説明

無線受信機におけるDCオフセット補正装置及び方法

【課題】 効率よく正確にDCオフセットを算出し、受信信号を補正して、受信利得の劣化を防止することができる、無線受信機におけるDCオフセット補正装置及び方法を提供する。
【解決手段】 無線受信機における受信信号に対してDCオフセット成分を除去する補正を行う装置が、DCオフセット成分算出対象範囲の中心となる基準値を決定する基準値決定部28と、その基準値決定部28によって決定された基準値を中心に一定の範囲幅を設定することにより、DCオフセット成分算出対象範囲を指定する範囲指定部30と、その範囲指定部30によって指定された範囲内に存在する受信信号に基づいてDCオフセット成分を算出し、受信信号全体から該DCオフセット成分を減算するDCオフセット減算部32と、を具備するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線受信機において受信信号中に重畳するDC(直流)オフセットを除去するためのDCオフセット補正装置及び方法に関し、特に、スペクトラム拡散方式を用いる無線受信機に好適なDCオフセット補正装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線受信機においては、受信信号中に受信エラーを招くDC(直流)オフセットが重畳する場合があることから、そのDCオフセットを除去するためのDCオフセット補正が行われている。かかるDCオフセット補正装置の一例として、RF部の電源をオフし、受信信号が入力されていない状態を作り、DCオフセットを算出する手法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
その他のDCオフセット補正装置として、受信信号をRF部で増幅し、A/D変換した後にデジタルロウパスフィルタ(D−LPF)からの出力をDCオフセットとして検出して受信信号を補正する装置(例えば、下記特許文献2参照)や、受信信号が有意信号か雑音かを判別し雑音区間の信号を移動平均してDCオフセットを算出して受信信号を補正する装置(例えば、下記特許文献3参照)も知られている。
【0004】
しかし、これらの手法をスペクトラム拡散受信機に適用する場合において、相関演算及びA/D変換後の図1に例示されるような凸スパイク状の受信信号からDCオフセット成分が算出されるときには、相関ピーク(凸部分)に依存する誤ったDCオフセット成分が算出されてしまう。なお、図1は、スペクトラム拡散方式レーダ受信機における受信信号の例を示す図である。さらに、オフセット補正回路の規模及び消費電力(計算時間)が大きくなってしまう。
【0005】
このように、スペクトラム拡散方式を用いた無線受信機において、相関演算及びA/D変換後に従来の無線受信機のDCオフセット補正装置を適用すると、受信利得が劣化してしまう。すなわち、図1に示すような受信信号に対して、DC成分を含む雑音区間を正確に指定することができず、誤差の大きいDCオフセット成分が算出されてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2001−245007号公報
【特許文献2】特開2001−228236号公報
【特許文献3】特開平9−274539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率よく正確にDCオフセットを算出し、受信信号を補正して、受信利得の劣化を防止することができる、無線受信機におけるDCオフセット補正装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によれば、無線受信機における受信信号に対してDCオフセット成分を除去する補正を行う装置であって、DCオフセット成分を算出する際の基準値を決定する基準値決定部と、前記基準値決定部によって決定された基準値に基づいてDCオフセット成分算出対象範囲を指定する範囲指定部と、前記範囲指定部によって指定された範囲内に存在する受信信号に基づいてDCオフセット成分を算出し、受信信号全体から該DCオフセット成分を減算するDCオフセット減算部と、を具備することを特徴とする、無線受信機におけるDCオフセット補正装置が提供される。
【0009】
一つの好適な態様では、前記基準値決定部は、受信信号の複数のサンプルのうちの信号強度の絶対値が小さい複数のサンプルから平均値を算出し、該平均値を基準値とする。あるいは、前記基準値決定部は、受信信号の複数のサンプルから信号強度の平均値を算出し、該平均値を基準値とする。あるいは、前記基準値決定部は、有意成分を含まないことが既知である受信信号の信号強度を基準値とする。
【0010】
一つの好適な態様では、前記範囲指定部は、メモリに予め格納されたデータを参照することにより前記範囲幅を決定する。あるいは、前記範囲指定部は、受信信号の複数のサンプルで信号強度の絶対値が最大である値に基づいて前記範囲幅を決定する。あるいは、前記範囲指定部は、受信信号の複数のサンプルのうちで所定番目に信号強度の絶対値が小さい値に基づいて前記範囲幅を決定する。あるいは、前記範囲指定部は、範囲幅に含まれる受信信号のサンプルの割合が所定以上になる範囲幅を、採用すべき範囲幅と決定する。
【0011】
好ましくは、前記無線受信機は、スペクトラム拡散方式を採用するものである。そして、その受信機は、遅延された送信信号との相関演算により逆拡散され、増幅され及びA/D変換された受信信号に対してDCオフセット補正を行う。
【0012】
