説明

無鉛ガソリン組成物およびその製造方法

【課題】 硫黄分を低減し、十分な運転性能を確保するとともに、ジエン価を低減した無鉛ガソリン組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明による無鉛ガソリン組成物は、全硫黄分が10質量ppm以下、オレフィン分が5〜30容量%、ジエン価が0.3g/100g以下、炭素−炭素二重結合をもつCH炭素(=CH炭素)数が全炭素数に占める割合が1%未満であって、かつリサーチ法オクタン価が89以上のものである。分解ガソリン留分を水素の存在下で周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒と接触させてジエン価を減少させるとともに、全炭素数に占める=CH炭素数の割合を全炭素数に占める不飽和炭素数の割合の減少よりも大きく減少させることによって、高いRONを維持しつつ、分解ガソリン留分のジエン含有量を低減できる分解ガソリン基材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無鉛ガソリン組成物とその製造方法にかかり、特に、無鉛ガソリン組成物に含まれるオレフィン化合物の化学構造や組成を制御することによって、十分な運転性能を確保しつつ、硫黄分及びジエン価を低減した無鉛ガソリン組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接触分解や熱分解等、重質な石油留分を分解することによって製造される分解ガソリン留分は、他のガソリン基材に比べ経済的に製造でき、リサーチ法オクタン価(RON)が比較的高いオレフィン分に富むという利点があるため、無鉛ガソリン組成物の基材として用いられている。しかし、分解ガソリン留分は、硫黄分を多く含むため、分解ガソリン留分を多く配合したガソリン組成物を燃料として用いると、NOx吸蔵型等のガソリン自動車排気ガス浄化触媒を有効に作用させることができないという問題があった。また、分解ガソリン留分は、ジエン類を多く含むため、重合や酸化反応を受けやすく、ガソリン組成物の安定性を悪化させる原因となっていた。
【0003】
分解ガソリン留分に含まれる硫黄分やジエン類を低減することは、分解ガソリン留分を高圧水素と触媒の共存下で水素化処理するという公知技術で容易に可能である。しかし、その場合は、分解ガソリン留分中に多く含まれ、比較的高いRONをもつオレフィン分が水素化されて基材のRONが低下してしまうため、そのようにして得た水素化処理油を基材として配合した無鉛ガソリン組成物では、十分な運転性能が得られないという問題があった。
【0004】
例えば、(1) 硫黄分200質量ppm以下の接触分解ガソリンをスウィートニングした後、硫黄分が20質量ppm以下である軽質留分と残部の硫黄分を含有する重質留分に蒸留分離する工程、(2) 前記重質留分をリサーチオクタン価の低下が3以下、かつ硫黄分が20質量ppm以下となるように水素化脱硫する工程、(3) (1)の工程で得られた軽質留分、(2)の工程で得られた重質留分、および接触分解ガソリン以外のガソリン基材であって硫黄分が10質量ppm以下のガソリン基材を混合して、硫黄分が8質量ppm以下の製品ガソリンを製造する工程、からなる低硫黄分ガソリンの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、ジエン類の低減およびオレフィンの構造を変化させて十分なRONを維持して実用性能を確保することはできない。
【0005】
一方、ジエン類の低減方法として、出発ガソリン中に存在するジオレフィンを選択的に水素化する少なくとも1段の工程(工程a)、前記ガソリン中に存在する軽質硫黄含有化合物を変換させるための少なくとも1段の工程(工程b)、工程aまたはbで得られたガソリンを少なくとも2つの留分、すなわち軽質留分および重質留分に分留する少なくとも1段の工程(工程c)、工程cにおける分留から得られた重質留分の少なくとも一部を脱硫処理する1段の工程(工程d)の各工程を少なくとも含む低硫黄含量のガソリンを製造するための方法及びこれに類する低硫黄ガソリンの製造方法が提案されている(特許文献2〜6参照)。これらの方法では、ガソリンの低硫黄化とジエン類の低減は可能であるが、オレフィンの構造を変化させて、十分なRONを維持して実用性能を確保することはできない。
【特許文献1】特開2003−183676号公報
【特許文献2】特表2004−523628号公報
【特許文献3】特表2004−523629号公報
【特許文献4】特開2000−161069号公報
【特許文献5】特開2001−55584号公報
