説明

炎症の治療における一酸化窒素

【課題】感染性炎症を治療するための薬剤を提供する。
【解決手段】人間を含む哺乳動物の感染性炎症を治療するための薬剤の製造のためのグルココルチコイドと組合せた、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用であって、前記組合せが感染性炎症の治療を達成するために治療的に効果的な量で使用されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人間を含む哺乳動物における感染性炎症を治療するための薬剤の製造のためのグルココルチコイドと組合せた、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用、かかる炎症を治療する方法、及びかかる炎症の治療のための医薬組成物に関する。更に、本発明は人間を含む哺乳動物の細胞内のグルココルチコイド受容体の発現を増加するための薬剤の製造のためのガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用、及びかかる増加のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の実験及び臨床研究が急性肺傷害の治療における吸入された一酸化窒素(吸入されたNO,INO)による血液の改善された酸素付加及び肺高血圧症の軽減または弱化を立証している。これらの効果は換気された肺実質における肺血管の選択的拡張により引き起こされる。INOはまた、抗炎症効果を持ち、炎症性疾患に含まれると考えられる多くの遺伝子の発現を抑制する。これらはケモカイン、癒着分子、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、インターロイキン、核因子カッパーB(NF−kB)、及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX2)を含む。しかし、NOと炎症マーカ間の相互作用の理解は全く完璧ではない。増大する知識は炎症を抑制する新たなルートを開くかもしれない。INOは肺外効果、例えば凝固防止、改善された尿排出を示すかもしれないが、全身的な抗炎症効果の実際の証拠は全く示されていない(Kang,J.L.et al.,J.Appl.Physiol.(2002)92(2),795−801;Kinsella,J.P.et al.,Pediatr.Res.(1997)41(4),457−463;Troncy,E.et al.,Br.J.Anaesth.(1997)79(5),631−640;Ballevre,L.et al.,Biol.Neonate.(1996)69(6),389−398;Wraight,W.M.et al.,British Journal of Anaesthesia(2001)86(2),267−269.)。
【0003】
吸入されたNOの主要な治療作用は肺血管拡張である。二つの概念がこの適用を重要とした:第一は、NOの作用は肺循環に限定されることである。第二は、NOは吸い込まれた空気で投与されるので、それは換気された肺胞上で優先的に作用する(Rang,H.P.et al.,Pharmacology(1995),Churchill Livingstone.)。従って、NOの従来の治療的使用は局部的な肺の効果に関連していた。
【0004】
グルココルチコイド(GC)は視床下部−下垂体−副腎(HPA)軸の刺激により副腎により生成されるステロイドホルホンである。それらの有効な抗炎症及び免疫調節作用はプロ炎症遺伝子のモデュレーション内に包含されている活性化蛋白質−1(AP−1)及びNF−kBのような転写因子の活性の抑制のためであることが一般的に受け入れられている。GCの効果はグルココルチコイド受容体(GR)、核受容体上科に属するリガンド誘導転写因子を通して発揮される。GRは転写を二つの主要な作用モードにより制御する。一つはGRホモ二量体のGR標的遺伝子の調節配列内のグルココルチコイド応答エレメント(GRE)への結合を含む。別の作用モードはGRがAP−1、NF−kB及びStat5のような他の転写因子の活性を、クロストークとして示したプロセスである直接DNA接触とは無関係に、調節することである。GR自身はこの第二作用モードのためにDNAに結合する必要がない(Adcock,I.M.et al.,Immunology and Cell Biology(2001)79(4),376−384;De Bosscher,K.et al.,J.Neuroimmunol.(2000)109(1),16−22;Refojo,D.et al.,Immunology and Cell Biology(2001)79(4),385−394;Reichardt,H.M.et al.,The EMBO Journal(2001)20(24),7168−7173.)。
【0005】
グルココルチコイドの臨床的使用は副腎不全を持つ患者に対する代償療法、抗炎症/免疫抑制療法、及び腫瘍性疾患における使用を含む。一般的に、グルココルチコイドは抗炎症及び免疫抑制活性を持つと考えられていた。それらは炎症の初期及び末期発現の両者を抑制する。従って、グルココルチコイドはぜん息の、皮膚、目、耳または鼻の炎症状態(例えば湿疹、アレルギー性結膜炎または鼻炎)の、過敏状態の自己免疫及び炎症成分を持つ種々の疾患の抗炎症/免疫抑制療法のために、かつ移植片対宿主疾患を予防するために使用される(Rang,H.P.et al.,Pharmacology(1995),Churchill Livingstone.)。
【0006】
しかし、グルココルチコイドの上述の使用は全て非感染性の炎症に関する。伝統的に、抗生物質療法は感染性疾患に対して好ましかった。
【0007】
細菌性肺炎は肺の病原感染により起こる。感染病原因子の例は肺炎球菌病原因子;インフルエンザ菌;クレブシエラ属、ブドウ球菌属、及びレジオネラ属の種;グラム陰性微生物;及び吸入された物質である。上気道からの細菌、またはより一般的ではないが、血液により広げられた細菌は肺実質へのそれらの道筋を見出す。そこに至ると、因子の組合せ(感染微生物の毒性、局所的防御の状態、及び患者の全体的健康状態)が細菌性肺炎に導くかもしれない(Stephen,J.(2003),Bacterial Pneumonia,<http://www.emedicine.com/emerg/topic465.htm>)。
【0008】
細菌性肺炎に対する医薬療法の頼みの綱は抗生物質治療である。急性細菌性肺炎におけるグルココルチコイドの役目はまだ明らかでない。古典的教示は感染におけるグルココルチコイドの使用が免疫応答を損うかもしれないことを警告する。しかし、最近の知見は局所的肺炎症が全身的グルココルチコイドにより減少させられるかもしれないことを示す(Toshinobu Yokoyama et al.,J.Infect.Chemother.(2002)8(3),247−251;Lefering R.et al.,Crit.Care Med.(1995)23,1294−1303.)。
【0009】
