説明

溶着条件の決定方法

【課題】一対の樹脂成形品を振動溶着法により溶着する際の好適な溶着条件を容易に決定する方法を提供する。
【解決手段】振動の摩擦エネルギーにより一方の樹脂成形品が溶融する面積(S)と他方の樹脂成形品が溶融する面積(S)との差を考慮し(S≦S)、振動溶着時の摩擦により発生する熱エネルギーの内、他方の樹脂成形品に吸収される吸収エネルギーを考慮する。具体的には、溶着部での溶着強度と、他方の樹脂成形品の上記吸収エネルギーとの相関関係に基づいて溶着条件を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の樹脂成形品を振動溶着法により溶着する際の溶着条件を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体同士を相互に接合する方法としては、締結用部品(ボルト、ビス、クリップ等)や接着剤を使用する方法の他に、熱板溶着法、振動溶着法、超音波溶着法、レーザー溶着法等の溶着法が知られている。
【0003】
振動溶着法による一対の樹脂成形品の溶着は、例えば以下の方法で行う。先ず、一方の樹脂成形品を固定し、次いで、その上に他方の樹脂成形品を重ね、最後に、他方の樹脂成形品を加圧しながら振動を加える。振動による摩擦エネルギーによって溶着予定端面付近が溶融され、互いの溶融部分が重なることで一対の樹脂成形品が溶着される(特許文献1参照)。摩擦エネルギーを利用する振動溶着方法によれば、短時間で樹脂成形品を溶融させることができるため、一対の樹脂成形品を短時間で溶着できる。つまり、振動溶着方法は、溶着品の生産性に優れる溶着方法である。
【0004】
したがって、振動溶着法による一対の樹脂成形品の溶着は、自動車用部品の製造工程を中心に、様々な樹脂製品の製造工程で採用されている。
【0005】
ところで、一対の樹脂成形品を溶着する際の条件等(溶着条件)によって、溶着部の強度が異なる。溶着部の強度は強い方が好ましい。このため、一対の樹脂成形品は、溶着部の強度が強くなるような溶着条件で、溶着されることが望まれる。
【0006】
しかしながら、一対の樹脂成形品を溶着させるための好適な溶着条件は、樹脂の種類、加熱条件等の様々な因子の影響を受けるため、経験的に決定されるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−319613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、一対の樹脂成形品を振動溶着法により溶着する際の好適な溶着条件を容易に決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、振動の摩擦エネルギーにより一方の樹脂成形品が溶融する面積(S)と他方の樹脂成形品が溶融する面積(S)との差を考慮すること(S≦S)、及び振動溶着時の摩擦により発生する熱エネルギーの内、他方の樹脂成形品に吸収されるエネルギーを考慮することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。よる具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) それぞれが溶着予定端面を有する一対の樹脂成形品の、溶着予定端面同士を突き当てて形成される当接面に平行な方向に、前記当接面に垂直な方向の加圧力を加えながら、少なくとも一方の樹脂成形品を振動させて一対の樹脂成形品を溶着する溶着品を製造する際の溶着条件を決定する方法であって、一方の樹脂成形品の溶着予定端面の溶着時に溶融する面積をS、他方の樹脂成形品の溶着予定端面の溶着時に溶融する面積をSとしたときに、下記数式(I)で表される定数をαと定義し、
【数1】

(数式(I)中のα≦1とする。)
前記少なくとも一方の樹脂成形品を振動させる際の振動速度をV、せん断速度をVsh、前記振動により溶融した樹脂の粘度をη、としたときに下記数式(II)で表されるQを、単位時間、単位面積あたり、前記当接面に発生する発熱量と定義し、
【数2】

前記発熱量の内、前記他方の樹脂成形品に吸収されるエネルギーを考慮するための定数をAとし、下記数式(III)で表されるEを、前記他方の樹脂成形品側に供給される単位時間、単位面積あたりの供給エネルギーと定義し、
【数3】

溶着の前後での一方の樹脂成形品と他方の樹脂成形品との間の、前記加圧力が加わる方向の距離の差をL、溶着時間をT、としたときに、下記数式(IV)で表されるEを、前記他方の樹脂成形品側に吸収される単位体積あたりの吸収エネルギーと定義し、
【数4】

溶着部での溶着強度と、吸収エネルギーEとの相関関係に基づいて溶着条件を決定する溶着条件の決定方法。
【0011】
(2) 前記溶着時間Tを下記数式(V)で表し、
【数5】

(数式(V)中のB、m、nは定数である。)
前記相関関係に基づいて溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲(EaL≦E≦EaH)を決定し、前記数式(IV)にEaLを代入して得られる数式(IV)’と、前記数式(IV)にEaHを代入して得られる数式(IV)”と、に基づいて溶着条件を決定する工程である(1)に記載の溶着条件の決定方法。
【数6】

