説明

濾過槽用の弾性電流分配器

アノードの隔室およびカソードの隔室を備え、2つの隔室のうちの少なくとも1つがガス拡散電極を含み、電解液の流れが横切る平面多孔質要素を膜とガス拡散電極の間に介在させる、膜電解槽を記載する。ガス拡散電極までの電流伝達は電流分配器を介して行われ、電流分配器には、電極を多孔質要素に押しつける弾性導電突起が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用電解プロセスの槽に関し、詳細には、イオン交換膜で分離されたアノードの隔室およびカソードの隔室を備え、一方または両方の隔室がガス拡散電極を装備され、プロセス電解液が濾過部材または同等の多孔質要素の端から端まで流れる、槽に関する。
【0002】
以下の説明では、減極された塩素アルカリ電気分解に適した槽に言及される。すなわち、例えばEP1033419に開示されているような、ガス拡散カソード上で酸素消費の反応に有利なように水素発生カソード反応が抑制される、アルカリ塩素塩水電気分解のプロセスを参照する。しかし本発明は、塩素アルカリ槽に限定されず、したがってガス拡散電極を使用するどんな工業用電気化学プロセスにも適用可能である。
【背景技術】
【0003】
当技術分野では、引力の作用でプロセス電解液が適切な多孔質平面要素または濾過部材の端から端まで流れる、特に先進型の減極された塩素アルカリ槽が知られており、そのような種類の槽は、例えば国際公開WO/0157290に開示されている。この種類の槽には一般に、アルカリ塩素高濃度塩水が供給され、塩素発生用の触媒の被覆が設けられたチタンアノードを含む、チタン外郭から得られるアノードの隔室と、ニッケルカソード外郭によって画定されたカソードの隔室とが存在し、この2つの隔室は、陽イオン交換膜によって分離される。プロセス内で生成される苛性ソーダは、一方の側面がイオン交換膜に接触し他方の側面がガス拡散カソードに接触する、カソード隔室内に挿入された多孔質要素の端から端まで引力によって流れる。言い換えると、アノードは、当技術分野で周知のものから選択された適切な金属構造物、例えばリブのアレイを用いてアノードの外郭に電気的かつ機械的に接続された剛性の金属要素であるのに対し、カソードは、銀網、炭素布、または他の非自立型の同等構造物から得られる薄い多孔質要素である。このため、カソードの外郭の後壁からガス拡散電極までの電流伝達は、より非局在化した接触を実現するとともに電極を機械的に支持できる構造物を用いて行われなければならない。電気化学的な特徴を改善するために、カソードは、循環する電解液の封じ込めに寄与しながら電気的導通を可能にするように、0.1〜0.5kg/cmで示されるある圧力で濾過部材に押しつけられる必要もある。上記の条件のすべてを満たすために、従来技術の槽には、2つの別個の要素に依拠する電流供給システムが設けられる。すなわち、第1は、アノード側におけるように例えばリブアレイから成るものでよい、カソードの外郭と一体化した剛性の集電体であり、第2は、剛性の集電体とガス拡散電極との間に配置された金属マットレスであり、これは適切な圧縮の状態で、十分な圧力をガス拡散電極に伝達することができ、それによって必要な電気的導通が確保される。同等な解決策は、従来型の塩素アルカリ槽の後付けに適用されて、前述のものを濾過型の減極されたプロセスに、例えば国際特許公開03/102271の図2に示されたように適合させる。すなわちこの場合には、当技術分野で周知のニッケル製または鋼製の水素発生用金属電極である、元来の槽カソードは集電体の役割を果たし、一方、ニッケルマットレス(弾性集電体)は、剛性の集電体とガス拡散電極との間の電流伝達用の介在要素として働く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上に示した解決策には、この型の槽の実用化を妨げるいくつかの不都合が必然的に伴う。すなわち、2隔室型の電流伝達システムには、マットレスとガス拡散電極の間のものなど、抵抗降下の面で特に好ましくない接触仲介物を追加することはもちろん、それ以外に、実際のところは過大なコストおよび厚さ、マットレスの設置および(特に周辺部での)寸法管理の困難、ならびに変形および弾性力を管理することの困難が伴う。
【0005】
本発明の1つの目的は、イオン交換膜によって分離され、従来技術の制限事項を克服するガス拡散電極および電解液循環用濾過部材要素を装備した電解槽を提供することである。
【0006】
