説明

潜熱回収型熱交換器用部材、潜熱回収型熱交換器および熱交換装置

【課題】 耐熱性、密着性及び耐食性のみならず耐久性(長期防食効果)に優れた皮膜が、均一且つ良好に形成された銅系またはアルミニウム系の良熱伝導性材料を潜熱回収型熱交換器として利用できる技術を提供する。
【解決手段】 フッ素置換基を含有するメチレン鎖を主鎖中に有する高分子を含む皮膜が外表面に形成されてなる銅系またはアルミニウム系の潜熱回収型熱交換器用部材であって、上記高分子は、主鎖中に原子比で、炭素100に対しフッ素を5〜50有し、且つ主鎖中に芳香族基を実質的に含有しないものであり、更に上記高分子は、下記式で示す加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有することを特徴とする潜熱回収型熱交換器用部材である。
【化1】


[上記式中、R、Rは同一または異なるアルキル基、アルコキシル基または水酸基を、Rは、水素またはアルキル基を、nは自然数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯器などの燃焼ガスに用いる熱交換装置に好適な潜熱回収型熱交換器に適用される皮膜成分、殊に耐熱性、耐食性、耐久性及び密着性等に優れた高分子皮膜を備えた熱交換器用部材、並びに該部材を有する熱交換器及び熱交換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
給湯器などの燃焼ガスを用いる熱交換装置では、主に燃焼ガスの顕熱が熱交換に利用されている。そして熱交換に利用されなかった熱は、低温排熱として廃棄されていたが、近年、高エネルギー効率化の観点から、この低温排熱を利用することが行われるようになってきた。こうした低温排熱を回収するタイプの熱交換器は、潜熱回収型熱交換器と呼ばれている。
【0003】
例えば、低温排熱も利用する高効率タイプの給湯器は、1300℃程度の燃焼ガスからの顕熱を回収する顕熱回収型熱交換器と、該交換後に200℃程度まで温度が低下した燃焼ガスから潜熱を回収する潜熱回収型熱交換器で構成されている。
【0004】
ところで、顕熱回収型熱交換器には、熱伝導性に優れ、加工性がよく、安価であることから、銅またはその合金(以下、「銅系金属」という)、あるいはアルミニウムまたはその合金(以下、「アルミニウム系金属」という)が用いられている。
【0005】
一方、潜熱回収型熱交換器では、以下の理由から、銅系やアルミニウム系金属の適用は困難である。
【0006】
潜熱回収型交換機では、燃焼ガス中の水蒸気を結露させ、その際の潜熱を回収することで熱交換を達成するものであるが、水蒸気の結露により発生した水分は、潜熱回収型熱交換器の外表面にドレン水として付着する。このドレン水は、燃焼ガス中のNOxやSOx、COが溶け込んでいるため、通常、pH4以下の酸性を示す。更に給湯器を断続的に運転すると、潜熱回収型熱交換装置の外表面に付着した酸性ドレン水は、加熱されて蒸発が進行することにより、その酸濃度が次第に増大する。そのため、銅系金属やアルミニウム系金属では、こうした酸性ドレン水との接触による腐食が大きな問題となる。かかる腐食対策として、例えば、銅に防食皮膜を形成させる技術が提案されているが、これら技術の耐食性は十分とは言えない(特許文献1〜5)。
【0007】
そこで、本出願人は、潜熱回収型熱交換器用材料として銅系金属やアルミニウム系金属を用いた場合であっても、これら金属の耐食性を高める方法として、フッ素メチレン鎖を有する高分子を含む皮膜が外表面に形成されてなる銅系またはアルミニウム系の潜熱回収器用部材であって、該高分子中のフッ素原子及び芳香族基の含有量を制御したものを、既に出願している(特願2004−094999号:本出願日において未公開)。当該技術によれば、銅系またはアルミニウム系基材表面に、耐酸性(耐食性)や耐熱性に優れた皮膜が、部材の形状によらず、均一且つ良好に形成されているため、高い熱交換率と酸性ドレン水に対する耐性を発揮することができる。
【特許文献1】特開平11−148720号公報
【特許文献2】特開平11−148723号公報
【特許文献3】特開2000−88355号公報
【特許文献4】特開2003−161527号公報
【特許文献5】特開2003−161595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、潜熱回収型熱交換器は、通常、日常的に使用されるものであり、フィンやパイプといった部材の劣化による修理・交換が頻繁に生じると日常生活に大きな支障を来たす虞があるため、該部材特性としては、より長期に亘る耐久性が要求される。すなわち、上記先願技術では、耐食性は十分であるが、耐久性は未だ十分とは言えない。
【0009】
従って、先願技術の耐熱性、密着性、耐食性をそのまま有しつつ、耐久性を更に向上させる技術が要求されていた。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性、密着性及び耐食性に優れるのみならず、均一且つ良好に形成された銅系またはアルミニウム系の良熱伝導性材料を潜熱回収型熱交換器として利用できる先願技術において、先願技術より一層優れた耐久性(長期防食効果)を付与する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願人の発明者の一部は、先願技術の耐久性に関して更に検討を加え、皮膜中の高分子が架橋構造を有する場合、架橋構造の種類によって皮膜としての耐久性が異なることを見出し、特に、加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介した架橋構造をとる場合に、皮膜の耐久性が一層長期に亘って安定して発揮されることを見出し、本発明に至った。
【0012】
上記目的を達成し得た本発明の潜熱回収型熱交換器用部材は、フッ素置換基を含有するメチレン鎖を主鎖中に有する高分子を含む皮膜が外表面に形成されてなる銅系またはアルミニウム系の潜熱回収型熱交換器用部材であって、上記高分子は、主鎖中に原子比で、炭素100に対しフッ素を5〜50有し、且つ主鎖中に芳香族基を実質的に含有しないものであり、更に上記高分子は、下記式で示す加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有するところに要旨を有する。
【0013】
【化1】

[上記式中、R、Rは同一または異なるアルキル基、アルコキシル基または水酸基を、Rは、水素またはアルキル基を、nは自然数を示す。]
【0014】
すなわち、先願技術において、皮膜中の高分子が、上記加水分解性シリル基によるシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有するところに要旨を有するものである。
【0015】
上記皮膜は、赤外線吸収スペクトル分析を行ったとき、3000〜3100cm−1に現れ得る芳香族基のC−H伸縮運動に由来の特性吸収ピークの面積と、2800〜3000cm−1に現れる脂肪族鎖のC−H伸縮運動に由来の特性吸収ピークの面積との比が、10/100以下であることが好ましい。
【0016】
上記皮膜は、フルオロエチレン類化合物と、アルキル基の水素の一部が上記加水分解性シリル基で置換された、アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル類、ビニルエステル類よりなる群から選択される1種以上の化合物とを、必須的なモノマー成分として重合してなる共重合体を含む組成物より形成してなるものであることが望ましい。
【0017】
上記フルオロエチレン類化合物としては、モノクロロトリフルオロエチレンおよび/またはテトラフルオロエチレンが推奨される。
【0018】
