説明

炭素化布帛の製造方法およびこれにより得られた炭素化布帛

【課題】臭気吸着性、絶縁性、耐熱性等に優れ、また機械的強度および柔軟性に優れた炭素化布帛を比較的容易にかつ経済的に製造することのできる炭素化布帛の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を原料繊維布帛とし、これを加熱炭素化して炭素化繊維布帛を製造する方法であって、
含水率25%未満の乾燥状態の原料繊維布帛を、当該布帛の縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持し、そのまま、加熱炉内において、酸素分圧50mmHg以上の酸化性雰囲気下において、250〜350℃の温度領域まで50〜200℃/時間にて昇温し、その後、酸素分圧50mmHg未満の非酸化性雰囲気として400〜750℃の最終加熱温度領域まで50〜200℃/時間の昇温速度にて、連続して昇温し、最終加熱温度にて所定時間保持する加熱に付することを特徴とする炭素化布帛の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素化布帛の製造方法およびこれにより得られた炭素化布帛に関するものである。詳しく述べると本発明は、機械的強度、柔軟性、耐薬品性、耐洗濯強度等に優れるためにハンドリングが容易であり、臭気吸着性、絶縁性、耐熱性等に優れるため各種の用途に応用できる炭素化布帛を、セルロース系繊維布帛を原料として、歩留まり良くかつ経済的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素が優れた臭気、有害物質、微生物等に対して良好な吸着性ないし捕捉性を有することは広く知られている。
【0003】
従来、このような用途としては、活性炭や木炭等が使用されているが、賦形性に劣るものであるため、商品展開が限定される。
【0004】
このため、例えば、このような活性炭や木炭粉をシートないしフィルムや繊維に包含させて製品化を図ったものも多数存在するが、このようなものは、本来の炭素自体が有する特性よりも劣ったものとなる傾向がある。
【0005】
また、PAN系、ピッチ系に代表される炭素繊維は、構造用複合材用途として主に用いられているが、吸着特性や触媒特性等もある程度期待でき、このような用途への展開も検討されてはいるが、その性能は十分なものではなく、また、高い剛性を有する反面、破断伸度が小さく、屈折に弱いという問題点を有しており、シート状に加工することは困難であり、また価格が高価なものとなるため、かなり特殊な用途以外には展開できないものであった。
【0006】
ところで、構造材用途としての上記したような広く実用化されているPAN系、ピッチ系の炭素繊維以外に、各種の有機高分子を原料として炭素化繊維を得ようとする試みは、従来より行われている。例えば、レーヨンを中心とするセルロース系繊維を原料として炭素化繊維を得る方法もその1つである。
【0007】
なお、セルロース系繊維の場合、PAN系、ピッチ系の場合とは異なり、炭素化処理時の加熱によって、溶融することなく、面相炭化するものであるため、その製造プロセスとしても当然異なるものが必要とされる。
【0008】
例えば、特許文献1においては、ビスコースレーヨン等のセルロース系繊維を、不活性雰囲気下に300°F(約146℃)〜500°F(約260℃)の温度範囲で加熱し、500°Fとなるまで所定時間かけて加熱し、部分炭素化することによって、固有繊維密度および引張強度の良好な半導性の炭素化繊維を得ることが開示されている。
【0009】
また、特許文献2においては、レーヨン繊維を、100℃から450℃まで約10℃/時〜約50℃/時のゆっくりした昇温速度で、次いで、900℃まで約100℃/時以上の昇温速度で、さらに実質的なグラファイト化が起こるまで約3000℃に加熱することによって、布状の柔軟な繊維状グラファイトを製造することが開示されている。
【0010】
特許文献1および2に示される技術においては、例えば、窒素ガスを流しながら不活性雰囲気下でゆっくりと昇温し、セルロースの分解反応を確実に行うものであるが、この分解反応は発熱反応であるために原料繊維中に熱が蓄積されやすく、いわゆる暴走反応を起こしやすいため、これを防止する上で、不活性雰囲気下で、その処理に非常に長時間を要するものとなる。また、炭素化焼成工程においては、熱分解が進むにつれて、繊維には大きな構造変化が引き起こされ、繊維には収縮が生じるが、収縮に伴う大きな応力が構造弱部に集中し、炭素化焼成時に構造弱部での破損や破壊が起こり、結果的に、得られる炭素化繊維の機械的特性を低下させてしまうものであった。さらに、長時間の加熱によるエネルギーの消費とともに、窒素ガス等の不活性ガスを長時間流しつづける必要があるために、製造コストの増大を招くものであった。
【0011】
さらに、特許文献3においては、セルロース系繊維布をリン酸等の酸溶液に浸漬し、乾燥して溶媒を除去した後、酸化雰囲気中で約100〜350℃で加熱することで、セルロース系物質を部分的かつ選択的分解して、恒久的に脱水された熱処理物質を得、その後、酸化を防止しながら当該物質を炭素化温度に加熱して炭素化し、さらに炭素化された物質を、窒素ガスで浄化された電気炉で加熱してグラファイト化する技術が開示されている。
