説明

焼き付き補正装置、自発光表示装置及びプログラム

【課題】劣化量差の解消を優先する補正では、補正実行時に画質の低下が知覚され易い。
【解決手段】焼き付き補正装置に、(a)画面全体が同じ高輝度値で構成される高輝度画面を生成する高輝度画面生成部と、(b)高輝度画面と入力画像のいずれか一方を選択的に出力する画面切替部と、(c)事前に定めたユーザーイベントの検出時、画面切替部を制御して高輝度画面を出力させる切替タイミング制御部とを搭載する。この場合、高輝度画面の表示により、全画素の劣化が一様に進行する。なお、劣化の進行と共に画素間の劣化量差は小さくなり、やがて焼き付きが知覚されない程度まで圧縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書で説明する発明は、自発光表示装置の焼き付き補正技術に関する。
なお、発明者らが提案する発明は、焼き付き補正装置、自発光表示装置及びプログラムとしての側面を有する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイを構成する発光素子の発光輝度は、発光量と時間に比例して低下する特性がある。この発光輝度の低下は、発光特性の劣化が原因である。発光特性の劣化が進行すると、同じ駆動条件下でも輝度低下が次第に進行し、初期輝度を維持できなくなる。
このような発光特性の劣化は、自発光素子では避け得ない特性として知られている。すなわち、自発光素子における発光特性の劣化は進行するのみであり、発光特性の回復は未だ確認されていない。
【0003】
ところで、実際の使用態様では、表示内容が一様でないこと等を原因として発光素子の劣化が部分的に進行し、周辺画素との劣化量差がある値以上に広がった領域で焼き付きが確認される問題がある。
そこで、発生した焼き付きを目立たなくする仕組みが従来より提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、画素単位で劣化量を測定し、焼き付き補正用の補正画面を生成する仕組みが開示されている。また、この特許文献1では、生成された補正画面を、ユーザーが表示画面を観察しないタイミングで画面上に表示することで画素間の劣化量差を解消する仕組みが開示されている。
【特許文献1】特開2003−295827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に示す仕組みの場合には、画素単位で劣化量を管理する必要があり、回路規模が非常に大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、発明者らは、比較的簡易な仕組みでありながら、画素間の劣化量差を確実に抑制できる焼き付き補正装置として、(a)画面全体が同じ高輝度値で構成される高輝度画面を生成する高輝度画面生成部と、(b)高輝度画面と入力画像のいずれか一方を選択的に出力する画面切替部と、(c)事前に定めたユーザーイベントの検出時、画面切替部を制御して高輝度画面を出力させる切替タイミング制御部とを搭載するものを提案する。
【0007】
すなわち、事前に定めたユーザーイベントの検出時に、高輝度画面を画面上に表示させる仕組みを採用する。
この仕組みを採用する理由は、自発光素子が図1に示すような輝度劣化特性を有するためである。すなわち、自発光素子の輝度劣化は、初期期間に近いほど進行が速く、劣化の進行につれて緩やかになる特性があるためである。
【0008】
図1の場合、初期劣化期間と中期劣化期間はいずれも発光期間が同じであるが、期間の開始時点と終了時点の間に発生する輝度差が劣化の進むにつれて小さくなる様子が確認される。
そこで、発明者らは、表示デバイスを構成する全ての画素(自発光素子)を同じ高輝度値で同じ時間長だけ発光することで、画素間の最大劣化量差を確実に縮小させる手法を提案する。
【発明の効果】
【0009】
このように、発明者らの提案する発明を用いれば、簡易な処理動作だけで表示デバイスを構成する全ての画素間の最大劣化量差を確実に縮小させることができる。結果として、表示デバイスの焼き付き現象を確実に改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明に係る補正技術を採用する自発光装置の形態例を説明する。
なお、本明細書で特に図示又は記載されない部分には、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。
また以下に説明する形態例は、発明の一つの形態例であって、これらに限定されるものではない。
【0011】
(A)形態例1
図2に、有機ELディスプレイ装置1の機能構成例を示す。
有機ELディスプレイ装置1は、有機ELパネル3と焼き付き補正部5で構成される。
