説明

熱プラズマ処理装置

【課題】基材の表面近傍をごく短時間だけ均一に高温熱処理するに際して、基材の所望の被処理領域全体を短時間で処理することのできる熱プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】内部に不活性ガス5を流す熱プラズマノズル1と基材2との間に配置されたノズルカバー7に線状スリット9が設けられ、熱プラズマノズルに電力を供給して、噴出口Fから熱プラズマジェット10を発生させ、線状スリット9を通過したエネルギー束が基材2の表面に作用し、基材2の表面近傍11を熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱プラズマを基材に照射して基材を処理する熱プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多結晶シリコン(poly−Si)等の半導体薄膜は薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)又は太陽電池に広く利用されている。とりわけ、poly−SiTFTは、キャリア移動度が高い上、ガラス基板のような透明の絶縁基板上に作製できるという特徴を活かして、例えば、液晶表示装置、液晶プロジェクタ又は有機EL表示装置などの画素回路を構成するスイッチング素子として、或いは液晶駆動用ドライバの回路素子として広く用いられている。
【0003】
ガラス基板上に高性能なTFTを作製する方法としては、一般に高温プロセスと呼ばれている製造方法がある。TFTの製造プロセスの中でも、工程中の最高温度が1000℃程度の高温を用いるプロセスを一般的に高温プロセスと呼んでいる。高温プロセスの特徴は、シリコンの固相成長により比較的良質の多結晶シリコンを成膜することができる点、シリコンの熱酸化により良質のゲート絶縁層を得ることができる点、及び清浄な多結晶シリコンとゲート絶縁層との界面を形成できる点である。高温プロセスでは、これらの特徴により、高移動度でしかも信頼性の高い高性能TFTを安定的に製造することができる。しかし、高温プロセスでは固相成長によりシリコン膜の結晶化を行うために、600℃程度の温度で48時間程度の長時間の熱処理を必要とする。これは大変長時間の工程であり、工程のスループットを上げるためには必然的に熱処理炉を多数必要とし、低コスト化が難しいという点が課題である。加えて、耐熱性の高い絶縁性基板として石英ガラスを使わざるを得ないため基板のコストが高く、大面積化には向かないとされている。
【0004】
一方、工程中の最高温度を下げ、安価な大面積のガラス基板上にpoly−SiTFTを作製するための技術が低温プロセスと呼ばれる技術である。TFTの製造プロセスの中でも、最高温度が概ね600℃以下の温度環境下において比較的安価な耐熱性のガラス基板上にpoly−SiTFTを製造するプロセスは、一般に低温プロセスと呼ばれている。低温プロセスでは、発振時間が極短時間のパルスレーザーを用いてシリコン膜の結晶化を行うレーザー結晶化技術が広く使われている。レーザー結晶化とは、基板上のシリコン薄膜に高出力のパルスレーザー光を照射することによって瞬時に溶融させ、これが凝固する過程で結晶化する性質を利用する技術である。
【0005】
しかしながら、このレーザー結晶化技術にはいくつかの大きな課題がある。一つは、レーザー結晶化技術によって形成したポリシリコン膜の内部に局在する多量の捕獲準位である。この捕獲準位の存在により、電圧の印加によって、本来、能動層を移動するはずのキャリアが捕獲され、電気伝導に寄与できず、TFTの移動度の低下、閾値電圧の増大といった悪影響を及ぼす。更に、レーザー出力の制限によって、ガラス基板のサイズが制限されるといった課題もある。レーザー結晶化工程のスループットを向上させるためには、一回で結晶化できる面積を増やす必要がある。しかしながら、現状のレーザー出力には制限があるため、第7世代(1800mm×2100mm)といった大型基板にこの結晶化技術を採用する場合には、基板一枚を結晶化するために長時間を要する。また、レーザー結晶化技術は一般的にライン状に成形されたレーザーが用いられ、これを走査させることによって結晶化を行なう。このラインビームは、レーザー出力に制限があるため基板の幅よりも短く、基板全面を結晶化するためには、レーザーを数回に分けて走査する必要がある。これによって基板内にはラインビームの継ぎ目の領域が発生し、二回走査されてしまう領域ができる。この領域は一回の走査で結晶化した領域とは結晶性が大きく異なる。そのため両者の素子特性は大きく異なり、デバイスのバラツキの大きな要因となる。最後に、レーザー結晶化装置は装置構成が複雑であり且つ、消耗部品のコストが高いため、装置コスト及びランニングコストが高いという課題がある。これによって、レーザー結晶化装置によって結晶化したポリシリコン膜を使用したTFTは製造コストが高い素子になってしまう。
【0006】
