焼結発光体、発光装置、照明装置、車両用前照灯、及び焼結発光体の作製方法
【課題】発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体を実現する。
【解決手段】発光部7は、セラミックス材料と半導体レーザ3から出射されたレーザ光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させたものであり、セラミックス材料は、アルミナまたは窒化アルミニウムを含み、発光部7は、セラミックス材料、蛍光体、及びバインダの混合物を射出成型し、焼結したものであり、蛍光体粒子16は、酸窒化物蛍光体またはナノ粒子蛍光体である。
【解決手段】発光部7は、セラミックス材料と半導体レーザ3から出射されたレーザ光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させたものであり、セラミックス材料は、アルミナまたは窒化アルミニウムを含み、発光部7は、セラミックス材料、蛍光体、及びバインダの混合物を射出成型し、焼結したものであり、蛍光体粒子16は、酸窒化物蛍光体またはナノ粒子蛍光体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度光源として機能する焼結発光体、その焼結発光体を備えた発光装置並びに、当該発光装置を備えた照明装置、車両用前照灯、及び焼結発光体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光源として発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)や半導体レーザ(LD;Laser Diode)等の半導体発光素子を用い、これらの励起光源から生じた励起光を、蛍光体を含む発光部に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いる発光装置の研究が盛んになってきている。
【0003】
このような発光装置に関する技術の例として特許文献1に開示された灯具がある。この灯具では、高輝度光源を実現するために、励起光源として半導体レーザを用いている。半導体レーザから発振されるレーザ光は、コヒーレントな光であるため、指向性が強く、当該レーザ光を励起光として無駄なく集光し、利用することができる。このような半導体レーザを励起光源として用いた発光装置(LD発光装置と称する)を車両用ヘッドランプに好適に適用することができる。励起光源として半導体レーザを用いることにより、LEDでは実現し得なかった高輝度の光源を実現できる。
【0004】
このようなレーザ光を励起光として用いた場合、微小な発光部、すなわち微小な体積の発光部において、発光部に照射されて吸収される励起光のうちの、蛍光体により蛍光に変換されること無く熱に変換されてしまう成分が、発光部の温度を容易に上昇させ、その結果、発光部の特性低下や熱による損傷を引き起こしてしまう。
【0005】
この問題を解決するために特許文献2の発明では、波長変換部材(発光部に相当)に熱的に接続された透光性で板状の熱伝導部材を設け、この熱伝導部材により波長変換部材の発熱を軽減している。
【0006】
また、特許文献3の発明では、波長変換部材を円筒形状のフェルールで保持し、このフェルールにワイヤ状の熱伝導部材を熱的に接続することにより波長変換部材の発熱を軽減している。
【0007】
また、特許文献4の発明では、光変換部材(発光部に相当)の、半導体発光素子が位置する側に、冷媒が流れる流路を有する放熱部材を設け、光変換部材を冷却している。
【0008】
なお、光源としての高出力LEDチップの表面に透光性のヒートシンクを熱的に接続し、高出力LEDチップを冷却する構成が特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−150041号公報(2005年6月9日公開)
【特許文献2】特開2007−27688号公報(2007年2月1日公開)
【特許文献3】特開2007−335514号公報(2007年12月27日公開)
【特許文献4】特開2005−294185号公報(2005年10月20日公開)
【特許文献5】特表2009−513003号公報(2009年3月26日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、発光部自体の熱伝導率が低い場合には、熱伝導率の高い熱伝導部材を発光部に接触させても、発光部の放熱効果はあまり高まらないという問題が生じることを本発明の発明者は鋭意研究の結果見出した。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体、発光装置、照明装置、車両用前照灯、及び焼結発光体の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る焼結発光体は、上記の課題を解決するために、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させた焼結発光体を備えることを特徴としている。
【0013】
本発明では、発光体が、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結されている(以下、このような発光体を焼結発光体と称する場合もある)。
【0014】
したがって、セラミックス材料の熱伝導性に起因して熱伝導率が向上することから、発光体の熱抵抗は低下し、発光部からの放熱が効率良く行われる。また、発光部からの放熱が効率良く行われることから、発光部が熱によって劣化・損傷し、発光部の寿命が短くなる事態が避けられる。
【0015】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、次のような効果も得られる。つまり、本発明に係る焼結発光体は、セラミックス材料と蛍光体とがバインダを用いて焼結されてなるため、焼結発光体の内部に粒界が発生する。そのため、人間の目に損傷を与える可能性の高い、コヒーレントな成分を有するレーザ光が励起光として使用される場合には、粒界によってレーザ光が散乱される。そして、発光点の大きさが拡大することによって、焼結発光体、及びその焼結発光体を備える発光装置の安全性を高めることもできる。
【0016】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記セラミックス材料は、高い熱伝導性を有する構成であってよい。
【0017】
本発明に焼結発光体は、セラミックス材料が高い熱伝導性を有することで、さらに放熱効果を高めることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記セラミックス材料は、アルミナまたは窒化アルミニウムを含む構成であってよい。
【0019】
本発明に焼結発光体は、セラミックス材料がアルミナまたは窒化アルミニウムを含むことにより、透明性を有し、かつ、熱伝導率の高い焼結発光体を備えることができる。
【0020】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記焼結発光体は、上記セラミックス材料、上記蛍光体、及び上記バインダの混合物を射出成型し、焼結したものであってよい。
【0021】
溶融処理によって発光体を作製する従来の技術では、蛍光体が均一に分散せずに発光体の発光効率が低下するという問題があった。
【0022】
これに対して、発光体が、セラミックス材料、蛍光体、及びバインダの混合物を射出成型し、焼結したものであることにより、蛍光体の分散化を図ることができ、これにより発光体の発光効率が低下するという上記従来の問題を解消することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記セラミックス材料は、透光性を有する構成であってよい。
【0024】
本発明に焼結発光体は、セラミックス材料が透光性を有することにより、蛍光体の発光効率、すなわち、発光体の発光効率を高めることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記蛍光体は、酸窒化物蛍光体であってよい。
【0026】
酸窒化物蛍光体は、耐熱性に優れ、高い発光効率で安定した材料である。したがって、蛍光体が酸窒化物蛍光体であることにより、耐熱性に優れ、かつ高い発光効率の発光体を実現することができる。
【0027】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記蛍光体は、ナノ粒子蛍光体であってよい。
【0028】
上記構成により、発光部は、可視光の波長領域およびその近傍の光に対して透光性を有する。したがって、蛍光体から発光体の外部への放射効率を高くすることができる。
【0029】
さらに、本発明に係る発光装置は、上記励起光を出射する励起光源と、上記何れかに記載の焼結発光体と、を備える構成であってよい。
【0030】
上記構成により、本発明に係る発光装置は、上述した焼結発光体の種々の効果を実現することができる。
【0031】
さらに、本発明に係る発光装置では、上記励起光は、レーザ光であってよい。
【0032】
本発明に係る発光装置の発光体は、セラミックス材料と蛍光体とがバインダを用いて焼結されてなるものであるため、焼結発光体の内部に粒界が発生する。そのため、人間の目に損傷を与える可能性の高い、コヒーレントな成分を有するレーザ光は粒界によって散乱される。そして、発光点の大きさが拡大することによって、発光装置の安全性を高めることができる。
【0033】
さらに、本発明に係る発光装置では、上記焼結発光体と当接し、当該焼結発光体の熱を外部に放熱する熱伝導部材をさらに備える構成であってよい。
【0034】
上記の構成によれば、発光部の熱が当該発光部に当接する熱伝導部材へ移動することにより、発光部の放熱効率をさらに高めることができる。
【0035】
さらに、本発明に係る照明装置では、上記何れかの発光装置を備えている構成であってよい。
【0036】
さらに、本発明に係る車両用前照灯では、上記何れかの発光装置を備えている構成であってよい。
【0037】
本発明に係る発光装置は、照明装置や車両用前照灯などに好適に適用することができる。これにより、例えば本発明に係る発光装置を車両用前照灯に適用した場合、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる車両用前照灯を実現することができる。
【0038】
さらに、本発明に係る焼結発光体の作製方法では、上記何れかに記載の焼結発光体の作製方法であって、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とバインダとを混合する混合工程と、上記混合工程によって混合された混合物を焼結する焼結工程と、を含む構成であってよい。
【0039】
発光体を溶融処理によって作製する従来の技術では、蛍光体が均一に分散せずに発光体の発光効率が低下するという問題があった。
【0040】
これに対して、発光体が、上記の混合工程および焼結工程によって作製されることにより、蛍光体の分散化を図ることができ、それにより発光体の発光効率が低下するという上記従来の問題を解消することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る焼結発光体は、以上のように、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させた焼結発光体を備える構成である。
【0042】
それゆえ、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッドランプが有する発光部および熱伝導部材の詳細を示す図である。
【図2】上記ヘッドランプの構成を示す断面図である。
【図3】上記発光部の変更例を示す断面図である。
【図4】発光部において蛍光体粒子が分散している状態を示す概念図である。
【図5】(a)は、半導体レーザの回路図を模式的に示したものであり、(b)は、半導体レーザの基本構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るレーザダウンライトが備える発光ユニットおよび従来のLEDダウンライトの外観を示す概略図である。
【図7】上記レーザダウンライトが設置された天井の断面図である。
【図8】上記レーザダウンライトの断面図である。
【図9】上記レーザダウンライトの設置方法の変更例を示す断面図である。
【図10】上記LEDダウンライトが設置された天井の断面図である。
【図11】上記レーザダウンライトおよび上記LEDダウンライトのスペックを比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、本発明の照明装置の一例として、自動車用のヘッドランプ(発光装置、照明装置、車両用前照灯)1を例に挙げて説明する。ただし、本発明の照明装置は、自動車以外の車両・移動物体(例えば、人間・船舶・航空機・潜水艇・ロケットなど)のヘッドランプとして実現されてもよいし、その他の照明装置として実現されてもよい。その他の照明装置として、例えば、サーチライト、プロジェクター、家庭用照明器具を挙げることができる。
【0045】
また、ヘッドランプ1は、走行用前照灯(ハイビーム)の配光特性基準を満たしていてもよいし、すれ違い用前照灯(ロービーム)の配光特性基準を満たしていてもよい。
【0046】
(ヘッドランプ1の構成)
まず、図2を参照しながら、ヘッドランプ1の構成について説明する。図2は、ヘッドランプ1の構成を示す断面図である。同図に示すように、ヘッドランプ1は、半導体レーザアレイ2と、非球面レンズ4と、光ファイバー5と、フェルール6と、発光部(焼結発光体)7と、反射鏡8と、透明板9と、ハウジング10と、エクステンション11と、レンズ12と、熱伝導部材13と、冷却部14とを備えている。
【0047】
(半導体レーザアレイ2/半導体レーザ3)
半導体レーザアレイ2は、励起光を出射する励起光源として機能し、複数の半導体レーザ(励起光源)3を基板上に備えるものである。半導体レーザ3のそれぞれから励起光としてのレーザ光が発振される。なお、励起光源として複数の半導体レーザ3を用いる必要は必ずしもなく、半導体レーザ3を1つのみ用いてもよいが、高出力のレーザ光を得るためには、複数の半導体レーザ3を用いる方が容易である。
【0048】
半導体レーザ3は、1チップに1つの発光点を有するものであり、例えば、405nm(青紫色)のレーザ光を発振し、出力1.0W、動作電圧5V、電流0.6Aのものであり、直径5.6mmのパッケージに封入されているものである。半導体レーザ3が発振するレーザ光は、405nmに限定されず、その他の波長範囲にピーク波長を有するレーザ光であればよい。また、パッケージは直径5.6mmのものに限定されず、例えば、直径3.8mmや直径9mm、あるいはそれ以外であってもよく、熱抵抗がより小さいパッケージを選択することが好ましい。
【0049】
また、本実施形態では、励起光源として半導体レーザを用いたが、半導体レーザの代わりに、発光ダイオードを用いることも可能である。
【0050】
(非球面レンズ4)
非球面レンズ4は、半導体レーザ3から発振されたレーザ光(励起光)を、光ファイバー5の一方の端部である入射端部5bに入射させるためのレンズである。例えば、非球面レンズ4として、アルプス電気製のFLKN1 405を用いることができる。上述の機能を有するレンズであれば、非球面レンズ4の形状および材質は特に限定されないが、405nm近傍の透過率が高く、かつ耐熱性のよい材料であることが好ましい。
【0051】
(光ファイバー5)
(光ファイバー5の配置)
光ファイバー5は、半導体レーザ3が発振したレーザ光を発光部7へと導く導光部材であり、複数の光ファイバーの束である。この光ファイバー5は、上記レーザ光を受け取る複数の入射端部5bと、入射端部5bから入射したレーザ光を出射する複数の出射端部5aとを有している。複数の出射端部5aは、発光部7のレーザ光照射面7aにおける互いに異なる領域に対してレーザ光を出射する。
【0052】
例えば、複数の光ファイバー5の出射端部5aは、レーザ光照射面7aに対して平行な平面において並んで配置されている。このような配置により、出射端部5aから出射されるレーザ光の光強度分布における最も光強度が大きいところ(各レーザ光がレーザ光照射面7aに形成する照射領域の中央部分(最大光強度部分))が、発光部7のレーザ光照射面7aの互いに異なる部分に対して出射されるため、発光部7のレーザ光照射面7aに対してレーザ光を2次元平面的に分散して照射することができる。
