説明

溶融成形物

【課題】 適度の耐水性を有すると共に十分な水溶性を有する溶融成形物を提供すること。
【解決手段】 溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)を含有してなり、かつ(A)と(B)の混合重量比(A/B)が99.9/0.1〜80/20で、さらに(A)のメルトフローレート(MFRA:210℃、荷重2160gでの測定値)と(B)のメルトフローレート(MFRB:同左)の比(MFRB/MFRA)を0.1以上としてなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記することがある)を含有してなる溶融成形物に関し、更に詳しくは適度の耐水性と十分な水溶性または水分散性のバランスに優れた溶融成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVAと略記することがある)は、水溶性の樹脂として知られており、かかる水溶性を利用して各種用途に利用されている。本出願人も従来のPVAに改良を加えて、溶融成形ができ、かつ水溶性にも優れる樹脂として、オキシアルキレン基を含有したPVAを提案し(特開昭59−155411号他)、その成形物についても提案してきた(特開平1−203932号他)。
【0003】しかしながら、最近の市場からは、水溶性には優れるものの一時的或いは少量の水に対しては耐水性も必要であるという相反する性能を要求されることが多く、例えば、洗剤容器(ボトル)等においては、洗剤使用時に濡れた手で扱っても影響はなく、容器の廃棄時には水に溶解して廃水と一緒に廃棄できる、農薬や洗剤のユニット包装においては、田畑や洗濯機に投入するまではかかる包装材に耐水性が必要で、投入後には水に溶ける、おむつや水に廃棄可能なサニタリー用品においては、通常使用時は耐水性が必要で、廃棄時はトイレ等に流すためにトイレットペーパー等と同様の水溶性が必要である、と言った性能が要求されている。また、水中で除放性が要求される薬剤や飼料、菌体等を内部に入れた除放性容器成形物においては水中での除放性のコントロールが要求される。
【0004】これらの要求に応えるために、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの耐水性を向上させる方策として、■フィルムの膜厚を厚くする、■耐水性樹脂で表面をコーティングする、■フィルムを加熱処理する、■フィルム中にPVAの架橋剤を配合する、等の方法が考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の■の方法においては、最終的に廃棄される用途が多く経済的に不利で、用途によっては膜厚を制限される場合も多く自由度が制限され、また、膜厚調整だけでは効果的な耐水性のコントロールは困難である。■の方法においては、一般的にコーティング剤(耐水樹脂)が水に不溶性で水中或いは水面に浮遊物として長く残存して他に影響を及ぼす恐れがある。また、■の方法をオキシアルキレン基含有PVAに適用した場合には側鎖によってPVAの結晶性が乱されるため、効果的な耐水性の向上にはつながらない。
【0006】さらに、■の方法は、キャスト成形によるPVAフィルムについては効果的であるが、溶融成形の場合にはゲル化の引き金になり、また、後工程で架橋処理をする必要があり工程が煩雑になる。このように、PVAフィルムにおいて、耐水性と水溶性と言う相反する性能を満足させることは容易ではないが、一時的或いは少量の水に対しては耐水性を示し、最終的には水に溶解又は分散する溶融成形物、例えば、田畑に投入する農薬包装等においては、濡れた手で扱っても水や握力の影響により破損されることなく投入までの間(精々1分程度)は形状を保持し、投入後は徐々に溶解し始めて最終的には(精々1時間程度)完全に溶解することが望まれるところである。
【0007】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者は、かかる事情に鑑みて、溶融成形が可能なPVAの耐水性を向上させるために鋭意研究した結果、溶融成形可能なPVA(A)及びEVOH(B)を含有してなり、かつ(A)と(B)の混合重量比(A/B)が99.9/0.1〜80/20で、さらに(A)のメルトフローレート(MFRA:210℃、荷重2160gでの測定値)と(B)のメルトフローレート(MFRB:同左)の比(MFRB/MFRA)が0.1以上である溶融成形物が上記の目的に合致することを見いだして本発明を完成するに至った。本発明においては、かかる溶融成形可能なPVA(A)として、オキシアルキレン基含有PVA(A1)または部分ケン化PVA(A2)を用いることにより、本発明の作用効果を顕著に得ることが可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明について具体的に説明する。本発明の溶融成形可能なPVA(A)としては、溶融成形が可能なPVAであれば特に限定されないが、水溶性にも優れることが好ましく、この点ではオキシアルキレン基含有PVA(A1)または部分ケン化PVA(A2)が好適に用いられる。かかるオキシアルキレン基含有PVA(A1)は、下記一般式(1)で示されるオキシアルキレン基を含有するPVAで、より具体的には該一般式(1)で示されるオキシアルキレン基を含有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との共重合体をケンすることによって得られる。
