説明

滑動要素およびその製造方法

【課題】改善された使用性能を有する滑り軸受層を提供する。
【解決手段】滑り層は合金成分スズ、アンチモンおよび銅を含む合金から形成され、前記成分の割合が、アンチモン:5〜20重量%、銅:0.5〜20重量%、残部:スズであり、ここで、鉛の含有量が<0.7重量%、他の成分の総含有量が<0.5重量%であり、滑り軸受層においてスズ結晶が主に球状であることを特徴とする。この滑動要素は、湿潤剤として好ましくは10〜30のエトキシ化度を有するC1315−オキソアルコール、C1618−脂肪族アルコールまたはC13−オキソアルコールを含み、大きな分子の助剤の添加により析出組成および析出速度が調節される電解液を用いた電着よる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、形状付けされた支持層(formgebenden Traegerschicht)とその上に電着された滑り層とを有する滑動要素であって、前記滑り層が、合金成分スズ、アンチモンおよび銅を含む合金から形成されており、前記成分の割合が
アンチモン5〜20:重量%、
銅:0.5〜20重量%、
スズ:残部
であり、ここで、鉛の含有量が<0.7重量%、他の成分の総含有量が<0.5重量%であることを特徴とする滑動要素に関する。
【0002】
本発明はさらに、形状付けされた支持層上への、合金成分スズ、アンチモンおよび銅を含む合金からなる滑り層の電解析出による滑動要素の製造方法に関する。
【0003】
冒頭に挙げたような滑り軸受層は、例えばDE82 06 353 U1により既知である。ここでは、滑り軸受層は、スチール製支持皿(Stahlstuetzschale)上にある支持層上に電着される。この場合、滑り軸受層は約20μmの厚さを有する。さらに、文献によれば、0.5重量%より高い銅含有量は、滑り軸受層の耐久性に悪影響を有するため、滑り軸受層の銅含有量を0.5重量%未満とすることが求められる。
【0004】
実際、既知の滑り軸受層は、30個のエトキシ(EO)単位を有するノニルフェノールエトキシラートであって、Rhodia Novecare社から登録商標Igepal CO 880として販売されている湿潤剤を用いて電解により製造される。電解による層形成は円柱状の結晶化を伴って行われ、実質的に20μmを上回る実用的な層は得られない。磨耗は避けられないため、滑り軸受層の耐用期間は必然的に限られる。
【0005】
本発明は、改善された使用性能を有する滑り軸受層を提供するという課題に基づくものである。
【0006】
この課題は、本発明によれば、冒頭に挙げたようなタイプの滑り軸受によって解決され、ここで、滑り軸受層においてスズ結晶は主に球状に形成されている。
【0007】
上記した問題を解決するため、本発明によればさらに、水溶液中のフルオロホウ酸およびフルオロホウ酸金属塩に基づく電解液であって、以下の内容成分:
15〜80g/lのSn2+
0.5〜20g/lのSb3+
0.05〜10g/lのCu2+
20〜200g/lのHBF4
0.05〜5g/lの湿潤剤
を含み、また、製造される滑動要素の層中に入り込まない可能的助剤を含み、ここで、少なくとも一種の助剤によりその分子サイズに基づいて、滑り層形成要素のイオンの移動速度が、主として球状であるスズ結晶が生じるように制御されている電解液の使用を特徴とする、先に挙げた方法を提供する。
【0008】
スズ結晶の大部分(>50%)が球状構造体(従来のような針状または円柱状の構造体でない)を有するような滑り層の製造によって、滑り層の極めて均一な構造が得られるということが見出された。大きな分子の助剤、例えばゼラチンおよび/またはレゾルシンの添加により沈着速度を制御することによってスズ結晶の球状構造体を得ることが可能となり、このことによって、滑りs層の組成ならびに形成される構造体を所望通りに調節する。従って、10〜30のエトキシ化度を有する、C1315−オキソアルコール、C1618−脂肪族アルコールまたはC18−オキソアルコールにより構成される湿潤剤の使用が適している。好ましい湿潤剤は、20のエトキシ化度を有するオキソアルコールである。
【0009】
本発明により形成された構造体は、均一であって実質的に球状のアンチモンリッチな析出物が一様分布で生じる極めて均一の構造を有する。従って、非常により安定な滑り層が得られ、この滑り層は、20μm、特に50μmを超える厚さで、安定、均質であり、および層間剥離のない状態で使用することができる。従って、例えば500μmの厚さを有する滑り層を問題なく形成することができる。
【0010】
構造体および結晶化に関連して「球状」とは、粒径の最大寸法の最小寸法に対する比が<3、好ましくは<2である粒子を意味する。
【0011】
適切な湿潤剤は、特にBASF社から商標名Lutensoとして発売されている。
【0012】
以下の湿潤剤(EO=エトキシ化度)が特に好ましい。
【0013】
Lutensol AO 11 11のEOを有するC1315−オキソアルコール
Lutensol AO 30 30のEOを有するC1315−オキソアルコール
Lutensol AT 13 13のEOを有するC1618−脂肪族アルコール
Lutensol AT 25 25のEOを有するC1618−脂肪族アルコール
Lutensol TO 12 12のEOを有するC13−オキソアルコール
Lutensol TO 20 20のEOを有するC13−オキソアルコール
Lutensol ON 110 20のEOを有するC13−オキソアルコール
本発明による滑り軸受層の製造および樹枝状結晶の成長の防止には、湿潤剤Lutensol ON 110 および TO 20が特に適していることが判明した。Lutensol ON 110、すなわち20のEOを有するC13−オキソアルコールが特に好ましい。
【0014】
本発明による滑動要素の好ましい態様において、滑り層における銅の割合は3〜6%である。実用新案登録(Gebrauchsmuster)82 06 353 U1の教示とは逆に、高い銅の割合は、滑り層の耐荷重力および疲労強度の向上をもたらす。従って本発明によれば、<0.5重量%である有利な銅含有量を上回るだけでなく、前記引例の明細書で一般的に考慮されている最大で2%の銅含有量をも超える銅の割合を提供することができる。
