説明

無端ベルト、無端ベルトの製造方法、定着装置、及び画像形成装置

【課題】軸方向端部の破断を抑制可能な無端ベルト、この無端ベルトを搭載した定着装置、及びこの定着装置を搭載した画像形成装置を提供する。
【解決手段】円筒状基材層と、前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層と、を有し、前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなることを特徴とする無端ベルト、この無端ベルトを用いた定着装置、及びこの無端ベルトを用いた画像形成装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルト、無端ベルトの製造方法、定着装置、及び画像形成装置に係る。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真方式の画像形成装置には、記録媒体上に転写されたトナーを記録媒体に定着させるための定着装置が設けられている。
このような定着装置として、加熱源を有する定着ロールと、この定着ロールに圧接して設けられ定着ロールと共に回転移動する無端ベルトと、を含んで構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような定着装置においては、無端ベルトの内周側に加圧部材等の加圧部材を設けて、この加圧部材により無端ベルトを定着ロールに向かって押圧することで、無端ベルトと定着ロールとを圧接させる。この無端ベルトと定着ロールとの間の加圧された加圧領域に記録媒体を通過させることで、記録媒体上の未定着トナーを該記録媒体に定着させている。
【0004】
このような無端ベルトを用いた定着装置につきまとう問題として、走行時における無端ベルトの偏りにより、無端ベルトの軸方向端部が破損する問題がある。このような問題は、無端ベルトと定着ロールとの間を記録媒体が通過することによる無端ベルトに加わる負荷や、無端ベルトと定着ロールとの間の加圧領域に加わる圧力分布の偏り等から、定着装置内で無端ベルトの蛇行が発生し、無端ベルトの軸方向端部が定着装置内の各種部材に接触することが繰り返されることにより発生すると考えられる。
【0005】
このような無端ベルトの軸方向端部の破損として端部に亀裂が発生すると、無端ベルトの破断に至る場合がある。
【特許文献1】特開平8−262903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とし、軸方向端部の破断を抑制可能な無端ベルト、無端ベルトの製造方法、この無端ベルトを搭載した定着装置、及びこの定着装置を搭載した画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明の無端ベルトは、円筒状基材層と、前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層と、を有し、前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなることを特徴としている。
【0008】
前記円筒状基材層の軸方向端面は、該円筒状基材層の厚みの少なくとも20%以上の領域を前記表面被覆層により被覆されていることが好ましい。
【0009】
本発明の無端ベルトの製造方法は、芯体の外周面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して該芯体上に円筒状樹脂皮膜を形成する第1の塗布工程と、前記芯体上に形成された円筒状樹脂皮膜を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程によって乾燥された前記円筒状樹脂皮膜の軸方向両端部に該円筒状樹脂皮膜の周方向に沿って溝部を形成する溝部形成工程と、前記溝部形成工程によって前記溝部の形成された前記円筒状樹脂皮膜の外周面に表面被覆樹脂溶液を塗布して該円筒状樹脂皮膜上に表面被覆層を形成する第2の塗布工程と、前記円筒状樹脂皮膜及び前記表面被覆層を加熱焼成し、前記芯体の外周面に前記円筒状基材層及び前記表面被覆層の積層体を形成する加熱焼成工程と、前記積層体と前記芯体とを分離する分離工程と、を備えている。
【0010】
前記溝部は、前記円筒状樹脂皮膜の厚みの20%以上90%以下の深さ寸法であることが好ましい。
【0011】
本発明の定着装置は、回転可能に配設された定着部材と、円筒状基材層及び前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層を有し且つ前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなり前記定着部材との間で記録媒体を挟持搬送する無端ベルトと、前記無端ベルトの内周側に配置され、前記無端ベルトまたは前記無端ベルト及び前記記録媒体を介して前記定着部材に圧力を加える加圧手段と、を備えている。
【0012】
本発明の画像形成装置は、像保持体と、前記像保持体に静電潜像を形成する潜像形成手段と、前記静電潜像をトナーにより現像して前記像保持体上にトナー像を形成する現像手段と、前記像保持体上のトナー像を記録媒体に転写する転写手段と、回転可能に配設された定着部材と、円筒状基材層及び前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層を有し且つ前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなり、前記定着部材との間で記録媒体を挟持搬送する無端ベルトと、前記無端ベルトの内周側に配置され、前記無端ベルトまたは前記無端ベルト及び前記記録媒体を介して前記定着部材に圧力を加える加圧手段と、を有し、前記転写手段によってトナー像を転写された前記記録媒体上のトナー像を該記録媒体上に定着させる定着装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無端ベルト、無端ベルトの製造方法、定着装置、及び画像形成装置によれば、軸方向両端部の破損を抑制可能な無端ベルト、無端ベルトの製造方法、この無端ベルトを備えた定着装置、及びこの定着装置を備えた画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る定着装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る定着装置10は、定着部材としての定着ロール12と、無端ベルト14と、加圧手段としての加圧部材16とを備えている。
【0016】
無端ベルト14の外周面は、定着ロール12の外周面に対して定着ロール12の軸方向に接触して配置されている。なお、無端ベルト14と定着ロール12の軸方向は互いに同じ方向となるように設けられている。加圧部材16は、無端ベルト14の軸方向に長い長尺状であって、無端ベルト14の内周面側に配置されている。加圧部材16は、無端ベルト14の内周面側から無端ベルト14を介して定着ロール12へ圧力を加えるように配置されており、加圧部材16と無端ベルト14との間に圧力の加えられた圧力領域を形成する。
【0017】
この無端ベルト14と定着ロール12との間の圧力領域に、図示を省略する搬送機構によって未定着のトナーTを担持した記録媒体Kが搬送されて、この記録媒体Kが無端ベルト14と定着ロール12との間を挟持搬送されることにより、記録媒体K上にトナーTが定着される。
【0018】
定着ロール12は、円筒状のコア12Aと、このコア12Aの表面に被覆された弾性体層12Bと、この弾性体層12Bの表面に被覆された離型層12Cとを有しており、コア12Aの内部には、加熱源18が設けられている。
【0019】
コア12Aの材質としては、機械的強度に優れ、熱伝導性の良好な材質のものであれば、特に制限はないが、例えば、アルミニウム、SUS、鉄、銅、真鍮等の金属や合金等が挙げられる。
【0020】
弾性体層12Bの材質としては、弾性体層12Bとして公知の材料の中から適宜選択でき、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を用いることができる。そして、この弾性体層12Bは、公知の手法によってコア12Aの表面に形成され、その手法については、特に制限がなく、例えば、それ自体公知の注入成型法またはコーティング法等を採用することができる。
