説明

無段変速装置

【課題】小型に構成できる無段変速装置を実現する。
【解決手段】入力回転軸1a、回転伝達軸22a、出力回転軸30を平行に配置する。このうちの回転伝達軸22aの周囲に、前進用歯車43と、後退用歯車44と、伝達歯車42と、前進クラッチ48と、後退クラッチ49とを設ける。そして、この後退クラッチ49を構成するクラッチハウジング55bを、上記伝達歯車44の一部を利用して構成する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用自動変速装置として、或は、ポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の変速装置として利用する、無段変速装置の改良に関する。より具体的には、この無段変速装置の小型化を図るものであり、例えばFF車(前置エンジン前輪駆動車)用の自動変速装置の様に、エンジンルーム等の限られた空間内に組み込む変速装置として、特に好適である。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1、非特許文献1、2等の多くの刊行物に記載されている様に、自動車用自動変速装置を構成する変速ユニットとして、トロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。図6は、この様なトロイダル型無段変速機のうちの、ダブルキャビティ型と呼ばれるものを示している。このトロイダル型無段変速機は、入力回転軸1の軸方向2個所位置に、1対の入力側ディスク2a、2bを支持している。これら両入力側ディスク2a、2bは、上記入力回転軸1に対し、それぞれがトロイド曲面(断面円弧形の凹面)である入力側内側面3、3同士を互いに対向させた状態で、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持している。
【0003】
又、上記入力回転軸1の中間部は、トロイダル型無段変速機を収納したケーシング4内に設置した隔壁部5に設けた通孔6を挿通している。この通孔6の内径側には、円筒状の出力筒7を、1対の転がり軸受8、8により回転自在に支持しており、この出力筒7の中間部外周面に、特許請求の範囲に記載した第一動力伝達部材を構成する出力歯車9を固設している。又、この出力筒7の両端部で上記隔壁部5の両外側面から突出した部分に、1対の出力側ディスク10a、10bを、スプライン係合により、上記出力筒7と同期した回転自在に支持している。この状態で、それぞれがトロイド曲面(断面円弧形の凹面)である出力側内側面11、11が、上記両入力側内側面3、3に対向する。尚、上記出力側ディスク10a、10bとして、例えば後述する特許文献3、4に記載されている構造(図8に示す構造)の様に、上記1対の出力側ディスク10a、10bを結合固定した如き形状の一体型の出力側ディスク10を採用する場合もある。
【0004】
又、上記入力回転軸1の周囲で上記入力側、出力側両内側面3、11同士の間部分(キャビティ)に、それぞれ複数個(一般的には2個又は3個)ずつのパワーローラ12、12を配置している。これら各パワーローラ12、12はそれぞれ、上記入力側、出力側両内側面3、11に当接(転がり接触)する周面13、13を球状凸面としたもので、トラニオン(支持部材)14、14の内側面に、回転及び若干の揺動変位自在に支持されている。又、これら各トラニオン14、14は、上記入力回転軸1に対し捩れの位置にある枢軸を中心とする揺動変位を自在に設けられている。
【0005】
上記入力側ディスク2a、2bと上記出力側ディスク10a、10bとの間の変速比を変える場合は、上記各トラニオン14、14を上記枢軸の軸方向(図6の表裏方向)に変位させる。この結果、上記各パワーローラ12、12の周面13、13と上記入力側、出力側各ディスク2a、2b、10a、10bの入力側、出力側各内側面3、11との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化(転がり接触部にサイドスリップが発生)する。そして、この力の向きの変化に伴って、上記各トラニオン14、14が上記枢軸を中心に揺動(傾斜)し、上記各パワーローラ12、12の周面13、13と上記入力側、出力側各ディスク2a、2b、10a、10bの入力側、出力側各内側面3、5との接触位置が変化する。
【0006】
例えば図6に示す様に、上記各パワーローラ12、12の周面13、13を、上記入力側ディスク2a、2bの入力側内側面3、3の径方向内寄り部分と、上記出力側ディスク10a、10bの出力側内側面11、11の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、上記両ディスク2a、2b、10a、10b同士の間の変速比が減速側になる。これに対して、図6とは逆に、上記各パワーローラ12、12の周面13、13を、上記入力側ディスク2a、2bの入力側内側面3、3の径方向外寄り部分と、上記出力側ディスク10a、10bの出力側内側面11、11の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、上記両ディスク2a、2b、10a、10b同士の間の変速比が増速側になる。
【0007】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の駆動源(動力源)に繋がる駆動軸15により一方(図6の左方)の入力側ディスク2aを、ローディングカム式の押圧装置16を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2a、2bが、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ12、12を介して上記両出力側ディスク10a、10bに伝わり、前記出力歯車9から取り出される。
【0008】
