説明

炭酸エステルの製造方法

【課題】簡便かつ効率よく反応系から有機金属化合物を再生・回収することが可能で、連続的に炭酸エステルを得ることができる、工業的に有利な炭酸エステルの製造方法を提供することにあり、第二の目的は、有機金属化合物を有機金属オキシドから効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】有機金属化合物を用い、二酸化炭素とアルコールから炭酸エステルを合成し、使用済み有機金属化合物を二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させて有機金属化合物を再生した後、かかる有機金属化合物を炭酸エステルの合成工程に循環使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物、二酸化炭素およびアルコールとを反応させて炭酸エステルを製造する方法および該有機金属化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステルは、ポリカーボネート製造等の原料、オクタン価向上のためのガソリン添加剤、排ガス中のパーティクルを減少させるためのディーゼル燃料添加剤、アルキル化剤、カルボニル化剤、溶剤等として有用な化合物である。
【0003】
従来の炭酸エステルの製造方法としては、ホスゲンをカルボニル化剤としてアルコールと反応させる方法があげられるが、この方法では、極めて毒性が強く腐食性も有するホスゲンを用いるため、その輸送や貯蔵など取り扱いに注意が必要であり、製造設備の維持管理や廃棄物処理、作業員の安全性確保などのために多大なコストがかかっていた。
また、一酸化炭素をカルボニル化剤としてアルコール及び酸素と反応させる酸化的カルボニル化法も知られているが、この方法においても猛毒の一酸化炭素を高圧で用いるために作業員の安全性確保等のために注意が必要であり、また、一酸化炭素が酸化して二酸化炭素を生成するなどの副反応がおこる欠点があった。
【0004】
このため、より安全かつ安価に炭酸エステルを製造する方法の開発が要望され、二酸化炭素をカルボニル化剤としてアルコールと反応させる方法が提案された(非特許文献1〜2)。
しかし、これらの方法もターンオーバー数が2、3程度と触媒活性が極めて低く、生成する水が触媒を分解して反応を妨害するなどの問題があった。
【0005】
また、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応から炭酸エステルを製造する方法も提案されているが(特許文献1)、原料が高価であり、収率も十分でなく工業的実施には問題があった。
【0006】
本発明者らは、これらの問題点を解消するために、金属アルコキシド又は金属酸化物の存在下、二酸化炭素とアセタール化合物とを反応させて炭酸エステルを製造する方法を提案した(特許文献2〜4)。
これらの方法は毒性、腐食性がなく極めて安価に得られる二酸化炭素をカルボニル剤として用いる方法であり、工業的に有利な方法であるが、金属アルコキシドの再生利用の必要性や反応速度が十分でない点にやや問題があった。
【0007】
一方、大量の金属アルコキシドの存在下、二酸化炭素とアルコールとを反応させ、炭酸エステルを製造する方法において、使用済みの有機金属化合物を炭酸エステルと反応させて有機金属化合物を再生する方法も報告されているが(特許文献5)、炭酸エステルの製造を目的とする方法において、貴重な炭酸エステルをこのような処理剤として使用することは望ましい態様とはいえず、また有機金属化合物の再生率も低いといった問題があった。
【0008】
さらに、大量の有機金属化合物の存在下、二酸化炭素とアルコールとを反応させ、炭酸エステルを製造する方法において、アルコールと有機溶媒の混合系から蒸留法により使用済みの有機金属化合物を回収循環する方法も提案されているが(特許文献6)、この方法も蒸留などの高価な設備を必要とし、また、過酷な条件により有機金属化合物が変質する恐れや、有機金属化合物の再生において、特にアルコールがメタノールの場合には効率が悪く低収率である問題点を持っている。
【0009】
【特許文献1】特開平7−244010号公報
【特許文献2】特許第2852418号公報
【特許文献3】特開平11−62606号公報
【特許文献4】特開平11−201199号公報
【特許文献5】米国特許第5545600号明細書
【特許文献6】国際公開第03/055840号パンフレット
【非特許文献1】Applied Catalysis、1996年、142巻、L1項
【非特許文献2】Collect. Czech. Chem. Commun. 誌、1995年、60巻、687頁等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みなされたものであって、第一の目的は、簡便かつ効率よく反応系から有機金属化合物を再生・回収することが可能で、連続的に炭酸エステルを得ることができる、工業的に有利な炭酸エステルの製造方法を提供することにあり、第二の目的は、有機金属化合物を有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドから効率よく製造できる方法を提供することにある。なお、ここでいう有機金属化合物とはアルコキシ基などの有機基を含む化合物を包含し、必ずしも金属―炭素結合を有しない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記従来技術の問題点を解決するため鋭意研究を重ねた結果、有機金属化合物、二酸化炭素およびアルコールを反応させて炭酸エステルを製造する過程で得られる有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを含む有機金属化合物を、炭酸ガスおよび脱水剤の存在下で、アルコールと反応させると意外にも高収率で所望とする有機金属化合物が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)下記(イ)〜(ニ)の工程を連続的に繰り返すことを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
