説明

焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置

【課題】デュアル素子の焦電型赤外線センサを用いる非接触入力装置において、同一コマンドを小さな動作で容易に連続入力できるようにする。
【解決手段】デュアル素子の焦電型赤外線センサ1からの信号により正極性信号または負極性信号のどちらかの信号の検出に基づいて、移動方向を決定する。移動方向を決定した信号の入力から所定時間以内に、その信号と同極性の信号を検出したとき、移動方向と同一方向とするので、同一のコマンドを小さな動きで連続入力することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置に関し、特に、同一コマンドを小さな動作で容易に連続入力できる非接触入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デュアル素子の焦電型赤外線センサの特徴は、人体の移動方向により出力波形の位相が異なることである。その特徴を利用することで、人体の移動方向を2方向について判定することが可能である。図5と図6を参照しながら、従来のデュアル素子の焦電型赤外線センサの回路の基本動作を説明する。図5は、従来回路のブロック図である。このブロック図の回路の出力波形は、図6のようになる。図6(a)は、1往復の動作を行った場合の信号増幅部の出力波形である。図6(b)と図6(c)は、波形成形部の出力波形である。図6(b)は、図6(a)の正極側の信号のみを抽出して矩形波にしたものである。図6(c)は、図6(a)の負極側の信号のみを抽出して矩形波にしたものである。
【0003】
図6(b)の信号を、入力待ちタイマで2クロック遅延させて、図6(d)の信号を生成する。図6(c)の信号を、入力待ちタイマで2クロック遅延させて、図6(e)の信号を生成する。図6(d)の信号が存在している間に、図6(c)の信号が入力されると、波形合成部で論理積がとられて、図6(f)の信号が生成される。図6(e)の信号が存在している間に、図6(b)の信号が入力されると、波形合成部で論理積がとられて、図6(g)の信号が生成される。すなわち、入力待ちタイマが動作中に、もう一方の信号が入力された場合には、波形合成部から信号が出力される。2つの波形合成部の出力は、出力制御手段で論理和がとられて、最終出力信号が生成される。このように、往復動作を行うと、往方向の動作の検出信号と、復方向の動作の検出信号が、それぞれ出力される。
【0004】
従来の人体検出方法のそのほかの例をいくつかあげる。特許文献1に開示された「人体移動方向判別装置」は、誤動作なく、迅速に人体移動方向を判別できる装置である。それぞれ2つの人体検知エリアを有する焦電型赤外線センサのうち、先に連続して人体を検知した焦電型赤外線センサの検知出力に応じて、音声合成回路が動作する。焦電型赤外線センサのうち、一方が先に1つの人体検知エリアでのみ人体を検知した後に、他方が連続して人体を検知した場合、後で連続して人体検知した検知出力を、ANDゲートが無効にし、誤動作をなくす。
【0005】
特許文献2に開示された「焦電型人体検知装置」は、デュアル素子型焦電センサを用いて、正確に人体を判別するとともに、人体移動方向を判定し、検知エリアの人数を正確に検出するものである。デュアル素子型焦電センサの出力を信号増幅部で増幅し、波形成形部で波形成形し、制御部の移動方向検出手段により移動方向を判別する。波形成形部の出力を利用し、波形合成部で人体検出信号を生成する。制御部の人体検出手段で、人体検知時のデータと比較することにより、人体の有無を判別する。出力制御手段で、検知エリアに入ってきた人数を計数する。検知エリア内の人数を算出する処理を行い、人体をリアルタイムに検出する。
【0006】
【特許文献1】特開平5-81503号公報
【特許文献2】特開平10-160856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の装置のように、デュアル素子の焦電型赤外線センサを、手などの人体の一部をかざして用いる形式の入力装置として使用する場合、特定の1方向のみを連続で入力するためには、大きなモーションを必要としてしまうという問題がある。すなわち、逆方向の動きが入力されないように、迂回する動きをしないと、1方向のみの動きを連続して入力することができない。
【0008】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決して、デュアル素子の焦電型赤外線センサを用いる非接触入力装置において、迂回する動きをすることなしに小さな動作で容易に同一方向の動きを連続入力できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、デュアル素子の焦電型赤外線センサと、前記焦電型赤外線センサからの信号を正極性信号または負極性信号のどちらかの信号に決定する手段と、正極性信号と負極性信号のいずれか一方の信号が先に入力されたことに応答して、移動方向を決定する手段と、前記移動方向を決定した信号の入力から所定時間以内に正極性信号または負極性信号のどちらかの信号の検出に基づき前記決定した移動方向と同一方向とすることを特徴とする焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置である。