ところで、上述した様なトロイダル型無段変速機を、例えば車両用(自動車用)の自動変速装置を構成する変速ユニットとして使用する場合、このトロイダル型無段変速機を、正転逆転切換機構(前後進切換機構)と組み合わせて無段変速装置を構成する必要がある。この理由は、例えば自動車であれば前進だけでなく後退させる必要もあり、駆動源であるエンジンから出力軸(車輪)に伝達される動力の回転方向を、上記正転逆転切換機構により、前進方向に対応する方向(正転方向)と、後退方向に対応する方向(逆転方向)とに、それぞれ切り換える必要がある為である。この様なトロイダル型無段変速機と正転逆転切換機構である前後進切換機構とを組み合わせて成る無段変速装置として、例えば特許文献2に記載された構造が知られている。
【0009】
図7は、上記特許文献2に記載された構造を示している。この図7に示す構造の場合は、遊星歯車式変速機17と前進、後退各クラッチ18、19とから成る、前後進切換機構20を、駆動源であるエンジンからの動力の伝達方向に関し、トロイダル型無段変速機21よりも上流側に設けている。但し、この構造の場合、上記前後進切換機構20と上記トロイダル型無段変速機21とを軸方向に直列に設けている(前後進切換機構20とトロイダル型無段変速機21とを同心に設けている)為、無段変速装置全体の軸方向寸法が大きくなる。この為、例えばエンジンルーム等の限られた空間内に組み込む必要のある、FF車(前置エンジン前輪駆動車)用の自動変速装置として採用する事は、そのままでは難しい。
【0010】
これに対して、特許文献3、4には、図8に示す様に、前後進切換機構20aを構成する遊星歯車式変速機17a(ギヤードニュートラル状態を実現する為の遊星歯車式変速機17a)を、駆動源からの動力の伝達方向に関し、トロイダル型無段変速機21よりも下流側に設けた構造が記載されている。そして、この構造の場合には、上記トロイダル型無段変速機21の入力回転軸1と平行に設けた回転伝達軸22の周囲に、上記遊星歯車式変速機17aを設けている。この為、前述の図7に示した特許文献2に記載された構造に比べ、軸方向寸法の低減を図れる。但し、上記特許文献3、4に記載された構造の場合は、上記トロイダル型無段変速機21の入力回転軸1と上記回転伝達軸22との距離が大きくなり易い。即ち、上記回転伝達軸22の周囲に設けられた上記遊星歯車式変速機17aは、太陽歯車23、各遊星歯車24、24、リング歯車25を径方向に重畳する状態で設ける為、径方向寸法が嵩み易い。しかも、このうちの最も外径側に設けられるリング歯車25と軸方向に対向する状態で、このリング歯車25よりも大径の低速用クラッチ26を設けている。この為、上記回転伝達軸22の周囲に必要な(確保すべき)径方向寸法が嵩み、その分、上記回転伝達軸22と上記入力回転軸1との距離が大きくなり、無段変速装置全体として大型化する。
【0011】
又、図示の構造の場合は、上記遊星歯車式変速機17a並びに低速用クラッチ26を、トロイダル型無段変速機21の両キャビティのうちの一方(図8の左方)のキャビティに対向する状態で配置している。この為、他方(図8の右方)のキャビティに対向する部分に余剰空間(無駄な空間)を生じ易くなる等、構成部材をコンパクトにまとめにくくなり、変速装置全体として大型化する事が避けられない。又、上記トロイダル型無段変速機21と上記回転伝達軸22との間に、このトロイダル型無段変速機21と遊星歯車式変速機17aとの間で動力の伝達を行なう動力伝達機構と、この動力伝達機構と上記遊星歯車式変速機17aとの間の動力伝達状態を切り換える為の低速用、高速用各クラッチ26、27とを設けている為、上記回転伝達軸22の周囲の構造が複雑になる。しかも、上記遊星歯車式変速機17aを構成する各遊星歯車24、24(を支持する各遊星軸28、28)への潤滑油供給路を設ける必要もあり、この面からも構造が複雑になる。
【0012】
この様な不都合を防止すべく、本発明者は、回転伝達軸の周囲に設ける前後進切換機構として、遊星歯車式変速機17、17a以外の構成を採用する事を考えた。具体的には、この様な前後進切換機構として、上記回転伝達軸と同心に設けられて、正転方向(前進方向)に対応する動力の伝達を行なう為の正転用動力伝達部材(前進用動力伝達部材)と、同じく上記回転伝達軸と同心に設けられて、逆転方向(後退方向)に対応する動力の伝達を行なう為の逆転用動力伝達部材(後退用動力伝達部材)と、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸と上記正転用動力伝達部材との間に設けられて、これら回転伝達軸と正転用動力伝達部材との間で動力の伝達を行なう状態と行なわない状態とを切り換える正転用クラッチ(前進クラッチ)と、同じく上記回転伝達軸と上記逆転用動力伝達部材との間に設けられて、これら回転伝達軸と逆転用動力伝達部材との間で動力の伝達を行なう状態と行なわない状態とを切り換える逆転用クラッチ(後退クラッチ)とを備えた構成を考えた。
【0013】
この様な構成の場合、入力回転軸の軸方向に亙って正転用、逆転用各動力伝達部材が配置され、前述した遊星歯車式変速機17、17aの様に、正転用、逆転用各動力伝達部材に対応する部材(図8の遊星歯車式変速機17aであれば、太陽歯車23、各遊星歯車24、24、リング歯車25)が径方向に重畳しない。この為、径方向寸法を抑えられる(直径を小さくできる)反面、そのままでは、回転伝達軸の軸方向寸法が徒に長くなる可能性がある。特に、トロイダル型無段変速機を構成する出力側ディスクを単一の部材により構成した場合には、このトロイダル型無段変速機の軸方向寸法を小さくできる。この為、上述の様に回転伝達軸の軸方向寸法が長いままだと、前後進切換機構の軸方向端部がトロイダル型無段変速機の軸方向端部よりも軸方向に突出する可能性があり、小型化を図る面で好ましくない。
【0014】
【特許文献1】特開2001−317601号公報
【特許文献2】特開2006−46573号公報
【特許文献3】特開平10−267116号公報
【特許文献4】特開平11−63139号公報
