説明

炎症性疾患の予防剤および/または治療剤

【課題】 NF−κB活性化に起因する疾患に有効な、医薬品、食品、または飼料を提供することをその主な課題とする。
【解決手段】 NF−κBの活性化に起因する疾患である、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患や、全身性自己免疫疾患や臓器特異性免疫疾患等の自己免疫疾患の予防剤および/または治療剤として、システイン、グリシン、およびヒスチジンの少なくとも1つを有効成分として含有する医薬品、食品、飼料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システイン、グリシン、ヒスチジンの少なくともいずれか1つを含有する、nuclear factor−kappaB(NF−κB)の活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
NF−κBは、免疫担当細胞を含む多くの細胞において、構造的、機能的に広範囲の遺伝子の転写調節に関与するタンパク質で、炎症反応に寄与するタンパク質の転写、翻訳を活性化することにより、炎症性疾患に重要な役割をしている。そのため、NF−κBの活性化を阻害することが、前記疾患の有効な治療法となり得ると考えられている。
【0003】
NF−κBは、構造的には、p50とp65のヘテロダイマーからなる複合タンパク質で、通常、その阻害因子IκBが結合した形で細胞質に存在し、核移行が阻止されているが、IκBのリン酸化や分解が起こるとNF−κBは活性化され、核内へ移行する。核内のNF−κBは、染色体上のNF−κB結合部位に結合して、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NF−κBにより制御される遺伝子に起因する物質としては、例えば、IL−1β(interleukin−1β)、IL−6(interleukin−6)、腫瘍壊死因子α(Tumor Necrosis Factor−α:TNF−α)等の炎症性サイトカイン類、VCAM−1(Vascular Cell Adhesion Molecule−1)、ICAM−1(Intercellular adhesion molecule−1)等の接着因子、MCP−1(monocyte chemotactic Protein−1)、GRO(Growth Related Oncogene)、IL−8(interleukin−8)等のケモカイン類等、炎症反応に関与する物質である。
【0004】
本発明者らは、TNF−αで刺激されたヒト単球・マクロファージ、T細胞、冠動脈の肺上皮細胞(pulmonary epithelial cell)のような種々のヒト細胞においては、クラリスロマイシン、ホスホマイシン、テオフィリン、プランルカストや免疫グロブリン製剤等のような多くの種類の物質が、NF−κB活性を阻害する効果を持つことを報告した(例えば、非特許文献1参照。)。阻害効果のメカニズムはそれぞれの物質で異なり、テオフィリンと免疫グロブリン製剤は、IκBα(Inhibitor kappa Bα)の分解を保護することによりNF−κB活性を阻害するが、クラリスロマイシン、ホスホマイシンやプランルカストではそのメカニズムではない。
【0005】
炎症性疾患は、クローン病や潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、痛風、乾癬等が代表的な疾患として知られている。クローン病は、消化管全域に炎症や潰瘍が起きる疾患であり、クローン病の発生には単球/マクロファージが重要な働きをしていることが報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。炎症性サイトカインのTNF−αやIL−6が、クローン病の発症段階に存在することは、抗ヒトTNF−αモノクローナル抗体(inflixmab)が臨床的に有効あることで明らかにされている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0006】
クローン病患者に対しては、患者の栄養状態や、臨床的症状改善のために、アミノ酸からなる成分栄養剤が用いられている。成分栄養剤はクローン病におけるTNF−αやIL−6のような炎症性サイトカインの生産を減少させることが知られおり(例えば、非特許文献4参照。)、アミノ酸のいくつかの種類が炎症への阻害効果を有することが報告されている(例えば、非特許文献5参照。)。特許文献では、イソロイシン、ロイシン、バリンから選択される少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸による、潰瘍性大腸炎や炎症性大腸炎の治療方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。アレルギー性炎症疾患の処置に有用なアミノ酸としては、グリシン、L−アラニン、L−セリンを含有する医薬または栄養製剤が提案され、グリシンのヒト単核細胞からIL−10の放出も明らかにしている(例えば、特許文献2参照。)。ヒスチジンは、TNF−αで刺激した腸管上皮細胞で、NF−κB活性やIL−8の生産を阻害すること、あるいは、lipopolysaccharide(LPS)で刺激したマウス腹腔マクロファージで、NF−κB活性やサイトカイン生産を阻害することが明らかにされている(例えば、非特許文献6参照。)