【0012】
特許文献3に記載される技術は、セルロース系繊維が大気中の湿度と平衡する通常約5〜20%程度の水分を含有しており、この水分は加熱によって脱水するが、冷却において非常に短い時間で水分は再吸収されること、そして吸収された水分は、繊維物質の個々のフィラメント上にタール状の表面析出物の形成を促進し可撓性炭素質繊維物質の製造を妨害し、これらのタール状析出物は、更なる熱分解において分解し、その結果、個々のフィラメントが他のフィラメント、特に交差関係にある他のフィラメントと粘着してしまい、その結果脆く、弱い製品ができてしまうため、上記したように、最初に完全に脱水されたセルロース系繊維を得ることで、これを解消しようというものである。
【0013】
特許文献3に示されるようなリン酸等の酸を用いた脱水による構造変化を行う方法以外に、金属塩化物を用いるもの、あるいは特許文献4に示されるように、臭化マグネシウム等の臭化金属物およびチオ尿素、硫酸アンモニウム等の窒素化合物を用い不活性雰囲気下で加熱して、難燃化する方法も知られている。
【0014】
しかしながら、特許文献3に示されるような酸溶液、特許文献4に示されるような臭化金属物、あるいは金属塩化物処理等の薬剤を使用してセルロース系繊維の前処理を行う方法は、セルロース系繊維の不燃化に要する加熱時間の短縮化は図れるものの、固相である繊維体という不均一系繊維における処理となるため、繊維表面の分子と、内部の分子では反応性が異なるものとなり、極端な場合、薬剤は固体の内部に到達する事ができず、内部の分子はまったく反応できない。このため、その変性は、繊維の各部位で不均一な分布を持ったものとなり、結果的に得られる炭素化繊維においてもその特性が繊維の各部位において不均一なものとなる。
【0015】
さらに、特許文献3に示されるような酸溶液にセルロース系繊維が曝されることで、原料繊維強度が低下し、結果的に得られる炭素化繊維の強度等も低下してしまう虞れがあった。また、金属塩化物や特許文献4に示されるように臭化金属物などを用いて、ハロゲン置換により難燃化した場合、炭素化処理時に有毒なガスの発生する虞れがあった。
【0016】
また、セルロース系炭素繊維の機械的強度を高めるため、原料繊維にケイ素化合物を含浸させた後、炭素化処理を行うことも知られている(例えば、特許文献5〜7参照。)。
【0017】
すなわち、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物の有機溶媒溶液中にセルロース系原料繊維を浸漬し、その後、120〜300℃で0.4〜2時間加熱、18〜30℃に0.050〜0.2時間冷却、変形度0〜−10%で上記条件で再度加熱、300〜400℃の区間での変形度−25〜+30%をもって180〜600℃に加熱して炭素化、および−10〜+25%の変形度をもって900〜2800℃でグラファイト化する方法(特許文献5)、ケイ素含有の含水セルロース繊維を、さらにアンチピリン溶液に浸漬し、空気中100〜150℃にて熱処理し、さらに不活性ガス雰囲気中300〜900Paの真空圧で150℃から300〜600℃へゆるやかな温度上昇で炭素化し、その後不活性ガス雰囲気中で1000〜2000℃で熱処理する方法(特許文献6)、また、有機ケイ素化合物の有機溶媒溶液中にセルロース系原料繊維を浸漬し、10℃/分〜60℃/分の昇温速度で250℃〜350℃までの温度範囲にする初期段階、2℃/分〜10℃/分の昇温速度で350℃〜500℃までの温度範囲にする中間段階、5℃/分〜40℃/分の昇温速度で500℃〜750℃に昇温する最終段階を含む(その後、1000℃〜2800℃の範囲の高温熱処理に付すことができる。)熱処理を行う方法(特許文献7)が知られている。
【0018】
このようにケイ素化合物を含浸させて得られた炭素化繊維は、確かに、その機械的強度の向上が望まれるものの、繊維の柔軟性という面では満足のいくレベルのものとはならず、また、炭素化繊維中にはケイ素分が残留しているため、繊維の熱的、電気的あるいは化学的特性といった面からは、あまり良好なものが期待できないものであった。
【0019】
ところで、セルロース系繊維の炭素化処理としては、従来、特許文献1〜6にも記載されているように、セルロース系繊維糸を「かせ」状態で加熱炉内に入れてバッチ式で行うか、あるいは繊維糸を加熱炉内に配したローラ等の間を引き回しながら通過させて連続式で行う方法が知られているが、炭素化処理後に製織等して布帛とすることは、PAN系、ピッチ系の炭素繊維の場合と同様に、非常に困難である。
【0020】
原料としてセルロース系繊維布帛を用い、これをそのまま炭素化処理して炭素化繊維布帛を得ようとする試みもなされている。例えば、特許文献8の実施例中には、リン酸溶液処理後の原料布帛を2枚の黒鉛板に挟持し、パッキングコークス中に埋め非酸化性雰囲気下で1週間の時間をかけて900℃で炭素化することが示されている。また、前記特許文献7においては、所定の温度ゾーンを複数有する連続炉を用いて原料布帛を連続的に処理する方法も示されている。
【0021】
