説明

無段変速機の変速制御装置及び制御方法

【課題】無端トルク伝達部材の伸びの有無に応じた、適正なプーリ推力制御を実現する。
【解決手段】無段変速機4は一対のプーリ11と12に掛け回された無端トルク伝達部材13を備え、少なくとも一方のプーリは加えられるプーリ推力に応じて、無端トルク伝達部材13の巻き付け径を変化させる。変速制御装置は無段変速機4の運転状態に基づき無端トルク伝達部材13の伸び量を推定し、伸び量に基づき滑り限界推力を設定し、滑り限界推力に基づき少なくとも一方のプーリ推力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Vチェーンなどの無端トルク伝達部材と一対のプーリとを用いた無段変速機のプーリ推力の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はVチェーンなどの無端トルク伝達部材をプライマリプーリとセカンダリプーリからなる一対のプーリに掛け回した車両用の無段変速機(CVT)において、プーリの剛性の設定により変速応答性を高めることを提案している。
【0003】
プライマリプーリとセカンダリプーリは、それぞれ回転軸方向に加えられるプーリ推力に応じてV字形の溝の幅を変化させ、Vチェーンの巻き付き半径を変化させることで、プーリ間の回転速度比、つまり変速比を変化させる。プーリ推力は車両に搭載された内燃エンジンを動力源とする油圧ポンプの油圧によって得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009144751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなCVTにおいて、Vチェーンといずれかのプーリとの間に滑りが生じると、プーリ間のトルク伝達に支障が生じる。Vチェーンとプーリとの間に滑りを生じさせないようにするには、プーリに一定以上の推力を加える必要がある。この一定以上の推力を滑り限界推力と称する。滑り限界推力はプライマリプーリにもセカンダリプーリにも共通の値であり、プライマリプーリへのVチェーンの巻き付き半径に依存して決まる。滑り限界推力は次式(1)で計算される。
【0006】
【数1】

【0007】
ただし、Fmin=滑り限界推力、
Tp=プライマリプーリの入力トルク、
α=シーブ角、
μ=Vチェーンとプーリの摩擦係数、
Rp=プライマリプーリへのVチェーンの巻き付き半径。
【0008】
ここで、シーブ角αはプライマリプーリ、セカンダリプーリ、及びVチェーンの形状と寸法で予め決定される定数であり、摩擦係数μはプライマリプーリ、セカンダリプーリ、及びVチェーンの材質より予め決定される定数である。
【0009】
図11を参照すると、Vチェーンを介してトルク伝達を行うCVTにおいては、Vチェーンに伸びが生じると、同一変速比においてプーリへの巻き付き半径が変化する。次式(3)は変速比と巻き付き半径の関係を示す。
【0010】
【数2】

【0011】
ただし、ip=変速比、
Rp1=Vチェーンの伸びが小さい場合のプライマリプーリへの巻き付き半 径、
Rs1=Vチェーンの伸びが小さい場合のセカンダリプーリへの巻き付き半 径、
Rp2=Vチェーンの伸びが大きい場合のプライマリプーリへの巻き付き半 径、
Rs2=Vチェーンの伸びが大きい場合のセカンダリプーリへの巻き付き半 径。
【0012】
式(1)から分かるようにVチェーンに伸びが生じると、プーリへのVチェーンの巻き付き半径が増大し、結果として滑り限界推力は小さくなる。
【0013】
したがって、Vチェーンの伸びを考慮せずに計算した滑り限界推力に基づきプーリ推力を制御すると、Vチェーンに伸びが生じた場合には、プーリ推力が過大となる。その結果、油圧損失や摩擦損失が増大し、油圧ポンプを駆動する内燃エンジンの燃料消費の増大を招く。
【0014】
この発明は、無端トルク伝達部材が対のプーリ間でトルクを伝達する無段変速機に関する従来技術の以上の問題に着目し、無端トルク伝達部材の伸びの有無に応じた、適正なプーリ推力制御を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、以下の手段によって上記課題を解決する。
【0016】
すなわち、一対のプーリに掛け回された無端トルク伝達部材を備え、少なくとも一方のプーリは、加えられるプーリ推力に応じて可動シーブを軸方向に変位させることで、無端トルク伝達部材の巻き付け径を変化させる無段変速機、の変速比を制御する変速制御装置において、無段変速機の運転状態を検出する検出手段と、運転状態に基づき無端トルク伝達部材の伸び量と、伸び量に応じた滑り限界推力と、を算出する算出手段と、滑り限界推力に基づき少なくとも一方のプーリ推力を制御する制御手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0017】
検出手段が検出した運転状態から算出手段が無端トルク伝達部材の伸び量と、伸び量に応じた滑り限界推力を算出する。算出された滑り限界推力に基づき制御手段がプーリ推力を制御することで、無端トルク伝達部材に伸びが生じた場合に、プーリ推力が過剰になるのを防止する。結果として、過大なプーリ推力によるエネルギーの損失を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施形態による無段変速機の変速制御装置の概略構成図である。
