説明

無線通信システムおよびその診断方法

【課題】特別な装置の導入によらず、条件が満たされた場合には機会を逃さず自動的に無線通信システムの診断の実行を開始する。
【解決手段】複数の無線通信装置と、複数の無線端末と、前記各無線通信装置を介して前記各無線端末と通信する保守装置と、を備え、前記各無線端末は、前記無線通信装置を介した対向装置との通信を制御する第1のプログラムと、前記無線通信システムを診断するための前記保守装置との間の通信を制御する第2のプログラムと、を保持し、前記保守装置は、診断開始条件を保持し、前記複数の無線端末の少なくとも一つが前記診断開始条件を満たすと判定した場合、当該複数の無線端末の少なくとも一つに前記第2のプログラムの起動指示を送信し、前記起動指示を受信した無線端末は、前記第2のプログラムを実行することによって、前記無線通信システムを診断し、前記無線通信システムの診断の結果を示す情報を前記保守装置に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加入者の所有する一般端末を用いた無線通信システムの構成および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の有線通信網に加え、無線端末と無線通信装置を用いた無線通信網(以下、無線通信システムと称する)の導入が進んでいる。無線通信システムでは、音声等の信号を時分割多重して通信するTDMA(Time Division Multiple Access)通信の他、音声等の信号を拡散符号で符号多重化して通信を行うCDMA(Code Division Multiple Access)通信が普及し、何時でも・何処でも・誰とでも通信が可能となってきた。このような無線通信システムを更に普及させるためには、システムの提供者が増加する利用者(加入者、あるいは、ユーザとも称する)の無線端末(以下、本明細書では端末と称する)を接続する無線通信装置の数を増やしていく必要が有るのみならず、既に設置してある無線通信装置他の通信装置のソフトウェアやハードウェアを適宜更新して通信システムが提供する通信サービスの内容を進化/増加させていく必要が有る。
【0003】
上述したような設備の追加と更新が行われる無線通信システムにおいては、システムの信頼性・安全性・サービス提供能力(以下、サービス性)を確保するために、設備の追加や更新の都度新たな構成となった無線通信システムの正常性を確認するための診断技術(保守技術)が欠かせない。もちろん、設備の追加や更新時以外の通常運用時でも信頼性・安全性・サービス性を確保するために、予防保全も含む定期的な診断・保守が必要となる。このため、従来から様々な無線通信システムの構成や診断方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−060762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無線通信システムでは無線通信装置である基地局の電波が届く範囲のセルラと呼ばれるエリア内で無線端末との通信を行うもので、半径数km位のセルラが一般的に用いられる。すなわち、従来の有線通信網(交換網)と比べ収容するユーザ数やカバーエリアが著しく小さいので、広範囲で通信サービスを提供するためには、これら基地局を多数広範囲に配置する必要がある。このため、保守員を基地局周辺のセルラ内に派遣して端末や試験機を持込み通信網の診断を行うような方法では、著しい人的資源を使うので通信システム維持のコストアップとなり、最終的にはユーザの利用料金にも影響してくるので、保守センタ等からの遠隔・自動診断が望まれている。
【0006】
また、加入者数の増加および端末の高性能化に伴うサービス内容の多様化に伴い、診断内容は、単に試験用端末と無線通信装置の疎通確認だけではなく、複数の端末および無線通信装置から構成される無線通信システムとしての性能評価試験(たとえば平均/最大スループット、呼接続成功率、最大同時呼接続可能数の評価試験)を実施できること、および、特定の端末のみ無線性能が悪い現象(たとえば呼接続所要時間が長い、呼接続成功率が低い、音声/データ転送が途切れる、など)の解析ができることが求められている。
【0007】
上記特許文献1の診断方法では、保守センタが通信網を介して診断アプリケーションを搭載した端末に対して診断アプリケーションの実行を指示することによって無線通信装置の診断の自動化を図っているが、予めセルラに診断アプリケーションを搭載した端末を診断対象セルラに設置しておく必要がある。このため、端末を追加したい場合、端末の設置地点を変更したい場合、または端末を別型式に変更したい場合には、その都度通信事業者は試験用端末を準備したうえで保守員を診断対象基地局のセルラに派遣する必要がある。特にセルラあたりの最大同時呼接続可能数に相当する台数の端末を設置するためには多大なるコストが必要となるため、特許文献1の診断方式は適していない。
【0008】
また、移動中の端末に対して診断を実行するためには、従来の方法と同様に診断用端末を所持した保守員をセルラに派遣して指定速度で移動する必要があり、遠隔から診断を自動実行する利点が生かされない。さらに、複数の診断開始条件(たとえばセルラの混雑具合、端末の無線状態など)がすべて満たされた場合に診断を実行するためには、保守センタが常に診断開始条件が満たされていることを確認し続けたうえで、条件が満たされた契機を逃さず即時に手動で診断の実行を指示する必要がある。
【0009】
無線通信システムにおいて特別な装置の導入によらず、かつ保守員のセルラへの派遣をせずに、遠隔から無線通信装置の診断を実施でき、かつ診断開始条件を予約設定可能とし条件が満たされた場合には自動的に診断の実行を開始できる優れた診断能力を有する無線システムの構成およびその診断方法の提供が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
無線通信システムで一般に使用される汎用端末は、例えば(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモの登録商標である「iアプリ」または(株)KDDIの登録商標である「EZアプリ」といった通信サービスに適用するために、端末に備えたオペレーティングシステム(以下OSと称する)およびアプリケーションプラットフォーム(以下、APPFと称する)を利用して当該端末上で任意に設定したアプリケーションプログラム(以下、APと称する)を、通信網を介して実行できる機能を有する。本発明は、このことに着目して、無線通信網(特に無線通信装置)の診断を実行するプログラムを汎用端末に持たせた無線通信システムを構築して診断を実施することによって、上記の課題の解決を図る。
【0011】
具体的には、本発明の無線通信システムでは、一般の無線通信システムで用いられる通信網を介してAPを実行出来る汎用端末に診断用APを搭載した端末が使用される。無線通信システムの保守センタが当該端末を起動すると、当該端末が診断用APを実行して診断用の制御信号および試験信号を保守センタと通信することで、無線通信システムの診断を実行する。診断には、保守者が準備した専用端末の他に、加入者が所有する一般端末も使用することができる。無線通信システムの保守センタでは予め複数の診断開始条件(たとえば基地局の設置地域、気象条件、日付、時刻、セルラの混雑具合、セルラ中心からの端末の位置、端末の型式、端末の無線状態、端末の移動速度、同時に診断実行可能な端末の台数など)を設定することができ、定期的に診断開始条件が満たされているかどうかを確認することによって、タイミングを逃すことなく診断を自動開始する。
