説明

溶融金属吐出装置

【課題】メンテナンスが容易で、生産効率が良い溶融金属吐出装置を提供する。
【解決手段】溶融金属14を対象物40に吐出する溶融金属吐出装置10であって、溶融金属14を保持するシリンダ23aと、シリンダ23aの一端に設けられ、対象物40に溶融金属14を吐出するノズル25aと、シリンダ23aの中を摺動し、保持される溶融金属14をノズル24aから吐出させるピストン21aと、シリンダ23aとピストン21aとの間に設けられる環状シール22aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融した金属を対象物に吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属吐出装置は、例えば回路基板の生産に用いられる。この場合、溶融金属吐出装置は、基板に溶融した半田を吐出して半田を基板に塗布する。その後、別の装置などを用いて、半導体素子、CSP(Chip Scale Package)のようなLSI(Large Scale Integration)などの電子部品が、半田が塗布された基板の上に載置された後に半田付けされることによって、回路基板は生産される。溶融金属吐出装置は、金属と金属、セラミック基板とベース基板とを接合するためにも利用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、半田貯留部に蓄えられた溶融半田を、オリフィスを介して対象物に落下させる技術が開示されている。特許文献1に記載の技術では、ピエゾ素子または電磁弁を含むアクチュエータを用いて、半田貯留部に圧縮不活性ガス(例えば、窒素ガス)を送り込む。溶融半田は、送り込まれた窒素ガスによってオリフィスから押し出され、対象物に落下する。
【特許文献1】特開2001−77141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、装置のメンテナンスに手間がかかるという問題がある。一般的に半田は酸化し易く、僅かな酸素しか含まないガスであっても、そのガスと接触すると表面に酸化膜ができる。従来の技術で用いられる圧縮不活性ガスに、例え僅かであっても酸素が混入することは避けられない。従来の技術では、そのような圧縮不活性ガスを上述のように電磁弁の制御の下、積極的に半田貯留部に送り込むため、酸化膜が生成され易い。生成された酸化膜は装置内の半田経路に付着して堆積する。そのため、酸化膜は半田経路の目詰まりの原因になる。また、酸化膜がオリフィスから滴下される半田に混入すると、接合不良の原因となる。これらの不具合を防止するため、半田経路に酸化膜が堆積しないように定期的にメンテナンスする必要がある。特に装置が複雑になると、メンテナンスに掛かるコストは大きくなり、ひいては生産効率を低下させる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、メンテナンスが容易で、生産効率が良い溶融金属吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明に係る溶融金属吐出装置は、溶融金属を対象物に吐出する溶融金属吐出装置であって、前記溶融金属を保持する筒状部と、前記筒状部の一端に設けられ、前記対象物に前記溶融金属を吐出するノズルと、前記筒状部の中を摺動し、保持される前記溶融金属を前記ノズルから吐出させる柱状体と、前記筒状部と前記柱状体との間に設けられる環状シールとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、環状シールにより溶融金属と外部のガスとの接触がほとんどなくなるため、溶融金属の酸化をほとんどなくすことができる。また、酸化膜ができたとしても、ごく僅かであり、しかも装置の構造が簡単であるため、酸化膜の清掃や酸化膜が堆積した部品の交換に掛かる手間も軽減される。したがって、メンテナンスが容易になり、それによって生産効率も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
【0009】