【図2】無段変速機の水平断面図である。
【図3】この発明の実施形態による変速コントローラが実行する変速制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図4】変速コントローラによる滑り限界推力の収束計算を説明するプロックダイアグラムである。
【図5】巻き付き半径と滑り限界推力の収束の様子を説明するタイミングチャートである。
【図6】発明者らのシミュレーションによる、無段変速機のプライマリプーリの入力トルクとVチェーンの張力との関係を示すダイアグラムである。
【図7】発明者らのシミュレーションによる、無段変速機のセカンダリプーリの推力とVチェーンの張力との関係を示すダイアグラムである。
【図8】発明者らのシミュレーションによる、プライマリプーリの回転速度とVチェーンの張力との関係を示すダイアグラムである。
【図9】発明者らのシミュレーションによる、変速比とVチェーンの張力との関係を示すダイアグラムである。
【図10】変速コントローラによるVチェーンの伸びを考慮した滑り限界推力の設定の様子を説明するタイミングチャートである。
【図11】Vチェーンの伸びによる巻き付き半径の変化を説明する、プライマリプーリとセカンダリプーリに欠け回されたVチェーンの概略側面図である。
【図12】変速コントローラの滑り限界推力計算機能のバリエーションを説明するプロックダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照すると、車両駆動システムは、走行用動力源として内燃エンジン1を備える。内燃エンジン1の出力回転は、トルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下CVTと称する)4、第2ギヤ列5、及び終端減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
【0020】
CVT4はチェーン式無段変速機構で構成される。
【0021】
CVT4は、プライマリプーリ11と、セカンダリプーリ12と、プーリ11と12に掛け回される無端トルク伝達部材としてのVチェーン13とを備える。Vチェーン13はVチェーン13の中心方向に向かって幅を漸減するV字形断面を有する。
【0022】
図2を参照すると、CVT4のプライマリプーリ11は固定シーブ11Aと可動シーブ11Bとを備える。固定シーブ11Aはプーリ軸11Cを有する。可動シーブ11Bはプーリ軸11Cの外周に軸方向に摺動自由に指示される。可動シーブ11Bは油圧シリンダ15が軸方向に及ぼすプーリ推力により、プーリ軸11C上で固定シーブ11Aとの距離を変化させ、Vチェーン13の巻き付き半径を変化させる。
【0023】
セカンダリプーリ12は固定シーブ12Aと可動シーブ12Bとを備える。固定シーブ12Aはプーリ軸12Cを有する。可動シーブ12Bはプーリ軸12Cの外周に軸方向に摺動自由に指示される。可動シーブ12Bは油圧シリンダ16が軸方向に及ぼすプーリ推力により、プーリ軸12C上で固定シーブ12Aとの距離を変化させ、Vチェーン13の巻き付き半径を変化させる。
【0024】
CVT4はこのようにしてVチェーン13のプライマリプーリ11とセカンダリプーリ12への巻き付き半径を変化させることで、変速比を無段階に変化させる。なお、「変速比」は、CVT4の入力回転速度をCVT4の出力回転速度で割って得られる値である。
【0025】
プライマリプーリ11にはプーリストッパ21Aと21Bとが設けられる。可動シーブ11BのVチェーン13に当接する部位を先端、反対側の端部を後端と称する。プーリストッパ21Aは油圧シリンダ15の内側に設けられ、可動シーブ11Bの後端に当接することで可動シーブ11Bの固定シーブ11Aから後退方向への一定以上の変位を阻止する。プーリストッパ21Bは固定シーブ11Aのプーリ軸12Cの外周に段差状に形成される。可動シーブ11Bの内周には対応する段差が形成される。可動シーブ11Bはこの段差をプーリストッパ21Bに当接することで、固定シーブ11Aへの接近方向への一定以上の変位を阻止される。
【0026】
プーリストッパを21Aと21Bをセカンダリプーリ12に設けても良い。プーリストッパ21Aと21Bは次の役割をもつ。すなわち、
(1)プーリストッパ21AはVチェーン13がプーリ軸11C(12C)に接触するのを防止する。
【0027】
(2)プーリストッパ21BはVチェーン13がプーリ11(12)のV溝から外れるのを防止する。
【0028】
(1)の機能が必要とされるのは、プライマリプーリ11では最大変速比付近であり、セカンダリプーリ12では最小変速比付近である。
【0029】
(2)の機能が必要とされるのは、プライマリプーリ11では最小変速比付近であり、セカンダリプーリ12では最大変速比付近である。
【0030】
プーリストッパ21Aと21Bをプライマリプーリ11に設ける場合について説明する。
【0031】
最大変速比付近では可動シーブ11Bの後端がプーリストッパ21Aに当接することで、Vチェーン13のプライマリプーリ11への巻き付き半径の最小値を規定する。可動シーブ11Bの後端がプーリストッパ21Aに当接した状態で、固定シーブ11Aと可動シーブ11Bが形成する溝幅の最も狭い部位の幅がVチェーン13の内周の幅より狭くなるようにプーリストッパ21Aの位置を設定することで、Vチェーン13のプーリ軸11Cとの接触を防止する。