【0012】
より詳細には、無線通信装置(すなわち基地局)の電波到達範囲にある診断用端末を特定したのち、無線通信システムの保守センタの診断プログラムが当該端末を起動する。これによって起動した当該端末は、診断用APを実行して保守センタと診断用の制御信号および試験信号を通信する過程で信号の遅延および速度等の無線通信システムの通信状態を測定する。診断用端末が上記のような実際の測定結果を保守センタに通知することで無線通信システムの診断が実行される。尚、端末と保守センタとのコネクションは、汎用端末が他の端末との通信のためのAPを実行する時と同様に、診断用APの起動に伴って確立され、診断用APの終了によって開放される。
【0013】
無線通信装置の電波到達範囲にある診断用の端末は、保守センタと診断用の制御信号および試験信号を送受信して無線通信システムの通信状態を測定し、端末での実際の測定結果を保守センタに通知するAPを備える無線端末とした。
【0014】
本発明の代表的な一形態は、次の通りである。すなわち、通信網に接続された複数の無線通信装置と、それぞれがいずれかの前記無線通信装置の電波到達範囲内にある複数の無線端末と、前記各無線通信装置を介して前記各無線端末と通信する保守装置と、を備える無線通信システムであって、前記各無線端末は、少なくとも一つの前記無線通信装置を介した対向装置との通信を制御する第1のプログラムと、前記無線通信システムを診断するための前記保守装置との間の通信を制御する第2のプログラムと、を保持し、前記保守装置は、診断開始条件を保持し、前記複数の無線端末の少なくとも一つが前記診断開始条件を満たすと判定した場合、当該複数の無線端末の少なくとも一つに前記第2のプログラムの起動指示を送信し、前記起動指示を受信した無線端末は、前記第2のプログラムを実行することによって、前記無線通信システムを診断し、前記無線通信システムの診断の結果を示す情報を前記保守装置に送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
一般の無線通信システムで用いられている設備に変更を加えることなく、加入者が所有する汎用端末を用いて遠隔から無線通信装置の診断を実施するため、保守員が試験用端末を診断対象基地局のセルラに端末を設置する必要がなく、無線通信システムおよびその診断方法を従来に比べて簡単で経済的な構成と手順で実現できる。たとえば、多数の端末を同時に使用したセルラの性能評価試験(たとえば平均/最大スループット、呼接続成功率、最大同時呼接続可能数の評価試験)を容易に実行することができる。
【0016】
さらに、無線通信システムの保守センタで予め複数の診断開始条件(たとえば基地局の設置地域、気象条件、日付、時刻、セルラの混雑具合、セルラ中心からの端末の位置、端末の型式、端末の無線状態、端末の移動速度、同時に診断実行可能な端末の台数など)を設定することができるため、定期的に診断開始条件が満たされているかどうかを確認することによって、タイミングを逃すことなく診断の自動開始を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】無線通信システムの構成例を示すシステム構成図である。
【図2】診断用端末の構成例を示すブロック図である。
【図3】無線通信装置(基地局BS)の構成例を示すブロック図である。
【図4】基地局制御局(BSC)の構成例を示すブロック図である。
【図5】保守センタの構成例を示すブロック図である。
【図6】無線通信システムの動作例を示すシーケンス図である。
【図7】端末の診断用APの構成例を示すフロー図である。
【図8】保守センタに備えた診断プログラムの構成例を示すフロー図である。
【図9】端末と保守センタ間の診断動作例を示すシーケンス図である。
【図10】端末のメモリに記憶する診断関連データの構成例を示すメモリ構成図である。
【図11】保守センタのメモリやサーバに記憶する診断関連データの構成例を示すメモリ構成図である。
【図12】診断開始条件に基づいて診断開始を判定する処理の例を示すシーケンス図である。
【図13】診断開始条件に基づいて診断開始を判定する処理の別の例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の無線通信システムの構成、および、その診断方法、ならびに無線通信システムの診断に用いる端末装置の構成等の実施形態を図面を用いて、主にパケット通信を提供する無線通信システムを例にとり、詳細に説明する。
【0019】
図1は、無線通信システムの構成例を示すシステム構成図である。無線通信システム1は、端末50と通信を行う無線通信装置である基地局((Base Station)以下、BSと称する)20と、BS20と他の通信網であるPSTN/インターネット(以下、これらを纏めてPSTNと称する)40との接続やBS20の管理・制御を行う基地局制御局((Base Station Controller)、以下BSCと称する)30と、BSC30やPSTN40と接続され無線通信システム1の保守・管理を行う保守センタ60とで構成した。
【0020】
複数のBS20−1〜nのそれぞれは、セルラ10−1〜nと称される無線電波到達範囲内に存在する複数の端末50−1−1〜50−n−1と無線で接続される。尚、各セルラは、更にセクタ10−1−1〜3と称される小さいエリアに分割されて運用される場合もある。各端末50は、BS20、BSC30とPSTN40とを経由してPSTN40に接続されたデータ端末PC51や電話端末tel.52やインターネットサービス提供者(ISP)のサーバ53、気象情報サーバ54等の各種端末と接続してデータや音声の送受信(通信)を行う。尚、上記セルラ10で用いられる無線技術は、TDMA・CDMA・FDMA等いずれの無線技術であっても構わない。
【0021】
各セルラ10に配置された端末55(55−1、55−2、55−n−1および55−n)は、本発明による無線通信システムの診断方法を実現する機能を備えた診断用の端末で、一般に用いられる端末50に無線通信システム1の診断機能を追加した診断用端末である。この端末55は、後述するように、BS20、BSC30とPSTN40とを経由して保守センタ60と接続され、端末55と保守センタ60との通信(制御信号や試験信号の送受信)を行う過程で無線通信システム1の診断を行うものである。これらの診断用端末55には、図示したように一般の端末50と同様な電話番号やメールアドレスが付与され運用に供される。診断用端末55は、保守者が準備した汎用端末(55−1および55−n)、または加入者が所有する汎用端末に診断APを搭載したもの(55−2および55−n−1)である。
【0022】
