説明

熱交換器の熱解析装置、熱交換器の熱解析方法及びその方法をコンピュータに実行させるプログラム

【課題】 ヒートシンク等の熱交換器の熱解析において、熱交換器の温度分布(特に、ヒートシンクを冷却するファンの風上・風下方向における温度分布を考慮したもの)を簡便に算出・表示することを可能にする。
【解決手段】 熱交換器の所定面方向についての温度分布を演算する熱解析装置において、前記熱解析装置は、前記熱交換器の前記所定面に平行な一方向に流れる冷却媒体の方向Xについての熱交換器の一次元的な温度分布T(X)を求める風上・風下温度分布演算手段を含み、前記風上・風下温度分布演算手段は、前記熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率を用いてT(X)を導出する演算を含むものであることを特徴とする。特に好ましくは、前記T(X)を導出する演算は、前記所定面を複数の領域に分割し、各領域においてT(X)をそれぞれ所定の解析式で近似したモデルに基づいて行われるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の熱設計時に有効な温度パラメータ等を演算する熱交換器の熱解析装置、熱交換器の熱解析方法及びその方法をコンピュータに実行させるプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒートシンクやヒートパイプなどの熱交換器の事業においては、製品そのものの品質や価格だけでなく、熱設計の能力が受注に関して重要な位置を占めていると考えられる。すなわち、熱交換器の設計をする際には、材料、形状及び大きさを決定するとともに、その放熱能力を試算する必要がある。熱交換器の放熱能力については、通常、コンピュータ上で熱解析シミュレーションを行うことにより知得される。また、ユーザ側にとっても、所望の形状や大きさの熱交換器について、その放熱特性等の仕様を即座に確認し、性能を比較できることが望ましい。
【0003】
熱解析シミュレーションは、差分法や有限要素法等の解析法を熱伝導問題に適用することで実現され、例えば、有限要素法を適用した例では、解析対象物を複数の三角形要素に分割し、各要素内で熱伝導方程式が最も良く満足されるように温度を定める。よって、熱解析シミュレーションを実現するソフトウェアでは、精度に関連する膨大な数の熱伝導方程式(微分方程式)を連立してその解を求めることが要求される。
【0004】
従来において用いられている熱解析シミュレーションソフトウェアの多くは、プリプロセッサ、ソルバー、ポストプロセッサと呼ばれる3つのプログラムで構成されている。プリプロセッサとは、熱解析対象となるヒートシンクをモデル化するプログラムであり、ヒートシンクのサイズや材料に関する情報、発熱体に関する情報、熱の抜ける条件等の入力に応じて、ソルバーに入力可能な形式のデータセットを出力する。
【0005】
ソルバーとは、プリプロセッサから出力されたデータセットを読み込んで、上記した多数の熱伝導方程式の連立解を算出するプログラムである。ポストプロセッサとは、単なる数値の羅列にすぎないソルバーの演算結果を、温度表や温度分布図等で視覚的に表示するプログラムである。
【0006】
なお、このような熱解析シミュレーションソフトウェアは、その実行プログラムサイズが大きいばかりでなく。数千個の連立微分方程式の解を求める必要があることから、通常は、高速なプロセッサを搭載した比較的高価なコンピュータ上で実行されている。
【0007】
これに対し、従来よりも比較的短時間で熱解析を行うことができるシミュレーションソフトウェア用のプログラムが開発されるようになってきている。ヒートシンク等の熱交換器の分野では、例えば特許文献1に示すような熱解析プログラムが挙げられる。
【特許文献1】特開2002−319786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような従来の熱解析シミュレーションソフトウェアは、
1)操作に習熟が必要である。
2)操作が煩雑である。
3)計算時間がかかる。
4)機材、計算時間の関係上、会議の席上で対応しにくい。
5)ヒートシンクの二次元的な温度分布(特に、ヒートシンクを冷却するファンの風上・風下方向における温度分布を考慮したもの)を簡便に算出・表示できるものがない。
などの問題があった。
【0009】
以上の問題があるため、熱交換器の開発及び販売を行う事業において、以下の不都合が生じていた。
1)営業担当者が顧客先にて熱交換器の仕様変更の要望を受けた際に、その仕様変更後の冷却効果を提示するためには、上記した熱解析シミュレーションソフトウェアを用いて再度熱解析を行わなければならず、より速い回答が求められていた。
2)熱解析シミュレーションに時間がかかりすぎて、設計に多大な時間を要していた。
【0010】
また、熱交換器を冷却するファンの風上・風下方向で温度差がつき、特に風下方向では温度が高くなる傾向があって、その部分に設置された発熱素子が許容温度を超えると素子に悪影響があることから、特に、ファンの風上・風下方向の温度差の把握は実使用の上で重要である。
【0011】
