説明

煙検出装置

【課題】監視可能範囲を限定することなく、照明変化による誤検出を抑えた煙検出装置を得る。
【解決手段】煙特徴量算出手段(30)と、記憶部(20)と、領域別感度設定手段(40)と、煙判定手段(50)とを備え、監視カメラ(1)により撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、照明変化に起因する輝度変化を照明変化情報として抽出し、照明変化情報が所定の照明変化検出範囲内にある場合には、照明変化が発生していると判断する照明変化検出手段(60)をさらに備え、煙判定手段(50)は、照明変化が発生していると判断された領域では、記憶部に記憶されている複数の所定の基準判定値の中から1つの基準判定値を取り出す際に、領域別感度設定手段により設定された所望の検出感度よりも低い検出感度となる基準判定値を取り出し、所望の検出感度よりも低い検出感度で煙の発生を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視カメラにより撮像された画像に対して画像処理を施すことにより、煙の発生を検出する煙検出装置に関し、特に、照明変化の影響による誤検出、未検出を防止することのできる煙検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火災発生時の初期消火、あるいは火災事故における逃げ遅れの防止の観点から、火災あるいは煙の早期発見が非常に重要となっている。そこで、煙検出装置の分野においては、監視カメラにより撮像された画像に対して画像処理を施すことで、煙の早期発見を行うことが研究されている。
【0003】
その一例として、トンネル内などにカメラを設置し、カメラにより撮像された画像に対して画像処理を施すことで、煙を検出する従来の煙検出装置がある。煙を検出するための画像処理では、一般的に、基準となる画像(基準画像)をあらかじめ記憶しておき、最新の撮像画像と基準画像との差分画像を演算し、変化の生じた領域を抽出することで、煙を検出している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、日照などの影響により基準画像が時間的に変化することに対応するために、基準画像を定期的に更新することが行われている。
【0005】
このように、カメラにより撮像された画像に対して画像処理を施して煙検出を行うことで、次の2点のメリットが得られる。
1)監視カメラの画像を目視確認することで、遠隔地において煙検出状況の把握が可能となる。
2)すでに設置されている監視カメラを流用することが可能であり、効率的な設備を構築できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3909665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
監視カメラの画像は、常に照明条件や視野が安定している環境で撮像されることが好ましい。しかしながら、監視場所によっては、必ずしもこのような好条件下ばかりでなく、監視範囲内において照明変化が生じた場合には、煙の検出精度に大きな影響を与えることが考えられる。特に、薄い煙を検出する場合には、この照明変化が煙の検出精度に及ぼす影響は大きく、高精度に火災判定を行うためには、照明変化に適切に対応して煙検出を行うことが重要となる。
【0008】
さらに、このような照明変化は、監視カメラで撮像された画面全体に及ぶ場合と、画面内で部分的に発生する場合が考えられる。ここで、特に、照明変化が画面内で部分的に発生する後者の場合には、局部的に発生した煙として誤検出されやすい。
【0009】
従来技術においては、このような照明変化が生じた場合にも、同一の判定基準で煙検出を行っており、例えば、日照条件の変化等を含めた照明条件の変化(以下、照明変化と総称する)による影響を、煙が発生したとして誤検出してしまう可能性がある。また、画像を所定の大きさの領域にマトリクス状に分割して、照明条件が変化してしまうことがあらかじめわかっている領域については、煙検出を行わないようにマスキングしてしまうことも考えられるが、監視可能範囲が限定されてしまう結果となってしまう。
