説明

無線測位システム

【課題】移動端末と基地局間との距離を計測し、計測した距離に基づいて、良好な通信環境を成立させる最適なアンテナを選択すること。
【解決手段】TOA屋内無線測位システムの基地局200aは、移動端末との距離に応じた通信余裕に関する情報を送信アンテナごとに有し、無線通信時には、移動端末100が計算した距離とその距離に対応する通信余裕に基づいて、切り替え可能な複数の送信アンテナから、良好な通信が成立する最適な送信アンテナを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、屋内の無線測位システムに関し、特に、屋内に設置された基地局と移動端末との距離から、高さの異なる複数のアンテナから適切なアンテナを選択することで、良好な通信状態を保つことができる無線測位システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信を用いて移動端末の位置を特定する(以下、無線測位とする)技術について広く研究がなされている。そして、この無線測位を実施するシステムの一例として、TOA(Time Of Arrival)屋内無線測位システムがある。
【0003】
TOA屋内無線測位システムは、移動端末から基地局へ発せられる電波の伝搬時間を用いて無線測位を行うため、良好な通信状態で、無線測位が実施されるのが望ましく、基地局の受信アンテナに高利得指向性アンテナが使用されることがある。
【0004】
しかし、無線通信は、有線通信に比べると通信が不安定で、通信が途切れるといった課題や電波を利用する他の機器からの電波干渉や妨害を受けるといった課題が挙げられ、無線測位を実施する際は、これら無線通信における特有の課題を考慮する必要がある。
【0005】
これらの課題に適用する技術として、例えば、基地局に複数のアンテナと受信機を用意し、移動端末が発した信号に関する受信レベルと受信データのエラーの状態を複数の受信機で受信し、その基地局で受信した信号の状態を比較し、通信品質の良い受信機とアンテナの組合せを選択し、良好な通信状態を構築するという技術が知られている。
【0006】
また、屋外の基地局において、設置地上高の高く、通信可能範囲が広いアンテナと、そのアンテナに比べ設置地上高が低く、通信可能範囲が狭いアンテナから、最小通信可能範囲を提供することができるアンテナを選択し、基地局の送信エリアを抑制し、他の機器との通信干渉を防ぐことができる技術が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−322254号公報
【特許文献2】特開2000−236294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の技術では、必ずしも通信に最適なアンテナを選択することができず、移動端末と基地局間において良好な通信環境を成立させることはできないという問題があった。
【0009】
例えば、受信レベルや受信データのエラーに基づいて最適なアンテナを選択する場合、他の通信機器からの妨害電波等の影響により、各アンテナで受信する信号の受信レベル及び受信データのエラーがほぼ同等の状態に悪化する場合がある。各アンテナにおける受信信号の受信レベル及び受信データのエラーがほぼ同等の状態になると、各アンテナ間の差別化を図ることができず、結果として、通信に最適なアンテナを選択することができない。
【0010】
また、通信範囲が重複しない複数のアンテナから最適なアンテナを選択する場合、単一のアンテナの通信範囲の中で、局所的に存在する通信不能な範囲を他のアンテナによって補うことができず、このような局所的な通信不能な範囲に移動端末が存在する場合には、基地局と移動端末間の通信を成立させることができないという状況が発生し、結果として、良好な通信環境を成立させることができない場合があった。
【0011】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するためになされたものであり、通信に最適なアンテナを選択して良好な通信環境を成立させることができる無線測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この無線測位システムは、切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する基地局と移動端末との信号の往復時間を計測し、計測した時間に基づいて、前記基地局と前記移動端末との距離を計算する距離計算手段と、前記距離計算手段が算出した距離と、前記アンテナごとに有する前記移動端末と前記基地局との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するアンテナ選択手段を備えたことを要件とする。
【発明の効果】
【0013】
この無線測位システムによれば、屋内に設置された基地局と移動端末間との距離に応じて、設置高さの異なる複数のアンテナから、基地局と移動端末との通信に最適なアンテナを選択することができ、良好な通信状態を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る無線測位システムの好適な実施の形態を詳細に説明する。尚、本実施例では、無線測位システムの一例として、TOA(Time Of Arrival)屋内無線測位システムを例に挙げて説明する。
【実施例1】
【0015】
最初に、従来のTOA(Time Of Arrival)屋内無線測位システムによる測位方法の一例について説明する。TOA屋内無線測位システムの測位方法は、移動端末から各基地局までの電波の到達時間を計測して、その計測結果に基づき、移動端末と基地局間との距離を求め(測距する)、この測距を3台の基地局と行う三点測量にて移動端末の位置を特定する方法が例に挙げられる。
【0016】
したがって、移動端末と各基地局との測距を行う前提として、移動端末と各基地局間の信号の到達時間が計測できるような良好な通信環境が成立していることが求められる。本実施例では、移動端末と各基地局間において良好な通信環境を成立させ、移動端末と各基地局間との測距を行うことで、移動端末の位置を特定することができる無線測位システムについて説明する。
【0017】
まず、本実施例1に係るTOA(Time Of Arrival)屋内無線測位システムの概要及び特徴について説明する。本実施例に係るTOA屋内無線測位システムの基地局は、移動端末との距離に応じた通信余裕に関する情報を送信アンテナごとに有し、無線通信時には、移動端末が計算した距離とその距離に対応する通信余裕に基づいて、切り替え可能な高さの異なる複数の送信アンテナから、良好な通信が成立する最適な送信アンテナを選択する。なお、通信余裕とは、通信可能な限界値に対して、どの程度余裕が有るのかを示す値のことであり、リンクマージン(Link Margin)とも呼ばれる。
