説明

無鉛白色ガラスセラミックス基板

【課題】環境汚染がなく、且つ低融点低抵抗金属と同時焼成可能で基板の反りが少なく、白色性が強い無鉛ガラスセラミックス組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は40〜55重量%のガラス粉末と45〜60重量%の無機フィラーを配合・焼成されてなり、該ガラス粉末のガラス組成が、重量%でSiO2を55〜60%、Al2O3を11〜12%、CaOを16〜18%、ZnOを0〜4%含有しており、且つ実質的にPbO、MgOおよびAs2O3、Sb2O3を含有しないことを特徴とする無鉛白色ガラスセラミックス組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温同時焼成基板用の無鉛白色ガラスセラミックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスセラミックスグリーンシート等の基板上に金属導体で回路を形成し、これを貼り合わせて焼成して得られる多層回路基板が、携帯電話や車載電子回路など種々の用途に応用されている。
【0003】
元々は、多層回路基板としては、タングステンやカーボンなどを導体とし、アルミナ等と同時に焼成される高温同時焼成セラミックスが主流であった。近年の技術発展により、多層回路基板の多様化が進み、より低抵抗体である、金、銀、銅などが導体として利用されるようになってきた。これら低抵抗体金属は、低融点であるため、これまで使用されてきたアルミナ等と同時焼成することができず、より低温で焼成可能なガラス−セラミックス組成物が用いられている。
【0004】
このような低温で焼成可能なガラス−セラミックス組成物として、鉛含有ガラスとアルミナ粉末を混合させたものが広く使用されている。しかしながら、鉛を含有すると環境汚染に繋がる可能性があるという問題がある。
【0005】
また、ホウケイ酸塩ガラスをベースとしたガラスと無機フィラーとを混合させたガラス−セラミックス組成物も低温で焼成可能なものとして広く知られている(特許文献1,2)。
【0006】
しかしながら、ホウケイ酸塩をベースとしたガラスは、無機フィラーの量が少ないと曲げ強度が低くなり、逆に無機フィラーの量を多くすると焼成温度が高くなるという欠点が存在する。また、清澄剤としてAs2O3やSb2O3を使用しているガラスもあり、環境への影響が懸念される。
【0007】
そのため、環境汚染がなく、900℃以下の温度で焼成可能であり、高強度、基板の反りが小さいガラスセラミックス組成物が望まれている。現在では、様々な種類のガラスセラミックスが存在するが、実用的なガラスセラミックスとしては長石系の結晶化ガラスが知られている。その中でも高耐熱性・高強度を達成するアノーサイト結晶が析出するガラスセラミックスが有効である。
【0008】
また、多層回路基板は、薄いシートを何層も重ね合わせて焼成されるため、焼成時の基板の反りが小さい、好ましくは、反りが0.05mm以下のガラスセラミックス基板が求められている。
【0009】
更に、LED基板に用いられる多層回路基板は、LEDチップが発光した光を効率よく前面に放出させるために、白色で反射率の高い基板、詳しくは明度(L*)= 90 以上、色度(C*)= 4以下の白色度を有する白色ガラスセラミックス基板が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−274397号公報
【特許文献2】特開2005−179079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題に鑑み、環境汚染がなく、且つ低融点低抵抗金属と同時焼成可能で基板の反りが少なく、白色性が強い無鉛ガラスセラミックス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、SiO2-Al2O3-CaO系のガラスと無機フィラーからなるガラスセラミックス組成物が、低融点低抵抗金属と同時焼成可能で基板の反りが少なく、ガラス粉末のCaOとZnOの含有量を調整することにより、低軟化性と白色性の両方を実現可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は40〜55重量%のガラス粉末と45〜60重量%の無機フィラーを配合・焼成されてなり、該ガラス粉末のガラス組成が、重量%でSiO2を55〜60%、Al2O3を11〜12%、CaOを16〜18%、ZnOを0〜4%含有しており、且つ実質的にPbO、MgOおよびAs2O3、Sb2O3を含有しないことを特徴とする無鉛白色ガラスセラミックス組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物は、低融点低抵抗金属と900℃以下の温度で同時に焼成することができる。
