説明

無方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明方法は、重量%表示でC:0.001〜0.05%、Si:≦1.5%、Al:≦0.4%、この場合、Si+2Al≦1.7%、Mn:0.1〜1.2%、必要ならば合計1.5%までの合金元素たとえばP、Sn、Sb、Zr、V、Ti、N、Ni、Co、Nbおよび/またはB、それに残余成分のFeならびに通常の付随元素を含有する鋼の連鋳スラブ、ストリップまたは薄肉スラブなどのような素材からホットストリップを、前記素材を連鋳熱から直接に、または最低1000℃と最高1180℃の間の温度に再加熱後に、いくつかの圧延パスにより熱間圧延し、その熱間圧延時に少なくとも最初の圧延パスがオーステナイト相域で行われ、また少なくともさらに1回の圧延パスがオーステナイト/フェライト2相混合域で行われ、前記2相混合域圧延時に少なくとも35%の全圧下率εhが実現されるようにして製造し、次いでコイルに巻き取ることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無方向性電磁鋼板の製法に関連するが、同製法ではホットストリップが連鋳スラブ、ストリップ、粗成形ストリップまたは薄肉スラブなどの鋼素材から製造され、得られる電磁鋼板はヒステリシス損がほとんどなく分極が大きく、また機械的性質に優れる。その種の無方向性電磁鋼板はモーターや発電機などのような回転磁界をもつ電気機械の鉄心材料として広く使用されている。
【背景技術】
【0002】
本書で用いる用語「無方向性電磁鋼板」は、DIN EN 10106 (「最終焼鈍処理をした電磁鋼板」)とDIN EN 10165 (「最終焼鈍処理をしない電磁鋼板」)に該当する電磁鋼板をいう。これにはさらに、もっと異方性の強いタイプの電磁鋼板も、それが方向性電磁鋼板の範疇に入らない限りで、含まれる。
【0003】
加工産業は、在来品をしのぐ磁気的性質を備えた無方向性電磁鋼板を求めている。特定の電磁誘導範囲でヒステリシス損をさらに小さくする一方で分極をさらに大きくすることが求められている。それと同時に、電磁鋼板がその用途との関連で経ることになる処理、加工ステップの面からも格別の機械的/技術的性質が求められる。これとの関連では、鋼板の加工性たとえば打ち抜き加工性が特に重要である。
【0004】
磁気分極を大きくすると所要磁化量が小さくなる。電気機械の動作中に生じる損失の大きな部分を占める銅損もまた、それと同時に減少する。透磁率を高めた無方向性電磁鋼板の経済的価値はこのように、きわめて大きい。
【0005】
高透磁率タイプの無方向性電磁鋼板に対する需要は高損失(P1.5≧5〜6W/kg)の無方向性電磁鋼板だけでなく、中損失(3.5W/kg≦P1.5≦5.5W/kg)および低損失(P1.5≦3.5W/kg)の鋼板にも関連する。低ケイ素添加、中ケイ素添加および高ケイ素添加処理した電磁鋼板の磁気分極値を全範囲にわたって向上させる努力が行われる理由はここにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
高透磁率の電磁鋼板を製造する1つの方法は中ケイ素または低ケイ素合金をベースにするものであり、製造時にホットストリップを焼鈍処理するステップからなる。そこで、たとえば国際出願番号96/00306号は電磁鋼板製造用素材のホットストリップをオーステナイト相域で仕上げ圧延すること、およびフェライトへの完全変態点を超える温度でコイルに巻き取ることを提案している。さらに、コイルの焼鈍は圧延工程からの直送で行われる。こうして、磁気的性質に優れた最終製品が得られる。しかし、熱間圧延前後の加熱に要するエネルギーが大きいため、また必要とされる合金添加のため、コストの上昇は避けられない。
【特許文献1】国際出願番号96/00306号
【0007】
ヨーロッパ特許第0 469 980号では、コイル巻き取り温度を高くすると同時に追加のホットストリップ焼鈍を行って、低合金量でも有用な磁気的性質が得られるようにする方法が追求されている。これもまた、コストの上昇を甘受しない限り実現し得ない。
【特許文献2】ヨーロッパ特許第0 469 