図1は、実施の形態1の溶融金属吐出装置の概観を示す図である。溶融金属吐出装置10は、対象物40に溶融金属14を吐出して塗布する装置であり、低酸素濃度のガス(以下、「非酸化性ガス」という。)で内部が充満される雰囲気炉18と、溶融金属14を保持して移動する吐出部20aと、溶融金属14を貯留する貯留槽12とを備える。溶融金属14は接合に用いられる金属が溶融したものであり、例えば溶融半田である。非酸化性ガスは、例えば窒素、アルゴンなどの不活性ガス、水素などの還元性ガス、またはこれらの混合ガスである。対象物40は、図示しない搬送装置によって雰囲気炉18に搬入され、溶融金属14が塗布される物であって、例えばセラミック基板である。対象物40は溶融金属14が凝固することによって例えば電子部品などの他の物(図示せず)と接合する。
【0010】
なお、溶融金属14は、接合用のろう材であって、溶融半田に限られない。溶融金属14の具体例として、Sn、Pb、Zn、Ga、In、Bi、Au、Ag、Cuなどまたはこれらの2種以上を含む合金類、さらにこれらに添加物を加えたものが挙げられる。
【0011】
吐出部20aは、ピストン21aと、環状シール22aと、シリンジ23aと、ノズル24aと、流通孔25aを備える。吐出部20aは、移動機構部34によって支持され、移動を制御する移動制御部(図示せず)による制御の下、上下左右前後の任意の方向に移動可能である。これにより、対象物40の所望の場所に溶融金属を塗布することが可能になる。また、貯留槽12まで移動することが可能になり、後述するように貯留槽12に貯留される溶融金属を吸引することが可能になる。
【0012】
筒状部としてのシリンジ23aは、溶融金属14を保持する。シリンジ23aは、溶融金属14がシリンジ23aの内面に付着しにくく、溶融金属14とほぼ化学反応しない素材からなる。溶融金属14が例えばSnまたはPbを主成分とする溶融半田の場合、シリンジ23aは、ステンレスのように表面が酸素と結合して不動態化する金属、ガラス、セラミクスなどからなることが好ましい。このような素材からなることによって、シリンジ23aの内面に溶融金属14の酸化物が堆積し難くなる。また、筒状部としてのシリンジ23aは、貯留槽12内の溶融金属14の表面ではなく、内部の溶融金属14を吸引するため、溶融金属14の表面に生成される酸化物を吸引しない。そのため、シリンジ23aの内面の清掃の頻度を減少させ、またはその清掃を不要にすることができ、メンテナンスが容易になる。また、溶融金属14が化学反応しないため、不純物の少ない溶融金属14を対象物40に塗布することができ、高品質の接合が可能になる。
【0013】
保持加熱手段としての保持ヒータ30は、シリンジ23aが保持する溶融金属14を溶融した状態で維持するためのヒータであり、シリンジ23aの周囲を覆う例えば電熱線である。保持ヒータ30は、図示しない保持ヒータ制御装置によって、シリンジ23aが保持する溶融金属14を溶融した状態で維持するために適した温度範囲に制御される。これにより、シリンジ23aが保持する溶融金属14は溶融状態で維持されるため、シリンジ23aが保持する溶融金属14を凝固させることなく安定的に吐出することが可能になる。
【0014】
なお、保持加熱手段は、放射、誘導加熱、対流熱伝達などによってシリンジ23aが保持する溶融金属14を加熱する、シリンジ23aとは別に設けられる装置であってもよいが、シリンジ23aが例えばガラスのような熱を伝えにくい素材からなる場合には、効率的に溶融金属14を加熱するために、上述のようにシリンジ23aの周囲を直接的に加熱する方法が好ましい。
【0015】
柱状体としてのピストン21aは、シリンジ23aの中をピストン21aの長手方向(矢印27の方向)に往復して摺動する部材であり、一端に、シリンジ23a内に保持される溶融金属14と当接する当接面を有し、他端に、シリンジ23aの外部に突き出て例えばアクチュエータ32によって把持される操作部を有する。ピストン21aは、シリンジ23aと同様に、溶融金属14が付着しにくく、溶融金属14とほぼ化学反応しない素材からなる。溶融金属14が付着しにくいことによって、シリンジ23aの場合と同様にメンテナンスが容易になる。また、溶融金属14が化学反応しないことによって、シリンジ23aの場合と同様に高品質の接合が可能になる。