【0010】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、監視可能範囲を限定することなく、照明変化による誤検出を抑えた煙検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る煙検出装置は、監視カメラにより撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、煙に関する特徴量を抽出する煙特徴量算出手段と、複数の領域のそれぞれにおいて、煙発生の有無を判定するための所定の基準判定値がそれぞれの領域ごとに複数の検出感度を有する複数の値として記憶された記憶部と、監視カメラによる監視対象に応じて、複数の領域のそれぞれに対して所望の検出感度設定を行う領域別感度設定手段と、複数の領域のそれぞれにおいて、記憶部に記憶されている複数の所定の基準判定値の中から領域別感度設定手段により設定された所望の検出感度に応じた所定の基準判定値を取り出し、煙特徴量算出手段により抽出された特徴量と比較し、比較結果に基づいて複数の領域のそれぞれにおける所望の検出感度で煙の発生を検出する煙判定手段とを備えた煙検出装置において、監視カメラにより撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、照明変化に起因する輝度変化を照明変化情報として抽出し、抽出した照明変化情報が、照明変化が生じたことを判定するための照明変化情報の範囲を規定する所定の照明変化検出範囲内にある場合には、該当する領域において照明変化が発生していると判断する照明変化検出手段をさらに備え、煙判定手段は、照明変化検出手段により照明変化が発生していると判断された領域では、記憶部に記憶されている複数の所定の基準判定値の中から1つの基準判定値を取り出す際に、領域別感度設定手段により設定された所望の検出感度よりも低い検出感度となる基準判定値を取り出し、所望の検出感度よりも低い検出感度で煙の発生を検出するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る煙検出装置によれば、監視対象の画像に関する時系列データに基づいて、照明変化が発生したことを示す照明変化情報を求め、照明変化が発生したと判断した場合には、動的に検出感度を変更することにより、監視可能範囲を限定することなく、照明変化による誤検出を抑えた煙検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の煙検出装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における監視対象となる画像の領域分割に関する説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における監視対象となる画像の各領域に対して設定された所望の検出感度の例示図である。
【図4】本発明の実施の形態1における煙検出装置の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1の照明変化検出手段による特徴量1の検出方法についての説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1における平均輝度の変化量の推移を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態1で、ある注目エリアにおける隣接エリアとの輝度差の推移を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の煙検出装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0015】
実施の形態1.
本発明は、照明変化による誤検出を抑えるために、監視カメラで撮像された画像の中から、煙発生と照明変化とを区別して照明変化情報を検出する照明変化検出部を有していることを技術的特徴としている。そして、本発明は、この照明変化検出部による検出結果に応じて、煙を検出する判断基準を変化させる、あるいは煙発生の有無を判断するために検出した特徴量に補正を加えることで、照明変化による誤検出を抑えた煙検出装置を得ることを可能としている。そこで、本発明の主題である照明変化検出部の説明をする前に、従来の煙検出装置における基本的な煙検出方法について、まず始めに説明する。
【0016】
図1は、従来の煙検出装置の構成図である。この図1の煙検出装置は、画像メモリ10、記憶部20、煙特徴量算出手段30、領域別感度設定手段40、および煙判定手段50を備えている。画像メモリ10は、カメラ1により撮像された画像を、過去一定期間分、時系列データとして記憶できるように、複数フレーム分の画像メモリとして構成されている。