図2は、診断用端末55の構成例を示すブロック図である。図2(a)は、端末55のハードウェア構成を示したブロック図で、一般の端末50と同じ構成である。具体的には、無線信号を送受信するアンテナ500、無線信号を電気信号に変換するRF部510、電気信号に所定の通信処理(信号終端、プロトコル変換、障害監視他)を行う通信処理部520、端末の所有者が送受信する信号の入出力を行う周辺装置部530、端末55全体の制御を行う制御部540とで構成される。周辺表示部530には、音声を入力するマイク531、音声を出力するスピーカ532、文字や画像を表示するディスプレイ533、データ入力や制御信号入力(接続先の指定等)を行うキー534とが備えられる。また、制御部540は、端末55全体の動作を制御するプロセッサであるCPU550、動作プログラムや動作に必要な各種データを蓄積するメモリであるMM560、外部機器との信号を送受信するI/O570とが備えられる。制御線580は、上述した各ブロック同士を接続するものである。尚、図示していないが、この端末55は、通常セルラ10内の所定の位置に設置され、特定のセルラ(もしくはセクタ)に接続する様にしておく。また、常時給電により動作可能な状態で運用される(もちろん移動可能でもある)。
【0023】
端末55は、一般の端末50を用いた端末で、MM560に無線通信システム1の診断用のプログラムを備え、CPU550がこのプログラムを実行するだけで後述するような無線通信システム1の診断を可能とする端末である。
【0024】
図2(b)は、端末55のソフトウェア構成を示したブロック図で、一般の端末50とほぼ同じ構成である。
【0025】
一般の無線端末50は、端末のOS541とAPPF542を備え、その上で各種AP534が動作して、様々な通信サービスを実現していくものである。一例を挙げれば、AP1(543−1)が天気予報、AP2(543−2)がゲームというようなアプリケーションプログラムで、端末の所有者が周辺装置部530を適宜操作して所望のプログラムを選択した上で、無線通信システム1を介してこのプログラムを動作させ通信サービスを享受するものである。本発明の端末55は、このような端末に以下で詳細に説明する診断用のアプリケーションプログラムAPp(543−p)を設置して保守センタ60と連動しながら無線通信システム1の診断を実行していくものである。尚、APp(543−p)の設定は、保守センタ60等で予め端末55に設定した上で端末をセルラ10の所定の位置に設置するか、端末55をセルラ10内に設置後にプログラムダウンロードして設定するか、いずれかで構わない。
【0026】
なお、上記のアプリケーションプログラムのいずれか(例えばAP1(543−1)またはAP2(543−2))は、端末55がBS20等を介して他の端末55等と通信するためのプログラム等であってもよい。端末55は、このようなアプリケーションプログラムを実行することによって、例えば、他の端末55等との通信(例えば通話または電子メールの送受信)またはISPサーバ53との間のデータのアップロード/ダウンロード等を行うことができる。
【0027】
すなわち、端末55は、無線通信システムへの特別な装置の導入によらず、無線通信システムで一般に使用される端末を用いた経済的な構成と手順で無線通信システムの診断を可能ならしめる端末である。
【0028】
図3は、無線通信装置(基地局BS20)の構成例を示すブロック図で、一般に使用されている基地局の構成と同じである。具体的には、無線信号を送受信するアンテナ200、無線信号を電気信号に変換するRF部210、電気信号に所定の通信処理(信号終端、プロトコル変換、障害監視他)を行う通信処理部220、BSC30と信号を送受信するインタフェース230、BS20全体の制御を行う制御部240とで構成される。制御部240は、BS20全体の動作を制御するプロセッサであるCPU250、動作プログラムや動作に必要な各種データを蓄積するメモリであるMM260、外部機器との信号を送受信するI/O270とが備えられる。また、制御線280は、上述した各ブロック同士を接続するものである。尚、I/O270は、端末55のI/O570と接続され、無線通信システム1の診断動作においてBS20を制御する場合等に用いられることがある。一例を挙げれば、セルラ10の制御(範囲(大きさ)やセルラ内のセクタ指定)である。
【0029】
図4は、BSC30の構成例を示すブロック図で、一般に使用されているBSCの構成と同じである。具体的には、BS20とのインタフェース300、PSTN40や保守センタ60とのインタフェース320、これらのインタフェース間で送受信される信号をスイッチング等の信号処理を行うパケット処理部320、BSC30全体の制御を行う制御部330とで構成される。制御部330は、BSC30全体の動作を制御するプロセッサであるCPU340、動作プログラムや動作に必要な各種データを蓄積するメモリであるMM350、外部機器との信号を送受信するI/O部360とが備えられる。また、制御線370は、上述した各ブロック同士を接続するものである。
【0030】
本発明の無線通信システム1は、上述したようなBS20とBSC30に一般の無線通信システムで用いられているBSとBSCを用いて、端末55と保守センタ60との間の診断用制御信号や試験信号の送受信を行うものであり、無線通信システムへの特別な装置の導入によらず、無線通信システムで一般に使用される端末や装置を用いた経済的な構成と手順で無線通信システムの診断を実行できる。
【0031】
図5は、保守センタ60の構成例を示すブロック図である。保守センタ60は無線通信システム1の各設備(BS20やセルラ10、BSC30、端末50、PSTN40等)の状態を管理して、課金や加入者等からの問合せ対応や保守指示等、無線通信システム1の管理・運用を行うものである。具体的には、BSC30やPSTN40と監視・制御等の各種信号を送受信するインタフェース600、無線通信システム1内の管理・運用のためのデータを蓄積したり各設備に供給するための各種サーバ620、保守センタ60全体の制御を行う制御部680とで構成した。制御部680は、保守センタ60全体の動作を制御するプロセッサであるCPU630、動作プログラムや動作に必要な各種データを蓄積するメモリであるMM640、外部機器との信号を送受信するI/O650、保守員が管理・運用に必要な信号を入出力する入出力部660とで構成した。尚、本実施例では、入出力部660にキーボード661とディスプレイ662とスピーカ663とマウス664とを備えたが、これ以外の機器を備えても構わない。制御線670は、上述した各ブロック同士を接続するものである。
【0032】
各種サーバ620としては、無線通信システム1の診断起動や診断結果収集等を行うメールサーバ621と、無線通信システム1の診断に必要な各種試験手順やデータ・信号を格納して診断時にシステム内の各設備に提供する診断用サーバ622、無線通信システム1の加入者情報(たとえば加入者端末の電話番号、メールアドレス、端末の型式、端末ソフトの版数等)を格納して診断開始条件の設定時および診断開始時に情報を提供する加入者情報サーバ623等の各種サーバを備えた。もちろん、上記サーバの構成や機能は一例であり、1つのサーバで診断を実現したり多数のサーバにより以下で説明する診断機能を分担して行う構成としても構わない。更に、これらの各種サーバ620を保守センタ60の外部に配置する、あるいは、ISP(Internet Service Provider)が提供する各種サーバを利用するようにして、インターネット等の通信網を介してこれらのサーバと接続する構成であっても構わない。この場合、診断の過程において端末55と保守センタ60間の接続を端末55とサーバ間の接続に切替える等PSTN40の制御が必要になることもある。
【0033】
図6は、無線通信システム1の動作例を示すシーケンス図で、端末55−1を用いて無線通信システム1を診断する場合を例にとり動作概要を示したものである。以下、図1〜5も用いながら診断動作の概要を説明する。