【0021】
離型層12Cは、記録媒体K上の未定着のトナーが定着ロール12側に付着することを好適に防止するために設けられるものであって、その材質としては、耐熱性がありトナーに対し適度な離型性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ素樹脂等が用いられる。
【0022】
加熱源18としては、図1に示すようにコア12Aの内部に収容することができる形状及び構造のものや、コア12Aの外部に設けることができる形状及び構造のものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、ハロゲンランプ等を用いることができる。この加熱源18により加熱された定着ロール12の表面温度は、例えば、定着ロール12の表面に接触するように温度を検出するための温度センサ(図示省略)を設けて、この温度センサによる温度検知結果に基づいて、定着ロール12の表面温度が所定の温度となるように、加熱源18による定着ロール12の加熱温度を調整するようにすればよい。
【0023】
このような温度センサとしては、特に制限はなく、例えば、サーミスタ、熱電対等が用いられる。また、制御手段としては、特に制限はなく、たとえば、温度コントローラー、コンピューターなどを用いることができる。
【0024】
加圧部材16は、支持部材16B及びパット16Aから構成されている。パット16Aは、シリコーンゴムやフッ素ゴム等から構成されている。支持部材16Bは、パット16Aを支持するための部材である。
【0025】
支持部材16Bには、コイルスプリング等の付勢部材(図示省略)の一端が接続されている。付勢部材の他端は、金属製の圧接部材(図示省略)に支持されている。この圧接部材には、図示を省略する支持部材を介して、無端ベルト14の周方向への走行を支持するためのガイド部材19が設けられている。
【0026】
パット16Aは、付勢部材によって支持部材を介して定着ロール12の外周面に近づく方向へ、所定の圧力(例えば、1〜2kg/cm)で付勢されている。加圧部材16は、無端ベルト14の軸方向に長い長尺状であって、無端ベルト14の内周面側に配置されている。加圧部材16は、無端ベルト14の内周面側から無端ベルト14を介して定着ロール12へ圧力を加えるように配置されており、加圧部材16と無端ベルト14との間に圧力の加えられた圧力領域を形成する。
【0027】
上記加圧部材16の形状、構造、大きさ等については特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、また、単一の部材からなる構造であってもよいし、本実施の形態のように異なる機能を有する複数の部材からなる構造であってもよい。
【0028】
定着ロール12に接触して、定着ロール12との間で記録媒体Kを挟持搬送する上記無端ベルト14は、図2(A)に示すように、円筒状に構成されている。
【0029】
図2(B)に示すように、無端ベルト14は、例えば、耐熱樹脂からなる円筒状基材層14Aの表面に表面被覆層14Bを形成して構成されている。
【0030】
円筒状基材層14Aの材質としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート等を用いることができる。
【0031】
表面被覆層14Bとしては、トナーに対する剥離性に優れていることが好ましく、その材質としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0032】
上述のように、円筒状基材層14Aの外周面は、全面に渡って表面被覆層14Bにより被覆されているが、円筒状基材層14Aの軸方向(図2(A)中、矢印B方向参照、すなわち、無端ベルト14の軸方向と同一方向)端面の少なくとも一部もまた表面被覆層14Bにより被覆されている。
【0033】
図2(B)及び図2(C)に示すように、円筒状基材層14Aの軸方向両端面は全領域に渡って表面被覆層14Bにより被覆(すなわち100%被覆)されていることが好ましいが、少なくとも、円筒状基材層14Aの軸方向端面を被覆している表面被覆層14Bにおける、円筒状基材層14Aの半径方向の長さとしての厚みT2が、円筒状基材層14Aの厚みT1の20%以上であることが必須であり、40%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが特に好ましい。
【0034】
円筒状基材層14Aの軸方向端面を被覆している表面被覆層14Bにおける上記厚みT2が、円筒状基材層14Aの厚みT1の20%未満であると、円筒状基材層14Aの端面を被覆している部分が少ないため、定着装置内に無端ベルト14を使用した際に発生するベルト蛇行に対して、端面破壊・磨耗を防止する作用が弱いという問題が生じる場合がある。
【0035】
円筒状基材層14Aの厚みT1(図2(B)参照)は、無端ベルト14を定着装置内で使用するために40μm以上200μm以下であることが好ましく、60μm以上150μm以下であることがより好ましい。
厚みTが40μm未満であると、無端ベルト14全体の強度が弱いため、定着装置内で使用した際にベルト蛇行による座屈が発生しやすくなり、無端ベルト14が破断すると言う問題が生じる場合があり、200μmを超えると、無端ベルト14全体の膜厚が厚くなり、熱伝導性が悪いためエネルギー効率が低下したり、無端ベルト14に柔軟性が不足し、記録紙の剥離性が低下し、定着性能が劣化するという問題が生じる場合がある。
【0036】
また、表面被覆層14Bの円筒状基材層14Aの外周面を被覆している領域における、厚みT4(図2(B)参照)は、無端ベルトの厚みの10μm以上60μm以下であることが好ましく、20μm以上50μm以下であることが更に好ましい。
厚みT4が無端ベルトの厚みの10μm未満であると、定着装置内で無端ベルト14を使用した際に、記録紙の通紙により、表面層が少ない走行枚数で摩滅してしまい、無端ベルトの離型性が損なわれ、記録紙の定着不良やトナー付着などの画像汚れが発生すると言う問題が生じる場合があり、60μmを超えると、無端ベルト14全体の熱伝導性が低下し、定着装置のエネルギー効率が悪化する、という問題が生じる場合がある。
【0037】
さらに、表面被覆層14Bの内の、円筒状基材層14Aの軸方向両端部を被覆している箇所の厚みT3(図2(B)参照)は、本発明の内容を特に限定するものではないが、少なくとも10μm以上であることが好ましく、20μm以上の膜厚であることがより好ましい。
【0038】
以上の構成において、本実施の形態に係る定着装置10では、上記無端ベルト14を用いることにより、無端ベルト14の軸方向端部の破断を抑制することができ、無端ベルト14の軸方向端部破損に起因する定着装置10における定着性能の低下を抑制することができる。
【0039】
すなわち、定着装置10では、図1に示すように、定着ロール12が図示を省略するモーターの駆動によって所定方向(図1中、矢印E方向)に所定の回転速度で回転駆動されると、定着ロール12の回転に従動して、無端ベルト14が回転する(定着ロール12の反回転方向に回転。図1中、矢印A方向)。
【0040】
このとき、定着ロール12と無端ベルト14との間の加圧領域Nに、未定着のトナーTを保持した記録媒体Kが存在すると、記録媒体Kは加圧領域Nに取り込まれて、定着ロール12と無端ベルト14とによって挟持搬送される。
定着ロール12と無端ベルト14との間の加圧領域Nにおいては、記録媒体Kが加圧及び加熱される。その結果、未定着のトナーTは記録媒体K上に加熱加圧定着される。
【0041】
ここで、無端ベルト14の回転により、無端ベルト14の軸方向両端部がガイド部材19や定着装置10内の装置各部への接触することにより、無端ベルト14の円筒状基材層14Aの軸方向端部が摩耗すると、無端ベルト14の破断に繋がる場合がある。
しかし、本実施の形態の無端ベルト14では、上述のように、円筒状基材層14Aの外周面の全面または一部を表面被覆層14Bにより被覆されているために、円筒状基材層14Aの軸方向両端部の摩耗が抑制される。