しかしながら、特許文献8に示される原料繊維布帛を炭素化する方法は、非常に長時間を有するものであって効率が悪く、特許文献1および2に示される技術と同様に、得られる炭素化繊維布帛の特性も十分なものとならないものであった。さらに、製造時に原料布帛面全体に強い押圧力が常時加わるため炭素化時における布帛の収縮にうまく追従させることができず、布帛の部分的な破損等をもたらしたりする虞れがあった。また、特許文献7に示される方法は、前記したようにケイ素化合物を含浸させる前処理を行うものであって、機械的強度の向上が望まれるものの、繊維の柔軟性という面では満足のいくレベルのものとはならず、また、炭素化繊維中にはケイ素分が残留しているため、繊維の熱的、電気的あるいは化学的特性といった面から問題の残るものであった。さらに、連続炉を用いる方法は、製造装置が非常に大がかりなものとなり、また、所定の昇温パターンで加熱するために、ある特定の温度ゾーンでは、いくつもの搬送ロール、転向ロール等を配置し、原料布帛をこれらの間に掛け渡した上で引き出す操作が必要であり、炭素化途中において非常に破断伸度が小さく、屈折に弱い布帛を連続して炉内を通過させるためには、非常に微妙な張力調整が必要となるため、操作が高度なものとなり、また、一端布帛が破断してしまうと完全に操作を中断する必要があるため、効率が悪く、製造歩留まりも悪いものとなるものであった。
【0022】
このように、従来、セルロース系繊維を原料とした炭素化繊維布帛の製造は、その製造効率が低く、また得られる炭素化繊維布帛としても十分な特性を有するものが得られていないのが現状であった。
【特許文献1】米国特許第3053775号明細書
【特許文献2】米国特許第3107152号明細書
【特許文献3】米国特許第3305315号明細書
【特許文献4】特開昭58−13722号公報
【特許文献5】ロシア特許第2045472号明細書
【特許文献6】ロシア特許第2047674号明細書
【特許文献7】米国特許第6967014号明細書
【特許文献8】国際公開WO00/49213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明は、機械的強度および柔軟性に優れた炭素化布帛を比較的容易にかつ経済的に製造することのできる炭素化布帛の製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、機械的強度、柔軟性、耐薬品性、耐洗濯強度等に優れるためにハンドリングが容易であり、かつ電磁波吸収能、電気的特性ないし誘電特性、耐熱性、臭気吸着性等に優れるため各種の用途に好適に応用できる炭素化布帛、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決する本発明は、セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を原料繊維布帛とし、これを加熱炭素化して炭素化繊維布帛を製造する方法であって、含水率25%未満の乾燥状態の原料繊維布帛を、当該布帛の縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持し、そのまま、加熱炉内において、酸素分圧50mmHg以上の酸化性雰囲気下において、250〜350℃の温度領域まで50〜200℃/時間にて昇温し、その後、酸素分圧50mmHg未満の非酸化性雰囲気として400〜750℃の最終加熱温度領域まで50〜200℃/時間の昇温速度にて、連続して昇温し、最終加熱温度にて所定時間保持する加熱に付することを特徴とする炭素化布帛の製造方法である。
【0025】
本発明の炭素化布帛の製造方法においてはまた、加熱開始から最終温度での加熱終了までの総合加熱保持時間が10〜50時間であることが好ましい。
【0026】
本発明の炭素化布帛の製造方法においては、250〜750℃の温度領域においては、前記拘束方向において布帛に収縮による張力が加わることが好ましい。
【0027】
本発明の炭素化布帛の製造方法においてはまた、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への置換は、加熱された原料繊維布帛の熱分解により発生する出ガスを利用して、原料繊維布帛の囲繞雰囲気より酸素含有ガスを追放することによって行われるものであることが望ましい。
【0028】
本発明の炭素化布帛の製造方法はまた、原料繊維布帛は、加熱炉内において積層された状態で配置されているものである炭素化布帛の製造方法を示すものである。
【0029】
上記課題を解決する本発明はまた、セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を原料繊維布帛とし、当該布帛を含水率25%未満の乾燥状態にて、当該布帛の縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持し、そのまま、加熱炉内において、酸素分圧50mmHg以上の酸化性雰囲気下において、250〜350℃の温度領域まで50〜200℃/時間にて昇温し、その後、酸素分圧50mmHg未満の非酸化性雰囲気として400〜750℃の最終加熱温度領域まで50〜200℃/時間の昇温速度にて、連続して昇温し、最終加熱温度にて所定時間保持する加熱に付することを特徴とする製造方法により得られた炭素化布帛である。
【0030】
