説明

濾過材及びその製造方法

【課題】 流体通過性が良好であり、濾過精度が高く、実用強度が高いエレクトロスピニング法により得られる極細繊維を用いた濾過材を提供する。
【解決手段】 少なくとも1成分は体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下のポリマーであり、1成分が他の成分よりも低い温度で接着する接着成分ポリマーである少なくとも2成分のポリマー成分を溶融し、エレクトロスピニング法により伸長させて極細複合繊維を形成し、前記極細複合繊維を他の濾過シート材上に集積して繊維集合物層との積層体を形成した後、前記積層体を構成する接着成分により極細複合繊維同士及び繊維集合物と他の濾過シート材を接着させることにより、前記繊維集合物の少なくとも一表面に他の濾過シート材が積層された濾過材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法(静電紡糸法、electro spinning)を用いた繊維集合物から構成される濾過材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維集合物から構成される濾過材として、一般的に溶融紡糸法により製造されるポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル繊維、ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維等の合成繊維を用いたメルトブローン不織布、湿式不織布等が用いられている。しかしながら、このような不織布は、通常1〜2μm程度の繊維径の繊維から構成されており、微粒子の捕捉能が十分ではなく、カレンダー加工などにより高密度化して捕集効率を高める工夫がされているが、目詰まりが早くなるか又は流体の通過性が阻害されるという問題があった。
【0003】
このような課題を解決するために、エレクトロスピニング法により得られた極細繊維を用いた不織布からなる様々な濾過材が提案されている。例えば、特開2005−218909号公報には、静電紡糸法により製造された平均繊維径0.01〜0.5μmの極細繊維集合体層と、平均繊維径が0.5〜5μmの細繊維集合体層を備え、カレンダーで圧力を加えて一体化した濾過材が開示されている(特許文献1)。また、特開2007−30175号公報には、静電紡糸法により製造された不織布と、通気性シートとが接着剤により接着一体化した積層体からなる濾過材が開示されている(特許文献2)。特開2009−28617号公報には、エレクトロスピニング法により得られるナノ繊維層と支持基材とが部分熱接着により一体化したフィルター不織布が開示されている(特許文献3)。さらに、特開2009−233550号公報には、平均繊維径が5μmを超える非ナノ繊維層の上に、有機重合体の溶融液を用いて静電紡糸された平均繊維径10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体を堆積させてナノ繊維層を積層した気体フィルター用濾材が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−218909号公報
【特許文献2】特開2007−30175号公報
【特許文献3】特開2009−28617号公報
【特許文献4】特開2009−233550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記濾過材には、以下のような課題があった。特許文献1〜4に開示されているエレクトロスピニング法は、一般に溶液法と呼ばれる方法により得られた極細繊維であるため、極細繊維同士がほとんど自己接着されておらず、他の濾過層(支持体層)を両面に配置しないと濾過材としても実用強度が得られない。また、極細繊維層と他の濾過層(支持体層)の層間は、カレンダーによる加圧一体化、接着剤による一体化、部分熱接着による一体化が必要となり、目詰まりが早くなるか又は流体の通過性が阻害される傾向にある。特許文献4では、溶融エレクトロスピニング法を用いて極細繊維層を得ること、及び半乾燥状態のナノ繊維同士が微膠着され、非ナノ繊維層とも微膠着されることが提案されている。しかし、得られる極細繊維は単独成分であるため、ナノ繊維同士および非ナノ繊維層との自己接着性が十分とはいえず、濾過材としての実用強度を得るためにカレンダーによる加圧一体化が必要であった。
【0006】
本発明は、上記した課題を鑑みてなされたものであり、流体通過性が良好であり、濾過精度が高く、実用強度が高いエレクトロスピニング法により得られる極細繊維を用いた濾過材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の濾過材は、少なくとも2成分のポリマーを含み、溶融エレクトロスピニング(electro spinning)によって伸長された極細複合繊維を集積した繊維集合物と、前記繊維集合物の少なくとも一表面に他の濾過シート材が積層された濾過材であって、前記ポリマーのうち少なくとも1成分は、ポリマーの体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であり、前記ポリマーのうち1成分が他の成分よりも低い温度で接着する接着成分であり、前記極細複合繊維は、前記接着成分により自己接着しており、前記繊維集合物と他の濾過シート材とは、前記接着成分により接着していることを特徴とする。
【0008】
本発明の濾過材の製造方法は、少なくとも2成分のポリマーを含み、溶融エレクトロスピニング(electro spinning)によって伸長された極細複合繊維を集積した繊維集合物と、前記繊維集合物の少なくとも一表面に他の濾過シート材とが積層された濾過材の製造方法であって、前記ポリマーのうち少なくとも1成分は、ポリマーの体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であり、前記ポリマーのうち1成分が他の成分よりも低い温度で接着する接着成分である少なくとも2成分のポリマーを溶融する工程、溶融したポリマーをエレクトロスピニング法により伸長させて極細複合繊維を形成する工程、前記極細複合繊維を他の濾過シート材上に集積して繊維集合物層との積層体を形成する工程、及び前記積層体を構成する接着成分が接着する温度で熱処理を行い、極細複合繊維同士及び繊維集合物と他の濾過シート材を接着する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の濾過材は、溶融エレクトロスピニングによって伸長された極細複合繊維を用い、極細複合繊維同士が自己接着し、他の濾過シート材とも接着しているので、気体や液体の流体通過性が良好であり、濾過精度が高く、実用強度が高い。また、極細複合繊維は溶融エレクトロスピニング法により形成されるので、溶液法のように紡糸原液として有機溶媒等の残留物がなく、安全であり、環境負荷も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における一実施形態のエレクトロスピニング装置の概略説明図である。
【図2】本発明の一実施形態の極細複合繊維の繊維断面の概略図である。