【0015】
滑り層のアンチモンの割合は、8〜17重量%であることが好ましい。
【0016】
銅の割合は、2〜7重量%であることが好ましい。
【0017】
滑り層における球状のスズ結晶の割合は、好ましくは70%を超え、より好ましくは80%を超える。
【0018】
本発明の滑動要素は、通常のシリンダ状滑り軸受スリーブ、このような滑り軸受スリーブの一部分、または本質的にフラットな要素であってもよい。形状付けされた支持要素は金属からなるが、従来のように必要な潤滑性を有する被メッキ支承金属を含むスチールからなっていてもよい。この支持要素上に本発明の滑り層を析出させる。層の厚さが大きい本発明の滑り層は高い安定性をもって析出可能であるので、支承金属層を省くこともでき、滑り層を金属の形状付与支持要素に直接析出させることもできる。
【0019】
本発明を詳述するために、実施例として以下の実験結果を説明する。
【0020】
以下の組成:
33〜35g/lのSn2+
2.4〜3.0g/lのSb3+
0.23〜0.26g/lのCu2+
35〜45g/lのHBF4
3〜4g/lのレゾルシン
0.25g/lのゼラチン
を含む基礎電解液(湿潤剤を含まず)を調製した。
【0021】
レゾルシンおよびゼラチンは、生じる層の組成および析出速度に影響を与える助剤である。レゾルシンは実質的には組成に影響を与える一方、より大きな分子であるゼラチンは結晶構造、表面粗さ(Rauigkeit)、および層の組成に影響を与える。この目的のため、ゼラチン濃度は0.1〜0.5g/lで適宜調節することができる。
【0022】
電着を、22〜24℃の浴温において、スズ電極の使用下で、2A/dm2の定電流を用いて実施した。
【0023】
スチール基材は、ニッケル層で(電気分解により)プレコートした。
【0024】
SnSbCu析出は、回転棒電極上でもストリップ上でも行った。回転棒電極上での析出は、実験結果に悪影響を及ぼす、制御できない樹枝状結晶の成長を回避した。
【0025】
従来一般に利用されている対照の標準湿潤剤と比較して、調査した湿潤剤のすべてが、析出に際して異なる構造体をもたらす。特に、樹枝状結晶の成長が著しく減少する。
【0026】
この点で、湿潤剤Lutensol ON 110 およびLutensol TO 20の使用が特に有利である。
【0027】
上述した湿潤剤、特に上記の好ましく用いられる湿潤剤を用いると、その結晶構造の点で従来の滑り層と区別され、かなりの取扱い上の利点を提供する滑り層が得られる。特に、ほぼ所望される厚さを有する層を形成することができ、その結果、滑動要素の層厚および形成に関して従来存在しない自由度が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状付けされた支持層(formgebenden Traegerschicht)とその上に電着された滑り層とを有する滑動要素であって、前記滑り層は、合金成分スズ、アンチモンおよび銅を含む合金から形成されており、前記成分の割合が
アンチモン:5〜20重量%、
銅:0.5〜20重量%、
残部:スズ
であり、ここで、鉛の含有量が<0.7重量%、他の成分の総含有量が<0.5重量%であり、滑り軸受層(Gleitlagerschicht)においてスズ結晶が主に球状に形成されていることを特徴とする滑動要素。
【請求項2】
滑り軸受層が厚さ>20μmをもって堆積されていることを特徴とする請求項1に記載の滑動要素。
【請求項3】
前記滑り軸受層における銅の割合が3%〜6%であることを特徴とする請求項1または2に記載の滑動要素。
【請求項4】
前記滑り軸受層におけるアンチモンの割合が8〜17%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の滑動要素。
【請求項5】
銅の割合が0.5〜7%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の滑動要素。
【請求項6】
形状付けされた支持層上に、合金成分スズ、アンチモンおよび銅を含む合金からなる滑り層を電着することにより滑動要素を製造する方法であって、水溶液中のフルオロホウ酸およびフルオロホウ酸金属塩に基づく電解液であって、以下の内容成分:
15〜80g/lのSn2+
0.5〜20g/lのSb3+
0.05〜10g/lのCu2+
20〜200g/lのHBF4
0.05〜5g/lの湿潤剤
を含み、また、製造される滑り軸受層の中に入り込まない可能的助剤を含み、少なくとも一種の助剤によりその分子サイズに基づいて、滑り層形成要素のイオン移動速度が主として球状であるスズ結晶が生じるように制御されている電解液の使用を特徴とする方法。
【請求項7】
前記湿潤剤が、10〜30のエトキシ化度を有するC1315−オキソアルコール、C1618−脂肪族アルコールまたはC18−オキソアルコールであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記湿潤剤として、20のエトキシ化度を有するオキソアルコールを使用することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記湿潤剤を、0.1〜3.0g/lの濃度で使用することを特徴とする請求項6または8に記載の製造方法。
【請求項10】
電着速度を0.3〜1.5μm/分に調節することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−109007(P2009−109007A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236679(P2008−236679)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(508278664)ツォレーン・ベーハーベー・グライトラーガー・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カーゲー (1)
【Fターム(参考)】