説明

焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法

【課題】
加熱殺菌、レトルト殺菌、ホットベンダー保存などによっても、香気劣化が少なく保存安定性の向上した焙煎植物原料水性エキス、特にコーヒーエキスの製造方法を提供すること。
【解決手段】
(A)焙煎植物原料から水により抽出して得られる水性エキス、または、(B)焙煎植物原料を水蒸気蒸留して留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣を水により抽出して抽出液を得、抽出液と先に得られた水蒸気蒸留留出液を混合することにより得られる水性エキス、のいずれかに対し逆浸透膜による透過処理を行い、非透過液を採取することを特徴とする焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味劣化の抑制された、焙煎植物原料水性エキスの製造方法、特にコーヒーエキスの製造方法に関し、さらに詳しくは、加熱殺菌、レトルト殺菌、ホットベンダー保存などによっても、香気劣化が少なく保存安定性の向上した焙煎植物原料水性エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー、麦茶、ほうじ茶などの焙煎植物原料は焙煎処理により、きわめて嗜好性の高い香ばしい香味が生成し、これらを熱水等で浸出した液は、コーヒー、麦茶、ほうじ茶などの飲料として多くの人々に愛飲されている。また近年、これらを密閉された容器に充填し、微生物の増殖による腐敗を防止するためレトルト殺菌などの高温殺菌を行い、手軽に飲用できるようにした容器詰飲料が市場に流通している。これらの容器詰飲料は流通後にもさらに、ホットベンダーによる加温販売などのため加温保存されることもある。焙煎植物浸出液の香ばしい香味は、これらの加熱殺菌、加温保存中に劣化するが、微生物安定性や、流通上加熱殺菌や加温保管は必要であり、前記の風味劣化はある程度避けられないものである。そこで、これらの香味劣化を補うため、香料や酸化防止剤の添加や、劣化原因物質の除去などの方法が試みられている。
【0003】
風味劣化を引き起こす原因の一つとして、植物原料を焙煎することにより生じる酢酸などの低級脂肪酸の存在が挙げられる。酢酸は、必要以上に多く含まれる場合、そのもの自体が刺激的な酸臭を増強し、香味に悪影響を及ぼすのみならず、溶液のpHを低下させ、風味劣化を促進させる傾向がある。
【0004】
そこで、風味改善、風味安定化のために酢酸やその他の酸類を中和、除去するために様々な方法が検討されている。例えば、コーヒー豆の熱水抽出物に、炭酸水素ナトリウムを含有させることを特徴とするコーヒー液の製造方法(特許文献1)、L−アスコルビン酸アルカリ金属塩を含有せしめてなることを特徴とする風味と安定性に優れたコーヒーエキストラクト(特許文献2)、ばい煎コーヒー豆の水抽出液をアクリル系の中性塩基または弱塩基性アニオン交換樹脂と接触させることを特徴とするコーヒーエキスの製造方法(特許文献3)、焙煎したコーヒー豆抽出液を陰イオン交換樹脂に接触させフィチン酸含有量を低減させた、容器入りコーヒー飲料(特許文献4)、コーヒー抽出液に通電を行い、この通電によりコーヒー抽出液中の水素イオン濃度の増大を抑制するコーヒー風味劣化防止方法(特許文献5)、コーヒー飲料の製造において、pH調整剤と抗酸化剤の少なくとも一方を水に溶解あるいは分散した添加剤溶液中に、コーヒー豆を加熱した水で抽出したコーヒー抽出液を注ぎ入れることを特徴とするコーヒー飲料の製造方法(特許文献6)などが挙げられる。
【0005】
一方、コーヒー抽出液の製造に逆浸透膜を用いる濃縮が行われている。逆浸透膜による濃縮は非加熱による濃縮であり、また、食塩よりも小さな分子については透過するが、食塩よりも大きな分子については大部分を保持するため、香気成分のような低分子の化合物を保持したまま濃縮することできるという利点がある。このような例としては、例えば、コーヒーなどの抽出液を限外濾過膜処理により呈味性の非透過部濃縮部分と芳香性の透過部に分け、芳香性の透過液を逆浸透膜濃縮し香気濃縮物を得、先に得られた呈味性の限外濾過膜非透過濃縮部分と混合することによる濃縮エキスの製造法(特許文献7)、嗜好性飲料抽出液をルーズ逆浸透膜で処理し、高濃度の呈味性の非透過部と芳香性の透過部を得、さらに芳香性の透過液を低圧逆浸透膜濃縮して香気濃縮物を得て、先に得られた高濃度の呈味性ルーズ逆浸透膜未透過部分と混合することによる嗜好性飲料抽出液の高濃度濃縮方法(特許文献8)、焙煎コーヒー豆の抽出液を逆浸透膜により濃縮して濃縮物と透過液を得、透過液から減圧蒸留法により香気濃縮液を回収し濃縮物と混合する濃縮コーヒーエキスの製造方法(特許文献9)、などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、これらの逆浸透膜による濃縮方法はいずれも、濃縮自体を目的としたものであって、香気劣化の防止や保存安定性の向上を目的としてものではなく、ましてや、酢酸を除去することにより、エキスや、そのエキスを用いて調製した飲料の香気劣化の防止や保存安定性の向上が達成できるといった記載は全く見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−74543号公報
【特許文献2】特開昭62−44137号公報
【特許文献3】特開平4−36148号公報
【特許文献4】特開平11−103778号公報
【特許文献5】特開2003−284495号公報
【特許文献6】特開2004−305060号公報
【特許文献7】特開昭56−29954号公報
【特許文献8】特開平4−88948号公報
【特許文献9】特開2003−319749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、先に、天然原料、特に焙煎コーヒー豆を水蒸気蒸留して香気を含む留出液を得、ついで水蒸気蒸留後の原料に水を加えて抽出して抽出液を得、留出液との抽出液の一部または全量を混合した後、逆浸透膜を用いて濃縮することを特徴とする香気濃縮物の製造方法(特願2008−172763:平成20年7月1日出願)を発明し、特許出願を行った。本発明者らは、この発明の過程およびその後の研究において以下のような知見を得た。すなわち、焙煎植物原料の水蒸気蒸留留出液そのもの単独(つまり、可溶性固形分などのいわゆるエキス分を混合していない状態)では、香気がやや湿っぽく、甘さが欠如し、またその後の保存においても安定性が悪いが、特願2008−172763の発明品は、からっとした焙煎的香ばしさ、および、甘い香気が強く、また、きわめて安定性が良いものであった。本発明者らは、この原因を解明すべく、鋭意研究を行った。
【0009】
その結果、(1)酢酸は焙煎植物原料エキスにおいて好ましくない風味をもたらすとともに、その後の風味劣化の原因でもある。(2)植物原料を焙煎すると、香ばしい香気が発生するが、それに伴い酢酸も増加する。(3)焙煎植物原料を水蒸気蒸留した場合、香気成分とともに酢酸が多量に留出するが、焙煎植物原料を直接水抽出したものよりも多量の酢酸が抽出される。(4)逆浸透膜による処理では、透過液側に酢酸が透過し、非透過側の酢酸は相対的に低減する。(5)酢酸を低減したエキスは香気が良好であるとともに、きわめて安定性がよい、ことを見いだした。さらに、逆浸透膜における処理においてエキス中の酢酸を効果的に低減させるために非透過液(濃縮液)側に、加水しながら処理を行うことにより、重要な香気成分を非透過液側に保持しながら透過液側に酢酸を透過させ、効率的に酢酸を除去できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明は、(A)焙煎植物原料を水抽出して得られる水性エキス、または、(B)焙煎植物原料を水蒸気蒸留して留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣を水抽出して抽出液を得、抽出液と先に得られた水蒸気蒸留留出液を混合することにより得られる水性エキス、のいずれかに対し逆浸透膜による透過処理を行い、非透過液を採取することを特徴とする焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、逆浸透膜による透過処理を行うに際して、非透過液に対して連続的または間欠的に加水を行うことを特徴とする前記の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、非透過液の濃度をBx換算で4°〜30°の範囲内に維持しながら行うことを特徴とする前記の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供するものである。