【0009】


【0010】〔但し、R1、R2は水素又はアルキル基(特にメチル基又はエチル基)、R3は水素又はアルキル基又はアルキルアミド基、nは正の整数〕
【0011】オキシアルキレン基を有する不飽和単量体としては次のようなものが例示されるが、本発明ではこれらのみに限定されるものではない。
[(メタ)アクリル酸エステル型]
【0012】


【0013】上記一般式(2)で示される (但し、Rは水素又はメチル基、R1,R2はそれぞれ水素又はアルキル基、R3は水素又はアルキル基又はアルキルアミド基、Aはアルキレン基、置換アルキレン基、フェニレン基、置換フェニレン基のいずれか、mは0又は1以上の整数、nは1〜100の整数)もので、具体的にはポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
[(メタ)アクリル酸アミド型]
【0014】


【0015】上記一般式(3)で示される(但し、R4は水素又はアルキル基又は下記一般式(4)で示されるもの、A,R,R1,R2,R3,m,nは前記と同様)もので、具体的にはポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル等が挙げられる。
【0016】


【0017】〔但しR1、R2,R3は上記と同様、nは1〜300の整数を示す〕
[(メタ)アリルアルコール型]
【0018】


【0019】上記一般式(5)で示される(R,R1,R2,R3,nは前記と同様)もので、具体的にはポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
[ビニルエーテル型]
【0020】


【0021】上記一般式(6)で示される(A,R1,R2,R,m,nは前記と同様)もので、具体的にはポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等が挙げられる。上記のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体の中で(メタ)アルコール型のものが好適に使用される。
【0022】また、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン等を用いることも可能である。
【0023】上記のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体と共重合されるビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0024】上記の共重合を行うに当たっては、特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられるが、普通メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、乳化重合、懸濁重合も可能である。かかる溶液重合において単量体の仕込み方法としては、まずビニルエステル系化合物の全量と前記のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的に又は分割的に添加する方法、前者を一括仕込みする方法等任意の手段を用いて良い。共重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。又反応温度は35℃〜沸点程度の範囲から選択される。
【0025】得られた共重合体は、次いでケン化されるのであるが、かかるケン化に当たっては、アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的には該共重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下に行なわれる。該アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は20〜50重量%の範囲から選ばれる。また、必要に応じて、0.3〜10重量%程度の水を加えても良く、更には、ケン化時の溶媒の誘電率制御の目的で酢酸メチル等の各種エステル類やベンゼン、ヘキサン、DMSO等の各種溶剤類を添加しても良い。
【0026】ケン化触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を具体的に挙げることができ、かかる触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1〜100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0027】かくしてオキシアルキレン基含有PVA(A1)が得られるわけであるが、本発明においては、オキシアルキレン基の含有量を0.1〜20モル%とすることが好ましく、かかる含有量が0.1モル%未満では融点降下の割合が低く、溶融成形性が低下し、また、水溶性も低下し、逆に20モル%を越えると該PVAの製造そのものが困難で、また、耐水性が著しく低下して好ましくない。尚、かかる含有量の更に好ましい下限は0.5モル%で特には1モル%であり、更に好ましい上限は15モル%で特には10モル%で殊には3モル%である。