別の態様では、本発明の1つの目的は、ガス拡散電極および濾過部材を設けた電解槽用の改善された電流供給システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イオン交換膜で分離されたアノードの隔室およびカソードの隔室を有する電解槽から成り、2つの隔室のうちの少なくとも1つに2つの主表面を有するガス拡散電極が装備され、第1の主表面は、電解液の流れが横切る濾過部材と接触する膜に面し、第1の主表面と反対の第2の主表面は、ガス拡散電極を濾過部材に押しつけるのに適した多数の弾性導電突起を備えた電流分配器と接触する。濾過部材としては、国際特許公開WO/0157290に開示されているような、引力によって液体の流れが横切るのに適した任意の多孔質平面要素であるとする。1つの好ましい実施形態では、従来技術の剛性集電体/弾性集電体組立品に取って代わる電流分配器が、単一の金属シートの切断および成形によって、例えば塩素アルカリ槽用のカソードの集電体の場合ではニッケルシートの切断および成形によって得られる。この場合、ニッケルシートは、通常0.5〜1.5mmに含まれる厚さのシートであり、好ましくは接触抵抗を低減するのに適した被覆を備える。シートのニッケル材料は様々な合金とすることができ、例えば一般に入手可能な製品の組合せから選択することができる。例えば優れた弾性特徴を有する、ばねの製作に適した等級および機械的特性のニッケル材料を選択すると特に有利になる。特に簡素で効果的な一実施形態では、電極に十分な圧力を与えることができる導電突起はばね片であり、これは、2つの隣接するばね片が、それらが得られる金属シートの主平面から反対の方向に突き出るように対の形で配置される。このようにして、電極表面全体のより効果的で均質な支持物が得られる。上に示した解決策は、ほとんどすべてのプロセス条件における最適の槽設計に適するが、高い電流密度における接触要素として従来技術によるマットレスを使用することは、簡単な層状構造では及ばない効果的なガス循環を可能にするという利点を有する(例えば、減極された塩素アルカリ電解の場合では、ガス拡散電極への効果的な酸素の供給)。この場合、特に好ましい一実施形態では、個別タイル状片の形状である導電突起物を提供し、これはそれらの曲がり部に、電気的接触を行うための1つまたは複数のばね片だけでなく、ガス通過に有利なように1つまたは複数の開口も備える。導電突起物は、例えば、電極表面全体に沿って分布した平行な列の形で配置することができる。
【0008】
本発明による電流分配器は、好ましくは0.1〜0.5kg/cmに含まれる圧力でガス拡散電極上に直接、効率的な電気的接触を実現するのに適しており、それにより、剛性の集電体が弾性の集電体に結合される従来技術のシステムと比べて、接触介在物が取り除かれる。他方で、本発明の一実施形態では、例えば薄いメッシュ、展伸シートまたは穿孔シートから成る、機械的圧縮力を分散させるための追加の要素を電流分配器とガス拡散電極の間に挿入することができる。このような場合では、接触介在物の数は従来技術と同等であるが、相応する抵抗は、従来技術のほとんど弾性のない、ガス拡散電極と直接接触するマットレスによって得られるものよりも著しく低くなる。さらに、当業者には容易に理解されるように、槽の全体厚さが著しく小さくなる。
【0009】
本発明を添付の図面を用いてより詳細に説明するが、図面は例示を目的とするにすぎず、本発明を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に、イオン交換膜(500)によって分離された、1つのアノードの隔室(区画)および1つのカソードの隔室(区画)を備える、従来技術による濾過型の減極された塩素アルカリ槽を示す。カソードの隔室は、電流供給システムと接触するカソードの後壁(101)によって画定され、この電流供給システムは、それと一体化された剛性の集電体(201)と、例えばニッケル性のマットレスから成る弾性の集電体(210)とである、2つの個別要素に依存する。カソード(301)は、酸素を供給される多孔質のガス拡散電極から成り、一方の側面でマットレス(210)に、他方の側面で濾過部材(400)に接触し、この濾過部材は、引力の作用で電解液の流れが横切る平面多孔質要素から成る。セパレータとして働くイオン交換膜(500)は、濾過部材(400)と接触するカソード面、およびアノード(302)に面するアノード面を有し、このアノード面はアノードと接触してよく、あるいは所定の小さな間隔で保持されてもよい。アノード(302)は通常、メッシュ、展伸シートまたは穿孔シート、あるいは任意選択でそのような2つの要素の並置で構成されるチタン基板から成り、このアノードの基板は、当技術分野で周知の塩素発生用触媒被覆を備える。アノード(302)とアノードの隔室後壁(102)の間の電気的導通は、剛性の集電体(202)によって確保される。カソードの剛性集電体(201)およびアノードの剛性集電体(202)は、リブアレイ、波形シート、適切に間隔がおかれたゴーファー(gopher)を備えたシート、または当業者に周知の他の種類の集電体で構成することができる。
