説明

炭素繊維複合材料製造装置、これを用いた炭素繊維複合材料製造方法および炭素繊維複合材料

【課題】 生産性が高く、外観平滑性に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる炭素繊維複合材料製造装置、これを用いた炭素繊維複合材料製造方法および炭素繊維複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の炭素繊維複合材料製造装置1は、炭素繊維束CFを送出するボビン10と、開繊化手段20と、位置決め手段30と、裁断手段40と、樹脂含浸手段50と、を主に有して構成されている。
また、本発明の炭素繊維複合材料製造方法は、開繊化工程S10と、裁断工程S20と、樹脂含浸工程S30と、を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料製造装置、これを用いた炭素繊維複合材料製造方法および炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のフェンダ、ドアやトランクなどの外板パネルに用いる材料として、ガラス繊維を強化繊維としたガラスClass−A SMCが使用されてきた。ガラスClass−A SMCは、金属材料と同等の比強度および比弾性率を得ることができるが、配合されるガラス繊維の密度が重いため、重量が重くなりがちであった。
【0003】
一方、近年、自動車の環境負荷低減、具体的には、燃費の向上やエミッションの低減を図り、また、切れの良いハンドリング向上のため、車体軽量化のニーズがますます高まっている。
【0004】
このような車体軽量化のニーズに対応し、従来のガラスClass−A SMCに変わる材料として、炭素繊維を強化繊維とした炭素繊維強化複合材料の適用が試みられている。炭素繊維は、(1)ガラス繊維や金属等に比較して比重が小さく、(2)強度が高く(3000〜6000MPa)、(3)弾性率が高く(200〜650GPa)、(4)疲労強度が高い等の特性を有する。このため、このような炭素繊維が配合された炭素繊維複合材料は、軽量であり、かつ、比強度、比弾性率が高いため、外板パネルへの適用が切望されている。
【0005】
しかし、従来の炭素繊維は、収束断面形状が俵状であることから、繊維の凹凸が成形品表面に露出してしまい、外観平滑性が低かった。このため、高い商品性を要求される外板パネルに使用することができなかった。この点を改良すべく、炭素繊維の収束形状を扁平状に開繊化し、繊維の凹凸を均す開繊化技術が種々考案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、引き揃えた炭素繊維束を超音波により軸方向に振動している丸棒の少なくとも2本以上に順次接触通過させることにより、炭素繊維束をしごいて開繊化する炭素繊維束の開繊化方法について記載されている。
【0007】
また、例えば、特許文献2には、流送中の繊維束を加熱することにより繊維束のサイジング剤を帯熱柔軟化させ、このサイジング剤が帯熱柔軟化状態にある間に当該繊維束を所要のオーバーフィード量に保ちながら交差方向に気流を通過せしめ、弓なりに緊張する気流通過部位において繊維束の構成フィラメントを幅方向に解き分けて当該繊維束をシート状に展舒する一方、その際の強制放熱によりサイジング剤を硬化させて繊維束を展舒された状態のシート状形態にセットすることとし、繊維束に気流を吹き付けて開繊化する開繊化シートの製造方法、および開繊化シート製造装置について記載されている。
【特許文献1】特開平01−282362号公報
【特許文献2】特開平11−172562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に示すような従来の開繊化装置または開繊化方法によると、炭素繊維束を高速で振動させたり、エアを吹き付けたりして開繊化するため、炭素繊維への負担が大きかった。
【0009】
また、炭素繊維束の製造と、炭素繊維束の開繊化と、炭素繊維への樹脂含浸とに別装置が用いられていた。このため、炭素繊維をボビンに巻きつけた後、ボビンから炭素繊維束を送出して炭素繊維束を開繊化した状態で再度ボビンに巻きつけ、さらに、ボビンから再度、開繊化した炭素繊維を送出して裁断し、樹脂含浸手段へ供給していた。このような工程数の増加により、炭素繊維複合材料の生産性が低くなり、結果として材料が高価となってしまい、自動車のような、廉価かつ汎用用途への適用が困難であった。
【0010】