【0032】
最小変速比付近では可動シーブ12Bの内周に形成された段差がプーリ軸11Cの外周に形成した段差状のプーリストッパ21Bに当接することで、Vチェーン13のプライマリプーリ11への巻き付き半径の最大値を規定する。この時、Vチェーン13に伸びが生じても、固定シーブ11Aと可動シーブ11Bが形成する溝から外れないように、あらかじめVチェーン13の伸びを考慮して、シーブ面の半径を設計する。
【0033】
プーリストッパ21Aと21Bをセカンダリプーリ12に設ける場合について説明する。
【0034】
最小変速比付近では可動シーブ12Bの後端がプーリストッパ21Aに当接することで、Vチェーン13のセカンダリプーリ12への巻き付き半径の最小値を規定する。可動シーブ12Bの後端がプーリストッパ21Aに当接した状態で、固定シーブ12Aと可動シーブ12Bが形成する溝幅の最も狭い部位の幅がVチェーン13の内周の幅より狭くなるようにプーリストッパ21Aの位置を設定することで、Vチェーン13のプーリ軸12Cとの接触を防止する。
【0035】
最大変速比付近では可動シーブ12Bの内周に形成された段差がプーリ軸11Cの外周に形成した段差状のプーリストッパ21Bに当接することで、Vチェーン13のプライマリプーリ12への巻き付き半径の最大値を規定する。この時、Vチェーン13に伸びが生じても、固定シーブ12Aと可動シーブ12Bが形成する溝から外れないように、あらかじめVチェーン13の伸びを考慮して、シーブ面の半径を設計する。
【0036】
なお、プーリストッパ21Aと21Bはプライマリプーリ11とセカンダリプーリ12のいずれに設けても良い。この実施形態では、プライマリプーリ11にプーリストッパ21Aと21Bを設け、セカンダリプーリ12にはプーリストッパを設けないものとする。
【0037】
再び図1を参照すると、CVT4の変速制御は、内燃エンジン1の動力の一部を利用して駆動される油圧ポンプ10と、油圧ポンプ10からの油圧を調圧して無段変速機4の油圧シリンダ15と16に供給する油圧制御回路21と、油圧制御回路21を制御する変速コントローラ22と、によって行われる。
【0038】
変速コントローラ22は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラを複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0039】
変速コントローラ22には、内燃エンジン1の負荷として車両が備えるアクセラレータペダルの開度APOを検出するアクセラレータペダル開度センサ41、車両が備えるセレクタレバーのセレクト位置を検出するインヒビタスイッチ45、プライマリプーリ11の回転速度Npを検出するプライマリ回転センサ42、及びセカンダリプーリ12の回転速度Nsを検出するセカンダリ回転センサ43から、それぞれの検出データが信号入力される。
【0040】
図3を参照して、変速コントローラ22が実行するCVT4の変速制御ルーチンを説明する。なお、このルーチンはプライマリプーリ11の回転中に例えば10ミリ秒の一定間隔で繰り返し実行される。
【0041】
ステップS1で、変速コントローラ22は内燃エンジン1の負荷と車速VSPとに基づき公知の方法で目標変速比Dipを決定する。内燃エンジン1の負荷には、アクセラレータペダル開度センサ41が検出するアクセラレータペダル開度APOを用いる。車速VSPはセカンダリプーリ12の回転速度Nsと、第2ギヤ列5及び終端減速装置6のギヤ比とから算出する。
【0042】
ステップS2では、目標変速比Dipと実変速比ipとの偏差に基づく公知の変速比フィードバック制御により、プライマリプーリ11のプーリ推力Fpとセカンダリプーリ12のプーリ推力Fsとを算出する。
【0043】
ステップS3で、変速コントローラ22は滑り限界推力Fminを計算する。この処理について次に詳しく説明する。
【0044】
油圧シリンダ15と16への供給油圧を変化させると、油圧シリンダ15が可動シーブ11Bに及ぼすプーリ推力により、可動シーブ11Bはプーリ軸11C上で固定シーブ11Aとの距離を変化させ、Vチェーン13の巻き付き半径Rpを変化させる。また、油圧シリンダ16が可動シーブ12Bに及ぼすプーリ推力により、可動シーブ12Bはプーリ軸12C上で固定シーブ12Aとの距離を変化させ、Vチェーン13の巻き付き半径Rsを変化させる。
【0045】
ここで、Vチェーン13とプーリ11または12との間に実質的な滑りが生じると、トルク伝達に支障が生じる。実質的な滑りと記載したのは、Vチェーン13の場合は正常なトルク伝達においてもプライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12に対してそれぞれ微小な滑りを生じるからである。このような微小な滑りと区別するために、トルク伝達に支障を来すようなVチェーン13の滑りを実質的な滑りと称する。
【0046】
Vチェーン13とプーリ11または12との間に実質的な滑りが生じないようにするには、プーリ11と12にプーリ推力を及ぼす油圧シリンダ15と16の油圧を高めれば良い。しかしながら、そのためには油圧シリンダ15と16に油圧を供給する油圧ポンプ10の吐出圧を高めなくてはならず、結果として油圧供給システム内の油圧損失や摩擦損失が増大し、油圧ポンプ10を駆動する内燃エンジン1の燃料消費の増大を招く。
【0047】