この風上・風下方向の温度差を低い値に保つように熱設計することにより、風下の位置における熱交換器と冷却媒体の温度差を大きくとることができ、結果的に熱交換器の性能を高めることができる。したがって、風上・風下方向の温度差を簡便に求められることは、熱交換器の設計上きわめて有効である。
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、固体内伝熱及び冷却媒体の挙動をモデル化して数学的に解くことにより、計算量を減少させて演算を高速化させた熱交換器の熱解析装置、熱交換器の熱解析方法及びその方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の熱交換器の熱解析装置は、熱交換器の所定面方向についての温度分布を演算する熱解析装置において、
前記熱解析装置は、前記熱交換器の前記所定面に平行な一方向に流れる冷却媒体の方向Xについての熱交換器の一次元的な温度分布T(X)を求める風上・風下温度分布演算手段を含み、前記風上・風下温度分布演算手段は、前記熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率を用いてT(X)を導出する演算を含むものであることを特徴とする熱交換器の熱解析装置である。
【0014】
前記T(X)を導出する演算は、前記所定面を複数の領域に分割し、各領域においてT(X)をそれぞれ所定の解析式で近似したモデルに基づいて行われることとすると特に好ましい。
【0015】
前記複数の領域数は2であり、かつ、前記所定の解析式は、
冷却媒体が前記熱交換器に流入する位置をX=-X1、冷却媒体が熱交換器から流出する位置をX=+X1として、
区間-X1≦X≦0においては T=p(X+X1)2+q-pX12 式(1)
区間0≦X≦+X1においては T=p(X-X1)2+q+pX12 式(2)
(但し、p、qは、熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率、発熱体からの発熱量、熱交換器の放熱面積及び熱交換器の前記面方向における断面積によって決まる係数である。)で表されるものとすると更に好ましい。
【0016】
本発明は、広く熱交換器一般に使用することができるが、特に、発熱体に接触するベースに複数の放熱フィンが取り付けられてなるヒートシンクの熱解析に適している。
【0017】
本発明を上記のようにヒートシンクの熱解析に用いる場合は、放熱フィン部分の熱伝達率をベース部分の熱伝達率に含めることでモデル化されるベース部分のみの熱交換器の熱伝達率を算出する熱伝達率算出手段と、
前記ベース部分の主面の面積と同じ面積を有する第1の円形状と、前記発熱体の接触面積と同じ面積を有する第2の円形状と、を導出し、前記熱交換器を、前記第1の円形状と前記第2の円形状とを同心円として配置した形状にモデル化するモデル化手段と、
前記モデル化手段によってモデル化されたヒートシンクの温度分布を演算する温度演算手段と、
を備えたものとすると好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る熱交換器の熱解析装置及び熱交換器の熱解析方法によれば、ヒートシンク等の熱交換器の二次元的な温度分布(特に、ヒートシンクを冷却するファンの風上・風下方向における温度分布を考慮したもの)を簡便に算出・表示することができ、熱交換器の設計が容易になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る熱交換器の熱解析装置、熱交換器の熱解析方法及びその方法をコンピュータに実行させるプログラムについて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0020】
[実施形態1] まず、実施形態1に係る熱交換器の熱解析装置及び熱解析方法について説明する。本発明の熱解析方法は、熱交換器の所定面の温度分布を求めるものであり、その最も簡単なケースは平板上の放熱プレートにおける表面を前記所定面とするものであある。実施形態1に係る熱交換器の熱解析装置は、平板状の放熱プレートの中央に発熱体が配置され、放熱プレートの長手方向の一端側に冷却用ファンが配置され、他端に向かって冷却媒体が流れている場合の放熱プレートの温度分布を、風上・風下の温度差を考慮して、複雑な演算を行うことなく導出できることを特徴としている。
【0021】
図1は、実施形態1に係る熱交換器の熱解析装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示す熱交換器の熱解析装置は、入力部11、温度分布算出部18及び表示部17を備え、入力部11と温度分布算出部18との間に風上・風下温度差演算処理部12及び風上・風下温度差を考慮しない温度演算処理部13とを並列に備えて構成される。
【0022】
入力部11は、熱解析に必要な種々の入力パラメータの入力と実行指示等を行うための手段であり、キーボードその他のポインティングデバイスである。特にここでは、入力部11によって、放熱プレートの冷却対象となる発熱体に関する発熱データ21と、放熱プレートに関するプレートデータ22と、放熱プレートの一端側に取り付けられたファン等に関する環境データ24が入力される。
【0023】
風上・風下温度差演算処理部12は、風上・風下を考慮した熱伝達率算出部23及び風上・風下温度演算部26を備えている。
