説明

無機粉体含有樹脂組成物、膜形成材料層、転写シート、誘電体層形成基板の製造方法、及び誘電体層形成基板

【課題】 気泡の残存がなく、光透過率の高い誘電体層を形成することのできる無機粉体含有樹脂組成物を提供することを目的とする。また、該組成物からなる膜形成材料層、転写シート、誘電体層、誘電体層形成基板の製造方法、及び誘電体層形成基板を提供することを目的とする。
【解決手段】 無機粉体と、水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、下記一般式(1)で表わされるリン系化合物とを含有する無機粉体含有樹脂組成物。
【化1】




〔式中、R、R及びRはそれぞれ独立にH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、NH(アンモニウム)、又は−(CHCHO)−R(ただし、nは1〜15、RはH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又は(メタ)アクリロイル基を示す。)である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉体含有樹脂組成物、該組成物からなる膜形成材料層、転写シート、誘電体層、誘電体層形成基板の製造方法、及び誘電体層形成基板に関する。特に、本発明の無機粉体含有樹脂組成物はプラズマディスプレイパネルの誘電体層の形成材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型平板状の大型ディスプレイとしては、液晶ディスプレイと共にプラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という)が注目されている。PDPの一部分は、電極が固定されたガラス基板の表面上にガラス焼結体からなる誘電体層が形成された構造をしている。
【0003】
この誘電体層の形成方法としては、ガラス粉末、アクリル酸エステル系樹脂及び溶剤を含有するペースト状組成物を支持フィルム上に塗布して膜形成材料層を形成し、支持フィルム上に形成された膜形成材料層を、電極が固定されたガラス基板の表面に転写し、転写された膜形成材料層を焼成することにより、前記ガラス基板の表面に誘電体層を形成する方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0004】
また、誘電体層形成用樹脂組成物としては、C〜C12のメタアクリル酸エステル80〜100重量%と、これと共重合可能な他のモノマー0〜20重量%を共重合させることにより得られ、重量平均分子量が2万から100万であり、そのガラス転移温度が15℃以下である自着性樹脂100重量部に対し、誘電性無機粉末100〜500重量部を加えたものが開示されている(特許文献3、4)。
【0005】
また、ベースフィルムと、該ベースフィルム上に剥離可能に設けられた転写層を少なくとも備え、該転写層はガラスフリットを含む無機成分、焼成除去可能な有機成分を少なくとも含有し、かつ、表面粗さRaが0.4μm以下の範囲にある転写シートが開示されている(特許文献5)。そして、有機成分には転写性付与剤として正リン酸エステル類等、分散剤、沈降防止剤としてリン酸エステル系界面活性剤等を必要に応じて添加することが記載されている。
【0006】
しかしながら、従来のペースト状組成物又は誘電体層形成用樹脂組成物では、転写された膜形成材料層を焼成して誘電体層を形成する工程において、溶融した膜形成材料層中に発生、残存する気泡により、誘電体層の光透過率を低下させるという問題を有していた。特に、熱による電極の腐食や基板の変形が生じないような低温領域での焼成においては、溶融した膜形成材料層中に発生した気泡が抜けにくく、それにより誘電体層の光透過率の低下が著しかった。このような光透過率の問題は、特に透明性が要求されるPDPの前面板に形成される誘電体層において改善が望まれていた。
【0007】
また、特許文献5では、無機粉体の分散性や沈降防止性を向上させること、転写性、組成物の流動性を向上させることを目的として必要によりリン酸エステルを添加してもよいことが記載されているが、誘電体層の光透過率を向上させることを目的として添加しているわけではない。また、リン酸エステルを添加した場合の効果を示す具体的な例も一切記載されていない。
【特許文献1】特開平9−102273号公報
【特許文献2】特開2001−185024号公報
【特許文献3】特開平11−35780号公報
【特許文献4】国際公開第00/42622号パンフレット
【特許文献5】特開平11−260254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を解決したものであって、気泡の残存がなく、光透過率の高い誘電体層を形成することのできる無機粉体含有樹脂組成物を提供することを目的とする。また、該組成物からなる膜形成材料層、転写シート、誘電体層、誘電体層形成基板の製造方法、及び誘電体層形成基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す無機粉体含有樹脂組成物により上記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、無機粉体と、水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、下記一般式(1)で表わされるリン系化合物とを含有する無機粉体含有樹脂組成物、に関する。
【0011】
【化2】



【0012】
〔式中、R、R及びRはそれぞれ独立にH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、NH(アンモニウム)、又は−(CHCHO)−R(ただし、nは1〜15、RはH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又は(メタ)アクリロイル基を示す。)である。〕

