説明

炭素析出のための装置

本発明は、アノード(5)と、炭素から成るターゲットカソード(10)と、パルスエネルギ源(15)と、少なくとも2つの点弧ユニット(20)とを備えた、パルス式のプラズマ支援された真空アーク放電による炭素析出のための装置に関する。少なくとも2つの点弧ユニット(20)はターゲットカソード(10)の縁部領域に配置されており、それぞれ2つの平面的な金属製の電極(25,30)と、両電極(25,30)間に配置された平面的な絶縁セラミック(35)とを有している。点弧ユニット(20)の平面的な形状および支持カソード(10)におけるその配置により、ターゲット面全体の均等な使用およびワークピースの均等なコーティングが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、請求項1の上位概念部に記載した形式の炭素析出のための装置に関する。
【0002】
ワークピース、特に摩擦学的に高く負荷され、同時に付加的な幾重の負荷、例えば温度またはキャビテーションに曝されるコンポーネントをコーティングするために、多数の物理的な析出法が知られている。プラズマコーティング技術の分野からは、金属フリーおよび水素フリーの炭素層(いわゆるテトラへデラルアモルファスカーボン、ta−C)を形成する2つの異なる方法、すなわちスパッタまたはアーク蒸発によるグラファイトターゲットの析出が挙げられる。
【0003】
スパッタ法はただし低い成膜速度の点で特徴付けられる。それゆえ、この方法は経済的な使用のためにあまり適していない。
【0004】
アーク蒸発の場合、カソードは典型的には蒸発させたい材料から成り、アノードとしては特別な電極が存在するか、またはコーティングチャンバの壁もアノードとして役立つことができる。ターゲット材料の蒸発のためにアノードとカソードとの間でアークが点弧される。アークはカソードを局所的に燃焼点で、燃焼箇所がカソード上に認識可能な程、強く加熱する。ターゲット材料は気相へと移行し、ワークピース上に析出する。アノードとカソードとの間でアークを生ぜしめるために点弧装置が必要である。
【0005】
可動の点弧装置の他に、固定的にターゲットカソードの近傍に配置された点弧電極が公知である。点弧電極間でアークが点弧される。アークはその後点弧電極からアノードに移動する。
【0006】
コントロールされた炭素の直流アーク蒸発は困難なことが判っている。それというのも、アークの燃焼点は、ターゲットの1カ所で固定的に場合によっては燃焼し続ける傾向にあるからである。また、蒸発時にいわゆる飛沫(Droplet:マクロ粒子)がワークピース上での層粗さの上昇に至ることが知られている。この方法もそれゆえ制限的にのみ使用される。
【0007】
これに対してパルス式のアーク放電では、電圧がアノードとカソードとの間でパルス式に印加される。それにより、燃焼点はターゲット上を直流アーク蒸発に対して約100倍の速度で動き、それにより固定燃焼は回避される。パルス式のアーク放電は一般にミリセカンドの領域のパルス幅を有している。それにより、放電は点弧の空間的な近傍に局限されている。
【0008】
パルス式のアーク放電のテクノロジを大面積のターゲットで使用したいとき、それゆえ複数の個々の点弧源を備えた構造が有意義である。
【0009】
RU2153782C1号明細書から、炭素層をワークピース上に被着するための炭素プラズマパルス源が公知である。このパルス源はとりわけグラファイトカソードと、アノードと、容量性の蓄積回路と、グラファイトカソードの周囲に配置された少なくとも2つの点弧ユニットとを有している。この配置により、点弧ユニットを1つだけ備えた装置に比して、炭素層によりコーティングされる領域は拡大されると同時に、ワークピースに被着される層の厚さは均等化される。点弧ユニットはそれぞれ棒状の金属電極と環状のグラファイト電極とから成っており、両者はそれぞれ点弧カソードもしくは点弧アノードとして役立つ。点弧カソードと点弧アノードとの間には、誘電性の材料から成るリングが配置されている。その際、誘電性の材料はターゲットカソード側の面で電気伝導性の材料によりコーティングされている。各点弧ユニットの長手方向軸線はその際、ターゲットカソードの作業面の、アーク放電の開始のために意図されている相応の範囲に向けられている。
【0010】