【数7】

【0012】
(3) 前記相関関係は溶着強度の極大値を有する(1)又は(2)に記載の溶着条件の決定方法。
【0013】
(4) 前記一対の樹脂成形品に含まれる樹脂成分は、ともにポリフェニレンサルファイド系樹脂を主成分とし、前記Aは、0.28以上0.38以下であり、前記mは2、前記nは1である(1)から(3)のいずれかに記載の溶着条件の決定方法。
【0014】
(5) 前記吸収エネルギーEと溶着強度との関係に基づいて、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲(ΔE(EaLからEaHの範囲))を設定する工程と、EaLの定数倍EaL×A’、樹脂成形品を構成する樹脂の密度、比熱から下記式(v)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶着時の前記樹脂の温度が融点になるようなA’を算出する工程と、EaHの定数倍EaH×A”、樹脂成形品を構成する樹脂の密度、比熱から上記式(v)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶着時の前記樹脂の温度が熱分解点になるようなA”を算出する工程と、導出されたA’からA”の範囲で任意の定数Aを選択する工程と、をさらに備える(1)から(4)のいずれかに記載の溶着条件の決定方法。
【数8】

(式(v)中の、比熱、密度は樹脂成形体の比熱と密度である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一対の樹脂成形品を振動溶着法により溶着する際に、溶着部の溶着強度が大きくなる溶着条件(好適な溶着条件)を容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は第一樹脂成形品の側面断面を模式的に示した図であり、(b)は第一樹脂成形品の底面を模式的に示した図である。(c)は第二樹脂成形品の側面断面を模式的に示した図であり、(d)は第二樹脂成形品の上面を模式的に示した図である。
【図2】振動溶着の手順の概略を示す側面断面の模式図であり、(a)は一対の樹脂成形品を当接させた状態を示す図であり、(b)は樹脂成形品の溶着予定端面付近が溶融した状態を示す図であり、(c)は溶着途中を示す図であり、(d)は溶着品を示す図である。
【図3】オービタル振動の様子を示す模式図であり、(a)〜(d)は当接面Gが溶着予定端面111上を動く様子を模式的に45°毎に示す図である。
【図4】一点鎖線Q、Qで挟まれる帯状の幅狭領域の拡大図を示す図であり、(a)〜(d)はそれぞれ図3(a)〜(d)での拡大図である。
【図5】第一樹脂成形品と第二樹脂成形品とが溶着する部分の側面断面の拡大図を模式的に示す図であり、(a)〜(c)は、それぞれ、図2(b)〜(d)の拡大図である。
【図6】溶着強度と吸収エネルギーとの相関関係を示す図である。(a)は三つの異なる溶着条件で導出した吸収エネルギーと溶着強度との関係を示す図であり、(b)は溶着強度の極大値を有する相関関係を示す図である。
【図7】溶着時間と溶着強度との相関関係を示す図である。
【図8】実施例で使用した第一樹脂成形品及び第二樹脂成形品を示す図である。
【図9】溶着強度の測定方法を説明するための図である。
【図10】実施例で導出した溶着強度と吸収エネルギーとの相関関係を示す図である。
【図11】溶着強度と溶着時間との関係を示す図である。
【図12】関係式(vi)のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<溶着条件の決定方法>
本発明は、一対の樹脂成形品を振動溶着法により溶着する際の溶着条件を決定する方法である。
【0019】
具体的には、本発明は以下の工程を備える。
本発明は、一方の樹脂成形品の溶着予定端面の溶着時に溶融する面積をS、他方の樹脂成形品の溶着予定端面の溶着時に溶融する面積をSとしたときに、上記数式(I)から定数αを導出する工程(以下、「第一工程」という場合がある。)、
一対の樹脂成形品の溶着予定端面同士を突き当てて形成される当接面に平行な方向に、前記当接面に垂直な方向に加圧力を加えながら、少なくとも一方の樹脂成形品を振動させる際に発生する発熱量Qを上記数式(II)から導出する工程(以下、「第二工程」という場合がある。)、
上記発熱量Q、上記定数α、上記数式(III)から、上記他方の樹脂成形品側に供給される、単位時間、単位面積あたりの供給エネルギーEを導出する工程(以下、「第三工程」という場合がある。)、
接合の前後での一方の樹脂成形品と他方の樹脂成形品との間の、前記加圧力が加わる方向の距離の差をL、溶着に要した時間をT、としたときに上記数式(IV)から、上記他方の樹脂成形品側に吸収される、単位体積あたりの吸収エネルギーEを導出する工程(以下、「第四工程」という場合がある。)、
溶着部の溶着強度と、吸収エネルギーとの相関関係を導出する工程(以下、「第五工程」という場合がある。)、
上記相関関係に基づいて溶着条件を決定する工程(以下、「第六工程」という場合がある。)を備える。
【0020】
本発明では、振動の摩擦エネルギーにより一方の樹脂成形品が溶融する面積(S)と、他方の樹脂成形品が溶融する面積(S、S≧S)との差を考慮し、さらに、溶着時の摩擦により発生する熱エネルギーの内、他方の樹脂成形品に吸収されるエネルギーを考慮する。溶着条件を異なる条件に変更しても、溶着部の溶着強度が大きくなる上記吸収エネルギーの範囲はほとんど同じになる。したがって、溶着条件を変更しても、予め決定した好適な吸収エネルギーの範囲に基づいて溶着条件を決定すれば、好適な溶着条件が容易に得られる。
【0021】
図1には本実施形態で用いる樹脂成形品を示した。図1(a)は第一樹脂成形品の側面断面を模式的に示した図であり、(b)は第一樹脂成形品の底面を模式的に示した図である。図1(c)は第二樹脂成形品の側面断面を模式的に示した図であり、(d)は第二樹脂成形品の上面を模式的に示した図である。図1に示すような第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11とからなる溶着品を、オービタル振動による振動溶着法によって製造する場合を例に、本発明の各工程について、さらに詳細に説明する。