さらに、複数の工程で、炭素繊維のボビンへの巻取・送出を繰り替えすことで、炭素繊維への負担が大きくなり、その結果、炭素繊維が損傷してしまうことがあり、開繊化された炭素繊維束へ樹脂を含浸する際に、炭素繊維の著しい毛羽立ちや破断が生じることがあった。
このようにして得られた炭素繊維複合材料は、炭素繊維の毛羽立ちや破断のために表面に凹凸ができてしまい、なお外板パネルへの適用が困難であった。
【0011】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、生産性が高く、外観平滑性に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる炭素繊維複合材料製造装置、これを用いた炭素繊維複合材料製造方法および炭素繊維複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決した本発明の炭素繊維複合材料製造装置は、巻き付けられた炭素繊維束を自転により連続的に送出するボビンと、当該ボビンから送出された前記炭素繊維束を幅方向に平坦化して開繊化するための開繊化手段と、開繊化された前記炭素繊維束を裁断する裁断手段と、当該裁断手段に連続して配置され、裁断された前記炭素繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸手段と、を備えた構成とした。
【0013】
本発明によれば、ボビンにより、炭素繊維束を開繊化手段へ送出し、開繊化手段により、炭素繊維束を幅方向に平坦化させて開繊化し、裁断手段により、開繊化された炭素繊維束を裁断し、樹脂含浸手段により、裁断された炭素繊維束に樹脂を含浸させることにより、炭素繊維複合材料の製造プロセスを合理化することができる。
【0014】
すなわち、炭素繊維束の開繊化から開繊された炭素繊維束への樹脂含浸までを単一の装置により連続して行うことで、炭素繊維束を裁断し、樹脂を含浸する直前に炭素繊維束を開繊化するため、炭素繊維の毛羽立ちや破断の発生を防止することができる。
また、炭素繊維束から直接炭素繊維複合材料を得ることができるので、炭素繊維複合材料の製造工程数を削減することができ、安価な炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0015】
また、本発明の炭素繊維複合材料製造装置において、前記開繊化手段は、前記炭素繊維束が当接する球体状の開繊化部を有し、当該開繊化部の曲率Rを10.0〜20.0mmとすることが望ましい。
【0016】
これによれば、開繊化手段は、炭素繊維束を球体状の開繊化部で押圧して炭素繊維束を開繊化するため、炭素繊維束を高速で振動させたり、炭素繊維束にエアを吹き付けたりする方法に比較して、炭素繊維束への負担を少なくすることができる。また、曲率Rを10.0〜20.0mmとすることにより、炭素繊維束をより良好に開繊化することができる。
【0017】
また、前記ボビンと前記開繊化手段の間に、前記炭素繊維束を整列させて前記開繊化手段に送出するための位置決め手段をさらに備えていてもよい。
【0018】
これによれば、位置決め手段により、炭素繊維束が整列させられた状態で開繊化手段に送出されるため、炭素繊維束の中心部が開繊化手段の開繊化部を通過するように位置決めすることができる。これにより、炭素繊維束をより好適に開繊化することができる。
【0019】
また、本発明の炭素繊維複合材料製造方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の炭素繊維複合材料製造装置を用いた炭素繊維複合材料製造方法であって、開繊化工程と、裁断工程と、樹脂含浸工程と、を含んでなる。
【0020】
このような手順によれば、開繊化工程で、前記炭素繊維束を前記ボビンから送出し、前記開繊化手段で前記炭素繊維束を開繊化し、裁断工程で、開繊化された前記炭素繊維束を裁断し、樹脂含浸工程で、裁断された前記炭素繊維束に樹脂を含浸させる。
【0021】
つまり、炭素繊維束に樹脂を含浸する直前に開繊化し、裁断することにより、繊維の毛羽立ちや破断を防止することができる。また、炭素繊維束の開繊化から開繊された炭素繊維束への樹脂含浸までを単一の装置で連続して行うことにより、炭素繊維複合材料の製造工程数を削減することができ、炭素繊維複合材料を安価に製造することができる。
【0022】
また、本発明は、請求項5に記載の炭素繊維複合材料製造方法により製造されたことを特徴とする炭素繊維複合材料として構成した。
【0023】
