説明

溶融塩の電解方法および電解槽ならびにこれを用いたTiの製造方法

【課題】内部に隔離体を有する電解槽において、隔離体にかかる溶融塩による応力を低減する電解方法を提供する。
【解決手段】電解槽容器11の内部を隔離体である隔膜18によって、陽極12を含む陽極室21、陰極13を含む陰極室22に隔離する。陽極室21および陰極室22にそれぞれ溶融塩の注入口15および排出口17を設け、陽極室21内および陰極室22内に溶融塩を流動させて発生する圧損により、隔膜18に陽極室21側および陰極室22側から応力が互いに打ち消し合うようにかかるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽の内部に配置された隔離体にかかる応力を低減可能な溶融塩の電解方法およびそれに用いる電解槽ならびにその方法を用いたTiの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属Tiの工業的な製法としては、TiCl4をMgにより還元するクロール法が一般的であり、この方法によれば高純度の製品を製造することが可能である。しかし、生成したTi粉が凝集した状態で沈降し、反応容器外へ回収することが困難であるため、操業をバッチ方式で行わざるを得ない。また、TiCl4が反応容器内の溶融Mg液の液面に上方から液体状で供給され、溶融Mg液の液面近傍だけで反応が行われるので、TiCl4の利用効率の低下を回避し、反応に伴う局所的な発熱を避けるため、TiCl4の供給速度が制限される。その結果、製造コストが嵩み、製品価格が非常に高くなる。
【0003】
そのため、クロール法以外の金属Tiの製造方法に関して多くの研究開発がなされてきた。例えば、特許文献1には、反応容器内にCaCl2の溶融塩を保持し、その溶融塩中に上方から金属Ca粉末を供給して、溶融塩中にCaを溶け込ませるとともに、下方からTiCl4ガスを供給して、CaCl2の溶融塩中で溶解CaとTiCl4を反応させる方法が記載されている。しかし、金属Caの粉末が極めて高価であり、加えて、反応性が強いCaは取り扱いが非常に難しく、この方法は工業的な金属Ti製造法としては成立し得ない。
【0004】
そこで、本発明者らは、Ca還元による金属Tiの製造方法を工業的に確立するには、TiCl4のCaによる還元が不可欠であり、還元反応で消費される溶融塩中のCaを経済的に補充する必要があると考え、溶融CaCl2の電気分解により生成するCaを利用するとともに、このCaを循環使用する方法、即ち「OYIK法(オーイック法)」を提案した(特許文献2および3参照)。
【0005】
特許文献2では、電気分解によりCaが生成、補充され、Ca濃度が高められた溶融CaCl2を反応容器に導入し、Ca還元によるTi粒子の生成に使用する方法が記載され、特許文献3では、更に、陰極として合金電極(例えば、Mg−Ca電極)を用いることにより、電解に伴うバックリアクションを効果的に抑制する方法が示されている。バックリアクションとは、分離工程でTiが分離された後の溶融塩を電解槽に戻したときに、溶融塩中のCaと電気分解により生成したCl2との反応をいい、バックリアクションが生じると、電流効率が低下する。
【0006】
特許文献4に記載されたTiの製造方法は、前記OYIK法に立脚したものであり、電解槽内で溶融塩を陰極(カソード)表面近傍で一方向に流しつつ電気分解して、電解槽の溶融塩の排出側でCa濃度の高まった溶融塩を回収し、その溶融塩をTiCl4の還元に用いるものである。この方法では、Ca濃度の高められた溶融塩を効果的に取り出すことができるため、TiCl4の還元反応の効率を向上させ、Tiを効率よく製造することができる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4820339号明細書
【特許文献2】特開2005−133195号公報
【特許文献3】特開2005−133196号公報
【特許文献4】特開2007−63585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に記載されたTiの製造方法では、電解槽の内部において、陽極と陰極の間に配置された隔膜で隔離された空間のうち、陰極を含む空間である陰極室には溶融塩が注入され、上方向又は下方向の一方向に溶融塩流が形成されている。一方、陽極を含む空間である陽極室には、電気分解で減少する分に相当する溶融塩が供給されるだけであり、溶融塩はほとんど静止した状態である。
【0009】