【0017】
監視対象となる画像は、あらかじめ決められた複数の領域に分割され、画像には複数の領域が設定されている。図2は、本発明の実施の形態1における監視対象となる画像の領域分割に関する説明図である。この図2では、監視対象となる画像が、例えば縦4×横5の20個の領域にあらかじめマトリクス状に分割されている場合を例示している。そして、記憶部20には、複数の領域ごとに、煙発生の有無を判定するための基準判定値として、検出感度が異なる複数の値があらかじめ格納されている。
【0018】
以下の説明においては、説明を簡略化するために、検出感度を高レベル、中レベル、低レベルの3つに分けた場合について例示することとする。このように、検出感度が3つのレベルに分かれている場合、記憶部20には、それぞれの領域ごとに、高レベル用、中レベル用、低レベル用の3つの異なる基準判定値が格納され記憶されている。
【0019】
煙特徴量算出手段30は、画像メモリ10に格納された撮像画像について、それぞれの領域ごとに、煙に関する特徴量を抽出し、煙が発生した可能性が高いか否かを判断する。特徴量の抽出方法の代表的なものとしては、次の4つを挙げることができる。
【0020】
[抽出方法1:画素の輝度分散に基づく煙検出]
煙特徴量算出手段30は、それぞれの領域ごとに、各領域内の画素の輝度分散を算出する。輝度分散を算出する画像として、煙特徴量算出手段30は、基本的には、最新の撮像画像を用いる。しかしながら、複数の画像メモリ10に記憶されている画像の時系列データを利用して、過去にさかのぼって、複数毎の撮像画像を用いることもできる。このようにして、煙特徴量算出手段30は、算出した輝度分散、あるいは、輝度分散から得られる標準偏差を、煙に関する特徴量として出力する。
【0021】
そして、後述する煙判定手段50は、煙特徴量算出手段30により算出された輝度分散、あるいは、輝度分散から得られる標準偏差が、所定の範囲内にあるか否かを判定し、所定の範囲内にある場合に、煙が発生した可能性が高いと判断することができる。
【0022】
[抽出方法2:画素の平均輝度の時間分散に基づく煙検出]
煙特徴量算出手段30は、それぞれの領域ごとに、各領域内の画素の平均輝度を算出する。次に、煙特徴量算出手段30は、複数の画像メモリ10に記憶されている画像の時系列データを利用して、過去にさかのぼって、一定の期間にわたる複数枚の撮像画像の同一領域における平均輝度を算出し、それぞれの対象領域ごとに、平均輝度の時系列データを生成する。そして、煙特徴量算出手段30は、生成した平均輝度の時系列データの輝度分散を算出する。
【0023】
このようにして、煙特徴量算出手段30は、平均輝度の時系列データに基づいて算出した輝度分散、あるいは、その輝度分散から得られる標準偏差を、煙に関する特徴量として出力する。
【0024】
そして、後述する煙判定手段50は、煙特徴量算出手段30により平均輝度の時系列データに基づいて算出された輝度分散、あるいは、輝度分散から得られる標準偏差が、所定の範囲内にあるか否かを判定し、所定の範囲内にある場合に、煙が発生した可能性が高いと判断することができる。
【0025】
[抽出方法3:画素の平均輝度の低周波強度に基づく煙検出]
煙特徴量算出手段30は、上述した抽出方法2と同様にして、それぞれの対象領域ごとに、平均輝度の時系列データを生成する。そして、煙特徴量算出手段30は、生成した平均輝度の時系列データをフーリエ変換し、パワースペクトルを算出する。
【0026】
次に、煙特徴量算出手段30は、平均輝度の時系列データに基づいて算出したパワースペクトルの中から所定の低周波数成分を抜き取り、そのモードとなる強度を算出する。このようにして、煙特徴量算出手段30は、平均輝度の時系列データに基づいて算出した低周波数成分の強度を、煙に関する特徴量として出力する。
【0027】
そして、後述する煙判定手段50は、煙特徴量算出手段30により平均輝度の時系列データに基づいて算出された強度が所定の値以下である場合に、煙が発生した可能性が高いと判断することができる。
【0028】
[抽出方法4:基準画像との差分平均に基づく煙検出]
煙特徴量算出手段30は、それぞれの領域ごとに、その領域内の各画素と、あらかじめ画像メモリ10に記憶しておいた基準画像の対応する画素との輝度差分値を求める。さらに、煙特徴量算出手段30は、それぞれの領域ごとに輝度差分値の平均値を求める。このようにして、煙特徴量算出手段30は、輝度差分値の平均値を、煙に関する特徴量として出力する。