【図3】本発明の他の一実施形態の極細複合繊維の繊維断面の概略図である。
【図4】本発明の実施例1の不織布の表面の走査電子顕微鏡(SEM、倍率5000倍)の写真である。
【図5】本発明の実施例1の不織布の断面の走査電子顕微鏡(SEM、倍率1500倍)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる繊維集合物は、供給側電極と捕集側電極間に電圧をかけ、少なくとも2成分のポリマーを含む溶融状態の樹脂体に電荷を与えて、エレクトロスピニングにより伸長させて極細複合繊維とし、集積して得られる繊維集合物である。一般に、上記のような溶融エレクトロスピニングにおいては、供給側電極を通過する際に帯電された樹脂が、捕集側電極に向かって電気引力によって高速で伸長されるため、体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超えるものは、帯電しにくいのでエレクトロスピニングに不向きな難エレクトロスピニング性の樹脂となる傾向にある。しかし、本発明では、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の樹脂を少なくとも一つのポリマー成分とすることにより、極細の複合繊維を得られることを見いだした。特に、主として接着成分として好ましく用いられるポリオレフィン系樹脂のように、体積固有抵抗値が高い難エレクトロスピニング性の樹脂であっても、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の易エレクトロスピニング性の樹脂に追随して伸長されて良好なエレクトロスピニング性が得られることを知った。これは、少なくとも2成分のポリマーが電極間における供給側電極前及び/又は電極間で加熱溶融されるときに、例えば原料複合繊維が一定以上の電荷を帯びるまでは、供給側電極付近で滞留し、そのとき加熱溶融された原料複合繊維の先端断面において、断面形状が瞬間的にアロイ化が起こり、複合されたポリマー成分のうち体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の易エレクトロスピニング性の樹脂が強く帯電し、その勢いで複合されてスピニングされると推定される。
【0012】
本発明において、極細複合繊維の原料となる成分は、少なくとも2成分のポリマーを含み、そのうちの一つのポリマー成分の体積固有抵抗値は1015Ω・cm以下である(以下、第1成分とも記す)。第1成分の体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であると、溶融したポリマー成分が供給側電極を通過する際に帯電しやすいからである。好ましくは、106〜1014Ω・cm、さらに好ましくは107〜1013Ω・cmである。
【0013】
また、体積固有抵抗値が1015Ω・cmを越えるような体積固有抵抗値が高いポリマーであっても、ポリマーに体積固有抵抗値が低減するようなマスターバッチの練り込み(例えば炭素や金属塩類等のフィラー類を含むマスターバッチ)や、コロナ加工、フッ素加工、エレクトレット加工等の樹脂の抵抗値を下げるような処理手法、或いは、体積固有抵抗値が下がるような油剤(例えばアニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等)等を複合樹脂表面に塗布又は浸漬するような処理手法を、単独又は複数組合せて用いることによって、エレクトロスピニング前までに、見掛け体積固有抵抗値を下げることにより、エレクトロスピニングに適した樹脂とすることができる。なお、樹脂の場合、体積固有抵抗は通常ASTM D−257によって測定される。
【0014】
なお、見掛け体積固有抵抗値とは、一般に樹脂で測定される体積固有抵抗(ASTM D−257)が、樹脂部分を前記処理手法で処理した試料で測定された値を示すものである。即ち、見掛け体積固有抵抗値とは、樹脂そのものの体積固有抵抗値ではなく、処理された樹脂が持つ、体積固有抵抗値を示すものである。
【0015】
前記原料成分における第1成分の含有量は、10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上である。この範囲であれば極細複合繊維を安定して得ることができる。第1成分の含有量が10質量%以上であれば、体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超える帯電しにくい樹脂を配合しても、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の樹脂が帯電してエレクトロスピニングされる際、その影響力により同時にエレクトロスピニングされて伸長され、極細複合繊維が形成され得る。また、第1成分または他の成分のいずれかを接着成分として用いることから、第1成分の含有量は、90質量%以下であることが好ましい。
【0016】
前記原料成分に、例えばポリオレフィン(例えばポリプロピレン、ポリエチレン)等の体積固有抵抗値が1015Ω・cmを越えるような帯電しにくい樹脂を配合した場合であっても、1015Ω・cm以下の樹脂が10質量%以上配合されていれば、良好なエレクトロスピニングができる。具体的には、ポリオレフィンのような体積固有抵抗値が1016Ω・cm以上の樹脂と、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の樹脂を用いた場合、好ましい体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の樹脂の含有量は10〜90質量%であり、より好ましくは30〜70質量%である。体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下の樹脂の含有量が10質量%以上であれば、上記のように極細化しやすく、一方、90質量%以下であれば、安定した原料成分を供給することができる。
【0017】
体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であるポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、エチレンビニルアルコールコポリマー(以下、EVOHとも記す)、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン、ポリウレタン等が挙げられる。中でも、高度に帯電してエレクトロスピニングによる伸長性が大きいという点から、EVOHが好ましい。上記EVOHの体積固有抵抗値は、好ましくは106〜1015Ω・cm、さらに好ましくは107〜109Ω・cm、さらにより好ましくは107.5〜108.5Ω・cmである。
【0018】
上記EVOHは、エチレン酢酸ビニル共重合体を鹸化して得られる。上記EVOHにおけるエチレンの含有量は特に限定されないが、一般的には29〜47モル(mol)%である。市販品としては、クラレ社製商品名「エバール」、日本合成化学工業社製商品名「ソアノール」等があり、本発明ではこれらの市販品を使用できる。また、EVOHの融点は、それに含まれるエチレンとビニルアルコールの含有量により異なり、例えば、エチレンを38モル%含む場合は、融点が171℃である。また、前記原料成分に含まれる他の成分との組合せにより、エチレンの含有量が異なるEVOHを適宜選択して用いてもよい。