【0042】
従って、定着装置10における無端ベルト14の軸方向端部の摩耗及び破断を抑制することができる。また、無端ベルト14の軸方向端部破損に起因する定着装置10における定着性能の低下を抑制することができる。
【0043】
上記無端ベルト14は、芯体の外周面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して該芯体上に円筒状樹脂皮膜を形成する第1の塗布工程と、芯体上に形成された円筒状樹脂皮膜を乾燥する乾燥工程と、乾燥工程によって乾燥された円筒状樹脂皮膜の軸方向両端部に該円筒状樹脂皮膜の周方向に沿って該円筒状樹脂皮膜の厚みの20%以上90%以下の深さ寸法の溝部を形成する溝部形成工程と、溝部形成工程によって溝部の形成された円筒状樹脂皮膜の外周面に表面被覆樹脂溶液を塗布して該円筒状樹脂皮膜上に表面被覆層を形成する第2の塗布工程と、円筒状樹脂皮膜及び表面被覆層を加熱焼成し、芯体の外周面に円筒状基材層及び表面被覆層の積層体を形成する加熱焼成工程と、積層体と芯体とを分離する分離工程と、を経ることにより製造される。
【0044】
下記に、無端ベルト14の製造方法を、工程毎に説明する。なお、かかる工程以外にも、種々の公知の工程を適宜設けてもよい。
【0045】
−準備工程−
図3に示すように、皮膜形成樹脂溶液を塗布する対象となる芯体20には、アルミニウムやステンレス、ニッケル、銅等の金属を用いることが好ましい。芯体20は、円筒状または円柱状であって、その軸方向長さは、目的とする無端ベルト14の軸方向長さ(所謂、幅)以上の長さが必要であるが、芯体20の軸方向両端部に生じる無効領域に対する余裕幅を確保するために、芯体20の軸方向長さは、目的とする無端ベルト14の軸方向長さより、10〜40%程度長いことが望ましい。芯体20の外径は、目的とする無端ベルト14の内径に合わせ、肉厚は芯体20としての強度が保てる厚さにする。
【0046】
芯体20は円筒形であるが好ましい。芯体20の重量が大きい場合には、その軸方向両端に、保持板を取り付けるのが好ましい。保持板は、芯体20の両端をはさむ構造や、芯体20の内側に嵌合する構造のいずれでもよい。また、芯体20及び保持板の何れか一方または双方に、段差や切り込み等の加工があってもよい。保持板の取り付け方法は、ねじでもよいし、溶接でもよい。
【0047】
また、塗布される皮膜形成樹脂溶液が芯体20表面に接着することを防ぐため、芯体20の表面には、離型性を付与することが好ましい。それためには、芯体20表面をクロムやニッケルでメッキしたり、フッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、表面に離型剤を塗布する方法がある。
【0048】
−第1の塗布工程−
芯体20表面には皮膜形成樹脂溶液が塗布される。
皮膜形成樹脂溶液の材料としては、ポリイミド(以下、PIと称する)、ポリアミドイミド(以下、PAIと称する)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアリレート等が挙げられる。材料が熱可塑性樹脂の場合には、その溶液が用いられ、PIのように非熱可塑性樹脂の場合には、その前駆体(PI前駆体)が用いられる。
これらの皮膜形成樹脂溶液の材料の中でも、強度や形状安定性等の観点から、上記PI前駆体及びPAIが好ましく用いられる。
【0049】
PI前駆体としては、例えば、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)とからなるもの、BPDAと4,4'−ジアミノジフェニルエーテルとからなるもの、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルとからなるもの等、種々公知のものを用いることができる。また、PI前駆体は、2種以上を混合して用いてもよいし、複数の酸又はアミンのモノマーを混合して共重合されてもよい。
また、PAIとしては、種々の公知のものを用いればよい。
【0050】
PI前駆体やPAIの溶剤としては、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトアミド等の非プロトン系極性溶剤が挙げられ、常温での揮発性は低い。
【0051】
なお、塗布に用いられる皮膜形成樹脂溶液の混合比、濃度、粘度等は、使用される塗布方法や狙いの塗布膜厚に応じて、適宜選択される。
以下、固形分18%、粘度130Pa・sのPI前駆体溶液をブレードコートと呼ばれる塗布方法で塗布する場合について、例を挙げて説明する。
【0052】
芯体20上への皮膜形成樹脂溶液の塗布方法としては、芯体20を皮膜形成樹脂溶液に浸漬した後に芯体20を上昇させる浸漬塗布法、芯体20を回転させながらその表面に皮膜形成樹脂溶液を吐出する流し塗り法、その際にブレードで皮膜を平滑化するブレード塗布法など、公知の方法が採用できる。上記流し塗り法やブレード塗布法では、塗布部を水平移動させるので、円筒状樹脂皮膜はらせん状に形成されるが、溶剤の乾燥が遅いものを用いて、円筒状樹脂皮膜の乾燥を遅くすれば、継ぎ目は自然に平滑になる。
【0053】
なお、「芯体上に塗布」とは、芯体20の外周面の表面に塗布することをいい、また該表面に層を有する場合は、その層の表面に塗布することをいう。また、「芯体を上昇」とは、塗布時の液面との相対関係であり、「芯体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0054】
流し塗り法を用いて塗布を行う場合には、回転させた芯体20の表面に、ノズルから吐出された皮膜形成樹脂溶液をブレードによって平滑にする方法が挙げられる。
【0055】
図3は、上記塗布方法に利用する塗布装置を示す概略構成図である。また図4は、この塗布装置の主要部分の芯体20の軸方向から見た側面図である。
【0056】
この塗布装置は、図3、図4に示すように、被塗布物である円筒状の芯体20に対し、皮膜形成樹脂溶液22を塗布し、その塗膜による円筒状樹脂皮膜15Aを形成する塗布装置である。ここで、図示しないが、芯体20は、水平に回転可能(図3中、矢印C方向)に支持するアームを有する台座に保持部材を介して配設されている。また、図示しないが、芯体20は、芯体20を軸回転させるための駆動手段(回転手段)と保持部材を介して連結されている。
また、芯体20の周辺には、皮膜形成樹脂溶液22を流下して芯体20に皮膜形成樹脂溶液22を付着させる流下装置24が配置されている。
【0057】
流下装置24(ディスペンサー)は、例えば、皮膜形成樹脂溶液22を流下させるノズル26と、ノズル26へ皮膜形成樹脂溶液22を供給する容器28とから構成されている。容器28としては、例えば、メニカスシリンダー、スクリューなどを利用した装置が適用される。流下装置24は、ノズル26と容器28とが連結管により連結してノズル26と容器28とが分離して別置している形態でもよいし、ノズル26と容器28とが一体的に構成された形態でもよい。本実施形態では、容器28とノズル26とが別体で、ポンプ30を介して連結した形態を説明する。また、ノズル26と容器28との間には例えば電磁弁を介在させて流下量を制御してもよい。
【0058】
通常、PI前駆体溶液などの皮膜形成樹脂溶液22は、例えば1Pa・s以上と粘度が高いので自然には流下しないので、ポンプ30を用いて流下させる。円筒状樹脂皮膜15Aの層厚は、皮膜形成樹脂溶液22の吐出量によって定まるため、塗布中は吐出量を一定にしなくてはならない。皮膜形成樹脂溶液の吐出は、加圧エアで容器28から押し出す方法でもよいが、定量化を確実にするには、ポンプ30で供給するのがよい。そのポンプ30として、途切れなく一定量を吐出することが可能であるモーノポンプが好ましい。
【0059】
ノズル26と芯体20との距離は任意でよいが、流下液が途切れることがないよう、10〜100mm程度が好ましい。液の途切れが生じると、泡を巻き込むことがある。
【0060】
芯体20の周辺には、芯体20に付着した皮膜形成樹脂溶液22を平滑化する平滑化手段として、ブレード32が配置されている。ブレード32は、芯体20へ突き当てて圧接させることで、芯体20に付着された皮膜形成樹脂溶液22を平滑化することで、芯体20上に円筒状樹脂皮膜15Aを形成する。ブレード32は、その先端が湾曲されて(しなるように)、芯体20へ圧接される。