電解槽において、電気分解に必要な電力を低減し、電流効率を向上させるためには、陰極と陽極との間隔を狭くして溶融塩の電気抵抗を低下させること望ましい。そのため、陽極室および陰極室の幅を狭くすること、すなわち長手方向に垂直に切断した場合の陽極室および陰極室の断面積も小さくすることが望ましい。しかし、陰極室の断面積を小さくすると、陰極室での圧損が大きくなるため、必要な溶融塩の流量を確保するためには、溶融塩を注入する際にある程度の圧力を加える必要がある。
【0010】
したがって、陰極室では溶融塩の注入口と排出口とで圧力差が生じる一方、陽極室では溶融塩はほとんど静止した状態であるため、陰極室のような圧損による両端での圧力差は生じない。そのため、電解槽において、溶融塩の注入口付近では、陰極室側の方が陽極室側よりも圧力が高くなる。
【0011】
その結果、陰極室で電気分解によって生成されたCaが、隔膜を経て陽極室へ流入し、陽極室で生成したCl2と再反応してバックリアクションが生じ、電流効率が低下する。さらに、上述の陰極室側と陽極室側の圧力差によって隔膜に応力がかかり、隔膜の寿命の低下や破損のおそれがある。しかし、隔膜の強度向上のために厚さを増加させると、陰極と陽極との間の距離が広くしなければならないため、これによっても電流効率が低下することとなる。
【0012】
本発明の目的は、隔膜等の隔離体にかかる応力を低減し、隔離体を薄くした場合でも破損のおそれを低減するとともに、電流効率を向上させ、耐久性およびCaの高濃度化効率の高い電解槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、電解槽中における溶融塩による圧力について検討した。その結果、陽極室の溶融塩を、陽極室の注入口における圧力が陰極室の注入口における圧力以上となるように、陰極室の溶融塩と同一方向に流動させて、陽極室においても圧損を発生させ、隔離体へかかる陰極側からの応力を陽極側からの応力によって打ち消すことに着想した。これにより、隔離体の破損のおそれを低減することができ、且つ隔離体を薄くできるため電流効率を向上させることができる。
【0014】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、その要旨は、下記(1)の溶融塩の電解方法、下記(2)の電解槽および下記(3)のTiの製造方法にある。
【0015】
(1)陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔離体と、前記隔離体によって隔てられた、前記陽極を有する陽極室と、前記陰極を有する陰極室とを備え、前記陽極室および前記陰極室の一端にそれぞれ溶融塩の注入口を、前記陽極室および前記陰極室の他端にそれぞれ前記溶融塩の排出口を有し、前記溶融塩を電気分解する電解槽において、前記陽極室および前記陰極室の注入口から前記溶融塩を、前記陽極室内および前記陰極室内を同一方向に流動し、且つ前記陽極室の注入口における圧力が前記陰極室の注入口における圧力以上となるように注入することを特徴とする溶融塩の電解方法。
【0016】
前記(1)に記載の溶融塩の電解方法において、前記陽極室の注入口における圧力が前記陰極室の注入口における圧力よりも大きくなるように前記溶融塩を注入することが望ましい。前記陽極室の注入口における圧力と前記陰極室の注入口における圧力の差は、大き過ぎると前記隔離体の破損などが危惧されるため、0MPa以上0.01MPa以下が望ましく、前記陰極室から前記陽極室に前記溶融塩が流入するのを防ぐため、0.001MPa以上0.01MPa以下がより望ましい。また、溶融塩の電気分解によって発生する気体による上方向の駆動力を利用する点から、前記溶融塩の流動方向が鉛直上向きとすることが望ましい。
【0017】
前記(1)に記載の溶融塩の電解方法において、前記溶融塩がCaCl2を含有するものとすることにより、前記溶融塩に電気分解によって発生したCaを溶解させることができ、この溶融塩をTiCl4と反応させて金属Tiの製造に用いることができる。
【0018】
Ca濃度が飽和濃度を超えて析出したCaは溶融塩に溶解したCaよりも活性を有し、電解槽を損傷させるため、電気分解によって上昇する陰極室内の溶融塩中のCa濃度が飽和濃度以下となるように溶融塩を注入することが望ましい。また、陽極室ではCaCl2の電気分解によってCl2が発生するため、バックリアクションを防ぐ目的から、陽極室に注入される溶融塩にはCaが溶解していないことが望ましい。
【0019】
(2)陽極および前記陽極に対向する陰極を有し、溶融塩を電気分解する電解槽であって、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔離体と、前記隔離体によって隔てられた、前記陽極を有する陽極室と、前記陰極を有する陰極室とを備え、前記陽極室および前記陰極室の一端にそれぞれ溶融塩の注入口、前記陽極室および前記陰極室の他端に前記溶融塩の排出口を有し、前記陽極室内および前記陰極室内において、前記溶融塩を同一方向に流動させることを特徴とする電解槽。