【0024】
風上・風下を考慮した熱伝達率算出部23は、少なくとも上記したプレートデータ22及び環境データ24を用いてプレート表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率を算出する手段である。風上・風下温度演算部26は、風上・風下を考慮した熱伝達率算出部23で算出された熱伝達率と、上記した発熱体データ21、プレートデータ22及び環境データ23と、あらかじめ記憶させた演算式とを用いて、放熱プレートの風上・風下の温度差を演算する手段である。
【0025】
後述するように、本発明の風上・風下の温度差の計算方法は、わずか数個の解析的な演算式に基づいて行われるため、従来の計算方法に比べて格段に速く結果が得られる。
【0026】
風上・風下温度差を考慮しない温度演算処理部13は、従来の温度演算手段を用いることができ、本実施形態1では特に限定しないが、後述する実施形態2において、特に好ましい温度演算手段については後述する。
【0027】
温度分布算出部18は、風上・風下温度差演算処理部12及び風上・風下温度差を考慮しない温度演算処理部13のそれぞれから出力された温度データを加算することにより、放熱プレートの温度分布を算出する手段である。
【0028】
表示部17は、温度分布算出部18で算出されたデータを表形式やグラフで表示する手段であり、CRTディスプレイやLCDなどである。
【0029】
以下に、この熱交換器の熱解析装置の動作のうち、風上・風下温度演算手段に係る部分、すなわち風上・風下温度分布の計算方法について説明する。
【0030】
まず、オペレータは、解析対象となる放熱プレートについてのデータを入力する。この放熱プレートについてのデータのうち、風上・風下温度分布の計算に係るデータは、放熱プレートの長さM、放熱面積Se、風上・風下方向に垂直に切った断面積S'及び熱伝導率kである。これら放熱プレートに関するデータは、上記したプレートデータ22として記憶される。
【0031】
また、オペレータは、放熱プレートが取り付けられる発熱体についてのデータを入力する。この発熱体についてのデータのうち、風上・風下温度分布の計算に係るデータは、発熱体の発熱量Qであり、上記した発熱体データ21として記憶される。
【0032】
さらに、オペレータは、環境に係るデータを入力する。環境に係るデータのうち、風上・風下温度分布の計算に係るデータは、放熱プレートの一端側に取り付けられたファンによってもたらされる冷却媒体の風速V、及び放熱プレート表面における冷却媒体の層流/乱流の別である。これらは、前記した環境データ24として記憶される。なお、層流/乱流の別は、オペレータが適宜選択するものとする。
【0033】
以上のデータ入力が完了すると、熱解析処理が開始される。熱解析処理の結果、放熱プレートの冷却媒体方向の位置Xにおける温度T(X)が算出される。T(X)は相対的な温度であり、このT(X)に風上・風下温度差を考慮しない温度分布を足し合わせたものが、熱交換器の所定面の温度分布として図1に示した表示部17に表示される。T(X)は、表形式で表示させてもよいし、図3のようにグラフで表示させてもよい。
【0034】
次に、本発明における熱解析処理の特徴について説明する。
【0035】
〔本発明における熱解析処理の特徴〕本発明者は、図2に示すように、長さMの放熱プレートを中心(位置座標X=0)を境として風上側(領域1)と風下側(領域2)の二つの領域に分け、各領域の温度分布を以下の二次式で近似できることを見出した。次式において、T1(X)は風上側領域、T2(X)は風下側領域の位置Xにおける温度である。なお、X1は中心(X=0)から放熱プレート端部までの距離(すなわち風上及び風下までの距離)である(X1=1/2×M)。
【0036】
T1(X)=p(X+X1)2+q-pX12 式(1−1)
T2(X)=-p(X-X1)2+q+pX12 式(1−2)
放熱プレートの温度分布が上記のように近似が可能な理由は、有限要素法等を用いた精密なシミュレーションを利用して検討した結果、放熱プレートの中央付近では温度分布の傾きが最大、すなわち熱流束が最も高く、放熱プレートの端部では温度分布の傾きがほぼ0、すなわち殆ど断熱状態になっているという知見を得たためである。
【0037】
式(1−1)(1−2)中の係数p、qは、上記領域1及び2の放熱プレートと冷却媒体からなる系の熱伝達率a1及びa2、発熱体の発熱量Q、放熱プレートの熱伝導率k、放熱プレートの断面積S'、を用いて表すことができる。このp、qの求め方について次に示す。
【0038】
まず、放熱プレートと冷却媒体からなる系の熱伝達率a1及びa2は、以下のように求められる。a1(層流)は放熱プレート表面における冷却媒体が層流であると仮定した場合の熱伝達率である。なお、Vは冷却媒体の風速である。
【0039】
a1(層流)={∫ M/2 1.93√(V/X)dx}/(M/2) 式(2−1)
a2(層流)={∫M/2 M 1.93√(V/X)dx}/(M/2) 式(2−2)
また、一般に、の物体表面の流れが乱流の場合の熱伝達率a(乱流)は、一般に次式で表される。但しmは物体の長さである。
【0040】
a(乱流)=0.037×Pr2/3Re4/5λ/m 式(3)