【0028】また、かかるPVA(A1)の(酢酸ビニル成分の)ケン化度は特に限定されないが、74.0モル%以上が好ましく、かかるケン化度が74.0モル%未満では溶融成形物に著しい酢酸臭が発生し、ロングラン成形性が低下すると共に耐水性も低下して好ましくない。尚、かかるケン化度の更に好ましい下限は90.0モル%で特には98.5モル%である。
【0029】更に、かかるPVA(A1)のメルトフローレート(MFRA:210℃、荷重2160gでの測定値)も後述するEVOH(B)のメルトフローレートとの関係を満たせば特に制限はないが、1〜35g/10分とすることが好ましく、かかるメルトフローレートが1g/10分未満では溶融成形時にトルクオーバーになりやすく、成形性が悪く、逆に35g/10分を越えると溶融粘度が低くなりすぎてフィルム等の成形物の時にはネックインが発生しやすく、かかるネックインを押さえるためにはラインスピードを下げる必要がありその結果生産性が低下して好ましくない。尚、かかるメルトフローレートの更に好ましい下限は3g/10分で特には8g/10分であり、更に好ましい上限は15g/10分で特には13g/10分である。
【0030】次に、部分ケン化PVA(A2)について説明する。かかるPVAは、上記のオキシアルキレン基含有PVA(A1)の製造において、オキシアルキレン基含有不飽和単量体を共重合することなく製造すれば良く、ケン化度及びメルトフローレートについても上記のオキシアルキレン基含有PVA(A1)と同様に選択すればよい。
【0031】部分ケン化PVA(A2)の(酢酸ビニル成分の)ケン化度は特に限定されないが、69.0〜94.0モル%が好ましく、かかるケン化度が69.0モル%未満では溶融成形物に著しい酢酸臭が発生し、また、耐水性も低下し、逆に94.0モル%を越えると溶融成形温度を高くする必要がありその結果熱分解を受ける恐れが発生して好ましくない。尚、かかる含有量の更に好ましい下限は70.0モル%で特には72.0モル%であり、更に好ましい上限は90.0モル%で特には88.0モル%である。
【0032】更に、かかるPVA(A2)のメルトフローレート(MFRA:210℃、荷重2160gでの測定値)は、上記のPVA(A1)と同じ理由で、同じ範囲が好ましい。次に、溶融成形可能なPVA(A)と共に用いられるEVOH(B)について説明する。
【0033】かかるEVOHとしては、特に限定されることはないが、エチレン含有量が1〜54モル%で、ケン化度が98.5モル%以上のものが好適に用いられる。該エチレン含有量が1モル%未満では溶融成形物が十分な水溶性が得られないことがあり、逆に54モル%を越えるとPVA(A)との相溶性が低下するためか溶融成形物に必要とされる耐水性が低下する場合があり、ケン化度が98.5モル%未満では溶融成形時の熱安定性が低下して好ましくない。尚、かかるエチレン含有量の更に好ましい下限は5モル%で特には26モル%であり、更に好ましい上限は38モル%で特には32モル%である。また、かかるケン化度の更に好ましい下限は99.0モル%で特に99.5モル%である。
【0034】また、該EVOH(B)のメルトフローレート(MFRB:210℃、荷重2160gで測定)もPVA(A)のメルトフローレートとの後述する関係を満たせば特に制限はないが、1〜50g/10分とすることが好ましく、かかるメルトフローレートが1g/10分未満では溶融成形時にトルクオーバーになりやすく、成形性が悪く、逆に50g/10分を越えるとEVOH(B)自体の生産が困難となって好ましくない。尚、かかるメルトフローレートの更に好ましい下限は3g/10分で特には8g/10分であり、更に好ましい上限は45g/10分で特には13g/10分である。
【0035】該EVOH(B)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化によって得られ、該エチレン−酢酸ビニル共重合体は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造され得るが、溶液重合法で製造されたEVOHが、成形時のロングラン成形性の面より好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0036】また、本発明では、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。又、本発明の趣旨を損なわない範囲で、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化等、後変性されても差し支えない。