【0018】
図1は、実施例1に係る無線測位システムの特徴を説明するための図である。尚、図1に示すように、三点測量を行う3台の基地局のうち、その中の1台の基地局に相当する基地局200と移動端末100が通信を行う場合を例に挙げて説明する。
【0019】
図1に示すように、基地局200は、送信アンテナ1、送信アンテナ2といった通信余裕が異なる2種類の送信アンテナを有している。この通信余裕は、移動端末100との異なる組み合わせに基づいて定められているものとする。
【0020】
距離Aの地点に存在する移動端末100と通信する場合、基地局200が、送信アンテナ1と送信アンテナ2が示す移動端末100との通信余裕を比較すると、送信アンテナ1と通信を行うことで、移動端末100と良好な通信を成立させることができるので、送信アンテナ1を選択する。
【0021】
一方、距離がBの地点に移動端末100が存在する場合においては、基地局200が、送信アンテナ1と送信アンテナ2が示す移動端末100の通信余裕を比較すると、送信アンテナ2と通信を行うことで、移動端末100と良好な通信を成立させることができるので、送信アンテナ2を選択する。
【0022】
このように、本実施例1に係るTOA屋内無線測位システムの基地局は、移動端末との距離に応じた通信余裕に関する情報を送信アンテナごとに有し、移動端末間の距離とその距離に対応する通信余裕から、移動端末との通信に最適な送信アンテナを選択することができ、移動端末と良好な通信を成立させることができる。
【0023】
次に、本実施例1に係る無線測位システムについて説明する。本実施例では、屋内環境にて無線測位することから、前提として、移動端末が基地局から直接波と天井反射波を受信することで生ずる干渉作用や、移動端末と基地局間との通信余裕について考慮する必要がある。
【0024】
まず、反射波の影響による干渉作用について検討する。図2は反射波の影響による干渉作用を示す図である。図2に示すように、移動端末100は基地局200と通信を行う際、直接波(パスD)と天井反射波(パスM)を受信してしまう。
【0025】
したがって、パスDとパスMの行路差から生じる位相差により、通信干渉が発生し、結果として、移動端末100の通信余裕に影響を及ぼし、移動端末100と基地局200との通信余裕に変化が生ずる。
【0026】
具体的に、図3‐1、図3‐2、図3‐3を用いて説明する。図3‐1、図3‐2、図3‐3は、移動端末の通信余裕を示すデータの一例を示す図である。図3‐1、図3‐2、図3‐3に示すように、移動端末100のアンテナの高さを1.5mとした時、移動端末100の通信余裕は、基地局200と移動端末100との間で生ずる干渉作用と、基地局200の各送信アンテナの高さの違いに応じて変化する。
【0027】
図3‐1、図3‐2、図3‐3において最上段の行に示す数字は、基地局200からの横方向の距離[m:メートル]を、左端の列に示す数字は地面からの高さ[m]を示している。そして、他の数字は、通信余裕[dB:デシベル]を表している。
【0028】
通信余裕が0[dB]を超える範囲は、移動端末100が基地局200からの信号を受信できる範囲であり、背景を斜線部で示す。その他、背景が白色の範囲は、通信余裕が0[dB]以下で、移動端末100は、基地局200からの信号を受信できない。
【0029】
図3‐1は、高さ2.4mの位置に基地局200を設置し、反射波の影響を考慮せずに基地局200からの直接波のみを、高さ1.5mのアンテナを有する移動端末100で受信した場合の通信余裕をシミュレーションした図である。
【0030】
このように、反射波の影響を考慮しない場合は、移動端末100は、基地局200からの横方向の距離が14.5m以内の範囲に存在すれば、基地局200の送信アンテナの高さを考慮することなく、どの場所でも受信できる。
【0031】
しかし、実際には、図2に示したように、天井や床面による反射波が発生することから、実際の移動端末100の通信余裕は、図3‐2、図3‐3に示すような通信余裕となる。
【0032】
図3‐2は、基地局200の送信アンテナの高さが、2.4mとした場合における移動端末100の通信余裕をシミュレーションした図である。尚、移動端末100のアンテナの高さは、図3‐1と同様に1.5mとする。
【0033】
一方、図3‐3は、基地局200の送信アンテナの高さが、2.1mとした場合における移動端末100との通信余裕をシミュレーションした図である。尚、移動端末100のアンテナの高さは、図3‐1、図3‐2と同様に1.5mとする。
【0034】
この、図3‐2、図3‐3を比較すると、移動端末100の通信余裕は、基地局200の送信アンテナの高さに応じて大きく変化している。例えば、図3‐2の場合では、移動端末100は、基地局200からの横方向の距離が、0mから13mの範囲で受信できるのに対して、図3‐3の場合では、0mから9.5m及び13.5mを超え20m以上の範囲で受信できる。
【0035】
このように、直接波と天井反射波などの干渉作用と、基地局200の送信アンテナの高さの違いに応じて、移動端末100との通信余裕が変化する。以下、上述した条件を考慮し、本実施例1に係る無線測位システムの構成について説明する。
【0036】
図4は、実施例1に係るTOA屋内無線測位システムの構成の一例を示す図である。図4に示すように、本実施例に係るTOA屋内無線測位システムは、移動端末100と基地局200a、200b、200cを有する無線測位システムである。
【0037】
移動端末100は、各基地局との測距を行い、測距の結果を各基地局に出力する。そして、各基地局と測距をする際は、測距用信号を生成し、各基地局に、その測距用信号を送信する。
【0038】
また、各基地局から、その測距用信号に対する返信信号を受信した際は、各基地局との距離計算を行い、測距データを作成する。尚、移動端末100が備える送信アンテナと受信アンテナは、指向性を有していないアンテナである。
【0039】
一方、図4に示す各基地局は、高低差のある送信アンテナ1、2と、指向性がある高利得の受信アンテナを有し、移動端末100からの測距結果に基づいて送信アンテナを切り替える。
【0040】
そして、移動端末100から測距用信号を受信した場合は、測距用信号に対する返信処理を行い、測距データを移動端末100から受信した際は、その測距データに基づいて、移動端末100と良好な通信を成立させることができる送信アンテナを選択する。
【0041】
続いて、移動端末100と基地局200aと無線通信を行う場合を例に挙げて、移動端末100と基地局200aとの測距について説明する。まず、距離L離れた基地局200aに対して、送信時間ttに測距用信号を送信する(以下、移動端末から基地局に対して測距用信号を送信した時間をttとする)。
【0042】