【0022】
各工程の詳細な説明の前に、第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11との、振動溶着法による溶着について説明する。図1(b)に示すように第一樹脂成形品10は環状の溶着予定端面101を有する。また、図1(d)に示すように第二樹脂成形品は環状の溶着予定端面111を有する。
【0023】
先ず、一対の樹脂成形品の溶着の概略について、図2を用いて説明する。図2は振動溶着の手順の概略を示す側面断面の模式図である。図2(a)に示すように溶着予定端面101、111同士を突き当てて当接し当接面(以下、「当接面G」という場合がある)を形成する。当接面Gに加圧力Pを加えながら、第一樹脂成形品10を振動させ、当接面Gに熱を与える。この熱により、第一樹脂成形品10、第二樹脂成形品11の溶着予定端面101、111付近には、図2(b)に示すように、溶融層が形成される(図2(b)中のドット模様部分)。さらに、第一樹脂成形品10の振動運動を続けると、図2(c)に示すように、溶融層が潰されながら、第一樹脂成形品10が第二樹脂成形品11に沈み込む。また、潰された溶融層はバリとして排出される。接合の前後で第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11との間の、加圧力P方向の距離の差が所定の長さになったら、上記振動運動を止める。その後、溶融した樹脂が固化する前に第一樹脂成形品10の位置を調整する。溶融した樹脂が冷却され固化すると、溶着品1が完成する(図2(d))。
【0024】
次いで、一対の樹脂成形品の溶着を詳細に説明する。
先ず、図2(a)から(b)までの変化の過程について詳細に説明する。上記の通り、第一樹脂成形品10の溶着予定端面101と第二樹脂成形品11の溶着予定端面111とを突き当てて当接し、当接面Gを形成させる。その後、図2(a)の白抜き矢印で示す方向に加圧力Pを加えながら、第一樹脂成形品をオービタル振動させる。オービタル振動とは、溶着予定端面101、111同士を当接させた状態で、当接面Gと平行方向に第一樹脂成形品10が円を描くように運動する振動を意味する。具体的には、図3を用いて説明する。
【0025】
図3はオービタル振動の様子を示す模式図であり、当接面Gが溶着予定端面111上を動く様子を模式的に45°毎に(a)〜(d)に示す。さらに、XX’断面の模式図も併せて示す。図3に示すように、円を描くように運動とは、環状の当接面Gの中心Oが図中の点線P上を動く運動である。周波数(1秒間に中心Oが点線P上を回る回数)はfとする。XX’断面の模式図から明らかなように、当接面Gに垂直な断面から、上記オービタル運動を観察すると、直線上を往復する運動が観察される。
ここで、一点鎖線Q、Qで挟まれる帯状の幅狭領域を考える。図4には、一点鎖線Q、Qで挟まれる帯状の幅狭領域の拡大図を示す。図4(a)〜(d)はそれぞれ図3(a)〜(d)での拡大図である。この領域では、オービタル振動は図4(a)〜(d)に示すように、長方形(図4中の網掛け部)の直線状の往復運動に近似することができる。長方形は縦が一点鎖線Q、Q間の長さY、横が環状の当接面の環の幅Xである。以下、この長方形の運動でオービタル振動を説明する。往復運動の運動方向(X方向)での長方形の中心を図4に示すようにX、X、X、Xとすると、振幅ΔXが(X−X)の往復運動であり、この振幅は点線Pで表される円(図3(a))の直径と同じ長さになる。
【0026】
この往復運動により、当接面Gには熱が供給される。溶着予定端面101には全体に熱が供給され、溶着予定端面101から樹脂が溶融していき溶融層が形成される。溶着予定端面111については、図4(a)、(c)から明らかなように、当接面Gの上記長方形の部分は、溶着予定端面111の(ΔX+X)×Yの範囲を往復運動する。したがって、(ΔX+X)×Yの範囲に熱が供給され、この範囲から樹脂が溶融し、溶融層が形成される。
【0027】
次いで、図2(b)〜(d)の変化について説明する。
図5には、第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11とが溶着する部分の側面断面の拡大図を模式的に示す。図5(a)〜(c)は、それぞれ、図2(b)〜(d)の拡大図である。
図5(a)に示すような溶融層は、加圧力Pにより潰される。溶融層が潰されると図5(b)に示すようにバリが発生する。また、溶融層が潰されながら、第一樹脂成形品10は加圧力Pの方向に沈み込む。このような変化の結果、図5(a)の状態から図5(b)の状態になる。
図5(b)には、第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11との間の、加圧力Pがかかる方向(Z方向)の距離の差が、ΔZの状態を示す。上記距離の差ΔZが、所望の値Lになるまで(又はLの値に近くなるまで)、第一樹脂成形品がオービタル振動する。なお、このように溶融層が潰されたとしても、振動運動が続くため、溶融層厚みの長さはほとんど変わらない。
ΔZがLになったら、オービタル振動を止め、溶融した樹脂が固化する前に所望の位置に第一樹脂成形品を移動させる。その後、樹脂が固化することで、図5(c)に示すように第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11が溶着される。
【0028】
以下、本発明の溶着条件の決定方法の各工程について、詳細に説明する。以下の説明では、図4に示すような、幅狭領域での第一樹脂成形品の振動運動を用いる。また、Q、Q間の長さYは単位長さであるとする。
【0029】
[第一工程]
第一工程は、一方の樹脂成形品の溶着予定端面の接合時に溶融する面積をS、他方の樹脂成形品の溶着予定端面の接合時に溶融する面積をSとしたときに、下記数式(I)から定数αを導出する。ここで、「一方の樹脂成形品」を第一樹脂成形品10、「他方の樹脂成形品」を第二樹脂成形品11とする。
【数9】