このような基板サイズの制限、装置コストが高いといった課題を克服するため、熱プラズマジェット結晶化法と呼ばれる結晶化技術が研究されている(例えば、非特許文献1を参照)。本技術を以下に簡単に説明する。タングステン(W)陰極と水冷した銅(Cu)陽極を対向させ、DC電圧を印加すると両極間にアーク放電が発生する。この電極間に大気圧下でアルゴンガスを流すことによって、銅陽極に空いた噴出孔から熱プラズマが噴出する。熱プラズマとは、熱平衡プラズマであり、イオン、電子、中性原子などの温度がほぼ等しく、それらの温度が10000K程度を有する超高温の熱源である。このことから、熱プラズマは被熱物体を容易に高温に加熱することが可能であり、a−Si膜を堆積した基板が、超高温の熱プラズマ前面を高速走査することによって、a−Si膜を結晶化することができる。このように、装置構成が極めて単純であり、且つ大気圧下での結晶化プロセスであるため、装置をチャンバー等の高価な部材で覆う必要が無く、装置コストが極めて安くなることが期待できる。また、結晶化に必要なユーティリティは、アルゴンガスと電力と冷却水であるため、ランニングコストも安い結晶化技術である。
【0007】
図14は、この熱プラズマを用いた半導体膜の結晶化方法を説明するための模式図である。熱プラズマ発生装置31は、陰極32と、この陰極32と所定距離だけ離間して対向配置される陽極33とを含んで構成される。陰極32は、例えばタングステン等の導電体からなる。陽極33は、例えば銅などの導電体からなる。また、陽極33は、中空に形成され、この中空部分に水を通して冷却可能に構成されている。また、陽極33には噴出孔(ノズル)34が設けられている。陰極32と陽極33との間に直流(DC)電圧を印加すると、両極32,33間にアーク放電が発生する。この状態において、陰極32と陽極33の間に大気圧下でアルゴンガス等のガスを流すことによって、前記の噴出孔34から熱プラズマ35を噴出させることができる。ここで「熱プラズマ」とは、熱平衡プラズマであり、イオン、電子、中性原子などの温度がほぼ等しく、それらの温度が10000K程度を有する超高温の熱源である。
【0008】
このような熱プラズマ35を半導体膜の結晶化のための熱処理に利用することができる。具体的には、基板36上に半導体膜37(例えば、アモルファスシリコン膜)を形成しておき、当該半導体膜37に熱プラズマ(熱プラズマジェット)35を当てる。このとき、熱プラズマ35は、半導体膜37の表面と平行な第1軸(図14の例では左右方向)に沿って相対的に移動させながら半導体膜37に当てられる。すなわち、熱プラズマ35は、第1軸の方向に走査しながら半導体膜37に当てられる。ここで「相対的に移動させる」とは、半導体膜37(及び半導体膜37を支持する基板36)と熱プラズマ35とを相対的に移動させることをいい、一方のみを移動させる場合と両者を共に移動させる場合とのいずれも含まれる。このような熱プラズマ35の走査により、半導体膜37が熱プラズマ35の有する高温によって加熱され、結晶化された半導体膜38(本例ではポリシリコン膜)が得られる(例えば、特許文献1を参照)。
【0009】
図15は、半導体膜37の最表面からの深さと温度の関係を示す概念図である。図15に示すように、熱プラズマ35を高速で移動させることにより、表面近傍のみを高温で処理することができる。熱プラズマ35が通り過ぎた後、加熱された領域は速やかに冷却されるので、表面近傍はごく短時間だけ高温になる。
【0010】
このような熱プラズマ35は、点状領域に発生させるのが一般的である。熱プラズマ35は、陰極32からの熱電子放出によって維持されており、プラズマ密度の高い位置では熱電子放出がより盛んになるため、正のフィードバックがかかり、プラズマ密度が益々高くなる。つまり、アーク放電は陰極の1点に集中して生じることとなり、熱プラズマは点状領域に発生する。
【0011】
半導体膜の結晶化など、平板状の基材を一様に処理したい場合には、点状の熱プラズマを基材全体に渡って走査する必要があるが、走査回数を減らして、より短時間で処理できるプロセスを構築するには、熱プラズマの照射領域を広くすることが有効である。このため、古くから、熱プラズマを大面積に発生させる技術が検討されている。
【0012】
例えば、プラズマトーチの外ノズルより噴射するプラズマジェットに、外ノズルの中心軸線と交差する方向で、プラズマジェットを広幅化させるための広幅化ガスを2ケ所から同時に噴出し、プラズマジェットを広幅化させる方法が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。あるいは、ノズル通路の口部が、当該ノズル通路の軸芯に対して所定角度で傾斜していることを特徴とするプラズマノズルを設け、ノズル通路を構成するケーシング、又は、そのケーシングの一部を、その長手軸芯回りに高速で回転させ、プラズマノズルをワークピースに沿って通過移動させる方法が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。また、少なくとも一つの偏芯して配置されたプラズマノズルを持つ回転ヘッドを設けたものが開示されている(例えば、特許文献4を参照)。
【0013】
なお、大面積を短時間で処理することを目的としたものではないが、熱プラズマを用いた溶接方法として、帯状電極を用い、その幅方向が溶接線方向となるように配置して、溶接することを特徴とする高速ガスシールドアーク溶接方法が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S.Higashi, H.Kaku,T.Okada,H.Murakami and S.Miyazaki,Jpn.J.Appl.Phys.45,5B(2006)pp.4313−4320
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−53634号公報
【特許文献2】特開平08−118027号公報
【特許文献3】特開2001−68298号公報
