説明

無線タグおよび無線タグ距離測定装置

【課題】無線タグ距離測定システムにおいて、複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避し、距離測定装置からの距離が等しい複数の無線タグまでの距離を測定可能とすることを目的とする。
【解決手段】無線タグ距離測定装置10Bは、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号によって、パルス変調信号に対して拡散処理を施し、拡散パルス変調信号を送信する。拡散パルス変調信号の拡散処理に用いられたPN符号と自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグは、受信した拡散パルス変調信号に対して逆拡散処理を施した復元パルス変調信号を送信する。無線タグ距離測定装置10Bは、復元パルス変調信号を受信すると、拡散パルス変調信号を送信してから復元パルス変調信号が受信されるまでの時間に基づいて、距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグまでの距離を測定する無線タグ距離測定装置、および、その距離測定目標となる無線タグに関する。
【背景技術】
【0002】
量産工場等では、生産工程または品種ごとに保管位置が定められ製品管理を行うことが多い。このような製品管理を行うため、無線タグ距離測定システムが広く用いられる。無線タグ距離測定システムでは、管理対象製品に取り付けられた無線タグと距離測定装置との間の無線送受信によって、距離測定装置が無線タグまでの距離を測定する。
【0003】
無線タグまでの距離を測定する際には、距離測定装置はパルス信号を送信する。パルス信号を受信した無線タグは、固有に割り当てられた符号によって受信パルス信号を変調し、応答パルス信号として送信する。応答パルス信号を受信した距離測定装置は、応答パルス信号を変調した元の符号を識別することにより、応答パルス信号を送信した無線タグを特定する。そして、パルス信号を送信してから応答パルス信号が受信されるまでの時間に基づいて、特定した無線タグまでの距離を測定する。
【0004】
このような処理によれば、複数の無線タグのうち特定の無線タグまでの距離を測定することができ、距離測定装置から特定の無線タグが付された製品までの距離を測定することができる。
【0005】
無線タグ距離測定システムは、工場における製品管理の他、日用品、小物等の販売を行う小売店、イベント参加者の居場所を管理する必要があるイベント会場等に用いることができる。
【0006】
【特許文献1】特表2006−505018号公報
【特許文献2】特表2005−513629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の無線タグ距離測定システムでは、距離測定装置からの距離が等しい無線タグが複数ある場合、これらの無線タグからそれぞれ送信された応答パルス信号が時間的に重なって距離測定装置で受信される。このとき、複数の応答パルス信号が互いに干渉し、各無線タグまでの距離を測定することが困難となるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に対してなされたものである。すなわち、無線タグ距離測定システムにおいて、複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避し、距離測定装置からの距離が等しい複数の無線タグまでの距離を測定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無線送受信によって目標物距離測定を行う距離測定装置の目標物となる無線タグであって、到来した信号を受信する無線受信手段と、前記無線受信手段が受信した信号に含まれる信号のうち、前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づいて拡散処理が施された信号に逆拡散処理を施し、逆拡散信号を出力する相関処理手段と、前記逆拡散信号を送信する無線送信手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、目標物距離測定を行うための距離測定信号を送信する無線送信部と、前記距離測定信号の送信後に到来した到来信号を受信する無線受信部と、前記距離測定信号の送信タイミングと前記到来信号の受信タイミングとに基づいて、目標物とする無線タグまでの距離を算出する距離算出部と、を備える無線タグ距離測定装置であって、前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づく拡散処理によって拡散信号を生成する拡散処理部を備え、前記無線送信部は、前記拡散信号を前記距離測定信号として送信し、前記無線受信部は、前記拡散信号に対して前記無線タグによって逆拡散処理が施された逆拡散信号を前記到来信号として受信し、前記距離算出部は、前記拡散信号が送信されてから前記逆拡散信号が受信されるまでの時間