【0053】
それゆえ、発光部7にレーザ光が局所的に照射されることにより、発光部7の一部が著しく劣化することを防止できる。
【0054】
なお、光ファイバー5は複数の光ファイバーの束(すなわち複数の出射端部5aを備えた構成)である必要は必ずしもなく、1本の光ファイバーであってもよい。
【0055】
(光ファイバー5の材質および構造)
光ファイバー5は、中芯のコアを、当該コアよりも屈折率の低いクラッドで覆った2層構造をしている。コアは、レーザ光の吸収損失がほとんどない石英ガラス(酸化ケイ素)を主成分とするものであり、クラッドは、コアよりも屈折率の低い石英ガラスまたは合成樹脂材料を主成分とするものである。例えば、光ファイバー5は、コアの径が200μm、クラッドの径が240μm、開口数NAが0.22の石英製のものであるが、光ファイバー5の構造、太さおよび材質は上述のものに限定されず、光ファイバー5の長軸方向に対して垂直な断面は矩形であってもよい。
【0056】
また、光ファイバー5は、可撓性を有しているため、半導体レーザ3と発光部7との相対位置関係を容易に変更できる。また、光ファイバー5の長さを調整することにより、半導体レーザ3を発光部7から離れた位置に設置することができる。
【0057】
それゆえ、半導体レーザ3を、冷却しやすい位置または交換しやすい位置に設置できるなど、ヘッドランプ1の設計自由度を高めることができる。
【0058】
なお、導光部材として光ファイバー以外の部材、または光ファイバーと他の部材とを組み合わせたものを用いてもよい。例えば、レーザ光の入射端部と出射端部とを有する円錐台形状(または角錐台形状)の導光部材を1つまたは複数用いてもよい。
【0059】
(フェルール6)
フェルール6は、光ファイバー5の複数の出射端部5aを発光部7のレーザ光照射面に対して所定のパターンで保持する。このフェルール6は、出射端部5aを挿入するための孔が所定のパターンで形成されているものでもよいし、上部と下部とに分離できるものであり、上部および下部の接合面にそれぞれ形成された溝によって出射端部5aを挟み込むものでもよい。
【0060】
このフェルール6は、反射鏡8から延出する棒状または筒状の部材などによって反射鏡8に対して固定されていてもよいし、熱伝導部材13に対して固定されていてもよい。フェルール6の材質は、特に限定されず、例えばステンレススチールである。また、1つの発光部7に対して、複数のフェルール6を配置してもよい。
【0061】
なお、光ファイバー5の出射端部5aが1つの場合には、フェルール6を省略することも可能である。
【0062】
(発光部7)
(発光部7の組成)
図1は、発光部7および熱伝導部材13の詳細を示す図である。発光部7は、出射端部5aから出射されたレーザ光を受けて発光するものである。その発光部7は、セラミックス材料、バインダ、及び蛍光体粒子16が混合され、射出成型され、その成型物が焼結されてなる。そして、蛍光体粒子16は、発光部7の内部に均一に分散されている。
【0063】
この発光部7は、青色、緑色および赤色に発光する蛍光体のいずれか1種類以上を含んでいる。半導体レーザ3は、405nm(青紫色)のレーザ光を発振するため、発光部7に当該レーザ光が照射されると複数の色が混合され白色光が発生する。それゆえ、発光部7は、波長変換材料であるといえる。
【0064】
なお、半導体レーザ3は、450nm(青色)のレーザ光(または、440nm以上490nm以下の波長範囲にピーク波長を有する、いわゆる「青色」近傍のレーザ光)を発振するものでもよく、この場合には、上記蛍光体は、黄色の蛍光体、または緑色の蛍光体と赤色の蛍光体との混合物である。黄色の蛍光体とは、560nm以上590nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。緑色の蛍光体とは、510nm以上560nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。赤色の蛍光体とは、600nm以上680nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。
【0065】
(バインダ)
バインダは、セラミックス材料および蛍光体粒子16に混合されて、その混合物が焼結されることにより、セラミックス材料と蛍光体粒子16とを接着させる。材料は特に限定されないが、比較的低温で分解し、分解後に残留灰分その他が残らないものを選ぶことが重要であり、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコン樹脂などを用いることができる。そして、セラミックス材料と蛍光体粒子16とをバインダを用いて焼結させることにより、発光部7中に粒界を発生させることができる。その詳細は後述する。
【0066】
(蛍光体)
発光部7の蛍光体は、酸窒化物系蛍光体またはIII−V族化合物半導体ナノ粒子蛍光体であることが好ましい。これらの材料は、半導体レーザ3から発せられた極めて強いレーザ光(出力および光密度)に対しての耐性が高く、レーザ照明光源に最適である。また、ナノ粒子蛍光体は、その粒径が可視光の波長領域の光の波長よりも2桁程度小さい。
【0067】
代表的な酸窒化物系蛍光体として、サイアロン蛍光体と通称されるものがある。サイアロン蛍光体とは、窒化ケイ素のシリコン原子の一部がアルミニウム原子に、窒素原子の一部が酸素原子に置換された物質である。窒化ケイ素(Si3N4)にアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)および希土類元素などを固溶させて作ることができる。
【0068】
一方、半導体ナノ粒子蛍光体の特徴の一つは、同一の化合物半導体(例えばインジュウムリン:InP)を用いても、その粒子径をナノメータオーダーのある範囲内で変更することにより、量子サイズ効果によって発光色を変化させることができる点である。例えば、InPでは、粒子サイズが3〜4nm程度のときに赤色に発光する(ここで、粒子サイズは透過型電子顕微鏡(TEM)にて評価した)。
【0069】
また、この半導体ナノ粒子蛍光体は、半導体ベースであるので蛍光寿命が短く、励起光のパワーを素早く蛍光として放射できるのでハイパワーの励起光に対して耐性が強いという特徴もある。これは、この半導体ナノ粒子蛍光体の発光寿命が10ナノ秒程度と、希土類を発光中心とする通常の蛍光体材料に比べて5桁も小さいためである。
【0070】
さらに、上述したように、発光寿命が短いため、レーザ光の吸収と蛍光体の発光とを素早く繰り返すことができる。その結果、強いレーザ光に対して高効率を保つことができ、蛍光体からの発熱を低減させることができる。
【0071】
なお、蛍光体の材料は上述した酸窒化物系蛍光体またはIII−V族化合物半導体ナノ粒子蛍光体に限定されず、その他の材料も適宜使用することができる。
【0072】
(発光部7の形状・サイズ)
発光部7の形状および大きさは、例えば、直径3.2mmおよび厚さ1mmの円柱形状であり、出射端部5aから出射されたレーザ光を、当該円柱の底面であるレーザ光照射面7aにおいて受光する。
【0073】
また、発光部7は、円柱形状でなく、直方体であってもよい。例えば、3mm×1mm×1mmの直方体である。この場合、半導体レーザ3からのレーザ光を受けるレーザ光照射面の面積は、3mm2である。日本国内で法的に規定されている車両用ヘッドランプの配光パターン(配光分布)は、鉛直方向に狭く、水平方向に広いため、発光部7の形状を、水平方向に対して横長(断面略長方形形状)にすることにより、上記配光パターンを実現しやすくなる。
【0074】
ここで必要とされる発光部7の厚みは、発光部7における封止材と蛍光体との割合に従って変化する。発光部7における蛍光体の含有量が多くなれば、レーザ光が白色光に変換される効率が高まるため発光部7の厚みを薄くできる。発光部7を薄くすれば熱抵抗が低下するという効果があるが、あまり薄くするとレーザ光が蛍光に変換されず外部に放射される恐れがある。蛍光体での励起光の吸収の観点からすると発光部の厚みは蛍光体の粒径の少なくとも10倍以上あることが好ましい。
【0075】
このため酸窒化物蛍光体を用いた発光部7の厚みとしては、0.2mm以上、2mm以下が好ましい。ただし、蛍光体の含有量を極端に多くした場合(典型的には蛍光体が100%)、厚みの下限はこの限りではない。
【0076】
この観点からするとナノ粒子蛍光体を用いた場合の発光部の厚みは0.01μm以上であればよいことになるが、封止材中への分散等、製造プロセスの容易性を考慮すると10μm以上、すなわち0.01mm以上が好ましい。逆に厚くしすぎると反射鏡8の焦点からのずれが大きくなり配光パターンがぼけてしまう。
【0077】
また、発光部7のレーザ光照射面7aは、平面である必要は必ずしもなく、曲面であってもよい。ただし、反射したレーザ光を制御するためには、レーザ光照射面7aは平面を有していることが好ましい。レーザ光照射面7aが曲面の場合、少なくとも曲面への入射角度が大きく変わるため、レーザ光が照射される場所によって、反射光の進む方向が大きく変わってしまう。そのため、レーザ光の反射方向を制御することが困難な場合がある。これに対してレーザ光照射面7aが平面であれば、レーザ光の照射位置が若干ずれたとしても反射光の進む方向はほとんど変わらないため、レーザ光が反射する方向を制御しやすい。場合によっては反射光が当たる場所にレーザ光の吸収材を置くなどの対応がとり易くなる。
【0078】
なお、レーザ光照射面7aがレーザ光の光軸に対して垂直である必要は必ずしもない。レーザ光照射面7aがレーザ光の光軸に対して垂直な場合、反射したレーザ光はレーザ光源の方向に戻るため、場合によってはレーザ光源にダメージを与える可能性もある。
【0079】
(セラミックス材料)
発光部7を構成するセラミックス材料は、高い熱伝導性を有するとともに、透光性を有する材料であることが好ましい。
【0080】
そのような条件を満たすセラミックス材料の一つとして、アルミナが挙げられる。アルミナは、密度が3.8g/cm3〜3.9g/cm3、熱伝導率が15W/mK〜40W/mKであり、安価で入手でき、かつ、酸・アルカリに強く信頼性が高く、発光部7を作製するうえで好適である。
【0081】
その他のセラミックス材料として、窒化アルミニウム、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。窒化アルミニウムは、密度が3.2g/cm3〜3.3g/cm3、熱伝導率が80W/mK〜250W/mKである。マグネシアは、密度が3.5g/cm3、熱伝導率が48W/mKである。窒化ケイ素は、密度が3.0g/cm3〜3.2g/cm3、熱伝導率が20W/mK〜90W/mKである。炭化ケイ素は、密度が3.0g/cm3〜3.2g/cm3、熱伝導率が60W/mK〜180W/mKである。このように、セラミックス材料は、上述したアルミナ等に限定されず、種々の種類を用いることができる。
【0082】
(反射鏡8)
反射鏡8は、発光部7から出射した光を反射することにより、所定の立体角内を進む光線束を形成するものである。すなわち、反射鏡8は、発光部7からの光を反射することにより、ヘッドランプ1の前方へ進む光線束を形成する。この反射鏡8は、例えば、金属薄膜がその表面に形成された曲面形状(カップ形状)の部材である。
【0083】
(透明板9)
透明板9は、反射鏡8の開口部を覆う透明な樹脂板である。この透明板9を、半導体レーザ3からのレーザ光を遮断するとともに、発光部7においてレーザ光を変換することにより生成された白色光(インコヒーレントな光)を透過する材質で形成することが好ましい。発光部7によってコヒーレントなレーザ光は、そのほとんどがインコヒーレントな白色光に変換される。しかし、何らかの原因でレーザ光の一部が変換されない場合も考えられる。このような場合でも、透明板9によってレーザ光を遮断することにより、レーザ光が外部に漏れることを防止できる。
【0084】
また、透明板9は、熱伝導部材13と共に、発光部7を固定するために用いられてもよい。すなわち、発光部7を熱伝導部材13と透明板9とで挟持してもよい。この場合、透明板9は、発光部7と熱伝導部材13との相対位置関係を固定する固定部として機能する。
【0085】
このとき、透明板9が、熱伝導率の高いもの(例えば、無機ガラス)であれば、透明板9も熱伝導部材として機能し、発光部7の放熱効果を得ることができる。
【0086】
なお、発光部7を熱伝導部材13のみで固定する場合には、透明板9を省略することも可能である。
【0087】
(ハウジング10)
ハウジング10は、ヘッドランプ1の本体を形成しており、反射鏡8等を収納している。光ファイバー5は、このハウジング10を貫いており、半導体レーザアレイ2は、ハウジング10の外部に設置される。半導体レーザアレイ2は、レーザ光の発振時に発熱するが、ハウジング10の外部に設置することにより半導体レーザアレイ2を効率良く冷却することが可能となる。したがって、半導体レーザアレイ2から発生する熱による、発光部7の特性劣化や熱的損傷等が防止される。
【0088】
また、半導体レーザ3は、万一故障した時のことを考慮して、交換しやすい位置に設置することが好ましい。これらの点を考慮しなければ、半導体レーザアレイ2をハウジング10の内部に収納してもよい。
【0089】
(エクステンション11)
エクステンション11は、反射鏡8の前方の側部に設けられており、ヘッドランプ1の内部構造を隠して、ヘッドランプ1の見栄えを良くするとともに、反射鏡8と車体との一体感を高めている。このエクステンション11も反射鏡8と同様に金属薄膜がその表面に形成された部材である。
【0090】
(レンズ12)
レンズ12は、ハウジング10の開口部に設けられており、ヘッドランプ1を密封している。発光部7が発生し、反射鏡8によって反射された光は、レンズ12を通ってヘッドランプ1の前方へ出射される。
【0091】
(熱伝導部材13)
熱伝導部材13は、発光部7における励起光が照射される面であるレーザ光照射面7aの側に配置され、発光部7の熱を受け取る透光性の部材であり、発光部7と熱的に(すなわち、熱エネルギーの授受が可能なように)接続されている。発光部7と熱伝導部材13とは、例えば、接着剤によって接続されていてもよい。
【0092】
熱伝導部材13は、板状の部材であり、その一方の端部が発光部7のレーザ光照射面7aに熱的に接触しており、他方の端部が冷却部14に熱的に接続されている。
【0093】
熱伝導部材13は、このような形状および接続形態を有することで、微小な発光部7を特定の位置で保持しつつ、発光部7から発生する熱をヘッドランプ1の外部に放熱する。
【0094】
発光部7の熱を効率良く逃がすために、熱伝導部材13の熱伝導率は、20W/mK以上であることが好ましい。また、半導体レーザ3から出射されたレーザ光は、熱伝導部材13を透過して発光部7に到達する。そのため、熱伝導部材13は、透光性の優れた材質からなるものであることが好ましい。
【0095】
これらの点を考慮して、熱伝導部材13の材質としては、サファイア(Al2O3)やマグネシア(MgO)、窒化ガリウム(GaN)、スピネル(MgAl2O4)が好ましい。これらの材料を用いることにより、熱伝導率20W/mK以上を実現できる。
【0096】
また、図1において符号13cで示す熱伝導部材13の厚み(熱伝導部材13における、レーザ光照射面7aの側に位置する第1面13aと、当該第1面13aに対向する第2面13bとの間の厚み)は、0.3mm以上、3.0mm以下が好ましい。0.3mmよりも薄いと発光部7の放熱を十分にできず、発光部7が劣化してしまう可能性がある。また、3.0mmを超えるような厚みにすると、照射されたレーザ光の熱伝導部材13における吸収が大きくなり、励起光の利用効率が顕著に下がる。
【0097】
熱伝導部材13を適切な厚みで発光部7に当接させることにより、特に発光部7での発熱が1Wを超えるような極めて強いレーザ光を照射しても、その発熱が迅速且つ効率的に放熱され、発光部7が損傷(劣化)してしまうことを防止できる。
【0098】
なお、熱伝導部材13は、折れ曲がりのない板状のものであってもよいし、折れ曲がった部分や湾曲した部分を有していてもよい。ただし、発光部7が接着される部分は、接着の安定性の観点から平面(板状)である方が好ましい。