(数式(I)中のα≦1とする。)
【0030】
上記の通り、溶着予定端面101は全体が溶融するため、一点鎖線Q、Qに挟まれる幅狭領域で考えるとSはX×Yになる。また、Sは(ΔX+X)×Yになる。したがって、α=2×X/(ΔX+2×X)になる。
【0031】
[第二工程]
第二工程は、一対の樹脂成形品10、11の溶着予定端面101、111同士を突き当てて形成される当接面Gに平行な方向に、上記当接面Gに垂直な方向に加圧力を加えながら、少なくとも一方の樹脂成形品(本実施形態では第一樹脂成形品10)を振動させ、上記当接面Gで発生する発熱量Qを導出する工程である。
【0032】
第二工程では、せん断によって当接面Gに熱が与えられる。したがって、例えば、せん断応力、移動距離等から、以下の方法でせん断により当接面Gに与えられる発熱量を導出することができる。
【0033】
振動させる際の振動速度をV、せん断速度をVsh、この振動により溶融した樹脂の粘度をη、としたときに下記数式(II)から上記当接面で単位時間、単位面積あたりに発生する発熱量Qを導出する。せん断速度Vsh×粘度ηでせん断応力になり、せん断応力に単位時間当たりの移動量(振動速度V)を掛けると、振動運動により発生するエネルギー(熱量)が容易に導出できる。以下、下記数式(II)から発熱量Qを導出する方法について詳細に説明する。
【数10】

【0034】
先ず、振動速度Vについて説明する。振動速度Vは、例えば以下のようにして導出することができる。
上記の通り、第一樹脂成形品10は、点線P上を周波数fで運動する。したがって、速度Vは、以下の数式(i)で表すことができる。
【数11】

(式(i)中のπは円周率)
【0035】
次いで、せん断速度Vshについて説明する。せん断速度Vshは例えば以下のようにして導出することができる。
溶融層の厚み、振動速度Vから、せん断速度Vshは以下の数式(ii)で表すことができる。
【数12】

【0036】
なお、溶融層厚みは、例えば、完成した溶着品を分解等すれば、溶融跡から簡単に求めることができる。
【0037】
次いで、粘度ηについて説明する。粘度ηが未知の場合には、例えば以下のようにして導出することができる。
粘度ηは溶融した樹脂の粘度である。樹脂の粘度はせん断速度、温度によって変化する。先ず、温度の決め方について説明する。
ここで、粘度ηは第一樹脂成形品10の振動運動により溶融したときの樹脂の粘度である。溶融した樹脂ではあるものの溶融層がある程度の形状を保持していること等を考慮すると、溶融層での樹脂の温度は、およそ樹脂の融点(Tm)以上融点(Tm)+30℃以下の範囲にあると考えられる。したがって、上記温度は、この狭い温度範囲から任意の温度を採用すればよい。
【0038】
次いで、上記で決定した温度での、粘度ηとせん断速度との関係を実測することにより求め、この結果に基づいて粘度を決定する。例えば、いくつか粘度ηとせん断速度との関係を実測すれば、Cross−WLFの式を用いてフィッティングすることで、粘度ηとせん断速度との関係式を導出することができる。導出された関係式のせん断速度に上記で導出したせん断速度Vshを代入することで粘度ηを導出することができる。
【0039】
[第三工程]
第三工程は、上記第二樹脂成形品側に供給される、単位時間、単位面積あたりの供給エネルギーEを、上記発熱量Q、上記定数α、下記数式(III)から導出する。
【数13】