に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、無線送受信によって目標物距離測定を行う距離測定装置の目標物となる無線タグであって、到来した信号を受信する無線受信手段と、前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づく拡散処理によって、前記無線受信手段が受信した信号に対して拡散処理を施し、拡散信号を出力する相関処理手段と、前記拡散信号を送信する無線送信手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、目標物距離測定を行うための距離測定信号を送信する無線送信部と、前記距離測定信号の送信後に到来した到来信号を受信する無線受信部と、前記距離測定信号の送信タイミングと前記到来信号の受信タイミングとに基づいて、目標物とする無線タグまでの距離を算出する距離算出部と、を備える無線タグ距離測定装置であって、前記到来信号に含まれる信号のうち、前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づく拡散処理が施された信号に対し逆拡散処理を施し、逆拡散信号を生成する逆拡散部を備え、前記距離測定信号が送信されてから前記逆拡散信号を生成する元となった信号が受信されるまでの時間に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無線タグ距離測定装置によれば、複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避し、無線タグ距離測定装置からの距離が等しい複数の無線タグまでの距離を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に本発明の第1の実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す。このシステムは、無線タグ距離測定装置10Aが、無線信号の送受信によって距離測定対象の無線タグまでの距離を測定するものである。無線タグ12−1〜12−4には、固有のPN符号(PNはPseudo Noiseの略である。)が割り当てられている。図1では、無線タグ12−1〜12−4に対し、固有のPN符号として、それぞれ「01001・・・」、「10011・・・」、「01111・・・」、および「10001・・・」が割り当てられている例を示している。無線タグ距離測定装置10Aは、距離測定対象とする無線タグをPN符号によって特定する。
【0015】
一般に、PN符号は1および0による擬似雑音パターンを示す。PN符号の値「1」および「0」に対し信号値「1」および「−1」をそれぞれ対応付けることで、PN符号のパターンで値が変化するPN信号を生成することができる。このようなPN信号と処理対象信号との畳み込み演算を行う拡散処理を行うと、処理対象信号の時間長はPN信号の時間長に応じて拡散される。このような拡散信号に対しては、拡散処理に用いられたPN信号との畳み込み演算を行う逆拡散処理を施すことで元の信号を再現することができる。また、互いに異なるPN符号によって拡散処理が施された複数の拡散信号を足し合わせた信号からは、逆拡散処理によって元の信号を抽出することができる。本発明の実施形態に係る無線タグ距離測定システムは、このようなPN符号の直交性を利用するものである。
【0016】
距離測定対象とする無線タグまでの距離を測定する際には、無線タグ距離測定装置10Aはパルス変調信号を送信する。パルス変調信号は、矩形単発パルス信号等のパルス信号を正弦波信号に乗じたものである。各無線タグは、無線タグ距離測定装置10Aから送信されたパルス変調信号を受信する。そして、自らに固有に割り当てられたPN符号によってパルス変調信号に拡散処理を施し、拡散処理後の信号を拡散パルス変調信号として送信する。
【0017】
無線タグ距離測定装置10Aは、拡散パルス変調信号を受信すると、距離測定対象とする無線タグの固有割り当てPN符号によって、拡散パルス変調信号に対し逆拡散処理を施し、復元パルス変調信号を生成する。無線タグ距離測定装置10Aは、パルス変調信号を送信してから復元パルス変調信号が生成されるまでの時間に基づいて、距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。
【0018】
このような処理を実行するための無線タグ距離測定装置10Aの構成を図2に示す。パルス変調信号生成部14は、パルス変調信号を生成し無線送信部16および距離算出部28に出力する。無線送信部16は、パルス変調信号を無線信号に変換し、測定装置アンテナ18を介して送信する。パルス変調信号生成部14から距離算出部28に出力されたパルス変調信号は、後述のように、無線タグまでの距離の測定に用いられる。
【0019】
無線タグ距離測定装置10Aから送信されたパルス変調信号は各無線タグで受信される。図3(a)に無線タグ12の構成を示す。無線タグアンテナ32で受信されたパルス変調信号は、分波器34に入力される。分波器34はパルス変調信号を相関処理デバイス36に入力する。分波器34は、サーキュレータ、方向性結合器等を用いて構成することができる。
