説明

焼結助剤、誘電体磁器組成物の製造方法及び電子部品の製造方法

【課題】 低温で焼成しても各種電気特性を損なうことなく緻密化しており、かつ誘電体粒子の粒径を微細化でき、薄層化に対応した誘電体磁器組成物を得ることができる焼結助剤を用いた誘電体磁器組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、ZrO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の各含有量が、1モルのSiOに対して、ZrO:0.7〜1.3モルである焼結助剤を、前記主成分100モルに対して1〜7モル(但し1モルと7モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば誘電体磁器組成物を製造するのに適した焼結助剤と、例えば積層セラミックコンデンサの誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物の製造方法と、該方法により製造された誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる電子部品の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの誘電体層を構成する誘電体磁器組成物として、耐還元性の誘電体磁器組成物が開発された。この耐還元性の誘電体磁器組成物によれば、低酸素分圧である中性〜還元性雰囲気下で焼成しても半導体化せず、内部電極の材料としてNiやCuなどの卑金属を用いることができる。
【0003】
この種の誘電体磁器組成物としては、CaSr−ZrTi−Mn系材料が知られており(特許文献1参照)、通常は、主成分としての誘電体酸化物の他に、焼結性を促進するための焼結助剤を加えた上で、例えば1300℃以上の高温で焼成されていた。
【0004】
しかしながら、焼成温度が高いと、第1に、内部電極の材料であるNiなどの卑金属の融点以上、あるいはそれに近い温度域となり、その結果、誘電体磁器組成物とともに同時焼成される卑金属粒子の溶融、球状化が進み、内部電極層に途切れを生じる不都合がある。内部電極層が途切れると、得られるコンデンサの比誘電率が低下し、静電容量の低下を招き、最終的には高容量化・薄層化に対応できない。第2に、焼成炉そのものの価格も高価な上に、用いる焼成炉の損傷も激しくなり、焼成炉の保守や管理コストなどが使用時間の経過につれて増加するとともに、磁器化に要するエネルギーコストが膨大となる。
【0005】
このような理由から、焼成温度をできる限り低くすることが望ましい。
【0006】
その一方で、焼成温度をあまりに低くしすぎると、磁器化を行うにあたり緻密化できず、十分な特性(例えば十分な比誘電率と優れた誘電特性(容量温度変化率が小さいなど))を持つ誘電体磁器組成物が得られない。
【0007】
したがって、誘電体磁器組成物の緻密化を損なわずに十分な特性を持つことができる範囲で、より一層低温(1300℃以下、好ましくは1200℃以下)で焼成することが求められ、幾つかの提案がなされている。
【0008】
たとえば、特許文献2では、次に示す誘電体磁器組成物が開示してある。この誘電体磁器組成物は、(MeO)TiOで示される組成の誘電体酸化物(ただし、MeはSr、CaおよびSr+Caから選択された金属、kは1.00〜1.04)を主成分とし、この主成分100重量部に対して、ガラス成分として、LiO、M(ただし、MはBaO、CaOおよびSrOから選択される少なくとも1種の金属酸化物)およびSiOを所定のモル比で用いたものを0.2〜10.0重量部含有する。すなわち、所定組成のガラス成分が焼結助剤として含有してある。
【0009】
特許文献3では、次に示す誘電体磁器組成物が開示してある。この誘電体磁器組成物は、{(CaSr1−x )O}{(TiZr1−y )O}で示される組成の誘電体酸化物(ただし、0≦x≦1、0≦y≦0.10、0.75≦m≦1.04)を主成分とし、この主成分に対して所定量の副成分を含有する。副成分は、MnO換算で0.2〜5モル%のMn酸化物と、Al換算で0.1〜10モル%のAl酸化物と、0.5〜15モル%の{(BaCa1−z )O}SiO(ただし、0≦z≦1、0.5≦v≦4.0)とで構成される。すなわち、ケイ酸バリウム/カルシウムとが焼結助剤として含有してある。
【0010】
特許文献4では、次に示す誘電体磁器組成物が開示してある。この誘電体磁器組成物は、{(CaSr1−x )O}{(TiZr1−y )O}で示される組成の誘電体酸化物(ただし、0.35≦x≦0.5、0.9≦y、1.00≦m≦1.04)を主成分とし、この主成分に対して所定量の副成分を含有する。副成分は、0.01〜0.05モル%のLiSiOと、0.01〜0.05モル%のMF(ただし、MはCa、Sr、BaおよびMgから選ばれる少なくとも1種の元素)とで構成される。すなわち、ケイ酸リチウムと、アルカリ土類金属のフッ化物とが焼結助剤として含有してある。
【0011】
特許文献5では、次に示す誘電体磁器組成物が開示してある。この誘電体磁器組成物は、{(CaSr1−x )O}{(TiZr1−y )O}で示される組成の誘電体酸化物(ただし、0≦x≦1.0、0≦y≦0.2、0.9≦m≦1.1)を含んで主成分とし、この主成分に対して所定量の副成分を含有する。副成分は、LiO1/2 換算でaモル%(ただし、aは0.01〜0.8)のLi酸化物と、MO換算でaモル%(ただし、aは0.01〜0.8)のM酸化物(ただし、MはCa、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素)と、BO3/2 換算で(1−a)モル%のB酸化物と、SiO換算で(1−a)モル%のSi酸化物とで構成される。すなわち、Li酸化物と、M酸化物と、B酸化物と、Si酸化物とで構成されるものが焼結助剤として含有してある。
【0012】
特許文献6では、次に示す誘電体磁器組成物が開示してある。この誘電体磁器組成物は、{(CaSr1−x )O}{(TiZr1−y )O}で示される組成の誘電体酸化物(ただし、0.30≦x≦0.50、0.80≦y≦1.00、0.95≦m≦1.08)を主成分とし、この主成分に対して所定量の副成分を含有する。副成分は、B、SiOおよびLiOから選ばれる少なくとも1種の化合物で構成される。すなわち、B酸化物、Si酸化物およびLi酸化物から選ばれる少なくとも1種の化合物が焼結助剤として含有してある。