【0099】
ここで、熱伝導部材13の熱吸収効果および放熱効果を高めるために、次の変更が有効である。
・放熱面積(発光部7との接触面積)を増加させる。
・熱伝導部材13の厚みを増加させる。
・熱伝導部材13の熱伝導率を高める。例えば、熱伝導率の高い材質を用いる。または、熱伝導部材13の表面に熱伝導率の高い部材(薄膜または板状部材など)を配設する。
【0100】
なお、熱伝導部材13の表面に金属薄膜などを形成する場合には、光束が低下する可能性がある。また、熱伝導部材13の表面を被覆したり、別の部材を配設したりする場合には、製造コストが増加する。
【0101】
(熱伝導部材13の変更例)
熱伝導部材13は、透光性を有する部分(透光部)と透光性を有さない部分(遮光部)とを有していてもよい。この構成の場合、透光部は発光部7のレーザ光照射面7aを覆うように配置され、遮光部はその外側に配置される。
【0102】
遮光部は、金属(例えば銅やアルミ)の放熱パーツであってもよいし、アルミや銀その他、照明光を反射させる効果のある膜が透光性部材の表面に形成されているものであってもよい。
【0103】
(冷却部14)
冷却部14は、熱伝導部材13を冷却する部材であり、例えば、アルミや銅などの金属からなる熱伝導性の高い放熱ブロックである。なお、反射鏡8が金属で形成されるのであれば、反射鏡8が冷却部14を兼ねていてもよい。または、冷却部14は、冷却液をその内部に循環させることによって熱伝導部材13を冷却する冷却装置であってもよいし、風冷によって熱伝導部材13を冷却する冷却装置(ファン)であってもよい。
【0104】
冷却部14を金属塊として実現する場合には、当該金属塊の上面に複数の放熱用のフィンを設けてもよい。この構成により、金属塊の表面積を増加させ、金属塊からの放熱をより効率良く行うことができる。
【0105】
なお、この冷却部14はヘッドランプ1にとって必須なものではなく、熱伝導部材13が発光部7から受け取った熱を熱伝導部材13から自然に放熱させてもよい。冷却部14を設けることで、熱伝導部材13からの放熱を効率良く行うことができ、特に、発光部7からの発熱量が3W以上の場合に、冷却部14の設置が有効となる。
【0106】
また、熱伝導部材13の長さを調整することにより、冷却部14を発光部7から離れた位置に設置することができる。この場合、図2に示すような、冷却部14がハウジング10に収納される構成に限らず、熱伝導部材13がハウジング10を貫くことにより、冷却部14をハウジング10の外部に設置することも可能となる。
【0107】
それゆえ、冷却部14が万が一故障した場合に修理または交換しやすい位置に設置することができ、ヘッドランプ1の設計自由度を高めることができる。
【0108】
(発光部7の変更例)
図3は、発光部7の変更例を示す断面図である。図3に示すように、発光部7の側面と当接する熱伝導壁(熱伝導部材)18を形成してもよい。この熱伝導壁18は、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、またはサファイア、無機ガラスなどの透光性および高熱伝導性を有する材質からなる壁面である。
【0109】
熱伝導壁18を第2の熱伝導部材として熱伝導部材13とともに設けることにより、発光部7の放熱効果をより高めることができる。
【0110】
(発光部7の作製方法)
次に発光部7の作製方法について説明する。
【0111】
まず、セラミックス材料と蛍光体粉末とバインダとが所定の割合となるようにそれぞれの粉末を秤量し、これらの粉末が均一に混ざり合うように混合する(混合工程)。この混合処理は、秤量した各粉末を容器に入れ、手動で揺動させることによって行ってもよいし、混合装置によって行ってもよい。
【0112】
ここで、セラミックス材料と蛍光体粉末とバインダとを混合する混合割合は、セラミックス材料+蛍光体とバインダとの比率が50:50〜70:30であることが好ましい。また、セラミックス中の蛍光体濃度は、目的の色温度、色度、使用する蛍光体の効率、粒子径によって異なるが、およそ1:10〜1:2とすることが好ましい。ただし、これらの混合割合に限定されるものではなく、適宜決めてよい。
【0113】
ここで、図4は、発光部7の内部に蛍光体粒子16が分散している状態を示す概念図であるが、発光部7における蛍光体の濃度が高い場合には、図4に示すように蛍光体粒子16が封止材の中に均一に分散していることが好ましい。蛍光体粒子16が一箇所に偏って存在すると、その箇所での発熱量が多くなり、発光効率の低下および発光部7の劣化が生じる可能性があるからである。
【0114】
なお、セラミックス材料を蛍光体と共に焼結するときには、セラミックス材料はできる限り高純度で、かつ、0.5μm〜2μmの粉末粒子を用いることが好ましい。
【0115】
混合工程の後、混合粉末を射出成型に供し、所望の形状に成型する(成型工程)。射出成型法は、射出されたままの状態で次の焼結工程に成型物を供することができるため、成型物に含まれる蛍光体の分散性が優れ、特に有効である。
【0116】
成型工程の後、まず脱バインダ処理を行う。ここでは400℃〜600℃程度の温度を加えることによりバインダを解重合反応などにより分解し蒸発させる。その後、成型された成型物を焼結させる(焼結工程)。ここで、成型物を焼結処理することにより、焼結物に粒界(結晶粒間の界面または粒子の境界面)を生成することができる。その粒界の存在は、次の効果を生じさせる。具体的には、人間の目に損傷を与える可能性の高い、コヒーレントな成分を有するレーザ光が励起光として使用される場合には、粒界によってレーザ光が散乱される。そして、発光点の大きさが拡大することによって、発光装置の安全性を高めることができる。
【0117】
なお、焼結工程における焼結温度は、セラミックス材料の融点の約0.6倍〜0.8倍とすることが好ましく、一般的には、800℃〜1500℃程度である。ただし、焼結助剤を用いることにより、焼結温度を低温化させることもできる。また、焼成時間は、例えば脱バインダ工程を500℃で3時間行った後に、1200℃を2時間保持するといった構成で実現されてよい。ただし、焼結時間は、ここで挙げた時間に限られず、適宜変更可能である。
【0118】
また、粒界のサイズは、光の散乱を発生させる領域である必要がある。例えば、そのサイズは、波長によって散乱の度合いが異なるレイリー散乱の領域(粒界サイズが1nm〜数10nm位)から、波長によらず散乱されるミー散乱の領域もしくは回折散乱の領域(可視光の波長とほぼ同程度の粒界サイズ数100nm〜50μm程度)までが考えられる。
【0119】
さらに、発光部を、射出成型工程および焼結工程ではなく、溶融処理によって作製する方法も考えられる。しかしながら、その場合、発光部の内部の蛍光体が均一に分散されないという問題が生じうる。さらに、焼結工程であれば発生する粒界が溶融処理では発生せず、そのため、レーザ光を分散させてヘッドランプ1の安全性を高めるという効果を奏することができなくなる。
【0120】
このような理由から、ヘッドランプ1は、上述した、混合工程、成型工程、及び焼結工程によって作製することが好ましい。なお、発光部に分散される蛍光体が均一性を有する作製方法、および、発光部に粒界が発生する作製方法であれば、混合工程、成型工程、及び焼結工程に限定されず他の方法を用いることも可能である。
【0121】
(発光部7の作製方法の一実施例)
ここで、発光部7の作製方法の一実施例を説明する。
【0122】
上述したように、セラミックス材料を蛍光体と共に焼結するときには、セラミックス材料はできる限り高純度、かつ、0.5μm〜2μmの粉末粒子を用いることが好ましい。そこで、例えばセラミックス材料としてアルミナを用いる場合には、粒子径が0.1μm〜0.5μmとすることが好ましく、そのアルミナの微粒子と、YAG:Ce3+蛍光体と、バインダと、焼結助剤とを混合工程で均一に混合しペレット化する。このとき、アルミナ微粒子とYAG:Ce3+とバインダとは4:1:5の割合で混合する。このとき、焼結助剤を微量添加してよい。
【0123】
その混合工程によって得られた混合粉末を成型工程、及び成型工程に供し、所望の発光部7を得る。なお、本実施例では、焼結工程は、成型工程で得られた成型物を減圧加熱下で脱脂し、N2ガス中で焼結させる。
【0124】
ただし、減圧加熱下での脱脂、N2ガス中で焼結は必ずしも必要ではない。しかしながら、蛍光体材料としてYAG:Ce3+を用いる場合には、酸素を含む雰囲気下で成型物を加熱すると、Ce3+がCe2+となって着色を示すとともに発光効率が低下するという問題が生じる。このため、蛍光体材料等の条件に応じて減圧加熱下での脱脂、N2ガス中で焼結、及び場合に応じて他の操作を加えることにより、より好適な焼結発光体を作製することができる。
【0125】
さらに、蛍光体材料としては、YAG:Ce3+のほか、酸窒化物蛍光体を好適に使用することができる。励起光源として405nmの半導体レーザを用いるのであれば、青色蛍光体としてのJEMと緑色蛍光体としてのβ−SiAlON:Eu2+と赤色蛍光体としてのCASN:Eu2+を用いることができる。ここで赤色蛍光体としてCASN:Eu2+の代わりにSr(ストロンチウム)が添加されたSCASN:Eu2+を用いれば、演色性は若干犠牲となるものの、発光効率を向上させることができる。励起光源として450nm近辺で発振する半導体レーザを用いるのであれば、β−SiAlON:Eu2+と赤色蛍光体としてのCASN:Eu2+または、SCASN:Eu2+を使うとよい。
【0126】
(半導体レーザ3の構造)
次に、半導体レーザ3の基本構造について説明する。図5(a)は、半導体レーザ3の回路図を模式的に示したものであり、図5(b)は、半導体レーザ3の基本構造を示す斜視図である。同図に示すように、半導体レーザ3は、カソード電極23、基板22、クラッド層113、活性層111、クラッド層112、アノード電極21がこの順に積層された構成である。
【0127】
基板22は、半導体基板であり、本願のように蛍光体を励起する為の青色〜紫外の励起光を得る為にはGaN、サファイア、SiCを用いることが好ましい。一般的には、半導体レーザ用の基板の他の例として、Si、GeおよびSiC等のIV属半導体、GaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSbおよびAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al2O3、SiO2、TiO2、CrO2およびCeO2等の酸化物絶縁体、並びに、SiNなどの窒化物絶縁体のいずれかの材料が用いられる。
【0128】
アノード電極21は、クラッド層112を介して活性層111に電流を注入するためのものである。
【0129】
カソード電極23は、基板22の下部から、クラッド層113を介して活性層111に電流を注入するためのものである。なお、電流の注入は、アノード電極21・カソード電極23に順方向バイアスをかけて行う。
【0130】
活性層111は、クラッド層113及びクラッド層112で挟まれた構造になっている。
【0131】
また、活性層111およびクラッド層の材料としては、青色〜紫外の励起光を得る為にはAlInGaNから成る混晶半導体が用いられる。一般に半導体レーザの活性層・クラッド層としては、Al、Ga、In、As、P、N、Sbを主たる組成とする混晶半導体が用いられ、そのような構成としても良い。また、Zn、Mg、S、Se、TeおよびZnO等のII−VI属化合物半導体によって構成されていてもよい。
【0132】
また、活性層111は、注入された電流により発光が生じる領域であり、クラッド層112及びクラッド層113との屈折率差により、発光した光が活性層111内に閉じ込められる。
【0133】
さらに、活性層111には、誘導放出によって増幅される光を閉じ込めるために互いに対向して設けられる表側へき開面114・裏側へき開面115が形成されており、この表側へき開面114・裏側へき開面115が鏡の役割を果す。
【0134】
ただし、完全に光を反射する鏡とは異なり、誘導放出によって増幅される光の一部は、活性層111の表側へき開面114・裏側へき開面115(本実施の形態では、便宜上表側へき開面114とする)から出射され、励起光L0となる。なお、活性層111は、多層量子井戸構造を形成していてもよい。
【0135】
なお、表側へき開面114と対向する裏側へき開面115には、レーザ発振のための反射膜(図示せず)が形成されており、表側へき開面114と裏側へき開面115との反射率に差を設けることで、低反射率端面である、例えば、表側へき開面114より励起光L0の大部分を発光点103から照射されるようにすることができる。
【0136】
クラッド層113・クラッド層112は、n型およびp型それぞれのGaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSb、及びAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、並びに、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体のいずれの半導体によって構成されていてもよく、順方向バイアスをアノード電極21及びカソード電極23に印加することで活性層111に電流を注入できるようになっている。
【0137】
クラッド層113・クラッド層112および活性層111などの各半導体層との膜形成については、MOCVD(有機金属化学気相成長)法やMBE(分子線エピタキシー)法、CVD(化学気相成長)法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。各金属層の膜形成については、真空蒸着法やメッキ法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。
【0138】
(発光部7の発光原理)
次に、半導体レーザ3から発振されたレーザ光による蛍光体の発光原理について説明する。
【0139】
まず、半導体レーザ3から発振されたレーザ光が発光部7に含まれる蛍光体に照射されることにより、蛍光体内に存在する電子が低エネルギー状態から高エネルギー状態(励起状態)に励起される。
【0140】
その後、この励起状態は不安定であるため、蛍光体内の電子のエネルギー状態は、一定時間後にもとの低エネルギー状態(基底準位のエネルギー状態または励起準位と基底準位との間の準安定準位のエネルギー状態)に遷移する。
【0141】
このように、高エネルギー状態に励起された電子が、低エネルギー状態に遷移することによって蛍光体が発光する。
【0142】
白色光は、等色の原理を満たす3つの色の混色、または補色の関係を満たす2つの色の混色で構成でき、この原理・関係に基づき、半導体レーザから発振されたレーザ光の色と蛍光体が発する光の色とを、上述のように組み合わせることにより白色光を発生させることができる。
【0143】
(ヘッドランプ1の効果)
発光部をハイパワーのレーザ光で励起すると、発光部が激しく劣化することを本発明の発明者は見出した。発光部の劣化は、発光部に含まれる蛍光体そのものの劣化とともに、蛍光体を取り囲む封止材の劣化によって主に引き起こされる。例えば、上述のサイアロン蛍光体は、レーザ光が照射されると60〜80%の効率で光を発生させるが、残りは熱となって放出される。
【0144】
この点、ヘッドランプ1では、発光部7は、アルミナなどのセラミックス材料と半導体レーザ3から出射されたレーザ光を受けて発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させたものである。そのため、発光部7は高い熱伝導性を有し、発光部7の熱が効率良く熱伝導部材13に伝わり、発光部7が効果的に放熱される。これにより、発熱による発光部7の劣化および発光効率の低下を防止することができる。
【0145】
従って、レーザ光を励起光源とした超高輝度な光源としてのヘッドランプの寿命を延ばし、その信頼性を高めることができる。
〔従来の発光装置とヘッドランプ1との比較〕
次に、ヘッドランプ1によって得られる効果を表1、表2を用いて説明する。
〔表1:発光部の材質〕
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示すように、発光部の封止材として無機ガラスを用いる従来の発光装置と、セラミックス材料としてアルミナを用いるヘッドランプ1とを比較して、ヘッドランプ1による効果を考察する。