【0019】
前記第1成分は、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であればよく、特に限定されないが、融点が100〜300℃であることが好ましく、120〜200℃であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明において、前記ポリマーのうち一つのポリマー成分は、他のポリマー成分よりも低い温度で接着する接着成分である。このポリマー成分は、接着成分として機能すれば、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下のポリマー成分、あるいは体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超えるポリマー成分のいずれであってもよい。ここでいう接着成分とは、熱などを加えたときに接着性能を示すポリマー成分を示し、他のポリマー成分よりも低い温度で接着するポリマー成分をいう。このときの接着処理は、乾熱、湿熱(蒸熱を含む)のいずれであってもよい。
【0021】
前記接着成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィンのホモポリマーまたはコポリマー、共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等のポリエステルまたはそのコポリマー、等が挙げられる。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィンは、体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超えるポリマー成分であるが、前述したとおり体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下のポリマー成分と組み合わせることにより、極細複合繊維の接着成分として機能を発揮する。中でも、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリプロピレンが好ましい。
【0022】
前記接着成分は、接着温度が60℃以上、第1成分の融点よりも低い温度であることが好ましい。より好ましくは、接着温度が80℃以上、第1成分の融点−10℃以下である。接着温度が上記範囲内にあると、後述する極細複合繊維同士は十分に自己接着され、他の濾過シート材とも良好に接着することができる。
【0023】
また、接着成分としては、前記第1成分より融点が10℃以上低いポリマー成分を用いることが好ましい。かかる構成であると、第1成分が繊維形状を維持してフィルム化することがなく、極細複合繊維同士を接着成分により自己接着することができ、他の濾過シート材との剥離強力、引張強力などの適度な実用強度を有する濾過材を得ることができる。
【0024】
前記原料成分は、電荷を与えるときに溶融状態であればよい。原料成分の供給時の状態は特に限定されないが、固体状又は溶融状態であることが好ましい。原料成分が固体状で供給されると、少なくとも2成分のポリマーを含む極細複合繊維を容易に得ることができる。また、原料成分が溶融状態で供給されると、原料成分が帯電しやすくなり、少なくとも2成分のポリマーを含む極細複合繊維を容易に得ることができる。溶融エレクトロスピニングを安定して行うには、原料成分は繊維の状態であることがより好ましい。ここでいう、繊維の状態とは、固体状態の繊維又はフィラメントのみならず、溶融状態の繊維又はフィラメントをも含む。原料成分が繊維の状態であると、極細複合繊維の断面形状は、供給される繊維状の原料成分の断面形状と相似形状となりやすく、エレクトロスピニングして得られる極細複合繊維の断面形状を制御しやすい。また、後述する極細複合繊維同士を自己接着させる場合には、極細複合繊維として海島型及び/又は芯鞘型複合繊維を得やすい観点から、原料成分は、繊維断面から見て海島型及び/又は芯鞘型複合繊維であることがより好ましい。
【0025】
前記繊維状の原料成分(以下、原料複合繊維とも記す)としては、モノフィラメント、モノフィラメントを複数本収束したマルチフィラメント、又はトウであることが好ましい。マルチフィラメントとは、フィラメント数が2〜100本のものをいう。トウとは、フィラメント数が100本を超えるものをいう。中でも、エレクトロスピニング性の点から、モノフィラメントを10〜1000本収束したマルチフィラメント又はトウであることが好ましい。別の手段としては、溶融紡糸機をエレクトロスピンニング装置の前に直結し、溶融状態のフィラメントを供給し、電荷をかけてスピンニングしても良い。
【0026】
前記原料複合繊維の断面形状としては、混合型(アロイを含む)、芯鞘型、並列型、分割型、海島型等の複合断面が挙げられ、その形状は、円形、異形、中空形のいずれであってもよい。特に、接着成分により得られる極細複合繊維を有効に接着させるには、原料複合繊維における接着成分が繊維表面に少なくとも10%露出していることが好ましい。より好ましくは、接着成分が30%以上繊維表面に露出し、さらにより好ましくは、80%以上繊維表面に露出していることである。具体的には、繊維断面から見て海島型及び/又は芯鞘型であることがより好ましい。前記第1成分が島成分及び/又は芯成分であり、接着成分が海成分及び/又は鞘成分であることが好ましい。特に、海島型が、島成分(第1成分)が分散して存在することにより、供給側電極前及び/又は電極間で加熱溶融させる際に、原料繊維の先端断面において、断面形状が瞬間的にアロイ化が起こりやすく、複合されたポリマー成分のうち第1成分の帯電が強いので、それに追随して海成分を含む複合樹脂が良好にエレクトロスピニングされると推定される。この効果を顕著に得る観点から、海島型の原料複合繊維において、海島型原料複合繊維1本あたりの島成分のセグメント数は、15〜70であることがさらに好ましい。
【0027】