【特許文献6】特開2001−279263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、硫黄分とジエン類を低減し、かつ十分なRONを維持して実用性能を確保した無鉛ガソリン組成物およびその製造方法は未だ確立されていない。本発明は、このような状況下で、十分な運転性能を確保しつつ、硫黄分及びジエン価を低減した無鉛ガソリン組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、分解ガソリン留分を水素の存在下で周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒と接触させることによって、ジエン含有量を低減するだけでなく、比較的RONが低い炭素鎖末端に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物(末端オレフィン化合物)を比較的RONが高い炭素鎖内部に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物(内部オレフィン化合物)に転化させることが可能で、著しくRONを低下させることなくジエン含有量を効率よく低減できることを見出すとともに、そのようにして得られた基材を用いることにより、十分な運転特性を確保した無鉛ガソリン組成物が得られることを見出し、本発明の無鉛ガソリン組成物およびその製造方法に想到した。
【0008】
すなわち、本発明による無鉛ガソリン組成物は、全硫黄分が10質量ppm以下、オレフィン分が5〜30容量%、ジエン価が0.3g/100g以下、炭素−炭素二重結合をもつCH炭素(=CH炭素)数が全炭素数に占める割合が1%未満であって、かつリサーチ法オクタン価が89以上のものである。なお、本発明でいう炭素−炭素二重結合を有するCH炭素とは、2原子の水素と結合し、かつ炭素−炭素二重結合を有する炭素を指し、以下、「=CH炭素」と略記する場合がある。
【0009】
本発明による無鉛ガソリン組成物は、好ましくは、RONが92以上のものである。
【0010】
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、分解ガソリン留分の全量または一部を、水素の存在下で、周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒と接触させてジエン価を減少させるとともに、全炭素数に占める=CH炭素の割合を全炭素数に占める不飽和炭素数の割合の減少よりも大きく減少させる工程(工程A)を含み、工程Aで得られた処理油が含まれた分解ガソリン留分に由来するガソリン基材(分解ガソリン基材)を30容量%以上配合することを特徴とし、製造される無鉛ガソリン組成物が、全硫黄分が10質量ppm以下、オレフィン分が5〜30容量%、ジエン価が0.3g/100g以下、全炭素数に占める=CH炭素の割合が1%未満であって、かつリサーチ法オクタン価が89以上のものである。
【0011】
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、好ましくは、分解ガソリン留分を分留する工程(工程B)を含み、工程Bで得られた重質分解ガソリン留分を水素の存在下でモリブデンまたはタングステンを含む触媒と接触させて重質接触分解ガソリン留分の全硫黄分を20質量ppm以下に低減する脱硫工程(工程C)を含む。また、好ましくは、分解ガソリン留分に含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする工程(工程D)を含む。さらに好ましくは、前記無鉛ガソリン組成物のリサーチ法オクタン価が92以上である。
【発明の効果】
【0012】
接触分解ガソリン留分や熱分解ガソリン留分等の各種の分解ガソリン留分には、ジエン類が不可避的に含まれる。無鉛ガソリン組成物にジエン類が多く含まれると、無鉛ガソリン組成物の安定性を悪化させる。本発明によれば、無鉛ガソリン組成物のジエン価を低レベルに制限すること、硫黄分を10質量ppm以下とすること、オレフィン分を5〜30容量%とするとともに、全炭素数に占める=CH炭素の割合が1%未満とすることによって、高いRONを維持することが可能になるので、安定性が高く、自動車排気ガスの浄化処理負荷が低く、かつ高い運転性能を確保できるという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔無鉛ガソリン組成物〕
本発明の無鉛ガソリン組成物は、全硫黄分が10質量ppm以下、オレフィン分が5〜30容量%、ジエン価が0.3g/100g以下、=CH炭素数が全炭素数に占める割合が1%未満であって、かつリサーチ法オクタン価が89以上である。