【特許文献4】特表2002−500818号公報
【特許文献5】特開平04−284974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、半導体の結晶化など、ごく短時間だけ基材の表面近傍を高温処理する用途に対して、従来の熱プラズマを大面積に発生させる技術は有効ではなかった。
従来例に示した特許文献2に記載の、熱プラズマを大面積に発生させる技術においては、広幅化はされるものの、広幅化された領域における温度分布は100℃以上となっており、均一な熱処理の実現は不可能である。
【0017】
また、従来例に示した特許文献3、4に記載の、熱プラズマを大面積に発生させる技術においては、本質的には熱プラズマを揺動させるものであるから、実質的に熱処理されている時間は、回転させずに走査した場合と比べて短くなるので、大面積を処理する時間が特段短くなるものではない。また、均一処理のためには回転速度を走査速度に比べて十分に大きくする必要があり、ノズルの構成が複雑化することは避けられない。
【0018】
従来例に示した特許文献5に記載の技術は溶接技術であり、大面積を均一に処理するための構成ではない。仮にこれを大面積処理用途に適用しようとしても、この構成においては点状のアークが帯状電極に沿って振動するので、時間平均すると均一にプラズマが発生するものの、瞬間的には不均一なプラズマが生じている。したがって、大面積の均一処理には適用できない。
【0019】
なお、点状の熱プラズマであっても、その直径が大きければ大面積処理の際の走査回数を減らせるため、用途によっては短時間で処理できる。しかし、熱プラズマの直径が大きいと、走査時に熱プラズマが基材上を通過する時間が実質的に長くなるため、ごく短時間だけ基材の表面近傍のみを高温処理することはできず、基材のかなり深い領域までが高温になり、例えばガラス基板の割れ又は膜剥がれなどの不具合を生じることがある。
【0020】
本発明は、このような課題に鑑みなされたもので、基材の表面近傍部分をごく短時間だけ均一に高温熱処理するに際して、基材の所望の被処理領域全体を短時間で処理することのできる熱プラズマ処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0022】
本発明の第1態様によれば、噴射口から熱プラズマジェットを発生させる熱プラズマノズルと、
前記熱プラズマノズル内に不活性ガスを供給するガス供給装置と、
前記熱プラズマノズルに電力を供給する電源と、
前記噴出口の下流に配置される線状スリットを有するスリット形成部材と、
前記熱プラズマノズルと前記線状スリットとの距離及び前記線状スリットと被処理物との距離を一定に保ちながら、前記熱プラズマノズルと前記被処理物とを相対的に移動させる移動機構を備えたことを特徴とする熱プラズマ処理装置を提供する。
このような構成により、基材の表面近傍をごく短時間だけ均一に高温熱処理するに際して、基材の所望の被処理領域全体を短時間で処理することができる。
【0023】
本発明の第2態様によれば、前記線状スリットは、前記一対の凸部の間に形成されており、前記一対の凸部の高さが、前記熱プラズマノズルの中心に近いほど高いことを特徴とする、第1の態様に記載の熱プラズマ処理装置を提供する。
このような構成により、被処理物をより均一に熱処理することができる。
【0024】
本発明の第3態様によれば、前記熱プラズマノズルの外面側に、ガス導入口と前記線状スリットを備えたノズルカバーが設けられ、前記噴出口と前記ガス導入口と前記線状スリットを除いた空間が閉じた空間をなすよう配置されていることを特徴とする、第1又は2の態様に記載の熱プラズマ処理装置を提供する。
このような構成により、線状スリットの過熱をより効果的に抑制できる。
【0025】
本発明の第4態様によれば、前記熱プラズマノズルが、電極棒と、冷媒流路を内部に備えた電極筒とで構成され、前記電源により、前記電極棒と前記電極筒との間に電力が供給されることを特徴とする、第1〜3のいずれか1つの態様に記載の熱プラズマ処理装置を提供する。
このような構成により、簡単な構成で熱プラズマを得ることができる。
【0026】
本発明の第5態様によれば、前記熱プラズマノズルが、誘電体筒と、前記誘電体筒の周囲に設けられたコイルとで構成され、前記電源により、前記コイルに電力が供給されることを特徴とする、第1〜3のいずれか1つの態様に記載の熱プラズマ処理装置を提供する。
このような構成により、より安定した熱プラズマを得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、基材の表面近傍部分をごく短時間だけ均一に高温熱処理するに際して、基材の所望の被処理領域全体を短時間で処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態における熱プラズマ処理装置の構成を示す断面図
【図2】本発明の前記第1実施形態におけるノズルカバーと線状スリットの構成を示す斜視図
【図3】ノズルカバーと線状スリットが無い場合の、基材に照射されるエネルギー分布を示す概念図
【図4A】前記第1実施形態におけるノズルカバーと線状スリットが有る場合の、基材に照射されるx軸方向のエネルギー分布を示す概念図
【図4B】前記第1実施形態におけるノズルカバーと線状スリットが有る場合の、基材に照射されるy軸方向のエネルギー分布を示す概念図
【図5】前記第1実施形態における前記熱プラズマ処理装置のX−Y駆動装置の構成を示す平面図