【0029】
そして、後述する煙判定手段50は、煙特徴量算出手段30により算出された平均値が所定の値より大きい場合に、煙が発生した可能性が高いと判断することができる。
【0030】
次に、領域別感度設定手段40について説明する。領域別感度設定手段40は、あらかじめ分割された複数の領域のそれぞれに対して、所望の検出感度を設定する手段であり、オペレータ等は、この領域別感度設定手段40により、特定の領域に所望の検出感度をあらかじめ手動で設定することができる。
【0031】
監視対象として取り込まれる画像は、すべての領域で同一の検出感度により煙検出を行う必要があるとは限らない。例えば、監視対象に応じて、煙が発生しやすい要因がある領域は、検出感度をより高めに設定し、誤報要因の多い領域または煙が発生する可能性が低い領域は、検出感度をより低めに設定することで、誤検出や未検出を抑えた適切な煙検出が実現できる。
【0032】
そこで、領域別感度設定手段40は、監視対象に応じて、それぞれの領域ごとに、例えば、検出感度を高レベル、中レベル、低レベルの3つの中から所望の検出感度を選択して設定しておくことができる。
【0033】
図3は、本発明の実施の形態1における監視対象となる画像の各領域に対して設定された所望の検出感度の例示図である。図3(a)は、分割された20領域の全ての検出感度が「中レベル」として設定されている場合を示している。これに対して、図3(b)は、領域に応じて「高レベル」「中レベル」「低レベル」に切り分けて検出感度が設定されている場合を示している。
【0034】
このようにして、監視対象となる画像に応じて、領域ごとに所望の検出感度を設定することにより、誤検出や未検出を抑えた適切な煙検出が実現できる。感度の設定の仕方として、煙は上方向に流れることを考慮し、画像の上部領域に高感度を設定し、人の動きが現れやすい画像の下方を低感度に設定するようにしてもよい。また、輝度の変化があり外乱を発生する要因となる照明の付近を、低感度に設定するようにしてもよい。
【0035】
次に、煙判定手段50は、複数の領域のそれぞれにおいて、記憶部20に記憶されている高レベル、中レベル、低レベルの3つの検出感度に対応した基準判定値の中から、領域別感度設定手段40により設定された所望の検出感度に応じた基準判定値を取り出す。さらに、煙判定手段50は、煙特徴量算出手段30により抽出された特徴量と、取り出した基準判定値とを比較し、比較結果に基づいて煙が発生している可能性が高いか否かを判断する。
【0036】
なお、閾値となる基準値が所定の範囲となる場合には、高レベルの所定の範囲は、中レベルの所定の範囲よりも広く(大きく)、また、中レベルの所定の範囲は、低レベルの所定の範囲よりも広く(大きく)設定される。
【0037】
これにより、煙判定手段50は、複数の領域のそれぞれにおいて、所望の検出感度で煙の発生を検出することができる。
【0038】
煙特徴量算出手段30の具体的な抽出方法1〜4を例に説明すると、記憶部20にあらかじめ記憶されている基準判定値は、次のようになる。煙に関する特徴量の抽出として、抽出方法1を用いる場合には、輝度分散、あるいは、輝度分散から得られる標準偏差の基準判定値として、高レベル、中レベル、低レベルの3つの検出感度に対応した基準判定値が、記憶部20に記憶されていることになる。
【0039】
また、煙に関する特徴量の抽出として、抽出方法2を用いる場合には、平均輝度の時系列データに基づいて算出した輝度分散、あるいは、その輝度分散から得られる標準偏差の基準判定値として、高レベル、中レベル、低レベルの3つの検出感度に対応した基準判定値が、記憶部20に記憶されていることになる。
【0040】
また、煙に関する特徴量の抽出として、抽出方法3を用いる場合には、平均輝度の時系列データに基づいて算出した低周波数成分の強度の基準判定値として、高レベル、中レベル、低レベルの3つの検出感度に対応した基準判定値が、記憶部20に記憶されていることになる。
【0041】
また、煙に関する特徴量の抽出として、抽出方法4を用いる場合には、輝度差分値の平均値の基準判定値として、高レベル、中レベル、低レベルの3つの検出感度に対応した基準判定値が、記憶部20に記憶されていることになる。
【0042】
以上のように、図1に示す煙検出装置によれば、監視領域をマトリクス状の複数の領域に分割して、煙発生の有無の可能性を考慮してそれぞれの小領域に検出感度を設定することができる。よって、監視対象に応じて、領域ごとに所望の検出感度を有する基準判定値を用いて、煙検出を行うことができる。