点弧カソードおよび誘電性の材料の環状の構造は、ターゲット面の経済的かつできるだけ均等な利用に対して不都合に働き得る。いわば点状に作用する点弧源により、ターゲット面上の点弧場所は相対的に小さな領域に制限されている。その結果、特定の箇所が放電の度に除去される一方、ターゲット面上の隣接する場所はほぼ未処理のまま残される。時と共に、そのような際立った侵食域はターゲットカソード上の望ましくないクレータ形成に至る。
【0011】
にもかかわらず、できるだけターゲット面全体を均等に除去し得るよう、点弧源は密に相並んで配置されなければならない。したがって、ターゲットカソードの単位長さ当たり必要な点弧源の個数は増加し、それと共にメンテナンス手間およびコーティング設備の連続運転時の不安定性は増加する。
【0012】
さらに、点弧ユニットが高い熱負荷に曝されており、安定した連続運転および/または高い点弧頻度のために冷却されるべきであることを留意しなければならない。円形の点弧ユニットではその冷却が設備技術的に極めて手間を要する。それというのも、冷却装置は個々の点弧ユニットで電極の環状の構造に適合されなければならず、それゆえ相応の円味を有しているべきであるからである。
【0013】
全体的に上記問題は、大面積のターゲットにおけるパルス式の真空アーク放電によるコーティング法の簡単かつ安定な使用を経済的に実現することを困難にする。
【0014】
発明の利点
請求項1の特徴部に記載した特徴を備えた本発明による炭素析出のための装置は、上記欠点が取り除かれ、それにより、任意の大きさに寸法設定されたターゲット面上でのアークの点弧場所の均等な分布が達成されるという利点を有している。
【0015】
その際、この装置を備えた設備は簡単に安定かつ確実に運転され得るので、産業上の使用が可能となる。
【0016】
本発明による装置の有利な構成は従属請求項に記載されている。
【0017】
図面
本発明の実施例について図面および以下の説明をもとに詳述する。
図1:炭素析出のための装置を、その主要なコンポーネントと共に示す図である。
図2:第1の点弧ユニットの斜視図である。
図3:第2の点弧ユニットの斜視図である。
図4:冷却水回路とベース電極と複数の点弧ユニットとを備えたターゲットカソードの平面図である。
【0018】
実施例の説明
図1に示した炭素析出のための装置は実質的に、アノード5と、平面的なターゲットカソード10と、パルスエネルギ源15と、少なくとも2つの点弧ユニット20とから成っている。点弧ユニット20はターゲットカソード10の縁部領域に配置されている(図4も参照されたい)。
【0019】
炭素から形成されたターゲットカソード10と、アノード5との間には、パルスエネルギ源15が接続されている。パルスエネルギ源15は典型的にはコンデンサとして形成されている。コンデンサは、図示されていない電源部を介して給電され、アノード5とターゲットカソード10との間に真空が存在し、それにより電流回路が閉鎖されていないためにまず充電される。アノード5とターゲットカソード10との間のアークの点弧、ひいてはアノード5の方向でのターゲットカソード10からの炭素除去のために、少なくとも2つの点弧ユニット20が設けられている。
【0020】
本発明により、点弧ユニット20はそれぞれ、図2に示されているように、互いに平行に配置された2つの平面的な金属製の電極25,30を有している。その際、電極25と電極30との間の中間スペースには平面的な絶縁セラミック35が配置されている。金属製の電極25,30は耐燃性の材料、例えばタングステン、タングステン/ランタンまたはグラファイトから成ることができる。点弧ユニット20は電気的に、図示されていないディストリビュータに接続されている。ディストリビュータは個々の点弧ユニット20の点弧を制御する。十分に高い電圧を有する電流パルスを両電極25,30間に印加すると、グロー放電が発生する。グロー放電により、ターゲットカソード10からアノード5への本来のアーク放電が誘発される。
【0021】
点弧ユニット20の平面的な構成により、絶縁セラミック35に関して、点弧ユニット20の端面55で見て、長方形の形の、直線的に延びる面が生じる。この長方形の長さはその幅よりも数倍大きい。実際の使用ではこの長さは約10cmまでである。点弧ユニット20を何度も相前後して点弧すると、点弧火花が、新たな点弧の度に、直線的に延びる面に沿った種々異なる箇所に統計学的に分配されて発生する。それにより、ターゲットカソード10上の燃焼点も点弧毎に幾分ずらされる。簡単にターゲットカソード10の全面の均等な使用が達成され、結局ワークピースの均等なコーティングに至る。
