無色透明にできる反射型調光薄膜材料
【課題】透明時に完全に無色透明にできる反射型調光薄膜材料を提供する。
【解決手段】マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いていること、上記薄膜の表面に触媒層が形成されていること、任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されていること、室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有すること、室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有すること、を特徴とする反射型調光薄膜材料、反射型調光ガラス及び調光窓ガラス。
【効果】透明時に無色で優れた反射型調光特性を示す、新規なマグネシウム・チタン合金系の反射型調光薄膜材料を提供することができる。
【解決手段】マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いていること、上記薄膜の表面に触媒層が形成されていること、任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されていること、室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有すること、室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有すること、を特徴とする反射型調光薄膜材料、反射型調光ガラス及び調光窓ガラス。
【効果】透明時に無色で優れた反射型調光特性を示す、新規なマグネシウム・チタン合金系の反射型調光薄膜材料を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料及び反射型調光ガラスに関するものであり、更に詳しくは、窓ガラスから入射する太陽光をブラインドやカーテンなしで自動的にコントロールする調光ガラスに用いる新規なマグネシウム・チタン合金系反射型調光材料、当該材料を用いて作製した反射型調光ガラスに関するものである。本発明は、建物や乗り物の窓部における太陽光の透過率を制御するための新しい反射型調光薄膜材料に関する窓材料技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物において、窓(開口部)は大きな熱の出入り場所になっている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流失する割合は、48%程度であり、夏の冷房時に窓から熱が入る割合は、71%程度にも達する。したがって、窓における光・熱をうまくコントロールすることにより、膨大な省エネルギー効果を得ることができる。調光ガラスは、このような目的で開発されたものであり、光・熱の流入・流出をコントロールする機能を有している。
【0003】
このような調光ガラスの調光を行う方式には、いくつかの種類がある。それらのうち、1)電流・電圧の印加により可逆的に透過率の変化する材料を、エレクトロクロミック材料といい、2)温度により透過率が変化する材料を、サーモクロミック材料といい、また、3)雰囲気ガスの制御により透過率が変化する材料を、ガスクロミック材料という。これらの中でも、調光層に酸化タングステン薄膜を用いたエレクトロクロミック調光ガラスの研究が最も進んでおり、現在、ほぼ実用化段階に達しており、市販品も出されている。
【0004】
この酸化タングステンを初めとして、これまで知られているエレクトロクロミック調光ガラスは、全て、調光層で光を吸収することにより調光を行うことをその原理としている。この場合、この種の調光ガラスは、調光層が光を吸収することにより熱を持ち、それがまた室内に再放射されるため、省エネルギー効果が低くなってしまうという欠点を持っている。これをなくすためには、光を吸収することにより調光を行うのではなく、光を反射することにより調光を行う必要がある。そのために、鏡の状態と透明な状態が可逆的に変化するような特性を有する調光材料の開発が望まれていた。
【0005】
このような、鏡の状態と透明な状態に変化する材料は、長らく見つかっていなかったが、1996年に、オランダのグループにより、イットリウムやランタンなどの希土類の水素化物が、水素により鏡の状態と透明な状態に変化することが発見され、このような材料が「調光ミラー」と命名された(非特許文献1)。これらの希土類水素化物は、透過率の変化が大きく、調光ミラー特性に優れている。しかし、この調光ミラーは、材料として希土類元素を用いるため、窓のコーティングなどに用いる場合、資源やコストの面で問題があった。
【0006】
反射型の調光特性(調光ミラー特性)を有する材料としては、これまで、イットリウムやランタン等の希土類金属の水素化物、ガドリニウム等の希土類金属とマグネシウムの合金の水素化物、及びマグネシウム・ニッケル合金の水素化物等が知られている。この中で、資源やコストの観点から、窓ガラスのコーティングに適しているのは、マグネシウム・ニッケル合金を用いたものである(特許文献1〜4)。しかし、これまで報告されている材料による調光層は、程度の差こそあれ、透明時において無色透明ではなく、色が着いており、これが窓ガラスへの応用を考える場合の大きな障害になっていた。
【0007】
【特許文献1】特開2003−335553号公報
【特許文献2】特開2004−139134号公報
【特許文献3】特開2005−056706号公報
【特許文献4】特開2005−274630号公報
【非特許文献1】J. N. Huiberts, R. Griessen, J. H. Rector, R. J. Wijngaarden, J. P. Dekker, D. G. de Groot, N. J. Koeman, Nature 380 (1996) 231
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、透明時において無色透明にすることが可能な新しい調光材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、マグネシウムとチタンの合金薄膜の成膜を行い、その調光ミラー特性の評価を行った結果、水素化時において、完全に無色透明な状態になる調光薄膜を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、コスト的に安価なマグネシウム・チタン薄膜及びごく微量のパラジウム膜等の触媒層を使用した新しいマグネシウム・チタン合金系の反射型調光材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は、当該調光ミラー材料を用いた反射型調光ガラス窓の構造を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、コーティング層が2層でシンプルであることから、大きなコスト低減が見込まれる、新しい反射型調光薄膜材料及びその用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、1)調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いている、2)上記薄膜の表面に触媒層が形成されている、3)任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されている、4)室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有する、5)室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有する、ことを特徴とする反射型調光薄膜材料。
(2)マグネシウム・チタン合金薄膜の組成が、MgTix(0.1<x<0.4)であり、結晶化したマグネシウムを有していることを特徴とする上記(1)に記載の材料。
(3)マグネシウム・チタン合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmである上記(1)に記載の材料。
(4)水素化時において、調光層が無色になり、その透過スペクトルから計算した色度座標が、x=0.333、y=0.333の点から距離0.02以内にある上記(1)に記載の材料。
(5)上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくはパラジウム合金がコートされている上記(1)に記載の材料。
(6)上記保護層が、水素透過性であり、かつ水非透過性の材料から成る上記(1)に記載の材料。
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料から成る調光部を、透明部材表面に形成したことを特徴とする反射型調光部材。
(8)上記調光部を、ガラス表面に形成した上記(7)に記載の反射型調光部材。
(9)複層ガラスからなる反射型調光ガラス窓であって、上記(8)に記載の反射型調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするガスクロミック反射型調光ガラス窓。
(10)上記複層ガラスの間隙に、水素ガス及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する上記(9)に記載のガスクロミック反射型調光ガラス窓。