(数式(III)中のAは定数とする。)
【0040】
上記式(III)中のQ、αについては、上述の通りであるため、その説明を省略する。係数Aは、発生する発熱量Qの中で、片方の樹脂成形品に吸収され溶融に寄与するもの意外を除くための定数である。この定数は後述する方法で導出することが可能である。また、後述する通り、定数Aの具体的な値は、好適な溶着条件の決定には不要である。このため、溶着条件を決定する方法においては、係数Aには任意の定数を用いてもよい。
【0041】
なお、αは、第一樹脂成形品10の溶着予定端面101の接合時に溶融する面積Sと第二樹脂成形品11の溶着予定端面111の接合時に溶融する面積をSとの差を考慮するためのものである。上記の発熱量QはS=Sの場合の単位面積当たり、単位時間当たりの発熱量であり、SとSとが等しくない場合には、単位面積当たりに供給されるエネルギーの導出の際にはα倍で補正する必要がある。
【0042】
[第四工程]
第四工程では、溶着の前後での第一樹脂成形品10と第二樹脂成形品11との間の、上記加圧力Pが加わる方向の距離の差をL、溶着時間をT、としたときに下記数式(IV)から、片方の樹脂成形品側に吸収される吸収エネルギーEを導出する。
【数14】

【0043】
供給エネルギーEは、単位時間、単位面積当たりのエネルギーである。したがって、溶着時間を掛けることで、溶着に必要な単位面積当たりのエネルギーが導出される。
【0044】
距離の差Lとは第一樹脂成形品の溶融層の潰れた部分のZ方向の長さと、第二樹脂成形品側に第一樹脂成形品が沈み込んだ長さの和である。振動溶着においては、これらの長さは、等しいと考えることができるため、L/2を第二樹脂成形品側に第一樹脂成形品が沈み込んだ長さと考えることができる。溶着に必要な単位面積当たりのエネルギーをL/2で割ることで、溶着に必要な単位体積当たりのエネルギーを求めることができる。これを吸収エネルギーとする。
【0045】
溶着時間Tとは、溶着に要した時間であり、振動開始から溶着品が完成するまでの時間を指す。
【0046】
[第五工程]
第五工程では、溶着部の溶着強度と、吸収エネルギーとの相関関係を導出する。溶着条件を変化させても、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲はほとんど同じになる。したがって、一度、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲を導出しておけば、容易に好適な溶着条件を決定することができる。
【0047】
相関関係は、例えば、実測により導出することができる。実測による相関関係の導出は、例えば以下のように行う。
先ず、所定の溶着条件で溶着品を製造する。この所定の溶着条件での吸収エネルギーを上記の方法で求める。そして、この溶着品の溶着部の溶着強度を測定する。溶着強度の測定方法は特に限定されないが、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
次いで、所定の溶着条件から加圧力、周波数、オービタル振動の振幅等の条件を変更し、異なる溶着条件での溶着強度と吸収エネルギーを導出する。必要に応じて、さらに異なる溶着条件での溶着強度、吸収エネルギーを複数組導出する。
【0048】
図6には溶着強度と吸収エネルギーとの相関関係を示す。図6(a)には、三つの異なる溶着条件で導出した吸収エネルギーと溶着強度との関係を示す。縦軸を溶着強度、横軸を吸収エネルギーとした。供給エネルギーEの中には未知の係数Aが含まれているため横軸の吸収エネルギーはA×定数になる。ここで、第一の溶着条件での吸収エネルギーをEa1、溶着強度をF、第二の溶着条件での吸収エネルギーをEa2、溶着強度をF、第三の溶着条件での吸収エネルギーをEa3、溶着強度をFとする。
【0049】
図6(b)は、溶着強度の極大値を有する相関関係を示す図である。第一の溶着条件〜第三の溶着条件までは、図6(a)と同様である。第四の溶着条件での吸収エネルギーをEa4、溶着強度をFとする。図6(b)に示すように、相関関係が極大を持つ場合、後述する通り、無数にある溶着条件の中でより好適な溶着条件を選択できる。また、溶着強度のおよその上限を知ることもできるため、溶着条件の選定に必要となる手間、時間を大幅に削減することができる。
【0050】
ところで、加圧力Pが一定以上(ある閾値以上)大きくなると、溶着強度が低下する傾向にある。上記の通り、溶着条件を変化させても、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲は、ほぼ同じになる。このため、この吸収エネルギーの範囲で溶着強度を比較することにより、容易に加圧力Pの閾値を決定することができる。
【0051】
なお、吸収エネルギーを導出する際に溶着時間を実測せず、以下の数式(V)を用いてもよい。数式(V)を一度導出すれば、溶着時間を実測する手間が無くなる。
溶着時間Tは、設定した上記距離の差Lが大きいと長くなり、上記発熱量Qが大きいと短くなり、加圧力Pが大きいと短くなる。そこで、溶着時間を以下の数式(V)で表す。
【数15】

