説明

無臭透析用固形剤及びその製造方法

【課題】透析液を調製用の透析用固形剤において、特定の電解質成分を含む母粒子が特定の電解質成分を含む被覆層で覆われた2層構造を有する透析用固形剤の酢酸臭気を抑制した透析用固形剤及びその製法を提供する。
【解決手段】塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムを含む電解質組成物並びに酢酸を含む透析用固形剤において、前記成分を含む母粒子が、少なくとも酢酸ナトリウムを含む被覆層で覆われ、酢酸が母粒子及び被覆層中の酢酸ナトリウムに吸着された2層構造を有し、以下の数式(1)を満たすことを特徴とする無臭透析用固形剤: Y≧0.55X−1.26X+4.30 (1)(式中:X=被覆層中の酢酸ナトリウムの量〔g〕/透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの量〔g〕、Y=透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの量〔mol〕/透析用固形剤中の酢酸の量〔mol〕、但し、0<X<1、Y>3.60)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎不全患者の透析療法に使用される重炭酸透析液調製用の透析用固形剤に関し、詳しくは、酢酸臭気が低減され、医療現場での作業性が極めて良好な無臭透析用固形剤及びその製造方法に関する。
【0002】
透析療法は、腎不全患者の治療法として確立されており、老廃物の除去、電解質の調節等を目的に定期的な永続的治療として行われている。透析療法に用いられる透析液は、正常な血清電解質濃度に類似した組成を持つように作製されており、近年では、従来の酢酸透析剤から、生体への負担の少ない重炭酸透析剤に変わってきている。重炭酸透析液は、重炭酸ナトリウムが塩化カルシウムや塩化マグネシウムと反応して炭酸塩の沈殿を生じるため、一般的に塩化カルシウムや塩化マグネシウムを含み、重炭酸ナトリウムを含まない製剤(A剤)と、重炭酸ナトリウムを含み、塩化カルシウムや塩化マグネシウムを含まない製剤(B剤)との2剤に分けられている。A剤とB剤とは、透析液として使用する直前に、それぞれが溶解され、希釈され、混合されて重炭酸透析液が調製される。
【0003】
現在、血液透析で使用されている主な製剤の形式は、A剤濃厚原液+B剤濃厚原液の「液液タイプ」、A剤濃厚原液+B剤粉末の「液粉タイプ」、A剤粉末+B剤粉末の「粉粉タイプ」の3種類がある。「液液タイプ」、「液粉タイプ」の内、濃厚原液の製剤は、通常ポリエチレン製の容器に10kg前後の濃厚液が充填されているため、容器の嵩が大きく質量があり、輸送、搬入、保管スペース、取り扱い方法、使用済み容器の廃棄等について、種々の課題を抱えていた。
【0004】
これらの課題を解決するために、近年、A剤を粉末化した「粉粉タイプ」の固形剤が開発されて使用されつつある。この固形剤は、病院などの医療現場で専用の溶解装置を使用して「液液タイプ」の濃厚原液と同程度の濃度の原液に一旦溶解され、その後、希釈されて透析液濃度に調整される。
【0005】
このような固形剤の製剤化方法としては、従来より流動層造粒法(流動層造粒、転動流動層造粒)、湿式造粒法及び乾式造粒法などが良く知られている。しかし、どの製剤化方法においても、取り扱いはまだ十分ではない。特に、現行透析組成においては、下記のような永遠の課題が存在する。<1>pH調整剤として、酢酸が最もよく使用されるので、固形剤からの酢酸臭気気散により機器室内に酢酸臭気が充満し、作業者は健康被害を被る。<2>酢酸臭気気散により機器・設備は酸腐食し易い。<3>造粒物を溶解装置に投入する際に粉塵が発生し易く、粉塵由来の臭気が強くなる。このため医療現場での作業環境を悪化させる原因となる。
【0006】
そこで、このような課題を解決しようとした固形剤の提案がなされている。例えば、転動流動層コーティング装置により作製された造粒物に酢酸を混合しながら添加した後に、その臭気を吸引することによって酢酸臭を低減させた造粒物を得ることが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。また、高速攪拌型造粒装置により作製された固形剤に酢酸を混合しながら添加した後に、その臭気を吸引することによって酢酸臭を低減させた固形剤が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、これらの方法で作製された固形剤は、吸引直後に酢酸臭気は低減するが、経時的に酢酸臭気が気散するため、結果的には何ら臭気の改善はなされていない。また、多層構造でタブレットに固形化された多層固形透析剤が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。かかる固形透析剤を製造するのに、粉塵の飛散は抑制できるが、均一性を保持するためには、粉砕、混合等の煩雑な工程が避けられず、使用設備や外部からの異物混入により汚染されやすく、溶解装置も従来のものとは異なるので、現実的ではない。また、酢酸臭気に関しては粉塵由来の臭気は低減するが、酢酸臭気自体を低減することはできない。