前記原料成分は、電極間における供給側電極前及び/又は電極間で加熱溶融され、エレクトロスピニングにより伸長して極細複合繊維となる。極細複合繊維は、接着成分が繊維表面に少なくとも10%露出している繊維を含むことが好ましい。より好ましくは、接着成分が30%以上繊維表面に露出している繊維を含み、さらにより好ましくは、80%以上繊維表面に露出している繊維を含むことである。前記繊維集合物には、接着成分が繊維表面に少なくとも10%露出している極細複合繊維は、10質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、極細複合繊維は30質量%以上含み、さらにより好ましくは50質量%以上含む。具体的には、極細複合繊維の繊維断面からみて、海島型及び/又は芯鞘型複合繊維を含むことがより好ましい。極細複合繊維は、原料複合繊維をエレクトロスピニングにより伸長させる工程において、断面形状がアロイ形状、或いは海島型及び/又は芯鞘型の原料複合繊維の場合は海成分(鞘成分)と島成分(芯成分)とが逆転した形状となる場合がある。この場合でも極細複合繊維は、繊維断面からみて海島型及び/又は芯鞘型複合繊維を10質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、極細複合繊維は海島型及び/又は芯鞘型複合繊維を50質量%以上含み、さらにより好ましくは、極細複合繊維は海島型及び/又は芯鞘型複合繊維100質量%からなる。また、極細複合繊維に含まれる海島型及び/又は芯鞘型複合繊維は、多角形、楕円、不定形等の異形形状であってよい。さらに、原料複合繊維がマルチフィラメント又はトウである場合、マルチフィラメント又はトウが1つの繊維となったような断面形状の極細繊維となる場合がある。本発明でいう海島型及び/又は芯鞘型複合繊維は、このような断面形状の極細繊維も含む。例えば、原料複合繊維として芯鞘型複合繊維を600本集束したトウを用いた場合、見かけ上、島成分のセグメント数が600である海島型複合繊維が得られる場合がある。なお、上記第1成分は島成分及び/又は芯成分となり、上記第2成分は海成分及び/又は鞘成分となる。上記極細複合繊維における、島成分及び/又は芯成分の含有量は、10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。また、上記極細複合繊維において、海成分及び/又は鞘成分の融点は前記島成分及び/又は芯成分の融点より10℃以上低いことが好ましく、後の熱処理において極細複合繊維が互いに容易に熱接着できる。図2に海島型複合繊維の概略断面図を示し、図3に芯鞘型複合繊維の概略断面図を示す。
【0028】
前記繊維集合物は、熱処理を施す場合、第1成分(例えば島成分及び/又は芯成分)の融点未満の温度で熱処理すれば、接着成分(例えば海成分及び/又は鞘成分)のみが接着し、第1成分(島成分及び/又は芯成分)は繊維形状を維持することができ、フィルム化することがない。また、本発明の繊維集合物は、一般的な不織布に比べて、熱収縮が少ない。これらの効果をより顕著に得る観点から接着成分は、第1成分より融点が20℃以上低いポリマー成分を用いることがさらに好ましい。
【0029】
前記繊維集合物の目付は、0.1〜100g/m2であることが好ましい。より好ましくは、1〜50g/m2である。目付が0.1g/m2以上であれば、繊維集合物の実用強度を保つことができる。一方、目付が100g/m2以下であれば、通気性または透水性を適度に保ち、捕集効率が高い濾過層を得ることができる。
【0030】
前記繊維集合物の厚みは、0.1〜100μmであることが好ましい。より好ましくは1〜50μmである。厚みが0.1μm以上であれば、繊維集合物の実用強度を保つことができる。厚みが100μm以下であれば、通気性または透水性を適度に保ち、捕集効率が高い濾過層を得ることができる。ここで、不織布の厚みとは、JIS B 7502に準じて測定したものをいう。
【0031】
前記他の濾過シート材は、濾過機能を有するシートであれば特に限定されない。例えば、サーマルボンド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布、湿式不織布、メルトブローン不織布、スパンバンド不織布、メンブレン膜、メッシュ等が挙げられる。特に、本発明の極細複合繊維を含む繊維集合物を主濾過層として用いる場合、繊維集合物よりも通気度または透水度が大きいシート材を用いることが好ましい。例えば、平均繊維径が0.5〜100μmの不織布は、前濾過層としての機能を果たすので好ましい。また、上記不織布は、繊維集合物の補強層としての機能も果たすので好ましい。具体的には、平均繊維径1〜50μm、引張強力10N/5cm以上の不織布、例えば、湿式不織布がより好ましい。なお、引張強力は、JIS L 1096 8.12.1(ストリップ法)2006年に準じて測定した。また、平均繊維径は、シート断面を電子顕微鏡等で拡大し、30本の繊維の繊維径を各々測定し、その平均とした。
【0032】
前記他の濾過シート材の目付は、特に限定されないが、1〜1000g/m2であることが好ましい。より好ましくは、5〜500g/m2である。上記範囲内にあると、前濾過層及び/又は補強層としての機能を果たすことができる。なお、目付は、JIS L 1906(2000)に準じて測定したものをいう。
【0033】
次に、本発明の溶融エレクトロスピニングの製造方法について説明する。図1は、本発明における一実施例のエレクトロスピニング装置の概略説明図である。このエレクトロスピニング装置11は、供給側電極1と捕集側電極2との間に電圧発生装置3から電圧を印加し、供給側電極1の直下にレーザ照射装置4から矢印Aに沿ってレーザ光線を照射する。原料複合繊維7は、容器5に入れられた繊維堆積物6から引き出され、ガイド8、9を通過し、供給ローラ10からエレクトロスピニング装置11に供給される。原料複合繊維は、ボビンに巻き取られた糸巻体から供給してもよい。原料複合繊維7は供給側電極を通過する際帯電する。この帯電状態で、供給側電極1の直下でレーザ照射装置4から矢印Aに沿ってレーザ光線が照射されることにより、原料複合繊維7は加熱溶融され、電気引力とともに捕集側電極に伸長される。このとき原料複合繊維7は矢印B方向に伸長して極細化し、極細複合繊維となる。12は極細複合繊維が集積した繊維集合物である。
【0034】
まず、電極間の供給側電極と捕集側電極との間に電圧を印加する。好ましい印加電圧は、20〜100kVであり、さらに好ましくは30〜50kVである。電圧が20kV以上であれば、雰囲気中の空間(電極間)において電極間の抵抗が少なく、電子の流れもよく、樹脂が帯電しやすくなる。また、100kV以下であれば、電極間でスパークがおこらず、樹脂に引火する恐れもない。
【0035】
そして、極間距離は2〜25cmが好ましく、さらに好ましくは5〜20cmである。極間距離が2cm以上であれば、電極間でスパークが起こらず、樹脂に引火する恐れもない。また、25cm以下であれば、電極間の抵抗が高くなく、電子の流れも悪くならず、樹脂が帯電しやすくなる。
【0036】
供給側電極に供給する際に、原料成分は固体状態又は溶融状態で供給してよい。例えば繊維の状態(原料複合繊維)で供給される。原料成分が固体状の場合には、例えば、ガイドロールを用いて供給してよい。一方、供給側電極を通過する際には、加熱して溶融状又は半溶融(軟化)状の複数の原料ポリマー成分であってもよい。また、原料成分が溶融状態の場合には、例えば、自重、供給上流からの押圧、高圧気流の噴射により供給することができる。なかでも、溶融度合いを調整し易い観点から、溶融紡糸機をエレクトロスピンニング装置の前に設け、溶融紡糸機から押し出される樹脂の押圧で溶融状態の複合樹脂成形物を供給することが好ましい。
【0037】
供給側電極を通過した直後の原料成分(例えば、原料複合繊維)に、例えばレーザ光線や近赤外線を照射し、原料成分をエレクトロスピニングしやすい粘度となるように加熱溶融するとよい。ここで、原料複合繊維は、繊維断面から見て海島型及び/又は芯鞘型複合繊維であることが好ましい。原料成分を溶融状態で供給する場合、又は固体状の原料成分を供給し、予め原料成分を溶融状又は半溶融状とした場合でも、加えて電極間で加熱溶融することにより、原料成分を低粘度化することができ、伸長性を高くすることができる。加熱溶融方法としては、原料成分を瞬時に低粘度化させることから、スポット加熱であることが好ましい。具体的には、近赤外線点集光型スポット加熱またはレーザ光線照射であることがより好ましい。近赤外線点集光型スポット加熱は、特開2007−321246号公報に記載されている方法を用いるとよい。
