説明

無端移動部材駆動制御装置

【課題】画像形成装置において、温度変化が大きい環境でも、制御誤差の増加を抑えて、各色画像の重ね合わせの精度を高める。
【解決手段】ベルト1のマーク5を、2つのマーク検出手段A、Bで検出した2値化信号の位相差を求める。マーク検出手段の固定部材6の周囲温度を測定し、温度変化を計測する。温度変化と固定部材6の線膨張係数とマーク検出手段の間隔と目標速度から、固定部材6の熱膨張による位相差の計測誤差量を計算する。位相差初期値と計測位相差に基づいて、パルス周期の計測結果を補正する。位相差の計測誤差量を用いて、補正されたパルス周期の計測結果をさらに補正する。補正されたパルス周期の計測結果に基づく制御信号を用いて、速度制御や位置制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端移動部材駆動制御装置に関し、特に、複写機やプリンタやファクシミリ等の画像形成装置において、無端ベルト部材やドラム状部材などの無端移動部材を、位置制御と速度制御により中間転写ベルトの速度変動を抑制して正確に駆動するための無端移動部材駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタンデムカラー機は、図5に示すように、イエロー(Y)とシアン(C)とマゼンタ(M)と黒(K)の色ごとに、画像を形成する作像ユニットが並んで設置され、それらの色ごとの画像を中間転写ベルト上で重ね合わせてフルカラー画像を形成する装置である。この装置は、高速化が容易(高生産性)であるという長所がある。しかし、色ごとの画像の正確な重ねあわせが困難であり、感光体の回転速度変動があり、書込みタイミングのずれがあり、書込み光学系のずれがあり、中間転写ベルトの速度変動があるなどの短所がある。これを避けるための従来技術の例を、以下にあげる。
【0003】
駆動軸ロータリエンコーダ方式は、駆動ローラ等の回転軸にロータリエンコーダを直結し、検出された回転体の回転角速度に基づいて、回転体の駆動手段である駆動モータの回転角速度を制御する方法である。この方法の短所は、駆動ローラの偏心や、駆動ローラとベルトの滑りや、ベルトの厚み偏差により、計測誤差が生じる点である。
【0004】
ベルト表面にマークを形成して検出し、ベルト表面速度を制御する方法は、ベルト表面にマークを形成し、そのマークをセンサで検出して得られたパルス間隔からベルト表面速度を算出して制御にフィードバックする方法である。この方法の長所は、ベルト表面の挙動を直接観測して移動量を直接制御することができるので、駆動ローラの偏心や、駆動ローラとベルトの滑りや、ベルトの厚み偏差による計測誤差を低減できる点である。短所は、ベルト上に一定のピッチでマークを形成することは非常に難しく、ベルト自体も温度や湿度によって伸びや変形を生じるため、ベルト上のマークピッチを正確に維持するのは困難である点である。
【0005】
マークの間隔の伸縮等による誤差を低減する方法は、2つのセンサによってマークを検出するものである。マーク間隔の誤差、しかも誤差変動分に着目し、2つのセンサ信号の位相差変動からマークピッチ変化を演算して速度計算に反映させることによって、ベルト上のマークピッチに誤差が生じてもベルトの表面線速を正確に検出し、フィードバック制御することにより高精度なベルト移送ができる。この方法の短所は、マークピッチ誤差を計測するための基準となる長さは2つのセンサの間隔だが、センサを固定している部品の熱膨張などでセンサ間隔は変化してしまい、制御の誤差になる点である。
【0006】
特許文献1に開示された「回転体駆動制御装置」は、回転駆動体の回転速度を制御する制御系において、系の変化に伴う回転精度の劣化をできるだけ小さくするものである。画像形成装置において使用される回転体の駆動を制御するための回転体駆動制御装置であって、回転体を回転駆動するモータと、回転体の回転角速度を検出するロータリエンコーダと、このロータリエンコーダにより検出された回転体の回転角速度に基づいてモータの回転角速度を制御するCPU、インターバルカウンタ、モータドライバ等からなる回転制御手段とを備えており、CPUで回転制御手段における伝達関数を求め、更に、伝達関数から位相余裕とゲイン余裕を求め、位相余裕あるいはゲイン余裕が所定の範囲外である時にはROMから最適な制御パラメータを選択して回転制御手段による回転制御を行う。
【0007】
特許文献2に開示された「ベルト搬送装置」は、ベルトの表面速度を精度よく、かつ非接触で測定できる装置である。ベルトに一定ピッチの濃淡縞を有するタイミングマークを予め印刷する。このタイミングマークを順次読み取る光電型の2つのセンサを設ける。2つのセンサの出力に基づき、2つのセンサが同一のマークを検知する時間差を演算し、所定期間にわたってその平均値を求める。それ以降はベルトの搬送速度をマーク毎に検知して平均値と比較し、リアルタイムで駆動モータの回転を制御している。これにより、装置の寸法的なずれや周期的な速度変動の影響を受けることなく、正確にしかも高速に駆動モータを制御して、ベルトの搬送速度を一定にすることができる。
