説明

溶湯搬送装置

【課題】 一般的に市販されている6軸などの多関節ロボットアームを用い、他の制御機構を設けなくてもよく、アームの先端に駆動力の伝達機構を持つ延長部材を取付けてラドルの駆動制御を行う溶湯搬送装置を提供する。
【解決手段】 多間接ロボットアームの先端にラドルを駆動できるように設けた溶湯搬送装置において、前記多間接ロボットアームの先端にはアームの長さ方向の軸を中心に回転する駆動部が備えられ、前記回転する駆動部の駆動力をラドルの上下駆動に用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節ロボットアームの先端に設けたラドルによりアルミニウム合金やマグネシウム合金などの溶湯を組み上げて搬送させる溶湯搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な部品がダイカスト鋳造方法や鍛造方法などで製造され、自動車を始めとする構造部品として用いられている。これら構造部品は、近年の軽量化要求から軽合金素材が多用されるようになった。この軽合金素材の成形にはアルミニウム合金やマグネシウム合金を溶融炉で溶融し、溶湯組成を調整後、ラドルなどで組み上げて鋳造機まで搬送することが一般的に行われている。この溶湯搬送手法は多々あるが、搬送する経路が狭く複雑であったり、著しい高低差が存在したりする場合には多関節ロボットアームが使用される。先端にはラドルが設けられ、制御装置に入力されたプログラミングにより所定の動作を繰り返し行わせている。
【0003】
従来の多関節ロボットアームでは、特許文献1に示すように、多関節ロボットアームの先端に設けられた長手方向に対して垂直方向に回転軸を持つ関節部を用い、この関節部にラドルを設けて上下駆動させることが一般的である。また、特許文献2のように、最も一般的な6軸の多関節ロボットアームを改造したものもある。これはロボットアームの先端に設けられたアーム長手方向を回転軸とする関節部を用い、この関節部にラドルを設けて回転させ、溶湯を溶融炉から汲み取ったりラドルからプランジャースリーブなどへ流し込んだりするものである。
【特許文献1】特開平9−108815号公報
【特許文献2】特開2001−179421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載のような、多関節ロボットアームの先端に長手方向に対して垂直方向に回転軸を持つ関節部を持つ溶湯搬送装置では、ラドルを溶融炉の湯面に近づけて溶湯を汲み取ろうとすると、関節部が必然的に溶湯に接近するため、熱膨張などによる熱変形が発生する。この汲み取り作業を続けると関節部で熱変形による不用な摺動抵抗増が発生し、動作不良がおきやすいと言う問題が発生する。特許文献2に記載のような、多関節ロボットアームの先端に設けられたアーム長手方向を回転軸とする関節部を持つ溶湯搬送装置では、ラドルの移動スペースを小さくするために回転軸を中心にあまり大きくないラドルを設置する必要があり、また、このラドルで溶湯を汲み取ろうとすると関節部が溶融炉の湯面に近づくので前記と同様の問題が起こることが問題である。このため、ロボットアームの先端からラドルまでの間に駆動力の伝達機構を持つ延長部材を取付けるなどの検討の余地がある。
【0005】
本発明の課題は、一般的に市販されている6軸などの多関節ロボットアームを用い、この先端に駆動力の伝達機構を持つ延長部材を取付けてラドルの駆動制御を行い、上記のような問題を起こさず、かつ他の制御機構を設けなくてもよい溶湯搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多間接ロボットアームの先端にラドルを駆動できるように延長部材を設けた溶湯搬送装置において、前記多間接ロボットアームの先端にはアームの長さ方向の軸を中心に回転する駆動部が備えられ、前記回転する駆動部の駆動力をラドルの上下駆動に用いることを特徴とするものである。この溶湯搬送装置は、駆動部の回転軸に設けられた第1のギアと、前記第1のギアに対して直行する回転軸を持つ第2のギアとを有し、かつ前記第1のギアの回転軸と第2のギアの回転軸とがねじれの関係にあり、かつ、前記両ギア間は曲がり方向が途中で90度かわる用に接合されたチェーンを介して連動するものが好ましい。
【0007】
チェーンは環状であり、第一のギアの回転方向に沿って曲がる第1のチェーン部と、前記第1のチェーンの両端に設けられた第2のギアの回転方向に沿って曲がる第2のチェーン部と、前記第2のチェーン部間に設けられた第1のチェーン部と同方向に曲がる第3のチェーン部からなるものを用いる。多間接ロボットアームは6軸制御される一般的なものを用いることができるため、汎用性が高い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、市販されている6軸制御されるような多関節ロボットアームを使用でき汎用性が高い。また、溶湯搬送装置に要求されるアームの動きには5軸制御で充分であることから先端の長手方向に設けられた関節部を利用してラドルの駆動を行うため、別途モータや制御機構を必要とすることもなく、安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の実施例を図を用いて詳細に説明する。図3は、本発明の実施例を示す多関節ロボットアームの一例である。図3において、1は多関節ロボットアームの固定ベースであり、溶融炉とダイカスト鋳造機の間に設置されている。2は旋回盤であり、地面に対して垂直な第1軸1aを中心に旋回可能なように形成されている。この旋回盤の上部には、地面に対して水平な第2軸2aを中心に曲がる関節2を介して主アーム7が設けられている。