(イ)有機金属化合物の存在下、二酸化炭素とアルコールを反応させ、炭酸エステルを含有する反応混合物を生成させる工程。
(ロ)反応混合物から炭酸エステルを分離して残留液を得る工程。
(ハ)残留液を、二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させて、有機金属化合物を得る工程。
(ニ)工程(ハ)で得られた有機金属化合物を工程(イ)へ循環する工程。
(2)有機金属化合物が、金属−酸素−炭素結合を有する周期律表第4族または第14族の有機金属化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の炭酸エステルの製造する方法。
(3)アルコールが下記一般式(I)で示されるアルコールであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の炭酸エステルの製造方法。
OH (I)
(式中、Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
(4)脱水剤が下記一般式(II)で表されるアセタール又は無機脱水剤であることを特徴とする上記(1)〜(3)何れかに記載の炭酸エステルの製造方法。
C(OR (II)
(式中、R、Rは水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
(5)残留液が有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを含むものであることを特徴とする上記(1)〜(4)何れかに記載の炭酸エステルの製造方法。
(6)有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを、二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させることを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
(7)有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドが、炭素−金属−酸素結合を有する周期律表第4族または第14族の有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドであることを特徴とする上記(6)に記載の有機金属化合物の製造方法。
(8)有機金属化合物が、金属−酸素−炭素結合を有する周期律表第4族または第14族の有機金属化合物であることを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の有機金属化合物の製造方法。
(9)アルコールが下記一般式(I)で示されるアルコールであることを特徴とする上記(6)〜(9)何れかに記載の有機金属化合物の製造方法。
OH (I)
(式中、Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
(10)脱水剤が下記一般式(II)で表されるアセタール又は無機脱水剤であることを特徴とする上記(6)〜(9)何れかに記載の有機金属化合物の製造方法。
C(OR (II)
(式中、R、Rは水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭酸エステルの製造方法は、原料として、環境に無害で毒性のない二酸化炭素とアルコールとを用いたことから、安全かつ簡易な設備で炭酸エステルを得ることができ、しかも簡便かつ効率よく反応系から有機金属化合物を再生・循環利用することができるので、連続的に炭酸エステルを得ることができる。
また、本発明の有機金属化合物の製造方法は、入手容易な有機金属オキシドを原料から簡便な操作で、炭酸エステルの合成原料や触媒、ラクトンの開環重合触媒、エステル交換反応触媒などとして有用な有機金属化合物を工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の炭酸エステルの製造方法は、以下の工程からなる。
(イ)有機金属化合物の存在下、二酸化炭素とアルコールを反応させ、炭酸エステルを含有する反応混合物を生成させる工程。
(ロ)該反応混合物から該炭酸エステルを分離して残留液を得る工程。
(ハ)該残留液を、二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させて、有機金属化合物を再生する工程。
(ニ)工程(ハ)で得られた有機金属化合物を工程(イ)へ循環する工程。
【0014】
本発明の製造方法における反応は次式で表わすことができる。
(1)有機金属化合物 + ROH + CO
→ RO(CO)OR+ 使用済み有機金属化合物+ ROH
(2)工程(ロ)で得られた残留液(有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシド含 有)+CO+アルコール+ 脱水剤 → 有機金属化合物(再生)
(3)有機金属化合物(再生)→(1)に循環使用
【0015】
前記(イ)の工程である、有機金属化合物、二酸化炭素およびアルコールの反応の反応温度は特に制限はないが、室温〜300℃、好ましくは80〜200℃で1〜100時間行う。反応圧は特に制限なく、反応に使用する耐圧装置の製造コストなどによって定められる。
【0016】
アルコールとしては、前記一般式(I)ROHで表されるアルコールが好ましく使用され、たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。
また、本発明においては、前記の一価のアルコールの他にジオールなどの多価アルコールを用いてもよい。
【0017】
有機金属化合物としては、金属−酸素−炭素結合を有する周期律表第4族または第14族の有機金属化合物、例えば、アルコキシキ基を有する有機金属化合物が用いられる。
【0018】
