説明

潤滑油基油の製造方法

【課題】 ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油から、十分に高い低温流動性及び粘度指数を有する潤滑油基油を十分に高い収率で得ることを可能とする潤滑油基油の製造方法を提供すること。
【解決手段】 潤滑油基油の製造方法は、水素存在下、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油を、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有する第1のモレキュラーシーブを含有する第1の触媒、及び、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有する第2のモレキュラーシーブを含有する第2の触媒にこの順序で接触させる工程を備え、第1のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を有し且つ酸点を有するものであり、第2のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を実質的に有しておらず、酸点を有するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油基油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷低減の観点からみると、潤滑油は、動機器の作動を円滑にすることによりそのエネルギー効率を高め、二酸化炭素の排出量低減に寄与することができる。昨今の環境に対する意識の高まりとともに、高性能な潤滑油の需要はより一層増えている。
【0003】
一般的に、潤滑油基油は、石油由来のノルマルパラフィンを多く含有する高沸点留分を原料油とし、必要により水素化分解処理を施したうえで水素化異性化によりノルマルパラフィンをイソパラフィンに転換することにより製造される。近年では、フィッシャー・トロプシュ合成法により得られるノルマルパラフィンを多く含有する高沸点留分も潤滑油基油の原料として注目されている。
【0004】
これら原料油中に含まれるノルマルパラフィンや、1分岐イソパラフィンなどのわずかに分岐を有するイソパラフィンは、ワックス成分と呼ばれ、結晶化し易い性質を有する。高性能の潤滑油、例えば米国石油協会による潤滑油グレードの分類におけるグループIII+等に用いる基油には所定の低温流動性及び粘度指数を有していることが求められる。潤滑油基油にワックス成分が含まれると低温流動性が低下するため、上述した原料油から得られる潤滑油基油においてはワックス成分が実質的に全て除去又はワックス成分以外のものに転換されていることが望ましい。
【0005】
ワックス成分を除去又はワックス成分以外のものに転換する脱蝋方法としては、MEK、液化プロパン等の溶媒によりワックス成分を抽出、除去する溶媒脱蝋などが知られている。また、ワックス成分をワックス成分以外のものに転換する脱蝋方法としては、固体酸性を有する担体上に水素化−脱水素化能を有する金属成分を担持した所謂二元機能触媒の作用により、ノルマルパラフィンやわずかに分岐を有するイソパラフィンを、分岐を多く有するイソパラフィンに水素化異性化する若しくは分解する接触脱蝋などが知られている。
【0006】
上記の脱蝋方法のうち溶媒脱蝋は、ワックス成分の除去効率には優れるが、低温での処理が必要である等、極めて高い運転コストを要する上、適用可能な原料油種が限定されること、さらには原料油種により製品収率が制限されてしまうことなどの問題がある。
【0007】
接触脱蝋の場合、原料油中のワックス成分を実質的に全て除去しようとすると反応温度を高める必要があり、分解反応が優勢となって軽質留分が増加してしまう。この軽質留分は、潤滑油基油として重要な特性である粘度指数を低下させる原因となることから、これを蒸留等により除去する必要がある。結果として、目的とする潤滑油基油の収率が極度に低下し、経済合理性を失することになる。
【0008】
これまでにも、接触脱蝋に用いる触媒の異性化選択性を向上させる試みがなされおり、例えば下記特許文献1には、周期表第VIII族等の金属を含むZSM−22、ZSM−23、ZSM−48等の中程度の大きさの一次元状細孔を有し、結晶子の大きさが約0.5μを越えないモレキュラーシーブからなる触媒に、直鎖状またはわずかに分岐を有する炭素数10以上の炭化水素原料を異性化条件下に接触せしめ、脱蝋された潤滑油を製造するプロセスが開示されている。しかし、このような技術であっても、ワックス成分を実質的に含有しない潤滑油基油を高い経済性で製造できる水準の異性化選択性は達成されていない。
【0009】
そこで、高性能の潤滑油基油を炭化水素原料の水素化異性化により製造する場合、水素化異性化工程において原料油中のワックス成分が一部残留する反応条件を選択し、当該工程の後に溶媒脱蝋工程を付加することにより、残留したワックス成分を除去する方法が行われている(例えば、下記特許文献2を参照。)。しかし、この方法は、高コストである溶媒脱蝋工程を必要とする点で経済性が不十分である。
【0010】
下記特許文献3には、フィッシャー・トロプシュ・ワックスから低温流動性及び粘度指数に優れた潤滑油基油を製造することを目的として、原料ワックスを、周期表第VIII族を含むゼオライトベータからなる触媒、及びそれに続き周期表第VIII族を含む、ZSM−48等の特定の大きさ、形状を有する一次元状細孔構造を有するモレキュラーシーブからなる触媒に接触せしめることによるイソパラフィン系潤滑油基油の製造方法が開示されている。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,282,958号公報
【特許文献2】米国特許第5,059,299号公報