【0008】
ベルトの表面端部にタイミングマークを予め設けて、マークに対向した位置に光電型の2つのセンサA,Bをベルトの搬送方向にずらして設けて、マークの通過を検知する。そして、あるマーク(同一マーク)が一定区間であるセンサピッチDを通過するために要した時間tに基づいて、制御部によりベルトのロールを回転駆動する駆動モータを制御する方法である。また、ベルトの速度Vを算出する方法としては、センサピッチDの製造上の誤差等を考慮してV=D/tとはせず、tの測定を所定期間(望ましくは駆動ロールの回転周期の整数倍の期間)に渡って行い、通過時間の平均値taveを求めて、各々のマークが通過する時間Δtnと平均値taveを比較することによりベルト表面の搬送速度を検知するとあり、平均値taveは非常に精度の高い基準で、この基準に基づいて駆動モータの回転速度を制御することにより、ベルトの搬送速度は安定した一定の値となるとある。センサピッチDの誤差に関しては、製造上の誤差や、センサ個々の検知特性の差などは考慮されているが、1回の動作(ジョブ)が長時間連続して行われた場合の機内の温度上昇による熱膨張でセンサの間隔Lが変動してしまうことについては説明されていない。この方法の場合も、センサピッチDが変動してしまうと同一マークの通過時間に誤差が含まれるようになり、ベルトの搬送速度にも誤差が発生してしまうと考えられる。
【0009】
特許文献3示された「ベルト搬送装置」は、ベルトの表面速度を制御し、カラー複写機等における色ずれを防止するものである。ベルトの表面速度を一定に制御する。ベルトにマークを設け、マークを検知するセンサとエンコーダを設ける。センサ信号と、駆動ロールが1回転する毎に発するインデックス信号と、エンコーダ信号を発生する。インデックス信号からセンサ信号までのエンコーダパルスをカウントする。その値と、マークがセンサを通過する時間を求める。その関係からベルト速度変動を算出する。またベルトの速度に変動がある場合に、変動パターンをメモリに記憶しておき、これを基準にして速度制御する。ベルトが進行方向に対して傾いて取りつけられている場合の傾きを検知して、画像書込のタイミングを変える。
【0010】
特許文献4に開示された「画像形成装置の駆動制御装置」は、回転部材を高い精度で制御して、回転部材の回転変動を抑えることにより、画像むらやレジストレーションのずれを防ぐものである。各サンプリング周期において周期完了しているエンコーダパルスの各立ち上がりエッジ間隔をクロックパルスで計数した計数値から各サンプリング周期の回転部材の移動距離と平均速度を算出し、これに基づいて回転部材の位置および速度を制御する。
【0011】
特許文献5に開示された「画像形成装置」は、転写ベルトの内周面に形成したスケールを読み取ることにより、転写ベルト自身の変形等の影響を含めて、転写ベルトの回転移動部の移動量を直接且つ正確に検出するカラー複写機である。支持ローラに掛け回された無端ベルト状の転写ベルトを備えたカラー複写機において、転写ベルトの内周面にベルトの移動量を検出するためのスケールを形成し、転写ベルトのスケールを読み取る検出器を設ける。この検出器の検出結果に基づいて、転写ベルトを駆動する駆動モータを制御する。
【0012】
特許文献6に開示された「無端移動部材駆動制御装置」は、無端移動部材をその移動速度やセンサの取付け誤差、マークのピッチ誤差や伸縮などの影響を受けず、その移動速度を高精度に制御できるようにするものである。無端移動部材である中間転写ベルトの表面に形成した等間隔で連続する多数のマークをマークセンサで検出し、その検出信号の位相差を位相差算出手段が算出する。予め中間転写ベルトを一周回動させたときに、順次算出される位相差によって、その一周分のマークのピッチ誤差のプロファイルをプロファイル作成手段が作成し、そのプロファイルから補正データ記憶手段が一周分のマークピッチ補正データを作成して記憶する。その後の通常の動作時に、順次算出される位相差と補正データ記憶手段から順次読み出されるマークピッチ補正データとに基づいて、制御手段が目標位置データを補正しながら駆動手段による中間転写ベルトの移動速度をフィードバック制御する。
【0013】
特許文献7に開示された「無端移動部材駆動制御装置」は、無端移動部材を、マークのピッチ誤差や伸縮などの影響を受けずに、その移動速度を高精度に制御できるようにするものである。無端移動部材の表面に形成した連続する多数のマークを、2つのセンサで検出する。マークのピッチ(スケールピッチ)をPとし、マークの伸びの変化率をRとし、センサの信号周期をT'とした場合、実際のベルトの移動速度Vrealは次のようになる。
