説明

潤滑グリース組成物

【課題】工作機械に付属している自動給脂装置で給脂可能であり、かつ工作機械の摺動面潤滑部でのスティックスリップの発生を抑制した潤滑グリース組成物を提供すること。
【解決手段】40℃の動粘度が10〜200mm2/sである基油と、基油に不溶の固体粉末を0.1〜10質量%含有し、混和ちょう度が400〜500である、グリース自動給脂装置を有する工作機械用潤滑グリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース自動給脂装置を有する工作機械に、詳しくは、前記工作機器の摺動面潤滑部に使用するための潤滑グリース組成物に関する。本発明の潤滑グリース組成物は、ボールネジやリニアガイドなど、転がり潤滑部にも好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、摺動面潤滑部を有する工作機械の潤滑剤としては、潤滑油が使用され、グリースは殆んど使用されなかった。これは、グリースは半固体状であることから、油状(液状)の潤滑油より摺動面への流入が劣り、潤滑不良に至ることが多かったためと考えられる。また、グリースは半固体状であるため、自動給脂装置での圧送し難いか又は圧送出来ないという不具合点があった。
潤滑油は圧送可能であるものの、過剰な量を垂れ流しにして使用するため、使用量が多くなり、潤滑油の消費コストが大きくなるという問題がある。加えて、潤滑油が飛散して、環境・雰囲気や機械を汚損したり、潤滑油のミストが発生して作業環境を悪化させるという問題がある。
このため、使用量も削減でき、垂れ流しにならず、飛散も小さく、圧送可能なグリースが望まれていた。
【0003】
工作機械の摺動面は、起動し始めに引っ掛かりを起こす。この現象は、スティックスリップと呼ばれ、加工精度に影響を与える。スティックスリップは、起動し始めには潤滑油膜がなく静摩擦が大きくなるために起こる。摺動面の停止中は理論上油膜厚さがゼロになってしまうため、起動し始めにこの現象が起こる。
潤滑油ではスティックスリップは発生しにくい。これは、潤滑油は摺動面への流入性に優れるため、起動し始めに直ちに油膜が形成されるためである。
一方、グリースは摺動面への流入が劣るため、直ちに油膜を構成できないことから、耐スティックスリップ性の改善は大きな課題であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、工作機械に付属している自動給脂装置で圧送可能であり、かつ工作機械の摺動面潤滑部でのスティックスリップの発生を抑制した潤滑グリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、この課題に対し、特定の動粘度を有する基油を採用し、基油に不溶の固体粉末を添加し、潤滑グリース組成物のちょう度を調整することにより対応した。すなわち、本発明は、以下の潤滑グリース組成物を提供する。
1.40℃の動粘度が10〜200mm2/sである基油と、
基油に不溶の固体粉末を0.1〜10質量%含有し、
混和ちょう度が400〜500である、
グリース自動給脂装置を有する工作機械用潤滑グリース組成物。
2.前記固体粉末が、有機モリブデン、四フッ化エチレン樹脂、シアヌル酸メラミン、二硫化モリブデン、グラファイト及びジアルキルジチオカルバミン酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記1項の潤滑グリース組成物。
3.基油の40℃の動粘度が30〜150mm2/sである前記1又は2項記載の潤滑グリース組成物。
4.前記工作機械が摺動面潤滑部を有する前記1〜3のいずれか1項記載の潤滑グリース組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、工作機械に付属している自動給脂装置で給脂可能であり、かつ工作機械の摺動面潤滑部でのスティックスリップの発生を抑制することができる。本発明の潤滑グリース組成物を使用すると、加工精度も向上する。漏れが小さいため、工作機械に付属のボールネジやリニアガイドといった転がり部品にも好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<40℃の動粘度が10〜200mm2/sの基油>
基油の40℃の動粘度は10〜200mm2/sであることが必要である。この動粘度範囲はグリースの基油としては低い方に属するが、200mm2/sを超えると、グリースの見かけ粘度が高くなってしまい、工作機械に付属の自動給脂装置で圧送できなくなるという不具合が生じる。10mm2/s未満では潤滑油として有効な油膜が形成されなくなる。同様の理由から、より好ましくは30〜150mm2/sである。