また、上記本発明の潜熱回収型熱交換器用部材を有する潜熱回収型熱交換器、および該潜熱回収型熱交換器を有する熱交換装置も本発明に包含される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の潜熱回収型熱交換器用部材は、熱伝導性に優れた銅系基材またはアルミニウム系基材表面に、耐熱性、密着性、耐食性に優れるのみならず、先願技術と比較し一層耐久性に優れた上記皮膜が、該部材の形状によらず、均一且つ良好に形成されている。よって、本発明の潜熱回収型熱交換器用部材を用いた潜熱回収型熱交換器では、高い熱交換率と酸性ドレン水に対する耐性を長期に亘り確保できる。従って、本発明の潜熱回収型熱交換器およびこれを用いた本発明の熱交換装置では、高い熱交換率を確保しつつ、使用寿命の一層の長期化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の潜熱回収型熱交換器用部材(以下、単に「部材」という場合がある)は、上記本出願人の発明者の一部による先行出願:特願2004−094999号に係る発明に対して、皮膜中の高分子が、加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有する点に最大の特徴を有している。すなわち、本発明は、皮膜中の高分子種類あるいは架橋剤といった「架橋」に係る部分以外は上記先願発明と重複する。
【0021】
従って、以下、部材、潜熱回収型熱交換器(以下、単に「熱交換器」という場合がある)および熱交換装置の順に、本発明の特徴的な部分に関して詳細に説明し、上記先願との重複部分は、該先願明細書を引用するものとする。
【0022】
<潜熱回収型熱交換器用部材>
[基材]
本発明の部材に係る基材は、銅系金属またはアルミニウム系金属で構成される。これらの金属に関しては、特願2004−094999号に記載の通りである。
【0023】
すなわち、これらの金属は熱伝導率に優れており、例えば、耐食性確保を目的として採用されているステンレス鋼、チタン、セラミックスなどの基材に比べて、熱交換効率に優れた熱交換器を構成できる。また、これらの耐食性材料に比べて成形性も優れており、複雑な形状の基材とすることも容易である。これらの理由から、よりコンパクトな熱交換器(熱交換装置)を提供できる。
【0024】
銅系金属とは、銅を含有する金属のことであり、銅単体や銅合金(例えば、無酸素銅、りん脱酸銅、タフピッチ銅、Cu−Fe−P、Cu−Mn−P、Cu−Ni−Si、Cu−Sn−P、Cu−Znなど)が含まれる。中でも、銅単体、特にりん脱酸銅が、熱伝導率、加工性、耐熱性の各特性に優れると共に、コストの面で有利であることから好ましい。
【0025】
また、アルミニウム系金属とは、アルミニウムを含有する金属のことであり、アルミニウム単体やアルミニウム合金[例えば、純Al(1000系)、Al−Cu(2000系)、Al−Mn(3000系)、Al−Si(4000系)、Al−Mg(5000系)、Al−Mg−Si(6000系)、Al−Zn−Mg(7000系)など]が含まれる。中でも、3003、3004、5052、5083、5086、5454、6061、6063の各アルミニウム合金が、熱伝導率、加工性、耐熱性の各特性に優れると共に、コストの面で有利であることから好ましい。
【0026】
基材の形状、サイズは特に限定されず、通常の潜熱回収型熱交換器に用いられているパイプ[熱交換により加熱される物(水など)が通過するためのパイプ]、熱交換効率を高めるためのフィンなどの形状があり、パイプとフィンが一体化した形状も含まれる。サイズも、潜熱回収型熱交換器に要求されるサイズとすればよい。
【0027】
[皮膜]
上記の通り、本発明の部材では、基材の素材として、熱伝導率や成形性に優れた銅系金属やアルミニウム系金属を採用する。しかし、これらの金属は酸性ドレン水に対する耐性が悪いため、熱交換装置の使用によって腐食する。本発明の部材に係る皮膜は、部材の耐食性を高めて、酸性ドレン水による腐食を抑制する保護層としての役割を担うものである。
【0028】
本願発明に係る皮膜は、フッ素置換基を含有するメチレン鎖を主鎖中に有する高分子を含むものであり、上記高分子は、主鎖中に原子比で、炭素100に対しフッ素を5〜50有し、且つ主鎖中に芳香族基を実質的に含有しないものであり、更に上記高分子は、下記式で示す加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有するものである。
【0029】
【化2】

【0030】
上記式中、R、Rは同一または異なるアルキル基、アルコキシル基または水酸基を示す。当該アルキル基は、低級または中級の直鎖状、分岐状、或いは環状アルキル基であり、好ましくは炭素数10以下の中級または炭素数6以下の低級アルキル基である。また、当該アルコキシル基は、低級または中級の直鎖状、分岐状、或いは環状アルコキシル基であり、好ましくは炭素数10以下の中級または炭素数6以下の低級アルコキシル基である。また、上記式中、Rは、水素またはアルキル基を示し、当該アルキル基は、低級または中級の直鎖状、分岐状、或いは環状アルキル基であり、好ましくは炭素数10以下の中級または炭素数6以下の低級アルキル基である。そして、上記式中、nは自然数を示し、好ましくは1〜20の整数である。
【0031】
以下、上記皮膜に係る高分子、および該皮膜成形のためのフッ素樹脂において、炭素数100に対するフッ素原子個数比を、単に「フッ素原子比」といい、上記加水分解性シリル基を、単に「加水分解性シリル基」という。
【0032】
ここで、上記皮膜に係る「上記高分子は、原子比で、炭素100に対しフッ素を5〜50有し、且つ芳香族基を実質的に含有しないものである」とは、特願2004−094999号に記載の通りである。
【0033】
すなわち、上記皮膜に含まれる高分子におけるフッ素原子比が小さすぎると、皮膜の防食性不十分となり、酸性ドレンン水による部材の腐食を十分に抑制できないことがある。より好ましいフッ素原子比は8以上であり、さらに好ましくは10以上である。
【0034】
他方、上記皮膜に含まれる高分子におけるフッ素原子比が大きすぎると、特に基材の形状が複雑であったり、例えば、フィンの間隔が狭い場合などにおいて、良好な皮膜足り得ない。
【0035】
形成後の皮膜に含まれる高分子は、上記液状組成物に含有されるフッ素樹脂に由来する。よって、上記高分子に係るフッ素原子比が大きすぎる場合には、液状組成物が形成不能または不安定であり、形成皮膜にピンホールが混入するなど、均一且つ良好な皮膜が得られない。さらに、皮膜の基材への密着性や皮膜の柔軟性にも劣り、耐食皮膜としてのトータルな耐久性が悪化する。上記高分子に係るフッ素原子比は、より好ましくは40以下であり、さらに好ましくは30以下である。
【0036】
皮膜が含む高分子中の炭素原子とフッ素原子の個数比は、皮膜表面に電気伝導性を付与するために金蒸着(厚み:30nm程度)を行った後、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて求めることができる。まず、炭素原子およびフッ素原子の特性X線の相対強度を求め、炭素原子数とフッ素原子数の個数比が既知のPTFEのデータを基準として決定した換算係数を用いて、この相対強度から、炭素原子数とフッ素原子数の個数比を算出する。この際、加速電圧は15kVとし、観察倍率は100倍程度とすることが望ましい。
【0037】
なお、後述するように、本発明の部材では、基材表面にプライマー層を設け、該プライマー層上に上記皮膜を形成してもよい。この場合、プライマー層を有する状態でEDXによる上記測定を行うと、プライマー層の含有成分に由来する特性X線も同時に観察されて、炭素原子数が見かけ上多くなることがある。
【0038】
よって、皮膜のフッ素原子比を正しく測定するためには、例えば、以下の手法により皮膜の厚み、プライマー層の有無、プライマー層の厚みを調べておき、プライマー層が存在することが判明した場合には、ミクロトームなどを用いて皮膜のみを削り取って上記の分析を行う。皮膜の厚み、プライマー層の有無、プライマー層の厚みを調べる手法としては、例えば、皮膜(およびプライマー層)について、ミクロトームなどを用いて得た方向の切断面を、光学顕微鏡や電子顕微鏡(走査型電子顕微鏡など)で観察し、皮膜とプライマー層の界面の有無を判断し、皮膜(プライマー層)の厚みを測定することが挙げられる。界面が明瞭であれば、そのまま目視で判断できるが、不明瞭であればEDXを併用し、断面の構成原子について、皮膜表面から垂直方向に線分析を行って判断すればよい。