【特許文献3】特表2006−502288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の方法であっても、低温流動性及び粘度指数に優れた潤滑油基油を満足し得る収率で得られているとはいえず、製造コストの上昇を招く溶媒脱蝋を用いず高性能の潤滑油基油を経済性よく製造するためには、低温流動性及び粘度指数は維持しつつ基油の収率を更に高めることが望まれている。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油から、十分に高い低温流動性及び粘度指数を有する潤滑油基油を十分に高い収率で得ることを可能とする潤滑油基油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ワックス成分を含有する炭化水素油を、水素存在下、特定の2つの触媒層に特定の順序で流通させることにより、炭化水素油の軽質化を十分抑制しつつ、ワックス成分を多分岐イソパラフィンへと高い転換率で水素化異性化することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の潤滑油基油の製造方法は、水素存在下、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油を、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有する第1のモレキュラーシーブを含有する第1の触媒、及び、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有する第2のモレキュラーシーブを含有する第2の触媒にこの順序で接触させる工程を備え、第1のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を有し且つ酸点を有するものであり、第2のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を実質的に有しておらず、酸点を有するものであることを特徴とする。
【0016】
なお、本発明でいう「1分岐イソパラフィン」とは、メチレン鎖からなる主鎖に直鎖アルキル分岐がひとつ結合した構造を有するイソパラフィンを意味する。
【0017】
本発明の潤滑油基油の製造方法によれば、上記工程を備えることにより、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油から、十分に高い低温流動性及び粘度指数を有する潤滑油基油を十分に高い収率で得ることを可能となる。
【0018】
本発明の潤滑油基油の製造方法において、第1のモレキュラーシーブ及び/又は第2のモレキュラーシーブが、TON構造を有するゼオライト、MTT構造を有するゼオライト及びZSM−48ゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
また、水素化活性を有する金属成分が、白金及び/又はパラジウムであることが好ましい。
【0020】
更に、第1のモレキュラーシーブが、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブを、水を主たる溶媒としカチオン種を含有する溶液中でイオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物であることが好ましい。
【0021】
また、第2のモレキュラーシーブが、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブをイオン交換することなく焼成し、その後イオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の潤滑油基油の製造方法において、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンの沸点が280〜1000℃の範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油から、十分に高い低温流動性及び粘度指数を有する潤滑油基油を十分に高い収率で得ることを可能とする潤滑油基油の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本実施形態の潤滑油基油の製造方法は、水素存在下、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油を、本発明に係る第1の触媒に接触させて水素化異性化する第1の工程と、第1の工程を経て得られる第1の生成油を、水素存在下、本発明に係る第2の触媒に接触させて第1の生成油に含まれるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを水素化分解する第2の工程とを備える。
【0025】
第1の工程における水素化処理には水素化分解が含まれていてもよく、第2の工程における水素化処理には水素化異性化が含まれていてもよい。なお、分解とは分子量の低下を伴う化学反応を意味し、異性化とは分子量及び分子を構成する炭素数を維持したまま、炭素骨格の異なる他の化合物への転換を意味する。
【0026】
本実施形態の潤滑油基油の製造方法で用いる原料としての炭化水素油(以下、原料油という場合もある)は、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有するものであれば特に限定されないが、ワックス成分を多く含む石油由来又は合成系の各種炭化水素油が好ましく用いられる。原料油に含まれるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンの沸点は、常圧換算において、好ましくは280℃以上、より好ましくは360℃以上であり、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下である。