そして、その測距用信号は、移動端末100が送信した時間から、L/c(c:光速)遅れて基地局200aに届く。続いて、基地局200aは、受信感知してから一定の処理時間tm(以下、基地局の測距用信号に対する処理時間をtmとする)後に移動端末100に返信する。
【0043】
したがって、基地局200aからの返信信号を移動端末100が受信した時間をtrとすると(以下、移動端末が基地局からの返信信号を受信した時間をtrとする)、距離Lは、以下の式で求められる。
(tr−tt−tm)/(2c)=L(c:光速)
【0044】
続いて、移動端末100は、求めた測距データ(距離L)を基地局200aに送信する。そして、基地局200aは、その測距データを受信した場合は、その測距データをもとに移動端末100と良好な通信を成立させることができる送信アンテナを選択し、選択した送信アンテナの識別情報を自ら有する記憶部に記録する。
【0045】
一方、基地局200aが移動端末100からの測距データを受信できなかった場合、送信アンテナのデータを記録できず、記録なしの状態になる。そして、記録がない場合、次回、移動端末100から測距用信号を受信した場合に、基地局200aは、別の送信アンテナに切り替えて送信を行う。
【0046】
このように、送信アンテナを選択し、良好な通信状態を保てるので、上述したTWR(Two Way Ranging)測距方式により、移動端末100が、基地局200a以外の、基地局200b、200cとそれぞれ測距を行うことで、移動端末100を測位することができる。
【0047】
次に、実施例1に係る移動端末について説明する。図5は実施例1に係る移動端末の構成を示す機能ブロック図である。以下、移動端末100が基地局200aと通信を行い、測距する場合を例に挙げて説明する。
【0048】
移動端末100は、基地局200aとの距離を測定する際は、測距用信号を生成し、また、基地局200aからその測距用信号に対する返信信号を受信した際は、時間(例えば、tt、tr、tm)をもとに、基地局200aとの距離を計算し、その計算した測距データを基地局200aに送信する。
【0049】
そして、図5に示すように移動端末100は、送受信制御部101と、送信部102と、タイマ103と、送信時間保持部104と、受信部105と、受信時間保持部106とを有する。
【0050】
送受信制御部101は、基地局200aとの距離計算や、基地局200aからの返信信号に対する受信判断等を含む各種送受信に関する制御を行う手段である。そして、特に本発明に密接に関連するものとして、距離計算部101aと、応答判断部101bとを有する。
【0051】
距離計算部101aは、基地局200aとの距離を測定する際は、測距用信号を生成し、また、基地局200aから、その測距用信号に対する返信信号を受信した際は、基地局200aとの距離計算を行う手段である。
【0052】
そして、距離を計算する際、距離計算部101aは、基地局200aに測距用信号を送信した時間(例えば、tt)、その測距用信号に対する基地局200aの処理時間(例えば、tm)、基地局200aが移動端末100に測距用信号を返信した時間(例えば、tr)を基にして、基地局200aとの距離を算出する。
【0053】
応答判断部101bは、測距用信号に対する基地局200aからの返信信号が、任意の設定時間内に、受信できたかを判断する手段である。任意の設定時間内に受信できたと判断した場合は、距離計算部101aが測距計算を実行し、受信できなかったと判断した場合は、所定の時間経過後に、新たな測距用信号を基地局200aに送信する。
【0054】
送信部102は、指向性がない送信アンテナ102aを介して、測距用信号や測距データなどを基地局200aに送信し、また、基地局200aに測距用信号を送信した時の時間(例えば、tt等)を送信時間保持部104に出力する手段である。
【0055】
タイマ103は、tt、tr等の基になる時間情報を生成し、送信部102と、受信部105と、応答判断部101bに対して出力する出段である。
【0056】
送信時間保持部104は、送信部102が、基地局200aに測距信号を送信した時間(例えば、tt)を保持し、保持した時間を距離計算部101aに出力する手段である。
【0057】
受信部105は、指向性がない受信アンテナ105aを介して、基地局200aからの返信信号を受信し、受信した返信信号を距離計算部101aに出力する共に、その返信信号を受信した時の時間(例えば、tr)を受信時間保持部106に出力する手段である。
【0058】
受信時間保持部106は、受信部105が、基地局200aからの返信信号を受信した時間(例えば、tr)を保持し、保持した時間を距離計算部101aに出力する手段である。
【0059】
次に、実施例1に係る基地局について説明する。図6は実施例1に係る基地局の構成を示す機能ブロック図である。基地局200aは、移動端末100からの測距用信号に対する返信処理や移動端末100から送られてきた測距データに基づく送信アンテナの選択等を行う。そして、特に本発明に密接に関連するものとして、図6に示すように、受信部201と、記憶部202と、送信部203と、送受信制御部204とを有する。
【0060】
受信部201は、指向性がある高利得の受信アンテナ201aを介して、移動端末100より送信されてきた測距用信号や測距データを受信し、測距用信号や測距データといった受信情報を送受信制御部204に出力する手段である。
【0061】
記憶部202は、送信部203が有する各種送信アンテナの識別情報や移動端末100との距離を示す距離情報を一時的に記憶する手段で、送信アンテナ選択TBL202aを有する。
【0062】
送信アンテナ選択TBL202aは、送信部203が有する各送信アンテナの識別情報や、基地局200aの横方向の距離をX軸、地面からの高さをY軸とする2次元の座標で特定される各送信アンテナの通信余裕を記憶するテーブルである(例えば、図3‐2、図3‐3)。
【0063】
送信部203は、送信アンテナ制御部203cが選択した送信アンテナを介して、測距用信号に対する返信信号を送信する手段である。尚、送信部203が有する送信アンテナ203a、203b、203cはいずれも指向性を有さない送信アンテナである。
【0064】
送受信制御部204は、移動端末100から送られてくる測距データに基づいて送信部203が有する送信アンテナの切り替えや、移動端末100からの測距用信号に対する返信処理や、受信部201が受信した信号に対して測距データであるか、測距用信号であるかの判断等を含む各種送受信に関する制御を行う手段である。
【0065】
そして、特に本発明に密接に関連するものとして、受信信号判断部204aと、応答判断部204bと、送信アンテナ制御部204cと、タイマ204dとを有する。
【0066】
受信信号判断部204aは、受信部201が受信した信号に対して、移動端末100かから送信されてきた測距用信号であるか、もしくは移動端末100が算出した測距データであるかの識別判断を行う手段である。そして、移動端末100からの測距用信号を受信した際は、その測距用信号に対して返信処理を行う。