【0043】
次に、本発明の主題である照明変化検出手段60の機能について説明する。上述した図1に示す従来の煙検出装置を用いた場合、本発明が解決しようとする課題として述べたように、監視範囲内において照明変化が生じた場合には、煙の検出精度に大きな影響を与えることとなる。そこで、本発明では、監視カメラで撮像された画像から、照明変化に起因する輝度変化を照明変化情報として抽出し、抽出結果に応じた煙判定を行うことで、照明変化による誤検出を抑制している。
【0044】
すなわち、図1に示した従来の煙検出装置では、監視対象に応じて、領域ごとに所望の検出感度を、あらかじめ手動により設定しておく(いわゆる静的に設定しておく)ものである。これに対して、本発明の煙検出装置は、現状の撮像画像から抽出した照明変化情報に基づいて、照明変化の発生状況を判断し、動的に検出感度を変更するものである。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態1における煙検出装置の構成図である。本実施の形態1における煙検出装置は、画像メモリ10、記憶部20、煙特徴量算出手段30、領域別感度設定手段40、煙判定手段50、および照明変化検出手段60を備えている。図1に示した従来の煙検出装置の構成と比較すると、本実施の形態1における図4の構成は、照明変化検出手段60を新たに備えている点が異なっている。そこで、この照明変化検出手段60の機能を中心に、以下に説明する。
【0046】
照明変化が起こっている撮像エリアでは、画像内の輝度の推移に着目すると、以下のような特徴がある。
[特徴1]輝度値が非常にゆっくりと推移する。
[特徴2]輝度値の推移が単調である。
[特徴3]周囲と似たような輝度値の推移をする。
そこで、これらの特徴1〜3の検出方法について、以下に詳細に説明する。
【0047】
[特徴1]の検出方法について
図5は、本発明の実施の形態1の照明変化検出手段による特徴量1の検出方法についての説明図であり、縦軸はエッジ強度、横軸は時間である。具体的には、図5(a)は、煙発生時における基準画像と現画像のそれぞれのエッジ強度の時間推移を示した図であり、図5(b)は、照明変化発生時における基準画像と現画像のそれぞれのエッジ強度の時間推移を示した図である。
【0048】
ここで、「エッジ」とは、画素の境界部分における輝度値の変化量に相当し、隣接する画素の輝度値の差分で求めることができる。さらに、「エッジ強度」は、例えば、水平方向のエッジ強度と、垂直成分のエッジ強度の2乗平均として求めることができる。
【0049】
図5(a)と図5(b)を比較すると、エッジ強度の時間推移において、次の2点の相違点があることがわかる。第1の相違点としては、基準画像および現画像のそれぞれのエッジ強度の時間推移における減少勾配に着目すると、図5(a)における煙発生時でのエッジ強度の減少勾配に比べ、図5(b)における照明変化発生時でのエッジ強度の減少勾配の方が緩やかであり、所定勾配量以下の勾配量に収まっていることがわかる。
【0050】
さらに、第2の相違点としては、エッジ強度の時間推移における基準画像と現画像との差分に着目すると、図5(a)における煙発生時での差分に比べ、図5(b)における照明変化発生時での差分の方が小さく、所定差分量以下の差分量に収まっていることがわかる。
【0051】
なお、このような2点の相違点がある理由は、照明変化によりエッジ強度が変化する速度が、煙発生によりエッジ強度が変化する速度よりも、非常にゆっくりであることによる。換言すると、基準画像を定期的に更新する更新速度、あるいは現画像をサンプリングする速度よりも、照明変化によりエッジ強度が変化するエッジ強度変化速度の方がゆっくりであるため、照明変化による輝度値の変化が背景化されて、その結果が更新される基準画像あるいはサンプリングされる現画像に徐々に反映されていくことによる。
【0052】
従って、照明変化検出手段60は、サンプリングされた現画像、および更新された基準画像に基づいて、エッジ強度の時間推移を逐次算出し、その勾配量が許容勾配量を超え、かつその差分量が許容差分量を超えた場合には、煙あるいは照明変化が発生したと判断する。
【0053】
さらに、照明変化検出手段60は、勾配量が許容勾配量より大きいが所定勾配量以下であり、かつ差分量が許容差分量よりも大きいが所定差分量以下である場合には、煙が発生しているのではなく、照明変化が生じていることによりエッジ強度が変化している可能性が高いと判断することができる。なお、この判断に当たっては、許容勾配量と所定勾配量に基づく判断、あるいは許容差分量と所定差分量に基づく判断のいずれか一方のみで行うこともできる。