【特許文献1】特開2002−291878号公報
【特許文献2】特開2004−121822号公報
【特許文献3】特開平6−237991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重炭酸透析液を調製するために必要な電解質組成物、酢酸及び場合によりブドウ糖を含む透析用固形剤において、特定の電解質成分を含む母粒子が特定の電解質成分を含む被覆層で覆われた2層構造を有する透析用固形剤の酢酸臭気を抑制した透析用固形剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述した課題を解決するために、2層構造を有する透析用固形剤の酢酸臭気に関し、被覆層中の酢酸ナトリウムの質量/透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの質量の比と、透析用固形剤中の酢酸ナトリウムのモル量/透析用固形剤中の酢酸のモル量の比との間に関係があることを見出し、かかる関係を満足することにより、酢酸臭気が低減された透析用固形剤を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、以下の1〜10の発明が提供される。
1.塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムを含む電解質組成物並びに酢酸を含む透析用固形剤において、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び場合により塩化カリウムを含む母粒子が、少なくとも酢酸ナトリウムを含む被覆層で覆われ、酢酸が母粒子及び被覆層中の酢酸ナトリウムに吸着された2層構造を有し、以下の数式(1)を満たすことを特徴とする無臭透析用固形剤:
Y≧0.55X−1.26X+4.30 (1)
(式中:
X=被覆層中の酢酸ナトリウムの量〔g〕/透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの量〔g〕、
Y=透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの量〔mol〕/透析用固形剤中の酢酸の量〔mol〕、
但し、0<X<1、Y>3.60)。
2.Xが0.05〜0.21である上記1記載の無臭透析用固形剤。
3.ブドウ糖が、母粒子及び/又は被覆層に含まれる上記1又は2記載の無臭透析用固形剤。
4.顆粒状及び/又は細粒状である、上記1〜3のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤。
5.包材に密封し、相対湿度(RH)25〜90%、温度5〜40℃の条件下で保存し、7日目の温度5〜25℃に低下した造粒物を密封した包材の気相中をガスクロマトグラフにより測定して、気相中の酢酸濃度が150ppb以下である上記1〜4のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤。
6.上記1、2、4及び5のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤と、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムを含む固形剤とからなる3剤型重炭酸無臭透析用固形剤。
7.上記3記載の無臭透析用固形剤と重炭酸ナトリウムを含む固形剤とからなる2剤型重炭酸無臭透析用固形剤。
8.透湿度(40℃、90%RH)2.0g/m・24hr以下であり、背面電極効果を有する積層構造の防湿包材に収納されている、上記1〜7のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤。
9.下記の工程:
(1)原料成分である粉状及び/又は粒状の塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウムを混合し;