【非特許文献1】青山元男著、「別冊ベストカー 赤バッジシリーズ245/クルマの最新メカがわかる本」、株式会社三推社/株式会社講談社、平成13年12月20日、p.92−93
【非特許文献2】田中裕久著、「トロイダルCVT」、株式会社コロナ社、2000年7月13日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、小型、且つ、簡素で、しかも、回転伝達軸の軸方向寸法も低減できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の無段変速装置は、入力回転軸と、トロイダル型無段変速機と、回転伝達軸と、動力伝達機構と、出力回転軸と、正転逆転切換機構(前後進切換機構)とを備える。
このうちの入力回転軸は、駆動源(例えばエンジン等の動力源)からの動力が入力される。
又、上記トロイダル型無段変速機は、上記入力回転軸の周囲に、この入力回転軸と同心に設けられている。
又、上記回転伝達軸は、上記動力の伝達方向に関し、上記入力回転軸よりも下流側に、この入力回転軸と平行に設けられている。
又、上記動力伝達機構は、上記トロイダル型無段変速機と上記回転伝達軸との間で動力の伝達を行なうものである。例えば、歯車式、或は、チェーン・スプロケット式等の動力伝達機構を採用できる。
又、上記出力回転軸は、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸よりも下流側に、この回転伝達軸と平行に設けられている。
又、上記正転逆転切換機構(前後進切換機構)は、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸と出力回転軸との間に設けられて、この出力回転軸から出力される上記動力の回転方向を正転、逆転(前進に対応する方向、後退に対応する方向)に切り換えるものである。
【0017】
又、上記トロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型のもので、1対の入力側ディスクと、出力側ディスクと、複数個のパワーローラとを備える。
このうちの各入力側ディスクは、上記入力回転軸を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として支持されている。
又、上記出力側ディスクは、上記両入力側ディスク同士の間に、これら両入力側ディスクと同心に、且つ、これら両入力側ディスクとは独立した回転を自在として支持されている。
又、上記各パワーローラは、上記出力側ディスクの両側面と上記両入力側ディスクの側面との間にそれぞれ複数個ずつ挟持されて、これら入力側ディスクと出力側ディスクとの間で動力を伝達するものである。
【0018】
更に、上記動力伝達機構は、第一動力伝達部材(例えば、出力歯車、出力スプロケット等)と、第二動力伝達部材(例えば、伝達歯車、伝達スプロケット等)とを備える。
このうちの第一動力伝達部材は、上記出力側ディスクと同心に設けられて、この出力側ディスクと同期して回転する。
又、上記第二動力伝達部材は、上記回転伝達軸と同心に設けられて、この回転伝達軸と同期して回転する
そして、上記第一、第二両動力伝達部材を介して、上記出力側ディスクと上記回転伝達軸との間で動力の伝達を行なう。
【0019】
又、上記正転逆転切換機構(前後進切換機構)は、正転用動力伝達部材(例えば正転用歯車)と、逆転用動力伝達部材(例えば逆転用歯車)と、正転用クラッチ(前進クラッチ)と、逆転用クラッチ(後退クラッチ)とを備えたものである。
このうちの正転用動力伝達部材は、上記回転伝達軸と同心に設けられて、正転方向(前進方向)に対応する動力の伝達を行なう。
又、上記逆転用動力伝達部材は、同じく上記回転伝達軸と同心に設けられて、逆転方向(後退方向)に対応する動力の伝達を行なう。
尚、これら動力伝達部材としてスプロケットを使用する場合は、何れか一方の動力伝達部材のみとし、他方の動力伝達部材は歯車として、回転方向の変換を可能とする。
又、上記正転用クラッチは、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸と上記正転用動力伝達部材との間に設けられて、これら回転伝達軸と正転用動力伝達部材との間で動力の伝達を行なう状態(接続した状態)と行なわない状態(接続を断った状態)とを切り換える。
又、上記逆転用クラッチは、同じく上記回転伝達軸と上記逆転用動力伝達部材との間に設けられて、これら回転伝達軸と逆転用動力伝達部材との間で動力の伝達を行なう状態(接続した状態)と行なわない状態(接続を断った状態)とを切り換える。
【0020】
そして、上記正転用、逆転用各クラッチのうちの少なくとも一方のクラッチを、上記第二動力伝達部材の一部を利用して構成する。
より具体的には、請求項2に記載した様に、第二動力伝達部材の片側面部分にアウタドラムを結合固定する事により、上記一方のクラッチを構成するクラッチハウジングを上記第二動力伝達部材に組み込む。
又、好ましくは、請求項3に記載した様に、上記一方のクラッチに遠心油圧キャンセル室を設ける。
【0021】
又、上述の様な無段変速装置を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した様に、正転逆転切換機構(前後進切換機構)を、(例えばはす歯歯車等の)歯車機構により構成する。そして、上記正転用動力伝達部材を構成する正転用歯車(例えば前進用歯車)を、上記出力回転軸に設けた第一出力用歯車に直接噛合させると共に、上記逆転用動力伝達部材を構成する逆転用歯車(例えば後退用歯車)を、上記出力回転軸に設けた第二出力用歯車に、アイドル歯車を介して噛合させる。
【0022】