【0148】
表1に示すように、無機ガラスの熱伝導率は1W/mKであり、アルミナの熱伝導率は20W/mKである。なお、発光部中は、酸窒化物系蛍光体(Caα−SiAlON:CeおよびCASN:Eu)が内部に分散されており、直径3mm、厚さ1.5mmの円盤状であるものとする。
【0149】
ここで、蛍光体を封止する一般的な封止材の熱伝導率は、シリコン樹脂や有機無機ハイブリッドガラスで0.1W/mK〜0.2W/mK程度、無機ガラスで1W/mK〜2W/mK程度である。例えば、熱伝導率0.2W/mKの3mm×3mm×厚さ1mmの発熱体の3mm×3mm平面で1Wの発熱があり、上記発熱体が外部と熱的に絶縁されている場合を熱シミュレーションにより計算すると、発熱体の温度は500℃以上(555.6℃)になる。
【0150】
ちなみに、熱伝導率2W/mKの封止材を用いると同じ大きさ・同じ発熱量の発熱体であっても温度上昇は55.6℃となる。すなわち、封止材の熱伝導率は非常に重要である。また、封止材の熱伝導率は2W/mKのまま、発熱体のサイズを3mm×1mm×厚さ1mmとすると、温度上昇は166.7℃となる。それゆえ、輝度を高くするために発光部7のサイズを小さくすればするほど、同じ発熱量でも温度上昇が激しくなり、発光部7に負担がかかるようになる。
【0151】
このような背景のもと、従来の発光部で使用される無機ガラスと、熱伝導率が20W/mKというアルミナとを対比しつつ、ヘッドランプ1の効果を考察する。
【0152】
まず、上表において、無機ガラスおよびアルミナの熱抵抗を算出する。各部材の熱抵抗は、次の(1)式によって算出できる。
【0153】
熱抵抗=(1/熱伝導率)×(放熱経路の長さ/放熱断面積)・・・(1)
放熱経路の長さは、各部材の厚み(レーザ光の透過方向における厚み)に相当し、放熱断面積は、部材間の接合面積に相当する。具体的な熱抵抗の計算例を表2に示す。
〔表2:熱抵抗の計算例〕
【0154】
【表2】
【0155】
表2に示すように、無機ガラスとアルミナとを対比すると、発光部の熱抵抗は、無機ガラスが83.3K/W、アルミナが4.2K/Wとなる。すなわち、発光部で1Wの発熱があった場合、無機ガラスでは83.3℃の温度上昇が想定されるのに対して、アルミナでは4.2℃に抑えられる。したがって、熱伝導率20W/mKのアルミナを用いることで、発光部の熱抵抗を劇的に低減することができる。つまり、発光部を構成する材料の熱伝導率を向上させることは、発光部の温度上昇を低減するという目的に対して、非常に大きな効果があることが分かる。
【0156】
このような理由から、ヘッドランプ1に係る発光部7は高い熱伝導性を有することができ、発光部7の熱が効率良く熱伝導部材13に伝わり、発光部7が効果的に放熱される。これにより、発熱による発光部7の劣化および発光効率の低下を防止することができる。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図6〜図11に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0157】
ここでは、本発明の照明装置の一例としてのレーザダウンライト200について説明する。レーザダウンライト200は、家屋、乗物などの構造物の天井に設置される照明装置であり、半導体レーザ3から出射したレーザ光を発光部7に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いるものである。
【0158】
なお、レーザダウンライト200と同様の構成を有する照明装置を、構造物の側壁または床に設置してもよく、上記照明装置の設置場所は特に限定されない。
【0159】
図6は、発光ユニット210および従来のLEDダウンライト300の外観を示す概略図である。図7は、レーザダウンライト200が設置された天井の断面図である。図8は、レーザダウンライト200の断面図である。図6〜図8に示すように、レーザダウンライト200は、天板400に埋設され、照明光を出射する発光ユニット210と、光ファイバー5を介して発光ユニット210へレーザ光を供給するLD光源ユニット220とを含んでいる。LD光源ユニット220は、天井には設置されておらず、ユーザが容易に触れることができる位置(例えば、家屋の側壁)に設置されている。このようにLD光源ユニット220の位置を自由に決定できるのは、LD光源ユニット220と発光ユニット210とが光ファイバー5によって接続されているからである。この光ファイバー5は、天板400と断熱材401との間の隙間に配置されている。
【0160】
(発光ユニット210の構成)
発光ユニット210は、図8に示すように、筐体211、光ファイバー5、発光部7、熱伝導部材13および透光板213を備えている。図8では示されていないが、発光部7には高熱伝導フィラー15が分散されている。上述の実施形態と同様に、発光部7の熱が熱伝導部材13に伝わることで発光部7の放熱が促進される。
【0161】
筐体211には、凹部212が形成されており、この凹部212の底面に発光部7が配置されている。凹部212の表面には、金属薄膜が形成されており、凹部212は反射鏡として機能する。
【0162】
また、筐体211には、光ファイバー5を通すための通路214が形成されており、この通路214を通って光ファイバー5が熱伝導部材13まで延びている。光ファイバー5の出射端部5aから出射されたレーザ光は、熱伝導部材13を透過して発光部7に到達する。
【0163】
透光板213は、凹部212の開口部をふさぐように配置された透明または半透明の板である。この透光板213は、透明板9と同様の機能を有するものであり、発光部7の蛍光は、透光板213を透して照明光として出射される。透光板213は、筐体211に対して取外し可能であってもよく、省略されてもよい。
【0164】
図6では、発光ユニット210は、円形の外縁を有しているが、発光ユニット210の形状(より厳密には、筐体211の形状)は特に限定されない。
【0165】
なお、ダウンライトでは、ヘッドランプの場合とは異なり、理想的な点光源は要求されず、発光点が1つというレベルで十分である。それゆえ、発光部7の形状、大きさおよび配置に関する制約は、ヘッドランプの場合よりも少ない。
【0166】
(LD光源ユニット220の構成)
LD光源ユニット220は、半導体レーザ3、非球面レンズ4および光ファイバー5を備えている。
【0167】
光ファイバー5の一方の端部である入射端部5bは、LD光源ユニット220に接続されており、半導体レーザ3から発振されたレーザ光は、非球面レンズ4を介して光ファイバー5の入射端部5bに入射される。
【0168】
図8に示すLD光源ユニット220の内部には、半導体レーザ3および非球面レンズ4が一対のみ示されているが、発光ユニット210が複数存在する場合には、発光ユニット210からそれぞれ延びる光ファイバー5の束を1つのLD光源ユニット220に導いてもよい。この場合、1つのLD光源ユニット220に複数の半導体レーザ3と非球面レンズ4との対が収納されることになり、LD光源ユニット220は集中電源ボックスとして機能する。
【0169】
(レーザダウンライト200の設置方法の変更例)
図9は、レーザダウンライト200の設置方法の変更例を示す断面図である。同図に示すように、レーザダウンライト200の設置方法の変形例として、天板400には光ファイバー5を通す小さな穴402だけを開け、薄型・軽量の特長を活かしてレーザダウンライト本体(発光ユニット210)を天板400に貼り付けるということもできる。この場合、レーザダウンライト200の設置に係る制約が小さくなり、また工事費用が大幅に削減できるというメリットがある。
【0170】
この構成では、熱伝導部材13は、筐体211の底部に、レーザ光入射側の面を全面的に当接させて配置されている。それゆえ、筐体211を熱伝導率の高い物質からなるものにすることによって熱伝導部材13の冷却部として機能させることができる。
【0171】
(レーザダウンライト200と従来のLEDダウンライト300との比較)
従来のLEDダウンライト300は、図6に示すように、複数の透光板301を備えており、各透光板301からそれぞれ照明光が出射される。すなわち、LEDダウンライト300において発光点は複数存在している。LEDダウンライト300において発光点が複数存在しているのは、個々の発光点から出射される光の光束が比較的小さいため、複数の発光点を設けなければ照明光として十分な光束の光が得られないためである。
【0172】
これに対して、レーザダウンライト200は、高光束の照明装置であるため、発光点は1つでもよい。それゆえ、照明光による陰影がきれいに出るという効果が得られる。また、発光部7の蛍光体を高演色蛍光体(例えば、数種類の酸窒化物蛍光体の組み合わせ)にすることにより、照明光の演色性を高めることができる。
【0173】
これにより、白熱電球ダウンライトに迫る高演色を実現することができる。例えば、平均演色評価数Raが90以上のみならず、特殊演色評価数R9も95以上というLEDダウンライトや蛍光灯ダウンライトでは実現が難しい高演色光も高演色蛍光体と半導体レーザ3の組合せにより実現可能である。
【0174】
図10は、LEDダウンライト300が設置された天井の断面図である。同図に示すように、LEDダウンライト300では、LEDチップ、電源および冷却ユニットを収納した筐体302が天板400に埋設されている。筐体302は比較的大きなものであり、筐体302が配置されている部分の断熱材401には、筐体302の形状に沿った凹部が形成される。筐体302から電源ライン303が延びており、この電源ライン303はコンセント(不図示)につながっている。
【0175】
このような構成では、次のような問題が生じる。まず、天板400と断熱材401との間に発熱源である光源(LEDチップ)および電源が存在しているため、LEDダウンライト300を使用することにより天井の温度が上がり、部屋の冷房効率が低下するという問題が生じる。
【0176】
また、LEDダウンライト300では、光源ごとに電源および冷却ユニットが必要であり、トータルのコストが増大するという問題が生じる。
【0177】
また、筐体302は比較的大きなものであるため、天板400と断熱材401との間の隙間にLEDダウンライト300を配置することが困難な場合が多いという問題が生じる。
【0178】
これに対して、レーザダウンライト200では、発光ユニット210には、大きな発熱源は含まれていないため、部屋の冷房効率を低下させることはない。その結果、部屋の冷房コストの増大を避けることができる。
【0179】
また、発光ユニット210ごとに電源および冷却ユニットを設ける必要がないため、レーザダウンライト200を小型および薄型にすることができる。その結果、レーザダウンライト200を設置するためのスペースの制約が小さくなり、既存の住宅への設置が容易になる。
【0180】
また、レーザダウンライト200は、小型および薄型であるため、上述したように、発光ユニット210を天板400の表面に設置することができ、LEDダウンライト300よりも設置に係る制約を小さくすることができるとともに工事費用を大幅に削減できる。
【0181】
図11は、レーザダウンライト200およびLEDダウンライト300のスペックを比較するための図である。同図に示すように、レーザダウンライト200は、その一例では、LEDダウンライト300に比べて体積は94%減少し、質量は86%減少する。
【0182】
また、LD光源ユニット220をユーザの手が容易に届く所に設置できるため、半導体レーザ3が故障した場合でも、手軽に半導体レーザ3を交換できる。また、複数の発光ユニット210から延びる光ファイバー5を1つのLD光源ユニット220に導くことにより、複数の半導体レーザ3を一括管理できる。そのため、複数の半導体レーザ3を交換する場合でも、その交換が容易にできる。
【0183】
なお、LEDダウンライト300において、高演色蛍光体を用いたタイプの場合、消費電力10Wで約500lmの光束が出射できるが、同じ明るさの光をレーザダウンライト200で実現するためには、3.3Wの光出力が必要である。この光出力は、LD効率が35%であれば、消費電力10Wに相当し、LEDダウンライト300の消費電力も10Wであるため、消費電力では、両者の間に顕著な差は見られない。それゆえ、レーザダウンライト200では、LEDダウンライト300と同じ消費電力で、上述の種々のメリットが得られることになる。
【0184】
以上のように、レーザダウンライト200は、レーザ光を出射する半導体レーザ3を少なくとも1つ備えるLD光源ユニット220と、発光部7および反射鏡としての凹部212を備える少なくとも1つの発光ユニット210と、発光ユニット210のそれぞれへ上記レーザ光を導く光ファイバー5とを含んでいる。
【0185】
(その他の変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0186】
例えば、励起光源として高出力のLEDを用いてもよい。この場合には、450nmの波長の光(青色)を出射するLEDと、黄色の蛍光体、または緑色および赤色の蛍光体とを組み合わせることにより白色光を出射する発光装置を実現できる。
【0187】
また、励起光源として、半導体レーザ以外の固体レーザを用いてもよい。ただし、半導体レーザを用いる方が、励起光源を小型化できるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明は、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体に適用でき、とくに、その焼結発光体を備える発光装置、当該発光装置を用いる照明装置、及び車両用前照灯に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0189】
1 ヘッドランプ(発光装置)
2 半導体レーザアレイ
3 半導体レーザ(励起光源)
4 非球面レンズ
5 光ファイバー
6 フェルール
7 発光部(焼結発光体)
8 反射鏡
9 透明板
10 ハウジング
11 エクステンション
12 レンズ
13 熱伝導部材
14 冷却部
16 蛍光体粒子(蛍光体)
18 熱伝導壁(熱伝導部材)
200 レーザダウンライト(発光装置、照明装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度光源として機能する焼結発光体、その焼結発光体を備えた発光装置並びに、当該発光装置を備えた照明装置、車両用前照灯、及び焼結発光体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光源として発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)や半導体レーザ(LD;Laser Diode)等の半導体発光素子を用い、これらの励起光源から生じた励起光を、蛍光体を含む発光部に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いる発光装置の研究が盛んになってきている。
【0003】
このような発光装置に関する技術の例として特許文献1に開示された灯具がある。この灯具では、高輝度光源を実現するために、励起光源として半導体レーザを用いている。半導体レーザから発振されるレーザ光は、コヒーレントな光であるため、指向性が強く、当該レーザ光を励起光として無駄なく集光し、利用することができる。このような半導体レーザを励起光源として用いた発光装置(LD発光装置と称する)を車両用ヘッドランプに好適に適用することができる。励起光源として半導体レーザを用いることにより、LEDでは実現し得なかった高輝度の光源を実現できる。
【0004】
このようなレーザ光を励起光として用いた場合、微小な発光部、すなわち微小な体積の発光部において、発光部に照射されて吸収される励起光のうちの、蛍光体により蛍光に変換されること無く熱に変換されてしまう成分が、発光部の温度を容易に上昇させ、その結果、発光部の特性低下や熱による損傷を引き起こしてしまう。
【0005】
この問題を解決するために特許文献2の発明では、波長変換部材(発光部に相当)に熱的に接続された透光性で板状の熱伝導部材を設け、この熱伝導部材により波長変換部材の発熱を軽減している。
【0006】