【0020】
前記(1)に記載の溶融塩の電解方法および前記(2)に記載の電解槽において、前記隔離体が、金属焼結体からなる隔膜であることが望ましい。
【0021】
(3)CaCl2を含有し且つCaが溶解した第1の溶融塩を反応容器に導入し、前記溶融塩中のCaによってTiCl4を還元させて前記第1の溶融塩中にTi粒子を生成させる還元工程と、前記Ti粒子を前記第1の溶融塩から分離する分離工程と、前記第1の溶融塩を電気分解してCaを生成することにより前記第1の溶融塩中のCa濃度を上昇させる電解工程とを有するTiの製造方法において、前記電解工程において、請求項1〜5および7のいずれかに記載の溶融塩の電解方法を適用し、前記陰極室には前記第1の溶融塩を注入し、前記陽極室内にはCaCl2を含有し且つCaが溶解していない第2の溶融塩を注入することを特徴とするTiの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電解方法および電解槽によれば、溶融塩によって隔離体へかかる陰極側からの応力に加えてそれと反対方向の陽極側からの応力も発生し、隔離体にかかる応力が低減されるため、隔離体の破損のおそれを低減することができ、且つ隔離体を薄くできるため電流効率を向上させることができる。
【0023】
また、本発明のTiの製造方法によれば、電解工程において効率よくCa濃度を高めることができるため、還元工程でのTi粒子の生成効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
最初に、前記(1)に記載の本発明の電解方法および(2)に記載の本発明の電解槽について説明する。
【0025】
本発明の電解方法は、陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔離体と、前記隔離体によって隔てられた、前記陽極を有する陽極室と、前記陰極を有する陰極室とを備え、前記陽極室および前記陰極室の一端にそれぞれ溶融塩の注入口を、前記陽極室および前記陰極室の他端にそれぞれ前記溶融塩の排出口を有し、前記溶融塩を電気分解する電解槽において、前記陽極室および前記陰極室の注入口から前記溶融塩を、前記陽極室内および前記陰極室内を同一方向に流動し、且つ前記陽極室の注入口における圧力が前記陰極室の注入口における圧力以上となるように注入することを特徴とする溶融塩の電解方法である。
【0026】
図1は、本発明の電解槽の構成例を示す図である。電解槽10は、CaCl2を含有する溶融塩を保持する長い円筒状の電解槽容器11と、電解槽容器11の内部に長手方向に沿って配置された、同じく円筒状の陽極12と、陽極12の内部に配置された円柱状の陰極13とを有し、長手方向が鉛直方向と平行となるように配置される。
【0027】
電解槽容器11の下端には溶融塩が注入される注入口15を有する底板14が設けられ、上端には溶融塩が排出される排出口17を有する蓋16が設けられている。陽極12の内面と陰極13の表面とは対向し、陽極12と陰極13は、いずれも長手方向が鉛直方向と平行となるように配置されており、陽極12と陰極13とを隔離する隔離体である隔膜18が陽極12と陰極13との間に配置されている。隔膜18は、陰極13の近傍で溶融塩の電気分解によって生成したCaの陽極12側への通過を抑制する。
【0028】
上述のように電解槽容器11の内部は隔膜18によって2個の空間に分離されており、陽極12を含む空間を陽極室21、陰極13を含む空間を陰極室22とする。底板14に設けられている注入口15は、溶融塩が陽極室21に注入される陽極側注入口15aと、陰極室22に注入される陰極側注入口15bからなる。同様に、蓋16に設けられている排出口17は、溶融塩が陽極室21から排出される陽極側排出口17aと、陰極室22から排出される陰極側排出口17bからなる。陽極側注入口15aおよび陰極側注入口15bには、それぞれ所定の圧力で溶融塩を注入する陽極側ポンプ23と陰極側ポンプ24が配置されている。そして、陽極側排出口17aは、陽極側ポンプ23を介して陽極側注入口15aと配管25により接続されている。
【0029】
以上のように構成された電解槽10では、電解槽容器11の陽極室21および陰極室22に溶融塩を連続的または断続的に注入しながら溶融塩に含有されるCaCl2を電気分解することによって、陰極室22ではCaが生成して溶融塩中のCa濃度が上昇し、陽極室21ではCl2が発生する。しかし、陽極室21中の溶融塩と、陰極室22中の溶融塩とは直接接触しないため、CaとCl2の再反応によるバックリアクションを防止することができる。
