説明

炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスとその製造方法

【課題】強化繊維の形態を適切に調整することで、破壊エネルギーが高く、かつ熱伝導率や曲げ強度の特性も適切に制御された、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスを提供する。
【解決手段】炭素繊維31からなる短繊維を集合してその外表面に炭素被膜32を形成することで被膜付き繊維集合体3を作製する工程と、炭化ケイ素と炭素材料とを混合して基材部原料2を作製する工程と、これらに炭素被膜のない炭素繊維からなる短繊維4とを混合して混合体を作製する工程と、前記混合体を成型,加圧して成形体を作製し、前記成形体を還元雰囲気下で焼成して焼成体を作製したのち、焼成体に対して減圧下でシリコン含浸を行うことを特徴とする、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ高強度であり、例えば、ブレーキ部材等に好適に用いることのできる、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素系セラミックスは、金属材料に比べて軽量かつ高温耐食性、耐摩耗性に優れているが、破壊靭性が十分でない。そこで、これを補うため、例えば繊維状の強化材料を添加する方法があり、これに関するいくつかの技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ケイ素相、炭化ケイ素相、及び炭素繊維からなるSi−C−SiC系炭素繊維複合材料であって、ケイ素相中に炭素繊維を分散形成させる、あるいは、ケイ素相中に炭化ケイ素からなる被覆層を有する炭素繊維を分散形成させる、等の形態を有する炭素繊維複合材料という技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、高摩擦係数且つ低摩耗、更にトルクカーブが安定したC/C複合材として、集束剤が実質的に付着していない複数の単繊維からなる短繊維状の炭素繊維束を解繊し、繊維が2次元ランダムに配向したシートを作製し、樹脂又はピッチを含浸後、積層して成形、焼成後、ピッチ含浸及び最終熱処理温度以下での焼成を繰り返すことで、炭素繊維束が束として残存している炭素繊維強化炭素複合材が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、シリコンとの反応性が異なる複数種類の炭素繊維と、炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種と、樹脂粉末の造粒物とを含有する炭素繊維成形体を炭化焼成して得られる炭素繊維強化炭素基材の一部を炭化ケイ素化した炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料であり、炭素繊維成形体は、1.5体積%以上5.5体積%以下の炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種を含有しかつ30%以上40%以下の空隙率であることで、一様な特性を有するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−137971号公報
【特許文献2】特開平7−33542号公報
【特許文献3】特開2009−274889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は、炭化ケイ素を主たる成分としてさらに炭素繊維を含有させ、併せて炭素繊維の断面形状や含有方法も改善することで、炭化ケイ素の脆性を改善するというものである。しかし、より高い破壊エネルギーを有し、併せて、熱伝導特性も調整できる炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスを得るには、特許文献1に開示されている技術のみでは不十分と考えられる。
【0008】
特許文献2の技術は、あらかじめ集束剤が表面に付着していない束の状態の強化繊維を用い、その一部を解繊することでばらになった繊維が2次元ランダムに配向され、高摩擦係数で低摩耗性に優れるとしている。しかしながら、解繊の工程が必要なこと、残存する束がもたらす高強度性のみでは強度が十分確保できないおそれがある、等が懸念される。
【0009】