【図6】本発明の第2実施形態における熱プラズマ処理装置の熱プラズマノズルと線状スリットを設けたノズルカバーの構成を示す斜視図
【図7】図6の断面Aを示す断面図に移動装置などを追加して示した前記熱プラズマ処理装置の説明図
【図8】図6の断面Bを示す断面図
【図9】図6の断面Cを示す断面図
【図10】図6の断面Dを示す断面図
【図11】図6の断面Eを示す断面図
【図12】図6の断面Gを示す断面図
【図13】本発明の第3実施形態における熱プラズマ処理装置において、図6の断面Aに相当する位置での断面を示す断面図
【図14】従来例の熱プラズマを用いた半導体膜の結晶化方法を説明するための模式図
【図15】従来例における最表面からの深さと温度の関係を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態における熱プラズマ処理装置について図面を用いて説明する。
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態における熱プラズマ処理装置の構成を示す断面図である。図1において、熱プラズマノズル1は、その下端が、被処理物としての基材2に対向するように(一例として、直交するように)配置される。熱プラズマノズル1は、中心導体であるカソードたる電極棒3と、電極棒3を取り囲むように配置されたアノードたる電極筒4とで構成され、電極棒3と電極筒4との間の隙間22には、ガス供給装置50から不活性ガス5を流す。不活性ガス5としては、典型的にはアルゴンを用いることができるが、ヘリウム、ネオン、若しくは、キセノンなどの希ガス、又は、窒素を用いることも可能である。電極筒4の下端部分は、下向きに先すぼまり、すなわち、大略円錐形状に構成されている。電極筒4の内部には冷媒流路6が設けられ、冷媒流路6に冷媒を流して電極筒4を冷却することにより、熱プラズマによる電極筒4の過熱が防止される。冷媒としては、一般に純水を用いる。
【0031】
熱プラズマノズル1の下端には噴出口Fが設けられ、熱プラズマノズル1と基材2との間に、スリット形成部材の一例としてのノズルカバー7が配置される。ノズルカバー7は、大略長方形の板状部材7aを有している。ノズルカバー7の板状部材7aの内部には冷媒流路8が設けられ、冷媒流路8に冷媒を流してノズルカバー7の板状部材7aを冷却することにより、熱プラズマによるノズルカバー7の板状部材7aの過熱が防止される。ノズルカバー7には、さらに、長手方向沿いに線状スリット9が板状部材7aを厚さ方向に貫通して設けられ、線状スリット9は噴出口Fの下流に配置される。線状スリット9の両側の板状部材7aの上面には、熱プラズマノズル1の中心に近いほど、高くなるような一対の円弧板壁状の凸部7bが配置されている。一対の円弧板状の凸部7bの間には、一定間隔の線状スリット9が形成されている。この凸部7b内にも冷媒流路8が形成されて、冷媒流路8に冷媒を流して凸部7bを冷却することにより、熱プラズマによる凸部7bの過熱が防止される。円弧板壁状の凸部7bは、円弧形状に限らず、三角形の山形状、多角形などでもよいとともに、熱プラズマノズル1の中心を境に、対称形状のほうが良い。
【0032】
このような構成において、ガス供給装置50から不活性ガス5を流しながら、電源51から電極棒3と電極筒4の間に、電極棒3がマイナス、電極筒4がプラスになるよう直流電力を供給することにより、熱プラズマジェット10が発生する。そして、熱プラズマジェット10のうち、ノズルカバー7の線状スリット9を通過したエネルギー束が基材2の表面に作用し、基材2の表面近傍部分11を熱処理する。このとき、熱プラズマノズル1と線状スリット9との距離(熱プラズマノズル1の下端と、線状スリット9が一対の凸部7bで形成される場合の一対の凸部7bの最上端の位置との距離)及び線状スリット9と基材2との距離(線状スリット9が一対の凸部7bで形成される場合の板状部材7aに開口した線状スリット9の下端位置と、基材2の表面との距離)を一定に保ちながら、熱プラズマノズル1と基材2とを線状スリット9の線方向(長手方向)と垂直な向きに(太い矢印の向きに)相対的に移動させることにより、基材2の表面近傍部分11をごく短時間だけ均一に高温熱処理することができる。相対的に移動させる方向は、線状スリット9の線方向(長手方向)と垂直な向きに限定されず、線状スリット9の線方向(長手方向)と交差する方向であれば、斜めでもよい。
【0033】
このため、例えば、熱プラズマノズル1と線状スリット9との距離を一定に保持するために、支持部材53により熱プラズマノズル1とノズルカバー7とを固定的に支持する。さらに、一例として、線状スリット9と基材2との距離を一定に保持しながら、基材2を載置する平面ステージ54に対して、支持部材53を相対的に移動させるxyテーブル又は直線移動機構などの移動装置55(図5参照)とを備える。
【0034】
図2は、本発明の第1実施形態におけるノズルカバー7と線状スリット9の構成を示す斜視図である。図2において、線状スリット9の高さ(図1におけるH)が、熱プラズマノズル1の中心に近いほど高くなるよう、線状スリット9の周囲に弧状の一対の凸部7bが設けられている。
【0035】
図3は、ノズルカバー7と線状スリット9とが無い場合の、熱プラズマノズル1から基材2に熱プラズマが照射されるときのエネルギー分布を示す概念図である。互いに直交するx軸とy軸(基材2から熱プラズマノズル1に向かう方向をz軸方向としている)のどちらの方向についても、ほぼ同じ等方的な分布で、上に凸となるエネルギー分布である。