敗血症または敗血症ショックは微生物感染に対する二次的全身炎症応答である。臨床業務における抗生物質の導入以前は、グラム陽性菌が敗血症を起こす主要な微生物であった。より最近は、グラム陰性菌が深刻な敗血症及び敗血症ショックを起こすキー病原体となった。
【0010】
敗血症ショックを持つ患者の治療は次の三つの主要目標からなる:(1)低酸素、低血圧、及び損われた組織酸素付加を矯生する支援方策を用いて患者を敗血症ショックから蘇生させる。(2)感染源を識別し、抗菌療法、手術、またはそれら両方により治療する。(3)心臓血管監視により誘導される適正な器官システム機能を維持して多器官システム機能不全の病原を中断する。
【0011】
理論的及び実験的動物証拠が深刻な敗血症及び敗血症ショックを持つ動物におけるコルチコステロイドの大量投与の使用に対して存在するが、全ての無作為人間研究(1976からの1件を除き)はコルチコステロイドがショックの進展を防がなかったこと、ショック状態を逆転しなかったこと、または14日死亡率を改善しなかったことを見出した。従って、敗血症または敗血症ショックを持つ患者におけるコルチコステロイドの高投与の日常的使用に対する支持は医学文献中に存在しない(更に以下参照)(Sharma,S.,Mink,S.(2003),Septic Shock,<http://www.emedicine.com/med/topic2101.htm>)。
【0012】
しかし、最近の試験は深刻で難治性のショックを持つ患者におけるコルチコステロイドの強制投与の肯定的な結果を証明した(Briegel,J.et al.,Crit.Care Med.(1999)27,723−732)。
【0013】
急性呼吸困難症候群(ARDS)は心原性肺水腫の形跡のない両側肺浸潤と重症低酸素血により特徴付けられる急性状態として定義される。ARDSは肺胞及び肺毛細管内皮への拡散損傷と関連付けられる。ARDSに対する危険因子は直接肺損傷、全身的病気、及び損傷を含む。ARDSに対する最も一般的な危険因子は敗血症である。ARDS発現に対する危険に寄与する他の非胸部状態は大量輸血を伴うまたは伴わない外傷、急性膵炎、薬剤過量及び長骨骨折を含む。ARDSと関連する最も一般的な直接肺損傷は胃内容物の誤嚥である。他の危険因子は種々のウイルス性及び細菌性肺炎、近溺死、及び毒吸入を含む(Hardman,E.M.,Walia,R.(2003),Acute Respiratory Distress Syndrome,<http://www.emedicine.Com/med/topic70.htm>)。
【0014】
ARDSの予防または管理に有益な薬剤は立証されていない。敗血症患者におけるコルチコステロイドの早期投与はARDSの発現を防がない。吸入された一酸化窒素(NO)は早期試験では有望である効能ある肺血管拡張薬であると思われたが、大規模の管理された試験ではARDSを持つ成人の死亡率を変えなかった。コルチコステロイドに対する可能性のある役目は後期ARDS(線維増殖期)を持つ患者に存在するかもしれない。なぜなら、それらは多核白血球の移行を抑制し、かつ増大した毛細管透過性を逆転することにより炎症を縮小するからである。これは選択された患者の救助療法と考えられることができるが、今実行中のARDSネットワーク試験の結果が出るまで広範囲にわたる使用は推奨されない(Kang,J.L.et al.,J.Appl.Physiol.(2002)92(2),795−801;Reichardt,H.M.et al.,The EMBO Journal(2001)20(24),7168−7173.)。
【0015】
幾つかの感染状態の先の観察から理解されるように、敗血症及び敗血症ショックのような感染性炎症を持つ患者におけるグルココルチコイド療法の使用は議論の余地があり、かつかなり討論されている。大規模な無作為研究及びメタ分析は死亡率の利益を示すことに失敗し、ステロイド療法が有害であるかもしれないことを示した(Cronin,L. et al.,Crit.Care Med.(1995)23,1430−1439;Lefering,R.et al.,Crit.Care Med.(1995)23,1294−1303)。抗生物質の使用のような、病気の細菌性の原因に向けた療法は一般的に好ましい。更に、敗血症患者に対してグルココルチコイド療法が示唆されたとき、それは副腎機能異常を持つ患者を目的としている(Annane,D.,et al.,JAMA(2002)288,862−871)。従って、グルココルチコイド療法は敗血症または敗血症ショックを患っている患者に対面する医師のための明白かつ一般的な選択ではない。
【0016】
要約すれば、細菌性肺炎、敗血症ショック及びARDSは上で検討したように、感染性炎症の例である。かかる炎症の療法は伝統的に根底にある感染に焦点を合わせていた、すなわち種々の種類の抗生物質が使用されていた。ある場合には主として特定の付加条件と関連して、グルココルチコイド療法が示唆された。しかし、種々の理由のため細菌性肺炎、敗血症ショック及びARDSにおけるグルココルチコイド療法に対して、例えば治療効果が得られなかったことまたは副作用が発生したことが助言された。
【0017】
WO 99/20251(Zapol et al.)は非肺虚血再灌流障害及び非肺炎症を縮小しまたは予防する方法を開示する。非肺炎症の例は関節炎、心筋炎、脳炎、移植組織拒絶、全身性エリマト−デス、痛風、皮膚炎、炎症性腸疾患、肝炎、及び甲状腺炎である。この方法は哺乳動物にガス状一酸化窒素を吸入させることを含む。NOガスは循環する白血球または血小板の活性化される能力及び非肺組織の虚血再灌流または炎症の部位での炎症プロセスへの寄与能力を縮小する。吸入されるNOガスと組合せて、ガス状NOの治療効果を増強する第二化合物が投与されることができる。第二化合物は特にホスホジエステラーゼ阻害剤であることができるが、例えばグルココルチコイドであることもできる。しかし、WO 99/20251で引用された幾つかの特定の炎症が感染により引き起こされるかもしれないことは医学分野ではそれ自体既知であるけれども、この文献は非感染性炎症のみの治療に関することは明らかである。
【0018】
米国5485827(Zapol及びFrostell)は急性呼吸不全のまたは可逆肺血管収縮の喘息発作または他の形の気管支収縮の予防のための方法を開示し、そこでは冒された哺乳動物はガス状一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物を吸入させられる。更に、喘息の吸入治療で有用な薬学的活性剤としてグルココルチコイドが示唆されている。しかし、炎症であるけれども、喘息は感染状態ではない。
【0019】
米国5837698及び米国5985862(Tjoeng et al.)はステロイド亜硝酸/硝酸エステル誘導体に関し、かつ炎症疾患を治療するためのそれらの使用に関する。この誘導体は単一分子中にグルココルチコイドと一酸化窒素供与体の組合された生物学的特性を持つと言われている。前記使用は二つの周知の効果、すなわちグルココルチコイドによる抗炎症及び免疫調節活性及び放出された一酸化窒素による気管支弛緩に基づいており、それらの両者は非感染疾患の治療のためには既知であるが、それらのどれも感染性疾患の治療に関係しない。従って、WO 99/20251の場合のように、引用された二つの米国特許は非感染性炎症のみの治療を開示することは明らかである。