本発明はまた、カンチレバーソフトネステスターにより測定される炭素化布帛の剛軟度と原料繊維布帛の剛軟度との比(炭素化布帛の剛軟度/原料繊維布帛の剛軟度)が1.2〜0.8であること特徴とする炭素化布帛を示すものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の炭素化布帛の製造方法においては、セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を原料として用い、原料布帛に酸溶液、ハロゲン化物あるいはケイ素化合物などを使用した前処理等を何ら施すことなくそのまま加熱炉に導入し、熱処理を行う雰囲気を酸化雰囲気から非酸化雰囲気へと変化させつつ、連続的に昇温させるという比較的簡単な処理工程により炭素化繊維布帛を得ることができるため、製造コスト面で有利な製造方法となる。また、本発明の炭素化布帛の製造方法において、前記250〜350℃の温度領域までの昇温およびその後の400〜750℃の最終加熱温度領域までの昇温が、それぞれ50〜200℃/時間の一定速度で行われため、製造工程における熱制御が簡単でありかつ短時間で製品を得ることができる。また、本発明の製造方法においては当該原料布帛を当該布帛の縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持して加熱処理を施すため、セルロース系繊維の熱分解ないし炭素化が進行し収縮が生じる際に、適度な張力、より好ましくは、250〜750℃の温度領域において、拘束方向において布帛に収縮による張力を加えるものとなり、得られる炭素化繊維布帛の機械的強度および柔軟性が高まるものである。
【0032】
また本発明の炭素化布帛は、上記したような製造方法により調製できるものであるから、非常に安価で提供でき、加えて、このようにして得られる本発明に係る炭素化繊維布帛は、上記したように優れた機械的強度および柔軟性、さらに良好な耐薬品性および耐洗濯強度を有するゆえにハンドリング性に優れるという点のみならず、非常に卓越した臭気、有害物質、微生物等に対する吸着性等を有しており、各種の用途に好適に用いることができるものである。
【0033】
なお、詳細な機構は明らかではないが、前記したように本発明に係る炭素化繊維布帛が卓越した吸着特性を示すのは、原料繊維布帛における撚糸ないし織編構造を引き継いで、炭素化繊維布帛が大きな表面積を有し、かつマクロおよびミクロ的に複雑な孔ないし隙間構造が組織内に形成されるためであると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を実施形態に基づき、詳細に説明する。
【0035】
本発明において、原料としては、セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布が用いられる。
【0036】
本発明の出発原料となるセルロース系繊維としては、綿、麻(リネン麻、ラミー麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート麻、ケナフ、ヘンプ等各種のものを含む)、絹、その他、竹、こうぞ、みつまた等の植物性および動物性の天然セルロース繊維でも、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンといったレーヨン繊維、ビスアセテート、トリアセテートといったアセテート繊維等の再生ないし半合成セルロース繊維でも構わない。
【0037】
出発原料として、好ましいものの1つは、綿である。綿繊維はアオイ科の植物である綿を栽培し、開花後子房の胚珠の表皮細胞が伸長して形成された長い綿毛(リント)を回収して得る。木綿繊維はグルコースが鎖状に連結したセルロース(線維素)が主成分であり、この繊維は自然界で得られる最も純粋なセルロースである(乾燥時には88〜96%)。木綿繊維の断面は中空であり、生の時は円形であるが、乾燥すると扁平になり、このことにより天然撚りを生ずる。綿は、従来の炭素繊維の原料である再生セルロースとは形態が異なり、立体的な積層構造になっており、これを炭素化して得られた炭素化繊維は、綿の持つ特徴、すなわち、木綿繊維の構造上の特性である二重セルロース層が残存し、柔軟性、強度、吸着性に富む素材となる。
【0038】
綿のセルロース繊維はミセル状の構造を持ち、セルロース分子が一定の排列をした結晶部分と不規則に集合した非結晶部分からなり、結晶部分はお互いの結合に関与して繊維間の結合を担い、結晶部分と非結晶部分の混在によって、木綿繊維特有の強度や弾力性が決定づけられている。木綿の繊維は、全体的に捩れがあるが、外からクチクラ層(ワックスなどからなる)、セルロース第1層、セルロース第2層の3層からなる。第1層のセルロースは全て結晶化されており、第2層では結晶と非結晶が混在している。中央には断面積比が3〜4%のルーメンと言う中空部がある。これを炭化すると、クチクラ層は燃焼し、セルロース層が露出する。炭素化綿の表面には繊維の束が明確に現れており、クラチラ層は完全に分解除去されている。炭化したセルロースは繊維方向に整列しており、ロープのような構造をなしている。各繊維の束にはところどころに隙間が出来ており、この隙間は空間的に下層の炭化したセルロースに繋がっていると考えられる。高率の吸着性を示す理由は恐らく、繊維中の結晶部分と非結晶部分とが混在する構造上の特徴、繊維間の配位などが関与しているものと考えられる。このように、綿が持つ自然の捩れが、炭素化繊維を製造した場合にそのまま維持され、しなやかさや加工のし易さ、さらには強度をそのまま維持するものと考えられる。