【0036】
図4A及び図4Bは、それぞれ、ノズルカバー7と線状スリット9とが有る場合の、熱プラズマノズル1から基材2に熱プラズマが照射されるx軸方向とy軸方向エネルギー分布を示す概念図である。x軸とy軸とは、図2に示す向きであり、x軸は線状スリット9の線方向(長手方向)とは垂直な向き(つまり、熱プラズマノズル1を基材2に対して相対的に移動させる移動方向)、y軸は線状スリット9の線方向である。基材2から熱プラズマノズル1に向かう方向をz軸方向としている。x軸方向については、熱プラズマノズル1から照射される熱プラズマのエネルギー束のうち、周辺への広がり部分が線状スリット9によって遮蔽されるため、エネルギー分布が狭く鋭くなる。また、熱プラズマが線状スリット9を通過する際にプラズマジェット全体がノズルカバー7により冷却されるため、エネルギー束の最大値は小さくなる。一方、y軸方向については、熱プラズマノズル1から照射される熱プラズマのエネルギー束が、ノズルカバー7に衝突してy軸方向に若干広がる。また、熱プラズマノズル1の中心に近いほど、一対の凸部7bで形成される線状スリット9の高さが高いために、中心に近いほどプラズマジェットがノズルカバー7で強く冷却され、エネルギー分布が平坦になる。したがって、基材2の表面近傍部分11を、線状スリット9の線方向に対して均一に熱処理することができる。
【0037】
このように、線状スリット9を利用して走査方向に狭く、走査方向に対して垂直な方向に広い分布を持つプラズマジェットを形成し、これを基材2上で高速に走査することにより、熱拡散長が十分小さいまま、大面積を同時に処理することができる。
【0038】
次に、基材2の表面の全体を処理するためには、移動装置55の例として、図5に示すX−Y駆動装置56を用いる。図5において、熱プラズマノズル1とノズルカバー7は、(支持部材53を介して)X軸ガイド装置12に支持され、X軸ガイド装置12に
より図5の縦矢印の方向(x軸方向)に可動であり、また、X軸ガイド装置12は、Y軸ガイド装置13により図5の横矢印の方向(y軸方向)に可動である。すなわち、真空吸着法などを用いて平面ステージ54の表面に固定された基材2に対して、Y軸ガイド装置13とX軸ガイド装置12とで構成されるX−Y駆動装置56を駆動して、X軸ガイド装置12に支持された熱プラズマノズル1及びノズルカバー7をxy軸方向に走査することにより、時間をずらせて基材2の表面全体を熱処理することができる。
【0039】
なお、基材2の表面全体をムラなく熱処理するためには、走査する際の走査ピッチは、線状スリット9の線方向長さよりも小さいこと、さらには、図4Bにおけるy軸方向のエネルギー分布が平坦な部分の長さよりも小さいことが好ましい。
【0040】
なお、基板2を固定して熱プラズマノズル1とノズルカバーをX−Y駆動装置56で移動させる場合を例示したが、熱プラズマノズル1とノズルカバー7とを固定して、基板2をX−Y駆動装置56で移動させても良い。つまり、熱プラズマ処理装置としては、熱プラズマノズル1と被処理物2とを線状スリット9の線方向と垂直な向きに相対的に移動させる移動機構を備えればよい。
【0041】
このようにして、基材2の表面近傍を高温処理することが可能となるが、従来例で詳しく述べたTFT用半導体膜の結晶化若しくは太陽電池用半導体膜の改質に適用可能であることは勿論、プラズマディスプレイパネルの保護層の清浄化若しくは脱ガス低減、シリカ微粒子の集合体からなる誘電体層の表面平坦化若しくは脱ガス低減、又は、種々の電子デバイスのリフローなど、様々な表面処理に適用できる。
【0042】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について、図6〜図12を参照して説明する。
図6は、本発明の第2実施形態における熱プラズマノズル1Aと線状スリット9Aを設けたノズルカバー14の構成を示す斜視図である。図6において、円筒状の熱プラズマノズル1Aの下端部が直方体形状のノズルカバー14の中央部に挿入されている。その構成をより詳しく説明するため、図6において断面切断線A〜E、Gで切った断面図である図7〜図12を用いる。断面切断線A〜E、Gで切った断面図を、単に、断面A〜E、Gと称する。断面A〜Dは線状スリット9Aと垂直な面、断面E及びGは線状スリット9Aと平行な面である。また、断面Aは熱プラズマノズル1Aの中心軸を通る面、断面Cは熱プラズマノズル1Aの最外周を通る面、断面Bは断面Aと断面Cの中間であり、断面Dは熱プラズマノズル1Aよりも外側である。断面Eは熱プラズマノズル1Aの中心軸を通る面、断面Gは断面Eよりも少し右側で、線状スリット9Aよりもわずかに外側の位置である。
【0043】
図7は、断面Aを示す断面図に移動装置などを追加して示した前記熱プラズマ処理装置の説明図である。断面Aは、熱プラズマノズル1Aの中心に近くを通る断面であり、熱プラズマノズル1Aとノズルカバー14とが図示されている。図7において、熱プラズマノズル1Aは、被処理物としての基材2に対向するように(一例として、直交するように)配置される。熱プラズマノズル1Aは、中心導体であるカソードたる電極棒3と、電極棒3を取り囲むように配置されたアノードたる電極筒4とで構成され、電極棒3と電極筒4との間の隙間23には、ガス供給装置50から不活性ガス5を流す。不活性ガス5としては、典型的にはアルゴンを用いることができるが、ヘリウム、ネオン、若しくは、キセノンなどの希ガス、又は、窒素を用いることも可能である。電極筒4の下端部分は、下向きに先すぼまり、すなわち、大略円錐形状に構成されている。電極筒4の内部には冷媒流路6が設けられ、冷媒流路6に冷媒を流して電極筒4を冷却することにより、熱プラズマによる電極筒4の過熱が防止される。冷媒としては、一般に純水を用いる。