【0067】
応答判断部204bは、任意の設定時間内に、受信信号判断部204aが、測距データを、受信部201で受信できたかを判断する手段である。
【0068】
送信アンテナ制御部204cは、受信信号判断部204aが測距用信号を受信したと判断した場合は、送信アンテナ選択データ(初期状態の例として送信アンテナ203a、データ構造の図示省略)と、その受信した測距用信号を基に送信部203の送信アンテナを選択する手段である。
【0069】
一方、受信信号判断部204aが測距データを受信したと判断した場合は、その受信した測距データと送信アンテナ選択TBL202aを比較し、その測距データに応じた適切な送信アンテナを選択する。
【0070】
具体的には、図3‐2、図3‐3を用いて説明する。尚、同図に示した基地局200は、本実施例における基地局200aに相当するものとし、2.4m、2.1mといった高さの異なる2種類の送信アンテナを有する。また、移動端末100の受信アンテナの高さは1.5mとする。
【0071】
図3‐2、図3‐3によると、受信部201が受信した測距データが11.5mであった場合、移動端末100は基地局200aから11.5mの位置に存在していることになるので、この時、移動端末100の通信余裕は、基地局200aの送信アンテナの高さが2.4mの場合、3dBであるのに対し、基地局200aの送信アンテナの高さが2.1mの場合、−4dBである。
【0072】
したがって、送信アンテナ制御部204cは、高さ2.4mと2.1mのアンテナが有する通信余裕を比較した後、移動端末100と良好な通信を成立させることができる高さ2.4mの送信アンテナを選択する。
【0073】
一方、受信部201が受信した測距データが15mであった場合、移動端末100は基地局200aから15mの位置に存在していることになるので、この時、移動端末100の通信余裕は、基地局200aの送信アンテナの高さが2.4mの場合、−4dBであるのに対し、基地局200aの送信アンテナの高さが2.1mの場合、1dBである。
【0074】
したがって、送信アンテナ制御部204cは、高さ2.4mと2.1mのアンテナが有する通信余裕を比較した場合、移動端末100と良好な通信を成立させることができる高さ2.1mの送信アンテナを選択する。
【0075】
そして、送信アンテナ制御部204cは、これら送信アンテナの選択結果を送信アンテナ選択データに登録する。例えば、移動端末100から11.5mの測距データを受信した際は、高さ2.4mの送信アンテナを選択できるように、15mの測距データを受信した際は、高さ2.1mの送信アンテナを選択できるように、送信アンテナ選択データにそれぞれ登録する。
【0076】
また、受信信号判断部204aが、測距データを受信できなかったと判断した場合は、送信アンテナ制御部204cは、他の送信アンテナを使用するように送信アンテナ選択データに登録する。
【0077】
タイマ204dは、応答判断部204bが、任意の設定時間内に、移動端末100が算出した測距データを受信できたか判断するための時間情報を生成するための手段である。
【0078】
次に、移動端末100の処理手順について説明する。図7は、実施例1に係る移動端末の処理手順を示すフローチャートである。
【0079】
図7に示すように、まず、移動端末100は、基地局200aに測距用信号を送信部102より送信する(ステップS100)。
【0080】
続いて、応答判断部101bが、任意の設定時間内に基地局200aから、ステップS100にて送信した測距用信号に対する返信信号があるかを判断する(ステップS101)。
【0081】
返信がある場合(ステップS102、Yes)、距離計算部101aは、距離計算を実行し(ステップS103)、測距データを基地局200aに送信する(ステップS104)。そして、所定の時間経過後に、新たな測距用信号を別の基地局に送信する(ステップS105)。
【0082】
一方、返信がない場合(ステップS102、No)、所定の時間経過後に、新たな測距用信号を基地局200aに送信した後(ステップS105)、ステップS101へ移行する。
【0083】
次に、基地局200aの処理手順について説明する。図8は、実施例1に係る基地局の処理手順を示すフローチャートである。
【0084】
図8に示すように、まず、基地局200aは、移動端末100から測距用信号を待ち(ステップS200)、移動端末100から測距用信号を受信部201で受信し(ステップS201)、受信した測距用信号と送信アンテナ選択データを基に送信アンテナを選択する(ステップS202)。
【0085】
続いて、選択された送信アンテナを介して、移動端末100に測距用信号を返信し(ステップS203)、移動端末から測距データを設定時間内に受信できたか判断する(ステップS204)。
【0086】
受信がある場合(ステップS205、Yes)、測距データと送信アンテナ選択TBL202aを比較して(ステップS206)、送信部203の送信アンテナを選択する(ステップS207)。
【0087】
そして、選択された送信アンテナのデータを送信アンテナ選択データに登録し(ステップS208)、ステップS200へ移行する。
【0088】
一方、受信がない場合(ステップS205、No)、次回、移動端末100から測距用信号が来た場合、別の送信アンテナを選択するように送信アンテナ選択データに登録する(ステップS208)。
【0089】
また、本実施例では、移動端末100が、基地局200a、200b、200cと測距行う三点測量にて、移動端末100の位置を特定する場合を例に挙げて説明したが、三点測量以外の方法でも、移動端末100の位置を特定することができる。
【0090】
例えば、基地局が2台でも測位が可能である。図9は、基地局が2箇所の場合におけるTOA無線測位システムの一例を示す図である。図9に示すように測位範囲をx>0に限定することで、基地局が2個でも測位が可能である。
【0091】
例えば、地点Pの移動端末100を無線測位する場合、距離BPの円弧と距離APの円弧の交点Pが地点Pに相当することから、その交点を算出することで、移動端末100の測位をすることができ、移動端末100は異なる3台の基地局と測距を行うことなく無線測位をすることができる。
【0092】
尚、本実施例においては、基地局200aが移動端末100との距離を知る方法として、移動端末100から測距データを取得する方法を例に挙げて説明したが、基地局200aと移動端末100間の通信により、基地局200aが自ら測距を行い、その測距データに基づいて、無線測位を行うシステムとしても良い。
【0093】
上述してきたように、本実施例1に係る基地局200aは、移動端末100との距離に応じた通信余裕に関する情報を送信アンテナごとに有し、無線通信の際には、移動端末100が計算した距離とその距離に対応する通信余裕に基づいて、切り替え可能な複数の送信アンテナから、通信が成立する最適な送信アンテナを選択することで、良好な通信環境を成立させることができる。