有機ELパネル3は、3種類の基本原色(R、G、B)で構成される表示上の1画素がマトリクス状に配置された表示デバイスである。個々の基本原色は、有機EL素子が発生する。
【0012】
有機ELパネル3には、データ線駆動回路が搭載される他、画像処理回路その他の周辺回路が搭載される。この周辺回路の一つが焼き付き補正回路5である。
焼き付き補正部5は、事前に定めたユーザーイベントの発生を検出し、当該ユーザーイベントの検出時に、全白画面を表示画面上に表示させる焼き付き補正動作を実行する処理デバイスである。
【0013】
この機能の実現のため、焼き付き補正部5は、全白画面生成部501と、画面切替部503と、切替タイミング制御部505で構成する。
全白画面生成部501は、最大階調値のみの全面パターンを生成する処理デバイスである。この形態例では、この全面パターンを全白画面という。この全面画面は、特許請求の範囲における「高輝度画面」の一例である。
【0014】
画面切替部503は、高輝度画面と入力画像のいずれか一方を有機ELパネル3に選択的に出力する処理デバイスである。
切替タイミング制御部505は、事前に定めたユーザーイベントの検出時に、画面切替部503を制御して高輝度画面を出力させる処理デバイスである。
ただし、この全白画面の表示は視覚的に目立ち易い。従って、その出力タイミングは、事前に設定したユーザーイベントの検出時に限定する。
【0015】
ユーザーイベントの検出は、例えばユーザーが継続的に非使用状態であること、すなわち継続的にユーザーの操作が入力されない状態の検出により行う。
非使用状態の検出は、例えば図3に示すように、開閉式の表示デバイスが閉状態であることを検出することにより行う。このとき、ユーザーは、表示画面を外部から確認することができない。従って、全白画面の表示に適している。
【0016】
また例えば図4に示すように、スクリーンセーバーの出力タイミングの到来により検出する。すなわち、全白画面をスクリーンセーバーとして使用する。スクリーンセーバーは、システムで設定した時間だけ無操作状態が継続した場合に出力される。実際、スクリーンセーバーの表示時には、ユーザーが表示画面を注視していない場合が多い。従って、この期間を有効に利用する。
【0017】
また、ユーザーイベントの検出は、例えば非点灯状態から点灯状態への移行操作の検出により行う。図5に、この場合の動作例を示す。この場合、切替タイミング制御部505は、図5(B)に示すように、有機ELパネル3を点灯する直前に全白画面を挿入する。このタイミングであれば、未だ画像が表示されていない期間でもあり、ユーザーの使用感に問題が生じる可能性は少ないと考えられる。
【0018】
また、ユーザーイベントの検出は、例えば点灯状態から非点灯状態への移行操作の検出により行う。図6に、この場合の動作例を示す。この場合、切替タイミング制御部505は、図6(B)に示すように、有機ELパネル3を消灯する直前に全白画面を挿入する。このタイミングであれば、ユーザーの関心はもはや画面上に無く、使用感に問題が生じる可能性は少ないと考えられる。
【0019】
また、ユーザーイベントの検出は、例えばテレビジョン番組等の視聴中における表示チャネルの切替操作の検出を通じて行う。図7に、この場合の動作例を示す。チャンネルの切替時であれば、表示内容と全く関係のない全白画面が表示されても使用上の問題は少ないと考えられる。
なお、これらユーザーイベントの検出は、タイマーやボタン操作の検出等、既存の検出手法を使用する。
【0020】
以上のように、この形態例の場合には、事前に定めたユーザーイベントのいずれか一つが検出された段階で全白画面が表示される。全白画面の表示期間は、検出されたユーザーイベントの種類や設定により異なるが、その長短によらず画素間の劣化量差を縮小する効果が確実に発揮される。また、全白画面の表示効果は蓄積されるので、各回の表示時間は短くても全白画面の表示回数が増えるに従って、焼き付き現象の補正効果は大きくなる。
【0021】
図8に、全白画面の出力による劣化量差の縮小効果を示す。図8は、有機ELパネル3内で最も劣化が遅れた画素の発光輝度特性と、有機ELパネル3内で最も劣化が進んだ画素の発光輝度特性とを太線で示す。なお、これら以外の各画素に対応する発光輝度特性は、2本の特性曲線で挟まれた領域(斜線で示す領域)内で変化する。
【0022】
図8に示すように、初期劣化期間の間、有機ELパネル内の発光輝度差は使用時間に比例して大きくなる。なお、初期劣化期間後も、全白画面を出力しない場合には、破線で示すように発光輝度差の拡大は継続する。
これに対し、全白画面の出力による補正動作を開始した後は、図8に太線で示すように発光輝度の低下速度こそ速まるものの最も劣化の遅れた画素と最も劣化の進んだ画素の発光輝度差は時間の経過と共に小さくなる。