炭化水素油が上記の範囲の沸点を有するノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含むものであることにより、得られる潤滑油基油における粘度指数等を所望の範囲とすることが容易となる。また、炭化水素油の初留点が、所望する潤滑油基油の初留点よりも高いことが好ましい。
【0027】
炭化水素油の具体例としては、重質軽油、減圧軽油、潤滑油ラフィネート、ブライトストック、スラックワックス(粗蝋)、蝋下油、脱油蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、合成油、フィッシャー・トロプシュ合成油、高流動点ポリオレフィン、直鎖α−オレフィンワックスなどが挙げられる。これらの中でも、スラックワックス、フィッシャー・トロプシュ合成により得られるワックスが好ましい。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、原料油は、ノルマルパラフィンを、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更により好ましくは80質量%以上含有するのが好ましい。更に、本発明の潤滑油基油の製造方法に用いる原料油は、上記各種炭化水素油に水素化処理又は水素化分解処理を施したものであってよい。水素化処理により、含イオウ化合物、含窒素化合物等の水素化異性化触媒の活性低下をもたらす物質、及び芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素等の粘度指数を低下する物質を低減あるいは除去することができる。また、水素化分解処理を行う場合には、上記の効果に加えて、原料油の沸点を、目的とする基油の留分を効率的に得るために適した範囲とすることができ、また水素化分解反応と同時に進行する異性化反応によるワックス成分の予備的な低減を行うことができる。
【0029】
第1の工程において使用する第1の触媒は、酸点を有し、水素化活性を有する金属成分を有する、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有するモレキュラーシーブ(以下、「第1のモレキュラーシーブ」という)を含むものであり、固体酸性及び水素化−脱水素化の二元機能を有する水素化異性化触媒である。この触媒の水素化異性化作用により、原料油中のノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンは、ノルマルパラフィンが1分岐イソパラフィン、好ましくは2つ以上のアルキル分岐を有するイソパラフィン(以後、「多分岐イソパラフィン」という。)に、1分岐イソパラフィンが多分岐イソパラフィンに転換される。
【0030】
第1のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブは、ノルマルパラフィンの異性化反応における高い異性化活性と抑制された分解活性とを高水準で両立する観点から、10員環又は8員環からなる一次元状細孔構造を有するものであり、このようなモレキュラーシーブとして具体的には、10員環からなる細孔構造を有するAEL、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、NES、TON、MTT、WEI、及びZSM−48型ゼオライト、並びに、8員環からなる細孔構造を有するANA、CHA、ERI、GIS、KFI、LTA、NAT、PAU、YUG、及びDDR型ゼオライトなどが挙げられる。なお、上記の各アルファベット三文字は、分類分けされたモレキュラーシーブ型ゼオライトの各構造に対して、国際ゼオライト協会構造委員会(The Structure Commission of The International Zeolite Association)が与えている骨格構造コードを意味する。また、同一のトポロジーを有するゼオライトは包括的に同一のコードで呼称される。上記のゼオライトの中でも、高異性化活性及び低分解活性の点で、10員環からなる一次元状細孔構造を有するTON、MTT構造を有するゼオライト、及び、ZSM−48ゼオライトが好ましい。TON構造を有するゼオライトとしては、ZSM−22ゼオライトがより好ましく、また、MTT構造を有するゼオライトとしては、ZSM−23ゼオライトがより好ましい。第1のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブとしては、ZSM−22又はZSM−48が特に好ましい。
【0031】
また、第1のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブとして、上記ZSM−22、ZSM−23又はZSM−48ゼオライトを用いる場合、これらのゼオライトにおける珪素原子とアルミニウム原子とのモル比([Si]/[Al])(以下、「Si/Al比」という。)は10〜400であることが好ましく、20〜300であることがより好ましい。Si/Al比が下限値未満の場合には、ノルマルパラフィンの転換に対する活性は高くなるが、イソパラフィンへの異性化の選択性が低下し、また反応温度の上昇に伴う分解反応の増加が急激となる傾向にあることから好ましくない。一方、Si/Al比が上限値を超える場合には、ノルマルパラフィンの転換に必要な触媒活性が得られにくくなり好ましくない。
【0032】