980号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、磁気的性質に優れた電磁鋼板の経済的な製法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明ではこの目的を達成するために、無方向性電磁鋼板の製法において、(重量%表示で)0.001〜0.05%のC、≦1.5%のSi、≦0.4%のAl(この場合、Si+2Al≦1.7%とする)、0.1〜1.2%のMn、必要ならば合計1.5%までの合金元素たとえばP、Sn、Sb、Zr、V、Ti、N、Ni、Co、Nbおよび/またはB、それに残余成分のFeならびに通常の付随元素を含有する鋼の連鋳スラブ、ストリップまたは薄肉スラブなどのような素材からホットストリップを、前記素材を連鋳熱から直接に、または最低1000℃と最高1180℃の間の温度に再加熱後に、いくつかの圧延パスにより熱間圧延し、その熱間圧延時に少なくとも最初の圧延パスがオーステナイト相域で行われ、また少なくともさらに1回の圧延パスがオーステナイト/フェライト2相混合域で行われ、前記2相混合域圧延時に少なくとも35%の全圧下率εhが実現されるようにして製造し、次いでコイルに巻き取ることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製法を用いる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によれば、電磁鋼板の磁気的性質は熱間圧延時の個別圧延パスでの変形により、その時点でのそれぞれのミクロ組織状態に応じて目標とする方向に誘導される。2相混合域での圧延は決定的な変形成分となるが、それに対してフェライト相域での変形成分は極力小さく抑えるのがよい。したがって、本発明に基づく方法は、オーステナイトとフェライトとの顕著な2相混合域をもつFe-Si合金の加工に特に適する。
【0011】
本発明に基づく個別元素の含有量範囲を考慮しながらフェライト相形成元素とオーステナイト相形成元素の合金添加を調和させる操作は、(Si+2Al)≦1.7%の基本組成を出発点として、すなわち2相混合域が十分に区別されるように、行うべきである。
【0012】
素材として連鋳スラブを使用する場合には、連鋳スラブを≧1000℃の温度へと再加熱して素材が完全にオーステナイト状態になるようにする。同じ理由から、連鋳薄肉スラブまたは連鋳ストリップを使用する場合は鋳造熱を直接利用し、また必要ならば1000℃超の初期圧延温度へと加熱する。必要とされる再加熱温度はSi分の上昇に伴って高くなるが、1180℃の上限を超えることはない。
【0013】
一般に、本発明に基づく熱間圧延は数ロールスタンドからなる仕上げ圧延設備で行われる。単一パスまたは数パスで行われるオーステナイト相域での圧延の目的は、オーステナイト相域から2相混合域への、また2相混合域からフェライト相域への遷移を仕上げ圧延設備内で制御されたやり方で実現しうるようにすることにある。オーステナイト相域で行われる圧延パスはまた、2相混合域での圧延開始に先立ってホットストリップの厚さを設定して、2相混合域での圧延(以下、混合圧延という)時に所望の全圧下率が満足に実現されるようにするという目的にも役立つ。混合圧延はまた少なくとも1回の圧延パスを必要とする。しかし、好ましくは数回の圧延パスをオーステナイト/フェライト相混合域で行い、混合圧延時に要求される少なくとも35%の全圧下率を無事に実現し、もって設定どおりのホットストリップ・ミクロ組織が得られるようにする。
【0014】
用語「全圧下率εh」は、各相域に入る際の板厚に対する各相域での圧延後の板厚減少量の比をいう。この定義によれば、本発明に基づいて、たとえばオーステナイト相域での圧延後にもたらされる板厚はh0である。その後の、2相混合域での圧延により板厚はh1へと減少する。前述の定義によれば、この場合、たとえば混合圧延で実現される全圧下率εhは(h0−h1)/h0となるが、h0はオーステナイト/フェライト混合相域で最初のロールスタンドに入るときの板厚であり、またh1は相混合状態で最終ロールスタンドを出るときの板厚である。
【0015】
本発明によれば、オーステナイト/フェライト2相混合域での圧延による全圧下率εhが少なくとも35%に達するとき、所望の磁気的および技術的性質の実現に有利となるホットストリップの結晶粒度、集合組織および析出に関する条件が下工程ステップのために整えられる、または準備される。理想の加工結果を実現しうるのは、オーステナイト/フェライト2相混合域での全圧下率が最大60%に制限されるときである。
【0016】
混合圧延を主体とし、フェライト相域での圧延を極力避けるような熱間圧延により、下工程で電磁鋼板の製造に、また際立った磁気的性質を備える部品の製造に使用できるようなホットストリップが得られる。この場合、追加の工程ステップまたは熱間圧延時にある種の高温を維持するといった手間は要求されない。それどころか本発明に基づく方法は、温度管理と圧延パスの千鳥配置との両面で最適化された圧延戦略の実施を適正なコイル巻き取り温度と組み合わせることで、良質の電磁鋼板材料の経済的な生産を可能にする。
【0017】