【0039】
また、「芳香族基を実質的に含有しないものである」とは、上記高分子自体が芳香族基を実質的に含有しないものであるという意義であり、上記皮膜中での芳香族基を有する添加剤の使用を完全に排除するものではない。このため、後述する架橋剤、溶媒あるいはその他添化剤といった、上記高分子以外の添加物に由来する芳香族基が、皮膜形成時に上記高分子と結合した場合のように、不可避的に上記高分子が芳香族基を含有してしまう態様については、本発明から排除しない趣旨である。
【0040】
潜熱回収型交換器の使用時には、上記皮膜は酸性ドレン水と高温の燃焼ガスに曝されるため、上記高分子が芳香族基を含有している場合には、芳香族基の酸化分解が徐々に進行して皮膜の性能が劣化し易いため、本発明の部材の防食性が長期に亘って確保できないことがあるからである。
【0041】
なお、本発明でいう芳香族基とは、芳香環を有する基であり、芳香環には、非ベンゼン系芳香環;ベンゼン環;ナフタレン環、アントラセン環;ピレン環などの縮合芳香環;これら非ベンゼン系芳香環、芳香環あるいは縮合芳香環の1以上の炭素原子が、酸素原子、窒素原子、硫酸原子などのヘテロ原子に置き換えられている複素芳香環(ピロール環、ピリジン環、チオフェン環、フラン環など);などが含まれる。また、本発明でいう芳香族基には、上記高分子を形成する樹脂の主鎖に置換基として結合しているものの他、該主鎖を構成する芳香環も含まれる。
【0042】
上記高分子が芳香族基を実質的に含有しないことは、例えば、上記皮膜について、赤外線吸収スペクトル分析における3000〜3100cm−1に現れ得る芳香族基のC−H伸縮運動に由来の特性吸収ピークで確認することができ、該ピーク面積(A)と、2800〜3000cm−1に現れる脂肪族鎖のC−H伸縮運動に由来の特性吸収ピークの面積(B)との比[(A)/(B)比]が、10/100以下であることが好ましく、6/100以下であることがより好ましく、0/100であることが最も好ましい。ここで、上記面積率が0を超えるのは、上述した添加剤等に由来するものである。
【0043】
上記特性吸収ピークの面積(A)と(B)との比[(A)/(B)比]は、フーリエ変換赤外分光光度計(例えば、日本電子株式会社製「JIR−100型」)を用いて、ビームコンデンサでの透過法(分解能:4cm−1、積算回数:100回)により赤外吸収スペクトル分析を行い、次の手順に従って求める。
(1)横軸が波数、縦軸が吸光度の赤外線吸収スペクトルチャートを得、該チャートのスペクトル曲線の2700cm−1の箇所と3100cm−1の箇所を結ぶ直線を引く。
(2)上記(1)の直線とスペクトル曲線で囲まれた領域を切り取り、さらに切り取ったチャート片を、(A)3000〜3100cm−1の部分と、(B)2800〜3000cm−1の部分に裁断する。
(3)上記(2)のチャート片(A)部分および(B)部分の質量を測定し、これらを特性吸収ピークの面積(A)および(B)と見なして、(A)/(B)比を算出する。
【0044】
すなわち、上記皮膜における(A)/(B)比が上記上限値を超える場合には、皮膜中に存在する芳香族基の量が多いため、潜熱回収型熱交換器の使用環境下における皮膜の成分がより進行し易くなる。なお、上記皮膜では、上記高分子は芳香族基を実質的に含有しないため、該皮膜中に存し得る(上記測定法により検出される)芳香族基は、該皮膜形成に用いられる組成物(液状塗料)の溶媒の残留分や、芳香族基を有する添加物などに由来する。
【0045】
ここで、上記皮膜が、基材表面に設けられたプライマー層上に形成されている場合には、該皮膜のみをミクロトームなどで削り取って上記特性吸収ピークの面積(A)および(B)を測定すればよい。
【0046】
本発明に係る皮膜における上記高分子は、加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有するものである。
【0047】
通常、フッ素樹脂の架橋に用いられるのは、ウレタン結合を介する架橋(以下、ウレタン架橋という場合がある)とシロキサン結合を介する架橋(以下、シロキサン架橋という場合がある)である。ウレタン結合とは、イソシアネートなどによる有機性の結合(NH−CO)であり、シロキサン結合とは、加水分解性シリル基による無機性の結合(Si−O−Si)である。
【0048】
シロキサン結合は、その化学構造から、ウレタン結合に比べて加水分解を受け難く、かつシロキサン結合部位(SiO、358kJ/mol)の方がウレタン結合部位(C−N、293kJ/mol)より結合エネルギーが大きいため、熱による結合解裂も起こり難いという利点がある。
【0049】
そして、加水分解性シリル基を含有する高分子をシロキサン結合を介して架橋することによって、ウレタン結合より皮膜としての耐久性を優れたものとすることが可能となる。
【0050】
また、本発明に係る加水分解性シリル基には、下記式で表されるシロキシ基は含まれない。
【0051】
【化3】

【0052】
尚、上記高分子が、シロキサン架橋されていることは、赤外線吸収スペクトルの1000〜1200cm−1付近に、強い特性吸収が現れることから、容易に確認できる。
【0053】
上記皮膜は、特定のフッ素樹脂を含む液状組成物により形成される。皮膜を形成するためのフッ素樹脂は、フッ素置換基を含有するメチレン鎖を主鎖中に有する高分子を含む皮膜が外表面に形成されてなる銅系またはアルミニウム系の潜熱回収型熱交換器用部材であって、上記高分子は、主鎖中に原子比で、炭素100に対しフッ素を5以上、好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であって、50以下、好ましくは40以下、更に好ましくは30以下含有し、且つ主鎖中に芳香族基を実質的に含有しないものであり、更に、このフッ素樹脂は、加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有するものである。
【0054】
より好ましいフッ素樹脂としては、例えば、フルオロエチレン類化合物と、アルキル基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換された、アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル類およびビニルエステル類よりなる群から選択される1種以上の化合物とを、必須的なモノマー成分として重合してなる共重合体であって、フッ素原子比が上記範囲内にあるものが挙げられる。
【0055】
このうち、フルオロエチレン類化合物と、アルキル基の水素の一部が上記加水分解性シリル基で置換されたアクリル酸アルキルエステルを必須成分とする場合が最も好適である。
【0056】
上記共重合体のうち、フッ素原子比が上記範囲内にあることは、特願2004−094999号に記載の方法で確認することができる。すなわち、フッ素原子比が上記範囲内となるようにモノマー組成比を計算して仕込み、常法に従って共重合を行い、得られた共重合体について、熱分解ガスクロマトグラフィーによるフラグメントピークの面積比率から、検量線法によってフッ素原子比を定量する。共重合体のフッ素原子比が上記範囲内にない場合には、そのフッ素原子比に応じてモノマー仕込み組成を適宜変更して再度重合を行い、得られた共重合体のフッ素原子比を上記手法で定量して確認する一連の操作を繰り返す。
【0057】
上記の共重合体において、フルオロエチレン類化合物としては、モノクロロトリフルオロエチレンやテトラフルオロエチレンが好適である。
【0058】
また、上記の共重合体において、フルオロエチレン類化合物と共重合可能なアルキル(本明細書でアルキルというのは、直鎖、分岐、脂環状のアルキルを総称する場合がある)基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換されたアクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換された、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、などが挙げられる。