【0038】
前記加熱溶融方法として、レーザ光線を照射する場合を例に挙げて説明する。レーザ光線には、YAGレーザ、炭酸ガス(CO2)レーザ、アルゴンレーザ、エキシマレーザ、ヘリウム−カドミウムレーザ等の光源から発生されるレーザ光線が含まれる。これらのレーザ光線のうち、電源効率が高く、複合繊維の溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザによるレーザ光線が好ましい。レーザ光線の波長は、例えば、200nm〜20μm、好ましくは500nm〜18μm、さらに好ましくは1〜16μm、さらに特に好ましくは5〜15μmである。レーザ光線の照射方法は、特に限定されないが、例えば、スポット状レーザ光線を照射する方法、或いは、レーザ光線を反射板に反射させ、その反射板を制御して、線状又は平面状に照射する方法が挙げられる。中でも、原料複合繊維に対して、局所的に照射できる点から、スポット状にレーザ光線を照射する方法が好ましい。このスポット状レーザ光線を原料複合繊維に照射するビーム径の大きさは、原料複合繊維の形状に応じて選択できる。具体的なビーム径は、例えば、線状体樹脂(例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、トウ等)の場合、線状体樹脂の平均径よりも大きい径であればよく、例えば、0.5〜30mm、好ましくは1〜20mm、さらに好ましくは2〜15mm、さらに特に好ましくは3〜10mm程度である。線状体樹脂の平均径とビーム径との比率は、線状体樹脂の平均径に対して、1〜100倍程度のビーム径であってもよく、好ましくは2〜50倍、さらに好ましくは3〜30倍、さらに特に好ましくは5〜20倍程度のビーム径である。
【0039】
そして、供給側電極通過後に原料成分を加熱溶融する(例えば、レーザ光線を照射する)場合、供給側電極における原料成分が出る側の端部と、原料成分におけるスポット加熱される(レーザ光線が照射される)部位の距離は、1〜6mmが好ましい。より好ましくは2〜4mmである。距離が1mm以上であれば、例えばレーザ光線照射部が電極に近すぎず、電極の温度が高くならず、樹脂分解が起こらないことがある。一方、6mm以下であれば、供給側電極通過時に帯電した原料成分の帯電量が減衰せず、そこをスポット加熱すると溶融状態の樹脂が捕集側電極に向かって伸長しやすい傾向にある。
【0040】
原料成分を伸長可能な程度に溶融するために必要なレーザ光線の出力は、原料成分を構成する第1成分の融点以上であり、かつ原料成分を構成するいずれかの樹脂が発火又は分解しない温度となる範囲に制御すればよい。すなわち、原料成分が粘性を有する状態になればよい。原料成分に粘性を持たせるように加熱する温度は、原料成分の供給速度、レーザ光線の出力、レーザと原料成分間の距離、原料成分の太さによって適宜設定される。例えば、レーザ光線の場合の加熱温度は、好ましくは160〜1200℃、より好ましくは600〜800℃である。160℃以上の加熱温度であれば、加熱する熱量が十分なため溶融が良好となって粘性を持ちやすく極細化しやすい。また、1200℃以下であれば、瞬間加熱なので樹脂が発火又は分解せず、樹脂の繊維化が良好となる。また、具体的なレーザ光線の出力は、用いる原料成分の物性値(融点)、形状、太さ、供給速度等に応じて適宜選択できるが、例えば、3〜100mAであることが好ましく、より好ましくは3〜50mA、さらにより好ましくは6〜40mA程度である。レーザ光線の出力が3mA未満であると、樹脂を溶融状態にするためのレーザ光線の照射条件は、原料成分の融点に基いて制御してもよいが、原料成分が径の小さな線状体であり、高電圧が付与される場合には、簡便性の点から、レーザ光線の出力により制御することが好ましい。レーザ光線は、原料成分の周囲から1箇所又は複数箇所から照射してもよい。
【0041】
伸長可能な程度に溶融された原料成分は、電気引力とともに捕集側電極に伸長され、極細複合繊維となる。このときの伸長倍率は100〜1000倍、好ましくは200〜800倍、さらに好ましくは300〜500倍程度である。この伸長倍率で伸ばされることにより、極細繊維化される。
【0042】
本発明の極細複合繊維の繊維径は、好ましくは0.1〜10μmである。より好ましくは0.3〜5μmであり、さらにより好ましくは、0.5〜3μmであり、最も好ましくは、0.8〜1.5μmである。ここで、繊維径は、円形繊維の場合は繊維の直径より求める。繊維断面から又は繊維側面から、繊維径(直径)を計測する。また、多角形、楕円、中空、C型、Y型、X型、不定形等の異形断面繊維においては、繊維断面形状を同じ面積を持つ円形と仮定しその直径を計測することにより繊維径を求める。よって、異形断面繊維の場合は繊維側面より繊維径を求めることはできない。
【0043】
前記極細複合繊維を捕集側電極に集積して繊維集合物を得る。繊維集合物は、捕集側電極に集積したものを直接採取してもよいし、捕集側電極がコンベア形状をなしており、連続的に集積する位置を移動させることにより、シート状の繊維集合物を連続して作製できるようにしてもよい。また、繊維集合物の別の採取方法としては、捕集側電極上に、金属メッシュや織布、不織布、紙等を配置し、そのシート状物の上に極細複合繊維を集積させることにより、積層構造の繊維集合物を得ることができる。本発明においては、捕集側電極上に、他の濾過シート材を配置し、そのシート材の上に極細複合繊維を集積させると、他の濾過シート材の空隙にも極細複合繊維が入り込むので、後述する接着処理をしたときに剥離強力等の実用強度が高くなり、より好ましい。
【0044】
集積させる対象物は、アースを取り、捕集側電極と電位差をなくすことが好ましい。ただし、生産上特に問題がなければ、別段アースをとる必要性はなく、捕集側電極から若干浮いた状態で対象物を保持してもよい。
【0045】
得られた繊維集合物は、集積したときの余熱により極細複合繊維が軽く接着した状態ではあるが、実用強度は得られていない。そこで、繊維集合物に接着処理を施して、極細複合繊維同士を自己接着させるとよい。接着処理は、繊維集合物単独、または繊維集合物と他の濾過シート材を積層した後に行ってもよい。繊維集合物と他の濾過シート材を積層した後、接着処理を施すと、極細複合繊維同士を自己接着させるとともに、繊維集合物と他の濾過シート材の層間も良好に接着させることができ、より好ましい。
【0046】
本発明では、繊維集合物の少なくとも一表面に他の濾過シート材が積層していれば、例えば、繊維集合物の両面に他の濾過シート材を積層してもよく、さらに別のシートを積層してもよい。
【0047】
接着処理方法は、特に限定されないが、例えばエアスルードライヤー、シリンダードライヤー、熱ロール(エンボスロール含む)等による乾燥方式が挙げられるが、極細複合繊維を必要以上にフィルム化しない程度に接着処理することが好ましく、エアスルードライヤーまたはシリンダードライヤーを用いることが好ましい。