又、好ましくは、請求項5に記載した様に、出力側ディスクを単一の部材により構成する(一体型の出力側ディスクとする)。又、これと共に、この出力側ディスクの軸方向中間部外周面に第一動力伝達部材(例えば出力歯車)を設ける。そして、この第一動力伝達部材から第二動力伝達部材(例えば伝達歯車)に動力を、増速した状態で伝達自在とする。尚、上記第一動力伝達部材は、例えば前述の特許文献3、4に記載された構造(図8に示した構造)の様に、上記出力側ディスクと別体の部材とし、この出力側ディスクに結合固定(同期した回転を自在に結合)する事により構成する他、一体型の出力側ディスクに直接固設する(出力側ディスクに第一動力伝達部材も一体に設ける)事により構成する事もできる。
又、好ましくは、請求項6に記載した様に、回転伝達軸の軸方向に関し、第二動力伝達部材を、正転用動力伝達部材と逆転用動力伝達部材との間に設ける。
【発明の効果】
【0023】
上述の様な本発明によれば、無段変速装置を、小型、且つ、簡素に構成でき、しかも、回転伝達軸の軸方向寸法の短縮も図れる。
即ち、前後進切換機構として、例えば前述の図8に示した様な遊星歯車式変速機17aを組み込まない為、この正転逆転切換機構を簡素に構成できる。又、これと共に、この様な遊星歯車式変速機17aを組み込んだ構造に比べ、回転伝達軸の周囲に配置される部材の径方向寸法を小さくできる。この為、トロイダル型無段変速機(の中心軸である入力回転軸)と正転逆転切換機構(の中心軸である回転伝達軸)とを近接させる事ができ、無段変速装置全体として小型に構成できる。しかも、正転用、逆転用各クラッチのうちの少なくとも一方のクラッチを、第二動力伝達部材の一部を利用して構成する為、上記回転伝達軸の軸方向寸法が徒に大きくなる事も防止できる。この為、この面からも無段変速装置全体として小型化を図れる。
【0024】
又、請求項2に記載した様に、一方のクラッチを構成するクラッチハウジングを上記第二動力伝達部材に組み込んだ場合には、この第二動力伝達部材により、油圧室に導入される油圧を受ける事ができる為、上記クラッチハウジングの剛性を確保し易い。この為、上記一方のクラッチの応答性の向上を図れ、クラッチ制御の安定化を図れる。又、請求項3に記載した様に、上記一方のクラッチに遠心油圧キャンセル室を設ければ、この遠心油圧キャンセル室の存在に拘わらず、上記一方のクラッチ、延いては、回転伝達軸の軸方向寸法が徒に大きくなる事を防止できる(遠心油圧キャンセル室を設ける事に伴う軸方向寸法の増大の程度を、小さく抑えられる)。
【0025】
又、請求項4に記載した様に、正転逆転切換機構(前後進切換機構)を歯車機構とすれば、(例えばスプロケットとチェンとにより構成する場合等に比べて)より簡素に構成できる。しかも、例えば自動車の変速装置等で一般的に使用されているはす歯歯車により構成すれば、上記正転逆転切換機構を簡素、且つ、廉価に構成できる。
又、請求項5に記載した構成を採用した場合には、出力側ディスクの一体化によりトロイダル型無段変速機の軸方向寸法を低減できると共に、増速した状態で動力を伝達する為、クラッチ容量の低減を図れる。この為、このクラッチの軸方向、径方向寸法の低減を図れ(小型のものにでき)、更なる無段変速装置の小型化を図れる。
又、請求項6に記載した構成を採用した場合には、トロイダル型無段変速機の出力側ディスクを中心として、この出力側ディスクの軸方向両側に存在する各キャビティに、正転用、逆転用各動力伝達部材をそれぞれ対向させられる。言い換えれば、これら正転用、逆転用各動力伝達部材並びにこれら各部材に近接した状態で設ける部材を、空間に余裕のある各キャビティに対向させる事ができる。この為、上記トロイダル型無段変速機(入力回転軸)と上記正転逆転切換機構(回転伝達軸)とを更に近接させる事ができ、無駄な空間の低減、延いては、無段変速装置全体の更なる小型化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1〜5は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の無段変速装置は、入力回転軸1aと、トロイダル型無段変速機21aと、回転伝達軸22aと、動力伝達機構29と、出力回転軸30と、特許請求の範囲に記載した正転逆転切換機構に相当する前後進切換機構31とを備える。
このうちの入力回転軸1aは、トルクコンバータ32並びに駆動軸15aを介して、エンジン等の駆動源(動力源)からの動力が入力される。この様な入力回転軸1aは、ケーシング等の固定の部分に対し、回転自在に設けられている。又、上記トロイダル型無段変速機21aは、上記入力回転軸1aと同心に設けられている。又、上記回転伝達軸22aは、上記動力の伝達方向に関し、上記入力回転軸1aよりも下流側に、その両端部に設けた1対の円すいころ軸受33、33により上記ケーシング等の固定の部分に対し回転自在に支持された状態で、上記入力回転軸1aと平行に設けられている。
【0027】
又、上記動力伝達機構29は、上記トロイダル型無段変速機21aと上記回転伝達軸22aとの間で動力の伝達を行なうものである。又、上記出力回転軸30は、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸22aよりも下流側に、その両端部に設けた別の1対の円すいころ軸受34、34により上記ケーシング等の固定の部分に対し回転自在に支持された状態で、上記回転伝達軸22aと平行に設けられている。又、上記前後進切換機構31は、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸22aと出力回転軸30との間に設けられて、この出力回転軸30から出力される動力の回転方向を正転、逆転(前進方向に対応する方向、後退方向に対応する方向)に切り換えるものである。
【0028】