【0034】
保守センタ60が無線通信システム1(BSC30〜BS20−1〜セルラ10−1)の診断を指示すると、制御部680はセルラ10−1に設置した端末55−1に対して診断用AP543−pの起動を指示する(S100−1〜S100−4)。具体的には、端末55−1に付与してある電話番号やメールアドレスを保守員がキーボード661から入力したり、制御部内にタイマ(図示せず)を備えて定期的に起動を指示する構成である。尚、図6ではPSTN40を経由する構成を示したが、直接BSC30を介して起動指示する構成でも構わない。
【0035】
端末55−1は、診断AP543−pを起動すると(P100)、端末55−1とBSC30との間の無線通信路を含むコネクションの接続(S110−1〜S110−3)を行う。
【0036】
以降、端末55−1の診断用AP543−pと保守センタ60の診断用プログラムと診断用サーバ622とが動作して(P130,P200)、端末55−1と保守センタ60との間で診断用コネクションを確立(S120)し、該診断用コネクションを用いた診断用の通信(制御信号や試験信号の送受信)が行われ無線通信システム1(端末55−1〜セルラ10−1〜BS20−1〜BSC30(〜PSTN40))の診断が実行される(S130)。尚、診断が終了すると端末55−1あるいは保守センタ60からの指示で診断用コネクションは開放される。具体的な診断動作や診断プログラムの構成例については、別途図面を用いて詳細に説明する。
【0037】
端末55−1は、診断結果の編集(P140)後、診断結果の保守センタ60への通知(S150−1〜S150−4)と、無線通信路を含むコネクションの切断(S160−1〜S160−3)とを行い、診断用AP543−pを終了する(P170)。
【0038】
図7は、端末55の診断用AP543−pの構成例を示すフロー図である。図8は、保守センタ60に備えた診断プログラムの構成例を示すフロー図である。また、図9は、端末55と保守センタ60との間の診断動作例を示すシーケンス図である。さらに、図10は、端末55のメモリに記憶する診断関連データ5600の構成例を示すメモリ構成図で、図11は、保守センタ60のメモリやサーバ620(診断サーバ622)に記憶する診断関連データ6200の構成例を示すメモリ構成図である。図12および図13は、診断開始条件に基づいて診断開始を判定する処理の例を示すシーケンス図である。以下では、これらの図面を用いて無線通信システム1の詳細な診断動作例を説明する。
【0039】
端末55の電源は、先に説明したように常時ON状態(図7:P010)となっており、保守センタ60からの起動を受けられる状態である(図7:P070)。この状態で保守センタ60からの起動指示(図6:S100)を受信して起動イベントが発生する(図7:P050)と、診断用AP543−pを起動(図6、7:P100)し、無線通信路を含むコネクションの確立を行なう(図7:P110,図6:S110)。更に、電話番号やメールアドレス、捕捉しているパイロット信号の識別情報といった自端末の情報を取得してMM(図2:560)に記憶する(図7:120、図10:5610、5611)。尚、これら記憶された情報は、以下で説明する診断(図7:P130)実施中に保守センタ60に送信され、保守センタの診断用サーバ(図5:622)等にも記憶される(図11:6210,6211)。
【0040】
無線通信システム1の診断(図6,7:P130)では、先ずパケットの遅延量の測定を行なう(図7:P1300)。具体的には、端末55がIETF(Internet Engineering Task Force)勧告のRFC792で規定されたICMPエコーパケット(ループバックパケット)を生成(図9:P1301)して保守センタ60に送信する(図9:S1300)。また、その時の送信時刻を記録する(図9:P1302、図10:5620)。保守センタ60がイベント待ち状態(図8:P2010)でループバックパケットを受信すると応答パケットを生成(図9:P2071)して端末55に送信する(図8:2070、図9:S1305)。端末55は、この応答パケットの受信時刻を記録(図9:P1303,図10:5621)し、送信時刻と受信時刻から遅延時間を算出して記録する(図9:P1304,図10:5622)。尚、APPF542などの制限によりICMPが使用出来ない場合は、例えば、パケットをループバックできる機能で代用すれば良い。
【0041】
次に診断用コネクションを確立(図6:S120、図7:P1310、図8:P2030、図9:S1310とS1315)し、以下のような無線通信システム1(端末55−1〜セルラ10−1〜BS20−1〜BSC30(〜PSTN40))のデータ転送速度の測定を行なう。尚、この診断用コネクションの確立は、上述したパケット遅延量の測定前に実施しても構わない。また、以降の診断動作では、IETF勧告のRFC959で規定されたFTPを使用する例で説明しているが、上述の遅延時間測定と同様にAPPF542などの制限によりFTPが使用できない場合はそれに相当する機能で代用すれば良い。
【0042】
下り方向(BSC30から端末55)のデータ転送速度測定では、端末55が保守センタ60に診断用テストファイル取得要求を行う(図7:P1320)。具体的には、端末55が保守センタ60に取得要求を送信して(図9:S1320)、送信時刻をファイル取得開始時刻として記録する(図9:P1325,図10:5630)。保守センタ60がイベント待ち状態(図8:P2020)でファイル取得要求を受信すると要求されたファイルの転送準備を行ない(図9:P2051)、端末55に診断用テストファイルを送信(ダウンロード)する(図7:P1330、図8:P2050、図9:S1321)。端末55は、受信ファイルのサイズを確認し、更に、保守センタ50からのファイル転送完了応答(図9:S1325)を受信すると、この応答の受信時刻をファイル取得終了時刻として受信したファイルのサイズとともに記録(図9:P1335,図10:5631、5633)し、ファイル取得開始時刻とファイル取得終了時刻とサイズから転送時間と転送速度を算出して記録する(図7、9:P1340,図10:5631、5634)。
【0043】
上り方向(端末55からBSC30)のデータ転送速度測定では、端末55が保守センタ60に診断用テストファイル転送要求を行う(図7:P1350)。具体的には、端末55が保守センタ60に転送要求を送信し(図9:S1350)、この送信時刻をファイル転送開始時刻として記録する(図9:P1355,図10:5640)。この後、保守センタ60に診断用テストファイルを送信(アップロード)し(図7:P1360、図9:S1360)、ファイル転送が完了したら完了応答も送信(図9:S1365)して、この送信時刻をファイル転送終了時刻として記録する(図9:P1365、図10:5641)。尚、端末55は、アップロード中に送信ファイルのサイズを確認してファイル転送終了にこのサイズも記録する(図10:5643)。尚、この間、保守センタ60は、イベント待ち状態(図8:P2020)でファイル転送要求を受信すると要求されたファイルの受信準備を行ない(図9:P2061)、端末55からの診断用テストファイルを受信している(図8:P2060、図9:S1360)。端末55は、記録されたファイル転送開始時刻とファイル転送終了時刻とサイズから転送時間と転送速度を算出して記録する(図7、9:P1370,図10:5642、5644)。