特許文献3の技術は、シリコンとの反応性が異なる複数種類の炭素繊維を強化用繊維として適用する点に特徴がある。しかし、複数種類の炭素繊維を単に混合するだけでは、炭素繊維自身が有する特性を十分に反映した炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスとするには、やはり十分とは言いがたい。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、破壊エネルギーが高く、かつ熱伝導率や曲げ強度の特性をも適切に制御することが可能となる、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法は、炭素繊維からなる短繊維Aを集合させてその外表面に炭素被膜を形成することで被膜付き繊維集合体を作製する工程と、炭化ケイ素と炭素材料とを混合して基材部となる原料を作製する工程と、前記被膜付き繊維集合体と前記基材部となる原料と炭素被膜のない炭素繊維からなる短繊維Bとを混合して混合体を作製する工程と、前記混合体を成型,加圧して成形体を作製する工程と、前記成形体を還元雰囲気下で焼成して焼成体を作製する工程と、前記焼成体に対して減圧下でシリコン含浸を行う工程と、から成ることを特徴とする。このような構成をとることで、繊維集合体と短繊維のそれぞれの炭素繊維が有する特性が十分に発揮された、破壊エネルギーの高い炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスを製造することができる。
【0012】
また、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法は、前記炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス総重量に対して、前記被膜付き繊維集合体の混合率が5重量%以上40重量%以下、前記短繊維Bの混合率が5重量%以上30重量%以下、残部が基材部であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法においては、前記短繊維Aがピッチ系炭素繊維であること、前記短繊維BがPAN系炭素繊維からなることが好ましい。
【0014】
そして、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法で製造された炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスは、気孔率が0.2体積%以上3.0体積%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスは、破壊エネルギーが高く、かつ熱伝導率や曲げ強度の特性も、簡易かつ適切に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの断面からみた形態を示す概念図である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの、断面からみた形態を示す概念図。
【0018】
本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法は、炭素繊維からなる短繊維Aを集合させてその外表面に炭素被膜を形成することで被膜付き繊維集合体を作製する工程と、炭化ケイ素と炭素材料とを混合して基材部となる原料を作製する工程と、前記被膜付き繊維集合体と前記基材部原料と炭素被膜のない炭素繊維からなる短繊維Bとを混合して混合体を作製する工程と、前記混合体を成型,加圧して成形体を作製する工程と、前記成形体を還元雰囲気下で焼成して焼成体を作製する工程と、前記焼成体に対して減圧下でシリコン含浸を行う工程とからなる。
【0019】
炭素繊維からなる短繊維Aは、炭化ケイ素系セラミックス全体の強度を上げる目的で添加されている。その素材には、一般的なセラミックス材に適用できる公知の炭素からなる材料を広く適用でき、特に限定されない。また、その形状は、いわゆる短繊維であることが好ましく、一例として、平均直径が5μm以上20μm以下、平均長さが1mm以上15mm以下のものが好適である。なお、本発明においては、この短繊維以外に、炭化ケイ素系セラミックス内に連続して存在する、いわゆる長繊維が含まれていてもよい。
【0020】
本発明においては、短繊維Aには炭素被膜を有していないものが適用される。しかしながら、あらかじめ炭素繊維自体に炭素被膜が形成されたものを用いてもよく、さらには、炭化ホウ素などの炭素被膜以外の材料が被膜された短繊維Aを適用してもよい。
【0021】
さらに、その外表面に炭素被膜を形成することで被膜付き繊維集合体にするというのは、複数の短繊維Aが束状、球状、塊状、あるいは棒状に集められ、これを一つの塊とみたときの外表面に対して、炭素による薄い炭素被膜が形成された状態とすることを示す。このとき、炭素被膜が、外表面全体をほぼ均等な厚さで覆われていることが好ましい。しかしながら、表面の一部が露出、あるいは膜厚が部分的に不均一であったとしても、それらの程度が甚大でなければ、本発明の効果に格別影響を及ぼすものではないので、本発明の範疇に入るものといえる。
【0022】
炭素被膜とその形成方法については、公知の材料と製法が広く適用され、特に限定されないが、好適には、フェノール等の樹脂類を、水やアルコールなどの溶媒に溶かしたものが適用できる。
【0023】