【0014】
本発明でいうジエン価とは、UOP326−82によって測定されるジエン価を指す。=CH炭素数が全炭素数に占める割合は、例えば、13C核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルにおいて、=CH炭素に由来するシグナルと無鉛ガソリン組成物の全炭素に由来するシグナルの面積比から算出することができる。13C−NMRスペクトルで炭素数の割合を定量する場合には、その定量性を確保するため、核オーバーハウザー効果(NOE)を除去したデカップリング法によって測定することが好ましい(通和夫,竹内敬人,吉川研一,“実用NMR-CW・FT NMRの使い方”,p.119,講談社サイエンティフィク(1984))。=CH炭素に由来するシグナルは、テトラメチルシラン(0ppm)を基準として、105.0〜116.6ppmの化学シフトを示す。
【0015】
無鉛ガソリン組成物のオレフィン分が5容量%未満であると、分解ガソリン基材の配合量が制限され、無鉛ガソリン組成物の製造コストが高くなるとともに、十分なRONを確保することが困難になる。オレフィン分が30容量%を超えると、無鉛ガソリン組成物の酸化安定性が悪化するので、酸化安定性確保のために多量の酸化防止剤の添加を必要とする。ジエン価が0.3g/100gを超えると、無鉛ガソリン組成物が酸化や重合反応を受けやすくなり安定性が悪化するので、その防止のための添加剤の添加量を増やす必要が生じる。ジエン価が0.3g/100g以下であって、=CH炭素数が全炭素数に占める割合が1%以上であると、十分なRONを確保することが困難になる。RONが89未満では、ガソリン自動車の十分な運転特性が確保できない。
【0016】
本発明の無鉛ガソリン組成物は、全硫黄分が10質量ppm以下、好ましくは、5質量ppm以下、特に好ましくは、3質量ppm以下である。全硫黄分を10質量ppm以下にすることにより、ガソリン自動車の排ガス処理触媒への負荷を低減できるとともに、環境への負荷も低減される。
【0017】
本発明の無鉛ガソリン組成物のRONは89以上、好ましくは、92以上、より好ましくは、93〜102である。このように高いRONを有すると、ガソリン自動車の加速性や燃費を向上させることができる。
【0018】
本発明による無鉛ガソリン組成物においては、大気中へのガソリン蒸気の放出量をより少なくするために、リード蒸気圧(RVP)を93kPa以下とすることが好ましく、またガソリン自動車の始動性を良好に保つために、44kPa以上とすることが好ましい。なお、このRVPは外気温度との関連で、季節に応じて調整し、夏場は44〜65kPa、冬場は70〜93kPaとするとさらに好ましい。
【0019】
本発明の無鉛ガソリン組成物は、好ましくは、50容量%留出温度が75〜105℃であり、より好ましくは、75〜100℃である。50容量%留出温度が75℃未満では、無鉛ガソリン組成物のRVPが高くなり、好ましくない。105℃を超えるとガソリン自動車の加速性が悪化し、好ましくない。
【0020】
本発明の無鉛ガソリン組成物は、好ましくは、芳香族分が40容量%以下であり、さらには、30容量%以下、特には20〜30容量%であることが好ましい。芳香族分が20容量%未満では、分解ガソリン基材の配合量が制限され、無鉛ガソリン組成物の製造コストが高くなり、好ましくない。40容量%を超えると、無鉛ガソリン組成物の燃焼性が悪化し、好ましくない。
【0021】
本発明の無鉛ガソリン組成物は、好ましくは、不飽和炭素数が全炭素数に占める割合が45%以下であり、より好ましくは、20〜40%である。不飽和炭素数が全炭素数に占める割合がこのような範囲にあると、上述の範囲のオレフィン分や芳香族分を確保することが容易になる。また、本発明の無鉛ガソリン組成物は、好ましくは、=CH炭素数が不飽和炭素数に占める割合が3%以下であり、より好ましくは、2.5%以下である。=CH炭素数が不飽和炭素数に占める割合が3%を超えると、上述の範囲のジエン価とRONの両方を満足させることが困難になる。なお、不飽和炭素数が全炭素数に占める割合は、例えば、13C−NMRスペクトルにおいて、テトラメチルシラン(0ppm)を基準として、105.0ppm以上の化学シフトをもつ炭素に由来するシグナルと無鉛ガソリン組成物の全炭素に由来するシグナルの面積比から算出することができる。
【0022】