(11)上記(1)から(6)のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料と透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を持つことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光材料。
(12)上記(11)に記載のエレクトロクロミック反射調光材料をガラス窓に適用したことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光ガラス窓。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、反射型調光薄膜材料であって、調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いていること、上記薄膜の表面に触媒層が形成されていること、任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されていること、室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有すること、室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有すること、を特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は反射型調光部材であって、上記のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射方調光薄膜材料から成る調光部を、透明部材表面に形成したことを特徴とするものである。また、本発明は、上記の反射型調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするものである。また、本発明は、エレクトロクロミック反射調光材料であって、上記のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料と透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を持つことを特徴とするものである。更に、本発明は、エレクトロクロミック反射調光ガラス窓であって、上記のエレクトロクロミック反射調光材料をガラス窓に適用したことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の反射型調光薄膜は、マグネシウム・チタン合金薄膜の組成が、MgTix(0.1<x<0.4)であり、結晶化したマグネシウムを有していること、薄膜の厚さが10nm−200nm程度の非常に薄いマグネシウム・チタン合金薄膜から成ること、を好ましい実施の態様としている。この調光特性に優れたマグネシウム・チタン合金薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により作製することができる。しかし、成膜の方法は、これらの方法に制限されるものではない。
【0014】
本発明では、上記マグネシウム・チタン合金薄膜の表面に触媒層が形成される。上記触媒層として、好適には、パラジウムあるいはパラジウム合金が用いられる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。上記触媒層は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により作製することができる。しかし、これらの方法に制限されるものではない。
【0015】
上記調光ミラー材料からなる調光層を基板の透明部材ないしガラス表面に形成することにより、調光ミラー部材ないし調光ミラーガラスが得られる。この場合、基板としては、好適には、例えば、アクリル、プラスチック、透明シート、ガラスが例示される。しかし、これらに限らず、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0016】
本発明では、任意の構成として、上記触媒層の表面に保護層が形成される。この保護層の材料としては、水素に対して透過性で、水に対して非透過性の特性を有する材料が用いられる。上記保護層の材料の具体例としては、好適には、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、酢酸セルロース等のポリマーや、酸化チタン薄膜、酸化ニオブ薄膜等の無機薄膜が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。この保護層により、上記調光層の耐久性を向上させることができる。
【0017】
上記調光層の水素化を行う方法は、2種類あり、そのうち、水素を含んだガスにさらすことにより水素化する方法は、ガスクロミック方式と呼ばれ、また、電解質中に含まれるプロトンを電気的に注入して水素化する方法は、エレクトロクロミック方式と呼ばれる。このマグネシウム・チタン合金薄膜においても、この2種類の方式で、スイッチングを行うことができる。
【0018】
例えば、ガスによるスイッチングを行う場合、蒸着したマグネシウム・チタン合金薄膜は、金属であり、蒸着した状態で、銀色の鏡状態になっていが、この薄膜に水素を含む雰囲気を当てると、水素化物に変化し、透明化する。この水素化した薄膜に、酸素もしくは空気に当てると、脱水素化が起こって金属状態に戻る。上記スイッチングを利用することにより、この変化を繰り返し行うことができる。
【0019】
マグネシウム・チタン合金薄膜の上に薄くパラジウムを蒸着した試料を、水素を含む雰囲気にさらすと、水素化が起こって透明な状態になるが、この透明時に、マグネシウム・チタン薄膜は、完全に無色になる。マグネシウム・ニッケル合金薄膜を初めとするこれまでの反射型調光薄膜では、透明時に黄色系統の色が着いており、このことが、窓ガラス等への応用を考えた場合のひとつの障害になっていた。
【0020】
物理的には、薄膜の色は、色度座標を計測することで評価することができる。その色度座標が、色についてニュートラル(無色)である、x=0.333、y=0.333の点から離れている程、色の着いている度合いが大きいことを表す。マグネシウム・ニッケル合金薄膜では、比較的色の薄いMg6Niという組成の膜でも、その色度座標は、x=0.333、y=0.333の点から0.5程度離れている。
【0021】
これに対して、マグネシウム・チタン合金薄膜では、透明の色度座標は、x=0.333、y=0.333の点から、少ししかはなれておらず、ほとんど色が着いていないことがわかる。このように、薄膜の色を透明時に完全に無色にできることが、マグネシウム・チタン系合金薄膜の最大の特徴である。
【0022】
本発明の反射型調光ガラスの調光特性は、後記する実施例に示されるように、マグネシウム・チタン合金薄膜におけるマグネシウムとチタンの組成に依存する。MgTixのxの値、すなわち、マグネシウムに対するチタンの組成比が、0.1から0.4の範囲で、優れた調光特性を示す。一般的な傾向として、チタンの成分が多くなるほど脱水素化が早くなるが、透明時の透過率は低くなるので、用途に応じて組成を適宜選択することが望ましい。
【0023】
一般的に、反射型調光薄膜材料は、スイッチングを繰り返すと劣化が起こり、だんだんとスイッチングしなくなる。例えば、現在開発されているマグネシウム・ニッケル合金薄膜の場合、150回程度スイッチングを繰り返すと、ほとんど変化しなくなる。マグネシウム・チタン合金薄膜のスイッチング特性を調べた結果、マグネシウム・ニッケル合金薄膜の場合よりも、高い耐久性を示すことがわかった。その原因は、薄膜の結晶構造、及び表面構造の違いによるものと考えられる。
【0024】
マグネシウム・チタン薄膜の構造を解析した結果、結晶化したマグネシウムから成っており、その中にチタンが分散しているような系になっていることがわかった。マグネシウム・ニッケル合金薄膜等の、他の反射型調光薄膜材料は、結晶化したマグネシウムを有しておらず、アモルファス状態になっており、結晶化したマグネシウムを有していることは、マグネシウム・チタン薄膜の大きな特徴である。
【0025】
また、試料表面を観察すると、独特のテクスチャ構造を持っていることがわかった。マグネシウム・ニッケル合金薄膜等では、電子顕微鏡で観察しても、その表面は非常にフラットで、全くそのような構造が見られない。したがって、このような構造が見られることも、マグネシウム・チタン合金薄膜の大きな特徴であり、マグネシウムが結晶化していることとも関連性があると思われる。
【0026】
マグネシウム・ニッケル合金薄膜等の場合は、表面がフラットであるために、水素化による膨張・収縮の影響を受けやすく、それが劣化の大きな原因になっていると考えられる。これに対して、マグネシウム・チタン合金薄膜の場合は、独特の表面構造を持っているために、膨張・収縮の影響が緩和され、それが高耐久性につながっていると考えられる。
【0027】
図1に、ガスクロミック方式で調光を行う調光ガラス窓の構造を示す。本発明の調光材料を実際のガスクロミック調光ガラスとして用いる場合には、窓ガラスを構成する2重ガラスの内側に、パラジウム等の触媒層を薄くコーティングしたマグネシウム・チタン合金薄膜がくるようにしてシールし、例えば、アルゴンガスで満たしておく。
【0028】
そして、この間隙の空間に、水を電気分解して水素を発生させて送り込んだり、空気もしくは水の電気分解で得られる酸素を送り込んだりするユニット(雰囲気制御器)を取り付ける。この雰囲気制御器から、2枚のガラスの間の空間に水素を送りこむことで、透明状態にし、また、酸素を送り込むことで、金属状態にすることができる。当該雰囲気制御器の具体的な構成については、任意に設計することができる。