【0013】
さらにまた、本発明は、逆浸透膜処理後の酢酸含有量を逆浸透膜処理前の酢酸含有量に対して80%以下となるまで処理することを特徴とする前記の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供するものである。
【0014】
本発明では、さらに、焙煎植物原料が焙煎コーヒー豆であることを特徴とする前記の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供する。
【0015】
また、本発明では、さらに、実質的に香気を保持したまま酢酸含量を低減させる方法であることを特徴とする、前記の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明による酢酸の低減方法はプロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などの焙煎香気に重要な酸成分を保持したまま、香味的には比較的重要度が低く、かつ、安定性に悪影響をもたらす酢酸を除去することができる。本発明の方法では、例えば、pH調製の方法により酸を中和する方法とは異なり、酢酸そのものを低減させるため、きわめて香気が良好で、風味が安定な焙煎植物エキスを得ることができる。また、本発明の方法では、陰イオン交換樹脂による方法と比べ、クエン酸、リンゴ酸、クロロゲン酸などの呈味的に有用な有機酸は除去または低減しないため、焙煎植物原料本来の香味が維持されるというきわめて有利な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は逆浸透膜非透過液がBx15°となった時点で、水48Kgを添加し再度Bx15°とする操作を4回繰り返した時(合計で水を196Kg添加)の透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率を示したグラフである(実施例2)。
【図2】図2は逆浸透膜非透過液がBx15°となった時点で、水96Kgを添加し再度Bx15°とする操作を4回繰り返した時(合計で水を384Kg添加)の透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率を示したグラフである(実施例3)。
【図3】図3は逆浸透膜非透過液がBx15°となった時点で、水48Kgを添加し再度Bx15°とする操作を8回繰り返した時(合計で水を384Kg添加)の透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率を示したグラフである(実施例4)。
【図4】図4は逆浸透膜非透過液が約Bx15°となった時点より、非透過側に透過流速と同じ速度で連続的に水を添加・混合しながら処理を続けた時(水の添加量合計266Kg)の透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率を示したグラフである(実施例5)。
【図5】図5は実施例2〜実施例5における透過液量(Kg)と酢酸の透過率(%)の関係を示したグラフである。
【図6】図6は本発明品1〜5および比較品1の香気成分含有量を官能基別に分類して表したグラフである(実施例1〜5)
【図7】図7は実施例7、8、9における透過液量と酢酸透過率の関係を示したグラフである。
【図8】図8は実施例7、8、9における透過液量とピリジン透過率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において使用することのできる焙煎植物原料としては、例えば、コーヒー、ココア、ほうじ茶、番茶、玄米茶、麦茶、焙煎麦芽、焙煎玄米、ハトムギ茶、ブラックマテ茶などの製造工程において、焙煎が行われている植物原料を指すが、緑茶、紅茶、ウーロン茶、グリーンマテ茶などでも、100℃以上の強い火入れがされ、「火入れ香」が発生しているものも含めることができる。これらのうち、特にコーヒー、ほうじ茶、ハトムギ茶、玄米茶、麦茶、焙煎麦芽、ココアを好ましく例示することができ、これらのうち、最も好ましくはコーヒーを挙げることができる。コーヒーに使用しうる原料生豆としてはアラビカ種、リベリカ種、ロブスタ種等いずれでも良く、その種類、産地を問わずブラジル、コロンビア、インドネシア等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができる。また、コーヒー豆は、一種類の豆のみを単独で使用しても、また二種類以上の豆をブレンドして使用してもよい。
【0019】
これらの植物原料は、焙煎の程度により異なるが、通常は焙煎により、糖質、アミノ酸その他の成分などが加熱によりメイラード反応などを起こし、好ましい香ばしい香気が生成する。一方、香気の生成に伴い、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などの有機酸が生成する。これらのうち、酢酸およびギ酸は、香気成分の一部でもあるが、多量に存在すると、香気に湿っぽいマイナスの影響を与えるとともに、抽出液のpH低下、保存による風味劣化の原因となる。
【0020】
焙煎は、例えば、コーヒー豆を例に取ると、その原料の選択及び焙煎方法については、いかなる方法によって得られたものでも良く、生豆をコーヒーロースターなどを用いて常法により行うことができる。例えば、コーヒー生豆を回転ドラムの内部に投入し、この回転ドラムを回転攪拌しながら、下方からガスバーナー等で加熱することで焙煎できる。かかるコーヒー豆の焙煎の程度は、通常飲用に供される程度の焙煎であればいかなる範囲内でも良いが、L値として16〜30に焙煎することを例示できる。L値とはコーヒーの焙煎の程度を表す指標で、コーヒー焙煎豆の粉砕物の明度を色差計で測定した値である。黒をL値0で、白をL値100で表す。従って、コーヒー豆の焙煎が深いほど数値は低い値となり、浅いほど高い値となる。参考までに、通常飲用に利用される焙煎豆のL値はほぼ次に示す程度である。イタリアンロースト:16〜19、フレンチロースト:19〜21、フルシティーロースト:21〜23、シティーロースト:23〜25、ハイロースト:25〜27、ミディアムロースト:27〜29。これらの焙煎コーヒー豆中には通常、0.2%〜0.5%程度の酢酸が含まれている。
【0021】
焙煎植物原料は、水抽出または水蒸気蒸留の前に、粉砕することにより抽出効率が高まるため、焙煎後粉砕することが好ましいが、粉砕方法については特に制限はなく、いかなる粉砕方法、粉砕粒度も採用することができ、粉砕装置も、特に限定されるものではない。しかしながら、外気と接触せず、不活性気体中で適宜冷却でき短時間で粉砕できる装置を採用することにより香気の飛散が防止できるためより好ましい。
【0022】
焙煎植物原料から水抽出して得られる水性エキス(A)の調製方法としては、いかなる方法でもよく、例えば、焙煎植物原料1質量部に対し、水1質量部〜100質量部を加え、静置もしくは撹拌条件下に、室温〜100℃にて、使用温度に応じて2分〜5時間抽出を行い、冷却後、遠心分離、圧搾、濾過などのそれ自体既知の方法で固液分離して不溶物を除去することにより得られる焙煎植物原料抽出液を例示できる。水蒸気蒸留を伴わない水のみによる抽出における酢酸抽出量は、抽出条件によって変動するが、通常、原料中に含まれる酢酸量の5%〜30%程度が抽出されることが多い。水抽出により得られた抽出液はろ紙、サラン、ネルを用い、不溶成分等の濾過除去を行うが、その際、濾過助剤を併用しても良く、例えば、ケイソウ土、酸性白土、活性白土、タルク類、粘土、ゼオライト、粉末セルロース等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。さらに、濾過とは異なる手段として遠心分離で不純物の除去を行うことも効果的であり、単独、あるいは濾過と併用しても良い。