第1のモレキュラーシーブは酸点を有する。モレキュラーシーブに酸点を付与する方法としては、モレキュラーシーブ中の対カチオンをプロトン又はアルカリ土類金属カチオンに交換することが好ましく、プロトンに交換することがより好ましい。モレキュラーシーブの対カチオオンのイオン交換は常法によって行うことができる。すなわち、交換しようとするカチオン種を含有する好ましくは水溶液中にモレキュラーシーブを浸漬し、好ましくは加熱、混合下にイオン交換を行う。対カチオンをプロトンに交換する方法としては、例えば、鉱酸の水溶液によりイオン交換する方法、アンモニウムイオンを含有する水溶液中でイオン交換することにより対カチオンをアンモニウムイオンとしたモレキュラーシーブを得、後にこれを焼成することによりアンモニアを放出させてプロトンに変換する方法が挙げられる。
【0033】
第1のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブは、有機テンプレートを含有する合成モレキュラーシーブを、焼成により有機テンプレートを除去し、その後イオン交換することにより得られる一般的なイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物であってもよいが、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブを、水を主たる溶媒としカチオン種を含有する溶液中でイオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブ(以下、「第1のイオン交換モレキュラーシーブ」という場合もある)若しくはその焼成物であることが好ましい。このようなイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物を用いることにより、第1の触媒は、本実施形態の第1の工程におけるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンの水素化異性化に対する選択性(異性化と分解との相対比)を向上することができ、より高い収率にて低温流動性及び粘度指数に優れる潤滑油基油を得ることが可能になる。
【0034】
ここで、第1のイオン交換モレキュラーシーブの製造方法について説明する。
【0035】
第1のモレキュラーシーブの原料となるモレキュラーシーブは、好ましくは合成モレキュラーシーブであり、上記の細孔構造を形成する目的で、有機テンプレートと呼ばれる主として窒素を含む有機化合物の存在下に合成される。通常、合成されたモレキュラーシーブを触媒として用いる場合、洗浄、乾燥後、分子状酸素を含む雰囲気下に450〜650℃程度の温度にて焼成し、含有する有機テンプレートを酸化分解により除去する。そしてその後、合成モレキュラーシーブの原料由来の一般的な対イオンであるアルカリ金属カチオンを他のカチオン、好ましくはプロトン、アンモニウムカチオン、アルカリ類金属カチオン等によりイオン交換し、イオン交換モレキュラーシーブを得る。
【0036】
これに対し、本実施形態に係る第1のイオン交換モレキュラーシーブは、合成後に有機テンプレートを除去するための焼成処理を行うことなく、有機テンプレートを含んだ状態において、好ましくはプロトン、アンモニウムカチオン、アルカリ類金属カチオン等によってイオン交換処理されたものであることが好ましい。イオン交換処理は、水を主たる溶媒とし、前記のカチオン種を含有する溶液中で、好ましくは加熱、混合下に行うことが好ましい。なお、水を主たる溶媒とする溶液とは、溶液に用いる溶媒が、その質量を基準に50質量%以上の水を含有するものであること意味する。イオン交換に供するカチオン種を含有する溶液は、イオン交換処理中少なくとも1度、新しいものに交換することが好ましい。このようにして得られた第1のイオン交換モレキュラーシーブは、その後焼成処理を行った焼成体としてもよい。なお、上記の方法により得られる第1のイオン交換モレキュラーシーブは、炭化水素の分解活性が抑制され、これを用いた水素化異性化触媒は、結果として異性化選択性が向上するとの特徴を有する。
【0037】
第1のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブ上には、水素化活性を有する金属成分として、周期表第VIII族に属する金属、モリブデン及びタングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属が担持されることが好ましい。周期表第VIII族に属する金属としては、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム及び白金が挙げられる。これらの中でも、活性、選択性及び活性の持続性の観点から、白金及び/又はパラジウムが好ましく、白金がより好ましい。周期表第VIII族に属する金属、並びに、モリブデン及びタングステンは、1種を単独で又は2種以上の組合せによって用いることができる。
【0038】
また、原料油が、含イオウ化合物及び/又は含窒素化合物を多く含む炭化水素油である場合、第1の触媒の触媒活性の持続性の観点から、第1のモレキュラーシーブ上に担持させる水素化活性を有する金属成分は、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン−コバルト、ニッケル−タングステン−コバルト等の組み合わせであることが好ましい。
【0039】
モレキュラーシーブ上に上記金属を担持させる方法としては、含浸法(平衡吸着法、ポアフィリング法、初期湿潤法)、イオン交換法等の公知の方法が挙げられる。また、その際に使用される上記金属成分を含む化合物としては、上記金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、錯化合物等が挙げられる。また、白金を含む化合物としては、塩化白金酸、テトラアンミンジニトロ白金、ジニトロジアンミン白金、テトラアンミンジクロロ白金などが挙げられる。