(数式(V)中のBは係数、m、nは定数である。)
【0052】
実測値を数式(V)にフィッティングすることで、B、m、nの値を求める。実測値を数式(V)にフィッティングする前に、フィッティングに使用する実測データを以下の方法で選定することが好ましい。
【0053】
溶着時間と溶着強度との相関関係を導出するために、横軸を溶着時間、縦軸を溶着強度としてプロットする。図7に示すような、溶着時間がTthのときに溶着強度が極大になるような関係が得られる。溶着時間が長過ぎると、誤差要因等が大きくなり、数式(V)の信頼度が低下するため好ましくない。また、溶着時間が短すぎると溶着強度が大きくなる条件を考慮することができない可能性があるため好ましくない。溶着時間がTthの付近以下の実測値を使用することで、溶着強度が高い条件を考慮しつつ、誤差要因等による数式の信頼度低下を最小限に抑えることができる。
【0054】
上記のようにして導出した溶着時間を用いると数式(III)は以下の数式(VI)のように変形することができる。
【数16】

【0055】
[第六工程]
第六工程は、上記相関関係に基づいて溶着条件を決定する。例えば、図6(a)、(b)から、大きいと判断された溶着強度、又は大きいと判断された溶着強度の範囲から、必要になる吸収エネルギーの範囲を読み取る。決定された吸収エネルギーの範囲に基づいて溶着条件を決定する。このように決定された溶着条件で溶着品を作製すれば、溶着部の溶着強度が非常に大きい溶着品が得られる。
【0056】
第六工程の一例について説明する。図6(b)のΔEの範囲(EaL≦E≦EaH)を溶着強度が大きいと判断したとする。このとき溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲は、以下の不等式(iii)のようになる。
【数17】

【0057】
この不等式(iii)から溶着条件を決定する。ところで、供給エネルギーEの中には未知の定数Aが含まれる。しかし、EaL、EaHも同様に係数Aが残った状態にあるため、溶着条件を決定する際にはAを考慮する必要はない。
【0058】
なお、上記数式(V)を用いる場合には、さらに容易に好適な溶着条件を決定することができる。具体的な方法を以下に示す。
ここでも、先ず、溶着強度が大きいと判断できる吸収エネルギーの範囲を決定する。上記の説明の場合と同様に、図6(b)のΔEの範囲(EaL≦E≦EaH)を溶着強度が大きいと判断したとする。このとき、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲は、以下の不等式(iv)のようになる。
【数18】

【0059】
ここで、数式(VI)にEaLを代入して得られる数式(VI)’と、数式(VI)にEaHを代入して得られる数式(VI)”とは以下のようになる。上記不等式(iv)において、αは振幅ΔXと相関関係があることから(α=X/(ΔX+X))、数式(VI)’、数式(VI)”は、横軸を振幅、縦軸を加圧力とするグラフに表すことができる(定数Aは上述の通り考慮する必要は無く、Qは導出可能なため)。溶着条件として、加圧力P、又はオービタル振動の振幅を調整する場合、好適な溶着条件を平面状に図示することができる。このようにして、加圧力P、オービタル振動の振幅を、溶着強度が大きくなるように調整することで、容易に好適な溶着条件を決定できる。
【数19】

【数20】

【0060】
<定数Aの導出方法>
定数Aの導出方法について説明する。溶着強度の大きいΔEの範囲(EaL≦E≦EaH)では、溶着時に、樹脂が充分に溶融する程度に樹脂の温度が高まり、且つ樹脂が熱分解しない程度に樹脂の温度が高まっていると考えられる。ここで、充分に溶融する程度に樹脂の温度を高めるために必要な吸収エネルギーがEaL以上であり、樹脂が熱分解しない程度に樹脂成形体に熱を与えるために必要な吸収エネルギーがEaH以下であると考えられる。所定の吸収エネルギーの場合に、振動により発生する熱の影響を受けて、どの程度樹脂の温度が上昇するか(昇温幅)を、下記の数式(v)から求めることができる。
【数21】