【0023】
また、例えば、焙煎植物原料をガラス又はステンレスなど適宜な材質のカラムに充填し、該カラムの上部もしくは下部より、室温〜100℃の熱水を、定量ポンプなどを用いて流し、カラム抽出することによって得られる抽出液を使用することもできる。かかるカラム抽出は所望により複数のカラムを直列に接続して行うことができる。上記の如くして得られる焙煎植物原料抽出液の濃度には特に制限はないが、一般的には、Brix0.2°〜20°の範囲内とすることができる。
【0024】
また、本発明では、焙煎植物原料をあらかじめ水蒸気蒸留して留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣を水により抽出して抽出液を得、抽出液と先に得られた水蒸気蒸留留出液を混合することにより得られる水性エキス(B)を使用することもできる。この方法では、水蒸気蒸留によりあらかじめ回収した香気をエキスと混合するため香気の強い水性エキスを得ることができる点が特徴である。しかしながら、水蒸気蒸留では、香気成分とともに酢酸が効率よく抽出されてしまうため、酢酸含量も多い水性エキスとなってしまうという欠点もある。したがって、このタイプのエキスは本発明の酢酸低減方法を行うことにより、効果的に風味および保存安定性が改善されるといえる。
【0025】
水蒸気蒸留法は天然原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法であり、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、気−液多段式交流接触蒸留(スピニングコーンカラム)などの方法を採用することができる。
【0026】
例えば、常圧水蒸気蒸留を用いる方法は、焙煎植物原料またはその粉砕物を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として香気を含む留出液を捕集することができる。必要に応じて、この香気捕集装置の先に冷媒を用いたコールドトラップを接続することにより、より低沸点の香気成分をも確実に捕集することができる。また、水蒸気蒸留の際に、窒素ガスなどの不活性ガス及び/又はビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で蒸留すると、香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができるので好適である。水蒸気蒸留では蒸留の初期に香気が多く留出し、その後、徐々に香気の留出が少なくなる。どこで蒸留を終了するかは、何回かの結果を参考に経済性等も考慮して決めるが、その結果、焙煎植物原料豆に対する回収香の割合は質量換算で1:0.5〜1:5程度となり、Bx0.5°〜5°程度の回収香が得られる。
【0027】
また、例えば、焙煎植物原料の粉砕物を水と混合しスラリーとして、それを気−液向流接触法により香気回収する方法は、例えば、特公平7−22646号公報に記載の装置を用いて抽出する方法を採用することができる。この装置を用いて香気を回収する手段を具体的に説明すると、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する気−液向流接触抽出装置の回転円錐上に、液状またはペースト状の嗜好性飲料用原料を上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収する方法を例示することができる。この気−液向流接触抽出装置の操作条件としては、該装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に選択することができる。焙煎植物原料のスラリーにおける焙煎植物原料と水の比率は、焙煎植物原料スラリーが流動性をもつ状態となる量であればいかなる比率も採用することができるがおおよそ、焙煎植物原料1質量部に対し水5倍量〜30倍量を例示することができる。水が、この範囲を下回る場合、流動性が出にくく、また、水がこの範囲をはずれて多い場合、得られる留出液の香気が弱くなる傾向がある。
【0028】
気−液向流接触抽出装置の操作条件の一例を示せば、下記のごとくである。
【0029】
原料供給速度:300〜700L/hr
蒸気流量:5〜50Kg/hr
蒸発量:3〜35Kg/hr
カラム底部温度:40〜100℃
カラム上部温度:40〜100℃
真空度:大気圧〜−100kPa(大気圧基準)
以上のような、水蒸気蒸留による香気の回収方法では、香気のみならず酢酸の抽出効率も高く、水蒸気蒸留の条件によっても変動するが、通常、原料中の酢酸量の50%〜95%程度が抽出される。
【0030】
次いで、焙煎植物原料に水を加えて抽出して抽出液を得る工程では、焙煎植物原料として上記の如き水蒸気蒸留を行った後の残渣を用いる。例えば、水蒸気蒸留残渣に対して、1〜5倍量の水を加え、5℃〜95℃の範囲の温度で0.5〜24時間の抽出を行い、濾過後、30℃以下に冷却し、Bx2°〜10°程度の抽出液が得られる。
【0031】
濾過は、ろ紙、サラン、ネルを用い、不溶成分等の除去を行うが、その際、濾過助剤を併用しても良く、例えば、ケイソウ土、酸性白土、活性白土、タルク類、粘土、ゼオライト、粉末セルロース等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。さらに、濾過とは異なる手段として遠心分離で不純物の除去を行うことも効果的であり、単独、あるいは濾過と併用しても良い。
【0032】
かくして得た香気を含む留出液全量に対して上記抽出液の一部、または全量を混合する。両者の混合割合は、(留出液を得るのに使用した焙煎植物原料の量)/(抽出液を得るために使用した焙煎植物原料の量)の比率で示すと、1/3〜10/1の範囲、好ましくは1/1〜5/1の範囲、より好ましくは1/1〜3/1の範囲を挙げることができる。(留出液を得るのに使用した焙煎植物原料の量)/(抽出液を得るために使用した焙煎植物原料の量)の比率が10/1の範囲より大きい場合、香気成分が逆浸透膜に吸着してしまう傾向があり、香気のロスが多くなってしまうため好ましくない。また、(留出液を得るのに使用した焙煎植物原料の量)/(抽出液を得るために使用した焙煎植物原料の量)の比率が1/1より小さい場合、水蒸気蒸留を行った香気成分全量を有効に利用することができず好ましくない。
【0033】
また、前記の(A)および(B)のいいずれの抽出においても、その水抽出時および/または水抽出後に酵素を用いることができる。使用することのできる酵素としては、例えば、アミラーゼ、セルラーゼ、マンナナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどを挙げることができ、これらを、適当な添加量、適当な温度により、適当時間作用させることにより、後の逆浸透膜処理において、ファウリングや目詰まりなどを防止することができる。
【0034】
本発明では、前記の方法により得られた、(A)または(B)のいずれの焙煎植物原料の水性エキスでも、逆浸透膜による透過処理を行い、非透過液を採取することにより焙煎植物原料水性エキスの酢酸を低減することができる。
【0035】
本発明で用いる逆浸透膜は、その材質、分子構造など特に限定はないが、例えば、市販品であるSU−720(食塩阻止率99.4%)、SU−720F(食塩阻止率99.4%)、SU−720L(食塩阻止率99.0%)、SU−820(食塩阻止率99.75%)、SU−820L(食塩阻止率99.7%)、以上、東レ株式会社製RO膜;低圧スパイラル型ROエレメントNTR−759HR(食塩阻止率99%)、低圧スパイラル型ROエレメントLF10シリーズ(食塩阻止率98.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES10(食塩阻止率99.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES15−D(食塩阻止率99.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES20−D(食塩阻止率99.7%)、低圧スパイラル型ROエレメントES15−U(食塩阻止率93%)、NTR70HG S2F(食塩阻止率99%)、NTR759HG S2F(食塩阻止率99%)、以上、日東電工社製RO膜;フィルムテックSW30−HR320(食塩阻止率99.4%)、フィルムテックSW30−HR380(食塩阻止率99.4%)、フィルムテックSW30−XLE400i(食塩阻止率99.6%)、以上、ムロマチテクノス社製RO膜等を挙げることができる。特に食塩阻止率99%以上の膜は重要な香気成分を保持したまま、酢酸を透過側に排出し、香気バランスの良い天然濃縮エキスが得られるので好ましい。
