説明

無機EL発光素子

【課題】直流の低電圧で駆動することができ、発光特性の良好な無機EL発光素子を提供する。
【解決手段】無機EL発光素子は、少なくとも一方の電極が透明に形成された第1及び第2電極と、第1及び第2電極に電気的に接続して設けられ、多結晶構造に形成された硫化亜鉛発光層と、を備え、硫化亜鉛発光層は、その結晶界面に、遷移金属の硫化物で構成された導電部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機EL発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マトリクス(パッシブ)表示を行うEL(electroluminescence)をはじめとする薄型表示装置においては、ガラス基板上に透明電極膜をパターニングし、絶縁膜/発光層/絶縁層で構成されたいわゆる二重絶縁構造を有する多層膜を積層し、更に下層の電極と直交する電極をパターニングすることで素子が形成されている。
【0003】
二重絶縁構造で形成されたEL素子は、その駆動電圧が250vと一般的な素子と比較して非常に高く、高耐圧ICで駆動回路を構成する必要があるために、製造コストが高くなるという問題がある。
【0004】
そこで、二重絶縁構造で形成するのではなく、素子の発光層をそのまま電極材料で挟持することで発光させることができれば、低電圧で直流電流駆動が原理上可能である。
【0005】
このような発光層の発光材料としては、硫化亜鉛が従来より知られている。硫化亜鉛を発光材料として利用した素子として、例えば、特許文献1には、六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛からなる蛍光体母体中に、第1の付活剤および第2の付活剤を含有させた表示装置用蛍光体において、前記第2の付活剤は前記蛍光体母体粒子中に均一に分散されており、かつ前記第1の付活剤は前記蛍光体母体粒子の表層部に偏在していることを特徴とする表示装置用蛍光体が開示されている。そして、これによれば、CRTやFEDなどのカラー表示装置に用いられる六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛蛍光体、特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善することができる、と記載されている。
【特許文献1】特開2004-123787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、硫化亜鉛粉体を各種バインダーに混合した媒質をスクリーン印刷などの塗布法により形成した、いわゆる分散タイプの素子においては導電性を保持した発光層により直流駆動が実現されることは自明であるが、発光性能(輝度、効率)においては実用されている交流駆動に劣り、実用可能なレベルにはない。これは、導電性を保持した硫化亜鉛発光材料を薄膜材料として利用する際の障害となっている。
【0007】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、直流の低電圧で駆動することができ、発光特性の良好な無機EL発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無機EL発光素子は、少なくとも一方の電極が透明に形成された第1及び第2電極と、第1及び第2電極に電気的に接続して設けられ、多結晶構造に形成された硫化亜鉛発光層と、を備え、硫化亜鉛発光層は、その結晶界面に、遷移金属の硫化物で構成された導電部が形成されたことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、硫化亜鉛発光層が、絶縁性基板を介さずに、第1及び第2電極に電気的に接続して設けられているため、低電圧で駆動させることができる。また、硫化亜鉛発光層がその結晶界面に遷移金属の硫化物で構成された導電部が形成されているため、硫化亜鉛発光層内の結晶界面に、硫化亜鉛と遷移金属の硫化物との異種接合が生じる。したがって、その接合領域内で硫化亜鉛バンドギャップ内にドナー準位を占める遷移金属が、電子、正孔の再結合エネルギーにより、硫化亜鉛価電子帯に励起され、励起状態から遷移準位に放出される過程で良好に発光を呈する。このため、直流の低電圧で駆動することができ、発光特性の良好な無機EL発光素子を提供することができる。