【0048】
前記接着処理は、極細複合繊維を構成する接着成分が接着する温度で行うとよい。接着処理温度は、接着成分の接着温度以上、第1成分の融点よりも低い温度に設定することが好ましい。より好ましくは、接着処理温度が接着成分の接着温度(融点)+1℃以上、第1成分の融点−5℃以下である。接着処理温度が上記範囲内にあると、極細複合繊維同士が十分に自己接着され、他の濾過シート材とも良好に接着することができる。前記繊維集合物は、鞘成分及び/又は海成分の熱融着により極細複合繊維同士が熱接着し、シート状に形成されていることが好ましい。例えば、島成分及び/又は芯成分の融点以下の温度で熱処理することで、上記鞘成分及び/又は海成分を熱融着させ、極細複合繊維同士が自己接着し、他の濾過シート材とも良好に接着した濾過材を得ることができる。接着成分が高密度ポリエチレンの場合、接着処理温度は120〜150℃であることが好ましく、エチレンープロピレン共重合体の場合、接着処理温度は110〜140℃であることが好ましい。
【0049】
このようにして得られる濾過材の通気度は、要求される濾過性能に応じて適宜設定されるが、0.1〜100ccsであることが好ましい。より好ましくは、0.5〜20ccsである。通気度が上記範囲であれば、通気度を必要とする分野、例えば、エアフィルター、マスク等に好適に用いることができる。不織布の通気度は、JIS L 1096(フラジール法)に準じて測定したものをいう。
【0050】
本発明の濾過材の平均孔径および最大孔径は、要求される濾過性能に応じて適宜設定される。平均孔径は、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。上記平均孔径10μm以下であれば、フィルター、マスク等に好適に用いることができる。また、上記微細孔の最大孔径は、15μm以下であることが好ましく、より好ましくは、10μm以下である。平均孔径(mean flow pore diameter)及び最大孔径(bubble point pore diameter)は、ASTM F 316 86 に準じて、バブルポイント法によって測定したものをいう。本発明では、繊維集合物を構成する極細複合繊維の接着成分で接着することにより、過度にフィルム化させることなく、平均孔径及び最大孔径をより小さくすることができる。
【0051】
本発明の濾過材における繊維集合物と他の濾過シートの層間の剥離強力は、0.01N以上であることが好ましい。より好ましくは、0.03N以上であり、さらにより好ましくは、0.08N以上である。剥離強力が0.01N以上であると、濾過材として用いたときの実用強度を満足する。剥離強力は、繊維集合物を他の濾過シート材から75mmまで剥した後、引張試験機に片方のつかみ幅が25mmになるようにセットして、引張速度30cm/minで、つかみ間隔が100mmから130mmになるまで引張り、応力−歪み曲線を得る。次に、得られた応力−歪み曲線において、引張強度の最大点の大きい方から3点、最小点の小さい方から3点を選び、この6点の引張強度の平均値を剥離強力とした。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例で用いた測定方法は以下のとおりである。
<繊維径>
走査電子顕微鏡(SEM、日立製作所社製商品名「S−3500N」、倍率1500倍)を使用して、繊維側面を観察し、任意の30本の単繊維の測定結果から平均値を求めた。
【0054】
<引張強力>
JIS L 1096 6.12.1(ストリップ法)に準じ、幅5cm、長さ15cmのシートの試験片を用いて、シートの長さ方向の引張強力を測定した。
【0055】
<気体捕集効率>
JIS B 9908に準じ、フィルターユニットの替わりに不織布の試験片を装着し、濾過面を100mmφとして測定する測定法により、測定速度5.3cm/秒で大気塵を濾過し、濾過前後の0.3〜2.0μmの粒子を分画し、粒子の個数を測定して下記式により捕集効率を算出した。なお、3サンプルの平均値を用いた。
気体捕集効率(%)=(1−C2/C1)×100
上記式において、C1は濾過前の粒子の個数であり、C2は濾過後の粒子の個数である。
【0056】
<気体圧力損失>
上記捕集効率測定時のフィルターユニットの替わりに装着した不織布の試験片の上流側圧力及び下流側圧力を測定し、上流側圧力と下流側圧力の差を圧力損失とした。
【0057】
<透気度>
JIS P 8117に準じて測定した。測定装置としてB型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。不織布の試験片を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締付ける。内筒重量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し、透気度(ガーレー値)とした。
【0058】
<液体捕集効率>
試験用ダストJIS11種とJIS8種を同量ずつ混合したダストを水中に投入し、その濃度が50ppmになるように調整した懸濁液1リットルを面積9.2cm2の濾材で吸引濾過し、濾過後の懸濁液を乾燥させて含まれているダスト重量(A)を測定し、これと濾過前の懸濁液中のダスト重量(B)から、次式により算出した。
濾過効率(%)=[(B−A)/B]×100
【0059】
<液体濾過精度>
前記濾過効率の測定と同様にして、懸濁液を吸引濾過し、濾過後の懸濁液中の粒子径別の粒子個数(N)を、粒度分布測定器(商品名 コールターカウンターZM型)を用いて測定した。また、同様にして濾過前の懸濁液中の粒子径別の粒子個数(M)を測定し、式[(M−N)÷]×100から各粒子径別の遮断率を算出し、遮断率が80%となる粒子径を濾過精度(μm)とした。
【0060】
<液体濾過流量>
前記濾過精度の測定と同様にして、懸濁液1リットルを吸引濾過し、濾過開始から懸濁液の全量が濾材を通過するのに要した時間を測定し、この結果より、単位面積・単位時間あたりの流量を算出した。
【0061】
<原料樹脂>
(1)ポリプロピレン(PP):日本ポリプロ社製“SA03”、融点161℃、JIS−K−7210に準じて測定したメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N(2.16kgf))30g/10min
(2)高密度ポリエチレン(PE):日本ポリエチレン社製“HE490”、融点130℃、JIS−K−7210に準じて測定したメルトフローレート(MFR;測定温度190℃、荷重21.18N(2.16kgf))20g/10min
(3)エチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH):日本合成化学社製“K3835BN”、融点171℃、JIS−K−7210に準じて測定したメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N(2.16kgf))35g/10min