本発明で用いる代表的な有機金属化合物は、下記一般式(III)で表される有機金属化合物及び下記一般式(IV)で表される有機金属化合物から選ばれる。
【0019】
【化1】

(式(III)中:R及びRは同一であってもよいし異なっていてもよい。また、直鎖状あるいは分岐状の炭素数1〜14の表わされるアルキル基、炭素数5〜14のシクロアルキル基、直鎖状あるいは分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜19のアリール基及び、アルキル基からなる炭素数7〜20のアラルキル基を示す。
a 及びbは各々0〜2の整数であり、a + b = 0〜2,c及びdは各々0〜4の整数であり、a + b + c + d = 4である。)
【0020】
【化2】

(式(IV)中:M及びMは同一であってもよいし異なっていてもよい。R、R、R10及びR11は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、直鎖状あるいは分岐状の炭素数1〜14のアルキル基、炭素数5〜14のシクロアルキル基、直鎖状あるいは分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜19のアリール基及び、アルキル基からなる炭素数7〜20のアラルキル基を示す。
12及びR13は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、直鎖状あるいは分岐状の炭素数1〜14のアルキル基、炭素数5〜14のシクロアルキル基、直鎖状あるいは分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜19のアリール基及び、アルキル基からなる炭素数7〜20のアラルキル基を示す。
e + f = 0〜2、g + h = 0〜2、i及びjは同一であってもよいし異なっていてもよく、1〜3の整数であり、e + f + i = 3、g + h + j =3である。)
これら有機金属化合物は単量体であっても、オリゴマー、ポリマー、または会合体であってもよい。
【0021】
本発明に用いられる有機金属化合物において、一般式(III)のM及び一般式(IV)のM、Mは、周期律表第4族または第14族に含まれる金属であれば特に制限はないが、スズ、チタン及びジルコニウムが好ましい。特にスズがより好ましい。
【0022】
一般式(III)で示される有機金属化合物としては、特に制限がないが、例えば、ジメチルスズ−ジ−メトキシド、ジメチルスズ−ジ−エトキシド、ジメチルスズ−メトキシド−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジメチルスズ−ジ−ペンチルオキシド、ジメチルスズ−ジ−ヘキシルオキシド、ジメチルスズ−ジ−シクロヘキシルオキシド、ジメチルスズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジメチルスズ−ジ−プロペニルオキシド、メチルブチルスズ−ジ−メトキシド、メチルブチル−ジ−エトキシド、メチルブチルスズ−ジ−プロポキシド、メチルブチルスズ−ジ−(2−エチル−1−ブトキシド)、メチルブチルスズ−ジ−ペンチルオキシド、メチルブチルスズ−ジ−ヘキシルオキシド、メチルブチルスズ−ジ−シクロヘキシルオキシド、メチルブチル−スズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、メチルブチルスズ−ジ−プロペニルオキシド、メチルブチルスズ−ジ−ベンジルオキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−メトキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−エトキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−メトキシド−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−プロポキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ブトキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−(2−エチル−1−ブトキシド)、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ペンチルオキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ヘキシルオキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−シクロヘキシルオキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−プロペニルオキシド、メチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ベンジルオキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−メトキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−エトキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−メトキシド−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−プロポキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ブトキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−(2−エチル−1−ブトキシド)、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ペンチルオキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ヘキシルオキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−シクロヘキシルオキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−プロペニルオキシド、ブチル(2−エチル−ヘキシル)スズ−ジ−ベンジルオキシド、ジ−n−ブチルスズ−ジ−メトキシド、ジ−n−ブチルスズ−メトキシド−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジ−n−ブチルスズ−ジ−プロポキシド、ジ−n−ブチルスズ−ジ−ブトキシド、ジ−n−ブチルスズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジ−n−ブチルスズ−ジ−ヘキシルオキシド、ジ−n−ブチルスズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジ−n−ブチルスズ−ジ−ベンジルオキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−メトキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−プロポキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−ブトキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−ヘキシルオキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−シクロオキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−プロペニルオキシド、ジ−t−ブチルスズ−ジ−ベンジルオキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−メトキシド、ジ−フェニルスズ−メトキシド−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジ−フェニルスズ−ジ−プロポキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−ブトキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジ−フェニルスズ−ジ−ペンチルオキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−ヘキシルオキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシド)、ジ−フェニルスズ−ジ−シクロヘキシルオキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−プロぺニルオキシド、ジ−フェニルスズ−ジ−ベンジルオキシドなどが挙げられる。さらに金属との結合がすべて金属―酸素―炭素結合である金属化合物でもよい。例えば、テトラメトキシスズ、テトラエトキシスズ、テトラプロピルオキシスズ、テトラヘキシルオキシスズ、テトラブトキシスズ、テトラペンチルオキシスズ、テトラヘキシルオキシスズ、テトラ−2−エチル−1−ヘキシルオキシスズ、ジ−メトキシ−ジエトキシスズ、テトラメトキシチタン、テトラプロピルオキシチタン、テトラ−イソ−プロピルオキシチタンなどが挙げられる。
【0023】
一般式(IV)で示される有機金属化合物としては、特に制限がないが、例えば、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−スタンオキシド、1,1,3,3−テロラブチル−1−(メトキシ)−3−(2−エチル−1−ヘキシルオキシ)−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−エトキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1、3−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシ)−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−プロポキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−ペンチルオキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−ヘキシルオキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−(2−エチル−1−ヘキシルオキシ)−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−シクロヘキシルオキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−ベンジルオキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−メトキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジ−エトキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−メトキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−エトキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−ブトキシージースタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−(2−エチル−1−ブトキシ)−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−プロポキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−ペンチルオキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−ヘキシルオキシ−ジ−スタンオキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ−シクロヘキシル−ジ−スタンオキサンのようなアルコキシジスタンオキサン、アラルキルオキシジスタンオキサンなどが挙げられる。
