説明

無電解めっき方法および無電解めっき前処理剤

【課題】平滑な面に密着性のよい金属膜を得ることができる無電解めっき方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る無電解めっき方法は、樹脂基板上に無電解めっきを施す無電解めっき方法において、ポリビニルイミダゾールからなる無電解めっき前処理剤を有機溶媒に溶解した前処理液を樹脂基板表面に付着させる工程と、前記前処理液を付着させた樹脂基板に活性光線を照射する工程と、上記紫外線を照射した樹脂基板を洗浄して有機溶媒および未反応化合物を除去する工程と、上記洗浄工程の後、無電解めっきを行う工程とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解めっき方法および無電解めっき前処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基板上に微細配線パターンを形成するには、樹脂基板上にめっきにより金属皮膜を形成し、この金属皮膜をエッチング加工して微細配線パターンに形成するのが一般的である。
樹脂基板上にめっきにより金属皮膜を形成するには、まず樹脂基板上に無電解めっき皮膜を形成し、次いでこの無電解めっき皮膜層を給電層として電解めっきを行い、所要厚さの金属皮膜を得るようにしている。
【0003】
ところで、樹脂基板上にめっきにより金属皮膜を形成するには、樹脂基板と金属皮膜との密着性、とりわけ、下地となる無電解めっき皮膜層の樹脂基板との密着性が問題となる。
従来、無電解めっき層の樹脂基板への密着性を向上させるため、予めクロム酸と濃硫酸との混合液のような化学粗化液に樹脂基板を浸漬して表面を粗化した後、トリアジン化合物溶液等の前処理液に浸漬し、次いで無電解めっき処理を行うようにしたものがある(特開平1−246894号公報)。
また、平滑な面に密着性のよい金属膜を形成する方法としてグラフト結合による表面改質方法がある(特開昭58−196238号公報)。これは、樹脂基板に接触させたラジカル重合性化合物を活性光線の照射によりグラフト結合させて表面改質を行い、該基板上に無電解めっきすることを特徴とする。
【0004】
【特許文献1】特開平1−246894号公報
【特許文献2】特開昭58−196238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、予め樹脂基板の表面を粗化した後、無電解めっきを行うようにすれば、アンカー効果により、めっき皮膜の樹脂との密着性が向上する。しかし、昨今では、搭載する半導体チップの高周波、高性能化に伴い、平坦樹脂表面に微細配線パターンを形成することが求められてきており、樹脂基板表面の粗化が行えなくなっている実情がある。特許文献1において、樹脂表面を粗化せずに、単にトリアジン化合物溶液によって樹脂基板表面の前処理を行っても、無電解めっき皮膜の樹脂基板表面への十分な密着性が得られない。
また、特許文献2によるグラフト結合による表面改質では、ラジカル重合性モノマーを樹脂基板上で重合させるため、重合反応を制御しにくいという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、あらかじめ重合体を合成することで重合反応と表面反応を分けることができ、重合反応および表面改質の制御が容易となり、平滑な面に密着性のよい金属膜を得ることができる無電解めっき方法および無電解めっき前処理剤を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る無電解めっき前処理剤はポリイミダゾールからなることを特徴とする。
ポリイミダゾールの分子量は600〜1400が好適である。
【0008】
また、本発明に係る無電解めっき方法は、樹脂基板上に無電解めっきを施す無電解めっき方法において、請求項1または2記載の無電解めっき前処理剤を有機溶媒に溶解した前処理液を樹脂基板表面に付着させる工程と、前記前処理液を付着させた樹脂基板に活性光線を照射する工程と、上記活性光線を照射した樹脂基板を洗浄して有機溶媒および未反応化合物を除去する工程と、上記洗浄工程の後、無電解めっきを行う工程とを具備することを特徴とする。
【0009】
前記活性光線には紫外線を用いることができる。
前記前処理液を樹脂基板に付着させる前に、樹脂基板に酸素プラズマ処理を行うと好適である。
また、前記樹脂基板にポリイミド基板を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂基板を荒らすことなく、平滑な樹脂基板表面に密着性のよいめっき皮膜を形成することができる。また、ポリイミダゾールの重合体をあらかじめ合成することで重合反応と表面反応を分けることができ、重合反応および表面改質の制御が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明における最良の実施の形態を詳細に説明する。
本発明においては、無電解めっき用前処理剤であるポリイミダゾールを、無電解めっきの前処理工程中で合成させるのではなく、あらかじめ合成しておく。合成方法の実施例は後記する。
【0012】
ポリイミダゾールは、取り扱いやすさや、樹脂基板との密着性の点から、分子量が600〜1400程度が好ましい。樹脂基板との特に好ましい密着力が得られる点からは、分子量が800〜1200の範囲が特に好適である。