【0023】
以上のように、劣化の進行に伴って発光輝度の低下が緩やかになる有機EL素子の特性に着目し、事前に定めたユーザーイベントの検出毎に全白画面を出力する手法を採用することにより、簡単かつ確実に表示画面内における発光輝度差を抑制することができる。なお、この補正動作は、発光輝度の変化が大きい初期劣化期間に実行する場合に特に効果が大きいが、どの時点で実行しても一定の効果が期待できる。
【0024】
また、全白画面を出力するユーザーイベントには、前述したようにユーザーの直接の使用時をなるべく避けたタイミングを選択することにより、ユーザーに違和感を感じさせずに焼き付き補正動作を実行することができる。
【0025】
(B)形態例2
ここでは、焼き付き現象が視認されなくなる輝度差まで画面内の輝度差が縮小した時点で焼き付き補正の動作を停止させる機能を搭載する有機ELディスプレイ装置について説明する。
図9に、この形態例で説明する有機ELディスプレイ装置11の機能構成例を示す。なお、図9には図2との対応部分に同一符号を付して示す。
【0026】
この有機ELディスプレイ装置11も、有機ELパネル3と焼き付き補正部15で構成される。ただし、ここでの焼き付き補正部15は、全白画面生成部501と、画面切替部503と、切替タイミング制御部505に加え、最大最小累積劣化量算出部507と焼き付き度合い把握部509とを搭載する。
以下、新たな処理機能である最大最小累積劣化量算出部507と焼き付き度合い把握部509について説明する。
【0027】
最大最小累積劣化量算出部507は、表示フレームの最小階調値だけを追跡した第1の累積劣化量と、表示フレームの最大階調値だけを追跡した第2の累積劣化量を算出する処理デバイスである。
ただし、表示フレーム内の最小階調値で発光し続ける画素や最大階調値で発光し続ける画素は存在しない。すなわち、この累積劣化量は、入力画像の表示によって発生し得る累積劣化量の限界値に対応する。
【0028】
図10に、第1の累積劣化量と第2の累積劣化量に対応する各仮想画素の輝度特性と、実在画素のうちで最も累積劣化量の小さい画素(最小発光画素)と最も累積劣化量が大きい画素(最大発光画素)の輝度特性を示す。
なお、仮想画素の輝度特性は太線で示し、実画素の輝度特性は細線で示す。
【0029】
因みに、有機ELパネル3を構成する各画素の輝度特性は、最小発光画素と最大発光画素の輝度特性で挟まれた領域(斜線で示す領域)内で遷移する。
図10に示すように、第1及び第2の累積劣化量に対応する各仮想画素の発光輝度特性は、実画素の発光輝度特性よりも外側に位置する。
【0030】
しかし、仮想画素の発光輝度特性と実画素の発光輝度特性との劣化量差は、全白画面による補正動作では問題にはならない。
理由の一つは、全白画像の出力による補正動作では、過動作が生じたとしても新たな焼き付きを発生させないためである。他の理由の一つは、実在画素の発光輝度特性は、これら限界値に対応する発光輝度特性の内側に常に収まるためである。
【0031】
図11に、最大最小累積劣化量算出部507の内部構成例を示す。この最大最小累積劣化量算出部507は、最小階調値検出部5071A、最大階調値検出部5071B、劣化量変換部5073、階調値/劣化量変換テーブル5075、最小階調用累積加算部5077A、最大階調用累積加算部5077Bで構成する。
【0032】
最小階調値検出部5071Aは、各フレームの最小階調値を検出する処理を実行する。また、最大階調値検出部5071Bは、各フレームの最大階調値を検出する処理を実行する。
劣化量変換部5073は、検出された階調値を劣化量に変換する処理デバイスである。劣化量の算出方法には、既知の手法も含めて様々な手法が存在する。ただし、この形態例では、既知の手法に比べて正確な劣化量差を算出できる手法として、階調値と劣化量とを対応付けた変換テーブルを参照する仕組みを採用する。
【0033】
劣化量変換部5073は、図12に示す階調値/劣化量変換テーブル5075を参照して各画素の階調値を劣化量に変換する処理を実行する。図12に示す「劣化率」とは、各階調値に対応する単位時間当たりの劣化量を意味する。従って、各発光期間内の劣化量は、劣化率に発光期間tを乗算することにより求めることができる。
【0034】
因みに、階調値/劣化量変換テーブル5075には、事前の実験により特定した階調値と劣化量の対応関係が登録されているものとする。
もっとも、有機ELパネル3にダミー画素領域を設け、輝度センサーの検出結果に基づいて対応関係を逐次更新する手法を採用しても良い。また、後述する全白画面の発光輝度特性に基づいて対応関係を逐次更新する手法を採用することも可能である。
【0035】