(2)得られた混合物に、原料総質量の0.15〜5.00質量%の水に塩化マグネシウムを溶解した水溶液に、原料中の酢酸ナトリウムの総質量の5〜21質量%の酢酸ナトリウムを量調整して添加し、攪拌混合して調製した微粉末懸濁液又は水溶液を添加し、加温状態で攪拌混合して混合物を形成し;
(3)この混合物を1分以上攪拌造粒して造粒物を得;
(4)造粒物を乾燥させた後に、酢酸を添加する
を含む無臭透析用固形剤の製造方法。
10.無臭透析用固形剤が、上記1〜8のいずれか一項記載の無臭透析用剤である、上記9記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無臭透析用固形剤は、包材に密封し、相対湿度(RH)25〜90%、温度5〜40°の条件下で保存し、7日目の温度5〜25℃に低下した造粒物を密封した包材の気相中をガスクロマトグラフにより測定して、気相中の酢酸濃度が150ppb以下と、何の臭いであるかわかる程度に弱い臭い(認知閾値濃度)を有するにすぎない。そのため、本発明の無臭透析用固形剤は、酢酸の臭気が軽減され、作業者の健康を損なうことが無く、医療現場での作業性が極めて良好なものである。
【0011】
本発明の無臭透析用固形剤は、更には、好適な実施態様に従えば、酢酸ナトリウムを含む懸濁液を用いる場合に、得られる固形剤を通常使用される透析液濃度にする際に、酢酸イオンの含量均一性を保持できる。更に、微粉末懸濁液に使用する水の量が少ないため、一般的な攪拌造粒機で適度な粘性状態で造粒物が容易に調製できると同時に、造粒時における機器への粉体付着が低減するため生産性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る無臭透析用固形剤は、成分組成としては、従来のものと本質的には変わりなく、各種電解質(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウム)及び酢酸を含むものである。また、該透析用固形剤は、場合によりブドウ糖を含んでもよい。さらに、これらの他にも従来から透析用に使用されている成分を用いてよいのはもちろんのことである。
【0013】
本発明に係る無臭透析用固形剤は、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び場合により塩化カリウムを含む母粒子が、少なくとも酢酸ナトリウムを含む被覆層で覆われた2層構造を有し、以下の数式(1)を満たすことを特徴とするものである:
Y≧0.55X−1.26X+4.30 (1)
【0014】
数式(1)中のYは、透析用固形剤中の酢酸モル数に対する透析用固形剤中の酢酸ナトリウムモル数のモル比を表す。Yの範囲はY>3.60である。
【0015】
数式(1)中のXは、透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの質量に対する被覆層中の酢酸ナトリウムの質量の比を表す。Xの範囲は0<X<1である。例えば、X=1の場合は、酢酸ナトリウムが母粒子に全量コーティングして得られる造粒形態を意味する。また、X=0.5の場合は、酢酸ナトリウムが被覆層に50%関与し、母粒子に50%関与する造粒形態を意味する。Xの好ましい範囲は、0.05〜0.21であり、この範囲の造粒形態は、下記造粒方法の好適な実施態様により、簡便かつ安価に造粒できるものである。
【0016】
更に、数式(1)は、いくつかのサンプルを製造し、X及びYの関係をプロットし、下記に説明する官能試験で臭気強度2の点(何の臭いであるかわかる程度に弱い臭い(認知閾値濃度))を結ぶ曲線を引き、この曲線を数値解析法によって、近似式を算出したものである。
【0017】
本発明に係る母粒子は、酢酸ナトリウム及び塩化ナトリウムを含み、場合により加えて塩化カリウム及び/又はブドウ糖を含んでよい。例えば、酢酸ナトリウム及び塩化ナトリウムからなる母粒子、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウム又はブドウ糖からなる母粒子、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム及びブドウ糖からなる母粒子等を挙げることができる。
【0018】