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、分解ガソリン留分の全量または一部を、水素の存在下で、周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒と接触させて、ジエン価および全炭素数に占める=CH炭素の割合を全炭素数に占める不飽和炭素数の割合の減少よりも大きく減少させる工程(工程A)を含み、工程Aで得られた処理油を、他の分解ガソリン留分に由来するガソリン基材(工程Aで得られる処理油も含めて「分解ガソリン基材」と称される)と一緒にして、これらを30容量%以上配合し、所定の性状、組成を有する無鉛ガソリン組成物とするものである。
【0023】
〔分解ガソリン留分〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法における分解ガソリン留分とは、石油留分、石油精製プロセス油、石油化学プロセス油、石炭液化油、オイルサンド、オイルシェール、ポリオレフィン類、プラスチック類、廃プラスチック等の炭化水素類をより分子量の小さい化合物に分解して得られる、おおよそ炭素数が4以上で沸点が250℃以下の範囲の留分を指す。分解ガソリン留分を得るためのプロセスとしては、接触分解プロセスや熱分解プロセスが代表的なものとして挙げられる。エチレンやプロピレン等のオレフィン類を得るためのナフサ、灯油、軽油等のクラッキングプロセスから副生するおおよそ炭素数が4以上で沸点が250℃以下の範囲の留分も、本発明の分解ガソリン留分として好ましく用いることができる。軽油や潤滑油の低温流動性を改善するために含まれるノルマルパラフィン化合物を選択的に分解する接触脱蝋プロセスから得られる脱蝋ガソリン留分も本発明の分解ガソリン留分として好ましく用いることができる。また、本発明では、2種以上の分解ガソリン留分を用いてよい。
【0024】
〔接触分解ガソリン留分〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法においては、分解ガソリン留分として接触分解ガソリン留分が代表的に用いられる。この接触分解ガソリン留分を製造するプロセスは、接触分解装置、原料油、運転条件を特に限定するものでなく、公知の任意の製造工程を採用できる。接触分解装置は、無定形シリカアルミナ、ゼオライトなどの触媒を使用して、軽油から減圧軽油までの石油留分のほか、重油間接脱硫装置から得られる間脱軽油、重油直接脱硫装置から得られる直脱重油、常圧残さ油などを接触分解して高オクタン価ガソリン基材を得る装置である。接触分解の原料油は、特にその硫黄分が4000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、さらには1000質量ppm以下、特には500質量ppm以下に水素化精製などにより低減した留分を用いることが好ましい。例えば、UOP接触分解法、フレキシクラッキング法、ウルトラ・オルソフロー法、テキサコ流動接触分解法などの流動接触分解法、RCC法、HOC法などの残油流動接触分解法などがある(石油学会編,石油精製プロセス,p.125-156,講談社サイエンティフィク(1998))。
【0025】
〔重質油熱分解ガソリン留分〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法においては、分解ガソリン留分として重質油熱分解ガソリン留分も好ましく用いることができる。重質油熱分解ガソリン留分とは、重質油留分に熱を加えて、ラジカル反応を主体にした反応により得られるおおよそ炭素数が4以上で沸点が250℃以下の範囲の留分で、例えば、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法あるいはフルードコーキング法(石油学会編,石油精製プロセス,p.193-208,講談社サイエンティフィク(1998))等により得られる留分をいう。
【0026】
〔工程A〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法の工程Aでは、分解ガソリン留分の全量または一部を、水素の存在下で、好ましくは、アルミナなどの無機多孔質担体に周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を担持した触媒と接触させてジエン価および全炭素数に占める=CH炭素の割合を減少させる。この工程では、ジエン含有量を低減するとともに、比較的RONが低い末端オレフィン化合物を比較的RONが高い内部オレフィン化合物に転化させる。通常、分解ガソリン留分は硫黄分を含むので、硫黄分に対する耐性の高いニッケルまたはコバルトを含む触媒が好ましい。触媒が含む第8族元素以外の活性成分元素に特に制約はないが、モリブデン、タングステン、リンは含ませてよい好ましい成分として挙げられる。反応条件としては、得られる分解ガソリン留分のジエン価を低下させ、かつ全炭素数に占める=CH炭素の割合を低下させるが、オレフィンの水素化を著しく進めてRONを著しく低下させることがないように設定する必要がある。