本発明では、無機粉体含有樹脂組成物に特定のリン系化合物を添加し、かつバインダ樹脂として水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いることにより、膜形成材料層の溶融、焼結時に発生する気泡を効率的に除去することができる。そのため、焼結後に形成される誘電体層中に気泡が残存することがなく、光透過率を向上させることができる。さらに、特定のリン系化合物を添加することにより無機粉体含有樹脂組成物の粘度を適度に低下させることができる。そのため、溶融した膜形成材料層に気泡の抜け跡が残存することがなく、誘電体層の表面平滑性を向上させることができる。特に、本発明の無機粉体含有樹脂組成物は、低温領域(650℃以下)で焼結工程を行う場合に好適に用いられる。
【0013】
本発明においては、前記(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量が5〜50万であることが好ましい。
【0014】
本発明において、無機粉体含有樹脂組成物は、無機粉体100重量部に対して、前記(メタ)アクリル系樹脂を5〜50重量部、及び前記リン系化合物を0.1〜10重量部含有することが好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂は10〜40重量部であることがさらに好ましく、特に15〜30重量部であることが好ましい。また、リン系化合物は0.2〜6重量部であることがさらに好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂が5重量部未満の場合には、誘電体層の透明性の向上効果が十分に得られず、また無機粉体含有樹脂組成物を可とう性のあるシート状に形成することが困難になる傾向にある。一方、50重量部を超える場合には、膜形成材料層を焼結した際に(メタ)アクリル系樹脂が残存して誘電体層の光学特性が悪化する傾向にある。また、リン系化合物が0.1重量部未満の場合には、膜形成材料層の溶融、焼結時に発生する気泡を十分除去することができないため、誘電体層の光透過率が低下する傾向にある。一方、10重量部を超える場合には、焼結後の誘電体層にリン系化合物が残存して光学特性が悪化する傾向にある。
【0015】
本発明においては、無機粉体がガラス粉末であることが好ましい。
【0016】
また本発明において、無機粉体は、600℃での粘度が150Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは20〜140Pa・sである。600℃での粘度が150Pa・sを超える場合には、リン系化合物の添加、及び水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂の使用により気泡を効果的に除去できたとしても、該気泡の抜けた跡が残存し誘電体層の表面平滑性が悪くなる傾向にある。
【0017】
前記無機粉体含有樹脂組成物は、特に誘電体層の形成材料として有用である。
【0018】
また本発明は、前記無機粉体含有樹脂組成物をシート状に形成してなる膜形成材料層、に関する。
【0019】
また本発明は、支持フィルム上に、少なくとも前記膜形成材料層が積層されている転写シート、に関する。
【0020】
本発明の誘電体層は、前記膜形成材料層を焼結させてなるものである。
【0021】
また、本発明は、前記転写シートの膜形成材料層を基板に転写する転写工程、及び転写された膜形成材料層を550〜650℃で焼結させ、基板上に誘電体層を形成する焼結工程を含むことを特徴とする誘電体層形成基板の製造方法、及び前記方法によって製造される誘電体層形成基板、に関する。誘電体層形成基板の光透過率は80%以上であることが好ましく、より好ましくは81%以上である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明の無機粉体含有樹脂組成物は、無機粉体、水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂、及び上記一般式(1)で表わされるリン系化合物を含有する。
【0024】
無機粉体は、公知のものを特に制限なく用いることができ、具体的には、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛、ガラス粉末などが挙げられる。無機粉体の平均粒子径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【0025】
本発明においては、無機粉体としてガラス粉末を用いることが好ましい。ガラス粉末としては公知のものを特に制限なく用いることができる。例えば、1)酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化珪素(ZnO−B−SiO系)の混合物、2)酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化珪素、酸化アルミニウム(ZnO−B−SiO−Al系)の混合物、3)酸化鉛、酸化ホウ素、酸化珪素、酸化カルシウム(PbO−B−SiO−CaO系)の混合物、4)酸化鉛、酸化ホウ素、酸化珪素、酸化アルミニウム(PbO−B−SiO−Al系)の混合物、5)酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化珪素(PbO−ZnO−B−SiO系)の混合物、6)酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化珪素、酸化アルミニウム(PbO−ZnO−B−SiO−Al系)の混合物などを挙げることができる。また、必要に応じてこれらにNaO、CaO、BaO、Bi、SrO、TiO、CuO、又はInなどを添加したものであってもよい。焼結処理により誘電体層を形成することを考慮すると、軟化点が400〜650℃であるガラス粉末が好ましい。
【0026】
本発明においては、バインダ樹脂として水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いる。(メタ)アクリル系樹脂に水酸基を導入することにより焼成後の誘電体層の透明性をさらに向上させることができる。