【0013】
特許文献7では、次に示す誘電体磁器組成物が開示してある。この誘電体磁器組成物は、{(CaSr1−x )O}{(TiZr1−y )O}で示される組成の誘電体酸化物(ただし、x=0、0.01≦y≦0.25、0.8≦m≦1.3)を主成分とし、この主成分に対して所定量の副成分を含有する。副成分は、B、SiOおよびMO(ただし、MはCa、Sr、Ba、MgおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素)が特定割合で含有される。すなわち、B酸化物と、Si酸化物と、M酸化物とで構成されるものが焼結助剤として含有してある。
【0014】
ところで、近年、電子部品の小型大容量化の要求が高まっており、一対の内部電極間に存在する誘電体層(層間誘電体層)の厚みは薄くなる一途をたどっている。層間誘電体層の厚みを薄くするには、層間誘電体1層あたりの粒子に許容される大きさを小さくせざるを得ない。つまり、層間誘電体層を構成する誘電体粒子(焼結体粒子)の微細化が求められることとなる。
【0015】
特許文献8では、{(Sr1−x Ca)O}・(Ti1−y Zr)O(0.94<m<1.08、0≦x≦1.00、0≦y≦0.20)と、V、Nb、W、TaおよびMoの酸化物および/または焼成後にこれらの酸化物になる化合物から選ばれる1種類以上を含む第1副成分(0.01モル≦第1副成分<2モル)とを少なくとも有する誘電体磁器組成物が開示されており、m<1にすると焼成温度が下がるが、焼結体粒径が大きくなり(比較例で提示)、薄層化には不向きである。m=1.05にした場合、焼成温度は実施例に示されているように1380℃にまで高くなる。
【0016】
以上より、低温で焼成しても、焼成後の誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の焼結体粒径を微細化できる技術を開発することが強く求められている。
【0017】
【特許文献1】特開昭60−131708号公報
【特許文献2】特公昭62−24388号公報
【特許文献3】特開平10−335169号公報
【特許文献4】特開平5−17222号公報
【特許文献5】特開平5−217426号公報
【特許文献6】特開平4−206109号公報
【特許文献7】特開昭63−131412号公報
【特許文献8】特開2002−80278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、低温で焼成しても各種電気特性を損なうことなく緻密化しており、かつ誘電体粒子の粒径を微細化でき、薄層化に対応した誘電体磁器組成物を得ることができる焼結助剤と、該焼結助剤を用いた誘電体磁器組成物の製造方法と、該方法により得られる誘電体磁器組成物を誘電体層として用いるチップコンデンサなどの電子部品の製造方法とを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、第1の観点によれば、
Sr、Ca、Ti及びZrを主成分とする誘電体磁器組成物を製造するために用いられる焼結助剤であって、
ZrO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、ZrO:0.7〜1.3モルである焼結助剤が提供される。
第1の観点の焼結助剤では、好ましくは、前記ガラスがMO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)をさらに含み、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、MO:0.3〜1.5モルである。
【0020】
第2の観点によれば、
Sr、Ca、Ti及びZrを主成分とする誘電体磁器組成物を製造するために用いられる焼結助剤であって、
CaO、TiO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の各含有量が、1モルのSiOに対して、CaO:0.5〜0.8モル、TiO:0.4〜0.6モルである焼結助剤が提供される。
【0021】
第3の観点によれば、
Sr、Ca、Ti及びZrを主成分とする誘電体磁器組成物を製造するために用いられる焼結助剤であって、
WO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、WO:0.5〜1.3モルである焼結助剤が提供される。
【0022】
第3の観点の焼結助剤では、好ましくは、前記ガラスがMO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)をさらに含み、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、MO:0.3〜1.5モルである。
【0023】
第1の観点によれば、
誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
上記第1の観点の焼結助剤を、前記主成分100モルに対して1〜7モル(但し1モルと7モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
【0024】
第2の観点によれば、
誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
上記第2の観点の焼結助剤を、前記主成分100モルに対して2〜10モル(但し2モルと10モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
【0025】
第3の観点によれば、
誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
上記第3の観点の焼結助剤を、前記主成分100モルに対して0.7〜9モル(但し0.7モルと9モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
【0026】
好ましくは、前記誘電体酸化物が、組成式〔(Sr1−x Ca)O〕m 〔(Ti1−y Zr)O〕で示され、該式中の組成モル比を表す記号x、y、mが、0.2≦x≦0.4、0≦y≦0.2、0.999<m<1.1である。