また、特許文献3の発明では、波長変換部材を円筒形状のフェルールで保持し、このフェルールにワイヤ状の熱伝導部材を熱的に接続することにより波長変換部材の発熱を軽減している。
【0007】
また、特許文献4の発明では、光変換部材(発光部に相当)の、半導体発光素子が位置する側に、冷媒が流れる流路を有する放熱部材を設け、光変換部材を冷却している。
【0008】
なお、光源としての高出力LEDチップの表面に透光性のヒートシンクを熱的に接続し、高出力LEDチップを冷却する構成が特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−150041号公報(2005年6月9日公開)
【特許文献2】特開2007−27688号公報(2007年2月1日公開)
【特許文献3】特開2007−335514号公報(2007年12月27日公開)
【特許文献4】特開2005−294185号公報(2005年10月20日公開)
【特許文献5】特表2009−513003号公報(2009年3月26日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、発光部自体の熱伝導率が低い場合には、熱伝導率の高い熱伝導部材を発光部に接触させても、発光部の放熱効果はあまり高まらないという問題が生じることを本発明の発明者は鋭意研究の結果見出した。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体、発光装置、照明装置、車両用前照灯、及び焼結発光体の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る焼結発光体は、上記の課題を解決するために、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させた焼結発光体を備えることを特徴としている。
【0013】
本発明では、発光体が、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結されている(以下、このような発光体を焼結発光体と称する場合もある)。
【0014】
したがって、セラミックス材料の熱伝導性に起因して熱伝導率が向上することから、発光体の熱抵抗は低下し、発光部からの放熱が効率良く行われる。また、発光部からの放熱が効率良く行われることから、発光部が熱によって劣化・損傷し、発光部の寿命が短くなる事態が避けられる。
【0015】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、次のような効果も得られる。つまり、本発明に係る焼結発光体は、セラミックス材料と蛍光体とがバインダを用いて焼結されてなるため、焼結発光体の内部に粒界が発生する。そのため、人間の目に損傷を与える可能性の高い、コヒーレントな成分を有するレーザ光が励起光として使用される場合には、粒界によってレーザ光が散乱される。そして、発光点の大きさが拡大することによって、焼結発光体、及びその焼結発光体を備える発光装置の安全性を高めることもできる。
【0016】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記セラミックス材料は、高い熱伝導性を有する構成であってよい。
【0017】
本発明に焼結発光体は、セラミックス材料が高い熱伝導性を有することで、さらに放熱効果を高めることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記セラミックス材料は、アルミナまたは窒化アルミニウムを含む構成であってよい。
【0019】
本発明に焼結発光体は、セラミックス材料がアルミナまたは窒化アルミニウムを含むことにより、透明性を有し、かつ、熱伝導率の高い焼結発光体を備えることができる。
【0020】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記焼結発光体は、上記セラミックス材料、上記蛍光体、及び上記バインダの混合物を射出成型し、焼結したものであってよい。
【0021】
溶融処理によって発光体を作製する従来の技術では、蛍光体が均一に分散せずに発光体の発光効率が低下するという問題があった。
【0022】
これに対して、発光体が、セラミックス材料、蛍光体、及びバインダの混合物を射出成型し、焼結したものであることにより、蛍光体の分散化を図ることができ、これにより発光体の発光効率が低下するという上記従来の問題を解消することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記セラミックス材料は、透光性を有する構成であってよい。
【0024】
本発明に焼結発光体は、セラミックス材料が透光性を有することにより、蛍光体の発光効率、すなわち、発光体の発光効率を高めることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記蛍光体は、酸窒化物蛍光体であってよい。
【0026】
酸窒化物蛍光体は、耐熱性に優れ、高い発光効率で安定した材料である。したがって、蛍光体が酸窒化物蛍光体であることにより、耐熱性に優れ、かつ高い発光効率の発光体を実現することができる。
【0027】
さらに、本発明に係る焼結発光体では、上記蛍光体は、ナノ粒子蛍光体であってよい。
【0028】
上記構成により、発光部は、可視光の波長領域およびその近傍の光に対して透光性を有する。したがって、蛍光体から発光体の外部への放射効率を高くすることができる。
【0029】
さらに、本発明に係る発光装置は、上記励起光を出射する励起光源と、上記何れかに記載の焼結発光体と、を備える構成であってよい。
【0030】
上記構成により、本発明に係る発光装置は、上述した焼結発光体の種々の効果を実現することができる。
【0031】
さらに、本発明に係る発光装置では、上記励起光は、レーザ光であってよい。
【0032】
本発明に係る発光装置の発光体は、セラミックス材料と蛍光体とがバインダを用いて焼結されてなるものであるため、焼結発光体の内部に粒界が発生する。そのため、人間の目に損傷を与える可能性の高い、コヒーレントな成分を有するレーザ光は粒界によって散乱される。そして、発光点の大きさが拡大することによって、発光装置の安全性を高めることができる。
【0033】
さらに、本発明に係る発光装置では、上記焼結発光体と当接し、当該焼結発光体の熱を外部に放熱する熱伝導部材をさらに備える構成であってよい。
【0034】
上記の構成によれば、発光部の熱が当該発光部に当接する熱伝導部材へ移動することにより、発光部の放熱効率をさらに高めることができる。
【0035】
さらに、本発明に係る照明装置では、上記何れかの発光装置を備えている構成であってよい。
【0036】
さらに、本発明に係る車両用前照灯では、上記何れかの発光装置を備えている構成であってよい。
【0037】
本発明に係る発光装置は、照明装置や車両用前照灯などに好適に適用することができる。これにより、例えば本発明に係る発光装置を車両用前照灯に適用した場合、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる車両用前照灯を実現することができる。
【0038】
さらに、本発明に係る焼結発光体の作製方法では、上記何れかに記載の焼結発光体の作製方法であって、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とバインダとを混合する混合工程と、上記混合工程によって混合された混合物を焼結する焼結工程と、を含む構成であってよい。
【0039】
発光体を溶融処理によって作製する従来の技術では、蛍光体が均一に分散せずに発光体の発光効率が低下するという問題があった。
【0040】
これに対して、発光体が、上記の混合工程および焼結工程によって作製されることにより、蛍光体の分散化を図ることができ、それにより発光体の発光効率が低下するという上記従来の問題を解消することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る焼結発光体は、以上のように、セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させた焼結発光体を備える構成である。
【0042】
それゆえ、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッドランプが有する発光部および熱伝導部材の詳細を示す図である。
【図2】上記ヘッドランプの構成を示す断面図である。
【図3】上記発光部の変更例を示す断面図である。
【図4】発光部において蛍光体粒子が分散している状態を示す概念図である。
【図5】(a)は、半導体レーザの回路図を模式的に示したものであり、(b)は、半導体レーザの基本構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るレーザダウンライトが備える発光ユニットおよび従来のLEDダウンライトの外観を示す概略図である。
【図7】上記レーザダウンライトが設置された天井の断面図である。
【図8】上記レーザダウンライトの断面図である。
【図9】上記レーザダウンライトの設置方法の変更例を示す断面図である。
【図10】上記LEDダウンライトが設置された天井の断面図である。
【図11】上記レーザダウンライトおよび上記LEDダウンライトのスペックを比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、本発明の照明装置の一例として、自動車用のヘッドランプ(発光装置、照明装置、車両用前照灯)1を例に挙げて説明する。ただし、本発明の照明装置は、自動車以外の車両・移動物体(例えば、人間・船舶・航空機・潜水艇・ロケットなど)のヘッドランプとして実現されてもよいし、その他の照明装置として実現されてもよい。その他の照明装置として、例えば、サーチライト、プロジェクター、家庭用照明器具を挙げることができる。
【0045】
また、ヘッドランプ1は、走行用前照灯(ハイビーム)の配光特性基準を満たしていてもよいし、すれ違い用前照灯(ロービーム)の配光特性基準を満たしていてもよい。
【0046】
(ヘッドランプ1の構成)
まず、図2を参照しながら、ヘッドランプ1の構成について説明する。図2は、ヘッドランプ1の構成を示す断面図である。同図に示すように、ヘッドランプ1は、半導体レーザアレイ2と、非球面レンズ4と、光ファイバー5と、フェルール6と、発光部(焼結発光体)7と、反射鏡8と、透明板9と、ハウジング10と、エクステンション11と、レンズ12と、熱伝導部材13と、冷却部14とを備えている。
【0047】
(半導体レーザアレイ2/半導体レーザ3)
半導体レーザアレイ2は、励起光を出射する励起光源として機能し、複数の半導体レーザ(励起光源)3を基板上に備えるものである。半導体レーザ3のそれぞれから励起光としてのレーザ光が発振される。なお、励起光源として複数の半導体レーザ3を用いる必要は必ずしもなく、半導体レーザ3を1つのみ用いてもよいが、高出力のレーザ光を得るためには、複数の半導体レーザ3を用いる方が容易である。
【0048】
半導体レーザ3は、1チップに1つの発光点を有するものであり、例えば、405nm(青紫色)のレーザ光を発振し、出力1.0W、動作電圧5V、電流0.6Aのものであり、直径5.6mmのパッケージに封入されているものである。半導体レーザ3が発振するレーザ光は、405nmに限定されず、その他の波長範囲にピーク波長を有するレーザ光であればよい。また、パッケージは直径5.6mmのものに限定されず、例えば、直径3.8mmや直径9mm、あるいはそれ以外であってもよく、熱抵抗がより小さいパッケージを選択することが好ましい。
【0049】
また、本実施形態では、励起光源として半導体レーザを用いたが、半導体レーザの代わりに、発光ダイオードを用いることも可能である。
【0050】
(非球面レンズ4)
非球面レンズ4は、半導体レーザ3から発振されたレーザ光(励起光)を、光ファイバー5の一方の端部である入射端部5bに入射させるためのレンズである。例えば、非球面レンズ4として、アルプス電気製のFLKN1 405を用いることができる。上述の機能を有するレンズであれば、非球面レンズ4の形状および材質は特に限定されないが、405nm近傍の透過率が高く、かつ耐熱性のよい材料であることが好ましい。
【0051】
(光ファイバー5)
(光ファイバー5の配置)
光ファイバー5は、半導体レーザ3が発振したレーザ光を発光部7へと導く導光部材であり、複数の光ファイバーの束である。この光ファイバー5は、上記レーザ光を受け取る複数の入射端部5bと、入射端部5bから入射したレーザ光を出射する複数の出射端部5aとを有している。複数の出射端部5aは、発光部7のレーザ光照射面7aにおける互いに異なる領域に対してレーザ光を出射する。
【0052】
例えば、複数の光ファイバー5の出射端部5aは、レーザ光照射面7aに対して平行な平面において並んで配置されている。このような配置により、出射端部5aから出射されるレーザ光の光強度分布における最も光強度が大きいところ(各レーザ光がレーザ光照射面7aに形成する照射領域の中央部分(最大光強度部分))が、発光部7のレーザ光照射面7aの互いに異なる部分に対して出射されるため、発光部7のレーザ光照射面7aに対してレーザ光を2次元平面的に分散して照射することができる。
【0053】
それゆえ、発光部7にレーザ光が局所的に照射されることにより、発光部7の一部が著しく劣化することを防止できる。
【0054】
なお、光ファイバー5は複数の光ファイバーの束(すなわち複数の出射端部5aを備えた構成)である必要は必ずしもなく、1本の光ファイバーであってもよい。
【0055】
(光ファイバー5の材質および構造)
光ファイバー5は、中芯のコアを、当該コアよりも屈折率の低いクラッドで覆った2層構造をしている。コアは、レーザ光の吸収損失がほとんどない石英ガラス(酸化ケイ素)を主成分とするものであり、クラッドは、コアよりも屈折率の低い石英ガラスまたは合成樹脂材料を主成分とするものである。例えば、光ファイバー5は、コアの径が200μm、クラッドの径が240μm、開口数NAが0.22の石英製のものであるが、光ファイバー5の構造、太さおよび材質は上述のものに限定されず、光ファイバー5の長軸方向に対して垂直な断面は矩形であってもよい。
【0056】
また、光ファイバー5は、可撓性を有しているため、半導体レーザ3と発光部7との相対位置関係を容易に変更できる。また、光ファイバー5の長さを調整することにより、半導体レーザ3を発光部7から離れた位置に設置することができる。
【0057】
それゆえ、半導体レーザ3を、冷却しやすい位置または交換しやすい位置に設置できるなど、ヘッドランプ1の設計自由度を高めることができる。
【0058】
なお、導光部材として光ファイバー以外の部材、または光ファイバーと他の部材とを組み合わせたものを用いてもよい。例えば、レーザ光の入射端部と出射端部とを有する円錐台形状(または角錐台形状)の導光部材を1つまたは複数用いてもよい。
【0059】
(フェルール6)
フェルール6は、光ファイバー5の複数の出射端部5aを発光部7のレーザ光照射面に対して所定のパターンで保持する。このフェルール6は、出射端部5aを挿入するための孔が所定のパターンで形成されているものでもよいし、上部と下部とに分離できるものであり、上部および下部の接合面にそれぞれ形成された溝によって出射端部5aを挟み込むものでもよい。
【0060】
このフェルール6は、反射鏡8から延出する棒状または筒状の部材などによって反射鏡8に対して固定されていてもよいし、熱伝導部材13に対して固定されていてもよい。フェルール6の材質は、特に限定されず、例えばステンレススチールである。また、1つの発光部7に対して、複数のフェルール6を配置してもよい。
【0061】
なお、光ファイバー5の出射端部5aが1つの場合には、フェルール6を省略することも可能である。
【0062】
(発光部7)
(発光部7の組成)
図1は、発光部7および熱伝導部材13の詳細を示す図である。発光部7は、出射端部5aから出射されたレーザ光を受けて発光するものである。その発光部7は、セラミックス材料、バインダ、及び蛍光体粒子16が混合され、射出成型され、その成型物が焼結されてなる。そして、蛍光体粒子16は、発光部7の内部に均一に分散されている。
【0063】