好ましい反応条件は、反応温度が40〜300℃、反応圧力が0〜4MPa、LHSVが1〜10h−1、水素/油比が1〜500NL/Lである。工程Aでは、分解ガソリン留分のジエン価を、好ましくは、0.5g/100g以下、さらに好ましくは、0.3g/100g以下、特には、0.1g/100g以下とする。また、工程Aでは、分解ガソリン留分の全炭素数に占める=CH炭素の割合を、好ましくは、3%以下、さらに好ましくは、2.5%以下、特には、2%以下とする。さらに、工程Aでは、オレフィン分の減少を、好ましくは、10容量%以内、さらに好ましくは、5容量%以内、特には、3容量%以内とし、RONの低下を、1以内、好ましくは、0.5以内、さらに好ましくは、0.3以内、特には0.2以内とする。なお、工程Aを工程Bと同時に行う場合にあっては、分留して得られた各分解ガソリン留分の得率を加重平均して、上述のジエン価、全炭素数に占める=CH炭素の割合、オレフィン分およびRONに関する好ましい条件を満たすことが好ましい。
【0027】
ジエン価低減の方法は、触媒と接触分解ガソリンを水素の共存下で接触させ、ジエンをモノオレフィンに転化するか、あるいは、ジエンと共存する硫黄化合物とを反応させスルフィド類に転化させる方法が好ましい。第8族元素を含む触媒を用い、上述の好ましい反応条件を適用することで、同時にオレフィンの水素化を著しく進めてRONを著しく低下させることなく、全炭素数に占める=CH炭素の割合を低下させることができる。
【0028】
従来から石油精製においては、オレフィン中のジエンを選択的に水素化精製することが行われており、本発明において工程Aとして適用できる。具体的には、IFP Selective Hydrogenationプロセス、Hules Selective Hydrogenationプロセスなどが好ましく用いられる(石油学会編,石油精製プロセス,p.62-63,講談社サイエンティフィク(1998))。
また、本発明においてジエン価を低減する方法として、SHUプロセス(21st JPI Petroleum Refining Conference “Recent Progress in Petroleum Process Technology”,37(2002))やCD Hydroプロセス(NPRA 2001 Annual Meeting,AM-01-39(2001))も用いることができる。
【0029】
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、好ましくは、分解ガソリン留分を分留する工程(工程B)を含み、工程Bで得られた重質分解ガソリン留分を水素の存在下でモリブデンまたはタングステンを含む触媒と接触させて重質接触分解ガソリン留分の全硫黄分を20質量ppm以下に低減する脱硫工程(工程C)を含む。また、好ましくは、分解ガソリン留分に含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする工程(工程D)を含む。さらに好ましくは、無鉛ガソリン組成物のリサーチ法オクタン価が92以上である。
【0030】
〔工程B〕
分解ガソリン留分、特に、接触分解ガソリン留分は、比較的軽質な留分中にRONの高いオレフィン化合物を多く含む一方、硫黄分を多くは含まない。これに対して、比較的重質な留分中には、RONの高いオレフィン化合物を多くは含まない一方、硫黄分を多く含む。したがって、分解ガソリン留分、特に、接触分解ガソリン留分を無鉛ガソリン組成物の基材として有効利用するためには、基材とする軽質分解ガソリン留分の全硫黄分が十分に低い場合は、軽質分解ガソリン留分に対しては工程Cのような脱硫工程を施さないことが好ましい。それにより、軽質分解ガソリン留分のRON低下を抑制することができる。工程Bでは、好ましくは、重質分解ガソリン留分の10容量%留出温度が70〜130℃、さらに好ましくは、80〜120℃となるよう、軽質分解ガソリン留分と重質分解ガソリン留分とに分留する。無鉛ガソリン組成物への基材配合の自由度を高めるために、軽質分解ガソリン留分と重質分解ガソリン留分をさらに細分化して分留し、分解ガソリン留分を3つ以上の留分に分留しても構わない。そして、重質分解ガソリン留分に対しては、工程Cを適用することが好ましい。
【0031】
〔工程C〕