【0044】
熱プラズマノズル1Aの下端には噴出口Fが設けられ、熱プラズマノズル1Aと基材2の間に、スリット形成部材の別の例としてのノズルカバー14が配置される。ノズルカバー14の上部の中央部には、熱プラズマノズル1Aの下端部外面との間に空間24をあけて熱プラズマノズル1Aを保持する保持部14aを有している。ノズルカバー14の内部には冷媒流路15が設けられ、冷媒流路15に冷媒を流してノズルカバー14を冷却することにより、熱プラズマによるノズルカバー14の過熱が防止される。ノズルカバー14には、その下部に配置された一対の壁部14bにより、長手方向沿いに線状スリット9Aが形成され、線状スリット9Aは噴出口Fの下流に配置される。保持部14aの下端には壁部14bが接続されている。この各壁部14bは、熱プラズマノズル1Aの中心に近いほど、高くなるような円弧板壁状の凸部で構成されている。一対の円弧板状の凸部の壁部14b間には、一定間隔の線状スリット9Aが形成されている。円弧板壁状の凸部14bは、円弧形状に限らず、三角形の山形状、多角形などでもよいとともに、熱プラズマノズル1Aの中心を境に、対称形状のほうが良い。
【0045】
熱プラズマノズル1Aの下端部の外側に配置されたノズルカバー14の保持部14aには、不活性ガス供給装置57に接続されたガス導入口16が設けられている。熱プラズマノズル1Aの下端部と、その外側に配置されたノズルカバー14の保持部14aとの間には、空間24が形成されており、空間24はガス導入口16と連通している。よって、不活性ガス供給装置57から供給された不活性ガス17が、ガス導入口16から空間24内に供給されて、熱プラズマノズル1Aの下端部の外側で、かつ、ノズルカバー14の保持部14aの内側の空間24を、線状スリット9Aに向かって下向きに流れるように構成されている。つまり、噴出口Fとガス導入口16と線状スリット9Aを除いた空間が、閉じた空間をなすよう配置されている。不活性ガス15としては、典型的にはアルゴンを用いることができるが、ヘリウム、ネオン、若しくはキセノンなどの希ガス、又は、窒素を用いることも可能である。
【0046】
このような構成において、ガス供給装置50及び不活性ガス供給装置57から不活性ガス5及び17をそれぞれ流しながら、電源51から電極棒3と電極筒4との間に、電極棒3がマイナス、電極筒4がプラスになるよう直流電力を供給することにより、熱プラズマジェット10が発生する。そして、熱プラズマジェット10のうち、ノズルカバー14の線状スリット9Aを通過したエネルギー束が基材2の表面に作用し、基材2の表面近傍部分11を熱処理する。このとき、熱プラズマノズル1Aと線状スリット9Aとの距離(熱プラズマノズル1Aの下端と、線状スリット9Aが一対の壁部14bで形成される場合の一対の壁部14bの最上端の位置との距離)及び線状スリット9Aと基材2との距離(線状スリット9Aが一対の壁部14bで形成される場合のノズルカバー14の底面に開口した線状スリット9Aの下端位置と、基材2の表面との距離)を一定に保ちながら、熱プラズマノズル1Aと基材2とを線状スリット9Aの線方向(長手方向)と垂直な向きに(太い矢印の向きに)相対的に移動させることにより、基材2の表面近傍部分11をごく短時間だけ均一に高温熱処理することができる。
【0047】
このため、例えば、熱プラズマノズル1Aと線状スリット9Aとの距離を一定に保持するために、支持部材53により熱プラズマノズル1Aとノズルカバー14とを固定的に支持する。さらに、一例として、線状スリット9Aと基材2との距離を一定に保持しながら、基材2を載置する平面ステージ54に対して、支持部材53を相対的に移動させるxyテーブル又は直線移動機構などの移動装置55(図5参照)とを備える。
【0048】
なお、ガス導入口16を、電極棒3の近傍に設ける場合を例示したが、ガス導入口16を、電極棒3の近傍だけでなく線状スリット9Aの線方向に複数配置してもよいし、あるいは、スリット状の導入口を設けてもよい。ガス導入口16を、電極棒3の近傍だけでなく線状スリット9Aの線方向に複数配置したり、あるいは、スリット状の導入口を設けた場合、ノズルカバー14の過熱抑制作用が、線状スリット9Aの線方向に均一化されるという利点がある。
【0049】
図8は断面Bを示す。断面Aは、熱プラズマノズル1Aの中心からやや外れた位置を通る断面であり、熱プラズマノズル1Aとノズルカバー14とが図示されている。線状スリット9Aの高さHは、図7における線状スリット9Aの高さHよりも低くなっている。言い換えれば、図8における線状スリット9Aよりも、図7における線状スリット9Aは熱プラズマノズル1の中心に近く、図8の線状スリット9Aの高さHよりも図7における線状スリット9Aの高さHが高くなっていることから、線状スリット9Aの高さが熱プラズマノズル1の中心に近いほど高くなるよう構成されていることがわかる。
【0050】
図9は断面Cを示す。断面Cでは、熱プラズマノズル1Aは現れず、ノズルカバー14のみが図示されることになる。線状スリット9Aの高さHは、図8における線状スリット9Aの高さHよりもさらに低くなっており、線状スリット9Aの高さが熱プラズマノズル1Aの中心から遠ざかるほど低くなるように構成されている。