。また、アミノ酸のグリシンは、肺胞マクロファージやT細胞で阻害効果を有することが知られている(例えば、非特許文献7参照。)。さらに、これらのアミノ酸は、人工的に作製した炎症性疾患に対し効果を示したことが報告されている。ラットにおける化学的誘導大腸炎、peptidoglycan polysaccharide刺激関節炎、エンドトキシン誘導肺炎をグリシンは阻害し、ヒスチジンは、マウスの大腸炎を回復したという報告がある(例えば、非特許文献8参照。)。しかしながら、ヒトではアミノ酸のグリシン、ヒスチジン、あるいはシステインによるNF−κB活性化に起因する疾患への効果は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−95938号公報(図3)
【特許文献2】特開平10−203972号公報(図1)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ichiyama T,et al,Antimicrob Agents Chemother.45:44−47,2001
【非特許文献2】Zhou L,et al,Cell Mol Life Sci. 66:192−202,2009
【非特許文献3】Rutgeerts P,et al,Gastroenterology.117:761−769,1999
【非特許文献4】Yamamoto T,et al,Inflamm Bowel Dis.11:580−588,2005
【非特許文献5】Tsune I,et al,Gastroenterology.125:775−785,2003
【非特許文献6】Andou A,et al,Gastroenterology.136:564−574,2009
【非特許文献7】Wheeler MD,et al,Am J Physiol.277:L952−959,1999
【非特許文献8】Wheeler MD,et al,Am J Physiol.Lung Cell Mol Physiol.279:L390−398,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、NF−κB活性化に起因する疾患に有効な、医薬品、食品、または飼料を提供することをその主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、アミノ酸のシステイン、グリシン、ヒスチジンが、ヒト単球・マクロファージにおいて、IL−8等のサイトカインの生産や、ICAM−1等の接着分子の発現を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)を提供する。
【0012】
(1)システイン、グリシン、およびヒスチジンの少なくとも1つを有効成分として含有する、NF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤。
【0013】
(2)NF−κBの活性化に起因する疾患が、炎症性腸疾患である上記(1)に記載の予防剤および/または治療剤。
【0014】
(3)NF−κBの活性化に起因する疾患が、自己免疫疾患である上記(1)に記載の予防剤および/または治療剤。
【0015】
(4)上記(1)〜(3)に記載のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する医薬品。
【0016】
(5)上記(1)〜(3)に記載のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する食品。
【0017】
(6)上記(1)〜(3)に記載のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する飼料。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、NF−κBの活性化に起因する炎症性腸疾患に有効な医薬品、食品、または飼料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】THP−1細胞におけるアミノ酸の生存能力への影響を示した図である。
【図2】THP−1細胞におけるTNF−α刺激によるNF−κB活性化、およびアミノ酸の抑制効果を示した図である。
【図3】THP−1細胞におけるTNF−α刺激によるIκBαのリン酸化、およびアミノ酸の抑制効果を示した図である。
【図4】THP−1細胞におけるTNF−α刺激によるICAM−1発現効果、およびアミノ酸の抑制効果を示した図である。
【図5】THP−1細胞におけるTNF−α刺激によるIL−8生産増加、およびアミノ酸の抑制効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアミノ酸であるシステイン、グリシン、およびヒスチジンは、いずれもL型で、天然物由来のアミノ酸でも、市販の製品であっても良く、また塩酸、硫酸・リン酸等の酸との塩の形や、あるいはナトリウム、カルシウム等のアルカリ塩の形をとったアミノ酸を使用しても良い。これらのアミノ酸は、安定で、さらに生体内投与で安全な形態のアミノ酸を使用することが望ましい。
【0021】