【0020】
WO 98/52580(Gaston et al.)は喘息を持つ患者を治療する方法に関し、それは前記患者にS−ニトロソチオール破壊阻害剤またはNO供与体を投与することを含む。追加的に、全身性コルチコステロイドが投与されることができる。しかし、喘息は感染性炎症ではなく、その治療は感染性状態に適用可能ではない。
【発明の開示】
【0021】
発明の概要
本発明は感染性炎症過程におけるグルココルチコイドと一酸化窒素の間に複合相互作用があることを見出したことに基づく。これらの相互作用から、強力な相乗効果が得られることが明らかとなった。一酸化窒素がグルココルチコイド受容体の発現をアップレギュレートし、グルココルチコイドの投与と組合せて炎症応答を鈍らせるようである。
【0022】
本発明の目的は感染性炎症を治療するための薬剤を提供することである。より詳細には、前記薬剤の目的は上述の相乗効果による利益を得ることである。
【0023】
本発明の別の目的は哺乳類の細胞における薬剤の効果がグルココルチコイド受容体上に作用する薬剤による療法に対しより受容し易い細胞をもたらす薬剤を提供することである。
【0024】
以下の説明を研究した後に当業者に明らかとなるべき本発明の上述の目的並びに他の目的は、人間を含む哺乳動物の感染性炎症を治療するための薬剤の製造のためのグルココルチコイドと組合せた、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用によって達成され、前記組合せは前記炎症の治療を達成するために治療的に効果的な量で使用される。これらの目的はまた、感染症炎症を治療する方法及び感染性炎症の治療のための医薬組成物により達成される。
【0025】
更に、本発明は人間を含む哺乳動物の感染性炎症を治療する方法を提供し、それはa)前記哺乳動物の細胞内のグルココルチコイド受容体の発現を一酸化窒素の投与を通して増加する段階、及びb)グルココルチコイドを投与する段階を含む。
【0026】
グルココルチコイドと組合せた一酸化窒素の使用は上述の相乗効果を利用する。その効果は一酸化窒素またはグルココルチコイドのみの効果と比べると著しい。組合せた薬剤の効果は更に以下の実施例中に示される。
【0027】
非感染性炎症におけるグルココルチコイドの一つの効果は免疫応答を抑制することである。しかし、感染性状態を治療するとき活性免疫系が一般的に必要である。従って、グルココルチコイド受容体をアップレギュレートする一酸化窒素のグルココルチコイドとの組合せ使用は感染性炎症を治療するために効果的であることが見出された。
【0028】
感染性炎症は微生物、蠕虫または昆虫により起こされるかもしれない。微生物は例えば細菌、真菌、ウイルス、マイコプラスマまたは原虫類であるかもしれない。細菌性感染症は例えばバクテロイデス、コリネバクテリウム、エンテロバクター、腸球菌、大腸菌、ブドウ球菌及びストレプトコッカス属または種の細菌により起こされるかもしれない。
【0029】
本発明による一酸化窒素とグルココルチコイドの使用による治療のために適した感染性炎症の例は感染性副鼻腔炎、呼吸器感染、上気道感染、感染性気管支拡張、感染性気管支炎及び感染性慢性気管支炎、細菌性またはウイルス性のような微生物性肺炎、性尿器路感染症、尿路感染症、感染性髄膜炎、感染性急性呼吸困難症候群、感染性心筋炎、感染性心膜炎、感染性心内膜炎、リウマチ熱、敗血症、肺血性関節炎、消化管感染、ウイスル肝炎、HIV感染、血管内感染、及びやけど及び術後感染のような外科感染である。
【0030】
本発明による治療のために好適な炎症は敗血症、細菌性またはウイルス性のような微生物性肺炎及び感染性急性呼吸困難症候群である。
【0031】
更に、薬剤の全身的効果は肺、腎及び肝に良い効果を持つと思われる。他の全身的組織における効果がそれ故、期待される。
【0032】
一酸化窒素とグルココルチコイドは同時に投与されることができる。
【0033】
しかし、より好ましくは一酸化窒素はグルココルチコイドとは別個に投与される。別個投与は一酸化窒素とグルココルチコイドのそれぞれの投与量の独立制御を可能とする。二つの成分の最適投与量比は患者の年齢、性、状態等及び病気の深刻さに応じて変えることができる。
【0034】
最も好ましくは、一酸化窒素はグルココルチコイドの前に投与される。一酸化窒素の早期投与はグルココルチコイドの投与に先んじてのグルココルチコイド受容体の始動、すなわちアップレギュレーションを可能とする。一酸化窒素とグルココルチコイドのかかる継続的投与は本発明の相乗効果に対し優れた根拠を提供する。一酸化窒素の投与とグルココルチコイドの投与の間の時間間隔は例えば肺における炎症のための約1分から肝または腎のようなより遠い組織における炎症のための約30分までであることができる。
【0035】
本発明の目的はまた、グルココルチコイド治療下の哺乳動物への一酸化窒素の投与により、または一酸化窒素治療下の哺乳動物へのグルココルチコイドの投与により達成されることができる。
【0036】
一酸化窒素はガス状一酸化窒素としてまたは一酸化窒素供与体として投与されることができる。吸入可能な一酸化窒素としてのガス状一酸化窒素の好適な投与はその効果の速い発現と停止を提供する。それはまた、機械的換気を必要とする患者への投与の便利なルートを示す。一酸化窒素供与体は例えば吸入により、ネブライゼーションにより、血管内にまたは経口的に投与されることができる。
【0037】
グルココルチコイドは経口的に、吸入により、筋肉内または皮下注射により、静脈注入または注射により、または皮内または関節内注射によるような、ステロイドのための投与のいずれかの既知のルートにより投与されることができる。しかし、投与の好適なルートは静脈内である。なぜなら敗血症を持つ患者のような深刻な病気の患者における微小循環は不十分であり、従って薬剤の吸収を制限するかもしれないからである。
【0038】
更に、本発明による薬剤は吸入可能な薬剤であることができる。
【0039】
吸入可能な一酸化窒素は例えば一酸化窒素を酸化から保護するために窒素と混合された、キャリアガスまたはガス混合物中に存在する。かかるキャリアガスまたはガス混合物中の一酸化窒素の濃度は通常0.1−180ppm、好ましくは1−80ppm、より好ましくは1−40ppmの範囲内である。
【0040】
本発明の薬剤中のグルココルチコイドの投薬量は通常0.1から10mg/kg体重の範囲内にある。
【0041】
ガス状一酸化窒素の吸入の代替物として、一酸化窒素は一酸化窒素供与体、すなわち一酸化窒素を放出することにより作用する化合物、の形で投与されることができる。本発明の実施で有用な既知の一酸化窒素放出化合物は生理学的条件下で化合物から自発的に放出されるまたはそうでなければ移動される−NO部分により特徴付けられるS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソ−システイン及びニトロソグアニジンのようなニトロソまたはニトロシル化合物である。他の化合物はNOが遷移金属錯体上の配位子であり、それ自体が生理学的条件下で化合物から容易に放出されまたは移動される化合物、例えばニトロプルシド、NO−フェレドキシン、またはNO−ヘム錯体である。更なる好適な窒素含有化合物は呼吸及び/または血管系に対して内因性の酵素により新陳代謝されNOラジカルを生成する化合物、例えばアルギニン、ニトログリセリン、二硝酸イソソルビド、四硝酸ペンタエリスリチル、亜硝酸イソアミル、無機亜硝酸塩、アジド及びヒドロキシルアミンである。かかる形式の一酸化窒素放出化合物及びそれらの合成方法は従来技術で周知である。