【0029】
現在、住宅における複層ガラス(二重ガラス)の普及が進んできており、新築の家では、2重ガラスを使うことが主流になりつつある。本発明の調光ミラー材料のような調光ミラーガラス用コーティングは、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
【0030】
もう一つのスイッチング方法である、エレクトロクロミック方式で調光を行う場合のデバイスの構造の例を、図2に示す。図2−(a)は、透明導電膜を蒸着した基板に、マグネシウム・チタン合金薄膜とパラジウムを蒸着し、もう一枚の透明導電膜を蒸着したガラスとの間にアルカリ性の電解液を封入した構造を示している。マグネシウム・チタン合金薄膜側に、マイナス3V程度の電圧を加えると、電解液中のプロトンがマグネシウム・チタン合金薄膜内に入り、水素化して透明化する。また、プラス1V程度の電圧をかけると、水素化物中のプロトンが抜け、金属状態に戻り、鏡状態になる。
【0031】
マグネシウム・チタン合金薄膜を用いたエレクトロクロミック方式のデバイスでは、図2−(b)のように、透明導電膜のついていないガラス基板に、マグネシウム・チタン合金薄膜を蒸着したものを用いることもできる。マグネシウム・チタン合金薄膜は、金属状態では、当然、導電率が高く、電極になり得るのに加え、透明化した状態でも伝導特性があるため、透明導電膜が無くても、スイッチングを行うことができる。
【0032】
このことは、デバイスの構造がシンプルにできることにつながるので、大きなメリットである。スイッチングの応答性に関しては、透明導電膜をつけたものの方が応答が早いが、透明導電膜を用いないものは、その分、透明時における透過率が高くなるというメリットもある。
【0033】
このように、本発明は、透明時に完全に無色になり、しかも、高い耐久性を有する、反射調光特性に優れたマグネシウム・チタン合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光ガラスを提供することを可能とするものである。すなわち、本発明のマグネシウム・チタン合金薄膜に、薄くパラジウムを付けたものは、従来報告されている反射型調光薄膜材料と異なり、透明時に完全に無色にできることから、調光ガラス実用化のための大きなブレークスルーになると考えられる。
【0034】
更に、本発明の調光ミラーガラスは、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができる。それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具等に、調光ミラー機能を付加することができる。本発明において、調光ミラー機能を有する物品とは、上記調光ミラーガラスを装着したあらゆる種類の物品を包含するものとして定義される。
【0035】
従来、例えば、窓ガラスのコーティングに適している調光材料として、マグネシウム・ニッケル合金系の調光材料が開発されているが、これまで報告されている薄膜材料は、いずれも、透明時において無色透明ではなく、茶系統の色が着いており、このことが、窓ガラスへの応用の大きな障害になっていた。これに対し、本発明のマグネシウム・チタン合金系薄膜材料は、透明時に完全に無色にすることが可能であり、その透過スペクトルから計算される色度座標の値は、x=0.333、y=0.333の点から距離0.02以内にあり、従来材では得ることができない無色透明を達成することができる。本発明のマグネシウム・チタン合金系薄膜材料は、従来、実用化のひとつの大きな障害となっていた薄膜の透明時における着色の問題を完全に解消できると共に、高い耐久性を有することから、次世代の新しいマグネシウム・チタン合金系の反射型調光材料を提供するものとして高い技術的意義を有する。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような格別の作用効果が奏される。
(1)本発明の反射型調光材料は、透明時に完全に無色透明にすることが可能であり、また、高い耐久性を有しており、例えば、従来報告されているマグネシウム・ニッケル合金のMg2Ni等よりも、はるかに優れた反射型調光特性を示すものとして有用である。
(2)本発明の反射型調光ガラス用コーティングは、例えば、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
(3)本発明のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光材料は、安価なマグネシウムとチタン、それに、ごく微量のパラジウム等をコーティングすることで簡便な方法及び手段で作製することが可能であり、コスト的に非常に有利である。
(4)本発明の反射型調光ガラスは、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができ、それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具等に反射型調光機能を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて具休的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
マグネシウム・チタン合金薄膜をベースとした薄膜の作製は、多元成マグネトロンスパッタ装置を用いて行った。3つのスパッタ銃に、ターゲットとして、それぞれ、金属マグネシウム、金属チタン、それに金属パラジウムをセットした。基板としては、厚さ1mmのガラス板を用い、これを洗浄後、真空装置の中にセットして真空排気を行った。成膜にあたっては、まず、マグネシウムとチタンを同時スパッタして、マグネシウム・チタン薄膜を作製した。
【0039】
スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.8Paであり、直流スパッタ法により、マグネシウムに30W、チタンに70Wのパワーを加えて、スパッタを行った。その後、同じ真空条件で、6Wのパワーを加えて、パラジウム薄膜の蒸着を行った。作製した薄膜のマグネシウムとチタンの組成比は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg:Ti=35:7.35(MgTi0.21)になっていた。
【0040】
成膜後の膜は、金属光沢を持ち、鏡状態になっているが、この表面をアルゴンで4%に希釈した水素ガスにさらすと、薄膜の水素化により、鮮やかに透明化した。また、この透明化した膜を大気にさらすと、脱水素化により、元の金属状態(鏡状態)に戻った。
【0041】
図3に、分光光度計で測定した、この薄膜の金属状態と、透明状態の反射スペクトル及び透過スペクトルを示す。透明状態のスペクトルは、試料まわりをアルゴンで4%に希釈した水素ガスで満たして測定を行った。金属状態と透明状態で、反射率が大きく変化しており、反射型のクロミック特性を示すことがわかる。
【0042】
マグネシウム・チタン薄膜を用いた調光薄膜は、マグネシウム・ニッケル薄膜等の他の反射型調光薄膜材料と異なり、透明時において、完全に無色になっている。このことは、透明時の透過スペクトルにも現れており、波長380nmから780nmに至る可視光領域において、ほぼフラットなスペクトル分布を持っている。
【0043】
薄膜の色は、物理的には、色度座標で表示され、この値が、x=0.333、y=0.333に近い方が無色に近い。上記のスペクトルから、この透過光の色度座標を計算すると、x=0.326y=0.340となる。図4は、この計算した値を色度座標上で表示したものである。この値は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜の水素化時の透過スペクトルをもとに、色の表示方法に関するJISZ8701の2度視野スペクトルに基づいて計算を行ったものである。
【0044】
例えば、マグネシウム・ニッケル合金Mg2Niの場合について、同様の計算を行うと、x=0.430、y=0.385となり、x=0.333、y=0.333から大きく離れており、目で見ても、こげ茶色をしている。また、マグネシウムの多いマグネシウム・ニッケル合金Mg4Niの場合は、色が薄くなるが、やはり黄色っぽい色を帯びており、色度座標上でも、x=0.333、y=0.333の点から離れている。x=0.333、y=0.333の点からの距離が、0.02以内にあるものは、ほぼ無色ということができる。
【実施例2】
【0045】
このマグネシウム・チタン合金薄膜をベースとした反射型調光薄膜のスイッチング特性を、図5−(a)に示したような調光特性評価装置で、評価を行った。ガラス上に作製したPd/Mg−Ti薄膜が内側になるように、もう一枚のガラスとシリコンゴムのスペーサーを用いて張り合わせ、その間の空間にアルゴンで4%に希釈した水素ガスを流したり、止めたりすることによりスイッチングを行った。
【0046】
蒸着直後の鏡状の膜は、水素ガスを流すと、数秒で透明な状態に変わる。水素ガスを止めると、端面から空気が入ってきて、2−3分で鏡の状態に戻る。このときの波長670nmにおける透過率の変化を、半導体レーザーとシリコンフォトダイオードを用いて測定した。図5−(b)に、測定装置の写真を示す。
【0047】
