説明

澱粉組成物

【課題】
本発明が解決しようとする問題点は熱可塑性があり、一般的な製造方法で成型可能な耐水性、防水性に優れた成形品またはコーティング品を提供する方法、および廉価なゼラチンまたは寒天類代替組成物を提供する方法を見出すことである。
【解決手段】
本発明の組成物は充填材を除く乾燥重量に対し、加水分解澱粉が55重量%以上含まれ、可塑剤であるトレハロースが1から30重量%含まれ、ソルビトールまたはおよびグルコン酸が1から30重量%含まれ、可塑剤の合計量が10重量%以上、40重量%以下であり、これらを主成分とする部分架橋した熱可塑性澱粉組成物である。
好ましくは充填材を除く乾燥重量に対し、可塑剤であるトレハロース、ソルビトールまたはおよびグルコン酸の合計が20から30重量%である組成物であり、また好ましくは部分架橋剤がジカルボン酸またはおよびトリカルボン酸である組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンまたは寒天類代替、防水性コーティング剤およびコーティング製品、単層および多層モールド成形品、単層および多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉にグリセリンなどの可塑剤を加え、炭酸ガス超臨界または亜臨界下、セン弾力を加え、澱粉主鎖を切断後、主鎖中に可塑剤を一部取り込むことにより熱可塑性を付与する提案が文献1により開示されている。また、この変性澱粉を原料とした成形品の製造例が開示されている。この文献では防水性を付与するためにトリポリ燐酸ナトリウムなどの架橋剤を添加、反応させ、水膨潤性を抑制する例が記載されているが、高湿度条件下では可塑剤である未反応グリセリンのブリードアウトが認められ、沸騰水は元より耐水性、防水性は不十分であった。
【0003】
トレハロースは特異的な2糖類で菓子類の製造時に添加すると高湿雰囲気でもベトツキを防止する効果がある。文献2にトレハロースと澱粉および糖質からなるトレハロース含有組成物が開示されているが、この組成物が熱可塑性であることは記載されていない。
【0004】
各地で発生する狂牛病の恐れがあり、牛骨を主原料とするゼラチンは食用にできない状況になりつつあり、一方、寒天など海草由来のゲル化、増粘剤、例えばカラギーナンは高価である。
【特許文献1】特許3539955号公報
【特許文献2】特開2000−159788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は熱可塑性があり、一般的な製造方法で成型可能な耐水性、防水性に優れた成形品またはコーティング品を提供する方法、および廉価なゼラチンまたは寒天類代替組成物を提供する方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の組成物は充填材を除く乾燥重量に対し、加水分解澱粉が55重量%以上含まれ、可塑剤であるトレハロースが1から30重量%含まれ、ソルビトールまたはおよびグルコン酸が1から30重量%含まれ、可塑剤の合計量が10重量%以上、40重量%以下であり、これらを主成分とする部分架橋した熱可塑性澱粉組成物である。
好ましくは充填材を除く乾燥重量に対し、可塑剤であるトレハロース、ソルビトールまたはおよびグルコン酸の合計が20から30重量%である組成物であり、また好ましくは部分架橋剤がジカルボン酸またはおよびトリカルボン酸である組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性澱粉組成物は安全、廉価なゼラチンまたは寒天類代替組成物であり、これを原料として一般的な製造方法で耐水、防水性に優れた食品容器、包装フイルム、コーティング製品を廉価に製造することができる。これらの製品は天然素材が主成分であり、酸素ガスバリアー性に優れ、可食性があり、生分解性で環境に優しい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の組成物は充填材を除く乾燥重量に対し、加水分解澱粉が55重量%以上含まれ、可塑剤であるトレハロースが1から30重量%含まれ、ソルビトールまたはおよびグルコン酸が1から30重量%含まれ、可塑剤の合計量が10重量%以上、40重量%以下であり、これらを主成分とする部分架橋した熱可塑性澱粉組成物である。