そこで、ステップS3で変速コントローラ22は、実変速比ipに対してVチェーン13の滑りを生じさせないプーリ推力の最小値を、滑り限界推力Fminとして計算する。滑り限界推力Fminは、プライマリプーリ11とセカンダリプーリ12に共通の値である。このとき、変速コントローラ22は、Vチェーン13の伸びを考慮して滑り限界推力Fminを計算することで、CVT4の変速動作に伴う消費エネルギーを最小限に抑える。
【0048】
ステップS3の処理について以下に詳しく説明する。
【0049】
プーリに巻き付けられたVチェーンのような無端トルク伝達部材が、プーリに対して実質的な滑りを生じないようにするためには、滑り限界推力以上の推力をプーリに加える必要がある。
【0050】
滑り限界推力の計算の基本ロジックを次に説明する。
【0051】
Vチェーン13の伸びを考慮しない場合には、実変速比ipに対して、Vチェーン13のプライマリプーリ11への巻き付き半径Rpは幾何学的に算出可能である。したがって、Vチェーン13の伸びを考慮しなければ、この値を用いて式(1)により滑り限界推力Fminを直接計算することができる。
【0052】
しかしながら、セカンダリプーリ12のプーリ推力Fsを、このようにして算出した滑り限界推力Fmin以上となるように設定すると、次の問題が生じる。
【0053】
すなわち、Vチェーン13に伸びが生じると、プライマリプーリ11へのVチェーン13の巻き付き半径Rpが増大し、結果として滑り限界推力Fminが小さくなる。
【0054】
この場合に、Vチェーン13の伸びを考慮せずに算出した滑り限界推力Fminを適用して、セカンダリプーリ12のプーリ推力Fsを設定すると、プーリ推力Fsが過大になる。その結果、油圧損失や摩擦損失が増大し、油圧ポンプ10を駆動する内燃エンジン1の燃料消費の増大を招く。
【0055】
この実施形態においては、Vチェーン13の伸びを考慮して滑り限界推力Fminの計算を行う。Vチェーン13に伸びがあると、Vチェーン13のプライマリプーリ11への巻き付き半径Rpが増大する。式(1)から分かるように、巻き付き半径Rpが増大すると、滑り限界推力Fminが減少する。滑り限界推力Fminの減少はVチェーン13の張力を低下させ、結果としてVチェーン13の伸び量を減少させる。このように、Vチェーン13に伸びがある場合には、収束計算を行わないと滑り限界推力Fminを算出できない。
【0056】
変速コントローラ22は図4に示す計算ロジックにより、滑り限界Fminの収束計算を行う。
【0057】
図4を参照すると、変速コントローラ22はチェーン張力算出ユニットB11、チェーン長算出ユニットB12、プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13、及び滑り限界推力算出ユニットB14を備える。なお、この図に示す各ブロックは変速コントローラ22の滑り限界推力Fminの算出機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的な存在を意味しない。
【0058】
チェーン張力算出ユニットB11にはプライマリプーリ11への入力トルクTp、実変速比ip、プライマリプーリ11の回転速度Np、及び滑り限界推力Fminが入力される。
【0059】
ここで、プライマリプーリ11への入力トルクTpは図1に示すエンジンコントロールユニット(ECU)51から入力されるエンジントルクTeng、トルクコンバータ2のロックアップ状態、及び内燃エンジン1からプライマリプーリ11に至る動力伝達部材のイナーシャトルクに基づき、例えば特開平8200461号や特開2002106705号に開示される公知の方法で算出される。
【0060】
プライマリプーリ11の回転速度Npはプライマリ回転センサ42により検出された値である。実変速比ipはプライマリ回転センサ42が検出するプライマリプーリ11の回転速度Npとセカンダリ回転センサ43が検出するセカンダリプーリ12の回転速度Nsの比として計算される。
【0061】
滑り限界推力Fminは、滑り限界推力算出ユニットB14が算出する値である。変速コントローラ22は滑り限界推力算出ユニットB14が算出した滑り限界推力Fminを、再びチェーン張力算出ユニットB11に入力することで収束計算を行う。
【0062】
滑り限界推力Fminの初期値は例えば次のように設定する。すなわち、伸びなしのチェーン長L0とプライマリプーリ11とセカンダリプーリ12の変速比から計算されるプライマリプーリ11の巻き付き半径Rp0を算出し、巻き付き半径Rp0とプライマリプーリ11への入力トルクTpから算出される滑り限界推力を、滑り限界推力Fminの初期値として使用する。滑り限界推力Fminの初期値を他の方法で設定することも可能である。
【0063】
チェーン張力算出ユニットB11は、プライマリプーリ11への入力トルクTp、滑り限界推力Fmin、プライマリプーリ11のプーリ推力Fp、プライマリプーリ11の回転速度Np、及び実変速比ipからチェーン張力Tnを計算する。
【0064】
図6を参照すると、Vチェーン13のチェーン張力Tnはプライマリプーリ11とセカンダリプーリ12の実変速比ip、セカンダリプーリ12のプーリ推力、及びプライマリプーリ11の回転速度Npを一定とすると、プライマリプーリ11の入力トルクTpが増大するにつれて緩やかに増大する特性をもつ。セカンダリプーリ12の推力Fsとプライマリプーリ11の推力Fpとは、実変速比ipに基づく一定の関係にある。