【0040】
第1のモレキュラーシーブに含有される上記金属の量は、モレキュラーシーブの質量に対して0.1〜20質量%が好ましい。金属含有量が下限値未満の場合には、所定の水素化/脱水素化機能を付与することが困難となり、一方上限値を超える場合には、当該金属上での炭化水素の分解による軽質化が進行しやすくなり、目的とする留分の収率が低下する傾向にあり、さらには触媒コストの上昇を招く傾向にある。
【0041】
第1の触媒は、例えば、上記第1のイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物と、このモレキュラーシーブに含有させた上記の金属成分を含む化合物とが含まれる触媒組成物を、焼成により活性化して得ることができる。焼成の条件としては、分子状酸素を含有する雰囲気下、250℃〜600℃が好ましく、300〜500℃がより好ましい。分子状酸素を含有する雰囲気としては、例えば、酸素ガス、窒素等の不活性ガスで希釈された酸素ガス、空気等が挙げられる。焼成時間は、通常、0.5〜20時間程度である。このような焼成処理を経て、第1のモレキュラーシーブに含有された上記金属成分を含む化合物が、金属単体、その酸化物又はそれに類した種へと変換され、得られた触媒にはノルマルパラフィンの異性化活性が付与される。なお、焼成温度が上記範囲外であると、触媒の活性及び選択性が不十分なものとなる傾向にある。また、第1のイオン交換モレキュラーシーブがアンモニウム型モレキュラーシーブである場合、上記の焼成処理の過程でアンモニウム対カチオンがアンモニアを放出してプロトンとなり、ブレンステッド酸点が形成される。
【0042】
また、上記触媒組成物は、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、マグネシア、ジルコニア等のバインダーと呼ばれる多孔質酸化物の少なくとも1種を更に含むことが、触媒の成形性付与及び成形された触媒の機械的強度向上等の観点から好ましい。この場合、触媒組成物における上記金属成分が担持された上記第1のイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物とバインダーとの含有割合は、1〜90質量部:99〜10質量部であることが好ましく、10〜80質量部:90〜20質量部であることがより好ましい。
【0043】
また、バインダーを含む触媒組成物は、成形されることが好ましい。成形された触媒組成物の形状としては、例えば、円筒状、ペレット状、球状、三つ葉・四つ葉形の断面を有する異形筒状等が挙げられる。触媒組成物がこのような形状に成形されることにより、焼成して得られる触媒の機械的強度が高められるとともに、触媒の取扱い性が向上し、また反応時に反応流体の圧力損失を低減することが可能となる。なお、触媒組成物の成形においては公知の方法が利用される。
【0044】
バインダーを含む触媒組成物の作製においては、上記水素化活性を有する金属成分をモレキュラーシーブ上に含有させる前に、モレキュラーシーブ及びバインダーを含む担体を成形してもよく、上記水素化活性を有する金属成分が含有されたモレキュラーシーブとバインダーとを混合して成形してもよい。本発明においては、前者が好ましい。すなわち、まず、イオン交換モレキュラーシーブ、バインダーを混合、成形し、得られた成形体を多孔質酸化物の固体酸性を引き出すために、空気等の分子状酸素を含有する雰囲気下、500℃〜600℃程度の温度で焼成することが好ましい。イオン交換モレキュラーシーブがアンモニウム型である場合には、この焼成によりアンモニアが脱離してプロトン型に変換され、ブレンステッド酸点が形成される。この焼成された成形担体に水素化活性を有する金属成分を担持し、乾燥後、反応器内に充填し、活性化のための焼成を行うことが好ましい。
【0045】
第1の触媒においては、本発明の効果が損なわれない範囲で、第1のモレキュラーシーブ上に水素化活性を有する金属以外の金属が更に担持されていてもよい。また、第1の触媒がバインダーを含む触媒組成物から得られるものである場合、バインダー上に水素化活性を有する金属及び/又はそれ以外の金属が担持されていてもよい。
【0046】
第1の触媒は、上記の焼成処理に続いて、好ましくは分子状水素を含む雰囲気下、250〜500℃、より好ましくは300〜400℃で、0.5〜5時間程度の還元処理が施されたものであることが好ましい。このような工程を経ることにより、炭化水素油の脱蝋に対する高い活性をより確実に触媒に付与することができる。
【0047】
次に、第2の工程において使用する第2の触媒について説明する。第2の触媒は、水素化活性を有する金属成分を実質的に有しておらず、酸点を有する、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有するモレキュラーシーブ(以下、「第2のモレキュラーシーブ」という)を含有し、第1の工程を経て得られた生成油中に含まれるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを分解し、軽質分とする機能を有する触媒である。
【0048】
第2のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブとしては、第1のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブと同様のものが挙げられる。好ましいモレキュラーシーブは、TON構造を有するゼオライト、MTT構造を有するゼオライト及びZSM−48であり、より好ましいモレキュラーシーブは、ZSM−22、ZSM−23及びZSM−48であり、特に好ましいものはZSM−23である。また、第2のモレキュラーシーブが有する酸点についても、第1のモレキュラーシーブと同様にして形成されるものである。