【0016】
ピストン21aは、アクチュエータ制御部の制御の下で作動するアクチュエータによって、シリンジ23aに対して長手方向に摺動する。すなわち、ピストン21aは、シリンジ23aに押し込まれる方向と、シリンジ23aから引き出される方向に移動可能である。ピストン21aがシリンジ23aに押し込まれると、シリンジ23a内の溶融金属14が後述するノズル24aから吐出される。また、後述するように、ノズル24aを貯留槽12の溶融金属14に浸けた状態でピストン21aがシリンジ23aから引き出されると、シリンジ23a内に溶融金属14が吸引される。
【0017】
環状シール22aは、シリンジ23aとピストン21aのすき間を埋めるように両者の間に設けられる環状のシールであり、シリンジ23aのピストン21aが挿入される端部の内側に設けられる部材(図1参照)またはコーティング(図示せず)である。環状シール22aは、例えばテフロン(登録商標)のような摺動抵抗が小さく耐熱性の素材からなる。摺動抵抗が小さいことによって、シリンジ23aが滑らかにピストン21a内を摺動することができ、高速かつ高精度な摺動の制御が可能になり、生産効率と製品の品質を向上させることができる。また、耐熱性の素材であることによって、保持ヒータ30、シリンジ23aに保持される溶融金属14などの熱の影響下にある環状シール22aの長寿命化が可能になる。そのため、環状シール22aの交換などメンテナンス周期を減らすことが可能になる。
【0018】
一般にピストン21aの外径は、ピストン21aがシリンジ23aの中を滑らかに摺動するためのすき間ができるように、シリンジ23aの内径より小さく、例えば使用時に0.05〜1.00ミリメートル(0.05〜1.00mm)程度小さい。環状シール22aは、このようなピストン21aとシリンジ23aとのすき間を埋め、これによって溶融金属14が上記のすき間を介してシリンジ23a外部のガスと接触し、酸化することを防ぐ。そのため、環状シール22aを設けることで、シリンジ23aの内面に酸化膜が堆積することはほとんどなくなり、シリンジ23a内部の清掃の頻度が著しく低減し、またはその清掃が不要になる。また、環状シール22aは図示するようにその一部が外部に露出しているので、その交換も容易である。このように、メンテナンスが容易になる。また、シリンジ23aに保持される溶融金属14の酸化を防止できるため、吐出される溶融金属14に酸化物が混入することがなく、対象物40と他の物とを良好に接合させることが可能になる。
【0019】
なお、環状シール22aが摩耗するなどにより、シリンジ23aとピストン21aとの間にすき間が生じ、そのすき間を介して外部のガスと溶融金属14とが接触することも考えられる。仮にこのような場合であっても、ピストン21aが滑らかに摺動できるように、上記のようにピストン21a外径をシリンジ23a内径より0.05〜1.00ミリメートル程度小さくすることが好ましい。両者の径にこの程度の差を設けることによって、シリンジ23aとピストン21aとの間に酸化膜が入り込んだ場合であっても、ピストン21aを摺動させた時に酸化膜は容易に破壊され、ピストン21aの円滑な摺動が可能になる。これに対して、両者の径の差が上記よりも小さいと、シリンジ23aとピストン21aとの間に入り込んだ酸化膜の破壊が困難になり、ピストン21aの摺動抵抗が大きくなる。このような好ましい径の差を容易にかつ高精度で実現するために、シリンジ23aとピストン21aの素材を同じにして膨張率を等しくすることが好ましい。このようなピストン21a外径とシリンジ23a内径によって、酸化被膜が生じた場合であっても摺動抵抗が大きくならず、生産性が低下することを防ぐことができる。
【0020】
ノズル24aは、シリンジ23aの一端に設けられ、その内部に溶融金属14が流通する流通孔25aを備える。ノズル24aは、シリンジ23aと同様に、溶融金属14が付着しにくく、溶融金属14と化学反応しない素材からなる。また、貯留槽12内の溶融金属14の表面ではなく、内部の溶融金属14を吸引できるため、溶融金属14の表面に生成される酸化物を吸引しない。そのため、溶融金属14が付着しにくく、溶融金属14の酸化物の吸引を抑制できることによって、シリンジ23aの場合と同様にメンテナンスが容易になるとともに、シリンジ23aが保持する溶融金属14を残らず使い切ることが可能になる。また、溶融金属14が化学反応しないことによって、シリンジ23aの場合と同様に高品質の接合が可能になる。