又、上記トロイダル型無段変速機21aは、ダブルキャビティ型のもので、1対の入力側ディスク2a、2bと、出力側ディスク10と、複数個のパワーローラ12、12(図6〜8参照)とを備える。このうちの各入力側ディスク2a、2bは、上記入力回転軸1aを介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として支持されている。又、上記出力側ディスク10は、上記両入力側ディスク2a、2b同士の間に、これら両入力側ディスク2a、2bと同心に、且つ、これら両入力側ディスク2a、2bとは独立した回転を自在として支持されている。本例の場合、それぞれのキャビティに1対の支柱36、36を、ケーシング等の固定の部分にアクチュエータボディ35を介して支持した状態で設けている。そして、上記各支柱36、36の中間部に設けた支持環37、37に、上記出力側ディスク10の軸方向両端部を、スラスト玉軸受38、38を介して回転自在に支持している。上記入力回転軸1aは、上述の様に支持された出力側ディスク10の中心部に設けた貫通孔39に、ラジアルニードル軸受40、40を介して回転自在に、且つ、軸方向の変位を自在に支持されている。この様な入力回転軸1aは、油圧式の押圧装置16aが発生する押圧力に応じて(押圧装置16aを構成する油圧室41の拡縮に応じて)、一方(図1の左方)の入力側ディスク2aに対し、他方(図1の右方)の入力側ディスク2bと共に、軸方向に変位する。
【0029】
又、上記各パワーローラ12、12は、前述の図6に示した構造と同様に、上記出力側ディスク10の両側面と上記両入力側ディスク2a、2bの側面との間にそれぞれ複数個ずつ挟持されて、これら入力側ディスク2a、2bと出力側ディスク10との間で動力を伝達する。又、上記各パワーローラ12、12はそれぞれ、上記入力回転軸1aに対し捩れの位置にある枢軸を中心とする揺動変位を自在に設けられたトラニオン(支持部材)14、14(図6、8参照)の内側面に、回転及び若干の揺動変位自在に支持されている。これら各トラニオン14、14を傾斜させる(トロイダル型無段変速機21aの変速比を変更する)動作は、アクチュエータボディ35内に設けた図示しない油圧式のアクチュエータにより、上記各トラニオン14、14を上記枢軸の軸方向に変位させる事により行なう。
【0030】
更に、上記動力伝達機構29は、上記出力側ディスク10の軸方向中間部外周面に設けた、特許請求の範囲に記載した第一動力伝達部材に相当する出力歯車9aと、上記回転伝達軸22aと同心に設けた、特許請求の範囲に記載した第二動力伝達部材に相当する伝達歯車42とを備える。そして、これら出力歯車9aと伝達歯車42とを直接噛合させ、これら出力歯車9aと伝達歯車42との間(出力側ディスク10と回転伝達軸22aとの間)で動力の伝達を自在としている。本例の場合は、上記出力側ディスク10を単一の部材により構成している。そして、この出力側ディスク10の軸方向中間部外周面に上記出力歯車9aを、直接形成(固設)している。又、本例の場合は、この様な出力歯車9aから伝達歯車42に上記動力を、増速した状態で伝達自在としている。即ち、上記出力歯車9aに比べて伝達歯車42の歯数を少なく(外径を小さくしている)。
【0031】
又、前記前後進切換機構31は、歯車機構(本例の場合ははすば歯車)により構成したもので、特許請求の範囲に記載した正転用動力伝達部材並びに正転用歯車に相当する前進用歯車43と、同じく逆転用動力伝達部材並びに逆転用歯車に相当する後退用歯車44と、第一、第二各出力用歯車45、46と、アイドル歯車47とを備える。又、これと共に、それぞれが特許請求の範囲に記載したクラッチを構成し、この特許請求の範囲に記載した正転用クラッチに相当する前進クラッチ48と、同じく逆転用クラッチに相当する後退クラッチ49とを備える。これらのうちの上記前進用歯車43は、上記回転伝達軸22aの中間部で、上記伝達歯車42と軸方向に隣り合う位置に、ラジアルニードル軸受50を介して回転自在に支持されている。又、上記後退用歯車44は、上記回転伝達軸22aの他端寄り部分(図1、3、4の右端寄り部分)に、別のラジアルニードル軸受51を介して回転自在に支持されている。尚、上記伝達歯車42は、上記回転伝達軸22aの中間部で、上記前進用、後退用各歯車43、44の間部分に、この回転伝達軸22aと同期した回転を自在に(例えばスプライン係合、キー係合等により)支持されている。
【0032】
又、上記第一出力用歯車45は、上記出力回転軸30の一端寄り部分(図1、3、5の左端寄り部分)に、上記前進用歯車43と直接噛合した状態で、上記出力回転軸30と同期した回転を自在に(例えばスプライン係合、キー係合等により)支持している。又、上記第二出力用歯車46は、上記出力回転軸30の他端寄り部分(図1、3、5の右端寄り部分)に、上記アイドル歯車47を介して上記後退用歯車44と噛合した状態で、上記出力回転軸30と同期した回転を自在に(例えばスプライン係合、キー係合等により)支持されている。上記第一出力用歯車45は、上記回転伝達軸30と逆方向(前進方向に対応する方向)に回転するのに対して、上記第二出力用歯車46は、上記回転伝達軸30と同方向(後退方向に対応する方向)に回転する。又、この出力回転軸30の他端寄り部分で、上記第二出力用歯車46と軸方向に隣り合う位置に、第三出力用歯車52を直接形成している。そして、この第三出力用歯車52をデファレンシャルギヤの入力歯車53に噛合させ、1対の車輪駆動軸54を回転駆動自在としている。
【0033】
又、前記前進、後退各クラッチ48、49は、駆動源からの動力の伝達方向に関し、前記トロイダル型無段変速機21aよりも下流側、即ち、本例の場合は、前記回転伝達軸22aの周囲に設けている。このうちの前進クラッチ48は、動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸22aと上記前進用歯車43との間に設けられ、これら回転伝達軸22aと前進用歯車43との間で動力の伝達を行なう状態(接続した状態)と行なわない状態(接続を断った状態)とを切り換える。又、上記後退クラッチ49は、動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸22aと上記後退用歯車44との間に設けられ、これら回転伝達軸22aと後退用歯車44との間で動力の伝達を行なう状態(接続した状態)と行なわない状態(接続を断った状態)とを切り換える。これら前進、後退各クラッチ48、49は、運転者のシフトレバー(操作レバー)の操作に応じて、進行方向に対応する何れか一方のクラッチ48(49)が接続される。