本発明における母粒子を覆う被覆層は、数式(1)を満足する量の酢酸ナトリウムが含まれる限り、例えば、塩化ナトリウムが含まれていても、ブドウ糖が含まれていてもよい。ブドウ糖は、母粒子と被覆層の両方に含まれていてもよい。但し、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムは被覆層に含まれるのが好ましい。更に、被覆層は、流動層造粒法、湿式造粒法及び乾式造粒法において造粒時に反応生成すると考えられる酢酸ナトリウム高次化合物を含んでもよい。更に、塩化マグネシウムと塩化カルシウムとが酢酸ナトリウムと反応して得られる高次化合物が、被覆層中に存在しても、本発明の透析用固形剤から気散される酢酸量が少なくなり、酢酸の臭気が低減する。
【0019】
本発明において、無臭透析用固形剤の酢酸濃度の規定を設けるために、アルミニウムラミネート製包材に、平均粒子径が250〜750μmの造粒物に各濃度の酢酸を吸着させた後に、嗅覚の正常な6人で官能試験を行い、臭気強度を求めた。更に、各酢酸濃度に関しては、アルミニウムラミネート製包材の気相中の酢酸をガスクロマトグラフにより定量して求めた。結果を表1に示す。この結果から、本発明に係る無臭透析用固形剤は臭気強度2以下(酢酸濃度150ppb以下)に相当する造粒物を無臭透析用固形剤とした。ガスクロマトグラフの分析条件は下記の通りである:
装置;島津 GC−9A
カラム;パックドカラム(長さ;3m 内径;3mm)
充填剤;Gaskuropack54 80/100mesh
カラム温度;180℃一定
試料導入部温度;温度200℃
カラムのガス流量;30ml/min(キャリアガス;窒素)
検出器;水素炎イオン化検出器(FID)(レンジ10) 温度200℃
【0020】
【表1】

【0021】
尚、透析用固形剤の酢酸濃度測定方法は、平均粒子径が250〜750μmの造粒物に酢酸を吸着させて直ぐに、造粒物をアルミニウムラミネート製包材に充填して密封し、25℃で保存し、7日目の粉体温度25℃の造粒物の気相中の酢酸をガスクロマトグラフにより上記の分析方法で定量して求めた。ここで、保存温度は、室温(約5〜40℃の範囲)が好ましい。但し、保存温度が25℃以上において、7日目の気相中の酢酸を定量する時に、粉体温度が25℃以上であれば、粉体温度を5〜25℃まで下げて測定することが好ましく、その際の粉体温度を下げる方法は特に限定するものではない。また、測定日は、7日目以降であれば酢酸臭気が一定値に収束しているので、7日目以降でも特に問題はない。例えば、平均粒子径が400μmの造粒物の場合に、酢酸吸着直後の造粒物をアルミニウムラミネート製包材に充填して酢酸濃度を測定すると6000ppb以上であるが、気相中の酢酸濃度は経時的に減少していき、7日経過した後には150ppb以下に収束することが判明している。
【0022】
以上より、平均粒子径が250〜750μmの造粒物に酢酸を吸着させた後に、造粒物をアルミニウムラミネート製包材に充填し、密封して保存し、7日目の気相中の酢酸濃度(造粒物温度は25℃)が150ppb以下になる条件を満たす数式(1)を導いた。尚、数式(1)を満足する造粒物を調製することによって酢酸臭気を抑制した無臭透析用剤が調製される。
【0023】
酢酸臭気が抑制されるメカニズムについては、YとXとの関係以外に幾つかの知見が得られている。まず一つ目は、酢酸濃度が母粒子となる酢酸ナトリウムの平均粒子径(表面積)に依存することである。例えば、X=0、Y=4.5において母粒子となる酢酸ナトリウムの平均粒子径が400μmにおいて、酢酸吸着後に、アルミニウムラミネート製包材に充填し、密封して保存し、7日目の気相中の酢酸濃度を測定すると、酢酸濃度は4000ppb以上であるのに対して、母粒子となる酢酸ナトリウムの平均粒子径が150μm以下においては、酢酸吸着後に、アルミニウムラミネート製包材に充填し、密封して保存し、7日目の気相中の酢酸濃度を測定すると、酢酸濃度は100ppb以下である。二つ目は、造粒物に酢酸を吸着させた時の酢酸浸透率の依存性である。これは、酢酸浸透率が小さい程、酢酸は酢酸ナトリウムと反応して、ニ酢酸ナトリウムとなり安定した状態(化学吸着)で存在する。一方、酢酸浸透率が大きい程、酢酸の一部はニ酢酸ナトリウムとなった状態(化学吸着)と表面で吸着した状態(物理吸着)で共存するため、酢酸臭気の原因となると推測される。例えば、母粒子となる酢酸ナトリウムの平均粒子径が大きいほど、粒子数が少なくなるので、一粒当たりの酢酸吸着量が多くなり、酢酸浸透率が大きくなる。逆に、母粒子となる酢酸ナトリウムの平均粒子径が小さいほど、粒子数が多くなるので、一粒当たりの酢酸吸着量が少なくなり、酢酸浸透率が小さくなる。
【0024】
本発明の無臭透析用固形剤は、典型的には、顆粒状及び/又は細粒状の造粒物である。そして、その平均粒子径は、約250〜750μmであり、被覆層の厚さは5〜70μmであるのが好ましい。造粒物は、母粒子の表面に被覆層が形成された単独の粒子であってもよいし、複数の被覆された母粒子が被覆層を介して結合したものであってもよい。