但し、Prは空気のプランドル数、Reはレイノルズ数、λは空気の熱伝導率である。
【0041】
放熱プレート表面における冷却媒体が乱流であると仮定した場合の領域1及び2についての放熱プレートと冷却媒体からなる系の熱伝達率a1(乱流)及びa2(乱流)は、式(3)より、以下のようになる。
【0042】
a1(乱流)=0.037×Pr2/3(M/2×V/μ)4/5λ/(M/2)
=0.037×Pr2/3(V/μ)4/5(M/2) 4/5λ/(M/2)
=0.037×Pr2/3(V/μ)4/5λ×(2)1/5×M-1/5
a2(乱流)=0.037×Pr2/3(V/μ)4/5λ×(2-21/5)×M-1/5
ここで、μは空気の動粘性係数である。なお、自然空冷(ファンなどの動力を用いずに、冷却媒体の浮力だけで媒体の移動を行なう方式)の場合には、冷却媒体の浮力はgQ/TCpと計算され、これが冷却媒体の圧力(圧力損失ΔPと動圧ρV2/(2g)の和)に通風部分(冷却媒体の流れる部分)の断面積を乗じたものとバランスすることから風速Vを決定でき、放熱プレートと冷却媒体からなる系の熱伝達率を算出することができる。ここで、Cpは定圧比熱、ρは空気の密度、gは重力加速度である。
【0043】
式(1−1)(1−2)より、領域1及び2における平均温度Tav,1及びTav,2は以下のようになる。
【0044】
Tav,1=q-(2/3)pX12 式(4)
Tav,2=q+(2/3)pX12 式(5)
ここで、熱のやり取りに関して、図4(a)(b)に示した回路網法の考え方を用いる。図4(a)は、回路網法のモデルである。図4(a)において、30は空気、31は放熱プレート、31−(1)は放熱プレート31における領域1、31−(2)は領域2を示す。領域1、領域2のそれぞれから熱が空気30へ逃げるが、このとき熱抵抗を介して逃げることが示されている。図4(b)は、図4(a)に示した回路網法の詳細モデルである。領域1と領域2はそれぞれ点31−(1)と点31−(2)で示され、両者は熱抵抗Rを介して接続されている。領域2から領域1へ移動する熱量はQ1で表される。また、領域1、領域2から空気へ熱が逃げる際の熱抵抗は、それぞれRh1、Rh2で表される。
【0045】
この回路網法の考え方を利用すると、以下の方程式が成り立つ。なお、Seは放熱プレートの放熱面積である。
【0046】
a1SeTav,1=Q/2+Q1 式(6)
a2SeTav,2=Q/2-Q1 式(7)
ここで、固体内の熱伝導の釣合いより、下記の関係が成り立つ。
【0047】
Q1=kS'{p(X+X1)2}'X=0
=2pX1kS' 式(8)
従って、式(8)を式(6)及び式(7)に代入して連立方程式として解くことにより、放熱プレートの温度分布を表す式(1−1)(1−2)における係数p、qを求めることができる。
【0048】
p=3(a1-a2)Q/{4X1(3a1kS'+3a2kS'+2a1a2SeX1)} 式(9)
q={6kS'+(a1+a2)SeX1}Q/{2Se(3a1kS'+3a2kS'+2a1a2SeX1)} 式(10)
以上が、本発明における熱解析処理の特徴についての説明である。
【0049】
さらに、本発明の特徴として、上に説明したような熱解析処理が行われた後、グラフを表示させたり、それをコンター図(温度分布図)に盛り込んだものを表示させたりすることができる。また、式(8)を用いて、領域2から領域1へ移動する熱量Q1を算出することができる。
【0050】
なお、この実施形態1では、熱交換器として放熱プレートを取り扱ったが、本発明の熱解析装置や熱解析方法は、広く一般の種類の熱交換器に適用できるものである。たとえば、ベース部分に多数のフィンを設けたヒートシンクなどについても適用できる。この場合、ベース部分を上に説明したモデルの放熱プレートとして取り扱うことになる。また、この場合、上記モデル中の放熱プレートの断面積S'としては、フィンを含めたヒートシンクの断面積の値を用いる。また、他にもラジエータのフィンなどについても適用することができる。
【0051】
また、本実施形態1では、冷却媒体が空気(ファンから送られる風)である場合について示したが、冷却媒体が水などの液体である場合についても適用可能であり、同様の効果が得られるものである。
【0052】
また、この実施形態1では、放熱プレートを二つの領域に分割し、各領域の温度分布を式(1)(2)のような二次式で近似する取り扱いを行ったが、分割数は3以上としてもよい。その場合、温度分布は他の適切な関数で近似するものとする。
【0053】
[実施形態2]実施形態1では、風上・風下温度差を考慮しない温度演算処理部13の温度演算処理方法については特に規定しなかったが、本実施形態2では、熱交換器がベース面上に複数の放熱フィンを備えてなるヒートシンクである場合に、この風上・風下温度差を考慮しない温度演算処理部13に、特に好ましい方法を適用した実施形態を説明する。
【0054】
実施形態2に係る熱交換器の熱解析方法は、ヒートシンクのベース面中央上に発熱体が配置されている際のヒートシンクの温度分布を、冷却用ファンの風上・風下方向における温度分布を考慮して、複雑な演算を行うことなく、正確に導出することができることを特徴としている。
【0055】