【0039】
また、機械的強度等に優れた炭素化繊維を製造する上で好ましい出発原料としては、レーヨン繊維を挙げることができる。
【0040】
原料の布帛の織り方、編み方としては、特に限定されるものではなく、例えば、平織り、綾織り、繻子織り等の織り方、横編、縦編等によるシングルニット、ダブルニット等の編み方、あるいはこれらの組合せ等の各種のものが用いられ得るが、このうち、得られる、炭素化布帛の良好な機械的強度および柔軟性、また繊維の多方向的配向性などといった面からは、編物であることが望ましい。
【0041】
また、原料の布帛を構成する糸としては、単繊維糸であっても複数の繊維の捻糸であってもよいが、捻糸であることが、得られる炭素化布帛の良好な機械的強度および柔軟性、また繊維の多方向的配向性などといった面から望ましい。
【0042】
さらに糸の太さとしては、用いる繊維の種類によっても左右され、特に限定されるものではないが、例えば、綿糸の場合、番手10〜100番程度、また、レーヨン繊維等の長繊維の場合、5000〜10000デニール程度であることが望ましい。
【0043】
また原料布帛の厚さとしても、用いる繊維の種類によっても左右され、特に限定されるものではないが、例えば、綿布帛の場合、厚さが0.05〜50mm、好ましくは、0.05〜30mm程度のものであることが望ましい。
【0044】
本発明の製造方法においては、このような原料布帛は、また、従来公知のリン酸等酸溶液、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、臭化マグネシウム等のハロゲン化物、チオ尿素、硫酸アンモニウム等の窒素化合物等を用いた難燃化等を目的とする前処理を何ら施すことなく、乾燥状態(含水率25%未満)で、そのまま加熱炭素化処理工程にかけられる。なお、必要に応じて、付着した異物等を除去する目的の上で、水洗および乾燥処理を施すことは可能である。
【0045】
本発明の製法においては、このようなセルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を、乾燥状態にて、温度制御可能な加熱炉に挿入し、最初に酸素分圧50mmHg以上、より好ましくは酸素分圧100〜150mmHgの酸化性雰囲気下において、250〜350℃の温度領域まで昇温し、その後、酸素分圧50mmHg未満、より好ましくは酸素分圧10mmHg未満の非酸化性雰囲気として400〜750℃の最終加熱温度領域まで連続して昇温し、最終加熱温度にて所定時間保持するという熱処理を施すことで、炭素化繊維布帛を製造するものである。
【0046】
ここで、本発明において、当該原料繊維布帛は、縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持された状態で加熱炉内に挿入される。
【0047】
セルロース系繊維の熱分解ないし炭素化が進行するにつれて、布帛には収縮が生じるが、本発明においては、原料布帛が上記したように縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持された状態で収納されているため、布帛にはその収縮の程度に応じて適度な張力、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、250〜750℃の温度領域において、前記拘束方向において布帛に収縮による、0.01N〜5.0N程度、より好ましくは0.1N〜2.0Nの張力が安定して加わることになる。このため炭素化した繊維中において、炭素原子の配向等が進行するものと思われ、得られる炭素化布帛は十分な機械的強度とともに良好な柔軟性を有するものとなる。
【0048】
なお、本発明において原料布帛を縦あるいは横のいずれか一方向から「拘束する」というのは、完全に両端を固定するというものではなく、布帛の収縮の程度に応じて上記したような適度な張力が加わるように保持することを意味するものである。
【0049】
加熱炉としては、温度制御可能な加熱炉であれば特に限定されるものではないが、例えば、電熱炉、ガス炉、コークス炉等を用いることができる。
【0050】
また、一般に、セルロース系繊維は大気中の湿度と平衡する通常約5〜20%程度の水分を含有しており、この水分は加熱によって脱水するが、冷却において非常に短い時間で水分は再吸収されること、そして吸収された水分は、繊維物質の個々のフィラメント上にタール状の表面析出物の形成を促進し可撓性炭素質繊維物質の製造を妨害し、これらのタール状析出物は、更なる熱分解において分解し、その結果、個々のフィラメントが他のフィラメント、特に交差関係にある他のフィラメントと粘着してしまい、その結果脆く、弱い製品ができてしまう。本発明においては、最初に酸素分圧50mmHg以上の酸化性雰囲気下において、250〜350℃の温度領域まで加熱することで、セルロースの分子鎖構造を変化させて脱水させることで、その後において強靭で柔軟な繊維構造を形成するものである。