図10は断面Dを示す。断面Dでは、熱プラズマノズル1Aから離れた位置であり、熱プラズマノズル1Aは現れず、ノズルカバー14のみが図示されることになる。線状スリット9Aは、もはやこの断面には現れない。
【0051】
図11は断面Eを示す。熱プラズマノズル1Aから照射されるエネルギー束がノズルカバー14に衝突して若干広がるため、噴出口Fよりも広いプラズマジェットが得られる。なお、14cは線状スリット9Aの長さ方向の端部を示す。
図12は断面Gを示す。線状スリット9Aの高さが、熱プラズマノズル1Aの中心に近いほど高くなるよう、線状スリット9Aを形成する壁部14bが円弧状の凸部で形成されることが明示されている。
【0052】
このように、熱プラズマノズル1Aの下端部の外側に、ガス導入口16と線状スリット9Aを備えたノズルカバー14が設けられ、噴出口Fとガス導入口16と線状スリット9Aを除いた空間が閉じた空間をなすよう配置されている場合、不活性ガス17を、熱プラズマノズル1Aの外側で、かつ、ノズルカバー14の内側の空間24において、線状スリット9Aに向かって下向きに流すことができるので、ノズルカバー14の過熱をより効果的に抑制することができる。
【0053】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について、図13を参照して説明する。
図13は、本発明の第3実施形態における熱プラズマノズル18と線状スリット9Bを設けたノズルカバー14Bの構成を示す断面図である。熱プラズマノズル18と線状スリット9Bを設けたノズルカバー14Bの構成全体を示す斜視図は、図6と同様な斜視図であるため、図示を省略する。図13は、図6の断面切断線Aで切った断面である。図13において、熱プラズマノズル18は、被処理物としての基材2に対向するように(一例として、直交するように)配置される。熱プラズマノズル18は、誘電体筒19と、誘電体筒19の内部に設けられた冷媒流路20と、誘電体筒19の周囲に設けられたコイル21とで構成されている。誘電体筒19の中心軸に沿ってガス供給装置50から不活性ガス5を流す。不活性ガス5としては、典型的にはアルゴンを用いることができるが、ヘリウム、ネオン、若しくは、キセノンなどの希ガス、又は、窒素を用いることも可能である。誘電体筒19の内部には冷媒流路20が設けられ、冷媒流路20に冷媒を流して誘電体筒19を冷却することにより、熱プラズマによる誘電体筒19の過熱が防止される。冷媒としては、一般に純水を用いる。
【0054】
熱プラズマノズル18には噴出口Fが設けられ、熱プラズマノズル18と基材2との間に、スリット形成部材のさらに別の例としてのノズルカバー14Bが配置される。ノズルカバー14Bの上部の中央部には、熱プラズマノズル18の下端部外面の誘電体筒19との間に空間24Bをあけて熱プラズマノズル18を保持する保持部14eを有している。ノズルカバー14Bの内部には冷媒流路15が設けられ、冷媒流路15に冷媒を流してノズルカバー14を冷却することにより、熱プラズマによるノズルカバー14の過熱が防止される。冷媒としては、一般に純水を用いる。ノズルカバー14Bには、その下部に配置された一対の壁部14dにより、長手方向沿いに線状スリット9Bが設けられ、線状スリット9Bは噴出口Fの下流に配置される。保持部14eの下端には壁部14dが接続されている。この各壁部14dは、熱プラズマノズル18の中心に近いほど、高くなるような円弧板壁状の凸部で構成されている。一対の円弧板状の凸部の壁部14d間には、一定間隔の線状スリット9Bが形成されている。円弧板壁状の凸部14dは、円弧形状に限らず、三角形の山形状、多角形などでもよいとともに、熱プラズマノズル1の中心を境に、対称形状のほうが良い。
【0055】
熱プラズマノズル18の下端部の外側に配置されたノズルカバー14Bの保持部14eには、不活性ガス供給装置57に接続されたガス導入口16が設けられている。熱プラズマノズル18の下端部と、その外側に配置されたノズルカバー14Bの保持部14eとの間には、空間24Bが形成されており、空間24Bはガス導入口16と連通している。よって、不活性ガス供給装置57から供給された不活性ガス17が、ガス導入口16から空間24内に供給されて、熱プラズマノズル18の下端部の外側で、かつ、ノズルカバー14Bの保持部14eの内側の空間24を、線状スリット9Bに向かって下向きに流れるように構成されている。つまり、噴出口Fとガス導入口16と線状スリット9を除いた空間が閉じた空間をなすよう配置されている。不活性ガス15としては、典型的にはアルゴンを用いることができるが、ヘリウム、ネオン、若しくはキセノンなどの希ガス、又は、窒素を用いることも可能である。
【0056】
このような構成において、ガス供給装置50及び不活性ガス供給装置57から不活性ガス5及び17をそれぞれ流しながら、高周波電力供給用電源51Bからコイル21に高周波電力を供給することにより、熱プラズマジェット10が発生する。そして、熱プラズマジェット10のうち、ノズルカバー14Bの線状スリット9Bを通過したエネルギー束が基材2の表面に作用し、基材2の表面近傍部分11を熱処理する。このとき、熱プラズマノズル18と線状スリット9Bとの距離(熱プラズマノズル18の下端と、線状スリット9Bが一対の壁部14dで形成される場合の一対の壁部14dの最上端の位置との距離)及び線状スリット9Bと基材2との距離(線状スリット9Bが一対の壁部14dで形成される場合のノズルカバー14Bの底面に開口した線状スリット9Bの下端位置と、基材2の表面との距離)を一定に保ちながら、熱プラズマノズル18と基材2とを線状スリット9Bの線方向(長手方向)と垂直な向きに(太い矢印の向きに)相対的に移動させることにより、基材2の表面近傍部分11をごく短時間だけ均一に高温熱処理することができる。