また、繊維集合体を形成する短繊維Aの本数についても、特に限定されるものではないが、好ましくは、短繊維Aが1000本以上20000本以下、より好ましくは1000本以上15000本以下で集合したものが挙げられる。繊維集合体を構成する短繊維Aが少なすぎると、繊維集合体としての機能が十分発揮されないおそれがあり、好ましくない。しかし短繊維Aが多すぎると、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体に占める繊維集合体の割合が大きくなるが、繊維集合体自体は強度が小さいので、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の強度が不足することが懸念され、これも好ましくない。
【0024】
炭化ケイ素と炭素材料とを混合して基材部となる原料を作製する工程とは、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスにおいて、炭素繊維以外を構成する基材部となる原料を作製することである。基材部は、炭化ケイ素とシリコンからなり、主たる成分が炭化ケイ素である。これらの素材には、一般的なセラミックス材に適用される公知の材料を広く適用でき、その製法について特別限定されるものではない。
【0025】
次に、前記被膜付き繊維集合体と前記基材部原料と炭素被膜のない炭素繊維からなる短繊維Bとを混合して混合体を作製する。混合する方法は、公知の方法を適用できる。なお、このときに、架橋剤と架橋重合性樹脂のような、セラミックス材に対して副次的効果をもたらす各種の材料を添加してもよい。この場合は、架橋剤による、繊維集合体同士の架橋構造が形成され、より強度が向上される。
【0026】
ここで、外表面に炭素被膜を有さないとは、短繊維を構成する炭素材料とは別の炭素材料による被膜を持たないことを意味する。強化繊維の表面または表層に対して、各種材料による薄い被膜を形成する技術が知られており、炭素繊維の表面に樹脂材料等で薄い炭素被膜を形成する手法もあるが、本発明に係る短繊維Bは、これらの被膜がなく、短繊維Bの素材がむき出しの状態である。すなわち、短繊維Bは、少なくとも意図的に束または塊状に集合させたものではなく、また、樹脂材料等でコーティングして一体化させたものも含まれない。この点で、繊維集合体とは厳密に区別される。ただし、材料を混合する過程で、10〜300本が不可避的に密着された状態のものは、本発明の効果に格別重大な影響を及ぼすものではないので、本発明における短繊維Bの範疇にあるものとする。
【0027】
短繊維Bは、短繊維Aと同一の形状でもよく、異なる形状でもよいが、格別の理由がなければ、生産上の効率化の点で同一の形状のものを用いることが好ましい。なお、短繊維Bと同じ材質の短繊維と短繊維Bと異なる材質の短繊維とを、所定の重量比で混合した混合繊維をもって、これを繊維集合体として構成することも可能である。
【0028】
前記混合体を成型,加圧して成形体を作製する工程、前記成形体を還元雰囲気下で焼成して焼成体を作製する工程、そして、前記焼成体に対して減圧下でシリコン含浸を行う工程には、各種公知の方法を適用できる。本発明において、この工程は、格別限定されるものではない。なお、シリコン含浸法において、シリコンと銅の合金、またはシリコンとその他各種の金属との合金を含浸させてもよい。
【0029】
本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造過程においては、繊維集合体同士で形成される隙間に、基材部と短繊維Bが充填される。このときに、基材部に存在する気孔部に対して、短繊維Bが侵入し、気孔部が充填される。その結果、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の気孔率が低下し、気孔が多いことに起因する炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の強度の低下を抑制することができる。さらに本発明は、短繊維Bが、気孔部に対して十分かつ隅々にまで行き渡るという点で、従来の一方法のように、他の炭素材料を添加してケイ化用の炭素材料とする方法より優れているといえる。
【0030】
そして、この後の工程でシリコン含浸を行うときに、短繊維Bがケイ化され炭化ケイ素となるので、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体において、機械強度の高い炭化ケイ素の割合が増加し、さらに強度が向上する効果を呈する。
【0031】
なお、基材部に炭素繊維である短繊維Bが完全にケイ化されず、一部は炭素のまま残存することもある。しかしこの場合も、炭素繊維が炭素のまま適度に残存することで、繊維集合体の機械強度向上効果とあわせて、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の強度を高い水準で保持できる。
【0032】
また、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法においては、前記炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス総重量に対して、前記被膜付き繊維集合体の混合率が5重量%以上40重量%以下、前記短繊維Bの混合率が5重量%以上30重量%以下、残部が基材部であることが好ましい。