【0020】
無線タグ12の相関処理デバイス36には、無線タグ12に固有に割り当てられたPN符号によって、入力信号に対して拡散処理を施し出力するものを用いる。このようなデバイスとしては、SAWデバイス、CCD(Charge Coupled Device)マッチドフィルタ、ディジタルマッチドフィルタ等を用いることができる。SAWデバイスには電源電力を供給する必要があるもの(SAWコンボルバ等)と、電源電力を供給する必要がないものとがある。電源電力を供給する必要がないSAWデバイスを用いた場合には、無線タグ12に電力供給源を搭載する必要がなくなる。
【0021】
また、ディジタルマッチドフィルタ、SAWコンボルバ等は、拡散処理を行う際のPN符号を任意に設定することができる。この場合の構成を図3(b)に示す。ここでは、ディジタルマッチドフィルタ36Aを用いた場合を示している。SAWコンボルバを用いる場合には、ディジタルマッチドフィルタ36AをSAWコンボルバに置き換えた構成とすればよい。無線タグ12には、PN符号を記憶するPN符号記憶部38およびPN符号設定回路40を設ける。PN符号記憶部38には、複数の異なるPN符号を予め記憶させておく。PN符号設定回路40は、PN符号記憶部38からPN符号を読み込み、そのPN符号に基づいてディジタルマッチドフィルタ36Aが処理を実行するよう、ディジタルマッチドフィルタ36Aの動作状態を設定する。また、PN符号記憶部38およびPN符号設定回路40を設ける代わりに、無線タグ12の外部の装置によって、ディジタルマッチドフィルタ36AにPN符号を設定する構成としてもよい。ディジタルマッチドフィルタ36Aを用いる無線タグ12の構成によれば、異なるPN符号が与えられた複数の無線タグ12に対し、ハードウエアを共通化することができる。
【0022】
相関処理デバイス36は、分波器34から入力されたパルス変調信号に対し、無線タグ12の固有割り当てPN符号によって拡散処理を施して拡散パルス変調信号を生成し、分波器34に出力する。分波器34は、拡散パルス変調信号を無線タグアンテナ32に出力する。無線タグアンテナ32からは拡散パルス変調信号が送信される。
【0023】
このような構成によって、無線タグ12は、無線タグ距離測定装置10Aから送信されたパルス変調信号を受信し、無線タグ12の固有割り当てPN符号によって拡散処理を施した拡散パルス変調信号を送信する。
【0024】
次に、無線タグ距離測定装置10Aが、各無線タグから送信された拡散パルス変調信号に対して実行する処理について説明する。無線受信部20は、各無線タグから送信された拡散パルス変調信号を測定装置アンテナ18を介して受信し、所定の信号レベルとなるまで増幅して逆拡散処理部22に出力する。
【0025】
PN符号記憶部24には、無線タグ距離測定システムで用いられる無線タグの固有割り当てPN符号が記憶されている。符号選択部26は、ユーザの操作または別に設けられた装置等によって距離測定対象の無線タグが指定されると、指定された無線タグの固有割り当てPN符号をPN符号記憶部24から読み込む。そして、読み込んだPN符号に基づいてPN信号を生成し逆拡散処理部22に出力する。
【0026】
逆拡散処理部22は、無線受信部20から出力された拡散パルス変調信号に、符号選択部26から出力されたPN信号による畳み込み演算を施し、演算結果を距離算出部28に出力する。
【0027】
無線受信部20から出力された信号に、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号によって拡散処理が施された拡散パルス変調信号が含まれる場合、逆拡散処理部22からは、パルス変調信号生成部14から出力されたパルス変調信号と同様の時間波形を有する復元パルス変調信号が出力される。
【0028】
距離算出部28は、パルス変調信号生成部14からパルス変調信号が出力されたタイミングと、逆拡散処理部22から復元パルス変調信号が出力されたタイミングとの差を測定する。そして、測定したタイミング差に基づいて、測定装置アンテナ18と無線タグとの間の往復伝播時間を求め、往復伝播時間と無線信号の伝播速度とに基づいて無線タグまでの距離を算出する。距離算出部28は、距離算出結果を表示部30に出力する。表示部30は距離算出結果を表示する。
【0029】
距離算出部28は、往復伝播時間を算出するときは、信号がパルス変調信号生成部14から出力されてから測定装置アンテナ18から送信されるまでの遅延時間、ならびに、信号が測定装置アンテナ18で受信されてから逆拡散処理部22から出力されるまでの遅延時間をタイミング差から減算する。これによって、測定装置アンテナ18の位置を基準とした無線タグまでの距離を算出することができる。これらの遅延時間は、無線タグ距離測定装置10Aに固有であり、予め設計の段階で求めておくことができる。また、パルス変調信号と復元パルス変調信号とのタイミング差を、これらの信号の立ち上がりタイミングの他、各信号の被変調正弦波の位相差を用いて測定することで、算出される距離の精度を高くすることができる。