この発光部7は、青色、緑色および赤色に発光する蛍光体のいずれか1種類以上を含んでいる。半導体レーザ3は、405nm(青紫色)のレーザ光を発振するため、発光部7に当該レーザ光が照射されると複数の色が混合され白色光が発生する。それゆえ、発光部7は、波長変換材料であるといえる。
【0064】
なお、半導体レーザ3は、450nm(青色)のレーザ光(または、440nm以上490nm以下の波長範囲にピーク波長を有する、いわゆる「青色」近傍のレーザ光)を発振するものでもよく、この場合には、上記蛍光体は、黄色の蛍光体、または緑色の蛍光体と赤色の蛍光体との混合物である。黄色の蛍光体とは、560nm以上590nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。緑色の蛍光体とは、510nm以上560nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。赤色の蛍光体とは、600nm以上680nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。
【0065】
(バインダ)
バインダは、セラミックス材料および蛍光体粒子16に混合されて、その混合物が焼結されることにより、セラミックス材料と蛍光体粒子16とを接着させる。材料は特に限定されないが、比較的低温で分解し、分解後に残留灰分その他が残らないものを選ぶことが重要であり、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコン樹脂などを用いることができる。そして、セラミックス材料と蛍光体粒子16とをバインダを用いて焼結させることにより、発光部7中に粒界を発生させることができる。その詳細は後述する。
【0066】
(蛍光体)
発光部7の蛍光体は、酸窒化物系蛍光体またはIII−V族化合物半導体ナノ粒子蛍光体であることが好ましい。これらの材料は、半導体レーザ3から発せられた極めて強いレーザ光(出力および光密度)に対しての耐性が高く、レーザ照明光源に最適である。また、ナノ粒子蛍光体は、その粒径が可視光の波長領域の光の波長よりも2桁程度小さい。
【0067】
代表的な酸窒化物系蛍光体として、サイアロン蛍光体と通称されるものがある。サイアロン蛍光体とは、窒化ケイ素のシリコン原子の一部がアルミニウム原子に、窒素原子の一部が酸素原子に置換された物質である。窒化ケイ素(Si3N4)にアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)および希土類元素などを固溶させて作ることができる。
【0068】
一方、半導体ナノ粒子蛍光体の特徴の一つは、同一の化合物半導体(例えばインジュウムリン:InP)を用いても、その粒子径をナノメータオーダーのある範囲内で変更することにより、量子サイズ効果によって発光色を変化させることができる点である。例えば、InPでは、粒子サイズが3〜4nm程度のときに赤色に発光する(ここで、粒子サイズは透過型電子顕微鏡(TEM)にて評価した)。
【0069】
また、この半導体ナノ粒子蛍光体は、半導体ベースであるので蛍光寿命が短く、励起光のパワーを素早く蛍光として放射できるのでハイパワーの励起光に対して耐性が強いという特徴もある。これは、この半導体ナノ粒子蛍光体の発光寿命が10ナノ秒程度と、希土類を発光中心とする通常の蛍光体材料に比べて5桁も小さいためである。
【0070】
さらに、上述したように、発光寿命が短いため、レーザ光の吸収と蛍光体の発光とを素早く繰り返すことができる。その結果、強いレーザ光に対して高効率を保つことができ、蛍光体からの発熱を低減させることができる。
【0071】
なお、蛍光体の材料は上述した酸窒化物系蛍光体またはIII−V族化合物半導体ナノ粒子蛍光体に限定されず、その他の材料も適宜使用することができる。
【0072】
(発光部7の形状・サイズ)
発光部7の形状および大きさは、例えば、直径3.2mmおよび厚さ1mmの円柱形状であり、出射端部5aから出射されたレーザ光を、当該円柱の底面であるレーザ光照射面7aにおいて受光する。
【0073】
また、発光部7は、円柱形状でなく、直方体であってもよい。例えば、3mm×1mm×1mmの直方体である。この場合、半導体レーザ3からのレーザ光を受けるレーザ光照射面の面積は、3mm2である。日本国内で法的に規定されている車両用ヘッドランプの配光パターン(配光分布)は、鉛直方向に狭く、水平方向に広いため、発光部7の形状を、水平方向に対して横長(断面略長方形形状)にすることにより、上記配光パターンを実現しやすくなる。
【0074】
ここで必要とされる発光部7の厚みは、発光部7における封止材と蛍光体との割合に従って変化する。発光部7における蛍光体の含有量が多くなれば、レーザ光が白色光に変換される効率が高まるため発光部7の厚みを薄くできる。発光部7を薄くすれば熱抵抗が低下するという効果があるが、あまり薄くするとレーザ光が蛍光に変換されず外部に放射される恐れがある。蛍光体での励起光の吸収の観点からすると発光部の厚みは蛍光体の粒径の少なくとも10倍以上あることが好ましい。
【0075】
このため酸窒化物蛍光体を用いた発光部7の厚みとしては、0.2mm以上、2mm以下が好ましい。ただし、蛍光体の含有量を極端に多くした場合(典型的には蛍光体が100%)、厚みの下限はこの限りではない。
【0076】
この観点からするとナノ粒子蛍光体を用いた場合の発光部の厚みは0.01μm以上であればよいことになるが、封止材中への分散等、製造プロセスの容易性を考慮すると10μm以上、すなわち0.01mm以上が好ましい。逆に厚くしすぎると反射鏡8の焦点からのずれが大きくなり配光パターンがぼけてしまう。
【0077】
また、発光部7のレーザ光照射面7aは、平面である必要は必ずしもなく、曲面であってもよい。ただし、反射したレーザ光を制御するためには、レーザ光照射面7aは平面を有していることが好ましい。レーザ光照射面7aが曲面の場合、少なくとも曲面への入射角度が大きく変わるため、レーザ光が照射される場所によって、反射光の進む方向が大きく変わってしまう。そのため、レーザ光の反射方向を制御することが困難な場合がある。これに対してレーザ光照射面7aが平面であれば、レーザ光の照射位置が若干ずれたとしても反射光の進む方向はほとんど変わらないため、レーザ光が反射する方向を制御しやすい。場合によっては反射光が当たる場所にレーザ光の吸収材を置くなどの対応がとり易くなる。
【0078】
なお、レーザ光照射面7aがレーザ光の光軸に対して垂直である必要は必ずしもない。レーザ光照射面7aがレーザ光の光軸に対して垂直な場合、反射したレーザ光はレーザ光源の方向に戻るため、場合によってはレーザ光源にダメージを与える可能性もある。
【0079】
(セラミックス材料)
発光部7を構成するセラミックス材料は、高い熱伝導性を有するとともに、透光性を有する材料であることが好ましい。
【0080】
そのような条件を満たすセラミックス材料の一つとして、アルミナが挙げられる。アルミナは、密度が3.8g/cm3〜3.9g/cm3、熱伝導率が15W/mK〜40W/mKであり、安価で入手でき、かつ、酸・アルカリに強く信頼性が高く、発光部7を作製するうえで好適である。
【0081】
その他のセラミックス材料として、窒化アルミニウム、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。窒化アルミニウムは、密度が3.2g/cm3〜3.3g/cm3、熱伝導率が80W/mK〜250W/mKである。マグネシアは、密度が3.5g/cm3、熱伝導率が48W/mKである。窒化ケイ素は、密度が3.0g/cm3〜3.2g/cm3、熱伝導率が20W/mK〜90W/mKである。炭化ケイ素は、密度が3.0g/cm3〜3.2g/cm3、熱伝導率が60W/mK〜180W/mKである。このように、セラミックス材料は、上述したアルミナ等に限定されず、種々の種類を用いることができる。
【0082】
(反射鏡8)
反射鏡8は、発光部7から出射した光を反射することにより、所定の立体角内を進む光線束を形成するものである。すなわち、反射鏡8は、発光部7からの光を反射することにより、ヘッドランプ1の前方へ進む光線束を形成する。この反射鏡8は、例えば、金属薄膜がその表面に形成された曲面形状(カップ形状)の部材である。
【0083】
(透明板9)
透明板9は、反射鏡8の開口部を覆う透明な樹脂板である。この透明板9を、半導体レーザ3からのレーザ光を遮断するとともに、発光部7においてレーザ光を変換することにより生成された白色光(インコヒーレントな光)を透過する材質で形成することが好ましい。発光部7によってコヒーレントなレーザ光は、そのほとんどがインコヒーレントな白色光に変換される。しかし、何らかの原因でレーザ光の一部が変換されない場合も考えられる。このような場合でも、透明板9によってレーザ光を遮断することにより、レーザ光が外部に漏れることを防止できる。
【0084】
また、透明板9は、熱伝導部材13と共に、発光部7を固定するために用いられてもよい。すなわち、発光部7を熱伝導部材13と透明板9とで挟持してもよい。この場合、透明板9は、発光部7と熱伝導部材13との相対位置関係を固定する固定部として機能する。
【0085】
このとき、透明板9が、熱伝導率の高いもの(例えば、無機ガラス)であれば、透明板9も熱伝導部材として機能し、発光部7の放熱効果を得ることができる。
【0086】
なお、発光部7を熱伝導部材13のみで固定する場合には、透明板9を省略することも可能である。
【0087】
(ハウジング10)
ハウジング10は、ヘッドランプ1の本体を形成しており、反射鏡8等を収納している。光ファイバー5は、このハウジング10を貫いており、半導体レーザアレイ2は、ハウジング10の外部に設置される。半導体レーザアレイ2は、レーザ光の発振時に発熱するが、ハウジング10の外部に設置することにより半導体レーザアレイ2を効率良く冷却することが可能となる。したがって、半導体レーザアレイ2から発生する熱による、発光部7の特性劣化や熱的損傷等が防止される。
【0088】
また、半導体レーザ3は、万一故障した時のことを考慮して、交換しやすい位置に設置することが好ましい。これらの点を考慮しなければ、半導体レーザアレイ2をハウジング10の内部に収納してもよい。
【0089】
(エクステンション11)
エクステンション11は、反射鏡8の前方の側部に設けられており、ヘッドランプ1の内部構造を隠して、ヘッドランプ1の見栄えを良くするとともに、反射鏡8と車体との一体感を高めている。このエクステンション11も反射鏡8と同様に金属薄膜がその表面に形成された部材である。
【0090】
(レンズ12)
レンズ12は、ハウジング10の開口部に設けられており、ヘッドランプ1を密封している。発光部7が発生し、反射鏡8によって反射された光は、レンズ12を通ってヘッドランプ1の前方へ出射される。
【0091】
(熱伝導部材13)
熱伝導部材13は、発光部7における励起光が照射される面であるレーザ光照射面7aの側に配置され、発光部7の熱を受け取る透光性の部材であり、発光部7と熱的に(すなわち、熱エネルギーの授受が可能なように)接続されている。発光部7と熱伝導部材13とは、例えば、接着剤によって接続されていてもよい。
【0092】
熱伝導部材13は、板状の部材であり、その一方の端部が発光部7のレーザ光照射面7aに熱的に接触しており、他方の端部が冷却部14に熱的に接続されている。
【0093】
熱伝導部材13は、このような形状および接続形態を有することで、微小な発光部7を特定の位置で保持しつつ、発光部7から発生する熱をヘッドランプ1の外部に放熱する。
【0094】
発光部7の熱を効率良く逃がすために、熱伝導部材13の熱伝導率は、20W/mK以上であることが好ましい。また、半導体レーザ3から出射されたレーザ光は、熱伝導部材13を透過して発光部7に到達する。そのため、熱伝導部材13は、透光性の優れた材質からなるものであることが好ましい。
【0095】
これらの点を考慮して、熱伝導部材13の材質としては、サファイア(Al2O3)やマグネシア(MgO)、窒化ガリウム(GaN)、スピネル(MgAl2O4)が好ましい。これらの材料を用いることにより、熱伝導率20W/mK以上を実現できる。
【0096】
また、図1において符号13cで示す熱伝導部材13の厚み(熱伝導部材13における、レーザ光照射面7aの側に位置する第1面13aと、当該第1面13aに対向する第2面13bとの間の厚み)は、0.3mm以上、3.0mm以下が好ましい。0.3mmよりも薄いと発光部7の放熱を十分にできず、発光部7が劣化してしまう可能性がある。また、3.0mmを超えるような厚みにすると、照射されたレーザ光の熱伝導部材13における吸収が大きくなり、励起光の利用効率が顕著に下がる。
【0097】
熱伝導部材13を適切な厚みで発光部7に当接させることにより、特に発光部7での発熱が1Wを超えるような極めて強いレーザ光を照射しても、その発熱が迅速且つ効率的に放熱され、発光部7が損傷(劣化)してしまうことを防止できる。
【0098】
なお、熱伝導部材13は、折れ曲がりのない板状のものであってもよいし、折れ曲がった部分や湾曲した部分を有していてもよい。ただし、発光部7が接着される部分は、接着の安定性の観点から平面(板状)である方が好ましい。
【0099】
ここで、熱伝導部材13の熱吸収効果および放熱効果を高めるために、次の変更が有効である。
・放熱面積(発光部7との接触面積)を増加させる。
・熱伝導部材13の厚みを増加させる。
・熱伝導部材13の熱伝導率を高める。例えば、熱伝導率の高い材質を用いる。または、熱伝導部材13の表面に熱伝導率の高い部材(薄膜または板状部材など)を配設する。
【0100】
なお、熱伝導部材13の表面に金属薄膜などを形成する場合には、光束が低下する可能性がある。また、熱伝導部材13の表面を被覆したり、別の部材を配設したりする場合には、製造コストが増加する。
【0101】
(熱伝導部材13の変更例)
熱伝導部材13は、透光性を有する部分(透光部)と透光性を有さない部分(遮光部)とを有していてもよい。この構成の場合、透光部は発光部7のレーザ光照射面7aを覆うように配置され、遮光部はその外側に配置される。
【0102】
遮光部は、金属(例えば銅やアルミ)の放熱パーツであってもよいし、アルミや銀その他、照明光を反射させる効果のある膜が透光性部材の表面に形成されているものであってもよい。
【0103】
(冷却部14)
冷却部14は、熱伝導部材13を冷却する部材であり、例えば、アルミや銅などの金属からなる熱伝導性の高い放熱ブロックである。なお、反射鏡8が金属で形成されるのであれば、反射鏡8が冷却部14を兼ねていてもよい。または、冷却部14は、冷却液をその内部に循環させることによって熱伝導部材13を冷却する冷却装置であってもよいし、風冷によって熱伝導部材13を冷却する冷却装置(ファン)であってもよい。
【0104】
冷却部14を金属塊として実現する場合には、当該金属塊の上面に複数の放熱用のフィンを設けてもよい。この構成により、金属塊の表面積を増加させ、金属塊からの放熱をより効率良く行うことができる。
【0105】
なお、この冷却部14はヘッドランプ1にとって必須なものではなく、熱伝導部材13が発光部7から受け取った熱を熱伝導部材13から自然に放熱させてもよい。冷却部14を設けることで、熱伝導部材13からの放熱を効率良く行うことができ、特に、発光部7からの発熱量が3W以上の場合に、冷却部14の設置が有効となる。
【0106】
また、熱伝導部材13の長さを調整することにより、冷却部14を発光部7から離れた位置に設置することができる。この場合、図2に示すような、冷却部14がハウジング10に収納される構成に限らず、熱伝導部材13がハウジング10を貫くことにより、冷却部14をハウジング10の外部に設置することも可能となる。
【0107】
それゆえ、冷却部14が万が一故障した場合に修理または交換しやすい位置に設置することができ、ヘッドランプ1の設計自由度を高めることができる。
【0108】
(発光部7の変更例)
図3は、発光部7の変更例を示す断面図である。図3に示すように、発光部7の側面と当接する熱伝導壁(熱伝導部材)18を形成してもよい。この熱伝導壁18は、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、またはサファイア、無機ガラスなどの透光性および高熱伝導性を有する材質からなる壁面である。
【0109】
熱伝導壁18を第2の熱伝導部材として熱伝導部材13とともに設けることにより、発光部7の放熱効果をより高めることができる。