【0061】
ここで、ブレード32の芯体20への圧接力としては、例えば真円度が0〜1mmの芯体20の回転時の最大振れ幅(例えば0〜2mm)に合わせて、ブレード32が当該振れ幅に追随できるように0.2Nから4Nの範囲とし、円筒状樹脂皮膜15Aにらせん状模様が発生しない条件とする。
【0062】
流下装置24(ノズル26)及びブレード32は、皮膜形成樹脂溶液22の芯体20への付着及び平滑化に伴い、芯体の20回転に応じて相対的に芯体20の軸方向の一端から他端へ水平方向(図3中、矢印D方向)に移動させる。この構成は、図示しないが、流下装置24(ノズル26)及びブレード32を移動させる構成としてもよいし、芯体20が移動する構成としてもよく、周知の技術により構成することができる。
【0063】
流下装置24(ノズル26)及びブレード32を連動させ、芯体20の一端から他の一端へ水平方向に移動させることにより、芯体20の表面に塗布することができる。その移動速度が塗布速度と言える。
塗布時の条件は、芯体20の回転速度が20〜200rpmであり、塗布速度Vは、0.1〜2.0m/分程度である、溶液の粘度が高いほど遅くするのが好ましい。
【0064】
本実施形態では、まず、芯体20を周方向(図3中、矢印C方向)に回転させながら、流下装置24のノズル26から、皮膜形成樹脂溶液22を流下させて芯体20に皮膜形成樹脂溶液22を付着する。この直後に芯体20の一端側の突き当て位置31においてブレード32を水平方向に移動させて芯体20へ突き当てることで、芯体20に付着した皮膜形成樹脂溶液22を平滑化する。そして、芯体20の回転毎に付着点及び平滑化点(流下装置24及びブレード32)を、芯体20の一端から他端へ水平方向(図3中、矢印D方向)に移動させる。
【0065】
その後、芯体20への皮膜形成樹脂溶液22の塗布が終了する直前に、芯体20の他端側の退避位置34において、ブレード32を水平方向に移動させて芯体20から退避させる。
【0066】
ブレード32は、ステンレスや真鍮などの金属や、フッ素樹脂やポリエチレン等の弾力性ある材料で、厚さ0.1〜1mm程度の板から製作される。幅は、少なくともピッチ(水平移動速度/回転体回転数)より広い必要があるが、広すぎても筋が残る場合があるので、上記ピッチの6倍以下が好ましい。ブレード32を皮膜形成樹脂溶液22に押し当てて平滑化している間は、芯体20とブレード32の間には、皮膜形成樹脂溶液が存在するので、両者が直に接触することはない。
【0067】
このようにして、皮膜形成樹脂溶液22が芯体20外周面に塗布され、皮膜形成樹脂溶液による塗膜としての円筒状樹脂皮膜15Aが形成される。
【0068】
−乾燥工程−
乾燥工程においては、図5に示すように、上記第1の塗布工程によって芯体20上に形成された円筒状樹脂皮膜15Aを、固形分が40%以上60%以下の半乾燥状態となるまで乾燥させる。

【0069】
この乾燥後の時点では、皮膜形成樹脂溶液からなる円筒状樹脂皮膜15Aには、溶剤が全皮膜重量の40%以上60%以下は残っており、円筒状樹脂皮膜15Aはまだ柔軟性を有し、円筒状基材層としての強度を保持しておらず、芯体20上に密着して保持されている。
【0070】
なお、円筒状樹脂皮膜15Aの固形分が40%を切るほどまで、円筒状樹脂皮膜15Aを乾燥させてしまうと、円筒状樹脂皮膜15Aの柔軟性が失われ、硬くもろい膜になり、後述する溝部形成工程において溝部の形成が困難となると共に、後述する加熱焼成工程後に表面被覆層15Bとの密着性が低下するなどの問題が生じる。
【0071】
なお、上記説明で使用している円筒状樹脂皮膜15A中の固形分測定は、上記円筒状樹脂皮膜15Aの形成された芯体20について、溝形成工程と表面層塗布を行わずに380℃、1時間の加熱焼成処理を行い、求めたものである。その計算方法を下記に示す。
【0072】
円筒状樹脂皮膜15Aが形成された芯体20の全体について、乾燥工程終了後(焼成処理前)の質量aと、焼成処理後の重量bを、また芯体20のみでの重量cを各々測定すると、
(円筒状樹脂皮膜15Aの固形分率)は(b−c)/(a−c)×100(%)で表される。
【0073】
乾燥工程では、芯体20に形成された円筒状樹脂皮膜15Aを、上記半乾燥状態となるまで加熱乾燥させる。乾燥工程における加熱乾燥条件は、皮膜形成樹脂溶液に用いる材料(樹脂)や溶剤の種類にもよるが、通常、60℃〜120℃の温度で30〜120分間の時間で、所望の半乾燥状態を得ることが好ましい。その際、温度が高いほど、加熱時間は短くてよい。温度は、時間内において段階的、または一定速度で上昇させてもよい。加熱の際、熱風を当てることも有効である。
【0074】
乾燥工程中に円筒状樹脂皮膜15Aに垂れが生じる場合には、芯体20の軸方向を水平にして、ゆっくり回転させることが有効である。このとき、芯体20の回転速度は1〜60rpm程度が好ましい。
【0075】
−溝部形成工程−
溝部形成工程では、上記乾燥工程を経ることによって乾燥された円筒状樹脂皮膜15Aの芯体20の軸方向両端部に、円筒状樹脂皮膜15Aの周方向に沿って溝部36を形成する。
【0076】
溝部36は、円筒状樹脂皮膜15Aの芯体20へ接触する側の面を裏面とすると、円筒状樹脂皮膜15Aの表面側に開口し、図7に示すように、円筒状樹脂皮膜15Aの軸方向(芯体20の軸方向と同一方向)両端部の側縁から中央部へ向かって所定距離移動した位置に、円筒状樹脂皮膜15Aの側縁に沿って、円筒状樹脂皮膜15Aの周方向に向かって直線状に形成されている。
【0077】
溝部36は、円筒状樹脂皮膜15Aの厚みの20%以上90%以下の深さ寸法であることが好ましく、40%以上90%以下がさらに好ましく、60%以上90%以下が特に好ましい。
【0078】
溝部36の深さ寸法が、円筒状樹脂皮膜15Aの厚みの20%未満であると、製造される無端ベルト14の両端部が被覆される範囲も20%未満となり、端部補強の効果が充分に得られないと言う問題が生じる場合がある。また、溝部36の深さ寸法は、より深いほうが製造される無端ベルト14の両端が表面層に被覆される範囲が広くなり、補強効果が高くなるが、深ければ深いほど、溝加工の際に円筒状樹脂皮膜15Aを完全に切断してしまい、芯体20の表面を傷つけてしまう可能性が高くなる。そのため、深さ寸法は円筒状樹脂皮膜15Aの少なくとも90%以下に設定することが好ましい。
【0079】
溝部36の幅は本発明の内容を特に制限するものではないが、50μm〜200μmが好適であり、70μ〜120μが更に好ましい。
【0080】
円筒状樹脂皮膜15Aへの溝部36の形成は、例えば、図6に示すように、切断用の一対の刃物38各々の刃先を、円筒状樹脂皮膜15Aの軸方向両端部の側縁から互いに近づく方向へと所定距離移動させた位置に各々接触させた状態とした後に、芯体20を周方向へと回転させることによって形成することができる。
【0081】
上記溝部36の幅、及び深さ寸法は、溝部36を形成するための刃物38の刃先の形状、刃先の大きさ、及び刃物38の刃先を円筒状樹脂皮膜15Aの外周面に接触させるときの圧力等を調整することにより調節することができる。
【0082】
この溝部36の形成においては、乾燥工程後の時点では、円筒状樹脂皮膜15Aには溶剤が40%以上60%以下含有されている状態であることから、円筒状樹脂皮膜15Aは柔軟性を有している。このため、容易に溝部36を形成することができる。
【0083】
−第2の塗布工程−
第2の塗布工程では、前記溝部形成工程によって溝部36の形成された円筒状樹脂皮膜15Aの外周面に表面被覆樹脂溶液を塗布して、円筒状樹脂皮膜15A上に表面被覆層15Bを形成する。
【0084】
このような表面被覆樹脂溶液としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂を用いることができる。
以下では、表面被覆樹脂溶液を、適宜「フッ素樹脂分散液」と称して説明する場合がある。
【0085】
このようなフッ素樹脂分散液は、一般的には固形分が40〜60%に調整され、粘度は狙いの塗布厚みや塗布方法に応じて、GMC(シ゛メチルセルロース)等の増粘剤で調整される。
