説明

滑り軸受およびその製造方法

【課題】初期なじみ性を向上させた滑り軸受、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】以下に示す工程(a)〜(c)を経て滑り軸受を製造する。まず、圧縮成形工程(a)にて、原料となる金属粉末を成形金型内部に充填し、これを圧縮成形することで円筒状をなす軸受本体に近い形状の圧縮成形体を得る。次に、サイジング工程(b)にて、圧縮成形工程(a)で得られた圧縮成形体に対して、焼結処理を施すことなく、適当な金型を用いて圧迫力を付与することで、圧縮成形体を所定形状に整形すると共に、その寸法を所定の精度に仕上げる。そして、含油工程(c)にて、圧縮成形工程(a)およびサイジング工程(b)を経た圧縮成形体に潤滑油を含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り軸受には、軸受本体をソリッドメタルで形成したものや樹脂で形成したものの他、軸受本体を焼結金属の多孔質体で形成し、内部気孔に潤滑油を含浸させた、いわゆる焼結含油軸受が知られている。
【0003】
焼結含油軸受は、支持すべき軸との相対回転に伴い、内部に含浸した潤滑油の滲み出しにより軸との摺動部に油膜を形成し、この油膜によって軸を支持するものである。この種の滑り軸受は回転精度に優れ、また無給油で長期間使用可能であること等から、各種駆動機構、あるいは動力伝達機構の軸受部品として広範に使用されている。
【0004】
ところで、上記焼結含油軸受においては、摩擦の低減や静粛性の向上を目的として、軸との初期なじみ性を改善するための提案がなされている。
【0005】
例えば特開2006−125516号公報(特許文献1)では、軸受面の一端あるいは両端に、その内径が徐々に増大する領域(クラウニング部)を設けた焼結含油軸受が提案されている。
【0006】
また、特開平7−48588号公報(特許文献2)では、クロロフルオロエチレンのオリゴマーを含有するシリコーン系合成油を含浸したことを特徴とする低摩擦係数焼結含油軸受が提案されている。
【0007】
また、特開2001−3123号公報(特許文献3)では、通常の青銅系含油軸受の錫含有量8〜11%に比べて錫の含有量が1〜6%と低く軟質の青銅を主体とし、この青銅,またはこれにその半量以下の銅が混在する基地中に、鉄粒子と黒鉛粒子とが拡散せずに斑に分散している焼結合金からなる焼結含油軸受が提案されている。
【特許文献1】特開平8−270673号公報
【特許文献2】特開2004−292854号公報
【特許文献3】特開2002−372069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、初期なじみ性は摺動初期における油膜形成までの接触状態に大きく影響を受けることから、基材となる金属材料との摩擦抵抗を低減させることが重要となる。この点から見ると、上記何れの焼結含油軸受についてもその初期なじみ性が十分に改善されるとは言い難い。特に、断続的に繰り返し運転がなされる軸支持用途にこの種の軸受を用いる場合、今まで以上の優れた初期なじみ性が必要となるため、抜本的な初期なじみ性の改善策が要求される。
【0009】
以上の事情に鑑み、本発明では、初期なじみ性を向上させた滑り軸受、およびその製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、軸受本体と、軸受本体の表面で構成される軸受面とを備えた滑り軸受において、軸受本体は金属粉末の圧縮成形で形成され、かつ、焼結作用によらず圧縮成形で金属粉末間の固結力が付与されていることを特徴とする滑り軸受を提供する。
【0011】
このように、本発明では、焼結作用によらず圧縮成形で金属粉末間の固結力を軸受本体に付与していることから、この軸受本体の表面で構成される軸受面の硬度は焼結前の金属粉末が持つ硬度あるいはそれに近い値に維持される。これにより軸受面を必要以上に硬化させずに済むので、摩擦抵抗を小さく(回転トルクを小さく)することができ、軸受面のなじみ性を高めることができる。特に、油膜が未だ形成されておらず金属接触が生じ易い回転初期のなじみ性向上に有効となる。
【0012】
また、上記滑り軸受として、内部に潤滑剤を含有しているものが好ましい。これにより定常回転時においては軸受面上に油膜が形成されるので、この油膜により軸受面を保護して軸受面の摩耗を低減することができる。
【0013】
滑り軸受に使用できる金属粉末としては、圧縮成形により金属粉末同士が相互に密着して当該粉末間の固結力を付与できる限りにおいて任意であるが、なるべく球状以外の外観形状を有する金属粉末が好ましい。すなわち、金属粉末としては、海綿状、針状、角状、樹枝状、繊維状、片状、不規則状、涙滴状などの非球形状が存在するが、相互の絡み合いや密着面積を考慮すれば、なるべく表面積が大きくかつ突起の多い外観形状をなすものが好ましい。この具体例として電解銅粉を挙げることができる。通常、電解により得られた銅粉は樹枝状となることから、金属粉末の一部又は全体を電解銅粉とすることで、圧縮成形体としての軸受本体の強度を高めることができる。