【0054】
また、照明変化検出手段60は、分割された領域ごとに特徴1の検出を行うことで、領域ごとに照明変化の有無を判断できる。
【0055】
[特徴2]の検出方法について
一例として、煙による輝度の変化が非常に緩やかな、いわゆる緩慢煙を考える。このような緩慢煙による輝度の変化も、照明変化による輝度の変化も、両方とも緩慢に緩やかな変化を示す点では共通している。従って、上述した特徴1による輝度の変化量から両者を区別することは難しい場合が考えられる。
【0056】
しかしながら、輝度変化の推移に注目すると、両者を区別することができる。図6は、本発明の実施の形態1における平均輝度の変化量の推移を示した図であり、縦軸は平均輝度値の変化量、横軸はサイクル数(現画像をサンプリングするタイミングに相当)である。
【0057】
図6に示すように、照明変化による輝度の変化は、照明の影響を受ける全体が連続して変化していく(すなわち、単調増加あるいは単調減少する)傾向にある。これに対して、煙の影響による輝度の変化は、煙自身の特性から、平均輝度の変化量が一定な変化を示さずに、振動しながら変化していく傾向にある。
【0058】
そこで、照明変化検出手段60は、監視対象の画像に関する時系列データに対して、平均輝度を算出し、平均輝度値が増加する方向に変化した場合には+1をカウントし、平均輝度値が減少する方向に変化した場合には−1をカウントする。
【0059】
このようにしてカウントすると、照明変化により平均輝度が変化する場合には、カウント値は、単調増加(あるいは単調減少)し、ある時間経過すると所定のカウント値に達することになる。一方、煙の影響により平均輝度が変化する場合には、カウント値は、増加と減少を繰り返すこととなり、ある時間経過しても所定のカウント値まで到達しないことになる。
【0060】
従って、照明変化検出手段60は、監視対象の画像に関する時系列データに対して、平均輝度値の変化をカウントしていくことで、照明変化による輝度の変化を、緩慢煙による輝度の変化と明確に識別することができる。なお、照明変化検出手段60は、分割された領域ごとに特徴2の検出を行うことで、領域ごとに照明変化の有無を判断できる。
【0061】
[特徴3]の検出方法について
煙が発生したエリアでは、煙の濃淡や広がり具合にムラがあるため、隣接エリアにおいては、輝度値の時間推移が異なっている場合が多いと考えられる。一方、照明変化が発生したエリアでは、煙が発生したエリアと比較すると、輝度値の時間推移が似通っていると考えられる。そこで、照明変化検出手段60は、注目エリアにおける隣接エリアとの輝度差を求め、その類似度に着目することで、照明変化の発生の有無を検出できる。
【0062】
ここでは、一例として、注目エリアに対して、上下左右の4つの隣接エリアを対象に、輝度差を算出する場合を説明する。この場合、照明変化検出手段60は、注目エリアにおける平均輝度値と、4つの隣接エリアにおけるそれぞれの平均輝度値との差分量の、所定のサイクル数分の総和値として、輝度差S1〜S4を求める。さらに、照明変化検出手段60は、4つの隣接エリアに対して求めたそれぞれの輝度差S1〜S4の平均値として、SAVEを求めることで、注目エリアにおける隣接エリアとの輝度差を求めることができる。なお、平均値でなく他の手法により代表値を演算するようにしてもよい。
【0063】
図7は、本発明の実施の形態1で、ある注目エリアにおける隣接エリアとの輝度差の推移を示した図であり、縦軸は隣接エリアとの輝度差、横軸は時間である。上述したように、注目エリアで照明変化が発生した場合には、注目エリアで煙が発生した場合と比較して、輝度値の時間推移が似通っていると考えられる。従って、図7に示すように、照明変化が発生した場合の輝度差の時間推移は、煙が発生した場合の輝度差の時間推移と比較して、輝度差の変化幅が小さくなっていることがわかる。
【0064】
そこで、照明変化検出手段60は、監視対象の画像に関する時系列データに対して、注目エリアごとに隣接エリアとの輝度差を算出し、算出した輝度差の所定時間内での変化幅が許容変化幅を超えた場合には、煙あるいは照明変化が発生したと判断する。
【0065】
さらに、照明変化検出手段60は、算出した輝度差の所定時間内での変化幅が、許容変化幅を超えているが所定変化幅以下である場合には、煙が発生しているのではなく、照明変化が生じていることにより許容変化幅を超える輝度差が生じている可能性が高いと判断することができる。