【0022】
別の利点は、平面的な点弧ユニット20の必要な個数と、非平面的な点弧ユニット、例えばディスク状の点弧ユニットの個数との比較において生じる。ターゲットカソード10が両事例で同じ長さ38(図4参照)を有しているとき、必要な平面的な点弧ユニット20は僅かである。それというのも、個々の平面的な点弧ユニット20はターゲットカソード10上のより大きな面積を均等に除去するからである。点弧ユニット10の比較的少ない個数はメンテナンス手間を減じ、寿命を延長する。
【0023】
さらに、平面的な点弧ユニット20はその形状に基づいてターゲットカソード10の至近にポジショニングされ得る。点弧ユニット20とターゲットカソード10との間の間隔22は、非平面的な点弧ユニットとターゲットカソード10との間の間隔に比して小さく選択され得る。それにより、点弧確実性は明らかに高められ、コーティング法は全体的により確実に進行する。
【0024】
点弧ユニット20の第2の実施形態は図3に示されている。第2の実施形態では絶縁セラミックが有利には2部分から形成されている。第1の部分は第1の実施形態から知られているように平面的な絶縁セラミック35により形成される。絶縁セラミックの第2の部分はセラミック製の外被37であり、外被37は点弧ユニット20の背面40ならびに側面45,50を被覆する。それにより、セラミック製の外被37により被覆されていない端面55でのみ、点弧火花が2つの平面的な電極25,30間で発生することが保証される。点弧過程のより良好な助成のために、点弧ユニット20はそれに加えて、点弧が実施される端面55でもって、ターゲットカソード10に対して45゜〜90゜の所定の角度58の下で傾斜している(図1も参照されたい)。
【0025】
さらに、この有利な実施形態では、点弧ユニット20の絶縁セラミック35が端面55で電気伝導性の材料60によりコーティングされている。点弧ユニット20での電流パルスの印加時、ターゲットカソード10に向かって方向付けられた電流経路が生じる。それというのも、部分的に、絶縁セラミック35の電気伝導性の材料60が蒸発され、高電離プラズマがターゲットカソード10に向かって加速されるからである。プラズマから形成されたこの電流経路はさらに、ターゲットカソード10からアノード5への本来の主放電のための別の電流経路を可能にする。絶縁セラミック35上の電気伝導性の材料60の部分的な消費は主放電中に新たなコーティングにより補償され、それにより電気伝導性のコーティングは再生される。この過程はより長時間にわたっての運転中にも点弧ユニット20の持続安定性を保証する。
【0026】
確実な点弧のために、点弧電極25,30の極性は、最大の電位差が点弧ユニット20とターゲットカソード10との間で形成されるように設計されているべきである。このために、ターゲットカソード10の近くに配置された金属製の電極30は正の電圧で負荷され、ターゲットカソード10から遠くに配置された金属製の電極25は負の電圧で負荷される。
【0027】
さらに、ターゲット材料の均等な除去もしくはワークピースの均等なコーティングにとって、本発明による平面的な点弧ユニット20の、ターゲットカソード10に関する配置が重要である。図4にはターゲットカソード10の平面図が示されている。その際、複数の点弧ユニット20がターゲットカソード10の縁部に配置されている。主放電をターゲット面の種々異なる場所に均等に分配して局限して点弧するために、複数の点弧ユニット20はターゲット縁部領域に沿って、個々の点弧ユニット20の全作用が、ターゲットカソード10の全領域にわたっての最適な、すなわち均等な除去に至るように配置されている。この方法は点弧ユニット20間の変更可能な間隔65と、変更可能な長さ70を有する適当な点弧ユニット20を使用し得る選択可能性とにより可能とされる。これまでに知られた望ましくない縁部効果、例えばターゲット面の上下の領域におけるコーティングの層厚さの減少は、相応の領域での点弧ユニット20のより狭い間隔65により補償され得る。
【0028】