図5は、実施形態2に係る熱交換器の熱解析装置の概略を示すブロック図である。図5に示す熱交換器の熱解析装置は、入力部11、風上・風下温度差を考慮した熱伝達率算出部23、風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12、面積換算部13、風上・風下温度演算部26、風上・風下温度差を考慮しない温度演算部14、フィン情報処理部15、ファン情報処理部16、温度分布算出部18、表示部17及び演算式記憶部25を備えて構成される。
【0056】
入力部11は、熱解析に必要な種々の入力パラメータの入力と実行指示等を行うための手段であり、キーボードやその他ポインティングデバイスである。特にここでは、入力部11によって、ヒートシンクの冷却対象となる発熱体に関する発熱体データ21と、ヒートシンクのベースプレートに関するベースデータ22aと、ヒートシンクのフィンに関するフィンデータ22bと、ヒートシンクの一端側に取り付けられる冷却用ファン等に関する環境データ24が入力される。
【0057】
風上・風下を考慮した熱伝達率算出部23及び風上・風下温度演算部26は、実施形態1で説明したものと同様である。
【0058】
風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12は、少なくとも上記した発熱体データ21、ベースデータ22aおよびフィンデータ22bと所定の熱伝達率導出式を用いて、フィン表面の熱伝達率や後述するモデル化によって換算される熱伝達率を算出する手段である。面積換算部13は、ベースの主面(発熱体が接触する面)および側面の面積と発熱体の主面(ベースに接触する面)の面積とをそれぞれ保持した状態の円柱を導出する手段である。換言すれば、ベースを同表面積の円柱に置換する手段である。
【0059】
風上・風下温度差を考慮しない温度演算部14は、面積換算部13でモデル化された円柱形状のヒートシンクに対して、風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12で算出された熱伝達率と、上記した発熱体データ21、ベースデータ22aおよびフィンデータ22bと、演算式記憶部25にあらかじめ記憶された演算式とを用いて、ヒートシンクの温度分布を演算する手段である。なお、演算式記憶部25には、演算式として、モデル化された円柱形状の発熱体に相当する部分の内側と外側とで成立する熱伝導方程式の最終形態と、熱エネルギー保存則に基づくエネルギーバランス式と、上記した円柱形状の厚さ方向で成立する熱伝導方程式とを記憶している。特に、これら演算式の数(具体的には3つ)は、従来の熱解析シミュレーションソフトウェアにおいて必要とされる数千個の熱伝導微分方程式と比較して極端に少ない。これは、本発明の特徴の一つであり、これにより高速な熱解析を実現している。なお、上記した演算式の詳細については後述する。
【0060】
フィン情報処理部15は、フィンデータ22bに基づいて、フィンピッチ、フィン間隔およびフィン効率等のフィン部分について導出される情報を処理する手段である。また、ファン情報処理部16は、ヒートシンクに一端に取り付ける冷却用ファンによる前面風速等の環境データ24とフィン情報処理部15で算出されたフィン情報とに基づいて、フィン間風速、風量および圧力損失(圧損)等のファンの作用に関する情報を処理する手段である。
【0061】
温度分布算出部18は、風上・風下温度差演算部26及び風上・風下温度差を考慮しない温度演算部14のそれぞれから出力された温度データを加算することにより、ヒートシンクの温度分布を算出する手段である。
【0062】
表示部17は、風上・風下温度差を考慮しない温度演算部14、フィン情報処理部15およびファン情報処理部16でそれぞれ算出されたデータを表形式で表示する手段であり、CRTディスプレイやLCDなどである。
【0063】
なお、図5に示したヒートシンク熱解析装置は、汎用的なコンピュータシステムで代用することもできる。その場合、上記した風上・風下を考慮した熱伝達率算出部23、風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12、面積換算部13、風上・風下温度演算部26、風上・風下温度差を考慮しない温度演算部14、フィン情報処理部15、ファン情報処理部16及び温度分布算出部18の各動作は、コンピュータのCPU上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される。また、演算式記憶部25に記憶される演算式と、発熱体データ21、ベースデータ22a、フィンデータ22b及び環境データ24は、コンピュータに搭載された記憶装置に記憶される。
【0064】
以下に、このヒートシンク熱解析装置の動作、すなわちヒートシンク熱解析方法について説明する。図6は、ヒートシンク熱解析装置において入出力されるデータの表示例を示す図である。
【0065】
まず、オペレータは、図6に示す画面100上の入力項目表102において、解析対象となるヒートシンクのベースについてのデータを入力する。具体的には、図示するように、ベース幅、ベース長さ、ベース厚さ、ベースの熱伝導率、ベースの比重などである。これらベースに関するデータは、上記したベースデータ22aとして記憶される。