【0011】
図2に、本発明による濾過型の減極された塩素アルカリ槽を示す。この図で、図1の槽と共通の要素は同じ参照数字で示されている。
電流供給システムは、ガス拡散電極(301)を濾過部材(400)に押しつけるのに適した、例えば、ばねまたは弾性ばね片の集合である多数の導電突起(220)で構成され、導電突起の集合(220)とガス拡散電極(301)との間には、機械的圧縮力を分散させるための、例えば薄いメッシュ、展伸シートまたは穿孔シートである任意選択の要素(230)が挿入される。
【0012】
図3は、単一の金属シートから得られ、この場合には、くし状の形に従って、平行に配置された弾性ばね片(221)の集合からなる多数の導電突起の一実施形態を示す。ばね片は、元の金属シートの主表面から2つのばね片のそれぞれが反対側の方向に突き出るように、対で配列される。当業者には明らかなように、槽の寸法によっては、単一の列のばね片(221)で全活性表面を覆うことができ、あるいはより多くの列が並行して配置されてもよい。
【0013】
図4は、単一の金属シートから得られる多数の導電突起の好ましい実施形態を示す。この場合、突起は、好ましくは四角形で個別のタイル状片(222)であり、これは金属シートの切断および成形によって得られ、任意選択で剛性の集電体(201)に直接溶接され、それぞれのタイル状片が、別々の機能を果たす要素を含む。例えば、必要な剛性を与えるために、各タイル状片には、適切な折りたたみステップを用いて、約90°の曲率を有する縁部(223)が設けられる。適切に間隔をあけた多数のばね片(224)は、ガス拡散電極(301)との接触要素として働き、多数の孔(225)は、ガスの供給および循環にとって、この場合は特にカソードの反応に必要な酸素に関して、好都合である。剛性の集電体(201)に溶接される様々なタイル状片は、任意選択でオフセットされた平行な列に配置されることが好ましい。
【0014】
図5は、単一の金属シートから得られる多数の導電突起の、図4に示された好ましい実施形態の一変形形態を示す。この場合、元の金属シートは穿孔シートであり、多数の孔(225’)が、ばね片(224)を含めたタイル状片の本体(222)全体に延在する。このようにして、増強したガス供給が実現され、また、ばね片(224)がストロークの端まで圧縮され、ばね片がそこから突き出るシートとばね片とが接触すると効果的にもなる。図4のタイル状片(222)上に示された孔(225)を別個に実施することから成る、わずかではあるが製造段階における節約もまた実現される。このタイル状片の構成はまた、さらなる機械的な利点も提供する。突然の高いカソード反対圧力の場合に(例えば、プロセス条件の制御の誤り、または要素の取扱いおよび組立ての誤りによる)、ばね片は、タイル状片表面全体のGDE(ガス拡散電極)の受面を考慮すれば永久変形を受けることがない。この場合、当業者には明らかなように、穿孔シートからタイル状片が得られることが、どんな場合でも適正なガス供給を保証するのにより一層重要になる。
【実施例1】
【0015】
作用面積0.16mの研究室実験用電解槽に、酸化ルテニウムチタンをベースとした触媒被覆を設けたチタンDSA(商標)アノード(302)と、Dupont/USAから市販のNafion(商標)N982イオン交換膜(500)と、ニッケルフォーム濾過部材と、銀をベースとした触媒で活性化した銀網から成るガス拡散電極とを図2の方式により装備した。
【0016】
電流供給システムは、厚さ1mmのニッケル穿孔シートから得られた、図5に示したタイル状片(222)からそれぞれ成る多数の弾性導電突起で構成した。
槽のアノードの隔室には、4kA/mの電流密度、および90℃の温度で、濃度が210g/lの循環塩化ナトリウム塩水を供給した。カソードの生成物は、濾過部材の端から端まで下方に流れる32重量%の苛性ソーダから成った。これらの条件において、プラントでのプロセス条件を10日間安定化させた後で、2.00〜2.05Vに含まれる槽電圧が検出された。
【実施例2】
【0017】