【0024】
(ロ)の工程は、(イ)の反応工程で得られる炭酸エステルと使用済み有機金属化合物及びアルコールを含む反応混合物から目的生成物である炭酸エステルと使用済み有機金属化合物を含む残留液を分離するものである。
この分離操作は従来公知の方法、たとえば蒸留や膜分離等の手段によって行われる。
【0025】
(ハ)の工程は、残留液から有機金属化合物を再生する工程である。
この再生工程は、使用済み有機金属化合物を二酸化炭素および脱水剤の存在下でアルコールと反応させることからなる。
使用済み有機金属化合物には、有機金属化合物(金属―酸素―炭素結合)と二酸化炭素との反応後、熱分解により炭酸エステルが生成し、有機金属化合物は金属―酸素結合を持つ化合物として残る可能性との(参考文献:有機合成化学協会誌、2004年、62巻、48項)理由などにより通常、有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドが含有される。
本発明においては、かかる有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを二酸化炭素および脱水剤の存在下で反応させて対応する有機金属化合物に変換再生するものである。この変換再生工程においては二酸化炭素を使用することが重要である。二酸化炭素を用いないと、有機金属化合物の活性化が十分でなく、所望とする有機金属化合物が生成しないので、対応する有機金属化合物を再生することが極めて困難となる。二酸化炭素はガス状でも液状でもよいが、好ましくは0.02MPa以上の圧力をかけて液状で用いることが好ましい。
使用するアルコールに特に制限はないが、再生した有機金属化合物を(イ)の工程に循環することを考慮し、(イ)の工程で用いる有機金属化合物のアルコキシド成分と同種類のアルコールを用いることが好ましい。
【0026】
(ハ)の工程で用いられる脱水剤としては、有機、無機何れのものも使用できるが、有機脱水剤としては、前記一般式(II)で表されるアセタールを用いることが好ましい。
式中、R、R及びRで表わされるアルキル基は好ましくは低級アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4である。具体的には例えばメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルなどが挙げられる。また、R、R及びRで表わされるアラルキル基は好ましくは炭素数7〜20、さらに好ましくは7〜12であり、例えばベンジル、フェネチルが挙げられる。R、R及びRで表わされるアリール基は好ましくは炭素数6〜14、さらに好ましくは6〜10であり、例えばフェニル、トリル、アニシル、ナフチル、などが挙げられる。
【0027】
このようなアセタール化合物として、より具体的には、例えばベンズアルデヒド ジメチルアセタール、アセトアルデヒド ジメチルアセタール、ホルムアルデヒド ジメチルアセタール、アセトン ジメチルアセタール、アセトン ジエチルアセタール、アセトン ジベンジルアセタール、ジエチルケトン ジメチルアセタール、ベンゾフェノン ジメチルアセタール、ベンジルフェニルケトン ジメチルアセタール、シクロヘキサノン ジメチルアセタール、アセトフェノン ジメチルアセタール、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン アセタール、4、4−ジメトキシ−2、5−シクロヘキサジエン−1−オンアセタール、ジメチルアセトアミド ジエチルアセタールなどが挙げられる。
【0028】
無機脱水剤としては、モレキュラーシーブ(3A)、モレキュラーシーブ(4A)等のゼオライト類、塩化カルシウム(無水)、硫酸カルシウム(無水)、塩化マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム(無水)、炭酸カリウム(無水)、硫化カリウム(無水)、亜硫化カリウム(無水)、硫酸ナトリウム(無水)、亜硫酸ナトリウム(無水)、硫酸銅(無水)などの無機無水塩類等が挙げられる。
【0029】
(ハ)の再生工程の代表的な反応は次式で示される。例えば、BuSnOを用いた場合は、次の式で表される。
【化3】

本発明における有機金属化合物の再生反応の反応温度は特に制限はないが、室温〜300℃、好ましくは80〜200℃で1〜100時間行う。反応圧は特に制限なく、反応に使用する耐圧装置の製造コストなどによって定められる。
【0030】
(ニ)の工程は、工程(ハ)で得られた有機金属化合物を工程(イ)へ循環するものである。
【0031】
また、本発明方法において、有機金属化合物の再生反応における未反応のアセタール化合物は反応系から回収して再使用することができる。更に、本発明方法では、炭酸エステルとともにケトン又はアルデヒド類が生成するが、ケトン及びアルデヒド類はアルコール類との反応により容易にアセタール化合物に変換させるので、回収、再利用が可能である。併産物のケトン及びアルデヒド類の回収、再利用の観点から、一般式(I)で表わされるアルコール類及び一般式(II)で表われるアセタール化合物における基Rを、互いに同一の基とすることが望ましい。
【0032】
また、前記再生工程の知見から、本発明においては、有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを、二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させることにより有機金属化合物を製造することできる。