【0044】
尚、上記説明では平均データ転送速度の測定・算出例を説明したが、データ転送速度の種類としては平均転送速度やピーク転送速度等様々な定義の転送速度がある。したがって、無線通信システム1の構成や運用方法に応じて実際の診断に必要な転送速度を選択して測定・算出を行えば良い。具体的には、端末55のAPp(543−p)において予め特定の速度測定・算出方法を設定しておく、あるいは、保守センタ60がいくつかの方法から必要な測定・算出方法が選択できる構成としておけば良いものである。更には、上述した転送遅延の他に必要な測定(診断)項目があれば、端末55のAPp(543−p)に必要なプログラムを備え、保守センタ60も、これらの項目に対応して処理出来るイベント(上述した例で言えば、診断テストファイルの送受信等)を備えるだけで良い。
【0045】
すなわち、本発明の無線通信システム1は、一般の無線通信システムで用いられているBSとBSCを用いて、汎用の端末にAPを追加した端末55と保守センタ60との間の診断用制御信号や試験信号の送受信を行うもので、無線通信システムへの特別な装置の導入によらず、無線通信システムで一般に使用される端末や装置を用いた経済的な構成と手順で無線通信システムの診断を実行できるものである。もちろん、本発明の無線通信システムの診断方法がパケットの遅延や平均データ転送速度の測定・算出に限定されるものではない。例えば、ページング動作の正常性確認を行っても良い。また、音声通話のオンフック、オフフックを行う診断プログラムを作成すれば音声通話の正常性確認も可能である。
【0046】
データ転送速度の測定が終了したら、診断用コネクションを開放(図6:S140、図7:P1380、図8:P2040、図9:S1380とS1385)して、端末55は、MM560に記録された診断結果等のデータ(図10:5600)を編集(図6、7:P140)して、先に図6を用いて説明したように、保守センタ60への通知(図6、7:P150)と、無線通信路を含むコネクションの切断(図:P160)と、診断用AP543−pの終了(図6、7:P170)を行なう。
【0047】
端末55では、図10で示したような診断結果等のデータをメール送信のような無線システムで一般的に扱われる送信形式のデータに編集して保守センタ60に備えたメールサーバ621に通知する(図6:P140,S150、図7:P150)。
【0048】
保守センタ60は、イベント待ち状態(図8:P2020)で端末55から送信された診断結果等のデータを受信すると、診断用サーバ622が、これらのデータを読込み(図8:P2080)、送信元診断用端末55の確認を行う(図8:P2090)。この確認は、診断用端末55が一般の端末50にAPを追加しただけの端末であり、一般の端末50からも苦情処理等で保守センタ60にアクセス可能であるため、端末のなりすまし等によるいたずらや誤接続を防止してシステムの安全性を確保する為に行われる。もちろん、この診断用端末55は保守センタ60以外から発着信させない等の、安全性確保の対策は、無線通信システム1として実施される。
【0049】
診断用サーバ622で端末55の確認がなされると、以降の保守センタ60内部での無線通信システム1の診断に使うために、図11に示したような構成のデータベース(DB:6220(図5では図示せず))に格納する(図9:P2100)。尚、先の診断動作の説明では省略したが、診断用のテストファイルや試験端末の情報等も診断用サーバ622のDB6220に格納される構成である。もちろん、前述したように、上記サーバの構成や機能は一例であり、1つのサーバでこれらの機能を実現したり、多数のサーバにより分担して行う構成としても構わないものである。さらに、各種サーバを保守センタ60の外部に配置したり、ISPが提供するサーバを利用するようにして、インターネット等の通信網を介してこれらのサーバと接続する構成であっても構わない。
【0050】
保守センタ60においては、DB6220に格納された内容に基づき無線通信システム1の診断を行う。具体的には、イベント待ち状態(図8:P2020)で保守員の入出力部660(例えばキーボード661操作やCPU630とMM640の動作プログラムに基づくタイマ(図示せず)を用いた定期的な診断結果の取得要求により、診断箇所(例えば、端末55−1〜セルラ10−1〜BS20−1〜BSC30)が指定されると、要求された内容が正しいかを判断し(図8:P2110)、正しければDB6220から必要な情報を取得(図8:P2120)して、ディスプレイ662に表示したりMM640に取込んだりする(図8:P2130)。
【0051】
また、保守センタ60は予め複数の診断開始条件を登録(図8:P2140)することができる。診断用サーバ622は定期的に判定に使用する最新情報を取得し(図8:P2150)、登録済み診断開始条件がすべて満たされたかどうかを判定する(図8:P2160)。診断開始条件としては、たとえば、基地局の設置地域、気象条件、日付、時刻、セルラの混雑具合、セルラ中心からの端末の位置、端末の型式、端末の無線状態、端末の移動速度、同時に診断実行可能な端末の台数などを設定することができる。
【0052】
判定に使用する最新情報は、種々の方法によって取得することができる。たとえば気象条件はインターネットを介して気象情報サーバ54から取得することができる。端末の型式は保守センタ60内の加入者情報サーバ623にある情報を参照することによって取得することができる。また、基地局の設置地域、セルラの混雑具合、セルラ中心からの端末の位置、端末の無線状態、端末の移動速度、同時に診断実行可能な端末の台数等を取得するためには、BS20、BSC30、または保守センタ60のいずれかに蓄積されている情報を使用すればよい。
【0053】
登録済み診断開始条件の判定(図8:P2160)においてすべての条件が満たされていると判定された場合には、保守センタ60は診断開始のイベントを発行する(図8:P2170)。
【0054】
無線通信システム1は、通常の運用(例えば、端末50とBC,BSC,PSTNを介したPC51との通信)において、通信品質を維持するための様々な接続制御が行われ、これらの制御結果や通信システムの状態がBS20やBSC30、あるいは保守センタ60に蓄積されている。例えば、端末50−1−1がPC51とデータ送受信を行う場合には、セルラ10−1内の自端末での電波状態(C/I値)や他に通信している端末(50−1−n等)の数やそれらの端末に既に許可されたデータ転送速度等の状況に応じて端末50−1−1に許可されるデータ転送速度がBS10−1との間で設定され通信が行われる。そして、このような諸設定や状態情報は保守センタ60に、上述した診断結果と同様に集めることが出来るシステムである。
【0055】
診断用端末55−1も一般の端末50に通常のAPと同様な診断用AP543−pを搭載し、接続先が保守センタ60であるだけで、一般の端末と同じセルラ10−1、BS20−1,BSC30が通信(診断動作)に用いられるので、無線通信システムへの特別な装置を導入しなくても無線通信システム1の診断が以下のように実行できる。
【0056】