【実施例2】
【0094】
次に、本実施例2に係るTOA無線測位システムの概要及び特徴について説明する。本実施例に係るTOA無線測位システムは、実施例1の変形として、基地局の送信アンテナを一定とし、複数の受信アンテナを備えた移動端末が、基地局との距離に応じた通信余裕に関する情報を受信アンテナごとに有している。
【0095】
そして、無線通信時には、基地局との距離を計算し、その算出された距離情報とその距離に対応する通信余裕に基づいて、切り替え可能な複数の受信アンテナから、良好な通信が成立する最適な受信アンテナを選択する。
【0096】
このように、本実施例2に係るTOA屋内無線測位システムの移動端末は、基地局との距離に応じた通信余裕に関する情報を受信アンテナごとに有し、無線通信の際には、基地局との距離を計算し、その算出した距離と通信余裕に基づいて、切り替え可能な高さの異なる複数の受信アンテナから、通信が成立する最適な受信アンテナを選択することができ、基地局と良好な通信を成立させることができる。
【0097】
まず、本実施例2に係る移動端末の通信余裕について説明する。図10は、実施例2に係る移動端末の通信余裕を示すデータの一例を示す図である。最上段の行に示す数字は基地局400からの横方向の距離[m:メートル]を、左端の列に示す数字は地面からの高さ[m]を示している。そして、他の数字は、通信余裕[dB:デシベル]を表している。
【0098】
通信余裕が0[dB]を超える範囲は、移動端末300が基地局400からの信号を受信できる範囲であり、背景を斜線部で示す。その他、背景が白色の範囲は、通信余裕が0[dB]以下で、移動端末300は、基地局400からの信号を受信できない。
【0099】
このように、図10は、基地局400の送信アンテナの高さが2.1mで、移動端末300の受信アンテナの高さが1.3m、1.6mの2通り選択できる場合における通信余裕をシミュレーションした図である。
【0100】
図10によると、移動端末300の受信アンテナの高さが1.3mの時は、基地局400からの横方向の距離が0mから11.5mの範囲で、移動端末300が、受信できるのに対して、受信アンテナの高さが1.6mの時は、12mを超え20m以上の範囲で受信できることとなり、アンテナの高さが1.3mの時と比較して、広い範囲で受信が成立する。
【0101】
このように、移動端末300の受信アンテナの高さに応じて、移動端末300と基地局400との通信余裕が変化する。この通信余裕を考慮した上で、本実施例に係るTOA無線測位について説明する。
【0102】
まず、実施例2に係る移動端末の構成について説明する。図11は実施例2に係る移動端末の構成を示す機能ブロック図である。以下、移動端末300が基地局400と通信を行い、測距する場合を例に挙げて説明する。
【0103】
移動端末300は、基地局400との距離を測定する際は、測距用信号を生成し、基地局400に送信する。そして、その測距用信号に対する返信信号を受信した際は、時間(例えば、tt、tm、tr等)を基に、基地局400との距離を計算し、その計算した測距データを基にして、自らの受信アンテナを選択する。
【0104】
そして、図11に示すように移動端末300は、記憶部301と、送受信制御部302と、送信部303と、タイマ304と、送信時間保持部305と、受信時間保持部306と、受信部307とを有する。
【0105】
記憶部301は、受信部307が有する各種受信アンテナの識別情報や基地局400との距離を示す距離情報を一時的に記憶する手段で、受信アンテナ選択TBL301aを有する。
【0106】
受信アンテナ選択TBL301aは、受信部307が有する各受信アンテナの識別情報や、基地局400からの横方向の距離をX軸、地面からの高さをY軸とする2次元の座標で特定される移動端末300の通信余裕を各受信アンテナ別に記憶するテーブルである(例えば、図10)。
【0107】
送受信制御部302は、受信アンテナの選択、基地局400との距離計算、基地局400からの返信信号に対する受信判断等を含む各種送受信に関する制御を行う手段である。そして、特に本発明に密接に関連するものとして、距離計算部302aと、応答判断部302bと、受信アンテナ制御部302cとを有する。
【0108】
距離計算部302aは、基地局400に測距用信号を送信した時間(例えば、tt)、その測距用信号に対する基地局400の処理時間(例えば、tm)、基地局400からの返信信号を受信した時間(例えば、tr)を基にして、基地局400との距離を算出する手段である。
【0109】
応答判断部302bは、基地局400からの返信信号を、任意の設定時間内に、受信できたかを判断する手段である。そして、応答判断部302bが設定時間内に受信できたと判断した場合は、距離計算部302aが測距計算を実行し、受信できなかったと判断した場合は、所定の時間経過後に、新たな測距用信号を基地局400に送信する。
【0110】
そして、応答判断部302bが、任意の設定時間内に返信信号を受信できなかったと判断した場合は、次回、基地局400と通信する場合、別の受信アンテナを使用するように受信アンテナ制御部302cが、受信アンテナ選択データ(初期状態の例として、受信アンテナ307a、データ構造の図示省略)に登録する。
【0111】
受信アンテナ制御部302cは、送信部303が基地局400へ測距用信号を送信した際に、その測距用信号と受信アンテナ選択データを基に受信部307の受信アンテナを選択する手段である。
【0112】
また、受信アンテナ制御部302cは、測距用信号に対する返信を受信部307が受信した際は、距離計算部302aが計算した測距データと、受信アンテナ選択TBL301aを比較し、受信部307の受信アンテナを選択する手段である。
【0113】
具体的には、図10を用いて説明する。尚、移動端末300の受信アンテナの高さは1.3mと1.6mの高さが選択できるものとし、基地局400の送信アンテナの高さは2.1mとする。
【0114】
距離計算部302aが、計算した測距データが11.5mであった場合、移動端末300は基地局400から11.5mの位置に存在していることになるので、この時、移動端末300の通信余裕は、受信アンテナの高さが1.3mの場合、2dBであるのに対し、高さが1.6mの場合、0dBである。
【0115】
したがって、受信アンテナ制御部302cは、高さが1.3mと1.6mのアンテナが有する通信余裕を比較した場合、基地局400と良好な通信を成立させることができる高さ1.3mの受信アンテナを選択する。
【0116】
一方、距離計算部302aが計算した測距データが14.5mであった場合、移動端末300は基地局400から14.5mの位置に存在していることになるので、この時、移動端末300の通信余裕は、受信アンテナの高さが1.3mの場合、−2dBであるのに対し、受信アンテナの高さが1.6mの場合、4dBである。