本発明の炭素繊維複合材料によれば、炭素繊維束に樹脂を含浸する直前に開繊化し、裁断することにより製造されたため、繊維の毛羽立ちや破断を防止することができたので、外観平滑性に優れる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の炭素繊維複合材料製造装置によれば、炭素繊維束の開繊化から開繊された炭素繊維束への樹脂含浸までを単一の装置により連続して行い、炭素繊維束を裁断し、樹脂を含浸する直前に開繊化することにより、炭素繊維束への負担を減らすことができ、炭素繊維の毛羽立ちや破断を防止することができる。これにより、外観平滑性に優れた炭素繊維複合材料を製造することができる。
【0025】
また、本発明の炭素繊維複合材料製造方法によれば、炭素繊維束の開繊化から開繊された炭素繊維束への樹脂含浸までを同一工程で連続して行うことにより、製造プロセスを合理化することができる。また、炭素繊維束を裁断し、樹脂を含浸する直前に開繊化することにより、炭素繊維への負担を減らすことができ、炭素繊維の毛羽立ちや破断を防止することができる。これにより、外観平滑性に優れた炭素繊維複合材料を製造することができる。
【0026】
また、本発明の炭素繊維複合材料は、外観平滑性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、説明する。参照する図面において、図1は、本発明の炭素繊維複合材料製造装置の全体構成図、図2(a)は、図1に示す開繊化手段部分の拡大図であって、炭素繊維束を開繊化する様子を示す図、(b)は、開繊化手段の他の実施形態であって、炭素繊維束を開繊化する様子を示す図である。
【0028】
炭素繊維複合材料製造装置1は、炭素繊維束CFを送出するボビン10と、開繊化手段20Aと、位置決め手段30と、裁断手段40と、樹脂含浸手段50と、を主に有して構成されている。なお、以下の説明では、ボビン10側を上流側とする。
【0029】
ボビン10は、炭素繊維束CFを連続的に開繊化手段20Aへ送出するためのものであって、予め、炭素繊維束CFが巻きつけられた状態で、炭素繊維複合材料製造装置1の上流側に、着脱自在に取り付けられている。また、ボビン10は、図示しない駆動装置によって回転可能となっている。
【0030】
ここで、炭素繊維束CFに使用される炭素繊維は、一般的な炭素繊維、例えば、PAN(ポリアクリルニトリル)系炭素繊維であって、サイジング剤の塗布量を1%前後とし、エポキシ系、ウレタン系などのサイジング剤を塗布することが望ましい。また、収束本数は、3000〜24000本(3〜24K)の範囲とすることが望ましいがこれに限定されるものではない。
【0031】
図1および図2(a)に示すように、開繊化手段20Aは、ボビン10から連続的に送出される炭素繊維束CFの幅を広げて開繊化するためのものであって、球体状の開繊化部21を有して形成されており、炭素繊維束CFの通路に隣接して配置されている。開繊化手段20Aとしては、例えば、図2(a)に示すような球体状部材そのものを用いることができる。
【0032】
開繊化部21は、曲率Rを有し、曲率Rを10.0〜20.0mmとして形成することが望ましい。曲率Rを10.0mmより小さくすると、炭素繊維束CFが幅方向に裂けてしまい開繊化することができないためであり、曲率Rを20.0mmより大きくすると、曲率Rが不足してしまい炭素繊維束CFを開繊化することができないためである。
【0033】
開繊化部21の表面粗さRa(μm)は、0.3以下であることが望ましく、炭素繊維束CFとの接触抵抗を低減するために、DLC(Diamond Like Carbon)やテフロン(登録商標)などのフッ素樹脂で表面を覆うなどによって表面の平滑性を向上させる処理を行うと、なお望ましい。表面粗さRa(μm)を0.3より大きくすると、接触抵抗が大きくなりすぎるため、炭素繊維束CFの擦過により、毛羽立ちや破断が起こりやすくなるためである。
【0034】
開繊化手段20Aの材質は、特に限定されず、鉄やアルミニウムや樹脂材料などから適宜選択することができる。
【0035】
このように構成された開繊化手段20Aは、図2(a)に示すように、開繊化部21で、下流側に向かって流れる炭素繊維束CFの略中心部を押圧し、炭素繊維束CFを幅方向に解きほぐすようにして、例えば、図2(a)の右側に示すように、シート状に開繊化する。なお、以下では、開繊化手段20Aにより開繊化された炭素繊維束CFを炭素繊維シートCFSとして説明する。
【0036】
なお、開繊化手段20Aに限らず、例えば、図2(b)に示す開繊化手段20Bのような球体状の開繊化部21bを有する金属製の長棒状部材としてもよい。開繊化部21bの曲率Rは、送出方向に対して、略直角方向に規定される。
【0037】
位置決め手段30は、炭素繊維束CFを整列させて開繊化手段20Aに送出するためのものであって、例えば、中空円筒状部材であり、開繊化手段20Aより上流側かつ同軸上に配置されている。
