説明

無細胞血液産物をインキュベートすることによって生成される無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス

本発明は、ヒトおよび動物において、損傷、欠損および/または変性した組織の再生に有用な方法および組成物を提供する。本発明は、無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを提供し、これは、無細胞の血液から誘導した産物をマトリックスが形成するのに十分な期間にわたってインキュベートすることによって生成される。そのようなマトリックスを作製する方法およびそのようなマトリックスを損傷、欠損および/または変性した組織の再生のために使用する方法も提供する。特定の実施形態では、本発明の方法および組成物は、損傷、欠損および/または変性した神経組織の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/730,614号(2005年10月26日出願)との同時係属出願であり、この米国出願と一人の共通の発明者を共有し、そしてこの米国出願に対する優先権を主張する。この米国出願の内容は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0002】
(背景)
本発明は、動物組織から誘導した生体吸収性のタンパク質性マトリックスの形成に関する。また、本発明は、組織の増殖および産生/再生を誘発および促進するように機能するこのマトリックスのin vivoにおける使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
血液を除くすべてのその他の体内の組織は、統合的な構造に配置された細胞からなり、この構造には、適切な増殖分化および機能を維持するために細胞外の支持骨格またはマトリックスが必要である。組織工学の分野では、損傷または疾患の間に失われた組織に代替組織を提供するために、細胞の接着、増殖およびパターン形成を可能にする特性を有する人工高分子または天然高分子のいずれかを使用して、複雑な構造を達成する方法を提供することを目指している。理想的な骨格材料は、非免疫原性であり、体内に見出される自然の骨格支持構造を可能な限り厳密に模倣するであろう。これらの特質のうちの1つは、再生または修復された組織がホメオスタシスおよび機能の究極的なレベルに到達できるように骨格が生分解性であることである。先行技術では、細胞の接着および増殖のための支持構造ならびに生物学的に活性な化学薬品、タンパク質およびペプチドの送達を提供することができる生体吸収性の骨格を構築することが知られている。最も広く使用されているのは、多糖類をはじめとする、種々の高分子からなるヒドロゲルである。生分解性多糖類単独からまたは生分解性多糖類をコラーゲン等の天然の細胞外マトリックスタンパク質と組み合わせて生成した生分解性ヒドロゲルが、薬物送達のためのビヒクルとして利用されており(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)、かつ再生組織の構造上の支持を提供している(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15の諸所)。最近、ヒドロゲル骨格を、神経組織の再生に用いる誘導チャネルを提供することができる橋渡し構造として、脊髄損傷(「SCI」)の治療に使用することが報告されている(非特許文献16)。血液またはその他の組織からの細胞外マトリックスまたは骨格の材料の生成が、特許文献1(VacantiおよびVacanti、「Biological Scaffolding Material」、2003年10月17日出願)によって記載されている。この材料は、実質的に細胞、細胞片および細胞残余物からなると記載されている。しかし、この材料は、創傷修復または再生を促進する生物学的機能性を有するとは報告されておらず、生細胞または細胞に類似する特性を有するその他の構造をさらに必要とする(非特許文献17)。これらの研究成果にもかかわらず、細胞の接着、増殖促進特性をさらに有し、創傷部位の周囲の未損傷組織の再生/修復特性を支持または刺激する非免疫原性(または低免疫原性)の骨格材料が依然として求められている。
【特許文献1】米国特許公開第2004/0137613号明細書
【非特許文献1】Cascone,M.Gら、「Bioartificial polymeric materials based on polysaccharides」、J Biomater.Sci.Polym.Ed.、12版、267〜281頁、2001年
【非特許文献2】Jeong,B.ら、「Drug release from biodegradable injectable thermosensitive hydrogel of PEG−PLGA−PEG triblock copolymers」、J Control Release、63巻、155〜163頁、2000年
【非特許文献3】Kopecek,J.、「Smart and genetically engineered biomaterials and drug delivery systems」、Eur.J.Pharm.Sci.、20巻、1〜16頁、2003年
【非特許文献4】Peppas,N.A.ら、「Hydrogels in pharmaceutical formulations」、Eur.J.Pharm.Biopharm.、50巻、27〜46頁、2000年
【非特許文献5】Zhang,Y.およびChu,C.C.、「In vitro release behavior of insulin from biodegradable hybrid hydrogel networks of polysaccharide and synthetic biodegradable polyester」、J.Biomater.Appl.、16巻、305〜325頁、2002年
【非特許文献6】Arevalo−Silva,C.A.ら、「Internal support of tissue−engineered cartilage」、Arch.Otolaryngol.Head Neck Surg.、126巻、1448〜1452頁、2000年
【非特許文献7】Desgrandchamps,F.、「Biomaterials in functional reconstruction」、Curr.Opin.Urol.、10巻、201〜206頁、2000年
【非特許文献8】Kim,T.K.ら、「Experimental model for cartilage tissue engineering to regenerate the zonal organization of articular cartilage」、Osteoarthritis Cartilage、11巻、653〜664頁、2003年
【非特許文献9】Kojima,K.ら、「A composite tissue−engineered trachea using sheep nasal chondrocyte and epithelial cells」、Faseb J.、17巻、823〜828頁、2003年
【非特許文献10】Mailer,J.J.ら、「Soft−tissue augmentation with injectable alginate and syngeneic fibroblasts」、Plast.Reconstr.Surg.、105巻、2049〜2058頁、2000年
【非特許文献11】Saim,A.B.ら、「Engineering autogenous cartilage in the shape of a helix using an injectable hydrogel scaffold」、Laryngoscope、110巻、1694〜1697頁、2000年
【非特許文献12】Thompson,C.A.ら、「Percutaneous transvenous cellular cardiomyoplasty:A novel nonsurgical approach for myocardial cell transplantation」、J.Am.Coll.Cardiol.、41巻、1964〜1971頁、2003年
【非特許文献13】Wake,M.C.ら、「Dynamics of fibrovascular tissue ingrowth in hydrogel foams」、Cell Transplant.、4巻、275〜279頁、1995年
【非特許文献14】Weng,Y.ら、「Tissue−engineered composites of bone and cartilage for mandible condylar reconstruction」、J.Oral Maxillofac.Surg.、59巻、185〜190頁、2001年
【非特許文献15】Zimmermann,U.ら、「Hydrogel−based non−autologous cell and tissue therapy」、Biotechniques、29巻、564〜572頁、574頁、576頁、2000年
【非特許文献16】Tsai,E.C.ら、「Synthetic hydrogel guidance channels facilitate regeneration of adult rat brainstem motor axons after complete spinal cord transection」、J.Neurotrauma.、21巻、789〜804頁、2004年
【非特許文献17】Vacanti,M.P.ら、「Identification and initial characterization of spore−like cells in adult mammals」、J.Cell Biochem.、80巻、455〜460頁、2001年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
特定の実施形態では、本発明は、生物学的な再生特性を有する生体吸収性の構造(以下、「再生マトリックス」と呼ぶ)を生成するための方法を提供する。そのような再生マトリックスを、これらに限定されないが、血液、肝臓、腎臓、筋肉、心臓、膵臓、嗅粘膜、骨髄、脳脊髄液、リンパ液およびそれらの組合せをはじめとする、いずれかの動物組織から生成することができる。特定の実施形態では、再生マトリックスを、血餅または抗凝血薬を用いて採取した血液のいずれかを処理することによって生成する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、細胞を最初に除去した組織試料から生成する。再生マトリックスを対象自体の組織から誘導することができ、したがって、自家移植への適用が可能となる。または、再生マトリックスの組織型を一致させることができ、同種異系間の適用が可能となる。特定の実施形態では、再生マトリックスを異種の組織から誘導する。異種間の適用は、研究の設定においては有用性を有するが、通常、ヒトまたは動物に適用する治療形態にはならない。特定の実施形態では、再生マトリックスを血液、例えば、対象自体の血液から生成する。
【0005】
本発明の特定の方法によって生成した再生マトリックスは、組織の損傷、欠損および/または変性した部位において、組織の再生を開始し、増加させ、支持し、かつ/または導くことができるという点で治療特性を有し、それによって、周囲の組織が正常な、機能性の組織に再生する。特定の実施形態では、本発明は、再生マトリックスを対象に投与する方法を提供し、再生マトリックスが、組織の再生を開始し、かつ/または増加させる。特定の実施形態では、本発明によって再生される損傷した組織として、これらに限定されないが、神経組織、筋肉組織、肝臓組織、心臓組織、肺組織および/または皮膚組織があげられる。例えば、特定の実施形態では、血液および/または血餅の天然の再生成分を生かし、それらを再生マトリックスに操作するための方法を提供し、この再生マトリックスを創傷部位に適切な時期に送達して、非機能性の瘢痕形成が生じるのを最小化する一方で、再生応答を最大化することができる。
【0006】
特定の実施形態では、再生マトリックスは、神経組織の損傷、欠損および/または変性に至る状態を治療するのに有用である神経再生特性を有する。特定の実施形態では、再生される神経組織は、中枢神経系(「CNS」)からの神経組織を含む。特定の実施形態では、例えば、脊髄損傷、脊髄癌、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中および/または多発性硬化症等の疾患および/または損傷の結果として、CNS組織が欠損する。これらに限定されないが、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子および/または増殖因子をはじめとする、1種以上の治療用作用物質の添加によって、再生マトリックスの再生活性を増強または補足することができる。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の治療効果が増加する。
【0007】
特定の実施形態では、本発明は、組織再生特性を有する生体吸収性の構造を含む再生マトリックスを提供する。特定の実施形態では、そのような再生マトリックスは、1種以上のタンパク質を含む。例えば、そのような再生マトリックスは、トランスフェリン、血清アルブミン、血清アルブミン前駆体、補体成分3、A〜D鎖ヘモグロビン、IgM、IgG1、メダラシン阻害剤2、炭酸脱水酵素および/またはCA1タンパク質のうちの1種以上を含むことができる。特定の実施形態では、再生マトリックスは、実質的な代謝活性を欠く。
【0008】
特定の実施形態では、これらに限定されないが、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子および増殖因子をはじめとする、1種以上の治療用作用物質を用いて、本発明の再生マトリックスを補足する。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の治療効果が増加する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、これらに限定されないが、幹細胞、前駆細胞、神経細胞および/またはグリア細胞をはじめとする、細胞と共に播種してもよいし、細胞と混合してもよい。
【0009】
特定の実施形態では、本発明は、対象において機能性の組織の再生を適用部位で誘発するための生体吸収性の組織再生マトリックスを提供する。特定の実施形態では、再生マトリックスは、組織の自己再生を適用部位で促進する。特定の実施形態では、再生マトリックスは、周囲の組織の生物学的活性を増加させる。特定の実施形態では、再生マトリックスは、固体または半固体の形態である。例えば、再生マトリックスは、三次元マトリックスの形態であることができる。特定の実施形態では、再生マトリックスは、懸濁液の形態であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(特定の実施形態の詳細な説明)
定義
「無細胞試料」:本明細書で使用する場合、「無細胞試料」という用語は、単離した組織試料から細胞を除去することによって得た生体試料を指す。特定の実施形態では、無細胞試料を使用して、無細胞の生体吸収性の組織再生マトリックスを得る。無細胞試料は、多様な組織試料の型のうちのいずれかから得ることができる。例えば、無細胞試料を、4種の基本的な動物の組織型(筋肉組織、結合組織、上皮組織および神経組織)のうちのいずれか、3種の基本的な植物の組織型(基本組織、表皮組織および維管束組織)のうちのいずれか、多様なその他の特異的な組織型(例えば、血液または肝臓組織)のうちのいずれか、および/またはこれらもしくはその他の組織型のいずれかの組合せから得ることができる。特定の実施形態では、無細胞試料を、胎盤組織から、臍帯組織から、ならびに/あるいは心血管、消化器、内分泌、排泄、免疫、外被、リンパ、筋肉、神経、生殖、呼吸および/または骨格の器官系のうちの1種以上の組織から得る。当業者であれば、無細胞試料を得ることができるその他の組織型が分かるであろう。特定の実施形態では、無細胞試料を、2種以上の異なる組織型を含む組織試料から得る。特定の実施形態では、無細胞試料を、組織試料を、フィルターを通過させることによって得、そのようなフィルターを通過させて細胞を排除するのに十分に小さいろ過直径をこのフィルターは有する。特定の実施形態では、無細胞試料を、組織試料を遠心分離し、上清を使用することによって得る。当業者であれば、組織試料から細胞を除去するために有用なその他の方法が分かるであろう。無細胞試料を組織試料から得る場合、細胞の一部または全部が溶解する場合があると理解されている。特定の実施形態では、無細胞試料は、そのような溶解した細胞からの1種以上の成分を含む。特定の実施形態では、無細胞試料は、実質的な代謝活性を示さない(下記の「実質的な代謝活性」の定義を参照)。
【0011】
「生体吸収性」:本明細書で使用する場合、「生体吸収性」という用語は、生物学的環境において、限定された期間存在するという特徴を指す。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックス、および/または本発明の1つ以上の方法によって生成した再生マトリックスは、生体吸収性である。生体吸収性の再生マトリックスに照らして「生体吸収性」であるという場合には、再生マトリックスを生物学的環境において留置した後、所与の時点で観察した場合、再生マトリックスが初期の形態で存在するとはもはや認められないことを意味する。特定の実施形態では、生物学的環境において留置した場合、生体吸収性の再生マトリックスは、数日、数週間または数カ月の間存在することができる。例えば、生物学的環境において留置した場合、生体吸収性の再生マトリックスは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170または180日以上の間存在することができる。生体吸収性の再生マトリックスは、多様な機構のうちのいずれかによって生体への吸収が可能である。特定の実施形態では、生体吸収性の再生マトリックスは、細胞の活性の作用を介して生体への吸収が可能である。例えば、生体吸収性の再生マトリックスは、生体吸収性の再生マトリックスを解体するマクロファージの作用を介して生体に吸収される。特定の実施形態では、生体吸収性の再生マトリックスは、機械的、化学的、代謝的および/または酵素的な分解を介して解体された後に生体に吸収される。再生マトリックスの解体産物の身体による吸収および/または身体からの排泄が可能である限り、生体吸収性の正確な機構は重要でないことが当業者には理解されるであろう。
【0012】
「インキュベートする」:本明細書で使用する場合、再生マトリックスを生成する場面における「インキュベートする」という用語は、再生マトリックスが所与の時間をかけて形をなすことを可能にする工程を指す。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料をインキュベーションチャンバー内でインキュベートすることによって生成する(下記の「インキュベーションチャンバー」の定義を参照)。特定の実施形態では、無細胞試料を、インキュベートする間、処理媒体中に懸濁化および/または可溶化する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を多様な温度のうちのいずれかにおいてインキュベートすることによって生成するが、ただし、無細胞試料が液体の状態に留まる場合に限られる。例えば、そのようなインキュベーションを、−2、−1、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41または42℃以上の温度において行うことができるが、ただし、無細胞試料がこれらの温度で液体の状態に留まる場合に限られる。特定の実施形態では、インキュベートする期間中、温度を上昇および/または低下させることができ、したがって、インキュベーションが所与の範囲の温度にわたって生じる。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を多様な気圧のうちのいずれかにおいてインキュベートすることによって生成する。例えば、無細胞試料を、標準気圧(「ATM」)、またはATM未満もしくはATM超のいずれかの圧力においてインキュベートすることができる。特定の実施形態では、無細胞試料をインキュベートする間に、気圧を変化させる。例えば、インキュベートする間に、気圧を上昇および/または低下させることができる。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を多様な周囲の酸素濃度のうちのいずれかにおいてインキュベートすることによって生成する。特定の実施形態では、周囲の酸素濃度は、標準気圧での酸素濃度よりも低い。例えば、インキュベートする間の周囲の酸素濃度は、約21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%以下であることができる。特定の実施形態では、インキュベートする間の周囲の酸素濃度は、ほぼまたはまさしく0%である。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を多様な周囲湿度のうちのいずれかにおいてインキュベートすることによって生成する。特定の実施形態では、インキュベートする間、周囲湿度を低く保ち、その結果、無細胞試料中の液体の蒸発が増加する。特定の実施形態では、新たな溶質を含有する液体(これらに限定されないが、例えば、「処理媒体」または「生理的溶液」があげられる。下記の定義を参照)を、蒸発が生じている無細胞試料に連続的または定期的に添加する。そのような実施形態では、無細胞試料の浸透圧モル濃度が、蒸発および新たな溶質を含有する液体の添加の結果として、時間の経過と共に増加することが理解されるであろう。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を多様な有効重力場強度のうちのいずれかにおいてインキュベートすることによって生成する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を(例えば、海水面および/または海水面上の1つ以上の別々の海抜での)地球の重力の重力場強度にほぼ等しい有効重力場強度においてインキュベートすることによって生成する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を海水面での地球の重力の重力場強度より高い有効重力場強度においてインキュベートすることによって生成する。例えば、地球の重力の重力場強度より高い有効重力場強度を、海水面下または遠心機中でインキュベートすることによって得ることができるが、ただし、そのような方法が何らかの振盪を生じない場合に限られる。特定の実施形態では、再生マトリックスを、無細胞試料を海水面での地球の重力の重力場強度より低い有効重力場強度においてインキュベートすることによって生成する。例えば、地球の重力の重力場強度より低い有効重力場強度を、高い海抜または宇宙でインキュベートすることによって得ることができる。
【0013】
「インキュベーションチャンバー」:本明細書で使用する場合、「インキュベーションチャンバー」という用語は、再生マトリックスの形成の間に、無細胞試料をインキュベートする(上記の「インキュベートする」の定義を参照)ために使用することができる多様な容器のうちのいずれかを指す。特定の実施形態では、インキュベーションチャンバーは、フラスコ、培養皿、ビーカーおよびその他等の標準的な実験用容器を含む。当業者であれば、その他の適切で有用な標準的な実験用容器が分かるであろう。特定の実施形態では、インキュベーションチャンバーは、密閉容器または半密閉容器を含む。特定の実施形態では、インキュベーションチャンバーは、1種以上の物質に対して透過性または半透過性である密閉容器または半密閉容器である。例えば、特定の実施形態では、インキュベーションチャンバーは、空気および/またはガス状の分子に対して透過性である容器を含む。特定の実施形態では、インキュベーションチャンバーは、Opticell(登録商標)カセット(BioCrystal Ltd.製、Westerville、オハイオ州)を含む。特定の実施形態では、密閉または半密閉のインキュベーションチャンバーは、材料を、インキュベートする工程を開始してから容器に添加および/または容器から除去することができるように設計されている。例えば、空気および/またはガス状の分子に対して透過性または半透過性であるインキュベーションチャンバーを、液体および/または固体の材料を、インキュベーションの間および/または後に1つ以上の時点でチャンバーに添加および/またはチャンバーから除去することができるように設計することができる。特定の実施形態では、密閉または半密閉のインキュベーションチャンバーは、材料を、インキュベーションチャンバーを貫通することができる針またはその他の用具の使用によって添加および/または除去することができるように設計されている。特定の実施形態では、針またはその他の用具を用いて貫通した密閉または半密閉のインキュベーションチャンバーが、それ自体で「再度密閉」し(かつ/または再度密閉することができ)、その結果、インキュベーションチャンバーの密閉または半密閉の状態が維持されることが望ましい。
【0014】
「マトリックス」:本明細書で使用する場合、「マトリックス」という用語は、これらに限定されないが、固体または半固体の構造をはじめとする、いずれかの物理的構造、および/あるいは懸濁液を指す。特定の実施形態では、本発明は、再生性の特徴を有するマトリックスを提供する(下記の「再生性の」の定義を参照)。そのような再生性のマトリックスを、本明細書では、「再生マトリックス」と呼ぶ。
【0015】
「処理媒体」:本明細書で使用する場合、「処理媒体」という用語は、再生マトリックスを得る工程の間に、組織試料、無細胞試料またはそれらの両方に添加することができる液状の溶液を指す。特定の実施形態では、処理媒体は、生理的溶液(下記の「生理的溶液」の定義を参照)を含む。特定の実施形態では、処理媒体は、最少塩溶液を含む。例えば、処理媒体は、PBSであることができる。当業者であれば、本発明によって使用することができるその他の最少塩溶液が分かるであろう。さらに、当業者であれば、これらに限定されないが、pH、浸透圧モル濃度、緩衝能、1種以上の特定のイオンの濃度および/または多様なその他の溶液特性のうちのいずれかをはじめとする、1つ以上の望ましい溶液特性を達成するために最少塩溶液を改変するために有用な組成物および方法が分かるであろう。特定の実施形態では、処理媒体は、1種以上の治療用作用物質(下記の「治療用作用物質」の定義を参照)を含む。特定の実施形態では、処理媒体を組織試料に単離の前、間および/または後に添加する。特定の実施形態では、処理媒体を無細胞試料に細胞の除去の前、間および/または後に添加する。特定の実施形態では、処理媒体を無細胞試料にインキュベートする工程の間に添加する。特定の実施形態では、処理媒体をインキュベートする工程の間に複数の時点で添加する。特定の実施形態では、再生マトリックス生成工程の間に添加する処理媒体の1つ以上の成分が、生成した再生マトリックスの一部となる。
【0016】
「生理的溶液」:本明細書で使用する場合、「生理的溶液」という用語は、1つ以上の生理的条件に類似するまたはそれらと同一である溶液、あるいは特定の生理的環境の生理的状態を変化させることができる溶液を指す。また、本明細書で使用する「生理的溶液」は、(これらに限定されないが、哺乳動物、脊椎動物および/またはその他の細胞をはじめとする)細胞の増殖を支持することができる溶液も指す。特定の実施形態では、生理的溶液は、規定された培地を含み、この場合、媒体成分のそれぞれの濃度が分かっている、かつ/または制御されている。典型的には、規定された培地は、これらに限定されないが、塩、アミノ酸、ビタミン、脂質、微量元素、および炭水化物等のエネルギー源をはじめとする、細胞の増殖を支持するのに必要な栄養素をすべて含有する。規定された培地の非限定的な例として、DMEM、イーグル基本培地(BME)、199培地;F−12(Ham)Nutrient Mixture;F−10(Ham)Nutrient Mixture;基礎培地(MEM)、ウイリアムスE培地、およびRPMI 1640があげられる。当業者であれば、本発明によって使用することができるその他の規定された培地が分かるであろう。特定の実施形態では、生理的溶液は、1種以上の規定された培地の混合物を含む。特定の実施形態では、生理的溶液は、複合媒体であり、この場合、媒体成分のうちの少なくとも1つが、分かっておらず、かつ制御されていない。生理的溶液は、本発明の方法によって再生マトリックスを生成するのに有用であるが、この詳細な説明の全体から明らかになるであろうが、再生マトリックスを生成するためにインキュベートする無細胞試料は、細胞を含有しない(上記の「無細胞試料」の定義を参照)。したがって、そのような場合の処理媒体は、細胞の増殖を支持することができるとしても、細胞の増殖が再生マトリックス生成の必要な構成要素ではないと理解されている。しかし、特定の実施形態では、細胞を再生マトリックス形成工程の間に1つ以上の特定の時点でインキュベーションチャンバーに添加することができる。これらの場合には、生理的溶液が、それ自体でまたは再生マトリックス溶液と組み合わさって、インキュベーションチャンバーに添加した細胞の生存能力を支持することができると理解されている。
【0017】
「再生」、「再生する」、「再生性の」:本明細書で使用する場合、これらの用語は、弱った、損傷した、欠損した、および/または変性した組織の増殖、再増殖、修復、機能性、パターン形成、結合性、強化、活力および/または創傷治癒の自然の過程を開始し、増加させ、調節し、促進し、支持し、かつ/または導く、いずれかの過程または性質を指す。また、これらの用語は、弱った、疲労した、および/または正常な組織の増殖、強化、機能性、活力、強靭性、効力および/または健康を開始し、増加させ、促進し、支持し、かつ/または導く、いずれかの過程または性質も指す。特定の実施形態では、本発明は、損傷した、欠損した、および/または変性した組織の再生に有用な組成物および方法を提供する。例えば、本発明の方法および組成物を利用して、損傷した、欠損した、および/または変性した組織の再生を開始し、増加させ、調節し、支持し、促進し、かつ/または導くことができる。特定の実施形態では、本発明は、1つ以上の再生特性または再生活性を示す再生マトリックス(上記の「再生マトリックス」の定義を参照)を提供する。特定の実施形態では、再生は、以下の過程のうちの1つ以上の開始、増加、調節、促進、支持および/または導きを含む:自然な創傷治癒、組織の成長、組織の機能性、パターン形成、結合性、血管新生、増殖および/または前駆細胞の活性化、細胞の成長および/または増殖、細胞の特殊分化および/または伸長、細胞の脱分化および/または分化、再生に関連する細胞遺伝子の上方制御、ならびに/あるいは瘢痕形成の抑制。しかし、再生は、これらの過程、性質および活性に限定されるわけではなく、当業者であれば、当技術分野において、「再生」、「再生する」または「再生性の」と見なされるその他の過程、性質または活性が分かるであろう。
【0018】
「実質的な代謝活性」:本明細書で使用する場合、「実質的な代謝活性」という用語は、未変化の細胞がin vitroまたはin vivoにおいて典型的に示す代謝活性を指す。特定の実施形態では、無細胞試料および/または本発明の再生マトリックスは、細胞を欠き、したがって、実質的な代謝活性を示さない。多様な手法が当業者に知られており、それによって、代謝活性を検出および/または測定することができる。例えば、未変化の細胞は、巨大分子(例えば、糖、アミノ酸、脂質およびその他)の好気的および/または嫌気的な解体によって、顕著な量のATPを産生する。したがって、典型的には、ATPの顕著なレベルの産生は、試料中に未変化の細胞が存在することを指し示す。未変化の細胞の存在を指し示す特定の現象が無細胞試料中に検出される場合があることを当業者であれば理解するであろう。しかし、細胞を指し示すそのような現象は、典型的には、細胞の存在の結果として生じるそのような現象のレベルまたは規模と比較して、より低いまたは減少したレベルまたは規模で観察される。したがって、例えば、無細胞試料および/または再生マトリックスが、低いレベルのATPの産生を示す場合があり、このレベルは、無細胞試料および/または再生マトリックス中に未変化の細胞が存在した場合に産生されるであろうレベルより十分に低い。
【0019】