表面被覆樹脂溶液を塗布する方法としては、図8に示すような浸漬塗布法およびスプレー塗布法などが挙げられる。浸漬塗布法においては25℃における塗料粘度は、狙いの膜厚、塗布速度に応じて100cP〜700cPに調整されて使用される。
また、スプレー塗布方法の場合は、25℃における塗料粘度が0〜10cP程に調整して使用され、20μm以上の厚膜を製造する際には重ね塗りなどの手法が選択される。
【0086】
以下、第2の塗布工程として、浸漬塗布法を選択した場合について解説するが、この塗布方法は本発明の内容を限定するものではない。
【0087】
第2の塗布工程では、芯体20の軸方向を垂直にした際に、図8に示すように、下端側となる部分の円筒状樹脂皮膜15Aの端部、及び芯体20の露出部分があれば、その部分に被覆処理を施す(被覆処理領域40)。
なお、芯体20の上端側になる部分は、芯体20表面が露出していても、表面被覆樹脂溶液42への浸漬時、その部分まで浸漬しなければ、芯体20表面に表面被覆樹脂溶液42が付着しないので、被覆処理を施さなくてもかまわない。もちろんその部分も被覆すれば、より確実である。
【0088】
次いで、図8に示すように、被覆処理をした被覆処理領域40側を下側にして芯体20を垂直にして、表面被覆樹脂溶液42が入れられた塗布槽44に浸漬し、引き上げることにより、フッ素樹脂分散液の皮膜からなる表面被覆層15Bが、芯体20上の円筒状樹脂皮膜15A上に形成される。塗布槽44の上部には、環状送風装置47が取り付けられており、円筒状樹脂皮膜15A上に塗布されたフッ素樹脂分散液の皮膜に風を送ることができる。
【0089】
なお、表面被覆樹脂溶液42は、塗布槽44に溜め置きしてもよいが、塗布槽44の下部から供給し、上部から溢流させて回収し、ポンプで循環させてもよい。
【0090】
ここで、表面被覆樹脂溶液42としては、フッ素樹脂粉体の粒径が1〜20μm、その分散液濃度は10〜70%程度が好ましい。表面被覆樹脂溶液42の溶媒は、水のほか、エタノールやブタノール等の低級アルコールや、エチレングリコール等のグリコール、またそのエステル類が併用されることもある。溶媒の蒸発により、表面被覆樹脂溶液42の濃度が上昇した場合には、低級アルコール等を加えて調整すればよい。また、表面被覆樹脂溶液42には界面活性剤や粘度調整剤等も添加されてよい。
【0091】
表面被覆樹脂溶液42を塗布槽44に入れる前には、脱泡して表面被覆樹脂溶液42の中から泡を除去するのがよい。なぜなら、界面活性剤が添加されていると、表面被覆樹脂溶液42は泡立ちが起こりやすく、液中に泡があると塗膜に欠陥が生じるからである。脱泡の方法には、静置することのほか、減圧や遠心分離、ろ過、超音波印加、等の方法がある。なお、水には20℃で窒素が約1.19体積%、酸素が約0.64体積%の溶解度があり、フッ素樹脂分散液には気体が溶存するが、それら溶存気体も減圧によって減少させておくことが好ましい。
【0092】
表面被覆樹脂溶液42からの芯体20の引き上げ速度は、所望の表面被覆層15Bの厚みにもよるが、50〜500mm/分程度である。
【0093】
引き上げの際、環状送風装置47により、表面被覆樹脂溶液42の塗膜としての表面被覆層15Bに気流を当てて、溶媒の乾燥を促進するが、表面被覆層15Bに当てる気流は、一方向からよりは、周方向で均一になるよう、環状に当てるのがよい。そのような送風装置としては、例えば特許第2844784号公報や、特許第2629417号公報に記載されているものが挙げられる。
【0094】
この第2の塗布工程により、円筒状樹脂皮膜15A上に表面被覆層15Bを形成した後に、常温から100℃の間に5〜20分間置いて、表面被覆層15B内に残留している溶媒を乾燥させる。この乾燥の前後に、先に形成した被覆処理をした被覆処理領域40を取り外す。
【0095】
−加熱焼成工程−
次に、加熱焼成工程では、上記第2の塗布工程によって、溝部36の設けられた円筒状樹脂皮膜15A上に、表面被覆層15Bが積層された芯体20について、円筒状樹脂皮膜15A及び表面被覆層15Bを同時に加熱焼成する。この加熱焼成工程を経ることにより、図9に示すように、円筒状基材層14A上に表面被覆層14Bの積層された積層体46を形成することができる。
【0096】
この加熱焼成工程においては、円筒状樹脂皮膜15Aを構成する材料にPI前駆体が用いられている場合には、好ましくは250℃〜450℃、より好ましくは300℃〜350℃前後で、20〜60分間加熱焼成することにより、縮合反応させることで円筒状基材層14Aが形成される。その際、表面被覆層14Bを構成するフッ素樹脂粉体は溶融焼成されてフッ素樹脂からなる表面被覆層14Bとなる。
【0097】
ここで、円筒状樹脂皮膜15Aを構成する材料の種類によっては、加熱焼成時に溶剤の揮発物や反応時に発生する気体があり、加熱焼成後の円筒状基材層14Aには、これらの揮発物や気体による部分的な膨れが生じることがある。これは特に、PI前駆体を、円筒状樹脂皮膜15Aを構成する材料として用い、且つ円筒状樹脂皮膜15Aの厚みが50μmを越える場合に顕著に発生する。
【0098】
しかし、本実施の形態では、上記溝部形成工程において円筒状樹脂皮膜15A上に溝部36が形成されているため、加熱焼成工程における円筒状樹脂皮膜15Aの体積収縮により、図10(A)に示すように溝部36部分で積層体46が裂け、積層体46内面からのガス抜けが補助され、円筒状樹脂皮膜15Aへの部分的な膨れの発生を抑制することができる。
【0099】
−分離工程−
加熱焼成工程の後に、芯体20を常温に冷した後に、積層体46を芯体20から取り外す。この取り外し時に、溝部36を境界にして積層体46の軸方向両端部が中央部から分離されて(図10(B)参照)、この中央部を本実施の形態の無端ベルト14として得ることができる。
【0100】
なお、無端ベルト14の円筒状基材層14Aとは、積層体の状態では円筒状樹脂皮膜15Aに相当し、表面被覆層14Bは、積層体の状態では表面被覆層15Bに相当する。
【0101】
以上説明したように、本実施の形態の無端ベルト14の製造方法によれば、上記乾燥工程で円筒状樹脂皮膜15Aの芯体20の軸方向両端部に溝部36を設けて、第2の塗布工程により表面被覆樹脂溶液を塗布した後に、上記加熱焼成工程により円筒状樹脂皮膜15A及び表面被覆層15Bを加熱焼成し、芯体20から分離することにより無端ベルト14を製造する。
【0102】
このため、本発明の無端ベルト14では、円筒状基材層14Aの外周面を全面に渡って表面被覆層14Bにより被覆された構成とすることができると共に、円筒状基材層14Aの軸方向(図2(A)中、矢印B方向参照、すなわち、無端ベルト14の軸方向と同一方向)端面の少なくとも一部もまた表面被覆層14Bにより被覆された構成とすることができる。
【0103】
このように、表面被覆層14Bによって軸方向端面を被覆された円筒状基材層14Aとすることにより、無端ベルト14の円筒状基材層14Aの軸方向端面が摩耗することを抑制することができる。
【0104】
次に、上記定着装置10を備えた画像形成装置50について説明する。
【0105】
図11に示すように、本発明の画像形成装置50は、所定方向(図11中、矢印F方向)に回転する感光体52を備えている。
感光体52の周辺には、感光体52の回転方向に沿って、帯電装置54、露光装置56、現像装置58、転写装置60、及びクリーニング部材62が設けられている。
【0106】
帯電装置54は、感光体52の表面を所定電位に帯電する。露光装置56は、帯電装置54によって帯電された感光体52の表面を露光することにより、画像データに応じた静電潜像を形成する。
【0107】
現像装置58は、静電潜像を現像するためのトナーを含む現像剤を予め貯留すると共に、貯留された現像剤を感光体52表面に供給することにより静電潜像を現像してトナー像を形成する。
転写装置60は、感光体52上に形成されたトナー像を、感光体52との間で記録媒体Kを挟持搬送することにより、記録媒体Kに転写する。
【0108】
画像形成装置50には、定着装置10が設けられている。転写装置60によってトナー像を転写された記録媒体Kは、転写装置60に図示を省略する搬送機構によって定着装置10へと搬送されると、定着装置10によって、転写されたトナー像を定着される。