この場合、例えば、有機金属オキシドとしては、下記一般式(V)で表わされるものが好適に用いられる。
(R14)(R15)MO (V)
(式中、R14及びR15は同一でも異なっていてもよい、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアリール基を表わし、Mは周期律表第4族と第14族の金属原子を表わす。)
14及びR15で表されるアルキル基は、鎖状、環状のいずれでもよく、直鎖でも分枝鎖でもよいが、好ましくは低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4である。具体的には例えば、メチル、エチル、n−ブチル、イソプロピル、ヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。R14及びR15で表わされるアラルキル基は好ましくは炭素数7〜12であり、具体的にはベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、2−ナフチルエチルなどが挙げられる。R14及びR15で表わされるアルケニル基は好ましくは炭素数2〜10であり、鎖状、環状のいずれでもよい。具体的には例えばシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、インデニル、ビニル、アリルなどが挙げられる。R14及びR15で表わされるアリール基は、好ましくは炭素数6〜14であり、例えばフェニル、トリル、アニシル、ナフチルなどが挙げられる。
【0033】
Mで表わされる金属原子としては、炭素−金属−酸素結合を有する周期律表第4族または第14族に含まれる金属であれば特に制限はないが、スズ、チタン及びジルコニウムが好ましい。特にスズがより好ましい。また、これらの有機金属化合物は上記構造を単位とする会合体であってもよい。
【0034】
有機金属オキシドの具体例としては、ジメチルスズオキシド、ジエチルスズオキシド、ジイソプロピルスズオキシド、ジブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
また、炭酸ガス、脱水剤、アルコールとしては、前記再生工程で述べたものと同様なものを使用すればよい。
【0036】
本発明の前記一般式(V)で示される有機金属オキシドを出発原料とする製造方法においては、生成物としては前記一般式(III)または(IV)で示される有機金属化合物が得られる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
なお、実施例と比較例の測定・分析方法は以下の通りである。
1)有機金属化合物のNMR分析方法
装置として、日本国、日本電子(株)社製JLA−400WB FTNMR システム(400MHz)で分析を行った。
2)再生された有機金属化合物のNMRサンプル溶液の作成
有機金属化合物を0.1gから0.5gの範囲で取り、更に0.01gのテトラエチルスズを基準物質として入れ、約0.5gの重クロロホルムを加えてサンプル溶液とした。
【0038】
実施例1(メトキシ基を有する有機金属化合物の合成)
撹拌装置を具備した20m1容積のオートクレーブに、ジブチル酸化スズ(1g、4mmol)、アセトン ジメチルアセタール(12mmol)及びメタノール(4ml)を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから炭酸ガス(約6MPa)を充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ150℃にまで加熱し、3時間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物を真空乾燥させ、 119Sn NMRにより分析した。有機金属化合物のピークとしては−172ppm及び −184ppmに一般式(IV)において(R、R、R10及びR11はブチル基、R、Rはメチル基)の有機金属化合物のピークが検出された。ジブチル酸化スズ基準のメトキシ基を有する有機金属化合物の収率は98%であった。
【0039】
比較例1
撹拌装置を具備した20m1容積のオートクレーブに、ジブチル酸化スズ(1g、4mmol)、アセトン ジメチルアセタール(12mmol)及びメタノール(4ml)を仕込んだ後、オートクレーブ内を攪拌しつつ150℃にまで加熱し、3時間反応させた。冷却後、反応混合物を真空乾燥させ、NMRにより分析した。ジブチル酸化スズ基準のメトキシ基を有する有機金属化合物の収率は0%であった。
【0040】
実施例2〜4
原料及び反応条件は実施例1と同様にして炭酸の内圧が異なる条件下でメトキシ基を有する有機金属化合物を合成した。
その結果を炭酸ガスの圧力(MPa)及びジブチル酸化スズ基準のメトキシ基を有する有機金属化合物の収率(%)で示す。
実施例2;0.7MPa(収率:65%)
実施例3; 2MPa(収率:92%)
実施例4; 3MPa(収率:98%)
【0041】
実施例5〜7
原料及び反応条件は実施例1と同様にして反応時間が異なる条件下でメトキシ基を有する有機金属化合物を合成した。その結果を反応時間(時間)及びジブチル酸化スズ基準のメトキシ基を有する有機金属化合物の収率(%)で示す。
実施例5; 2時間(収率:89%)
実施例6; 6時間(収率:99%)
実施例7;24時間(収率:93%)
【0042】
実施例8(炭酸エステルの合成)
撹拌装置を具備した20m1容積のオートクレーブに、一般式(IV)(R、R、R10及びR11はブチル基、R、Rはメチル基)の構造を持つ有機金属化合物 (10mmol)及びメタノール(4ml)を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスを充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ180℃にまで加熱した後、30分間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した。メタノール基準の炭酸ジメチルの収率は11%であった。
【0043】