「治療用作用物質」:本明細書で使用する場合、「治療用作用物質」という用語は、本発明の方法および/または再生マトリックスと共に使用した場合に、1つ以上の有利な治療効果を示す多様な物質のうちのいずれかを指す。考案の再生マトリックスおよび方法と共に使用することができる治療用作用物質の例として、これらに限定されないが、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子および/または増殖因子があげられる。当業者であれば、本発明によって使用することができる適切および/好都合なその他の治療用作用物質が分かるであろう。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の大きさが増加する。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の活性が延長される。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果が時間をかけて放出される。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果が時間の経過に伴う実質的な減少から保護される。特定の実施形態では、2種以上の治療用作用物質を再生マトリックス中に投与する。
【0020】
「組織試料」:本明細書で使用する場合、「組織試料」という用語は、細胞および/または細胞外材料を含む生体試料を指す。例えば、組織試料は、4種の基本的な動物の組織型(筋肉組織、結合組織、上皮組織および神経組織)のうちのいずれか、3種の基本的な植物の組織型(基本組織、表皮組織および維管束組織)のうちのいずれか、多様なその他の特異的な組織型(例えば、血液または肝臓組織)のうちのいずれか、および/またはこれらもしくはその他の組織型のいずれかの組合せを含むことができる。特定の実施形態では、組織試料は、胎盤組織から、臍帯組織から、ならびに/あるいは心血管、消化器、内分泌、排泄、免疫、外被、リンパ、筋肉、神経、生殖、呼吸および/または骨格の器官系のうちの1種以上の組織からの組織を含む。当業者であれば、本発明によって使用することができるその他の組織型が分かるであろう。特定の実施形態では、組織試料は、2種以上の異なる組織型を含む。組織試料を、多様な生物体のいずれかから単離することができる。非限定的な例として、組織試料を、ヒト、ブタ、ラット、サンショウウオ、ウシ、イヌ、ネコ、マウスおよび/またはウサギから単離することができる。当業者であれば、組織試料を単離することができるその他の適切な生物体が分かるであろう。特定の実施形態では、組織試料を、再生マトリックスを生成するための出発材料として使用する。特定の実施形態では、再生マトリックスを生成するために使用する組織試料を、再生マトリックスを使用しようとする生物体の種類から単離する。例えば、ヒトにおいて使用しようとする再生マトリックスを、ヒトから単離した出発組織試料から生成することができる。特定の実施形態では、再生マトリックスを生成するために使用する組織試料を、再生マトリックスを使用しようとする個々の生物体から単離する。例えば、個人において使用しようとする再生マトリックスを、その個人から単離した出発組織試料から生成することができる。特定の実施形態では、再生マトリックスを、再生マトリックスを使用しようとする個人の血液から生成する。
【0021】
概要
特定の実施形態では、本発明は、組織の損傷の部位において、組織の再生を開始し、増加させ、支持し、かつ/または導くことができる再生マトリックスを提供する。例えば、本発明による再生マトリックスを使用して、神経組織、筋肉組織、肝臓組織、心臓組織、肺組織および/または皮膚組織を再生することができる。
【0022】
再生マトリックスが、損傷、および/またはこれらに限定されないが、中枢神経系(CNS)の組織をはじめとする、変性した組織を修復する能力は、創傷治癒および組織の発生の科学に基づく。創傷治癒の過程は、十分には解明されていないが、本発明は、再生マトリックスが損傷および/または変性した組織の再生を開始し、増加させ、支持し、かつ/または導くことができるという知見を包含する。
【0023】
本発明の再生マトリックスの1つの利点は、組織の再生を増強しない特定の創傷治癒の過程を抑制することができる一方で、患者が組織を再生することを可能にするその他の過程を増強することである。身体がそれ自体を迅速に修復できるという点は、注目に値する。しかし、創傷治癒の過程の特定の面は、サンショウウオ等の下等動物種に見出される元々の再生機能性を可能にしない。創傷治癒および組織の発生の過程の望ましくない特色を抑制し、望ましい特色を増強または再現することによって、再生マトリックスは、優れた結果を達成することができる。サンショウウオ等の下等動物種とは異なり、ヒトにおける創傷治癒の自然な過程は、瘢痕組織をもたらして損傷部位をそれ以外の身体から単離することによって、損傷から最も迅速に回復するようにプログラムされており、これは、脊髄またはその他のCNSの損傷の場合には、その他の、平行する創傷治癒の過程の効果が限定されていること、またはそのような効果を欠くことにより、機能の回復を欠くことになる。中枢神経系のその他の部分および身体のその他の組織の損傷および変性についても、同じことがいえる。
【0024】
特定の実施形態では、本発明の方法および/または再生マトリックスは、損傷、欠損および/または変性した神経組織、例えば、中枢神経系組織の治療に有用である。歴史的に、脊髄の損傷をはじめとする、中枢神経系の損傷に関しては、顕著な進歩が見られず、利用可能な治療法がない状態である。組織、特に、中枢神経系組織を再生させる治療法を欠く主たる理由は、これらの組織が命にかかわり、高度に複雑であるという性質による。
【0025】
本発明は、高度に複雑な生物学的および構造的本質を有する脊髄を、SCI患者において、この複雑な生物学的および構造的本質の修復を促進し、かつ脊髄の正しいパターン形成および再結合性を促進する、関連のある活性を有する産物を用いて修復できるという知見を包含する。中枢神経系のその他の領域についても、同じことがいえる。本発明の再生マトリックスを、これらおよびその他の好都合な特徴を有するように設計する。さらに、追加の機能性を、本発明の再生マトリックスに、比較的単純で直接的な様式で加えることもできる。今日まで、SCI患者における脊髄等、中枢神経系の複雑な機能性の修復を目指して、すべてを包括するアプローチを用いて開発された、CNSの損傷およびSCI患者を治療するために形成されたものは他には存在しない。
【0026】
創傷治癒
創傷治癒の過程においては、いくつかの型の細胞が、創傷治癒の過程の異なる段階で関与し、それぞれが、損傷した組織を再生し、その機能性を修復するのに独自に寄与する。一般に、第一線の細胞は、血流から生じ、これには、マクロファージが含まれる。マクロファージの仕事は、損傷部位を浄化して、新たな細胞の増殖の余地を生み出すこと、および創傷治癒の過程の次の段階で必要になる細胞を活性化する増殖因子を放出することである。マクロファージ単独では、脊髄再生に及ぼす効果は比較的小さいが、その効果はまったくないよりはわずかでもあった方がよい。しかし、その他の作用機構と組み合わさると、活性化マクロファージは、再生過程に対してより顕著な効果を及ぼす。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスによって、多数の活性化マクロファージの脊髄損傷部位に進入する速度が、移植後数日以内に増加するのを観察しており、したがって、何らかの活性化マクロファージを組織の損傷部位に注入する必要がない。しかし、考案の再生マトリックスがマクロファージの組織の損傷部位への侵入を促進しても、それでもやはり、本発明の再生マトリックスと共に、またはそれに加えて、マクロファージを損傷部位に、またはその付近に投与する場合があることを、当業者であれば理解するであろう。
【0027】
創傷治癒の自然の過程の次のステップは、新しい血管の動員であり、外傷性の損傷の場合には、外傷性の損傷部位を囲い込む瘢痕を生み出す線維芽細胞の動員であり、それによって、損傷がゆっくりと修復される間、周囲の未損傷の組織が引き続き機能し、かつ損傷した組織の欠損した機能性を代償することができる。活性化マクロファージが放出する増殖因子が、これらの新しい血管および線維芽細胞の動員を促進する。残念なことに、中枢神経系は、血液脳関門に囲い込まれており、これによって、マクロファージの侵入および新しい血管の動員の促進が制限されている。血液脳関門の周囲の抑制因子が、特に、CNSの損傷または変性の場合には、新しい血管のCNSの損傷部位への進入を制限し、その結果、線維芽細胞およびグリア細胞によって瘢痕が形成されるが、新しい血管が同時に形成されることはない。形成された瘢痕は、非常に分厚くかつ貫通できないようになり、新しい血管を欠くことは、損傷部位を復元できないことを意味する。最終的な結果として、病変(分厚い貫通できない瘢痕に囲み込まれた中が空洞の構造)が形成され、長期(慢性)のCNSの損傷、脊髄損傷の場合には、慢性の麻痺に至る。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスは、瘢痕形成のペースを落とし、それを抑制する一方で、新しい血管の形成を同時に促進する創傷治癒特性を有する。血管を欠くと病変(いずれの細胞も存在しない、体液で満たされた空洞)を生じることになるので、新しい血管がこれらの病変および/または病変がまさに形成されようとしている領域の中および周囲に形成されることは好都合である。理論に縛られる意図はないが、本発明の再生マトリックスが、独自の経路、すなわち、新しい血管を自然に形成させるフォン−ヴィレブランド因子陽性内皮様細胞に活性化マクロファージを分化形質転換(形質転換)させることによって、新しい血管を生み出すことができると仮定されている(図1A、1Bおよび1Cを参照)。したがって、この仮説によれば、そのような再生マトリックスによってCNSの損傷部位に引きつけられた活性化マクロファージが、損傷部位を浄化する仕事を終え、増殖因子を放出した後に、それらのマクロファージは、新しい血管を形成する新たな、特殊分化した型の細胞に形質転換される。最終結果として、栄養素および酸素を新しい細胞および新しいCNS組織に提供する新たな血管網が広がる。CNS損傷の動物モデルでは、移植した再生マトリックスが、移植の1週間以内にすでに新たな血管網(この血管網は、腫瘍において見られる血管の増殖の型には類似しないが、その代わり、胚の発達において存在する大規模な血管網の型に類似する)を生み出し始め、何らかの抑制的な瘢痕が存在するにしてもそれは限られていることが見出されている(例えば、図2A、2B、2Cおよび2Dを参照)。
【0028】
新たな血管網の形成後、典型的には、創傷治癒の過程の次のステップでは、周囲の細胞が損傷部位へ移動することになる。新たに形成された血管が提供する栄養素および酸素を新鮮に補給するために、これらの細胞が損傷部位へ移動する。残念なことに、神経組織の損傷の場合には、神経細胞は、分化(成体細胞に形質転換)してしまうと移動および/または分裂(増殖)しない、体内では唯一の長期の細胞であり−仮に、移動するようなことがあると、これらの細胞が移動または分裂する度に、これらの細胞に固有の記憶が失われることになるであろう。要するに、特定の神経細胞が関与するそれらの記憶(体細胞系または自律神経系のいずれにしても)を「忘れる」ことになるであろう。しかし、当業者に知られているように、神経細胞は、軸索および樹状突起の形成および/または伸長を介して、新たに追加して記憶または結合を形成することができる。特定の実施形態では、再生マトリックスが、損傷部位の周囲の神経細胞におけるそのような新たな結合の形成ならびに正しいパターン形成および結合性をもたらす1つ以上の遺伝子の発現を促進して、発現が数倍増加する(例えば、図18〜19を参照)。特定の実施形態では、再生マトリックスが、神経細胞を損傷部位内に伸長させ、例えば、GAP−43およびNetrinファミリーの遺伝子が制御する結合等、有効で理にかなった新しい結合をそれらの細胞に作らせる。これらの遺伝子は、再生マトリックスによって上方制御される。そのような新しい結合を利用して、訓練および/または教育によって活用することができる新たなCNSの機能性を得ることが可能であり、これは、新たなCNS組織の好都合な機能性となる。特定の実施形態では、そのような新たな機能性を、短期間、例えば、約2カ月というに時間の枠内で達成する。非限定的な1つの例として、脊髄損傷の場合には、これに続いて、動作が可能になるように筋肉を協調させて動かすように神経を訓練/教育する必要があるであろう。別の非限定的な例として、脳のブローカ領域(言語中枢)の場合には、これに続いて、理路整然として言語を生み出すように神経を訓練/教育する必要があるであろう。
【0029】
特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスは、新たなCNS組織の形成を、三相性の神経前駆細胞の増殖を動員し、増加させることによってさらに増強する。三相性の神経前駆細胞は、独特で高度に可動性の若い細胞の型であり、これは、神経科学者によれば新たなCNS組織の自発的な増殖の原因に関係するとされている。新たなCNS組織の自発的な増殖は、特に、脳において、ヒトでのいくつかの症例で観察され、その場合、ヒトの損傷したCNS組織が、それ自体で、少なくとも部分的に修復された。三相性の神経前駆細胞を、in vitroにおいて(皿中で)研究することは困難である。これは、三相性の神経前駆細胞は、その性質からして、その環境が神経細胞またはグリア細胞(神経支持細胞:アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)のうちの1種を欠いていることを認識すると直ぐに、これらの細胞に分化(形質転換)してしまうからである(三相性の神経前駆細胞は、その環境が欠いている細胞の型に変化するようである)。しかし、本発明は、再生マトリックスの存在下では、三相性の神経前駆細胞が、再生マトリックスが除去または(例えば、体内で)生分解されるまで、増殖し続け、再生マトリックスが除去または生分解された時点で、三相性の神経前駆細胞は、形質転換し、広範な神経網を生み出すという知見を包含する。理論に縛られる意図はないが、1つの仮説として、新たなCNS組織を生じる過程の最後のステップとして、三相性の神経前駆細胞が、欠失した部分を部分的に満たすといわれている。この欠失した部分は、その他の周囲の神経細胞およびグリア細胞が、再生マトリックスの再生過程のそれらの相の間では満たさなかった部分であり、そこには、新たなCNS組織が生み出されることになる。正確な機構にかかわらず、最終結果として、考案の再生マトリックスによって刺激されて増殖する三相性の神経前駆細胞が、新たな神経組織を産生する。
【0030】
創傷治癒の分野のその他のアプローチに関しては、従来の製品およびアプローチからは、いずれも、実験動物において未処置の対照動物と比較して若干からかろうじてまでの程度に有意な改善を得ている。さらに、今日までの臨床治験では、これら単独アプローチの製品によっては、プラセボを上回る何らかの有意な改善は実証されていない。その上、いくつかの症例では、ヒトへの移植における有害な免疫応答に関する技術的な問題が克服できていない。その他の困難として、製品が脳脊髄液(これは、典型的には、ヒトの場合120mmHOの圧力では約5mm/分の速度で動く)によって洗い流されること、および/または移植の間に顕著な追加の損傷を起こすことなく、製品をヒト患者に送達できないことがあげられる。本発明の再生マトリックスは、これらおよびその他の困難を克服する。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスよって、実験動物において未処置の対照動物と比較して顕著な改善が得られ、毒物学的な効果は認められない。さらに、本発明の再生マトリックスは、長期の免疫学的問題なしに、ヒト患者に送達することができる形態で容易に入手することが可能である。
【0031】
再生マトリックスの生成
本発明は、再生マトリックスを多様な方法のうちのいずれかによって生成することができるという知見を包含する。特定の実施形態では、異なる生成方法から、異なる物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性を示す再生マトリックスを得る。さらに、特定の実施形態では、本発明の方法によって生成した再生マトリックスの物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性を、生成工程の間に1つ以上の外因性の因子を提供することによって変化させる。
【0032】
特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスを、無細胞試料を所与の期間インキュベートすることによって生成する。特定の実施形態では、無細胞試料を、組織試料から単離する。無細胞試料を、4種の基本的な組織型(筋肉組織、結合組織、上皮組織および神経組織)のうちのいずれかから、多様なその他の基本的でない組織型のうちのいずれかから、またはこれらもしくはその他の組織型のいずれかの組合せから得ることができる。特定の実施形態では、無細胞試料を、4種の基本的な動物の組織型(筋肉組織、結合組織、上皮組織および神経組織)のうちのいずれか、3種の基本的な植物の組織型(基本組織、表皮組織および維管束組織)のうちのいずれか、多様なその他の特異的な組織型(例えば、血液または肝臓組織)のうちのいずれか、および/またはこれらもしくはその他の組織型のいずれかの組合せから得ることができる。特定の実施形態では、無細胞試料を、胎盤組織から、臍帯組織から、ならびに/あるいは心血管、消化器、内分泌、排泄、免疫、外被、リンパ、筋肉、神経、生殖、呼吸および/または骨格の器官系のうちの1種以上の組織から得る。
【0033】
再生マトリックスを、動物界内のいずれかの動物、および/または植物界内のいずれかの植物、特に、すべての組織および体液から形成することができる。しかし、特定の実施形態では、再生マトリックスを、血液から生成する。理論に縛られる意図はないが、再生マトリックスは、少なくとも部分的には、組織損傷、特に、広範囲な組織損傷を被っている、またはその付近に存在する細胞の成分によって形成されると仮定されている。そのような機構によって、細胞が周囲の細胞を誘発して、損傷組織を再生するようである。類似するが異なり、十分には理解されていない現象が、イモリの心臓を研究する間に、1974年にBeckerらによって観察された(Becker,R.O.ら、「Regeneration of the ventricular myocardium in amphibians」、Nature、248巻、145〜147頁、1974年)。Beckerの観察では、イモリの心臓の30%〜50%を切除すると、周囲の赤血球が溶解し、それらが放出した核が凝集して、新たな心筋組織を形成し、イモリの心臓を約4時間後に再生することができ、したがって、多くのイモリが生存することできた。これ以降の記載から明らかになるであろうが、本発明の再生マトリックスは、Beckerらが観察した現象とは異なり、それとは異なる機構を介して作用する。これは、本発明の再生マトリックスは、無細胞試料から生成され、それ自体では、細胞に基づく生存組織にはならないからである。にもかかわらず、特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスを、再生マトリックスの形成の間または後に、細胞と共に播種、または細胞と混合して、再生マトリックス上に1つ以上の有利な特徴または機能を与える。しかし、理解されるであろうが、そのような細胞が、本発明の再生マトリックスの形成に要求されるわけではない。
【0034】
機能性の再生マトリックスを、多様な組織のうちのいずれかから生成することができるが、再生マトリックスの的確な組成は、とりわけ、無細胞試料を得る組織型によって影響を受けることが理解されるであろう。非限定的な例として、再生マトリックスを、肝臓組織、全血および/または1種以上の血液画分から生成することができる。再生マトリックスを全血から生成する場合には、再生マトリックスの主たるタンパク質成分は、典型的には、アルブミンおよびヘモグロビンである。再生マトリックスを血液の血漿−血小板−バフィーコート画分から生成する場合には、再生マトリックスの主たるタンパク質成分は、典型的には、アルブミンである。にもかかわらず、全血から生成した再生マトリックスおよび血漿−血小板−バフィーコート画分から生成した再生マトリックスはいずれも、組織の損傷、欠損および/変性した部位において、機能して、組織の再生を、開始し、増加させ、支持し、かつ/または導く。特定の実施形態では、再生マトリックスを、全血から得た無細胞試料から生成する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、これらに限定されないが、赤血球画分、バフィーコート画分、血小板画分および/または血漿画分をはじめとする、1種以上の血液画分から得た無細胞試料から生成する。そのような画分を、例えば、全血を重力により沈降および分離させることによって得ることができる。特定の実施形態では、血液画分を、遠心分離によって得る。当業者であれば、本発明の再生マトリックスを生成するために使用することができる画分に血液を分離するその他の手法が分かるであろう。特定の実施形態では、再生マトリックスを、凍結されている血液またはその他の組織から生成する。特定の実施形態では、そのような組織は、数日、数週、数カ月または数年の期間凍結されている。特定の実施形態では、血液またはその他の組織に、試料の凍結〜融解点に近い温度範囲で、複数回の凍結融解サイクルを施す場合に、再生マトリックスの収率および発育が高まる。特定の実施形態では、再生マトリックスを、死体(例えば、数週が経過した死体)から単離した血液またはその他の組織から生成する。特定の実施形態では、再生マトリックスを、胎盤または臍帯の血液から生成する。当業者であれば、血液、体液(例えば、脳脊髄液およびリンパ液)および組織のうちの再生マトリックスを生成するために使用することができるその他の源が分かるであろう。
【0035】
さらに、全血の場合には、実施例1および2に示すように、血液試料中に抗凝血薬が存在すると、異なる接着特性を有する再生マトリックスを得る。これらに限定されないが、ヘパリン、EDTAおよび/またはクエン酸をはじめとする、多様な抗凝血薬のうちのいずれかを使用することができる。当業者であれば、その他の既知の抗凝血薬、ならびに異なる物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性を有する再生マトリックスを生成するために使用することができる抗凝血薬が分かるであろう。
【0036】
特定の実施形態では、無細胞試料を、細胞を組織試料から除去することによって得る。多様な手法のうちのいずれかを使用して、そのような細胞を除去することができる。例えば、組織細胞を遠心分離して、組織試料を、細胞含有画分と細胞非含有画分とに分離し、次いで、細胞非含有画分を単離することができる。特定の実施形態では、組織試料を、細胞を排除するのに十分に小さいポアサイズを有するフィルターを通過させることによって、細胞を組織試料から除去する。例えば、組織試料を5μm、1.2μmおよび/または0.8μmのポアサイズを有するフィルターを通過させることによって、細胞を組織試料から除去することができる。特定の実施形態では、フィルターのポアサイズによって、生成された再生マトリックスの物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性が変化する。熟練者であれば、的確なポアサイズを、実験および/または実験室の制約、再生マトリックスに所望する特徴、ならびに/あるいは熟練者が重要であると見なす多様なその他の因子のうちのいずれかに応じて決定することができる。特定の実施形態では、細胞の除去の前に、組織試料を懸濁化、可溶化および/または希釈する。例えば、細胞を組織試料から除去する前に、処理媒体および/または生理的溶液中に、組織試料を懸濁化、可溶化および/または希釈することができる。
【0037】
再生マトリックスを、無細胞試料を、多様なインキュべーション期間のうちのいずれかにわたってインキュベートすることによって生成することができる。例えば、無細胞試料を、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55または60日以上の間インキュベートすることができる。in vitroアッセイにおいて、機能性の再生マトリックスが、6日、12日、15日、21日および28日後に、生成された再生マトリックス中に検出されており、6週間以上のより長いインキュベーション期間にわたり機能を維持している。生成工程で使用する環境パラメーターおよび/または処理媒体を改変することによって、機能性の再生マトリックスを、より短い期間で生成することができる。例えば、酸素濃度を約0%まで減少させること、および/または処理媒体の凝集の特性または効果を、例えば、塩濃度の増加により増加させることによって、機能性の再生マトリックスを、数分、数時間または数日以内に生成することができる。特定の実施形態では、無細胞試料をインキュベートすることによって生成した再生マトリックスの活性は、インキュベーション期間が長くなるにつれて増加する。特定の実施形態では、無細胞試料をインキュベートすることによって生成した再生マトリックスは、所与の期間インキュベートした後に最大またはほぼ最大の活性に達する。そのような実施形態では、さらにインキュベートしても、再生マトリックスの活性は、仮に増加するとしても、付加的なものに過ぎない。そのような実施形態では、さらにインキュベートすると、再生マトリックスが活性を失う可能性がある。
【0038】
本出願人は、再生マトリックスの形成の初期の間に無細胞試料を振盪またはそうでなければ撹乱すると、不完全なおよび/または欠陥のある再生マトリックスを生じること、ならびに/あるいは再生マトリックスがまったく生成されないこと(さらに、そのような不完全なおよび/または欠陥のある再生マトリックスの生物学的活性が対応して減少すること)を発見した。特定の実施形態では、無細胞試料を、再生マトリックスが形成されている間の期間にわたり、試料が振盪またはそうでなければ撹乱されないようにインキュベートする。例えば、無細胞試料を、振盪またはその他の撹乱なしで、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30日以上の間インキュベートすることができる。特定の実施形態では、無細胞試料を、再生マトリックスを形成する全期間にわたり、試料が振盪またはそうでなければ撹乱されないようにインキュベートする。
【0039】
生成工程の間の特定のインキュベーション条件および/または1つ以上の外因性の因子の追加によって、再生マトリックスが所望のレベルの活性を達成するのに必要なインキュベーション期間を変化させることができる。非限定的な1つの例として、周囲の酸素濃度を減少させると、所望のレベルの再生マトリックスの活性を達成するのに必要な時間の量も減少する。特定の実施形態では、インキュベートする間の周囲の酸素濃度は、約21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%以下である。特定の実施形態では、インキュベートする間の周囲の酸素濃度は、ほぼまたはまさしく0%である。特定の実施形態では、低酸素環境でインキュベートすると、所望のレベルの活性を有する再生マトリックスを、わずか3日後に得る。特定の実施形態では、低酸素環境でインキュベートすると、所望のレベルの活性を有する再生マトリックスを、わずか7日後に得る。特定の実施形態では、インキュベートする間の周囲の酸素濃度を、インキュベートする工程の間に変化(例えば、上昇/低下)させる。当業者であれば、再生マトリックスを形成する場合の時間的な制約、再生マトリックスを使用する組織の損傷の型、実験および/または実験室の制約、ならびに/あるいは熟練者が重要であると見なす多様なその他の因子のうちのいずれかに応じて、1つ以上の適切な周囲の酸素濃度を選ぶことができるであろう。
【0040】
特定の実施形態では、インキュベートする間に、周囲湿度を調節または制御する。例えば、再生マトリックスを、無細胞試料を多様な周囲湿度のいずれかにおいてインキュベートすることによって生成する。特定の実施形態では、インキュベートする間、周囲湿度を低く保ち、それによって、無細胞試料中の液体の蒸発を増加させる。特定の実施形態では、新たな溶質を含有する液体(例えば、「処理媒体」および/または「生理的溶液」)を、蒸発が生じている無細胞試料に連続的または定期的に添加する。そのような実施形態では、無細胞試料の浸透圧モル濃度が、蒸発および新たな溶質を含有する液体の添加の結果として、時間の経過と共に増加することが理解されるであろう。特定の実施形態では、浸透圧モル濃度のそのような増加の結果、生成した再生マトリックスの物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性が変化する。非限定的な1つの例として、無細胞試料を含有する溶液および/または懸濁液の浸透圧モル濃度をインキュベートする工程の間に増加させると、浸透圧モル濃度を、増加させなかった工程またはより少ない量だけ増加させた工程によって生成した再生マトリックスと比較して、物理的な硬度がより高い再生マトリックスを得ることが示されている。再生マトリックスが特定の物理的形状を、長期間維持することが望まれる場合には、そのような再生マトリックスを埋込み型の組成物として使用することができる。例えば、再生マトリックスを対象に注入することが望まれる場合には、物理的な硬度がより低い再生マトリックス(例えば、浸透圧モル濃度を、一定に保った工程またはより少ない量だけ増加させた工程によって生成した再生マトリックス等)が有用である。特定の実施形態では、周囲湿度をインキュベートする工程の間に変化(例えば、上昇および/または低下)させて、浸透圧モル濃度が変化する速度を制御する。当業者であれば、再生マトリックスを形成する場合の時間的な制約、再生マトリックスを使用する組織の損傷の型、実験および/または実験室の制約、ならびに/あるいは熟練者が重要であると見なす多様なその他の因子のうちのいずれかに応じて、1つ以上の適切な周囲湿度を選ぶことができるであろう。さらに、形成した再生マトリックスの密度、多孔度および/または水和のレベルを、形成した再生マトリックスを遠心分離または凍結乾燥することによって変化させることができる。例えば、形成した再生マトリックスを5000×gで遠心分離して、骨の再生を支持する目的で、骨の欠陥に埋め込むために、密度および硬度を増加させることができるであろう。
【0041】
特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスを、インキュベーションチャンバー内で、無細胞試料を所与の期間インキュベートすることによって生成する。多様なインキュベーションチャンバーのうちのいずれかを使用することができる。特定の実施形態では、インキュベーションチャンバーは、1種以上の物質、例えば、空気および/またはガス状の分子に対して透過性または半透過性である密閉容器または半密閉容器を含む。例えば、Opticell(登録商標)カセット(BioCrystal Ltd.製、Westerville、オハイオ州)を、インキュベーションチャンバーとして使用して、無細胞試料から再生マトリックスを生成することができる。特定の実施形態では、密閉または半密閉のインキュベーションチャンバーは、材料を、インキュベートする工程を開始してから容器に添加および/または容器から除去することができるように設計されている。例えば、空気および/またはガス状の分子に対して透過性または半透過性であるインキュベーションチャンバーを、液体および/または固体の材料を、インキュベーションの間および/または後に1つ以上の時点でチャンバーに添加および/またはチャンバーから除去することができるように設計することができる。そのようなインキュベーションチャンバーは、無細胞試料の浸透圧モル濃度をインキュベートする工程の間に増加させることが望まれる場合に有利である。例えば、無細胞試料の浸透圧モル濃度を、インキュベートする工程の間に、無細胞試料を含有する液状の溶液または懸濁液の溶媒(この溶液または溶媒を、例えば、処理媒体または生理的溶液を、無細胞試料および/または無細胞試料を得る組織試料に添加することによって得ることができる)を、時間をかけて蒸発させ、新たな溶質を含有する液体を無細胞試料に連続的または定期的に添加することによって増加させることができる。そのような溶質を含有する液体は、処理媒体および/または生理的溶液を含むことができる。無細胞試料が、処理媒体および/または生理的溶液に可溶化または懸濁化されている場合には、それと同一の処理媒体および/または生理的溶液を、インキュベートする工程の間に、無細胞試料に添加することができる。それに加えてまたはそれに代わって、異なる処理媒体および/または生理的溶液を、インキュベートする工程の間に、無細胞試料に添加することもできる。それに加えてまたはそれに代わって、無細胞試料に添加する溶質を含有する液体は、処理媒体でもなく、生理的溶液でもない。
【0042】
特定の実施形態では、再生マトリックスは、生成工程の間に使用する処理媒体および/または生理的溶液応じて、異なる物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性を示す。例えば、実施例11に示すように、TR−10培地を使用して形成した再生マトリックスは、DMEM/F−12倍地を使用して生成した再生マトリックスと比較して増加した生物学的活性を示す。当業者であれば、過度の実験をせずとも、1種以上の所望の物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性を示す再生マトリックスを達成するために適切な処理媒体および/または生理的溶液を決定することができるであろう。