保守センタ60から診断用端末55への起動がかかり診断用AP543−pが起動されると、一般の端末50と同様に、電波状態(C/I値)や他に通信している端末(50−1−n等)の数やそれらの端末に既に許可されたデータ転送速度等の状況に応じて端末55−1にBC20−1とBSC30を介して保守センタ60との間で許可されるデータ転送速度が設定された診断用コネクションが確立される。この状態で上述したような診断動作を行えば、従来の無線通信システム1では実施できなかった実際の通信されたパケット遅延やデータ転送速度が求まる。すなわち、通常の無線通信システム1の動作として設定された値や状態情報と、実際に無線通信システム1を使用してみて診断した結果とを比較すれば、無線通信システム1の正常性の確認や異常発生の検出が出来るものである。
【0057】
例えば、ベストエフォート型のパケット通信サービスを提供するBS10−1のソフトウェアのアップグレードやハードウェア変更(交換)を実施した後で、パケットの遅延を測定した結果、セルラ10−1内の使用端末数が少なく通信網で遅延を発生する要因がないにも係らず、設定(想定)された遅延量(例えば500μS以内)より大きい遅延量(例えば3mS)が測定される、あるいは、設定(想定)されたデータ転送速度(例えば128kbps)より低い転送速度(例えば70kbps)でしかファイルのアップロードが出来ないような状況であれば、BS10−1になんらかの異常が発生したか設定値のチューニングが適切ではない等と診断でき、ユーザからの苦情が報告される前に保守作業を行えるので結果としてサービスの品質を向上させることが可能となる。具体的には、設定(想定)値とDB6220に格納された値とをディスプレイ662に表示して保守員が判定したり、CPU630とMM640の動作プログラムに基づき比較を行い異常と判定して通知する構成とすればよい。また、無線通信システム1の動作として設定された値や状態情報が保守センタ60で得られないのであれば、予め診断に用いる基準値等を保守センタ60内に設定しておき、これとDBの内容を比較しても良い。
【0058】
また、CPU630とMM640の動作プログラムに基づき、定期的に得られる診断結果や設定(予測)値に統計処理(例えば、平均値取得、分散取得、内挿・外挿等による予測値取得等)を実施し、これらを比較することによりBS10−1等の劣化も診断出来るので予防保全が実現される。例えば、パケット遅延量がだんだん大きくなって、所定の許容値を超えることが予測される、あるいは、実際のデータ転送速度がだんだん落ちてきたり、設定(予測)された転送速度との乖離が大きくなる等の現象が保守センタ60で検出できるので、重大な障害が発生しないうちにBS10−1を交換する等の予防保全措置をとれば、無線通信システム1の信頼性・安全性・サービス性を維持できるようになる。
【0059】
尚、上述の説明では、診断箇所を端末55−1〜セルラ10−1〜BS20−1〜BSC30として説明したが、端末55−1〜セクタ10−1−x〜(セルラ10−1)〜BS20−1〜BSC30とすることも可能である。この場合は、先に説明したように、BS20のI/O270と、例えば端末55のI/O570とを接続して、診断動作においてセクタを指定する等のBS20制御を実行すれば良い。
【0060】
さらに、本発明の無線通信システム1では、移動可能な汎用端末50に診断用APを備えただけの診断用端末55を用いて診断を実施出来るため、ひとつのセルラ(もしくはセクタ)に複数の診断用端末55を設置することが容易である。このようにすれば複数端末に対しての無線通信システム1のサービス性を診断することが可能である。また、過負荷状態も容易に作り出すことが可能であるため無線通信システム1の性能測定などにも利用できる。
【0061】
図12は、診断開始条件に基づいて診断開始を判定する処理の例を示すシーケンス図である。
【0062】
例えば保守センタ60において保守員が「平日の深夜01:00から04:00の期間に、セルラ10−1〜BS20−1〜BSC30において、気象条件として前1時間の雨量が1mm以下かつ前1時間の最大瞬間風速が5.5m/s以下であり、該当セルラでデータ通信実行中端末数が0台であり、かつ該当セルラの電波到達範囲に診断実行可能な端末の台数が50台以上ある場合に、選択した50台を対象としてネットワーク診断APを実行」という予約を登録(図12:S140−1)する。この場合、診断サーバ622は時刻情報「月、火、水、木、金の01:00〜04:00」、診断対象セルラ「セルラ10−1〜BS20−1〜BSC30」、気象条件「気温0℃以上かつ雨量 前1時間1mm以下かつ風速 前1時間最大瞬間5.5m/s以下」、セルラの混雑具合「データ通信実行中端末数0台」、診断実行可能端末台数「50台以上」、診断実行端末台数「50台」、を診断開始条件として記憶し(図12:P1400)、保守者に予約登録完了を通知する(図12:S140−2)。
【0063】
診断用サーバ622は、予約毎に記憶している診断開始条件を読みだし(図12:P1401)、それぞれについての最新情報をBS20、BSC30、保守センタ60、および気象サーバ54等から取得し(図12:P1402)、登録済み診断開始条件がすべて満たされたかどうかを判定する(図12:P1403)。
【0064】
たとえば、診断用サーバ622は、気象サーバ54から定期的に最新の気象情報を取得し、取得した気象情報と予約登録された診断開始条件に含まれる気象条件とを比較することによって、当該気象条件が満たされるか否かを判定してもよい。あるいは、BS20が気象情報を取得するセンサ(例えば温度計、雨量計および風速計等)を備え、それらによって得られた気象情報を診断用サーバ622が取得してもよい。
【0065】
また、通常は、BS20またはBSC30の少なくとも一方が、各セルラ内に存在する端末55等の数およびそれらのうちデータ通信を実行している端末55等の数を把握している。診断用サーバ622は、これらの情報を参照することによってデータ通信を実行中の端末55等の数および診断の実行が可能な端末55等の数を取得することができる。図12の例では、データ通信を実行中の端末55等の数がBS20から、診断の実行が可能な端末55等の数がBSC30から取得される。
【0066】
なお、ここでデータ通信とは、診断用のアプリケーションプログラムAPp(543−p)以外のアプリケーションプログラム(例えばAP1(543−1)またはAP2(543−2))によって制御される、BS20を介した対向装置との間のユーザデータの通信である。例えば、対向装置が他の端末55等である場合、当該データ通信は端末間の通話または端末間のメールの送受信等のための通信である。対向装置がISPサーバ53である場合、当該データ通信は、端末55等とISPサーバ53との間のデータのダウンロード/アップロード等のための通信である。
【0067】
各端末55等が診断を実行できるか否かは、種々の観点に基づいて判定され得る。例えば、診断用のアプリケーションプログラムAPp(543−p)がインストールされていない端末55等は診断を実行することができない。また、診断用のアプリケーションプログラムAPp(543−p)がインストールされていても、当該端末55等を所有する加入者が診断の実行を許可していなければ、やはり診断を実行することができない。さらに、診断が実行されると、端末55等と保守センタ60との間で試験信号等が送受信されるため、それによって他のアプリケーションプログラムによる通信(例えば通話のための通信等)が阻害される場合がある。このため、他のアプリケーションプログラムによる通信を行っている端末55等は、診断を実行しないことが望ましい。