また、本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物は、反りの小さな焼成基板を作製することができる。
また、本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物は、L* = 90 以上およびC* = 4以下の白色度を有する焼成基板を作製することができる。
更に、本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物は、PbOやAs2O3およびSb2O3を使用しないため環境汚染がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物の実施形態について説明する。本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物は、40〜55重量%のガラス粉末と45〜60重量%の無機フィラーを配合・焼成されてなり、該ガラス粉末のガラス組成が、重量%でSiO2を55〜60%、Al2O3を11〜12%、CaOを16〜18%、ZnOを0〜4%含有しており、且つ実質的にPbO、MgOおよびAs2O3、Sb2O3を含有しないことを特徴とし、焼成後のガラスセラミックス基板がL* = 90 以上およびC* = 4以下の白色度を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る無鉛白色ガラスセラミックス組成物のガラス粉末について説明する。
【0017】
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーであるとともにアノーサイト結晶の主成分で必須成分である。SiO2の含有量は55〜60重量%が好ましい。55重量%未満ではガラスの化学的耐久性が低下するとともに、結晶の析出量が低下する。60重量%を超えるとガラスの溶融が困難となる。
【0018】
Al2O3は、分相性を抑制するとともに曲げ強度を増大させ、さらに長石系結晶の主成分で必須成分である。Al2O3の含有量は11〜12重量%が好ましい。11重量%未満ではアノーサイト単独結晶相が析出せず、複合結晶相となり強度が低下してしまう。12重量%を超えるとガラスの溶融性が困難となる。
【0019】
CaOは、ガラスの溶融温度を低下させるとともに、アノーサイト結晶の主成分で必須成分である。CaOの含有量は16〜18重量%が好ましい。16重量%未満では、結晶の析出量が低下し、18重量%を超えると反射率の低下を招く。
【0020】
ZnOは、ガラスの溶融温度を低下させるとともに膨張係数を低下させ、屈折率を上昇させる効果があり添加することが好ましい。しかしながら、4重量%を超えて添加すると紫外領域の吸収が増大し、薄黄色に発色し白色性の低下を招いてしまう。そのため含有量は4重量%以下にすることが好ましい。
【0021】
B2O3は、ガラスの溶融性を向上させる物質である。B2O3の含有量は0〜5重量%が好ましい。B2O3の含有量が5重量%を超えると分相を起こしやすくなる。
【0022】
P2O5およびFは結晶の析出を促進させる成分であり、P2O5は0〜4重量%、Fは0-0.2重量%含有させるのが好ましい。P2O5が4重量%を超えるまたはFが0.2重量%を超える場合には結晶の粗大化が促進され、平滑な基板を得ることが困難となる。
【0023】
また、溶融性を向上させる目的でNa2OおよびK2Oを添加することが好ましい。ただし、結晶化度の低下を招く恐れがあるため、添加量は合計で5重量%以下とすることが望ましい。
【0024】
化学的耐久性の向上と焼成時の反射率向上を目的としてZrO2や無色希土類物質を添加することができる。過剰に添加すると溶融温度および焼成温度を増大させてしまうため、添加量はそれらの合計で3重量%以下とすることが好ましい。
【0025】
MgOは分相を促進させる成分であるため、添加しないことが望ましい。また、PbO、As2O3、Sb2O3は環境負荷物質であるため、添加しない。
【0026】
析出結晶は、前期参考文献にもあるとおり高耐熱性、高強度の観点からアノーサイトが好ましい。
【0027】
前記ガラス組成物は、乾式粉砕、水系または有機系溶媒を用いた湿式粉砕により粒径を調整しながらガラス粉末にされる。該ガラス粉末の平均粒径は、3.0μm程度に調整され、最大粒径は20μm以下とすることが好ましい。平均粒径は、レーザー散乱式粒度分布測定機を用いて、D50値より測定される。
【0028】