【0037】本発明に使用されるPVA(A)及びEVOH(B)には、必要に応じて、飽和脂肪族アミド(例えば、ステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えば、エチレンビスステアリン酸アミド等)、上記以外の脂肪酸金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、無機塩(例えば、後述のハイドロタルサイト類等)、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど)、酸素吸収剤(例えば、還元鉄粉類、亜硫酸カリウム等の無機系酸素吸収剤や、アスコルビン酸、ハイドロキノン、没食子酸等の有機化合物系酸素吸収剤や、高分子系酸素吸収剤など)、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤(例えば、チバスペシャルティケミカルズ社製「IRGANOX1098」など)、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、消臭剤(例えば、活性炭等)、アンチブロッキング剤(例えば、タルク微粒子など)、スリップ剤(例えば、無定形シリカ微粒子など)、充填材(例えば、無機フィラーなど)、他樹脂(例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなど)等を配合しても良く、更にはPVA(A)及びEVOH(B)の混合時に第三成分として添加することも可能である。
【0038】また、EVOH(B)として、異なる2種以上のEVOHを用いることも可能で、このときは、エチレン含有量が3モル%以上異なるEVOHのブレンド物を用いることも有用である。本発明の溶融成形物は、上記の如きPVA(A)及びEVOH(B)を含有してなるもので、かかる(A)と(B)の混合重量比(A/B)は、99.9/0.1〜80/20とすることが必要で、かかる混合重量比が99.9/0.1を越えるときは溶融成形物に必要とされる耐水性が得られず、逆に80/20未満では十分な水溶性が得られず本発明の目的を達成することが困難となる。尚、かかる混合重量比の好ましい上限は98/2で更には97/3であり、逆に好ましい下限は85/15で更には88/12で特には90/10である。
【0039】また、本発明においては、上記の(A)及び(B)のメルトフローレートの比(MFRB/MFRA)が0.1以上になるようにすることも必要で、かかる比が0.1未満では溶融成形性に劣り、又溶融成形物の耐水性が低下して本発明の目的を達成することが困難となる。尚、かかる比の好ましい下限は0.2で更には0.5であり、上限に特に制限はないが4.0が好ましく、更には3.0で特には2.0である。
【0040】尚、本発明において、(A)或いは(B)を2種類用いる場合のMFRA或いはMFRBは、下式により算出される値を用いる。MFRがxg/10分のものをX重量部及びMFRがyg/10分のものをY重量部の2種混合物を用いたときは、MFR(X+Y)={X/(X+Y)}logx+{Y/(X+Y)}logyより算出する。
【0041】本発明の溶融成形物を得るに当たっては、上記のPVA(A)及びEVOH(B)を溶融成形機に供給して溶融成形物を製造することができ、かかる製造方法について説明する。上記のPVA(A)及びEVOH(B)を溶融成形機に供給するにあたっては、かかる(A)及び(B)を直接溶融成形機に供給する方法と予め(A)及び(B)からなる組成物を得た後に溶融成形機に供給する方法が挙げられ、前者の方法においては、(A)の粉末或いはペレットを溶融成形機のメインフィーダーに供給し、(B)のペレット或いは更に凍結粉砕したものをサイドフィーダーに供給して溶融成形する方法(サイドフィード法)や該(A)を溶融押出機に供給して該押出機のサイドから別の溶融押出機で該(B)を供給して溶融混合する方法(メルトサイドフィード法)等を挙げることができ、更には該(A)と(B)をドライブレンドしてから溶融成形機に供給して溶融混合する方法が挙げられる。また、後者の方法においては、粉末状の(A)とペレット状の(B)、或いは粉末状の(A)とペレットを凍結粉砕した(B)、更にはペレット状の(A)とペレット状の(B)をヘンシェルミキサー等でドライブレンドした後に単軸押出機又は2軸押出機等により溶融混合してペレット状等に成形して、得られたペレットを溶融成形機に供給すればよい。
【0042】かかる溶融成形機としては、具体的には、単軸又は2軸押出機、射出成形機等を挙げることができ、目的とする成形物や設備状況によりこれらの中から任意に選択すれば良く、2種以上の機械を組み合わせることも可能である。溶融成形時の温度としては、使用する(A)及び(B)の種類や配合比率等により一概に言えないが、150〜250℃(更には170〜230℃、特には180〜220℃)とすることが好ましく、かかる温度が150℃未満では溶融成形物中に未溶解物が発生したり、押出機のトルクオーバーを招き、成形物の透明性が低下したりし、逆に250℃を越えると熱分解を起こす恐れがあり好ましくない。