【0110】
(発光部7の作製方法)
次に発光部7の作製方法について説明する。
【0111】
まず、セラミックス材料と蛍光体粉末とバインダとが所定の割合となるようにそれぞれの粉末を秤量し、これらの粉末が均一に混ざり合うように混合する(混合工程)。この混合処理は、秤量した各粉末を容器に入れ、手動で揺動させることによって行ってもよいし、混合装置によって行ってもよい。
【0112】
ここで、セラミックス材料と蛍光体粉末とバインダとを混合する混合割合は、セラミックス材料+蛍光体とバインダとの比率が50:50〜70:30であることが好ましい。また、セラミックス中の蛍光体濃度は、目的の色温度、色度、使用する蛍光体の効率、粒子径によって異なるが、およそ1:10〜1:2とすることが好ましい。ただし、これらの混合割合に限定されるものではなく、適宜決めてよい。
【0113】
ここで、図4は、発光部7の内部に蛍光体粒子16が分散している状態を示す概念図であるが、発光部7における蛍光体の濃度が高い場合には、図4に示すように蛍光体粒子16が封止材の中に均一に分散していることが好ましい。蛍光体粒子16が一箇所に偏って存在すると、その箇所での発熱量が多くなり、発光効率の低下および発光部7の劣化が生じる可能性があるからである。
【0114】
なお、セラミックス材料を蛍光体と共に焼結するときには、セラミックス材料はできる限り高純度で、かつ、0.5μm〜2μmの粉末粒子を用いることが好ましい。
【0115】
混合工程の後、混合粉末を射出成型に供し、所望の形状に成型する(成型工程)。射出成型法は、射出されたままの状態で次の焼結工程に成型物を供することができるため、成型物に含まれる蛍光体の分散性が優れ、特に有効である。
【0116】
成型工程の後、まず脱バインダ処理を行う。ここでは400℃〜600℃程度の温度を加えることによりバインダを解重合反応などにより分解し蒸発させる。その後、成型された成型物を焼結させる(焼結工程)。ここで、成型物を焼結処理することにより、焼結物に粒界(結晶粒間の界面または粒子の境界面)を生成することができる。その粒界の存在は、次の効果を生じさせる。具体的には、人間の目に損傷を与える可能性の高い、コヒーレントな成分を有するレーザ光が励起光として使用される場合には、粒界によってレーザ光が散乱される。そして、発光点の大きさが拡大することによって、発光装置の安全性を高めることができる。
【0117】
なお、焼結工程における焼結温度は、セラミックス材料の融点の約0.6倍〜0.8倍とすることが好ましく、一般的には、800℃〜1500℃程度である。ただし、焼結助剤を用いることにより、焼結温度を低温化させることもできる。また、焼成時間は、例えば脱バインダ工程を500℃で3時間行った後に、1200℃を2時間保持するといった構成で実現されてよい。ただし、焼結時間は、ここで挙げた時間に限られず、適宜変更可能である。
【0118】
また、粒界のサイズは、光の散乱を発生させる領域である必要がある。例えば、そのサイズは、波長によって散乱の度合いが異なるレイリー散乱の領域(粒界サイズが1nm〜数10nm位)から、波長によらず散乱されるミー散乱の領域もしくは回折散乱の領域(可視光の波長とほぼ同程度の粒界サイズ数100nm〜50μm程度)までが考えられる。
【0119】
さらに、発光部を、射出成型工程および焼結工程ではなく、溶融処理によって作製する方法も考えられる。しかしながら、その場合、発光部の内部の蛍光体が均一に分散されないという問題が生じうる。さらに、焼結工程であれば発生する粒界が溶融処理では発生せず、そのため、レーザ光を分散させてヘッドランプ1の安全性を高めるという効果を奏することができなくなる。
【0120】
このような理由から、ヘッドランプ1は、上述した、混合工程、成型工程、及び焼結工程によって作製することが好ましい。なお、発光部に分散される蛍光体が均一性を有する作製方法、および、発光部に粒界が発生する作製方法であれば、混合工程、成型工程、及び焼結工程に限定されず他の方法を用いることも可能である。
【0121】
(発光部7の作製方法の一実施例)
ここで、発光部7の作製方法の一実施例を説明する。
【0122】
上述したように、セラミックス材料を蛍光体と共に焼結するときには、セラミックス材料はできる限り高純度、かつ、0.5μm〜2μmの粉末粒子を用いることが好ましい。そこで、例えばセラミックス材料としてアルミナを用いる場合には、粒子径が0.1μm〜0.5μmとすることが好ましく、そのアルミナの微粒子と、YAG:Ce3+蛍光体と、バインダと、焼結助剤とを混合工程で均一に混合しペレット化する。このとき、アルミナ微粒子とYAG:Ce3+とバインダとは4:1:5の割合で混合する。このとき、焼結助剤を微量添加してよい。
【0123】
その混合工程によって得られた混合粉末を成型工程、及び成型工程に供し、所望の発光部7を得る。なお、本実施例では、焼結工程は、成型工程で得られた成型物を減圧加熱下で脱脂し、N2ガス中で焼結させる。
【0124】
ただし、減圧加熱下での脱脂、N2ガス中で焼結は必ずしも必要ではない。しかしながら、蛍光体材料としてYAG:Ce3+を用いる場合には、酸素を含む雰囲気下で成型物を加熱すると、Ce3+がCe2+となって着色を示すとともに発光効率が低下するという問題が生じる。このため、蛍光体材料等の条件に応じて減圧加熱下での脱脂、N2ガス中で焼結、及び場合に応じて他の操作を加えることにより、より好適な焼結発光体を作製することができる。
【0125】
さらに、蛍光体材料としては、YAG:Ce3+のほか、酸窒化物蛍光体を好適に使用することができる。励起光源として405nmの半導体レーザを用いるのであれば、青色蛍光体としてのJEMと緑色蛍光体としてのβ−SiAlON:Eu2+と赤色蛍光体としてのCASN:Eu2+を用いることができる。ここで赤色蛍光体としてCASN:Eu2+の代わりにSr(ストロンチウム)が添加されたSCASN:Eu2+を用いれば、演色性は若干犠牲となるものの、発光効率を向上させることができる。励起光源として450nm近辺で発振する半導体レーザを用いるのであれば、β−SiAlON:Eu2+と赤色蛍光体としてのCASN:Eu2+または、SCASN:Eu2+を使うとよい。
【0126】
(半導体レーザ3の構造)
次に、半導体レーザ3の基本構造について説明する。図5(a)は、半導体レーザ3の回路図を模式的に示したものであり、図5(b)は、半導体レーザ3の基本構造を示す斜視図である。同図に示すように、半導体レーザ3は、カソード電極23、基板22、クラッド層113、活性層111、クラッド層112、アノード電極21がこの順に積層された構成である。
【0127】
基板22は、半導体基板であり、本願のように蛍光体を励起する為の青色〜紫外の励起光を得る為にはGaN、サファイア、SiCを用いることが好ましい。一般的には、半導体レーザ用の基板の他の例として、Si、GeおよびSiC等のIV属半導体、GaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSbおよびAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al2O3、SiO2、TiO2、CrO2およびCeO2等の酸化物絶縁体、並びに、SiNなどの窒化物絶縁体のいずれかの材料が用いられる。
【0128】
アノード電極21は、クラッド層112を介して活性層111に電流を注入するためのものである。
【0129】
カソード電極23は、基板22の下部から、クラッド層113を介して活性層111に電流を注入するためのものである。なお、電流の注入は、アノード電極21・カソード電極23に順方向バイアスをかけて行う。
【0130】
活性層111は、クラッド層113及びクラッド層112で挟まれた構造になっている。
【0131】
また、活性層111およびクラッド層の材料としては、青色〜紫外の励起光を得る為にはAlInGaNから成る混晶半導体が用いられる。一般に半導体レーザの活性層・クラッド層としては、Al、Ga、In、As、P、N、Sbを主たる組成とする混晶半導体が用いられ、そのような構成としても良い。また、Zn、Mg、S、Se、TeおよびZnO等のII−VI属化合物半導体によって構成されていてもよい。
【0132】
また、活性層111は、注入された電流により発光が生じる領域であり、クラッド層112及びクラッド層113との屈折率差により、発光した光が活性層111内に閉じ込められる。
【0133】
さらに、活性層111には、誘導放出によって増幅される光を閉じ込めるために互いに対向して設けられる表側へき開面114・裏側へき開面115が形成されており、この表側へき開面114・裏側へき開面115が鏡の役割を果す。
【0134】
ただし、完全に光を反射する鏡とは異なり、誘導放出によって増幅される光の一部は、活性層111の表側へき開面114・裏側へき開面115(本実施の形態では、便宜上表側へき開面114とする)から出射され、励起光L0となる。なお、活性層111は、多層量子井戸構造を形成していてもよい。
【0135】
なお、表側へき開面114と対向する裏側へき開面115には、レーザ発振のための反射膜(図示せず)が形成されており、表側へき開面114と裏側へき開面115との反射率に差を設けることで、低反射率端面である、例えば、表側へき開面114より励起光L0の大部分を発光点103から照射されるようにすることができる。
【0136】
クラッド層113・クラッド層112は、n型およびp型それぞれのGaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSb、及びAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、並びに、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体のいずれの半導体によって構成されていてもよく、順方向バイアスをアノード電極21及びカソード電極23に印加することで活性層111に電流を注入できるようになっている。
【0137】
クラッド層113・クラッド層112および活性層111などの各半導体層との膜形成については、MOCVD(有機金属化学気相成長)法やMBE(分子線エピタキシー)法、CVD(化学気相成長)法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。各金属層の膜形成については、真空蒸着法やメッキ法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。
【0138】
(発光部7の発光原理)
次に、半導体レーザ3から発振されたレーザ光による蛍光体の発光原理について説明する。
【0139】
まず、半導体レーザ3から発振されたレーザ光が発光部7に含まれる蛍光体に照射されることにより、蛍光体内に存在する電子が低エネルギー状態から高エネルギー状態(励起状態)に励起される。
【0140】
その後、この励起状態は不安定であるため、蛍光体内の電子のエネルギー状態は、一定時間後にもとの低エネルギー状態(基底準位のエネルギー状態または励起準位と基底準位との間の準安定準位のエネルギー状態)に遷移する。
【0141】
このように、高エネルギー状態に励起された電子が、低エネルギー状態に遷移することによって蛍光体が発光する。
【0142】
白色光は、等色の原理を満たす3つの色の混色、または補色の関係を満たす2つの色の混色で構成でき、この原理・関係に基づき、半導体レーザから発振されたレーザ光の色と蛍光体が発する光の色とを、上述のように組み合わせることにより白色光を発生させることができる。
【0143】
(ヘッドランプ1の効果)
発光部をハイパワーのレーザ光で励起すると、発光部が激しく劣化することを本発明の発明者は見出した。発光部の劣化は、発光部に含まれる蛍光体そのものの劣化とともに、蛍光体を取り囲む封止材の劣化によって主に引き起こされる。例えば、上述のサイアロン蛍光体は、レーザ光が照射されると60〜80%の効率で光を発生させるが、残りは熱となって放出される。
【0144】
この点、ヘッドランプ1では、発光部7は、アルミナなどのセラミックス材料と半導体レーザ3から出射されたレーザ光を受けて発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させたものである。そのため、発光部7は高い熱伝導性を有し、発光部7の熱が効率良く熱伝導部材13に伝わり、発光部7が効果的に放熱される。これにより、発熱による発光部7の劣化および発光効率の低下を防止することができる。
【0145】
従って、レーザ光を励起光源とした超高輝度な光源としてのヘッドランプの寿命を延ばし、その信頼性を高めることができる。
〔従来の発光装置とヘッドランプ1との比較〕
次に、ヘッドランプ1によって得られる効果を表1、表2を用いて説明する。
〔表1:発光部の材質〕
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示すように、発光部の封止材として無機ガラスを用いる従来の発光装置と、セラミックス材料としてアルミナを用いるヘッドランプ1とを比較して、ヘッドランプ1による効果を考察する。
【0148】
表1に示すように、無機ガラスの熱伝導率は1W/mKであり、アルミナの熱伝導率は20W/mKである。なお、発光部中は、酸窒化物系蛍光体(Caα−SiAlON:CeおよびCASN:Eu)が内部に分散されており、直径3mm、厚さ1.5mmの円盤状であるものとする。
【0149】
ここで、蛍光体を封止する一般的な封止材の熱伝導率は、シリコン樹脂や有機無機ハイブリッドガラスで0.1W/mK〜0.2W/mK程度、無機ガラスで1W/mK〜2W/mK程度である。例えば、熱伝導率0.2W/mKの3mm×3mm×厚さ1mmの発熱体の3mm×3mm平面で1Wの発熱があり、上記発熱体が外部と熱的に絶縁されている場合を熱シミュレーションにより計算すると、発熱体の温度は500℃以上(555.6℃)になる。
【0150】
ちなみに、熱伝導率2W/mKの封止材を用いると同じ大きさ・同じ発熱量の発熱体であっても温度上昇は55.6℃となる。すなわち、封止材の熱伝導率は非常に重要である。また、封止材の熱伝導率は2W/mKのまま、発熱体のサイズを3mm×1mm×厚さ1mmとすると、温度上昇は166.7℃となる。それゆえ、輝度を高くするために発光部7のサイズを小さくすればするほど、同じ発熱量でも温度上昇が激しくなり、発光部7に負担がかかるようになる。
【0151】
このような背景のもと、従来の発光部で使用される無機ガラスと、熱伝導率が20W/mKというアルミナとを対比しつつ、ヘッドランプ1の効果を考察する。
【0152】
まず、上表において、無機ガラスおよびアルミナの熱抵抗を算出する。各部材の熱抵抗は、次の(1)式によって算出できる。
【0153】
熱抵抗=(1/熱伝導率)×(放熱経路の長さ/放熱断面積)・・・(1)
放熱経路の長さは、各部材の厚み(レーザ光の透過方向における厚み)に相当し、放熱断面積は、部材間の接合面積に相当する。具体的な熱抵抗の計算例を表2に示す。
〔表2:熱抵抗の計算例〕
【0154】
【表2】
【0155】
表2に示すように、無機ガラスとアルミナとを対比すると、発光部の熱抵抗は、無機ガラスが83.3K/W、アルミナが4.2K/Wとなる。すなわち、発光部で1Wの発熱があった場合、無機ガラスでは83.3℃の温度上昇が想定されるのに対して、アルミナでは4.2℃に抑えられる。したがって、熱伝導率20W/mKのアルミナを用いることで、発光部の熱抵抗を劇的に低減することができる。つまり、発光部を構成する材料の熱伝導率を向上させることは、発光部の温度上昇を低減するという目的に対して、非常に大きな効果があることが分かる。
【0156】
このような理由から、ヘッドランプ1に係る発光部7は高い熱伝導性を有することができ、発光部7の熱が効率良く熱伝導部材13に伝わり、発光部7が効果的に放熱される。これにより、発熱による発光部7の劣化および発光効率の低下を防止することができる。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図6〜図11に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0157】