【0117】
したがって、受信アンテナ制御部302cは、高さが1.3mと1.6mのアンテナが有する通信余裕を比較した後、基地局400と良好な通信を成立させることができる高さ1.6mの受信アンテナを選択する。
【0118】
そして、受信アンテナ制御部302cは、これら受信アンテナの選択結果を受信アンテナ選択データに登録する。例えば、移動端末300から11.5mの測距データを受信した際は、高さ1.3mの受信アンテナを選択できるように、14.5mの測距データを受信した際は、高さ1.6mの受信アンテナを選択できるように受信アンテナ選択データに登録する。
【0119】
また、受信アンテナ制御部302cは、応答判断部302bが、測距用信号の返信を受信できなかったと判断した場合は、他の受信アンテナを使用するように送信アンテナ選択データに登録する。
【0120】
送信部303は、指向性がない送信アンテナ303aを介して、測距用信号を送信し、また、測距用信号を送信した時間(例えば、ttとする)を送信時間保持部305に出力する手段である。尚、送信部303が有する送信アンテナ303aは指向性を有さない送信アンテナである。
【0121】
タイマ304は、tt、tr等の基になる時間情報を生成し、送信部303と、受信部307と、応答判断部302bに対して出力する手段である。
【0122】
送信時間保持部305は、送信部303が、基地局400に測距信号を送信した時間(例えば、tt)を保持し、保持した時間を距離計算部302aに出力する手段である。
【0123】
受信時間保持部306は、受信部307が、基地局400からの返信信号を受信した時間(例えば、tr)を保持し、保持した時間を距離計算部302aに出力する手段である。
【0124】
受信部307は、指向性がない受信アンテナを介して、基地局400からの返信信号を受信し、受信した時間(例えば、trとする)を距離計算部302aに出力する共に、受信時間保持部306にも出力する手段である。尚、受信アンテナ307a、307bはいずれも指向性を有していない。
【0125】
次に、実施例2に係る基地局400について説明する。図12は実施例2に係る基地局400の構成を示す機能ブロック図である。図12に示すように基地局400は、受信部401、送受信制御部402、送信部403を有する。
【0126】
受信部401は、指向性がない受信アンテナ401aを介して、移動端末300から送信されてきた測距用信号を受信し、受信情報を送受信制御部402に出力する手段である。
【0127】
送受信制御部402は、移動端末300から基地局400に送信されてきた測距用信号に対して、測距用信号に対する返信処理等を含む各種送受信に関する制御を行う手段で、測距用信号処理部402aを有する。
【0128】
測距用信号処理部402aは、移動端末300送信されてきた測距用信号に対して、測距用信号に対して返信処理行い、送信部403に対して、その測距用信号に対する返信信号を出力する手段である。
【0129】
送信部403は、指向性がない送信アンテナ403aを介して、移動端末300からの測距用信号に対する返信信号を送信する手段である。
【0130】
次に、移動端末300の処理手順について説明する。図13は、実施例2に係る移動端末の処理手順を示すフローチャートである。
【0131】
図13に示すように、まず、移動端末300は、基地局400に測距用信号を送信し(ステップS300)、送信した測距用信号と受信アンテナ選択データを基に受信アンテナを選択する(ステップS301)。
【0132】
次に、応答判断部302bが、任意の設定時間内に基地局400から、送信した測距用信号に対する返信があるかを判断し(ステップS302)、返信がある場合(ステップS303、Yes)、距離計算部302aは、距離計算を実行する(ステップS304)。
【0133】
次に、受信アンテナ制御部302cが、測距データと受信アンテナ選択TBL301aを比較し(ステップS305)、受信部307の受信アンテナを選択する(ステップS306)。そして、選択した受信アンテナのデータを受信アンテナ選択データに登録し(ステップS307)、ステップS301へ移行する。
【0134】
一方、返信がない場合(ステップS303、No)、次回、基地局400と通信する場合、別の受信アンテナを使用するように受信アンテナ選択データに登録する(ステップS307)。
【0135】
次に、基地局400の処理手順について説明する。図14は、実施例2に係る基地局400の処理手順を示すフローチャートである。
【0136】
図14に示すように、まず、移動端末300から測距用信号を待ち(ステップS400)、移動端末300から測距用信号を受信部401で受信し(ステップS401)、受信した測距用信号に対する返信を行う(ステップS402)。
【0137】
上述してきたように、本実施例2に係るTOA屋内無線測位システムの移動端末300は、基地局400との距離に応じた通信余裕に関する情報を受信アンテナごとに有し、無線通信の際には、自ら計算した距離とその距離に対応する通信余裕に基づいて、切り替え可能な複数の受信アンテナから、最適な受信アンテナを選択することで、良好な通信環境を成立させることができる。
【0138】
また、本実施例2では、移動端末側で距離計算する場合を例に挙げて説明してきたが、基地局側で距離計算を行い、その計算結果を基に、移動端末側の受信アンテナを選択しても良いものとする。
【0139】
尚、上述した実施例においては、基地局の送信アンテナもしくは移動端末の受信アンテナ選択データの登録を、直近の測距結果に基づいて行う場合について説明したが、過去数回の測距結果から次に測距する距離を推定し、その距離に適した各種アンテナを選択することも可能である。
【0140】
図15は、移動端末と基地局間における距離の履歴に応じてアンテナを選択する例を示した図である。図15に示すように、移動端末500と基地局600との距離が時間tt1の場合は10mで、時間tt2では11mと増加している場合、その次の時間tt3で12mと距離増加を予想することができるので、図10で示した通信余裕を基に、高さ1.3mのアンテナから高さ1.3mのアンテナに切り替える。
【0141】
また、上述した例では、移動端末500の受信アンテナ1、2を切り替える場合を例に挙げて説明したが、基地局600側で距離増加を予測し、送信アンテナを選択して実施しても良いものとする。
【0142】
ところで、実施例1においては、基地局の受信アンテナに指向性がある高利得のアンテナを使用した場合を例に挙げて説明したが(例えば、基地局200aを参照)、この場合、移動端末100から発した信号を基地局で受信できない場合がある。
【0143】