【0021】
貯留槽12は、吐出部20aに補充するための溶融金属14を貯留し、吐出部20aのノズル24aが溶融金属14の中に進入できるように開口を有する槽である。貯留槽12は、ノズル24aが移動機構部34によって移動し、貯留された溶融金属の中に進入できる範囲に設けられる。貯留槽12は、図示しない温度制御装置によって所定の温度範囲に溶融金属14を加熱する貯留ヒータ16を備え、これによって溶融金属14を液体状態に保つ。
【0022】
雰囲気炉18は、非酸化性ガスの雰囲気を維持する。雰囲気炉18の内部は非酸化性ガスが充満している。雰囲気炉18の中には、図示するように貯留槽12、対象物40および吐出部20aが配置される。吐出部20aについては、少なくともノズル24aが雰囲気炉18の中に配置されればよい。これにより溶融金属14は、雰囲気炉18の中のみを移動することになる。すなわち、溶融金属14は、雰囲気炉18の中で貯留槽12からシリンジ23aに吸引され、対象物40に吐出される。したがって、上述の環状シール22aとの協働により、溶融金属14が非酸化性ガス以外のガスと接触することがほぼなくなり、酸化物の生成を抑制できる。したがって、酸化物の清掃などのメンテナンスの手間が軽減するとともに、酸化物の混入がない高品質な接合が可能になる。
【0023】
以上、本実施の形態の溶融金属吐出装置10の構成について説明した。これまで説明したように、吐出部20aの構造は簡単である。そのため、吐出部20aのメンテナンスが容易になる。また、小型化も可能になる。また、貯留槽12が吐出部20aとは別設されるため、吐出部20aが大量の溶融金属14を保持する必要がなくなる。この構成も吐出部20aの小型化に寄与する。吐出部20aが小型化すると、吐出部20aの高速移動が可能になり、それによって生産効率が向上する。
【0024】
次に、溶融金属吐出装置10の動作について説明する。前提として、雰囲気炉18の内部が非酸化性ガスで充填される。
【0025】
吐出部20aは、移動機構制御部に制御される移動機構部34によって、ノズル24a先端の近傍が溶融金属14に浸かるように、貯留槽12の開口から貯留槽12の中に移動する。アクチュエータ27は、アクチュエータ制御部の制御の下、予め決められた長さのピストン21aを予め決められた速度でシリンジ23aから引き出す。これにより、シリンジ23a内に溶融金属12が吸引される。吐出部20aは、移動機構制御部に制御される移動機構部34によって移動し、溶融金属14を塗布すべき対象物40上の位置(塗布位置)に応じて決定される吐出位置にノズル24aが配置される。アクチュエータ32は、アクチュエータ制御部の制御の下、予め決められた長さのピストン21aを予め決められた速度でシリンジ23aに押し込む。これにより、シリンジ23a内に所定量の溶融金属12が吐出され、対象物40の塗布位置に塗布される。このように、溶融金属14は非酸化性ガス雰囲気の下、任意の位置に任意の量が塗布されるため、動作の途中で酸素と接触することがほとんどなく、酸化物の混入がない高品質な接合が可能になる。
【0026】
また、対象物40上の複数箇所に塗布する場合は、予め全ての箇所に塗布するために必要な溶融金属14を吸引しておく。その後、吐出位置に吐出部20aを移動させ、その塗布位置で吐出すべき溶融金属14の量に応じた長さのピストン21aを押し込んで吐出し、この移動と吐出をすべての塗布位置に対して繰り返す。この一連の動作は、移動機構制御部およびアクチュエータ制御部によって自動的に行われる。小型の吐出部20aが高速で移動して複数箇所を自動的に塗布することによって、複雑な塗布作業を素早く実行でき、生産効率が向上する。また、複数箇所に同時に塗布できるように、溶融金属吐出装置が複数の吐出部を備えてもよい。これによっても生産効率が向上する。
【0027】
実施の形態2.