【0010】
また、本発明に係る無機EL発光素子は、硫化亜鉛発光層が、硫化金属と硫化亜鉛との積層構造体であってもよい。
【0011】
このような構成によれば、無機EL発光素子の硫化亜鉛発光層が、硫化金属と硫化亜鉛との積層構造体であるため、無機EL発光素子を挟持する第1及び第2電極のそれぞれに好適なコンタクト性を有する層をそれぞれの電極側に配置することにより、良好な導電性を実現することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る無機EL発光素子は、硫化亜鉛発光層にGa等のIII族元素及びN等のV族元素が添加されていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、無機EL発光素子の硫化亜鉛発光層にGa等のIII族元素及びN等のV族元素が添加されているため、硫化亜鉛の結晶の成長を所望の程度に調整することで、容易に無機EL発光素子の導電性及び発光特性を制御することができる。
【0014】
また、本発明に係る無機EL発光素子は、硫化亜鉛発光層が、薄膜型直流駆動であるとともに、硫化亜鉛発光層内の硫化亜鉛が第1及び第2電極の一方から他方へ延びるような柱状結晶構造に形成され、導電部を構成する遷移金属の硫化物が硫化亜鉛の柱状結晶に沿うように偏析していてもよい。
【0015】
このような構成によれば、硫化亜鉛発光層内において、第1及び第2電極の一方から他方へ延びるように硫化亜鉛の柱状結晶構造が形成されているため、この硫化亜鉛の柱状結晶に沿って第1及び第2電極の一方から他方へ延びるように遷移金属の硫化物の偏析が良好に生じている。従って、硫化亜鉛発光層の導電性及び発光特性が良好となる。
【0016】
さらに、本発明に係る無機EL発光素子は、硫化亜鉛発光層が、分散型直流駆動であるとともに、硫化亜鉛発光層内の硫化亜鉛が粒状結晶構造に形成され、導電部を構成する遷移金属の硫化物が硫化亜鉛の粒状結晶を覆うように偏析していてもよい。
【0017】
このような構成によれば、硫化亜鉛発光層内において、硫化亜鉛が粒状結晶構造に形成されているため、この硫化亜鉛の粒状結晶を覆う遷移金属の硫化物の偏析が硫化亜鉛発光層内で広範囲に分散して存在することができる。従って、硫化亜鉛発光層の導電性及び発光特性が良好となる。
【0018】
また、本発明に係る無機EL発光素子は、導電部を構成する遷移金属の硫化物が、硫化銅であってもよい。
【0019】
このような構成によれば、導電部を構成する遷移金属の硫化物が硫化銅であるため、硫化亜鉛中で容易に拡散することができる。従って、硫化銅が硫化亜鉛の結晶に沿うように又は硫化亜鉛の結晶を覆うように良好に偏析するため、硫化亜鉛発光層内に導電部を効率的に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、直流の低電圧で駆動することができ、発光特性の良好な無機EL発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る無機EL発光素子について、図面を用いて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
(実施形態1)
(無機EL発光素子10の構成)
図1は本発明の実施形態1に係る薄膜型直流駆動の無機EL発光素子10の断面図である。
【0023】
無機EL発光素子10は、基板11と、基板11の上に設けられた第1電極12と、第1電極12の上に設けられた印加発光層としての硫化亜鉛発光層13と、硫化亜鉛発光層13の上に設けられた第2電極14とで構成されている。基板11は、ガラス、PET(Polyethylene Terephthalate)フィルム等の可視光域で透質な性能を有し、平滑表面を有する材料で構成されている。
【0024】
第1電極12及び第2電極14は、硫化亜鉛発光層13に電圧を印加する。第1電極12及び第2電極14は、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等により形成することができる。その中でも、光を透過する透明電極とする場合は、非晶質であるインジウム亜鉛酸化物(IZO)が好ましい。また、光を反射させる反射電極とする場合は、光反射率が高く、電気抵抗の低いアルミニウム(Al)が好ましい。
【0025】