【0014】
また、別の側面から本発明に係る滑り軸受の強度を考えた場合、個々の金属粉末が塑性変形を生じる程度に圧縮成形がなされていることが好ましい。個々の金属粉末が塑性変形を生じる程度に圧縮成形がなされることで粉末相互間の密着性が一層高められるので、焼結作用を伴っていなくとも、実施に耐え得る大きさの固結力(強度)を確保することができる。
【0015】
また、前記課題を解決するため、本発明は、金属粉末を所定形状に圧縮成形する工程を少なくとも経て製造される滑り軸受の製造方法において、圧縮成形工程で得られた成形体に対して焼結することなく潤滑剤を含浸させる工程をさらに有することを特徴とする滑り軸受の製造方法を提供する。
【0016】
このように、本発明では、金属粉末の圧縮成形体に対して焼結を行うことなく潤滑剤を含浸させるようにしたので、滑り軸受の軸受面の硬度が圧縮成形前の金属粉末の硬度に近い状態で維持される。また、潤滑剤を含浸することで、定常回転時には軸受面上に油膜を形成して軸受面の摩耗を低減することができる。よって、初期なじみ性に優れ、かつ、耐摩耗性にも優れた滑り軸受を得ることができる。
【0017】
また、前記課題を解決するため、本発明は、金属粉末を所定形状に圧縮成形する工程を少なくとも経て製造される滑り軸受の製造方法において、圧縮成形工程で得られた成形体に対して焼結することなくサイジングを施す工程をさらに有することを特徴とする滑り軸受の製造方法を提供する。
【0018】
このように、本発明では、金属粉末の圧縮成形体に対して焼結を行うことなくサイジングを行うようにしたので、上記同様、滑り軸受の軸受面の硬度が圧縮成形前の金属粉末の硬度に近い状態で維持される。また、サイジングを行うことで、軸受面が適度に押圧されて高精度に仕上げられるため、回転精度をはじめとする軸受性能を向上させることができる。よって、初期なじみ性に優れ、かつ、回転精度にも優れた滑り軸受を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係る上記何れの製造方法においても焼結工程が不要となるため、従来と比べて工程数の低減に伴い生産効率の向上、ひいては製造コストの低減化を図ることができる。特に、焼結工程は加熱・冷却に相当の時間を要し、かつバッチ処理であることから、この工程を省くことで製造ラインの自動化および迅速化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上より、本発明によれば、初期なじみ性を向上させた滑り軸受、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る滑り軸受の製造方法の一例を示す工程の流れ図である。この製造方法は、内周に挿入した軸を回転自在に支持する滑り軸受を製造するためのものであり、原料となる金属粉末を圧縮成形する工程(a)、圧縮成形体に対してサイジングを施す工程(b)、サイジングを施した圧縮成形体に潤滑油を含浸させる工程(c)とを含む。以下、各工程を時系列順に説明する。
【0023】
(a)圧縮成形工程
まず、原料となる金属粉末を成形金型内部に充填し、これを圧縮成形することで完成品(ここでは円筒状をなす軸受本体)に近い形状の圧縮成形体を得る。この際の圧粉成形密度は例えば6.3g/m3(含油後で6.5g/cm3)となるようにその加圧力ないし圧縮量が設定される。なお、原料には、例えばCuあるいはCu系合金の金属粉末を主成分とするものが用いられる。ここでは、樹枝状の外観形状をなし、相互に密着性が良好な電解銅粉が好適に用いられる。
【0024】
(b)サイジング工程
上記工程(a)で得られた圧縮成形体に対して、焼結処理を施すことなく、適当な金型を用いて圧迫力を付与することで、圧縮成形体を所定形状に整形すると共に、その寸法を所定の精度に仕上げる。これにより、軸受本体が完成すると共に、軸受面となる圧縮成形体(軸受本体)の内周面が平滑化される。なお、この際、サイジングに要する加圧力は、未焼結のためそれほど必要とされない。
【0025】
(c)含油工程
上記(a)および(b)の工程を経た圧縮成形体に潤滑油を含浸させる。具体的には、所定の減圧環境下で、潤滑油で満たした潤滑油浴中に圧縮成形体を一定時間浸漬させることで、内部空間に潤滑油を含浸させる。なお、この際、潤滑油の含浸を確実かつ短時間で行うため、潤滑油を加熱した状態で含浸作業を行うこともできる。
【0026】
以上の工程(a)〜(c)を経て滑り軸受が完成する。最終製品としてのこの滑り軸受は、軸受本体を金属粉末の圧縮成形で形成したもので、その表面で軸受面が構成されている。また、軸受本体をなす金属粉末間の固結力は、焼結を行っていないことから、圧縮成形によってのみ付与されている。これにより、軸受本体の表面で構成される軸受面の硬度は焼結前の金属粉末の硬度に近い値に維持され、軸受面を必要以上に硬化させずに済む。従って、軸受面のなじみ性が向上する。特に、油膜が未だ形成されておらず金属接触が生じ易い回転初期のなじみ性が向上する。
【0027】