【0065】
図7を参照すると、Vチェーン13のチェーン張力Tnはプライマリプーリ11の入力トルクTpと回転速度Np、及びプライマリプーリ11とセカンダリプーリ12の実変速比ipを一定とすると、セカンダリプーリ12のプーリ推力Fsが大きいほど大きい。
図8を参照すると、Vチェーン13のチェーン張力Tnはプライマリプーリ11への入力トルクTp、セカンダリプーリ12のプーリ推力Fs、及び実変速比ipを一定とすると、プライマリプーリ11の回転速度Npが高いほど大きい。
【0066】
図8を参照すると、Vチェーン13のチェーン張力Tnはセカンダリプーリ12のプーリ推力Fs、プライマリプーリ11の入力トルク、及びプライマリプーリ11の回転速度Np、を一定とすると、プライマリプーリ11とセカンダリプーリ12の実変速比ipが増大するにつれて若干低下する傾向がある。
【0067】
以上の特性に基づき、CVT4の運転状態を示す、プライマリプーリ11の入力トルクTp、セカンダリプーリ12のプーリ推力Fs、実変速比ip、及びプライマリプーリ11の回転速度Npをパラメータとするチェーン張力Tnの4次元マップを作成することができる。変速コントローラ22のROMにはこのようにして作成したチェーン張力Tnの4次元マップがあらかじめ格納される。チェーン張力算出ユニットB11は入力データからROMに格納されたチェーン張力Tnの4次元マップを参照してチェーン張力Tnを求める。
【0068】
チェーン長算出ユニットB12は、チェーン張力Tnからチェーン伸び量を求め、伸びなしのチェーン長にチェーン伸び量を加えることでチェーン長Lを算出する。チェーン張力Tnとチェーン伸び量との関係はあらかじめ実験的に定めておく。伸びなしのチェーン長は既知の値である。
【0069】
プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13は、チェーン長L、プーリ軸間距離dis、及び実変速比ipからVチェーン13のプライマリプーリ11への巻き付き半径Rp(以下、プライマリプーリ巻き付き半径Rpと称する)を算出する。プーリ軸間距離disはプライマリプーリ11の回転軸とセカンダリプーリ12の回転軸の距離を示す固定値である。プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13は、幾何学的計算によりプライマリプーリ巻き付き半径Rpを算出する。あるいはチェーン長Lと実変速比ipをパラメータとするプライマリプーリ巻き付き半径Rpのマップをあらかじめ変速コントローラ22のROMに格納しておき、チェーン長Lと目標変速比Dipからマップを検索してプライマリプーリ巻き付き半径Rpを算出する。
【0070】
プライマリプーリ11にプーリストッパ21Aが設けられている場合には、最大変速比付近におけるプライマリプーリ巻き付き半径Rpは、プーリストッパ21Aの位置によって決まる最小値を下回らない。計算上、この最小値より小さなプライマリプーリ巻き付き半径Rpが算出された場合には、プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13は、プライマリプーリ巻き付き半径Rpを最小値に修正する。
【0071】
プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13が、プライマリプーリ11への巻き付き半径Rpを最小値以上に規制することは、滑り限界推力Fminの値を過大に算出するのを防止するうえで好ましい。
【0072】
また、プライマリプーリ11にプーリストッパ21Bが設けられている場合には、最小変速比付近におけるプライマリプーリ11への巻き付き半径Rpはプーリストッパ21Bの位置によって決まる最大値を上回らない。計算上、この最大値より大きなプライマリプーリ11への巻き付き半径Rpが算出された場合には、プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13は、プライマリプーリ11への巻き付き半径Rpを最大値に修正する。
【0073】
プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13が、プライマリプーリ巻き付き半径Rpを最大値以下に規制することは、滑り限界推力Fminの値を過小に算出するのを防止するうえで好ましい。
【0074】
なお、プライマリプーリ11への巻き付き半径Rpの最小値と最大値への制限は、プライマリプーリ巻き付き半径Rpのマップのマップ値にあらかじめ制限を加えることでも実現可能である。
【0075】
滑り限界推力算出ユニットB14は、プライマリプーリ11の入力トルクTp、プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13が算出したプライマリプーリ巻き付き半径Rp、及び固定値である摩擦係数μとシーブ角αから、式(1)を用いて滑り限界推力Fminを算出する。
【0076】
滑り限界推力算出ユニットB14が算出した滑り限界推力Fminはチェーン張力算出ユニットB11に再入力され、チェーン張力Tnの再計算が行われる。さらに、チェーン長算出ユニットB12、プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13、及び滑り限界推力算出ユニットB14において、チェーン長L、プライマリプーリ巻き付き半径Rp、及びセ滑り限界推力Fminが再計算される。