【0043】尚、PVA(A)として、部分ケン化PVA(A2)を用いるときは、溶融成形時の樹脂温度を、該PVAの融点から200℃未満の範囲とすることが好ましい。かくしてフィルムやシート状、テープ状、ボトル状、パイプ状、フィラメント状、更には異型断面形状の本発明の溶融成形物を得ることができるが、本発明の作用効果をより顕著に得るには、フィルムやシート状の溶融成形物が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0044】本発明の溶融成形物は上記の如く(A)及び(B)を含有する組成物を溶融押出成形して得ることができるが、該組成物を他の基材に溶融押出コート(コーティング)することも可能で、かかる基材としては、紙、金属箔、無延伸、一軸又は二軸延伸プラスチックフィルム又はシート及びその無機物蒸着体、織布、不織布、金属綿状、木質等を挙げることができる。また、前記の如く一旦フィルムやシート状にした溶融成形物を接着剤を介して上記基材と積層することも可能であるが、該溶融成形物や基材の水溶性を考慮した水溶性の接着剤を選択することも好ましい。
【0045】 更に、一旦フィルムやシート状にした溶融成形物を延伸することも可能で、かかる延伸方法としては、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等の他、深絞成形、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸温度は60〜170℃、好ましくは80〜160℃程度の範囲から選ばれる。
【0046】延伸が終了した後、次いで熱固定を行うことも可能で、かかる熱固定は周知の手段で実施可能であり、上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら80〜170℃、好ましくは100〜160℃で2〜600秒間程度熱処理を行ってもよい。
【0047】かくして本発明の溶融成形物が得られるのであるが、かかる成形物、特にフィルム或いはシート状の成形物は、洗剤や農薬等の薬剤の包装用途、おむつや水に廃棄可能なサニタリー用品等に使用することができ、更に、EVOH(B)の配合量、エチレン含有量、MFR等により水溶性或いは水分散性の速さをコントロールすることで、水中で除放性が要求される薬剤や飼料、菌体等を内部に入れた除放性容器成形物やペットの糞回収袋等に利用することができる。
【0048】尚、上記の洗剤や農薬等の薬剤の包装用途に用いるにあたっては、フィルムまたはシート状に成形した本発明の溶融成形物で該薬剤を密封包装すれば良く、例えば、イ)予め該フィルムを袋状にしておいてから、薬剤を包装する方法、ロ)該フィルムで直接薬剤を包装する方法等任意の方法を採用することができ、これらの方法により一定量薬剤が包装された、いわゆるユニット包装が完成するのである。
【0049】かかるユニット包装に供される薬剤としては、特に制限はなく、水に溶解又は分散させて用いる薬剤で有れば良く、また、アルカリ性、中性、酸性のいずれで有っても良く、具体的には、粉末石鹸、合成洗剤、農薬、殺菌剤、消臭剤、殺虫剤等を挙げることができ、好適には洗剤や農薬が用いられ、また、供される薬剤の形状も顆粒、錠剤、粉体、粉末等いずれの形状でも良く、場合によっては、液状でも差し支えない。
【0050】
【実施例】以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。尚、実施例中、「部」、「%」とあるのは、特にことわりのない限り重量基準を示す。
【0051】実施例1PVA(A)として、オキシエチレン基(n=15)含有量3モル%、ケン化度98.5モル%、メルトフローレート(MFRA)12g/10分のPVA(A1)を用い、エチレン含有量29モル%、ケン化度99.8モル%、メルトフローレート(MFRB)8g/10分のEVOH(B)と(A)/(B)=97/3(重量比)の割合(MFRB/MFRA=8/12=0.67)で二軸押出機に供給して以下の製膜条件で厚さ30μmのフィルムを得た。
【0052】
[二軸押出機による製膜条件]
スクリュー内径 15mm L/D 60 スクリュー回転数 200rpm Tダイ コートハンガータイプ ダイ巾 200mm 押出温度 C1:180℃ D1:220℃ C2:200℃ D2:220℃ C3:210℃ D3:220℃ C4:220℃ D4:220℃ C5:220℃ D5:220℃ C6:220℃ C7:220℃ C8:220℃
【0053】得られたフィルムについて、以下の評価を行った。
(耐水性)30℃、60%RHの雰囲気中で、上記のフィルム(15cm×15cm)をシャーレ(直径10cm、深さ2.5cm)の上に被せて水平に保持し、そのフィルムの中央部に水滴(0.3cc)をのせて、該水滴がシャーレ内に落下するまでの時間を測定して、下記のように評価した。
○・・・1分を越える×・・・1分未満
【0054】(水溶性)2000mlの水が入った2000ml容のビーカー内に治具を用いて上記のフィルム(30mm×33mm)を水平に保持し(水深約5cmの位置)、スターラーで攪拌(100rpm)しながら、該フィルムが完全に溶解(分散)するまでの時間を測定して、下記のように評価した。尚、上記の測定を水温10、20、30℃の各温度で実施した。
○・・・1時間以下×・・・1時間を超える