また、この実施形態では、含油工程(c)により、滑り軸受の内部に潤滑油を含浸させるようにしたので、定常回転時においては軸受面上に油膜が形成される。従い、焼結による軸受面の硬化が生じなくても、この油膜により軸受面の摩耗を低減することができる。
【0028】
また、上述の製造方法であれば焼結工程が不要となるため、従来と比べて工程数の低減に伴い生産効率の向上、ひいては製造コストの低減化を図ることができる。特に、焼結工程は加熱・冷却に相当の時間を要し、かつバッチ処理であることから、この工程を省くことで、製造ラインの自動化および迅速化が可能となる。また、焼結処理を実施しないので、例えば熱処理により軸受表面に生じるスケール等を除去するための工程も省略することができ、更なる工程数の削減が可能となる。
【0029】
また、この滑り軸受であれば、焼結していないのでリサイクルのための破壊に要するエネルギーが小さくて済む。さらには、バインダー(樹脂)などの生分解が困難な材料を含まないため、環境負荷も小さくて済む。従い、この滑り軸受を、リサイクル性に優れた製品として供給することができる。言い換えると、実施に耐えることができ、かつ、リサイクルに際して容易に破壊できる程度の強度を有すると共に、金属粉末など環境負荷の小さい材料のみで形成した滑り軸受であるため、リサイクル性に富んだ製品として好適に提供することができる。
【0030】
なお、図1に示す製造方法の流れはあくまでも一例に過ぎない。例えばサイジング工程(b)や含油工程(c)は必須ではなく、滑り軸受として使用可能な限りにおいてこれらの工程を任意に組み合わせることも可能である。また、上記工程以外の工程、例えば洗浄工程などを追加して設けることも可能である。
【0031】
以上の説明に係る滑り軸受は、比較的低荷重で、かつ、断続的に繰り返し運転が行われる用途に好適に用いられる。その用途例として、パワーウィンドウモータ用の軸受を挙げることができる。この際、滑り軸受としては、例えば軸受保持用のハウジングに圧入固定できる程度の強度を有していればよい。
【0032】
あるいは、滑り軸受の外側を適当な補強部材で補強することにより、優れた初期なじみ性を必要とする他の用途にも適用することもできる。例えば樹脂で滑り軸受の外周をコーティングする等して滑り軸受の補強を図ることも可能である。
【0033】
また、圧縮成形による金属粉末相互間の密着力(固結力)が確保できるのであれば、上記例示の粉末に限ることなく、他の金属粉末、例えばFeあるいはFe系合金の金属粉末などを原料に用いることもできる。これら複数種の金属粉末を混合したものを原料として用いることもできる。あるいは、潤滑油を使用しない場合であれば、圧縮成形体の強度が確保できる限りにおいて、黒鉛や二硫化モリブデン等の粉末状固体潤滑剤のうち一種以上を金属粉末に添加したものを原料に用いても構わない。
【0034】
また、以上の説明では、潤滑剤として潤滑油を使用した場合を説明したが、これは例示に過ぎない。滑り軸受の内部空間に保持され、かつ相対摺動時、軸受面上に滲み出るものである限りにおいて、グリースをはじめとする各種潤滑剤が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る滑り軸受の製造方法の流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受本体と、該軸受本体の表面で構成される軸受面とを備えた滑り軸受において、
前記軸受本体は金属粉末の圧縮成形で形成され、かつ、焼結作用によらず圧縮成形で前記金属粉末間の固結力が付与されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
内部に潤滑剤を含有している請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記金属粉末の一部又は全体が電解銅粉である請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記金属粉末が塑性変形を生じる程度に圧縮成形がなされたものである請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項5】
金属粉末を所定形状に圧縮成形する工程を少なくとも経て製造される滑り軸受の製造方法において、
前記圧縮成形工程で得られた圧縮成形体に対して焼結することなく潤滑剤を含浸させる工程をさらに有することを特徴とする滑り軸受の製造方法。
【請求項6】
金属粉末を所定形状に圧縮成形する工程を少なくとも経て製造される滑り軸受の製造方法において、
前記圧縮成形工程で得られた圧縮成形体に対して焼結することなくサイジングを施す工程をさらに有することを特徴とする滑り軸受の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−85234(P2009−85234A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251669(P2007−251669)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】