【0033】
炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス総重量に対して、被膜付き繊維集合体の混合率が5重量%を下回ると、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス中に発生した亀裂の進展を防止するという、繊維集合体のもつ効果を十分発揮できないので、好ましくない。一方、40重量%を上回ると、自身の破壊靭性が低い繊維集合体が多くなりすぎて、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の強度が低下するので、これも好ましくない。より好ましい範囲は、15重量%以上30重量%以下である。
【0034】
炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス総重量に対して、短繊維Bの混合率は、5重量%以上30重量%以下であることが好ましい。この下限を下回ると、シリコン含浸法により基材部の気孔部に対して炭化ケイ素を充填させるシリコン含浸工程において、気孔部を埋めている短繊維Bの量が少なすぎるので、シリコン含浸後のケイ化に要する量が不十分となり、気孔率が低下しない。このため、気孔率が高いことで破壊エネルギーが向上せず好ましくない。しかし、この上限を上回ると、今度は、多くの短繊維Bが基材部の気孔部以外にも存在することになり、短繊維過多による破壊靭性低下が起こるので、これも好ましくない。より好ましくは、5重量%以上20重量%以下である。
【0035】
さらに、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法においては、前記短繊維Aがピッチ系炭素繊維であること、前記短繊維BがPAN系炭素繊維からなることが好ましい。
【0036】
公知の材料であるPAN系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維は、それぞれ物性に特徴があり、炭素繊維としてその物性に応じた利用がなされている。本発明においては、これらの物性を適切に利用することで、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の特性の制御および向上を達成するものである。
【0037】
炭素被膜を有する繊維集合体を構成する短繊維Aには、ピッチ系炭素繊維を適用することが好ましい。ピッチ系炭素繊維は、例えばPAN系炭素繊維と比べると、シリコンとの反応性が低くケイ化しにくいので、前述の短繊維Bへの適用は、あまり好ましいものではないと考えられる。しかしピッチ系炭素繊維は、弾性率が高いので、繊維集合体に適用した場合には、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の曲げ強度を向上させることができるという点では、特に適しているといえる。
【0038】
そこで、本発明の好ましい一態様においては、ピッチ系炭素繊維を短繊維Aとして用い、これを炭素被膜でコーティングした繊維集合体とすることで、シリコン含浸時のケイ化を防止する。これにより、短繊維Aのもつ特性を損なうことがない。さらに、ピッチ系炭素繊維は、熱伝導率が高いので、ピッチ系炭素繊維の重量比を大きくすることで、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の熱伝導率を高くすることも可能である。
【0039】
一方、炭素被膜を持たない短繊維Bには、PAN系炭素繊維を適用することが好ましい。本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスにおいては、その製造工程にシリコン含浸工程を有する。このシリコン含浸工程において、短繊維Bの一部がシリコンと反応してケイ化し、基材部に存在する気孔部はこの生成された炭化ケイ素により充填される。そして、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの成型時に、繊維集合体同士の隙間に入り込んだ短繊維Bに、PAN系炭素繊維を適用すると、例えばピッチ系炭素繊維と比べるとケイ化が速くかつ十分に進行する。これにより、気孔部が、隅々までケイ化された炭化ケイ素で充填されるので、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の強度向上効果が十分に発揮される。
【0040】
本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法で製造された炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスは、気孔率が0.2体積%以上3.0体積%以下であることを特徴とする。これは、短繊維Bが基材部の細部にまで入り込み、主に基材部に存在する気孔部が充填されるので、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の気孔率が低減されることを示している。
