説明

潤滑油基油及びその製造方法、並びに該基油を含有する潤滑油組成物

【課題】粘度指数が高く、低温流動性に優れ、蒸発性が低く、かつトラクション係数が低い潤滑油基油及びその製造方法、並びに潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】炭化水素系の潤滑油基油であって、粘度指数が130以上であり、環分析によるパラフィン分(%CP)が90%以上であり、かつ20℃におけるトラクション係数が0.04以下であることを特徴とする潤滑油基油及びその製造方法、並びに該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油基油及びその製造方法、並びに該基油を含有する潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、粘度指数が高く、低温流動性に優れ、蒸発性が低く、かつトラクション係数が低い潤滑油基油及びその製造方法、並びに該基油を用いた省燃費性に優れた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に潤滑油は、本質的には粘度を保持し、接触部材の摩耗を防止して潤滑性を付与することを目的に種々の分野で用いられている。この潤滑油は、特に高温での適切な粘度と低温での流動性を保持することが性能上重要なことである。また、最近では、摩擦を発生しない領域で一層の低粘度化を図り、攪拌抵抗を低減することにより、省エネルギーや省燃費を図ることが潤滑油組成物に求められている。
近年、このような省エネルギータイプのエンジンオイルの基油として、粘度指数が120以上の高粘度指数基油が使用されるようになってきた。粘度指数が高くなれば、相対的に酸化安定性が向上することは従来から知られていたが、高粘度指数基油は、一般に溶剤脱ろう法で製造されており、低温流動性に劣るという欠点があった。例えば、特許文献1には、粘度指数が120以上、好ましくは140以上の高粘度指数基油が開示されているが、低い流動点にするのは難しいことが記載されている。低温流動性に劣る潤滑油を、例えばエンジンオイルとして用いた場合には、低温始動時の燃費を悪化させることとなり、短距離走行してエンジンを停止することを繰り返す市街地での走行においては、燃費を高めることが困難になる。従って、高粘度指数を有し、かつ低温流動性に優れた潤滑油基油が求められていた。
【0003】
また、エンジンの動弁系(特にカム−フォロワー)では、一部金属が接触する混合潤滑状態と、境界潤滑状態が混在した潤滑状態になっている。この潤滑状態では、油膜が高圧にさらされており、この部分でのトラクション係数を低減することが省燃費の観点から望ましい。しかしながら、上述のような高粘度指数基油は、基油中のナフテン環や芳香族環を含むため、トラクション係数が高くなり、省燃費性を高めることは困難である。
さらに、エンジン油による摩擦ロスを低減し、省燃費化を図るためには、エンジン油の低粘度化が有効な方法である。しかしながら、潤滑油を単に低粘度化させただけでは、摺動部での摩耗が増大するうえ、潤滑油の蒸発損失が増加して排気ガスの性状が悪化するなど環境問題を引き起こす場合がある。また油量が減少して潤滑油の劣化速度が速くなるなどの弊害がある。
以上のように、環境性能が高く、また省燃費性の高い潤滑油基油を得ることは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−70305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下でなされたもので、粘度指数が高く、低温流動性に優れ、蒸発性が低く、かつトラクション係数が低い潤滑油基油及びその製造方法、並びに該基油を含有する潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、炭化水素系の潤滑油基油であって、特定の粘度指数、組成、トラクション係数を有する潤滑油基油を用いることで前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、
(1)炭化水素系の潤滑油基油であって、粘度指数が130以上であり、環分析によるパラフィン分(%CP)が90%以上であり、かつ20℃におけるトラクション係数が0.04以下であることを特徴とする潤滑油基油、
(2)粘度指数180以上のワックス留分を、異性化脱ろう工程、水素化仕上げ工程、減圧蒸留工程の順に処理することを特徴とする上記(1)に記載の潤滑油基油の製造方法、
(3)異性化脱ろう工程と水素化仕上げ工程の間に、さらに減圧蒸留工程を有する上記(2)に記載の潤滑油基油の製造方法、
(4)上記(1)に記載の潤滑油基油並びに上記(2)又は(3)に記載の方法で製造した潤滑油基油を含有する潤滑油組成物、
(5)−35℃におけるCCS粘度が6200mPa・s以下である上記(4)に記載の潤滑油組成物、
(6)NOACK値が15質量%以下である上記(5)に記載の潤滑油組成物、
(7)40℃における動粘度が35mm2/sec以下で、かつ、150℃における高温高せん断粘度が2.6mPa・s以上である上記(5)又は(6)に記載の潤滑油組成物、
(8)40℃における動粘度が31mm2/sec以下で、かつ、150℃における高温高せん断粘度が2.0mPa・s以上である上記(5)又は(6)に記載の潤滑油組成物、
(9)内燃機関用である上記(4)〜(8)のいずれかに記載の潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘度指数が高く、低温流動性に優れ、蒸発性が低く、かつトラクション係数が低い潤滑油基油及びその製造方法、並びに潤滑油組成物を得ることができる。本発明の潤滑油組成物は、自動車用エンジンオイル、パワーステアリングオイル、自動変速機油(ATF)、無段変速機油(CVTF)、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受け油、転がり軸受け油などに広く適用することができるが、特に、自動車用エンジンオイルに最適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の潤滑油基油は、炭化水素系の潤滑油基油であって、粘度指数が130以上であり、環分析によるパラフィン分(%CP)が90%以上であり、かつ20℃におけるトラクション係数が0.04以下であることを特徴とする。