また、本発明によれば、上述した装置において実施される方法が提供される。なお、本発明における信号強度(振幅値)は、ある一定レベル(例えば、電力が0のレベル)からの信号強度(振幅値)であり、一般的な振幅(信号のゆれ幅)とは異なる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による、無線受信機におけるDCオフセット補正装置にあっては、基準値決定部及び範囲指定部によって決定されるDCオフセット成分算出対象範囲に存在するサンプルに基づいてDCオフセット成分が算出される。そのため、スペクトラム拡散受信機に適用された場合、相関ピーク値(凸部分)を含まない範囲においてDCオフセット算出を行うので、より正確なDCオフセット補正が可能である。また、従来技術に比べ、オフセット補正回路の規模も大きくなく、消費電力も小さく、高速化も図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明をスペクトラム拡散方式の無線受信機に適用した場合の実施形態について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るDCオフセット補正装置を備えたスペクトラム拡散方式レーダ受信機の基本構成を示すブロック図である。同図において、まず、符号発生器10は、PN(Pseudo Noise:擬似雑音)符号信号を発生させ、RF(無線周波)部12は、その信号を増幅し、送信(TX)アンテナ14は、増幅された信号を送信する。また、遅延発生器16は、PN符号信号に遅延を加えた信号を生成する。
【0015】
受信(RX)アンテナ18は、送信アンテナ14より送信された信号を受信する。RF(無線周波)部20は、受信された信号を増幅する。そして、相関演算部22は、遅延発生器16の出力信号と増幅された受信信号との相関をとることで受信信号を逆拡散する。オペアンプ(演算増幅器)24は、逆拡散された受信信号を増幅し、A/D変換器26は、増幅された受信信号をアナログ信号からデジタル信号へと変換する。
【0016】
そして、基準値決定部28は、DCオフセット成分を算出する対象範囲の中心となる基準値を決定する。次いで、範囲指定部30は、その基準値を中心に一定の範囲幅を設定することにより、DCオフセット成分算出対象範囲を指定する。DCオフセット減算部32は、範囲指定部30によって指定された範囲内に存在する受信信号サンプルの平均値を求め、その平均値をDCオフセット成分として受信信号全体から減算する。
【0017】
ここで、図2に示される相関演算部22としては、スライディング相関器又はマッチドフィルタを採用することができる。さらに、基準値決定部28及び範囲指定部30は、以下に示されるように構成することができる。
【0018】
図3は、基準値決定部28の第一の構成例を示すブロック図である。この例では、まず、絶対値算出ユニットが、受信信号(A/D変換器26の出力)のサンプルの全てについてその振幅値の絶対値を求める。次いで、並べ替えユニットが、その絶対値の昇順にサンプルを並び替える。次いで、算出用サンプル指定ユニットが、並べ替えられた全サンプルのうち、最初から半分までのサンプルを算出用サンプルとして指定する。最後に、平均値算出ユニットが、指定されたサンプルの平均値を求め、その平均値を基準値として決定する。
【0019】
図4は、基準値決定部28の第二の構成例を示すブロック図である。この例では、平均値算出ユニットが、受信信号(A/D変換器26の出力)の全サンプルの振幅値から、その平均値を求め、その平均値を基準値として決定する。
【0020】
図5は、基準値決定部28の第三の構成例を示すブロック図である。この例では、一番目のサンプルは有意成分を含まないサンプルであることが既知であることを利用して、サンプル指定ユニットが、一番目の振幅値を基準値として決定する。
【0021】
次に、範囲指定部30の構成例について説明する。図6は、範囲指定部30の第一の構成例を示すブロック図である。この例では、経験則により求められている範囲幅が予めメモリに格納されている。範囲決定ユニットは、メモリを参照することにより範囲幅を決定し、基準値決定部28によって決定された基準値を中心に当該範囲幅を設定することにより、DCオフセット成分算出対象範囲を決定する。
【0022】
図7は、範囲指定部30の第二の構成例を示すブロック図である。この例では、まず、絶対値算出ユニットが、受信信号(A/D変換器26の出力)のサンプルの全てについてその振幅値の絶対値を求める。次いで、最大値算出ユニットが、その絶対値の最大値を算出する。次いで、範囲幅決定ユニットが、その最大値から20dB下げた振幅値と基準値決定部28によって決定された基準値との差の絶対値を範囲幅として決定する。最後に、範囲決定ユニットが、基準値決定部28によって決定された基準値を中心に当該範囲幅を設定することにより、DCオフセット成分算出対象範囲を決定する。
【0023】
図8は、範囲指定部30の第三の構成例を示すブロック図である。この例では、まず、絶対値算出ユニットが、受信信号(A/D変換器26の出力)のサンプルの全てについてその振幅値の絶対値を求める。次いで、サンプル数カウントユニットが、絶対値の小さいサンプルからカウントを開始し、サンプル全体数の半分となる値までカウントする。カウントが終了したとき、範囲幅決定ユニットは、カウント終了に係るサンプルの振幅値の絶対値を範囲幅として決定する。最後に、範囲決定ユニットが、基準値決定部28によって決定された基準値を中心に当該範囲幅を設定することにより、DCオフセット成分算出対象範囲を決定する。
【0024】
図9は、範囲指定部30の第四の構成例を示すブロック図である。この例では、まず、範囲幅拡張ユニットが、一定(例えば、0.2V)の範囲幅を初期範囲幅として仮定し、基準値決定部28によって決定された基準値を中心に当該初期範囲幅を設定して範囲を求める。次いで、サンプル数カウントユニットが、その範囲内に存在するサンプル数をカウントする。カウントされたサンプル数が全サンプル数の半数を超えない場合には、範囲幅拡張ユニットが、範囲を一定幅(例えば、0.1V)だけ拡張し、サンプル数カウントユニットが、新たな範囲内に存在するサンプル数をカウントする。この過程が、範囲内に存在するサンプル数が全サンプル数の半分を超えるまで繰り返される。カウントされたサンプル数が全サンプル数の半分を超えた場合には、範囲決定ユニットが、そのときの範囲幅を採用すべき範囲幅として決定するとともに、基準値を中心に当該範囲幅を設定して得られる範囲をDCオフセット成分算出対象範囲として決定する。