【0109】
クリーニング部材62は、感光体52の表面に接触するように設けられ、感光体52表面との摩擦力によって、表面の付着物を除去する。
【0110】
所定方向(図11中、矢印F方向)に回転する感光体52の表面は、帯電装置54によって一様に帯電される。
露光装置56は、表面を一様に帯電された感光体52表面に、画像データに応じた静電潜像を形成する。感光体52の静電潜像の形成された領域が、現像装置58との対向領域に達すると、静電潜像は、現像装置58に貯留された現像剤によって現像される。このように、静電潜像が現像剤によって現像されることにより、感光体52上には、静電潜像に応じたトナー像が形成される。
【0111】
感光体52上に形成されたトナー像の領域が、感光体52の回転によって転写装置60との対向領域に達すると、この対向領域において、トナー像は記録媒体Kに転写される。記録媒体Kが、図示を省略する搬送ロールによって搬送されて、定着装置10の設置位置に達すると、記録媒体K上に転写されたトナー像は、定着装置10によって加熱加圧処理されて、記録媒体K上に定着される。
【0112】
本実施の形態の画像形成装置50によれば、定着装置10における記録媒体Kへのトナー像の定着処理時に、定着装置10の無端ベルト14の軸方向両端部の摩耗や破断が抑制されるため、無端ベルト14の摩耗に起因する定着装置10における定着処理能の低下を抑制することができる。従って、定着処理能の低下に起因する画質劣化を抑制することができる。
【実施例】
【0113】
以下実施例を交えて、本発明を詳細に説明するが、何ら本発明を限定するものではない。
【0114】
(無端ベルトA1の作製)
−準備工程−
外径30mm、軸方向長さ460mm、厚み2mmのアルミニウム製円筒を用意した。次いで、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、Ra1.0μmに粗面化した後、表面にシリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理し、芯体20とした。
【0115】
−第1の塗布工程−
皮膜形成樹脂溶液として、PI前駆体溶液として、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンが、N−メチルピロリドン中で合成された、固形分濃度18%(重量%、以下同じ)、25℃の粘度が130Pa・sのPI前駆体溶液を用意した。
【0116】
上記芯体20の表面に、図3及び図4に示す塗布装置を用いて、上記皮膜形成樹脂溶液を塗布した。
詳細には、芯体20の軸方向両端部を回動可能に保持し、芯体20の軸方向が水平方向となるように調整した。

【0117】
そして、図3に示すように、芯体20を20rpmで回転させた。ブレード32は幅20mm、厚さ1mmのポリエチレンからなり、弾力性を有している。これを回転している芯体20に押し付け、上記調整した皮膜形成樹脂溶液22としてのPI前駆体溶液は、容器28から口径4mmのノズル26を通して、エア圧0.4MPaにて、23ml/minの流量で押し出した。PI前駆体溶液がブレード32を通過する際、ブレード32が押し広げられ、ブレード32と芯体20の間には隙間ができた。次いで、ノズル26とブレード32を360mm/分の速度で、芯体20の軸方向の一端から他端へと移動させた。この条件で、芯体20回転あたり、ノズル26とブレード32は3.0mmずつ移動する。なお、塗布の際には、芯体20の軸方向両端に5mmずつの不塗布部分を設けた。
【0118】
この第1の塗布工程によって、芯体20上には、厚み740μm、芯体20の軸方向長さ450mmの円筒状樹脂皮膜15Aが形成された。
【0119】
−乾燥工程−
乾燥工程では、上記第1の塗布工程によって円筒状樹脂皮膜15Aの形成された芯体20を20rpmで回転させながら、120℃の乾燥炉に50分間入れることにより、円筒状樹脂皮膜15Aを乾燥させた。乾燥された円筒状樹脂皮膜15Aの固形分は約52%であった。また、乾燥工程により乾燥された円筒状樹脂皮膜15Aの厚みは150μmであった。
【0120】
−溝部形成工程−
次に、図6に示すように、切断用の一対の刃物38を設置した溝形成用治具を用意し、各々の刃先を、円筒状樹脂皮膜15Aの軸方向両端部の側縁から中央部へと49mm移動させた位置に各々接触させた後に、芯体20を周方向へと10rpmの回転速度で回転させることによって、円筒状樹脂皮膜15Aの軸方向両端部の側縁に沿って周方向に一対の溝部36を形成した(図7参照)。
この溝部36の深さ寸法は、90μmであり、幅は、100μmであった。
【0121】
−第2の塗布工程−
次に、図8に示すように、第2の塗布工程として、円筒状樹脂皮膜15Aを形成した芯体20の軸方向一端に粘着テープ(ポリエステルテープ)を巻いて張り付けた。粘着テープを張り付けた側を下端にして、芯体20の軸方向を垂直にした後に、表面被覆樹脂溶液としてのPFA塗料(三井デュポンフロロケミカル社製、商品名:EN−700CL、濃度51.5%、粘度600mPa・s)を内径90mm、高さ480mmの塗布槽44に入れた。塗布槽44の上部には、環状送風装置47を取り付けた。
【0122】
この塗布槽44中に芯体20を、被覆処理をした被覆処理領域40を下側にして垂直にし、芯体20上の円筒状樹脂皮膜15Aの全領域を被覆するように、塗布槽44の表面被覆樹脂溶液に浸漬させた。次いで気流を当てながら、200mm/分の速度で表面被覆樹脂溶液から芯体20を引き上げることにより、円筒状樹脂皮膜15A上に表面被覆層15Bを形成した。
【0123】
この第2の塗布工程の後に、上記ポリエステルテープを除去した後に、80℃で10分間乾燥した。
【0124】
−加熱焼成工程−
加熱焼成工程として、上記第2の塗布工程によって、芯体20上に形成された円筒状樹脂皮膜15A及び表面被覆層15Bを、380℃で1時間加熱することにより、円筒状樹脂皮膜15A及び表面被覆層15Bを同時に加熱焼成し、芯体20上に円筒状基材層14A及び表面被覆層14Bからなる積層体を形成した。
【0125】
この加熱焼成工程を得た表面被覆層15Bについては、内部のガスによる膨れはみられなかった。これは、加熱焼成工程時に、円筒状樹脂皮膜15Aの体積収縮が生じて、溝部36部分で円筒状樹脂皮膜15Aが裂けて、この裂け目から円筒状樹脂皮膜15A内部からのガス抜けが補助されたためと考えられる。
【0126】
−分離工程−
分離工程においては、上記加熱焼成工程を経た芯体20、芯体20上の積層体が室温に冷えた後に、芯体20から積層体を取り外した。
このとき、溝部36を境界として積層体の軸方向両端部と中央部とが分離され、この中央部を無端ベルトA1として得た。
【0127】
得られた無端ベルトA1における円筒状基材層14A、表面被覆層14Bの厚み、及び無端ベルトA1の軸方向長さ各々を、マイクロスコープ(キーエンス社製、商品名VH−800)を用いて測定したところ、下記測定結果が得られた。
【0128】
・T1(円筒状基材層14Aの厚み):85μm
・T2(円筒状基材層14Aの端部を被覆している表面被覆層14Bの、円筒状基材層14Aの半径方向長さ):51.0μm
・T3(円筒状基材層14Aの端部を被覆している表面被覆層14Bの、円筒状基材層14Aの軸方向長さ):38μm
・T4(円筒状基材層14Aの周方向表面を被覆している表面被覆層14Bの厚み):38μm
・無端ベルトの軸方向長さ:344mm
【0129】
(無端ベルトA2の作製)
上記無端ベルトA1の作製における溝部形成工程において、溝部36の深さ寸法を30μmとし、幅を、40μmとした以外は、無端ベルトA1と同様にして無端ベルトA2を作製した。
【0130】
作製した無端ベルトA2について、上記T1、T2、T3、T4、及び無端ベルトの軸方向長さを、無端ベルトA1と同様にして測定したところ、各々下記の通りであった。
T1=85μm、T2=17.0μm、T3=20μm、T4=38μm、無端ベルトの軸方向長さ=344mm
測定結果を表1にも示した。
【0131】
(無端ベルトA3の作製)
上記無端ベルトA1の作製における溝部形成工程において、溝部36の深さ寸法を60μmとし、幅を、70μmとした以外は、無端ベルトA1と同様にして無端ベルトA3を作製した。
