説明

無励磁作動型ブレーキおよびそれを用いたサーボモータ

【課題】 無励磁作動型ブレーキの高出力化、小型化、省エネ、低温化を目的とする無励磁作動型ブレーキおよびそれを用いたサーボモータを提供する。
【解決手段】 制動ばね6とアーマチュア8の間にフィールドコア3を支点、制動ばね6を力点、アーマチュア8を押圧する部位を作用点とし、支点と力点間の距離より支点と作用点間の距離を短くした、てこ機構となる磁性体のバーを有し、てこの原理により、大きな保持・制動トルクを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータなどの制動に用いられると共に、高出力化、小型化、省エネ、低温化を図った無励磁作動型ブレーキおよびそれを用いたサーボモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サーボモータなどの制動に用いられる無励磁作動型ブレーキは、電磁コイルに通電しない状態において、制動ばねのばね力で押圧されるアーマチュアと被制動機械の被制動軸に装着されるディスクとの摩擦係合により、被制動軸を制動し、電磁コイルに通電した状態において、内部に電磁コイルを収納し磁束の磁気回路となるフィールドコアに磁性体のアーマチュアを制動ばねのばね力に抗して磁気吸着することにより、被制動軸の制動を開放する構造となっている。
しかしながら、無励磁作動形電磁ブレーキは、アーマチュアがフィールドコアの磁極面に磁気吸着されるときに、これら部材に強い衝撃力が作用するので、また、慣性回転するブレーキディスクにアーマチュアを当接したとき、アーマチュアとこのアーマチュアの回転を規制する部材に強い衝撃力が作用するので、長年使用すると鍍金層がはく離してしまう場合がある。また、鍍金層がはく離した部分に錆が発生すると、アーマチュアの円滑な動作が得られなくなるなど、品質上の問題が発生するため、何らかの対策を講じる必要があった。このようなアーマチュアの円滑な動作を維持することができる無励磁作動形電磁ブレーキとして、図3に示すものがある(例えば、特許文献1を参照)。
図3は従来の無励磁作動型ブレーキの断面図である。図面の無励磁作動形電磁ブレーキは、一般産業用機械(サーボモータ等)の動力伝達系路を構成する回転軸(以下、被制動軸と称す。)の軸端に装着され、安全ブレーキとして使用されるものである。
図3において、1は被制動軸、2電磁コイル、3はフィールドコア、6は制動ばね、8はアーマチュア、10はディスクである。
無励磁作動形電磁ブレーキは、図示しないサーボモータなどのハウジングに固定されるフィールドコア3を有する。このフィールドコア3には環状の収納溝が形成されており、該収納溝内に多条に巻回された電磁コイル2が収納され、絶縁樹脂により固定されている。また、フィールドコア3には、ばね挿入穴が形成されており、ばね挿入穴には、圧縮コイルばねからなる制動ばね6が挿入されている。この制動ばね6の巻き端部がアーマチュア8に当接されている。ここで、電磁コイル2に通電しない場合、制動ばね6のばね力により大きな力でアーマチュア8を押圧するため、押圧されるアーマチュア8と被制動軸1に装着されるディスク10との摩擦係合部で発生する保持・制動トルクを増大させることができるようになっている。
【特許文献1】特開平9−324830(明細書第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の無励磁作動型ブレーキは、被制動軸の制動に要する保持・制動トルクは制動ばねのばね力、アーマチュアとディスクの摩擦係合部の摩擦係数、摩擦係合部の回転径に依存しており、保持・制動トルクの高出力化には、ばね力の増加、摩擦係合部の回転径拡大、ばね力増加に伴う電磁コイルのターン数増加、電磁コイルの消費電力増加が必要となり、ブレーキの大型化、コイルの熱量増加、消費電力の問題がある。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、無励磁作動型ブレーキの高出力化、小型化、省エネ化、低温化を実現する無励磁作動型ブレーキおよびそれを用いたサーボモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明によると、フィールドコアに配した制動ばねのばね力で押圧されるアーマチュアと被制動機械の被制動軸に装着されるディスクとの摩擦係合により、被制動軸を制動し、制動ばねのばね力に抗して、内部に電磁コイルを収納し磁束の磁気回路となるフィールドコアに前記アーマチュアを磁気吸着することにより、被制動軸の制動を開放する無励磁作動型ブレーキにおいて、制動ばねとアーマチュアの間にフィールドコアを支点、制動ばねを力点、アーマチュアを押圧する部位を作用点とし、支点と力点間の距離より支点と作用点間の距離を短くした、てこ機構となる磁性体のバーを備えたものである。てこの原理により、小さなばね力に対し、大きな力でアーマチュアを押圧することができる。