【0041】
なお、気孔率の測定は、特に限定されるものではないが、本発明では、簡便である点から、以下の通りに行うものとする。すなわち、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス全体の体積と密度を、JIS R 1634によるアルキメデス法により測定して求めて、添加した各炭素繊維および基材部の体積と密度から、気孔率を算出する。
【0042】
本発明においては、気孔率の制御は、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス総重量に対して、短繊維Bの混合率を変化させることで行うことが可能である。気孔率を下げるには、基材部の気孔部以外にも多くの短繊維Bを存在させることになる。しかし、この場合は前述のとおり、短繊維過多による破壊靭性低下が起こるので、気孔率低下による強度向上効果を相殺してしまうので、好ましいものではない。本発明においては、この下限が0.2体積%である。一方、気孔率が3.0体積%を超えると、気孔が多く存在することによる強度低下の影響が、本発明の効果に対して無視できないレベルで顕在化するおそれがあり、こちらも好ましくない。
【0043】
なお、前述のとおり、本発明においては、繊維集合体に適用する短繊維Aを、ピッチ系炭素繊維単体ではなく、ビッチ系炭繊維と、それ以外の材料、例えばPAN系炭素繊維との混合体であってもよい。このようにすることで、例えば、繊維集合体の熱伝導率を任意の値にすることができ、さらに弾性率や破壊靱性を最適化するという調整を、比較的高い自由度を持って行うことが出来る。
【0044】
以上のとおり、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法では、破壊エネルギーが高く、かつ熱伝導率や曲げ強度の特性も、簡易かつ適切に制御されている炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスを作製することが可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
(実験1)
【0046】
平均長さ8mm、平均直径11μm、引っ張り強度4000MPa、弾性率900GPaのピッチ系炭素繊維からなる短繊維Aと、フェノール樹脂Phとを混合して、80℃で2時間保持してフェノール樹脂Phを硬化させて、被膜付き繊維集合体を得る。この被膜付き繊維集合体は、炭素繊維が平均で5000本程度集合されてなり、この集合体の外表面に炭素材料の被膜が形成されている。
【0047】
次に、炭化ケイ素材料SiC(H.C.Starck社製粉末)と、フェノール樹脂Phと、エタノールEtと、平均長さ8mm、平均直径10μm、引っ張り強度3530MPa、弾性率230GPaのPAN系炭素繊維からなる短繊維Bと、架橋剤PG(ソルビトールポリグリシジルエーテル)と、架橋重合剤樹脂PI(ポリエチレンイミン)と、をそれぞれ準備する。そして、被膜付き繊維集合体とこれらの原料を全て混合、攪拌して、混合体を得る。
【0048】
続いて、得られた混合体を、所定の金属製成型型に投入して100kg/cmで加圧し、φ500mmで厚さ30mmの円盤形状の成形体を得る。この成形体を、還元雰囲気下1000℃で一次焼成、還元雰囲気下2000℃で二次焼成、さらに、真空下1600℃にてシリコン含浸を実施する。このようにして測定用サンプルを作製する。
【0049】
以上の工程によって、各材料を合計した値が等しくなるように、各原料および短繊維Bの重量配合比を、表1に示すように配合して、各種測定用サンプルを作製した。ここでは、短繊維B以外の材料の合計重量を一定にし、短繊維Bの配合比を適時変化させている。
【0050】
【表1】

【0051】
破壊エネルギーの測定は、日本セラミックス協会規格JCRS−201「シェブロンノッチ試験片の準静的3点曲げ破壊によるセラミックス系複合材料の破壊エネルギー試験方法」に準拠し、各種測定用サンプルから3×4×40mmの角柱状に切り出した試験片の中央部に、厚さ0.1mmのダイヤモンドブレードを用いて、深さ約2mmのストレートノッチを形成、支点間距離は30mm、荷重点のクロスヘッドスピード0.01mm/minの条件で実施した。そして、最大荷重値の5%までの破壊仕事より、破壊エネルギー(J/m)=破壊仕事(J)/断面積(m)の関係に基づき、破壊エネルギーの値を算出した。
【0052】
曲げ強さの測定は、JIS R 1601に準拠し、3×4×40mmの角柱状に切り出した試験片に対して、荷重点のクロスヘッドスピード0.5mm/minとして実施した。熱伝導率の測定は、測定用サンプルを、熱伝導率の測定装置(レーザーフラッシュ法)を用いて測定を行った。
【0053】
表1の評価結果から、被膜付き繊維集合体、外表面に炭素被膜を有さない短繊維Bのうち、いずれか1つが欠けている測定用サンプルは、気孔率が高く、破壊エネルギー値、曲げ強さ値も著しく低下していることがわかった。これより、本発明の構成要件である、被膜付き繊維集合体と、外表面に炭素被膜を有さない短繊維Bの、それぞれの構成要件がもたらす作用効果が確認された。