【0027】
本発明によれば、誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、卑金属を主成分とする内部電極層とを有する電子部品を製造する方法であって、誘電体磁器組成物が、上記いずれかの方法により製造されることを特徴とする電子部品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明者らは、従来から使用されている焼結助剤に代え、特定の焼結助剤を用いることにより、例えば1200℃以下の低温で焼成しても、内部電極の途切れを生じさせず、各種電気特性を損なうことなく緻密化した誘電体磁器組成物及び電子部品を得ることができることを見出した。その結果、誘電体層の薄層化・電子部品の高容量化が図れる。この方法により得られる誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子(焼結体粒子)は、平均結晶粒径が2μm以下と微細に制御される。誘電体粒子の平均結晶粒径の微細化によって、層間厚みが例えば4μm以下といった薄層化に対応可能となる。
【0029】
電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、積層圧電素子、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。ここにおいて、図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【0031】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に複数積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。コンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、通常、(0.4〜5.6mm)×(0.2〜5.0mm)×(0.2〜1.9mm)程度である。
【0032】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0033】
誘電体層2は、本発明の方法により製造される誘電体磁器組成物を含有する。本発明の一実施形態に係る方法により得られる誘電体磁器組成物は、たとえば、組成式〔(Sr1−x Ca)O〕m 〔(Ti1−y Zr)O〕で示される誘電体酸化物を含む主成分を有する。この際、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0034】
上記式中、xは、0≦x≦1.0、好ましくは0.1≦x≦0.5、より好ましくは0.2≦x≦0.4である。xはCa原子数を表し、x、すなわちCa/Sr比を変えることで結晶の相転移点を任意にシフトさせることが可能となる。そのため、容量温度係数や比誘電率を任意に制御することができる。xを0.2≦x≦0.4とすることにより、結晶の相転移点が室温付近に存在し、静電容量の温度特性を向上(X6S特性を満足)させることができる。xが大きすぎると、比誘電率が低くなってしまう傾向にある。一方、xが小さすぎると容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0035】
上記式中、yは、0≦y≦0.4、好ましくは0≦y≦0.2、より好ましくは0≦y≦0.1である。yはZr原子数を表すが、TiOに比べ還元されにくいZrOを置換していくことにより比誘電率が低下する傾向にあるが、耐還元性がさらに増していく傾向がある。ただし、本発明においては、TiとZrとの比率は任意であり、一方だけを含有するものであってもよいが、特にyを0≦y≦0.20とすることにより、比誘電率の低下を抑制することができる。
【0036】
上記式中、mは、特に限定されないが、好ましくは0.999超、好ましくは1.005以上、より好ましくは1.02以上である。mが大きくなるにつれて、焼成時における誘電体粒子の粒成長が抑制される傾向にあり、その結果、焼成後の誘電体粒子の微細化が期待できる。mが小さすぎると、後述する特定の焼結助剤を用いても誘電体粒子の微細化が困難となる。
【0037】
一方で、mが大きくなりすぎると、焼成温度を下げることができない。つまりmが大きくなりすぎたケースで低温焼成すると、緻密化した焼結体を得ることができず、結果的に特性劣化を招くこととなる。この観点からは、mを、好ましくは1.1未満、より好ましくは1.05以下とすることが望ましい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る方法により得られる誘電体磁器組成物は、Mnの酸化物を含む第1副成分を、さらに含有していることが好ましく、この第1副成分に加えて、Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第2副成分、およびV、Nb、W、TaおよびMoの酸化物を含む第3副成分を、さらに含有していることが、より好ましい。
【0039】
第1副成分(Mnの酸化物)は、焼結を促進する効果と高温負荷寿命を改善する効果、およびIR不良率の悪化を抑制する効果を有する。第1副成分の含有量は、上記主成分100モルに対して、MnO換算で、好ましくは0〜4モル(但し0モルを除く)、より好ましくは0.1〜1モルである。第1副成分の含有量が少なすぎると、高温負荷寿命の改善効果が十分に得られない場合がある。一方、含有量が多すぎると、IR不良率が悪化してしまう場合がある。
【0040】
第2副成分(Rの酸化物)は、高温負荷寿命を改善する効果を有する。第2副成分の含有量は、上記主成分100モルに対して、R元素換算で、好ましくは0〜6モル(但し0モルを除く)、より好ましくは0〜2モルである。第2副成分の含有量が少なすぎると、上記効果が得られなくなる。一方、多すぎると、焼成温度が高くなりすぎる傾向にある。なお、R元素の中では、Y、Dy、Ho、Ybが好ましく、特に、Yが好ましい。
【0041】