【0043】
再生マトリックスの生成工程の間の多様な時点のうちのいずれかにおいて、処理媒体および/または生理的溶液を、組織試料および/または無細胞試料に添加することができる。特定の実施形態では、組織試料を単離する間、細胞を組織試料から除去する前、無細胞試料をインキュベートする前、および/またはインキュベートする工程の間に、処理媒体を、組織試料および/または無細胞試料に添加する。
【0044】
特定の実施形態では、1つ以上の外因性の因子の存在下で、無細胞試料をインキュベートすることによって、再生マトリックスを生成する。例えば、1種以上の治療用作用物質、1種以上の細胞型または両方の存在下で、無細胞試料をインキュベートすることができる。特定の実施形態では、そのような外因性の因子が、再生マトリックスの物理学的特徴を変化させ、かつ/ならびに生物学的活性および/または治療活性を増強する。例えば、実施例9に示すように、再生マトリックスの生成の間におけるITS、EGFおよびbFGFの添加によって補足した再生マトリックスからは、再生マトリックスの神経突起伸長活性に対する効果の増加が得られる。
【0045】
多様な治療用作用物質のうちのいずれかを使用して、本発明の再生マトリックスの活性を増加させることおよび/または補足することができる。考案の再生マトリックスおよび方法と共に使用することができる治療用作用物質の例として、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子および/または増殖因子があげられるが、これらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明によって使用することができる適切および/好都合なその他の治療用作用物質が分かるであろう。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の大きさが増加する。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の活性が延長される。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果が時間をかけて放出される。特定の実施形態では、治療用作用物質を再生マトリックス中に投与すると、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果が時間の経過に伴う実質的な減少から保護される。特定の実施形態では、2種以上の治療用作用物質を再生マトリックス中に投与する。特定の実施形態では、治療用作用物質を、再生マトリックスを生成する工程の間に添加する。例えば、治療用作用物質を、これらに限定されないが、組織試料を単離する間、細胞を組織試料から除去する前、無細胞試料をインキュベートする前、および/またはインキュベートする工程の間をはじめとする、生成工程の1つ以上のステップにおいて添加することができる。
【0046】
特定の実施形態では、治療用作用物質を、再生マトリックスにくまなく均等に分布させる。特定の実施形態では、治療用作用物質を、再生マトリックスにくまなく不均等に分布させる。例えば、治療用作用物質を、再生マトリックスの芯またはその付近により集中させることができる。これは、例えば、再生マトリックスの形成期間の初めの数日または前半の間に治療用作用物質を導入してから、インキュベーションチャンバー中の形成されつつある再生マトリックスの周囲の溶液の大部分または全部を除去し、最初の無細胞試料または溶液をさらにインキュベーションチャンバーに所望のレベルに達するまで添加し、次いで、再生マトリックスの形成工程を続けるために無細胞試料および再生マトリックスをさらにインキュベートすることによって達成することができるであろう。また、追加の無細胞試料または溶液を、別の治療用作用物質と一緒に添加することもできるであろう。この別の治療用作用物質は、次いで、形成されつつある再生マトリックスの外側表面の付近において不均一に集中するようになり、したがって、再生マトリックスが生分解または分解する場合には、最初の治療用作用物質よりも先に周囲の環境に放出されるであろう。この方法を、治療用作用物質が特異的な部位に異なる時点で(例えば、次々に)送達されることが望まれる適用例において使用することができるであろう。特定の実施形態では、そのような不均等な分布が、in vivoにおける治療用作用物質の特性および/または機能に影響を与える。例えば、そのような不均等な分布によって、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の大きさが変化し、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の活性が延長され、治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果の持続放出の特徴が変化し、かつ/または治療用作用物質の1つ以上の有利な治療効果が時間の経過に伴う実質的な減少から保護される。
【0047】
多様な細胞型のうちのいずれかを使用して、本発明の再生マトリックスの活性を増加させることおよび/または補足することができる。しかし、細胞を使用して、本発明の再生マトリックスの活性を増加させることおよび/または補足することが可能であるものの、そのような細胞が、再生マトリックスを形成するのに要求されるわけではないことを理解されるであろう。特定の実施形態では、細胞が除去されている無細胞試料に、細胞を添加する。特定の実施形態では、無細胞試料を得る組織試料中に存在する細胞とは異なる型の細胞を使用する。本発明によって使用することができる細胞型の例として、幹細胞、前駆細胞および/または体細胞があげられるが、これらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明によって使用することができる適切および/または好都合なその他の細胞型が分かるであろう。特定の実施形態では、再生マトリックスを生成する工程の間に、細胞を添加する。例えば、これらに限定されないが、組織試料を単離する間、細胞を組織試料から除去する前、無細胞試料をインキュベートする前、および/またはインキュベートする工程の間をはじめとする、生成工程の1つ以上のステップにおいて、細胞を添加することができる。特定の実施形態では、細胞を、再生マトリックスにくまなく均等に分布させる。特定の実施形態では、細胞を、再生マトリックスにくまなく不均等に分布させる。例えば、細胞を、再生マトリックスの芯またはその付近により集中させることができる。特定の実施形態では、そのような不均等な分布が、in vivoにおける細胞の特性および/または機能に影響を与える。
【0048】
顕著な免疫応答を惹起せずに患者に移植するための有望な再生マトリックスを生成する最も有効な方法の1つでは、再生マトリックスを患者自身の血液および/または組織から誘導する。しかし、本発明の再生マトリックスは、そのような自家性の再生マトリックスに限定されない。特定の実施形態では、即時に移植するための既製の再生マトリックスを、同種からの血液またはその他の組織を使用して作製する。そのような実施形態では、そのような同種からの再生マトリックスを1種以上の免疫抑制剤と併用して投与するのが望ましい場合がある。そのような免疫抑制剤は、当業者に知られている。特定の実施形態では、1つの種において使用するための再生マトリックスを、異なる種からの細胞から誘導する。例えば、動物(例えば、ブタ)に由来する組織を使用して生成した再生マトリックスを、ヒトに投与する。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスは、動物への適用例、例えば、家畜および/または愛玩動物の損傷および/変性した組織を修復する場合に有用である。
【0049】
特定の実施形態では、再生マトリックスの物理学的特徴、生物学的特性および/または治療活性を、生成工程が実質的に完全に完了してから変化させる。例えば、多くの場合、作製後、再生マトリックスを長期間保管するのが望ましいであろう。当技術分野で知られているように、加水分解は、多様な生物学的物質および非生物学的物質の保管寿命を短くする1つの原因である。したがって、特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスの保管寿命を、そのような再生マトリックス中に存在する液体の一部または全部を除去することによって延長させることができる。多様な手法のうちのいずれかを使用して、そのような液体を除去することができる。例えば、再生マトリックスを遠心分離して、タンパク質性のおよび/またはその他の生物学的な巨大分子成分を凝縮し、その後、所望の量の液体を遠心分離した試料から除去することができる。それに加えてまたはそれに代わって、液体を通過させるには十分大きいが再生マトリックス材料を通過させることがない十分小さいポアサイズを有するフィルターを使用するろ過のステップ(例えば、重力または低速遠心分離による)を、再生マトリックスに施すことによって、液体を再生マトリックスから除去することもできる。それに加えてまたはそれに代わって、乾燥剤の存在または非存在下で、再生マトリックスを所与の期間にわたって脱水することによって、液体を再生マトリックスから除去することもできる。当業者であれば、再生マトリックスの保管寿命を改善するために、液体を再生マトリックスから除去する適切および/有用なその他の方法が分かるであろう。また、液体を再生マトリックスから除去すると、再生マトリックスの生物学的特性および/または治療活性のうちの1つ以上が変化する場合があることも理解されるであろう。特定の実施形態では、そのような生物学的特性および/または治療活性が、液体除去の工程によって増強される。
【0050】
さらに、そのような液体の除去により、再生マトリックスが投与される物理的環境に再生マトリックスがより厳密に一致するように、再生マトリックスの物理学的特徴を変化させることによって、追加の利点を得ることができる。例えば、再生マトリックスの水和のレベルを減少させると、より大きな密度を有する再生マトリックスを得ることができる。そのような高密度の再生マトリックスを、例えば、骨および/または軟骨の再生に有利に使用することができる。当業者であれば、本記載に基づいて、そのような高密度の再生マトリックスのその他の有利な適用例が分かり、過度の実験をせずとも、そのような適用例においてそのような再生マトリックスを使用することができるであろう。
【0051】
再生マトリックスの組成物および特徴
本発明の再生マトリックスは、タンパク質、脂質、炭水化物、塩および核酸の不均等な混合物を含む。さらに、再生マトリックスは、冷蔵温度で、機能を欠損することなく、最大3カ月間保管されている。多分、再生マトリックスを、適切な条件を使用して、無期限に保管することができるであろう。例えば、再生マトリックスの含水量を(例えば、遠心分離、脱水、凍結乾燥およびその他によって)減少させて、再生マトリックスを保管できる期間を延長させることができる。特定の実施形態では、主要な構造は、大部分、直径約1〜4μmの球状構造の凝集体からなる。特定の実施形態では、主要な構造は、大部分、直径約100nmの球状構造の凝集体からなる。特定の実施形態では、主要な構造は、大部分、直径が少なくとも約100nmである球状構造の凝集体からなる。特定の実施形態では、再生マトリックスは、繊維がくまなく散在したそのような球状構造を含む。上記に記載したように、出発材料の形成に使用する処理条件が、球状構造の究極的なサイズに影響を与えることができる。例えば、出発材料を5μmのフィルターでろ過すると、優勢な球状構造の直径は、典型的には、約2から4μmである。出発材料を1.2μmのフィルターでろ過すると、優勢な球状構造の直径は、典型的には、約1から2μmである。
【0052】
特定の実施形態では、CD56に対する抗体が球の表面を認識し、これは、神経細胞接着分子(NCAM)の存在を示す。理論に縛られる意図はないが、NCAM仲介刺激は、損傷が生じると、再生マトリックスが神経細胞を動員し、再生を刺激する1つの機構であると仮定されている。特定の実施形態では、組織の修復、組織の再生および/または組織の形成の間に、再生マトリックスが、細胞外増殖マトリックス(ECGM)として作用する。再生マトリックスを血液から形成すると、物理的および機能的な特性が、血液の採取方法(例えば、抗凝血薬の有無および/または抗凝血薬の種類)およびインキュベーション期間の前に溶解液をろ過するのに使用したポアサイズによって影響を受ける。抗凝血薬であるヘパリンを加えて血液を採取すると、抗凝血薬なしで採取した血液を用いて形成した構造に類似する構造が形成される。この全血から形成した再生マトリックスは、通常、生成装置(例えば、Opticell(登録商標))の下部および上部の両方に接着し、それぞれの表面上で、構造の配置が若干異なる。しかし、抗凝血薬であるEDTAまたはクエン酸を加えて血液を採取すると、この全血から形成した再生マトリックスは、生成装置に緩く接着し、ゲル様の外観および硬さを有する。
【0053】
特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスは、水を主要な成分として含む。特定の実施形態では、再生マトリックスの非水組成物は、主としてタンパク質を含む。特定の実施形態では、再生マトリックスのタンパク質含有量は、約5から15質量%に及ぶ。しかし、生成工程において、組織試料および/または無細胞試料の処理媒体に対する異なる比を使用することによって、この割合を操作することができる。特定の実施形態では、そのような異なる比を利用することによって、生成された再生マトリックスのタンパク質含有量は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30%以上となる。生成された再生マトリックスの水和のレベルを変化させることによって、この割合をさらに変化させることができる。特定の実施形態では、再生マトリックスの水和のレベルのそのような変化を利用することによって、再生マトリックスのタンパク質含有量が、約0.1%未満または約90%超であることができるであろう。再生マトリックスを全血から生成する場合には、再生マトリックスの主たるタンパク質成分は、典型的には、アルブミンおよびヘモグロビンである。再生マトリックスを血液の血漿−血小板−バフィーコート画分から生成する場合には、再生マトリックスの主たるタンパク質成分は、典型的には、アルブミンである。しかし、また、血液のその他のタンパク質成分またはペプチド成分もこれらの再生マトリックス中に存在することを当業者であれば理解するであろう。さらに、再生マトリックスを、血液以外の組織から得た無細胞試料から生成する場合には、その他のタンパク質成分またはペプチド成分も存在することも当業者であれば理解するであろう。
【0054】
再生マトリックスは、再生および組織形成の重要な特性および可能性を有する。再生マトリックスは、組織再生および組織形成に関与する細胞を補助し、かつ/またはそれに対する骨格として働くことができる。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスは、細胞が再生マトリックスの上または周りで接着、増殖および/または分化するのを可能にする。特定の実施形態では、本発明の再生マトリックスは、神経細胞を刺激して、再生マトリックスに接着する神経突起を伸長させる。神経細胞を使用したin vitro細胞培養アッセイは、再生マトリックスが、神経細胞の接着、神経細胞の生存、軸索の増殖および再生、パターン形成、ならびに結合性に関連する遺伝子を選択的に刺激することを実証している。ヒト線維芽細胞を使用したin vitro細胞培養アッセイは、5μmのフィルターを用いたろ過によって生成した再生マトリックスが、これらの細胞の増殖に対して抑制効果を有することを実証している。そのような線維芽細胞抑制活性の大きさには、再生マトリックスの形成のために使用する処理条件が影響を及ぼすことができる。凝固した血液から生成した再生マトリックスは、抗凝血薬の存在下で採取した血液から生成した再生マトリックスよりも、線維芽細胞の増殖をより強く抑制する。特定の実施形態では、線維芽細胞が支持構造を提供するためにある程度まで必要であるコラーゲンを創傷組織で分泌することから、この差が好都合であるが、大部分の重度の組織の損傷では、欠失は、主として結合組織の瘢痕で満たされるようになる。広範に結合組織の瘢痕が生じると、再生過程が抑制され、損傷した組織および臓器の機能の永続的な欠損につながる。したがって、特定の実施形態では、再生マトリックスの活性の大きさを調節または制御して、創傷部位における組織の損傷の重症度に基づき、最適な創傷治癒の特徴を提供する。
【0055】
脊髄損傷のin vivoモデルを使用して、本発明の再生マトリックスが、これらに限定されないが、血管新生特性、軸索の増殖、病変の大きさおよび数の減少、ならびにアストロサイトのグリア性瘢痕形成に対する抑制機能をはじめとする、複数の有利な効果を示すことが実証されている。in vivoにおいては、再生マトリックスは、典型的には、主として、マクロファージ摂取によって、時間と共に(例えば、通常、約4〜8週間で)分解するが、本発明の再生マトリックスは、そのような分解時間にも分解機構にも限定されるものではない。本記載から明らかなように、そのような分解は、これらに限定されないが、細胞の活性による(例えば、マクロファージの作用を介する)、機械的、化学的、代謝的および/または酵素的な分解をはじめとする、多様な機構のうちのいずれかを介して起こることができる。特定の実施形態では、再生マトリックスのそのような分解が、マクロファージを刺激して、マクロファージ自体がさらなる再生特性を(例えば、フォン−ヴィレブランド因子陽性内皮様細胞に分化形質転換することによって)示すようになる。本発明の再生マトリックスを、組織または臓器の損傷、欠失または切除した部分に移植すると、本発明のマトリックスは、新たな組織の再生および形成を支持し、組織または臓器の損傷または欠失した部分の機能性を修復するのを援助する。組織の再生および組織の形成を開始し、増加させ、支持し、かつ/または導くために再生マトリックスを移植することができる組織の非限定的な例として、肝臓、腎臓、膵臓、心臓、卵巣、甲状腺、脳、脊髄およびその他の神経組織の損傷、欠失または切除した部分があげられる。
【0056】
脊髄の再生の場合には、再生マトリックスを、脊髄の損傷、変性、欠失または切除した部分に、例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および/または分化した神経細胞等の細胞と共に移植してもよいし、細胞なしで移植してもよい。再生マトリックスの機能性を、これらに限定されないが、増殖因子、サイトカイン、薬物および/またはその他の成分をはじめとする、1種以上の治療用作用物質を添加することによって、さらに拡大または操作することができる。特定の実施形態では、再生マトリックスを外因性の治療用作用物質を添加せずに生成すると、神経突起の伸長および神経遺伝子の上方制御に関する部分的な機能性が観察される。そのような実施形態では、これらの機能の大きさを、再生マトリックスの生成の間に外因性の治療用作用物質を組み入れることによって増強することができる。望ましい追加の治療用作用物質の非限定的な例として、bFGF、EGF、BDNFおよび/またはNGF等の増殖因子があげられる。特定の実施形態では、再生マトリックスを損傷した脊髄に移植すると、運動機能の欠損が移植後わずか4週後に機能的に回復する。
【0057】
本発明の特定の実施形態が包含する生物学的骨格は、固有の多角的な再生特性を有し、移植可能で、分解性であり、これらの生物学的骨格の形成は、まったく前例がない。いくつかの細胞型が、単純な細胞外マトリックスを生成しているが、そのようなマトリックスは、構造的なものに過ぎないようである。新たな組織の再生および増殖を構造的および生物学的に促進、支持および補助する自己集合性のマトリックスまたは骨格材料の生成はこれまでに報告されたことがない。このようなマトリックスまたは骨格材料が、本発明の特定の実施形態によって包含されている。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
再生マトリックスの凝固した全血からの誘導
健康なドナーから、静脈血(Research Blood Components製、Brighton、マサチューセッツ州)を、12mlのvaccutainer(登録商標)に調達し、RTで少なくとも30分間凝固させた後、使用まで−20℃で凍結した。血液に、5回の凍結(−20℃)−融解(RT)サイクルを施すことによって処理を開始した。10mlの血液を含有するvaccutainerの内容物を、無菌の乳鉢に出した。2×ITS補助剤(Gibco/Invitrogen製、Gaithersburg、メリーランド州)、20ng/ml組換えヒトEGF(R&D Systems製、Minneapolis、ミネソタ州)および40ng/ml組換えヒトbFGF(R&D Systems製)で補足したDMEM(Mediatech製、Herndon、バージニア州)およびハムF12培地(Mediatech製)の1:1の混合物からなる処理媒体を添加して、血餅を、無菌の乳棒を使用して手作業で粉砕することによって破壊した。粉砕工程の間に、液化した全血血餅および処理媒体を含有する液体を、乳鉢から無菌の25mlの血清用ピペットを使用して吸引し、40μmメッシュのフィルターに移し、そこから、内容物を無菌の50mlのコニカル遠心チューブ内に重力によってろ過させた。新鮮な処理媒体を残りの固体の血餅に添加し、血餅が全部液化し、200mlの最終容量に達するまで工程を繰り返した。チューブを500×gで30分間遠心分離し、上清を5μmのシリンジフィルター(Pall/Gelman製)を通してOpticell(登録商標)カセット内に直接ろ過した。Opticell(登録商標)カセットを、37℃および7.5%COでインキュベートした。6から8日間インキュベートした後、3mlの新鮮な処理媒体を各Opticell(登録商標)カセットに添加した。その後、1.5mlの新鮮な処理媒体を、さらなる分析のために再生マトリックスを収集するまで1日置きに添加した。この方法を使用して形成した再生マトリックスは、Opticell(登録商標)カセットの上部メンブレインを取り外し、下部メンブレインから削り取ることによって収集する必要があることから、この再生マトリックスは、接着特性を有する。
【0059】
(実施例2)
再生マトリックスの抗凝血薬を使用して採取した全血からの誘導
健康なドナーから、静脈血(Research Blood Components製、Brighton、マサチューセッツ州)をNa−EDTAを含有する12mlのvaccutainer(登録商標)に調達し、使用まで−20℃で凍結した。血液に連続5回の凍結(−20℃)−融解(RT)サイクルを施すことによって処理を開始した。10mlの血液を含有するvaccutainerの内容物を、無菌の容器に出し、200mlの最終容量まで処理媒体(実施例1を参照)を添加した後、溶液を穏やかに混合した。この出発材料を、40μmメッシュのろ過器を通して重力ろ過した。ろ液を採取した後、500×gで30分間遠心分離し、上清を5μmのシリンジフィルターを通してOpticell(登録商標)カセット内に10mlずつ直接ろ過した。Opticell(登録商標)カセットを、37℃および空気中の7.5%COでインキュベートした。6から8日間インキュベートした後、3mlの新鮮な処理媒体を各Opticell(登録商標)カセットに添加した。その後、1.5mlの新鮮な処理媒体を、さらなる分析のために再生マトリックスを収集するまで1日置きに添加した。
【0060】
別の実験では、健康なドナーから、静脈血(Research Blood Components製、Brighton、マサチューセッツ州)をNa−EDTAを含有する12mlのvaccutainer(登録商標)に調達し、氷上に保った。10mlの血液を含有するvaccutainerの内容物を、無菌の容器に出し、200mlの最終容量まで処理媒体(実施例1を参照)を添加した後、溶液を穏やかに混合した。この出発材料を、5μmのシリンジフィルターを通してろ過した。ろ液を採取した後、500×gで30分間遠心分離し、上清を5μmのシリンジフィルターを通してOpticell(登録商標)カセット内に10mlずつ直接ろ過した。Opticell(登録商標)カセットを、37℃および7.5%COでインキュベートした。6から8日間インキュベートした後、3mlの新鮮な処理媒体を各Opticell(登録商標)カセットに添加した。その後、1.5mlの新鮮な処理媒体を、さらなる分析のために再生マトリックスを収集するまで1日置きに添加した。
【0061】
これらの方法を使用して形成した再生マトリックスは、弱い接着特性を有し、Opticell(登録商標)カセットのアクセス口のうちの1つを使用して、18ゲージの針を通して吸引することによって収集することができる。
【0062】
(実施例3)
再生マトリックスの連続ろ過を使用して得た全血画分からの誘導
再生マトリックスの活性を、(実施例1および2に記載した)遠心分離ステップからの上清を、5μmおよび1.2μmのフィルターを一緒にして結合させたセットを通すことによってさらに改良した。このステップは、出発材料から大きな粒子を除去し、その結果、機能性特性が変化する。Opticell(登録商標)カセット内の再生マトリックス構造の例を示す(図3)。図4は、全血から生成した再生マトリックスが、未変化の細胞または核の兆しを何ら示さないことを示す。ヘマトキシリン染色は、分析したすべての切片において完全に陰性であったが、材料は、エオシンで強く染色した。高い数値の開口レンズ(高解像度)を使用すると、ビーズ様構造を明確に分解することができる。再生マトリックスの大部分をなすビーズ様構造以外に、より緻密な構造からなると思われる平坦なシートの小さな領域を観察することができる。
【0063】
(実施例4.1)
再生マトリックスの走査型電子顕微鏡観察(SEM)
電子顕微鏡観察のために、実施例1、2および3に記載した方法によって生成した再生マトリックスを0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液(Electron Microscopy Sciences製)中の2.5%グルタルアルデヒドを用いて、4℃で16時間固定した。固定化は、培地を10mlの固定液で置換することによって、Opticell(登録商標)内で直接行った。翌日、固定剤を除去し、PBS(10ml)をOpticell(登録商標)に添加した。Opticell(登録商標)をメスで開き、再生マトリックスが接着しているOpticell(登録商標)のメンブレインを0.5×1cmの小片に切断した。小片を1.5mlの微量遠心チューブに移し、水中の1%四酸化オスミウムで2時間、後固定した。次いで、直ちに、試料を50%エタノール溶液中に2分間保った後、70、80、90、95および100%のエタノール溶液中で連続的に脱水した。最後のエタノールのステップの後、試料をUniversity of Massachuesetts AmherstのCentral Microscopy Core Facilityに発送するまで−20℃に保った。試料を臨界点まで乾燥し、スパッタコートした。試料をJEOL JSM−5400走査型電子顕微鏡を用いて、100倍から7500倍の倍率で撮影した。画像を、デジタルインターフェースを介してコンピュータに取り入れ、TIFFフォーマットとして640×480ピクセルの解像度でエクスポートした。
【0064】
調製方法のそれぞれから、異なる微細構造を有する再生マトリックスを得た(図5、6および7)。より低い多孔度のろ過からは、類似の全体的な形態を得たが、1.2μm処置の場合の球のサイズ(直径1〜2μm、図6)は、5.0μm処置の場合の球のサイズ(直径2〜3μm、図5)よりも小さかった。凝固血を使用して生成した再生マトリックスは、約2から3週間のインキュベーション後、成熟相を経験し、この相では、マトリックスの上部の表面上に波様の構造が認められた。非凝固血を使用して生成した再生マトリックスは、このような外観を呈しないが、球状構造が一緒になって凝集して、約100nmの繊維がくまなく散在した連続的な構造を形成する(図7)。
【0065】
組織学的検査のために、再生マトリックスを0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液(Electron Microscopy Sciences製)中の2.5%グルタルアルデヒドを用いて、4℃で16時間固定した。固定化は、培地を10mlの固定液で置換することによって、Opticell(登録商標)内で直接行った。翌日、固定剤を除去し、PBS(10ml)をOpticell(登録商標)に添加した。Opticell(登録商標)をメスで開き、再生マトリックスが接着しているOpticell(登録商標)のメンブレインを2×2cmの小片に切断し、組織学的検査用組織カセット中のスポンジの間にマウントした。試料を70%エタノールに移し、Mass Histology(Worcester、マサチューセッツ州)による標準的な組織学的検査に送った。試料をエタノール中で連続的に脱水し、パラフィンに埋包した後、位置を定め、切断した。切片を、通常の固定化条件を使用してヘマトキシリン−エオシン染色した。コントラストの増強およびノイズの減少のため、Richardson technologiesにより最適化された、改変したLeica Microscopeを使用して暗視野光学で画像を得た。ビデオカメラの640×480ピクセルの解像度を用いて、画像を20、40および100倍で収集した。100倍の倍率で収集した試料の画像を示す(図8)。再生マトリックスは、エオシンで染まるが、ヘマトキシリンでは染まらない。
【0066】
(実施例4.2)
再生マトリックスの透過型電子顕微鏡観察(TEM)
組織試料から調製し、5μmのフィルターを通した21日が経過した再生マトリックスを切断し、TEMによって走査した(図9〜11)。TEM下では球様の粒子がそれらの間に境界を示さないことから、球様の粒子が連続的な材料の一部であることがTEM分析から明らかである。球は、硬く、中が空洞ではなく、それらの周囲には、膜およびいずれかのその他の型の構造を有しない。この材料の内部は、均質である。図9中の非常に暗いスポットは、染色のバックグランドである。
【0067】
(実施例5)
再生マトリックスの生化学的特徴付け
全血から作製した再生マトリックスを、タンパク質、脂質、核酸および炭水化物の含有量、ならびに生細胞の存在を示す鋭敏な指標としての代謝活性について分析した。生化学的データを、分析した湿潤状態のマトリックスのグラムでの質量に関して規準化した。タンパク質、DNA、RNAおよび脂質の定量化のための標準的な方法を使用し、再生マトリックスのいくつかの異なるロットの組成を、再生マトリックスの製造工程の複数の時点において決定した(詳細な方法は、個々の項で示す)。
【0068】
5.1.再生マトリックスの全タンパク質含有量
再生マトリックスの最も豊富な生物学的成分は、タンパク質であり、8.8±1.2質量%を示し、残りの質量は、再生マトリックスに結合している液体である。再生マトリックス中の規準化したタンパク質含有量を、あらかじめ秤量した一定量の再生マトリックスをSDS溶解緩衝液(150mM NaCl、50mM Tris−HCI(pH7.5)、10mM EDTA、1%SDS)およびComplete(商標)ミニプロテアーゼインヒビターカクテル(カタログ番号11−836−153、Roche製)に可溶化することによって決定した。溶解液中のタンパク質濃度を、ローリー法に基づくタンパク質アッセイキット(カタログ番号500−0112、Bio−Rad製)を使用して、メーカーの指示に従って決定した。標準曲線を、BSA標準物質(カタログ番号500−0007、Bio−Rad製)を使用して作成した。光学密度(750nm)を、Spectramax Plus分光光度計(Model 384、Molecular Devices製)を使用して測定し、試料のタンパク質濃度を、Softmax Proソフトウェア(Molecular Devices製)を使用する標準曲線の直線範囲の内挿によって決定した。
【0069】
(再生マトリックスあたりの)全タンパク質含有量を、再生マトリックス出発材料(0)に関して、OptiCell(登録商標)カセットの最初の播種後、第0日、第15日および第21日において収集した試料について決定した。
【0070】
表1.Opticell(登録商標)カセット中の再生マトリックスの全タンパク質含有量
再生マトリックス生成用液体を除去し、再生マトリックスをSDS緩衝液に可溶化した後、全タンパク質含有量を決定した。各時点で、4つのOpticell(登録商標)カセットから試料採取し、分析した。再生マトリックス生成の4つの独立したバッチからの結果を、平均±標準偏差として報告する。
【0071】
【化1】