本発明に基づく処置を、オーステナイト/フェライト相混合領域での全圧下率を35%〜60%の範囲に維持するという本発明に規定する方法と組み合わせるだけで、在来法で生産される電磁鋼板に匹敵する性質を備えた電磁鋼板を、補足的なホットストリップ焼鈍などのような時間とコストのかかる工程ステップを省略して生産しうることが証明された。さらに、本発明に基づく方法を補足するためにホットストリップ焼鈍を実施する場合には、そうした処置の複合効果により在来法で得られる電磁鋼板をしのぐ磁気的および機械的性質を備えた電磁鋼板が得られることも証明された。よって、本発明は良質の電磁鋼板の生産コストを大幅に引き下げる効果がある。さらに、本発明に基づく方法では、在来法で生産される電磁鋼板をはるかにしのぐ性質の鋼板を生産することができる。
【0018】
本発明の有利な実施態様は、オーステナイト相域で変形をかけた後のホットストリップをオーステナイト/フェライト2相混合域だけで仕上げ圧延するという点を特徴とする。特に、本発明に基づく方法のこうした変法ではオーステナイト/フェライト2相混合域での圧延によって実現される全圧下率εhは少なくとも50%とするのがよい。こうした変法では、フェライト状態でのホットストリップの圧延が完全に回避される。オーステナイトからフェライトへの遷移時に際立ったオーステナイト/フェライト2相混合域を示すFe-Si鋼ストリップは、フェライト相域ではまったく圧延が行われないこの圧延ステップ手順に特に適する。圧延材料の冷却を防ぐという意味での最適温度管理の実現は、したがってまたフェライトへの完全変態の防止は、圧下率と変態速度とを適宜選択することにより、すなわち変形時に生成する熱を利用することにより可能となる。
【0019】
本発明に基づく別の変法によれば、オーステナイト/フェライト2相混合域での圧延後に、少なくとも1回の圧延パスをフェライト相域で行う。このフェライト相域での圧延によって実現される全圧下率εhは10%以上、33%以下とするのがよい。本発明のこの実施態様でもまた、フェライト相域での圧延は最小限に抑えられるため、最終圧延がフェライト相域で行われるにもかかわらず、変形の重点は引き続きオーステナイト/フェライト2相混合域に置かれる。
【0020】
本発明に基づく方法の実施には原則として、少なくとも700℃のコイル巻き取り温度が適する。このコイル巻き取り温度が維持されるならば、再加熱をまったく省いて、または大幅に減らして、ホットストリップ焼鈍を行うことができる。ホットストリップはコイルの状態ですでに軟化しているが、これはその性質を左右するパラメーター、たとえば結晶粒度、集合組織および析出などに好影響を及ぼす。この場合、巻き取り熱を帯びた巻き取り済みホットストリップを直接焼鈍すれば、また700℃を超える焼鈍温度での焼鈍時間が少なくとも15分間であれば、特に有利である。高温で巻き取られ、コイル状のためあまり冷えないホットストリップのこうしたインライン焼鈍は、そうでなければ必要となるようなホットストリップのバッチ式焼鈍に完全に取って代わることができる。こうして、磁気的、技術的性質に特に優れた焼鈍処理ホットストリップを生産することができる。電磁鋼板の性質を向上させるために通常実施されるようなホットストリップ焼鈍と比べて、手間暇とエネルギーの両面で大幅なコストダウンになる。
【0021】
本発明の、少なくともSi含有量0.7重量%の鋼の加工に特に適する一実施態様によれば、ホットストリップは仕上げ圧延設備での圧延後に600℃未満の、特に550℃未満の巻き取り温度で巻き取られる。各合金とも、これらの温度での巻き取りはホットストリップ性状を強化する結果となる。
【0022】
フェライト相域での最終圧延パスのうち少なくとも1回のパスは圧延潤滑材の使用による熱間圧延で行うのが好ましい。潤滑材使用の熱間圧延はせん断変形を小さくする効果があるため、圧延ストリップの組織が横断面方向で一段と均質化する結果となる。さらに、潤滑材は圧延荷重を小さくするため、ロールパスあたり圧下量を大きくすることが可能になる。したがって、生産される予定電磁鋼板の所望の性質次第で、フェライト相域で行われるすべての圧延パスに圧延潤滑材を使用するのが有利となる場合もありうる。
【0023】
特定のケースで選択される圧延ステップ手順とは無関係に、ホットストリップを巻き取り、冷却後に少なくとも740℃の焼鈍温度で追加焼鈍することにより、生産される電磁鋼板の性質をさらに改善することができる。この焼鈍はバッチ式焼鈍炉で、または連続式焼鈍炉で行うことができる。特に、連鋳薄肉スラブまたは連鋳ストリップを素材として使用する場合には、板厚≦1.5mmのホットストリップの生産が可能である。この場合、連鋳素材を連鋳・圧延工場で生産し連鋳設備から圧延機列に直送するという方法で、特に上質のストリップを生産することができる。
【0024】
本発明に基づいて生産されるホットストリップは、きわめて優れた性質をもつため、平滑化またはドレッシングの域にとどまらない冷間加工が行われる冷間圧延工程に改めてかける必要もなく、多数の用途にそのまま電磁鋼板として使用することができる。こうして本発明の好ましい実施態様では、ホットストリップは加工可能な状態に準備され電磁鋼板として供給される。
【0025】