【0013】
前処理液として調整するには、溶媒としてエタノールや、エタノールとジクロロメタンとの混合溶媒などを用いる。この前処理液中におけるポリイミダゾールの配合量は10wt%程度が好ましいが特に限定されるものではない。溶媒は後工程で揮散してしまうものであるため、前処理液として樹脂基板の表面に塗布等によって付着させる際、塗布作業等が容易に行える溶液の粘度となっていればよい。
【0014】
上記のようにして調整した前処理液を樹脂基板表面に付着させる。この付着手段は、前処理液を樹脂基板表面に塗布したり、スプレーしたりして行えばよい。
なお、前処理液を付着させる前に、樹脂基板を酸素プラズマ処理すると一層好適である。この酸素プラズマ処理を行うことによって、樹脂基板表面が活性化され、ポリイミダゾールとの反応性を向上させることができる。
【0015】
このように樹脂基板の表面に前処理液の膜を形成した後、樹脂基板表面に紫外線(UV)あるいは電子線等の活性光線を照射する。このように、活性光線を照射することによって、ポリイミダゾールが樹脂基板材料と化学反応を起こし、樹脂基板と密着性に極めて優れる膜を形成する。この反応のメカニズムは明確ではないが、例えば樹脂基板がポリイミドの場合には、イミド基、アミド基などが存在し、これら官能基が、ポリイミダゾール樹脂の末端の水酸基等と反応し、強固に結合するものと推測される。すなわち、ポリビニルイミダゾールは、樹脂基板(被めっき物)表面に単に吸着(付着)しているのではなく、活性光線の照射により樹脂基板と強固に結合した層を形成する。
【0016】
上記のように、前処理をした樹脂基板に無電解めっきを施すのである。イミダゾール環の窒素と金属とが強い相互作用を起こし、密着力に優れる無電解めっき皮膜を形成することができる。すなわち、ポリビニルイミダゾール層は金属との親和性にも優れる。
このように無電解めっき皮膜を形成した後、この無電解めっき皮膜を通電層として電解めっきを施すことによって、所要厚さのめっき皮膜を得ることができる。このめっき皮膜をエッチング加工して所要の配線パターンに形成することができる。
なお、銅の無電解めっきが好適であるが、その他の無電解めっきであっても、密着性に優れるめっき皮膜を得ることができる。
【0017】
上記のように、本実施の形態では、樹脂基板を荒らすことなく、平滑な樹脂基板表面に密着性のよいめっき皮膜を形成することができる。また、ポリイミダゾールの重合体をあらかじめ合成することで重合反応と表面反応を分けることができ、重合反応および表面改質の制御が容易となる。
【実施例】
【0018】
ポリビニルイミダゾール(PVIDz)の合成;
PVIDzはモノマーの1-ビニルイミダゾール(VIDz)のラジカル重合で合成した。モノマーが液体であったことからラジカル開始剤を直接加えて加熱する方法とアルコールを溶媒として用いて重合する方法で行なった。
【0019】
〔実施例1〕モノマーとラジカル開始剤のみで反応させる方法
10mlナス型フラスコへVIDz 847mgとアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)97mgを加え室温で撹拌した。AIBNが溶解し均一溶液となったら、フラスコを85℃のオイルバス中へ入れ3min加熱し淡褐色の固形物を得た。エタノールとジエチルエーテルの混合溶液で固形物を洗浄したのち、減圧乾燥して淡褐色固体を得た。収量736mg、収率87%。
このようにして得られた固体がポリビニルイミダゾールであることは、紫外可視吸収スペクトル(UV)、赤外吸収スペクトル(IR)、質量スペクトル(MS)を分析し確認した。
すなわち、図1のUVスペクトルでイミダゾール環の吸収(210nm付近)が存在すること、図2のIRスペクトルで、イミダゾール環(1500cm−1付近)の吸収が存在しているがビニル基(1640cm−1付近)の吸収がなくなっていること、さらに図3と図4の質量スペクトル(MS)で質量数(m/z)740〜1234程度の高分子量成分が検出され、図3のスペクトルにおいて質量数740→ 834→928→1022とVIDzの分子量(94)の差でピークが現れていることから、VIDzが重合したPVIDzであることが確認された。また、この方法で得られたPVIDzは、イミダゾール環が8〜13個連なった分子量740〜1234程度のポリマーが主成分であると考えられる。
他にアルコールおよび水を反応溶媒として用いた以下の実施例2の方法においてもPVIDzが高収率で合成できることが分った。得られた固体が目的のポリビニルイミダゾールであることは、IRスペクトルを分析して確認した。
【0020】
〔実施例2〕アルコール溶媒中でラジカル開始剤を使ってモノマーを重合させる方法
50ml三口フラスコへエタノール8mlとVIDz 1.8mlおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)91mg加え、混合溶液を5min窒素バブリングしたのちフラスコを窒素置換して、75〜85℃で50min加熱撹拌した。淡黄色の粘性物が得られたのでジエチルエーテルを5ml加え固化させたのち固体をろ取した。さらにもう一度、固体をジエチルエーテルで洗浄したのち、水を加えて不溶物をろ過した。ろ液を濃縮し得られた固体をジエチルエーテルで洗浄したのち、減圧乾燥して淡黄色固体を得た。収量1.63g、収率87%。
【0021】
〔実施例3〕樹脂表面修飾