【0025】
次に、本発明の無臭透析用固形剤の造粒方法を説明する。造粒方法は、特に限定しないが、流動層造粒法、湿式造粒法又は乾式造粒法を挙げることができる。
【0026】
本発明の無臭透析用固形剤の造粒方法の一例を以下に示す。
まず、原料成分である粉状及び/又は粒状の塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウムを精製水に溶解して水溶液を調製する。数式(1)を満足するように、少なくとも酢酸ナトリウムを含む電解質成分を粒子として水溶液中に投入する。該水溶液を母粒子である塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムに噴霧すると同時に乾燥させる。得られた造粒物に酢酸を添加して顆粒状又は細粒状の製剤を得る。酢酸は、浸透して母粒子及び被覆層中の酢酸ナトリウムに吸着される。浸透した酢酸は、酢酸ナトリウムと反応して二酢酸ナトリウムとなり安定した状態(化学吸着)で存在するので、酢酸臭気を発生しないことから、好ましい。
【0027】
本発明の無臭透析用固形剤の造粒方法として、簡便かつ安価に造粒することができることから、特に好適な実施態様を以下に示す。
まず、原料成分である粉状及び/又は粒状の塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウムを混合する。次に、原料総質量の0.15〜5.00質量%の水に塩化マグネシウムを溶解した水溶液に酢酸ナトリウムを添加して攪拌混合して調製した微粉末懸濁液又は水溶液を添加して40℃の温度で攪拌混合して混合物を形成する。この混合物を1分以上攪拌造粒して顆粒状及び/又は細粒状の造粒物が得られる。また、塩化マグネシウムを溶解して水溶液にする好適な水の量は、原料総質量に対して0.15〜5.00質量%であり、好適には0.50〜4.00質量%であり、更に好適には、1.10〜2.40質量%である。
【0028】
更に、該懸濁液又は水溶液に用いる酢酸ナトリウム量は原料中の酢酸ナトリウム量に対して、好適には5〜21質量%である。ここで、酢酸ナトリウム量が5質量%以上であると、懸濁液の状態となる確率が高くなり、機器への粉体付着が少なくなる。他方、21質量%以下であると、適度な粘性であると共に、高速攪拌型造粒装置を用いて容易に調製できる。
【0029】
本発明において、塩化マグネシウムを含む水溶液に酢酸ナトリウムを添加することによって微粉末懸濁液を調製するのが好ましい。酢酸ナトリウムの大半を母粒子として用いても、酢酸ナトリウムを含む懸濁液を用いることによって得られる造粒物中から一定量をサンプリング(例えば、試験例2において8.5206gを6箇所サンプリング)し通常使用される透析液濃度(約1質量%)にした際には、酢酸イオンの含量均一性が保持できる。更に、塩化マグネシウムと酢酸ナトリウムが共存した微粉末懸濁液状態では、水溶液状態で使用した場合や他の湿式造粒に比べて機器への粉体付着が少なくなると共に、極めて少量の水(例えば、実施例1の方法(懸濁液による方法)と実施例2の方法(流動層造粒)で比較すると、実施例1において使用する水の量は実施例2において使用する水の量の11/100程度である)にも関わらず、適度な粘性に調製することができるので、短時間で全体を均一に被覆することができる。
【0030】
塩化マグネシウムを含む水溶液に酢酸ナトリウムを添加することによって微粉末懸濁液又は水溶液を調製するのに、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムをそれぞれどのような質量範囲で添加すれば、微粉末懸濁液を調製することができ或は水溶液を調製することができるかを一概に規定することは困難である。何故ならば、第一に、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムの溶解度が温度に依存すること。第二に、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム及び水の3成分を混ぜると系内で反応して5成分となり複雑になり、厳密に溶解度曲線を作成することができないからである。しかし、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムの配合量をどのようにすれば、微粉末懸濁液又は水溶液が得られるかは、当業者であれば、日常行っている程度の実験を実施することで、求めることができる。また、懸濁液であるか又は水溶液であるかは、見れば分かる。例えば、実施例の組成において、25℃の条件下で、水108g(透析用固形剤全体の質量に対して1.8質量%)、塩化マグネシウム81.6g、酢酸ナトリウム32.7〜124.8g(酢酸ナトリウム全体の質量に対して5.5質量%〜21質量%)を混合攪拌すると、ハンドリングが良好な微粉末懸濁液が調製できる。