【0051】
本発明の炭素化布帛の製造方法において、前記250〜350℃の温度領域まで昇温条件としては、50〜200℃/時間、より好ましくは80〜150℃/時間とされる。セルロース系繊維は、一般に240〜250℃前後の温度で熱分解が開始されるが、この温度域を含めて、250〜350℃の温度領域まで酸化性雰囲気下において、50〜200℃/時間の昇温条件で加熱することで、安定、確実かつ迅速に、セルロースの分子鎖構造を変化させて脱水させる。
【0052】
そして、セルロース系繊維の熱分解により発生する可燃性の出ガスおよび熱分解時の発熱反応により布帛が燃焼し炭素化の制御が不能となることを抑制するために、この温度域に達したら酸化性雰囲気より非酸化性雰囲気へと置換する。
【0053】
製造途中における酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への切り替えは、加熱炉内の雰囲気中に外部より不活性ガスを供給することによっても行うことが可能であるが、約250℃以上の温度領域で繊維の熱分解により発生する出ガスによって雰囲気中の酸素分を加熱炉系外へ追放することによって行うことが望ましい。なお、この場合、原料繊維布帛より発生する分解ガスによって迅速かつ十分に雰囲気が置換されるよう、加熱炉内は、余剰空間の少ない状態としておくことが望ましい。
【0054】
最終的加熱温度は、得ようとする炭素化繊維の特性によって変動するが、本発明においては、良好な絶縁性を示し卓越した物質吸収特性を発揮する炭素化繊維布帛を得るために、400〜650℃の温度、より好ましくは、400〜600℃の温度とする。
【0055】
なお、250〜350℃の温度領域から、酸素分圧50mmHg未満の非酸化性雰囲気に切り替えての、この最終的加熱温度までの加熱は、安定かつ均一に炭素化が十分に進行しかつ炭素の所期の配列化が生じるように、50〜200℃/時間、より好ましくは80〜150℃/時間の昇温速度で行われることが好ましい。
【0056】
また最終温度での保持時間としては、特に限定されるものではないが、例えば、10〜50時間程度、好ましくは10〜30時間、より好ましくは12〜20時間程度である。
【0057】
本発明においては、このような所定の昇温速度にて加熱することによって、比較的短時間にて所期の特性を有する炭素化布帛を得ることができる。
【0058】
本発明において、このように最終温度までの所期の加熱処理を行った後の冷却条件は特に限定されるものではないが、自然冷却で良く、例えば、−10〜−100℃/時間程度、より好ましくは、−20〜−60℃/時間程度の降温条件となる。その後、得られた炭素化繊維布帛は、必要に応じて、端部裁断等の整形処理を行って製品とすることができる。
【0059】
さらに、本発明の好ましい実施形態においては、原料繊維布帛は、加熱炉内において積層された状態で配置されているものとされる。これは、このように積層された状態で配置されていると、各繊維布帛の各層間の間隙はほとんどなく、結果的に各層を囲繞する空間を非常に狭いものとすることができるゆえ、上記したように、加熱工程途中において酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気へと置換する際、布帛より発生する出ガスによって酸素分を囲繞空間から容易に追放することができかつ一端追放されると次々と発生する出ガスによって酸素含有ガスが侵入してくることはほとんど不可能となり良好な非酸化性雰囲気を布帛周りに形成することができるためである。また、このように、各層が相互に面することによって、加熱炉の伝熱体や熱媒体といった良熱伝導体に布帛が直接接触することが回避され、これによって布帛が急速に加熱されて燃焼を起こすといった不具合の発生を抑えることができる。さらに、このように原料繊維布帛を積層配置することによって、一度に多量の処理が行え、生産効率が向上するものである。なお、積層数としては、特に限定されるものではなく、原料繊維布帛の厚さによっても左右されるが、例えば、2〜5000層、好ましくは10〜1000層、さらに好ましくは100〜500層程度とすることができる。
【0060】
なお、原料繊維布帛を積層状態として、炭素化処理すると、熱分解時に発生するタール状析出物の影響により、積層された布帛界面相互で炭素化された繊維相互が燃焼固着してしまい、炭素化処理後に層間剥離できない塊状体となってしまうということが、当業者であれば観念的に思い浮かぶところであるが、本発明者が見出した上記したような所期の条件下で処理を行うと、このような現象は発生することなく、炭素化処理後に、各層間を分離でき、原料繊維布帛の状態をほぼそのまま残した状態で炭素化した布帛状態として製造が可能となったものである。
【0061】
このようにして得られる本発明に係る炭素化繊維布帛は、十分な機械的強度を有すると共に、原料布帛と遜色のない柔軟性を有しており、かつ炭素繊維を使用してそれを織製して織布、編布または織編布とするのではなく、炭素化焼成前の出発原料として、セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を用いることにより、出発原料の糸自体が柔らかく自由な方向性を持っているため、剛直な炭素繊維を織ったものと比較し、繊維が面方向に揃っておらず、厚さ方向にも十分に配合するために、面方向のみならず、厚さ方向においても、圧縮強度等に優れたものとなり、かつ良好な臭気、有害物質、微生物等に対する吸着能および絶縁特性を有するものとなる。