【0027】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、重量平均分子量5〜50万であることが好ましく、さらに好ましくは5〜30万である。重量平均分子量が5万未満の場合には、無機粉体含有樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して膜形成材料層を形成した転写シートの凝集力が乏しく強度が低くなり、その後の作業上好ましくない。一方、50万を超える場合には、無機粉体含有樹脂組成物の粘度が高くなり、無機粉体の分散性が悪くなるため好ましくない。
【0028】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマーと水酸基含有モノマーとの共重合体、又はそれらの混合物である。
【0029】
(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレ−ト、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレートなどのアリール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
水酸基含有モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、及び(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、水酸基含有モノマーを0.1〜20モル%含有することが好ましく、より好ましくは0.2〜10モル%である。0.1モル%未満の場合には誘電体層の透明性の向上効果が十分に得られず、20モル%を超える場合には無機粉体との相互作用が大きくなりすぎて焼結時に分解除去されにくく、誘電体層の光学特性の低下を招く傾向にある。
【0032】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、無機粉体100重量部に対して、5〜50重量部添加することが好ましく、さらに好ましくは10〜40重量部であり、特に好ましくは15〜30重量部である。
【0033】
また、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は30℃以下であことが好ましく、さらに好ましくは20℃以下である。ガラス転移温度が30℃を超える場合には、転写シートとした際に可とう性のないシートとなり、段差吸収性や転写性やハンドリング性が悪化してしまうため好ましくない。なお、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、用いる共重合体の組成比を適宜変えることにより前記範囲内に調製することができる。
【0034】
上記一般式(1)で表わされるリン系化合物のR、R及びRはそれぞれ独立にH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、NH(アンモニウム)、又は−(CHCHO)−R(ただし、nは1〜15、RはH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又は(メタ)アクリロイル基を示す。)である。
【0035】
アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、イソオクチル基、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ラウリル基、ステアリル基、及びイソステアリル基などが挙げられる。
【0036】
アリール基としては、具体的には、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ジノニルフェニル基、ナフチル基、エチルナフチル基、ブチルナフチル基、及びオクチルナフチル基などが挙げられる。
【0037】
アラルキル基としては、具体的には、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルブチル基、フェニルオクチル基、フェニルノニル基、ナフチルエチル基、ナフチルブチル基、及びナフチルオクチル基などが挙げられる。
【0038】
上記リン系化合物としては、例えば、リン酸、リン酸アンモニウム塩、モノプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルホスフェート、モノ(ブチルフェニル)ホスフェート、ジオクチルフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、トリベンジルホスフェート、モノ(フェニルエチル)ホスフェート、トリ(フェニルブチル)ホスフェート、モノ(エトキシエチル)ホスフェート、ジ(ブトキシエチル)ホスフェート、モノ−〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、リン酸ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸などが挙げられる。なお、(メタ)アクリロイル基を有する場合には、前記(メタ)アクリル系樹脂に共重合させることもできる。
【0039】
前記リン系化合物は、無機粉体100重量部に対して、0.1〜10重量部添加することが好ましく、さらに好ましくは0.2〜6重量部である。
【0040】
無機粉体含有樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して膜形成材料層を形成した転写シートを作製する場合には、支持フィルム上に均一に塗布できるように該組成物中に溶剤を加えることが好ましい。
【0041】