粘度指数が130未満であると、低温流動性が低下し、本発明の目的を達成することができない。好ましい粘度指数は、140以上である。なお、上記の粘度指数はJIS K 2283に従って測定されたものである。
また、環分析によるパラフィン分(%CP)は90%以上である。%CPが90%未満であると酸化安定性が低下する。なお、%CPはASTM D−3238に従って測定されたものである。
なお、環分析によるナフテン分(%Cn)に関しては、特に制限されないが、7%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。%Cnが7%以下であれば、さらに良好な酸化安定性を得ることができる。
さらに、20℃におけるトラクション係数が0.04以下である。なお、トラクション係数の測定は、後に詳述する二円筒摩擦試験により測定したものである。
【0009】
本発明の潤滑油基油の密度は、基油の(動)粘度によって変化するが、従来公知の基油に比較して密度が低い。例えば、100ニュートラル相当の動粘度の場合でいえば、本発明の潤滑油基油の密度は、0.83g/cm3以下、さらに0.82g/cm3以下が好ましい。
なお、上記のような性状を有する本発明の潤滑油基油は、API(アメリカン・ペトロリウム・インステイテュート)グループIIIの規格を満たすことができるものである。
【0010】
次に、前記潤滑油基油の製造方法について説明する。
本発明における潤滑油基油の製造方法は、特に制限されるものではないが、好ましくは、粘度指数180以上のワックスを、下記の如く(a)異性化脱ろう工程、必要に応じて行われる(b)減圧蒸留工程、(c)水素化仕上げ工程、(d)減圧蒸留工程の順に処理することにより製造することができる。
(a)異性化脱ろう工程
原料として、粘度指数180以上のワックスを使用する。さらに、100℃における動粘度が4〜20mm2/s、蒸留試験における10%留出温度が380℃以上のものが好ましい。具体的には、減圧軽油を水素化分解して得られるボトム油を溶剤脱ろうして得られるワックス留分、或いはフィッシャー・トロプッシュ合成によるものなどを使用することができる。
この異性化脱ろうは、SAPO(シリカアルミノフォスフェート)やゼオライト等の担体にPtやPd等の貴金属を担持した水素化異性化触媒の存在下、水素化処理を行うことにより実施される。
水素分圧については、通常1MPa以上、好ましくは2〜22MPa、より好ましくは3〜21MPaである。反応温度については、通常250〜500℃、好ましくは280〜480℃、より好ましくは300〜450℃である。液時空間速度(LHSV)については、通常0.1〜10hr-1、好ましくは0.3〜8hr-1、より好ましくは0.5〜2hr-1である。供給水素ガスの割合については、供給油1キロリットルに対して、通常100〜1000Nm3、好ましくは200〜800Nm3、より好ましくは250〜650Nm3である。
【0011】
(b)減圧蒸留工程
前工程の生成油を減圧蒸留により、引火点200〜210℃となるように軽質留分を除去する工程であり、必要に応じて実施される。
(c)水素化仕上げ工程
この水素化仕上げは、前工程で得られた生成油について、シリカ/アルミナ、アルミナ等の非晶質やゼオライト等の結晶質担体にNi/Mo、Co/Mo、Ni/W等の金属酸化物やPt、Pd等の貴金属を担持した水素化触媒の存在下、水素化処理を行うことにより実施される。
水素分圧については、通常10MPa以上、好ましくは13〜22MPa、より好ましくは15〜21MPaである。反応温度については、通常200〜350℃、好ましくは250〜330℃、より好ましくは280〜320℃である。液時空間速度(LHSV)については、通常0.1〜10hr-1、好ましくは0.2〜5hr-1、より好ましくは0.4〜2hr-1である。供給水素ガスの割合については、供給油1kLに対して、通常100〜1000Nm3、好ましくは200〜800Nm3、より好ましくは250〜650Nm3である。
(d)減圧蒸留工程
前工程の生成油を減圧蒸留にて100℃における動粘度が2.0〜10.0mm2/sとなるように調整する。
以上の三工程又は四工程によって、本発明における好ましい性状を有する潤滑油基油を効率よく低コストで製造することができる。
本発明の潤滑油基油は、エンジン油,ATF、油圧作動油の用途を始め、目的に応じて、その他の潤滑油基油や各種の添加剤を配合して使用することができる。
【0012】
本発明における潤滑油組成物は、前記潤滑油基油を含有する潤滑油組成物である。この潤滑油は、前記潤滑油基油の特性、すなわち高粘度指数を有し、かつ低温流動性、高酸化安定性を有する潤滑油組成物を得ることができる。
【0013】
本発明の潤滑油組成物は、−35℃におけるCCS粘度(SAEによるコールド・クランキング・シミュレータ粘度)が6200mPa・s以下であることが好ましい。−35℃におけるCCS粘度が6200mPa・s以下であると、十分な低温流動性を有し、例えば低温でのエンジンの始動性が良好となる。なお、上記のCCS粘度はJIS K 2010に従って測定されたものである。
さらに、本発明の潤滑油組成物は、NOACK値(250℃)が、15質量%以下であることが好ましい。15質量%以下であると耐蒸発性が著しく改善される。NOACK値とは蒸発性を示す指標であり、ASTM D−5800に従って測定されたものである。