【0062】
代表的な特性としては、炭素化布帛は体積固有抵抗が∞Ωcm、JIS L 1018 カットスリップ法により測定された引張強度が1.5N以上、より好ましくは、2.0N以上、カンチレバーソフトネステスターにより測定される炭素化布帛の剛軟度と原料繊維布帛の剛軟度との比(炭素化布帛の剛軟度/原料繊維布帛の剛軟度)が1.2〜0.8、より好ましく1.1〜0.9である。なお引張強度としては当然にその値が高いものが望ましく、また布帛の厚さ等によっても変動するものであるので、その上限値としては、特に限定されるものではないが、例えば、50N程度の強度までのものを比較的容易に得ることができる。
【0063】
また特に限定されるものではないが、本発明の炭素化繊維布帛は、代表的には、厚さが0.001〜30mm、単位面積当りの質量が20〜200g/mであるものとすることが、その特性およびハンドリング性の上から望ましい。
【0064】
その他の特性としては、特に限定されるものではないが、例えば、空気中での燃焼開始温度が400℃以上、ラマン分光分析法で測定されるDバンド(1350cm-1)とGバンド(1590cm-1)の比(D/G)が、0.2〜1.0である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例に記載の特性の測定方法としては次のような条件にて測定した。
【0066】
<厚さ、単位面積当りの質量>
厚さは、マイクロメーターにより測定した。
【0067】
単位面積当りの質量は、JIS L 1018に規定されるところに従って測定した。
【0068】
<引張強度>
JIS L 1018 カットスリップ法に準拠して測定した。なお、測定条件としては、引張速度20cm/分、つかみ間隔20cm、試料幅5cm、試験機:定速伸張形とした。
【0069】
<剛軟度>
JIS L1018 A法(45°カンチレバー法)に準拠して、カンチレバーソフトネステスター(型式:CAN-45)により測定した。
【0070】
<面方向導電性>
得られた試験片を、四探針式低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学製)を用いて表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、同抵抗計により体積抵抗率(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
【0071】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0072】
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
【0073】
<吸臭性能>
アンモニア、ホルムアルデヒド、トリメチルアミン、および硫化水素に対する吸収性能を調べた。まず、得られた炭素化繊維から秤量6gのサンプル片を作製した。このサンプル片を、ガス容量13Lのデシケーター中に入れ、これに各ガスを後述する表1に示す初期濃度となるように入れ、ガス濃度の経時的変化を検知菅にて測定した。なお、比較のために、竹炭6g、備長炭6gを用い、同様のガス吸着試験を行った。
【0074】
<抗菌性試験>
財団法人繊維評価協議会に定められる統一試験方法に従い、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA IID 1677)に対する抗菌性を調べた。
【0075】
試験は、JIS L 1902 (繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)の定量試験法(菌液吸収法)に準拠して行い、培養後の生菌数測定法は、発光測定法(ATP 法)により行った。また菌体は、界面活性剤(Tween 80)を添加した試験懸濁液を使用して接種された。
【0076】
なお、団法人繊維評価協議会に規定される評価基準は、次の通りである。
(静菌活性値)= Mb−Mc≧ 2.2、 但し、Mc≠0 であること
Mb:標準布(ナイロン標準白布)の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mc:抗菌加工布(本実施例においては炭素化繊維布帛)の18 時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
(殺菌活性値)= Ma−Mc >0
Ma:標準布(ナイロン標準白布)の試験菌接種直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
【0077】
[実施例1]
以下の条件により炭素化繊維布帛を調製した。
【0078】
原材料として、幅115mm×厚さ6mmの綿ニット(シングルニット、木村織物株式会社製)を用いた。なお、この綿ニットのカンチレバーソフトネステスターにより測定される剛軟度は、ウェール方向:17mm、コース方向:16mmであった。この綿ニットを所定長さで300層積層し、これを加熱炉内に配して以下の加熱条件にて加熱して、炭素化繊維布帛を製造した。