real=P(1+R)/T'
【0014】
また、2つのセンサの間隔をLとし、2つのセンサ間でのマークのピッチの伸び量の累積をΔLとすると、上記の式は次のようになる。
real=(P/T')(1+(ΔL/L))
【0015】
2つのセンサ間でのマークのピッチの伸び量の累積ΔLは、2つのセンサの出力信号のタイミングのずれの時間を測定して算出する。2つのセンサの間隔Lは、その間隔が変動しないように、画像形成装置の固定部に固定されている。センサの間隔Lが変動しないように固定する方法は記載されていない。センサの間隔LがdLだけ変動した場合、Vrealは次のようになることがわかる。ΔL'は、センサの間隔が(L+dL)の場合の2つのセンサ間でのマークのピッチの伸び量の累積である。
real=(P/T')(1+((ΔL+dL)/(L+dL))
【0016】
この式からもわかるように、センサの間隔Lが変動してしまうと、Vrealに誤差が生じてしまう。dLは、例えば40μm程度であり、ΔLは、例えば20μm程度である。センサの間隔Lが変動しないようにすることは重要である。実際の機械の内部などでは、稼動中の機内の温度上昇により、2つのセンサを固定している部品の熱膨張により、センサの間隔Lが変動してしまう。センサ間隔Lの変動dLが熱膨張による場合、dLはLと比較すると十分小さい。また、センサの間隔がdLだけ増加した分のセンサ間でのマークのピッチの伸び量の累積の変化は十分小さいので、次のように近似する。
real≒(P/T')(1+((ΔL+dL)/L))
【0017】
【特許文献1】特許第3107259号公報
【特許文献2】特許第3344614号公報
【特許文献3】特開平06-263281号公報
【特許文献4】特開平09-114348号公報
【特許文献5】特開平11-024507号公報
【特許文献6】特開2006-139217号公報
【特許文献7】特願2004-331288号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、上記従来の方法には、次のような問題がある。温度変化が大きい環境では、2つのセンサを固定している固定部材の温度変化による制御誤差が増加して、各色の画像の重ねあわせがずれてしまう。
【0019】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決して、画像形成装置において、温度変化が大きい環境でも、固定部材の温度変化による制御誤差の増加を抑えて、各色の画像の重ねあわせの精度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために、本発明では、移動方向全体にわたって所定間隔で複数のマークが連続して設けられた無端移動部材と、無端移動部材を駆動する駆動手段と、マークを検出して第1パルス信号を出力する第1マーク検出手段と、第1マーク検出手段から所定間隔だけ離れた無端移動部材の移動方向の上流側に設けられてマークを検出して第2パルス信号を出力する第2マーク検出手段と、第1マーク検出手段と第2マーク検出手段を固定する共通の固定部材と、第1パルス信号と第2パルス信号とに基づいて位相補正を行って第1補正パルス周期値を出力するパルス周期出力手段と、第1補正パルス周期値に基づいて駆動手段を制御する速度・位置制御手段とを具備する無端移動部材駆動制御装置に、固定部材の温度変化による各パルス信号間の位相差への影響を打ち消すように温度補償を行う温度補償手段を備えた構成とした。
【発明の効果】
【0021】
上記のように構成したことにより、画像形成装置において、温度変化が大きい環境でも、ベルト駆動の制御誤差の増加を抑えて、各色画像の重ねあわせの精度を高めて、色ずれの少ない高精度な出力画像が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1は、2つのセンサでベルトのマークを検出して得たパルス信号の位相差初期値と計測位相差に基づいてパルス周期を補正し、温度変化と線膨張係数と目標速度から、センサ間隔の熱膨張による位相差の計測誤差量を計算し、位相差の計測誤差量で再補正したパルス周期に基づいて速度制御や位置制御を行う無端移動部材駆動制御装置である。
【0024】