【0034】
この様な前進、後退各クラッチ48、49は、それぞれ湿式多板クラッチとしている。このうちの前進クラッチ48は、クラッチハウジング55aと、ピストン56aと、アウタドラム57aと、複数枚のプレッシャプレート58a、58aと、インナドラム59aと、複数枚のクラッチディスク60a、60aと、圧縮コイルばね61aと、止め輪67aとを備える。このうちのクラッチハウジング55aは、上記回転伝達軸22aと同期した回転を自在に、この回転伝達軸22aに支持されている。又、上記ピストン56aは、上記クラッチハウジング55aの内側に油密に嵌装されている。そして、上記回転伝達軸22aの軸方向に関して互いに対向する、上記ピストン56aの側面と上記クラッチハウジング55aの内面との間部分を、油圧室62aとしている。
【0035】
又、上記アウタドラム57aは、上記クラッチハウジング55aと一体に設けられており、内周面に上記各プレッシャプレート58a、58aを、軸方向の相対変位を可能に、且つ、回転方向の変位を不能(アウタドラム57aと同期した回転を自在に)に支持している。又、上記アウタドラム57aの内周面の開口寄り部分に上記止め輪67aを係止し、上記ピストン56aから最も遠いプレッシャプレート58aが上記アウタドラム57aから抜け出るのを阻止している。又、上記インナドラム59aは、前記前進用歯車43の側面に固設されており、外周面に上記各クラッチディスク60a、60aを、軸方向の相対変位を可能に、且つ、回転方向の変位を不能(インナドラム59aと同期した回転を自在)に支持している。
【0036】
又、上記圧縮コイルばね61aは、上記インナドラム59aの内側に設けられて、上記クラッチハウジング55aとピストン56aとの間に、互いに軸方向に対向する側面同士が近付く方向(油圧室62aが狭まる方向)の弾力を付与している。上記油圧室62aに、上記回転伝達軸22aに設けた給油通路63aを通じて圧油が導入されると、上記圧縮コイルばね61aの弾力に抗して、上記ピストン56aが軸方向に変位する。この結果、このピストン56aと上記止め輪67aとの間で、上記各プレッシャプレート58a、58aと各クラッチディスク60a、60aとが挟持されて、上記回転伝達軸20aと前進用歯車43との間で動力の伝達が可能になる(回転伝達軸20aと前進用歯車43とが同期して回転する)。又、上記油圧室62aへの上記圧油の導入が断たれると(油溜に開放されると)、上記各プレッシャプレート58a、58aと各クラッチディスク60a、60aとの側面同士が近接対向乃至は滑り合い、上記回転伝達軸20aと前進用歯車43との間で動力の伝達が行なわれなくなる。
【0037】
又、上記後退クラッチ49に就いても、上記前進クラッチ48と同様に、クラッチハウジング55bと、ピストン56bと、アウタドラム57bと、複数枚のプレッシャプレート58b、58bと、インナドラム59bと、複数枚のクラッチディスク60b、60bと、圧縮コイルばね61bと、止め輪67bとを備える。この様な後退クラッチ49を構成するこれら各部材55b、56b、57b、58b、59b、60b、61b、67bは、上記前進クラッチ48を構成する各部材55a、56a、57a、58a、59a、60a、61a、67bと同様の構成を有する。尚、上記後退クラッチ49の油圧室62bには、上記前進クラッチ48の油圧室62aに圧油を導入する為の給油通路63aとは別の給油通路63bを通じて、圧油が導入される。
【0038】
又、上記後退クラッチ49の場合は、上記クラッチハウジング55bを、前記伝達歯車42の一部を利用して構成している。即ち、この伝達歯車42の軸方向片側面に、この側面から凹入する状態で(油圧室62bを構成する為の)環状の凹部64を、全周に亙って設けている。そして、この凹部64の開口縁(内周面)に上記アウタドラム57bを、締り嵌め等により油密に嵌合固定(結合固定)する事により、上記クラッチハウジング55bを上記伝達歯車42の片側部分に、一体的に組み込んでいる。従って、上記回転伝達軸22aの軸方向に関して互いに対向する、上記ピストン56bの側面と上記凹部64の底面との間部分が、上記油圧室62bとなる。又、上記後退クラッチ49は、上記ピストン56bを挟んでこの油圧室62bと反対側に、遠心油圧キャンセル室65を設けている。この遠心油圧キャンセル室65を設ける為に、上記ピストン56bにその外周縁部を、油密に、且つ、軸方向の相対変位を可能に内嵌した仕切板69の内周縁部を、上記伝達歯車42の内周縁部に形成した円筒部71に、止め輪70により係止している。前記圧縮コイルバネ61bは、上記ピストン56bと上記仕切板69との間に設けている。又、上記遠心油圧キャンセル室65には、上記油圧室62bに圧油を導入する上記給油通路63bとは別系統の潤滑油供給路66を通じて、低圧の油を導入する。上記後退クラッチ49の接続を断った状態(油圧室62bに圧油を導入してない状態)で、遠心力に基づき上記油圧室62bから油圧が抜けず、上記ピストン56bに上記後退クラッチ49を接続する方向の力が加わる傾向となっても、上記遠心油圧室キャンセル室65内に存在する油にも同様に遠心力が加わる事で、上記力を相殺できる。即ち、上記ピストン56bを挟んで軸方向両側に位置する両油圧室62b、65から遠心力に基づく油圧の力がこのピストン56bに、互いに相殺する方向に加わる。この為、運転時(特に前進時)の回転伝達軸22aの回転に拘わらず、上記後退クラッチ49の接続を確実に断つ事ができ、この後退クラッチ49の応答性の向上を図れる。
【0039】
上述の様な本例の構造によれば、無段変速装置を、小型、且つ、簡素に構成でき、しかも、回転伝達軸22aの軸方向寸法も低減できる。