【0059】
より具体的には、γ−(メタ)アクリロキシブチルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリシラノール、などが挙げられる。
【0060】
これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルでは、アルキル基の水素の一部が、水酸基やカルボキシル基で置換されていてもよい。
【0061】
なお、上記において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。
【0062】
上記の共重合体において、フルオロエチレン類化合物と共重合可能な、アルキル基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換されたビニルエーテル類としては、アルキル基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換された、アルキルビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどの脂肪族アルキルビニルエーテル類;シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテルなどの脂環式アルキルビニルエーテル類など);アルコキシアルキルビニルエーテル類(メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテルなど);ヒドロキシアルキルビニルエーテル類(2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテルなど);カルボキシアルキルビニルエーテル類;グリシジルビニルエーテル類、などが挙げられる。
【0063】
より具体的には、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、2−トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、3−トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、3−トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、4−トリメトキシシリルブチルビニルエーテル、4−トリエトキシシリルブチルビニルエーテル、などが挙げられる。
【0064】
これらビニルエーテル類では、アルキル基の水素の一部が、水酸基やカルボキシル基で置換されていてもよい。
【0065】
また、上記の共重合体において、フルオロエチレン類化合物と共重合可能なアルキル基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換されたビニルエステル類としては、アルキル基の水素の一部が加水分解性シリル基で置換された、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニルなどが挙げられる。
【0066】
より具体的には、8−トリメトキシシリルカプリル酸ビニル、8−トリエトキシシリルカプリル酸ビニル、などが挙げられる。
【0067】
これらビニルエステル類では、アルキル基の水素の一部が、水酸基やカルボキシル基で置換されていてもよい。
【0068】
上記皮膜を形成するためのフッ素樹脂が上記例示の各共重合体の場合に、皮膜に与える作用・効果などは、特願2004−094999号に記載の通りである。
【0069】
すなわち、上記皮膜を形成するためのフッ素樹脂が上記例示の各共重合体の場合には、分子内に存在するフッ素原子の作用により、耐食性(耐酸性)や耐熱性が良好である。
【0070】
また、上記アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル類、ビニルエステル類といったバルキーな基を持つ共重合体成分の導入により、フッ素樹脂の溶媒可溶性や柔軟性が向上し、これら成分が有するエーテル結合やエステル結合により、皮膜中での顔料分散性、皮膜の基材密着性が向上し、フッ素樹脂がより高い極性の溶液への溶解が可能となる。
【0071】
さらに、これら成分あるいはその他のモノマーが水酸基を有する場合には、皮膜の緻密化・強化が可能となり、例えば、非常に薄くすることができ、カルボキシル基を有する場合には、フッ素樹脂を含む液状組成物の安定性向上や、皮膜の基材密着性向上に寄与し得る。
【0072】
さらに、上記アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル類、ビニルエステル類では、ビニル基炭素原子に結合している基(側鎖)の炭素数が、3以上であることが望ましい。このようなバルキーな基(側鎖)が共重合体に導入されることで、その立体障害によって架橋部分の耐加水分解性が向上するため、より耐久性に優れた皮膜とすることができる。
【0073】
上記の各共重合体において、アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル類、ビニルエステル類が共重合成分として用いられていることは、上記の熱分解ガスクロマトグラフィーによるフラグメントピークや、赤外吸収スペクトル測定による特性吸収ピークを分析することによって確認できる。
【0074】
この他、上記共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合可能な他のモノマーが共重合されていてもよい。このような他のモノマーとしては、特に制限はないが、例えば、加水分解性シリル基を持たないアクリル酸エステル、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、オレフィン類(エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテンなど)が代表的なものとして例示できる。
【0075】
本発明に係る皮膜は、上述の如く、芳香族基を有する添加剤の使用を完全に排除するものではなく、(A)/(B)比が上記上限値以下となるように、その種類及び使用量を調整することが望ましい。その使用量は、例えば、形成した皮膜について(A)/(B)比を測定し、これが上記上限値を超える場合には、その使用量を減じて皮膜を作成する一連の操作を繰り返すことができ、決定できる。
【0076】
よって、本発明に係るシロキサン架橋を形成するための架橋剤としては、(A)/(B)比が上記上限値以下となるように、その種類及び使用量を適宜選択することができるが、分子内に芳香族基を含有しないものがより好ましい。
【0077】
このような架橋剤としては、オルガノシリケート(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類);シリル化イソシアネート類、などが挙げられる。
【0078】
また、これら架橋剤は、例えば、フッ素樹脂100質量部に対し5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であって、50質量部以下、より好ましくは40質量部以下とすることが推奨される。架橋剤量が少なすぎると、架橋剤を用いることによる効果が十分に確保できないことがある。他方、架橋剤量が多すぎると、皮膜が硬くなりすぎて、脆くなることがある。
【0079】
本発明の皮膜においては、シロキサン架橋構造を必須要素とするが、上述の如く皮膜を形成するためのフッ素樹脂が水酸基またはカルボキシル基を有する場合、これら官能基を利用してウレタン架橋、あるいはエポキシ結合、ヒドラジド結合、アミドエステル結合による架橋(以下、夫々エポキシ架橋、ヒドラジド架橋、アミドエステル架橋という)などを更に導入することができる。
【0080】