請求項2に係る発明は、デュアル素子の焦電型赤外線センサと、前記焦電型赤外線センサの検出信号を増幅成形して正極性信号と負極性信号とに分離する手段と、前記正極性信号と負極性信号を一対としていずれか一方の信号が先に入力されたことに応答して移動方向を決定する手段と、前記移動方向を決定した信号の入力から所定時間以内に正極性信号または負極性信号のどちらかの信号の検出に基づき前記決定した移動方向と同一方向とすることを特徴とする焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置である。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成したことにより、人体の一部の動きを非接触で検知して、同一のコマンドを小さな動きで連続入力することができる。すなわち、デュアル素子の焦電型赤外線センサを用いる非接触入力装置において、迂回する動きをすることなしに小さな動作で容易に同一方向の動きを連続入力できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施形態は、デュアル素子の焦電型赤外線センサの出力信号を増幅して入力された信号の極性に応じて、連続して入力された信号を同一方向の信号と判断する非接触入力装置である。
【0013】
図1は、本発明の実施形態における非接触入力装置の回路構成を示す機能ブロック図である。図1において、デュアル素子焦電型赤外線センサ1は、2つの強誘電体により赤外線を検出する素子である。信号増幅部2は、デュアル素子焦電型赤外線センサ1の出力信号を増幅するアナログ増幅器である。波形成形部3は、信号増幅部2の出力信号の正極部を抽出して負極性の矩形波にする回路である。波形成形部4は、信号増幅部2の出力信号の負極部を抽出して負極性の矩形波にする回路である。遅延用タイマ5は、波形成形部3の出力信号を遅延させる回路である。遅延用タイマ6は、波形成形部4の出力信号を遅延させる回路である。連続入力制御部7は、遅延用タイマ5の入力信号と出力信号から、第1の連続入力制御信号を生成する回路である。連続入力制御部8は、遅延用タイマ6の入力信号と出力信号から、第2の連続入力制御信号を生成する回路である。
【0014】
状態決定回路9は、遅延用タイマ5の出力信号と、他方の入力待ちタイマの出力信号とから、第1の状態信号を生成する回路である。状態決定回路10は、遅延用タイマ6の出力信号と、他方の入力待ちタイマの出力信号とから、第2の状態信号を生成する回路である。入力待ちタイマ11は、第1の状態信号から一定時間の窓信号を生成する回路である。入力待ちタイマ12は、第2の状態信号から一定時間の窓信号を生成する回路である。波形合成部13は、第1の窓信号と第2の連続入力制御信号から、第1の出力信号を生成する回路である。波形合成部14は、第2の窓信号と第1の連続入力制御信号から、第2の出力信号を生成する回路である。出力制御手段15は、第1の出力信号と第2の出力信号を合成して、最終出力信号を生成する回路である。
【0015】
図2は、非接触入力装置の各部の出力波形図である。(a)は、信号増幅部2の出力波形である。(b)は、波形成形部3の出力波形である。(c)は、波形成形部4の出力波形である。(d)は、入力待ちタイマ11の出力波形である。(e)は、入力待ちタイマ12の出力波形である。(f)は、波形合成部13の出力波形である。(g)は、波形合成部14の出力波形である。
【0016】
図3は、非接触入力装置を利用したモーションコマンダの機能ブロック図である。図3において、センサ16は、デュアル素子焦電型赤外線センサである。信号増幅部17は、アナログ増幅器である。波形成形部18は、信号増幅部17の出力信号のうち正極性信号を抽出する回路である。波形成型部19は、信号増幅部17の出力信号のうち負極正信号を抽出する回路である。マイコン20は、波形成形部18の出力信号と波形成形部19の出力信号を受けてコマンド信号に変換して送出する処理装置である。USBI/F21は、コマンド信号をUSB信号に変換する回路である。図4は、焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置をモーションコマンダとして使用する場合の概念図である。
【0017】