5.2.再生マトリックスのSDS−Page分析
再生マトリックス中に存在するタンパク質の主な種を、還元SDS−PAGEゲルから切り取ったすべての目に見えるクーマシーバンドに対する質量分析法によって決定した。上記に準じて、SDS−PAGEのために、試料を調製し、定量化した後、あらかじめ成型したポリアクリルアミド勾配ゲル(PAGE 4〜20%勾配、カタログ番号345−0033、Bio−Rad製)に、ウェルあたり10μgで積んだ。主なタンパク質のバンドを、Simply Blue(登録商標)ゲル染色液(カタログ番号LC6060、Invitrogen製)を用いて染色することによって可視化した。
【0072】
切り取ったタンパク質のバンドを、同定のために、Midwest Bio Services(Overland Park、カンザス州(www.midwestbioservices.com))に送った。手短にいうと、還元、アルキル化およびゲル内トリプシン処理後、微小毛細管逆相カラム上でのペプチド抽出および分離。ペプチドを溶出し、LCQ Deca XP Plusイオントラップ質量計に直接エレクトロスプレーした。全MSスペクトルおよびMS/MSスペクトルを得、データを、TurboSEQUESTソフトウェアによって分析した。この種の分析では、ペプチドの質量を使用して、既知のタンパク質のペプチド断片の既知の分子量を逆参照するので、ゲルのバンド中の部分的に分解したタンパク質の存在もまた検出されるであろう。再生マトリックス中の同定された主なタンパク質の種を以下に列挙する:トランスフェリン、血清アルブミン、血清アルブミン前駆体、補体成分3、A〜D鎖ヘモグロビン、IgM、IgG1、メダラシン阻害剤2、炭酸脱水酵素およびCA1タンパク質。
【0073】
一貫した、タンパク質のバンド形成パターンが、第15日および第21日の両方において、すべてのバッチ(51〜56)からの試料で観察された。大部分のタンパク質が、低分子量(約67%が<10KDa)、約15%が33KDa、ならびに残りの約19%が34と103KDaの間の分子量に分解した。SDSゲルの写真を、図12に示す。
【0074】
5.3.再生マトリックスの核酸含有量
タンパク質の場合に準じて、再生マトリックス(M)からDNAを精製し、定量化した後、0、15、21の時点で、出発材料(O)と比較した。秤量した試料を、2×SDS/Proteinase K溶解緩衝液(40mM Tris−HCl[pH8.0]、50mM EDTA、200mM NaCl、2%SDSおよび6μlのProteinase Kストック(20mg/ml、カタログ番号25530−049、Invitrogen製)を使用して溶解させ、50℃で一晩インキュベートした。溶解液を、等容量のTris−HCl飽和フェノール−クロロホルム−イソアミルアルコール(PCI、25:24:1、pH8.0)、1滴のPhase Lock Gel(PLG、カタログ番号955 15 403−7、Eppendorf製)で抽出した。試料を、14,000g、4℃で10分間遠心分離して、相を分離させた。水相を、PLGを加えた、新しい2.0mlの微量遠心チューブに移し、抽出および遠心分離を繰り返した。水相を、PLGを加えた、新しい2.0mlの微量遠心チューブに移し、等容量のクロロホルムで抽出し、12,000×g、4℃で10分間遠心分離した。水相を、新鮮な1.5mlの微量遠心チューブに移し、DNAを、0.7容量のイソプロパノール(カタログ番号3032−06、Mallinckrodt製)および10μgのグリコーゲン(カタログ番号10901393001、Roche製)を添加することによって沈殿させ、RTで15分間放置した。試料を、14,000×g、4℃で20分間遠心分離した。ペレットを、0.5mlの70%エタノール(カタログ番号EX0289−1、EM Science製)で2回洗浄し、風乾した後、30μlのTE緩衝液、pH8.0中に再懸濁した。DNAの濃度を、光学分光度的測定(Spectra Max Plus、Model 384、Molecular Devices製)により、260nmの光学密度(OD)で決定した。また、260/280のOD比も決定して、DNAの単離におけるタンパク質混入のレベルを示した。第15日および第12日における再生マトリックスの全DNA含有量(μg)を、0時の出発材料中の全DNA含有量と比較した。
【0075】
表2.Opticell(登録商標)カセット中の再生マトリックスの全DNA含有量
再生マトリックス生成用液体を除去し、R再生マトリックスをSDS緩衝液に可溶化した後、全DNA含有量を決定した。各時点で、4つのOpticell(登録商標)カセットから試料採取し、分析した。再生マトリックス生成の4つの独立したバッチからの結果を、平均±標準偏差として報告する。
【0076】
【化2】