図6は、マグネシウムとチタンの組成を変えて作製した試料のスイッチングの特性を測定した結果である。マグネシウム・チタン合金薄膜の作製時において、マグネシウムのスパッタとチタンのスパッタにかけるパワーを調節して、MgTi0.14、MgTi0.18、MgTi0.21、MgTi0.32という組成になるように試料を作製した。また、参照のために、チタンを含まない、マグネシウムだけの膜も作製した。
【0048】
いずれも、最外層には4nmのパラジウムを蒸着した。時間が10秒のときに、アルゴンで4%に希釈した水素ガスを導入すると、いずれの試料についても、水素化が起こり、金属の状態から透明な状態に変化して、透過率が増大した。この水素化におけるスイッチング速度は、組成に対して依存性を持たなかった。
【0049】
また、いずれの試料でも、時間が40秒で水素の導入を止めると、空気により脱水素化が起こり、金属状態に戻った。ただ、この脱水素化におけるスイッチング速度は、組成によってかなり異なり、チタンの量が多くなるほど早くなるという傾向が見られた。ただ、水素化時における透過率は、チタンの量が多くなる程小さくなる傾向が見られた。
【0050】
チタンを含まない、マグネシウム薄膜の場合は、脱水素化は非常に遅く、2時間程かかって金属状態に戻った。このように、マグネシウム・チタン系では、チタンの成分が多くなるほど、脱水素化が早くなるが、水素化時における透過率は、小さくなるという傾向が見られた。
【実施例3】
【0051】
Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)で構成された反射型調光薄膜のスイッチングを繰り返した場合の調光特性を、図7に示す。この試料の場合、160回程度まで、あまり劣化なしにスイッチングの繰り返しが行えているが、これは、マグネシウム・ニッケル合金を初めとする他の反射調光薄膜材料と比べて、耐久性が高いことを示している。
【0052】
図8に、様々な組成のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のX線回折パターンを示す。この図の付近のピークは、マグネシウムに起因するもので、この試料が結晶化していることを示す。同じマグネシウム合金薄膜でも、マグネシウム・ニッケル薄膜の場合は、結晶化せず、アモルファス状態になっていることから、結晶化した膜が得られるのは、マグネシウム・チタン合金薄膜の特徴である。
【0053】
また、図9に、Pd/Mg−Ti薄膜を用いた反射型調光薄膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察した像を示す。マグネシウム・チタン系の表面が独特のテクスチャ構造を持っていることがわかる。マグネシウム・ニッケル薄膜の場合は、マグネシウム・ニッケル合金薄膜等では、電子顕微鏡で観察しても、その表面は、非常にフラットで、全く構造がみられない。従って、このような表面構造が見られることも、マグネシウム・チタン合金薄膜の大きな特徴であり、結晶化していることとも関連性があると思われる。
【実施例4】
【0054】
次に、マグネシウム・チタン薄膜を用いた反射型調光ガラスを電気的にスイッチングする(エレクトロクロミック方式)例を示す。マグネシウム・チタン合金薄膜をベースにした調光薄膜で、図2−(a)のように、透明導電膜として、ITOをコーティングしたガラスを基板にしたものと、図2−(b)のように、ガラスを基板にしたデバイスを作製した。
【0055】
いずれも、マグネシウム・チタン合金薄膜は、MgTi0.2で厚さは約40nm、その上のパラジウム層の厚さは約6nmである。いずれも、マグネシウム・チタン薄膜側に−2.5Vの電圧を加えると、金属状態から透明状態に変化した。また、逆に1.0Vの電圧を加えると、金属状態に戻った。このときの透過率の変化を、図10に示す。また、それぞれの鏡状態と透明状態の写真を、図11と図12に示す。
【0056】
図10のスイッチング特性からもわかるように、ITO基板を用いた場合の方が、鏡から透明への変化が早い。しかし、鏡状態と透明状態の透過率の変化幅は、ガラス基板上につけた試料の方が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上詳述したように、本発明は、反射型調光特性に優れたマグネシウム・チタン合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光ガラスに係るものであり、本発明により、透明時に完全に無色透明にすることが可能で、高い耐久性を有している、従来報告されているマグネシウム・ニッケル合金のMg2Ni等よりも、はるかに優れた反射型調光特性を示す、反射型調光材料を提供することができる。本発明のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光材料は、安価なマグネシウムとチタン、それに、ごく微量のパラジウム等をコーティングすることで簡便な方法及び手段で作製することが可能であり、資源及びコスト的に非常に有利である。本発明は、窓材料や、あらゆる種類の物品に広く用いることが可能であり、それらに、反射型調光機能を付加することができる新規なマグネシウム・チタン合金系の反射型調光ガラスに関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、ガスクロミック反射型調光窓ガラスの構造を示す。
【図2】図2は、エレクトロクロミック反射型調光ガラスの構造((a)透明導電膜付の基板を用いる場合、(b)ガラス基板を用いる場合)を示す。
【図3】図3は、Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)の鏡状態と透明状態の反射スペクトルと透過スペクトルを示す。
【図4】図4は、Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)の透明状態の色度座標を示す。
【図5】図5は、調光特性評価装置の概略図を示す。
【図6】図6は、Mg2Niの波長670nmにおける光学透過率の変化を示す(T=5sで1気圧の水素を導入、T=100sで1気圧の大気を導入)。
【図7】図7は、Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)の鏡のスイッチングの繰り返しに対する特性を示す。
【図8】図8は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のX線回折パターンを示す。
【図9】図9は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜の表面構造を示す。
【図10】図10は、2種類の反射型調光デバイスのエレクトロクロミック特性を示す。
【図11】図11は、ITO上に作製した反射型調光エレクトロクロミックデバイスの調光の様子を示す。
【図12】図12は、ガラス上に作製した反射型調光エレクトロクロミックデバイスの調光の様子を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料及び反射型調光ガラスに関するものであり、更に詳しくは、窓ガラスから入射する太陽光をブラインドやカーテンなしで自動的にコントロールする調光ガラスに用いる新規なマグネシウム・チタン合金系反射型調光材料、当該材料を用いて作製した反射型調光ガラスに関するものである。本発明は、建物や乗り物の窓部における太陽光の透過率を制御するための新しい反射型調光薄膜材料に関する窓材料技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物において、窓(開口部)は大きな熱の出入り場所になっている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流失する割合は、48%程度であり、夏の冷房時に窓から熱が入る割合は、71%程度にも達する。したがって、窓における光・熱をうまくコントロールすることにより、膨大な省エネルギー効果を得ることができる。調光ガラスは、このような目的で開発されたものであり、光・熱の流入・流出をコントロールする機能を有している。
【0003】
このような調光ガラスの調光を行う方式には、いくつかの種類がある。それらのうち、1)電流・電圧の印加により可逆的に透過率の変化する材料を、エレクトロクロミック材料といい、2)温度により透過率が変化する材料を、サーモクロミック材料といい、また、3)雰囲気ガスの制御により透過率が変化する材料を、ガスクロミック材料という。これらの中でも、調光層に酸化タングステン薄膜を用いたエレクトロクロミック調光ガラスの研究が最も進んでおり、現在、ほぼ実用化段階に達しており、市販品も出されている。
【0004】
この酸化タングステンを初めとして、これまで知られているエレクトロクロミック調光ガラスは、全て、調光層で光を吸収することにより調光を行うことをその原理としている。この場合、この種の調光ガラスは、調光層が光を吸収することにより熱を持ち、それがまた室内に再放射されるため、省エネルギー効果が低くなってしまうという欠点を持っている。これをなくすためには、光を吸収することにより調光を行うのではなく、光を反射することにより調光を行う必要がある。そのために、鏡の状態と透明な状態が可逆的に変化するような特性を有する調光材料の開発が望まれていた。
【0005】
このような、鏡の状態と透明な状態に変化する材料は、長らく見つかっていなかったが、1996年に、オランダのグループにより、イットリウムやランタンなどの希土類の水素化物が、水素により鏡の状態と透明な状態に変化することが発見され、このような材料が「調光ミラー」と命名された(非特許文献1)。これらの希土類水素化物は、透過率の変化が大きく、調光ミラー特性に優れている。しかし、この調光ミラーは、材料として希土類元素を用いるため、窓のコーティングなどに用いる場合、資源やコストの面で問題があった。