このような位置決め手段30に炭素繊維束CFを挿通させることにより、炭素繊維束CFの幅方向の揺れを防止することができ、炭素繊維束CFを開繊位置に導くことができる。
【0038】
裁断手段40は、炭素繊維シートCFSを所定の長さに裁断するためのものであって、裁断手段40と樹脂含浸手段50の間に配置されている。
裁断手段40は、例えば、左右に対向して配置されたロール41、41と、このロール41、41の外周面にそれぞれ所定間隔で取り付けられた複数のカッタ42、42・・・と、を有して構成されている。裁断手段40のロール41、41をそれぞれ内側方向へ回転させて炭素繊維シートCFSを巻き込み通過させながら、カッタ42、42・・・により炭素繊維シートCFSを所定長さに裁断することができる。
【0039】
なお、ボビン10と、開繊化手段20Aと、位置決め手段30と、裁断手段40は、図示しないが、例えば、紙面奥側方向に複数配置されており、炭素繊維複合材料製造装置1は、複数本の炭素繊維束CFを同時に開繊化し、炭素繊維シートCFSを裁断することができる。
【0040】
また、本実施形態の炭素繊維複合材料製造装置1には、各部材間に、走行中の炭素繊維束CFおよび炭素繊維シートCFSの張力を調整するためのガイドリールGRが、適宜設置されている。
このようなガイドリールGRの外周面に炭素繊維束CFを当接させながら通過させることにより、炭素繊維束CFに所定の張力が付与される。なお、張力は、例えば、500N〜2000Nの範囲とすることが望ましい。炭素繊維束CFの張力を500Nより小さくすると、炭素繊維束CFが撓んでしまい、十分に開繊化することができないためであり、炭素繊維束CFの張力を2000Nより大きくすると、炭素繊維束CFと開繊化部21との摩擦力が大きくなりすぎてしまい、炭素繊維束CFに毛羽立ちや破断が起こりやすくなるためである。
【0041】
樹脂含浸手段50は、裁断手段40により裁断された炭素繊維シートCFSに樹脂を含浸させるためのものであって、基材51と、この基材51に対向する位置に配置される基材52と、基材51、52を送出する送出リール53a、53bと、押圧手段54と、巻取リール55と、を主に有して構成されている。
【0042】
基材51は、裁断手段40の下方に略水平に配置されており、送出リール53aから送出されて略水平に走行している。基材51は、走行中に、裁断された炭素繊維シートCFSを順次載置する。
【0043】
また、基材51の送出リール53aの近傍には、樹脂ペーストP1とこれに隣接するブレード56が配置されており、基材51を走行させると、ブレード56により、樹脂ペーストP1が基材51の表面に薄く敷延されることで、基材51の表面に樹脂が塗布されるようになっている。
【0044】
基材52は、基材51の下流側の上方に配置され、送出リール53bにより送出されて基材51と逆流する方向に走行し、折り返し用リール53cで折り返して向きを変え、基材51に沿って同方向に走行する。
【0045】
基材52の送出リール53bの近傍には、樹脂ペーストP2とこれに隣接する、ブレード56が配置されており、基材52を走行させると、ブレード56により、樹脂ペーストP2が基材52の表面に薄く敷延されることで、基材52の表面に樹脂が塗布されるようになっている。
【0046】
これによれば、基材51、52の表面に樹脂を塗布して走行させ、走行中、裁断手段40で裁断されて降下した炭素繊維シートCFSを基材51の表面に載置し、この状態でさらに走行させると、基材51と、基材51に沿うようにして走行する基材52とにより炭素繊維シートCFSが挟まれる。
このような基材51、52としては、オレフィン系樹脂系素材のフィルムを用いることができる。
【0047】
押圧手段53は、炭素繊維シートCFSに樹脂を含浸させるためのものであって、例えば、基材51、22を挟むように上下に配置された、例えば、図示しない駆動手段により上下動可能に構成されたロール状部材である。
【0048】
押圧手段53は、例えば、炭素繊維シートCFSを挟んだ状態の基材51と基材52とを互いに近接させる方向に押圧して、炭素繊維シートCFSに基材51、52の表面に塗布された樹脂を含浸させる。
【0049】
なお、炭素繊維シートCFSに含浸する樹脂ペーストP1、P2としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂およびそれらの変性物等が好適に用いられる。
【0050】