【0068】
このため、診断用サーバ622は、例えば、診断対象のセルラ内の端末55等のうち、診断用のアプリケーションプログラムAPp(543−p)がインストールされ、加入者によって診断の実行が許可され、かつ、他のアプリケーションプログラムによる通信を実行していないものの数を、診断の実行が可能な端末55等の数として取得してもよい。なお、各端末55等に診断用のアプリケーションプログラムAPp(543−p)がインストールされているか否か、および、加入者が診断の実行を許可しているか否かを示す情報は、診断用サーバ622自身が保持していてもよいし、加入者情報サーバ623等が保持していてもよい。また、上記のように、他のアプリケーションプログラムによる通信が実行されているか否かは、BS20またはBSC30が保持する情報から把握される。
【0069】
P1403においてすべての条件が満たされていると判定された場合には、診断用サーバ622は、任意に選択した50台の診断用端末に対して診断開始のイベントを発行する(図12:P1404)。本診断は、指定したセルラにおいて、深夜の閑散時刻帯に、複数の診断用端末を使用したデータ通信を発生させることとなり、結果的には繁忙時間帯を想定した任意のデータ通信モデルを意図的に再現させたことと等価である。保守者は、本診断で50台の診断用端末からそれぞれ収集した無線診断データ、および、BS20、BSC30または保守センタ60で収集した運用データを、無線基地局システムの運用パラメータの最適化および局増設の判断に利用することができる。
【0070】
また、無線通信システムにおける電波の伝搬は、気象条件(例えば雨量、気温および風速等)の影響を受けることが知られている。このため、無線基地局システムの運用パラメータの最適化および局増設の判断のために、特定の気象条件における電波の伝搬状況が考慮される場合がある。しかし、気象条件は変化しやすく、予測も難しいため、診断対象のセルラが特定の気象条件を満たすときにそのセルラに診断用の端末を持った保守員を派遣して診断を行うことは困難である。本発明によれば、気象条件を診断開始条件として予約登録し、その条件が満たされる場合に加入者の端末を使用して診断を実行することによって、容易に特定の気象条件下の電波の伝搬状況を調査することができる。
【0071】
これまで、無線基地局システムの運用パラメータの最適化や局増設の判断は、シミュレーションを実施したうえでその結果データに基づいて行なうことが主であった。しかし、そのためにはそもそもシミュレーション作業自体を実施するための労力が必要であり、またその結果得られたデータの信頼性は実データのそれに及ばないものであった。本発明によって、追加の設備投資をすることなく安価に所望のデータ通信モデルを意図的に実システムで再現しデータを収集できるようになり、これを使用することで、運用パラメータの調整効果の向上および局増設判断の精度向上が期待できる。
【0072】
図13は、診断開始条件に基づいて診断開始を判定する処理の別の例を示すシーケンス図である。
【0073】
別例として、保守員が「BSC30配下の全てのセルラにおいて、セルラ中心から16km以上離れた位置にあり、端末型式がA社製XYZモデルで、かつ診断実行可能な端末である場合に、ネットワーク診断APを実行」という予約を登録した場合、診断用サーバ622は診断対象セルラ「BSC30配下の全てのセルラ」、セルラ中心からの端末の位置「16km以上」、端末の型式「A社製XYZモデル」を診断開始条件として記憶する。診断用サーバ622は定期的に診断開始条件の最新情報をBSC30配下のBS20をはじめとする全てのBS、BSC30、保守センタ60、および加入者情報サーバ623から取得し、登録済み診断開始条件がすべて満たされたかどうかを判定し、すべての条件が満たされている場合には、任意に選択した診断用端末55に対して診断開始のイベントを発行する。この診断は、日々市場に投入される無線端末のうち特定型式のみで見られる問題現象(例えば、他型式と比較して、特定型式における呼接続所要時間が長い、呼接続成功率が低い、音声/データ転送が途切れる、など)を解析する際に有効である。従来であれば特定型式の無線端末を保守者が準備したうえで該当セルラの所望の位置に配置する必要があったが、本発明によって無線端末の調達・設置が不要となり、保守センタでの診断予約機能により診断開始可能タイミングを逃さず診断を自動開始できることがメリットである。
【0074】
上述した無線通信システム1の構成および診断方法(動作)は、一例であり、これ以外の構成や方法であっても、診断用のプログラムを備えた端末と保守センタとが連動して無線通信システムの診断をならしめる構成の無線通信システムとその診断方法は、本発明の範囲に含まれるものである。
【0075】
本発明の無線通信システムおよびその診断方法、ならびに、無線通信システムの診断に用いる無線端末によれば、一般に使用される端末を用いて遠隔から無線通信装置の診断を特別な装置の導入によらず実施できる無線通信システムおよび方法を簡単で経済的な構成と手順で実現出来るものである。
【符号の説明】
【0076】
1 無線通信システム
10 セルラ
20 基地局
30 基地局制御局
40 PSTN
50 端末
55 診断用端末
60 保守センタ
543 端末搭載アプリケーションプログラム
P130 診断プログラム(診断端末用)
P200 診断プログラム(保守センタ用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信網に接続された複数の無線通信装置と、それぞれがいずれかの前記無線通信装置の電波到達範囲内にある複数の無線端末と、前記各無線通信装置を介して前記各無線端末と通信する保守装置と、を備える無線通信システムであって、
前記各無線端末は、少なくとも一つの前記無線通信装置を介した対向装置との通信を制御する第1のプログラムと、前記無線通信システムを診断するための前記保守装置との間の通信を制御する第2のプログラムと、を保持し、
前記保守装置は、
診断開始条件を保持し、
前記複数の無線端末の少なくとも一つが前記診断開始条件を満たすと判定した場合、当該複数の無線端末の少なくとも一つに前記第2のプログラムの起動指示を送信し、
前記起動指示を受信した無線端末は、
前記第2のプログラムを実行することによって、前記無線通信システムを診断し、
前記無線通信システムの診断の結果を示す情報を前記保守装置に送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記診断開始条件は、前記各無線端末が通信する前記無線通信装置を指定する情報、前記各無線端末の所在地を含む地域の気象条件を指定する情報、前記診断が実行される日又は時刻を指定する情報、前記各無線端末を含む前記電波到達範囲における通信の混雑の程度を指定する情報、前記各無線端末を含む前記電波到達範囲における前記各無線端末の位置を指定する情報、前記各無線端末の型式を指定する情報、前記各無線端末と前記各無線通信装置との間の無線通信の状態を指定する情報、前記各無線端末の移動速度を指定する情報、及び、前記電波到達範囲内にあり、かつ、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末の数を指定する情報、の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記診断開始条件は、前記電波到達範囲内にあり、かつ、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末の数を指定する情報を含み、