【0042】
いずれのグルココルチコイド、すなわちグルココルチコイド受容体を誘発するいずれのステロイドホルモンも本発明による使用のために適している。好適なグルココルチコイドの例はヒドロコルチゾン、コルチゾン、コルチコステロン、プレドニソロン、プレドニソン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン(bethametasone)、ベクロメタゾン、ブッデソナイド(budesonide)、デオキシコルトン(deoxycortone)、フルオシノイド(fluocinoide)、クロベタゾン及びコルチコトロフィン(corticotrophin)である。
【0043】
第二態様において、本発明は人間を含む哺乳動物の細胞内のグルココルチコイド受容体(GR)の発現を増加するための薬剤の製造のための、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用を提供する。人間を含む哺乳動物の細胞内のグルココルチコイド受容体の発現を増加する方法であって、前記哺乳動物に前記発現増加を達成するのに十分な量でガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素を投与することを含む方法も提供される。
【0044】
上述したように、GRの発現における一酸化窒素の驚くべき効果は重要な発見であり、それは細胞がGR発現の増加にさらされていない状態に比べると、GR上に作用する薬剤、例えばグルココルチコイドのより高い治療効能を達成することを可能とする。炎症性感染とGR発現のダウンレギュレーションの間の関係のため、かかる知見は特にかかる疾患において重要である。
【0045】
グルココルチコイド受容体の発現を“増加する”または発現の“増加”に言及されるとき、これは所定の瞬間での問題の細胞の細胞質内に存在する受容体の量が本発明により処理されていない細胞の細胞質内のその量より大きいことを意味すると解釈される。本発明において、受容体のかかる発現の“増加”は一般用語の受容体の“アップレギュレーション(up−regulation)”と相互に置き換え可能に使用される。
【0046】
感染性炎症は微生物、蠕虫または昆虫により起こされうる。微生物は例えば細菌、真菌、ウイルス、マイコプラスマまたは原虫類でありうる。細菌感染は例えばバクテロイデス、コリネバクテリウム、エンテロバクター、腸球菌、大腸菌、ブドウ球菌及びストレプトコッカス属または種の細菌により恐らく起こされうる。
【0047】
本発明による一酸化窒素の使用によりGRの発現を増加することが重要である感染性炎症の例は、感染性副鼻腔炎、呼吸器感染、上気道感染、感染性気管支拡張、感染性気管支炎及び感染性慢性気管支炎、細菌性またはウイルス性のような微生物性肺炎、性尿器路感染症、尿路感染症、感染性髄膜炎、感染性急性呼吸困難症候群、感染性心筋炎、感染性心膜炎、感染性心内膜炎、リウマチ熱、敗血症、肺血性関節炎、消化管感染、ウイスル肝炎、HIV感染、血管内感染及びやけど及び術後感染のような外科感染である。本発明による治療のために好適な炎症は敗血症、細菌性肺炎及び急性呼吸困難症候群である。
【0048】
本発明のこの態様においても、一酸化窒素はガス状一酸化窒素としてまたは一酸化窒素供与体として投与されることができる。吸入可能な一酸化窒素としてのガス状一酸化窒素の好適な投与はGR発現のその効果の早い発現と停止を提供する。それはまた、機械的換気を必要とする患者への投与の便利なルートを示す。
【0049】
本発明のこの態様の目的のために、吸入可能な一酸化窒素は例えば一酸化窒素を酸化から保護するために窒素と混合された、キャリアガスまたはガス混合物中に存在する。かかるキャリアガスまたはガス混合物中の一酸化窒素の濃度は通常0.1−180ppm、好ましくは1−80ppm、より好ましくは1−40ppmの範囲内である。
【0050】
ガス状一酸化窒素の吸入の代替物として、一酸化窒素はGR発現の希望の増加を達成するために、一酸化窒素供与体の形で投与されることができる。好適な一酸化窒素供与体の例はS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソ−システイン、ニトロソグアニジン、ニトロプルシド、NO−フェレドキシン、NO−ヘム錯体、アルギニン、ニトログリセリン、二硝酸イソソルビド、四硝酸ペンタエリスリチル、亜硝酸イソアミル、無機亜硝酸塩、アジド及びヒドロキシルアミンである。
【0051】
図面の簡略説明
図1は実施例で使用された種々のプロトコールを示す。
【0052】
図2A及び2Bは実施例からの平均肺動脈圧(MPAP)結果及び動脈酸素付加(PaO)結果をそれぞれ示す。データは健康な動物(星)から、及びエンドトキシンのみ(三角)に、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(丸)に、エンドトキシン+ステロイド(菱形)に、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素及びステロイド(プラス)にさらされた動物からのものである。
【0053】
図3は健康な子豚(健康)からの肺と比べた、エンドトキシンのみ(LPS)による、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)による、エンドトキシン+ステロイド(LPS+ステロイド)による、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素及びステロイド(LPS+INO+ステロイド)による肺組織の組織学的変化を示す。エンドトキシンは肺胞隔壁内の及び気管支壁周りの急性炎症細胞浸潤、上皮及び内皮細胞の膨張、及び肺水腫及び肺出血を誘発した。
【0054】
図4は健康な子豚(健康)からの肝と比べた、エンドトキシンのみ(LPS)による、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)による、エンドトキシン+ステロイド(LPS+ステロイド)による、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素及びステロイド(LPS+INO+ステロイド)による肝組織の組織学的変化を示す。エンドトキシンは小葉の周辺の結合組織の急性炎症細胞湿潤、大量肝細胞うっ血及び壊死、クッパー細胞反応性過形成、及び出血を誘発した。
【0055】
図5は健康な子豚(健康)からの腎と比べた、エンドトキシンのみ(LPS)による、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)による、エンドトキシン+ステロイド(LPS+ステロイド)による、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素及びステロイド(LPS+INO+ステロイド)による腎組織の組織学的変化を示す。エンドトキシンは急性炎症細胞湿潤、水腫、及び糸球体構造の破壊、及び糸球体の細胞の壊死を誘発した。