図16は、基地局の受信アンテナに高利得の指向性アンテナを使用したときの問題点を説明するための図である。図16に示すように、移動端末100から基地局200cに対して信号は届くが、基地局200cから発した信号は移動端末100で受信できず、通信が成立しない。
【0144】
しかし、図4で示したように、移動端末100で、基地局200cから発した信号を受信できない場合は、基地局200cの送信アンテナを別の送信アンテナに切り替えて移動端末100との通信を成立させることができるので問題はない。
【0145】
ところで、本実施例において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部あるいは一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0146】
また、図5、図11に示した移動端末100、300及び図6、図12に示した基地局200a、400の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行われる各処理機能は、その全部または任意の一部がCPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0147】
図17は、実施例1に係る無線測位システムを実行するコンピュータのハードウェア構成を示す図である。図17に示すように、このコンピュータ(無線測位サーバ装置)700は、入力装置701、ディスプレイ702、RAM(Random Access Memory)703、ROM(Read Only Memory)704、HDD(Hard Disk Drive)705、CPU(Central Processing Unit)706、CPU706の命令を受けてアンテナの切り替えを制御するアンテナ制御部707、媒体読取装置708をバス709で接続している。
【0148】
そして、HDD705には、上述した基地局200aのアンテナ選択機能と同様の機能を発揮する送信アンテナ選択プログラム705a、移動端末100の距離計算機能と同様の機能を発揮する距離計算プログラム705bが記憶されている。CPU706が、送信アンテナ選択プログラム705aを読み出して実行することにより、送信アンテナ選択プロセス706aが起動し、また、距離計算プログラム705bを読み出して実行することにより、距離計算プロセス706bが起動される。ここで、送信アンテナ選択プロセス706aは、図6に示した送信アンテナ制御部204cに対応し、距離計算プロセス706bは、図5に示した距離計算部101aに対応する。
【0149】
尚、RAM703には、各種アンテナ識別データ、そのアンテナごとの通信余裕データや、送信アンテナ選択プロセス706aによって利用されるデータを含んだ各種データ703aを記憶している。CPU706は、各種データ703aに含まれる各種アンテナ識別データ、そのアンテナごとの通信余裕データ等から移動端末との距離を算出し、算出した距離と通信余裕データから、通信に利用されるアンテナを判定し、判定結果をアンテナ制御部707に通知する。
【0150】
ところで、図17に示した送信アンテナ選択プログラム705aや距離計算プログラム705bは、必ずしも最初からHDDに記憶させておく必要はない。たとえば、コンピュータに挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」、または、コンピュータの内外に備えられるハードディスクドライブ(HDD)などの「固定用の物理媒体」、さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータに接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などに送信アンテナ選択プログラム705aや距離計算プログラム705bを記憶しておき、コンピュータが送信アンテナ選択プログラム705aや距離計算プログラム705bを読み出して実行するようにしてもよい。
【0151】
上記の実施例1、2を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0152】
(付記1)切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する基地局と移動端末との信号の往復時間を計測し、計測した時間に基づいて、前記基地局と前記移動端末との距離を計算する距離計算手段と、
前記距離計算手段が算出した距離と、前記アンテナごとに有する前記移動端末と前記基地局との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するアンテナ選択手段と、
を備えたことを特徴とする無線測位システム。
【0153】
(付記2)前記基地局と前記移動端末との距離に応じた通信余裕を前記アンテナごとに記憶する通信余裕記憶手段を更に備え、前記アンテナ選択手段は、前記通信余裕記憶手段から、前記距離計算手段によって算出された距離に対応する通信余裕をアンテナごとにそれぞれ取得し、取得した各通信余裕のうち、最も通信余裕の高いアンテナを前記基地局と前記移動端末との間の通信に利用するアンテナとして選択することを特徴とする付記1に記載の無線測位システム。
【0154】
(付記3)前記距離計算手段によって算出された距離の履歴を時間ごとに履歴情報として記憶する履歴情報記憶手段と、前記履歴情報に基づいて所定時間経過後の前記移動端末と前記基地局との距離を推定する距離推定手段とを更に備え、前記アンテナ選択手段は、前記距離推定手段の推定結果に基づいてアンテナを選択することを特徴とする付記1または2に記載の無線測位システム。
【0155】
(付記4)切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する基地局であって、
移動端末との間で信号を送受信することにより、前記移動端末と前記基地局との距離の情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得した距離の情報と、前記移動端末と前記基地局との距離に応じた通信余裕とを基にして前記アンテナを選択するアンテナ選択手段と、
を備えたことを特徴とする基地局。
【0156】
(付記5)切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する移動端末であって、
基地局との信号の往復時間を計測し、計測した時間に基づいて、当該基地局との距離を計算する距離計算手段と、
前記距離計算手段が算出した距離と、前記アンテナごとに有する前記基地局との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するアンテナ選択手段と、
を備えたことを特徴とする移動端末。
【0157】
(付記6)移動端末が、切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを備えた基地局との間における信号の往復時間を計測し、計測した往復時間に基づいて、前記移動端末と前記基地局との距離を算出するステップと、