【0028】
実施の形態1では、環状シール22aがシリンジ23aの端部内側に設けられるとしたが、環状シールの取り付け態様はこれに限られない。環状シールは、ピストン摺動範囲52のシリンジの部分、または、図2に示すようにピストン21aの中でピストン摺動範囲50のみを移動する部分に取り付けられればよい。ピストン摺動範囲50とは、図2に示すように、シリンジ23bが保持できる最大量として予め決められた量の溶融金属14をシリンジ23bが保持する場合に溶融金属14が占める範囲(溶融金属保持範囲)52を除いたシリンジの範囲である。すなわち、ピストン摺動範囲50は、溶融金属保持範囲52の上端から、ピストン21aが挿入される側のシリンジ23bの端部までをいう。
【0029】
このように、ピストン摺動範囲52のシリンジの部分またはピストン摺動範囲52のみを移動するピストンの部分に環状シールを設けることによって、シリンジとピストンの間はピストンが摺動しても常に環状シールでシールされ、シリンジに保持される溶融金属が外部のガスと接触することがない。そのため、シリンジの内面に酸化膜が堆積することはほとんどなくなり、シリンジ内部の清掃が不要になり、またはその清掃の頻度が著しく低減して、メンテナンスが容易になる。また、シリンジに保持される溶融金属の酸化を防止できるため、対象物40と他の物とを良好に接合させることが可能になる。
【0030】
また、環状シールが上記の範囲で設けられると、環状シールが溶融金属と接触しない。そのため、環状シールが溶融金属と接触して劣化することがなく、環状シールを長寿命にすることができる。したがって、メンテナンスを軽減することが可能になる。
【0031】
さらに、環状シール22bをピストン21bに設けることによって、シリンジ23bを実施の形態1のシリンジ23aより小さくできる。そのため、吐出部20b全体を実施の形態1の吐出部20aより小さくすることができ、吐出部20bをより高速で移動させることが可能になり、生産性を向上させることができる。
【0032】
実施の形態3.
【0033】
実施の形態1のノズル24aの流通孔25aは、図3に示すように、ノズル基端26aからノズル末端27aにかけて同一半径の孔であったが、流通孔の形状はこれに限られない。例えば図4に示すように、ノズル24bの流通孔25bは、ノズル基端26bからノズル末端27bにかけて半径が次第に小さくなる先細り状であってもよい。
【0034】
溶融金属14が対象物40に吐出された場合、最初は吐出された溶融金属14とシリンダ内の溶融金属とは繋がった状態である。続けて、移動機構部34によってノズル24a,24bを上昇させることで吐出された溶融金属が、シリンダ内の溶融金属14から切断される。そのため、対象物40に塗布される溶融金属の量は、吐出された溶融金属とシリンダ内の溶融金属14が切れる位置によって増減する。ノズル24bの流通孔25bを先細りにすることによって、ノズル24bの先端で安定して溶融金属が切れるようになり、対象物40に塗布される溶融金属の量が安定し、塗布量の精度が向上する。また、ノズル24bの先端を実施の形態1のノズル24aの先端よりも、狭い範囲に正確に位置付けることができるため、塗布位置の精度も向上する。このように、ノズル24bの流通孔25bを先細りにすることにより、塗布量および塗布位置の両方で塗布精度を向上させることが可能になる。
【0035】
実施の形態4.