直接使用される素材が本発明に従ってホットストリップに加工される場合には、仕上げ熱間圧延をオーステナイト/フェライト相混合領域で行うと特に優れた磁気的性質が得られることを指摘しなければならない。このようにフェライト相域を避けて熱間圧延されるホットストリップは特に、冷間圧延を一切行わずにそのまま需要家に出荷するのに適することがすでに証明されている。
【0026】
さらに、本発明に基づいて生産されるホットストリップは、一切の仕上げ冷間加工を経ずに、必要なら酸洗後に、ある種の用途に使用できることが判明している。本発明に従って生産され本来の冷間圧延を経ずに供給される電磁鋼板について特別の要求条件に基づき加工性を高める必要がある場合には、酸洗後のホットストリップを≦3%の圧下率で平坦加工するという方法でこれを実現することができる。この平坦加工の結果として、ストリップ表面の平坦でない部分は熱間圧延で形成されたミクロ組織の性状にはたいした影響を及ぼすことなく平滑化される。
【0027】
表面特性の改善とは別に、前述のようなタイプの純然たる平滑化パスの代わりに、またはそれに加えて、酸洗後のホットストリップを3%以上、15%以下の圧下率で調質圧延するという方法でも本発明に基づいて生産されるホットストリップの磁気的性質を向上させることができる。この場合も、こうした後続の圧延は本来の冷間圧延で実現される板厚変化に匹敵するような高圧下率の板厚減少をもたらすものではない。むしろ、追加の圧下エネルギーは調質圧延ストリップのその後の加工性に好影響を及ぼす方向に作用する。
【0028】
ホットストリップとして供給される本発明に基づく電磁鋼板は、>740℃の焼鈍温度で通常の方法により最終焼鈍してから加工、出荷に備えることができる。他方、最終焼鈍が加工業者側で行われる場合には、最終焼鈍をないホットストリップを、加工、出荷の準備前に>650℃の焼鈍温度で再結晶焼鈍して「最終焼鈍をしない電磁鋼板」に仕上げるという方法で提供することができる。
【0029】
しかし、本発明に基づいて生産されるホットストリップは、その機械的性質のために、最終板厚へと通常の方法で一段階または多段階冷間圧延することもできる。冷間圧延を多段階で行う場合には、ストリップの優れた機械的性質を維持するために少なくとも1段階の冷間圧延の次に中間焼鈍を行うのがよい。
【0030】
全仕上げの電磁鋼板を生産するのであれば、冷間圧延に続いて最終焼鈍を、好ましくは>740℃の焼鈍温度で行う。他方、半仕上げの電磁鋼板を生産するのであれば、数段階で行われる可能性のある冷間圧延の次にフード付き焼鈍炉または連続式焼鈍炉を用いて少なくとも650℃の焼鈍温度で再結晶焼鈍を行う。次いで、冷間圧延、焼鈍処理後の電磁鋼板を平坦加工及び再圧延をする。
【0031】
本発明に基づいて生産される冷間圧延電磁鋼板は、際立った切断・打ち抜き加工性を有するため、層板やブランクなどのような部品への加工に特に適する。半仕上げの電磁鋼板を加工する場合には、そうした電磁鋼板を素材として製造される部品を需要家側で最終焼鈍するのが有利である。
【0032】
生産される電磁鋼板が半仕上げであってもまた全仕上げであっても、本発明のさらなる実施態様によれば、冷間圧延電磁鋼板の最終焼鈍は脱炭雰囲気中で行うのが好ましい。
【0033】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。
【0034】
以下、「J2500」、「J5000」および「J10000」は、それぞれ磁界の強さ2500A/m、5000A/mおよび10000A/mでの磁気分極を表す。
【0035】
「P1.0」と「P1.5」は、周波数50 Hzでの、それぞれ分極1.0Tおよび1.5Tにおけるヒステリシス損を表す。
【実施例】
【0036】
以下の表に示す磁気的性質は、個別ストリップ上での圧延方向沿いの測定によって得られた。
【0037】
表1は、本発明に基づく電磁鋼板の製法に使用した3種の鋼について必須合金成分の含有量を重量%で示している。
表−1
鋼 C Si Al Mn
A 0.008 0.1 0.12 0.34
B 0.008 0.33 0.25 0.81
C 0.007 1.19 0.13 0.23
【0038】
鋼A、BまたはCの連鋳スラブを素材として1000℃超の温度に再加熱し、数ロールスタンドからなる仕上げ圧延設備にかけた。仕上げ圧延設備では、少なくとも最初の圧延パスはオーステナイト相域だけで行った。
【0039】
表2は、鋼AまたはBに由来する2種類の電磁鋼板B1、B2の磁気的性質J2500、J5000、J10000、P1.0およびP1.5を示す。電磁鋼板B1、B2製造用の各ホットストリップはオーステナイト相域での圧延後にオーステナイト/フェライト2相混合域で全圧下率εhを66%として仕上げ圧延した。圧延後のホットストリップは570℃の巻き取り温度でコイルに巻き取った。その直後、巻き取ったホットストリップを冷却し、次工程へと搬送した。