【0025】
以上、相関演算部22の構成例、基準値決定部28の構成例及び範囲指定部30の構成例について説明したが、これらの構成例については任意の組合せを採用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】スペクトラム拡散方式レーダ受信機における受信信号の例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るDCオフセット補正装置を備えたスペクトラム拡散方式レーダ受信機の基本構成を示すブロック図である。
【図3】基準値決定部の第一の構成例を示すブロック図である。
【図4】基準値決定部の第二の構成例を示すブロック図である。
【図5】基準値決定部の第三の構成例を示すブロック図である。
【図6】範囲指定部の第一の構成例を示すブロック図である。
【図7】範囲指定部の第二の構成例を示すブロック図である。
【図8】範囲指定部の第三の構成例を示すブロック図である。
【図9】範囲指定部の第四の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0027】
10 符号発生器
12 RF部
14 送信アンテナ
16 遅延発生器
18 受信アンテナ
20 RF部
22 相関演算部
24 オペアンプ
26 A/D変換器
28 基準値決定部
30 範囲指定部
32 DCオフセット減算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線受信機における受信信号に対してDCオフセット成分を除去する補正を行う装置であって、
DCオフセット成分を算出する際の基準値を決定する基準値決定部と、
前記基準値決定部によって決定された基準値に基づいてDCオフセット成分算出対象範囲を指定する範囲指定部と、
前記範囲指定部によって指定された範囲内に存在する受信信号に基づいてDCオフセット成分を算出し、受信信号全体から該DCオフセット成分を減算するDCオフセット減算部と、
を具備することを特徴とする、無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項2】
前記基準値決定部は、受信信号の複数のサンプルのうちの信号強度の絶対値が小さい複数のサンプルから平均値を算出し、該平均値を基準値とすることを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項3】
前記基準値決定部は、受信信号の複数のサンプルから信号強度の平均値を算出し、該平均値を基準値とすることを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項4】
前記基準値決定部は、有意成分を含まないことが既知である受信信号の信号強度を基準値とすることを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項5】
前記範囲指定部は、メモリに予め格納されたデータを参照することにより前記範囲幅を決定することを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項6】
前記範囲指定部は、受信信号の複数のサンプルで信号強度の絶対値が最大である値に基づいて前記範囲幅を決定することを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項7】
前記範囲指定部は、受信信号の複数のサンプルのうちで所定番目に信号強度の絶対値が小さい値に基づいて前記範囲幅を決定することを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項8】
前記範囲指定部は、範囲幅に含まれる受信信号のサンプルの割合が所定以上になる範囲幅を、採用すべき範囲幅と決定することを特徴とする、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項9】
前記無線受信機は、スペクトラム拡散方式を採用するものである、請求項1に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項10】
遅延された送信信号との相関演算により逆拡散され、増幅され及びA/D変換された受信信号に対してDCオフセット補正を行う、請求項9に記載の無線受信機におけるDCオフセット補正装置。
【請求項11】
無線受信機における受信信号に対してDCオフセット成分を除去する補正を行う方法であって、
DCオフセット成分を算出する際の基準値を決定するステップと、
該決定された基準値に基づいてDCオフセット成分算出対象範囲を指定するステップと、
該指定された範囲内に存在する受信信号に基づいてDCオフセット成分を算出し、受信信号全体から該DCオフセット成分を減算するステップと、
を具備することを特徴とする、無線受信機におけるDCオフセット補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−214808(P2006−214808A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26399(P2005−26399)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】