【0057】
このような熱プラズマノズル18は誘導結合型熱プラズマ(ICTP:Inductively Coupled Thermal Plasma)と呼ぶことができる。この方式においては、無電極であるため、電極からの熱電子放出によらない放電維持が可能で、空間を強力な誘導電界で電離する。したがって、電極を構成する材料による基材の汚染、又は、パーティクル(ダスト)が少なくなり、プラズマジェットの安定性が高く、エネルギー束の変動が小さいという利点がある。
【0058】
以上述べた、第1〜第3実施形態にかかる熱プラズマ処理装置は、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。
例えば、特開2001−3151号公報に開示されているような、カソードトーチとアノードトーチを組合せたマルチトーチ熱プラズマ源の噴射口の下流に線状スリットを配置してもよい。あるいは、誘導結合型熱プラズマの上流に直流型熱プラズマを設けるハイブリッド型熱プラズマ源の噴射口の下流に線状スリットを配置してもよい。
【0059】
なお、前記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明は、TFT用半導体膜の結晶化又は太陽電池用半導体膜の改質に適用可能であることは勿論、プラズマディスプレイパネルの保護層の清浄化又は脱ガス低減、シリカ微粒子の集合体からなる誘電体層の表面平坦化又は脱ガス低減、種々の電子デバイスのリフローなど、さまざまな表面処理において、基材の表面近傍をごく短時間だけ均一に高温熱処理するに際して、基材の所望の被処理領域全体を短時間で処理する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0061】
1,1A 熱プラズマノズル
2 基材
3 電極棒
4 電極筒
5 不活性ガス
6 冷媒流路
7 ノズルカバー
7a 板状部材
7b 凸部
8 冷媒流路
9,9A,9B 線状スリット
10 熱プラズマジェット
11 基材の表面近傍部分
12 X軸ガイド装置
13 Y軸ガイド装置
14,14B ノズルカバー
14a,14e 保持部
14b,14d 壁部
14c 線状スリットの長さ方向の端部
15 冷媒流路
16 ガス導入口
17 不活性ガス
18 熱プラズマノズル
19 誘電体筒
20 冷媒流路
21 コイル
22 隙間
23 隙間
24 空間
50 ガス供給装置
51 電源
51B 高周波電力供給用電源
53 支持部材
54 台部材
55 移動装置
56 X−Y駆動装置
57 不活性ガス供給装置
F 噴出口
H,H,H,H 線状スリットの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射口から熱プラズマジェットを発生させる熱プラズマノズルと、
前記熱プラズマノズル内に不活性ガスを供給するガス供給装置と、
前記熱プラズマノズルに電力を供給する電源と、
前記噴出口の下流に配置される線状スリットを有するスリット形成部材と、
前記熱プラズマノズルと前記線状スリットとの距離及び前記線状スリットと被処理物との距離を一定に保ちながら、前記熱プラズマノズルと前記被処理物とを相対的に移動させる移動機構を備えたことを特徴とする熱プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記線状スリットは、前記一対の凸部の間に形成されており、前記一対の凸部の高さが、前記熱プラズマノズルの中心に近いほど高いことを特徴とする、請求項1に記載の熱プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記熱プラズマノズルの外面側に、ガス導入口と前記線状スリットを備えたノズルカバーが設けられ、前記噴出口と前記ガス導入口と前記線状スリットを除いた空間が閉じた空間をなすよう配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記熱プラズマノズルが、電極棒と、冷媒流路を内部に備えた電極筒とで構成され、前記電源により、前記電極棒と前記電極筒との間に電力が供給されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の熱プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記熱プラズマノズルが、誘電体筒と、前記誘電体筒の周囲に設けられたコイルとで構成され、前記電源により、前記コイルに電力が供給されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の熱プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−71010(P2011−71010A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222312(P2009−222312)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】