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、40℃における動粘度が35mm2/sec以下で、かつ、150℃における高温高せん断粘度が2.6mPa・s以上であることが好ましい。この条件を満たすことにより、流体摩擦が低減でき、省燃費性能を向上できる。また、40℃における動粘度が31mm2/sec以下で、かつ、150℃における高温高せん断粘度が2.0mPa・s以上であることが好ましい。この条件を満たすことにより、さらに流体摩擦が低減でき、省燃費性能を向上できる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として、上記本発明の潤滑油基油を用いるが、目的に応じて、他の潤滑油基油を混合して用いても良い。その場合、潤滑油組成物の潤滑油基油のうち、本発明の前記潤滑油基油の含有割合は、潤滑油基油全量基準で60質量%以上であることが好ましく、さらに80質量%以上、特に90質量%以上であることが好ましい。本発明の潤滑油基油を潤滑油基油全体の60質量%以上含有すれば、本発明の潤滑油基油の特性を十分に生かした組成物を得ることができる。
【0016】
前記本発明の潤滑油基油以外の潤滑油基油としては、特に限定されず、従来から使用されている鉱油や合成油が使用でき、用途などに応じて適宜選定すればよい。
鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、中間基系鉱油などが挙げられ、具体例としては、溶剤精製または水添精製による軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストックなどを挙げることができる。一方合成油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、多価アルコールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シクロアルカン系化合物などを挙げることができる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物には、用途に応じて適宜添加剤を配合することができる。添加剤としては、通常潤滑油組成物に使用されるものを用いることができ、具体的には、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、無灰系分散剤、摩擦調整剤、金属系清浄剤、摩耗防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、抗乳化剤、消泡剤などが挙げられる。
【0018】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5,000〜1,000,000が好ましく、10,0000〜800,000がさらに好ましい。また、オレフィン系共重合体では800〜300,000が好ましく、10,000〜200,000がさらに好ましい。これらの粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜20質量%の範囲である。
【0019】
流動点降下剤としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、特に、ポリメタクリレートが好ましく用いられる。これらの含有量は、通常、潤滑油組成物基準で0.01〜5質量%の範囲である。
【0020】
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常2種以上の組み合わせが好ましく、その配合量は、潤滑油組成物基準で0.01〜5質量%が好ましく、0.2〜3質量%が更に好ましい。
【0021】
無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3,500のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、及びこれらのホウ酸変性物等の誘導体等が挙げられる。これらの無灰分散剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜20質量%の範囲である。
摩擦調整剤としては、例えば、有機モリブデン系化合物、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、アミド、硫化エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらの粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.05〜4質量%の範囲である。
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム(Na)、カリウム(K)等)又はアルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等)のスルホネート、フェネート、サリシレート及びナフテネート等が挙げられる。これらは単独で又は複数種を組合せて使用できる。これらの金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択でき、全塩基価は、過塩素酸法で通常0〜500mgKOH/g、望ましくは20〜400mgKOH/g、その配合量は、通常、潤滑油組成物基準で0.1〜10質量%の範囲である。
【0022】
摩耗防止剤としては、例えば、ジチオリン酸金属塩(Zn、Pb、Sb、Moなど)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn、Pb、Sb、Moなど)、ナフテン酸金属塩(Pbなど)、脂肪酸金属塩(Pbなど)、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、リン酸エステル金属塩(Znなど)、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどが挙げられる。これらの摩耗防止剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜5質量%の範囲である。