硫化亜鉛発光層13は、薄膜型直流駆動に構成されている。硫化亜鉛発光層13は、内部に硫化亜鉛(ZnS)16の結晶及び硫化物の結晶に沿うように偏析した硫化銅(CuS)17の結晶を有している。
【0026】
ここで、硫化亜鉛発光層13を構成する硫化亜鉛(ZnS)16及び硫化銅(CuS)17の構成材料の各組成、導電率、及び、それらの発光特性良好範囲を、それぞれ表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
ここで、硫化亜鉛(ZnS)については、組成比が1:1に近い範囲でドーピングを施すことで電気特性的にも安定であると同時に、発光特性も硫化亜鉛(ZnS)の物性(とりわけバンドギャップエネルギー量)を反映するので発光性能も良好である。
【0029】
これに対し、Znリッチ又はSリッチは、それぞれ不安定性で亜酸化しやすい。
【0030】
硫化銅(CuS)については、CuS(Cu0.330.67)組成が半導体特性が強く、CuS(Cu0.670.33)組成は導電性が高く、より金属性が高い。
【0031】
硫化亜鉛(ZnS)との接合を考慮した場合、格子整合率の観点や、ZnSのn型半導体との導電性と合致するのがCuSのp型半導体である点から、半導体硫化銅(CuS)のほうがより接合しやすい。
【0032】
また、発光特性を考えた場合、CuS−ZnSのヘテロpn接合は、ZnSのバンドギャップエネルギー3.7eVに対してCuSの方も、より大きなバンドギャップを有しないとバリアを有する接合になりやすい。さらに、CuSのバンドギャップエネルギーは、CuSよりも大きいことは明らかである。これらの点から、表1に示したCu(x)S(y)組成が、発光特性の良好な範囲といえる。
【0033】
硫化亜鉛(ZnS)16の結晶は、第1電極12及び第2電極14の一方から他方へ延びるような柱状結晶構造に形成されている。硫化銅(CuS)17は、硫化亜鉛(ZnS)16の柱状結晶に沿うように偏析しており、これによって硫化亜鉛発光層13内における導電部18を構成している。
【0034】
すなわち、硫化亜鉛発光層13は、その柱状構造の結晶界面に、硫化銅(CuS)17で構成された導電部18が形成されているため、硫化亜鉛発光層13内の結晶界面に、硫化亜鉛(ZnS)16と硫化銅(CuS)17との異種接合が生じる。したがって、その接合領域内で硫化亜鉛バンドギャップ内にドナー準位を占めるCuが、電子、正孔の再結合エネルギーにより、硫化亜鉛価電子帯に励起され、励起状態から遷移準位に放出される過程で良好に発光を呈する。このため、硫化亜鉛発光層13は、直流の低電圧で駆動することができ、発光特性の良好となっている。
【0035】
(無機EL発光素子10の製造方法)
次に、本実施形態1に係る無機EL発光素子10の製造方法について詳細に説明する。
【0036】
まず、蒸着法やスパッタ法等を用いて、ガラスをはじめとする透明な平坦性の高い材料(例えば、ホウケイ酸ガラス:コーニング社製#1737材)で構成された基板11上に、例えばITO(In:Sn)等で構成された第1電極12を、厚さ150〜200nm程度に形成する。第1電極12をパターニングする場合は、フォトレジストの塗布、パターン露光、現像、エッチング及びレジスト剥離を順に行うフォトリソグラフィー技術を用いて所望の形状にパターニングすることができる。
【0037】
次に、第1電極12上に硫化亜鉛発光層13を形成する。硫化亜鉛発光層13は例えばスパッタ法により形成することができる。以下、スパッタ法により硫化亜鉛発光層13を形成する工程について詳細に説明する。
【0038】
まず、硫化亜鉛発光層13の成分(ホスト材料及び発光中心)を含有するターゲット材を作製する。ターゲット材は、例えば、ホスト材料を硫化亜鉛(ZnS)16とし、発光中心を銅(Cu)、塩素(Cl)とする場合、硫化亜鉛(ZnS)16に銅(Cu)を0.1mol%以上5mol%以下、塩素(Cl)を0.1mol%以上10mol%以下の濃度で添加することにより作製する。
【0039】
次に、このように作製したターゲット材を、スパッタリング(スパッタリングガス:Ar、背圧:1〜100mTorr)により第1電極12上に形成する。
【0040】
次に、ターゲット材上に、硫化銅17で構成されたターゲット材によってスパッタリング薄膜(スパッタリングガス:Ar、背圧:1〜100mTorr)を積層する。
【0041】