第3副成分(V、Nb、W、TaおよびMoの酸化物)は、高温負荷寿命を改善する効果を有する。第3副成分の含有量は、上記主成分100モルに対して、酸化物中の金属元素換算で、好ましくは0〜2モル(但し0モルを除く)、より好ましくは0.005〜0.1モルである。第3副成分の含有量が少なすぎると、上記効果が得られなくなる。一方、多すぎると、IRが低下する傾向にある。なお、第3副成分のなかでは、特に高温負荷寿命の改善効果が高いという理由より、Vの酸化物が好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態に係る方法により得られる誘電体磁器組成物は、焼結助剤を含有する。その詳細は後述する。
【0043】
誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、本実施形態では、誘電体層2の厚みは、好ましくは4μm以下、より好ましくは2μm以下に薄層化されている。また、誘電体層2は、誘電体粒子(焼結体粒子とも言うことがある)と粒界相とで構成される。本実施形態では、誘電体層2を構成する誘電体粒子の平均結晶粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下に微細化されている。本実施形態の誘電体層2は、主成分のmが0.999超であるため、誘電体粒子の微細化が可能となる。平均結晶粒径が微細化されているので、製品の薄層化に対応することが容易であり、その結果、高容量化を実現することができる。なお、誘電体粒子の平均結晶粒径は、たとえば、誘電体粒子のSEM像より、誘電体粒子の形状を球と仮定して平均粒子径を測定するコード法により測定することができる。粒界相は、通常、誘電体材料あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分とし、通常ガラスないしガラス質で構成されている。
【0044】
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0045】
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0046】
本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法を用いて製造される積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0047】
まず、誘電体層用ペースト、内部電極用ペースト、外部電極用ペーストをそれぞれ製造する。
【0048】
誘電体層用ペーストを製造するに際しては、まず、これに含まれる誘電体磁器組成物原料を準備する。誘電体磁器組成物原料には、主成分原料と、副成分原料が含まれる。
【0049】
主成分原料としては、上述した組成の誘電体酸化物が用いられる。
【0050】
副成分原料としては、Mnの酸化物及び/又は焼成後にMnの酸化物になる化合物、Rの酸化物及び/又は焼成後にRの酸化物になる化合物、V、Nb、W、TaおよびMoの酸化物及び/又は焼成後にこれらの酸化物になる化合物、並びに焼結助剤が用いられる。
【0051】
本発明では、組成式{(Ba,Ca1−w )O}SiOで示される複合酸化物やCaSiOなどの従来の焼結助剤に代えて、特定の焼結助剤を用いる。この焼結助剤は、本発明の第1〜第3の観点に係る焼結助剤を含有する。
【0052】
第1の観点に係る焼結助剤は、ZrO及びSiOを主成分とするガラスで構成される。ガラス中の各含有量は、1モルのSiOに対して、ZrO:好ましくは0.7〜1.3モル(より好ましくは0.8〜1.1モル)である。1モルのSiOに対するZrO含有量が多すぎると、ZrOが偏析する不都合があり、少なすぎるとSiOのみの添加と変わらず、焼成温度の低温化が不十分である。
【0053】
第1の観点に係る焼結助剤において、前記ガラスは、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)をさらに含んでいても良い。好ましくは、CaO又はMgOを含む。この場合の前記ガラス中の含有量は、1モルのSiOに対して、MO:好ましくは0.3〜1.5モル(より好ましくは0.7〜1.3モル)である。
【0054】
第1の観点の焼結助剤の添加量は、主成分100モルに対して、1〜7モル(但し1モルと7モルを除く)、好ましくは2〜5モルである。添加量をこの範囲にすることで、比誘電率や温度特性を低下させることなく、より低い温度で焼成できる。
【0055】
第2の観点に係る焼結助剤は、CaO、TiO及びSiOを主成分とするガラスで構成される。ガラス中の各含有量は、1モルのSiOに対して、CaO:好ましくは0.5〜0.8モル(より好ましくは0.5〜0.7モル)、TiO:好ましくは0.4〜0.6モル(より好ましくは0.45〜0.55モル)である。1モルのSiOに対するCaO含有量が多すぎると、十分な低温焼成効果を得ることができない不都合があり、少なすぎると低温化が不十分である。1モルのSiOに対するTiO含有量が多すぎると焼結体の粒径が大きくなる不都合があり、少なすぎると低温焼成の効果が少なくなる。
【0056】
第2の観点の焼結助剤の添加量は、主成分100モルに対して、2〜10モル(但し2モルと10モルを除く)、好ましくは4〜9モルである。添加量をこの範囲にすることで、比誘電率や温度特性を低下させることなく、より低い温度で焼成できる。
【0057】
第3の観点に係る焼結助剤は、WO及びSiOを主成分とするガラスで構成される。ガラス中の各含有量は、1モルのSiOに対して、WO:好ましくは0.5〜1.3モル(より好ましくは0.7〜1.2モル)である。1モルのSiOに対するWO含有量が多すぎると低温焼成化が不十分で、しかも絶縁抵抗が低下するという不都合があり、少なすぎると低温焼成化が不十分である。
【0058】
第3の観点に係る焼結助剤において、前記ガラスは、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)をさらに含んでいても良い。好ましくは、SrOを含む。この場合の前記ガラス中の含有量は、1モルのSiOに対して、MO:好ましくは0.3〜1.5モル(より好ましくは0.7〜1.2モル)である。
【0059】
第3の観点の焼結助剤の添加量は、主成分100モルに対して、0.7〜9モル(但し0.7モルと9モルを除く)、好ましくは2〜7モルである。添加量をこの範囲にすることで、比誘電率や温度特性を低下させることなく、より低い温度で焼成できる。