好ましくは充填材を除く乾燥重量に対し、可塑剤であるトレハロース、ソルビトールまたはおよびグルコン酸の合計が20から30重量%である組成物であり、また好ましくは部分架橋剤がジカルボン酸またはおよびトリカルボン酸である組成物である。
ソルビトール、グルコン酸の一部が他の単糖類、または2糖類により代替されても過半に満たなければ良い。
【0009】
加水分解澱粉は澱粉を酸性触媒下、加水分解させることにより得られる。澱粉分子量の少なくとも10分の1以下、好ましくは100分の1以下である。熱可塑性を向上するためには分子量が小さいほど好ましい。分子量が数千のデキストリンまで小さくなると粘り気がなくなり、好ましくない。本発明の製造工程の中で澱粉が加工されても良い。耐水性は分子量が小さくなるほど低下する。逆に水溶性は向上する。
【0010】
トレハロースは澱粉を酵素分解して得られ、食品用として市販されている。また、ソルビトールも食品用に市販されている。トレハロース、ソルビトール、グルコン酸は加水分解澱粉の可塑剤として作用するが、補助的に他の単糖類、2糖類を使用しても良い。
【0011】
可塑剤としてグリセリンを補助的に使用すると高湿度環境でブリードアウトし易いので、充填材を除く乾燥重量に対し、10重量%以下で使用することが好ましい。
【0012】
耐水性、防水性はトレハロースの含有量により変化し、トレハロースが多い方が好ましく、充填材を除く乾燥重量に対し、5重量%以上が好ましい。これはトレハロースが加水分解澱粉に含まれる自由水を固定するためと考えられる。
【0013】
また、耐水性、防水性は加水分解澱粉の架橋度合いによっても変化し、架橋度合いが大きいほど向上する。即ち、グルコースのヒドロシル基により分子間架橋する多価カルボン酸の配合量により変化し、配合量の多いほど耐水性、防水性は向上する。反面、水溶性は低下する。
【0014】
多価カルボン酸にはクエン酸、蓚酸、コハク酸、酒石酸、フマール酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、アジピン酸などがある。中ではクエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、アジピン酸の分子鎖が長く、架橋には好ましい。多価カルボン酸の配合量は充填材を除く乾燥重量に対し、0.1重量%以下が熱可塑性付与の点から好ましく、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以下である。本発明の組成物を脱水乾燥する時点で側鎖ヒドロキシル基間に架橋が進行する。本発明の組成物は架橋の度合いにより、水溶性を調整することができ、用途により適宜選定すべきである。増粘剤として使用する場合には、加水分解澱粉の分子量により異なり、分子量の小さい方が一般的に好ましいが、架橋度合いを小さくするため多価カルボン酸の配合量は充填材を除く乾燥重量に対し、0.03重量%以下が好ましい。一方、耐水、防水性の観点からは多価カルボン酸の配合量は充填材を除く乾燥重量に対し、0.03重量%以上が好ましく、より好ましくは0.05重量%以上である。
【0015】
充填剤を本発明の組成物に配合することにより、さらに成型品の耐水性を強化することもでき、強度、硬度を向上することができる。また、コスト低減、耐熱性向上にも寄与することができる。充填剤の配合量は本発明の組成物を充填剤の結合剤として使用する場合、充填剤が成形品組成の過半量以上になることもある。
【0016】
充填剤には食品添加物として記載されているカオリン、活性白土、キチン、珪藻土、パーライト、セルロース、ベントナイト、未焼成カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどがある。
【0017】
本発明の組成物は加水分解澱粉に、トレハロース、ソルビトール、グルコン酸などの可塑剤と、粉末の充填剤、安定剤、着色剤、香料、調味料等の添加剤を必要に応じ加え、回転式ドラム混合機で予め混合し、ニーダーで水、およびグリセリン、架橋剤多価カルボン酸水溶液と混合する。水分量は全体の25〜50重量%が好適である。混合物はダイラタンシーを示すことがある。
【0018】