【0006】
反射型の調光特性(調光ミラー特性)を有する材料としては、これまで、イットリウムやランタン等の希土類金属の水素化物、ガドリニウム等の希土類金属とマグネシウムの合金の水素化物、及びマグネシウム・ニッケル合金の水素化物等が知られている。この中で、資源やコストの観点から、窓ガラスのコーティングに適しているのは、マグネシウム・ニッケル合金を用いたものである(特許文献1〜4)。しかし、これまで報告されている材料による調光層は、程度の差こそあれ、透明時において無色透明ではなく、色が着いており、これが窓ガラスへの応用を考える場合の大きな障害になっていた。
【0007】
【特許文献1】特開2003−335553号公報
【特許文献2】特開2004−139134号公報
【特許文献3】特開2005−056706号公報
【特許文献4】特開2005−274630号公報
【非特許文献1】J. N. Huiberts, R. Griessen, J. H. Rector, R. J. Wijngaarden, J. P. Dekker, D. G. de Groot, N. J. Koeman, Nature 380 (1996) 231
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、透明時において無色透明にすることが可能な新しい調光材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、マグネシウムとチタンの合金薄膜の成膜を行い、その調光ミラー特性の評価を行った結果、水素化時において、完全に無色透明な状態になる調光薄膜を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、コスト的に安価なマグネシウム・チタン薄膜及びごく微量のパラジウム膜等の触媒層を使用した新しいマグネシウム・チタン合金系の反射型調光材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は、当該調光ミラー材料を用いた反射型調光ガラス窓の構造を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、コーティング層が2層でシンプルであることから、大きなコスト低減が見込まれる、新しい反射型調光薄膜材料及びその用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、1)調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いている、2)上記薄膜の表面に触媒層が形成されている、3)任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されている、4)室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有する、5)室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有する、ことを特徴とする反射型調光薄膜材料。
(2)マグネシウム・チタン合金薄膜の組成が、MgTix(0.1<x<0.4)であり、結晶化したマグネシウムを有していることを特徴とする上記(1)に記載の材料。
(3)マグネシウム・チタン合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmである上記(1)に記載の材料。
(4)水素化時において、調光層が無色になり、その透過スペクトルから計算した色度座標が、x=0.333、y=0.333の点から距離0.02以内にある上記(1)に記載の材料。
(5)上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくはパラジウム合金がコートされている上記(1)に記載の材料。
(6)上記保護層が、水素透過性であり、かつ水非透過性の材料から成る上記(1)に記載の材料。
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料から成る調光部を、透明部材表面に形成したことを特徴とする反射型調光部材。
(8)上記調光部を、ガラス表面に形成した上記(7)に記載の反射型調光部材。
(9)複層ガラスからなる反射型調光ガラス窓であって、上記(8)に記載の反射型調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするガスクロミック反射型調光ガラス窓。
(10)上記複層ガラスの間隙に、水素ガス及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する上記(9)に記載のガスクロミック反射型調光ガラス窓。
(11)上記(1)から(6)のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料と透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を持つことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光材料。
(12)上記(11)に記載のエレクトロクロミック反射調光材料をガラス窓に適用したことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光ガラス窓。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、反射型調光薄膜材料であって、調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いていること、上記薄膜の表面に触媒層が形成されていること、任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されていること、室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有すること、室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有すること、を特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は反射型調光部材であって、上記のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射方調光薄膜材料から成る調光部を、透明部材表面に形成したことを特徴とするものである。また、本発明は、上記の反射型調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするものである。また、本発明は、エレクトロクロミック反射調光材料であって、上記のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料と透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を持つことを特徴とするものである。更に、本発明は、エレクトロクロミック反射調光ガラス窓であって、上記のエレクトロクロミック反射調光材料をガラス窓に適用したことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の反射型調光薄膜は、マグネシウム・チタン合金薄膜の組成が、MgTix(0.1<x<0.4)であり、結晶化したマグネシウムを有していること、薄膜の厚さが10nm−200nm程度の非常に薄いマグネシウム・チタン合金薄膜から成ること、を好ましい実施の態様としている。この調光特性に優れたマグネシウム・チタン合金薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により作製することができる。しかし、成膜の方法は、これらの方法に制限されるものではない。
【0014】
本発明では、上記マグネシウム・チタン合金薄膜の表面に触媒層が形成される。上記触媒層として、好適には、パラジウムあるいはパラジウム合金が用いられる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。上記触媒層は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により作製することができる。しかし、これらの方法に制限されるものではない。
【0015】
上記調光ミラー材料からなる調光層を基板の透明部材ないしガラス表面に形成することにより、調光ミラー部材ないし調光ミラーガラスが得られる。この場合、基板としては、好適には、例えば、アクリル、プラスチック、透明シート、ガラスが例示される。しかし、これらに限らず、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0016】
本発明では、任意の構成として、上記触媒層の表面に保護層が形成される。この保護層の材料としては、水素に対して透過性で、水に対して非透過性の特性を有する材料が用いられる。上記保護層の材料の具体例としては、好適には、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、酢酸セルロース等のポリマーや、酸化チタン薄膜、酸化ニオブ薄膜等の無機薄膜が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。この保護層により、上記調光層の耐久性を向上させることができる。