【0056】
図6はエンドトキシンのみ(LPS)にまたはエンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)にさらされた子豚の肺組織内のグルココルチコイド受容体の発現を示す。
【0057】
図7はエンドトキシンのみ(LPS)にまたはエンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)にさらされた子豚の肺組織内のNF−kBの発現を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
実施例
材料及び方法
動物準備
本研究はUppsala UniversityのAnimal Research Ethics Committeeにより承認された。スウェーデン国で飼育された、22−28kgの体重の38頭の子豚が使用された。麻酔が筋肉にアストロピン、0.04mg/kg、チレタミン/ゾラゼパム(Zoletid,Virbac Laboratories)、6mg/kg、及び塩化キシラジン(Rompun,Bayer AG,Germany)、2.2mg/kgにより誘導され、催眠性のクロメチアゾニル(Heminevrin,Astra,Soedertaelje,Sweden)、400mg/h、パンクロニウム、2mg/h、及びフェンタニル、120mg/hの連続注入により維持された。予め暖められた(38℃)等浸透圧食塩水500ml/hが脱水を防ぐために静脈内に与えられた。動物は研究の残りの間仰臥位置に置かれた。
【0059】
麻酔の誘導後に気管開口術が実施され、カフ付き気管チューブが挿入された。機械的換気が1分当たり22±2呼吸(平均±SD)の呼吸回数で、1:2の吸・呼気比で、かつ呼吸周期の5%の吸入終期休止で、容積制御されたモードで(Servo 900C,Siemens−Elema,Lund,Sweden)提供された。初期制御状況で33−45mmHg(4.4−6.0kPa)の呼吸終期CO分圧(PetCO)を得るように微小な換気が調整され、次いで実験を通して一定に保たれた。平均1回換気量は10±1.4ml/kgであった。5cmHOの正の呼吸終期圧(PEEP)が適用された。酸素の吸入フラクション(FIO)は0.5であった。三重管腔バルーン先端を持つカテーテル(Swan Ganz no.7F)が血液試料採取と圧力記録のために肺動脈に導入された。圧力記録、血液試料採取及び注入のために対側頸静脈及び右頸動脈もまた、カテーテル挿入された。平均動脈圧(MAP)、平均肺動脈圧(MPAP)、心拍数(HR)、中心静脈圧(CVP)、肺毛細ウェッジ圧(PCWP)及び心拍出量(Qt)が記録された。ダグラス及び膀胱カテーテルが尿流動と腹水流体の測定のために挿入された。
【0060】
混合された静脈及び動脈血液試料が血液ガス分析(ABL 500,Radiometer,Copenhagen,Denmark)のため及び酸素飽和度及びヘモグロビン濃度(OSM 3,Radiometer,Copenhagen,Denmark)の決定のために集められた。血液酸素計データは豚血液に対し修正された。
【0061】
プロトコール
豚は5群に分割された:
1.正常対照群
2.エンドトキシン(リポ多糖類、LPS)群
3.LPS+INO群
4.LPS+ステロイド群
5.LPS+INO+ステロイド群
異なるプロトコールが図1に概略的に示されており、以下に説明される。
【0062】
1.健康対照群(n=8)
麻酔、手術準備及びカテーテル挿入が30分の休止により続けられた。次いでベースライン測定がなされた。豚は別の6時間の間、全研究期間にわたる対照データの確立が続けられた。豚は最後の測定後にKClの静脈内注射により殺され、形態学的及び生化学的研究のために組織試料が肺、肝及び腎から取られた。
【0063】
2.LPS群(n=8)
麻酔、手術及びカテーテル挿入は対照と同様であった。ベースライン測定後、急性肺損傷及び敗血症ショックが2.5時間の間、食塩水中LPS25μg/kg/hの静脈内注入により誘発され、研究の残りの間、10μg/kg/hの注入が続けられた。豚は血行力学及び血液ガス測定が続けられ、実験の終わりに殺され、上述のように組織試料が取られた。
【0064】
3.LPS+INO群(n=8)
LPL注入がベースライン測定後に開始され、6時間の間続けられた。エンドトキシン注入の開始後2時間半で、NO30ppmの吸入が開始され、3.5時間の間維持された。肺及び肺外器官へのINO治療の保護効果をチェックするために1時間毎に測定がなされた。
【0065】
4.LPS+ステロイド(S)群(n=7)
プロトコールは上記と同じであったが、豚はエンドトキシン注入の開始後INO2.5時間の代わりに、ステロイド、ヒドロコルチゾン(Solucortef(登録商標)、Pharmacia)の3.5mg/kgを静脈内に受けた。
【0066】
5.LPS+INO+S群(n=7)
この群は上述のように6時間にわたってエンドトキシンを受け、エンドトキシン投与の開始後2.5時間にステロイドが静脈内に与えられ、INO30ppmが開始され、残りの3.5時間の研究期間の間続けられた。
【0067】
NO投与
中1000ppmのNOがO/Nの混合物に添加され、換気装置の低流入口を通して投与された。吹き込まれたガスはNOを吸収するためにソーダ石灰を含むキャニスターを通過させられた。吸入されたNOは30ppmに設定され、吹き込まれたNOの濃度は常に0.2ppm未満であった。吹き込まれたNOとNOの濃度は換気装置の配管の吹き込み突出部内の化学発光(9841 NO,Lear Siegler Measurement Controls Corporation,Englewood,CO,USA)により連続的に測定された。FIOはNO添加後にチェックされ、前のINO水準に安定的に保たれた。
【0068】
免疫組織化学
GR及びNF−kBの免疫組織化学的検出は標準的なストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ検出技術(GR:Santa Cruz Biotechnology,Inc Catalogue No.sc−1004 USA,Rabbit Polyclonal Antibody,dilution 1:200;NF−kB:SIGMA,Product No.N5823 Germany,dilution 1:100)により達成された。パイロット実験はオートクレーブまたはマイクロウエーブ抗原回復及び原発性抗体の一晩のインキュベーションが最良の感度を生じたことを示した。抗体は色原体として3−アミノ−9−エチル−カルバゾール(AEC,SIGMA Catalogue No.A−6926 Germany)を用いるペルオキシダーゼ−アンチ−ペルオキシダーゼ法により検出された。全てのスライドは0.1%保証ヘマトキシリン(SIGMA Catalogue No.MHS−16 Germany)により対比染色された。
【0069】
免疫組織化学の画像解析