表−2
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
B1 1.739 1.813 1.9091 3.594 7.130
B2 1.724 1.802 1.896 3.002 5.959
【0040】
表3は電磁鋼板B3、B4およびB5の磁気的性質J2500、J5000、J10000、P1.0およびP1.5を示す。鋼板B3 、B4およびB5はそれぞれ鋼A、BおよびCに由来した。電磁鋼板B3、B4およびB5製造用の各ホットストリップはオーステナイト相域での変形後、やはり同様にオーステナイト/フェライト2相混合域だけで圧延した。相混合域での全圧下率εhは66%であった。次いで、ホットストリップを750℃で巻き取った。ただし、電磁鋼板B1、B2製造用の場合と違って、電磁鋼板B3、B4およびB5製造用のホットストリップはそのまま巻き取り温度に少なくとも15分間維持してから、冷間圧延工程へと搬送した。
表−3
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
B3 1.755 1.828 1.920 3.258 6.552
B4 1.737 1.812 1.909 3.075 6.101
B5 1.689 1.765 1.859 2.596 5.304
【0041】
表4は電磁鋼板B6、B7およびB8の磁気的性質J2500、J5000、J10000、P1.0およびP1.5を示す。これらの鋼板もまたそれぞれ鋼A、BおよびCに由来した。電磁鋼板B6、B7およびB8製造用の各ホットストリップはオーステナイト相域での変形後、オーステナイト/フェライト2相混合域で圧延した。相混合域での全圧下率εhは50%であった。次いで、ホットストリップをフェライト相域で数圧延パスにかけた。フェライト相域での全圧下率εhは30%未満であった。こうして仕上げ圧延したホットストリップを次に750℃で巻き取った。その直後、ホットコイルをコイル状のまま冷却した。
表−4
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
B6 1.748 1.822 1.916 3.564 7.121
B7 1.721 1.797 1.893 2.935 5.868
B8 1.709 1.791 1.884 2.630 5.246
【0042】
表5は電磁鋼板B9、B10およびB11の磁気的性質J2500、J5000、J10000、P1.0およびP1.5を示す。鋼板B9 、B10およびB11はそれぞれ鋼A、BおよびCに由来した。電磁鋼板B9、B10およびB11製造用の各ホットストリップは電磁鋼板B6、B7およびB8製造用のホットストリップと同様に仕上げ圧延設備で同じ圧延パスにかけた。こうして仕上げ圧延したホットストリップを750℃で巻き取った。ただし、電磁鋼板B6、B7およびB8製造用の場合と違って、電磁鋼板B9、B10およびB11製造用のホットストリップはそのまま巻き取り温度に少なくとも15分間維持してから、冷間圧延工程へと搬送した。
表−5
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
B9 1.746 1.819 1.914 3.305 6.657
B10 1.731 1.805 1.901 2.909 5.811
B11 1.690 1.765 1.858 2.587 5.304
【0043】
表6は鋼Cに由来する電磁鋼板B12の磁気的性質J2500、J5000、J10000、P1.0およびP1.5を示す。電磁鋼板B12製造用のホットストリップはオーステナイト相域での変形後、オーステナイト/フェライト2相混合域だけで圧延した。2相混合域での全圧下率εhは66%であった。圧延後のホットストリップは600℃未満の温度でコイル巻きにした。その直後、巻き取ったホットストリップをコイル状のまま冷却した。
表−6
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
B12 1.724 1.800 1.894 2.577 5.105
【0044】
表7は、本発明に基づいて製造され、その後、本来の冷間圧延を経ずに、電磁鋼板として出荷されることになるホットストリップの製造に使用したさらに2種類の鋼について、必須合金成分の含有量を重量%で表示している。
表−7
鋼 C Si Al Mn
C 0.008 0.1 0.12 0.34
D 0.007 1.19 0.13 0.23
【0045】
表7の組成に従って溶製した溶鋼を連鋳・圧延工場で粗成形ストリップへと連続鋳造し、数ロールからなる熱間圧延設備へと連続的に搬送した。電磁鋼板C1〜C3およびD1〜D3の各熱間圧延では、圧延の重点をオーステナイト相域での変形においた。ただし、熱間圧延の最終パスは本発明に従ってオーステナイト/フェライト相混合域で行った。実現された全圧下率εhは40%であった。次いで、ホットストリップを750℃の温度で巻き取った。