【0132】
作製した無端ベルトA3について、上記T1、T2、T3、T4、及び無端ベルトの軸方向長さを、無端ベルトA1と同様にして測定したところ、各々下記の通りであった。
T1=85μm、T2=34.0μm、T3=35μm、T4=38μm、無端ベルトの軸方向長さ=344mm
測定結果を表1にも示した。
【0133】
(無端ベルトA4の作製)
上記無端ベルトA1の作製における溝部形成工程において、溝部36の深さ寸法を120μmとし、幅を、125μmとした以外は、無端ベルトA1と同様にして無端ベルトA4を作製した。
【0134】
作製した無端ベルトA4について、上記T1、T2、T3、T4、及び無端ベルトの軸方向長さを、無端ベルトA1と同様にして測定したところ、各々下記の通りであった。
T1=85μm、T2=68.0μm、T3=38μm、T4=38μm、無端ベルトの軸方向長さ=344mm
測定結果を表1にも示した。
【0135】
(無端ベルトA5の作製)
上記無端ベルトA1の作製における溝部形成工程において、溝部36の深さ寸法を135μmとし、幅を、135μmとした以外は、無端ベルトA1と同様にして無端ベルトA5を作製した。
【0136】
作製した無端ベルトA5について、上記T1、T2、T3、T4、及び無端ベルトの軸方向長さを、無端ベルトA1と同様にして測定したところ、各々下記の通りであった。
T1=85μm、T2=76.5μm、T3=38μm、T4=38μm、無端ベルトの軸方向長さ=344mm
測定結果を表1にも示した。
【0137】
(無端ベルトA6の作製)
上記無端ベルトA1の作製における溝部形成工程において、溝部36の深さ寸法を15μmとし、幅を、20μmとした以外は、無端ベルトA1と同様にして無端ベルトA6を作製した。
【0138】
作製した無端ベルトA6について、上記T1、T2、T3、T4、及び無端ベルトの軸方向長さを、無端ベルトA1と同様にして測定したところ、各々下記の通りであった。
T1=85μm、T2=76.5μm、T3=10μm、T4=38μm、無端ベルトの軸方向長さ=344mm
測定結果を表1にも示した。
【0139】
(無端ベルトA7の作製)
上記無端ベルトA1の作製における溝部形成工程において、溝部36を形成せず、且つ分離工程において分離された積層体の軸方向両端部を、ベルトカット用治具を用いて切断することによって無端ベルトを作製した以外は、無端ベルトA1と同様にして無端ベルトA7を作製した。
【0140】
作製した無端ベルトA7について、上記T1、T4、及び無端ベルトの軸方向長さを、無端ベルトA1と同様にして測定したところ、各々下記の通りであった。
T1=85μm、T4=38μm、無端ベルトの軸方向長さ=344mm
測定結果を表1にも示した。
【0141】
【表1】



【0142】
(実施例1)
上記作製した無端ベルトA1を、DocuCentreColor400CP(富士ゼロックス株式会社製)の定着装置の無端ベルトに換えて該定着装置に設置し、無端ベルトA1の強度試験を行った。
【0143】
強度試験に先立ち、まず、この定着装置に設けられている加圧部材16について、無端ベルトA1と定着ロール12との接触領域における、無端ベルトA1の幅方向の圧力が不均一となるように、圧力調整を行った。具体的には、この接触領域における、無端ベルトA1の軸方向の一端から他端には、均等に荷重が加えられるように、スプリング等の付勢部材によって16.5kgの荷重が加えられるが、本実施例では、この接触領域における、無端ベルトA1の軸方向の一端から中央部に至る領域に15kgの荷重を加え、該軸方向の他端から中央部に至領域に18kgの荷重を加えた。
【0144】
このように調整した定着装置について、プロセススピード(定着ロール及び無端ベルトの搬送速度)208mm/s、定着ロールの表面温度175℃の条件で、定着ロール及び無端ベルトを回転駆動させたところ、定着ロールと無端ベルトとの接触領域における圧力分布が不均一であるために、無端ベルトA1の蛇行が観察された。さらに、葉書用紙(100mm×148mm、紙秤量186(g/m2)を定着ロールと無端ベルトとの間で挟持搬送したところ、葉書用紙を挟持する度に、無端ベルトA1の軸方向端部の一部領域が、無端ベルトA1の回転をガイドするガイド部材に接触することが観察された。
【0145】
このような条件とした定着装置を用いて、上記葉書用紙を3500枚連続して定着ロールと無端ベルトA1との間を通過させて、葉書用紙が500枚通過する度に、無端ベルトA1の軸方向両端部の強度評価を行った。評価結果を図12に示した。
【0146】
なお、図12において、強度評価基準は、無端ベルト14の軸方向端面に発生した亀裂の内の最も大きな亀裂の深さ寸法を、精密ノギス(ミツトヨ製、型番CD−20C)を用いて測定し、測定結果に応じて、6段階の評価を行った。評価基準を下記に示す。
・G0:端部に亀裂発生せず。
・G1:亀裂の深さ0.5mm未満
・G2:亀裂の深さ0.5mm以上1.0mm未満
・G3:亀裂の深さ1.0mm以上2.0mm未満
・G4:亀裂の深さ2.0mm以上3.0mm未満
・G5:亀裂の深さ3.0mm以上
【0147】
なお、上記評価において、「亀裂の深さ寸法」とは、通紙前の無端ベルト14の軸方向端部を基準位置(以下、基準位置14E(initial)と称する)として、この基準位置14E(initial)から亀裂が最も進行した箇所までの軸方向長さを示している。
なお、ベルト磨耗および破壊が進行するにつれて、無端ベルト14の端部が削れてしまい通紙前の無端ベルト14の基準位置14E(initial)の正確な位置が不明瞭になる。そのため、通紙前に測定を基準位置14E(initial)から20mmの位置に表面被覆層にマーキングを行い、このマーキング位置から、基準位置14E(initial)と亀裂が最も進行した箇所の相対的な距離を計測することで、「亀裂の深さ寸法」を求めるようにした。
【0148】
(実施例2〜実施例6、比較例1)
実施例1で用いた無端ベルトA1に換えて、無端ベルトA2を用いた場合を実施例2、無端ベルトA3を用いた場合を実施例3、無端ベルトA4を用いた場合を実施例4、無端ベルトA5を用いた場合を実施例5、無端ベルトA6を用いた場合を実施例6、及び無端ベルトA7を用いた場合を比較例1として、実施例1と同様にして強度評価を行った。評価結果を図12に示した。
【0149】
表1及び図12に示すように、円筒状樹脂皮膜15Aに溝部36を形成せずに作製した無端ベルトA7を用いた比較例1では、円筒状樹脂皮膜15Aに溝部36を形成した無端ベルトA1〜無端ベルトA6を用いた実施例1〜実施例6に比べて、葉書用紙が500枚通過するまでに無端ベルトに亀裂が発生し、1500枚の葉書用紙が通過した時点では、亀裂は3.0mm以上にまで広がった。
【0150】
一方、円筒状樹脂皮膜15Aに溝部36を形成した無端ベルトA1〜無端ベルトA6を用いた実施例1〜実施例6では、比較例1で0.5mm未満の深さの亀裂が観察されたときの葉書用紙の通紙量500枚に比べて、2倍以上の通紙がなされた後に始めて0.5mm未満から0.5mm以上1.0mm未満の深さの亀裂発生が観察された。
同様に、円筒状樹脂皮膜15Aに溝部36を形成した無端ベルトA1〜無端ベルトA6を用いた実施例1〜実施例6では、比較例1で3.0mm以上の深さの亀裂が観察されたときの葉書用紙の通紙量1500枚に比べて、1.6倍以上の通紙がなされた後に始めて3.0mm未満の深さの亀裂が観察された。
【0151】
このことから、実施例1〜実施例6で用いた無端ベルトA1〜無端ベルトA6は、円筒状基材層14Aの軸方向両端面の少なくとも一部が表面被覆層14Bに被覆された構成とされていることにより、軸方向両端部の摩耗及び亀裂を抑制することができるといえる。
【0152】
さらに、実施例1〜実施例6で用いた無端ベルトA1〜無端ベルトA6の内、100×T2/T1(%)の値が60%以上である実施例1、実施例4、及び実施例5で用いた無端ベルトA1、無端ベルトA4、及び無端ベルトA5は、100×T2/T1(%)の値が60%未満である実施例2、実施例3、及び実施例6で用いた無端ベルトA2、無端ベルトA3、及び無端ベルトA6に比べて、葉書用紙通紙量が3000枚時点でも、観察された亀裂の深さは2.0mm未満である。このため、円筒状基材層14Aを覆う表面被覆層14Bの領域が広いほど、無端ベルトの軸方向端部の亀裂及び破壊を抑制することができるといえる。