図1は、本発明の実施例1における無端移動部材駆動制御装置の概念図である。図2は、位置検出手段の概念図である。図1において、ベルト1は、各色の画像を重ね合わせる中間転写ベルト(無端移動部材)である。ベルト1には、移動方向に沿って所定間隔で複数のマークが設けられている。マークに代えて穴を設けてもよい。駆動手段2は、ベルトを駆動する手段であり、駆動力を発生するモータ3と、ベルトを駆動するローラ駆動ローラ4と、ギアなどから構成されている。マーク5は、ベルトに付けられたマークである。マーク検出手段Aは、ベルトのマークの有無に対応した2値化信号を出力する手段である。マーク検出手段Bは、マーク検出手段Aから所定の間隔(L)離れた上流側でマークを検出する手段である。
【0025】
固定部材6は、マーク検出手段を固定する部材である。固定部材は、一体の共通固定保持部材でなくてもよい。複数の部材で構成されたフレームなどに2つのマーク検出手段を固定した場合であっても、複雑な固定部材の実効的な線膨張率を、実験などを求めることができるものであればよい。温度検知手段7は、固定部材の温度を検知する手段である。パルス周期計測手段8は、マーク検出手段Aから出力される2値化信号のパルスの周期を測定する手段である。位相差計測手段9は、マーク検出手段Aから出力される2値化信号とマーク検出手段Bから出力される2値化信号の位相差(各2値化信号の立ち上がりエッジ、もしくは立ち下がりエッジが計測されるタイミングのずれの時間)を計測する手段である。初期位相差記憶手段10は、位相差計測手段で計測した位相差の初期値を記憶する手段である。
【0026】
パルス周期補正手段11は、初期位相差記憶手段に保存した位相差の初期値と、位相差計測手段で計測する位相差から、パルス周期計測手段でのマーク検出手段Aから出力される2値化信号のパルス周期の計測結果を補正する手段である。初期温度記憶手段12は、初期温度を記憶する手段である。温度変化計測手段13は、温度変化を計測する手段である。計測誤差計算手段14は、計測誤差を計算する手段である。計測誤差補正手段15は、計測誤差を補正する手段である。速度・位置制御手段16は、計測誤差補正手段で補正されたパルス周期の計測結果に基づく制御信号を用いて、速度制御又は位置制御を行う手段である。
【0027】
上記のように構成された本発明の実施例1における無端移動部材駆動制御装置の機能と動作を説明する。最初に、図1を参照しながら、無端移動部材駆動制御装置の機能の概要を説明する。無端移動部材駆動制御装置は、画像形成装置に備えるものである。電子写真方式の画像形成装置の場合、無端移動部材は、感光体ドラムや中間転写ベルトや紙搬送ベルトである。その駆動制御装置に、無端移動部材駆動制御装置を適用する。インクジェット方式の画像形成装置の場合、無端移動部材は紙搬送ベルトである。その駆動制御装置に、無端移動部材駆動制御装置を適用する。ノズルヘッドの制御にも適用できる。
【0028】
ベルト1は、駆動手段2で駆動されて、矢印方向に動く。マーク検出手段Aでマークを検出して2値化信号を出力する。マーク検出手段Bは、上流側でマークを検出して2値化信号を出力する。マーク検出手段Aから出力される2値化信号のパルスの周期を、パルス周期計測手段8で測定する。マーク検出手段Aから出力される2値化信号と、マーク検出手段Bから出力される2値化信号の位相差(各2値化信号の立ち上がりエッジもしくは立ち下がりエッジが計測されるタイミングのずれの時間)を、位相差計測手段9で計測する。位相差計測手段9で計測した位相差の初期値を、初期位相差記憶手段10に記憶する。初期位相差記憶手段10に保存した位相差の初期値と、位相差計測手段9で計測した位相差に基づいて、パルス周期計測手段8の計測結果をパルス周期補正手段11で補正する。
【0029】
温度検知手段7で測定した周囲温度(T)の初期値(T0)を、初期温度記憶手段12に記憶する。固定部材6の周囲温度を温度検知手段7で測定し、ある時点からの温度上昇を算出する。ある時点というのは、位相差の初期値を記憶する時点が望ましい。周囲温度(T)の初期温度からの温度変化(ΔT)(=T−T0)は、温度変化計測手段13にて算出する。温度変化計測手段13で算出した温度変化(ΔT)と、固定部材6の線膨張係数(a)と、マーク検出手段Aとマーク検出手段Bの間隔(L)から、計測誤差計算手段14で、固定部材6の熱膨張の大きさ(dL')を算出する。
dL'=a×ΔT×L
【0030】
2値化信号のパルスの周期や、マーク検出手段Aとマーク検出手段Bから出力される2値化信号の位相差は、波形のエッジ間の基準クロックのカウント数で計測する。dL'を移動する時間(dt)を、目標速度(v)から求める。さらに、基準クロックのカウント数に変換して、計測誤差量とする。
dt=dL'/v
【0031】
次に、計測誤差補正手段15にて、計測誤差計算手段14で計算された位相差の計測誤差量を用いて、パルス周期補正手段11で補正されたパルス周期の計測結果をさらに補正する。
real=(P/T')(1+((ΔL+dL−dL')/L))