溶剤としては、無機粉体との親和性がよく、且つ、バインダ樹脂との溶解性がよいものであれば特に制限されるものではない。例えば、テルピネオール、ジヒドロ−α−テルピネオール、ジヒドロ−α−テルピニルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、テレビン油、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロへキサノン、n−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、シクロへキサノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコ−ルモノメチルエーテル、エチレングリコ−ルモノエチルエーテル、エチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸−n−ブチル、酢酸アミル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール−1−イソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール−3−イソブチレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、任意の割合で2種類以上を併用してもよい。
【0042】
溶剤の添加量は、無機粉体100重量部に対して、10〜100重量部であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の無機粉体含有樹脂組成物には、可塑剤を添加してもよい。可塑剤を添加することにより、無機粉体含有樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して膜形成材料層を形成した転写シートの可とう性や柔軟性、膜形成材料層の基板への転写性などを調整することができる。
【0044】
可塑剤としては、公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、ジイソノニルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペ−トなどのアジピン酸誘導体、ジ−2−エチルヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体、ジ−2−エチルヘキシルセバケートなどのセバシン酸誘導体、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリイソノニルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテートなどのトリメリット酸誘導体、テトラ−(2−エチルヘキシル)ピロメリテートなどのピロメリット酸誘導体、プロピレングリコールモノオレートなどのオレイン酸誘導体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール系可塑剤などが挙げられる。
【0045】
可塑剤の添加量は、無機粉体100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましい。可塑剤の添加量が20重量部を超えると、得られる転写シートの強度が低下してしまうため好ましくない。
【0046】
無機粉体含有樹脂組成物には、上記の成分の他、分散剤、シランカップリング剤、粘着性付与剤、レベリング剤、安定剤、消泡剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0047】
本発明の転写シートは、支持フィルムと、少なくともこの支持フィルム上に形成された膜形成材料層とにより構成されており、支持フィルム上に形成された膜形成材料層を基板表面に一括転写するために用いられるものである。
【0048】
転写シートは、前記無機粉体含有樹脂組成物を支持フィルム上に塗布し、溶剤を乾燥除去して膜形成材料層を形成することにより作製される。
【0049】
転写シートを構成する支持フィルムは、耐熱性及び耐溶剤性を有すると共に可とう性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可とう性を有することにより、ロールコーターなどによってペースト状の無機粉体含有樹脂組成物を塗布することができ、膜形成材料層をロール状に巻き取った状態で保存し、供給することができる。
【0050】
支持フィルムを形成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、ナイロン、セルロースなどを挙げることができる。
【0051】
支持フィルムの厚さは特に制限されないが、25〜100μm程度であることが好ましい。
【0052】
なお、支持フィルムの表面には離型処理が施されていることが好ましい。これにより、膜形成材料層を基板上に転写する工程において、支持フィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0053】
無機粉体含有樹脂組成物を支持フィルム上に塗布する方法としては、例えば、グラビア、キス、コンマなどのロ−ルコ−タ−、スロット、ファンテンなどのダイコータ−、スクイズコータ−、カーテンコータ−などの塗布方法を採用することができるが、支持フィルム上に均一な塗膜を形成できればいかなる方法でもよい。
【0054】
膜形成材料層の厚さは、無機粉体の含有率、パネルの種類やサイズなどによっても異なるが、10〜200μmであることが好ましく、さらに好ましくは30〜100μmである。この厚さが10μm未満である場合には、最終的に形成される誘電体層の膜厚が不十分となり、所望の誘電特性を確保することができない傾向にある。通常、この厚さが30〜100μmであれば、大型のパネルに要求される誘電体層の膜厚を十分に確保することができる。また、膜厚は均一であるほど好ましく、膜厚公差は±5%以内であることが好ましい。
【0055】
なお、転写シートは、膜形成材料層の表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。保護フィルムでカバーされた転写シートは、ロール状に巻き取った状態で保存し、供給することができる。なお、保護フィルムの表面は離型処理が施されていることが好ましい。
【0056】