【0030】
陽極室21および陰極室22に、連続的または断続的に溶融塩を注入することにより、陽極室21と陰極室22の双方に、上方に向かう溶融塩流を形成することができる。この溶融塩流により陽極室21と陰極室22の双方に圧損が発生するため、陽極室21側からの応力と、それと反対方向の陽極室21側からの応力が互いに打ち消し合うように隔膜18にかかるため、隔膜18にかかる応力が低減される。そして、溶融塩の注入量を調整することにより、陽極室21および陰極室22に発生する圧損の大きさを調整することができ、隔膜18にかかる応力も調整することができる。
【0031】
溶融塩を注入する際には、陽極側注入口15aにおける圧力が陰極側注入口15bにおける圧力以上となるようにすることが望ましい。また、陽極側注入口15aにおける圧力から陰極側注入口15bにおける圧力を引いた差圧は、0MPa以上0.01MPa以下が望ましく、0.001MPa以上0.01MPa以下がより望ましい。このように溶融塩を注入することにより、隔膜18に陽極室21側および陰極室22側からかかる溶融塩による応力をより低減させることができる。これにより、溶融塩の応力による破損のおそれが少なくなるため、隔膜18を薄くすることができ、電流効率を向上させ、Caの生成効率を向上させることができる。また、陽極側注入口15aにおける圧力を陰極側注入口15bにおける圧力よりも高くすることにより、陰極室22から陽極室21に溶融塩が流入するのを十分に抑制できるため、これによっても電流効率を向上させ、Caの生成効率を向上させることができる。
【0032】
電解槽10において、陽極側排出口17aと陽極側注入口15aとを接続する配管25の途中に、CaCl2を供給するタンク26を設けてもよい。これにより、電気分解によって減少したCaCl2を補充することができる。
【0033】
隔膜18としては、イットリア(Y23)を含む多孔質のセラミックスからなるものや、多孔質の金属焼結体を用いることができる。
【0034】
図2は、セラミックスからなる隔膜の構成例を示す図である。金属焼結体は、2枚の金属製の網とその間に挟まれた金属繊維を焼結して作製した板状であり、柔軟性に富み、溶接可能であるとともに、大きさの自由度が大きい。したがって、板状の金属焼結体を溶接して円筒状に形成した隔膜18は、大型化が可能である。一方、隔膜18が、セラミックスからなるものである場合、金属焼結体のように一体の大きなものを作製することができないため、複数の部品を組み合わせて作製する。
【0035】
例えば、図2(a)は、セラミックス製の環状の隔膜部品18aの両端の縁に段差18b、18cを設けて、複数の隔膜部品18aを組み合わせたものである。また、図2(b)は、両端の縁に段差を設けた隔膜部品18aの間に隔膜部品18aの段差18bと組み合わさる段差18eを設けたスペーサー18dを配置したものである。スペーサー18dは、隔膜部品18aを形成するセラミックスよりも強度を有する材質で形成することが望ましい。
【0036】
陽極12と陰極13とを隔離する隔離体として、隔膜18に代えて溶融塩の一部が流通可能に構成された隔壁を用いてもよい。隔壁は金属CaはもとよりCaや塩素のイオンなど溶融塩も通さないが、隔壁の一部に溶融塩が通過できるスリットや穴などを設けておくことにより、電解を可能とし、一方、金属Caの通過をある程度制限して、バックリアクションを抑制することが可能となる。
【0037】
図1では、溶融塩の流動方向を鉛直上向きとしたが、下向きであってもよい。しかし、陽極室21では溶融塩中に発生するCl2ガスによって上向きの駆動力が発生し、この駆動力を利用する点から溶融塩の流動方向を鉛直上向きとすることが望ましい。
【0038】
さらに、陰極室22で電気分解が進行して溶融塩中のCa濃度が過飽和となった場合に析出する金属CaはCaCl2よりも比重が小さく、溶融塩の上方に浮上するため、金属Caの回収効率を高める点からも、溶融塩の流動方向を鉛直上向きとすることが望ましい。
【0039】
また、陰極室22に注入する溶融塩は、電気分解によって陰極室22で生成するCaが完全に溶解しても飽和濃度以下となる量であることが望ましい。Ca濃度が飽和濃度を超えて過飽和になると、溶解しきれなくなったCaが溶融塩中に細かく分散した状態で析出し、析出したCaは溶融塩に溶解したCaよりも活性を有するため、例えばイットリアを含む隔膜18を腐食させ、電解槽10の寿命を縮める一因となるからである。
【0040】
次に、前記(3)に記載のTiの製造方法について説明する。
【0041】