再生マトリックス(M)からRNAを単離し、Trizol試薬(カタログ番号15596−018、Invitrogen製)を使用して、0、15および21の時点で、出発材料(O)のRNAと比較した。1.0mlのTrizolを、あらかじめ決定した量の質量に添加し、可溶化するまでRTで放置した(10〜20分)。試料を、12,000×g、4℃で10分間遠心分離し、水相を、新しい1.5mlの微量遠心チューブに移した。溶液を、200μlのクロロホルム(カタログ番号4440−04、Mallinckrodt製)で抽出し、12,000×g、4℃で20分間遠心分離した。水相を、新しい1.5mlの微量遠心チューブに移し、RNAを、500μlのイソプロピルアルコール(カタログ番号3032−06、Mallinckrodt製)を添加することによって沈殿させ、12,000×g、4℃で30分間遠心分離した。RNAペレットを、75%エタノール中で洗浄し、7,500×g、4℃で5分間遠心分離し、風乾した後、試料を65℃で15分間加熱することによって、RNaseを含まない25μlの水中に再懸濁した。RNAを、分光光度計(Spectramax、Model 384、Molecular Devices製)を使用して、260nmのODによって定量化した。第15日および第12日における再生マトリックスの全RNA含有量(μg)を、0時の再生マトリックス出発材料中の全RNA含有量と比較した。
【0077】
表3.Opticell(登録商標)カセット中の再生マトリックスの全RNA含有量
再生マトリックス生成用液体を除去し、再生マトリックスをSDS緩衝液に可溶化した後、全RNA含有量を決定した。各時点で、4つのOpticell(登録商標)カセットから試料採取し、分析した。再生マトリックス生成の4つの独立したバッチからの結果を、平均±標準偏差として報告する。
【0078】
【化3】