【0036】
食塩阻止率は逆浸透膜の透過性を表す数値であり、水中でNaイオンとClイオンに解離している食塩の透過しにくさを示し、食塩阻止率99%のように表示され、一般に市販品では食塩阻止率90%〜99.8%程度のものがある。また、実際の逆浸透膜を含む濃縮装置は、着脱可能な円筒状の膜モジュール、膜モジュールに濃縮しようとする液を循環して供給するポンプ部、コントロール部などからなる装置である場合が多いが、形式はどんなものであっても良い。
【0037】
逆浸透膜による焙煎植物原料水性エキスの透過処理は通常、0.1MPa〜50MPa、好ましくは0.5MPa〜5MPaの操作圧力で行う。また、操作温度は、5℃〜50℃程度の温度範囲で行うことが好ましい。一般に温度が高い方が水の透過速度が大きくなるが、含有する成分の溶解性、安定性、逆浸透膜への吸着性なども原料により異なるので、好ましい処理温度を検討してから実際の操作を行うことが望ましい。
【0038】
逆浸透膜による処理により非透過液側から水は膜を通過し透過側に排出除去されるが、水の透過に伴い酢酸が透過液側に排出除去される。一方、可溶性の固形分および香気成分は非透過側に残存する。酢酸は逆浸透膜を透過しやすく、透過側に移動するが、酢酸の透過速度は、非透過液側の酢酸濃度と水の透過速度に依存するため、焙煎植物原料水性エキスの濃度が、ある程度高い方が酢酸の排出速度が高まることになる。好ましい非透過液の濃度としては、例えば、焙煎植物水性エキスがコーヒーエキスである場合、Bxとして4°〜30°、より好ましくはBx8°〜28°、さらに好ましくはBx12°〜27°を例示することができる。焙煎植物原料水性エキスの濃度がBxが4°より低い場合、透過する水の量の割に排出される酢酸の量が少なく、そのため処理に時間を要してしまい効率的でない。一方、非透過液の濃度が高くなりすぎると、非透過液自体の浸透圧により、透過速度が低減するため、酢酸の排出速度も低減する。焙煎植物原料水性エキスの濃度がBx30°よりも高い場合、水自体が透過しにくくなり、その結果、酢酸も透過されなくなるため効率が悪い。
【0039】
したがって、焙煎植物原料水性エキスの濃度がBxが4°より低い場合、一旦、Bx4°〜12°程度の濃度まで逆浸透膜により濃縮した後、Bxを4°〜30°の範囲に維持するように非透過液に対して連続的または間欠的に加水を行いながら逆浸透膜処理を行うことにより、酢酸を効率よく非透過液側に排出することができる。
【0040】
また、前記非透過液または透過液の酢酸含量はHPLC法などにより測定するとができる。酢酸含量を測定しながら処理を行うことにより、処理の終点の判断基準とすることができる。目的とする処理後の非透過液側の酢酸含量は、少なければ少ないほど好ましいが、逆浸透膜処理後の非透過液側の酢酸含有量を逆浸透膜処理前に対して80%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下となるまで処理することにより、処理後の焙煎植物原料水性エキスを実質的に香気を保持したまま、香気の質を改善し、さらにまた、香気の保存安定性を高めることができる。
【0041】
本発明では逆浸透膜処理に供する原液として、(A)焙煎植物原料から水により抽出して得られる水性エキス、または、(B)焙煎植物原料を水蒸気蒸留して留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣を水により抽出して抽出液を得、抽出液と先に得られた水蒸気蒸留留出液を混合することにより得られる水性エキス、のいずれかを用いるため、逆浸透膜への香気の吸着が起こりにくく(特願2008−172763参照)、実質的に香気を保持したまま酢酸含有量を低減させる方法であることが特徴である。香気が保持されていることの指標としては、全香気成分を測定する方法や風味評価によっても確認することができるが、ピリジンを1つの指標とすることができると考えられる。ピリジンはコーヒーの重要香気成分群であるピラジン類、ピリジン類など含窒素化合物のうちでも、比較的分子量が小さい成分の一つで(m.w.=79)、酢酸(m.w.=60)とほぼ同程度の分子量であるが、本発明の方法では逆浸透膜の透過量は酢酸と比べてはるかに少なく、非透過液側に保持される。前記非透過液または透過液のピリジン含量はHPLC法などにより測定するとができる。本発明の方法により、香気が実質的に保持されているといえるためには、逆浸透膜処理後の非透過液側のピリジン含量は、逆浸透膜処理後のピリジン含有量を逆浸透膜処理前のピリジン含有量に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上となる範囲内で処理することが好ましい。
【0042】
本発明の方法により得られる酢酸を一定量以下にまで低減した焙煎植物原料水性エキスは、必要に応じ、引き続き逆浸透膜により濃縮することも可能である。なお、逆浸透膜による濃縮では濃縮に伴い、非透過液側の浸透圧および粘度が上昇するため、通常、Bx30°程度まで濃縮すると、濃縮が困難になり、実質的に水の通過が止まる。したがって、この濃縮の手前の任意の段階で濃縮を終了することが好ましい。
【0043】
本発明の方法により得られる酢酸含有量の低減した焙煎植物原料水性エキスは、そのまま水溶液の形態として使用することもできるが、所望により該エキスにデキストリン、加工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガム等の賦形剤を添加又は添加しないで、ペースト状とすることもでき、さらにまた、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの適宜な乾燥手段を採用して乾燥することにより粉末状とすることもできる。さらに本発明の方法により得られる酢酸含有量の低減した焙煎植物原料水性エキスは、所望により、他の方法で得られる天然抽出エキス、香料、抗酸化剤、色素、ビタミンなどの任意の食品素材または添加剤を添加することもできる。
【0044】
かくして本発明の方法により得られる酢酸含有量の低減した焙煎植物原料水性エキス、または、その製剤は、例えば、コーヒー飲料、清涼飲料、炭酸飲料、乳飲料、機能性飲料などの飲料類;キャンディー、クッキー、ケーキ、ゼリーなどの菓子類などに本発明品を適当量を添加することにより、からっとした甘さを伴うロースト感を有し、天然感あふれるバランスのよい、良好な焙煎植物原料の香味が付与され、経時的にも風味の安定性の非常に良い飲食品を提供することができる。
【0045】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0046】
[酢酸、ギ酸およびピリジンの測定]
以下の実施例、比較例における比較品、本発明品および参考品は酢酸、ギ酸およびピリジンをHPLC法にて濃度(mg%)を測定した。
【0047】
HPLC分析条件(酢酸およびギ酸)
機種:JASCO RU−2080−51(日本分光)
カラム:Shodex(登録商標)KC−811(8.0×300mm×3)
溶離液:3mmol過塩素酸水溶液
反応液:ST3−R(有機酸分析用反応試薬)
カラム温度:50℃
注入量:20μl
流速:溶離液1.2ml/min、反応液0.6ml/min
溶離方法:アイソクラティック(ポストカラム反応法)
検出条件:410nm
HPLC分析条件(ピリジン)
機種:SHIMADZU LC20−A(島津製作所)
カラム:Asahipak ODP−50(6.0×250mm)