センサ間隔の熱膨張(dL)を、温度変化(ΔT)から予想したセンサ間隔の熱膨張(dL')によって打ち消す。速度・位置制御手段16は、計測誤差補正手段15で補正されたパルス周期の計測結果に基づく制御信号を用いて、速度制御や位置制御を行う。
【0032】
温度検知手段7は、図1(b)に示すように、サーミスタ(温度によって抵抗値が変化する素子)を用いた分圧回路で構成する。温度変化を電圧変化に変換して、変換した電圧信号をA/Dコンバータを介して演算装置に入力する。演算装置には、サーミスタの特性値と分圧回路の分圧比と測定電圧と温度との関係式をあらかじめ設定しておく。この関係式に基づいて温度を算出する。
【0033】
次に、図2を参照しながら、相対位置検知方法を説明する。図2(a)に示すように、遮光部と反射部からなる縞状のマーク(スケール)が、矢印の方向に動くベルトに付けられている。マークは、ベルト以外の走行体や回転体の表面あるいは側面に付されていてもよい。マークを、光源と受光部からなる光電センサによって読み取る。光源からの光がマークによって反射された光か、マークを透過した光を、受光部で受光して光電変換し、電気信号に変換する。光源からの光は、図2(b)に示すスリットで3つに分割されている。このようにして、マーク検出手段Aとマーク検出手段Bは、ベルトに付されたマークを検出する。
【0034】
ベルトなどの走行体が移動している場合には、マークの有無により、図2(e)に示すように、連続的に変調されたアナログ交番信号が出力される。このアナログ交番信号から、図2(c)に示すように、ハイパス・フィルタで正弦波信号成分のみを抽出する。正弦波信号成分は、図2(f)に示すようになる。ハイパス・フィルタ通過後の正弦波信号を、図2(d)に示すヒステリシス付きコンパレータ回路の2値化回路で基準信号と比較する。基準信号は、正弦波信号の振幅の中心電位である。2つの信号の相対的な大小関係より、2値化回路で2値化信号を得る。
【0035】
上記のように、本発明の実施例1では、無端移動部材駆動制御装置を、ベルトのマークを2つのマーク検出手段で検出した2値化信号の位相差を求め、マーク検出手段の固定部材の周囲温度変化と固定部材の線膨張係数とマーク検出手段の間隔と目標速度から、固定部材の熱膨張による位相差の計測誤差量を計算し、位相差初期値と計測位相差に基づいて、パルス周期の計測結果を補正し、位相差の計測誤差量を用いて、補正されたパルス周期の計測結果をさらに補正し、補正されたパルス周期の計測結果に基づく制御信号を用いて、速度制御や位置制御を行う構成としたので、制御精度を高めて画像の色ずれを小さくできる。
【実施例2】
【0036】
本発明の実施例2は、2つのセンサでベルトのマークを検出して2つのパルス信号を得て、2つのセンサの共通固定部材の温度変化による影響を打ち消すように、パルス信号の一方を遅延させて、位相差初期値と計測位相差に基づいてパルス周期を補正し、補正したパルス周期に基づいて速度制御や位置制御を行う無端移動部材駆動制御装置である。
【0037】
図3は、本発明の実施例2における無端移動部材駆動制御装置の概念図である。無端移動部材駆動制御装置の基本的な構成は、実施例1と同じである。しかし、マーク検出手段が温度補償付である点と、温度検出手段と温度変化による誤差を補正する手段が無い点が異なる。図4は、マーク検出手段と遅延回路の波形図である。
【0038】
上記のように構成された本発明の実施例2における無端移動部材駆動制御装置の機能と動作を説明する。最初に、図3を参照しながら、無端移動部材駆動装置の機能の概要を説明する。ベルト1は、駆動手段2で駆動されて、矢印方向に動く。マーク検出手段Aでマークを検出してパルス信号を出力する。マーク検出手段Bは、上流側でマークを検出してパルス信号を出力する。2つのマーク検出手段を共通の保持する固定部材の温度変化による影響を打ち消すように、2つのパルス信号のいずれかを遅延させる。
【0039】
マーク検出手段Aから出力される2値化信号のパルスの周期を、パルス周期計測手段8で測定する。マーク検出手段Aから出力される2値化信号と、マーク検出手段Bから出力される2値化信号の位相差を、位相差計測手段9で計測する。位相差計測手段9で計測した位相差の初期値を、初期位相差記憶手段10に記憶する。初期位相差記憶手段10に保存した位相差の初期値と、位相差計測手段9で計測した位相差に基づいて、パルス周期計測手段8の計測結果をパルス周期補正手段11で補正する。速度・位置制御手段16は、パルス周期補正手段11で補正されたパルス周期に基づいて、速度制御や位置制御を行う。
【0040】