全自動Leica(Wetzlar,Germany)DM RXA顕微鏡に取り付けられた12−ビット冷却電荷結合素子カメラ(Sensys KAF 1400,Photometrics,Tucson,AZ)からなる画像解析システムがグレイスケール画像をデュアル−Pentium(登録商標)200MHzホストコンピュータにデジタル化するために使用された。顕微鏡設定は全測定を通して一定に保たれた(×40対物レンズ、Leica PL Fluotar 40×/0.75)。安定化された12Vタングステン−ハロゲンランプ(100W)が照明のために使用された。微小濃度測定がベクター赤色基体の吸光度測定(中心波長525nm、ハーフバンド幅10±2nm)のためにOmega Optical(Brattleboro,VT)により製造された注文設計されたフィルターにより実施された。最適中心波長はLeica MPV SP顕微鏡光度計システム(Leicaの好意による)での基体の測定により決定された。
【0070】
統計的分析
値は平均±SDとして表される。有意差はStudent−Newman−Keuls試験に続く変動の2ウェイ分析により評価された。統計的有意差はp<0.05と仮定された。
【0071】
結果
血行力学及び動脈酸素付加
5研究群の中でベースライン血行力学及び動脈酸素付加に有意差はなかった。エンドトキシン群において、LPS注入はベースライン水準の2または3倍に上昇したままである肺動脈圧の増加を起こした(図2)。PaOはLPS注入の開始後半時間で有意に減少し、それは数時間の間減少を続け、次いでベースラインの水準の半分より小さくなった(図2)。INOはMPAPの増加を弱めたが、それは健康な対照(p<0.01)より75−80%有意に高かった(図2)。INOはPaOの降下の一部を防いだ。エンドトキシン注入時にステロイドのみを受けた豚はエンドトキシンのみを受けた豚と同じ高さのMPAPを持っていた。従って、ステロイドは明白な効果を示さなかった。また、PaOはステロイド処理により改善しなかったが、エンドトキシン群と同じ低さのままであった。
【0072】
最後に、INOとステロイドの両者を受けた豚はエンドトキシン注入の6時間後の実験の終わりに健康な対照ともはや有意に異ならないMPAPの連続降下を示した(図2)。更に、PaOは治療中に改善し、実験の終わりに健康な対照ともはや有意に異ならなかった。
【0073】
組織学的変化
表1と図3,4及び5を参照。
図3は肺組織の組織学的変化を示す。エンドトキシンは肺胞隔壁内の及び気管支壁周りの急性炎症性細胞浸潤、上皮及び内皮細胞の膨張、及び肺水腫及び出血を誘発した。ステロイド処理(LPS+ステロイド)は損傷の幾らかを修復しまたは防いだ。LPS+INO群の肺はずっと少ないこれらの変化を持ち、LPS+INO+ステロイドにさらされた肺はほんの小さな変化を持ち、従って、正常に近い組織を持っていた。しかし、幾つかの炎症性細胞浸潤及びより厚い肺胞隔壁及び幾らかの水腫がなお見られた。矢印は上述のような変化を示す。
【0074】
図4は肝組織の組織変化を示す。エンドトキシンは小葉の周辺の結合組織の急性炎症性細胞浸潤、大きな肝細胞うっ血及び壊死、クッパー細胞反応性過形成、及び出血を誘発した。エンドトキシンに加えてステロイド(LPS+ステロイド)にさらされた豚においては、肝退化はLPS群におけるそれより少し少なかった。エンドトキシンに加えて吸入された一酸化窒素(LPS+INO)にさらされた肝においては、これらの変化はLPS群におけるよりかなり少なかった。エンドトキシンに加えて吸入された一酸化窒素とステロイドの両者(LPS+INO+ステロイド群)にさらされた群においては、肝組織の構造は健康な対照からの肝に近かった。従って、クッパー細胞の増加した数及び幾らかの炎症性細胞浸潤が見られたが、壊死は殆どなかった。矢印は上述の変化を示す。
【0075】
図5は腎組織の組織変化を示す。エンドトキシンは急性炎症性細胞浸潤、水腫、及び糸球体構造の破壊及び糸球体の細胞の壊死を誘発した。エンドトキシンに加えてステロイド(LPS+ステロイド)にさらされた腎においては、これらの変化はLPS群におけるよりほんのわずかだけ目立たなかった。従って、糸球体内により多くの細胞があった(より少ない退化を示す)。エンドトキシンに加えて吸入された一酸化窒素(LPS+INO)にさらされた豚においては、それらの変化はLPS+ステロイド群におけるよりなお目立たなかった。エンドトキシンに加えて吸入された一酸化窒素及びステロイドの両者(LPS+INO+ステロイド)にさらされた群においては、糸球体構造は維持された。しかし、炎症性細胞浸潤、糸球体の膨張及びボーマン嚢間隔の減少がなお見られた。矢印は上述の変化を示す。
【0076】
表1は健康な豚(健康)と比べた、エンドトキシンのみ(LPS)、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)、エンドトキシン+ステロイド(LPS+S)、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素とステロイド(LPS+INO+S)による肺(上パネル)、肝(中パネル)及び腎(下パネル)の組織学的変化を示す。+は5階級尺度による(−、+、++、+++、++++)変化のきびしさを示す。*はLPSに対するp<0.05を意味する。肺水腫または出血を示さないかまたは少ししか示さず、肝における小葉構造の破壊または壊死を示さず、かつ腎における壊死を示さないLPS+INO+S豚を除き全ての形式の変化はまた健康な対照から顕著に異なっていた。
【0077】
【表1】

【0078】
免疫組織化学
グルココルチコイド受容体、GR
図6参照。
図6は肺組織におけるグルココルチコイド受容体の発現を示す。LPS群において、正常組織(ここには示されていない)におけるより少ない数個の細胞にGRの弱い発現が観察された。GRの発現は染色(黒ずんだ色、GR発現を示す)の増大した強度を持つ多数の細胞により、LPS+INO群で顕著に上昇させられた。染色は炎症細胞及び気道及び肺胞の上皮細胞に見られた。矢印は明確に染色された細胞を示す。
【0079】
NF−kB
図7参照。
図7は肺組織におけるNF−kBの発現を示す。強いNF−kB発現(黒ずんだ色)は炎症細胞、特にマクロファージに、並びに気管支壁の幾つかの上皮細胞に見られた。NF−kB発現は細胞の核内に位置しており、NF−kBポジティブ細胞は凝集する傾向を持っていた。LPS+INO群において、NF−kB発現は低水準にあり、殆ど細胞質内に位置しており、ポジティブ細胞はまばらで散在していた。矢印は明確に染色された細胞を示す。
【0080】
GR及びNF−kBに対する染色の定量測定
表2は健康な子豚(対照)からの組織と比べた、エンドトキシンのみ(LPS)、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)、エンドトキシン+ステロイド(LPS+S)、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素とステロイド(LPS+INO+S)にさらされた子豚の肺、肝及び腎組織におけるグルココルチコイド受容体及びNF−kBの発現を示す。与えられた量は吸光度単位である。表において、有意に異なる関係が示された。
【0081】
【表2】

【0082】
検討