ここで、上記のように硫化亜鉛発光層13を成膜する際、基板11は常温以上300℃程度であることが好ましい。より好ましくは、100℃以上300℃以下である。成膜レート(硫化亜鉛発光層13を成膜する速度)は1nm/s以上20nm/s以下であることが好ましい。より好ましくは1nm/s以上10nm/s以下である。
【0042】
硫化亜鉛発光層13を形成した後、加熱処理を行うことが好ましい。具体的には、減圧雰囲気中(好ましくは1Pa以上30Pa以下、より好ましくは6Pa以上20Pa以下)あるいは真空雰囲気中、300℃以上600℃以下で、30分以上120分以下アニールすることが好ましい。これによって、硫化亜鉛発光層13の結晶化を促進することができる。また、急速加熱処理(RTA:Rapid Thermal Annealing)やエキシマレーザーを用いたレーザーアニールを行ってもよい。急速加熱処理やレーザーアニールによれば、硫化亜鉛発光層13の結晶化をより効果的に促進することができる。 上記のようにスパッタ、蒸着によって積層し、熱処理によって結晶化させた硫化亜鉛発光層13は、柱状結晶成長をするために、結晶粒界面が厚み方向(第1電極12から第2電極14へ延びる方向)に沿って多く存在する。その粒界面に硫化銅17が偏析しやすく、熱焼成によって硫化亜鉛16との異種接合を形成する。
【0043】
次に、硫化亜鉛発光層13の上に、仕事関数の大きなAl(4.2eV)などの金属材料で構成された第2電極14を形成することによって無機EL発光素子10を製造することができる。第2電極14は、第1電極12と同様に、蒸着法やスパッタ法等を用いて形成することができる。
【0044】
さらに、無機EL発光素子10の上から、硫化亜鉛発光層13を外気から遮断するように、凹部が形成された封止基板等を用いて無機EL発光素子10を封止してもよい。さらに、封止基板と無機EL発光素子10との間に絶縁性オイル(例えば、シリコンオイル等)を充填してもよい。これにより硫化亜鉛発光層13や第1電極12及び第2電極14が酸素や水分と接触することを効果的に抑制することができ、長寿命な無機EL発光素子10を実現することができる。
【0045】
実施形態1では、スパッタ法を用いて硫化亜鉛発光層13を形成する場合を説明したが、本発明は何らこれに限定されるものではない。フッ素雰囲気中において、蒸着法を用いて硫化亜鉛発光層13を形成しても構わない。
【0046】
(実施形態2)
(無機EL発光素子20の構成)
図2は本発明の実施形態2に係る分散型直流駆動の無機EL発光素子20の断面図である。
【0047】
無機EL発光素子20は、基板21と、基板21の上に設けられた第1電極22と、第1電極22の上に設けられた印加発光層としての硫化亜鉛発光層23と、硫化亜鉛発光層23の上に設けられた第2電極24とで構成されている。基板21は、ガラス、PET(Polyethylene Terephthalate)フィルム等の可視光域で透質な性能を有し、平滑表面を有する材料で構成されている。
【0048】
第1電極22及び第2電極24は、硫化亜鉛発光層23に電圧を印加する。第1電極22及び第2電極24はインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム(Al),銀(Ag)等により形成することができる。その中でも、光を透過する透明電極とする場合は、非晶質であるインジウム亜鉛酸化物(IZO)が好ましい。また、光を反射させる反射電極とする場合は、光反射率が高く、電気抵抗の低いアルミニウム(Al)が好ましい。
【0049】
硫化亜鉛発光層23は、分散型直流駆動に構成されている。硫化亜鉛発光層23は、硫化亜鉛(ZnS)26の粒状結晶及び硫化亜鉛26の粒状結晶を覆うように偏析して導電部28を構成する硫化銅(CuS)27の結晶を有している。
【0050】
すなわち、硫化亜鉛発光層23は、その内部において、硫化亜鉛26が粒状結晶構造に形成されているため、この硫化亜鉛26の粒状結晶を覆う硫化銅27の偏析が硫化亜鉛発光層23内で広範囲に分散して存在することができる。従って、硫化亜鉛発光層23の導電性及び発光特性が良好となっている。
【0051】
また、硫化亜鉛発光層23は、硫化亜鉛26に対して、硫化銅27を1〜30mol%を添加し、且つ、ガリウムヒ素(GaAs)を1〜10mol%添加することで、硫化亜鉛26の結晶粒径が10μm〜20μmを上限とするように抑制されている。ここで、結晶成長の抑制手段として添加するものは、上記ガリウムヒ素(GaAs)に限らず、III族元素及びV族元素で構成されていてもよい。