(数式(v)中の、比熱、密度は樹脂成形体の比熱と密度である。)
【0061】
aL、樹脂成形品を構成する樹脂(以下、単に「樹脂」とい場合がある」)の比熱、密度を代入すると数式(v)から、吸収エネルギーEaLの場合の昇温幅が導出される。この昇温幅をΔTaLとする。同様に吸収エネルギーEaHの場合の昇温幅も導出でき、この昇温幅をΔTaHとする。室温23℃で第一樹脂成形品と第二樹脂成形品との溶着を行ったとすると、吸収エネルギーがEaLの場合、溶着時の溶融樹脂の温度は(23℃+ΔTaL)になると考えられる。一方、吸収エネルギーがEaHの場合には(23℃+ΔTaH)になると考えられる。
【0062】
(23℃+ΔTaL)は、樹脂成形品を充分に溶融する程度の温度でなければならない。充分に溶融する温度とは、およそ、樹脂の融点以上であると考えられる。また、(23℃+ΔTaH)は、およそ、樹脂が熱分解しない温度であると考えられる。したがって、(23℃+ΔTaL)が上記樹脂の融点以上であり、(23℃+ΔTaH)が上記樹脂の熱分解点以下であれば、係数Aの値は適切になる。このように考えると以下のようにして係数Aを決定することができる。
【0063】
先ず、EaL×A’を吸収エネルギーとしたときに、(23℃+ΔTaL)が融点になるA’を導出する。次いで、EaL×A”を吸収エネルギーとしたときに、(23℃+ΔTaH)が熱分解点になるA”を導出する。A’以上A”以下が適切なAの範囲であるから、この範囲で係数Aを決定することで適切な係数Aの値が得られる。例えばA’、A”の平均を算出して係数Aの値とする方法で、適切なAの値を求めることができる。なお、融点、熱分解点については、融点付近、熱分解点付近の温度を使用しても、適切な係数Aを決定することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
実施例1では、図8(a)、(b)に示すような第一樹脂成形品と、図8(c)、(d)に示すような第二樹脂成形品とからなる溶着品を製造する際の好適な溶着条件を決定した(図8に示す第一樹脂成形品、第二樹脂成形品は、図1に示す成形品と同じ形状である。)。図8(a)、(c)はそれぞれの樹脂成形品の側面の断面を模式的に示した図であり、図8(b)は第一樹脂成形品の底面図であり、(d)は第二樹脂成形品の上面図である。第一樹脂成形品、第二樹脂成形品はともにポリフェニレンサルファイド系樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、商品名「FORTRON(登録商標)1130T6」、融点280℃、熱分解温度420℃、密度1520kg/m、比熱948J/kg・K)からなり、射出成形法で製造した。
【0066】
実施例1での振動溶着には、市販の振動溶着装置(ブランソン社製、商品名「ORBITAL WELDER(MODEL 100)」)を用いた。また、振動溶着の条件は、周波数207Hz、振幅(表1)、溶着の前後での第一の樹脂成形品と第二の樹脂成形品との間の、加圧力が加わる方向の距離の差(設定値)0.8mm、振動モードはオービタルモード、加圧シリンダ径は125mm、加圧力(エアー圧)(表1)、加圧力(実効)(表1)、溶着時間(表1)であった。それぞれの溶着品の溶着強度を測定した。溶着強度の測定は、図9に示すように、溶着品の11の底部を切取り、10の底部が下になるように11の溶着部外縁を支持する固定治具に置き、10の底部を上から圧力Pで押した際に溶着部が離れる荷重を測定する、という方法で行った。溶着強度の測定結果についても表1に示した。なお、溶融層厚みは0.1mm(溶着強度測定後の破壊された溶着品から溶着跡の長さを測定することで確認した)であった。
【0067】
【表1】

【0068】
[第一工程]
上記実施形態と同じ形状の第一樹脂成形品、第二樹脂成形品を用いるため、実施形態と同様に図4に示すような、長方形の往復運動からαを導出する。
【0069】
は図7から2mmであり、Yは1mmに設定した。振幅ΔXは表に記載の通りである。したがって、振幅、S、S、αは以下の表の通りになった。
【0070】
【表2】

【0071】
[第二工程]
上記数(II)から発熱量を導出する。上記数式(i)から振動速度を導出し、上記数式(ii)からせん断速度を導出した。導出された振動速度、せん断速度を表3に示した。また、粘度は、溶融樹脂の温度が300℃と仮定して、粘度とせん断速度との関係を表す関係式を上述の方法で求め、この関係式から導出した。粘度も表3に示した。
以上のようにして導出した振動速度、せん断速度、粘度から発熱量を導出した。導出結果を表3に示した。
【0072】
【表3】

【0073】
[第三工程〜第五工程]
定数Aは1/2として、各条件での供給エネルギーを数式(III)から導出した。そして、この供給エネルギーの値を用いて、各条件での吸収エネルギーの値を数式(IV)から導出した。溶着強度と吸収エネルギーとの関係を図10に示した。図10の実線Cは加圧力(エアー圧)が0.2MPa、0.4MPaのグラフであり、点線Dは加圧力(エアー圧)が0.6MPaのグラフである。溶着強度が高くなる吸収エネルギーの範囲は、2.6〜3.0J/mmである。この範囲に基づいて、溶着強度が高くなる供給エネルギーの範囲を導出し、そこからさらに、溶着強度が高くなる発熱量の範囲を導出することで、好ましい溶着条件(オービタル振動の振幅、周波数等)を容易に決定することができる。
また、0.5MPa付近が、加圧力の増加による溶着強度低下の閾値になることが確認された。
【0074】
<実施例2>
溶着強度と溶着時間との関係を導出するために、図11に横軸を溶着時間、縦軸を溶着強度としたグラフを作成した。グラフの作成において、加圧力(エアー圧)が0.2MPa、0.4MPaの結果のみ用いた。上記の通り、加圧力(エアー圧)が0.6MPaの条件では加圧力の低下による溶着強度の低下が見られるからである。
【0075】
図11の結果から明らかなように、溶着時間がおよそ10秒で最も溶着強度が高い。これより溶着時間が長くなると、溶着強度は低下する。ここでは溶着時間が20秒以下のデータを使用して、数式(V)の関係式を導出する。関係式は下記の数式(vi)のようになった。併せて、関係式(vi)のグラフを図12に示した。
【数22】

