変化したポリマー分子の向きNA1〜NA5を模式的に示す。搬送方向MDに対する向きNA1〜NA5のずれの大きさを軸ズレ量とすると、向きNA1〜NA5についての軸ズレ量は、搬送方向MDに対して凸状に、すなわち、フイルム20の幅方向TDの中央部から両側縁部に向かうにしたがって大きくなる。そして、軸ズレ量の増加は、視野角特性や色味などに異方性を生じさせ、結果として、フイルム20の光学特性の劣化の原因となる。
【0047】
本発明では、第2ゾーン62におけるフイルム20の残量溶媒量の変化量ΔZY2を4重量%以下に抑えるため、乾燥に起因する収縮応力の発生を抑え、軸ズレ量を低減することができる。したがって、本発明によれば、表面が平滑で、視野角特性や色味などが等方性に優れたフイルム20をつくることができる。一方、変化量ΔZY2が4重量%を超えると、フイルム20の延伸、及びフイルム20の乾燥に起因して発生する収縮応力により、軸ズレ量が大きくなってしまうため、結果として、フイルム20の光学特性が劣化してしまう。
【0048】
なお、残量溶媒量の変化量ΔZY2が0重量%である場合には、フイルム20の乾燥が実質的に進行しないため、ポリマー分子の向きの変動を抑えることが可能となる。したがって、残量溶媒量の変化量ΔZY2が0重量%の場合も、本発明に含まれる。
【0049】
また、表面の平滑化を行うとともに、軸ズレ量をより確実に低減させるため、第2ゾーン62におけるフイルム20は十分に乾燥していることが必要である。したがって、本発明の効果を得るためには、延伸直前におけるフイルム20の残量溶媒量が、乾量基準で、5重量%以上20重量%以下である必要がある。なお、本発明では、流延膜、湿潤フイルムやフイルム等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0050】
更に、表面の平滑化を行うとともに、軸ズレ量をより確実に低減させるため、延伸時におけるフイルム20の温度を低温にすることが好ましい。したがって、第2ゾーン62を通過するフイルム20の温度は、90℃以上130℃以下であることが好ましい。
【0051】
なお、第2ゾーン62におけるフイルム20の乾燥速度は、3.5%/分未満であることが好ましい。第2ゾーン62におけるフイルム20の乾燥速度が3.5%/分以上の場合には、乾燥に起因する収縮応力がフイルム20に発生しやすいためである。ここで、乾燥速度とは、単位時間あたりのフイルム20の残量溶媒量の変化量を指す。更に、第2ゾーン62におけるフイルム20の延伸速度Lvは、20mm/分以上50mm/分以下であることが好ましい。延伸速度Lvが、20mm/分未満である場合には、軸ズレの抑制効果が減少し、延伸速度Lvが、50mm/分を超える場合には、フイルム20の幅方向の収縮応力が発生し、フイルム20が破断するためである。
【0052】
第2ゾーン62における乾燥条件は、チェーン77a、77bの走行速度、第2ゾーン62内の空気の風量、温度、湿度及び溶媒の蒸気圧等などのパラメータによって決定することができる。これらのパラメータを調節することにより、第2ゾーン62における、フイルム20の残量溶媒量の変化量ΔZY2、フイルム20の残量溶媒量、フイルム20の温度、乾燥速度などを所定の範囲に調節することが可能である。
【0053】
上記実施形態では、クリップテンタ14において、空調機68a〜68cによるゾーン乾燥によりフイルム20を乾燥させたが、本発明はこれに限られず、乾燥空気をフイルム20に直接あてる方法によりフイルム20を乾燥させてもよい。また、乾燥空気をフイルム20に直接あてる方法を用いる場合には、製造上条件に応じて、フイルム20への乾燥空気の供給を停止してもよい。なお、第2ゾーン62において、乾燥空気の供給を停止し、フイルム20の延伸処理を行う工程は、実質的に乾燥工程ではないが、その前後の第1ゾーン61及び第3ゾーン63では、フイルム20に乾燥空気をあて、クリップテンタ14全体では、フイルム20の乾燥工程を行っている。したがって、第2ゾーン62において、乾燥空気の供給を停止した状態で、フイルム20の延伸処理を行う工程を乾燥工程の一部として含めることができる。
【0054】
上記実施形態では、延伸処理として、フイルム20の幅を徐々に広げながら、フイルム20を乾燥したが、本発明はこれに限られず、乾燥により収縮しようとするフイルム20の両側縁部20a、20bを保持し、フイルム20の幅を一定に維持することを延伸処理として含めても良い。この場合にも、残留溶媒量の変化量などピンテンタ13における乾燥条件を所定の範囲にすることにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
上記実施形態では、フイルム20の幅方向TDへの延伸処理を、クリップテンタ14を用いて行ったが、本発明はこれに限られず、ピンテンタを用いて、所定の残留溶媒量になった湿潤フイルム38を延伸してもよい。また、ピンとクリップとが併設されるピンプレートを有するピンテンタを用いて、ピンによって搬送される湿潤フイルム38がクリップによる把持が可能な程度まで乾燥した後、クリップを用いて湿潤フイルム38の両側縁部を把持し、幅方向に延伸してもよい。
【0056】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム32を用いたが、エンドレスバンドを支持体として用いても良い。また、高速流延を行わない場合は、乾燥法を行う溶液製膜方法に本発明を適用することもできる。
【0057】
上記実施形態では、フイルム20への延伸処理として、幅方向TDへの延伸を行ったが、本発明はこれに限られず、搬送方向MDへの延伸を行ってもよい。搬送方向MDへの延伸の方法としては、例えば、複数の搬送ローラを用いて、下流側の搬送ローラの回転速度を上流側の搬送ローラの回転速度より速くすることにより、フイルム20に所望のドローテンションを付与する方法などがある。
【0058】
なお、上記実施形態では、流延膜形成工程、剥取工程、乾燥工程、延伸工程などを連続して行う、いわゆるオンライン方式によりフイルムを製造したが、本発明はこれに限られず、一旦、巻き取りローラ51に巻き取ったフイルムに、幅方向TDへ延伸率Lxで延伸処理を行ってもよい。
【0059】
以下、本発明において用いられるドープ21を調製する際に使用するポリマー、溶媒について説明する。
【0060】
(原料)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0061】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0062】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは
0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0063】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0064】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0065】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0066】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0067】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0068】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0069】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0070】
また、ドープ21のTAC濃度は、5重量%〜40重量%であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下であることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下であることが最も好ましい。また、添加剤(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体を100重量%とした場合に1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、TACフイルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0071】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0072】
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではなく、セルロースアルキレート、CAP(セルロースアセテートプロピオネート)、CAB(セルロースアセテートブチレート)、PETやポリエチレンなどを用いることができる。このようにセルロースアシレート以外のポリマーとして用いる場合には、上記実施形態で述べたフイルム20の温度を、当該ポリマーのTgや分子間の相互作用などに応じて決めればよい。
【0073】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【実施例1】
【0074】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の各実施例において、実施例1、2は本発明の実施様態の例であり、比較例1〜4は、実施例1、2に対する比較実験である。また、各実施例の説明は実施例1で詳細に行い、実施例2、比較例1〜4については、実施例1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0075】
次に、本発明の実施例1について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0076】
[ドープの調製]
ドープ21の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ21を調製した。なお、ドープ21のTAC濃度は略23重量%になるように調整した。ドープ21を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク11に入れた。
【0077】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が5ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、パルプから採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これをパルプ原料TACと称する。
【0078】
溶液製膜設備10を用いてフイルム20を製造した。ポンプ25は、ストックタンク11内のドープ21を、濾過装置26を介して流延ダイ30へ送った。
【0079】
流出装置として、体積変化率0.002%の析出硬化型のステンレス鋼から形成された流延ダイ30を用いた。ドープ21の温度を略34℃に調整するために、流延ダイ30にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。
【0080】
軸32aの駆動により、流延ドラム32を回転させた。周面32bの走行方向Z1における速度は、50m/分以上200m/分以下とした。温調装置36は、流延ドラム32の周面32bの温度を、−10℃以上10℃以下に調節した。周面32bの幅方向中央部の表面温度は0℃であり、その両側縁の温度差は6℃以下であった。
【0081】
流延ドラム32上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。また、流延室12内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)39を設け、その出口温度を−3℃に設定した。
【0082】
流延ダイ30は、ドープ21を周面32b上に流延し、周面32bに流延膜33を形成した。減圧チャンバ37は、流延ビードの背面側を減圧し、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を調節した。
【0083】
冷却により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34を用いて、流延ドラム32から流延膜33を湿潤フイルム38として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム32の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。
【0084】
剥取ローラ34は、湿潤フイルム38に渡り部41に案内した。渡り部41では、温度が略60℃の乾燥空気を湿潤フイルム38にあてて、湿潤フイルム38を乾燥させた。渡り部41に設けられるローラは、湿潤フイルム38をピンテンタ13に案内した。
【0085】
ピンテンタ13では、湿潤フイルム38に温度が略120℃の乾燥空気をあてて、湿潤フイルム38を乾燥した。この乾燥により湿潤フイルム38からフイルム20を得た。その後、ピンテンタ13は、フイルム20をクリップテンタ14に送った。
【0086】
クリップテンタ14に送られたフイルム20は、第1ゾーン61〜第3ゾーン63を順次通過した。空調機68a〜68cは、第1ゾーン61〜第3ゾーン63内の雰囲気の温度を略100℃、略120℃、略140℃に調節した。第1ゾーン61〜第3ゾーン63内の乾燥条件に応じて、フイルム20の乾燥が進行した。
【0087】