【0060】
上述した第1〜第3の観点に係る焼結助剤では、上記成分の他に、Mn,Cr,Mgなど他の成分が、さらに含有してあってもよい。この場合において、焼結助剤中のその他の成分の含有量は、1モルのSiOに対して、好ましくは0.2モル程度以下である。
上述した第1〜第3の観点に係る焼結助剤は、例えば以下のようにして製造される。まず、所定組成が得られるように、各成分の酸化物または炭酸化物などの原料を水混合した後、600〜1200℃、空気中で3時間焼成した後、粉砕することにより製造することができる。焼成温度が低すぎると化合物とならず、高すぎると助剤粒径が大きくなり過ぎ、その後の粉砕で粉砕することが困難になる場合がある。粉砕は、粉砕後の焼結助剤の粒径が、例えば0.3μm以下となるように行うことが好ましい。
なお、本発明では、誘電体磁器組成物の製造の際に、上述した第1〜第3の観点に係る焼結助剤を複数、混合して添加してもよい。
【0061】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0062】
誘電体磁器組成物原料としては、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。誘電体磁器組成物原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0063】
塗料化する前の状態で、誘電体磁器組成物粉末の粒径は、通常、平均粒径0.0005〜5μm程度である。
【0064】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0065】
誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0066】
内部電極用ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。
【0067】
外部電極用ペーストも、この内部電極用ペーストと同様にして調製される。
【0068】
上述した各ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0069】
印刷法を用いる場合は、誘電体ペーストおよび内部電極用ペーストをポリエチレンテレフタレート等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断したのち基板から剥離することでグリーンチップとする。これに対して、シート法を用いる場合は、誘電体ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極ペーストを印刷したのちこれらを積層してグリーンチップとする。そして、グリーンチップを脱バインダ処理および焼成する。
【0070】
脱バインダ処理は、内部電極層ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、脱バインダ雰囲気中の酸素分圧を10−45 〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると、脱バインダ効果が低下する。また酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0071】
また、それ以外の脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、より好ましくは200〜350℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは2〜20時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とすることが好ましく、還元性雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0072】
グリーンチップの焼成雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよい。ただし、内部電極層用ペースト中の導電材にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、酸素分圧が好ましくは10−10 〜10−3Paの雰囲気で焼成を行う。内部電極層の導電材に卑金属を用いる場合において、焼成雰囲気の酸素分圧が前記範囲未満であると内部電極層の導電材が異常焼結を起こして途切れてしまうことがあり、焼成雰囲気の酸素分圧が前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0073】
グリーンチップの焼成温度は、グリーンチップの緻密化を十分に行え、しかも内部電極層の異常焼結による電極の途切れ、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、あるいは誘電体磁器組成物の還元が生じない範囲で適宜決定される。なぜなら、焼成温度があまりに低いとグリーンチップが緻密せず、焼成温度があまりに高いと内部電極が途切れたり、導電材の拡散により容量温度特性が悪化したり、誘電体の還元が生じてしまうからである。
【0074】
従来、グリーンチップを十分に緻密化させるために、組成式{(Ba,Ca1−w )O}SiOで示される複合酸化物やCaSiOなど焼結助剤を用いて、1300℃を超える温度で焼成する必要があった。これに対し、本実施形態では、低温焼結可能な上述した第1〜第3の観点の焼結助剤を含有していることから、好ましくは1250℃以下、より好ましくは1200℃以下の低温で行うことができる。これにより、焼成炉の損傷を防止でき、保守や管理コスト、ひいてはエネルギーコストをも効果的に抑制でき、しかもクラックの発生や比誘電率の低下などの不都合も防止しうる。
【0075】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0076】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサチップの焼結体(コンデンサ素子本体)にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0077】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−4Pa以上、特に10−4〜10−1Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0078】