溶離液:水:アセトニトリル:リン酸=800:200:2
カラム温度:50℃
注入量:10μl
流速:0.8ml/min
溶離方法:アイソクラティック
検出条件:254nm
また、成分量、透過率および保持率を下記の通り定義し、算出した。
成分量(g)=液の収量(Kg)×成分濃度(mg%)/100
成分透過率(%)=(透過液中の成分量(g)/濃縮前の液中の成分量(g))×100成分保持率(%)=(濃縮液中の成分量(g)/濃縮前の液中の成分量(g))×100。
【0048】
比較例1(焙煎コーヒー豆を水蒸気蒸留して留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣を水により抽出して抽出液を得、抽出液と先に得られた水蒸気蒸留留出液を混合することにより得られる水性エキスの調製)
グアテマラSHB(L値15.5の焙煎豆)32Kgをコーヒーミルにて粒度1mmに粉砕し、120Lステンレス製カラムに仕込んだ。また、焙煎コーヒー豆を仕込みながら同時平行して、1%アスコルビン酸ナトリウム水溶液16Kgを仕込み、コーヒー豆全体に行き渡るようにした。カラムを密閉し、カラム内を窒素ガスにて置換した後、カラム下部より窒素ガス(流量12.8L/min)を混合した水蒸気を送り込み、水蒸気蒸留し、カラム上部から吹き出す香気を伴った水蒸気を冷却管にて凝縮させ、留出液64Kg(pH3.18)を得た(蒸留時間2時間)。留出液は炭酸水素ナトリウム96.17gを加えて、pHを5.0に調製した(参考品1:pH5.00)。
【0049】
水蒸気蒸留後のコーヒー豆に、上部から90℃熱水を送り込み、カラム内を熱水で満たした後(約10分所要)、30分間静置し、その抽出液をカラム下部から抜き取りながら、カラム上部からさらに90℃熱水を送り込み、抜き取った抽出液はすぐに30℃以下まで冷却し、抽出液108.6Kgを得た(抽出所要時間合計90分)。抽出液は、シャープレス式遠心分離機により遠心分離し、清澄な抽出液100.7Kgを得た(参考品2:Bx8.77°、pH4.94)。
【0050】
留出液(参考品1)64Kgと抽出液(参考品2)32.2Kgを混合し、混合液96.2Kgを得た(留出液と抽出液の混合割合は、留出液は全量使用し、留出液1Kgに対して可溶性固形分(Bx換算)で44.1g相当の抽出液を混合)(比較品1:Bx3.16°、pH5.02、酢酸濃度82.8mg%、酢酸量79.65g、ギ酸濃度27.4mg%、ギ酸量26.4g、ピリジン濃度17.99mg%、ピリジン量17.3g)。
【0051】
実施例1(比較品1の逆浸透膜処理:加水なし)
比較品1(96.2Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理しBx26°の濃縮液8.90Kgおよび透過液91.5Kg(参考品3:Bx0.03°、pH5.17、酢酸濃度7.9mg%、酢酸量7.23g、ギ酸濃度4.2mg%、ギ酸量3.84g、ピリジン濃度0.47mg%、ピリジン量0.43g)を得た(逆浸透膜処理時間約6時間)。濃縮液は90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品1:収量8.90Kg、Bx26.0°、pH5.05、可溶性固形分量2316.7g、酢酸濃度822.5mg%、酢酸量73.2g、ギ酸濃度253.9mg%、ギ酸量22.6g、ピリジン濃度189.5mg%、ピリジン量16.87g)を得た。
【0052】
濃縮液(本発明品1)および透過液(参考品3)における、酢酸、ギ酸およびピリジンの保持率および透過率を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
逆浸透膜濃縮処理により、エキス中の酢酸量は処理前のエキス中の約90%に、ギ酸は85%に低下した。一方、ピリジンは97.5%がエキス中に保持されていた。
【0055】
実施例2(比較品1の逆浸透膜処理:Bx15°濃縮液に加水を4回繰り返し)
比較品1(96.2Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理した。非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水48Kgを添加し(水添加後のBx4.5)、さらに逆浸透膜処理を続け、再び非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水48Kgを添加し、この操作を4回繰り返した(水の添加量48Kgを4回、合計192Kg)。4回目の水添加の後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx26°の濃縮液8.86Kgおよび透過液283.5Kg(参考品4:Bx0.03°、pH5.17、酢酸濃度8.5mg%、酢酸量24.1g、ギ酸濃度4.5mg%、ギ酸量12.8g、ピリジン濃度0.6mg%、ピリジン量1.7g)を得た(逆浸透膜処理時間約15時間)。濃縮液は90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品2:収量8.86Kg、Bx26.0°、pH5.07、可溶性固形分量2303.6g、酢酸濃度612.9mg%、酢酸量54.3g、ギ酸濃度152.4mg%、ギ酸量13.5g、ピリジン濃度17.6mg%、ピリジン量15.6g)を得た。
【0056】
濃縮液(本発明品2)および透過液(参考品4)における、酢酸、ギ酸およびピリジンの保持率および透過率を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
さらにまた、逆浸透膜処理時の透過液量それぞれの成分の透過率を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示したとおり、逆浸透膜を通じて排出される水の量が増えるにつれ、酢酸およびギ酸は逆浸透膜を透過し排出されたが、ピリジンはあまり透過しなかった。
【0061】
さらにまた、実施例2における透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率の関係を図1に示した。水の透過に伴い、ギ酸および酢酸は透過するが、ピリジンの透過率は酢酸およびギ酸と比較して、低くなっており、非透過液側に保持されることがわかる。
【0062】
実施例3(比較品1の逆浸透膜処理:Bx15°濃縮液に加水を4回繰り返し(1回の加水量を実施例2の2倍とした))
比較品1(96.2Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理した。非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水96Kgを添加し(水添加後のBx2.6°)、さらに逆浸透膜処理を続け、再び非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水96Kgを添加し、この操作を4回繰り返した(水の添加量96Kgを4回、合計384Kg)。4回目の水添加の後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx26°の濃縮液8.92Kgおよび透過液475.5Kg(参考品5:Bx0.02°、pH5.14、酢酸濃度6.0mg%、酢酸量28.5g、ギ酸濃度3.15mg%、ギ酸量15.0g、ピリジン濃度0.4mg%、ピリジン量1.9g)を得た(逆浸透膜処理時間約24時間)。濃縮液は90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品3:収量8.85Kg、Bx26.0°、pH5.10、可溶性固形分量2301g、酢酸濃度567.8mg%、酢酸量50.2g、ギ酸濃度125.4mg%、ギ酸量11.1g、ピリジン濃度17.4mg%、ピリジン量15.4g)を得た。
【0063】
濃縮液(本発明品3)および透過液(参考品5)における、酢酸、ギ酸およびピリジンの保持率および透過率を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