本発明の誘電体層形成基板の製造方法は、前記記載の転写シートの膜形成材料層を基板に転写する転写工程、及び転写された膜形成材料層を550〜650℃、好ましくは550〜600℃で焼結させ、基板上に誘電体層を形成する焼結工程を含むことを特徴とする。
【0057】
基板としては、セラミックや金属などの基板が挙げられ、特にPDPを作製する場合には、適切な電極が固定されたガラス基板が用いられる。
【0058】
転写工程の一例を以下に示すが、基板表面に膜形成材料層が転写されて密着した状態にできれば、その方法は特に制限されるものではない。
【0059】
適宜使用される転写シートの保護フィルムを剥離した後、電極が固定されたガラス基板の表面に、膜形成材料層表面を当接するように転写シートを重ね合わせ、この転写シートを加熱ロール式のラミネーターなどにより熱圧着した後、膜形成材料層から支持フィルムを剥離除去する。これにより、ガラス基板表面に膜形成材料層が転写されて密着した状態となる。
【0060】
転写条件としては、例えば、ラミネーターの表面温度25〜100℃、ロール線圧0.5〜15kg/cm、移動速度0.1〜5m/分であるが、これら条件に限定されるものではない。また、ガラス基板は予熱されていてもよく、予熱温度は50〜100℃程度である。
【0061】
膜形成材料層の焼結工程の一例を以下に示すが、膜形成材料層を550〜650℃で焼結させ、基板上に誘電体層を形成できればその方法は特に制限されるものではない。
【0062】
膜形成材料層が形成されたガラス基板を、550〜650℃の高温雰囲気下に配置することにより、膜形成材料層中の有機物質(バインダ樹脂、残存溶剤、各種の添加剤など)が分解除去され、無機粉体(ガラス粉末)が溶融して焼結する。これによりガラス基板上には、無機焼結体(ガラス焼結体)からなる誘電体層が形成され、誘電体層形成基板が製造される。
【0063】
誘電体層の厚さは、使用する膜形成材料層の厚さよって異なるが、15〜50μm程度である。
【0064】
本発明の誘電体層形成基板は、誘電体層に微細ボイドやクラックがなく、表面平滑性が高く、光透過率などの光学特性に優れている。また、本発明の無機粉体含有樹脂組成物により形成される誘電体層は透明性が高く、特にPDPの前面板に設けられる誘電体層の形成に好適に用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(重量平均分子量の測定)
作製したポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)にて測定し、標準ポリスチレンにより換算した。
GPC装置:東ソー社製、HLC−8220GPC
カラム:東ソー社製、TSKgel Super HZM−H、H−RC、HZ−H
流量:0.6ml/min
濃度:0.2wt%
注入量:20μl
カラム温度:40℃
溶離液:THF

(ガラス転移温度の測定)
作製したポリマーを厚さ1mmに成形し、φ8mmに打ち抜いたものを動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を用いて、周波数1Hzにて損失弾性率G”の温度依存性を測定した。得られた損失弾性率G”のカーブにおけるピークトップの温度をガラス転移温度Tgとした。
【0067】
(無機粉体の溶融粘度の測定)
使用した無機粉体の600℃における溶融粘度を測定した。測定装置として、ガラス粘度測定装置(平行板変形/回転粘度計)を用いた。測定方法としては、まず無機粉体を1000℃で溶融した後、白金円筒容器内に投入し、冷却して円筒形に成型した。これを、φ30mmの平行円板に挟み、600℃に加熱して、円板ギャップ1.3mm、回転数60rpmで粘度を測定した。
【0068】
(誘電体層形成基板の光透過率の測定)
得られた誘電体層形成基板の光透過率(%)を測定した。光透過率の測定は、ヘイズメーター(村上色彩研究所製、HM−150)を用い、全光線透過率を測定した。
【0069】
実施例1
〔(メタ)アクリル系樹脂の調製〕
撹拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロ−トを備えた四つ口フラスコに2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)(重量部比:2−EHMA/HPMA=99/1)、重合開始剤、トルエンを仕込み、緩やかに撹拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を75℃付近に保って約8時間重合反応を行い、固形分40重量%のメタクリル系樹脂溶液を調製した。得られたメタクリル系樹脂の重量平均分子量は10万であり、ガラス転移温度は−10℃であった。
〔無機粉体含有樹脂組成物の調製〕
無機粉体として、PbO−ZnO−B−SiO−Al系ガラス粉体(ガラス転移点:420℃、軟化点:480℃、600℃における溶融粘度:95Pa・s)100重量部、前記メタクリル系樹脂16重量部、溶剤としてα−テルピネオール40重量部、上記一般式(1)において、R=H、R=−(CHCHO)−R、R=H、又は−(CHCHO)−R、R=ノニルフェニルであるリン系化合物(第一工業製薬社製、プライサーフA212E)3重量部、及び可塑剤としてトリメリット酸トリオクチル3重量部を配合し、分散機を用いて混合分散してペースト状の無機粉体含有樹脂組成物を調製した。
〔転写シートの作製〕
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに剥離剤処理を施した支持フィルム上に、前記調製した無機粉体含有樹脂組成物をロールコータを用いて塗布し、塗膜を150℃で5分間乾燥することにより溶剤を除去して膜形成材料層(厚さ:68μm)を形成した。その後、膜形成材料層上に保護フィルム(PET)をカバーし、ロール状に巻き取って転写シートを作製した。
〔誘電体層形成ガラス基板の作製〕