【0066】
また、同入力項目表102において、解析対象となるヒートシンクのフィンについてのデータを入力する。具体的には、図示するように、フィン高さ、フィン厚さ、フィンの枚数、フィンの熱伝導率、フィンの比重などである。これらフィンに関するデータは、上記したフィンデータ22bとして記憶される。
【0067】
また、同入力項目表102において、ヒートシンクが取り付けられる発熱体についてのデータを入力する。具体的には、図示するように、発熱体の幅、発熱体の長さ、発熱量などである。これら発熱体に関するデータは、上記した発熱体データ21として記憶される。
【0068】
さらに、オペレータは、同入力項目表102において、上記した環境データ24として、ヒートシンクに取り付けられるファンによってもたらされる前面風速や温度基準となる環境温度などのデータを入力する。なお、前面風速とは、フィン間に流れ込む風速を示す。
【0069】
また、図6に示す画面100上には、ヒートシンク表示枠101内に、解析対象となるヒートシンクの形状と入力項目との対応付けが表示される。図6では、例として、櫛型フィンを備えたヒートシンクが表示されている。なお、図中、104は、発熱体を示す。このように、解析対象とするヒートシンクの形状を表示することで、入力項目の定義づけが明確となり、入力ミスを防ぐことができるとともに、現在、解析対象となっているヒートシンクの形状イメージを確認することができる。
【0070】
以上に示した入力項目へのデータ入力が完了すると、熱解析処理が自動的に開始される。
【0071】
図7は、実施形態2にかかるヒートシンク熱解析装置による熱解析処理を示すフローチャートである。ヒートシンク熱解析装置による熱解析処理は、風上・風下を考慮した熱解析処理(図7における左側の流れ)と、風上・風下温度差を考慮しない熱解析処理(図7における右側の流れ)とが並行して行われる。
【0072】
風上・風下を考慮した熱解析処理は、実施形態1で説明したものと同様である。すなわち、ベースデータ22a、フィンデータ22b及び環境データ24を用いてプレート表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率を算出し(ステップS201)、続いて実施形態1の式(9)(10)によりp、qを計算し、式(1)(2)に代入することによって風上・風下温度分布を求めるものとする(ステップS202)。但し、熱面積Se、風上・風下方向における断面積S'は、ヒートシンクの形状に合った値を使用するものとする。
【0073】
次に、風上・風下温度差を考慮しない熱解析処理の流れについて説明する。
【0074】
まず、風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12によって、上記したフィンデータ22aを用い、フィンの表面積を算出するとともに(ステップS101)、フィン表面の熱伝達率を算出する(ステップS102)。フィンの表面積Sfinは、図6に示す入力項目のうち、フィン高さ、フィン長さ(ベース長さと同じ)、フィン厚さ、フィンの枚数を用いて算出される。
【0075】
また、風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12は、上記したベースデータ22aを用い、ステップS102で算出したフィン表面の熱伝達率αfinを用いて、ベース部分とフィン部分で構成されるヒートシンクを一つのベースとして取り扱うことができるように、ベース面に換算した熱伝達率α'を算出する(ステップS103)。熱伝達率α'は、具体的には、フィンの熱伝達率αfinに、フィンの面積倍率を乗算することで算出する。
【0076】
図8は、熱伝達率の換算と後述する面積の換算とを説明するための説明図である。図8(a)では、ベースとフィンが一体化したヒートシンクが示されているが、本発明にかかるヒートシンク熱解析装置では、上記したように、フィン部分の熱伝達率をベース部分の熱伝達率に換算して、ベースのみを熱解析対象とする。よって、この段階において、熱解析対象の形状を、図4(b)に示すような一枚板として取り扱うことができ、これにより熱解析に必要な熱伝導方程式の数の低減と簡略化を実現している。
【0077】
つづいて、ヒートシンク熱解析装置は、面積換算部13によって、図8(b)に示したようにモデル化された一つのベースについて、上記した発熱体データ21とベースデータ22aを用い、そのベース面(主面)の面積と、ベース面上との発熱体の接触部分の面積とを算出する(ステップS104)。具体的には、ベース面(主面)の面積は、入力項目のうち、ベース幅とベース長さを用いて算出され、発熱体の接触部分の面積は、発熱体の幅と発熱体の長さを用いて算出される。
【0078】
そして、面積換算部13は、ステップS104で算出したベースの面積と発熱体の面積とがそれぞれ保持された状態の2つの円を導出し、それぞれの円の半径を算出する(ステップS105)。特に、このベースから円への置換は、図8(c)に示すように、発熱体に相当する円が、ベースに相当する円の中央に配置された状態の円柱形状とするモデル化を実現する(ステップS105)。具体的には、図8(c)に示す円柱形状において、内側の円の半径をR1とし、外側の円の半径をR2とすると、
【数1】