工程Cは、工程Bで得られた重質分解ガソリン留分と水素化脱硫触媒とを高圧水素の存在下で接触させるものである。水素化脱硫触媒は、モリブデンまたはタングステンを含み、好ましくは、アルミナなどの無機多孔質担体にモリブデンまたはタングステンを担持したものである。触媒が含むモリブデンまたはタングステン以外の成分元素に特に制約はないが、コバルト、リン、カリウム、炭素、窒素は含ませてよい好ましい成分として挙げられる。好ましい反応条件は、反応温度150〜350℃、反応圧力0.1〜4MPa、LHSV1〜10h-1、水素/油比50〜1000NL/Lである。特に好ましい反応条件は、反応温度200〜300℃、反応圧力1〜2.5MPa、LHSV2〜6h-1、水素/油比100〜500NL/Lである。工程Cで得られる重質分解ガソリン留分の硫黄分は、好ましくは、10質量ppm以下、さらに好ましくは、5質量ppm以下である。
【0032】
〔硫黄化合物の分子量を大きくする処理(工程D)〕
分解ガソリン留分は、含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする処理(工程D)を行って工程Bの分留工程に供するか、あるいは工程Bの分留工程と同時に硫黄化合物の分子量を大きくする処理を行うことが好ましい。チオール類などの硫黄化合物の分子量を選択的に大きくすることにより、その含硫黄化合物の沸点が高くなるため、分留工程において、含硫黄化合物を重質分解ガソリン留分中に移行することができ、分留工程で得られる軽質分解ガソリン留分の硫黄分を低減することができる。
【0033】
従来から石油精製においては、チオール類を処理して製品を無臭化するためのスイートニングが行われるが、酸化法や酸化抽出法によって、チオール類をジスルフィド類に転化する公知の方法は、本発明において硫黄化合物の分子量を大きくする方法として適用できる。具体的には、マーロックス法、ドクター法などが好ましく用いられる(石油精製技術便覧第3版、産業図書株式会社(1981))。
【0034】
また、本発明において硫黄化合物の分子量を大きくする方法として、分解ガソリン留分に含まれる硫黄化合物とオレフィン類とを反応させる方法も好適に用いられる。具体的には、特許文献2〜6の方法や「Production of Low Sulfur Gasoline and Diesel Fuels: Tier2 and Beyond“,Petroleum Refining Technology Seminar August 2001,11-18」に記載された方法が挙げられる。また、特に好ましくは硫黄化合物の分子量を大きくする処理とジエン低減処理を同時にできる、すなわち、工程Aと工程Dを同時に行うことができるプロセスを用いるのがよい。具体的には、上述のSHUプロセスが好適に用いられる。さらには、分留を行いながら、硫黄化合物の分子量を大きくする処理とジエン低減処理とを同時にできる、すなわち、工程A、工程Bおよび工程Dを同時に行うことができるプロセスを用いるのがいっそう好ましい。具体的には、上述のCD-Hydroプロセスが好適に用いられる。
【0035】
〔分解ガソリン留分からガソリン基材を得るプロセスフロー〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法で、分解ガソリン留分からガソリン基材を得るために、工程A〜工程Dの4つの工程を適用する場合、その工程の順序や複数の工程を同時に行うことによって様々なプロセスフローが可能であるが、特に好ましいプロセスフローとして、図1に(a)、(b)または(c)のブロック図で示すプロセスフローが例示される。(a)は、工程A〜工程Dの4つの工程をすべて別々に行う場合に好ましい。(b)は、工程Aと工程Dを同時に行う場合に好ましい。(c)は、工程A、工程Bおよび工程Dを同時に行う場合に好ましい。
【0036】
〔分解ガソリン留分以外に由来する他のガソリン基材〕
ブレンド工程で混合される分解ガソリン留分以外に由来する他のガソリン基材としては、接触改質ガソリン基材、アルキレートガソリン基材、直留ナフサを脱硫処理した基材、異性化ガソリン基材、トルエン、キシレン及びメチルt−ブチルエーテル(MTBE)、エチルt−ブチルエーテル(ETBE)、エチルi−ブチルエーテル(EIBE)、t−アミルエチルエーテル(TAEE)、エタノール、メタノール等の含酸素ガソリン基材等、公知のガソリン基材を用いることができる。ブレンド工程で混合される他のガソリン基材は、硫黄分が20質量ppm以下であり、好ましくは10質量ppm以下、さらには3質量ppm以下、特には1質量ppm以下であることが好ましい。他のガソリン基材の硫黄分が20質量ppmを超えると、そのガソリン基材のブレンド工程での配合量が制約され、好ましくない。
【0037】
好ましい配合量は、分解ガソリン留分を30〜90容量%、特には40〜80容量%、接触改質ガソリン基材を5〜50容量%、特には10〜45容量%、アルキレートガソリン基材を5〜40容量%、特には10〜30容量%である。
【0038】
〔添加剤〕