混合される無機フィラーとしては、高強度を実現するためにアルミナ、高反射率を実現するためにチタニアを使用することができる。粒径は焼成時の基板の反り防止と均一な結晶を析出させるため、ガラス粉末とそろえることが好ましい。また、熱伝導率を上昇させるためには、アルミナフィラーを40重量%以上含有させることが望ましい。さらに、反射率(L*)を増大させるために、5重量%以下のチタニアを含有させることが好ましい。
【0029】
ガラス粉末と無機フィラーの混合量は、ガラス粉末を40〜55重量%、無機フィラーを45〜60重量%とすることが好ましい。該ガラス粉末が40重量%以下では、焼結温度の上昇を招き、析出結晶量が減少する。55重量%以上では、焼成時に基板の反りの増大を招く。
【0030】
[実施例]
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(ガラス粉末の作製)
表1に示す組成となるように原料を調合・混合し、白金坩堝を用いて1450℃で4時間溶融後、急冷しガラスを形成した。得られたガラスは、乾式媒体ミルで粉砕し、D50−3.4μm、D90−12μmのガラス粉末を作製した。
【表1】

【0032】
(無機フィラーの作製)
アルミナ粉末を湿式ボールミルで粉砕し、D50−3.0μm、D90−8μmの無機フィラーを作製した。チタニア粉末は、粒径が0.1μmと小さいため粉砕は行わなかった。
【0033】
(ガラス粉末と無機フィラーの混合組成物の作製)
作製したガラス粉末と無機フィラーを表1に示す配合比で秤量し、ミキサーで充分混合した。
【0034】
(軟化点の測定)
粉砕した混合組成物の軟化点を示差熱分析(DTA)を用いて測定した。
【0035】
(焼成基板の作製)
得られた混合組成物にバインダーを添加し、厚みが0.1mmとなるようにドクターブレード法を用いて50×50mmのグリーンシートを作製した。得られたグリーンシートを各ガラスの軟化点で焼結し、無鉛ガラスセラミックス基板を作製した。
【0036】
(反りの測定)
焼成後の基板を、非接触三次元測定装置を用いて測定した。
【0037】
(白色度測定)
分光光度計により、300〜800nmの範囲の透過率測定を行い、そのスペクトルデータにおいて色彩計算を行いL*およびC*を算出した。
【0038】
(析出結晶の同定および結晶化度の測定)
X線回折装置により、20〜70度の範囲で測定を行い、ピーク位置から結晶種の同定を行い、ハーマンズ法による結晶化度の算出を行った。
【0039】
得られた結果を表2に示す。表2は、作製したセラミックス基板の特性を示す。表2に示すように、反りが小さく、L* 90以上でありC* が4以下の白色度の高い焼成基板を作製することができた。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
40〜55重量%のガラス粉末と45〜60重量%の無機フィラーとを配合・焼成されてなり、
前記ガラス粉末のガラス組成が、重量%でSiO2を55〜60%、Al2O3を11〜12%、CaOを16〜18%、ZnOを0〜4%含有しており、且つ
実質的にPbO、MgOおよびAs2O3、Sb2O3を含有しないことを特徴とする無鉛白色ガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
前記ガラス粉末が、長石系結晶を析出する結晶性ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の無鉛白色ガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
L* = 90 以上およびC* = 4以下の白色度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の無鉛白色ガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
基板焼成時の反りが0.05mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の無鉛白色ガラスセラミックス組成物。
【請求項5】
前記ガラス粉末と無機フィラーを配合・焼成後、主結晶相として長石系結晶であるアノーサイトおよびコランダム結晶を析出し、かつ全体の結晶相の割合が70%以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の無鉛白色ガラスセラミックス組成物。

【公開番号】特開2013−71860(P2013−71860A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211526(P2011−211526)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(391007851)岡本硝子株式会社 (18)
【Fターム(参考)】