さらにまた、逆浸透膜処理時の透過液量とそれぞれの成分の透過率を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
表5に示したとおり、実施例2よりも1回当たりに添加する水の量を増やし、2倍の水を添加したにもかかわらず、酢酸およびギ酸の透過量は実施例2と比べやや増えた程度であり、それほど大きく増えなかった。
【0068】
さらにまた、実施例3における透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率の関係を図2に示した。酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率は、全体に実施例2よりいずれもややと高い傾向であったが、実施例2と比較してほぼ同様の傾向を示した。
【0069】
実施例4(比較品1の逆浸透膜処理:Bx15°濃縮液に加水を8回繰り返し(1回の加水量を実施例2と同じ))
比較品1(96.2Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理した。非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水48Kgを添加し(水添加後のBx4.5°)、さらに逆浸透膜処理を続け、再び非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水48Kgを添加し、この操作を8回繰り返した(水の添加量48Kgを8回、合計384Kg)。8回目の水添加の後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx26°の濃縮液8.75Kgおよび透過液477.2Kg(参考品6:Bx0.02°、pH5.10、酢酸濃度8.5mg%、酢酸量40.6g、ギ酸濃度4.3mg%、ギ酸量20.5g、ピリジン濃度0.44mg%、ピリジン量2.1g)を得た(逆浸透膜処理時間約27時間)。濃縮液は90℃1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品4:収量8.83Kg、Bx26.0°、pH5.14、可溶性固形分量2296g、酢酸濃度440.5mg%、酢酸量38.9g、ギ酸濃度65.7mg%、ギ酸量5.8g、ピリジン濃度17.2mg%、ピリジン量15.2g)を得た。
【0070】
濃縮液(本発明品4)および透過液(参考品6)における、酢酸、ギ酸およびピリジンの保持率および透過率を表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
さらにまた、逆浸透膜処理時の透過液量とそれぞれの成分の透過率を表7に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
表7に示したとおり、実施例2と比べ、1回に添加する水の量を同じとして、2倍の回数を添加したところ、合計の水の添加量では実施例3と同じであるにも関わらず、酢酸およびギ酸の透過量は実施例2および実施例3と比べ大幅に増えた。
【0075】
この理由としては、酢酸(ギ酸)の透過速度は、非透過液側の酢酸(ギ酸)濃度と水の透過速度に依存し、コーヒーエキスの濃度が、ある程度高い方が酢酸(ギ酸)の排出速度が速まるためと考えられる。したがって、実施例2または実施例4のように、加水後のBxが4°を超える濃度で逆浸透膜処理を行うことにより、酢酸(およびギ酸)を効率的に透過除去することができると考えられる。
【0076】
さらにまた、実施例4における透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率の関係を図3に示した。ピリジンの透過率は、実施例2とほぼ同様であったが、酢酸およびギ酸は実施例1および実施例2と比較して、いずれもかなり高くなっており、Bx15°付近で水を添加する方法が、酢酸およびギ酸を除去するために効果的であることが示された。
【0077】
実施例5(比較品1の逆浸透膜処理:Bx15°濃縮液の濃度を維持しながら加水)
比較品1(96.2Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理した。非透過側の液が約Bx15°となった時点より、非透過側に透過流速と同じ速度で連続的に水を添加・混合しながら(約14Kg/hr.、非透過液の濃度Bx約15°を維持)逆浸透膜処理を19時間続け、(水の添加量合計266Kg)。その後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx26°の濃縮液8.75Kgおよび透過液353.2Kg(参考品7:Bx0.03°、pH5.10、酢酸濃度10.9mg%、酢酸量38.5g、ギ酸濃度5.69mg%、ギ酸量20.1g、ピリジン濃度0.57mg%、ピリジン量2.0g)を得た(逆浸透膜処理時間約23時間)。濃縮液は90℃1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品5:収量8.86Kg、Bx26.0°、pH5.12、可溶性固形分量2303.6g、酢酸濃度460.5mg%、酢酸量40.8g、ギ酸濃度70.5mg%、ギ酸量6.24g、ピリジン濃度17.27mg%、ピリジン量15.3g)を得た。
【0078】
濃縮液(本発明品5)および透過液(参考品7)における、酢酸、ギ酸およびピリジンの保持率および透過率を表8に示す。
【0079】
【表8】

【0080】
さらにまた、逆浸透膜処理時の透過液量とそれぞれの成分の透過率を表9に示す。
【0081】
【表9】

【0082】
表9に示したとおり、逆浸透膜の非透過液のBxを15°付近に維持するように連続的に加水しながら逆浸透処理を行ったところ、実施例3と比べ、合計の加水量では実施例3と比べ約70%であるにも関わらず(実施例3:384Kg、実施例4:266Kg)、酢酸およびギ酸の透過量は実施例3とほぼ同等であった。
【0083】
さらにまた、実施例4における透過液量と酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率の関係を図4に示した。酢酸、ギ酸およびピリジンの透過率は実施例3とほぼ同等であったが、少ない水の量で同程度の効果を達成することができた。
【0084】
ピリジンの透過率は、実施例3とほぼ同様であったが、酢酸およびギ酸は実施例1および実施例2と比較して、いずれもかなり高くなっており、Bx15°付近で加水する方法が、酢酸およびギ酸を除去するために効果的であることが示された
以上、比較例1および実施例1〜5の結果を表10にまとめた。また、実施例2〜5における透過液量(Kg)と酢酸透過率(%)を図5に示した。
【0085】
【表10】

【0086】
表10に示したとおり、逆浸透膜処理により、酢酸は水とともに逆浸透膜外に透過することが示された。比較品1を逆浸透膜処理することにより得られた本発明品1の酢酸量は比較品1の91.9%にまで低減していた。また、逆浸透膜処理の途中で膜保持液に水を加えることにより、酢酸およびギ酸の透過量の増加が見られ、本発明品2の酢酸量は比較品1の68.2%にまで低減していた。さらにまた、1回に加える水の量を増やすよりも(実施例3参照:本発明品3の酢酸保持率63.0%)、膜保持液が高濃度となったところでより少ない量を回数を増やして水を添加する方が、効率よく酢酸およびギ酸を透過でき(実施例4参照:本発明品4の酢酸保持率48.8%)、さらにまた、非透過液が高濃度となったときに(Bx15°)透過液量と同量の水を連続的に添加することにより、さらに効率よく酢酸およびギ酸を透過できることが示された(実施例5参照)。
【0087】
[比較品1および本発明品1〜5の香気分析]
比較品1および本発明品1〜5の試料300gそれぞれに食塩45gを溶解し、ジメチルエーテル105mLにて3回抽出した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過後常法にて溶剤を留去し香気濃縮物を得た。得られた香気濃縮物を下記の条件でガスクロマトグラフィー分析を行なった。
【0088】
ガスクロマトグラフィー分析条件
機種:ヒューレットパッカード HP−6890