図3は、本発明のTiの製造方法を実施する際の工程例を示す図である。図3に示すように、このTi製造工程は、CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩中のCaとTiCl4を反応させて前記溶融塩中に金属Tiの粒子であるTi粒子を生成させる還元工程31と、前記溶融塩中に生成したTi粒子を前記溶融塩から分離する分離工程32と、Ti粒子の生成に伴ってCa濃度の低下した溶融塩を電気分解することによりCa濃度を高める電解工程とを有する。本発明のTiの製造方法では、この電解工程において、上述の本発明の電解方法を適用するため、図3にはこの電解方法の実施に用いる電解槽10が組み込まれている。
【0042】
電解槽10におけるCaCl2の電気分解によってCa濃度の高められた溶融塩は、電解槽10の陰極側排出口17bから排出され、還元工程31へ移送される。
【0043】
還元工程31で、Ca濃度の高められた溶融塩中のCaにTiCl4のガスを反応させると、還元反応によって溶融塩中にTi粒子が生成する。溶融塩中での還元反応が進行すると、溶融塩中のCaが消費され、Ti粒子とともにCaCl2も生成する。
【0044】
還元工程31で生成したTi粒子は溶融塩とともに分離工程32へ移送され、Ti粒子は溶融塩から分離される。分離には、高温デカンターや液体サイクロンを利用することができる。
【0045】
分離工程32で溶融塩から分離されたTi粒子は溶解工程33で加熱溶解され、インゴット34とされる。
【0046】
一方、Ti粒子が分離された、Ca濃度の低下した溶融塩は、電解工程に移送され、電解槽10の陰極側注入口15bから注入される。そして、電気分解によって再びCa濃度が高められ、還元工程31へ移送される。
【0047】
Tiの製造工程を、図4に示すように構成することにより、電解工程において効率よくCa濃度を高めることができるため、還元工程でのTi粒子の生成効率およびTiのインゴットの製造効率を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
本発明の溶融塩電解方法の効果を確認するため、下記の溶融塩電解試験を行い、その結果を評価した。
【0049】
1.溶融塩電解条件
前記図1に示す装置を用いて溶融塩について電気分解を行った。電気分解条件は表1に示す通りとした。表1における差圧とは、陽極側注入口における圧力から陰極側注入口における圧力を引いた値である。陽極は内径100mmのカーボン、陰極は直径10mmのFe、隔膜は内径50mm、厚さ5mmのものを用いた。溶融塩の温度は850℃とし、陰極電流密度は1.0〜20A/cm2とした。また、陰極室における溶融塩の流量は10L/minとし、陰極側注入口における圧力を0.015MPaとした。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明の実施例1および4では、陽極側注入口における圧力と陰極側注入口における圧力とが同一となるように、実施例2および3では、差圧が表中の値となるように、陽極室における溶融塩の流量を調整した。比較例は、陽極室へは溶融塩を流さなかったため、陽極室における溶融塩の流量0とした。比較例において、陽極室における溶融塩の流量が0であるにも関わらず陽極側注入口における圧力が発生したのは、注入口が下方にあるため溶融塩の深さ分の静水圧が発生したためである。
【0052】
2.試験結果
上記条件で行った電気分解について、電流効率を評価指標として評価を行った。電流効率は、表1に注入された電気分解条件と併せて示した。
【0053】
表1に示すように、本発明の実施例1〜4ではいずれも電流効率が88%以上と、比較例の75%と比べて良好な値であった。差圧を0.001MPa以上とした実施例2および3では92%と、より良好な値であった。
【0054】
差圧を0.001MPa以上とした実施例2および3の方が差圧を0とした実施例1および4よりも電流効率が良好な値であった理由としては、陽極側注入口の圧力が陰極側注入口よりも高い場合には陰極室から隔壁を介して陽極室へCaが流入するのを十分に抑制できたのに対して、同じ圧力ではわずかに陽極室へCaが流入したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の溶融塩の電気分解方法は、電解槽中において溶融塩を陽極室内および陰極室内で同一方向に流動させることにより、隔離体にかかる応力を低減することができ、隔離体を薄くできるため電流効率を向上させることができる。さらに、陽極側注入口における圧力を陰極側注入口における圧力よりも高くすることにより、陰極室から陽極室への溶融塩の流入によるバックリアクションを防止し、電流効率をより向上させることができる。
【0056】