さらに、本発明の無鉛ガソリン組成物には、当業界で公知の燃料油添加剤の1種または2種以上を必要に応じて配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計配合量を0.1質量%以下に維持することが好ましい。本発明のガソリンで使用可能な燃料油添加剤を例示すれば、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコール又はそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【実施例1】
【0039】
中東系原油の減圧軽油留分を水素化精製処理したものと常圧蒸留残さ油を水素化精製処理したものを主たる原料油として、流動接触分解して得られた接触分解ガソリン留分Aに対して、酸化型のスイートニング装置によって処理して、接触分解ガソリン留分Bを得た。接触分解ガソリン留分AおよびBの性状を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
なお、密度はJIS K 2249、蒸気圧(リード法)はJIS K 2258、蒸留性状はJIS K 2254(常圧法)、炭化水素成分組成はJIS K 2536(蛍光指示薬吸着法)、ジエン価はUOP326−82、硫黄分は、ASTM D 5453(紫外蛍光法)に準拠して測定した。RONは、ヒューレットパッカード社製PIONA装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。
【0042】
この接触分解ガソリン留分Bを分留して、軽質接触分解ガソリン留分Cと重質接触分解ガソリン留分Dを得た。
【0043】
アルミナにニッケルを20質量%担持した触媒を固定床流通式反応装置に充填して硫化処理した後、反応温度250℃、反応圧力常圧、液空間速度4h-1、水素/油比340NL/Lの条件のもと、軽質接触分解ガソリン留分Cを通油してジエン低減処理を行い、軽質接触分解ガソリンEを得た。
【0044】
コバルト、モリブデンおよびリンをアルミナに担持した触媒(コバルト含有量2.4質量%、モリブデン含有量9.4質量%、リン含有量2.0質量%)を固定床流通式反応装置に充填して硫化処理した後、反応温度250℃、反応圧力1.0MPa、LHSV=5.0h−1、H2/OIL=307NL/Lの条件下で、重質接触分解ガソリン留分Dを通油して水素化脱硫を行い、重質接触分解ガソリンFを得た。
【0045】
軽質接触分解ガソリン留分CおよびEの性状を表2のとおりだった。重質接触分解ガソリン留分DおよびFの性状は、表3のとおりであった。

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
なお、13C−NMRスペクトルの測定には、日本電子製GSX270型NMR装置を用いた。重クロロホルムを溶媒とし、化学シフトの内部標準としては、テトラメチルシラン(0ppm)を用いた。炭素種分類ごとの定量のための分析は、SGNNEモードで、データポイント32768点、観測周波数領域幅27027Hz、パルス幅 2μs、パルス待ち時間30s、積算回数800回で測定し、ブロードニングファクター 1.5Hzでフーリエ変換したスペクトルのシグナルの積分比を取ることによって行った。5.0〜55.0ppmの領域を飽和炭素、105.0〜155.0ppmの領域を不飽和炭素に帰属し、その合計を試料の全炭素とした。また、105.0〜116.6ppmの領域を=CH炭素に帰属し、定量した。105.0〜116.6ppmの領域のシグナルは、DEPT法により、2つの水素が結合した炭素に由来することを確認した。
【0049】
軽質接触分解ガソリン留分Cはジエン価が1.7g/100g、全炭素数に占める=CH炭素の割合が2.5%であったが、軽質接触分解ガソリンEはジエン価が0.1g/100g未満、全炭素数に占める=CH炭素の割合が1.3%となり、ジエンがほぼ除去され、全炭素数に占める=CH炭素の割合が大きく低下していたが、RONは、軽質接触分解ガソリン留分Cで93.9、軽質接触分解ガソリンEで93.8と、ほとんど低下していなかった。軽質接触分解ガソリン留分Cの全炭素数に占める不飽和炭素の割合は21.1%であったが、軽質接触分解ガソリンEでは20.5%であった。不飽和炭素の減少よりも=CH炭素の減少のほうが大きく、軽質接触分解ガソリン留分Cを軽質接触分解ガソリンEに転化する過程で、オレフィン化合物の炭素鎖末端の炭素−炭素二重結合の一部が炭素鎖内部の炭素−炭素二重結合に変化していると言える。
【実施例2】
【0050】