樹脂基板にはポリイミドフィルム(東レ・デュポン製、Kapton100H、25mm厚;以降PI)を用いた。表面修飾用処理液としてPVIDzの10%溶液を作製した。溶媒には混合溶媒(エタノール:ジクロロメタン=1:3(vol. ratio))およびエタノールを用いた。
PIは表面を活性化させるために酸素プラズマ処理(400W/40Pa/80sec)を行った。プラズマ処理後、石英ガラス板上にPIを固定し、表面修飾用処理液を滴下した。更に石英ガラス板でPIを挟み込み、処理液がPIを均一な厚さで覆うように調整した。その後、UV照射器(セン特殊光源製,PL-110)でUV照射した。光源-試料間距離:2cm、UV照射時間:1−5minとした。UV照射後、十分な水洗を行い、溶媒および未反応化合物を除去した。比較の為、PVIDzを添加せずに溶媒のみを塗布してUV照射した試料も作製した。これらの表面状態をESCA(X線光電子分光分析装置)で分析した。表1に定量分析結果、図5にC1sの、図6にN1sの、図7にO1sのESCAスペクトルをそれぞれ示す。
【表1】

図5、図6、図7から以下のことが確認される。
すなわち、未処理、プラズマ処理、溶媒処理PIからはポリイミド由来の結合(イミド基 C1s:288.6eV,N1s:400.6eV)が確認された。一方、PVIDz処理ではN1sスペクトルに新しいピークが確認された。これはイミダゾールのアミノ結合(−N<)およびイミノ結合(−N=)に由来すると考えられる。イミダゾールにはアミノ結合(−N<)およびイミノ結合(−N=)の2種類の結合が存在しており、これらは1:1(原子数比)で存在するため、N1sスペクトルに同面積で現れる。しかし、アミノ結合は400.4eV,イミノ結合は398.4eVにピークが現れるのでアミノ結合のピークはPIに由来するイミド基のピーク(400.6eV)と重なってしまう。そこで、イミド基およびアミノ結合のピークをひとつのピークとして考えて、ピーク分離を行った。その結果、イミノ結合は36.6%の割合で存在し、アミノ結合も等量の36.6%存在するはずなので、イミド基は残りの63.4−36.3=26.8%であると考えられる。
表面修飾後の試料はアルカリ性Pd触媒液、リデューサー、無電解銅めっき、電解銅めっき(狙い厚:18μm)を施し、180°ピール試験を行った。ピール強度を図8に示す。
プラズマ処理のみの場合は、平均で250gf/cmの強度であった。溶媒のみでUVを照射した場合は415gf/cmまで強度が向上した。ESCAによる分析の結果からは溶媒のみでUV照射しても新たな官能基の存在は確認できなかった。Clが検出されているが、これは溶媒の残渣であると考えられるので強度向上の原因は不明である。PVIDzを導入した場合は更に強度が向上し、590gf/cmの密着強度を示した。このことからPVIDzの導入が密着強度に対して有効であることが確認された。PVIDzは8〜13個のイミダゾール環を有している為、イミダゾールとCuが強い相互作用を有する為に高い密着性を示したと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】PVIDz等のUVスペクトルを示す。
【図2】PVIDz等のIRスペクトルを示す。
【図3】PVIDzの陽イオン質量スペクトルを示す。
【図4】PVIDzの陰イオン質量スペクトルを示す。
【図5】樹脂基板の表面状態におけるC1sのESCAナロースキャンスペクトルを示す。
【図6】樹脂基板の表面状態におけるN1sのESCAナロースキャンスペクトルを示す。
【図7】樹脂基板の表面状態におけるO1sのESCAナロースキャンスペクトルを示す。
【図8】無電解銅めっき、電解銅めっき皮膜のピール強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミダゾールからなる無電解めっき前処理剤。
【請求項2】
ポリイミダゾールの分子量が600〜1400であることを特徴とする請求項1記載の無電解めっき前処理液。
【請求項3】
樹脂基板上に無電解めっきを施す無電解めっき方法において、
請求項1または2記載の無電解めっき前処理剤を有機溶媒に溶解した前処理液を樹脂基板表面に付着させる工程と、
前記前処理液を付着させた樹脂基板に活性光線を照射する工程と、
上記活性光線を照射した樹脂基板を洗浄して有機溶媒および未反応化合物を除去する工程と、
上記洗浄工程の後、無電解めっきを行う工程とを具備することを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項4】
前記活性光線に紫外線を用いることを特徴とする請求項3記載の無電解めっき方法。
【請求項5】
前記前処理液を樹脂基板に付着させる前に、樹脂基板に酸素プラズマ処理を行うことを特徴とする請求項3または4記載の無電解めっき方法。
【請求項6】
前記樹脂基板にポリイミド基板を用いることを特徴とする請求項3〜5いずれか1項記載の無電解めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−302985(P2007−302985A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135570(P2006−135570)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】