最小階調値用累積加算部5077Aと最大階調値用累積加算部5077Bは、それぞれ対応する劣化量の累積演算を継続的に実行する処理デバイスである。なお、算出結果は、第1及び第2の累積加算値として焼き付き度合い把握部509に出力される。
焼き付き度合い把握部509は、第1及び第2の累積劣化量の差分値により判断時点での輝度差を把握すると共に、焼き付きの解消に必要な高輝度画面の表示時間を決定する処理とを実行する処理デバイスである。
【0036】
ここで、焼き付き度合い把握部509は、第1及び第2の累積劣化量の差分値が基準値(例えば焼き付きが知覚される限界値)を超えていた場合に、差分値を基準値以下に縮小するのに必要な高輝度画面の表示時間を決定する。この決定手順例を以下に示す。
【0037】
なお、この表示時間の決定では、図13に示す輝度劣化特性を記録したテーブルメモリ(不図示)を使用する。このテーブルメモリには、画面全体が同じ最大階調値で表示される場合、すなわち全白画面で表示される場合の輝度劣化と発光時間との対応関係が記録されている。
【0038】
まず、焼き付き度合い把握部509は、最小階調値のみを追跡した累積劣化量(第1の累積劣化量)と最大階調値のみを追跡した累積劣化量(第2の累積劣化量)とが、それぞれ全白画面をどれだけ表示した場合の劣化量に相当するかに換算する処理を実行する。図14に、この処理動作の概念図を示す。図14に示す矢印が、この換算処理動作に対応する。具体的には、図13に示すテーブルメモリを参照し、各累積劣化量に対応する換算表示時間t1、t2を読み出す処理を実行する。
【0039】
次に、焼き付き度合い把握部509は、換算表示時間t1、t2を起点としてそれぞれ一定時間Tだけ全白画面の表示を継続した時点を求め、当該各時点に対応する累積劣化量をテーブルメモリの参照により求める。図15に、この処理動作の概念図を示す。そして、一定時間Tが経過した場合の各累積劣化量の差分ΔDを算出し、この差分ΔDが焼き付きが知覚される限界値以下か否かを判定する。
【0040】
ここで、差分ΔDが限界値以下であれば、表示時間を調整量ΔTだけ短くして新たな差分ΔDを求める処理を繰り返し、焼き付き現象が見えなくなる表示時間の最小値を求める。一方、差分ΔDが限界値以上であれば、表示時間を調整量ΔTだけ長くして新たな差分ΔDを求める処理を繰り返し、焼き付き現象が見えなくなる表示時間の最小値を求める。
【0041】
図16に、決定した表示時間だけ全白画面の表示が継続した場合の輝度劣化特性を示す。図中、斜線で示す領域部分が、実画素の輝度劣化に対応する領域である。図16に示すように、補正開始と同時に、実画そのうち最も劣化の進んだ画素と最も劣化の遅れた画素の累積劣化量差は狭まり、補正期間の終了時点ではほぼ無くなっていることが分かる。
焼き付き度合い把握部509は、このように決定した全白画面の表示時間を切替タイミング制御部505に出力する。
【0042】
なお、この形態例における切替タイミング制御部505は、補正時間としての全白画面の総表示時間が焼き付き度合い把握部509から与えられる表示時間を超えないように全白画面の出力タイミングを制御する。
図17に、この形態例に最適な切替タイミング制御部505の制御手順例を示す。
【0043】
まず、切替タイミング制御部505は、全白画面の表示時間を読み出す(S1)。次に、切替タイミング制御部505は、出力イベントの発生の有無を判定する(S2)。イベントの発生が検出された場合には全白画面を出力すると共に、表示時間が経過したか否かを判定する(S3、S4)。
【0044】
ここで、出力イベントの発生が検出されない場合や表示時間が経過していない場合、切替タイミング制御部505は、再び出力イベントの発生を待ち受ける状態になる。一方、表示時間の全期間が経過した場合、切替タイミング制御部505は、現在の補正動作を一旦終了する。
ただし、新たに焼き付き補正のための全白画面の表示時間が設定された場合には、最初から新たに設定された時間だけ全白画面を表示する処理動作を実行する。
【0045】
以上のように、この形態例に係る焼き付き補正機能の搭載により、簡単かつ確実に表示画面内における発光輝度差を抑制することができる。また、この形態例では、全白画面の表示時間が必要以上に長くならないように制御できる。従って、焼き付き現象を低減しつつ有機ELパネル3の使用寿命を最長化できる。
【0046】
(C)形態例3
形態例2の場合、全白画面の表示が必要であれば、累積劣化量差の大小に関係なく、同じ頻度で全白画面を表示する場合について説明した。
ここでは、累積劣化量差が大きい場合には、全白画面の表示機会を増やし、反対に累積劣化量差が小さい場合には、全白画面の表示機会を減らす制御手法について説明する。
【0047】