(4)エチレン−プロピレンコポリマー(EP):日本ポリプロ社製“WXK1183”、融点128℃、JIS−K−7210に準じて測定したメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N(2.16kgf))25g/10min
(5)ポリビニルアルコール(PVA):日本酢ビ・ポバール社製“JP−18S”の10質量%水溶液を使用した。
【0062】
<他の濾過シート材>
他の濾過シート材として、繊維長が5mm、繊度が0.9dtex、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンの芯鞘型複合繊維(ダイワボウポリテック社製“NBF(H)”)100%からなる目付10g/m2、厚み50μmの湿式抄紙不織布を用意した。この湿式抄紙不織布の縦方向の引張強力は、20.2N/5cmであった。
【0063】
<原料複合繊維の製造>
原料成分は、常法に従い、溶融紡糸して未延伸糸を得て、原料複合繊維とした。
【0064】
<エレクトロスピニング方法>
エレクトロスピニング装置は図1に示す装置を使用し、その条件は次のとおりとした。
電極間の電圧:32.5kV
電極間距離:10cm
紡出速度:30mm/min
雰囲気温度:23℃
レーザ装置:鬼塚硝子社製PIN−30R(定格出力30W、波長10.6μm、ビーム径6mm)
供給側電極とレーザ照射部の距離:4mm
供給側電極:ユニコントロールズ社製 UNシリーズ 20G×15を1本で使用
レーザ強度:20mA。
【0065】
(製造例1〜3)
製造例1〜3の極細複合繊維の作製に用いた原料複合繊維の島成分、海成分、その配合割合、断面構造、一本の繊維の単繊維繊維径、合計繊維本数、及び紡出吐出量を下記表1に示した。表1に示した原料複合繊維を用い、上記のスピニング条件下で製造例1〜3の極細複合繊維を得た。なお、製造例1〜3の極細複合繊維は原料複合繊維の繊維断面形状と相似形状の断面形状を含んでいた。
【0066】
(製造例4)
<エレクトロスピニング方法>
通常の溶液エレクトロスピニング法により、PVAの10質量%の水溶液を用いて、電極間の電圧25kV、電極間距離8cm、雰囲気温度23℃の条件下、紡出吐出量0.0051g/分で、製造した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に、製造例1〜4のスピニング後の極細複合繊維の繊維径を示す。表1から明らかなように、製造例1〜3においては、原料成分である原料複合繊維における島成分又は海成分の体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であることにより、良好なスピニング性と極細複合繊維が得られた。また、液体の原料樹脂を用いた製造例8の場合は、溶液エレクトロスピニング法により、極細繊維が得られた。
【0069】
(実施例1)
製造例1の原料複合繊維を用いて、上記のスピニング条件下で捕集側電極の上に他の濾過シート材(目付10g/m2、厚み50μmの湿式抄紙不織布)を載せて、溶融エレクトロスピニングを行い、製造例1の極細複合繊維を含む繊維集合物と他の濾過シート材の上に集積して、表2の目付、厚みに調整した原材積層シートを得た。得られた原材積層シートに、145℃、30秒のエアスルードライヤー方式により、繊維集合物面から熱風を吹き付けて熱処理した熱接着不織布(以下、エアスルードライヤー不織布と記す)、又は140℃、30秒のシリンダードライヤー方式により、繊維集合物面がシリンダー面となるように熱処理して熱接着不織布(以下、シリンダードライヤー不織布と記す)を作製した。
【0070】
このようにして得られたエアスルードライヤー不織布の表面の走査電子顕微鏡(SEM、倍率5000倍)の写真を図4に示す。また、エアスルードライヤー不織布の断面の走査電子顕微鏡(SEM、倍率1500倍)の写真を図5に示す。
【0071】
(実施例2〜3)
製造例2〜3の原料複合繊維を用いて、エレクトロスピニングしてそのまま集積して繊維集合物を得た(以下、スピニング後不織布と記す)。次に、繊維集合物を他の濾過シート材(目付10g/m2、厚み50μmの湿式抄紙不織布)の上に積層して、145℃、30秒のエアスルードライヤー方式により、繊維集合物面から熱風を吹き付けて熱処理したエアスルードライヤー不織布、又は140℃、30秒のシリンダードライヤー方式により、繊維集合物面がシリンダー面となるように熱処理したシリンダードライヤー不織布を作製した。なお、スピニング後不織布の濾過性能は、このスピニング後不織布に他の濾過シート材を単に重ね合わせて評価した。
【0072】
(比較例1)
製造例4の溶液エレクトロスピニング法により、比較例1の極細繊維不織布を作製した。実施例2〜3と同様の方法で熱処理を行ったが、極細繊維不織布が激しく収縮しフィルム化したため、所定の試料を得ることができなかった。なお、濾過性能は、この極細繊維不織布に他の濾過シート材を単に重ね合わせて評価した。
【0073】
実施例1〜3及び比較例1の不織布の目付、厚み、引張強度(縦方向)、平均孔径、最大孔径の材料特性を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2から明らかなように、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下である島成分と、体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超える海成分とを含む製造例1〜2の極細複合繊維を用いた実施例1〜2において、いずれの目付及び厚みのエアスルードライヤー不織布及びシリンダードライヤー不織布の引張強度は、熱処理されてないスピニング後不織布に比べて高いものであった。また、実施例1〜2において、いずれの目付及び厚みのエアスルードライヤー不織布及びシリンダードライヤー不織布の平均孔径及び最大孔径が、熱処理されてないスピニング後不織布に比べて小さく、緻密性が向上していた。特に最大孔径が熱処理前後で1/2〜1/10程度にまで低減することができ、孔径の均一性が向上していた。
【0076】
また、体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下である海成分と、体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超える島成分とを含む製造例3の極細複合繊維を用いた実施例3において、エアスルードライヤー不織布及びシリンダードライヤー不織布の引張強度及び突刺強度は、熱処理されてないスピニング後不織布に比べてある程度高くなる傾向にあった。これは、原料複合繊維が溶融エレクトロスピニングされたときに、ある程度の極細複合繊維は、原料複合繊維断面と相似形状の断面を有するが、一部は繊維表面に露出しているものも含んでいるものと推定される。一方、液体の原料樹脂を用いて溶液エレクトロスピニング法により作製した製造例4の極細繊維を用いた比較例1においては、エアスルードライヤー不織布及びシリンダードライヤー不織布のいずれにおいても、不織布がフィルム化していた。
【0077】
次に、実施例1〜3および比較例1の濾過材について、気体濾過性能を評価した結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