この研究は豚モデルにおけるエンドトキシン注入が肺循環(肺)及び全身的循環(肝及び腎)の両者で深刻な炎症性応答を起こすことを示した。更に、エンドトキシン注入は肺組織及び肝(腎はGRに関しては今まで研究されなかった)におけるグルココルチコイド受容体発現の殆ど完全な排除と炎症性マーカーNF−kBのアップレギュレーションを起こした。炎症性応答は水腫、血栓の形成、例えば腎の糸球体のような微細構造の出血及び破裂及び肝の小葉の退化からなっていた。吸入されたNO治療(INO)の開始は炎症性応答を弱めたが、ほんの限定された程度であった。別の治療技術の静脈内ステロイド投与は研究期間中の炎症性応答には殆ど効果がなかった。最後に、INOとステロイドの組合せは炎症性応答を弱めるのに驚くべき効果を持っていた。幾らの形態学的異常がなお見られたが、肺、腎及び肝からの組織は正常な対照組織に比較的似ていた(図3−5)。
【0083】
別の観察は生理学的変量、すなわち平均肺動脈圧及び動脈酸素付加が両者とも組合せたINOとステロイド療法により殆ど正常化されたことであった。エンドトキシンモデルにおけるINOのみは酸素付加を改善し、MPAPを下げたが、正常に戻らず、ステロイド療法は殆ど効果を持たなかった。
【0084】
我々が得たむしろ著しい結果は次の方法で説明されることができるようである。エンドトキシン敗血症モデルはグルココルチコイド受容体のほぼ完全なダウンレギュレーションを持つ炎症性応答を起こす。この受容体の活性化は炎症性カスケード応答を防ぎ、このカスケードの早期段階はNF−kB及び他の炎症性マーカーの放出である。GRのダウンレギュレーションにより、炎症性マーカーの生成及び放出が増強され、敗血症プロセスを促進する(Molijn,G.J.et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.(1995)80(6),1799−1803)。
【0085】
INOはある抗炎症効果並びに誘発可能なNOシンターゼ(iNOS)の活性化を介しての内因的に生成されたNOを持つ。我々が最初に示すINOの最も重要な効果はこの敗血症状態のGR発現のアップレギュレーションである。我々はこれが炎症プロセスの調節のための重要な役目を持つと考える。我々はまた、GRの増加した利用可能性が共働ステロイド療法のより効率的な効果を可能とするであろうと考える。より多くのグルココルチコイド受容体を利用可能とすることにより、外因性ステロイド投与はより多くの受容体を結合させることができ、これらの手段により炎症プロセスをより効率的にブロックする。我々の知見はこの仮定を支持する(Kang,J.L.et al.,J.Appl.Physiol.(2002)92(2),795−801;Kinsella,J.P.et al.,Pediatr.Res.(1997)41(4),457−463;Webster,J.C.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2001)98(12),6865−70;Almawi,W.Y.et al.,J.Mol.Endocrinol.(2002)28(2),69−78;Smith,J.B.et al.,Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.(2002)283(3),L636−L647)。
【0086】
結論
エンドトキシン豚モデルにおいてINOと静脈内ステロイドの組合せた投与は肺及び全身的器官(肝と腎)の両者の組織学的外観を著しく改善し、水腫形成、血栓形成及び構造的損傷を防いだ。この有益な効果はINOによるグルココルチコイド受容体のアップレギュレーションを徹底させ、ステロイド療法をより効率的にすると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例で使用された種々のプロトコールを示す。
【図2】図2A及び2Bは実施例からの平均肺動脈圧(MPAP)結果及び動脈酸素付加(PaO)結果をそれぞれ示す。
【図3】健康な子豚(健康)からの肺と比べた、エンドトキシンのみ(LPS)による、エンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)による、エンドトキシン+ステロイド(LPS+ステロイド)による、及びエンドトキシン+吸入された一酸化窒素及びステロイド(LPS+INO+ステロイド)による肺組織の組織学的変化を示す。
【図4】図3と同様に処理された、肝組織の組織学的変化を示す。
【図5】図3と同様に処理された、腎組織の組織学的変化を示す。
【図6】エンドトキシンのみ(LPS)にまたはエンドトキシン+吸入された一酸化窒素(LPS+INO)にさらされた子豚の肺組織内のグルココルチコイド受容体の発現を示す。
【図7】図6と同様に処理された子豚の肺組織内のNF+kBの発現を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間を含む哺乳動物の感染性炎症を治療するための薬剤の製造のためのグルココルチコイドと組合せた、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用であって、前記組合せが前記炎症の治療を達成するために治療的に効果的な量で使用されることを特徴とする使用。
【請求項2】
前記感染性炎症が微生物、蠕虫または昆虫に起因することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記微生物が細菌、真菌、ウイルス、マイコプラスマまたは原虫類であることを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記感染性炎症が細菌に起因することを特徴とする請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
前記感染性炎症が感染性副鼻腔炎、呼吸器感染、上気道感染、感染性気管支拡張、感染性気管支炎及び感染性慢性気管支炎、細菌性またはウイルス性のような微生物性肺炎、性尿器路感染症、尿路感染症、感染性髄膜炎、感染性急性呼吸困難症候群、感染性心筋炎、感染性心膜炎、感染性心内膜炎、リウマチ熱、敗血症、肺血性関節炎、消化管感染、ウイスル肝炎、HIV感染、血管内感染及び外科感染から選ばれることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
前記感染性炎症が敗血症であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記感染性炎症が細菌性またはウイルス性のような微生物性肺炎であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記感染性炎症が感染性急性呼吸困難症候群であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項9】
前記薬剤が全身的効果を持つことを特徴とする請求項1から8のいずれか一つに記載の使用。
【請求項10】
前記薬剤が前記一酸化窒素と前記グルココルチコイドをそれらの同時投与のために含む組成物の形であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載の使用。