【0066】
なお、この判断に当たっては、分割された領域ごとに、特徴3の検出を行うことで、領域ごとに照明変化の有無を判断できる。また、注目エリアおよび隣接エリアは、分割された領域をさらに細分化したエリアとして規定し、所定数以上の注目エリアにおいて、照明変化が生じていると判断された場合に、該当する分割された領域で照明変化が生じていると判断することができる。
【0067】
照明変化検出手段60は、上述のようにして、特徴1〜特徴3のすべての特徴を検出した場合には、該当する領域で照明変化が生じていると判断する。そして、照明変化検出手段60は、煙判定手段50に対して、その旨を出力する。なお、照明変化検出手段60は、カメラ1で撮像される領域の環境、あるいは検出対象である煙の特性等により、特徴1〜特徴3の1つ以上の特徴を検出した場合に、該当する領域で照明変化が生じていると判断することも可能である。
【0068】
これに対して、煙判定手段50は、照明変化検出手段60により、照明変化による輝度の変化が検出された場合には、判断基準値を下げて煙検出を行う。この結果、煙判定手段50は、照明変化による輝度の変化が発生していると判断された領域では、所望の検出感度よりも低い検出感度で煙の発生を検出することができ、検出感度を変更しない場合の誤検出、あるいはマスキングをすることによる未検出を防止することができる。
【0069】
さらに、煙判定手段50は、特徴1として検出された勾配量、差分量、特徴2として検出されたカウント値、あるいは特徴3として検出された輝度差を照明変化検出手段60から受け取ることで、特徴1〜特徴3としての検出結果の定量的な大きさに応じて、判断基準値を下げる量を可変とすることも可能である。これにより、照明変化の度合いに応じて、検出感度の下げ量を定量的に変化させることができ、煙検出精度の向上を図ることができる。
【0070】
以上のように、実施の形態1によれば、監視対象の画像に関する時系列データに基づいて、照明変化が発生したことを示す照明変化情報を求め、照明変化が発生したと判断した場合には、動的に検出感度を変更することができる。この結果、監視可能範囲を限定することなく、照明変化による誤検出を抑えた煙検出装置を実現できる。
【0071】
さらに、照明変化検出手段により検出された照明変化情報の定量的な大きさに応じて、検出感度を定量的に変化させることも可能である。
【0072】
なお、上述した説明においては、照明変化が発生していると判断した場合に、検出感度を下げる場合について説明した。一方、一度検出感度を下げた後に、照明状態がもとの状態に戻った(すなわち、当初の輝度が得られる状態に戻った)と判断した場合には、検出感度を元に戻すことで、所望の検出感度に復帰させることができる。
【0073】
また、感度の設定として、先の図3においては、高中低の3段階で説明したが、この感度の段階数は、例えば2段階でも、または4段階以上に切替設定してもよい。そして、検出された照明変化情報の定量的な値に応じて、感度設定を下げる段階数を決めるようにしてもよい。
【0074】
さらに言えば、感度の設定として、上記のように段階数を設定する必要はなく、基準判定値をそのまま記憶部20に記憶させ、照明変化による輝度の変化が検出された場合には、複数の領域それぞれにおいて基準判定値を下げて煙検出を行うようにしてもよい。
【0075】
また、上述した説明においては、照明変化検出手段により、全画面一律の判定条件で照明変化の発生の有無を検出する場合について説明した。しかしながら、本発明は、このような構成に限定されるものではない。記憶部内に、それぞれの領域で個別の判定条件をあらかじめ記憶させておくことで、照明変化の発生の有無を領域ごとに適切に判定することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 カメラ、10 画像メモリ、20 記憶部、30 煙特徴量算出手段、40 領域別感度設定手段、50 煙判定手段、60 照明変化検出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視カメラにより撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、煙に関する特徴量を抽出する煙特徴量算出手段と、
煙発生の有無を判定するための所定の基準判定値が記憶された記憶部と、