【0079】
【化4】

5.4.再生マトリックスの脂質含有量。
【0080】
再生マトリックス(M)中の全脂質含有量を、BlighおよびDyerの方法(Bligh,E.G.およびDyer,W.J.、「A rapid method of total lipid extraction and purification」、Can.J.Biochem.Physiol.、37巻、911〜917頁、1959年)を使用して、0、15および21の時点で、出発材料(O)の全脂質含有量と比較した。分析まで、試料を−85℃で凍結保管し、分析時にRTで融解した。再生マトリックスについて、375μlのメタノール:クロロホルム(2:1v/v)を、あらかじめ秤量した試料に添加して、ボルテックスミキサー(Digital mini vortexer、カタログ番号、14005−824、VWR製)中、中間スピード、RTで15分間インキュベートした。次いで、475μlのメタノール:クロロホルム:水の混合物(カタログ番号IB05174、IBI Shelton製)を添加して、上記と同様、ボルテックスミキサー中、RTで15分間インキュベートした。試料を、250×g、RTで10分間遠心分離した。液相(クロロホルム相と水相の両方)を、新鮮な1.5mlの微量遠心チューブに移し、チューブ内には、再生マトリックスのペレットのみを残した。再生マトリックスのペレットを、475μlのメタノール:クロロホルム:水の2:1:0.8混合物中に再懸濁し、再び中間スピードで15分間ボルテックスすることによって抽出した。125μmlのクロロホルムを添加し、試料を2分間ボルテックスし、125μmlの水を添加し、試料をさらに2分間ボルテックスし、次いで、250×g、RTで10分間遠心分離した。液相を、初めの抽出からの試料にプールし、1,000×g、RTで10分間遠心分離した。クロロホルム相を、新鮮な1.5mlの微量遠心チューブに移し、真空乾燥器中で45分間またはクロロホルムが完全に蒸発するまで乾燥した。50μlのクロロホルムを、乾燥した脂質ペレットに添加し、試料を、15分間ボルテックスして、脂質を完全に可溶化した。試料を、最終分析まで、−85℃で保管した。標準脂質(L4646、Sigma製)の希釈系列を作製し、10μlの抽出した脂質試料を500μlの濃硫酸(カタログ番号SX1244−6、EMD Chemicals製)に添加し、チューブを10分間沸騰させることによって、試料を加水分解した。試料を、水浴中、RTで2分間冷却し、40μlの試料を、600μlのリン酸−バニリン試薬(0.6gのバニリン(カタログ番号VX0045−1、EM Science製)、10mlの100%エタノール(カタログ番号EX0289−1、EM Science製)、90mlのdHOおよび400mlのリン酸(カタログ番号PX0995−6、EMD Chemicals製))に添加し、混合した後、遮光して、RTで45分間インキュベートした。脂質の濃度を、525nmのODで測定し(Spectra Max 384、Molecular Devices製)、分光光度計に提供されているSoftMaxを使用して標準曲線を用いて内挿することによって決定した。第15日および第12日における再生マトリックスの全脂質含有量(μg)を、0時の出発材料中の全脂質含有量と比較した。
【0081】
表4.Opticell(登録商標)カセット中の再生マトリックスの全脂質含有量
再生マトリックス生成用液体を除去し、再生マトリックス全脂質含有量を、上記のように決定した。各時点で、4つのOpticell(登録商標)カセットから試料採取し、分析した。再生マトリックス生成の4つの独立したバッチからの結果を、平均±標準偏差として報告する。
【0082】
【化5】

核酸および脂質の分析結果は、これらの材料が出発材料中に存在し、時間の経過と共に分解することを示唆している。ゼロ時における出発材料中に検出されたDNAおよびRNAの量の変動の程度が大きく、それに伴って、初期の分解速度も変動するようである。異なる試料間でのこの変動は、第15日および第21日までには、時間と共に減少した。これらの成分のうちのいずれかもが増加する場合はなく、これは、細胞の活性が存在しないことのさらなる証拠となる。
【0083】
(実施例5.5)
放射標識基質を用いた、再生マトリックスの形成の間のタンパク質および核酸の合成
再生マトリックスの形成が、細胞の基本的な過程(DNA、RNA、タンパク質合成)に積極的にかかわるか否かを確立するために、再生マトリックス出発材料にDNA、RNAおよびタンパク質の合成のためのトリチウム標識基質を加えてインキュベートした。出発材料を含有する5つのOpticell(登録商標)を、放射性同位体標識基質を加えてインキュベートした。各基質に、1つのOpticell(登録商標)を用いた。使用した基質は、H−L−アミノ酸混合物(1mCi/ml、カタログ番号20063、MP Biomedicals製)、H−dTTP(10〜20Ci/mmol、カタログ番号24044、MP Biomedicals製)、H−チミジン(60〜90Ci/mmol、カタログ番号24060、MP Biomedicals製)、H−dUTP(35〜50Ci/mmol、カタログ番号24061、MP Biomedicals製)およびH−ウリジン(35〜50Ci/mmol、カタログ番号24046、MP Biomedicals製)であった。Opticell(登録商標)カセットに導入するために、25μlの同位体を、0.5mlのDMEM:F−12培地中に希釈し、次いで、各Opticell(登録商標)に注入し、回転させて混合を促進した。注入および混合の直後、Opticell(登録商標)(全量10ml)から各1.0mlを取り出し、ゼロ時の対照として処理した(下記を参照)。Opticell(登録商標)を37℃、空気中の5.0%COの雰囲気でインキュベートした。第1日、第3日および第7日の時点において、各1.0mlを分析のために取り出した。試料を、1.5mlの微量遠心チューブ中で氷上に保ち、100μl(0.1vol)の100%トリクロロ酢酸を添加し、チューブを反転させて、内容物を混合した。試料を、氷上で20分間インキュベートし、核酸およびタンパク質を沈殿させた。沈殿物を、0.1%TCA(氷冷)中のGF/Cフィルター(Whatman製)に、パスツールピペットを使用して添加した。微量遠心チューブの内容物をフィルターに添加し、氷冷0.1%TCAを使用して5回すすいだ。フィルターを、箔上に移し、1時間風乾した。フィルターを、4mlのScintillation Coctail(ScintiSafe、Fisher Scientific製)中に移し、5mlのプラスチック製シンチレーションバイアルに添加した。バイアルを、Beckman液体シンチレーションカウンターを使用して、トリチウムのエネルギーチャネル上で1分間カウントした。TCA沈殿性材料の結果(1分あたりのカウント数)を下記の表に報告する。培養ヒト線維芽細胞を、アッセイの陽性対照として使用した。
【0084】
表5.再生マトリックス形成材料を最初に播種した後、ゼロ時点、第1日、第3日および第1週における、各放射標識基質の1分あたりの全カウント数
【0085】
【化6】

これらの結果は、再生マトリックス形成工程の間には検出可能な細胞の活性がないことを示している。
【0086】
(実施例5.6)
代謝阻害研究
第1セットの実験(図13および14を参照)では、アフィディコリン(DMSOに溶解、10μg/mlの最終濃度)、α−アマニチン(水に溶解、10μg/mlの最終濃度)およびシクロヘキシミド(エタノールに溶解、10μg/mlの最終濃度)を使用して、全血から生成する再生マトリックス中で、DNAポリメラーゼ、RNAIIポリメラーゼおよびタンパク質合成の活性をそれぞれ阻害した。阻害剤剤を、Opticell(登録商標)に、第0日、すなわち、最初の供給日(第5日または第6日)に添加した。その後、培養物には、通常の培地を供給した。それぞれの処置および対照からの試料を、第21日に採取し、分析した。
【0087】
これらの阻害研究の結果を、図13〜16に示す。0、10、30および100nMのα−アマニチンを含有する対照の線維芽細胞培養物を、1週間培養した。α−アマニチンが添加されていない線維芽細胞は、第7日までにコンフルエントになった。10、30および100nMのα−アマニチンを含有する培養物はそれぞれ、第7日までに、約60〜70%、80〜90%および100%の死亡率を示した。
【0088】
別のセットの実験では、ATPase/ADPaseであるアピラーゼ(水に溶解、10μg/mlの最終濃度)を添加すると、5μmろ過試料において、マトリックスの形成を部分的に抑制することができることが示された。アピラーゼは、2つの機能を有する。すなわち、アピラーゼは、一方では、ATPase/ADPaseを有し、他方では、抗凝血活性を有する。5μmでろ過した試料中には存在する成分が、アピラーゼの抗凝血活性に感受性であり、その結果、それらの培養物に観察された「沈降」を生じた可能性がある。1μmでろ過した試料では「沈降」が存在しなかったのは、多分、フィルターのポアサイズが小さいと残留する、これらの成分が除去されたからであろう。
【0089】
(実施例5.7)
脂肪酸分析
質量分析法による分析を行って、全血から作製し、5μmまたは1μmのフィルターを通してろ過されて、3週が経過した再生マトリックス培養物中の脂肪酸含有量を決定した。表6に示すように、検出した多くの脂肪酸の種が、上清には存在せず、もっぱらマトリックス中に存在した。脂質1mgあたりの脂肪酸の比率は、マトリックスの場合、5μmでろ過した試料中よりも、1μmでろ過した試料中の方が高かった。この比率は、上清の場合には、逆転した。提示するデータは、わずか1つの試料および1回の分析に基づくことから、この段階では、結論を出すことはできないであろう。
【0090】
(表6.3週が経過した再生マトリックス(全血から作製)、上清についてのFolch分配による脂肪酸分析の結果。μg/脂質mgとして示す)
【0091】
【化7】

(実施例5.8)
浸透圧モル濃度
2つの異なる培養物の上清からの凍結試料の浸透圧モル濃度を、異なる期間にわたって分析した。培養が進むにつれて、浸透圧モル濃度が劇的に増加することが、下記の表7から明らかである。
【0092】
(表7.再生マトリックス培養物の浸透圧モル濃度の測定値)
【0093】
【化8】

(実施例5.9)
ATP促進性代謝活性に関する再生マトリックスの分析
再生マトリックスおよびそれに使用した生成用液体を、アデノシン三リン酸(ATP)のレベルについて、2、3、4、6および8週が経過した時点でアッセイし、これらのレベルを、出発材料中のATPのレベルと比較した。ENLITEN ATP Assayシステムを使用して、ATPを、発光によって迅速かつ定量的に検出した。メーカーの指示に従って、材料を、SDSで抽出した後、TCAを用いてあらかじめ沈殿させた。その上、いくつかの代謝酵素の存在を、同一の試料中で、ウェスタンブロット法を使用して試験した。ATPレベルについては、検出反応を、三つ組で行い、3つの異なる日にアッセイを行った。3バッチの再生マトリックスの出発材料は、ピコモル量(1×10−12mol)のATPを含有したが、ATPは、培養第6日で検出不可能となり、その後の培養時点のすべてで検出不可能な状態を維持した。
【0094】
代謝酵素である、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、アルドラーゼ、ピルビン酸脱水素酵素およびチトクロム還元酵素の存在を、ウェスタンブロット法を使用して評価した。アルドラーゼは、解糖を介するグルコースの分解を触媒する酵素であり、出発材料中に存在し、これは、インキュベーションの第21日と第28日の間では、低下したレベルで検出し、第60日では検出不可能であった。グルコース−6−リン酸脱水素酵素(ペントースリン酸経路)は、出発材料中に検出し、時間が経過すると、再生マトリックスに使用した生成用液体中に優勢に検出した。再生マトリックス中のそのレベルは、第28日までに低下し、培養の残りの期間中、低い状態を維持した。しかし、この酵素のゲル上のバンドは、より低い分子量であり、これは、分解された形態のみが検出されたことを示唆している。ピルビン酸脱水素酵素(クレブス回路)は、出発材料中に検出し、そのレベルは、第28日まで変化するようには見えなかった。ここでも、バンドは、予想したよりも低い分子量であり、これは、分解産物が検出されたことを示唆している。この酵素は、その後のいずれの時点でも検出できなかった。チトクロム還元酵素(酸化的リン酸化)は、出発材料中に検出し、より速い移動性のタンパク質(出発材料には存在しなかった)を、その後の時点のすべてで認め、これは、分解産物が再生マトリックス中に検出されたことを示唆している。
【0095】
最初の播種後わずか第6日で、再生マトリックス中に検出可能なレベルのATPが存在しないことは、これらの酵素が機能性でないという結論を支持している。ピルビン酸脱水素酵素およびチトクロム還元酵素の両方は、大量のATP(反応あたり36ATP)を産生する反応を触媒する。
【0096】
(実施例5.10)
その他の分析
マトリックスの組成分析は、再生マトリックス中には、細胞代謝活性の証拠がないことを示している。培地のpHは、培養中ずっと一定を維持し、したがって、これは、代謝活性が非常に低いまたはまったくないことを示している。さらに培地の浸透圧モル濃度は、培養期間に、劇的に増加するので、細胞増殖には非許容状態となる。
【0097】
クーマシー染色したSDS−PAGEゲルの比較から、5μmでろ過した試料と1μmでろ過した試料との間で、バンドパターンの軽度の差が明らかになった。ゲルの画像を、図17に示す。青でのバンドの命名は、以前に質量分析によって同定したバンドを示す。赤の丸によって示す新しいバンド(M7およびM8)は、1μmでろ過したマトリックスのみで観察されたバンドである。これらのバンドの出現は、その他のタンパク質が除去された結果、特定のバンドが濃縮されたことによると思われる。再生マトリックスの異なるプロテアーゼおよびヌクレアーゼに対する感受性を試験した。
【0098】
DNaseおよびRNase等のヌクレアーゼは、再生マトリックスに対して効果を示さなかった。ペプシン、トリプシン、パパイン、プロテイナーゼK等のタンパク質分解酵素は、マトリックスを消化することができた。
【0099】
(実施例6)
再生マトリックスを使用するin vitroにおける神経栄養性遺伝子の活性化
ヒト神経芽腫細胞(細胞系SH−SY5Y、カタログ番号CRL−2266、American Type Tissue Culture Collection製、Manassas、バージニア州)を使用して、再生マトリックスの神経栄養性活性を特徴付けた。以下の基本培地(BM)を使用して、細胞を培養した:10%FCS(カタログ番号26140−079、Invitrogen製)および5μg/ml抗生物質ゲンタマイシン(カタログ番号15710064、Invitrogen製)を用いて補足したDMEM:F12(カタログ番号30−2006、ATCC)。これを、増幅し、T125組織培養フラスコを使用して、コンフルエンスで継代することによって定期的に維持した。
【0100】
遺伝子誘導の分析のために、細胞をトリプシン処理し、T75フラスコ中に、10細胞/mlで播種し、3日後に出発材料を添加した。試験した材料は、基本培地(BM)、マトリックス媒体(R)、OptiCell(登録商標)出発材料(O)および再生マトリックス(M)であった。液体の試験材料を不活性化するために、OptiCell(登録商標)出発材料(O)を、15mlのポリスチレン製のコニカル培養チューブに入れ、60℃で30分間加熱した。再生マトリックスを不活性化するために、再生マトリックスに使用した液体を、OptiCell(登録商標)から除去し、再生マトリックスを、PBS(カタログ番号21−030−CM、Mediatech製)(各10ml)で3回洗浄した。10mlのホルマリン(PBS中の3.7%ホルムアルデヒド、カタログ番号2106−01、JT Baker製)を、再生マトリックスを含有するOptiCell(登録商標)に添加し、30分間インキュベートした。再生マトリックスをPBSで3回洗浄し、実験のために収集するまでPBS中に保管した。
【0101】
再生マトリックス処理(活性または固定)のために、OptiCell(登録商標)の全内容物を、70%コンフルエントなSH−SY5Y神経芽腫細胞を含有するT75培養フラスコに添加した。3時間後、細胞を、PBSで洗浄し、細胞を削り取って、2.0mlの微量遠心チューブ中にピペットで移すことによって収集した。細胞を、12,000RPMで遠心分離し、上清を捨てた。Atlas Total RNA Isolationキット(カタログ番号K1036−1、BD Biosciences、元はClontech製)を使用して、メーカーの指示に従って、全細胞RNAを単離した。RNAペレットを、RNaseを含まないHOに溶解し、OD260によって定量化した。RT−PCRを、2μgのRNA鋳型を使用して、Ambion Retroscript Kit(カタログ番号1710、Ambion、Austin、テキサス州)を使用して、メーカーの指示に従って行った。RT−PCRのために、ヒトのグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)、成長関連タンパク質43(GAP−43)、Netrin−1、神経細胞接着分子(NCAM−1)、ニュートロフィン−3(NT−3)、ニュートロフィン−6(NT−6)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)および線維芽細胞増殖因子−9(FGF−9)に特異的なプライマーを使用した。GAPDHの転写は、このアッセイで使用する刺激の型によって影響されないはずであることから、GAPDHを対照として使用した。使用したプライマーを、以下に示す。
【0102】
【化9】

PCRのために、5μlのRT反応産物を、45μlのPCR反応カクテル(5μlの10×PCR緩衝液、100mM Tris−HCl、pH8.3、500mM KCl、15mM MgCl、2.5μlの2.5mM dNTPミックス、32.1μlのdHO(ヌクレアーゼを含まない)、各2.5μlのセンスおよびアンチセンス10μMプライマーストック、0.4μlの5U/μl Taq Polymerase(カタログ番号2052、Ambion製))に添加した。PCRパラメーターは、94℃、2分(最初の変性)、次いで、94℃、30秒、55℃、30秒、および72℃、40秒の30サイクル、さらに、72℃、5分の仕上げの最終ステップであった。PCR産物を、ウェルあたり10μlのPCR産物を使用して、2.5%アガロースゲルを58Vで2時間流して分解し、0.5μg/ml臭化エチジウムで染色した。ゲルのデジタル画像を、上方制御の倍増について、Scion画像分析ソフトウェア(Scion製、Frederick、メリーランド州)を使用して分析した。添加する媒体単独から産生したRNAのRT−PCR産物を含有するレーンのバンド強度を使用して、その他の処置からのシグナルを規準化した(データを示さず)。
【0103】
RT−PCR分析は、FGF−9、Netrin−1、NT−3、NCAM−1およびGAP−43の遺伝子が再生マトリックスとのインキュベーションに応答して活性化することを示した。再生マトリックスによる遺伝子の活性化は選択的であるようである。これは、GAPDH、NT−6およびGDNFの遺伝子の転写は、これらの実験では刺激されなかったからである。これらのデータは、ヒト神経芽腫細胞系SH−SY5Yは、再生マトリックスに選択的に応答して、機能および分化に関係する遺伝子を活性化させることを示している。増殖因子のみで補足した生成媒体は、FGF−9およびNetrinのみに関して、媒体単独と比較して、遺伝子の上方制御活性のわずかな増加を示した。これらの結果は、再生マトリックスの遺伝子の上方制御活性は、再生マトリックスに固有の特性によるものであって、単に増殖因子の存在によるものではないことを示唆している。
【0104】
SH−SY5Y細胞における再生マトリックスによるNT−3、NCAM−1、Netrin−1、GAP−43およびFGF−9の遺伝子の発現の活性化を、マトリックスを60℃で30分間処置することによって、不活性化することができる(図19)。最後に、ホルマリンまたは高エネルギーガンマ照射(30kGy、30分)を用いて再生マトリックスを処置してもまた再生マトリックスを不活性化する(データを示さず)。
【0105】
定期的な分析のために、再生マトリックスがGAPDH(対照)、GAP−43、NCAM−1およびNT−3の上方制御に及ぼす効果を、4つの連続した生成バッチについて決定した。各バッチからの再生マトリックスを、第15日および第21日で試料採取し、出発材料の遺伝子誘導活性と比較した(表8)。上方制御の倍増を、4つの生成運転(各時点で2つのOptiCell(登録商標)カセット)から、RT−PCRによって決定した。結果を、平均±標準偏差として報告した。
【0106】
(表8.生成第0日(出発材料)、第15日および第21日における、再生マトリックスとのインキュベーション後のSH−SY5Y神経芽腫細胞中のGAPDH、NT−3、NCAM−1およびGAP−43の上方制御の倍増の平均)
【0107】
【化10】