【0017】
上記調光層の水素化を行う方法は、2種類あり、そのうち、水素を含んだガスにさらすことにより水素化する方法は、ガスクロミック方式と呼ばれ、また、電解質中に含まれるプロトンを電気的に注入して水素化する方法は、エレクトロクロミック方式と呼ばれる。このマグネシウム・チタン合金薄膜においても、この2種類の方式で、スイッチングを行うことができる。
【0018】
例えば、ガスによるスイッチングを行う場合、蒸着したマグネシウム・チタン合金薄膜は、金属であり、蒸着した状態で、銀色の鏡状態になっていが、この薄膜に水素を含む雰囲気を当てると、水素化物に変化し、透明化する。この水素化した薄膜に、酸素もしくは空気に当てると、脱水素化が起こって金属状態に戻る。上記スイッチングを利用することにより、この変化を繰り返し行うことができる。
【0019】
マグネシウム・チタン合金薄膜の上に薄くパラジウムを蒸着した試料を、水素を含む雰囲気にさらすと、水素化が起こって透明な状態になるが、この透明時に、マグネシウム・チタン薄膜は、完全に無色になる。マグネシウム・ニッケル合金薄膜を初めとするこれまでの反射型調光薄膜では、透明時に黄色系統の色が着いており、このことが、窓ガラス等への応用を考えた場合のひとつの障害になっていた。
【0020】
物理的には、薄膜の色は、色度座標を計測することで評価することができる。その色度座標が、色についてニュートラル(無色)である、x=0.333、y=0.333の点から離れている程、色の着いている度合いが大きいことを表す。マグネシウム・ニッケル合金薄膜では、比較的色の薄いMg6Niという組成の膜でも、その色度座標は、x=0.333、y=0.333の点から0.5程度離れている。
【0021】
これに対して、マグネシウム・チタン合金薄膜では、透明の色度座標は、x=0.333、y=0.333の点から、少ししかはなれておらず、ほとんど色が着いていないことがわかる。このように、薄膜の色を透明時に完全に無色にできることが、マグネシウム・チタン系合金薄膜の最大の特徴である。
【0022】
本発明の反射型調光ガラスの調光特性は、後記する実施例に示されるように、マグネシウム・チタン合金薄膜におけるマグネシウムとチタンの組成に依存する。MgTixのxの値、すなわち、マグネシウムに対するチタンの組成比が、0.1から0.4の範囲で、優れた調光特性を示す。一般的な傾向として、チタンの成分が多くなるほど脱水素化が早くなるが、透明時の透過率は低くなるので、用途に応じて組成を適宜選択することが望ましい。
【0023】
一般的に、反射型調光薄膜材料は、スイッチングを繰り返すと劣化が起こり、だんだんとスイッチングしなくなる。例えば、現在開発されているマグネシウム・ニッケル合金薄膜の場合、150回程度スイッチングを繰り返すと、ほとんど変化しなくなる。マグネシウム・チタン合金薄膜のスイッチング特性を調べた結果、マグネシウム・ニッケル合金薄膜の場合よりも、高い耐久性を示すことがわかった。その原因は、薄膜の結晶構造、及び表面構造の違いによるものと考えられる。
【0024】
マグネシウム・チタン薄膜の構造を解析した結果、結晶化したマグネシウムから成っており、その中にチタンが分散しているような系になっていることがわかった。マグネシウム・ニッケル合金薄膜等の、他の反射型調光薄膜材料は、結晶化したマグネシウムを有しておらず、アモルファス状態になっており、結晶化したマグネシウムを有していることは、マグネシウム・チタン薄膜の大きな特徴である。
【0025】
また、試料表面を観察すると、独特のテクスチャ構造を持っていることがわかった。マグネシウム・ニッケル合金薄膜等では、電子顕微鏡で観察しても、その表面は非常にフラットで、全くそのような構造が見られない。したがって、このような構造が見られることも、マグネシウム・チタン合金薄膜の大きな特徴であり、マグネシウムが結晶化していることとも関連性があると思われる。
【0026】
マグネシウム・ニッケル合金薄膜等の場合は、表面がフラットであるために、水素化による膨張・収縮の影響を受けやすく、それが劣化の大きな原因になっていると考えられる。これに対して、マグネシウム・チタン合金薄膜の場合は、独特の表面構造を持っているために、膨張・収縮の影響が緩和され、それが高耐久性につながっていると考えられる。
【0027】
図1に、ガスクロミック方式で調光を行う調光ガラス窓の構造を示す。本発明の調光材料を実際のガスクロミック調光ガラスとして用いる場合には、窓ガラスを構成する2重ガラスの内側に、パラジウム等の触媒層を薄くコーティングしたマグネシウム・チタン合金薄膜がくるようにしてシールし、例えば、アルゴンガスで満たしておく。
【0028】
そして、この間隙の空間に、水を電気分解して水素を発生させて送り込んだり、空気もしくは水の電気分解で得られる酸素を送り込んだりするユニット(雰囲気制御器)を取り付ける。この雰囲気制御器から、2枚のガラスの間の空間に水素を送りこむことで、透明状態にし、また、酸素を送り込むことで、金属状態にすることができる。当該雰囲気制御器の具体的な構成については、任意に設計することができる。
【0029】
現在、住宅における複層ガラス(二重ガラス)の普及が進んできており、新築の家では、2重ガラスを使うことが主流になりつつある。本発明の調光ミラー材料のような調光ミラーガラス用コーティングは、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
【0030】
もう一つのスイッチング方法である、エレクトロクロミック方式で調光を行う場合のデバイスの構造の例を、図2に示す。図2−(a)は、透明導電膜を蒸着した基板に、マグネシウム・チタン合金薄膜とパラジウムを蒸着し、もう一枚の透明導電膜を蒸着したガラスとの間にアルカリ性の電解液を封入した構造を示している。マグネシウム・チタン合金薄膜側に、マイナス3V程度の電圧を加えると、電解液中のプロトンがマグネシウム・チタン合金薄膜内に入り、水素化して透明化する。また、プラス1V程度の電圧をかけると、水素化物中のプロトンが抜け、金属状態に戻り、鏡状態になる。
【0031】
マグネシウム・チタン合金薄膜を用いたエレクトロクロミック方式のデバイスでは、図2−(b)のように、透明導電膜のついていないガラス基板に、マグネシウム・チタン合金薄膜を蒸着したものを用いることもできる。マグネシウム・チタン合金薄膜は、金属状態では、当然、導電率が高く、電極になり得るのに加え、透明化した状態でも伝導特性があるため、透明導電膜が無くても、スイッチングを行うことができる。
【0032】
このことは、デバイスの構造がシンプルにできることにつながるので、大きなメリットである。スイッチングの応答性に関しては、透明導電膜をつけたものの方が応答が早いが、透明導電膜を用いないものは、その分、透明時における透過率が高くなるというメリットもある。
【0033】
このように、本発明は、透明時に完全に無色になり、しかも、高い耐久性を有する、反射調光特性に優れたマグネシウム・チタン合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光ガラスを提供することを可能とするものである。すなわち、本発明のマグネシウム・チタン合金薄膜に、薄くパラジウムを付けたものは、従来報告されている反射型調光薄膜材料と異なり、透明時に完全に無色にできることから、調光ガラス実用化のための大きなブレークスルーになると考えられる。
【0034】
更に、本発明の調光ミラーガラスは、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができる。それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具等に、調光ミラー機能を付加することができる。本発明において、調光ミラー機能を有する物品とは、上記調光ミラーガラスを装着したあらゆる種類の物品を包含するものとして定義される。
【0035】
従来、例えば、窓ガラスのコーティングに適している調光材料として、マグネシウム・ニッケル合金系の調光材料が開発されているが、これまで報告されている薄膜材料は、いずれも、透明時において無色透明ではなく、茶系統の色が着いており、このことが、窓ガラスへの応用の大きな障害になっていた。これに対し、本発明のマグネシウム・チタン合金系薄膜材料は、透明時に完全に無色にすることが可能であり、その透過スペクトルから計算される色度座標の値は、x=0.333、y=0.333の点から距離0.02以内にあり、従来材では得ることができない無色透明を達成することができる。本発明のマグネシウム・チタン合金系薄膜材料は、従来、実用化のひとつの大きな障害となっていた薄膜の透明時における着色の問題を完全に解消できると共に、高い耐久性を有することから、次世代の新しいマグネシウム・チタン合金系の反射型調光材料を提供するものとして高い技術的意義を有する。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような格別の作用効果が奏される。
(1)本発明の反射型調光材料は、透明時に完全に無色透明にすることが可能であり、また、高い耐久性を有しており、例えば、従来報告されているマグネシウム・ニッケル合金のMg2Ni等よりも、はるかに優れた反射型調光特性を示すものとして有用である。
(2)本発明の反射型調光ガラス用コーティングは、例えば、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