【0076】
数式(vi)を数式(VI)に代入すると、下記の数式(vii)になる。
【数23】

【0077】
<定数Aの決定(吸収エネルギーの導出)>
吸収エネルギーが2.6J/mmでは昇温幅が1856℃であり、3.0J/mmでは昇温幅が2086℃であった。吸収エネルギーが0.95J/mmでの昇温幅が、280℃(ポリフェニレンサルファイドの融点)−測定時の樹脂の温度、となる定数Aは0.14である。また、3.0J/mmでの昇温幅が、420℃(ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解点)−測定時の樹脂の温度、となる定数Aは0.19である。ここで、上記吸収エネルギーの好ましい範囲(2.6〜3.0J/mm)は、定数Aを1/2として導出した。したがって、ポリフェニレンサルファイド系樹脂が主成分となる樹脂の場合には、定数Aを0.28〜0.38とすることで、溶着の際に光吸収性樹脂成形体が吸収する吸収エネルギーを見積もることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 溶着品
10 第一樹脂成形品
101 第一樹脂成形品の溶着予定端面
11 第二樹脂成形品
111 第二樹脂成形品の溶着予定端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが溶着予定端面を有する一対の樹脂成形品の、溶着予定端面同士を突き当てて形成される当接面に平行な方向に、前記当接面に垂直な方向の加圧力を加えながら、少なくとも一方の樹脂成形品を振動させて一対の樹脂成形品を溶着する溶着品を製造する際の溶着条件を決定する方法であって、
一方の樹脂成形品の溶着予定端面の溶着時に溶融する面積をS、他方の樹脂成形品の溶着予定端面の溶着時に溶融する面積をSとしたときに、下記数式(I)で表される定数をαと定義し、
【数1】

(数式(I)中のα≦1とする。)
前記少なくとも一方の樹脂成形品を振動させる際の振動速度をV、せん断速度をVsh、前記振動により溶融した樹脂の粘度をη、としたときに下記数式(II)で表されるQを、単位時間、単位面積あたり、前記当接面に発生する発熱量と定義し、
【数2】

前記発熱量の内、前記他方の樹脂成形品に吸収されるエネルギーを考慮するための定数をAとし、下記数式(III)で表されるEを、前記他方の樹脂成形品側に供給される単位時間、単位面積あたりの供給エネルギーと定義し、
【数3】

溶着の前後での一方の樹脂成形品と他方の樹脂成形品との間の、前記加圧力が加わる方向の距離の差をL、溶着時間をT、としたときに、下記数式(IV)で表されるEを、前記他方の樹脂成形品側に吸収される単位体積あたりの吸収エネルギーと定義し、
【数4】

溶着部での溶着強度と、吸収エネルギーEとの相関関係に基づいて溶着条件を決定する溶着条件の決定方法。
【請求項2】
前記溶着時間Tを下記数式(V)で表し、
【数5】

(数式(V)中のB、m、nは定数である。)
前記相関関係に基づいて溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲(EaL≦E≦EaH)を決定し、
前記数式(IV)にEaLを代入して得られる数式(IV)’と、前記数式(IV)にEaHを代入して得られる数式(IV)”と、に基づいて溶着条件を決定する工程である請求項1に記載の溶着条件の決定方法。
【数6】

【数7】

【請求項3】
前記相関関係は溶着強度の極大値を有する請求項1又は2に記載の溶着条件の決定方法。
【請求項4】
前記一対の樹脂成形品に含まれる樹脂成分は、ともにポリフェニレンサルファイド系樹脂を主成分とし、
前記Aは、0.28以上0.38以下であり、前記mは2、前記nは1である請求項1から3のいずれかに記載の溶着条件の決定方法。
【請求項5】
前記吸収エネルギーEと溶着強度との関係に基づいて、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲(ΔE(EaLからEaHの範囲))を設定する工程と、
aLの定数倍EaL×A’、樹脂成形品を構成する樹脂の密度、比熱から下記式(v)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶着時の前記樹脂の温度が融点になるようなA’を算出する工程と、
aHの定数倍EaH×A”、樹脂成形品を構成する樹脂の密度、比熱から上記式(v)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶着時の前記樹脂の温度が熱分解点になるようなA”を算出する工程と、
導出されたA’からA”の範囲で任意の定数Aを選択する工程と、をさらに備える請求項1から4のいずれかに記載の溶着条件の決定方法。
【数8】

(式(v)中の、比熱、密度は樹脂成形体の比熱と密度である。)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−6303(P2012−6303A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145262(P2010−145262)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】