ニーダーや2軸押出し機を使用し、最高温度180℃以下で過熱混合し、減圧脱水し、部分架橋させ、本発明の組成物が得られる。加工温度が180℃を越えると短時間で加水分解澱粉が焦げる恐れがある。好ましくは150℃以下である。水分量が少なく、架橋度合いが大きい場合はノズルから押出し、ホットカッターでカットし、丸ペレット形状で取り出すことも可能である。また、シート状に押出し、冷却後、カッターでカットし角ペレット状で取り出すことも可能である。水分が多い場合には塊状で取り出しても良い。また、場合によっては水などの溶剤に溶解しても良く、本発明の組成物の製品形状は用途に応じて適宜選択することができる。
【0019】
前記混合物を混合する際に炭酸ガス、エタノールなどの超臨界または亜臨界状態を利用し混合効率を向上することもできる。この場合は1軸押出し機を使用すると高圧が得られ易く好ましい。
【0020】
本発明の組成物の製品形状が前記ペレットの場合には容易に一般的な溶融タイプの成型機、押出し機、射出成型機、回転成型機、コーターなどにより、フィルム、シート、ボトル、ドラム、射出成形品、ラミネート品などに成型することができる。これらの成形品は本発明組成物単層からなっても他のポリマーなどと併せ、多層からなっても良い。
【0021】
本発明の組成物の製品形状が溶液、コロイドまたはサスペンジョンの場合、例えば紙に薄くラミネートする場合にコーターなどを、例えばシームレスソフトカプセルを製造する場合は凝固浴中に共押出し機などを使用することができる。
【0022】
本発明の組成物はコーティングなどによりペーパーモールド、ダンボール、紙コップ、紙パック、ショッピングバッグなどの紙製品の防水、耐水材として使用することができる。本発明の組成物は透明であるため、紙に印刷が施されている場合でも透視することができるため、紙製ショッピングバッグの防水に好適であり、紙のリサイクル工程、例えばリファイナーなどで容易に除去することができ、環境にやさしい。架橋度合いが大きい本発明の組成物は耐水性に優れ、室温で1時間水中に浸漬し、透明性を保持できる。また、沸騰水中で30分間加熱した後、僅かに膨潤するだけであり、防水性に優れ、カップラーメンなどのカップの防水に好適である。
【0023】
水中に浸漬すると本発明の組成物から可塑剤が一部溶出するが、溶出成分は可食性成分であり、防水コーティングの場合厚さ10μmフィルム、カップ面積500cmと仮定するとフィルム重量は0.5grに過ぎず、可塑剤が水溶性の糖質である場合でも調味にほとんど影響しなかった。
【0024】
本発明組成物は糖質が基本組成であるため、酸素ガスバリアー性を具備し、20μm以上の厚さがあれば良好な酸素ガスバリアー性を示すため、食品などの酸化防止に好適である。
【0025】
組成物の水分は80℃熱風乾燥機で24時間乾燥前後の質量比から算出した。
また、組成物の熱可塑性はオリフィス径2mm、オリフィス長さ10mm、荷重2.16kg、150℃でオリフィスを10分間に流下する質量をgr単位で測定し、MIとして比較した。
耐水性は2mm径状にカットしたサンプルを常温で24時間、沸騰水中で30分間加熱し、透明性および膨潤性を目視で観察した。防水性はコピー紙に厚さ約50μmコーティングし、4つ折にした中央窪みに赤インクで着色した水30mlを注ぎ入れ、30分後、紙の裏面に赤インクの色が滲み出る状況を目視で観察した。
酸素ガスバリアー性はJIS K7126に準じて23℃、相対湿度60%条件で測定し、25μm厚さに換算した。
ゼリー硬さは直径1.1mmの円柱が4mm深さにゼリーを押さえる時の応力を測定し、grで表した。
【実施例】
【0026】
実施例1<澱粉組成物>
市販コーンスターチを加水分解し、充填材を除く乾燥重量に対し、分子量が約200分の1になった加水分解澱粉75重量%に、可塑剤として市販含水結晶トレハロース5重量%、市販ソルビトール粉末20重量%を回転ドラム混合機で攪拌予備混合し、クエン酸0.05重量%をpH4.3の炭酸水に加えた水溶液30重量%とをニーダーで常温下、混合した。次に140℃まで5℃/分で昇温しつつ混合し、透明粘調状態にした後、混合しつつ減圧脱水し、窒素で加圧し、押出し、塊状で取り出し本発明の組成物を製造した。この組成物の水分率は8重量%であり、MIは12で成型に適した熱可塑性であった。
【0027】
実施例2〜6、比較例1<澱粉組成物>
実施例1と同様にして加水分解澱粉、可塑剤、多価カルボン酸の配合量を表1に示すように変化させ本発明の組成物を製造し、水分量とMIを測定した。
【0028】
【表1】