図18に、この形態例で説明する有機ELディスプレイ装置21の機能構成例を示す。なお、図18には図9との対応部分に同一符号を付して示す。図18に示すように、基本的な機能構成は、形態例2に示す有機ELディスプレイ装置11と同じである。
違いは、焼き付き補正部25を構成する焼き付き度合把握部509が、第1及び第2の累積劣化量の差分値を切替タイミング制御部505に与える点である。
【0048】
図19に、この形態例で使用する切替タイミング制御部505の制御手順例を示す。
まず、切替タイミング制御部505は、全白画面の表示時間を読み出す(S11)。次に、切替タイミング制御部505は、累積劣化量の限界値である第1及び第2の累積劣化量の差分値が閾値より小さいか否かを判定する(S12)。ここでの閾値は、全白画面の表示頻度を切り替えるための判定基準である。閾値は、事前に初期設定する方法、事後的にユーザーが選択又は調整する方法が考えられる。
【0049】
この判定処理において肯定結果が得られた場合、切替タイミング制御部505は、出力イベントの判定セットをイベント数の少ない判定セットに変更する(S13)。一方、判定処理において否定結果が得られた場合、切替タイミング制御部505は、出力イベントの判定セットをイベント数の多い判定セットに変更する(S14)。
【0050】
この後、切替タイミング制御部505は、出力イベントの発生の有無を判定する(S15)。イベントの発生が検出された場合には全白画面を出力すると共に、表示時間が経過したか否かを判定する(S16、S17)。
ここで、出力イベントの発生が検出されない場合や表示時間が経過していない場合、切替タイミング制御部505は、再び出力イベントの発生を待ち受ける状態になる。一方、表示時間の全期間が経過した場合、切替タイミング制御部505は、現在の補正動作を一旦終了する。
【0051】
この形態例に係る焼き付き補正機能の場合も、簡単かつ確実に表示画面内における発光輝度差を抑制することができる。
また、この形態例の場合、累積劣化量差の差分値が小さいとき、全白画面の表示機会が低減される。しかし、出力頻度が減るだけで全白画面は適時表示されるため、累積劣化量差を確実に低減することができる。また、わずかではあるが有機ELパネル3の寿命を延ばす効果が期待できる。
【0052】
(D)形態例4
この形態例では、既存の焼き付き補正技術との組み合わせについて説明する。すなわち、累積劣化量差の解消を画素単位で厳密に実行する補正動作との組み合わせについて説明する。
図20に、この形態例で説明する有機ELディスプレイ装置31の機能構成例を示す。なお、図20には図9との対応部分に同一符号を付して示す。
【0053】
この形態例の場合、焼き付き補正部35は、全白画面生成部501と、画面切替部503と、切替タイミング制御部505と、最大最小累積劣化量算出部507と、焼き付き度合い把握部509に加え、劣化量差算出部511と、累積劣化量差蓄積部513と、補正量算出部515と、劣化量差補正部517とを新たに搭載する。
【0054】
このうち劣化量差算出部511、累積劣化量差蓄積部513、補正量算出部515、劣化量差補正部517が、画素単位で劣化量差を解消する補正機能に対応する。
劣化量差算出部511は、有機ELパネル3に出力される各画素の階調値に基づいて、基準画素に対する画素別の劣化量差を算出する処理デバイスである。劣化量差の算出方法には、既知の手法も含めて様々な手法が存在する。
【0055】
この形態例でも、既知の手法に比べてより正確な劣化量差を算出できる手法として、階調値と劣化量とを対応付けた変換テーブルを参照する仕組みを採用する。
図21に、この仕組みを採用する劣化量差算出部511の内部構成例を示す。
この劣化量差算出部511は、劣化量変換部5111、階調値/劣化量変換テーブル5113及び差分算出部5115で構成する。
【0056】
劣化量変換部5111は、階調値/劣化量変換テーブル5113を参照して各画素の階調値を劣化量に変換する処理を実行する。階調値/劣化量変換テーブル5113には、図12に示す階調値/劣化量変換テーブル5075と同じ対応関係が搭載されているものとする。
【0057】
なお、この種の階調値/劣化量変換テーブルを一つだけ搭載し、最大最小累積劣化量算出部507と劣化量差算出部511とで共用することも可能である。
差分算出部5115は、各画素の劣化量と基準画素の劣化量との差分を算出する処理を実行する。
基準画素の与え方は任意である。例えば1フレーム又は複数フレームの平均階調値で発光する画素、最も劣化の進んだ画素、最も劣化の遅れた画素等を使用する。
【0058】