アニールの際の保持温度は、1200℃以下、特に500〜1200℃とすることが好ましい。保持温度が前記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0079】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0080】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0081】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、アニールの保持温度に達したときに雰囲気を変更してアニールを行なうことが好ましい。一方、これらを独立して行なう場合、焼成に際しては、脱バインダ処理時の保持温度までNガスあるいは加湿したNガス雰囲気下で昇温した後、雰囲気を変更してさらに昇温を続けることが好ましく、アニール時の保持温度まで冷却した後は、再びNガスあるいは加湿したNガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、アニールに際しては、Nガス雰囲気下で保持温度まで昇温した後、雰囲気を変更してもよく、アニールの全過程を加湿したNガス雰囲気としてもよい。
【0082】
以上のようにして得られたコンデンサ焼成体に、たとえば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。このようにして本実施形態の積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0084】
例えば、本発明に係る方法により得られる誘電体磁器組成物は、積層セラミックコンデンサのみに使用されるものではなく、誘電体層が形成されるその他の電子部品に使用されても良い。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
実施例1
まず、誘電層を構成する誘電体磁器組成物を調製するための出発原料を準備した。主成分原料として、ゾルゲル法により得られた{(Sr1−x Ca)O}・(Ti1−y Zr)Oを、副成分原料として、MnO、Y、Vを、焼結助剤として、ガラス材料からなる表1に示す焼結助剤a〜hをそれぞれ準備し、ボールミルにより16時湿式混合し、乾燥させて誘電体磁器組成物粉末とした。
【0087】
焼結助剤は次のようにして作製した。まず、表1に示す所定組成が得られるように、各成分の酸化物または炭酸化物を水混合した後、1000℃、空気中で3時間焼成した。その後粉砕することにより作製した。
具体的には、たとえば、下記の表1中の試料番号g−1としてのSrO・WO・SiOは、以下の方法により作製した。すなわち、まず、原料となる酸化物または炭酸化物を、モル比で、SrO:WO:SiO=1:1:1となるように秤量した。そして、秤量した原料を、水混合し、温度1000℃、3時間の条件で大気中で焼成し、その後粉砕することにより作製した。なお、SrO・WO・SiOを構成するそれぞれの成分の分子量は、SrO:103.6194g/mol、WO:231.8482g/mol、SiO:60.0848g/molである。そして、試料番号g−1としてのSrO・WO・SiOの分子量を、これら各成分の分子量を合計した395.5524g/molとして、モル数を計算した。すなわち、SrO・WO・SiO1モルを、395.5524gとして計算した。
【0088】
【表1】

【0089】
なお、主成分中のx、y、m、各副成分の添加量、および焼結助剤の種類および添加量は、表2に示す量とした。
【0090】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP)5重量部と、溶媒としてのアルコール100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0091】
また、本実施例においては内部電極層用ペーストとして、コンデンサ電極用のペースト(導電性粒子として、主にNi粒子を含有するペースト)を使用した。
【0092】
これらのペーストを用い、以下のようにして、図1に示される積層セラミックコンデンサ1を製造した。
【0093】
まず、得られた誘電体層用ペーストを用いて、ドクターブレード法にて、PETフィルム上に、グリーンシートを形成した。次いで、このグリーンシートの上に、内部電極層用ペーストを用いて、スクリーン印刷により、電極パターンを印刷し、電極パターンの印刷されたグリーンシートを製造した。次いで、上記のグリーンシートとは別に、誘電体層用ペーストを用いて、ドクターブレード法にて、PETフィルム上に電極パターンの印刷されていないグリーンシートを製造した。
【0094】
そして、上記にて製造した各グリーンシートを次の順序にて積層し、得られた積層体を加圧することにより、グリーンチップを製造した。
【0095】
まず、電極パターンの印刷されていないグリーンシートを合計の厚みが300μmとなるまで積層した。その上に、電極パターンの印刷されたグリーンシートを5枚積層した。さらにその上に、電極パターンの印刷されていないグリーンシートを合計の厚さが300μmとなるまで積層し、積層体とした。そして、得られた積層体について、温度80℃、圧力1t/cmの条件で加熱・加圧して、グリーンチップを得た。
【0096】
次いで、得られたグリーンチップを所定のサイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0097】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:30℃/時間、保持温度:250℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0098】
焼成条件は、昇温速度:300℃/時間、保持温度:表2に示す各温度、温度保持時間:2時間、冷却速度:300℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNと3体積%のHとの混合ガス(酸素分圧:10−9Pa)とした。