この場合、皮膜の耐久性を損なわないよう、シロキサン架橋構造100に対して、これ以外の架橋構造の比率は、50以下、好ましくは30以下、より好ましくは10以下とすることが望ましい。かかる比率は、例えば、上記芳香族基の比率を求める手法と同様に、赤外線スペクトル分析を用いて求めることができる。例えば、ウレタン架橋構造は、赤外吸収スペクトルの1680〜1750cm−1付近に強い特性吸収が現れるため、この吸収ピークの面積と、シロキサン架橋構造の特性吸収ピークとの面積比により求めることができる。
【0081】
また、これら架橋剤を用いる場合、シロキサン架橋剤との合計が、上記フッ素樹脂に対する比率を満たすことが好ましい。
【0082】
上記水酸基と反応し、ウレタン架橋を形成するための架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネートなどのポリイソシアネート;これらポリイソシアネートとポリオールとの付加体;これらポリイソシアネートの二量体;これらポリイソシアネートの三量体(イソシアヌレート);などのイソシアネート化合物が挙げられる。これらのイソシアネート化合物のイソシアネート基は、公知のブロック剤(アルコール、オキシム、活性メチレンなど)でブロックされていてもよい。こうしたブロッ化イソシアネート化合物では、熱や触媒の作用によってブロック剤が脱離して活性を示すようになる。
【0083】
上記水酸基と反応し、エポキシ架橋を形成するための架橋剤としては、分子内にグリシジル基を持つ化合物が挙げられ、上記カルボキシル基と反応してヒドラジド架橋を形成するための架橋剤としては、分子内にヒドラジド基やセミカルバジド基を持つ化合物が挙げられ、上記カルボキシル基と反応してアミドエステル架橋を形成する架橋剤としては、分子内にオキサゾリン基を持つ化合物が挙げられる。
【0084】
上記皮膜は、上記のフッ素原子比を満足するフッ素樹脂を含む液状の組成物(液状塗料)を用いて形成する。よって、この組成物には、フッ素樹脂を溶解させるための溶媒も含まれ、使用可能な溶媒は、通常塗料用として用いられる有機溶剤であれば特に制限はなく用いることができ、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、エチルセロゾルブなどのグリコールエーテル系溶剤等が使用できる。これらを単独で、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0085】
上記皮膜形成用の液状組成物の組成としては、上記のフッ素樹脂100質量部に対し、上記溶媒を20質量部以上、より好ましくは40質量部以上であって、350質量部以下、より好ましくは250質量部以下とすることが望ましい。溶媒量が少なすぎると、液状組成物の粘度が高くなりすぎることがある。液状組成物の粘度が高すぎると、細部への塗工が困難となったり、加熱硬化時に溶媒が蒸発しきる前に架橋形成が進行してしまい、残留する溶媒量が増大して皮膜性能を損なうこともある。他方、溶媒量が多すぎると、加熱硬化時に溶媒の蒸発に伴う皮膜の収縮が大きくなり、残留応力やクラック、マイクロポアなどが発生し易くなる。
【0086】
また、本発明におけるシロキサン架橋反応は、上記高分子中の加水分解性シリル基のSiに結合する水酸基、または、このSiに結合するアルコキシル基の加水分解により生じる水酸基が、脱水縮合(反応条件によっては一部アルコール縮合も起こる)することによって進行する。このため、アルコキシル基の加水分解反応を促進し、架橋反応を効率的に行わせる目的で、溶媒中に少量の水を含んでもよい。この場合、水の使用量は、Siに結合するアルコキシル基以外の高分子の官能基を失活させない程度とする。また、水溶性有機溶媒を併用すれば、より水の溶解性が向上して反応系を均一化することができる。このような水溶性有機溶媒としては、アルコール系、エステル系、エーテル系、ケトン系などを挙げることができる。
【0087】
さらに、皮膜形成用の液状組成物には、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、上記フッ素樹脂を硬化させるにあたっては、縮合触媒を用いることもできる。
【0088】
上記縮合触媒としては、アルキルチタン酸塩、有機ケイ素チタン酸塩、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネートなどのチタン酸エステル;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジメトキシド、オクチル酸錫、ナフテン酸錫などの有機錫化合物;オクチル酸鉛;ブチルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、トリエチレンジアミンなどのアミン系化合物あるいはそれらのカルボン酸塩;ラウリルアミンとオクチル酸錫の反応物あるいは混合物のようなアミン系化合物と有機錫化合物との反応物および混合物;過剰のポリアミンと多塩基酸から得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物の反応生成物;アミノ基を有するシランカップリング剤、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどの公知のシラノール触媒などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を必要に応じて用いることができる。これら縮合触媒の使用量は、加水分解性シリル基を含有する共重合体に対し、0〜5質量部とすることが好ましい。
【0089】
その他、皮膜形成用の液状組成物には、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、特願2004−094999号に記載された、塗料化のための各種添加剤(消泡剤、粘度調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤など)、酸化防止剤、着色顔料、硬化促進剤(有機金属化合物や第3級アミン類など)などを用いることもできる。
【0090】
なお、これら添加剤として、芳香族基を有するものを用いる場合には、(A)/(B)比が上記上限値以下となるように調製することが望ましい。芳香族基を有する添加剤の使用量は、例えば、形成した皮膜について(A)/(B)比を測定し、これが上記上限値を超える場合には、その使用量を減じて皮膜を作成する一連の操作を繰り返すことができ、決定できる。
【0091】
上記の液状組成物を用いて皮膜を形成する方法、皮膜の厚み及びその測定方法は、特願2004−094999号に記載の通りである。
【0092】
すなわち、皮膜の形成方法としては、公知の方法を選択でき、例えば、基材に液状組成物を塗布するか、液状組成物の浴中に基材を浸漬(ディッピング)した後に、液状組成物中の溶媒を乾燥除去し、架橋形成させる方法が採用できる。この際、溶媒の乾燥除去と架橋形成は同時に行っても構わない。
【0093】
液状組成物を基材に塗布する際の塗布法は特に制限はなく、公知の各種塗布法の中から、基材形状に応じて、より均一な塗膜が形成できる方法を選択すればよい。
【0094】
溶媒の乾燥除去および架橋形成の際の温度は、例えば、室温〜100℃前後の温度とすることが望ましい。このような処理により、良好な特性を有する耐食皮膜が形成できる。特に架橋剤を含む液状組成物を用いた場合には、その特性はより良好なものとなる。
【0095】
なお、本発明の部材では、基材と皮膜との密着性が良好であることから、フッ素樹脂塗装の際に一般に実施されているような特殊な下地処理(アンカー効果により密着性を高めるための、ショットブラストなどによる表面粗面化処理など)は特に必要ではないが、基材表面に油分や付着分が残存していると、その部分での皮膜密着性が低下して欠陥発生の原因となることがあるため、皮膜形成前(プライマー層を設ける場合にはプライマー層形成前)に基材を脱脂・洗浄しておくことが望ましい。
【0096】