即ち、前後進切換機構31として、例えば前述の図8に示した様な遊星歯車式変速機17a(図8)を組み込まない為、この正転逆転切換機構31を簡素に構成できる。又、これと共に、この様な遊星歯車式変速機17a(図8)を組み込んだ構造に比べ、回転伝達軸22aの周囲に配置される部材の径方向寸法を小さくできる。この為、この回転伝達軸22aと入力回転軸1aとを近接させる事ができ、無段変速装置全体として小型に構成できる。しかも、前進、後退各クラッチ48、49のうちの少なくとも一方のクラッチである後退クラッチ49を、伝達歯車42の一部を利用して構成している。この為、これら後退クラッチ49の一部と伝達歯車42の一部とが、径方向に関して互いに重畳し、これら後退クラッチ49の軸方向寸法と伝達歯車42の軸方向寸法とが、そのまま足し合わされる事がなくなる。この結果、上記回転伝達軸22aの軸方向寸法が徒に大きくなる事も防止できて、この面からも無段変速装置全体として小型化を図れる。
【0040】
又、上記後退クラッチ49を構成するクラッチハウジング55bを上記伝達歯車42に組み込んでいる為、この伝達歯車49により油圧室62bに導入される油圧を受ける事ができ、上記クラッチハウジング55bの剛性を確保し易くできる。この為、上記後退クラッチ49の応答性の向上を図れ、クラッチ制御の安定化を図れる。又、この様な後退クラッチ49に遠心油圧キャンセル室65を、径方向に重畳する状態で設けている為、この遠心油圧キャンセル室の存在に拘わらず、上記後退クラッチ49、延いては、上記回転伝達軸22aの軸方向寸法が徒に大きくなる事を防止できる(軸方向寸法の増大の程度を小さく抑えられる)。
【0041】
又、上記前後進切換機構31を歯車機構とすると共に、自動車の変速装置等で一般的に使用されているはす歯歯車により構成している為、例えばスプロケットとチェンとにより構成する場合等に比べて、より簡素に、且つ、廉価に構成できる。又、出力側ディスク10を単一の部材により構成している為、トロイダル型無段変速機21aの軸方向寸法を低減できる。又、これと共に、上記前進、後退各クラッチ48、49に増速した状態で動力を伝達する為、これら各クラッチ48、49のクラッチ容量の低減を図れる。この為、これら前進、後退各クラッチ48、49の軸方向、径方向寸法の低減を図れ(小型のものにでき)、更なる無段変速装置の小型化を図れる。
【0042】
又、本例の場合は、上記伝達歯車42を、上記回転伝達軸22aの軸方向に関し、前進用、後退用各歯車43、44の間部分に設けている。この為、上記トロイダル型無段変速機21aの出力側ディスク10を中心として、この出力側ディスク10の軸方向両側に存在する各キャビティに、上記前進用、後退用各歯車43、44をそれぞれ対向させられる。言い換えれば、これら前進用、後退用各歯車43、44並びに前進、後退各クラッチ48、49を、空間に余裕のある各キャビティに対向させる事ができる。この為、上記トロイダル型無段変速機21a(入力回転軸1a)と上記前後進切換機構31(回転伝達軸22a)とを更に近接させる事ができ、無駄な空間の低減、延いては、無段変速装置全体の更なる小型化を図れる。
【0043】
又、上記前進、後退各クラッチ48、49を上記回転伝達軸22aに設けている為、出力回転軸30に設けた場合に比べて、これら各クラッチ48、49として小型のものを採用できる。即ち、例えば自動車の変速装置を構成する場合には、駆動源であるエンジンからファイナルギヤ(第三出力用歯車52)までの間に大きく減速させる必要がある。そして、この様に減速され、トルクが増大した動力が入力される上記出力回転軸22aに、上記前進、後退各クラッチ48、49を設けると、これら各クラッチ48、49のクラッチ容量を確保すべく、大型化のもの(プレッシャプレート58a、58b、クラッチディスク60a、60bの径が大きく、枚数の多いもの)にする必要がある。これに対して本例の場合には、上記回転伝達軸22aに上記前進、後退各クラッチ48、49を設けている為、クラッチ容量を小さくでき、その分、小型に構成できる。又、上記出力回転軸22aの構造が簡素に成り、その分この出力回転軸22aの加工が容易になって、コスト低減を図れる。
【0044】
尚、本例の場合は、エンジンからの動力の伝達方向に関し、トロイダル型無段変速機21aの入力回転軸22aよりも上流側に、発進装置を構成するトルクコンバータ32を設けている。但し、前述した前進、後退各クラッチ48、49に発進クラッチとしての機能(例えば半クラッチ機能等)を持たせれば、上記トルクコンバータ32を省略する事ができて、前記駆動軸15a部分の軸方向に関する小型化を図れる。尚、上記前進、後退各クラッチ48、49や前述した押圧装置16a等、圧油を必要とする分に導入する油圧を発生させる為のオイルポンプ68(図2)は、上記駆動軸15aの回転に基づいて駆動される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の構造に関しては、ハーフトロイダル型、フルトロイダル型の何れでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す断面図。
【図2】図1の左方から見た図。
【図3】アイドル歯車が噛合する面で切断した、図1と同様の断面図。
【図4】回転伝達軸並びにこれに組み付けられた部材を取り出して示す断面図。
【図5】出力回転軸並びにこれに組み付けられた部材を取り出して示す断面図。
【図6】トロイダル型無段変速機の1例を示す断面図。
【図7】従来構造の1例を示す断面図。
【図8】従来構造の別例を示す断面図。
【符号の説明】
【0047】
1、1a 入力回転軸
2a、2b 入力側ディスク
3 入力側内側面
4 ケーシング
5 隔壁部
6 通孔
7 出力筒
8 転がり軸受
9、9a 出力歯車
10、10a、10b 出力側ディスク
11 出力側内側面
12 パワーローラ
13 周面
14 トラニオン
15、15a 駆動軸
16、16a 押圧装置