【0046】
表8a〜8cは、鋼CまたはDに由来する3種類の電磁鋼板C1〜C3またはD1〜D3に関する磁気的性質J2500、J5000、J10000、P1.0およびP1.5を示す。
【0047】
例C1、D1 (表8a)の場合には市販用電磁鋼板へと加工可能な状態に直接準備して、需要家に出荷した。例C2、D2 (表8b)の場合には需要家への出荷に先立って、ホットストリップを酸洗いし、さらに平滑化パスにかけた。この平滑化パスでは圧下率εhを3%以内とした。ストリップC3、D3 (表8c)は出荷前に酸洗処理し、次いで調質圧延した。
表−8a
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
C1 1.646 1.729 1.522 5.941 13.276
D1 1.642 1.716 1.548 4.095 9.641
表−8b
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
C2 1.661 1.735 1.577 5.409 13.285
D2 1.621 1.699 1.535 3.716 8.776
表−8c
板 J2500 J5000 J10000 P1.0 P1.5
[T] [T] [T] [W/kg] [W/kg]
C3 1.642 1.716 1.548 4.095 9.647
D3 1.608 1.686 1.529 3.023 7.447
【0048】
本発明に従ってホットストリップとして製造され、本来の冷間圧延加工を経ずにそのまま最終需要家に出荷された電磁鋼板C1〜C3またはD1〜D3は、傑出した磁気的性質を有するため、それ以上の手間をかけなくても多数の用途への使用に適したものとなることが証明された。
【0049】
本発明の方法に従って製造した厚さ1mmの電磁鋼板と在来法で熱間圧延、冷間圧延した電磁鋼板を対象に比較試験を実施した。これらの試験により、本発明に基づいて製造される電磁鋼板の磁気分極と固有ヒステリシス損に関する達成可能値は在来法で生産される電磁鋼板の各特性値とほぼ一致することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無方向性電磁鋼板の製造方法において、重量%表示で
C: 0.001〜0.05%、
Si: ≦1.5%、
Al: ≦0.4%、この場合、Si+2Al≦1.7%、
Mn: 0.1〜1.2%、
必要ならば合計1.5%までの合金元素たとえばP、Sn、Sb、Zr、V、Ti、N、Ni、Co、Nbおよび/またはB、
それに、残余成分のFeならびに通常の付随元素、
を含有する鋼の連鋳スラブ、ストリップ、粗成形ストリップまたは薄肉スラブなどのような素材からホットストリップを、前記素材を連鋳熱から直接に、または最低1000℃と最高1180℃の間の温度に再加熱後に、複数の圧延パスにより熱間圧延し、その熱間圧延時に少なくとも最初の圧延パスがオーステナイト相域で行われ、また少なくともさらに1回の圧延パスがオーステナイト/フェライト2相混合域で行われ、前記2相混合域圧延時に少なくとも35%の全圧下率εhが実現されるようにして製造し、次いでコイルに巻き取ることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
全圧下率εhが、最高60%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オーステナイト相域での変形後のホットストリップが、オーステナイト/フェライト2相混合域だけで仕上げ圧延されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
オーステナイト/フェライト2相混合域での圧延で実現される全圧下率εhが、少なくとも50%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
オーステナイト/フェライト2相混合域での圧延後に、フェライト相域で少なくとも1回の圧延パスを行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
フェライト相域での圧延で実現される全圧下率εhが、10%以上、33%以下であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
コイル巻き取り温度が、少なくとも700℃であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
巻き取り熱を帯びたコイル状ホットストリップを直接焼鈍すること、および700℃を超える焼鈍温度での焼鈍時間が少なくとも15分間であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