ここでは、本発明の照明装置の一例としてのレーザダウンライト200について説明する。レーザダウンライト200は、家屋、乗物などの構造物の天井に設置される照明装置であり、半導体レーザ3から出射したレーザ光を発光部7に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いるものである。
【0158】
なお、レーザダウンライト200と同様の構成を有する照明装置を、構造物の側壁または床に設置してもよく、上記照明装置の設置場所は特に限定されない。
【0159】
図6は、発光ユニット210および従来のLEDダウンライト300の外観を示す概略図である。図7は、レーザダウンライト200が設置された天井の断面図である。図8は、レーザダウンライト200の断面図である。図6〜図8に示すように、レーザダウンライト200は、天板400に埋設され、照明光を出射する発光ユニット210と、光ファイバー5を介して発光ユニット210へレーザ光を供給するLD光源ユニット220とを含んでいる。LD光源ユニット220は、天井には設置されておらず、ユーザが容易に触れることができる位置(例えば、家屋の側壁)に設置されている。このようにLD光源ユニット220の位置を自由に決定できるのは、LD光源ユニット220と発光ユニット210とが光ファイバー5によって接続されているからである。この光ファイバー5は、天板400と断熱材401との間の隙間に配置されている。
【0160】
(発光ユニット210の構成)
発光ユニット210は、図8に示すように、筐体211、光ファイバー5、発光部7、熱伝導部材13および透光板213を備えている。図8では示されていないが、発光部7には高熱伝導フィラー15が分散されている。上述の実施形態と同様に、発光部7の熱が熱伝導部材13に伝わることで発光部7の放熱が促進される。
【0161】
筐体211には、凹部212が形成されており、この凹部212の底面に発光部7が配置されている。凹部212の表面には、金属薄膜が形成されており、凹部212は反射鏡として機能する。
【0162】
また、筐体211には、光ファイバー5を通すための通路214が形成されており、この通路214を通って光ファイバー5が熱伝導部材13まで延びている。光ファイバー5の出射端部5aから出射されたレーザ光は、熱伝導部材13を透過して発光部7に到達する。
【0163】
透光板213は、凹部212の開口部をふさぐように配置された透明または半透明の板である。この透光板213は、透明板9と同様の機能を有するものであり、発光部7の蛍光は、透光板213を透して照明光として出射される。透光板213は、筐体211に対して取外し可能であってもよく、省略されてもよい。
【0164】
図6では、発光ユニット210は、円形の外縁を有しているが、発光ユニット210の形状(より厳密には、筐体211の形状)は特に限定されない。
【0165】
なお、ダウンライトでは、ヘッドランプの場合とは異なり、理想的な点光源は要求されず、発光点が1つというレベルで十分である。それゆえ、発光部7の形状、大きさおよび配置に関する制約は、ヘッドランプの場合よりも少ない。
【0166】
(LD光源ユニット220の構成)
LD光源ユニット220は、半導体レーザ3、非球面レンズ4および光ファイバー5を備えている。
【0167】
光ファイバー5の一方の端部である入射端部5bは、LD光源ユニット220に接続されており、半導体レーザ3から発振されたレーザ光は、非球面レンズ4を介して光ファイバー5の入射端部5bに入射される。
【0168】
図8に示すLD光源ユニット220の内部には、半導体レーザ3および非球面レンズ4が一対のみ示されているが、発光ユニット210が複数存在する場合には、発光ユニット210からそれぞれ延びる光ファイバー5の束を1つのLD光源ユニット220に導いてもよい。この場合、1つのLD光源ユニット220に複数の半導体レーザ3と非球面レンズ4との対が収納されることになり、LD光源ユニット220は集中電源ボックスとして機能する。
【0169】
(レーザダウンライト200の設置方法の変更例)
図9は、レーザダウンライト200の設置方法の変更例を示す断面図である。同図に示すように、レーザダウンライト200の設置方法の変形例として、天板400には光ファイバー5を通す小さな穴402だけを開け、薄型・軽量の特長を活かしてレーザダウンライト本体(発光ユニット210)を天板400に貼り付けるということもできる。この場合、レーザダウンライト200の設置に係る制約が小さくなり、また工事費用が大幅に削減できるというメリットがある。
【0170】
この構成では、熱伝導部材13は、筐体211の底部に、レーザ光入射側の面を全面的に当接させて配置されている。それゆえ、筐体211を熱伝導率の高い物質からなるものにすることによって熱伝導部材13の冷却部として機能させることができる。
【0171】
(レーザダウンライト200と従来のLEDダウンライト300との比較)
従来のLEDダウンライト300は、図6に示すように、複数の透光板301を備えており、各透光板301からそれぞれ照明光が出射される。すなわち、LEDダウンライト300において発光点は複数存在している。LEDダウンライト300において発光点が複数存在しているのは、個々の発光点から出射される光の光束が比較的小さいため、複数の発光点を設けなければ照明光として十分な光束の光が得られないためである。
【0172】
これに対して、レーザダウンライト200は、高光束の照明装置であるため、発光点は1つでもよい。それゆえ、照明光による陰影がきれいに出るという効果が得られる。また、発光部7の蛍光体を高演色蛍光体(例えば、数種類の酸窒化物蛍光体の組み合わせ)にすることにより、照明光の演色性を高めることができる。
【0173】
これにより、白熱電球ダウンライトに迫る高演色を実現することができる。例えば、平均演色評価数Raが90以上のみならず、特殊演色評価数R9も95以上というLEDダウンライトや蛍光灯ダウンライトでは実現が難しい高演色光も高演色蛍光体と半導体レーザ3の組合せにより実現可能である。
【0174】
図10は、LEDダウンライト300が設置された天井の断面図である。同図に示すように、LEDダウンライト300では、LEDチップ、電源および冷却ユニットを収納した筐体302が天板400に埋設されている。筐体302は比較的大きなものであり、筐体302が配置されている部分の断熱材401には、筐体302の形状に沿った凹部が形成される。筐体302から電源ライン303が延びており、この電源ライン303はコンセント(不図示)につながっている。
【0175】
このような構成では、次のような問題が生じる。まず、天板400と断熱材401との間に発熱源である光源(LEDチップ)および電源が存在しているため、LEDダウンライト300を使用することにより天井の温度が上がり、部屋の冷房効率が低下するという問題が生じる。
【0176】
また、LEDダウンライト300では、光源ごとに電源および冷却ユニットが必要であり、トータルのコストが増大するという問題が生じる。
【0177】
また、筐体302は比較的大きなものであるため、天板400と断熱材401との間の隙間にLEDダウンライト300を配置することが困難な場合が多いという問題が生じる。
【0178】
これに対して、レーザダウンライト200では、発光ユニット210には、大きな発熱源は含まれていないため、部屋の冷房効率を低下させることはない。その結果、部屋の冷房コストの増大を避けることができる。
【0179】
また、発光ユニット210ごとに電源および冷却ユニットを設ける必要がないため、レーザダウンライト200を小型および薄型にすることができる。その結果、レーザダウンライト200を設置するためのスペースの制約が小さくなり、既存の住宅への設置が容易になる。
【0180】
また、レーザダウンライト200は、小型および薄型であるため、上述したように、発光ユニット210を天板400の表面に設置することができ、LEDダウンライト300よりも設置に係る制約を小さくすることができるとともに工事費用を大幅に削減できる。
【0181】
図11は、レーザダウンライト200およびLEDダウンライト300のスペックを比較するための図である。同図に示すように、レーザダウンライト200は、その一例では、LEDダウンライト300に比べて体積は94%減少し、質量は86%減少する。
【0182】
また、LD光源ユニット220をユーザの手が容易に届く所に設置できるため、半導体レーザ3が故障した場合でも、手軽に半導体レーザ3を交換できる。また、複数の発光ユニット210から延びる光ファイバー5を1つのLD光源ユニット220に導くことにより、複数の半導体レーザ3を一括管理できる。そのため、複数の半導体レーザ3を交換する場合でも、その交換が容易にできる。
【0183】
なお、LEDダウンライト300において、高演色蛍光体を用いたタイプの場合、消費電力10Wで約500lmの光束が出射できるが、同じ明るさの光をレーザダウンライト200で実現するためには、3.3Wの光出力が必要である。この光出力は、LD効率が35%であれば、消費電力10Wに相当し、LEDダウンライト300の消費電力も10Wであるため、消費電力では、両者の間に顕著な差は見られない。それゆえ、レーザダウンライト200では、LEDダウンライト300と同じ消費電力で、上述の種々のメリットが得られることになる。
【0184】
以上のように、レーザダウンライト200は、レーザ光を出射する半導体レーザ3を少なくとも1つ備えるLD光源ユニット220と、発光部7および反射鏡としての凹部212を備える少なくとも1つの発光ユニット210と、発光ユニット210のそれぞれへ上記レーザ光を導く光ファイバー5とを含んでいる。
【0185】
(その他の変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0186】
例えば、励起光源として高出力のLEDを用いてもよい。この場合には、450nmの波長の光(青色)を出射するLEDと、黄色の蛍光体、または緑色および赤色の蛍光体とを組み合わせることにより白色光を出射する発光装置を実現できる。
【0187】
また、励起光源として、半導体レーザ以外の固体レーザを用いてもよい。ただし、半導体レーザを用いる方が、励起光源を小型化できるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明は、発光部の熱抵抗を低下させ、その結果、発光部を効率良く放熱させることができる焼結発光体に適用でき、とくに、その焼結発光体を備える発光装置、当該発光装置を用いる照明装置、及び車両用前照灯に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0189】
1 ヘッドランプ(発光装置)
2 半導体レーザアレイ
3 半導体レーザ(励起光源)
4 非球面レンズ
5 光ファイバー
6 フェルール
7 発光部(焼結発光体)
8 反射鏡
9 透明板
10 ハウジング
11 エクステンション
12 レンズ
13 熱伝導部材
14 冷却部
16 蛍光体粒子(蛍光体)
18 熱伝導壁(熱伝導部材)
200 レーザダウンライト(発光装置、照明装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させたことを特徴とする焼結発光体。
【請求項2】
上記セラミックス材料は、高い熱伝導性を有することを特徴とする請求項1に記載の焼結発光体。
【請求項3】
上記セラミックス材料は、アルミナまたは窒化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の焼結発光体。
【請求項4】
上記焼結発光体は、上記セラミックス材料、上記蛍光体、及び上記バインダの混合物を射出成型し、焼結したものであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項5】
上記セラミックス材料は、透光性を有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項6】
上記蛍光体は、酸窒化物蛍光体であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項7】
上記蛍光体は、ナノ粒子蛍光体であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項8】
上記励起光を出射する励起光源と、
請求項1から7の何れか1項に記載の焼結発光体と、
を備えること特徴とする発光装置。
【請求項9】
上記励起光は、レーザ光であることを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
上記焼結発光体と当接し、当該焼結発光体の熱を外部に放熱する熱伝導部材をさらに備えることを特徴とする請求項8または9に記載の発光装置。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の発光装置を備えていることを特徴とする照明装置。
【請求項12】
請求項8から10のいずれか1項に記載の発光装置を備えていることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項13】
請求項1から7の何れか1項に記載の焼結発光体の作製方法であって、
セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とバインダとを混合する混合工程と、
上記混合工程によって混合された混合物を焼結する焼結工程と、
を含むことを特徴とする焼結発光体の作製方法。
【請求項1】
セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とをバインダを用いて焼結させたことを特徴とする焼結発光体。
【請求項2】
上記セラミックス材料は、高い熱伝導性を有することを特徴とする請求項1に記載の焼結発光体。
【請求項3】
上記セラミックス材料は、アルミナまたは窒化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の焼結発光体。
【請求項4】
上記焼結発光体は、上記セラミックス材料、上記蛍光体、及び上記バインダの混合物を射出成型し、焼結したものであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項5】
上記セラミックス材料は、透光性を有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項6】
上記蛍光体は、酸窒化物蛍光体であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項7】
上記蛍光体は、ナノ粒子蛍光体であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の焼結発光体。
【請求項8】
上記励起光を出射する励起光源と、
請求項1から7の何れか1項に記載の焼結発光体と、
を備えること特徴とする発光装置。
【請求項9】
上記励起光は、レーザ光であることを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
上記焼結発光体と当接し、当該焼結発光体の熱を外部に放熱する熱伝導部材をさらに備えることを特徴とする請求項8または9に記載の発光装置。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の発光装置を備えていることを特徴とする照明装置。
【請求項12】
請求項8から10のいずれか1項に記載の発光装置を備えていることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項13】
請求項1から7の何れか1項に記載の焼結発光体の作製方法であって、
セラミックス材料と励起光源から出射された励起光により発光する蛍光体とバインダとを混合する混合工程と、
上記混合工程によって混合された混合物を焼結する焼結工程と、
を含むことを特徴とする焼結発光体の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−190555(P2012−190555A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50635(P2011−50635)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]