接触分解以外の公知技術で得られるガソリン基材として、脱硫直留ナフサG、接触改質中質油H、接触改質重質油I、アルキレートガソリンJがあり、その性状は表4に示すとおりである。接触改質中質油Hは、接触改質ガソリンから、トルエンを多く含む留分を蒸留分離したものである。接触改質重質油Iは、接触改質ガソリンから、炭素数9以上であって11未満の芳香族を蒸留分離したものである。

【0051】
【表4】

【0052】
脱硫直留ナフサGを5.0容量%、接触改質中質油Hを9.0容量%、接触改質重質油Iを5.0容量%、アルキレートガソリンJを8.0容量%と、実施例1記載の軽質接触分解ガソリン留分Eを45.0容量%と実施例1記載の重質接触分解ガソリンFを28.0容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Kを調製した。
【0053】
比較のため、軽質接触分解ガソリン留分Eの代わりに、軽質接触分解ガソリン留分Cを用いること以外、実施例2と同様にして、無鉛ガソリン組成物Lを調製した。
【実施例3】
【0054】
脱硫直留ナフサGを3.0容量%、接触改質中質油Hを19.0容量%、接触改質重質油Iを10.0容量%、アルキレートガソリンJを23.0容量%と、実施例1記載の軽質接触分解ガソリンEを45.0容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Mを調製した。
【0055】
無鉛ガソリン組成物K、LおよびMには、酸化安定剤等の添加剤を添加しなかった。調製した無鉛ガソリン組成物K、LおよびMの性状を表5に示す。

【0056】
【表5】

【0057】
本発明によって提供される無鉛ガソリン組成物Kは、従来技術によって提供される無鉛ガソリン組成物Lと比較して、他の性状をほとんど変えることなく、ジエン含有量を低減できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】分解ガソリン留分からガソリン基材を得るために好ましいプロセスフローを示すブロック図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全硫黄分が10質量ppm以下、オレフィン分が5〜30容量%、ジエン価が0.3g/100g以下、炭素−炭素二重結合をもつCH炭素(=CH炭素)数が全炭素数に占める割合が1%未満であって、かつリサーチ法オクタン価が89以上である無鉛ガソリン組成物。
【請求項2】
リサーチ法オクタン価が92以上である請求項1に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項3】
分解ガソリン留分の全量または一部を、水素の存在下で、周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒と接触させてジエン価を減少させるとともに、全炭素数に占める=CH炭素数の割合を全炭素数に占める不飽和炭素数の割合の減少よりも大きく減少させる工程(工程A)を含み、工程Aで得られた処理油が含まれた分解ガソリン留分に由来するガソリン基材を30容量%以上配合することを特徴とする全硫黄分が10質量ppm以下、オレフィン分が5〜30容量%、ジエン価が0.3g/100g以下、全炭素数に占める=CH炭素の割合が1%未満であって、かつリサーチ法オクタン価が89以上である無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項4】
分解ガソリン留分を分留する工程(工程B)を含み、工程Bで得られた重質分解ガソリン留分を水素の存在下でモリブデンまたはタングステンを含む触媒と接触させて重質分解ガソリン留分の全硫黄分を20質量ppm以下に低減する脱硫工程(工程C)を含むことを特徴とする請求項3に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項5】
分解ガソリン留分に含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする工程(工程D)を含むことを特徴とする請求項4に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項6】
無鉛ガソリン組成物のリサーチ法オクタン価が92以上である請求項3〜5に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−104224(P2006−104224A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288359(P2004−288359)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】