前記転写シートの保護フィルムを剥離後、転写シートの膜形成材料層表面をパネル用ガラス基板(旭硝子社製、PD200)の表面(バス電極の固定面)に当接するように重ね合わせ、加熱ロール式ラミネータを用いて熱圧着した。圧着条件は、加熱ロールの表面温度80℃、ロール線圧1kg/cm、ロール移動速度1m/分であった。熱圧着処理後、膜形成材料層から支持フィルムを剥離除去すると、ガラス基板表面に膜形成材料層が転写されて密着した状態になっていた。膜形成材料層が転写されたガラス基板を焼成炉内に配置し、炉内の温度を室温から590℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、590℃の温度雰囲気下で60分間維持することにより、ガラス基板表面にガラス焼結体からなる誘電体層を形成し、誘電体層形成ガラス基板を作製した。
【0070】
実施例2
実施例1のリン系化合物3重量部の代わりに、正リン酸を0.7重量部用いた以外は実施例1と同様の方法で誘電体層形成ガラス基板を作製した。
【0071】
実施例3
実施例1のリン系化合物3重量部の代わりに、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェートを1重量部用いた以外は実施例1と同様の方法で誘電体層形成ガラス基板を作製した。
【0072】
比較例1
実施例1において、リン系化合物を用いなかった以外は実施例1と同様の方法で誘電体層形成ガラス基板を作製した。
【0073】
比較例2
〔(メタ)アクリル系樹脂の調製〕
撹拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロ−トを備えた四つ口フラスコに2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)、重合開始剤、トルエンを仕込み、緩やかに撹拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を75℃付近に保って約8時間重合反応を行い、固形分50重量%のメタクリル系樹脂溶液を調製した。得られたメタクリル系樹脂の重量平均分子量は10万であり、ガラス転移温度は−10℃であった。
〔無機粉体含有樹脂組成物の調製〕
無機粉体として、PbO−ZnO−B−SiO−Al系ガラス粉体(ガラス転移点:420℃、軟化点:480℃、600℃における溶融粘度:95Pa・s)100重量部、前記メタクリル系樹脂17重量部、溶剤としてα−テルピネオール40重量部、上記一般式(1)において、R=H、R=R=−(CHCHO)−R、R=ノニルフェニルであるリン系化合物(第一工業製薬社製、プライサーフA207H)0.5重量部、及び可塑剤としてトリメリット酸トリオクチル3重量部を配合し、分散機を用いて混合分散してペースト状の無機粉体含有樹脂組成物を調製した。
〔転写シートの作製〕及び〔誘電体層形成ガラス基板の作製〕
上記無機粉体含有樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様の方法で転写シート及び誘電体層形成ガラス基板を作製した。
【0074】
【表1】

表1の結果から明らかなように、無機粉体含有樹脂組成物に特定のリン系化合物を添加し、かつ水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いた場合(実施例1〜3)は、リン系化合物を添加しない場合(比較例1)、水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いない場合(比較例2)に比べて、形成される誘電体層の光透過率は高い。また、実施例1〜3で得られた誘電体層はいずれも気泡の残存がなく透明であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体と、水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、下記一般式(1)で表わされるリン系化合物とを含有する無機粉体含有樹脂組成物。
【化1】



〔式中、R、R及びRはそれぞれ独立にH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、NH(アンモニウム)、又は−(CHCHO)−R(ただし、nは1〜15、RはH、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又は(メタ)アクリロイル基を示す。)である。〕
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量が、5〜50万である請求項1記載の無機粉体含有樹脂組成物。
【請求項3】
無機粉体100重量部に対して、前記(メタ)アクリル系樹脂を5〜50重量部、及び前記リン系化合物を0.1〜10重量部含有する請求項1又は2記載の無機粉体含有樹脂組成物。
【請求項4】
無機粉体が、ガラス粉末である請求項1〜3のいずれかに記載の無機粉体含有樹脂組成物。
【請求項5】
誘電体層の形成材料として用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の無機粉体含有樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の無機粉体含有樹脂組成物をシート状に形成してなる膜形成材料層。
【請求項7】
支持フィルム上に、少なくとも請求項6記載の膜形成材料層が積層されている転写シート。
【請求項8】
請求項6記載の膜形成材料層を焼結させてなる誘電体層。
【請求項9】
請求項7記載の転写シートの膜形成材料層を基板に転写する転写工程、及び転写された膜形成材料層を550〜650℃で焼結させ、基板上に誘電体層を形成する焼結工程を含む誘電体層形成基板の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法によって製造される誘電体層形成基板。
【請求項11】
光透過率が80%以上である請求項10記載の誘電体層形成基板。



【公開番号】特開2006−160893(P2006−160893A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354891(P2004−354891)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】