【0153】
さらに、実施例6で用いた無端ベルトA6は、100×T2/T1(%)の値が10%と低く、葉書用紙通紙量が1000枚時点で深さ0.5mm以上1.0mm未満の亀裂が発生しており、他実施例の無端ベルトA1〜A5に比べて、ベルト端部の補強効果が少ないと判断される。
【0154】
(実施例8)
上記無端ベルトA1の作製において、アルミニウム製円筒を10本用意し、用意したアルミニウム製円筒10本各々を用いて、上記無端ベルトA1の作製方法を用いて無端ベルトA1の作製を20回繰り返し行った。これにより、アルミニウム製円筒毎に無端ベルトA1を20個(合計200個)作製した。
【0155】
作製した200個の無端ベルトA1の内の、1回目に作製した無端ベルトA1を10個、10回目に作製した無端ベルトA1を10個、及び20回目に作製した無端ベルトA1を10個について、レーザー外径測定器(キーエンス社製、商品名:LS−3060)を用いて各々の外径を測定し、各回で作製した無端ベルトA1のグループ毎に、外径の平均値と、標準偏差と、を求めた。測定結果を表2に示した。
【0156】
(比較例2)
上記無端ベルトA7の作製において、アルミニウム製円筒を10本用意し、用意したアルミニウム製円筒10本各々を用いて、上記無端ベルトA7の作製方法を用いて無端ベルトA7の作製を20回繰り返し行った。これにより、アルミニウム製円筒毎に無端ベルトA7を20個(合計200個)作製した。
【0157】
作製した200個の無端ベルトA7の内の、1回目に作製した無端ベルトA7を10個、10回目に作製した無端ベルトA7を10個、及び20回目に作製した無端ベルトA7を10個について、レーザー外径測定器(キーエンス社製、商品名:LS−3060)を用いて各々の外径を測定し、各回で作製した無端ベルトA7のグループ毎に、外径の平均値と、標準偏差と、を求めた。測定結果を表2に示した。
【0158】
【表2】



【0159】
表2に示すように、実施例7で測定対象とした無端ベルトA1は、比較例2で測定対象とした無端ベルトA7に比べて、製造繰り返し回数時における外径差のばらつきが小さいことが分かる。また、比較例2で測定対象とした無端ベルトA7は、実施例7で測定対象とした無端ベルトA1に比べて、製造繰り返し回数が増加による無端ベルトの外径値の変化率が大きい事が分かる。
このことから、本発明の無端ベルト作製方法を用いることにより、無端ベルトの軸方向端部の摩耗や破壊を抑制することができるとともに、寸法精度の良い無端ベルトを提供することができるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の定着装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の無端ベルトの一例を示す模式図であり、(A)は、外観図、(B)は、(A)のI−I’断面を示す模式図であり、(C)は、無端ベルトの軸方向端面を軸方向から見た形態の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の無端ベルトの製造における第1の塗布工程において用いられる塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の無端ベルトの製造における第1の塗布工程において用いられる塗布装置の主要部分を芯体の軸方向から見た断面図である。
【図5】第1の塗布工程の芯体状態を示す模式図であり、芯体上に円筒状樹脂皮膜が形成された状態を示す模式図である。
【図6】溝部形成工程を示す模式図である。
【図7】円筒状樹脂皮膜に形成された溝部を示す模式図である。
【図8】第2の塗布工程において用いられる塗布装置の一例を示す模式図である。
【図9】加熱焼成工程によって芯体上に積層体が形成された状態を示す模式図である。
【図10】(A)は、積層体が溝部を境界にして破断した状態を示す模式図であり、(B)は、分離工程によって積層体の軸方向両端部が中央部から分離された状態を示す模式図である。
【図11】本発明の画像形成装置を示す模式図である。
【図12】実施例及び比較例における無端ベルト端面の破断状態を示す線図であり、破断評価値と、葉書用紙通紙量との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0161】
10 定着装置
12 定着ロール
14A 円筒状基材層
14B 表面被覆層
14 無端ベルト
15A 円筒樹脂皮膜
15B 表面被覆層
20 芯体
36 溝部
50 画像形成装置
52 感光体
54 帯電装置
56 露光装置
58 現像装置
60 転写装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基材層と、前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層と、を有し、前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなることを特徴とする無端ベルト。
【請求項2】
芯体の外周面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して該芯体上に円筒状樹脂皮膜を形成する第1の塗布工程と、
前記芯体上に形成された円筒状樹脂皮膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程によって乾燥された前記円筒状樹脂皮膜の軸方向両端部に該円筒状樹脂皮膜の周方向に沿って該円筒状樹脂皮膜の厚みの20%以上90%以下の深さ寸法の溝部を形成する溝部形成工程と、
前記溝部形成工程によって前記溝部の形成された前記円筒状樹脂皮膜の外周面に表面被覆樹脂溶液を塗布して表面被覆層を形成する第2の塗布工程と、
前記円筒状樹脂皮膜及び前記表面被覆層を加熱焼成し、前記芯体の外周面に前記円筒状基材層及び前記表面被覆層の積層体を形成する加熱焼成工程と、
前記積層体と前記芯体とを分離する分離工程と、
を備えたことを特徴とする無端ベルトの製造方法。
【請求項3】
回転可能に配設された定着部材と、
円筒状基材層と、前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層と、を有し、前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなり、前記定着部材との間で記録媒体を挟持搬送する無端ベルトと、
前記無端ベルトの内周側に配置され、前記無端ベルトまたは前記無端ベルト及び前記記録媒体を介して前記定着部材に圧力を加える加圧手段と、
を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項4】
像保持体と、
前記像保持体に静電潜像を形成する潜像形成手段と、
前記静電潜像をトナーにより現像して前記像保持体上にトナー像を形成する現像手段と、
前記像保持体上のトナー像を記録媒体に転写する転写手段と、
回転可能に配設された定着部材と、円筒状基材層及び前記円筒状基材層の外周面に積層された表面被覆層を有し且つ前記円筒状基材層の軸方向両端面の少なくとも一部が前記表面被覆層により被覆されてなり、前記定着部材との間で記録媒体を挟持搬送する無端ベルトと、前記無端ベルトの内周側に配置され、前記無端ベルトまたは前記無端ベルト及び前記記録媒体を介して前記定着部材に圧力を加える加圧手段と、を有し、前記転写手段によってトナー像を転写された前記記録媒体上のトナー像を該記録媒体上に定着させる定着装置と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−112097(P2008−112097A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296311(P2006−296311)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】