【0031】
原料成分である粉状及び/又は粒状の塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウムを用いる場合は、含量均一性の保持という面から、各原料成分の平均粒子径を200〜600μm程度のものが好ましく、それぞれの粒子の平均粒子径の差が、全粒子の平均粒子径の30%以内になるようにするような組合せが好ましい。また、造粒性の面から、塩化カルシウムの平均粒子径は300μm以下にするのが望ましい。更に、酢酸臭気が母粒子である酢酸ナトリウムの平均粒子径によって、臭気強度が異なるので、酢酸ナトリウムの平均粒子径を200〜600μmとするのが望ましい。
【0032】
本発明において、ブドウ糖を無臭透析用固形剤に添加しても又は添加しないでもよい。本発明において、ブドウ糖を無臭透析用固形剤に添加しないで、ブドウ糖を、重炭酸透析液を作製する際に、別途添加してもよい。本発明において、ブドウ糖を無臭透析用固形剤に添加する場合には、ブドウ糖を別途添加しないで、重炭酸透析液を作製することができる。
【0033】
本発明の無臭透析用固形剤にブドウ糖を添加混合する方法は、特に限定しないが、好適例を示す。
【0034】
本発明の無臭透析用固形剤に、酢酸を添加する前に又は添加すると同時に又は添加した後にブドウ糖を添加し、酢酸湿潤下で該透析用固形物とブドウ糖とを混合すると、ブドウ糖の表面に該透析用固形剤の被覆層の一部を被覆形成し、該透析用固形剤の被覆層と該ブドウ糖の被覆層に酢酸が吸着してサラサラする。この時、塩化ナトリウムを含む母粒子の被覆層中には電解質組成物と酢酸と極微量のブドウ糖を含有する。他方、ブドウ糖の母粒子の被覆層中には電解質組成物と酢酸と極微量の塩化ナトリウムとを含有した全成分が含有する。また、ブドウ糖をコーティングするために、他の電解質組成物と酢酸との接触面積が小さくなり安定性が向上する。
【0035】
本発明の無臭透析用固形剤を所定の水に溶解すれば重炭酸透析液を、例えば下記の濃度に調整することができる:
Na+ 125〜150 mEq/L
+ 1.0〜3.0 mEq/L
Ca2+ 1.5〜3.5 mEq/L
Mg2+ 0.5〜1.5 mEq/L
Cl 90.0〜135 mEq/L
CHCO 5.0〜10.0 mEq/L
HCO3 20.0〜35.0 mEq/L
ブドウ糖 0.5〜2.5 g/L
【0036】
このようにして得られる透析用固形剤の包装材料としては防湿性能が良く、しかも背面電極効果を有するものが好ましい。従来より、帯電防止剤を樹脂に練りこんでフィルムを作成し、帯電防止機能を有する包装材料に加工して使用された例はあったが、樹脂からのブリード現象により製品に異物が混入するなどの不都合が見られた。これに比べ、本発明において帯電防止剤はフィルムの接着に使用する接着剤中に含まれているためフィルムを浸透することはなく、ブリード現象は起こりえない。帯電防止剤は透析用固形剤と接するフィルム面の裏側にある接着剤中に含有され、背面まで帯電防止機能を有するラミネートフィルムである。すなわち、透湿度(40℃、90%RH)2.0g/m2・24hr以下のフィルム、例えばシリカ蒸着フィルムを用い、静電防止性接着剤、例えばボンディップ(コニシ社製)を用いて接着したラミネートフィルムを用いて加工した背面電極効果を有する包装材料に透析用固形剤を充填、包装するのが好ましい。そのような積層構造を有するラミネートフィルムの構成例としては、
PET/SiO/ボンディップ/PE、
PVA/SiO/ボンディップ/PE、
ONY/SiO/ボンディップ/PE、
PET/SiO/ボンディップ/CPP、
OPP/SiO/ボンディップ/CPP、
を挙げることができ、これを包装材料に加工して用いることができる。ラミネートフィルムは公知の方法により容易に製造できる。ラミネートフィルムの製造方法の一例としては、静電防止性接着剤の必要量を計り取り、必要により溶剤で希釈するなどして液が均一になるように混合し、グラビアコーター、リバースコーター等のコーターを用いて上記のフィルムに塗布し、温風乾燥して完全に硬化させる方法を挙げることができる。得られたラミネートフィルムはヒートシールすることによって包装材料に加工することができる