本発明の電解槽は、溶融塩を陽極室内および陰極室内で同一方向に流動させることができるため、隔離体にかかる応力を低減することができる。また、本発明のTiの製造方法は、金属Tiに限られず、溶融塩として合金成分を含有するものを用いることにより、合金Tiの製造に利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のCa濃度交換方法が行われるCa調整槽の構成例を示す図である。
【図2】セラミックスからなる隔膜の構成例を示す図である。
【図3】本発明のTiの製造方法を実施する際の工程例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10 電解槽
11 電解槽容器
12 陽極
13 陰極
14 底板
15 注入口
15a 陽極側注入口
15b 陰極側注入口
16 蓋
17 排出口
17a 陽極側排出口
17b 陰極側排出口
18 隔膜
18a 隔膜部品
18b 段差
18c 段差
18d スペーサー
18e 段差
21 陽極室
22 陰極室
23 陽極側ポンプ
24 陰極側ポンプ
25 配管
26 タンク
31 還元工程
32 分離工程
33 溶解工程
34 インゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔離体と、
前記隔離体によって隔てられた、前記陽極を有する陽極室と、前記陰極を有する陰極室とを備え、
前記陽極室および前記陰極室の一端にそれぞれ溶融塩の注入口を、前記陽極室および前記陰極室の他端にそれぞれ前記溶融塩の排出口を有し、前記溶融塩を電気分解する電解槽において、
前記陽極室および前記陰極室の注入口から前記溶融塩を、前記陽極室内および前記陰極室内を同一方向に流動し、且つ前記陽極室の注入口における圧力が前記陰極室の注入口における圧力以上となるように注入することを特徴とする溶融塩の電解方法。
【請求項2】
前記陽極室の注入口における圧力が前記陰極室の注入口における圧力よりも大きくなるように前記溶融塩を注入することを特徴とする請求項1に記載の溶融塩の電解方法。
【請求項3】
前記溶融塩の流動方向が鉛直上向きであることを特徴とする請求項1または2に記載の溶融塩の電解方法。
【請求項4】
前記溶融塩がCaCl2を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融塩の電解方法。
【請求項5】
電気分解によって上昇する前記陰極室内の溶融塩中のCa濃度が飽和濃度以下となるように前記溶融塩を注入することを特徴とする請求項4に記載の溶融塩の電解方法。
【請求項6】
前記陰極室に注入される溶融塩にCaが溶解し、前記陽極室に注入される溶融塩にCaが溶解していないことを特徴とする請求項4または5に記載の溶融塩の電解方法。
【請求項7】
陽極および前記陽極に対向する陰極を有し、溶融塩を電気分解する電解槽であって、
前記陽極と前記陰極との間に配置された隔離体と、前記隔離体によって隔てられた、前記陽極を有する陽極室と、前記陰極を有する陰極室とを備え、
前記陽極室および前記陰極室の一端にそれぞれ溶融塩の注入口、前記陽極室および前記陰極室の他端に前記溶融塩の排出口を有し、前記陽極室内および前記陰極室内において、前記溶融塩を同一方向に流動させることを特徴とする電解槽。
【請求項8】
前記隔離体が、金属焼結体からなる隔膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の溶融塩の電解方法または請求項6に記載の電解槽。
【請求項9】
CaCl2を含有し且つCaが溶解した第1の溶融塩を反応容器に導入し、前記溶融塩中のCaによってTiCl4を還元させて前記第1の溶融塩中にTi粒子を生成させる還元工程と、
前記Ti粒子を前記第1の溶融塩から分離する分離工程と、
前記第1の溶融塩を電気分解してCaを生成することにより前記第1の溶融塩中のCa濃度を上昇させる電解工程とを有するTiの製造方法において、
前記電解工程において、請求項1〜5および8のいずれかに記載の溶融塩の電解方法を適用し、前記陰極室には前記第1の溶融塩を注入し、前記陽極室内にはCaCl2を含有し且つCaが溶解していない第2の溶融塩を注入することを特徴とするTiの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−197277(P2009−197277A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40315(P2008−40315)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】