【0030】
このようなシステム構成によれば、距離測定対象とする無線タグを指定し、無線タグ距離測定装置10Aから指定した無線タグまでの距離を測定することができる。例えば、図1に示すPN符号割り当てにおいて、距離測定対象として無線タグ12−2を指定した場合、逆拡散処理部22には無線タグ12−2の固有割り当てPN符号「10011・・・」に基づくPN信号が出力される。これによって、逆拡散処理部22からは、無線タグ12−1〜12−4からそれぞれ送信された拡散パルス変調信号のうち、PN符号「10011・・・」によって拡散処理が施された無線タグ12−2から送信された拡散パルス変調信号に基づく復元パルス変調信号が出力される。したがって、無線タグ距離測定装置10Aは、無線タグ12−2までの距離を算出することができる。
【0031】
無線タグ距離測定装置10Aからの距離の差異が小さい複数の無線タグがある場合、これらの無線タグから送信された拡散パルス変調信号は、時間的に重なって無線タグ距離測定装置10Aで受信される。このような場合であっても、本実施形態に係る無線タグ距離測定装置10Aによれば、上述のPN符号の直交性により、距離測定対象の無線タグから送信された拡散パルス変調信号に基づいて復元パルス変調信号が生成される。したがって、複数の無線タグからそれぞれ送信される拡散パルス変調信号が干渉することがなく、距離測定対象の無線タグまでの距離を測定することができる。
【0032】
次に、本発明に係る第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムについて説明する。図4に第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す。図1と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。第1の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、無線タグ距離測定装置10Aがパルス変調信号を送信し、各無線タグが拡散パルス変調信号を送信する。これに対し、第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、無線タグ距離測定装置10Bが距離測定対象に対応した拡散パルス変調信号を送信し、距離測定対象の無線タグが復元パルス変調信号、すなわち、拡散処理が施されていないパルス変調信号を送信する。
【0033】
無線タグ距離測定装置10Bは、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号によって、パルス変調信号に対して拡散処理を施し、拡散パルス変調信号を送信する。拡散パルス変調信号を受信した複数の無線タグのうち、拡散パルス変調信号の拡散処理に用いられたPN符号と自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグは、受信した拡散パルス変調信号に対して逆拡散処理を施した復元パルス変調信号を送信する。
【0034】
無線タグ距離測定装置10Bは、復元パルス変調信号を受信すると、拡散パルス変調信号を送信してから復元パルス変調信号が受信されるまでの時間に基づいて、距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。
【0035】
このような処理を実行するための無線タグ距離測定装置10Bの構成を図5に示す。図2に示す無線タグ距離測定装置10Aの構成部と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
パルス変調信号生成部14は、パルス変調信号を生成し拡散処理部42および距離算出部28に出力する。符号選択部26は、ユーザの操作または別に設けられた装置等によって距離測定対象の無線タグが指定されると、指定された無線タグの固有割り当てPN符号をPN符号記憶部24から読み込む。そして、読み込んだPN符号に基づいてPN信号を生成し拡散処理部42に出力する。拡散処理部42は、符号選択部26から出力されたPN信号によってパルス変調信号に対し拡散処理を施した拡散パルス変調信号を、無線送信部16に出力する。無線送信部16は、拡散パルス変調信号を無線信号に変換し、測定装置アンテナ18を介して送信する。
【0037】
無線タグ距離測定装置10Bから送信された拡散パルス変調信号は各無線タグで受信される。無線タグとしては、図2に示す第1の実施形態に係る無線タグ12と同一のもの、すなわち、図3(a)または(b)に示したものを用いることができる。無線タグアンテナ32で受信された拡散パルス変調信号は分波器34に入力される。分波器34は拡散パルス変調信号を相関処理デバイス36に入力する。
【0038】