17、17a 遊星歯車式変速機
18 前進クラッチ
19 後退クラッチ
20、20a 前後進切換機構
21、21a トロイダル型無段変速機
22、22a 回転伝達軸
23 太陽歯車
24 遊星歯車
25 リング歯車
26 低速用クラッチ
27 高速用クラッチ
28 遊星軸
29 動力伝達機構
30 出力回転軸
31 前後進切換機構
32 トルクコンバータ
33 円すいころ軸受
34 円すいころ軸受
35 アクチュエータボディ
36 支柱
37 支持環
38 スラスト玉軸受
39 貫通孔
40 ラジアルニードル軸受
41 油圧室
42 伝達歯車
43 前進用歯車
44 後退用歯車
45 第一出力用歯車
46 第二出力用歯車
47 アイドル歯車
48 前進クラッチ
49 後退クラッチ
50 ラジアルニードル軸受
51 ラジアルニードル軸受
52 第三出力用歯車
53 入力歯車
54 車軸駆動軸
55a、55b クラッチハウジング
56a、56b ピストン
57a、57b アウタドラム
58a、58b プレッシャプレート
59a、59b インナドラム
60a、60b クラッチディスク
61a、61b 圧縮コイルバネ
62a、62b 油圧室
63a、63b 給油通路
64 凹部
65 遠心油圧キャンセル室
66 潤滑油供給路
67a、67b 止め輪
68 オイルポンプ
69 仕切板
70 止め輪
71 円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力が入力される入力回転軸と、
この入力回転軸の周囲に、この入力回転軸と同心に設けられたトロイダル型無段変速機と、
上記動力の伝達方向に関し、上記入力回転軸よりも下流側に、この入力回転軸と平行に設けられた回転伝達軸と、
上記トロイダル型無段変速機と上記回転伝達軸との間で動力の伝達を行なう動力伝達機構と、
上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸よりも下流側に、この回転伝達軸と平行に設けられた出力回転軸と、
上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸と上記出力回転軸との間に設けられて、この出力回転軸から出力される上記動力の回転方向を、正転、逆転に切り換える正転逆転切換機構とを備え、
このうちのトロイダル型無段変速機は、上記入力回転軸を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として支持された1対の入力側ディスクと、これら両入力側ディスク同士の間に、これら両入力側ディスクと同心に、且つ、これら両入力側ディスクとは独立した回転を自在として支持された出力側ディスクと、この出力側ディスクの両側面と上記両入力側ディスクの側面との間にそれぞれ複数個ずつ挟持されて、これら入力側ディスクと出力側ディスクとの間で動力を伝達するパワーローラとを備えたものであり、
上記動力伝達機構は、上記出力側ディスクと同心に設けられて、この出力側ディスクと同期して回転する第一動力伝達部材と、上記回転伝達軸と同心に設けられて、この回転伝達軸と同期して回転する第二動力伝達部材とを備え、これら第一、第二両動力伝達部材を介して、上記出力側ディスクと上記回転伝達軸との間で動力の伝達を行なうものであり、
上記正転逆転切換機構は、上記回転伝達軸と同心に設けられて、正転方向に対応する動力の伝達を行なう為の正転用動力伝達部材と、同じく上記回転伝達軸と同心に設けられて、逆転方向に対応する動力の伝達を行なう為の逆転用動力伝達部材と、上記動力の伝達方向に関し、上記回転伝達軸と上記正転用動力伝達部材との間に設けられて、これら回転伝達軸と正転用動力伝達部材との間で動力の伝達を行なう状態と行なわない状態とを切り換える正転用クラッチと、同じく上記回転伝達軸と上記逆転用動力伝達部材との間に設けられて、これら回転伝達軸と逆転用動力伝達部材との間で動力の伝達を行なう状態と行なわない状態とを切り換える逆転用クラッチとを備えたものであり、
上記正転用、逆転用各クラッチのうちの少なくとも一方のクラッチを、上記第二動力伝達部材の一部を利用して構成した、
無段変速装置。
【請求項2】
第二動力伝達部材の片側面部分にアウタドラムを結合固定する事により、一方のクラッチを構成するクラッチハウジングを上記第二動力伝達部材に組み込んだ、請求項1に記載した無段変速装置。
【請求項3】
一方のクラッチに遠心油圧キャンセル室が設けられている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。
【請求項4】
正転逆転切換機構が歯車機構により構成されており、正転用動力伝達部材を構成する正転用歯車を、出力回転軸に設けた第一出力用歯車に直接噛合させると共に、逆転用動力伝達部材を構成する逆転用歯車を、上記出力回転軸に設けた第二出力用歯車に、アイドル歯車を介して噛合させた、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。
【請求項5】
出力側ディスクを単一の部材により構成すると共に、この出力側ディスクの軸方向中間部外周面に第一動力伝達部材を設け、この第一動力伝達部材から第二動力伝達部材に動力を、増速した状態で伝達自在とした、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。
【請求項6】
回転伝達軸の軸方向に関し、第二動力伝達部材を、正転用動力伝達部材と逆転用動力伝達部材との間に設けた、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−75863(P2008−75863A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259361(P2006−259361)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】