次に、図4を参照しながら、マーク検出手段の動作について説明する。ベルト1には、所定の間隔でマーク5が形成されている。ベルト1のマーク形成領域に対向させて、マーク検出手段Aを設置する。マーク検出手段Aから物体の移動方向の上流側の所定の間隔(L)離れた位置に、マーク検出手段Bを設ける。マーク検出手段Bは、マーク検出手段Aと共通の固定部材6で固定されている。マーク検出手段Aで、ベルト1の移動に伴うマーク5の位置変化を検知して、電気信号の変化に変換して出力する。マーク検出手段Bも、ベルト1の移動に伴うマーク5の位置変化を検知して、電気信号の変化に変換して出力する。
【0041】
図4(a)に示すように、マーク検出手段Bの信号を遅延手段で遅延させて、位相を遅らせる。遅延手段では、信号の遅延時間を決定する回路にサーミスタを用いる。マーク検出手段Aとマーク検出手段Bから出力される信号の出力タイミングの時間差(位相の差)が、温度が上昇すると小さくなるようにする。温度が上昇して固定部材が膨張すると、マーク検出手段Bから出力される信号の位相が進む。これを打ち消すように、マーク検出手段Bから出力される信号を遅らせる。このようにして、遅延手段で、固定部材の熱膨張による計測誤差量を補正できる。サーミスタは、固定部材の温度特性と最もよく合うものを選択して用いる。
【0042】
図4(b)に示す遅延手段は、パルス信号を遅延させる遅延回路である。サーミスタとコンデンサで構成されるローパス・フィルタと、ローパス・フィルタの後段に接続された2値化回路を備える。サーミスタの抵抗値が温度上昇とともに増加する場合には、マーク検出手段Bの後段に遅延手段を接続する。サーミスタの抵抗値が温度上昇とともに減少する場合には、マーク検出手段Aの後段に遅延手段を接続する。温度によりローパス・フィルタの時定数が変化して、ステップ応答が変化する。ローパス・フィルタの後段に接続された2値化回路の基準電圧に達するまでの時間が、温度によって変化するので、信号の出力タイミングの時間差(位相の差)を回路的に調整できる。
【0043】
図4(c)に示す遅延手段は、パルス信号を遅延させる遅延回路である。抵抗素子とコンデンサで構成されるローパス・フィルタと、ローパス・フィルタの後段に接続された2値化回路と、2値化回路の基準電圧を生成するための分圧回路とを備える。分圧回路は、サーミスタと抵抗素子で構成する。抵抗素子とコンデンサで構成されるローパス・フィルタによって、2値化信号の立ち上がりの応答を遅くする。この波形を2値化回路で、分圧回路で生成される基準電圧と比較する。温度によって基準電圧が異なる。基準電圧が異なると、基準電圧の大きさにローパス・フィルタ通過後の2値化信号のレベルが達するまでの時間が変化する。信号の出力タイミングの時間差(位相の差)を回路的に調整できる。ローパス・フィルタによって2値化信号の立ち上がりの応答を遅くするのは、基準電圧の変化による電気信号の出力タイミングの時間差(位相の差)の調整範囲を広くするためである。必要な調整範囲が確保できれば良い。
【0044】
図4(d)に示す遅延手段は、ハイパス・フィルタとヒステリシス付きコンパレータ回路(2値化回路)の間に設置するものである。遅延手段は、正弦波信号の振幅の大きさは変更せずに位相を調整するオールパス・フィルタである。オールパス・フィルタは、位相の調整に影響する抵抗素子として、サーミスタを使用する。サーミスタを使用することによって、温度に応じて位相を回路的に調整できる。
【0045】
上記のように、本発明の実施例2では、無端移動部材駆動制御装置を、2つのセンサでベルトのマークを検出して2つのパルス信号を得て、2つのセンサの共通固定部材の温度変化による影響を打ち消すように、パルス信号の一方を遅延させて、位相差初期値と計測位相差に基づいてパルス周期を補正し、補正したパルス周期に基づいて速度制御や位置制御を行う構成としたので、制御精度を高めて画像の色ずれを小さくできる。
【実施例3】
【0046】
本発明の実施例3は、2つのセンサでベルトのマークを検出して2つのパルス信号を得て、2つのセンサの共通固定部材の温度変化による影響を打ち消すように、パルス信号の一方を遅延させて、位相差初期値と計測位相差に基づいてパルス周期を補正し、マーク検出手段の固定部材の周囲温度変化と固定部材の線膨張係数とマーク検出手段の間隔と目標速度から、固定部材の熱膨張による位相差の計測誤差量を計算し、補正されたパルス周期の計測結果を、位相差の計測誤差量を用いてさらに補正し、再補正されたパルス周期の計測結果に基づく制御信号を用いて、速度制御や位置制御を行う無端移動部材駆動制御装置である。
【0047】
実施例3における無端移動部材駆動制御装置の基本的な構成は、実施例1と同じである。ただ、マーク検出手段の構成が、実施例2で説明した温度補償付きのものである点が異なる。
【0048】