として表される。
【0079】
続いて、ヒートシンク熱解析装置は、上記したステップS105でモデル化されたヒートシンクに対し、風上・風下温度差を考慮しない温度演算部14によって、熱解析、すなわち温度分布の導出を開始する。温度演算部14による温度分布の導出は、風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部12で算出された熱伝達率α’と、上記した発熱体データ21、ベースデータ22aおよびフィンデータ22aと、演算式記憶部25に記憶された演算式とを用いて、発熱体の外側の方程式を立てるステップS106と、発熱体の内側の方程式を立
てるステップS107と、発熱体の内側と外側の境界条件を設定するステップS108と、発熱体の内側と外側の方程式を連立で解くステップS109と、モデル化されたヒートシンクの厚さ方向の方程式を立てるステップS110と、厚さ方向における境界条件をステップS109の連立方程式の導出過程に合わせて設定するステップS111と、厚さ方向の方程式を解くステップS112と、によって実現される。
【0080】
以下に、上記したステップS106〜S112の処理について具体的に説明する。この温度演算では、「熱は同心円状に広がる」という点に着目し、図8(c)に示した円柱形状に対する熱伝導方程式を立てて温度分布を算出した後、厚さ方向の熱抵抗を補正値として調整する。なお、円柱形状の温度分布は、発熱体が位置する領域の外側と内側とでそれぞれ成立する熱伝導方程式の解析接続によって表すことができる。
【0081】
まず、発熱体の外側(R1≦r≦R2)の方程式、すなわち上記したステップS106において用いられる方程式について説明する。図9は、発熱体の外側と内側の方程式を説明するための説明図である。発熱体の外側の方程式は、図9(a)に示すように、発熱体領域40の中心をr=0とし、発熱体領域40の半径に相当するr=R1からベースの半径に相当するr=R2までの幅を有するリング領域が対象となる。
【0082】
図9(a)において、上記リング領域の同心円状の微小部分41に着目して、傾きの変化から計算した熱量が、奪われた熱量に等しいとして微分方程式を立てると、
【数2】