前記保守装置は、前記電波到達範囲内にあり、かつ、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末の数が前記診断開始条件を満たす場合、前記電波到達範囲内にある、前記診断開始条件によって指定された数の、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末に前記第2プログラムの起動指示を送信することを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記保守装置は、前記第1のプログラムによって制御される前記対向装置との通信を実行していない前記無線端末が前記第2のプログラムを実行することができると判定することを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記診断開始条件は、前記各無線端末の所在地を含む地域の気象条件を指定する情報を含み、
前記保守装置は、
通信網を介して気象情報を送信する気象情報サーバに接続され、
前記気象情報サーバから受信した気象情報と前記診断開始条件とを比較することによって、前記診断開始条件が満たされるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記無線通信システムは、前記各無線端末の型式を示す情報を保持する加入者情報サーバをさらに含み、
前記診断開始条件は、前記無線端末の型式を指定する情報を含み、
前記保守装置は、前記各無線端末の型式を示す情報に基づいて、前記電波到達範囲内にある前記各無線端末の型式が前記指定された型式と同一であるか否かを判定し、同一であると判定された前記無線端末に前記第2プログラムの起動指示を送信することを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記第2のプログラムを実行する前記無線端末は、前記保守装置との間で制御信号及び試験信号を送受信することによって、前記保守装置との間の前記試験信号の転送遅延時間、及び、前記試験信号の転送速度の少なくとも一方を測定し、前記測定された値を前記無線通信システムの診断の結果を示す情報として前記保守装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項8】
通信網に接続された複数の無線通信装置と、それぞれがいずれかの前記無線通信装置の電波到達範囲内にある複数の無線端末と、前記各無線通信装置を介して前記各無線端末と通信する保守装置と、を備える無線通信システムの診断方法であって、
前記各無線端末は、少なくとも一つの前記無線通信装置を介した対向装置との通信を制御する第1のプログラムと、前記無線通信システムを診断するための前記保守装置との間の通信を制御する第2のプログラムと、を保持し、
前記保守装置は、診断開始条件を保持し、
前記診断方法は、
前記保守装置が、前記複数の無線端末の少なくとも一つが前記診断開始条件を満たすと判定した場合、当該複数の無線端末の少なくとも一つに前記第2のプログラムの起動指示を送信する第1手順と、
無線端末が、前記起動指示を受信すると、前記第2のプログラムを実行することによって、前記無線通信システムを診断する第2手順と、
前記無線端末が、前記無線通信システムの診断の結果を示す情報を前記保守装置に送信する第3手順と、を含むことを特徴とする無線通信システムの診断方法。
【請求項9】
前記診断開始条件は、前記各無線端末が通信する前記無線通信装置を指定する情報、前記各無線端末の所在地を含む地域の気象条件を指定する情報、前記診断が実行される日又は時刻を指定する情報、前記各無線端末を含む前記電波到達範囲における通信の混雑の程度を指定する情報、前記各無線端末を含む前記電波到達範囲における前記各無線端末の位置を指定する情報、前記各無線端末の型式を指定する情報、前記各無線端末と前記各無線通信装置との間の無線通信の状態を指定する情報、前記各無線端末の移動速度を指定する情報、及び、前記電波到達範囲内にあり、かつ、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末の数を指定する情報、の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項8に記載の無線通信システムの診断方法。
【請求項10】
前記診断開始条件は、前記電波到達範囲内にあり、かつ、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末の数を指定する情報を含み、
前記第1手順は、前記保守装置が、前記電波到達範囲内にあり、かつ、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末の数が前記診断開始条件を満たす場合、前記電波到達範囲内にある、前記診断開始条件によって指定された数の、前記第2のプログラムを実行することができる前記無線端末に前記第2プログラムの起動指示を送信する手順を含むことを特徴とする請求項9に記載の無線通信システムの診断方法。
【請求項11】
前記第1手順は、さらに、前記保守装置が、前記第1のプログラムによって制御される前記対向装置との通信を実行していない前記無線端末が前記第2のプログラムを実行することができると判定する手順を含むことを特徴とする請求項10に記載の無線通信システムの診断方法。
【請求項12】
前記診断開始条件は、前記各無線端末の所在地を含む地域の気象条件を指定する情報を含み、
前記保守装置は、通信網を介して気象情報を送信する気象情報サーバに接続され、
前記第1手順は、前記保守装置が、前記気象情報サーバから受信した気象情報と前記診断開始条件とを比較することによって、前記診断開始条件が満たされるか否かを判定する手順を含むことを特徴とする請求項9に記載の無線通信システムの診断方法。
【請求項13】
前記無線通信システムは、前記各無線端末の型式を示す情報を保持する加入者情報サーバをさらに含み、
前記診断開始条件は、前記無線端末の型式を指定する情報を含み、
前記第1手順は、前記保守装置が、前記各無線端末の型式を示す情報に基づいて、前記電波到達範囲内にある前記各無線端末の型式が前記指定された型式と同一であるか否かを判定し、同一であると判定された前記無線端末に前記第2プログラムの起動指示を送信することを特徴とする請求項9に記載の無線通信システムの診断方法。
【請求項14】
前記第2手順は、前記無線端末が、前記保守装置との間で制御信号及び試験信号を送受信することによって、前記保守装置との間の前記試験信号の転送遅延時間、及び、前記試験信号の転送速度の少なくとも一方を測定する手順を含むことを特徴とする請求項8に記載の無線通信システムの診断方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−175330(P2012−175330A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34522(P2011−34522)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】