上記配置での平面的な点弧ユニット20の別の利点は、例えば個々の点弧ユニット20の負に極性付けられたすべての電極25を互いに接続し、それにより電気的にコンタクト形成する1つの共通の一貫したベース電極75を簡単に導入する可能性から生じる。
【0029】
そのような1つの共通の一貫したベース電極75はさらに、冷却水回路80をベース電極75内に統合する可能性を提供する。図1および図4から見て取れるように、ベース電極75は統合された冷却水回路80を有している。冷却水回路80は内部の冷却水管路により実現されている。それにより、すべての点弧ユニット20の冷却は簡単に達成される。点弧ユニット20の冷却は安定した連続運転のために必要である。それというのも、点弧ユニットは高い熱負荷、特に高い点弧頻度時の高い熱負荷に曝されているからである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】炭素析出のための装置を、その主要なコンポーネントと共に示す図である。
【図2】第1の点弧ユニットの斜視図である。
【図3】第2の点弧ユニットの斜視図である。
【図4】冷却水回路とベース電極と複数の点弧ユニットとを備えたターゲットカソードの平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素層、特にテトラへデラルアモルファスカーボン層(ta−C)を、パルス式のプラズマ支援された真空アーク放電により析出するための装置であって、アノード(5)と、炭素から成るターゲットカソード(10)と、パルスエネルギ源(15)と、少なくとも2つの点弧ユニット(20)とが設けられており、点弧ユニット(20)がターゲットカソード(10)の縁部領域に配置されている
形式のものにおいて、
少なくとも2つの点弧ユニット(20)がそれぞれ、互いに平行に配置された2つの平面的な金属製の電極(25,30)を有しており、両電極(25,30)間の中間スペースに平面的な絶縁セラミック(35)が配置されている
ことを特徴とする、炭素析出のための装置。
【請求項2】
少なくとも1つの点弧ユニット(20)が背面(40)および2つの側面(45,50)でセラミック製の外被(37)により被覆されている、請求項1記載の装置。
【請求項3】
少なくとも1つの点弧ユニット(20)が、点弧を行う端面(55)でもって、ターゲットカソード(10)に対して45゜〜90゜の角度(58)の下で傾斜している、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
点弧ユニット(20)の絶縁セラミック(35)が端面(55)で、電気伝導性の材料(60)によりコーティングされている、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
ターゲットカソード(10)の全領域にわたる均等な析出のために、少なくとも2つの点弧ユニット(20)間の間隔(65)および/または点弧ユニット(20)の長さ(70)が変更可能である、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
ターゲットカソード(20)の近くに配置された金属製の電極(30)が正の電圧で負荷され、ターゲットカソード(20)から遠くに配置された金属製の電極(25)が負の電圧で負荷される、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
少なくとも2つの点弧ユニット(20)が、1つの共通の一貫したベース電極(75)を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
共通のベース電極(75)が冷却水回路(80)により冷却される、請求項7記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−502799(P2008−502799A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515914(P2007−515914)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/051849
【国際公開番号】WO2005/124818
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】