実施例2〜6は成型に適したMIであったが、比較例1はMIが大き過ぎ、成型原材料として不適であった。
【0029】
実施例7〜9<フィルム>
実施例1〜3の本発明の組成物を原料とし、Tダイ法によりダイス温度140℃で押出し、チルドローラーで冷却し、厚さ100μm前後のフィルムを製造し、透明性、耐水性、防水性、酸素ガスバリアー性を湿度ゼロ条件で測定し、表2に示した。酸素ガスバリアー性の表示単位はml・25μm/(24時間・気圧・m2)に換算表示した。
【0030】
【表2】

実施例7は優れた耐水性、防水性を示した。実施例9も用途により使用可能な耐水性、防水性を示した。実施例7〜9は全て良好な酸素ガスバリアー性を示した。
【0031】
実施例10〜11、比較例2<コーティング>
実施例1および3、と比較例1の組成物を原料とし、Tダイ法によりダイス温度140℃、(比較例2のみダイス温度110℃)で坪量30grのグラビア印刷された紙面に厚さ20μmのラミネートコーティングを行った。ラミネート上に水滴を5滴ずつ滴下し、1時間後水滴を拭き取り、透明度の比較を目視で行った。
【0032】
【表3】

比較例2はコーティング厚さ斑も大きく、紙面の印刷が殆ど透視できなくなったが、実施例10および11はショッピングバッグの防水性に足りる優れた性能を示した。
【0033】
実施例12〜13、比較例3<ゲル化、増粘剤>
実施例3および5の組成物を原料とし、比較のためゼラチンを使用し、熱湯で溶解した後、冷蔵庫内10℃で冷却固化し、濃度6.6重量%のコーヒーゼリーを製造し、そのゼリーの硬さと食味を比較した。甘味料として蔗糖を総質量に対し5重量%、インスタントコーヒー粉末1重量%添加した。各サンプルともテクスチャーは異なるが、食味は殆ど差が見られなかった。
【0034】
【表4】

実施例2および3ではゼリーに必要な適度の硬さ100〜300が調合を適宜選定することにより得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を除く乾燥重量に対し、加水分解澱粉が55重量%以上含まれ、可塑剤であるトレハロースが1から30重量%含まれ、ソルビトールまたはおよびグルコン酸が1から30重量%含まれ、可塑剤の合計量が10重量%以上、40重量%以下であり、これらを主成分とする部分架橋した熱可塑性澱粉組成物。
【請求項2】
充填材を除く乾燥重量に対し、可塑剤であるトレハロース、ソルビトールまたはおよびグルコン酸の合計が20から30重量%である請求項1の組成物。
【請求項3】
部分架橋剤がジカルボン酸またはおよびトリカルボン酸である請求項1の組成物。
【請求項4】
請求項1および2の組成物を主原料とするゼラチンまたは寒天類代替組成物。
【請求項5】
請求項1および2の組成物を主原料とする防水性コーティング剤およびコーティング製品。
【請求項6】
請求項1および2の組成物を主原料とする単層および多層モールド成形品。
【請求項7】
請求項1および2の組成物を主原料とする単層および多層フィルム。

【公開番号】特開2006−137847(P2006−137847A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328669(P2004−328669)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(503188092)有限会社サンサーラコーポレーション (14)
【Fターム(参考)】