上記では、相関処理デバイス36には、無線タグ12に固有に割り当てられたPN符号によって、入力信号に対して拡散処理を施し出力するものを用いる点について説明した。このような相関処理デバイス36に、固有割り当てPN符号による拡散処理が施された信号が入力されると、逆拡散処理が施された拡散処理前の信号が出力される。
【0039】
相関処理デバイス36は、固有割り当てPN符号によって拡散処理が施された拡散パルス変調信号が分波器34から出力されると、その拡散パルス変調信号に対して逆拡散処理を施して復元パルス変調信号を生成し、分波器34に出力する。分波器34は、復元パルス変調信号を無線タグアンテナ32に出力する。無線タグアンテナ32からは復元パルス変調信号が送信される。
【0040】
このような構成によって、拡散パルス変調信号を受信した複数の無線タグのうち、拡散パルス変調信号の拡散処理に用いられたPN符号と自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグは、受信した拡散パルス変調信号に対し逆拡散処理を施した復元パルス変調信号を送信する。
【0041】
次に、無線タグ距離測定装置10Bが、無線タグから送信された復元パルス変調信号に対して実行する処理について説明する。無線受信部20は、無線タグから送信された復元パルス変調信号を測定装置アンテナ18を介して受信し、所定の信号レベルとなるまで増幅して距離算出部28に出力する。
【0042】
距離算出部28は、パルス変調信号生成部14からパルス変調信号が出力されたタイミングと、無線受信部20から復元パルス変調信号が出力されたタイミングとの差を測定する。そして、測定したタイミング差に基づいて、測定装置アンテナ18と無線タグとの間の往復伝播時間を求め、往復伝播時間と無線信号の伝播速度とに基づいて距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。距離算出部28は、距離算出結果を表示部30に出力する。表示部30は距離算出結果を表示する。
【0043】
距離算出部28は、往復伝播時間を算出するときは、信号がパルス変調信号生成部14から出力されてから、測定装置アンテナ18から送信されるまでの遅延時間、ならびに、信号が測定装置アンテナ18で受信されてから、無線受信部20から出力されるまでの遅延時間をタイミング差から減算する。これによって、測定装置アンテナ18の位置を基準とした無線タグまでの距離を算出することができる。これらの遅延時間は、無線タグ距離測定装置10Bに固有であり、予め設計の段階で求めておくことができる。また、パルス変調信号と復元パルス変調信号とのタイミング差を、これらの信号の立ち上がりタイミングの他、各信号の被変調正弦波の位相差を用いて測定することで、算出される距離の精度を高くすることができる。
【0044】
このようなシステム構成によれば、距離測定対象とする無線タグを指定し、無線タグ距離測定装置10Bから指定した無線タグまでの距離を測定することができる。例えば、図4に示される符号割り当てにおいて、距離測定対象として無線タグ12−2を指定した場合、拡散処理部42には無線タグ12−2の固有割り当てPN符号「10011・・・」に基づくPN信号が出力される。これによって、無線タグ距離測定装置10Bからは、無線タグ12−2のPN符号「10011・・・」によって拡散処理が施された拡散パルス変調信号が送信される。そして、拡散パルス変調信号を受信した無線タグ12−1〜12−4のうち、固有割り当てPN符号「10011・・・」と同一の固有割り当てPN符号が割り当てられた無線タグ12−2が、復元パルス変調信号を送信する。したがって、無線タグ距離測定装置10Bは、無線タグ12−2までの距離を算出することができる。
【0045】
本実施形態に係る無線タグ距離測定システムによれば、上述のPN符号の直交性により、距離測定対象の無線タグのみが逆拡散処理を行い復元パルス変調信号を送信する。そして、距離測定対象でない無線タグからは復元パルス変調信号は送信されない。したがって、無線タグ距離測定装置10Bからの距離の差異が小さい複数の無線タグがある場合であっても、複数の無線タグからそれぞれ送信される信号が干渉することがなく、距離測定対象の無線タグまでの距離を算出することができる。
【0046】
上記のように、無線タグ距離測定装置10Aまたは10Bの距離算出部28は、復元パルス変調信号に基づいて距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。距離算出部28が距離算出を行うためには、復元パルス変調信号の信号レベルが所定値を超える必要がある。したがって、無線タグ距離測定装置10Aまたは10Bの測定可能最大距離は、無線タグ距離測定装置10Aまたは10Bが送信する信号のレベルを大きくすることで長くすることができる。ところが、無線タグ距離測定装置10Aまたは10Bの無線送信部16は、その飽和レベルを超えるレベルの信号を送信することができない。したがって、測定可能最大距離は、無線送信部16の送信飽和レベルに依存するといえる。
【0047】