カラム:Fused Silica Capillary
OV101 60m×0.25mm
カラム温度:70〜220℃(3℃/min)
Injection温度:250℃
Detector温度:250℃
キャリアガス:N 1.8Kg/cm
それぞれの分析結果より、香気化合物をフラン類、酸類、N−化合物、ケトン類、フェノール類、アルコール類、エステル類、アルデヒド類、その他に分類し、それぞれの成分量(ppm)をBxで割った値(Bx1°当たりの香気成分量)を表11および図6に示した。
【0089】
【表11】

【0090】
表11および図6に示したとおり、本発明品は酸類が減少しているが、その他の香気成分は酸類と比較して、あまり減少しておらず、酸類以外の香気成分は保持されていることが示された。したがって、本発明の方法では、実質的に香気成分を保持したまま酢酸およびギ酸含有量を低減させることができるものと思われる。
【0091】
[本発明品1〜5および比較品1の官能評価]
本発明品1〜5および比較品1をそれぞれ水にて飲用濃度(Bx1.0°)に希釈し、飲料充填用ショート缶にそれぞれ190gずつ充填し、窒素ブロー密閉後、121℃、20分間レトルト殺菌を行った。
【0092】
得られた缶飲料は10名の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。その平均的な評価を表12に示す。
【0093】
【表12】

【0094】
表12に示したとおり、本発明品を希釈、殺菌した飲料は、酸臭、イモ臭が弱くコーヒーの豆感やレギュラー感があり、甘く香ばしい香りが感じられ、また、酢酸およびギ酸が最も低減している本発明品4および本発明品5が最も良好で、次いで本発明品3、本発明品2、本発明品1の順であった。酢酸保持率が91.9%である本発明品1は比較品1と比べ酸味、酸臭イモ臭はやや弱いが、まだ多少酸味、酸臭、イモ臭が感じられたのに対し、酢酸保持率68.2%であった本発明品2は酸味は弱く、コーヒーのレギュラー感があり、甘く香ばしい香りが感じられ、香味のバランスが良かった。また、さらに酢酸の低減している本発明品3〜5は風味的にもさらに良好な結果であった。したがって、酢酸およびギ酸含有量が低減するにつれて、殺菌後の飲料の香味も良くなる傾向があり、酢酸保持率をおおよそ80%以下とすることにより、酸味、酸臭、イモ臭などを大きく改善することができるものと思われた。
【0095】
[本発明品1〜5および比較品1の熱虐待試験]
先に得られた本発明品1〜5および比較品1のそれぞれの缶飲料を55℃、3週間および4℃、3週間保存した。4℃、3週間保存品をコントロールとして、55℃、3週間の風味劣化を10名の良く訓練されたパネラーにより評価した。その平均的な評価を表13に示す。
【0096】
【表13】

表13に示したとおり、本発明品を希釈、殺菌した飲料を加温保存したものは、香りが減少しにくく、また、酸味が発生しづらく保存安定性が良好であった。保存安定性は本発明品4および本発明品5が最も良好で、次いで本発明品3、本発明品2、本発明品1の順であり、酢酸およびギ酸含有量が低減するにつれて、保存安定性も良くなる傾向が見られた。すなわち、酢酸保持率をおおよそ80%以下とすることにより、熱安定性も大きく改善することができた。
【0097】
比較例2(焙煎コーヒー豆から水により抽出して得られる水性エキスの調製)
グアテマラSHB(L値15.5の焙煎豆)32Kgをコーヒーミルにて粒度1mmに粉砕し、120Lステンレス製カラムに仕込んだ。また、焙煎コーヒー豆を仕込みながら同時平行して、1%アスコルビン酸ナトリウム水溶液16Kgを仕込み、コーヒー豆全体に行き渡るようにした。
【0098】
次いでカラム上部から90℃熱水を送り込み、カラム内が熱水で満たされた後(約10分所要)、30分間静置し、その抽出液をカラム下部から抜き取りながら、カラム上部からさらに90℃熱水を送り込み、抜き取った抽出液はすぐに30℃以下まで冷却し、抽出液108.6Kgを得た(抽出所要時間合計90分)。抽出液は、シャープレス式遠心分離機により遠心分離し、清澄な抽出液101.5Kgを得た(比較品2:Bx9.1°、pH4.94、酢酸濃度18.9mg%、酢酸量19.2g、ギ酸濃度5.1mg%、ギ酸量5.2g)。
【0099】
実施例6(比較品2の逆浸透膜処理:Bx15°濃縮液に加水を5回繰り返し)
比較品2(101.5Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理した。非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水60Kgを添加し(水添加後のBx7.5°)、さらに逆浸透膜処理を続け、再び非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水60Kgを添加し、この操作を5回繰り返した(水の添加量62Kgを5回、合計310Kg)。5回目の水添加の後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx26°の濃縮液35.2Kgおよび透過液374.5Kg(参考品7:Bx0.02°、pH5.10、酢酸濃度1.26mg%、酢酸量4.7g、酢酸透過率24.5%、ギ酸濃度0.77mg%、ギ酸量2.88g、ギ酸透過率55.4%)を得た。濃縮液は90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品6:収量34.8Kg、Bx26.0°、pH5.04、酢酸濃度41.3mg%、酢酸量14.4g、酢酸保持率75.0%、ギ酸濃度6.49mg%、ギ酸量2.26g、ギ酸保持率47.4%)を得た。
【0100】
[比較品2および本発明品6の官能評価]
比較品2および本発明品6をそれぞれ水にて飲用濃度(Bx1.0°)に希釈し、飲料充填用ショート缶にそれぞれ190gずつ充填し、窒素ブロー密閉後、121℃、20分間レトルト殺菌を行った。
【0101】
得られた缶飲料は10名の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。その平均的な評価を表14に示す。
【0102】
【表14】

【0103】
表14に示したとおり、逆浸透膜処理により酢酸およびギ酸を低減した本発明品6は酸味が弱く、コーヒーの豆感やレギュラー感があり、甘く香ばしい香りが感じられ、香味のバランスが良好であった。
【0104】
比較例3
グアテマラSHB(L値24.0の焙煎豆)200Kgをコーヒーミルにて粒度1mmに粉砕し、1200Lステンレス製カラムに仕込んだ。また、焙煎コーヒー豆を仕込みながら同時平行して、1%アスコルビン酸ナトリウム水溶液100Kgを仕込み、コーヒー豆全体に行き渡るようにした。カラムを密閉し、カラム内を窒素ガスにて置換した後、カラム下部より窒素ガス(流量80L/min)を混合した水蒸気を送り込み、水蒸気蒸留し、カラム上部から吹き出す香気を伴った水蒸気を冷却管にて凝縮させ、留出液400Kg(pH2.88)を得た(蒸留時間2時間)。(参考品8)
水蒸気蒸留後のコーヒー豆に、上部から90℃熱水400Kgを送り込み、10分間静置し、約30分かけて抽出液を抜き取り、抜き取った抽出液はすぐに30℃以下まで冷却し、抽出液133Kg(Bx14.45°)を得た(抽出所要時間合計40分)。抽出液は、ウエストファリャ社製分離板型遠心分離機により遠心分離し、清澄な抽出液を得た。抽出液は水にてBx11°に調整した(参考品9:Bx2.84°、pH4.16)。
【0105】
留出液(参考品8)400Kgと抽出液(参考品9)200Kgを混合し、混合液600Kgを得た(留出液と抽出液の混合割合は、留出液は全量使用し、留出液1Kgに対して可溶性固形分(Bx換算)で44.1g相当の抽出液を混合)(比較品3:Bx2.84°、pH4.16)。
【0106】
実施例7(比較品3の逆浸透膜処理:Bx25°濃縮液に加水を12回繰り返し)