基油としては、上記動粘度範囲を満たせば、鉱油、合成油の種類を問わず、単独・混合の別を問わずあらゆるグリース基油が使用可能である。鉱油が好ましい。
鉱油としては、パラフィン系、ナフテン系いずれも使用できる。パラフィン系が好ましい。
合成油の例としては、ジエステル油、ポリオールエステル油に代表されるエステル系合成油、ポリαオレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、パーフロロアルキルポリエーテル油に代表されるフッ素系合成油などが挙げられる。
【0008】
<基油に不溶の固体粉末>
基油に不溶の固体粉末としては、基油に不溶であれば、有機系・無機系を問わずあらゆる固体粉末が使用可能である。
前記固体粉末としては、固体潤滑剤や固体状の耐荷重添加剤、無機系又は有機系固体粉末を使用することができる。
固体潤滑剤としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、シアヌル酸メラミン(MCA)、二硫化モリブデン、グラファイトがあげられる。固体状の耐荷重添加剤としては有機モリブデンやジアルキルジチオカルバミン酸金属塩があげられる。また、無機系の固体粉末としては、酸化亜鉛や酸化チタンなどの金属酸化物や金属粉末などがあげられ、有機系の固体粉末としては、樹脂の固体粉末や食品の固体粉末など多くの固体粉末があげられる。この中では固体潤滑剤や固体状の耐荷重添加剤、すなわち有機モリブデン、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、シアヌル酸メラミン(MCA)、二硫化モリブデン、グラファイト、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩から選ばれる少なくとも1種の固体潤滑剤がさらに好ましい。さらに好ましくは、有機モリブデン、PTFE、MCAである。これは、有機モリブデンが黄色粉末、PTFE、MCAが白色粉末、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩が例えば茶色粉末であるのに対し、二硫化モリブデン、グラファイトは黒色粉末であり、周辺環境の汚損につながり、好ましくないためである。
【0009】
前記固体粉末の添加量としては、本発明の組成物の全質量を基準として、0.1〜10質量%が望ましい。0.1%未満では効果は小さく、10%を超えると効果は頭打ちになる。同様の理由で、好ましくは0.2〜5%である。
如何なる理論にも拘束されるものではないが、基油に不溶の固体粉末は、工作機械の停止中でも摺動面間に存在して、摺動両面の直接接触を防ぐことが可能であり、この摺動面間の隙間にグリース(油分)が存在でき、摺動面の起動開始時に油膜厚さ不足を改善することが可能であるため、スティックスリップを抑制できると推定される。
【0010】
<混和ちょう度400〜500>
混和ちょう度が400〜500のグリースは、グリースの中ではかなり軟らかい、半液状のグリースである。混和ちょう度がこの範囲だと、本発明の潤滑グリース組成物を自動給脂装置で圧送できる。
混和ちょう度が400未満ではグリース詰まりの恐れがある。混和ちょう度が500より大きくなると、グリースが、軟らかく、殆んど液状となり、グリースを使用する利点、すなわち潤滑油の消費コスト削減や、環境・雰囲気や機械の汚損、ミスト発生による作業環境の悪化に対して改善ができなくなり、潤滑油からグリースへの変更の意味がなくなる。したがって、混和ちょう度は400〜500であり、好ましくは400〜470である。
【0011】
<増ちょう剤>
本発明の潤滑グリース組成物は、場合により増ちょう剤を基油に含ませてグリースとする。増ちょう剤としては、何ら制限無く使用可能であるが、基油に不溶の固体粉末としてPTFEを使用した場合、これが増ちょう剤としても作用するので、更に増ちょう剤を添加する必要はない。
増ちょう剤の例としては、Li石けんやLiコンプレックス石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレア、ポリウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、シリカ、有機化クレイに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などがある。好適な増ちょう剤としては、その汎用性からLi石けん、ジウレアが挙げられる。
【0012】
<その他の添加剤>
必要に応じ、潤滑油やグリースに通常用いられる添加剤を更に使用することができる。具体的には、耐荷重添加剤、酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤などがあげられる。
基油に溶解する耐荷重添加剤の例としては、リン酸エステルなどのリン系耐荷重添加剤、ポリサルファイド、硫化油脂などの硫黄系耐荷重添加剤、フォスフォロチオネートなどのリン-硫黄系耐荷重添加剤、液体の有機モリブデンを含むチオカルバミン酸塩、ZnDTPなどのチオリン酸塩などの有機金属塩系耐荷重添加剤または有機アミン塩系耐荷重添加剤などが挙げられる。これらの添加量は通常0.01〜10質量%である。
【0013】
<自動給脂装置を有する工作機械>
本発明の自動給脂装置を有する工作機械としては、例えば特開2005-233240号公報の図3に記載されているような構造のものを使用することができる。
【実施例1】
【0014】
<試験潤滑グリース>
実施例及び比較例の潤滑グリース組成物を調製するのに用いた成分を以下に示す。
基油:パラフィン系鉱物油(40℃の動粘度は表1及び表2に記載したとおり)
基油に不溶の固体粉末:
有機モリブデンA:アデカサクラルーブ600(旭電化社製)
有機モリブデンB:Molyvan A (R.T.Vanderbilt社製)
PTFE:ルブロンL5F(ダイキン工業(株)製)
MCA:市販の一般グレード
銅カーバメート(アルキルジチオカルバミン酸銅):ノクセラーTTCU(大内新興化学工業社製)
二硫化モリブデン:市販の一般グレード
グラファイト:市販の一般グレード
比較用として、有機モリブデン(液体):Molyvan822(R.T.Vanderbilt社製)
増ちょう剤:脂肪族ジウレア(ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネートとオクチルアミンとから構成される化合物)
【0015】
表1及び表2に示した基油中で、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート1モルに対しオクチルアミン2モルの比率で所定量を反応させ、基油に不溶の固体粉末を所定量加え、3本ロールミルで規定のちょう度になるように調整した。なお、基油の40℃における動粘度は、JIS K 2283に基づき測定した。表1及び表2中の「質量%」は、試験グリースの全質量を基準とした値である。
【0016】
<試験方法>
・外観:目視による。
・圧送性:レオメータによる下記条件での見かけ粘度の測定により判定した。
(試験条件)温度:25℃
せん断率:100s-1
(判定基準)1.5Pa・s以下:合格(○)
1.5Pa・s超 :不合格(×)
【0017】
・飛散性:下記条件によるたれ落ち試験で判定した。
(試験方法)SPCC-SD鋼板に試料グリース約0.4gを塗布し、45度に傾け、5秒経過後のたれ落ち(移動)の有無で判定する。
(試験条件)温度:25℃
(判定基準)たれ落ちなし:合格(○)
たれ落ちあり:不合格(×)
【0018】
・スティックスリップ:下記条件による摩擦試験を行い、3往復目のスティックスリップの有無で判定する。
(試験機)バウデン付着滑り試験機
(試験条件)プレート(15×160mm SPCC-SD鋼板)と鋼性円筒(φ12mm)の面接触
荷重:4kgf(接触圧力:343kPa)
摺動速度:30 mm/m
摺動距離:20 mm
試料グリース:約0.5g
温度:25℃
(判定基準)スティックスリップなし:合格(○)
スティックスリップあり:不合格(×)
結果を表1及び表2に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃の動粘度が10〜200mm2/sである基油と、
基油に不溶の固体粉末を0.1〜10質量%含有し、
混和ちょう度が400〜500である、
グリース自動給脂装置を有する工作機械用潤滑グリース組成物。
【請求項2】
前記固体粉末が、有機モリブデン、四フッ化エチレン樹脂、シアヌル酸メラミン、二硫化モリブデン、グラファイト及びジアルキルジチオカルバミン酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1の潤滑グリース組成物。
【請求項3】
基油の40℃の動粘度が30〜150mm2/sである請求項1又は2記載の潤滑グリース組成物。
【請求項4】
前記工作機械が摺動面潤滑部を有する請求項1〜3のいずれか1項記載の潤滑グリース組成物。

【公開番号】特開2012−92220(P2012−92220A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240575(P2010−240575)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(591231926)リューベ株式会社 (25)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】