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を示して、更に具体的に説明する。
【0038】
実施例1
塩化ナトリウム(平均粒子径 約320μm)5000.0g、塩化カリウム(平均粒子径 約320μm)119.8g、塩化カルシウム(粒子径300μm以下)147.9g、酢酸ナトリウム(平均粒子径 約370μm)534.7gを攪拌型混合造粒装置(深江パウテック株式会社製 ハイスピードミキサー FS−GS−25J)に添加し、混合攪拌した。回転数70rpm(剪断力0.01kW/kg)で混合攪拌しながら、内温が40℃で、塩化マグネシウム81.6gを精製水108gに溶解した後に、酢酸ナトリウム59.4gを添加して微粉末懸濁液(液温:25℃)を調製して添加した。添加直後に湿潤な粒子状であった内容物が、20分間混合攪拌するとサラサラとした顆粒状となった。一旦造粒物を取り出して水分が0.5質量%以下になるまで80℃の条件下で乾燥した。得られた造粒物に酢酸96.9gを添加し、5分間混合攪拌した後に、造粒物を取り出し、整粒して平均粒子径が約400μmの顆粒状及び細粒状の製剤を得た。(X=0.10 Y=4.5)
【0039】
実施例2
塩化カリウム24.0g、塩化マグネシウム16.3g、塩化カルシウム29.6g及び酢酸ナトリウム11.9gを精製水190.9gに溶解して水溶液を調製した。トップスプレー式流動層造粒装置(FL−LABO フロイント産業株式会社製)に、核粒子として塩化ナトリウム(平均粒子径 約320μm)1000gと酢酸ナトリウム(平均粒子径 約370μm)106.9gとを投入し、給気温度80℃、0.4m/minの条件下で、前記水溶液を噴霧すると同時に乾燥させた。得られた造粒物に酢酸19.4gを添加して平均粒子径が約400μmの顆粒状及び細粒状の製剤を得た。(X=0.10 Y=4.5)
【0040】
実施例3
塩化カリウム24.0g、塩化マグネシウム16.3g、塩化カルシウム29.6g及び酢酸ナトリウム11.1gを精製水189.0gに溶解して水溶液を調製した。トップスプレー式流動層造粒装置(FL−LABO フロイント産業株式会社製)に、核粒子として塩化ナトリウム(平均粒子径 約320μm)1000gと酢酸ナトリウム(平均粒子径 約370μm)100.2gとを投入し、給気温度80℃、0.4m/minの条件下で、前記水溶液を噴霧すると同時に乾燥させた。得られた造粒物に酢酸19.4gを添加して平均粒子径が約400μmの顆粒状及び細粒状の製剤を得た。(X=0.10 Y=4.2)
【0041】
比較例1
塩化カリウム24.0g、塩化マグネシウム16.3g、塩化カルシウム29.6g及び酢酸ナトリウム10.3gを精製水187.1gに溶解して水溶液を調製した。トップスプレー式流動層造粒装置(FL−LABO フロイント産業株式会社製)に、核粒子として塩化ナトリウム(平均粒子径 約320μm)1000gと酢酸ナトリウム(平均粒子径 約370μm)93.0gとを投入し、給気温度80℃、0.4m/minの条件下で、前記水溶液を噴霧すると同時に乾燥させた。得られた造粒物に酢酸19.4gを添加して平均粒子径が約400μmの顆粒状及び細粒状の製剤を得た。(X=0.10 Y=3.9)
【0042】
試験例1
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1で得られた製剤1000gを220mm×185mmのアルミニウムラミネート製包材に充填し、ヒートシールした後、25℃、60%RHの条件下で7日間保存し、島津製作所社製ガスクロマトグラフにより酢酸濃度を確認した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
試験例2
実施例1、実施例2、実施例3で得られた製剤からランダムに6箇所サンプリングを行い、それぞれの検体についてサンプル8.5206gを水に溶かして正確に200mlとし、これを50倍希釈してCHCOOの電解質濃度を東ソー社製イオンクロマトグラフにより測定した。分析条件を下記に示す。また、測定結果を表3に示す。
アニオン測定
装置;TOSOH ION CHROMATOGRAPH
カラム;TSKguardcolumn SuperIC−AP
Super IC−AP
カラム温度;40℃
サンプル量;30μL
溶離液;0.3mmol/L Na・10HO+2.1mmol/L NHCO+2.5mmol/L NaCO
流量;0.80ml/min
【0045】
【表3】


表3中、nはサンプリング番号を示す。
【0046】