【0054】
(実験2)
短繊維Aおよび短繊維Bに対して、表2の内容に従い、繊維集合体を構成する短繊維Aの配合比、および短繊維Bの配合比を変化させて、繊維集合体と短繊維Bの重量%を変更して、各種測定サンプルを作製した。それ以外の製造条件と測定は、実験1に準じた。
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果より、本発明の好ましい実施範囲においては、破壊エネルギー値、曲げ強さ値も比較的高く良好であった。一方、本発明の好ましい実施範囲から外れたものは、破壊エネルギー値、曲げ強さ値の少なくともいずれかが、好ましい実施範囲のものに比べて劣るものであった。また、気孔率についても、本発明の好ましい範囲から外れたものは、破壊エネルギー値、曲げ強さ値の少なくともいずれかが、好ましい実施範囲のものに比べて劣るものであった。
【0057】
(実験3)
短繊維Aおよび短繊維Bに対して、表3の内容に従い、短繊維Aと短繊維Bの種類を変更し、それ以外は、実験1に準じた。
【0058】
【表3】

【0059】
表3の結果より、短繊維Aと短繊維Bの両方とも同じ種類の炭素繊維を用いた場合は、破壊エネルギー値、曲げ強さ値の少なくともいずれかが、本発明の好ましい実施範囲のものに比べて、やや劣るものであった。なお、熱伝導率については、短繊維Aにおけるピッチ系炭素繊維の配合比を変えることで、調節することができた。
【0060】
以上のことから、本発明に係る炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスとその製造方法によれば、破壊エネルギーが高く、かつ熱伝導率や曲げ強度の特性も、簡易かつ適切に制御することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、自動車や鉄道車両などのブレーキディスク用セラミックス部材として特に好適である。しかしながら、軽量で高強度である利点を活かし、例えば、高速回転部の流体用メカニカルシール部材などにも、広く適用が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1・・炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス、2・・炭化ケイ素を主成分とする基材部、3・・繊維集合体、31・・短繊維A、32・・炭素被膜、4・・短繊維B。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維からなる短繊維Aを集合させてその外表面に炭素被膜を形成することで被膜付き繊維集合体を作製する工程と、炭化ケイ素と炭素材料とを混合して基材部となる原料を作製する工程と、前記被膜付き繊維集合体と前記基材部となる原料と炭素被膜のない炭素繊維からなる短繊維Bとを混合して混合体を作製する工程と、前記混合体を成型,加圧して成形体を作製する工程と、前記成形体を還元雰囲気下で焼成して焼成体を作製する工程と、前記焼成体に対して減圧下でシリコン含浸を行う工程と、から成ることを特徴とする、炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス総重量に対して、前記被膜付き繊維集合体の混合率が5重量%以上40重量%以下、前記短繊維Bの混合率が5重量%以上30重量%以下、残部が基材部であることを特徴とする、請求項1に記載の炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記短繊維Aがピッチ系炭素繊維であること、前記短繊維BがPAN系炭素繊維からなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの製造方法で製造された炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスであって、前記炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックスの気孔率が0.2体積%以上3.0体積%以下であることを特徴とする炭素繊維強化炭化ケイ素系セラミックス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153575(P2012−153575A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14642(P2011−14642)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(2008年(平成20年)度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発 新幹線用ハイブリッドセラミックスディスクブレーキ部材開発 業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】