上記のように構成された本発明の実施形態における非接触入力装置の動作を説明する。デュアル素子の焦電型赤外線センサを、入力装置として使用する例として、PC用キーボードやマウスに内蔵してプレゼンテーション時のページめくりに使用した場合について説明する。マイコンに連続して波形成形部の信号が入力されると先に入力された信号の極性に応じたコマンドAを、連続して出力する。その間波形成形部からの信号が先に入力された信号とは逆の極性に応じたコマンドBが出力されることはない。すなわち、同一極性の信号の入力待ち状態の間に素早く1往復の動作をすることで、先の極性に対応するコマンドAの直後に、逆極性に対応するコマンドBを出力せず、コマンドAの次も同じコマンドAが連続して出力されるようにする。
【0018】
図1と図2を参照しながら、1往復の動作を行った場合の波形を説明する。デュアル素子焦電型赤外線センサ1により、手から放射される赤外線を検出する。信号増幅部2で、デュアル素子焦電型赤外線センサ1の出力信号をアナログ増幅する。手をすばやく往復させると、図2(a)の信号が、信号増幅部2から出力される。波形成形部3で、信号増幅部2の出力信号の正極部を抽出して、図2(b)に示す矩形波にする。波形成形部4で、信号増幅部2の出力信号の負極部を抽出して、図2(c)に示す矩形波にする。
【0019】
図2(b)、(d)に示すように、先に入力された矩形波の立上りから一定の長さをもった矩形波(入力待ちタイマ)を生成するため、遅延用タイマ5で波形成形部3の出力信号(b)を遅延させる。同様に遅延用タイマ6で、波形成形部4の出力信号(c)を遅延させる。遅延用タイマ5の出力信号が状態決定部9に入力されたとき、後で示す入力待ちタイマ12が開始されていなければ入力待ちタイマ11で入力待ちタイマが生成される。入力待ちタイマ12が開始されていれば入力待ちタイマ11で入力待ちタイマは生成されない。
同様に遅延用タイマ6の出力と入力待ちタイマ11の出力と状態決定部10により、(c)信号側の状態が決定し、入力待ちタイマ12の出力がきまる。つまり図(d)(e)に示すように、どちらかの方向が入力待ちになっているときもう一方向は入力待ちにはならない。連続入力制御部7は、遅延用タイマ5の入力信号(b)とその出力信号から、ノイズなどによる重複出力を防止した信号を生成する。同様に連続入力制御部8で、遅延用タイマ6の入力信号(c)とその出力信号から、ノイズなどによる重複出力を防止した信号を生成する。
【0020】
遅延用タイマ5、6には、信号(b)の矩形波が先に入力されるため、入力待ちタイマ11が先に動作する。その出力である窓信号(d)により、状態決定部10が抑制されるため、入力待ちタイマ12は動作を開始しない。したがって、窓信号は、信号(b)の側にのみ生成される。よって、信号(f)は出力されるが、信号(g)は出力されない。波形合成部13で、第1の窓信号(d)と第2の連続入力制御信号から、第1の出力信号(f)を生成する。波形合成部14では、第2の窓信号(e)がないので、第2の出力信号は生成されない。出力制御手段15で、第1の出力信号(f)から最終出力信号を生成する。
【0021】
このようにして、非接触入力装置の上で、すばやく手を往復運動させた場合は、一方の信号のみが連続して出力される。一定時間内であれば、手を何回通過させても、同一方向の信号のみが連続して出力される。一定時間以上の間隔をあけて、往復運動させた場合は、それぞれの信号が出力される。
【0022】
図3と図4を参照しながら、非接触入力装置を利用したモーションコマンダについて説明する。なお、図3は、図1の制御部をマイコンなどによって処理したものである。デュアル素子焦電型赤外線センサであるセンサ16が出力した信号を、信号増幅部17でアナログ増幅する。波形成形部18で、所定の条件を満たす正極性側の検出信号のみを抽出して矩形波信号を生成する。波形成形部19で、所定の条件を満たす負極性側の検出信号のみを抽出して矩形波信号を生成する。マイコン20で、波形成形部18および波形成形部19からの入力信号によりコマンドが出力され、入力信号から一定時間の間に信号が入力されると、同一方向の信号が出力される。
【0023】
最初に入力した信号と逆極性の信号が所定時間内に入力すると同一方向の信号と判断する方法を説明したが、正極性信号および負極性信号を一対の信号として判断してもよい。すなわち、波形成形部18または波形成形部19からの信号を入力すると続いて入力される逆極性の信号により信号の方向を決定する。続いて入力される信号が所定時間内に入力されれば同一方向の信号と判断する。さらに、1往復の動作を例に説明したが、同一方向と判断した信号の入力や、最初の入力と同じ方向の入力があったときにタイマを再スタートさせれば1往復に限らず連続した動作を同一方向と判断することが可能となる。
【0024】