また、上記皮膜の厚みは、80μm以下、より好ましくは60μm以下とすることが望ましい。ここでいう厚みは、任意の5箇所について測定した厚みの平均値をいう。各箇所の厚みは、部材自体の厚みをマイクロメーターなどで測定して得られる値から、基材の厚みを引く方法の他、皮膜を基材から剥離して、皮膜のみの厚みをマイクロメーターなどで測定してもよい。また、部材がプライマー層を有している場合には、上述したプライマー層の厚み測定法と同じ方法で、皮膜の厚みを測定すればよい。皮膜の厚みが大きすぎると、熱伝導性が阻害されるため、熱交換器の熱交換効率が低下する傾向にある。他方、皮膜の厚みの下限としては、上記の皮膜厚み測定を行ったときに、最も薄い部分の厚みが5μm以上であることが望ましい。最も薄い部分の厚みが小さすぎると、酸性ドレン水中の酸イオンの浸透をブロックする力が劣る傾向にあるため、長期の耐久性が不十分となることがある。
【0097】
なお、後述するように、本発明の部材では、基材表面にプライマー層を設け、該プライマー層上に上記皮膜を形成してもよい。この場合、プライマー層と皮膜の合計厚みが上記皮膜の厚みの上限値以下であることが好ましい。ただし、上記皮膜の厚みの下限値(上記の「最も薄い部分の厚み」)は、プライマー層を設ける場合であっても、該皮膜のみの厚みを意味している。
【0098】
[その他の構成]
本発明の部材では、上記皮膜は、基材表面に設けられたプライマー層上に形成されていてもよく、プライマー層及びその形成方法は、特願2004−094999号に記載の通りである。
【0099】
すなわち、プライマー層は、一般に、基材と皮膜との密着性を向上させる目的で設けられるものである。本発明では、基材と上記皮膜との密着性が良好であり、プライマー層は必須の構成要素ではないが、プライマー層を設けることで、基材−皮膜間の密着性がより長期間に亘って良好となるため、例えば、より長期の耐久性が要求される業務用の給湯器などの熱交換装置に用いられる熱交換器に適用される場合などでは、こうしたプライマー層を設けることが推奨される。また、熱交換装置の使用中に、仮に上記皮膜に欠陥が生じたとしても、プライマー層の存在により、皮膜欠陥のそれ以上の進行が緩やかになるといった利点もある。
【0100】
プライマー層の素材としては、エポキシ樹脂系やシリコーン樹脂系など、従来から樹脂塗装金属製品のプライマーとして一般的な各種素材が挙げられる。また、このプライマー層には、リン酸亜鉛などの公知の防錆顔料を添加することも好ましい。なお、プライマー層には、表面に上記皮膜が形成されているために、直接酸性ドレン水に接触することはない。よって、プライマー層を形成する素材は、分子内に芳香族基を含有していても構わない。
【0101】
プライマー層の厚みの上限は、上述した通り、上記皮膜との合計厚みが上記上限値以下であればよい。プライマー層の厚みの下限については特に制限はなく、プライマー層としての機能が十分に発揮できる程度の厚み(例えば。0.1μm以上)であればよい。
【0102】
プライマー層の形成方法も特に制限はない。通常は、プライマー層の素材となる樹脂などを含有する液状組成物を基材表面に塗布・乾燥し、必要に応じて樹脂の架橋を形成させる手法が採用される。
【0103】
<熱交換器および熱交換装置>
本発明の熱交換器は、特願2004−094999号に記載の通りであり、上記本発明の熱交換器用部材を備えていればよく、他の構成については特に制限はなく、従来公知の潜熱回収型熱交換器の構成が採用できる。
【0104】
また、本発明の熱交換装置も、本発明の熱交換器を備えていればよく、他の構成については特に制限はなく、潜熱回収型熱交換器を備えた従来公知の熱交換装置の構成が採用できる。
【0105】
このような本発明の熱交換装置としては、例えば、顕熱回収型交換器も同時に備えた給湯器、ガスタービンやガスヒートポンプの排熱回収に使用される熱交換器などが例示できる。
【0106】
<参考例>
以下、本出願人の発明者の一部が、上記先願明細書(特願2004−094999号)の実施例にて行った実験結果を参考例として転記する。
【0107】
本参考例で実施した測定は以下の通りである。
【0108】
(1)EDXによるフッ素原子比の測定
皮膜表面に電気伝導性を与えるために金を約30nmの厚みとなるように蒸着した。この試料について、株式会社ニコン製の電子ビーム装置「ESEM−2700」を用いて、炭素原子およびフッ素原子の特性X線の相対強度を求め、この相対強度から、フッ素原子比の値が既知のPTFEのデータから予め決定しておいた換算係数を用いて、フッ素原子比を算出した。測定条件は、加速電圧:15kV、倍率:100倍、とした。
【0109】
なお、プライマー層を設けた熱交換器用部材(後記実施例2)については、ミクロトームを用いて、皮膜の最表層を約5μm削り取って測定すると共に、参考値としてプライマー層も有する熱交換器用部材のままの測定も行った。
【0110】
(2)(A)/(B)比の測定
日本電子株式会社製のフーリエ変換赤外分光光度計「JIR−100型」を用いて、ビームコンデンサでの透過法(分解能:4cm−1、積算回数:100回)により赤外吸収スペクトル分析を行い、下記手順に従って、特性吸収ピークの面積(A)と(B)との比[(A)/(B)比]を算出した。
(I)縦軸が吸光度の赤外吸収スペクトルチャートを得、該チャートのスペクトル曲線の2700cm−1の箇所と3100cm−1の箇所を結ぶ直線を引く。
(II)上記(I)の直線とスペクトル曲線で囲まれた領域を切り取り、さらに切り取ったチャート片を、(A)3000〜3100cm−1の部分と、(B)2800〜3000cm−1の部分に裁断する。
(III)上記(II)のチャート片(A)部分および(B)部分の質量を測定し、これらを特性吸収ピークの面積(A)および(B)と見なして、(A)/(B)比を算出する。
【0111】
なお、プライマー層を設けた熱交換器用部材(後記実施例2)については、ミクロトームを用いて、皮膜の最表面を約5μm削り取って測定すると共に、参考値としてプライマー層も有する熱交換器用部材のままの測定も行った。
【0112】
(3)皮膜厚み
部材の厚みを、マイクロメーターを用いて5箇所測定し、得られた値から基材の厚みを引いて各測定箇所の皮膜厚みを求め、その平均値を平均膜厚とし、最も薄い部分の厚みを最低膜厚とした。なお、プライマー層を設けた部材(後記実施例2)では、プライマー層を形成した時点で、基材とプライマー層の厚みをマイクロメーターで5箇所で測定し、得られた値から基材の厚みを引いて各測定箇所のプライマー層厚みを求め、その平均値を算出してプライマー層厚みとした。そして、皮膜形成後に上記と同じ手法で部材の厚みを5箇所測定し、得られた値から基材厚みおよびプライマー層厚みを引いて各測定箇所の皮膜厚みを求め、上記と同じ手法で平均膜厚と最低膜厚を算出した。
【0113】
(4)耐熱性評価
熱交換器用部材から皮膜を剥離して、室温から20℃/分の速度で等速昇温したときの熱重量分析を行い、5%重量減少温度(重量が、測定初期から5%減少したときの温度)を耐熱温度とし、以下の基準により評価した。評価基準は、◎:耐熱温度が300℃以上、○:耐熱温度が200℃以上300℃未満、△:耐熱温度が100℃以上200℃未満、×:耐熱温度が100℃未満であり、◎および○を合格とした。
【0114】
(5)密着性評価
熱交換器用部材を沸騰水中に2時間浸漬し、その後、JIS 5600−5−6の規定に従い、1mm角で100マスの碁盤目について、テープ剥離試験を実施し、皮膜の密着性を評価した。評価基準は、◎:剥離なし、○:全マス数の10%未満について剥離あり、△:全マス数の10%以上30%未満について剥離あり、×:全マス数の30%以上について剥離あり、とし、◎および○を合格とした。
【0115】
(6)耐食性評価
熱交換器用部材の皮膜に、カッターを用いて基材にまで達する切り込みを入れた。切り込みは2本とし、夫々の長さは10mmで、角度30°で互いに交差するようにした。この切り込みを入れた熱交換器用部材を、50mLの15%硝酸水溶液に、切り込み部が完全に漬かるように浸漬し、水分が急激に蒸発しないように緩く蓋をして室温で放置した。耐食性は、通常の蛍光灯照明下で白紙を背景にして、基材から溶出した銅イオンによる青色着色が目視で十分に確認できるレベルになるまでの日数で評価した。評価基準は、◎:14日以上耐え得る、○:7日以上14日未満で異常が発生、△:2日以上7日未満で異常が発生、×:2日未満で異常が発生、とし、◎および○を合格とした。