(3)本発明のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光材料は、安価なマグネシウムとチタン、それに、ごく微量のパラジウム等をコーティングすることで簡便な方法及び手段で作製することが可能であり、コスト的に非常に有利である。
(4)本発明の反射型調光ガラスは、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができ、それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具等に反射型調光機能を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて具休的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
マグネシウム・チタン合金薄膜をベースとした薄膜の作製は、多元成マグネトロンスパッタ装置を用いて行った。3つのスパッタ銃に、ターゲットとして、それぞれ、金属マグネシウム、金属チタン、それに金属パラジウムをセットした。基板としては、厚さ1mmのガラス板を用い、これを洗浄後、真空装置の中にセットして真空排気を行った。成膜にあたっては、まず、マグネシウムとチタンを同時スパッタして、マグネシウム・チタン薄膜を作製した。
【0039】
スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.8Paであり、直流スパッタ法により、マグネシウムに30W、チタンに70Wのパワーを加えて、スパッタを行った。その後、同じ真空条件で、6Wのパワーを加えて、パラジウム薄膜の蒸着を行った。作製した薄膜のマグネシウムとチタンの組成比は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg:Ti=35:7.35(MgTi0.21)になっていた。
【0040】
成膜後の膜は、金属光沢を持ち、鏡状態になっているが、この表面をアルゴンで4%に希釈した水素ガスにさらすと、薄膜の水素化により、鮮やかに透明化した。また、この透明化した膜を大気にさらすと、脱水素化により、元の金属状態(鏡状態)に戻った。
【0041】
図3に、分光光度計で測定した、この薄膜の金属状態と、透明状態の反射スペクトル及び透過スペクトルを示す。透明状態のスペクトルは、試料まわりをアルゴンで4%に希釈した水素ガスで満たして測定を行った。金属状態と透明状態で、反射率が大きく変化しており、反射型のクロミック特性を示すことがわかる。
【0042】
マグネシウム・チタン薄膜を用いた調光薄膜は、マグネシウム・ニッケル薄膜等の他の反射型調光薄膜材料と異なり、透明時において、完全に無色になっている。このことは、透明時の透過スペクトルにも現れており、波長380nmから780nmに至る可視光領域において、ほぼフラットなスペクトル分布を持っている。
【0043】
薄膜の色は、物理的には、色度座標で表示され、この値が、x=0.333、y=0.333に近い方が無色に近い。上記のスペクトルから、この透過光の色度座標を計算すると、x=0.326y=0.340となる。図4は、この計算した値を色度座標上で表示したものである。この値は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜の水素化時の透過スペクトルをもとに、色の表示方法に関するJISZ8701の2度視野スペクトルに基づいて計算を行ったものである。
【0044】
例えば、マグネシウム・ニッケル合金Mg2Niの場合について、同様の計算を行うと、x=0.430、y=0.385となり、x=0.333、y=0.333から大きく離れており、目で見ても、こげ茶色をしている。また、マグネシウムの多いマグネシウム・ニッケル合金Mg4Niの場合は、色が薄くなるが、やはり黄色っぽい色を帯びており、色度座標上でも、x=0.333、y=0.333の点から離れている。x=0.333、y=0.333の点からの距離が、0.02以内にあるものは、ほぼ無色ということができる。
【実施例2】
【0045】
このマグネシウム・チタン合金薄膜をベースとした反射型調光薄膜のスイッチング特性を、図5−(a)に示したような調光特性評価装置で、評価を行った。ガラス上に作製したPd/Mg−Ti薄膜が内側になるように、もう一枚のガラスとシリコンゴムのスペーサーを用いて張り合わせ、その間の空間にアルゴンで4%に希釈した水素ガスを流したり、止めたりすることによりスイッチングを行った。
【0046】
蒸着直後の鏡状の膜は、水素ガスを流すと、数秒で透明な状態に変わる。水素ガスを止めると、端面から空気が入ってきて、2−3分で鏡の状態に戻る。このときの波長670nmにおける透過率の変化を、半導体レーザーとシリコンフォトダイオードを用いて測定した。図5−(b)に、測定装置の写真を示す。
【0047】
図6は、マグネシウムとチタンの組成を変えて作製した試料のスイッチングの特性を測定した結果である。マグネシウム・チタン合金薄膜の作製時において、マグネシウムのスパッタとチタンのスパッタにかけるパワーを調節して、MgTi0.14、MgTi0.18、MgTi0.21、MgTi0.32という組成になるように試料を作製した。また、参照のために、チタンを含まない、マグネシウムだけの膜も作製した。
【0048】
いずれも、最外層には4nmのパラジウムを蒸着した。時間が10秒のときに、アルゴンで4%に希釈した水素ガスを導入すると、いずれの試料についても、水素化が起こり、金属の状態から透明な状態に変化して、透過率が増大した。この水素化におけるスイッチング速度は、組成に対して依存性を持たなかった。
【0049】
また、いずれの試料でも、時間が40秒で水素の導入を止めると、空気により脱水素化が起こり、金属状態に戻った。ただ、この脱水素化におけるスイッチング速度は、組成によってかなり異なり、チタンの量が多くなるほど早くなるという傾向が見られた。ただ、水素化時における透過率は、チタンの量が多くなる程小さくなる傾向が見られた。
【0050】
チタンを含まない、マグネシウム薄膜の場合は、脱水素化は非常に遅く、2時間程かかって金属状態に戻った。このように、マグネシウム・チタン系では、チタンの成分が多くなるほど、脱水素化が早くなるが、水素化時における透過率は、小さくなるという傾向が見られた。
【実施例3】
【0051】
Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)で構成された反射型調光薄膜のスイッチングを繰り返した場合の調光特性を、図7に示す。この試料の場合、160回程度まで、あまり劣化なしにスイッチングの繰り返しが行えているが、これは、マグネシウム・ニッケル合金を初めとする他の反射調光薄膜材料と比べて、耐久性が高いことを示している。
【0052】
図8に、様々な組成のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のX線回折パターンを示す。この図の付近のピークは、マグネシウムに起因するもので、この試料が結晶化していることを示す。同じマグネシウム合金薄膜でも、マグネシウム・ニッケル薄膜の場合は、結晶化せず、アモルファス状態になっていることから、結晶化した膜が得られるのは、マグネシウム・チタン合金薄膜の特徴である。
【0053】
また、図9に、Pd/Mg−Ti薄膜を用いた反射型調光薄膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察した像を示す。マグネシウム・チタン系の表面が独特のテクスチャ構造を持っていることがわかる。マグネシウム・ニッケル薄膜の場合は、マグネシウム・ニッケル合金薄膜等では、電子顕微鏡で観察しても、その表面は、非常にフラットで、全く構造がみられない。従って、このような表面構造が見られることも、マグネシウム・チタン合金薄膜の大きな特徴であり、結晶化していることとも関連性があると思われる。
【実施例4】
【0054】
次に、マグネシウム・チタン薄膜を用いた反射型調光ガラスを電気的にスイッチングする(エレクトロクロミック方式)例を示す。マグネシウム・チタン合金薄膜をベースにした調光薄膜で、図2−(a)のように、透明導電膜として、ITOをコーティングしたガラスを基板にしたものと、図2−(b)のように、ガラスを基板にしたデバイスを作製した。
【0055】
いずれも、マグネシウム・チタン合金薄膜は、MgTi0.2で厚さは約40nm、その上のパラジウム層の厚さは約6nmである。いずれも、マグネシウム・チタン薄膜側に−2.5Vの電圧を加えると、金属状態から透明状態に変化した。また、逆に1.0Vの電圧を加えると、金属状態に戻った。このときの透過率の変化を、図10に示す。また、それぞれの鏡状態と透明状態の写真を、図11と図12に示す。
【0056】