ここで、第1の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、無線タグ距離測定装置10Aが、パルス変調信号を送信し各無線タグが拡散パルス変調信号を送信する。そして、無線タグ距離測定装置10Aは、無線タグから送信された拡散パルス変調信号を逆拡散した復元パルス変調信号を用いて無線タグまでの距離を算出する。一方、第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、無線タグ距離測定装置10Bが、拡散パルス変調信号を送信し距離測定対処の無線タグが復元パルス変調信号を送信する。そして、無線タグ距離測定装置10Bは、受信した復元パルス変調信号を用いて無線タグまでの距離を算出する。
【0048】
無線タグ距離測定装置10Aおよび10Bの各無線送信部16の送信飽和レベルが同一であり、無線タグ距離測定装置10Aおよび10Bが送信飽和レベルの信号を送信した場合、距離算出部28が距離算出に用いる復元パルス変調信号のレベルは、無線タグ距離測定装置10Bの方が大きい。その理由は、無線タグ距離測定装置10Bの距離測定対象の無線タグが、受信した拡散パルス変調信号を逆拡散した復元パルス変調信号を無線タグ距離測定装置10Bに向けて送信するため、拡散利得分だけ無線タグが送信する信号のレベルが大きくなるからである。
【0049】
したがって、無線タグ距離測定装置の送信飽和レベルが同一であるという条件の下では、第2の実施形態の方が第1の実施形態よりも測定可能最大距離が長いといえる。また、測定可能最大距離が同一となるようシステムを設計した場合には、第2の実施形態の無線タグ距離測定装置10Bの無線送信部16の規模を小さくすることができる。
【0050】
また、無線タグ距離測定装置10Aまたは10Bの測定可能最大距離は、無線受信部20の雑音指数を小さくし、増幅利得を大きくすることで長くすることができる。ここで、第1の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、各無線タグから無線タグ距離測定装置10Aに向かう信号に対して拡散処理が施されている。したがって、無線タグ距離測定装置10Aの無線受信部20は、雑音指数が小さく増幅利得が大きいことが望まれる。一方、第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、無線タグから無線タグ距離測定装置10Bに向かう信号は、無線タグにおいて逆拡散処理が施されている。したがって、拡散利得が得られる分、無線タグ距離測定装置10Bでの受信信号レベルが大きくなる。そのため、無線タグ距離測定装置10Bの無線受信部20には、無線タグ距離測定装置10Aの無線受信部20に要求される程良好な雑音指数特性および増幅利得特性が要求されない。これによって、第2の実施形態は第1の実施形態に比して無線受信部20の設計が容易となり、無線タグ距離測定装置10Bの測定可能最大距離を長くすることが容易となる。
【0051】
次に、無線タグ距離測定システムを応用した無線タグ測位システムについて図6を参照して説明する。無線タグ測位システムは、複数の無線タグ距離測定装置10を配置することにより無線タグの位置を測定するものである。図6は4台の無線タグ距離測定装置10を配置した例を示す。無線タグ距離測定装置10としては、上述の第1または第2の実施形態に係る無線タグ距離測定装置10Aまたは10Bを用いることができる。
【0052】
情報処理装置44は、距離測定対象の無線タグを指定する指定情報を各無線タグ距離測定装置10の符号選択部26に出力する。各無線タグ距離測定装置10の符号選択部26は、指定情報によって指定された無線タグの固有割り当てPN符号をPN符号記憶部24から読み込む。そして、読み込んだPN符号に基づいてPN信号を生成し、逆拡散処理部22または拡散処理部42に出力する。各無線タグ距離測定装置10は、符号選択部26から出力されたPN信号に基づく処理を実行する。これによって、各無線タグ距離測定装置10の距離算出部28は、情報処理装置44によって指定された無線タグまでの距離を算出し、情報処理装置44に出力する。
【0053】
情報処理装置44には、各無線タグ距離測定装置10が設置されている位置を示す設置位置情報が記憶されている。情報処理装置44は、各無線タグ距離測定装置10から出力された距離算出結果と、各無線タグ距離測定装置10の設置位置情報とに基づいて、指定した無線タグの位置を求める。
【0054】
無線タグの位置は次のようにして求めることができる。情報処理装置44は、各無線タグ距離測定装置10について、無線タグ距離測定装置10の位置を中心とし、算出距離を半径の長さとする算出距離球面46を表す式を求める。情報処理装置44は、各無線タグ距離測定装置10について求められた算出距離球面46が交わる交点48の位置を無線タグ12の位置として算出する。
【0055】
無線タグ距離測定装置10を平面上に配置し、その平面上にある無線タグの位置を測定する場合には、同一直線上にない3台以上の無線タグ距離測定装置10を配置すれば、1点の交点48を求めることができ、これを無線タグの位置として求めることができる。また、3次元空間で無線タグの位置を測定する場合には、同一平面上にない4台以上の無線タグ距離測定装置10を配置すればよい。