加熱条件:室温(15℃±20℃)〜600℃ 昇温速度 100℃/時間
総合加熱保持時間 15時間
冷却: 自然冷却
なお、加熱開始直後は酸素分圧約150mmHg程度であった酸化性の雰囲気は、約270℃〜300℃程度の温度域において、繊維の熱分解により発生する出ガスの影響により、酸素分圧50mmHg未満の非酸化性の雰囲気となり、それ以降はこの非酸化性雰囲気が加熱終了時まで維持された。
【0079】
(結果)
得られた炭素化繊維布帛の表面性状を電子顕微鏡を用いて観察した。得られた結果を図1A(倍率50倍)、図1B(倍率3000倍)、図1C(倍率10000倍)に示す。
【0080】
また、得られた炭素化繊維布帛の物性は以下の通りであった。
体積固有抵抗: ∞Ωcm
引張強度: ウェール方向3.63N、コース方向2.27N
カンチレバーソフトネステスターにより測定される剛軟度: ウェール方向18mm、コース方向17mm
厚さ:4mm
単位面積当りの質量:55.2g/m
空気中での燃焼開始温度:439℃
D/G比:0.8
なお、図2に、空気中での燃焼開始温度を求めたTG−DTAチャート、図3に、D/G比を求めたラマンスペクトルチャートを示す。
【0081】
また、消臭性能について得られた結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

表1に示すように、本発明に係る炭素化繊維布帛は、いずれの臭気物質に対しても高い消臭性能を示した。
【0083】
次に、抗菌性試験について得られた結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

表2に示すように、本発明に係る炭素化繊維布帛は、MRSAに対して極めて高い抗菌、殺菌活性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】A〜Cは、実施例で得られた炭素化繊維布の電子顕微鏡写真である。
【図2】は、実施例で得られた炭素化繊維布のTG−DTAチャートである。
【図3】は、実施例で得られた炭素化繊維布のラマンスペクトルチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維の糸からなる織布、編布または織編布を原料繊維布帛とし、これを加熱炭素化して炭素化繊維布帛を製造する方法であって、
含水率25%未満の乾燥状態の原料繊維布帛を、当該布帛の縦あるいは横のいずれか一方向から拘束して保持し、そのまま、加熱炉内において、酸素分圧50mmHg以上の酸化性雰囲気下において、250〜350℃の温度領域まで50〜200℃/時間にて昇温し、その後、酸素分圧50mmHg未満の非酸化性雰囲気として400〜750℃の最終加熱温度領域まで50〜200℃/時間の昇温速度にて、連続して昇温し、最終加熱温度にて所定時間保持する加熱に付することを特徴とする炭素化布帛の製造方法。
【請求項2】
加熱開始から最終温度での加熱終了までの総合加熱保持時間が10〜50時間であることを特徴とする請求項1に記載の炭素化布帛の製造方法。
【請求項3】
250〜750℃の温度領域においては、前記拘束方向において布帛に収縮による張力が加わることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素化布帛の製造方法。
【請求項4】
酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への置換は、加熱された原料繊維布帛の熱分解により発生する出ガスを利用して、原料繊維布帛の囲繞雰囲気より酸素含有ガスを追放することによって行われるものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素化布帛の製造方法。
【請求項5】
原料繊維布帛は、加熱炉内において積層された状態で配置されているものである請求項請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素化布帛の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法により得られたことを特徴とする炭素化布帛。
【請求項7】
前記炭素化布帛は、カンチレバーソフトネステスターにより測定される炭素化布帛の剛軟度と原料繊維布帛の剛軟度との比(炭素化布帛の剛軟度/原料繊維布帛の剛軟度)が1.2〜0.8であることを特徴とする請求項6に記載の炭素化布帛。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−169490(P2008−169490A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1699(P2007−1699)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(598011503)新日本テックス株式会社 (13)
【出願人】(303042958)朝陽貿易株式会社 (6)
【出願人】(500196124)株式会社三井物産戦略研究所 (8)
【Fターム(参考)】