【0077】
変速コントローラ22はブロックB11B14の処理を繰り返すことで、収束計算を行って最終的に実変速比ipに対応する滑り限界推力Fminを算出する。
式(1)からは、プライマリプーリ巻き付き半径Rpが大きいほど、滑り限界推力Fminが小さくなり、滑り限界推力Fminが小さいほど、プライマリプーリ巻き付き半径Rpが大きくなることが分かる。
【0078】
図5を参照すると、上記の収束計算の収束のプロセスでは、滑り限界推力Fminとプライマリプーリ巻き付き半径Rpは、一方が増量すればもう一方が減少する形をたどって収束する。
【0079】
なお、プライマリプーリ11の可動シーブ11Bがプーリストッパ21Bに当接している場合には、当接状態が持続する限り、滑り限界推力Fminを、プライマリプーリ11がプーリストッパ21Bに当接した時点の値に固定することも計算負荷軽減の意味で好ましい。同様に、プライマリプーリ11の可動シーブ11Bがプーリストッパ21Aに当接している場合には、当接状態が持続する限り、滑り限界推力Fminを、プライマリプーリ11がプーリストッパ21Aに当接した時点の値に固定することも計算負荷軽減の意味で好ましい。
【0080】
再び図3を参照すると、ステップS4で変速コントローラ22は、ステップS2で計算したプライマリプーリ11のプーリ推力Fpとセカンダリプーリ12のプーリ推力Fsに滑り限界推力Fminによる制限を加える。さらに、制限された値に対応する油圧シリンダ15と16への供給油圧を油圧制御回路21に指示する。
【0081】
図10を参照して、この変速制御装置がもたらす作用を具体的に説明する。実変速比ipが最小変速比付近に維持された状態において、図10の(a)に示すように、CVT4のプライマリプーリ11への入力トルクTpが時刻t1に増大し、図10の(b)に示すように、プライマリプーリ11の回転速度Npが時刻t2に増加するケースを考える。
【0082】
時刻t1にプライマリプーリ11への入力トルクTpが増大すると、式(1)で計算される滑り限界推力Fminが図10の(d)の実線に示すように増大する。プライマリプーリ11への入力トルクTpが増大すると、図6に示すようにVチェーン13のチェーン張力Tnも増大する。チェーン張力Tnの増大は、図10の(c)に示すようにチェーン長Lを増大させる。チェーン長Lの増大に伴いプライマリプーリ巻き付き半径Rpも増大する。プライマリプーリ巻き付き半径Rpの増大は、式(1)に示すように、滑り限界推力Fminの減少をもたらす。
【0083】
Vチェーン13の伸びを考慮しない場合には、図10の(d)の実線に示すように、滑り限界推力Fminは一定値を保つ。
【0084】
さらに、時刻t2に、プライマリプーリ11の回転速度Npが上昇すると、図8に示すようにVチェーン13のチェーン張力Tnも増大する。チェーン張力Tnの増大は、図10の(c)に示すようにチェーン長Lをさらに増大させる。チェーン長Lのさらなる増大は、プライマリプーリ巻き付き半径Rpをさらに増大させる。プライマリプーリ巻き付き半径Rpのさらなる増大は、式(1)に示すように、滑り限界推力Fminのさらなる減少をもたらす。
【0085】
一方、Vチェーン13の伸びを考慮しない場合には、図10の(d)の実線に示すように、時刻t2以降も滑り限界推力Fminは一定値を保つ。
【0086】
セカンダリプーリ12のプーリ推力Fsは滑り限界推力Fminに等しく設定され、それに基づきプライマリ推力Fpが算出される。時刻t1以降はVチェーン13の伸びを考慮して算出された滑り限界推力Fminは、Vチェーン13の伸びを考慮せずに算出した滑り限界推力Fminよりも小さいので、滑り限界推力Fminに基づき決定されるセカンダリ推力Fsは、Vチェーン13の伸びを考慮した値となり、Vチェーン13の伸びを考慮しない場合より小さく抑えられる。
【0087】
したがって、セカンダリプーリ12にプーリ推力を及ぼす油圧シリンダ16への供給油圧を低く抑えられる。セカンダリ推力Fsに基づき算出されるプライマリ推力FpもVチェーン13の伸びを考慮しない場合より小さく抑えられる。したがって、プライマリプーリ11に推力を及ぼす油圧シリンダ15への供給油圧も低く抑えられる。その結果、これらの油圧供給に伴う油圧損失や摩擦損失も少なくなり、油圧ポンプ10を駆動する内燃エンジン1の燃料消費を低減することができる。
【0088】
なお、図10では、説明の都合上、プライマリプーリ11への入力トルクTpやプライマリプーリ11の回転速度Npがステップ的に上昇するように描かれているが、これらは実際には瞬間的に増大するのではなく、ある時間枠の中で上昇する。
【0089】
以上の実施形態では、CVT4の運転状態を示すパラメータからチェーン長Lを算出し、チェーン長Lからプライマリプーリ巻き付き半径Rpを計算している。しかしながら、CVT4の運転状態を示すパラメータとプライマリプーリ巻き付き半径Rpとの関係を規定するマップを変速コントローラ22のROMに格納しておき、パラメータから直接プライマリプーリ巻き付き半径Rpを算出することも可能である。
【0090】
以上説明したように、チェーン長Lが増大すると、プライマリプーリ11へのVチェーン12の巻き付き半径Rpは増大し、滑り限界推力Fminは減少する。したがって、変速コントローラ22は、図4に示すように減少した滑り限界推力Fminを用いて再びチェーン長Lを算出し、新たなチェーン長Lに基づきさらに滑り限界推力Fminを算出する、というプロセスの反復により収束計算を行っている。