図10のスイッチング特性からもわかるように、ITO基板を用いた場合の方が、鏡から透明への変化が早い。しかし、鏡状態と透明状態の透過率の変化幅は、ガラス基板上につけた試料の方が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上詳述したように、本発明は、反射型調光特性に優れたマグネシウム・チタン合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光ガラスに係るものであり、本発明により、透明時に完全に無色透明にすることが可能で、高い耐久性を有している、従来報告されているマグネシウム・ニッケル合金のMg2Ni等よりも、はるかに優れた反射型調光特性を示す、反射型調光材料を提供することができる。本発明のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光材料は、安価なマグネシウムとチタン、それに、ごく微量のパラジウム等をコーティングすることで簡便な方法及び手段で作製することが可能であり、資源及びコスト的に非常に有利である。本発明は、窓材料や、あらゆる種類の物品に広く用いることが可能であり、それらに、反射型調光機能を付加することができる新規なマグネシウム・チタン合金系の反射型調光ガラスに関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、ガスクロミック反射型調光窓ガラスの構造を示す。
【図2】図2は、エレクトロクロミック反射型調光ガラスの構造((a)透明導電膜付の基板を用いる場合、(b)ガラス基板を用いる場合)を示す。
【図3】図3は、Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)の鏡状態と透明状態の反射スペクトルと透過スペクトルを示す。
【図4】図4は、Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)の透明状態の色度座標を示す。
【図5】図5は、調光特性評価装置の概略図を示す。
【図6】図6は、Mg2Niの波長670nmにおける光学透過率の変化を示す(T=5sで1気圧の水素を導入、T=100sで1気圧の大気を導入)。
【図7】図7は、Pd(4nm)/MgTi0.21(40nm)の鏡のスイッチングの繰り返しに対する特性を示す。
【図8】図8は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のX線回折パターンを示す。
【図9】図9は、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜の表面構造を示す。
【図10】図10は、2種類の反射型調光デバイスのエレクトロクロミック特性を示す。
【図11】図11は、ITO上に作製した反射型調光エレクトロクロミックデバイスの調光の様子を示す。
【図12】図12は、ガラス上に作製した反射型調光エレクトロクロミックデバイスの調光の様子を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、(1)調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いている、(2)上記薄膜の表面に触媒層が形成されている、(3)任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されている、(4)室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有する、(5)室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有する、ことを特徴とする反射型調光薄膜材料。
【請求項2】
マグネシウム・チタン合金薄膜の組成が、MgTix(0.1<x<0.4)であり、結晶化したマグネシウムを有していることを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
マグネシウム・チタン合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmである請求項1に記載の材料。
【請求項4】
水素化時において、調光層が無色になり、その透過スペクトルから計算した色度座標が、x=0.333、y=0.333の点から距離0.02以内にある請求項1に記載の材料。
【請求項5】
上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくはパラジウム合金がコートされている請求項1に記載の材料。
【請求項6】
上記保護層が、水素透過性であり、かつ水非透過性の材料から成る請求項1に記載の材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料から成る調光部を、透明部材表面に形成したことを特徴とする反射型調光部材。
【請求項8】
上記調光部を、ガラス表面に形成した請求項7に記載の反射型調光部材。
【請求項9】
複層ガラスからなる反射型調光ガラス窓であって、請求項8に記載の反射型調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするガスクロミック反射型調光ガラス窓。
【請求項10】
上記複層ガラスの間隙に、水素ガス及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する請求項9に記載のガスクロミック反射型調光ガラス窓。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料と透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を持つことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光材料。
【請求項12】
請求項11に記載のエレクトロクロミック反射調光材料をガラス窓に適用したことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光ガラス窓。
【請求項1】
マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、(1)調光層としてマグネシウム・チタン合金薄膜を用いている、(2)上記薄膜の表面に触媒層が形成されている、(3)任意の構成として、上記触媒層の上に保護層が形成されている、(4)室温(20℃付近)で水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有する、(5)室温(20℃付近)で脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有する、ことを特徴とする反射型調光薄膜材料。
【請求項2】
マグネシウム・チタン合金薄膜の組成が、MgTix(0.1<x<0.4)であり、結晶化したマグネシウムを有していることを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
マグネシウム・チタン合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmである請求項1に記載の材料。
【請求項4】
水素化時において、調光層が無色になり、その透過スペクトルから計算した色度座標が、x=0.333、y=0.333の点から距離0.02以内にある請求項1に記載の材料。
【請求項5】
上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくはパラジウム合金がコートされている請求項1に記載の材料。
【請求項6】
上記保護層が、水素透過性であり、かつ水非透過性の材料から成る請求項1に記載の材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料から成る調光部を、透明部材表面に形成したことを特徴とする反射型調光部材。
【請求項8】
上記調光部を、ガラス表面に形成した請求項7に記載の反射型調光部材。
【請求項9】
複層ガラスからなる反射型調光ガラス窓であって、請求項8に記載の反射型調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするガスクロミック反射型調光ガラス窓。
【請求項10】
上記複層ガラスの間隙に、水素ガス及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する請求項9に記載のガスクロミック反射型調光ガラス窓。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかに記載のマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料と透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を持つことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光材料。
【請求項12】
請求項11に記載のエレクトロクロミック反射調光材料をガラス窓に適用したことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光ガラス窓。
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図1】
【図2】
【図5】
【図9】
【図11】
【図12】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図1】
【図2】
【図5】
【図9】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−20586(P2008−20586A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191189(P2006−191189)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]