実施例9(有機金属化合物の再生及び炭酸エステルの合成)
工程(イ):撹拌装置を具備した20m1容積のオートクレーブに、ジブチルスズジメトキシド(6g、20 mmol)及びメタノール(4ml)を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスを充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ180℃にまで加熱した後、30分間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出した。
工程(ロ):上記オートクレーブの反応混合物を蒸留液抜き出しラインを用いて減圧蒸留を行い、炭酸ジメチルとメタノールを蒸留分離した。ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、メタノール基準の炭酸ジメチルの収率は21%であった。
工程(ハ):上記オートクレーブにラインを通し、アセトン ジメチルアセタール(24mmol)及びメタノール(4ml)を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから炭酸ガス(約6MPa)を充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ150℃にまで加熱し、3時間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物を蒸留液抜き出しラインを用いて減圧蒸留を行い、混合溶液を蒸留分離した。
有機金属化合物の構造は 119Sn NMRにより同定を行った。有機金属化合物のピークとしては−172ppm及び −184ppmに一般式(IV)において(R、R、R10及びR11はブチル基、R、Rはメチル基)の有機金属化合物であることがわかった。
工程(ニ):工程(ハ)の終了後、上記の工程(イ)から工程(ロ)を行い、炭酸エステルを得た。メタノール基準の炭酸ジメチルの収率は18%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(イ)〜(ニ)の工程を連続的に繰り返すことを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
(イ)有機金属化合物の存在下、二酸化炭素とアルコールを反応させ、炭酸エステルを含有する反応混合物を生成させる工程。
(ロ)反応混合物から炭酸エステルを分離して残留液を得る工程。
(ハ)残留液を、二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させて、有機金属化合物を得る工程。
(ニ)工程(ハ)で得られた有機金属化合物を工程(イ)へ循環する工程。
【請求項2】
有機金属化合物が、金属−酸素−炭素結合を有する周期律表第4族または第14族の金属化合物であることを特徴とする請求項1に記載の炭酸エステルを製造する方法。
【請求項3】
アルコールが下記一般式(I)で示されるアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸エステルの製造方法。
OH (I)
(式中、Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
【請求項4】
脱水剤が下記一般式(II)で表されるアセタールまたは無機脱水剤であることを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の炭酸エステルを製造する方法。
C(OR (II)
(式中、R、Rは水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
【請求項5】
残留液が有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを含むものであることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項6】
有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドを、二酸化炭素および脱水剤の存在下、アルコールと反応させることを特徴とする金属化合物の製造方法。
【請求項7】
有機金属オキシドあるいは有機金属ヒドロキシドが、炭素−金属−酸素結合あるいは金属―酸素結合を有する周期律表第4族または第14族の金属化合物であることを特徴とする請求項6に記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項8】
有機金属化合物が、金属−酸素−炭素結合を有する周期律表第4族または第14族の有機金属化合物であることを特徴とする請求項6又は7に記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項9】
アルコールが下記一般式(I)で示されるアルコールであることを特徴とする請求項6〜8何れかに記載の有機金属化合物の製造方法。
OH (I)
(式中、Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)
【請求項10】
脱水剤が下記一般式(II)で表されるアセタール又は無機脱水剤であることを特徴とする請求項6〜9何れかに記載の有機金属化合物の製造方法。
C(OR (II)
(式中、R、Rは水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)

【公開番号】特開2006−83065(P2006−83065A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266151(P2004−266151)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月1日 錯体化学会発行の「第54回 錯体化学討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】