前記基地局が、前記移動端末から前記距離の情報を取得するステップと、
前記基地局が、取得した距離の情報と、前記基地局と前記移動端末との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するステップと、
を有することを特徴とするアンテナ選択方法。
【0158】
(付記7)コンピュータに、
切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する基地局と移動端末との信号の往復時間を計測し、計測した時間に基づいて、前記基地局と前記移動端末との距離を計算する距離計算手順と、
前記距離計算手順が算出した距離と、前記アンテナごとに有する前記移動端末と前記基地局との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するアンテナ選択手順と、
を実行させることを特徴とするアンテナ選択プログラム。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】実施例1に係る無線測位システムの特徴を説明するための図である。
【図2】反射波の影響による干渉作用を示す図である。
【図3−1】移動端末の通信余裕を示すデータの一例を示す図(1)である。
【図3−2】移動端末の通信余裕を示すデータの一例を示す図(2)である。
【図3−3】移動端末の通信余裕を示すデータの一例を示す図(3)である。
【図4】実施例1に係るTOA無線測位システムの構成の一例を示す図である。
【図5】実施例1に係る移動端末の構成を示す機能ブロック図である。
【図6】実施例1に係る基地局の構成を示す機能ブロック図である。
【図7】実施例1に係る移動端末の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】実施例1に係る基地局の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】基地局が2箇所の場合におけるTOA無線測位システムの一例を示す図である。
【図10】実施例2に係る移動端末の通信余裕を示すデータの一例を示す図である。
【図11】実施例2に係る移動端末の構成を示す機能ブロック図である。
【図12】実施例2に係る基地局の構成を示す機能ブロック図である。
【図13】実施例2に係る移動端末の処理手順を示すフローチャートである。
【図14】実施例2に係る基地局の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】移動端末と基地局間における距離の履歴に応じてアンテナを選択する例を示した図である。
【図16】基地局の受信アンテナに高利得の指向性アンテナを使用したときの問題点を説明するための図である。
【図17】実施例1に係る無線測位システムを実行するコンピュータのハードウェア構成を示す図である。
【符号の説明】
【0160】
100、300、500 移動端末
101 送受信制御部
102 送信部
103 タイマ
104 送信時間保持部
105 受信部
106 受信時間保持部
200、200a、200b、200c、400、600 基地局
201 受信部
202 記憶部
203 送信部
204 送受信制御部
700 コンピュータ(無線測位サーバ装置)
701 入力装置
702 ディスプレイ
703 RAM
703a 各種データ
704 ROM
705 HDD
705a 送信アンテナ選択プログラム
705b 距離計算プログラム
706 CPU
706a 送信アンテナ選択プロセス
706b 距離計算プロセス
707 アンテナ制御部
708 媒体読取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する基地局と移動端末との信号の往復時間を計測し、計測した時間に基づいて、前記基地局と前記移動端末との距離を計算する距離計算手段と、
前記距離計算手段が算出した距離と、前記アンテナごとに有する前記移動端末と前記基地局との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するアンテナ選択手段と、
を備えたことを特徴とする無線測位システム。
【請求項2】
前記基地局と前記移動端末との距離に応じた通信余裕を前記アンテナごとに記憶する通信余裕記憶手段を更に備え、前記アンテナ選択手段は、前記通信余裕記憶手段から、前記距離計算手段によって算出された距離に対応する通信余裕をアンテナごとにそれぞれ取得し、取得した各通信余裕のうち、最も通信余裕の高いアンテナを前記基地局と前記移動端末との間の通信に利用するアンテナとして選択することを特徴とする請求項1に記載の無線測位システム。
【請求項3】
前記距離計算手段によって算出された距離の履歴を時間ごとに履歴情報として記憶する履歴情報記憶手段と、前記履歴情報に基づいて所定時間経過後の前記移動端末と前記基地局との距離を推定する距離推定手段とを更に備え、前記アンテナ選択手段は、前記距離推定手段の推定結果に基づいてアンテナを選択することを特徴とする請求項1または2に記載の無線測位システム。
【請求項4】
切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する基地局であって、
移動端末との間で信号を送受信することにより、前記移動端末と前記基地局との距離の情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得した距離の情報と、前記移動端末と前記基地局との距離に応じた通信余裕とを基にして前記アンテナを選択するアンテナ選択手段と、
を備えたことを特徴とする基地局。
【請求項5】
切り替え可能な高さの異なる複数のアンテナを有する移動端末であって、
基地局との信号の往復時間を計測し、計測した時間に基づいて、当該基地局との距離を計算する距離計算手段と、
前記距離計算手段が算出した距離と、前記アンテナごとに有する前記基地局との距離に応じた通信余裕に基づいて前記アンテナを選択するアンテナ選択手段と、
を備えたことを特徴とする移動端末。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−28527(P2010−28527A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188575(P2008−188575)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、ロボット搬送システム(サービスロボット分野)、環境情報の構造化を利用した搬送ロボットシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】