(実施例6.1)
ヒト神経芽腫細胞における、増殖因子が補足されていない再生マトリックスが遺伝子の誘導に及ぼす効果
再生マトリックスを、いずれの増殖因子も補足せず、DMEM:F12培地単独を使用して生成した。GAPDH、NT−3、NCAM−1およびGAP−43について、SH−SY5Y神経芽腫細胞における遺伝子の上方制御応答を、ITS(2×)、EGF(20ng/ml)およびbFGF(40ng/ml)を補足して生成した再生マトリックスと比較した。増殖因子なしで生成した再生マトリックスは、再生マトリックスを増殖因子を補足した生成媒体中で生成する場合と変わらない遺伝子の上方制御活性を有する(データを示さず)。
【0108】
(実施例6.2)
再生マトリックスの神経細胞遺伝子上方制御活性
12日間形成した再生マトリックスは、神経細胞上方制御活性を有し、その周囲の溶液(CM)および再生マトリックスを形成することになる最初(第0日)の溶液(Rep)は、限られた神経細胞上方制御活性を有する。図18A〜18Cは、再生マトリックスを用いて3時間処置したヒトSHSY神経芽腫細胞上のRT−PCRの結果を示す。標準対照と比較した上方制御の倍増の値を示す。再生マトリックスを、同一のヒトのドナーからの非凝固(EDTA処置)全血から同時に生成した。A=補助剤(標準的な再生マトリックス生成媒体)を加えたDMEM/F12基本培地。ITS=インスリン+トランスフェリン+セレン補助剤を添加したDMEM/F12基本培地。EGF=上皮増殖因子補助剤を添加したDMEM/F12基本培地。FGF=線維芽細胞増殖因子2補助剤を添加したDMEM/F12基本培地。全=ITS+EGF+FGF補助剤を添加したDMEM/F12基本培地。なし=補助剤を添加しないDMEM/F12基本培地。供給なし=再生マトリックス形成期間を開始(第0日)後、培地を追加して添加しなかった。
【0109】
図18A〜18C中のA〜Sの行は、以下の再生マトリックスを指す。
【0110】
A=再生マトリックス生成用の完全な媒体;
B=第12日、全、RM−1;
C=第12日、全、CM−1;
D=第12日、ITS、RM−1;
E=第12日、ITS、CM−1;
F=第12日、EGF−ITS、RM−1;
G=第12日、EGF−ITS、CM−1;
H=第12日、FGF−ITS、RM−1;
I=第12日、FGF−ITS、CM−1;
J=第12日、なし、RM−1;
K=第12日、なし、CM−1;
L=第12日、供給なし、RM−1;
M=第12日、供給なし、CM−1;
N=第0日、EGF−ITS、Rep−1;
O=第0日、EGF−ITS、Rep−2;
P=第0日、FGF−ITS、Rep−1;
Q=第0日、FGF−ITS、Rep−2;
R=第0日、なし、Rep−1;
S=第0日、なし、Rep−2。
【0111】
図18A〜18Cに見ることができるように、いずれの場合も、再生マトリックスは、第21日において、その出発溶液(第0日)と比較して、増加した神経細胞遺伝子上方制御活性を示した。第21日における周囲の溶液は、引き続き、出発溶液(第0日)に観察された限られた活性を示した。したがって、形成されたマトリックスのみが、増加した活性を示し、再生マトリックスが形成されても、その周囲の溶液の活性が減少することはなかった。したがって、培養物全体的の神経細胞遺伝子上方制御活性は、再生マトリックスが形成されるにつれて、時間と共に劇的に増加した。
【0112】
(実施例7)
再生マトリックスのラットNeuroscreen−1(登録商標)細胞に及ぼす効果(神経突起の伸長の誘導)
ラットPC−12褐色細胞腫細胞からの増強されたサブクローンであるNeuroscreen(登録商標)細胞(Tsuji,M.ら、「Induction of neurite outgrowth in PC 12 cells by alpha−phenyl−N−tert−butylnitron through activation of protein kinase C and the Ras−extracellular signal−regulated kinase pathway」、J.Biol.Chem.、276巻、32779〜32785頁、2001年;Wu,Y.Y.およびBradshaw,R.A.、「Synergistic induction of neurite outgrowth by nerve growth factor or epidermal growth factor and interleukin−6 in PC 12 cells」、J Biol Chem、271巻、13033〜13039頁、1996年)を、Cellomics(カタログ番号R04−0001−C1)から得、再生マトリックスと共にインキュベートした。Neuroscreen(登録商標)細胞は、神経突起を伸長することによって応答した。その上、再生マトリックスの存在下では、Neuroscreen(登録商標)細胞の形態が変化し、平板化し、より細長くなる(図20)。
【0113】
Neuroscreen(登録商標)細胞−再生マトリックス相互作用研究のために、細胞および再生マトリックス試料材料を、以下の方法を使用して調製した。相互作用アッセイに先立って、Neuroscreen(登録商標)細胞を、コラーゲンでコートしたプラスチック上での定期的な培養によって維持し、RPMI(カタログ番号10−040−CV、Mediatech製)、4.0mMグルタミン(カタログ番号25−005−CI、Mediatech製)からなり、20%ウマ血清(カタログ番号35−030−CV、Mediatech製)、10%ウシ胎仔血清(カタログ番号35−010、Mediatech製)を補足した基本培地を使用してコンフルエンスで継代した。再生マトリックス相互作用を確立する前日に、細胞をトリプシン処理した後、カウントし、96ウェル細胞培養プレート(BD Biosciences、カタログ番号47743−953、Axygen製)中にウェルあたり2,000細胞で蒔いた。再生マトリックスを含有するOpticell(登録商標)カセットを開き、再生マトリックスを100μmのナイロン製の細胞ストレーナー(カタログ番号352360、BD Falcon製)に移し、ふるいにかけた後、1mlのPBS(カタログ番号MT21−030−CM、Mediatech製)中に分散させた。再生マトリックスを分散させた10μlの懸濁液を、前日に播種したNeuroscreen(登録商標)細胞を含有する各ウェルに添加した。
【0114】
各生成バッチについて、上記の分析のために、開始後第0日、第15日および第21日において試料を採取した。Neuroscreen(登録商標)細胞を、神経突起の伸長について、以下のβ−チューブリンの免疫染色を使用してアッセイした。培養4日後に、10%v/vの37%ホルムアルデヒド(カタログ番号2106−01、J.T.Baker製)をウェル中の培地に直接添加することによって、細胞を固定した。プレートを、37℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した後、透過処理し、ブロッキング緩衝液(10%Normalヤギ血清:カタログ番号S26−100M、Chemicon製、5%BSA:カタログ番号2910、Omnipure製、0.1%Saponin:カタログ番号102855、MP−Biochemicals製)で2.5時間ブロックし、ブロッキング緩衝液中に1:100で希釈した抗β−チューブリン抗体(マウスモノクロナール、細胞培養上清、カタログ番号E7、Developmental Studies Hybridoma Bank製)を使用して、4℃で16時間染色した。細胞を、PBS中で2回洗浄し、ブロッキング緩衝液中に1:200で希釈したalexa488ヤギ抗マウス二次抗体(カタログ番号A11029、Invitrogen製)を用いて標識した。細胞を、Hoechst33342(カタログ番号H1399、Invitrogen製)を用いて、PBS中の2μg/mlで30分間対比染色し、次いで、PBSで1回洗浄した。プレートを、KineticScan顕微鏡(Cellomics製、V2.2.0.0 Build 19)を用いて、神経突起Outgrowth Bio−application V2.0を使用して走査した。
【0115】
選択したアウトプットパラメーターは、全細胞、10μm超の神経突起全長を有するウェル中の細胞のパーセントである神経突起伸長指数(NOI)、および各細胞における平均神経突起長(ANL)μmを含んだ。
【0116】
このアッセイの陽性対照として、神経増殖因子(NGF、カタログ番号13257−019、Invitrogen製)を100ng/mlで添加した。要約すると、使用した処置を、以下に示す。それぞれについて、NGFを添加または未添加:再生マトリックス、Neuroscreen−基本培地、Neuroscreen−基本培地+100ng/ml NGF、増殖因子なしで作製した再生マトリックス。
【0117】
細胞カウントが視野あたり100個超であるウェルのみを分析した。ウェルあたりのNOIの平均を、Neuroscreen(登録商標)基本培地および100ng/ml NGFを含有する陽性対照ウェルからのNOI値の平均で割った。この値を、NGF応答パーセントして報告する。Neuroscreen(登録商標)細胞からの神経突起伸長刺激を試験した4つの独立した実験からのデータを、図21に示す。増殖因子補助剤の存在下で作製した再生マトリックスによる神経突起伸長刺激と比較した、増殖因子補助剤の非存在下で作製した再生マトリックスによる神経突起伸長刺激を、図22に示す。
【0118】
これらの結果は、Neuroscreen(登録商標)細胞を用いて試験すると、再生マトリックスは、有意な神経突起誘導活性を有することを示している。しかし、神経芽腫細胞を用いた遺伝子上方制御の研究からの結果とは異なり、再生マトリックス生成の間にITS、EGFおよびbFGFの補助剤を添加することによって、再生マトリックスの神経突起伸長活性を有意に増加させることができる。
【0119】
(実施例8)
再生マトリックスによる増殖因子活性の保護および増強
ヒト末梢血を、K2EDTAを含有する8mlのVacutainer(商標)チューブ10本に採取し、氷上でオーバーナイトで発送し、次いで、血液を重力で分離させるために、+4℃の冷蔵庫内に6時間垂直に置いた。次いで、保管のために、重力で分離した血液を含有するVacutainer(商標)チューブを、−20℃の冷凍庫内に慎重に垂直に置いた。2日後、4本のチューブを冷凍庫から取り出し、チューブスタンド内に垂直に置き、20℃で融解させた。融解した時点で、2本のチューブの血漿−血小板−バフィーコート画分を取り出し、50mlのコニカルチューブに入れ、残りの2本のチューブの全内容物を、別の50mlのコニカルチューブに入れた。各コニカルチューブの内容物を完全に混合した後、各コニカルチューブの5mlを、別の50mlのコニカルチューブに、100ng/mlの神経増殖因子(NGF)を含有する10mlのTR−10培地と共に入れた。TR−10培地の組成を、表9に示す。各コニカルチューブの内容物を完全に混合した後、溶液を、5μmのシリンジフィルター、次に、1.2μmのシリンジフィルターを通してろ過し、次いで、新しい50mlのコニカルチューブに入れた。100ng/mlのNGFを含有する十分なTR−10培地を添加して、各コニカルチューブの内容物を等しく50mlとした。各コニカルチューブの内容物を完全に混合した後、10mlの量の溶液を、5つのOpticell(登録商標)の別々のセットに注入し、次いで、37℃、20%CO2、2%O2の無加湿のインキュベーター内に水平に置いた。したがって、各Opticell(登録商標)には、1μgのNGFを含んだ。試料を、6日間そのまま放置し、その後、3mlのTR−10培地を各Opticell(登録商標)に添加した。第8日、第10日および第12日に、追加の1mlのTR−10培地を各Opticell(登録商標)に添加した。第13日に、各Opticell(登録商標)の内容物を別の15mlのコニカルチューブに入れ、500×gで回転させた。上清を取り出し、その後の分析のために保存した。次いで、各15mlのコニカルチューブの内容物をPBSで洗浄し、500×gで回転させ、上清を取り出し、捨てた。これを、(再生マトリックスがOpticell(登録商標)中に存在した時に)再生マトリックスのそれぞれが囲まれていたすべての元々の溶液を除去するために、さらに2回繰り返した。次いで、各再生マトリックス(質量約1gおよび体積約1ml)を、その後の分析ために保存した。各再生マトリックスは、約5mgのタンパク質を含有した。再生マトリックスを、5,000×gで30分間遠心分離し(得られた液体の上清を除去すると)、再生マトリックスの水和のレベルは、約半分となることができた。
【0120】
(表9.TR−10組成)
【0121】
【化11】

【0122】
【化12】

2週間後、Neuroscreen(登録商標)アッセイを、実施例9に従って準備した。神経増殖因子(NGF)の応答曲線を作成した(図23を参照)。Neuroscreen(登録商標)アッセイの96ウェルプレートの各ウェルは、200μlの溶液を含むので、100ng/mlの濃度のNGFを有するウェルは、総計20ngのNGFを含んだ。
【0123】
早期の研究は、10mgの再生マトリックスの添加によって、100ng/ml NGFに曝露したNeuroscreen(登録商標)細胞は、(長さ10μm超の神経突起の)平均神経突起長が倍増する(表10参照)ことを示していたので、このアッセイ上では、nGFを出発材料溶液に添加する効果を決定するために、実験を行った。
【0124】
(表10.RMxおよび100ng/ml NGFに曝露したNeuroscreen(商標)細胞の平均神経突起長。値は、陽性対照(100ng/ml NGF)のパーセントとして表す)
【0125】
【化13】

各群から、5つの再生マトリックスのうちの3つおよびそれらの対応する溶液(保存した上清)を使用して、Neuroscreen(登録商標)アッセイにおける応答曲線を決定した(下記を参照)。Neuroscreen(登録商標)細胞を、NGF含有再生マトリックスに曝露すると、Neuroscreen(登録商標)細胞は、(長さ10μm超の神経突起の)平均神経突起長が倍増するという非常に類似した結果を得た(下記を参照)。しかし、この倍増効果は、全血から作製した0.2mgの再生マトリックス、および血漿−血小板−バフィーコート画分(赤血球画分を有しない、図24を参照)から作製した0.03mgの再生マトリックスの場合のみで得られた。仮に出発材料溶液に添加したNGFが、形成されつつある再生マトリックスと周囲の溶液との間で等しく分散しているとすると、Neuroscreen(登録商標)アッセイのウェルに添加した再生マトリックスの全量は、全血および血漿−血小板−バフィーコート画分から作製した再生マトリックスに関して、それぞれ、わずか0.02ngおよび0.003ngのNGFを含有するはずである。仮にすべてのNGFが再生マトリックスに集まるとすると、その場合には、ウェルあたりのNGFの全量は、それぞれ、0.2ngおよび0.03ngとなるであろう。しかし、(これらの実験と平行して、同時に同一の(新鮮な)NGFを用いて行った)NGF応答の標準曲線の点は、ウェルあたり10ng未満の量では、新鮮なNGFがNeuroscreen(登録商標)細胞に及ぼす効果には制限があるか、効果がなく、最大の応答がウェルあたり100ngのNGFで生ずることを示している。血漿−血小板−バフィーコート画分から作製した再生マトリックスは、この最大の応答の倍増を、そのようなNGFの量(または濃度)の1/3000から1/30000(またはそれ未満)で示すことから、再生マトリックスには、Neuroscreen(登録商標)細胞に対して増殖因子感作(またはそれに類似する)効果が存在するに違いない。さらに、平均神経突起長が、NGF単独で達成することができる最大閾値を上回って倍増したことから、再生マトリックスは、その他の神経突起増殖経路も刺激するに違いない。再生マトリックス単独(いずれのNGFもなし)では、Neuroscreen(登録商標)細胞の平均神経突起長は、陽性対照(100ng/mlのNGF)の約60%となることが決定されている。
【0126】
驚くべきことに、上清(または13日の再生マトリックス形成期間の終わりにおける各Opticell(登録商標)中の再生マトリックスの周囲の溶液)もまた、Neuroscreen(登録商標)細胞のNGFに対する最大の応答を倍増させた。仮に出発材料溶液に添加したNGFが、形成されつつある再生マトリックスと周囲の溶液(上清)との間で等しく分散しているとすると、倍増効果(または最大の応答)は、わずか、ウェルあたり5ngのNGF、または標準的な最大の応答(これは、上清で得られた応答のわずか1/2に過ぎない)に必要であるNGFの量の1/20で生じる。したがって、効力ははるかに低いが、再生マトリックスでの効果と同様な効果が、上清でも見られる。これは、再生マトリックスおよび再生マトリックス複合体に凝集する前の再生マトリックスの小さな粒子を形成することにもなる工程の間に存在し、形成される特性によると思われる。
【0127】
さらに、NGF活性が、37℃では、時間と共に減少することから、再生マトリックスは、増殖因子保護効果もまた有するようである。13日が経過し、4℃で2週間さらに保管した再生マトリックスのNGF活性アッセイは、同一のロットからの新鮮なNGFよりもはるかに高いNGF活性を示す。早期の実験では、同一の効果が、EGF、bFGFおよびBDNFで観察された。
【0128】
(実施例9)
DMEM/F12基本培地およびTR−10基本培地を用いて調製した再生マトリックスの用量応答
表11は、DMEM/f12基本培地またはTR−10基本培地のいずれかを用いて調製した再生マトリックスの神経突起伸長性の用量応答の比較を示す(アッセイを、実施例7に従って準備した)。値を、陽性対照(NGF)のパーセントとして表す。
【0129】
(表11)
【0130】
【化14】

(実施例10)
再生マトリックスのラット胎仔脊髄からの初代細胞培養に及ぼす効果
健常なラットの胎仔(E18)および成体から脊髄を得た。使用した神経細胞培養プロトコールは、Brewerら(「Serum−free B27/neurobasal medium supports differentiated growth of neurons from the striatum,substantia nigra,septum,cerebral cortex,cerebellum,and dentate gyrus」、J.Neurosci.Res.、42巻、674〜683頁、1995年)を改作した。脊髄を、ラットから、4℃の35mmペトリ皿中のB27(カタログ番号17504−044、Invitrogen製)および0.5mM L−グルタミン(カタログ番号25−005−CI、Mediatech製)で補足した2mlのHibernate−A(Brainbits製、Springfield、イリノイ州)中に解体した。髄膜および過剰の白質を同一の培地中で、4℃の第2の皿に取り出した。脊髄を、同一の培地であらかじめ湿らせた無菌の紙に移し、脊髄の長軸に垂直な約0.5mm厚さの切片を作製し、同一の培地の4℃のチューブに移した。30℃で8分間振とう後、切片を、広い口径のピペットを用いて、パパインを含有する30℃の別のチューブに移した。パパイン(15〜23単位/タンパク質mg、システインで活性化されていない)は、12mgを37℃で5分間加温した6mlのHibernate Aに溶解させることによって調製した。溶液を、ろ過滅菌し、4℃で保存した。切片を、30℃の水浴中で30分間インキュベートし、この際、切片を懸濁させるのに十分なスピード(170rpm)でプラットフォームを回転させた。切片を、2mlのHibernate−A/B27を含有する30℃の15mlのコニカルチューブに移し、RTで5分間放置した。切片を、シリコン処理パスツールピペット(火炎研磨した先端)を用いて(約30秒かけて)10回粉砕した。2分間放置して小片を沈降させ、上清を別のチューブに移した。第1のチューブからの沈降物を、2mlのHibernate A/B27中に再懸濁させ、粉砕および沈降の工程をさらに2回繰り返した。各粉砕からの上清を組み合わせて、6mlの懸濁液を得た。
【0131】
細胞を、60〜150μlのNeurobasal−A/B27中の90〜320/mmで、50μg/mlのリジン−アルギニン共重合体(LAS、BrainBits製)であらかじめコートし、オートクレーブしたガラス上に蒔き、100mmの皿中に分布させた。蒔いてインキュベートして(5.0%O、5.0%CO、残りはN)から1時間後、カバーガラスを素早く取り出し、流し、37℃の24ウェルプレート中の0.4mlのNurobasal−A/B27中に移した。培地を吸引し、カバーガラスを暖かいHibernate−Aで1回すすぎ、細胞に、Neurobasal−A/B27、0.5mMグルタミン、10μg/mlゲンタマイシンおよび5ng/ml bFGFで再度栄養供給した。第4日に、培地の半分を除去し、それを5ng/ml bFGFを含有する等容量の新鮮な培地で置換することによって、細胞に栄養供給した。神経細胞を、6日間、接着および増殖させてから、相互作用実験のために使用した。これらの細胞は、健常な外観を示し、着実に増殖し、相互作用の開始時には、40〜60%の間でコンフルエントであった。
【0132】
3つの異なるバッチのマトリックスを、第16日、第9日および第7日のそれぞれにおいて評価した。3つのバッチのすべては、EDTAを抗凝血薬として使用して採取した非凝固血から誘導した。2つのバッチは、グルコース、グルタミンおよびピルビン酸を含有し、1つのバッチは、それらを含有しなかった。ラット胎仔(E18)全脊髄の単一細胞懸濁液を上記のプロトコールに従って調製した。細胞の単層を、ガラス製のスライドガラス上に増殖させ、マトリックスまたは対照培地のいずれかと共にインキュベートした。相互作用培養の開始後第7日において、カバーガラスをICCのために処理した。マトリックスなしの脊髄初代細胞である対照を、培養系の機能性の陽性対照として使用した。
【0133】
免疫細胞化学分析の結果を示す顕微鏡写真を、図25および26に示す。対照は、成熟神経細胞については陽性に染色し、これらのすべてが、グリア細胞については陰性に染色した(図25)。対照の培養物中、Tuj1陽性細胞の数が4.2%であり、GFAP陽性細胞が0.4%である。Tuj1およびGFAPの両方に陽性に染色した細胞は、検出されなかった。
【0134】
マトリックスと共にインキュベートした神経細胞は、顕著な、長い軸索をより低い割合で示した。しかし、培養物内のTuj1陽性細胞の割合は、再生マトリックスありでは55%まで増加した(大部分の染色が細胞体および短い突起に限定されていた)のに対して、再生マトリックスなしでは4.2%であった。培養物内のGFAP陽性細胞の割合は、再生マトリックスありでは92%まで増加したのに対して、対照では0.4%であった。再生マトリックスで処理した培養物中、約50%の細胞が、Tuj1およびGFAPの両方に陽性であり、これは、これらの細胞が、三相性の神経前駆細胞であることを示し、対照中には、そのような細胞は観察されなかった。
【0135】
この観察は、再生マトリックスが、若く、新しい神経細胞の増殖を促進することを示している。同一の期間中のアストロサイトの存在の増加から、組織の神経新生の現象および/または「損傷」の初期の応答を説明することができ、これは、治癒カスケードに要求され、それに先行するステップである。
【0136】
図26に示すように、再生マトリックスで処置した細胞は、Tuj1およびGFAPの両方に陽性である細胞を含有し、これは、これらの細胞が、三相性の神経前駆細胞であることを示し、対照中には、そのような細胞は観察されなかった。
【0137】
(実施例11)
再生マトリックスのヒト線維芽細胞に及ぼすin vitroにおける効果
相互作用アッセイに先立って、ヒト新生児包皮線維芽細胞(細胞系番号CCD 1079 Sk、カタログ番号CRL 2097、ATCC)を、基本線維芽細胞培地(10%FBSおよびpen−strepを添加したDMEM)を使用する定期的な培養およびコンフルエンスでの継代によって維持した。細胞をトリプシン処理し、空のOpticell(登録商標)メンブレイン(Opticell(登録商標))、または凝固血を使用して形成した再生マトリックスが接着したOpticell(登録商標)メンブレイン(再生マトリックス)のにいずれかの上に蒔いた。メンブレインを1cmに切断した。メンブレインを、6ウェルプレートの底に、無菌のVaselineの小片を使用してあらかじめ付着させた。培地を添加する前にVaseline点をウェルの底部に置き、それから、培地を添加し、最後に、メンブレインをその中心を上部から押すことによって置いた。各ウェルは、2つのOpticell(登録商標)処置および2つの再生マトリックス処置を含有した。コンフルエントなプレートからトリプシン処理した細胞を、カウントし、3mlの培地中に、ウェルあたり20,000細胞の密度で蒔いた。プレートを、インキュベーター中に置き、2時間後に、いくつかの代表的な試料を固定した後、核を染色し、細胞数を推定した。残りのメンブレインを、静かにさらに2日間保った。BrdU(カタログ番号203806、EMD Biosciences製)を、増殖培地中に20μMまで、10mMストックを希釈することによって添加した。インキュベーション期間後、メンブレインを、24ウェルプレート中で、1mlの氷冷70%エタノール(カタログ番号UNI170、EM Science製)中の15mMグリシン(カタログ番号G−8790、Sigma製)中に浸漬した。固定した細胞を、−20℃で、少なくとも24時間保管した。BrdUの検出のために、細胞を、PBS(カタログ番号MT21−030−CM、Mediatech製)中で1回洗浄し、KitII用モノクロナール抗BrdU抗体−ヌクレアーゼ試薬(カタログ番号1299964、Roche製)の1:10希釈で処置し、37℃で1時間インキュベートした。細胞をPBS中で2回洗浄し、ブロッキング緩衝液(10%正常ヤギ血清:カタログ番号S26−100M、Chemicon製、5%BSA:カタログ番号2910、Omnipure製、0.1%サポニン:カタログ番号102855、MP−Biochemicals製、最終溶液を、0.2μmのフィルターを通して無菌ろ過し、4℃で保管した)中のAlexa−488標識ヤギ抗マウス抗体(カタログ番号A11029、Invitrogen製)の1:200希釈を加えて、室温で1時間インキュベートした。試料を、PBS中の2μg/ml Hoechst33342(カタログ番号H1399、Invitrogen製、−20℃に保った10mg/mlストック)を用いて30分間対比染色し、PBS中で1回洗浄した。次いで、メンブレインを反転させ、再び24ウェルプレート上の50μlのグリセロール中にマウントした。プレートを4℃で保管し、1週間以内に走査した。
【0138】
KineticScan(Cellomics製,V2.2.0.0 Build 19)を用い、Bio−applicationソフトウェアTarget Activation V2.0を使用して、画像を分析した。画像を、ハードドライブにCellomics専売特許のフォーマットで保存し、プレートを走査しながら分析した。陽性細胞の閾値に関する設定を、各染色のセッションについて、陰性細胞および陽性細胞のヒストグラムをプロットすることによって得た。固定の間にすべてのウェルから細胞が外れたプレートおよび信号が観察されなかったプレートは、最終的な分析には含めなかった。
【0139】
Opticell(登録商標)メンブレイン上で増殖させた細胞は、BrdUに対して、総計21.8±2.6%陽性であり、再生マトリックス上で増殖させた場合には、わずか13.4±2.0%陽性に過ぎなかった。初期の接着の差を、接着の直後に細胞をカウントすることによって除外した(すなわち、接着した細胞の総数は、これら2つの試料で同一であった)。
【0140】
2時間で再生マトリックスに接着した線維芽細胞は、対照のOpticell(登録商標)の場合と同数であったが、核のサイズは低下し(多分、アポトーシスの第1段階を示す)、24時間の期間にわたり再生マトリックス上で増殖させた線維芽細胞の場合、BrdU陽性細胞の数は減少している(図28A〜Cを参照)。これらの再生マトリックス上でより長期に増殖させた線維芽細胞培養物では、対照の培養物と比較して、線維芽細胞の密度が劇的に減少する(これらの線維芽細胞の一部は、アポトーシスを経ている)。図27は、5μmろ過全血から作製した再生マトリックス上で5日間増殖させた線維芽細胞の増殖密度のこの差を示す。
【0141】
(実施例12)
再生マトリックスのヒトアストロサイトに及ぼすin vitroにおける効果
形態変化アッセイを、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)についての染色を使用して行う以外は、線維芽細胞に用いたと同一の処置および培養条件を、アストロサイトに対して使用した。ヒト初代アストロサイト(カタログ番号1800、Sciencell製、San Diego、カリフォルニア州)を、ポリ−D−リジンでコートしたプレート上の基本培地(Astrocyte Medium、カタログ番号1801、ScienCell製)中で培養し、コンフルエンスで継代した。相互作用実験の前日に、細胞をトリプシン処理した後、カウントし、ポリ−D−リジンでコートした96ウェルプレート(カタログ番号354461、BD Falcon製)中にウェルあたり2000細胞で、BrdUのために蒔いた。
【0142】
各バッチについて、上記の分析のために、開始後第0日、第6日、第12日、第15日、第18日および第21日において、試料を採取した。各処置を、各測定について、4回反復した(例えば、試料あたり4つのウェル)。増殖のために、再生マトリックスの存在下の2日後に、BrdU(カタログ番号203806、EMD Biosciences製)を、増殖培地中に、400μMストックを1:20で200μlの培地に希釈することによって、20μMまで添加した。細胞を、37℃、5%O、5%CO、残りはNで、さらに1.5時間インキュベートした。培地をデカンテーションによって除去し、細胞を、氷冷70%エタノール(カタログ番号UNI170、EM Science製)を用いて、15mMグリシン(カタログ番号G−8790、Sigma製)中に固定した。固定した細胞を、−20℃で少なくとも24時間保管した。BrdUの検出のために、細胞を、200μlのPBS(カタログ番号MT21−030−CM、Mediatech製)中で1回洗浄し、KitII用モノクロナール抗BrdU抗体−ヌクレアーゼ試薬(カタログ番号1299964、Roche製)の1:80希釈で処置し、37℃で1時間インキュベートした。細胞をPBS中で2回洗浄し、ブロッキング緩衝液(10%正常ヤギ血清:カタログ番号S26−100M、Chemicon製、5%BSA:カタログ番号2910、Omnipure製、0.1%サポニン:カタログ番号102855、MP−Biochemicals製、最終溶液を、0.2μmを通して無菌ろ過し、4℃で保管した)中のAlexa−488標識ヤギ抗マウス抗体(カタログ番号A11029、Invitrogen製)の1:200希釈を加えて、室温で1時間インキュベートした。試料を、PBS中の2μg/ml Hoechst33342(カタログ番号H1399、Invitrogen製、−20℃に保った10mg/mlストック)を用いて30分間対比染色し、PBS中で1回洗浄し4℃で保管し、通常1週間以内に走査した。エタノール固定および保管の後、細胞を、2N HCl(カタログ番号2612−14、Mallinckrodt chemicals製)を用いて30分間処理し、100mM Tris、HCl pH8.5(カタログ番号9230、OmniPure製)で中和した後、PBSで2回洗浄した。細胞を、ブロッキング緩衝液中のAlexa−488標識モノクロナール抗BrdU抗体(カタログ番号MD5420、Caltag laboratories製)の1:200希釈の50μl中で、4℃で16時間インキュベートした。細胞を、PBS中で2回洗浄し、ブロッキング緩衝液中のAlexa546標識ヤギ抗マウス(カタログ番号A11030、Invitrogen製)を加えて3時間インキュベートした。細胞を、PBS中の2μg/ml Hoechstの200μl中で対比染色し、PBS中に保管した。KineticScan(Cellomics製,V2.2.0.0 Build 19)を用い、Bio−applicationソフトウェアTarget Activation V2.0を使用して、画像を分析した。画像を、ハードドライブにCellomics専売特許のフォーマットで保存し、プレートを走査しながら分析した。陽性細胞の閾値に関する設定を、各染色のセッションについて、陰性細胞および陽性細胞のヒストグラムをプロットすることによって得た。固定の間にすべてのウェルから細胞が外れたプレートおよび信号が観察されなかったプレートは、最終的な分析には含めなかった。概して、再生マトリックスの存在下で培養したアストロサイト(13.9±2.3%)は、再生マトリックスなしで培養したアストロサイト(18.5±2.4%)よりも少ないBrdU陽性の核を有し、これは、多分、再生マトリックスで処置した脊髄損傷では、対照と比較して、より少ないグリアの瘢痕化が観察されたことの説明となるであろう。
【0143】
(実施例13)
再生マトリックスの損傷したラット脊髄に及ぼすin vivoにおける効果
再生マトリックスのin vivo活性を評価するために、脊髄損傷モデルの3つのラットモデルを使用した。
【0144】
− 完全横切(5mm欠陥)
− 片側切断(5mm欠陥、右側)
− 挫傷(50mm重量落下)
すべての動物実験を、手術および手術後の標準的な動物の世話の手順を含むIACUC承認プロトコールを使用して行った。これらの実験には、ヌードラット(Biomedical Research Models,Inc.製、Worcester、マサチューセッツ州)を使用して、ヒト再生マトリックスに対する免疫学的な反応を最小化した。脊髄にアクセスするために、T8からT11までの脊椎上、正中線で切開し、皮膚および背外側腰椎帯膜を後退させた。脊椎の両側を、鈍的切開によって曝露させた。背側椎弓切除を、T8〜T9レベルで行った。硬膜を切断した後、後退させ、脊髄を曝露させた。横切研究では、T8とT9との間で切断した、脊髄の完全な厚さの区域を、長さ5mmに切断し、慎重に取り出した。片側切断SCIモデルでは、上記で記載したように脊髄を曝露させ、右側に、5mmの欠陥を、脊髄中に外科的に生み出した。再生マトリックスのインプラントを使用して、欠陥を満たした。硬膜、上部の靱帯、筋肉および皮膚を、縫合によって閉じた。挫傷モデルでは、脊髄の曝露させた硬膜を、NYU IMPACTORを使用した50mm重量落下によって激突を生じさせた後、ラットを、損傷後2週間回復させた。2週間回復させた後、ラットに、再生マトリックスを、損傷領域に隣接する脊髄中に外科的に移植した。すべてのラットを、それらが属するケージで回復させ、感染を予防するために、抗生物質の皮下注射を3日間投与した。すべてのラットの感覚機能および運動機能を、BBB神経学的スケールの改変版(Basso,D.M.ら、「A sensitive and reliable locomotor rating scale for open field testing in rats」、J.Neurotrauma 、12巻、1〜21頁、1995年)に従って定期的に評価した。BBBスコアを、表12および13に列挙した判断基準を使用して、約2週間に1回記録した。
表12.Basso、BeattieおよびBresnahanの歩行運動評価スケール
【0145】
【化15】