【0056】
本発明の第1または第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムを応用した無線タグ測位システムは、工場における製品管理、日用品、小物等の販売を行う小売店、イベント参加者の居場所を管理する必要があるイベント会場等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1の実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る無線タグ距離測定装置の構成を示す図である。
【図3】無線タグの構成を示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る無線タグ距離測定装置の構成を示す図である。
【図6】無線タグ測位システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10,10A,10B 無線タグ距離測定装置、12,12−1〜12−4 無線タグ、14 パルス変調信号生成部、16 無線送信部、18 測定装置アンテナ、20 無線受信部、22 逆拡散処理部、24 PN符号記憶部、26 符号選択部、28 距離算出部、30 表示部、32 無線タグアンテナ、34 分波器、36 相関処理デバイス、36A ディジタルマッチドフィルタ、38 PN符号記憶部、40 PN符号設定回路、42 拡散処理部、44 情報処理装置、46 算出距離球面、48 交点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送受信によって目標物距離測定を行う距離測定装置の目標物となる無線タグであって、
到来した信号を受信する無線受信手段と、
前記無線受信手段が受信した信号に含まれる信号のうち、前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づいて拡散処理が施された信号に逆拡散処理を施し、逆拡散信号を出力する相関処理手段と、
前記逆拡散信号を送信する無線送信手段と、
を備えることを特徴とする無線タグ。
【請求項2】
目標物距離測定を行うための距離測定信号を送信する無線送信部と、
前記距離測定信号の送信後に到来した到来信号を受信する無線受信部と、
前記距離測定信号の送信タイミングと前記到来信号の受信タイミングとに基づいて、目標物とする無線タグまでの距離を算出する距離算出部と、
を備える無線タグ距離測定装置であって、
前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づく拡散処理によって拡散信号を生成する拡散処理部を備え、
前記無線送信部は、
前記拡散信号を前記距離測定信号として送信し、
前記無線受信部は、
前記拡散信号に対して前記無線タグによって逆拡散処理が施された逆拡散信号を前記到来信号として受信し、
前記距離算出部は、
前記拡散信号が送信されてから前記逆拡散信号が受信されるまでの時間に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする無線タグ距離測定装置。
【請求項3】
無線送受信によって目標物距離測定を行う距離測定装置の目標物となる無線タグであって、
到来した信号を受信する無線受信手段と、
前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づく拡散処理によって、前記無線受信手段が受信した信号に対して拡散処理を施し、拡散信号を出力する相関処理手段と、
前記拡散信号を送信する無線送信手段と、
を備えることを特徴とする無線タグ。
【請求項4】
目標物距離測定を行うための距離測定信号を送信する無線送信部と、
前記距離測定信号の送信後に到来した到来信号を受信する無線受信部と、
前記距離測定信号の送信タイミングと前記到来信号の受信タイミングとに基づいて、目標物とする無線タグまでの距離を算出する距離算出部と、
を備える無線タグ距離測定装置であって、
前記到来信号に含まれる信号のうち、前記無線タグの固有割り当てPN符号に基づく拡散処理が施された信号に対し逆拡散処理を施し、逆拡散信号を生成する逆拡散部を備え、
前記距離測定信号が送信されてから前記逆拡散信号を生成する元となった信号が受信されるまでの時間に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする無線タグ距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−174971(P2009−174971A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13274(P2008−13274)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】