マイコン20で、2種類のディジタル出力のうちの有意の1つの信号を、対応するコマンド信号に変換して送出する。USBI/F21で、コマンド信号をUSB信号に変換して、パソコンに送出する。図4に示すように、焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置をパソコンにUSB接続し、電源はUSBからの供給でまかない、モーションコマンダとして使用する。例えば、2つの出力信号を、キーボードの左右矢印キーに割り当てれば、キーボードに触れることなく、文書ファイルやプレゼンテーションファイルのページをめくる送り操作や戻し操作を行うことができるようになる。もちろん、焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置を、パソコンのキーボードに埋めこんでもよい。
【0025】
上記のように、本発明の実施形態では、非接触入力装置を、デュアル素子の焦電型赤外線センサの検出信号を増幅成形して正極性信号と負極性信号とに分離し、正極性信号と負極性信号のいずれか一方の信号が先に入力されたことに応答して、一定時間にわたって先に入力された信号と同極性の信号のみを選択的に出力する構成としたので、同一のコマンドを小さな動きで連続入力することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置は、パソコンなどのモーションコマンダとして最適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置の回路を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態における焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置の各部の波形を示す波形図である。
【図3】本発明の実施形態における焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置をモーションコマンダとして使用する場合の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態における焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置をモーションコマンダとして使用する場合の概念図である。
【図5】従来の焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置の回路を示す機能ブロック図である。
【図6】従来の焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置の各部の波形を示す波形図である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・デュアル素子焦電型赤外線センサ、2・・・信号増幅部、3・・・波形成形部、4・・・波形成形部、5・・・遅延用タイマ、6・・・遅延用タイマ、7・・・連続入力制御部、8・・・連続入力制御部、9・・・状態決定回路、10・・・状態決定回路、11・・・入力待ちタイマ、12・・・入力待ちタイマ、13・・・波形合成部、14・・・波形合成部、15・・・出力制御手段、16・・・センサ、17・・・信号増幅部、18・・・波形成形部、19・・・波形成形部、20・・・マイコン、21・・・USB I/F。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュアル素子の焦電型赤外線センサと、前記焦電型赤外線センサからの信号を正極性信号または負極性信号のどちらかの信号に決定する手段と、正極性信号と負極性信号のいずれか一方の信号が先に入力されたことに応答して、移動方向を決定する手段と、前記移動方向を決定した信号の入力から所定時間以内に正極性信号または負極性信号のどちらかの信号の検出に基づき前記決定した移動方向と同一方向とすることを特徴とする焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置。
【請求項2】
デュアル素子の焦電型赤外線センサと、前記焦電型赤外線センサの検出信号を増幅成形して正極性信号と負極性信号とに分離する手段と、前記正極性信号と負極性信号を一対としていずれか一方の信号が先に入力されたことに応答して移動方向を決定する手段と、前記移動方向を決定した信号の入力から所定時間以内に正極性信号または負極性信号のどちらかの信号の検出に基づき前記決定した移動方向と同一方向とすることを特徴とする焦電型赤外線センサを用いた非接触入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−277626(P2006−277626A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99501(P2005−99501)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(304020498)サクサ株式会社 (678)
【Fターム(参考)】