【0091】
この収束計算による変速コントローラ22の演算負荷を低減するために、あらかじめプライマリプーリ11への入力トルクTp、実変速比ip、及びプライマリプーリ11の回転速度Npの組み合わせに対して、図4の反復計算によりプライマリプーリ巻き付き半径R’として計算し、計算結果のマップを変速コントローラ22のROMにマップとして格納しておくことができる。
【0092】
図12を参照すると、このようなマップをあらかじめ作成しておくことで、図4の変速コントローラ22のチェーン張力算出ユニットB11、チェーン長算出ユニットB12、プライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB13を、図に示すように単一のプライマリプーリ巻き付き半径算出ユニットB21で置き換えることが可能である。滑り限界推力算出ユニットB14は、図4のケースと同様にマップから検索されたプライマリプーリ巻き付き半径R’とプライマリプーリ11への入力トルクTpを用いて滑り限界推力Fminを算出する。
【0093】
このようなプライマリプーリ巻き付き半径R’のマップを作成しておくことで、収束計算を省略できる。したがって、変速コントローラ22の演算負荷を軽減することができる。
【0094】
この実施形態では、プライマリプーリ11にプーリストッパ21Aと21Bを設け、セカンダリプーリ12にプーリストッパを設けない場合について説明したが、セカンダリプーリ12にプーリストッパ21Aと21Bを設け、プライマリプーリ11にプーリストッパを設けない場合についても、この発明を適用することで好ましい結果が得られる。すなわち、この場合には、最小変速比付近でのセカンダリプーリ12のプーリ推力Fsが確保される一方、最大変速比付近においてプライマリプーリ11のプーリ推力が滑り限界推力Fminを下回る可能性がある。この場合に変速コントローラ22は、プライマリプーリ11のプーリ推力Fpを滑り限界推力Fminで規制するが、Vチェーン13に伸びが生じると、プライマリプーリ11の巻き付き半径Rpが増大し、結果として滑り限界推力Fminが減少する。しかし、変速コントローラ22がVチェーン13の伸びに応じて減少する滑り限界推力Fminを正確に算出することで、この場合もVチェーン13の実質的な滑りを防止しつつ、プーリ推力が過剰になるのを抑制することができる。
【0095】
この実施形態において、アクセラレータペダル開度センサ41、プライマリ回転センサ42、及びセカンダリ回転センサ43が検出手段を構成する。図3のステップS2とS3と、図4のユニットB11B14、及び図12のユニットB21とB14と、が算出手段を構成する。図3のステップS4が推力制御手段を構成する。
【0096】
以上のように、この発明による変速比制御装置は、一対のプーリに掛け回された無端トルク伝達部材を備え、少なくとも一方のプーリは、加えられるプーリ推力に応じて可動シーブを軸方向に変位させることで、無端トルク伝達部材の巻き付け径を変化させる無段変速機、の変速比を制御する変速制御装置において、無段変速機の運転状態を検出する検出手段と運転状態に基づき無端トルク伝達部材の伸び量と、伸び量に応じたプーリと無端トルク伝達部材との滑り限界推力と、を算出する算出手段と、滑り限界推力に基づき少なくとも一方のプーリ推力を制御する推力制御手段と、を備えている。
【0097】
無段変速機の運転状態に基づき無端トルク伝達部材の伸び量を推定し、伸び量に応じて設定された滑り限界推力に基づきプーリ推力を制御することで、無端トルク伝達部材の伸びの結果、プーリ推力が過剰になるのを防止して、プーリ推力を過不足のない適正レベルに維持することができる。その結果、この変速比制御装置はプーリ推力に費やされるエネルギーの節約に好ましい効果をもたらす。
【0098】
滑り限界推力設定手段が、伸び量が増大するにつれて、滑り限界推力を減少させることで、無端トルク伝達部材の伸びに応じてプーリ推力を滑らかに変化させることができる。
【0099】
外部からトルクを入力するプライマリプーリと、外部へトルクを出力するセカンダリプーリを備えた無段変速機において、プライマリプーリへの入力トルクと、セカンダリプーリに加えられるプーリ推力と、プライマリプーリの回転速度と、プライマリプーリとセカンダリプーリとの変速比の少なくとも一つを無段変速機の運転状態として検出することで、無端トルク伝達部材の伸び量を精度よく推定することができる。
【0100】
好ましくは、滑り限界推力設定手段が、無端トルク伝達部材の伸び量を含む無端トルク伝達部材の長さを計算し、無端トルク伝達部材の長さから滑り限界推力を計算し、計算された滑り限界推力を用いて無端トルク伝達部材の長さを再計算し、再計算した無端トルク伝達部材の長さから滑り限界推力を再計算する収束計算プロセスを繰り返す。これにより滑り限界推力を精度良く収束させることができる。
【0101】
プライマリプーリが加えられるプーリ推力に対して可動シーブの一定以上の軸方向変位を規制するストッパを備える場合において、滑り限界推力設定手段は、好ましくは可動シーブの変位がストッパに規制されている場合に算出される滑り限界推力を、可動シーブが変位がストッパに到達する時点のプライマリプーリのプーリ推力に等しく設定する。このような設定により、セカンダリプーリのプーリ推力を正しく計算することができる。