本発明において、NF−κBとは、内皮細胞において、接着分子、ケモカイン、サイトカインの発現に重要な役割をもつ転写因子を意味する。
【0022】
本発明において、NF−κBの活性化に起因する疾患とは、ストレス、紫外線、サイトカイン等の刺激でおこる炎症性疾患で、炎症性腸疾患、炎症性神経系疾患、炎症性肺疾患、慢性炎症性関節疾患、肝炎、髄膜炎、自己免疫疾患、皮膚疾患、骨疾患、心疾患、腎不全、慢性脱髄疾患、内皮細胞疾患、アレルギー症候群、敗血症、悪性腫瘍、糖尿病等が含まれる。
【0023】
前記、炎症性腸疾患とは、消化管に炎症が起きた慢性疾患であり、潰瘍性大腸炎、クローン病等があげられる。潰瘍性大腸炎は、若年成人に発症することが多く、厚生労働省の特定疾患に指定されている。また、クローン病は、口腔から肛門までの消化管全域に非連続の炎症や潰瘍を起こす疾患であり、クローン病も厚生労働省の特定疾患に指定されている。
【0024】
さらに、前記、自己免疫疾患とは、全身性自己免疫疾患や臓器特異性免疫疾患であり、間接リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症等の全身性自己免疫疾患、重症筋無力症、大動脈炎症候群、バセドー病等の臓器特異性免疫疾患があげられる。
【0025】
NF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤として有効な物質は、NF−κB活性を阻害する物質と考えられることから、NF−κBに制御されているTNF−α、IL−1β、IL−6、VCAM−1、ICAM−1、MCP−1、GRO、IL−8の発現や生産の阻害効果を確認することにより、あるいは、NF−κBを制御するIκBのリン酸化の阻害効果を確認することにより、見出すことができる。
【0026】
NF−κBの活性を確認するためには、免疫細胞の単球・マクロファージ、単球・樹状細胞、線維芽細胞、リンパ球・T細胞、リンパ球・B細胞等を使用することができる。
【0027】
本発明は、システイン、グリシン、およびヒスチジンの少なくとも1つを有効成分とするNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を用いて、効果を期待する疾病のために医薬品、食品、または飼料として使用することができる。
【0028】
本発明のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する医薬品、食品、または飼料は、目的により投与しやすい形態とすることができ、固体、液体、または半固体として製造し、そのまま、あるいはさらに望ましい形態に変えて使用することができる。
【0029】
本発明に係るアミノ酸の含量は、目的により異なり、医薬品として使用する場合には、0.001〜80重量%、好ましくは、0.01〜10重量%であり、食品として使用する場合には、0.1〜80重量%、好ましくは、1〜30重量%であり、飼料として使用する場合には、0.1〜80重量%、好ましくは、1〜30重量%である。
【0030】
本発明に係る医薬品の投与経路としては、経口及び非経口のいずれを用いることもできる。経口投与する場合は、製剤の形態として、錠剤、丸剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤等の固体製剤の他に、経管経腸液、乳剤、シロップ液のような液状製剤とすることができる。また、非経口投与する場合は、製剤の形態として、注射剤や、軟膏剤、貼付剤、座剤等の外用剤とすることができる。
【0031】
経口投与のための固体製剤は、本発明に係るアミノ酸の他、有機または無機の賦形剤、例えば、乳糖、蔗糖、ブドウ糖、尿素、デンプン、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム等と混合して、さらに、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等の結合剤、精製タルク、ステアリン酸マグネシウム、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、炭酸カルシウム等の崩壊剤等を含有させて固体組成物を製造し、必要に応じて、糖や、腸溶性素材でコーティングしてコーティング剤とすることもでき、あるいは固体組成物をカプセルに充填してカプセル剤とすることもできる。
【0032】
経口投与のための液状製剤は、成分栄養剤として用いることができるが、例えば以下の成分を用いて製造することができる。本発明に係るアミノ酸の他、カゼイン等のタンパク質、デキストリン、マルトース、オリゴ糖等の糖類、大豆油、オリーブ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の脂質、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンC、ビタミンD等のビタミン類、マグネシウム、カルシウム等のミネラル類の中から必要な成分を選択し、蒸留水、エタノール、プロパノール等の溶剤と混合して製造する。
【0033】
注射剤は、本発明に係るアミノ酸を、蒸留水、生理食塩水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の必要とされる溶剤で溶解あるいは懸濁し、さらに緩衝剤、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤等を添加して製造することができる。