また、炭素繊維シートCFSへの樹脂の含浸性を向上させるため、樹脂ペーストP1、P2の含浸時粘度を、1000〜40000mPa・sの範囲とすることが望ましい。さらに、炭素繊維複合材料60の外観平滑性の向上のために、フィラー(例えば、炭酸カルシウム)や、低収縮化成分(例えば、スチレンブタジエン系エラストマー、酢酸ビニル系エラストマーなど)を適宜添加することが望ましい。
【0051】
巻取リール55は、押圧手段54で得られた炭素繊維複合材料60を巻取・回収するためのものであって、押圧手段54の下流側であって、合流した基材51、52の延長線上に配置されている。
【0052】
このように構成された炭素繊維複合材料製造装置1による炭素繊維複合材料製造方法について、以下に説明する。参照する図面において、図3は、本発明の炭素繊維複合材料製造方法による炭素繊維複合材料製造手順を示すフローチャートである。図3に示すように、炭素繊維複合材料製造方法は、開繊化工程S10と、裁断工程S20と、樹脂含浸工程S30と、を含んでなる。
【0053】
[開繊化工程]
開繊化工程S10は、図示しない駆動手段によりボビン10を回転させ、ボビン10に巻かれた炭素繊維束CFを開繊化手段20Aに送出し、開繊化手段20Aの、球体状の開繊化部21により炭素繊維束CFの表面を押圧し、炭素繊維束CFを幅方向に平坦化していくことで開繊化して炭素繊維シートCFSとし、裁断手段40に送出する。
[裁断工程]
裁断工程S20は、開繊化工程S10により製造された炭素繊維シートCFSを裁断手段40によって、所定の長さに裁断し、樹脂含浸手段50に送出する。
[樹脂含浸工程]
樹脂含浸工程S30は、裁断工程S20により裁断された炭素繊維シートCFSに、樹脂含浸手段50によって樹脂を含浸させる。例えば、まず、樹脂含浸手段50の基材51、52を走行させて、その表面に樹脂ペーストP1、P2を敷延する。そしてその上に、裁断工程S20で裁断手段40により裁断された炭素繊維シートCFSが、走行する基材51上に順次載置される。次いで、基材51、52で炭素繊維シートCFSを挟み、この状態で、基材51、52を、押圧手段54により互いに近接させる方向に押圧し、裁断された炭素繊維シートCFSに基材51、52の表面に塗布された樹脂を含浸させて炭素繊維複合材料60を製造する。製造された炭素繊維複合材料60は、巻取リール55に巻取・回収される。
【0054】
本実施形態に係る炭素繊維複合材料製造装置1によれば、炭素繊維束CFの開繊化と、開繊化された炭素繊維束CF(炭素繊維シートCFS)の裁断と、炭素繊維シートCFSへの樹脂含浸と、が一連の動作で行われるため、炭素繊維シートCFSを裁断し、樹脂を含浸させる直前に、すなわち、炭素繊維束CFの巻取・送出を繰り返さずに、開繊化手段20Aにより炭素繊維束CFを開繊化することができる。このため、炭素繊維束CFへの負担を少なくすることができ、炭素繊維束CFの損傷を防止することができる。これにより、開繊化された炭素繊維シートCFSの毛羽立ちや破断を防止することができ、外観平滑性に優れた炭素繊維複合材料60を製造することができる。
さらに、開繊化手段20Aは、球体状の開繊化部21で炭素繊維束CFに当接して、炭素繊維束CFを開繊化するものであるため、炭素繊維束CFと開繊化部21との摩擦が小さくすることができ、炭素繊維束CFへの負担をさらに低減させることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る炭素繊維複合材料製造方法によれば、開繊化工程S10と裁断工程S20と樹脂含浸工程S30と、を含んでなるため、炭素繊維束CFを、開繊化工程S10で開繊化した直後に、裁断工程S20で裁断し、樹脂含浸工程S30で樹脂を含浸させることができる。このため、炭素繊維束CFへの負担を少なくすることができ、炭素繊維束CFの損傷を防止することができる。これにより、開繊された炭素繊維シートCFSの毛羽立ちや破断を防止することができ、外観平滑性に優れた炭素繊維複合材料60を得ることができる。
【実施例1】
【0056】
(1)開繊化状態の評価
以下、本発明に係る炭素繊維複合材料製造装置1の開繊化手段20Aによる開繊化状態の評価実験結果について説明する。
本実験では、開繊化手段の開繊化部21の曲率Rを、5mmから25mmまで5mm単位で増加させ、それぞれについて、炭素繊維束の開繊化状態を評価した。
具体的には、条件No.1は、開繊化部の曲率を25mmとし、条件No.2は、開繊化部の曲率を20mmとし、条件No.3は、開繊化部の曲率を15mmとし、条件No.4は、開繊化部の曲率を10mmとし、条件No.5は、開繊化部の曲率を5mmとし、開繊化した。