【0116】
(7)耐久性評価(実機条件での模擬試験)
燃焼系熱交換器の潜熱回収部に発生するドレン水を模した試験液として、市販の硝酸、硫酸および塩酸の各試薬を用いて、pHが約2の液(人工ドレン水)を調製した。人工ドレン水中の組成は、硝酸イオン:約680mg/L、硫酸イオン:約80mg/L、塩素イオン:約10mg/L、とした。この人工ドレン水(温度:室温)に、U字曲げした銅管に皮膜形成して得られた熱交換器用部材を、曲げ部を下にして浸漬した。2分毎に人工ドレン水への浸漬と乾燥を繰り返した。引き上げ時の乾燥にはドライヤーを用いた。乾燥の際の熱交換器用部材の表面温度は約80℃である。耐久性は、皮膜破壊が生じるまでの時間で評価した。評価基準は、◎:1600時間以上耐え得る、○:1000時間以上1600時間未満で皮膜破壊が発生、△:400時間以上1000時間未満で皮膜破壊が発生、×:400時間未満で皮膜破壊が発生、とし、◎および○を合格とした。
【0117】
実験<熱交換用部材の作製>
基材に、リン脱酸銅板(20×100mm、厚み:0.3mm)、またはU字曲げリン脱酸銅管(外径:12mm、長さ:170mm、厚み:0.57mm)を用いた。この基材の表面に、表1で示す樹脂を含む液状組成物を用いて皮膜を形成した。皮膜形成は、予め溶媒脱脂しておいた基材を、液状組成物の液中にディッピングし(液温:25℃)、引き上げた後、100〜120℃で30分で加熱硬化処理する方法を採用した。また、プライマー層を設けた実施例2の熱交換器用部材では、予め溶媒脱脂しておいた基材を、プライマー層形成用の液状組成物の浴中(液温:25℃)にディッピングし、基材を引き上げた後、100℃で15分加熱硬化させてプライマー層を形成し、このプライマー層表面に、他の熱交換器用部材と同様にして皮膜を形成した。各熱交換器用部材の評価結果を表1に併記する。
【0118】
【表1】

【0119】
表1中、1は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:シクロヘキシルビニルエーテル:ラウリルビニルエーテル:4−ヒドロキシブチルビニルエーテル=100:10:80:20(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
2は、樹脂[共重合組成が、テトラフルオロエチレン:シクロヘキシルビニルエーテル:ラウリルビニルエーテル:4−ヒドロキシブチルビニルエーテル=100:10:80:20(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
3は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:2−エチルヘキシルアクリレート:4−シロキシブチルアクリレート=100:200:150(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して20質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
4は、樹脂[共重合組成が、テトラフルオロエチレン:2−エチルヘキシルアクリレート:4−シロキシブチルアクリレート=100:200:150(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して20質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
5は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:2−ヒドロキシエチルヘキサン酸ビニル:2−エチルヘキシルアクリレート=100:30:70(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して5質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
6は、樹脂[共重合組成が、テトラフルオロエチレン:2−ヒドロキシエチルヘキサン酸ビニル:2−エチルヘキシルアクリレート=100:30:70(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して5質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
7は、ダイキン工業株式会社製「ポリフロンTC−7408」(エポキシ樹脂系の耐熱性バインダーに、パーフルオロ系フッ素樹脂微粒子が分散しているもの)、
8は、ジャパンエポキシレジン株式会社製「エピコート152」(ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン硬化タイプ)、
9は、信越化学工業株式会社製「ES1023」(エポキシ変性シリコーン樹脂、加熱硬化タイプ)、
10は、関西ペイント株式会社製「シリコテクトAC」(アクリルシリコン樹脂系塗料)、
を夫々意味している。
【0120】
なお、表1の1〜6の各液状組成物は、レベリング剤としてビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK−322」を、液状組成物全量中、1質量%以下で含有している。
【0121】
また、実施例2のプライマー層には、エポキシ樹脂系防錆顔料入りプライマー(日本ペイント株式会社製「ニッペパワーバインド」)を用いた。さらに表1の実施例2の「フッ素原子比」および「(A)/(B)比」の欄の括弧書きは、プライマー層の存在する状態で測定した参考値を示しており、同「厚み」の各欄の括弧書きは、プライマー層のみの厚みを示している。
【0122】
表1から分かるように、良好な皮膜が形成されている実施例1〜8の各熱交換器用部材では、耐熱性、密着性、耐食性、耐久性の各評価結果が良好であり、非常に性能の優れたものである。なお、実施例1〜8では、皮膜を形成するための樹脂が芳香族基を含有していないが、(A)/(B)比が0/100でないのは、レベリング剤および残留溶媒(キシレン)の存在によるものと推定される。
【0123】
これに対し、比較例1〜3の熱交換器用部材では、皮膜中の高分子が芳香族基を含有しており、皮膜中の芳香族基の量が多い。また、比較例2および3の熱交換器用部材では、皮膜中のフッ素原子比も小さい。特に皮膜中の芳香族基が酸性ドレン水によって酸化され易いため、これらの熱交換器用部材では、耐食性および耐久性が不良である。また、比較例4の熱交換器用部材では、皮膜中のフッ素原子比が小さく、耐食性、耐久性が不良である他、耐熱性、密着性も良くなかった。
【実施例】
【0124】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例で実施した測定は以下の通りである。
【0125】
下記(1)〜(6)の測定及び評価は、前述した参考例の欄に記載した通りであり、上記先願明細書の実施例における(1)〜(6)と同じ方法で行った。
(1)EDXによるフッ素原子比の測定
(2)(A)/(B)比の測定
(3)皮膜厚み
(4)耐熱性評価
(5)密着性評価
(6)耐食性評価
(7)長期耐久性評価(実機条件での模擬試験)
【0126】
測定および評価方法は、上記先願明細書の実施例における(7)と同じ方法で行った。一方、評価基準は、◎:4000時間以上耐え得る、○:3000時間以上4000時間未満で皮膜破壊が発生、△:2000時間以上3000時間未満で皮膜破壊が発生、×:2000時間未満で皮膜破壊が発生、とし、◎および○を合格とした。
【0127】
実験<熱交換用部材の作製>
用いた基材、及び皮膜形成方法は、上記先願明細書の実施例と同じである。また、実験例2ではプライマー層を設けた後、皮膜を形成し、このプライマー層および皮膜形成方法も上記先願明細書の実施例と同じ方法で行った。各熱交換器用部材の評価結果を表2に併記する。
【0128】
【表2】

【0129】