実施例2で説明したマーク検出手段は、温度補償付きであるが、必ずしもすべての温度範囲で誤差がゼロとなるわけではない。固定部材の温度特性とサーミスタの温度特性が完全に一致することはまずないので、多少の誤差は残る。そこで、温度補償しても残った誤差を、計算により求めて打ち消すようにする。この部分の基本的な構成は、実施例1と同じである。打ち消すべき誤差が、温度補償で残った誤差である点と、計算方法が異なる。温度補償で残った誤差については、実験などで求めてテーブルデータにしておく。このテーブルと測定温度とに基づいて、パルス周期補正手段11の出力値を再度補正する。
【0049】
本発明の実施例3では、無端移動部材駆動制御装置を上記のように構成したので、制御精度を高めて画像の色ずれを小さくできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の無端移動部材駆動制御装置は、複写機やプリンタやファクシミリ等の画像形成装置の無端ベルト部材やドラム状部材などの無端移動部材を駆動する制御装置として最適である。また、無端移動部材を駆動する制御装置を有するものであれば、画像形成装置以外にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1における無端移動部材駆動制御装置の概念図である。
【図2】本発明の実施例1における無端移動部材駆動制御装置で用いる位置検出手段の概念図である。
【図3】本発明の実施例2における無端移動部材駆動制御装置の概念図である。
【図4】本発明の実施例2における無端移動部材駆動制御装置で用いるマーク検出手段と遅延手段の波形図である。
【図5】従来のタンデムカラー機の構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・ベルト、2・・・駆動手段、3・・・モータ、4・・・駆動ローラ、5・・・マーク、6・・・固定部材、7・・・温度検知手段、8・・・パルス周期計測手段、9・・・位相差計測手段、10・・・初期位相差記憶手段、11・・・パルス周期補正手段、12・・・初期温度記憶手段、13・・・温度変化計測手段、14・・・計測誤差計算手段、15・・・計測誤差補正手段、16・・・速度・位置制御手段、A・・・マーク検出手段、B・・・マーク検出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動方向全体にわたって所定間隔で複数のマークが連続して設けられた無端移動部材と、前記無端移動部材を駆動する駆動手段と、前記マークを検出して第1パルス信号を出力する第1マーク検出手段と、前記第1マーク検出手段から所定間隔だけ離れた前記無端移動部材の移動方向の上流側に設けられて前記マークを検出して第2パルス信号を出力する第2マーク検出手段と、前記第1マーク検出手段と前記第2マーク検出手段を固定する共通の固定部材と、前記第1パルス信号と前記第2パルス信号とに基づいて位相補正を行って第1補正パルス周期値を出力するパルス周期出力手段と、前記第1補正パルス周期値に基づいて前記駆動手段を制御する速度・位置制御手段とを具備する無端移動部材駆動制御装置において、前記固定部材の温度変化による前記各パルス信号間の位相差への影響を打ち消すように温度補償を行う温度補償手段を備えたことを特徴とする無端移動部材駆動制御装置。
【請求項2】
前記パルス周期出力手段は、前記第1パルス信号の周期を計測して第1パルス周期値を出力するパルス周期計測手段と、前記第1パルス信号と前記第2パルス信号の位相差を計測して位相差計測値を出力する位相差計測手段と、前記位相差計測値の初期値を初期位相差として記憶する初期位相差記憶手段と、前記初期位相差と前記位相差計測値とに基づいて、前記第1パルス周期値を補正して第1補正パルス周期値を出力するパルス周期補正手段とを備えることを特徴とする請求項1記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項3】
前記固定部材の周囲温度を測定して温度測定値を出力する温度検知手段と、前記温度測定値の初期値を初期温度として記憶する初期温度記憶手段と、前記初期温度からの温度変化を計測して温度変化値を出力する温度変化計測手段と、前記温度変化値と前記固定部材の線膨張係数と前記所定間隔とに基づいて前記固定部材の熱膨張による誤差を計算して計測誤差量を出力する計測誤差計算手段と、前記測誤差量を用いて前記第1補正パルス周期値をさらに補正して第2補正パルス周期値を出力する計測誤差補正手段とを備え、前記速度・位置制御手段に、前記第2補正パルス周期に基づいて前記駆動手段を制御する手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項4】
前記温度検知手段は、サーミスタを用いた分圧回路と、前記分圧回路の電圧をデジタル信号に変換して測定値を出力するA/Dコンバータと、前記サーミスタの特性値と前記分圧回路の分圧比と前記測定値と温度との関係式があらかじめ設定された記憶手段と、前記測定値と前記関係式とに基づいて温度を算出して温度測定値を出力する演算手段とを備えることを特徴とする請求項3記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項5】