また、炭素繊維束CFとしては、(1)東邦テナックス製のHTA−3K−E30、(2)同HTA−12K−E30、(3)同STS−24K−F301を用いた。条件No.1〜No.5の一覧を下記表1に示す。
【0057】
また、本実験では、アスペクト比を開繊化状態の評価指標とした。ここで、アスペクト比とは、炭素繊維束CFの長さの直径に対する比を示すものである。アスペクト比が0.01以下であれば、良好な開繊化状態であると評価することができる。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示す通り、条件No.1では、炭素繊維束(1)〜(3)のそれぞれにおいて、アスペクト比が0.01以上となり、不適切な開繊化状態となった。条件No.2〜条件No.4では、炭素繊維束(1)〜(3)のそれぞれにおいて、アスペクト比が0.01以下となり、良好な開繊化状態であった。条件No.5では、炭素繊維束CFが幅方向に裂けてしまい(裂けNG)、開繊化に失敗した。
以上のように、条件No.2〜条件No.4で良好な結果が得られた。
【実施例2】
【0060】
(2)成形品とした場合における表面状態の確認
本実施形態の炭素繊維複合材料製造装置1により製造された炭素繊維複合材料60を用いて炭素繊維複合材料成形品を試作し成形品の状態を評価した。また、本発明の要件を満たさないその他の方法で製造された炭素繊維複合材料を用いて試作した炭素繊維複合材料成形品と比較評価した。
【0061】
実施例1は、本発明の炭素繊維複合材料製造装置1を用いて、前記した条件No.3で開繊化した炭素繊維シートを用い、炭素繊維複合材料を製造した。含浸させる樹脂は、一般的な高反応性ポリエステルに炭酸カルシウム90phr(per hundred resin)を使用し、低収縮化材として、スチレンブタジエン系エラストマー6phrを添加したものを使用した。
成形条件は、川崎油工製200tプレスを用い、金型キャビティ寸法300mmに対して炭素繊維複合材料を160mmに裁断したものを金型中央部に乗せ、金型温度を140℃とし、型締め圧力として10MPaを加えた状態で180秒間維持し、硬化させた。
【0062】
比較例1は、炭素繊維として、東邦テナックス製のHTA−12K−E30を使用し、月島機械製SMC(シートモールディングコンパウンド)含浸機を用いて樹脂を含浸させ、炭素繊維複合材料を製造した。含浸させる樹脂は、一般的な高反応性ポリエステルに炭酸カルシウム90phr(per hundred resin)を使用し、低収縮化材として、スチレンブタジエン系エラストマー6phrを添加したものを使用した。なお、比較例1では、炭素繊維束の開繊は行っていない。
成形条件は、実施例1と同様である。
【0063】
比較例2は、炭素繊維として、東邦テナックス製のHTA−12K−E30を使用し、特開平11−172562号公報に開示された開繊シート製造装置を用いてエア圧0.5MPa、送風スパン50mm、繊維送出速度1m/minで開繊化した。このようにして開繊された炭素繊維シートは、収束幅が15mm、収束厚さが0.06mmであった。
次に、月島機械製SMC(シートモールディングコンパウンド)含浸機を用いて樹脂を含浸させ、炭素繊維複合材料を製造した。含浸樹脂は、一般的な高反応性ポリエステルに炭酸カルシウム90phr(per hundred resin)を使用し、低収縮化材として、スチレンブタジエン系エラストマー6phrを添加したものを使用した。
成形条件は、実施例1と同様である。
【0064】
比較例3は、ガラス繊維として、ガラスClass−A SMCを使用し、日東紡製RS480PK650を使用して開繊化した。次に、月島機械製SMC(シートモールディングコンパウンド)含浸機を用いて樹脂を含浸させ、炭素繊維複合材料を製造した。含浸させる樹脂は、一般的な高反応性ポリエステルに炭酸カルシウム90phr(per hundred resin)を使用し、低収縮化材として、スチレンブタジエン系エラストマー6phrを添加したものを使用した。
成形条件は、実施例1と同様である。
【0065】
評価項目は、炭素繊維シートCFSを樹脂含浸手段50に供給した際の、炭素繊維シートCFSの状態、成形品のVf(%)と、成形品の密度(g/cm)と、成形品の表面粗さRa(μm)と、成形品の表面うねり(μm)と、成形品の外観平滑性についての外観目視判定である。炭素繊維シートCFSは、目視観察し、破断の有無により合否を決定した。成形品のVf(%)の評価方法は、JISで定められた、硫酸による溶解法に準拠している。成形品の密度(g/cm)は、MIRAGE製SD−120Lを用いて測定した。成形品の表面粗さRa(μm)は、ミツトヨ製SV3000CNCを用いて算出した。なお、成形品表面うねりは、成形品表面の任意の位置で50mm測定し、波形の最大値(凸部)と最小値(凹部)の差の絶対値を算出し、7.0μm以下を合格とした。