【0049】
第2のモレキュラーシーブを構成するモレキュラーシーブは、上記第1のイオン交換モレキュラーシーブと同様に、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブを、水を主たる溶媒としカチオン種を含有する溶液中でイオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブであってもよいが、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブをイオン交換することなく焼成し、その後イオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブ(以下、「第2のイオン交換モレキュラーシーブ」という場合もある)若しくはその焼成物であることが好ましい。このようなイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物を用いることにより、第2の触媒は、本実施形態の第2の工程におけるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンの分解活性を向上することができ、より低温流動性に優れる潤滑油基油を得ることが可能になる。
【0050】
ここで、第2のイオン交換モレキュラーシーブの製造方法について説明する。
【0051】
第2のイオン交換モレキュラーシーブもまた、有機テンプレートの存在下に合成された合成モレキュラーシーブから得られるものであることが好ましい。通常、合成されたモレキュラーシーブは洗浄、乾燥後、分子状酸素を含む雰囲気下に450〜650℃程度の温度にて焼成され、含有する有機テンプレートが酸化分解により除去される。そしてその後、合成モレキュラーシーブの原料由来の一般的な対イオンであるアルカリ金属カチオンを他のカチオン、好ましくはプロトン、アンモニウムカチオン、アルカリ類金属カチオン等によりイオン交換されて、イオン交換モレキュラーシーブが得られる。第2のイオン交換モレキュラーシーブは、このような通常の方法で得られるものであることが好ましい。このようにして得られた第2のイオン交換モレキュラーシーブは、その後焼成処理を行い焼成物として用いることができる。第2の触媒が、このようなイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物から得られる第2のモレキュラーシーブを含むことにより、本実施形態に係る第1の工程を経て得られる生成油中に含まれるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンの分解活性を高めることが可能になる。
【0052】
第2の触媒を構成する第2のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を実質的に含有しない。ここで、「水素化活性を有する金属成分を実質的に含有しない」とは、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンの水素化異性化の促進に効果のある金属成分を、その効果が得られる量で含有しないことを意味し、このような量に満たない微量であれば当該金属成分を含有してもよい。具体的には、当該金属成分の含有量が、触媒質量を基準として0.1質量%未満であればよく、好ましくは0.05質量%以下であればよい。上記の金属成分としては、周期表第VIII族に属する金属、モリブデン及びタングステンが挙げられる。このような水素化活性を有する金属成分を実質的に含有せず、酸点を有する、上記構造を有する第2のモレキュラーシーブを含有する触媒を第2の工程で用いることにより、第1の工程の生成油中に含まれるノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンは異性化を受けることは殆どなく、分解反応により軽質分となり、除去することが可能となる。
【0053】
第2の触媒は、例えば、上記第2のイオン交換モレキュラーシーブが含まれる触媒組成物から得ることができる。また、この触媒組成物は、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、マグネシア、ジルコニア等のバインダーと呼ばれる多孔質酸化物の少なくとも1種を更に含むことが、触媒の成形性付与及び成形された触媒の機械的強度向上等の観点から好ましい。この場合、触媒組成物における上記第2のイオン交換モレキュラーシーブとバインダーとの含有割合は、1〜90質量部:99〜10質量部であることが好ましく、10〜80質量部:90〜20質量部であることがより好ましい。
【0054】
また、バインダーを含む触媒組成物は、成形されることが好ましい。成形された触媒組成物の形状としては、例えば、円筒状、ペレット状、球状、三つ葉・四つ葉形の断面を有する異形筒状等が挙げられる。触媒組成物がこのような形状に成形されることにより、焼成して得られる触媒の機械的強度が高められるとともに、触媒の取扱い性が向上し、また反応時に反応流体の圧力損失を低減することが可能となる。なお、触媒組成物の成形においては公知の方法が利用される。
【0055】
本発明に係る第2の触媒を製造する好ましい態様を以下に述べる。まず、イオン交換モレキュラーシーブ、バインダーを混合、成形し、得られた成形体をバインダーである多孔質酸化物の固体酸性を引き出すために、空気等の分子状酸素を含有する雰囲気下、400℃〜600℃程度の温度で焼成することが好ましい。イオン交換モレキュラーシーブがアンモニウム型である場合には、この焼成によりアンモニアが脱離してプロトン型に変換され、ブレンステッド酸点が形成され、第2の触媒が得られる。なお、好ましい態様ではないが、バインダーを配合しての成形及び成形体の焼成を行わず、イオン交換モレキュラーシーブを反応器等に充填し、分子状酸素を含有する雰囲気、あるいは不活性気体雰囲気下、250〜600℃程度の温度で焼成してもよい。また、第2の触媒は水素化活性を有する金属成分を実質的に含有しないため還元処理は不要であるが、これを行っても問題はない。