このように実施例1〜3で製造した本発明の無臭透析用固形剤は、表2から分かる通りに、酢酸濃度が約150ppb以下であり、表1に示す臭気強度が2以下である。また、表3から分かる通りに、実施例1〜3で製造した本発明の無臭透析用固形剤では、酢酸イオン濃度が理論値に極めて近いことから、酢酸が吸着しているにも関わらず、無臭である製剤となっている。
【0047】
これに対し、数式(1)を満足しない比較例1の製剤は、強烈な酢酸臭気を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の無臭透析用固形剤は、腎不全患者の透析療法に使用される重炭酸透析液調製用の透析用固形剤として用いることができる。特に、本発明の無臭透析用固形剤は、作業者に不快感を与えること無く、安全に透析用固形剤として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムを含む電解質組成物並びに酢酸を含む透析用固形剤において、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び場合により塩化カリウムを含む母粒子が、少なくとも酢酸ナトリウムを含む被覆層で覆われ、酢酸が母粒子及び被覆層中の酢酸ナトリウムに吸着された2層構造を有し、以下の数式(1)を満たすことを特徴とする無臭透析用固形剤:
Y≧0.55X−1.26X+4.30 (1)
(式中:
X=被覆層中の酢酸ナトリウムの量〔g〕/透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの量〔g〕、
Y=透析用固形剤中の酢酸ナトリウムの量〔mol〕/透析用固形剤中の酢酸の量〔mol〕、
但し、0<X<1、Y>3.60)。
【請求項2】
Xが0.05〜0.21である請求項1記載の無臭透析用固形剤。
【請求項3】
ブドウ糖が、母粒子及び/又は被覆層に含まれる請求項1又は2記載の無臭透析用固形剤。
【請求項4】
顆粒状及び/又は細粒状である、請求項1〜3のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤。
【請求項5】
包材に密封し、相対湿度(RH)25〜90%、温度5〜40℃の条件下で保存し、7日目の温度5〜25℃に低下した造粒物を密封した包材の気相中をガスクロマトグラフにより測定して、気相中の酢酸濃度が150ppb以下である請求項1〜4のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤。
【請求項6】
請求項1、2、4及び5のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤と、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムを含む固形剤とからなる3剤型重炭酸無臭透析用固形剤。
【請求項7】
請求項3記載の無臭透析用固形剤と重炭酸ナトリウムを含む固形剤とからなる2剤型重炭酸無臭透析用固形剤。
【請求項8】
透湿度(40℃、90%RH)2.0g/m・24hr以下であり、背面電極効果を有する積層構造の防湿包材に収納されている、請求項1〜7のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤。
【請求項9】
下記の工程:
(1)原料成分である粉状及び/又は粒状の塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウムを混合し;
(2)得られた混合物に、原料総質量の0.15〜5.00質量%の水に塩化マグネシウムを溶解した水溶液に、原料中の酢酸ナトリウムの総質量の5〜21質量%の酢酸ナトリウムを量調整して添加し、攪拌混合して調製した微粉末懸濁液又は水溶液を添加し、加温状態で攪拌混合して混合物を形成し;
(3)この混合物を1分以上攪拌造粒して造粒物を得;
(4)造粒物を乾燥させた後に、酢酸を添加する
を含む無臭透析用固形剤の製造方法。
【請求項10】
無臭透析用固形剤が、請求項1〜8のいずれか一項記載の無臭透析用固形剤である、請求項9記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−130165(P2007−130165A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325080(P2005−325080)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】