【請求項11】
前記製造が前記一酸化窒素と前記グルココルチコイドのいずれかの順序での継続的投与のための薬剤に関することを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載の使用。
【請求項12】
前記製造が前記一酸化窒素と前記グルココルチコイドの前記の順序での継続的投与のための薬剤に関することを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記製造がグルココルチコイド治療下の哺乳動物への一酸化窒素の投与のための薬剤に関することを特徴とする請求項10から12のいずれか一つに記載の使用。
【請求項14】
前記製造が一酸化窒素治療下の哺乳動物へのグルココルチコイドの投与のための薬剤に関することを特徴とする請求項10から12のいずれか一つに記載の使用。
【請求項15】
前記ガス状一酸化窒素が吸入可能な一酸化窒素として投与されることを特徴とする請求項1から14のいずれか一つに記載の使用。
【請求項16】
前記グルココルチコイドが静脈内に投与されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一つに記載の使用。
【請求項17】
前記薬剤が吸入可能な薬剤であることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項18】
吸入されるガス状一酸化窒素の濃度が0.1−180ppm、好ましくは1−80ppm、より好ましくは1−40ppmの範囲内にあり、前記ガス状一酸化窒素がキャリアガスまたはガス混合物内に存在していることを特徴とする請求項17に記載の使用。
【請求項19】
グルココルチコイドの投薬量が0.1から10mg/kg体重の範囲内にあることを特徴とする請求項1から18のいずれか一つに記載の使用。
【請求項20】
前記一酸化窒素供与体がS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソ−システイン、ニトロソグアニジン、ニトロプルシド、NO−フェレドキシン、NO−ヘム錯体、アルギニン、ニトログリセリン、二硝酸イソソルビド、四硝酸ペンタエリスリチル、亜硝酸イソアミル、無機亜硝酸塩、アジド及びヒドロキシルアミンから選ばれることを特徴とする請求項1から19のいずれか一つに記載の使用。
【請求項21】
前記グルココルチコイドがヒドロコルチゾン、コルチゾン、コルチコステロン、プレドニソロン、プレドニソン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、ベクロメタゾン、ブッデソナイド、デオキシコルトン、フルオシノイド、クロベタゾン及びコルチコトロフィンから選ばれることを特徴とする請求項1から20のいずれか一つに記載の使用。
【請求項22】
人間を含む哺乳動物の感染性炎症を治療する方法であって、それがかかる治療を必要とする哺乳動物に、グルココルチコイドと組合せた、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素を投与することを含み、前記組合せが前記炎症の治療を達成するために治療的に効果的な量で使用されることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項2から21のいずれか一つに規定されていることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
人間を含む哺乳動物の感染性炎症を治療する方法であって、それがa)前記哺乳動物の細胞上のグルココルチコイド受容体の発現を一酸化窒素の投与を通して増加する段階、及びb)グルココルチコイドを投与する段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項2から21のいずれか一つに規定されていることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
人間を含む哺乳動物の感染性炎症の治療のための医薬組成物であって、それがグルココルチコイドと組合せた、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素を含み、前記一酸化窒素及び前記グルココルチコイドが前記炎症の治療を達成するために治療的に効果的な量で存在していることを特徴とする医薬組成物。
【請求項27】
請求項2から21のいずれか一つに規定されている使用のための請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
人間を含む哺乳動物の細胞内のグルココルチコイド受容体の発現を増加するための薬剤の製造のための、ガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素の使用。
【請求項29】
前記ガス状一酸化窒素が吸入可能な一酸化窒素として投与されることを特徴とする請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記薬剤が吸入可能な薬剤であることを特徴とする請求項28または29に記載の使用。
【請求項31】
吸入されるガス状一酸化窒素の濃度が0.1−180ppm、好ましくは1−80ppm、より好ましくは1−40ppmの範囲内にあり、前記ガス状一酸化窒素がキャリアガスまたはガス混合物内に存在していることを特徴とする請求項28から30のいずれか一つに記載の使用。
【請求項32】
前記一酸化窒素供与体がS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソ−システイン、ニトロソグアニジン、ニトロプルシド、NO−フェレドキシン、NO−ヘム錯体、アルギニン、ニトログリセリン、二硝酸イソソルビド、四硝酸ペンタエリスリチル、亜硝酸イソアミル、無機亜硝酸塩、アジド及びヒドロキシルアミンから選ばれることを特徴とする請求項28から30のいずれか一つに記載の使用。
【請求項33】
人間を含む哺乳動物の細胞内のグルココルチコイド受容体の発現を増加する方法であって、その方法がガス状一酸化窒素または一酸化窒素供与体の形の一酸化窒素を前記発現の増加を達成するのに十分な量で前記哺乳動物に投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項29から32のいずれか一つに規定されていることを特徴とする請求項33に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−522116(P2006−522116A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508000(P2006−508000)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000511
【国際公開番号】WO2004/087212
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(500207578)エーヂーエー アクチボラグ (1)
【Fターム(参考)】