【0023】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.01〜3質量%の範囲である。
【0024】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.01〜3質量%の範囲である。
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリレート等が挙げられる。
【0025】
本発明の潤滑油組成物は、自動車用エンジンオイルに最適であり、特にThe Society of Automotive Engineersの分類体系SAE(J300)における0W−20グレード、さらに低粘度化したマルチグレード油に適しており、エンジンに加わる粘性抵抗を下げることができ、省燃費性を向上させることが期待される。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
評価方法
(1)密度;JIS K2249に準拠して、15℃における密度を測定した。
(2)動粘度;JIS K2283に準拠して、40℃及び100℃における動粘度を測定した。
(3)粘度指数;JIS K2283に準拠して粘度指数を測定した。
(4)Noack値;ASTM D−5800に準拠してNoack値を測定した。250℃、1時間の条件で測定した。
(5)CCS粘度;JIS K2010に準拠して、−35℃におけるCCS粘度を測定した。
(6)トラクション係数;トラクション係数の測定は、二円筒摩擦試験機にて行った。すなわち、接している同じサイズの円筒(直径40mm、厚さ20mmで被駆動側は曲率半径20mmのタイコ型、駆動側はクラウニングなしのフラット型)の一方を一定速度で、他方の回転速度を連続的に変化させ、両円筒の接触部分に錘により147.1Nの荷重を与えて、両円筒間に発生する接線力、すなわち、トラクション力を測定し、トラクション係数を求めた。この円筒はクロムモリブデン鋼SCM420の鏡面仕上げでできており、平均週速6.8m/s、最大ヘルツ接触圧は1.24GPaであった。また、流体温度(油温)20℃でのトラクション係数を測定するにあたっては、油タンクを循環冷却装置により油温を20℃に冷却させ、すべり率5%におけるトラクション係数を求めた。
(7)環分析によるパラフィン分;ASTM D−3238に従って測定した。
(8)高温高せん断粘度;石油学会石油類試験関係規格JPI−5S−36−91に準拠して、150℃における高温高せん断粘度を測定した。
(9)駆動トルク改善率(%)(30℃);排気量2LのSOHCエンジンのカムシャフトをモーターで駆動し、その際にカム軸にかかるトルクを測定した。カム軸の回転数は、750rpm、エンジン油温は30℃とした。基準油として、市販SL 5W−20エンジン油(動粘度(40℃);41.45mm2/s、動粘度(100℃);8.383mm2/s、粘度指数;184、CCS粘度(−35℃);6900mPa・s、高温高せん断粘度(150℃);2.62mPa・s、Noack値;13.0質量%)の30℃における駆動トルクを測定し、実施例4〜7、比較例3及び4の潤滑油組成物の駆動トルク改善率(%)で評価した。数字が大きいほど駆動トルクが改善され、省燃費性が高いことを示す。
【0027】
実施例1
フィッシャー・トロプッシュ合成により得られた第1表に記載される性状を有するワックス原料Aを、ゼオライトに白金を担持させた水素化異性化触媒を用いて、反応温度360℃、圧力13MPa、LHSV1.0hr-1、水素/油比800NL/Lの条件で水素化脱ロウした。次いで、アルミナ担体にNiとWを担持した触媒により、圧力13MPa、反応温度260℃、LHSV1.0hr-1の条件で水素化仕上げした。得られた生成油を減圧蒸留にて、軽質分と目的の100℃粘度4.5〜5.0mm2/sである基油1、及びボトム留分の3留分に分留した。基油1の性状を第2表に示す。
【0028】
実施例2
実施例1で得られた生成油の減圧蒸留条件を変えて、沸点範囲を狭くし、100℃粘度が4.0〜4.5mm2/sである基油2を得た。基油2の性状を第2表に示す。
【0029】
実施例3
フィッシャー・トロプッシュ合成により得られた第1表に記載される性状を有するワックス原料Bを、水素化異性化触媒を用いて、反応温度353℃、圧力13MPa、LHSV1.0hr-1、水素/油比800NL/Lの条件で水素化脱ロウした。次いで、アルミナ担体にNiとWを担持した触媒により、圧力13MPa、反応温度260℃、LHSV1.0hr-1の条件で水素化仕上げした。得られた生成油を減圧蒸留にて、軽質分と目的の100℃粘度3.0〜3.5mm2/sである基油3、及びボトム留分の3留分に分留した。基油3の性状を第2表に示す。
【0030】
比較例1及び比較例2
通常の減圧蒸留装置から得られた減圧重質軽油を水素化分解して、ナフサ〜軽油を製造する際に得られるボトム留分を溶剤脱ロウして得たワックスと、該ボトム留分を50:50の比率で混合し、第1表に記載される性状を有する原料Cを得た。原料Cを、水素化異性化触媒を用いて、反応温度340℃、圧力4MPa、LHSV1.0hr-1、水素/油比500NL/Lの条件で水素化脱ロウした。脱ロウされた生成油は減圧蒸留装置により、引火点を200℃に調整した後、アルミナ担体にNiとWを担持した触媒により、圧力21MPa、反応温度260℃、LHSV0.5hr-1の条件で水素化仕上げした。得られた生成油を減圧蒸留にて、目的の100℃粘度3.0〜3.5mm2/sである比較基油2(比較例2)、目的の100℃粘度4.5〜5.0mm2/sである比較基油1(比較例1)、及びボトム留分の3留分に分留した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