【0036】
実施の形態4のピストン21bは、図5に示すようにノズル24a側にピン28を備える。ピン28は流通孔25aに嵌る形状であり、シリンジ23aに保持される溶融金属をすべて吐出した場合、すなわち図5ではピストン21bの下面がシリンジ23と当接して可動範囲の最も下に位置する場合に、ピン28は流通孔25aの少なくとも一部を埋める。ピン28の長さは任意の長さでよいが、好ましくは流通孔25aの長さと同じかそれより長い。ピン28の長手方向に垂直な断面の半径は、流通孔25aの長手方向に垂直な断面の半径より少し小さく、例えば0.05〜1.00ミリメートル(0.05〜1.00mm)程度小さい。これによって、ノズル24aの内壁に生じる酸化膜をかき出すことができるため、例えば、溶融金属14の吐出量を微少化・吐出精度向上を目的に流通孔25aの内径をより小さくしたり、雰囲気炉18に充填される比較的高価な非酸化性ガスの濃度を薄くし、酸素濃度を若干濃くしたとしても、流通孔25aが詰まることを防止できる。したがって、ノズル24aの内壁で酸化膜が発生しても、流通孔25aを介して安定的に溶融金属14を吸引および吐出することができる。
【0037】
以上、本発明に係る各実施の形態について説明した。各実施の形態では、溶融金属14を吐出部20a,20b,20cのノズル24a,24bから吐出して対象物に塗布する場合を例に説明したが、塗布に限定されるものではなく、例えば、目的物に滴下したり、付着させたりすることも可能である。また、例示した液体金属14の種類、溶融金属吐出装置の構成、溶融金属吐出装置を構成する各部の形状や素材は何れもこの発明を実施するための一例に過ぎず、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変形や変更がなされても良い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、溶融した金属を対象物に吐出して塗布、滴下、または付着させる装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施の形態1の溶融金属吐出装置の概観を示す図である。
【図2】実施の形態2の吐出部の一例を示す断面図である。
【図3】実施の形態1のノズルの拡大図である。
【図4】実施の形態3のノズルの拡大図である。
【図5】実施の形態4の吐出部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 溶融金属吐出装置、12 貯留槽、14 溶融金属、16 貯留ヒータ、18 雰囲気炉、20a 吐出部、21a,21b ピストン、22a,22b 環状シール、23a,23b シリンジ、24a,24b ノズル、25a,25b 流通孔、26a,26b ノズル基端、27a,27b ノズル末端、30 保持ヒータ、32 アクチュエータ、34 移動機構部、40 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を対象物に吐出する溶融金属吐出装置であって、
前記溶融金属を保持する筒状部と、
前記筒状部の一端に設けられ、前記対象物に前記溶融金属を吐出するノズルと、
前記筒状部の中を摺動し、保持される前記溶融金属を前記ノズルから吐出させる柱状体と、
前記筒状部と前記柱状体との間に設けられる環状シールとを備えることを特徴とする溶融金属吐出装置。
【請求項2】
前記環状シールは、前記筒状部が保持され予め決められた最大量の前記溶融金属を前記筒状部が保持した場合に当該溶融金属が前記筒状部において占める範囲の上端から、前記柱状体を挿入する側の前記筒状部の端部までに設けられることを特徴とする請求項1の溶融金属吐出装置。
【請求項3】
前記ノズルは、前記溶融金属が流通する流通孔を備え、
前記柱状体は、前記ノズル側に、前記筒状部に保持される前記溶融金属をすべて吐出した場合に前記流通孔に嵌るピンを備えることを特徴とする請求項1または2の溶融金属吐出装置。
【請求項4】
前記ノズルは、吐出される前記溶融金属が流通する先細りの流通孔を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項の溶融金属吐出装置。
【請求項5】
前記環状シールは、耐熱性の素材からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項の溶融金属吐出装置。
【請求項6】
前記筒状部が保持する前記溶融金属を溶融した状態で維持するための保持加熱手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項の溶融金属吐出装置。
【請求項7】
前記筒状部と、前記ノズルと、前記柱状体と、前記環状シールとを含む吐出部を支持して移動させる移動機構部と、
前記移動機構部による前記吐出部の移動を制御する移動制御部とを備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項の溶融金属吐出装置。
【請求項8】
前記筒状部に供給される溶融金属を溶融した状態で貯留し、前記ノズルが前記移動機構部によって移動し、貯留された前記溶融金属の中に進入できる範囲に設けられる貯留槽を備え、
前記ノズルは、前記貯留槽から前記溶融金属を吸引し、
前記柱状体は、前記筒状部の中を摺動することにより、前記貯留槽に貯留される前記溶融金属を前記ノズルから吸引して、前記筒状部に保持させる請求項1から7のいずれか1項の溶融金属吐出装置。
【請求項9】
前記ノズルと、前記貯留槽と、前記対象物との周囲を非酸化性ガス雰囲気で維持する雰囲気炉を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項の溶融金属吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−178639(P2009−178639A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18605(P2008−18605)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】