【0056】
第2の触媒においては、本発明の効果が損なわれない範囲で、モレキュラーシーブ上に、水素化活性を有する金属以外の金属が担持されていてもよい。また、触媒がバインダーを含む場合、このバインダー上に水素化活性を有する金属以外の金属が担持されていてもよい。
【0057】
本実施形態の潤滑油基油の製造方法は、低温流動性の観点から、第2の工程を経て得られる潤滑油基油がノルマルパラフィンを実質的に含有しない(ガスクロマトグラフィー法による分析により測定されるノルマルパラフィン含有量が潤滑油基油全量を基準として0.01質量%以下となる)条件で実施されることが好ましく、また第2の工程を経て得られる潤滑油基油における1分岐イソパラフィンの含有量ができるだけ小さくなる条件で実施されることが好ましい。
【0058】
第1の工程及び第2の工程における反応の形式は特に限定されないが、固定床連続流通式反応装置を用いることが好ましい。また、第1の工程及び第2の工程は、以下の構成を有する反応装置によって実施することができる。例えば、第1の触媒を充填した反応器と、第2の触媒を充填した反応器とを、前者を上流側として直列に連結した装置に、上流側から原料油及び水素を供給することにより第1の工程及び第2の工程をこの順序で実施できる。また、例えば、単一の塔型の固定床連続流通式反応器内の上流側に第1の触媒を充填し、さらに反応器内の下流側に第2の触媒を積層する形で充填した単一の反応器内に、上流側から原料油及び水素を流通させることにより第1の工程及び第2の工程をこの順序で実施できる。
【0059】
本発明の潤滑油基油の製造方法においては、第1の工程の生成油及び第2の工程の生成油についてその組成を分析し、その結果を基にそれぞれの工程の運転条件を調整して、第2の工程を経て得られる生成物の性状を目的とする潤滑油基油に適したものとすることが好ましい。特に、第1の工程における生成油中のノルマルパラフィン含有量、第2の工程の生成油中のノルマルパラフィン及び1分岐イソパラフィンの含有量に着目して運転条件を調整することが好ましい。第1の工程においては、生成油中のノルマルパラフィン含有量を低減しようとする場合には、反応温度を高める及び/又はLHSVを小さくすることが好ましい。一方、第2の工程において、生成油中のノルマルパラフィン及び1分岐イソパラフィンの含有量を低減しようとする場合は、反応温度を高める及び/又はLHSVを小さくすることが好ましい。このようにして、生成油中のノルマルパラフィン及び1分岐イソパラフィンの含有量を所望の水準に低減し、且つ目的の潤滑油基油の収率を望ましい水準に保つことができる。
【0060】
第1の工程における反応条件は特に限定されないが、反応温度:300〜400℃、LHSV:0.1〜10h−1、水素圧力:0.1〜10MPa、水素/油比:100〜10000scfbであることが好ましい。
【0061】
第2の工程における反応条件は特に限定されないが、反応温度:300〜450℃、LHSV:0.1〜10h−1、水素圧力:0.1〜10MPa、水素/油比:100〜10000scfbであることが好ましい。
【実施例】
【0062】
次に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0063】
(触媒1の前駆体の調製)
ERNST,S. et al., Appl. Catal. 1989、48、137に記載の方法に従って、Si/Al比が45のZSM−22ゼオライトを水熱合成により製造した。得られたZSM−22ゼオライトを、水洗、乾燥後、フラスコに移し、0.5M 塩化アンモニウム水溶液を加えて6時間加熱環流し、一旦水溶液を廃棄し、新たに0.5M 塩化アンモニウム水溶液を加えて、さらに6時間加熱環流してイオン交換を行った。イオン交換終了後、ろ過により固形分を採取し、イオン交換水により洗浄し、60℃の乾燥器中で一晩乾燥して、NH型ZSM−22を得た。
【0064】
テトラアンミンジクロロ白金(II)(Pt(NHCl)を最小限の量のイオン交換水に溶解した溶液を準備した。この溶液を、上記で得られたNH型ZSM−22に初期湿潤法により含浸し、ZSM−22の質量に対して0.3質量%の白金量となるように担持を行った。次に、これを、60℃の乾燥器中で一晩乾燥した後、打錠成形により円盤状に成形した。この成形体を更に粗く粉砕し、篩い分けにより最大粒径125〜250μmの不定形の粒状体とし、触媒1の前駆体を得た。
【0065】
(触媒2の前駆体の調製)
触媒1の前駆体の調製の場合と同様の方法で、Si/Al比が45のZSM−22ゼオライトを水熱合成により製造した。得られたZSM−22ゼオライトを、水洗、乾燥後、石英管炉に充填し、窒素気流下に加熱して5℃/分の速度で400℃まで昇温し、そのまま6時間保持した。その後、流通する気体を酸素ガスに切替え、5℃/分の速度でさらに550℃まで昇温し、そのまま550℃にて一晩保持した。この焼成処理により、水熱合成時に使用し、ZSM−22内に含有される有機テンプレートを除去した。焼成処理後のZSM−22を室温まで冷却した後、フラスコに移し、0.5M 塩化アンモニウム水溶液を加えて一夜加熱環流してイオン交換を行った。イオン交換終了後、ろ過により固形分を採取し、イオン交換水により洗浄し、60℃の乾燥器中で一晩乾燥した後、打錠成形により円盤状に成形した。この成形体を更に粗く粉砕し、篩い分けにより最大粒径125〜250μmの不定形の粒状体とし、NH型ZSM−22を得た。これを触媒2の前駆体とした。
【0066】