比較品3(130Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理し、非透過側の液が約Bx25°となった時点で、水14.8Kgを加水し(対濃縮物等量の水を添加、水添加後のBx12.5°)、さらに逆浸透膜処理を続け、再び非透過側の液が約Bx25°となった時点で、水14.8Kgを添加し、この操作を12回繰り返した(水の添加量14.8Kgを12回、合計177.6Kg)。12回目の加水の後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx20°の濃縮液15.56Kgおよび透過液292Kg(参考品10)を得た(逆浸透膜処理時間約16.5時間)。濃縮液は重曹にてpHを5.00に調整し、90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品7:収量15.56Kg、Bx20.0、pH5.00)を得た。
【0107】
実施例8(比較品3の逆浸透膜処理:Bx15°濃縮液に加水を12回繰り返し)
比較品3(130Kg)を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理し、非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水24.6Kgを加水し(対濃縮物等量の水を添加、水添加後のBx7.5°)、さらに逆浸透膜処理を続け、再び非透過側の液が約Bx15°となった時点で、水24.6Kgを加水し、この操作を12回繰り返した(水の添加量24.6Kgを12回、合計295.2Kg)。12回目の水添加の後、さらに逆浸透膜処理を続け、最終的にBx20°の濃縮液14.68Kgおよび透過液430Kg(参考品11)を得た(逆浸透膜処理時間約20.0時間)。濃縮液は重曹にてpHを5.00に調整し、90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品8:収量14.68Kg、Bx20.0、pH5.00)を得た。
【0108】
実施例9(未濃縮液に一度に大量に加水)
比較品3(130Kg)に水1560Kg(比較品3の12倍量)を加え、を逆浸透膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/min、温度30℃にて処理し、Bx20°の濃縮液14.5Kgおよび透過液1669Kg(参考品12)を得た(逆浸透膜処理時間約21.5時間)。濃縮液は90℃、1分間加熱殺菌後、ただちに30℃以下まで冷却して容器に充填し、コーヒーエキス(本発明品9:収量14.5Kg、Bx20.0°、pH5.02)を得た。
【0109】
本発明品7、8、9および参考品10、11、12は酢酸、ギ酸およびピリジンをHPLC法にて濃度(mg%)を測定し、それぞれの透過率および保持率を算出した。結果を表15に示す。
【0110】
また、実施例7、8、9における透過液量と酢酸透過率の関係を図7に、実施例7、8、9における透過液量とピリジン透過率の関係を図8に示す。
【0111】
【表15】

【0112】
実施例7〜9では、逆浸透膜処理における保持液側の濃度と酢酸およびピリジンの透過率を検証した。表15および図6に示したとおり、保持液の濃度が最も低い実施例9では水を大量に透過させた(約1600Kg)にもかかわらず、酢酸の透過率は最も低かった(19.4%)。また、大量の水を透過させたため、処理に最も長く時間を要した。実施例8は保持液のBx15°付近において保持液と等量の加水を繰り返したものであるが、水の透過量が実施例9の約1/4(430Kg)であるにもかかわらず、酢酸の70%以上を透過させることができた。さらに、実施例7は保持液のBx25°付近において保持液と等量の加水を繰り返したものであるが、水の透過量がさらに少ない(292Kg)にもかかわらず、酢酸の80%以上を透過させることができ、処理時間も最も短かった(16.5hr.)。
【0113】
なお、ピリジンの透過率は図7と図8の比較からみられるとおり、酢酸の透過量に比例して透過する傾向が見られるが、その量はきわめて少なく、ほとんどが保持液側に保持されていた。なお、実施例7〜9においてピリジンの透過率が実施例1〜5と比べてさらに低いのは、処理原液である保持液側のpHを低く設定しているため(実施例7〜9:pH4.16、実施例1〜5:pH5.02)、と推定される。
【0114】
[本発明品7〜9および比較品3の官能評価]
本発明品7〜9および比較品3をそれぞれ水にて飲用濃度(Bx1.0°)に希釈し、飲料充填用ショート缶にそれぞれ190gずつ充填し、窒素ブロー密閉後、121℃、20分間レトルト殺菌を行った。
【0115】
得られた缶飲料は10名の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。その平均的な評価を表16に示す。
【0116】
【表16】

【0117】
表16に示したとおり、本発明品7〜9を希釈、殺菌した飲料は、比較品3を希釈、殺菌した飲料と比較し、いずれも酸臭、イモ臭が弱くコーヒーの豆感やレギュラー感があり、甘く香ばしい香りが感じられた。また、酢酸が最も低減している本発明品7が最も良好で、次いで本発明品8が良好であった。次いで本発明品9が良好であった。
【0118】
したがって、酢酸保持率を下げればその低減割合に応じ、酸味、酸臭、イモ臭などを改善することができるものと思われた。
【0119】
[本発明品7〜9および比較品3の熱虐待試験]
先に得られた本発明品7〜9および比較品3のそれぞれの缶飲料を55℃、3週間および4℃、3週間保存した。4℃、3週間保存品をコントロールとして、55℃、3週間の風味劣化を10名の良く訓練されたパネラーにより評価した。その平均的な評価を表17に示す。
【0120】
【表17】

【0121】
表17に示したとおり、本発明品を希釈、殺菌した飲料を加温保存したものは、香りが減少しにくく、また、酸味が発生しづらく保存安定性が良好であった。保存安定性は本発明品7および本発明品8が極めて良好で、次いで本発明品9が良好であった。したがって実施例1〜5と同様に酢酸が低減するにつれて、保存安定性も良くなる傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)焙煎植物原料を水抽出して得られる水性エキス、または、(B)焙煎植物原料を水蒸気蒸留して留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣を水抽出して抽出液を得、抽出液と先に得られた水蒸気蒸留留出液を混合することにより得られる水性エキス、のいずれかに対し逆浸透膜による透過処理を行い、非透過液を採取することを特徴とする焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法。
【請求項2】
逆浸透膜による透過処理を行うに際して、非透過液に対して連続的または間欠的に加水を行うことを特徴とする請求項1に記載の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法。
【請求項3】
非透過液の濃度をBx換算で4°〜30°の範囲内に維持しながら行うことを特徴とする請求項2に記載の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法。
【請求項4】
逆浸透膜処理後の酢酸含有量を逆浸透膜処理前の酢酸含有量に対して80%以下となるまで処理することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法。
【請求項5】
焙煎植物原料が焙煎コーヒー豆であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法。
【請求項6】
実質的に香気を保持したまま酢酸含有量を低減させる方法であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の焙煎植物原料水性エキスの酢酸低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−97832(P2011−97832A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252775(P2009−252775)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】