表2中、1は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:2−エチルヘキシルアクリレート:γ−アクリロキシブチルトリメトキシシラン=100:150:150(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
2は、樹脂[共重合組成が、テトラフルオロエチレン:2−エチルヘキシルアクリレート:γ−アクリロキシブチルトリメトキシシラン=100:150:150(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
3は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:ラウリルビニルエーテル:γ−アクリロキシブチルトリメトキシシラン=100:50:100(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
4は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:8−ヒドロキシカプリル酸ビニル:γ−アクリロキシブチルトリメトキシシラン=100:50:100(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
5は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:シクロヘキシルビニルエーテル:ラウリルビニルエーテル:4−トリメトキシシリルブチルビニルエーテル=100:10:80:20(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して5質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
6は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:2−エチルヘキシルアクリレート:8−トリメトキシシリルカプリル酸ビニル=100:70:30(モル比)の共重合体]、架橋剤(テトラエトキシシラン、含有量が樹脂100質量部に対して5質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
7は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:シクロヘキシルビニルエーテル:ラウリルビニルエーテル:4−ヒドロキシブチルビニルエーテル=100:10:80:20(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
8は、樹脂[共重合組成が、テトラフルオロエチレン:シクロヘキシルビニルエーテル:ラウリルビニルエーテル:4−ヒドロキシブチルビニルエーテル=100:10:80:20(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して10質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
9は、樹脂[共重合組成が、モノクロロトリフルオロエチレン:8−ヒドロキシカプリル酸ビニル:2−エチルヘキシルアクリレート=100:30:70(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して5質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
10は、樹脂[共重合組成が、テトラフルオロエチレン:8−ヒドロキシカプリル酸ビニル:2−エチルヘキシルアクリレート=100:30:70(モル比)の共重合体]、架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体、含有量が樹脂100質量部に対して5質量部)、および溶媒[キシレンとメチルイソブチルケトンの5:1(質量比)混合溶媒、含有量が樹脂100質量部に対して100質量部]を有する組成物、
を夫々意味している。
【0130】
なお、表2の1〜6の各液状組成物は、レベリング剤としてビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK−322」を、液状組成物全量中、1質量%以下で含有している。
【0131】
また、実験例2のプライマー層には、エポキシ樹脂系防錆顔料入りプライマー(日本ペイント株式会社製「ニッペパワーバインド」)を用いた。さらに表2の実験例2の「フッ素原子比」および「(A)/(B)比」の欄の括弧書きは、プライマー層の存在する状態で測定した参考値を示しており、同「厚み」の各欄の括弧書きは、プライマー層のみの厚みを示している。
【0132】
表2から分かるように、アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル、またはビニルエステルの加水分解性シリル基によりシロキサン結合を介して架橋され、良好な皮膜が形成された実験例1〜7の各熱交換器用部材では、耐熱性、密着性、耐食性、長期耐久性の各評価結果が良好であった。特に実験例1〜5のアクリル酸アルキルエステルの加水分解性シリル基によりシロキサン架橋された皮膜は、密着性、耐食性のみならず長期耐久性の各評価結果が極めて良好であり、非常に性能の優れた皮膜であった。
【0133】
これに対し、実験例8〜12の熱交換器用部材では、皮膜中の高分子がウレタン結合を介して架橋されているため、耐食性は良好であるが、長期耐久性が不十分であった。
【0134】
なお、上記実験例1〜12において、皮膜を形成するための樹脂が芳香族基を含有していなのにもかかわらず(A)/(B)比が0/100でないのは、レベリング剤および残留溶媒(キシレン)の存在によるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素置換基を含有するメチレン鎖を主鎖中に有する高分子を含む皮膜が外表面に形成されてなる銅系またはアルミニウム系の潜熱回収型熱交換器用部材であって、
上記高分子は、主鎖中に原子比で、炭素100に対しフッ素を5〜50有し、且つ主鎖中に芳香族基を実質的に含有しないものであり、
更に上記高分子は、下記式で示す加水分解性シリル基を有する高分子がシロキサン結合を介して架橋されたものを必須的に含有することを特徴とする潜熱回収型熱交換器用部材。
【化1】

[上記式中、R、Rは同一または異なるアルキル基、アルコキシル基または水酸基を、Rは、水素またはアルキル基を、nは自然数を示す。]
【請求項2】
上記皮膜は、赤外線吸収スペクトル分析を行ったとき、3000〜3100cm−1に現れる芳香族鎖のC−H伸縮運動に由来の特性吸収ピークの面積と、2800〜3000cm−1に現れる脂肪族鎖のC−H伸縮運動に由来の特性吸収ピークの面積との比が、10/100以下である請求項1に記載の部材。
【請求項3】
上記皮膜は、フルオロエチレン類化合物と、アルキル基の水素の一部が上記加水分解性シリル基で置換された、アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル類、ビニルエステル類よりなる群から選択される1種以上の化合物とを、必須的なモノマー成分として重合してなる共重合体を含む組成物より形成してなるものである請求項1または2に記載の部材。
【請求項4】
上記フルオロエチレン類化合物は、モノクロロトリフルオロエチレンおよび/またはテトラフルオロエチレンである請求項3に記載の部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の潜熱回収型熱交換用部材を有するものであることを特徴とする潜熱回収型熱交換器。
【請求項6】
請求項5に記載の潜熱回収型熱交換器を有するものであることを特徴とする熱交換装置。


【公開番号】特開2007−57115(P2007−57115A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240017(P2005−240017)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】