鋼のSi含有量が、少なくとも0.7重量%であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
巻き取り温度が、600℃未満、特に550℃未満であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
巻き取り直後にホットストリップをコイル状のまま加速冷却することを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
フェライト相域での熱間圧延時に、少なくとも1回の圧延パスが潤滑材を使用して行われることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
フェライト相域でのすべての圧延パスが、圧延潤滑材を使用して行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
巻き取り後にホットストリップを、少なくとも740℃の焼鈍温度で焼鈍処理することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
コイル状ホットストリップの焼鈍を、バッチ式焼鈍炉で行うことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
焼鈍を連続式焼鈍炉で行うことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ホットコイルの板厚が、≦1.5mmであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ホットストリップが加工可能な状態に準備され、電磁鋼板として出荷されることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
加工可能な状態への準備と出荷に先立って、ホットストリップを圧下率≦3%でつや出し加工することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
加工可能な状態への準備と出荷に先立って、ホットストリップを圧下率>3〜15%で調質圧延することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
加工可能な状態への準備と出荷に先立って、ホットストリップを>740℃の焼鈍温度で最終焼鈍処理することを特徴とする請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
加工可能な状態への準備と出荷に先立って、ホットストリップを>650℃の焼鈍温度で再結晶焼鈍処理して、最終焼鈍処理を受けない電磁鋼板とすることを特徴とする請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ホットストリップが一段階または多段階で冷間圧延されることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
冷間圧延が数段階で行われ、また冷間圧延段階のうちの少なくとも1段階の後に中間焼鈍が行われることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
冷間圧延後にコールドストリップを>740℃の焼鈍温度で最終焼鈍処理することを特徴とする請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
冷間圧延後にコールドストリップを少なくとも650℃の焼鈍温度でバッチ式または連続式焼鈍炉により再結晶焼鈍処理して、最終焼鈍を受けない電磁鋼板とし、その後にコールドストリップを平坦加工、再圧延することを特徴とする請求項23または24に記載の方法。
【請求項27】
焼鈍処理を脱炭雰囲気中で行うことを特徴とする請求項21、22、25または26のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2009−149993(P2009−149993A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24285(P2009−24285)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願2001−508381(P2001−508381)の分割
【原出願日】平成12年4月7日(2000.4.7)
【出願人】(500169782)ティッセンクルップ スチール アクチェンゲゼルシャフト (45)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel AG
【Fターム(参考)】