実施例4〜7、比較例3及び4
第3表に示す配合量で潤滑油組成物を調製し、上記評価方法にて評価した。結果を第3表に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
(注)
*1 粘度指数向上剤:ポリメタクリレート(重量平均分子量;550,000)
*2 流動点降下剤:ポリアルキルメタクリレート(重量平均分子量;6,000)
*3 酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤(イソオクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニルプロピオネートとジアルキルジフェニルアミン(窒素含有量;4.62質量%)の混合物
*4 金属系清浄剤:カルシウムスルホネート(塩基価300mgKOH/g、カルシウム含有量;12質量%)
*5 無灰分散剤:ポリブテニルコハク酸イミド(窒素含有量;0.7質量%)及びホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミド(ホウ素含有量;0.2質量%、窒素含有量;2.1質量%)の混合物
*6 摩耗防止剤:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn含有量;0.11質量%、リン含有量;0.10質量%、アルキル基;第2級ブチル基及び第2級ヘキシル基の混合物)
*7 摩擦調整剤:モリブデンジチオカーバメート(Mo含有量;4.5質量%)
*8 その他添加剤:防錆剤、金属不活性化剤、抗乳化剤及び消泡剤の混合物
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の潤滑油基油及びこれを用いた潤滑油組成物は、粘度指数が高く、低温流動性に優れ、蒸発性が低く、かつトラクション係数が低い。本発明の潤滑油組成物は、自動車用エンジンオイル、パワーステアリングオイル、自動変速機油(ATF)、無段変速機油(CVTF)、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受け油、転がり軸受け油などに広く適用することができるが、特に、自動車用エンジンオイルに最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系の潤滑油基油であって、粘度指数が130以上であり、環分析によるパラフィン分(%CP)が90%以上であり、かつ20℃におけるトラクション係数が0.04以下であることを特徴とする潤滑油基油。
【請求項2】
粘度指数180以上のワックス留分を、異性化脱ろう工程、水素化仕上げ工程、減圧蒸留工程の順に処理することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項3】
異性化脱ろう工程と水素化仕上げ工程の間に、さらに減圧蒸留工程を有する請求項2に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の潤滑油基油並びに請求項2又は3に記載の製造方法で製造した潤滑油基油を含有する潤滑油組成物。
【請求項5】
−35℃におけるCCS粘度が6200mPa・s以下である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
NOACK値が15質量%以下である請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
40℃における動粘度が35mm2/sec以下で、かつ、150℃における高温高せん断粘度が2.6mPa・s以上である請求項5又は6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
40℃における動粘度が31mm2/sec以下で、かつ、150℃における高温高せん断粘度が2.0mPa・s以上である請求項5又は6に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
無灰分散剤として、数平均分子量が900〜3,500のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン及びこれらのホウ酸変性物から選ばれる1種以上を含む請求項4〜8のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
摩耗防止剤として、ジチオリン酸金属塩、ジチオカルバミン酸金属塩、ナフテン酸金属塩、脂肪酸金属塩、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、リン酸エステル金属塩、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド及びジアリールポリスルフィドから選ばれる1種以上を含む請求項4〜9のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
内燃機関用である請求項4〜10のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−211338(P2012−211338A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157864(P2012−157864)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【分割の表示】特願2005−200614(P2005−200614)の分割
【原出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】