この主アーム7の他端側には、第2軸2aと平行な第3軸3aを中心に曲がる関節3が設けられ、この関節3を介してアーム基部8が設けられている。このアーム基部8にはアーム中央部9が設けられ、アーム中央部9の長手方向は主アームに対してほぼ90度曲がる方向に伸び、関節3が回転することで約45°の幅で上下に曲がるようになっている。このアーム中央部9には長手方向の第4軸4aを中心に周るアーム回転部10が構成されている。そしてその先端には、第4軸4aに対して垂直な第5軸5aを中心に回る関節5を介してアーム先端部が設けられている。また、そのアーム先端部の先には第5軸5aに対して垂直方向でかつアーム長手方向の第6軸6aを中心に回転する関節部6が供えられている。この多関節ロボットアームの各軸は、モータによって駆動されており、全体として6軸の自由度を持つものである。
【0011】
このようにミリ単位で先端部を動かすことが可能な多関節ロボットアームであるが、溶湯搬送装置として用いる場合、最も先端にある関節部6が溶融炉の湯面に近づかないように、ラドルとの間に延長部材を設ける必要がある。また、多関節ロボットアームをボルト止めなどの接合技術や、車の外装などの塗装技術に用いる場合は6軸を全て稼動させて精密に位置制御する必要があるが、溶湯の搬送に用いる場合には最も先端の関節部6は必要なく、残りの5軸を制御すれば充分な能力が発揮できる。そのため、最も先端の関節部6の駆動力をラドルを昇降させるための駆動力とすることができる。ラドルを昇降させるために多関節ロボットアームに別途モータを設置して制御することもできるが、冷却手段や駆動制御装置を別途設ける必要があったり、モーター設置による重量増大がおきたりするなど問題がある。
【0012】
関節部6を用いたラドルの昇降機構について説明する。図1は関節部6とラドルとの間に設けられる延長部材の一例である。回転軸6aは図3の6aと同一のものである。この回転軸6aの先端には、ギア16が設けられている。このギア16が回転することで、チェーン11が回転する。チェーン11は図2に示すように、関節部6の回転に伴って動く第1のチェーン部11aと、両端の接合部20aを介して第2のチェーン部11bと、さらに第2のチェーン部11bの他端側に接合部20bを介して備えられた第3のチェーン部からなっている。第2のチェーン部は、チェーン部11とは90度異なる方向に曲がるように角度をずらして接合部で固定されている。また、第3のチェーン部は、第1のチェーン部と同方向に曲がるように固定されるが、動く方向は第1のチェーン部と逆方向に動く。
【0013】
関節部6が、図2に示した矢印方向に回転すると、図面手前側のチェーン11bはシャフト12を時計回りに回転させる。また、図面奥側のチェーン11bに設けられたギア17は反時計回りに回転し、チェーン11cに設けられたギア18は関節部6とは逆に回転する。シャフト12は他端に別のギア(図示せず)が取付けられている。このギアには、沿って回転するチェーン14が備えられており、シャフト14と同期して動くように構成されている。このチェーン14は延長部材19の下部に伸びており、そこに備えられたシャフト13を回転させる。シャフト13の他端側はラドル15の中腹部に固定されており、シャフト13が回転することでラドル15も回転し、溶湯の注ぎ口の先端が上下する構造となっている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のラドルの駆動機構の一例を示す要部断面図である。
【図2】駆動機構に用いるチェーンの形状を示す一例である。
【図3】多関節ロボットアームの一例である。
【符号の説明】
【0015】
1:旋回盤、2〜6:関節部、7:主アーム、8:アーム基部、9:アーム中央部、10:アーム回転部、11,14:チェーン、12,13:シャフト、15:ラドル、16,17:ギア、19:延長部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多間接ロボットアームの先端にラドルを駆動できるように延長部材を設けた溶湯搬送装置において、前記多間接ロボットアームの先端にはアームの長さ方向の軸を中心に回転する駆動部が備えられ、前記回転する駆動部の駆動力をラドルの上下駆動に用いることを特徴とする溶湯搬送装置。
【請求項2】
前記溶湯搬送装置は、駆動部の回転軸に設けられた第1のギアと、前記第1のギアに対して直行する回転軸を持つ第2のギアとを有し、かつ前記第1のギアの回転軸と第2のギアの回転軸とがねじれの関係にあり、かつ、前記両ギア間は曲がり方向が途中で90度かわるように構成されたチェーンを介して連動することを特徴とする請求項1に記載の溶湯搬送装置。
【請求項3】
前記チェーンは環状であり、第一のギアの回転方向に沿って曲がる第1のチェーン部と、前記第1のチェーンの両端に設けられた第2のギアの回転方向に沿って曲がる第2のチェーン部と、前記第2のチェーン部間に設けられた第1のチェーン部と同方向に曲がる第3のチェーン部からなることを特徴とする請求項2に記載の溶湯搬送装置。
【請求項4】
前記多間接ロボットアームは6軸制御されるものであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の溶湯搬送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−111759(P2007−111759A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307495(P2005−307495)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】