前記各マーク検出手段は、光電センサとハイパス・フィルタと2値化回路とを備え、前記温度補償手段は、前記固定部材の温度変化による前記各パルス信号間の位相差への影響を打ち消すように、前記各マーク検出手段の出力パルス信号のいずれかをサーミスタを含む回路で遅延させる遅延手段であることを特徴とする請求項1記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項6】
前記遅延手段は、抵抗値が温度上昇とともに増加するサーミスタとコンデンサとで構成されるローパス・フィルタと、前記ローパス・フィルタの後段に接続された2値化回路を備えて、前記第2マーク検出手段の次段に接続されていることを特徴とする請求項5記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項7】
前記遅延手段は、抵抗値が温度上昇とともに減少するサーミスタとコンデンサとで構成されるローパス・フィルタと、前記ローパス・フィルタの後段に接続された2値化回路を備えて、前記第1マーク検出手段の次段に接続されていることを特徴とする請求項5記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項8】
前記遅延手段は、抵抗素子とコンデンサで構成されるローパス・フィルタと、前記ローパス・フィルタの後段に接続された2値化回路と、前記2値化回路の基準電圧を生成するためにサーミスタと抵抗素子で構成された分圧回路とを備えることを特徴とする請求項5記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項9】
前記遅延手段は、前記サーミスタで位相を調整するオールパス・フィルタであり、前記ハイパス・フィルタと前記2値化回路の間に設けられていることを特徴とする請求項5記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項10】
前記温度補償手段は、前記遅延手段による温度補償後に残った誤差を計算により打ち消す手段を備えることを特徴とする請求項5記載の無端移動部材駆動制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の無端移動部材駆動制御装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
無端移動部材に設けられたマークを検出して第1パルス信号を出力し、前記無端移動部材の移動方向の上流側で前記マークを検出して第2パルス信号を出力し、前記第1パルス信号と前記第2パルス信号とから補正されたパルス周期値を出力し、マーク検出手段の固定部材の線膨張係数と温度変化に基づいて前記固定部材の熱膨張による誤差を計算して、前記固定部材の温度変化による影響を打ち消すように前記パルス周期値に温度補償を行い、温度補償後のパルス周期値に基づいて前記無端移動部材の駆動を制御することを特徴とする無端移動部材駆動制御方法。
【請求項13】
無端移動部材に設けられたマークを検出して第1パルス信号を出力し、前記無端移動部材の移動方向の上流側で前記マークを検出して第2パルス信号を出力し、マーク検出手段の固定部材の温度変化による影響を打ち消すように前記パルス信号に温度補償を行い、前記第1パルス信号と前記第2パルス信号とから補正されたパルス周期値を生成し、前記パルス周期値に基づいて前記無端移動部材の駆動を制御することを特徴とする無端移動部材駆動制御方法。
【請求項14】
無端移動部材に設けられたマークを検出して第1パルス信号を出力し、前記無端移動部材の移動方向の上流側で前記マークを検出して第2パルス信号を出力し、マーク検出手段の固定部材の温度変化による影響を打ち消すように前記パルス信号に温度補償を行い、前記第1パルス信号と前記第2パルス信号とから補正されたパルス周期値を生成し、前記固定部材の温度変化による影響で残る誤差を打ち消すように前記パルス周期値に再度温度補償を行い、再度の温度補償後のパルス周期値に基づいて前記無端移動部材の駆動を制御することを特徴とする無端移動部材駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−65743(P2008−65743A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245357(P2006−245357)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】