なお、基準画素としてフレーム平均値を用いる場合には、階調値のフレーム平均値を算出する信号処理部を用意する。また、基準画素として劣化量の最も進んだ画素や最も遅れた画素を用いる場合には、画素毎に蓄積した劣化量の累積値の最大値又は最小値を与える画素の階調値を求める信号処理部を用意する。なお、基準画素が確定して階調値が求まれば、劣化量変換部5111を使用して劣化量に換算することができる。
差分算出部5115は、これらの信号処理部を通じて取得した基準画素の劣化量と各画素の劣化量との差分を算出する処理デバイスである。
【0059】
累積劣化量差蓄積部513は、算出された劣化量差を画素毎に蓄積する記憶領域又は記憶デバイスをいう。
補正量算出部515は、対応する累積劣化量差に基づいて各画素の補正量を算出する処理デバイスである。補正量算出部515は、例えば将来期間に発生する各画素の劣化量と基準画素の劣化量とを予測し、ある時点における累積劣化量差を当該将来期間に解消するのに必要な補正値を算出する処理を実行する。
【0060】
この補正量の算出手法についても既知の手法を利用できる。なお、算出される補正値は、基準画素との間の劣化量差の縮小を最優先とする。
劣化量差補正部517は、画面切替部503から入力される階調値を、画素毎に算出された補正量で補正する処理デバイスである。
【0061】
例えば基準画素に対して劣化が進んでいる場合、劣化量差補正部517は、対応画素の階調を下げるように(暗くするように)補正する。一方、基準画素に対して劣化が遅れている場合、劣化量差補正部517は、対応画素の階調を上げるように(明るくするように)補正する。
【0062】
なお、この形態例の場合、全白画面が適時挿入的に表示されるため、画素間の累積劣化量差は比較的小さい状態にある。
従って、この形態例のように、画素単位で累積劣化量差を縮小する技術を組み合わせても、焼き付き補正の実行頻度や補正量自体を十分小さくすることができる。
結果的に、劣化量差補正部517による劣化量差の解消を優先した補正動作の実行回数を減らしたり、補正量の低下を実現できる。
【0063】
(E)他の形態例
(a)前述の形態例では、累積劣化量差が閾値以上に拡大した時点で全白画面の表示時間を決定する場合について説明した。
しかし、焼き付き補正に必要な全白画面の表示時間は、常に実行する仕組みを採用しても良い。
また、補正開始後も、継続的に表示時間を算出する仕組みを採用しても良い。
【0064】
(b)前述の形態例3では、切替タイミング制御部505内で差分値の大きさを判定する場合について説明した。
しかし、この判定処理は焼き付き度合把握部509で実行し、切替タイミング制御部505には判定結果(焼き付き度合い情報)を与える手法を採用しても良い。
【0065】
(c)前述の形態例では、高輝度画面の一例として全白画面を生成する場合について説明した。
しかし、高輝度画面は、全白画面に限らない。すなわち、劣化の促進効果を考えれば、最高階調値(100%輝度)に近い階調値であれば良い。
【0066】
(d)前述の形態例では、基本原色がRGBの3色である場合について説明したが、基本原色は補色を含めて4色以上の場合にも適用できる。
(e)前述の形態例では、基本原色の発色形態について説明しなかったが、基本原色別に発光素子材料が異なる有機EL素子を用意しても良いし、カラーフィルタ方式や色変換方式を用いて基本原色を生成しても良い。
【0067】
(f)前述の形態例では、自発光表示装置の一例として有機ELディスプレイパネルを例示したが、他の自発光表示装置にも適用できる。例えば、FED(field emission display) 、無機ELディスプレイパネル、LEDパネルその他にも適用できる。
【0068】
(g)前述の形態例では、焼き付き補正部を有機ELディスプレイに搭載する場合について説明した。
しかし、焼き付き補正部は、自発光表示装置を搭載又は制御する様々な電子機器に搭載できる。
【0069】
例えば、コンピュータ、印刷装置、ビデオカメラ、デジタルカメラ、ゲーム機器、携帯情報端末(携帯型のコンピュータ、携帯電話機、携帯型ゲーム機、電子書籍等)、時計、画像再生装置(例えば、光ディスク装置、ホームサーバー)に搭載できる。
【0070】
なお、いずれの電子機器の場合にも、筐体と、信号処理部(MPU)と、外部インターフェースとを共通構成とし、商品形態に応じた周辺装置が組み合わされて構成される。
例えば、携帯電話機その他の通信機能を有する電子機器であれば、前述の構成に加え、送受信回路やアンテナを有する。
【0071】
図22(A)に、この種の電子機器の概略構成例を示す。この例の場合、電子機器1001は、信号処理部1003、操作部1005、通信部1007、表示パネル1009で構成する。
【0072】
また例えば、ゲーム機や電子書籍その他の記憶媒体を有する電子機器であれば、前述の構成に加え、記憶媒体の駆動回路等を有する。図22(B)に、この種の電子機器の概略構成例を示す。この例の場合、電子機器1101は、信号処理部1103、操作部1105、媒体駆動部1107、表示パネル1109で構成する。