実施例1の試験を、従来技術の槽を使用して類似の条件で繰り返した。したがって唯一の実質的な相違はカソードの電流供給システムにあり、このシステムは、市販のニッケルマットレスに結合したカソードの後壁に溶接されたニッケルリブアレイから成る剛性の集電体を含む。
【0018】
実施例1と同じプロセス条件で、10日間の安定化の後、2.10〜2.15Vに含まれる槽電圧が検出された。
以上の説明は本発明を限定するものではなく、本発明は、その範囲から逸脱することなく様々な実施形態に応じて使用することができ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって一義的に規定される。
【0019】
本出願の明細書および特許請求の範囲全体を通して「備える、含む(comprise)」という語と、「備える、含む(comprising)」および「備える、含む(comprises)」など、その変異とは、他の要素または付加物の存在を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術による濾過型の減極された塩素アルカリ槽を示す図である。
【図2】本発明による濾過型の減極された塩素アルカリ槽を示す図である。
【図3】本発明による電流分配器の第1の実施形態を示す図である。
【図4】本発明による電流分配器の第2の実施形態を示す図である。
【図5】本発明による電流分配器の第3の実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜によって分離された、アノードの隔室およびカソードの隔室を備える型の電解槽であって、前記隔室の少なくとも1つが、2つの主表面を有するガス拡散電極を装備し、前記ガス拡散電極の第1の主表面が、前記膜に面するとともに、電解液の流れが横切るのに適した平面多孔質要素と接触しており、前記ガス拡散電極の第2の主表面が、電流分配器と接触し、前記電流分配器が、前記ガス拡散電極を前記平面多孔質要素に押しつけるのに適した多数の弾性導電突起を備える、電解槽。
【請求項2】
前記多数の導電突起が、0.1〜0.5kg/cmの圧力を前記ガス拡散電極に及ぼす、請求項1に記載の槽。
【請求項3】
前記複数の導電突起を備える前記電流分配器が、金属シートの切断および成形によって得られる、請求項1または2に記載の槽。
【請求項4】
前記導電突起が、くし状の形に従って配列されたばね片である、請求項3に記載の槽。
【請求項5】
前記ばね片が、隣接する対の形で配列され、前記対のそれぞれのばね片が、前記金属シートの主平面から反対側の方向に突き出る、請求項4に記載の槽。
【請求項6】
前記導電突起が、任意選択で四角形の個々のタイル状片であり、前記タイル状片が、多数のばね片と、ガス循環用の少なくとも1つの開口とを備える、請求項3に記載の槽。
【請求項7】
前記タイル状片が、任意選択でオフセットされた平行な列の形で、剛性の集電体に溶接される、請求項6に記載の槽。
【請求項8】
前記金属シートが0.5〜1.5ミリメートルの厚さである、請求項3乃至7の何れか一項に記載の槽。
【請求項9】
前記金属シートが穿孔シートである、請求項3乃至6の何れか一項に記載の槽。
【請求項10】
前記金属シートがニッケル製である、請求項3乃至9の何れか一項に記載の槽。
【請求項11】
前記ニッケルシートが、前記突起に対応して電気接触抵抗を低減するのに適した被覆を備える、請求項10に記載の槽。
【請求項12】
機械的圧縮力を分散させるための追加の要素を備え、前記追加の要素は、メッシュ、穿孔シート、および展伸シートの群から選択され、前記追加の要素は、前記電流分配器と前記ガス拡散電極との間に挿入される、前記請求項の何れか一項に記載の槽。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−523906(P2009−523906A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549885(P2008−549885)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050362
【国際公開番号】WO2007/080193
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(502043101)ウデノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (14)
【Fターム(参考)】