【0066】
前記のようにして製造された実施例1と比較例1〜3について、各評価項目について評価を行った。評価項目及び評価結果の一覧を下記表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
実施例1は、本発明の要件を満たすので、各評価項目について合格基準を満たし、良好な結果が得られた。
比較例1〜3は、本発明の要件を満たさないので、各評価項目のいずれかについて合格基準を満たさなかった。
具体的には、比較例1では、炭素繊維束を開繊していないため、成形品の外観目視判定で、表面に凹凸が見られ不合格となった。比較例2では、炭素繊維束をエア開繊したため、含浸機に炭素繊維シートを供給する際に炭素繊維が破断してしまった。また、このため、表面に若干の凹凸が見られ不合格となった。比較例3では、強化繊維としてガラス繊維を用いたため、成形品の密度(g/cm)が合格基準値を超えてしまい不合格となった。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る炭素繊維複合材料製造装置1によれば、良好な炭素繊維複合材料60を得ることができる。このため、自動車の外板パネルなどに広く利用することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の炭素繊維複合材料製造装置の全体構成図である。
【図2】図2(a)は、図1に示す開繊化手段部分の拡大図であって、炭素繊維束を開繊化する様子を示す図、(b)は、開繊化手段の他の実施形態であって、炭素繊維束を開繊化する様子を示す図である。
【図3】本発明の炭素繊維複合材料製造方法による炭素繊維複合材料製造手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1 炭素繊維複合材料製造装置
10 ボビン
20 開繊化手段
30 位置決め手段
40 裁断手段
50 樹脂含浸手段
60 炭素繊維複合材料
CF 炭素繊維束
CFS 炭素繊維シート
S10 開繊化工程
S20 裁断工程
S30 樹脂含浸工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き付けられた炭素繊維束を自転により連続的に送出するボビンと、
当該ボビンから送出された前記炭素繊維束を幅方向に平坦化して開繊化するための開繊化手段と、
開繊化された前記炭素繊維束を裁断する裁断手段と、
当該裁断手段に連続して配置され、裁断された前記炭素繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸手段と、を備えた
ことを特徴とする炭素繊維複合材料製造装置。
【請求項2】
前記開繊化手段は、前記炭素繊維束が当接する球体状の開繊化部を有し、当該開繊化部の曲率Rを10.0〜20.0mmとしたことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維複合材料製造装置。
【請求項3】
前記ボビンと前記開繊化手段の間に、前記炭素繊維束を整列させて前記開繊化手段に送出するための位置決め手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素繊維複合材料製造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の炭素繊維複合材料製造装置を用いた炭素繊維複合材料製造方法であって、
前記炭素繊維束を前記ボビンから前記開繊化手段へ送出し、当該開繊化手段で前記炭素繊維束を開繊化する開繊化工程と、
開繊化された前記炭素繊維束を裁断する裁断工程と、
裁断された前記炭素繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、
を備えることを特徴とする炭素繊維複合材料製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の炭素繊維複合材料製造方法により製造されたことを特徴とする炭素繊維複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−254191(P2008−254191A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95356(P2007−95356)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】