【0073】
また例えば、印刷装置であれば、前述の構成に加え、印刷ユニットを搭載する。印刷ユニットは、印刷方式に応じて最適なものを搭載する。印刷方式には、例えばレーザー方式、インクジェット方式その他がある。図23(A)に、この種の電子機器の概略構成例を示す。
【0074】
この例の場合、電子機器1201は、信号処理部1203、操作部1205、印刷ユニット1207、表示パネル1209で構成する。
また例えば、ビデオカメラやデジタルカメラであれば、前述の構成に加え、カメラユニットや撮像された映像データを記憶媒体に保存するための書き込み回路を搭載する。
【0075】
図23(B)に、この種の電子機器の概略構成例を示す。
この例の場合、電子機器1301は、信号処理部1303、操作部1305、撮像部1307、表示パネル1309で構成する。
【0076】
(h)前述の形態例では、焼き付き補正機能を機能的な側面から説明したが、言うまでもなく、同等の機能をハードウェアとしてもソフトウェアとしても実現できる。
また、これらの処理機能の全てをハードウェア又はソフトウェアで実現するだけでなく、その一部はハードウェア又はソフトウェアを用いて実現しても良い。すなわち、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせ構成としても良い。
【0077】
(i)前述の形態例には、発明の趣旨の範囲内で様々な変形例が考えられる。また、本明細書の記載に基づいて創作される又は組み合わせられる各種の変形例及び応用例も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】発光輝度の劣化特性を説明する図である。
【図2】有機ELディスプレイ装置の機能構成例(形態例1)を示す図である。
【図3】全白画面の出力タイミングを与えるユーザーイベント例を説明する図である。
【図4】全白画面の出力タイミングを与えるユーザーイベント例を説明する図である。
【図5】全白画面の出力タイミングを与えるユーザーイベント例を説明する図である。
【図6】全白画面の出力タイミングを与えるユーザーイベント例を説明する図である。
【図7】全白画面の出力タイミングを与えるユーザーイベント例を説明する図である。
【図8】全白画面の出力による補正効果を説明する図である。
【図9】有機ELディスプレイ装置の機能構成例(形態例2)を示す図である。
【図10】実画素の輝度劣化特性と限界特性との関係を示す図である。
【図11】最大最小累積劣化量算出部の内部構成例を示す図である。
【図12】階調値/劣化量変換テーブルの一例を示す図である。
【図13】全白画面の継続表示時における発光輝度の劣化特性を示す図である。
【図14】輝度劣化特性の限界値を全白画面の発光時間に換算する処理動作を説明する図である。
【図15】全白画面の表示時間を決定する際の動作原理を説明する図である。
【図16】全白画面の表示による補正効果を示す図である。
【図17】切替タイミング制御部の処理手順例を示す図である。
【図18】有機ELディスプレイ装置の機能構成例(形態例3)を示す図である。
【図19】切替タイミング制御部の処理手順例を示す図である。
【図20】有機ELディスプレイ装置の機能構成例(形態例4)を示す図である。
【図21】劣化量差算出部の機能構成例を示す図である。
【図22】他の電子機器への応用例を説明する図である。
【図23】他の電子機器への応用例を説明する図である。
【符号の説明】
【0079】
501 全白画面生成部
503 画面切替部
505 切替タイミング制御部
507 最大最小累積劣化量算出部
509 焼き付き度合い判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画面全体が同じ高輝度値で構成される高輝度画面を生成する高輝度画面生成部と、
前記高輝度画面と入力画像のいずれか一方を選択的に出力する画面切替部と、
事前に定めたユーザーイベントの検出時、前記画面切替部を制御して前記高輝度画面を出力させる切替タイミング制御部と
を有することを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の焼き付き補正装置において、
前記事前に定めたユーザーイベントは、継続的な非使用状態である
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項3】
請求項2に記載の焼き付き補正装置において、
前記継続的な非使用状態は、開閉式の表示デバイスが閉状態にあることをいう