【0146】
【化16】

(表13.BBBの定義)
【0147】
【化17】

【0148】
【化18】

15a.完全横切脊髄損傷ラットモデル
図29は、ラットにおける完全横切研究からの結果を示し、ここでは、横切損傷を再生マトリックスで満たし、対照としては、すき間を血液で満たした。一般的に、脊髄損傷の重症度のために、この種の研究に関連する死亡率のレベルが高く、ここでの結果は、少なくとも第6週で生存したラットにおける神経機能の状態を描写する。BBBスコアを、2週間隔で、移植後12から14週間までモニターした。再生マトリックスを移植し、損傷/移植後少なくとも第6週で生存した7匹の全ラットは、改善されたBBBスコアを示した(図29)。最大の増加が、移植後第6〜8週で見られた。少なくとも第6週で生存した3匹の対照ラットは、12週間の評価期間にわたり、実質的な改善を示さなかった。
【0149】
さらに、再生マトリックスを移植したラットにおいては、病変(嚢腫)の数および脊髄損傷(手術)部位の上下の各病変の平均体積が、対照ラットと比較して、顕著に減少した(図30)。これは、再生マトリックスが、これらの動物モデルにおいて神経保護効果を示し、その結果、損傷部位の上下おける神経組織の保護が高まることを意味する。
【0150】
15b.片側切断脊髄損傷ラットモデル
図31は、再生マトリックスを、片側切断によって損傷させた脊髄中に移植した結果の概要を示す。片側切断SCIモデルでは、上記に記載したように脊髄を曝露させた後、脊髄中に5mmの欠損を右側に外科的に生み出した。このモデルは、横切モデルほどには過酷ではなく、ラットは、正常にある程度まで機能することができる。例えば、外科的に誘導した欠損があっても、膀胱の制御は可能であるが、右後肢の運動機能は損なわれる。再生マトリックスを移植する(n=4)と、非移植対照(n=2)と比較して、生存率が上昇し、機能が回復した(n=3)。非移植対照ラットは、第1週における最初のBBB評価の期間の前に死亡した。
【0151】
15c.挫傷脊髄損傷ラットモデル
挫傷モデルでは、硬膜を下部の脊髄と共に曝露させ、SCIを、MASCIS IMPACTOR(以前は、NYU IMPACTOR、W.M.Keck Center for Collaborative Neuroscience、Rutgers University製、Piscataway、ニュージャージ州)を使用した50mm重量落下によって誘発した。ラットを2週間回復させ、次いで、第2の手術を行い、脊髄を曝露させ、再生マトリックスを、損傷領域に隣接させて留置した。図32は、再生マトリックスの移植は、挫傷によって損傷した脊髄を有するラットにおいてもまたBBBスコアを改善することを示す。この研究では、25匹のラットが、脊髄上に与えた挫傷による損傷を有し、19匹のラットは、挫傷後第2週で生存していた。生存したラットのうち、11匹のラットに再生マトリックスを移植し、8匹は対照となり、これらは、生物学的に不活性化した移植を行うか、第2の手術を行わない(したがって、移植なし)のいずれかとした。損傷後第6週で、9匹のマトリックス移植ラット、4匹の不活性化マトリックス移植ラット、および3匹の非移植対照ラットが生存していた。これらの生存ラットについてのBBBスコアを、2週間隔で評価した(図32)。再生マトリックス移植ラットは、完全横切モデルおよび片側切断モデルの場合と同様に回復した。生物学的不活性化マトリックス移植ラットは、部分的に回復し、これは、再生マトリックスの構造上の特性単独でも、マトリックスを投与されなかった対照を上回る顕著な再生の可能性を有することを示している。対照ラットのうちの1匹は、相当な自発的な回復を明らかに示し、これは、不完全な損傷によるものと思われた。しかし、第2の手術の軽度ではあるが、測定可能な衰弱性の効果を、移植マトリックスが克服し、その結果、ラットの顕著な改善を得た。
【0152】
(実施例16)
ヒト再生マトリックスは、実験的脊髄損傷を有するブタにおいて安全で、耐容性がよく、機能の回復を支持する
実験的なパイロット研究において、ブタ、雄、体重20から45kgに、異なる種類の脊髄損傷(衝撃、貫通、裂傷、外科的片側切断)を与え、ヒト再生マトリックスまたはブタフィブリン製のプラグを損傷部位に留置した。各種の損傷がブタの歩行運動および感覚の機能性に及ぼす結果についての見解を発生させるため、ならびにどの損傷モデルにおいて再生マトリックスが最もよく働くと思われるかの見解を得るために、異なるモデルを試験した。ヒト再生マトリックスには、SCIを有するブタにおいて機能回復を促進する明確な傾向があり、最も顕著な効果が、裂傷および脊髄組織の欠損を生じる重度の衝撃による損傷で見られた。また、これらの実験は、再生マトリックスインプラントの耐容性および想定される安全性を評価する機会も提供した。ブタの脊髄は、T2からL2までの微小環境の点でヒト脊髄と98%超同一であり、したがって、再生マトリックスがヒト脊髄において示す恐れのある、何らかの想定される安全性の懸案事項を決定するための良好なモデルとなる。1〜3カ月の間隔をおいた2回に分けた手術で、再生マトリックスを脊髄に2回注入した3匹のブタを含む、ヒト再生マトリックスを移植したいずれのブタにおいても、安全性の懸案事項は検出されなかった。対照ブタと再生マトリックスを移植したブタとの間には、体重ならびに挙動の点で有意な差は見出されなかった。挙動としては、摂食、飲水、社会的相互作用、ならびに排尿および排便の挙動について動物の管理の間に行った一般的な観察があげられる。これは、再生マトリックスが、ブタに移植する場合、耐容性がよく、比較的無毒性であることを示している。
【0153】
いくつかのブタにおいて移植1カ月後に採取した組織試料に、Thj−1染色を行ったところ、移植した再生マトリックスが、脊髄損傷の部位において新たな神経細胞の形成を誘導していたことを示した。図37は、移植した再生マトリックスが、移植1カ月以内に新たなTuj−1陽性神経細胞の形成を誘導するのを示す(200倍の倍率で示す)。
【0154】
これらの予備的なパイロット研究は、ヒト再生マトリックスが、SCIを有するブタにおいて歩行運動の回復を促進することを示唆した。図33は、これらの予備研究の結果を示し、そこでは、改変したASIAスコア化システムを使用して、これらのブタにおける神経学的な回復を評価した。いくつかのブタは、外科的損傷の重症度のために非常に低いASIAスコアで出発したが、その他のブタ(対照ブタのすべてを含む)は、外科的損傷がそれほど重度ではなく、したがって、より高いASIAスコアで出発した。
【0155】
これらのパイロット研究の完了後、7週間の完全二重盲検安全性研究は、ヒト再生マトリックスが、実験的脊髄損傷を与えたブタにおいて、安全で、耐容性がよいことを実証した。これらの二重盲検研究では、ブタに、T8〜T9の脊髄の右側に局在する外科的に誘発したSCI−5mm離なれた二重片側切断後、脊髄の5mm長の小片を除去−を与え、ヒト再生マトリックスまたは同等の量のホモゲナイズしたヒト血餅のいずれかを移植した。左側の脊髄は、実験的手術および移植に関係する非特異的毒性の対照とした。すべてのブタを、全体的な健康状態、体重および歩行運動応答の変化について、SCIおよび移植の後、7週間定期的に観察した。
【0156】
最初に、16匹の、年齢および体重が一致するブタを、各2匹の8群にランダムに割付け、これらにヒト再生マトリックスまたはヒト血餅のいずれかを移植した。4匹のブタ−再生マトリックス処置群で2匹、および血餅処置群で2匹−が、重度の脊髄損傷を与えてからほどなくして死亡した。これは、ヒト再生マトリックスは、血餅移植群と比較して、死亡率の増加と関係がないことを示している。
【0157】
ブタにおける再生マトリックスの移植は、血餅を移植した対照ブタと比較して、耐容性がよく、通常は安全であると思われた。図34は、2つの群における週毎のブタの体重増加の概要を示し、それらを比較する。最初の5週間では、ブタの総体重増加の平均について差は検出されなかったが、研究期間の最後の2週間では、再生マトリックス移植ブタの体重増加が対象ブタを上回った。これらのデータは、再生マトリックスが、ブタにおいて耐容性がよく、全身毒性がないことを示唆している。さらに、データは、研究期間の最後の2週間では、再生マトリックス移植ブタは、対照ブタよりも多くの筋肉量がつき始めたことを示唆している。
【0158】
すべてのブタにおいて、歩行運動機能を、動物の後脚のための改変したASIA Sensory and Motor Skillスコア化システムを使用して、SCI後、最初は第72時で、次いで、1週間毎に測定した。図35は、再生マトリックス移植ブタまたはホモゲナイズした血餅移植ブタの歩行運動スコアを示す。
【0159】
これらの研究では、Sensory and Motor Skillベースラインスコアを、外科的SCIおよび移植の72時間後に測定し、初期値として使用し、次いで、1週間毎に7週間スコアを決定した。両方の研究群のブタは、外科的SCIの第1週以内に、歩行運動機能および感覚機能を(脊髄ショックから)回復し始め、これらの値は、移植後第2〜4週で、一定のレベルに達した。この第2〜4週の時期の間では、再生マトリックス移植群と血餅移植群とで、歩行運動機能および感覚機能について、有意な差を観察せず、これは、再生マトリックスは、SCIブタにおける機能の回復を妨害することもなく、脊髄の機能をさらに障害することもないことを示している。
【0160】
感覚機能および歩行運動機能の回復のさらなる増加を、SCI後、およそ第4〜6週で、ほとんどのブタで観察した。これらの後期の時点では、血餅移植ブタにおいて観察した回復のレベルよりも、再生マトリックス移植ブタにおいて観察した回復のレベルの方が高かった。第7週の時点でのこれら2群の差を詳細に分析すると、再生マトリックスを受けたブタの右側(損傷を与えた側)の機能に有意な改善(p=0.03)があることが示されている(図36)。この第7週の時点で、再生マトリックス移植群内に、対照群よりもはるかに大きいばらつきがあることは、再生マトリックスの生物学的活性が、そのエンドポイント(最終的な運動のスコア)値にまだ達していないことを示している。エンドポイントは、約16週であろう推定された。
【0161】
総合すると、これらの研究は、ブタにおいては、再生マトリックスが、安全で耐容性がよく、外科的に誘導したSCI後の感覚および歩行運動の回復を促進することを示している。
【0162】
(実施例17)
ラットGLP毒物学研究
再生マトリックスの移植に関連する全身毒性の可能性を評価するために、GLP、ISO 10993−11に準拠した前臨床研究を策定し、NAMSA(Northwood、オハイオ州)で行った。この研究では、再生マトリックスを、14匹のラット(7匹の雄および7匹の雌)の皮下組織に移植した。対照物質(無菌0.9%食塩水)を、14匹のラット(7匹の雄および7匹の雌)からなる別の群に同様に移植した。ラットを、死亡率および毒性の顕性の兆候について毎日観察した。疾患および異常の臨床的な兆候についての詳細な検査は、毎週行った。移植前および研究を通して1週間毎にラットの体重を求めた。
【0163】
第4週において、ラットを安楽死させ、血液学分析および臨床化学分析のために血液検体を採取した(すべての分析は、NAMSAによって行われた)。死体解剖を行い、選択した臓器を切除、秤量および組織学的に処理した。各ラットから、各移植部位の周囲の皮下組織もまた切除し、顕微鏡的に検査した。移植部位および選択した臓器の顕微鏡的評価は、正規の病理学者が行った。体重、臓器重量、臓器重量/体重の比、血液学の値および臨床化学の値を、統計学的に分析した。
【0164】
データからは、ラットにおいて、皮下移植後の試験物質(再生マトリックス)からの全身毒性の証拠を得なかった。毎日の臨床的観察、体重、死体解剖知見、ラット臓器重量および臓器重量/体重の比は、許容限界内であり、試験処置群と対照処置群との間でも、それぞれの群の中でも類似した。雄のラットまたは雌のラットのいずれにおいても、生物学的に有意であるまたは試験物質を用いた処置に関連すると考えられる血液学の値および臨床化学の値の変化はなかった。選択した組織の顕微鏡的評価からは、再生マトリックスを用いて処置した群において、全身毒性の証拠を得なかった。組織学的判断基準に基づくと、雄のラットおよび雌のラット中の再生マトリックスは、食塩水である参照の対照材料と比較すると、中等度の刺激物質であると考えられた。この後者の知見は、生体吸収性材料の評価のためのこの試験施設の経験の範囲内であり、異種間の移植(この場合、ヒト全血から誘導した再生マトリックスをラットに移植した)としては低い範囲に属している。結論として、種を越えた再生マトリックスの局所注入は、何らかの顕著な毒性を生じることはなく、再生マトリックスをヒトSCI患者に移植しても、再生マトリックスが局所的な病態を起こすことはないであろうということが示唆される。
【0165】
(実施例18)
脊髄再生研究からの切片の顕微鏡的評価
10mm長の脊髄が外科的に除去されている実験ラットに、再生マトリックスを移植した。10日後に、脊髄を、組織学的に検査した。顕微鏡的には、脊髄欠陥の中心は、中心の軸索の重度のウォーラー変性および好中球の壊死からなり、これは、1cm長の脊髄の外科的除去によって生じた中心から約4.5mmの半径(1cmの全幅)で伸長していた。再生マトリックスインプラントの周囲には、反応性のグリア細胞および格子細胞のシートが存在し、これらの中には、ヘモシデリンを有するものもあり、さらに、明らかに原始的な間葉系/網様型の細胞のシートも存在し(図38Aおよび38Bを参照)、これは、脊髄欠陥内に広がりつつある(脊髄欠陥を満たしつつある)ように見えた。これらの細胞は、新たな神経組織の発生および脊髄の再生に関与すると思われた。欠陥の周辺には、反応性の線維増殖を伴う軟膜の肥厚が存在した。線維増殖は、これらの明らかに原始的な間葉系/網様型の細胞を支持する枠組みとして、軟膜に沿って広がっているように見え、損傷した脊髄の再生を支持しているよう思われた。
【0166】
前述の説明は、本来、説明のためのものであって、本発明、または本発明の応用もしくは使用に関する詳説を制限するためのものではない。当業者であれば、本明細書に記載する本発明の1つ以上の実施形態に、特定の改変をなすことができることが理解されるであろう。しかしながら、そのような改変は、本発明の範囲内である。発明を実行するための別の方法および材料、ならびに追加の応用例が、当業者には明らかであろう。それらは、随伴する請求の範囲内に含まれることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0167】
随伴する図面を参照すると共に、以下の詳細な説明を参照することによって、本発明の前述の特長がより容易に理解されるであろう。図中、「RMx」は、再生マトリックスを指す。
【図1】図1A、1Bおよび1Cは、マクロファージのフォン−ヴィレブランド因子陽性内皮様細胞への分化形質転換を示す。2A:ブタにおける移植2週後の脊髄損傷および再生マトリックス移植の部位のマクロファージ(明るい染色)およびフォン−ヴィレブランド因子(+)(暗い染色)細胞。二重染色が黒色に写っている。200倍の倍率で示す。2B:黒い染色=フォン−ヴィレブランド因子を発現するマクロファージ(明るい染色)。400倍の倍率で示す。2C:フォン−ヴィレブランド因子を発現するマクロファージが、血管を形成しつつある。400倍の倍率で示す。
【図2】図2A、2B、2Cおよび2Dは、ラットの脊髄組織に対する再生マトリックスの治療効果を示す。Aは、再生マトリックス非存在下の健常な血管を有する健康なラットの脊髄を示す。Bは、CNS組織がほとんど見えず、健常な血管が存在しない損傷したラットの脊髄を示す。Cは、再生マトリックスを用いて治療した、損傷したラットの脊髄の光景を示し、ここでは、再生した健常なCNS組織および血管の横断面が見えている。Dは、Cの損傷した脊髄組織の別の光景であり、再生したCNS組織および健常な血管の縦方向切片を示す。
【図3】図3は、Opticell(登録商標)生成用カセットに含有されている、非凝固血および1.2μmの最終ろ過を使用して生成した再生マトリックスの写真である。
【図4】図4は、ヒト全血から作製した3週が経過した再生マトリックスのパラフィン切片を示す。再生マトリックスは、未変化の細胞または核の兆しを何ら示さない。ヘマトキシリン染色は、分析したすべての切片において完全に陰性であったが、材料は、エオシンで強く染色した。高い数値の開口レンズ(高解像度)を使用すると、ビーズ様構造を明確に分解することができる。RMxの大部分をなすビーズ様構造以外に、より緻密な構造からなると思われる平坦なシートの小さな領域を観察することができる。
【図5】図5A、5B、5Cおよび5Dは、凝固血および5μmの最終ろ過を使用して生成した再生マトリックスの走査型電子顕微鏡写真を示す。A−200倍、B−1000倍、C−7500倍、D−7500倍。
【図6】図6A、6B、6Cおよび6Dは、凝固血および1.2μmの最終ろ過を使用して生成した再生マトリックス(第21日)の走査型電子顕微鏡写真を示す。A−200倍、B−1000倍、C−7500倍、D−7500倍。
【図7】図7A、7B、7Cおよび7Dは、非凝固血(EDTAを使用)および1.2μmの最終ろ過を使用して生成した再生マトリックス(第21日)の走査型電子顕微鏡写真を示す。A−200倍、B−1500倍、C−5000倍、D−10000倍。
【図8】図8は、非凝固血および1.2μmの最終ろ過を使用して形成した再生マトリックスの光学顕微鏡写真(100倍の倍率)を示す。
【図9】図9は、組織試料から調製し、5μmのフィルターを通した21日が経過した再生マトリックスの透過型電子顕微鏡観察(TEM)を示す。このTMEでは、走査型電子顕微鏡写真(図5〜7)に見られた丸みのある球が、これらの球からなるはるかに大きく、比較的均質な構造または凝集体の一部となっていることが明らかである。核の証拠はない。
【図10】図10は、ヒト全血から作製した8週が経過した再生マトリックスの透過型電子顕微鏡観察を示す。再生マトリックスは均質に染色し、各凝集体の外側表面は、3週が経過した再生マトリックス(図9を参照)よりも、突き出ている球がより大きく、幾分か蜂巣状の形状(粒子の最も有効な配置方法)であった。再生マトリックスの多くの新しい凝集体が、再生マトリックス材料の長い糸に沿って形成された。
【図11】図11は、ヒト全血から作製した8週が経過した再生マトリックスの透過型電子顕微鏡観察を示す。再生マトリックスは均質に染色し、各凝集体の外側表面は、3週が経過した再生マトリックス(図9を参照)よりも、突き出ている球がより大きく、幾分か蜂巣状の形状(粒子の最も有効な配置方法)であった。
【図12】図12Aおよび12Bは、5つの異なるバッチからの再生マトリックスのSDS−PAGE分析を示す。第15日(A)および第21日(B)の再生マトリックス中の全タンパク質を、クーマシーブルーで染色した。主なタンパク質の種は、1〜6の番号を付けで示し、それぞれのデンシトメトリーのグラフに示す。分子量の標準(KDa)をゲルの左側に示す。
【図13】図13は、対照と比較した、α−アマニチン(RNAIIポリメラーゼ阻害剤)、アフィディコリン(DNAポリメラーゼ阻害剤)またはシクロヘキシミド(タンパク質合成阻害剤)の存在下で形成した再生マトリックスおよび第21日の培養物の上清(5μmでろ過)中の全RNA含有量(μg)を示す。
【図14】図14は、対照と比較した、α−アマニチン(RNAIIポリメラーゼ阻害剤)、アフィディコリン(DNAポリメラーゼ阻害剤)またはシクロヘキサミド(タンパク質合成阻害剤)の存在下で形成した再生マトリックスおよび第21日の培養物の上清(5μmでろ過)中の全タンパク質含有量を示す。
【図15】図15は、対照と比較した、α−アマニチン(RNAIIポリメラーゼ阻害剤))の存在下で形成した再生マトリックスおよび第21日の培養物の上清(1μmでろ過)中の全タンパク質含有量を示す。
【図16】図16は、対照と比較した、α−アマニチン(RNAIIポリメラーゼ阻害剤))の存在下で形成した再生マトリックスおよび第21日の培養物の上清(1μmでろ過)中の全脂質含有量を示す。
【図17】図17は、PAGE上で、1μmでろ過したマトリックスから5μmでろ過したマトリックスまで、マトリックスおよび媒体について、クーマシー染色タンパク質バンドを比較したものを示す。
【図18】図18は、神経細胞遺伝子の上方制御について、異なる補助剤を有する処理媒体中で生成した再生マトリックス(およびそれらに使用した上清、それぞれ)の効果を示す。A:NT−3、B:NCAM−1、C:GAP−43。
【図19】図19は、SH−SY5Y細胞上における再生マトリックスによって生じた遺伝子の上方制御の倍増および熱不活性化再生マトリックスを示す。SH−SY5Y細胞を、再生マトリックスと共に3時間インキュベートし、次いで、RT−PCRを使用して、GAPDH、NT−3、NT−6、NCAM−1、FGF−9、GDNF、Netrin−1およびGAP−43の遺伝子発現について分析した。PBS中で3回洗浄した再生マトリックスは、未洗浄の再生マトリックスに類似する活性を有した。60℃で30分間インキュベートした再生マトリックスは、遺伝子上方制御活性を有さなかった。
【図20】図20は、再生マトリックスを用いて処置したNeuroscreen(登録商標)細胞による神経突起の伸長を示す。左の図は、基本培地中で増殖したNeuroscreen(登録商標)細胞の代表的な領域を示す。右の図は、再生マトリックスを用いて処置した細胞の代表的な領域を示す。細胞の核を青で染色し、チューブリンを緑で染色した。
【図21】図21は、Neuroscreen(登録商標)細胞の神経突起の伸長を、再生マトリックスの存在下と非存在下とで培養して比較した場合を示す。結果を、NGF処置細胞の神経突起伸長指数のパーセントとして表す。結果は、四つ組で行った4つの独立した実験の平均である。エラーバーは、平均の標準偏差を示す。再生マトリックス処理細胞の値および再生マトリックス未処理細胞の値は、0.01未満の差のP値を有して異なる(t検定)。
【図22】図22は、再生マトリックスをEGFおよびbFGFの増殖因子補助剤の存在下と非存在下とで生成し、これらの再生マトリックスの存在下で培養したNeuroscreen(登録商標)細胞の神経突起の伸長を比較した場合を示す。結果を、NGF処置細胞の神経突起伸長指数のパーセントとして表す。結果は、少なくとも六つ組の試料の平均である。エラーバーは、平均の標準偏差を示す。すべての値は、0.01未満の差のP値を有して相互に異なる(t検定)。
【図23】図23は、異なる濃度のNGFのNeuroscreen(登録商標)細胞の神経突起の伸長に対するNGF用量応答曲線を示す。
【図24】図24は、TR−10処理媒体中で生成した再生マトリックスを適用する場合の、NGFの陽性対照(図23;100ng/ml NGF)と比較した、神経突起伸長の全長の平均に関する倍増(減弱)を示す。再生マトリックスは、全血または血漿−血小板−バフィーコート画分のいずれかから生成した。
【図25】図25は、対照であるラット胎仔脊髄の初代細胞を示し、単一細胞懸濁培養6日後の神経細胞のチューブリン(Tuj1)およびグリア(GFAP)を標識している(2コマは、すべての染色された成分を示している)。平均して、4.2%の細胞が、Tuj1陽性であり、0.4%の細胞がGFAP陽性であった。100倍の倍率。
【図26】図26は、再生マトリックスのラット胎仔脊髄の初代細胞に及ぼす効果を示し、単一細胞懸濁培養6日後の神経細胞のチューブリン(Tuj1)およびグリア(GFAP)を標識している(2コマは、すべての染色された成分を示している)。平均して、55%の細胞が、Tuj1陽性であり、92%の細胞がGFAP陽性であった。二重陽性(Tuj−1およびGFAPに陽性)細胞は、三相性の神経前駆細胞を示している。100倍の倍率。
【図27】図27A、27B、27Cおよび27Dは、5日間培養したヒト線維芽細胞のβ−チューブリン(A)およびF−アクチン(B)についての免疫細胞化学染色に関して、再生マトリックス(CおよびD)上と対照(AおよびB)上との比較を示す。対照の培養物で使用した培地は、再生マトリックスを生成するために使用する処理媒体であった。再生マトリックスと接触させて培養したヒト線維芽細胞は、対照の培養物と比較して、コンフルエントなレベルが顕著に低かった(アポトーシスを経ているようでもあった)。
【図28】図28は、再生マトリックスの線維芽細胞の接着、線維芽細胞の核領域、およびBrdU陽性線維芽細胞パーセントに関して、2日間培養と対照との比較を示す。
【図29】図29は、SCIの完全横切ラットモデル(5mm)への再生マトリックスの移植が、運動機能の回復を誘導することを示す。BBBスコアによって測定した歩行運動機能の回復を、損傷および再生マトリックス移植後2週間に1回記録した。個々の動物(再生マトリックス−Mおよび対照−C)についてのBBBスコア。
【図30】図30は、再生マトリックス移植を受けた、脊髄損傷の横切ラットモデルにおける嚢腫形成の発生率の減少を示す。再生マトリックス移植ラット(n=19)では、SCI部位およびその周囲での嚢腫形成の発生率が15.8%であり、対照ラット(n=5)では、SCI部位の周囲での嚢腫形成の発生率が60%であった。
【図31】図31は、SCIの片側切断ラットモデル(5mm)への再生マトリックスの移植が、運動機能の回復を誘導することを示す。BBBスコアによって測定した歩行運動機能の回復を、損傷および再生マトリックス移植後2週間に1回記録した。再生マトリックスの移植を受けた個々の動物についてのBBBスコア。非移植対照は、最初の評価時点まで生存しなかった。
【図32A】図32A:5mm完全横切を有するラット脊髄への再生マトリックス移植後の機能の回復。図32B:挫傷(50mm)による損傷2週後のラット脊髄への再生マトリックス移植後の機能の回復。図32C:脊髄損傷の治療における再生マトリックスの効力を示す、組合せ(完全横切および挫傷)モデル。対照ラットは、両方の損傷モデルからの空の対照および生物学的不活性化再生マトリックス対照を含む。図32A、32Bおよび32Cのそれぞれについて、上の線は、再生マトリックス移植ラットからのデータを示し。下の線は、対照ラットからのデータを示す。
【図32B】図32A:5mm完全横切を有するラット脊髄への再生マトリックス移植後の機能の回復。図32B:挫傷(50mm)による損傷2週後のラット脊髄への再生マトリックス移植後の機能の回復。図32C:脊髄損傷の治療における再生マトリックスの効力を示す、組合せ(完全横切および挫傷)モデル。対照ラットは、両方の損傷モデルからの空の対照および生物学的不活性化再生マトリックス対照を含む。図32A、32Bおよび32Cのそれぞれについて、上の線は、再生マトリックス移植ラットからのデータを示し。下の線は、対照ラットからのデータを示す。
【図32C】図32A:5mm完全横切を有するラット脊髄への再生マトリックス移植後の機能の回復。図32B:挫傷(50mm)による損傷2週後のラット脊髄への再生マトリックス移植後の機能の回復。図32C:脊髄損傷の治療における再生マトリックスの効力を示す、組合せ(完全横切および挫傷)モデル。対照ラットは、両方の損傷モデルからの空の対照および生物学的不活性化再生マトリックス対照を含む。図32A、32Bおよび32Cのそれぞれについて、上の線は、再生マトリックス移植ラットからのデータを示し。下の線は、対照ラットからのデータを示す。
【図33】図33は、再生マトリックス移植が、衝撃および/または外科的片側切断(5mmの脊髄の除去を含む)によって生じたブタ脊髄損傷において、運動機能の回復を誘導することを示す。ブタ00−6−5および113−1は、裂傷および脊髄組織の欠損を生じる重度の衝撃による損傷を受けた。ブタ80−1は、14ゲージ針による貫通による損傷を受けた。ブタ55−1、53−2、54−5および54−2、ならびに全部の対照ブタは、右側の外科的片側切断(5mm長の右側の脊髄を除去した)を受けた。改変した数値的なASIAスコアによって測定した歩行運動機能の回復の結果を、損傷および再生マトリックス移植の後、毎週記録した。
【図34】図34は、再生マトリックス移植ブタとホモゲナイズした血餅移植ブタとの7週間にわたる平均体重および平均体重増加の比較を示す。
【図35】図35は、右側の片側切断(5mm長の右側の脊髄を除去した)による脊髄損傷後の再生マトリックス移植ブタとヒト血餅移植ブタとの7週間にわたる右側運動技能の回復の比較を示す。
【図36】図36は、SCI後の第7週におけるヒト再生マトリックス処置ブタと血餅処置ブタとの歩行運動機能の回復の比較を示す。(内部対照として用いた)未損傷の左側は、両群で同一であったが、損傷した右側は、再生マトリックスを用いた場合の方が、血餅を用いた場合より、より顕著に回復した(p=0.03)。
【図37】図37は、再生マトリックス移植後第1月のブタにおいて脊髄損傷(および脊髄除去)の部位で新たに形成されつつある神経細胞(褐色)を示す。明るい色=細胞の核。暗い色=Tuj−1陽性細胞。黒色=二重染色。倍率は、200倍である。
【図38】図38は、ラット脊髄再生研究からの縦方向切片の顕微鏡的評価を示す。38A:再生マトリックスに関連する原始的な細胞が、脊髄の欠陥を満たしつつある。10倍の倍率で撮影。38B:再生マトリックスを10mmの脊髄欠陥中に移植した10日後における、新たな神経組織の形成部位の原始的な細胞。40倍の倍率で撮影。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを生成する方法であって、
a)単離した組織試料を提供するステップと;
b)組織試料から細胞を除去して無細胞試料を得るステップと;
c)該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを形成するのに十分な第1の期間、該無細胞試料をインキュベーションチャンバー中でインキュベートするステップであって、該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスの少なくとも1つの再生活性が、該第1の期間にわたって変化し、再生活性の該変化が、再生活性の外観、再生活性の発生、再生活性の増加、およびそれらの組合せからなる群から選択されるステップと;
d)該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを単離するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記単離した組織試料が、筋肉組織、結合組織、上皮組織、神経組織、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単離した組織試料が、基本組織、表皮組織および維管束組織、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記単離した組織試料が、
心血管、消化器、内分泌、排泄、免疫、外被、リンパ、筋肉、神経、生殖、呼吸、骨格、およびそれらの組合せの系からなる群から選択された器官系の組織;
胎盤組織;
臍帯組織;
ならびにそれらの組合せ
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記組織試料が血液を含む、請求項1、2または4に記載の方法。
【請求項6】
前記組織試料が血液画分を含む、請求項1、2、4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記血液画分がバフィーコート層を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記血液画分がバフィーコート/血小板/血漿層を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組織試料が抗凝血薬を含む、請求項1から2または請求項4から9のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記血液が1種以上の血餅を含み、かつ該血餅を可溶化するステップをさらに含む、請求項1から2または請求項4から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記除去するステップが、前記組織試料をサイズ選択フィルターに通すことを含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記サイズ選択フィルターが約5μMより大きい粒子を排除する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記サイズ選択フィルターが約1.2μMより大きい粒子を排除する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記サイズ選択フィルターが約0.8μMより大きい粒子を排除する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記インキュベーションチャンバーが、固体または液体に対して透過性である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記インキュベーションチャンバーが、該インキュベーションチャンバー内部の液体の蒸発によって発生した気体に対して透過性である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記インキュベーションチャンバーを低湿度環境でインキュベートし、それによって、該インキュベーションチャンバー内部の液体の蒸発速度を増加させる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
処理媒体を前記無細胞試料に添加するステップをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記処理媒体を添加するステップが、前記組織試料の単離の間、前記除去するステップの前、前記インキュベートするステップの前、該インキュベートするステップの間、およびそれらの組合せからなる群から選択された1つ以上の時に添加することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
無細胞試料が、液状の溶液または懸濁液の形態であり、かつ溶質の少なくとも一部が、前記第1の期間にわたって前記インキュベーションチャンバーから蒸発する、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記処理媒体を添加するステップの結果、液状の溶液または懸濁液の浸透圧モル濃度が前記第1の期間にわたって増加する、請求項18、19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記処理媒体が生理的溶液を含む、請求項18から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記第1の期間が少なくとも5日間である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記第1の期間が少なくとも12日間である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記インキュベートするステップが、前記無細胞試料を低酸素環境でインキュベートすることを含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記低酸素環境が、約5%未満の酸素を有する環境を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記低酸素環境が、実質的に酸素を欠く環境を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の期間が少なくとも3日間である、請求項25、26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の期間が少なくとも7日間である、請求項25、26または27に記載の方法。
【請求項30】
治療用作用物質を提供するステップをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記治療用作用物質が、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子、増殖因子、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記治療用作用物質を提供するステップが、前記組織試料の単離の間、前記除去するステップの前、前記インキュベートするステップの前、該インキュベートするステップの間、およびそれらの組合せからなる群から選択された1つ以上の時に提供することを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記第1の期間に形成される前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、三次元のマトリックスの形態となるように、前記無細胞試料の浸透圧モル濃度を制御する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記第1の期間に形成される前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、懸濁液の形態となるように、前記無細胞試料の浸透圧モル濃度を制御する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを、それが生成された後に、細胞と共に播種するまたは混合するステップをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞、体細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、胚性幹細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、グリア細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを、それが生成されている間に、細胞と共に播種するまたは混合するステップをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞、体細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞が、胚性幹細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、グリア細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、前記第1の期間に活性を示し、該活性が、組織の成長、細胞の成長、遺伝子の上方制御、細胞の阻害、細胞の増殖、細胞の脱分化、細胞の分化、細胞の分化形質転換、神経突起の伸長、遺伝子の上方制御、または1種以上の自然な創傷治癒過程、およびこれらの組合せからなる群から選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記生成された無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスの1種以上の細胞型に対する効果を測定することによって、該活性を決定する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記生成された無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスの1種以上の細胞型に対する効果を測定することによって、該活性を決定する、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
請求項1から43のいずれか一項に記載の方法に従って得た無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項45】
対象の組織を再生する方法であって、
a)組織の損傷、欠損または変性を受けた対象を提供するステップと;
b)組織の損傷、欠損または変性した部位またはその付近において、無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを対象に投与するステップと
を含み、
該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、組織の損傷、欠損または変性した部位において、組織の再生を開始し、増加させ、支持し、かつ/または導く方法。
【請求項46】
前記対象がヒトである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記対象が動物である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが治療用作用物質を含む、請求項45、46または47に記載の方法。
【請求項49】
前記治療用作用物質が、前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス内に不均等に分布する、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記治療用作用物質が、前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス内に均等に分布する、請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが2種以上の治療用作用物質を含む、請求項45から50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記治療用作用物質が、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子、増殖因子、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項45から51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、前記治療用作用物質の1つ以上の有利な効果の大きさを増加させる、請求項45から52のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、前記治療用作用物質を前記対象中で時間をかけてゆっくり放出することによって、該治療用作用物質の1つ以上の有利な効果を延長させる、請求項45から53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが、前記治療用作用物質の1つ以上の有利な効果を時間の経過に伴う実質的な減少から保護する、請求項45から54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記損傷または変性した組織が、筋肉組織、結合組織、上皮組織、神経組織、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項45から55のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記神経組織が中枢神経系の組織である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記損傷または変性した組織が、
心血管、消化器、内分泌、排泄、免疫、外被、リンパ、筋肉、神経、生殖、呼吸、骨格、およびそれらの組合せの系からなる群から選択された器官系の組織;
胎盤組織;
臍帯組織;
ならびにそれらの組合せ
からなる群から選択される、請求項45から57のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記生体吸収性の組織再生マトリックスが、組織の損傷、欠損または変性した前記部位への神経前駆細胞の動員を刺激する、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記生体吸収性の組織再生マトリックスが、神経前駆細胞の増殖を刺激する、請求項58または59に記載の方法。
【請求項61】
前記生体吸収性の組織再生マトリックスが、組織の損傷、欠損または変性した前記部位へのフォン−ヴィレブランド因子陽性細胞の動員を刺激する、請求項58、59または60に記載の方法。
【請求項62】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスの前記損傷または変性した組織の部位またはその付近への投与に応答して、損傷または変性した中枢神経系組織の神経栄養性の活性が増加する、請求項58から61のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記増加した神経栄養性の活性が、FGF−9、Netrin−1、NT−3、NCAM−1、GAP−43、ニューレグリン、およびそれらの組合せからなる群から選択された神経栄養性遺伝子の発現の増加によって特徴付けられる、請求項58から62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
前記損傷または変性した組織の部位またはその付近へ細胞を投与することをさらに含む、請求項45から63のいずれかに記載の方法。
【請求項65】
前記細胞と、前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスとを順次に投与する、請求項45から64のいずれかに記載の方法。
【請求項66】
前記細胞と、前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスとを同時に投与する、請求項45から64のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを、細胞と共に播種するまたは混合する、請求項45から67のいずれかに記載の方法。
【請求項68】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを、該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが形成されつつある間に、細胞と共に播種するまたは混合する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスを、該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスが形成された後に、細胞と共に播種するまたは混合する、請求項67または68に記載の方法。
【請求項70】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞、体細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項64から69のいずれかに記載の方法。
【請求項71】
前記細胞が、胚性幹細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、グリア細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項64から70のいずれかに記載の方法。
【請求項72】
前記投与するステップが、注入、外科的移植、カテーテルを介しての送達、およびそれらの組合せからなる群から選択された投与経路を含む、請求項45から71のいずれかに記載の方法。
【請求項73】
前記生体吸収性の組織再生マトリックスが、細胞を、1つ以上の異なる細胞型を生じることができる細胞に脱分化させる、請求項45から73のいずれかに記載の方法。
【請求項74】
前記脱分化した細胞がマクロファージである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記脱分化したマクロファージが内皮様の特徴を示す、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記内皮様の特徴が、フォン−ヴィレブランド因子を発現することを含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記脱分化したマクロファージが新しい血管を生じる、請求項74から76のいずれかに記載の方法。
【請求項78】
前記新しい血管が新たな組織の増殖を支持する、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
少なくとも1%のタンパク質含有量を有するタンパク質性の芯を含む、単離した無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスであって;
該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスの構造の特徴は、少なくとも約100nmの直径を有する球体であり;
さらに、該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスは、実質的な代謝活性を欠き;
さらに、該無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックスは、損傷した組織を有する対象においてより多くの組織の再生を開始すること、損傷した組織を有する対象において組織の再生を増加すること、またはそれらの両方が可能である組織再生マトリックス。
【請求項80】
トランスフェリン、血清アルブミン、血清アルブミン前駆体、補体成分3、A〜D鎖ヘモグロビン、IgM、IgG1、メダラシン阻害剤2、炭酸脱水酵素、CA1タンパク質、またはそれらの組合せからなる群から選択された1種以上のタンパク質をさらに含む、請求項79に記載の単離した無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項81】
前記球体がCD56抗体によって認識される、請求項79または80に記載の単離した無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項82】
前記球体が約1から2μmの直径を有する、請求項79、80または81に記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項83】
前記球体が約2から4μmの直径を有する、請求項79、80または81に記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項84】
治療用作用物質をさらに含む、請求項79から83のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項85】
前記治療用作用物質が、前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス内に不均等に分布する、請求項84に記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項86】
前記治療用作用物質が、前記無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス内に均等に分布する、請求項84に記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項87】
2種以上の治療用作用物質を含む、請求項84から86のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項88】
前記治療用作用物質が、タンパク質、ペプチド、薬物、サイトカイン、細胞外マトリックス分子、増殖因子、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項84から87のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項89】
前記治療用作用物質の1つ以上の有利な効果の大きさを増加させる、請求項84から88のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項90】
前記治療用作用物質を前記対象中で時間をかけてゆっくり放出することによって、治療用作用物質の1つ以上の有利な効果を延長させる、請求項84から89のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項91】
治療用作用物質の1つ以上の有利な効果を時間の経過に伴う実質的な減少から保護する、請求項84から90のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項92】
細胞をさらに含む、請求項79から91のいずれかに記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項93】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞、体細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項92に記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。
【請求項94】
前記細胞が、胚性幹細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、グリア細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択された細胞である、請求項92または93に記載の無細胞、生体吸収性の組織再生マトリックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32A】
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【図32B】
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【図32C】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公表番号】特表2009−513269(P2009−513269A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537998(P2008−537998)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/042016
【国際公開番号】WO2007/050902
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(506305012)
【Fターム(参考)】