前記複数の領域のそれぞれにおいて、前記記憶部に記憶されている基準判定値を取り出し、前記煙特徴量算出手段により抽出された前記特徴量と比較し、比較結果に基づいて煙の発生を検出する煙判定手段と
を備えた煙検出装置において、
前記監視カメラにより撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、照明変化に起因する輝度変化を照明変化情報として抽出し、抽出した前記照明変化情報が、照明変化が生じたことを判定するための照明変化情報の範囲を規定する所定の照明変化検出範囲内にある場合には、該当する領域において照明変化が発生していると判断する照明変化検出手段
をさらに備え、
前記煙判定手段は、前記照明変化検出手段により前記照明変化が発生していると判断された領域では、前記記憶部に記憶されている前記基準判定値を、所望の検出感度よりも低い検出感度となる基準判定値に変更して、前記特徴量と比較して煙の発生を検出する
ことを特徴とする煙検出装置。
【請求項2】
監視カメラにより撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、煙に関する特徴量を抽出する煙特徴量算出手段と、
前記複数の領域のそれぞれにおいて、煙発生の有無を判定するための所定の基準判定値がそれぞれの領域ごとに複数の検出感度を有する複数の値として記憶された記憶部と、
前記監視カメラによる監視対象に応じて、前記複数の領域のそれぞれに対して所望の検出感度設定を行う領域別感度設定手段と、
前記複数の領域のそれぞれにおいて、前記記憶部に記憶されている複数の所定の基準判定値の中から前記領域別感度設定手段により設定された前記所望の検出感度に応じた所定の基準判定値を取り出し、前記煙特徴量算出手段により抽出された前記特徴量と比較し、比較結果に基づいて前記複数の領域のそれぞれにおける前記所望の検出感度で煙の発生を検出する煙判定手段と
を備えた煙検出装置において、
前記監視カメラにより撮像された画像内に設定された複数の領域のそれぞれに対して、照明変化に起因する輝度変化を照明変化情報として抽出し、抽出した前記照明変化情報が、照明変化が生じたことを判定するための照明変化情報の範囲を規定する所定の照明変化検出範囲内にある場合には、該当する領域において照明変化が発生していると判断する照明変化検出手段
をさらに備え、
煙判定手段は、前記照明変化検出手段により前記照明変化が発生していると判断された領域では、前記記憶部に記憶されている複数の所定の基準判定値の中から1つの基準判定値を取り出す際に、前記領域別感度設定手段により設定された前記所望の検出感度よりも低い検出感度となる基準判定値を取り出し、前記所望の検出感度よりも低い検出感度で煙の発生を検出する
ことを特徴とする煙検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の煙検出装置において、
前記照明変化検出手段は、前記時系列データに基づいて複数の領域のそれぞれにおけるエッジ強度の時間推移を前記照明変化情報として算出し、前記エッジ強度の時間推移における減少勾配量が所定勾配量範囲内である場合には、前記照明変化が発生していると判断する
ことを特徴とする煙検出装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の煙検出装置において、
前記照明変化検出手段は、前記時系列データに基づいて複数の領域のそれぞれにおける隣接領域との輝度差を前記照明変化情報として算出し、所定時間内における前記輝度差の変化幅が所定輝度差変化幅範囲内である場合には、前記照明変化が発生していると判断する
ことを特徴とする煙検出装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の煙検出装置において、
前記照明変化検出手段は、前記時系列データに基づいて複数の領域のそれぞれにおける平均輝度の変化量を前記照明変化情報として算出し、前記平均輝度の変化量が所定量まで単調増加するあるいは単調減少することにより、前記照明変化が発生していると判断する
ことを特徴とする煙検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−215804(P2011−215804A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82651(P2010−82651)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】