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項4】
請求項2に記載の焼き付き補正装置において、
前記継続的な非使用状態は、スクリーンセーバーの出力タイミングの到来をいう
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項5】
請求項1に記載の焼き付き補正装置において、
前記事前に定めたユーザーイベントは、非点灯状態から点灯状態への移行操作である
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項6】
請求項1に記載の焼き付き補正装置において、
前記事前に定めたユーザーイベントは、点灯状態から非点灯状態への移行操作である
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項7】
請求項1に記載の焼き付き補正装置において、
前記事前に定めたユーザーイベントは、表示チャンネルの切替操作である
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項8】
請求項1に記載の焼き付き補正装置は、
表示フレームの最小階調値だけを追跡した第1の累積劣化量と、表示フレームの最大階調値だけを追跡した第2の累積劣化量を算出する累積劣化量算出部と、
前記第1の累積劣化量と前記第2の累積劣化量との差分値に基づいて前記高輝度画面の表示時間を決定し、前記切替タイミング制御部に与える焼き付き度合い把握部と
を更に有することを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項9】
請求項8に記載の焼き付き補正装置において、
前記焼き付き度合い把握部は、
高輝度画面による発光が継続する場合の経過時間と累積劣化量との対応関係を記録したテーブルメモリを参照し、各判定時点の第1の累積劣化量と前記第2の累積劣化量を起点として前記差分値を焼き付きが視認されなくなる範囲に縮小するのに必要な表示時間を求める
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項10】
請求項1に記載の焼き付き補正装置は、
表示フレームの最小階調値だけを追跡した第1の累積劣化量と、表示フレームの最大階調値だけを追跡した第2の累積劣化量を算出する累積劣化量算出部と、
前記第1の累積劣化量と前記第2の累積劣化量との差分値又は当該差分値に基づいて判定した焼き付き度合いの情報を前記切替タイミング制御部に与える焼き付き度合い把握部とを更に有し、
前記切替タイミング制御部は、前記差分値が大きいとき又は焼き付き度合いが大きいとき、前記高輝度画面を選択する機会を増やし、前記差分値が小さいとき又は焼き付き度合いが小さいとき、前記高輝度画面を選択する機会を減らす
ことを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項11】
請求項1に記載の焼き付き補正装置において、
表示デバイスに供給される階調値に基づいて、各画素とターゲット画素との劣化量差を算出する劣化量差算出部と、
前記劣化量差の累積値を格納する累積劣化量差蓄積部と、
前記累積劣化量差蓄積部に格納された累積劣化量差の解消に必要な補正量を画素毎に算出する補正量算出部と、
算出された補正量に基づいて、前記画面切替部より与えられる階調値を画素毎に補正する劣化量差補正部と
を有することを特徴とする焼き付き補正装置。
【請求項12】
自発光素子がマトリクス状に配置された表示デバイスと、
画面全体が同じ高輝度値で構成される高輝度画面を生成する高輝度画面生成部と、
前記高輝度画面と入力画像のいずれか一方を選択的に出力する画面切替部と、
事前に定めたユーザーイベントの検出時、前記画面切替部を制御して前記高輝度画面を出力させる切替タイミング制御部と
を有することを特徴とする自発光表示装置。
【請求項13】
自発光素子がマトリクス状に配置された表示デバイスの焼き付き補正動作を、コンピュータの処理動作を通じて実現するプログラムであって、
画面全体が同じ高輝度値で構成される高輝度画面を生成する処理と、
事前に定めたユーザーイベントを検出する処理と、
前記ユーザーイベントの検出時には、入力画像に替えて、前記高輝度画面を前記表示デバイスに出力させる処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−286295(P2007−286295A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112848(P2006−112848)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】