【0055】実施例2実施例1において、(A)/(B)の割合を95/5(混合重合比)とした以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0056】実施例3実施例1において、(A)としてオキシエチレン基(n=8)含有量2.5重量%、ケン化度99.0モル%、メルトフローレート(MFRA)9g/10分のPVA(A1)を用いた(MFRB/MFRA=8/9=0.89)以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0057】実施例4実施例1において、(B)としてエチレン含有量32モル%、ケン化度99.7モル%、メルトフローレート(MFRB)12g/10分のEVOHを用いた(MFRB/MFRA=12/12=1.0)以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0058】実施例5実施例1において、(A)としてケン化度76モル%、メルトフローレート(MFRA)8g/10分の部分ケン化PVA(A2)を用い(MFRB/MFRA=8/8=1)、溶融成形温度(C1〜C8)を185〜200℃の範囲で行った以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0059】実施例6実施例4において、(A)と(B)の混合重量比を(A)/(B)=90/10(重量比)とした以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0060】比較例1実施例1において、(A)のみを用いた以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0061】比較例2実施例1において、(A)と(B)の混合重量比を(A)/(B)=30/70(重量比)とした以外は同様に行ってフィルムを得て、同様に評価を行った。
【0062】比較例3実施例1において、(B)としてエチレン含有量44モル%、ケン化度99.7モル%、メルトフローレート(MFRB)0.6g/10分のEVOHを用いた(MFRB/MFRA=0.6/12=0.05)以外は同様に行ってフィルム作製を試みたが相溶性が悪いため、フィルム強度が低く製膜ができなかった。実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0063】
〔表1〕
耐水性 水溶性 10℃ 20℃ 30℃ 実施例1 ○ ○ ○ ○ 〃 2 ○ ○ ○ ○ 〃 3 ○ ○ ○ ○ 〃 4 ○ ○ ○ ○ 〃 5 ○ ○ ○ ○ 〃 6 ○ ○ ○ ○ 比較例1 × ○ ○ ○ 〃 2 ○ × × × 〃 3 製 膜 不 可 で 評 価 で き ず
【0064】
【発明の効果】本発明の溶融成形物は、溶融可能なPVAとEVOHを特定の条件で混合しているため、適度の耐水性と十分な水溶性の両方に優れ、かかる溶融成形物、特にフィルム或いはシート状の成形物は、洗剤や農薬等の薬剤の包装用途、おむつや水に廃棄可能なサニタリー用品等に有用で、また、水中で除放性が要求される薬剤や飼料、菌体等を内部に入れた除放性容器成形物等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)を含有してなり、かつ(A)と(B)の混合重量比(A/B)が99.9/0.1〜80/20で、さらに(A)のメルトフローレート(MFRA:210℃、荷重2160gでの測定値)と(B)のメルトフローレート(MFRB:同左)の比(MFRB/MFRA)が0.1以上であることを特徴とする溶融成形物。
【請求項2】 溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(A)がオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A1)または部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(A2)であることを特徴とする請求項1記載の溶融成形物。
【請求項3】 エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)のエチレン含有量が1〜54モル%であることを特徴とする請求項1または2記載の溶融成形物。
【請求項4】 溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)を含有してなるブレンド物を溶融押出によりフィルムまたはシート状に成形してなることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の溶融成形物。
【請求項5】 薬剤の包装用途に用いることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の溶融成形物。

【公開番号】特開2002−105269(P2002−105269A)
【公開日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−304332(P2000−304332)
【出願日】平成12年10月4日(2000.10.4)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】