また、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5はフィールドコアを支点、磁気吸引力を力点、ばね力に抗する力が集中する支点部近傍を作用点とし、てこの原理により、小さな磁気吸引力で大きなばね力に抗することができる。
請求項
【発明の効果】
【0005】
請求項1に記載の発明によると、てこの原理により、小さなばね力に対し、大きな力でアーマチュアを押圧することができ、保持・制動トルクの高出力化を実現することができる。
請求項2に記載の発明によると、てこの原理により、小さな磁気吸引力で大きなばね力に抗することができ、保持・制動トルクの高出力化を維持しつつ、電磁コイルのターン数減少、電磁コイルの消費電力減少に伴う小型化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図1、2を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の無励磁作動型ブレーキの断面図である。図1において、1は被制動軸、2は電磁コイル、3はフィールドコア、4はバー、5はバー支点部、6は制動ばね、7はバー力点部、8はアーマチュア、9はバー作用点部、10はディスクである。
本発明が従来技術と異なる部分は、制動ばね6とアーマチュア8の間にバー4を備えた部分である。
【0008】
図1においてバー4は、フィールドコア3に配置したバー支点部5、制動ばね6に押圧されるバー力点部7、アーマチュア8を押圧するバー作用点部9とした、てこ機構となる磁性体である。バー支点部5とバー力点部7の間の距離は、バー支点部5とバー作用点部9の間より長くする。
【0009】
電磁コイル2に通電しない場合、制動ばね6とアーマチュア8の間に配したバー4は、制動ばね6によって、バー力点部7で押圧される。この時、バー作用点部9では制動ばね6のばね力より大きな力でアーマチュア8を押圧する。
【0010】
てこの原理により、制動ばね6より大きな力でアーマチュア8を押圧するため、従来の無励磁作動型ブレーキに比べ、押圧されるアーマチュア8と被制動軸1に装着されるディスク10との摩擦係合部で発生する保持・制動トルクを増大させることができる。
【実施例2】
【0011】
図2は、本発明の第2実施例の無励磁作動型ブレーキの断面図である。図2において、1は被制動軸、2は電磁コイル、3はフィールドコア、4はバー、5はバー支点部、6は制動ばね、7はバー力点部、8はアーマチュア、9はバー作用点部、10はディスクである。バー4、制動ばね6、アーマチュア8は一体化させることが望ましい。
【0012】
図2において、バー4は、フィールドコア3に配置したバー支点部5、電磁コイル2とフィールドコア3による磁気吸引力が働くバー力点部7、制動ばね6のばね力に抗する力が集中するバー支点部5近傍をバー作用点部9としたてこ機構となる磁性体である。バー支点部5とバー力点部7の間の距離は、バー支点部5とバー作用点部9の間より長くする。
【0013】
電磁コイル2に通電する場合、バー4は電磁コイル2とフィールドコア3によって発生する磁気吸引力によってフィールドコア3へ吸引される。この時、バー作用点9では電磁コイル2とフィールドコア3によって発生する磁気吸引力より大きな力で制動ばね6のばね力に抗する。
【0014】
てこの原理により、電磁コイル2とフィールドコア3によって発生する磁気吸引力より大きな力で制動ばね6のばね力に抗するため、保持・制動トルクの高出力化を維持しつつ、従来の無励磁作動型ブレーキに比べ、バー4、アーマチュア8を吸引するために必要な磁気吸引力は減少し、電磁コイル2のターン数、消費電力を減少させることができ、かつ、小型化が可能になる。
【0015】
なお、本実施例の無励磁作動型ブレーキにおいて、制動ばねをねじりばねあるいは板ばねで構成し、バーの支点部に配し、フィールドコアを支点、磁気吸引力を力点、ばね力に抗する力が集中する支点部近傍を作用点とした、てこ機構となる磁性体のバーを備えた構成にしてもかまわない。
このようにすることで、フィールドコア内に制動ばねを配置していたスペースを利用し、コイルのターン数を増加することで、ブレーキの高出力化、小型化を実現することができる。
また、本実施例において、制動ばねとバーを弾性体で一体化する構成にしても構わない。
このようにすることで、部品点数を削減することができる。
また、本実施例において、バーとアーマチュアを一体化した構成にしても構わない。
さらに、本実施例において、無励磁作動型ブレーキを、摩擦係合面を1面のみとする単板無励磁作動型ブレーキとしても構わない。