【0052】
(無機EL発光素子20の製造方法)
次に、本実施形態2に係る無機EL発光素子20の製造方法について詳細に説明する。
【0053】
まず、ガラス、PET(Polyethylene Terephthalate)フィルム等の可視光域で透質な性能を有し、平滑表面を有する材料で構成された基板21を準備する。
【0054】
次に、基板21上にITOペースト、PEDOT(poly(ethylenedioxy)thiophene)ペースト等の透明電極材料を印刷して第1電極22を形成する。透明電極材料の形成は、印刷でなくてもよく、スパッタ等で薄膜に形成してもよい。
【0055】
次に、硫化亜鉛蛍光体粉末に硫化銅を添加合成して得られる発光層材料を、シアノ樹脂などをはじめとするバインダーに混合してペースト材料を調整する。このようにして得られたペースト材料をスクリーン印刷により第1電極22上に塗布し、100〜200℃で乾燥させ、硫化亜鉛発光層23を作製する。硫化亜鉛発光層23は、特に限定されないが、例えば数10μm程度の厚さに形成する。
【0056】
ここで、無機EL発光素子20そのものは、導電性を有する発光層材料によって性能を大きく左右される。本実施形態に係る無機EL発光素子20の製造方法では、硫化亜鉛26に硫化銅27を添加させる工程において、硫化亜鉛26に対して1〜10mol%のガリウムヒ素を添加するために、硫化亜鉛結晶成長の粒径10μm〜20μmを上限にした上で、結晶成長を制御することができる。その際に硫化銅27を硫化亜鉛26に対して1〜30mol%となるように添加し、700〜1000℃の窒素等の不活性ガス雰囲気で焼成することで、硫化亜鉛結晶粒表面に各種の欠陥が生じる。この欠陥が生じながら、その欠陥箇所に硫化銅27が偏析することで、ZnS−CuSのヘテロpn接合の形成が促進され、且つ、硫化亜鉛結晶粒表面に硫化銅27による導電部18が広く分布することで導電性が付与される。
【0057】
本実施形態に係る無機EL発光素子20は、このように広範囲に硫化銅とのpn接合箇所が分布する硫化亜鉛蛍光体材料を発光層に用いることで、発光性能が良好となっている。
【0058】
次に、硫化亜鉛発光層23上に背面電極として銀などの導電性ペースト材料を、印刷塗布し、その後乾燥させることによって第2電極24を形成する。
【0059】
さらに、無機EL発光素子20の上から、硫化亜鉛発光層23を外気から遮断するように、凹部が形成された封止基板等を用いて無機EL発光素子20を封止してもよい。さらに、封止基板と無機EL発光素子20との間に絶縁性オイル(例えば、シリコンオイル等)を充填してもよい。これにより硫化亜鉛発光層23や第1電極22及び第2電極24が酸素や水分と接触することを効果的に抑制することができ、長寿命な無機EL発光素子20を実現することができる。
【0060】
実施形態1では、スパッタ法を用いて硫化亜鉛発光層23を形成する場合を説明したが、本発明は何らこれに限定されるものではない。フッ素雰囲気中において、蒸着法を用いて硫化亜鉛発光層23を形成しても構わない。
【0061】
尚、本発明の無機EL発光素子に係るその他の実施形態として、第1電極及び第2電極間に形成される硫化亜鉛発光層が、硫化金属と硫化亜鉛との積層構造体であってもよい。
【0062】
この場合、例えば、第1電極をITO膜とし、第2電極をAl膜とする。さらに、第1電極側に硫化金属を、第2電極側に硫化亜鉛を対向させることで、それぞれに好適なコンタクト性を有する層がそれぞれの電極側に配置される。このため、良好な導電性を実現することができる。
【0063】
(作用効果)
次に作用効果について説明する。
【0064】
本発明の実施形態1及び2に係る無機EL発光素子10,20は、少なくとも一方の電極が透明に形成された第1電極12,22及び第2電極14,24と、第1電極12,22及び第2電極14,24に電気的に接続して設けられ、多結晶構造に形成された硫化亜鉛発光層13,23と、を備え、硫化亜鉛発光層13,23は、その結晶界面に、硫化銅17,27で構成された導電部18,28が形成されたことを特徴とする。
【0065】