(実施例1)
固定床反応管に、上記で得られた触媒1の前駆体及び触媒2の前駆体を、触媒1の前駆体の層と触媒2の前駆体の層との容積比が90:10、触媒1の前駆体の層及び触媒2の前駆体の層の合計容積が50mlとなるように、両前駆体の層間にアルミナボールの層を挟んで積層して充填した。
【0067】
次に、この反応管の触媒1の前駆体の層を上流側として、温度調整可能な外部加熱装置内に設置し、空気流下、400℃、1時間の条件にて活性化のための焼成、続いて水素気流下、400℃、1時間の条件にて還元処理を行い、触媒1及び触媒2の前駆体をそれぞれ触媒1及び触媒2とした。
【0068】
次に、反応系内に窒素ガスを流通させながら200℃まで降温し、反応原料としてノルマルヘキサデカン(試薬をそのまま使用)及び水素ガスを触媒1側から供給して反応を開始した。反応開始後2時間経過時に、反応生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。次に、反応温度を10℃高め、反応温度が安定してから2時間経過時に反応生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。以後、同様に反応温度を10℃ずつ高め、反応生成物の分析を実施した。
【0069】
反応生成物中に残留するノルマルヘキサデカンが検出されない最も低い反応温度で得られた反応生成物についての分析結果を表1に示す。なお、反応生成物中、「1分岐C16」はアルキル分岐を1つ有するC16イソパラフィンを、「多分岐C16」はアルキル分岐を2つ以上有するC16イソパラフィンを、「全分岐C16」は「1分岐C16」と「多分岐C16」の合計を、「分解物」はC15以下の炭化水素をそれぞれ表す。
【0070】
(実施例2)
触媒1の前駆体の層と触媒2の前駆体の層との容積比を80:20とした以外は実施例1と同様にして、ノルマルヘキサデカンを原料とした反応を行った。結果を表1に示す。
(実施例3)
触媒1の前駆体の層と触媒2の前駆体の層との容積比を60:40とした以外は実施例1と同様にして、ノルマルヘキサデカンを原料とした反応を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
触媒層を触媒1のみとした以外は実施例1と同様にして、ノルマルヘキサデカンを原料とした反応を行った。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】



【0073】
表1に示されるように、触媒1と触媒2とを積層して用いた実施例1〜3は、触媒1のみを用いた比較例1に比べて、反応生成物中の分解物の割合は小さく、全分岐C16の割合、特には多分岐C16の割合が大きくなることが確認された。
【産業上の利用の可能性】
【0074】
本発明の潤滑油基油の製造方法によれば、ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油から、十分に高い低温流動性及び粘度指数を有する潤滑油基油を十分に高い収率で得ることができ、高性能な潤滑油基油を経済性よく製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素存在下、
ノルマルパラフィン及び/又は1分岐イソパラフィンを含有する炭化水素油を、
10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有する第1のモレキュラーシーブを含有する第1の触媒、及び、10又は8員環からなる一次元状細孔構造を有する第2のモレキュラーシーブを含有する第2の触媒にこの順序で接触させる工程を備え、
前記第1のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を有し且つ酸点を有するものであり、
前記第2のモレキュラーシーブは、水素化活性を有する金属成分を実質的に有しておらず、酸点を有するものであることを特徴とする潤滑油基油の製造方法。
【請求項2】
前記第1のモレキュラーシーブ及び/又は前記第2のモレキュラーシーブが、TON構造を有するゼオライト、MTT構造を有するゼオライト及びZSM−48ゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項3】
前記水素化活性を有する金属成分が、白金及び/又はパラジウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項4】
前記第1のモレキュラーシーブが、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブを、水を主たる溶媒としカチオン種を含有する溶液中でイオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項5】
前記第2のモレキュラーシーブが、有機テンプレートが含まれる合成モレキュラーシーブをイオン交換することなく焼成し、その後イオン交換することにより得られるイオン交換モレキュラーシーブ若しくはその焼成物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項6】
前記ノルマルパラフィン及び/又は前記1分岐イソパラフィンの沸点が280〜1000℃の範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑油基油の製造方法。

【公開番号】特開2009−242652(P2009−242652A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92201(P2008−92201)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】