【0102】
この発明による変速比制御方法は、一対のプーリに掛け回された無端トルク伝達部材を備え、少なくとも一方のプーリは、加えられるプーリ推力に応じて可動シーブを軸方向に変位させることで、無端トルク伝達部材の巻き付け径を変化させる無段変速機、の変速比を制御する変速制御方法において、無段変速機の運転状態を検出し、運転状態に基づき無端トルク伝達部材の伸び量と、伸び量に応じた滑り限界推力と、を算出し、滑り限界推力に基づき少なくとも一方のプーリ推力を制御している。
【0103】
無段変速機の運転状態に基づき無端トルク伝達部材の伸び量を推定し、伸び量に応じて設定された限界推力に基づきプーリ推力を制御することで、無端トルク伝達部材の伸びの結果、プーリ推力が過剰になるのを防止して、プーリ推力を過不足のない適正レベルに維持することができる。その結果、この変速比制御方法は、プーリ推力に費やされるエネルギーの節約に好ましい効果をもたらす。
【0104】
以上、この発明を特定の実施例を通じて説明して来たが、この発明は上記の実施例に限定されるものではない。当業者にとっては、クレームの技術範囲でこれらの実施例にさまざまな修正あるいは変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 内燃エンジン
2 トルクコンバータ
3 第1ギヤ列
4 無段変速機
6 終端減速装置
10 油圧ポンプ
11 プライマリプーリ
11A 固定シーブ
11B 可動シーブ
11C プーリ軸
12 セカンダリプーリ
12A 固定シーブ
12B 可動シーブ
12C プーリ軸
13 チェーン
15 油圧シリンダ
16 油圧シリンダ
21 油圧制御回路
21A プーリストッパ
21B プーリストッパ
22 変速コントローラ
41 アクセラレータペダル開度センサ
42 プライマリ回転センサ
43 セカンダリ回転センサ
45 インヒビタスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプーリに掛け回された無端トルク伝達部材を備え、少なくとも一方のプーリは、加えられるプーリ推力に応じて可動シーブを軸方向に変位させることで、前記無端トルク伝達部材の巻き付け径を変化させる無段変速機、の変速比を制御する変速制御装置において、前記無段変速機の運転状態を検出する検出手段と前記運転状態に基づき前記無端トルク伝達部材の伸び量と、前記伸び量に応じた滑り限界推力と、を算出する算出手段と、前記滑り限界推力に基づき前記少なくとも一方のプーリ推力を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記伸び量が増大するにつれて、滑り限界推力を減少させる、ことを特徴とする請求項1の変速制御装置。
【請求項3】
前記一対のプーリは、外部からトルクを入力するプライマリプーリと、外部へトルクを出力するセカンダリプーリからなり、前記運転状態は、前記プライマリプーリへの入力トルクと、前記セカンダリプーリに加えられるプーリ推力と、前記プライマリプーリの回転速度と、前記プライマリプーリとセカンダリプーリとの実変速比と、の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2の変速制御装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記無端トルク伝達部材の伸び量を含む無端トルク伝達部材の長さを計算し、無端トルク伝達部材の長さから滑り限界推力を計算し、計算された前記滑り限界推力を用いて無端トルク伝達部材の長さを再計算し、再計算した無端トルク伝達部材の長さから滑り限界推力を再計算するプロセスを繰り返すことで、滑り限界推力の収束計算を行うよう構成された、請求項3の変速制御装置。
【請求項5】
前記一対のプーリの各々が、加えられるプーリ推力に応じて可動シーブを軸方向に変位させるよう構成され、一方のプーリは加えられるプーリ推力に対して前記可動シーブの一定以上の軸方向変位を規制するストッパを備え、前記算出手段は、前記可動シーブの変位がストッパに規制されている場合に算出される前記滑り限界推力を、前記可動シーブが変位がストッパに到達する時点の滑り限界推力に等しく設定するよう、さらに構成されることを特徴とする請求項2から4のいずれかの変速制御装置。
【請求項6】
一対のプーリに掛け回された無端トルク伝達部材を備え、少なくとも一方のプーリは、加えられるプーリ推力に応じて可動シーブを軸方向に変位させることで、前記無端トルク伝達部材の巻き付け径を変化させる無段変速機、の変速比を制御する変速制御方法において、前記無段変速機の運転状態を検出し、前記運転状態に基づき前記無端トルク伝達部材の伸び量と、前記伸び量に応じた滑り限界推力と、を算出し、前記滑り限界推力に基づき前記少なくとも一方のプーリ推力を制御する、ことを特徴とする無段変速機の変速制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−167763(P2012−167763A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30066(P2011−30066)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】