このような構成によれば、硫化亜鉛発光層13,23が、絶縁性基板を介さずに、第1電極12,22及び第2電極14,24に電気的に接続して設けられているため、低電圧で駆動させることができる。また、硫化亜鉛発光層13,23内の結晶界面に硫化銅17,27で構成された導電部18,28が形成されているため、硫化亜鉛発光層13,23内の結晶界面に、硫化亜鉛16,26と硫化銅17,27との異種接合が生じる。したがって、その接合領域内で硫化亜鉛バンドギャップ内にドナー準位を占める銅が、電子、正孔の再結合エネルギーにより、硫化亜鉛価電子帯に励起され、励起状態から遷移準位に放出される過程で良好に発光を呈する。このため、直流の低電圧で駆動することができ、発光特性の良好な無機EL発光素子を提供することができる。
【0066】
次に、本発明の実施形態1及び2に係る無機EL発光素子10,20と、図3に示す従来の無機EL発光素子100とを比較する。
【0067】
従来の無機EL発光素子100は、硫化亜鉛の結晶粒が大きく、pn接合箇所が少ない(粒界面が少ない)ため、導電部が第1電極及び第2電極間で十分に形成されない可能性がある。このため、従来の無機EL発光素子は発光性能に問題があるのに対し、本発明の実施形態1及び2に係る無機EL発光素子10,20は、導電部18,28が硫化亜鉛発光層13,23内に広く分布しているために、より良好な導電性及び発光特性を備えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明は、無機EL発光素子について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態1に係る薄膜型直流駆動の無機EL発光素子10の断面図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る分散型直流駆動の無機EL発光素子20の断面図である。
【図3】従来の無機EL発光素子100の断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10,20 無機EL発光素子
11,21 基板
12,22 第1電極
13,23 硫化亜鉛発光層
14,24 第2電極
16,26 硫化亜鉛
17,27 硫化銅
18,28 導電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の電極が透明に形成された第1及び第2電極と、
上記第1及び第2電極に電気的に接続するように設けられ、多結晶構造に形成された硫化亜鉛発光層と、
を備え、
上記硫化亜鉛発光層は、その結晶界面に、遷移金属の硫化物で構成された導電部が形成された無機EL発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された無機EL発光素子において、
上記硫化亜鉛発光層は、上記硫化金属と硫化亜鉛との積層構造体である無機EL発光素子。
【請求項3】
請求項1に記載された無機EL発光素子において、
上記硫化亜鉛発光層には、Ga等のIII族元素及びN等のV族元素が添加されている無機EL発光素子。
【請求項4】
請求項1に記載された無機EL発光素子において、
上記硫化亜鉛発光層は、薄膜型直流駆動であるとともに、
上記硫化亜鉛発光層内の硫化亜鉛が第1及び第2電極の一方から他方へ延びるような柱状結晶構造に形成され、
上記導電部を構成する遷移金属の硫化物が上記硫化亜鉛の柱状結晶に沿うように偏析している無機EL発光素子。
【請求項5】
請求項1に記載された無機EL発光素子において、
上記硫化亜鉛発光層は、分散型直流駆動であるとともに、
上記硫化亜鉛発光層内の硫化亜鉛が粒状結晶構造に形成され、
上記導電部を構成する遷移金属の硫化物が上記硫化亜鉛の粒状結晶を覆うように偏析している無機EL発光素子。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された無機EL発光素子において、
上記導電部を構成する遷移金属の硫化物は、硫化銅である無機EL発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−243587(P2008−243587A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82413(P2007−82413)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】