【0034】
軟膏剤、貼付剤、座剤等の外用剤は、本発明に係るアミノ酸を、油脂性基剤、乳剤性基剤、水溶性基剤、懸濁性基剤等の中から選んだ必要な成分と混合して製造することができる。油脂性基剤としては、例えば、白色ワセリン、パラフィン、プラスチベース、植物油、ロウ等があげられ、乳剤性基剤としては、ラノリン、親水性ワセリン等があげられる。水溶性基剤は、ポリエチレングリコール等であり、懸濁性基剤は、セルロース等である。貼付剤は、上記組成物と、さらに必要に応じて結合剤、粘着剤を添加し、酢酸セルロース、エチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン等の支持体に貼付して製造することができる。
【0035】
投与量は、症状、投与対象の年齢・性別等を考慮して適宜決定されるが、経口投与製剤の場合は、本発明に係るアミノ酸を、1日あたり、0.1〜100mg/kg、好ましくは、1〜50mg/kg、注射剤の場合は、本発明に係るアミノ酸を、1回あたり、0.01〜10mg/kg、好ましくは、0.1〜5mg/kg、外用剤の場合は、本発明に係るアミノ酸を1日あたり、1〜200mg/kg、好ましくは、10〜100mg/kgである。これらの製剤を1日に、1〜数回に分けて投与する。
【0036】
本発明における食品としては、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、健康志向食品があげられる。形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料、タブレット、顆粒剤等摂取しやすい形態であることが望ましい。日常的に摂取する茶類やサプリメントとして、本発明に係るアミノ酸を配合することにより、継続的な摂取を可能にする食品とすることもできる。
【0037】
本発明の食品は、本発明に係るアミノ酸に、前記経口投与のための医薬品製剤と同様の成分を添加して製造することができる。また、上記成分に、嗜好性を高める成分を付加することもできる。摂取量は、本発明に係るアミノ酸として、1日あたり、0.1〜100mg/kg、好ましくは、1〜50mg/kgとする。
【0038】
本発明における飼料としては、畜産業における牛・豚・馬・山羊・羊・鶏等のための飼料や、水産業における養殖魚のための餌料や、犬・猫・ウサギ・ネズミの他、ペットとして飼育している哺乳動物・鳥類・観賞魚等のためのペットフードがあげられる。
【0039】
本発明の飼料は、本発明に係るアミノ酸に、必要に応じて、穀物類、豆類、イモ類、野菜、果物、肉及び魚介、油脂、糠又は粕、糖類、色素等の動物等の生命維持物質、および嗜好性に必要な物質を配合することができる。本発明に係るアミノ酸の摂取量は、動物の種類や年齢等に応じて異なるので特に限定されないが、本発明に係るアミノ酸として、1日あたり、0.1〜100mg/kg、好ましくは、1〜50mg/kgとする。
【0040】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0041】
<ヒト単球・マクロファージにおけるアミノ酸の生存能力への影響>
THP−1細胞(ヒト単球系細胞株、American Type Culture Collection:ATCCより購入)を37℃、5%CO下で、10%の仔牛胎児血清(fetal calf serum:FCS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含んだRPMI 1640培地で培養した。アミノ酸前処理の前にFCSを含まない DMEM(Dulbecco modified Eagle’s medium)で12時間培養し、洗浄後アミノ酸を含まない培地に置換した。その後細胞を0.2mM、2mM、20mMのアラニン、システイン、ヒスチジン、グリシンをそれぞれ含む培地と含まない培地で2時間培養し、次いで細胞をTNF−α 2ng/mlで刺激した。6時間後トリパンブルー染色を使って生存細胞を測定した。データは、平均±標準誤差として表した。統計分析は標準t検定を行い、p値が0.05未満を有意とした。
【0042】
<結果>
図1に細胞の生存能力へのアミノ酸の影響を示した。0.2mM、2mM、20mMのアラニン、グリシン、ヒスチジン、システインはTHP−1細胞の生存能力へ影響はなかった。
【実施例2】
【0043】
<ヒト単球・マクロファージにおけるアミノ酸のNF−κB活性化抑制効果>
実施例1と同様に、THP−1細胞をTNF−α 2ng/mlで30分間刺激後、Nuclear Extract Kit(Active Motif社製)を用いてマニュアルに従って核抽出物を得た。核抽出物のタンパク濃度は、Coomassie Plus protein Assay Reagent(PIRCE社製)を用いて測定した。NF−κB活性はNF−κB ELISA Kit(Active Motif社製)で測定し、各種アミノ酸の前処理の有無で比較検討した。データは実施例1と同様の方法で解析した。
【0044】
<結果>