【0099】
アニール条件は、昇温速度:300℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:300℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−1Pa)とした。
【0100】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウエッターを用いた。
【0101】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×1.0mmであり、誘電体層の厚み2μm、内部電極層の厚み2μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。
【0102】
得られた各コンデンサ試料について、誘電体層を構成する誘電体粒子(焼結体)の平均結晶粒径、容量温度特性(X6S特性)、および比誘電率を下記に示す方法により測定した。
【0103】
誘電体粒子の平均結晶粒径
まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨し、次いで、この研磨面にケミカルエッチングを施した。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行い、コード法によって、誘電体粒子の形状を球と仮定して、誘電体粒子の平均結晶粒径を測定した。平均結晶粒径は、測定点数250点の平均値とし、2μm以下を良好と判断した。結果を表2に示す。
【0104】
容量温度特性
コンデンサ試料について、−55℃、25℃および105℃の各温度における静電容量を測定し、25℃における静電容量に対する−55℃および105℃での静電容量の変化率△C(単位は%)を算出した。本実施例では、静電容量の変化率が、EIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC=±22%以内)を満たしている試料を良好とした。結果を表2に示す。なお、表2においては、X6S特性を満足する試料を「○」、X6S特性を満足しない試料を「×」とした。
【0105】
比誘電率(ε)
まず、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。比誘電率ε(単位なし)は、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率εが150以上を良好と判断した。結果を表2に示す。
【0106】
本実施例においては、焼成温度が1200℃以下、誘電体粒子(焼結体)の粒径が2μm以下、εが150以上となり、かつ、容量温度特性がX6Sを満たした試料を良好(表2中、「○」)と判断し、いずれかを満たさない試料を不良(表中、「×」)と判断して、表2に示した。
【0107】
【表2】

【0108】
表2から以下のことが理解される。
焼結助剤の種類に関し、本発明の対象外の焼結助剤a〜dを用いた場合(試料1〜4)では、焼成温度を1320℃の高温にしなければ緻密化できなかったことが分かる。特に本発明の対象外の焼結助剤hを用いた場合(試料20)では、焼成温度を1380℃にしても緻密化させることができなかった。これに対し、本発明の対象内の焼結助剤e,f,gを用いた場合、添加量を調整することで、焼成温度を1200℃以下の低温としても、緻密化でき、特性を得ることができることが分かる。
【0109】
本発明の対象内の焼結助剤eを用いた場合、主成分100モルに対する添加量が、1.0モルと少なすぎる場合(試料5)は、焼成温度を1350℃と高くしなければ緻密化できず、7.0モルと多すぎる場合(試料8)は、1200℃以下の低温焼成で緻密化できたが、εが低かった。これに対し、2.0〜5.0モルと適正である場合(試料6,7)は、焼成温度を1200℃以下の低温としても、緻密化でき、誘電体粒子の粒子径が2μm以下と微細化を図ることができると共に、εが150以上と高く、静電容量の温度特性がX6S特性を満足することが確認できた。
【0110】
本発明の対象内の焼結助剤e−1,e−2を用いた場合、主成分100モルに対する添加量が適正である場合(試料21,22)は、試料6,7と同様に、焼成温度を1200℃以下の低温としても、緻密化でき、誘電体粒子の粒子径が2μm以下と微細化を図ることができると共に、εが150以上と高く、静電容量の温度特性がX6S特性を満足することが確認できた。
【0111】
本発明の対象内の焼結助剤fを用いた場合、主成分100モルに対する添加量が、2.0モルと少なすぎる場合(試料9)は、焼成温度を1320℃と高くしなければ緻密化できず、10.0モルと多すぎる場合(試料13)は、1200℃以下の低温焼成で緻密化できたが、誘電体粒子の粒子径が5.1μmとなり微細化が図れなかった。これに対し、4.0〜9.0モルと適正である場合(試料10〜12)は、焼成温度を1200℃以下の低温としても、緻密化でき、誘電体粒子の粒子径が2μm以下と微細化を図ることができると共に、εが150以上と高く、静電容量の温度特性がX6S特性を満足することが確認できた。
【0112】
本発明の対象内の焼結助剤gを用いた場合、主成分100モルに対する添加量が、0.7モルと少なすぎる場合(試料14)は、焼成温度を1350℃と高くしなければ緻密化できず、9.0モルと多すぎる場合(試料17)は、1200℃以下の低温焼成で緻密化できたが、εが低かった。これに対し、2.0〜7.0モルと適正である場合(試料15,16)は、焼成温度を1200℃以下の低温としても、緻密化でき、誘電体粒子の粒子径が2μm以下と微細化を図ることができると共に、εが150以上と高く、静電容量の温度特性がX6S特性を満足することが確認できた。
【0113】
本発明の対象内の焼結助剤g−1を用いた場合、主成分100モルに対する添加量が適正である場合(試料23)は、試料15,16と同様に、焼成温度を1200℃以下の低温としても、緻密化でき、誘電体粒子の粒子径が2μm以下と微細化を図ることができると共に、εが150以上と高く、静電容量の温度特性がX6S特性を満足することが確認できた。
【0114】