このようにすることで、部品点数の削減、およびブレーキの小型化を実現することができる。
さらにまた、本実施例において、無励磁作動型ブレーキを、摩擦係合面を複数面とする多板無励磁作動型ブレーキとしても構わない。
このようにすることで、ブレーキの省エネ化、低音化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例を示す無励磁作動型ブレーキの断面図
【図2】本発明の第2実施例を示す無励磁作動型ブレーキの断面図
【図3】従来の無励磁作動型ブレーキの断面図
【符号の説明】
【0017】
1 被制動軸
2 電磁コイル
3 フィールドコア
4 バー
5 バー支点部
6 制動ばね
7 バー力点部
8 アーマチュア
9 バー作用点部
10 ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルと、
この電磁コイルを収納するためのフィールドコアと、
このフィールドコアに対向配置され被制動軸に装着されたディスクと、
このディスクと前記フィールドコアとの間に設けられ、前記被制動軸の軸線方向にのみ移動自在に配置された磁性体からなるアーマチュアと、
前記フィールドコア内に収納され、前記アーマチュアを前記ディスクに押圧する制動ばねと、
を備えた無励磁作動形電磁ブレーキにおいて、
前記電磁コイルに通電しない状態では、
前記フィールドコアに配した制動ばねのばね力で押圧される磁性体のアーマチュアと被制動機械の被制動軸に装着されるディスクとの摩擦係合により、被制動軸を制動し、
前記電磁コイルに通電する状態では、
内部に前記電磁コイルを収納し磁束の磁気回路となるフィールドコアにアーマチュアを制動ばねのばね力に抗して磁気吸着することにより、被制動軸の制動を開放する無励磁作動型ブレーキにおいて、
制動ばねと前記アーマチュアの間に前記フィールドコアを支点、前記制動ばねを力点、前記アーマチュアを押圧する部位を作用点とし、支点と力点間の距離より支点と作用点間の距離を短くした、てこ機構となる磁性体のバーを備えたことを特徴とする無励磁作動型ブレーキ。
【請求項2】
前記制動ばねを前記バーの支点部近傍に配し、前記フィールドコアを支点、磁気吸引力を力点、ばね力に抗する力が集中する支点部近傍を作用点とした、てこ機構となる磁性体のバーを備えたことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項3】
前記制動ばねをねじりばねで構成し、前記バーの支点部に配し、前記フィールドコアを支点、磁気吸引力を力点、ばね力に抗する力が集中する支点部近傍を作用点とした、てこ機構となる磁性体のバーを備えたことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項4】
前記制動ばねを板ばねで構成し、前記バーの支点部に配し、前記フィールドコアを支点、磁気吸引力を力点、ばね力に抗する力が集中する支点部近傍を作用点とした、てこ機構となる磁性体のバーを備えたことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項5】
前記制動ばねとバーを弾性体で一体化し、フィールドコアを支点、磁気吸引力を力点、弾性力に抗する力が集中する支点部近傍を作用点とした、てこ機構となる磁性体の弾性体を備えたことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項6】
前記バーとアーマチュアが一体化したことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項7】
前記無励磁作動型ブレーキが摩擦係合面を1面のみとする単板無励磁作動型ブレーキであることを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項8】
前記無励磁作動型ブレーキが摩擦係合面を複数面とする多板無励磁作動型ブレーキであることを特徴とする請求項1記載の無励磁作動型ブレーキ。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の前記無励磁作動型ブレーキを回転体の被制動軸に取り付けたことを特徴とするサーボモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−71415(P2010−71415A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240957(P2008−240957)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】