実施例1〜3の濾過材は、目付を調整する、あるいは接着状態を調整することにより、濾過性能を調整できることが確認できた。特に、実施例1〜2の濾過材は、実用強度が高く、緻密性が高いので、高精度濾過に適していることが確認できた。一方、比較例1の濾過材は、目付が低いにもかかわらず高い濾過性能が得られたが、濾過性能を目的に合わせて調整することが困難であった。
【0080】
(製造例5)
表1に示した製造例1の原料複合繊維を用いて、上記のスピニング条件下で捕集側電極の上に他の濾過シート材を載せて、溶融エレクトロスピニングを行い、製造例1の極細複合繊維を含む繊維集合物と他の濾過シート材の上に集積して、表4の目付、厚みに調整した原材積層シートを得た(製造例5−1、5−2、5−3)。なお、製造例5の極細複合繊維は原料複合繊維の繊維断面形状と相似形状の断面形状を含んでいた。得られた原材シートの材料特性を表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
製造例5−1〜3の原材積層シートを、120℃及び145℃の温度で30秒のシリンダードライヤー方式により熱処理して熱接着シートを作製したところ、良好な剥離強力を有しており、極細複合繊維同士が自己接着し、繊維集合物と他の濾過シート材の層間が接着成分(エチレン−プロピレン共重合体)により接着していることが確認できた。
【0083】
(実施例4)
液体フィルターとして、以下の濾過材を作製した。製造例5の原材シートを、145℃、30秒のシリンダードライヤー方式により熱処理して熱接着不織布を作製した。
【0084】
(比較例2)
製造例5の原材シートをそのまま濾過材として用意した。
【0085】
(比較例3)
ポリプロピレン製メルトブローン不織布として、三井化学社製「SYNTEX NANO3」(公称平均繊維径0.6μm)を用意した。
【0086】
(比較例4)
表1の目付、厚みに調整した製造例4のPVA紡糸原液を用いて、他の濾過シート材の上に溶液エレクトロスピニング法により集積した。次いで、得られた積層体のPVA面に同じ他の濾過シート材を載せて、熱プレス機を用いて120℃で貼り合わせを行い、濾過材を得た。
【0087】
次に、実施例4および比較例2〜4の濾過材について、液体濾過性能を評価した結果を表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
実施例4−1〜3の濾過材は、目付を調整することにより、濾過性能を調整できることが確認できた。また、実用強度が高く、緻密性が高いので、高精度濾過に適していることが確認できた。一方、比較例2の濾過材は、熱処理を行っていないため、層間が容易に剥離してしまい実用強度が十分ではなかった。また、濾過性能でも実施例4よりも劣っていた。比較例3は、濾過性能は実施例4−2と同等であったが、濾過流量が小さく劣っていた。比較例4の濾過材は、目付が低いにもかかわらず高い濾過性能が得られたが、実施例4と同じ捕集効率で比較すると、濾過流量が低い点で劣り、またPVAの繊維径が細いために目付を低くする必要があるので、濾過材の孔径のばらつき(最大孔径)が大きくなり、絶対精度を求められる用途での使用は困難である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の濾過材は、気体、液体用途等の濾過膜、プリーツフィルター、ハニカムフィルター、カートリッジフィルターなどのフィルター基材として有用である。液体フィルターとしては、水、飲料、溶剤、汚水、次亜塩素酸、塗料などの濾過に好適であり、気体フィルターとしては、HEPA、ULPA、メンブレン膜の代替フィルター、空調フィルター、マスク用フィルターなどに好適である。
【符号の説明】
【0091】
1 供給側電極
2 捕集側電極
3 電圧発生装置
4 レーザ照射装置
5 容器
6 繊維堆積物
7 原料複合繊維
8,9 ガイド
10 供給ローラ
11 エレクトロスピニング装置
12 極細複合繊維の繊維集合物
20 海島型複合繊維
21 島成分
22 海成分
30 芯鞘型複合繊維
31 芯成分
32 鞘成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2成分のポリマーを含み、溶融エレクトロスピニング(electro spinning)によって伸長された極細複合繊維を集積した繊維集合物と、
前記繊維集合物の少なくとも一表面に他の濾過シート材が積層された濾過材であって、
前記ポリマーのうち少なくとも1成分は、ポリマーの体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であり、
前記ポリマーのうち1成分が他の成分よりも低い温度で接着する接着成分であり、
前記極細複合繊維同士は、前記接着成分により自己接着しており、
前記繊維集合物と他の濾過シート材は、前記接着成分により接着している、濾過材。
【請求項2】
前記極細複合繊維は、少なくとも2成分のポリマーを含み、繊維断面からみて海島型及び芯鞘型から選ばれる少なくとも一つのタイプの複合繊維を含み、
島成分及び芯成分から選ばれる少なくとも一つの体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であり、
かつ海成分及び鞘成分から選ばれる少なくとも一つの体積固有抵抗値が1015Ω・cmを超える、請求項1に記載の濾過材。
【請求項3】
前記接着成分は、海成分及び鞘成分から選ばれる少なくとも一つの成分である、請求項1または2に記載の濾過材。
【請求項4】
前記海成分及び鞘成分から選ばれる少なくとも一つのポリマーの融点は、前記島成分及び芯成分から選ばれる少なくとも一つのポリマーの融点より10℃以上低い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の濾過材。
【請求項5】
少なくとも2成分のポリマーを含み、溶融エレクトロスピニング(electro spinning)によって伸長された極細複合繊維を集積した繊維集合物と、前記繊維集合物の少なくとも一表面に他の濾過シート材が積層された濾過材の製造方法であって、
前記ポリマーのうち少なくとも1成分は、ポリマーの体積固有抵抗値が1015Ω・cm以下であり、前記ポリマーのうち1成分が他の成分よりも低い温度で接着する接着成分である少なくとも2成分のポリマーを溶融する工程、
溶融したポリマーをエレクトロスピニング法により伸長させて極細複合繊維を形成する工程、
前記極細複合繊維を他の濾過シート材上に集積して繊維集合物層との積層体を形成する工程、
及び前記積層体を構成する接着成分が接着する温度で熱処理を行い、極細複合繊維同士及び繊維集合物と他の濾過シート材を接着する工程を含む、濾過材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−183254(P2011−183254A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48428(P2010−48428)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】