図2に、THP−1細胞におけるTNF−α刺激によるNF−κB活性化およびアミノ酸の抑制効果を示した。アミノ酸で非処理のTHP−1細胞では、TNF−α刺激によりNF−κB活性は有意に誘導され(p<0.001)、2mM、20mMのグリシン、ヒスチジンおよび0.2mM、2mM、20mMのシステインの前処理で有意にNF−κB活性化を抑制した。それらのアミノ酸のうちシステインによる前処理の抑制効果が最も大きかった(p<0.001)。アラニンには抑制効果は見られなかった。
【実施例3】
【0045】
<ヒト単球・マクロファージにおけるアミノ酸のIκBαリン酸化抑制効果>
さらにアミノ酸のNF−κB活性化の抑制効果が、IκBαのリン酸化によるものかどうかを検討した。実施例1と同様に、THP−1細胞を、TNF−α刺激10、20、30、60分後に細胞全抽出物を得た。抽出物をドデシル硫酸ポリアクリル電気泳動(SDS−PAGE)を施行後、リン酸化したIκBαに対するモノクローナル抗体(Cell Signaling社製)を用いた Western blotting法で検出した。
【0046】
<結果>
アミノ酸の前処理、特にヒスチジンとシステインの前処理では、図3に示すようにIκBαのリン酸化を抑制した。これによりNF−κB活性の抑制効果は、IκBαリン酸化抑制効果によることが示唆された。
【実施例4】
【0047】
<ヒト単球・マクロファージにおけるアミノ酸のICAM−1(CD54)発現抑制効果>
実施例1と同様に、THP−1細胞をTNF−α 2ng/mlで6時間刺激し、アミノ酸のICAM−1発現への抑制効果についてフローサイトメーターを用いて検討した。フローサイトメーターによるICAM−1(CD54)の発現解析は、フィコエリトリン(PE)標識した抗ヒトICAM−1モノクローナル抗体(BD Pharmingen社製)を使用し、陰性コントロール(isotype−matched control)として、PE標識したマウスIgG1抗体(BD Pharmingen社製)も使用した。細胞の免疫蛍光状態は、CellQuest software(Becton−Dickinson Biosciences社製)を搭載した細胞解析装置のFACScaliburフローサイトメトリーにより解析し、1万個の細胞を分析した。データは実施例1と同様の方法で解析した。
【0048】
<結果>
NF−κBで調節されるICAM−1の発現について図4に示した。2mM、20mMのグリシン、ヒスチジン、および0.2mM、2mM、20mMのシステインでの前処理で有意にICAM−1の発現を抑制した。そのうちシステインでの前処理が図2に示したNF−κB活性と同じように最も顕著であった(p<0.001)。アラニンには、ICAM−1の発現抑制効果は見られなかった。
【実施例5】
【0049】
<ヒト単球・マクロファージにおけるアミノ酸のIL−8産生抑制効果>
実施例1と同様に、THP−1細胞を用い、TNF−αで6時間刺激後、培養上清中のIL−8濃度を、ELISAキット(R&D systems社製)を用いたサンドイッチ ELISA法によりマニュアルに従って測定した。データは実施例1と同様の方法で解析した。
【0050】
<結果>
図5に示すように、TNF−α刺激後、THP−1細胞からのIL−8産生においてもアミノ酸の抑制効果が認められた。2mM、20mMのグリシン、ヒスチジン、システインでの前処理はTNF−α刺激後のTHP−1細胞からのIL−8産生を抑制した。特に、ヒスチジンの2mM、20mM、およびシステインの20mMでは顕著に抑制効果を表した(p<0.001)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は医療、食品、飼料等の分野で、NF−κBの活性化に起因する炎症性疾患、特に潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患、あるいは自己免疫疾患の予防および/または治療のために利用される可能性があり、極めて有用である。

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
システイン、グリシン、およびヒスチジンの少なくとも1つを有効成分として含有する、NF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤。
【請求項2】
NF−κBの活性化に起因する疾患が、炎症性腸疾患である請求項1に記載の予防剤および/または治療剤。
【請求項3】
NF−κBの活性化に起因する疾患が、自己免疫疾患である請求項1に記載の予防剤および/または治療剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する医薬品。
【請求項5】
請求項1〜3に記載のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する食品。
【請求項6】
請求項1〜3に記載のNF−κBの活性化に起因する疾患の予防剤および/または治療剤を含有する飼料。































【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−16728(P2011−16728A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160412(P2009−160412)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】