主成分のmに関し、0.999と低すぎる場合(試料18)は、1200℃以下の低温焼成で緻密化できたが、誘電体粒子の粒子径が2.2μmとなり微細化が図れなかった。1.1と高すぎる場合(試料19)は、試料20と同様に、焼成温度を1380℃にしても緻密化させることができなかった。
【0115】
実施例2
本発明の対象内の焼結助剤eにおいて、1モルのSiOに対するZrOの含有量を、0.6モル、0.7モル、1.3モル、1.4モルと変化させた別の焼結助剤e−3,e−4,e−5,e−6を作製し、実施例1の試料6と同様に、評価した。
その結果、ZrOの含有量が0.6モルと少なすぎる焼結助剤e−3を用いた場合、焼成温度が1300℃と十分でなく、ZrOの含有量が1.4モルと多すぎる焼結助剤e−6を用いた場合、焼成温度が1250℃となり、εが150と低下する不都合が生じた。これに対し、ZrOの含有量が適正な焼結助剤e−4,e−5を用いた場合、実施例1の試料6と同様の結果が得られた。
【0116】
実施例3
本発明の対象内の焼結助剤fにおいて、
【0117】
1モルのSiOに対するTiOの含有量を、0.3モル、0.4モル、0.6モル、0.7モルと変化させた別の焼結助剤f−1,f−2,f−3,f−4を作製し、実施例1の試料10と同様に、評価した。その結果、TiOの含有量が0.3モルと少なすぎる焼結助剤f−1を用いた場合、焼成温度が1300℃と高くなる不都合を生じ、TiOの含有量が0.7モルと多すぎる焼結助剤f−4を用いた場合、粒成長を生じて粒径が2.1μmとなる不都合を生じた。これに対し、TiOの含有量が適正な焼結助剤f−2,f−3を用いた場合、実施例1の試料10と同様の結果が得られた。
【0118】
実施例4
本発明の対象内の焼結助剤gにおいて、1モルのSiOに対するWOの含有量を、0.4モル、0.5モル、1.3モル、1.4モルと変化させた別の焼結助剤g−2,g−3,g−4,g−5を作製し、実施例1の試料15と同様に、評価した。その結果、WOの含有量が0.4モルと少なすぎる焼結助剤g−2を用いた場合、焼成温度が1300℃と高くなる不都合を生じ、WOの含有量が1.4モルと多すぎる焼結助剤g−5を用いた場合、εが150と低下する不都合を生じた。これに対し、WOの含有量が適正な焼結助剤g−3,g−4を用いた場合、実施例1の試料15と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【符号の説明】
【0120】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、Ca、Ti及びZrを主成分とする誘電体磁器組成物を製造するために用いられる焼結助剤であって、
ZrO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、ZrO:0.7〜1.3モルである焼結助剤。
【請求項2】
前記ガラスがMO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)をさらに含み、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、MO:0.3〜1.5モルである請求項1に記載の焼結助剤。
【請求項3】
Sr、Ca、Ti及びZrを主成分とする誘電体磁器組成物を製造するために用いられる焼結助剤であって、
CaO、TiO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の各含有量が、1モルのSiOに対して、CaO:0.5〜0.8モル、TiO:0.4〜0.6モルである焼結助剤。
【請求項4】
Sr、Ca、Ti及びZrを主成分とする誘電体磁器組成物を製造するために用いられる焼結助剤であって、
WO及びSiOを主成分とするガラスで構成されており、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、WO:0.5〜1.3モルである焼結助剤。
【請求項5】
前記ガラスがMO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)をさらに含み、前記ガラス中の含有量が、1モルのSiOに対して、MO:0.3〜1.5モルである請求項4に記載の焼結助剤。
【請求項6】
誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
請求項1または2に記載の焼結助剤を、前記主成分100モルに対して1〜7モル(但し1モルと7モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
請求項3に記載の焼結助剤を、前記主成分100モルに対して2〜10モル(但し2モルと10モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
誘電体酸化物を含む主成分と、焼結助剤とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
請求項4または5に記載の焼結助剤を、前記主成分100モルに対して0.7〜9モル(但し0.7モルと9モルを除く)添加して、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
前記誘電体酸化物が、組成式〔(Sr1−x Ca)O〕m 〔(Ti1−y Zr)O〕で示され、該式中の組成モル比を表す記号x、y、mが、0.2≦x≦0.4、0≦y≦0.2、0.999<m<1.1である、請求項6〜8のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、卑金属を主成分とする内部電極層とを有する電子部品を製造する方法であって、
誘電体磁器組成物が、請求項6〜9のいずれかの方法により製造されることを特徴とする電子部品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−1823(P2007−1823A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185296(P2005−185296)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】