第1ゾーン61では、両側縁部20a、20bの保持を行い、フイルム20の幅方向を略一定に保ちながら、フイルム20を乾燥した。第2ゾーン62では、延伸率Lxで延伸しながら、フイルム20を乾燥した。第3ゾーン63では、両側縁部20a、20bの保持を解除して、ローラ73を用いて搬送しながら、フイルム20を乾燥した。その後、フイルム20を耳切装置43bへ送り出した。第1ゾーン61に案内される時点でのフイルム20の残留溶媒量ZY0は、乾量基準で250重量%であった。第2ゾーン62に案内される時点でのフイルム20の残留溶媒量ZY1は、乾量基準で8.1重量%であった。第3ゾーン63に案内される時点でのフイルム20の残留溶媒量ZY2は、乾量基準で5.0重量%であった。第2ゾーン62におけるフイルム20の温度は100℃以上130℃以下であり、乾燥速度は2%/分以上5%/分以下であった。第2ゾーン62における延伸率Lxは、略2%で、延伸速度は略30mm/分であった。
【0088】
ピンテンタ13、クリップテンタ14から送られたフイルム20の両側縁部20a、20bを、耳切装置43a、43bにて、切断した。NT型カッターを用いて、幅が略50mmの両側縁部20a、20bをカットし、カットされた側縁部はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ44a、44bに風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。
【0089】
耳切装置43bを経たフイルム20を、乾燥室15に送った。耳切装置43bから送り出されたフイルム20の残留溶媒量が略3重量%であった。乾燥室15では、フイルム20に温度が略140℃の乾燥空気をあてて、フイルム20を乾燥した。
【0090】
そして、フイルム20を巻取室17に搬送した。巻取室17は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室17の内部には、フイルム20の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。最後に、プレスローラ52で所望のテンションを付与しつつ、フイルム20を巻取室17内の巻取ローラ51で巻き取った。
【実施例2】
【0091】
残留溶媒量ZY1が10.3重量%、残留溶媒量ZY2が6.8重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルム20を製造した。
【0092】
[比較例1]
残留溶媒量ZY1が10.5重量%、残留溶媒量ZY2が6.2重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルムを製造した。
【0093】
[比較例2]
残留溶媒量ZY1が11.8重量%、残留溶媒量ZY2が6.8重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルムを製造した。
【0094】
[比較例3]
残留溶媒量ZY1が10.8重量%、残留溶媒量ZY2が5.5重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルムを製造した。
【0095】
[比較例4]
残留溶媒量ZY1が12.2重量%、残留溶媒量ZY2が6.7重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルムを製造した。
【0096】
〔フイルムの評価〕
上記実施例において製造したフイルムに関して、軸ズレ量の算出、及びその評価について下記の方法により行った。そして、各実施例及び比較例における製造条件、測定結果及び評価結果を、表1に纏めて示す。なお、表1中において、ZY1、ZY2は、それぞれ、第1ゾーン61、第2ゾーン62に案内される時点でのフイルム20の残留溶媒量を表し、ΔZY2は、ZY1とZY2との差を表し、ΔRmaxは、以下方法により得られた軸ズレ量ΔRmaxを表し、評価結果には、軸ズレ量ΔRmaxの評価結果を表す。
【0097】
1.軸ズレ量の算出
カッティングプロッタを用いて、得られたフイルムの一方の側縁部から他方の側縁部にかけて、略一定間隔で、10枚のサンプル片(5cm×5cm)を切り取った。自動複屈折率計(KOBRA−21DH,王子機器計測(株)製)を用いて、フイルムの流延方向MDに対する遅相軸のなす軸ズレ角R1を、各サンプル片について測定した。そして、各サンプル片間における角R1の差の最大値を軸ズレ量ΔRmaxとした。
【0098】
2.軸ズレ量の評価
軸ズレ量ΔRmaxが±2°未満であるとき良好(○)、軸ズレ量ΔRmaxが±2°以上である場合は、不良(×)の2段階評価を行った。
【0099】
【表1】

【0100】
表1からも明らかなように、本発明を適用した実施例1、2では、軸ズレ量が抑えられたフイルムを製造することができた。一方で、比較例1〜4では、軸ズレ量の大きいフイルムしか得られなかった。したがって、本発明によれば、軸ズレ量が抑制されたフイルムを製造することができることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明に係るフイルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図2】クリップテンタにおける延伸処理の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0102】
10 フイルム製造工程
14 クリップテンタ
20 フイルム
32 流延ドラム
33 流延膜
38 湿潤フイルム
61〜63 第1〜第3ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成する流延膜形成工程と、自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取る剥取工程と、前記溶媒を含む前記湿潤フイルムを乾燥して、フイルムを製造する乾燥工程と、前記フイルムを延伸する延伸工程と、を有する溶液製膜方法において、
前記剥取工程にて、冷却によりゲル化した前記流延膜を前記湿潤フイルムとして剥ぎ取り、
前記延伸工程にて、乾量基準における残留溶媒量が5重量%以上20重量%以下の前記フイルムに、延伸率Lxが0.5%以上5%以下の延伸を、前記フイルムの幅方向について行い、
前記延伸の前後における前記フイルムの残留溶媒量の変化量が4重量%以下であることを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記ポリマーがセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−172814(P2009−172814A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12209(P2008−12209)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】