となる。ここで、θは温度を示し、λはベースの熱伝導率を示し、Lは厚さを示し、α'は、上記したステップS103で算出された換算熱伝達率を示し、rは微小部分41の内径を示す。
【0083】
これを整理すると、
【数3】

となる。
【0084】
ここで、
【数4】

と置いて、
【数5】

と置いた級数解法により解を求めることにする。
i)第1の解を求めるステップとして、まず、上記した式(13)を
【数6】

と書き下ろし、この式(14)を上記した式(11)に代入して整理すると、
【数7】

が得られる。
【0085】
この式(15)が常に成立するためには、同じ次数の係数が全て等しくなる必要がある。nを変化させると、nが奇数の時An=0となり、nが偶数の時n2n=4An-2となる。これから、
【数8】

と求まる。
【0086】
よって、この式(16)を上記した式(13)に代入することにより、
【数9】

が得られる。ここで、A0=1とおくと、第一種変形ベッセル関数Bessel I(r)に一致する。この解をJとおく。
ii)つぎに、第2の解を求めるステップとして、
【数10】

と置く。i)と同様に、この式(18)を
【数11】

と書き下ろす。
【0087】
そして、この式(19)を上記した式(11)に代入すると、Jが式(11)の解であることから、対数の項が消える。その後J’を代入して整理すると、
【数12】

が得られる。
【0088】
この式(20)において、k,nを変化させると、i)と同様にnが奇数の時
、Bn=0となる。nが偶数の場合、各項にそれぞれk=s,n=2s,n=2
s−2を代入して整理すると、
【数13】

が得られる。この式(21)を変形すると、結局、
【数14】

が得られる。
【0089】
さらに、この式(22)において、sを1からsまで変えて辺々加えると、
【数15】

【数16】

が得られる。
【0090】
結局、
【数17】

と求められる。
【0091】
ここで、α’=−1,B0=−γとおくと、第二種変形ベッセル関数Bessel K(r)に一致する。
【0092】
最終的には、上記した式(17)と式(23)とによって、発熱体の外側(R1≦r≦R2)の温度θは、
【数18】

と表すことができる。この式(24)がステップS106において用いられる方程式であり、演算式記憶部25にあらかじめ記憶されている。ステップS106の具体的な処理としては、演算式記憶部25に記憶された式(24)を取り出した後、ステップS103で算出された換算熱伝達率α’やベースデータ22aで得られる熱伝導率λ等を用いて、上記した式(2)で表わされるmを算出し、式(24)を特定する。なお、C,Dの求め方は、以下の説明において述べる。また、以下の式において、Bessel I(x)は、I(x)と省略し、Bessel K(x)は、K(x)と省略して表記する。
【0093】
次に、発熱体の内側(0≦r≦R1)の方程式、すなわち上記したステップS107において用いられる方程式について説明する。発熱体の内側の方程式は、図9(b)に示すように、発熱体領域40が対象となる。ここでは、図9(b)において、発熱体領域40の同心円状の微小部分42に着目する。
【0094】
単位体積当りの発熱量をq0とすると、
【数19】

が得られる。
【0095】
この式(25)において、右辺の第1項(熱伝達の項)は、第2項(発熱の項)に比べて著しく小さいので省略すると、
【数20】

が得られる。
【0096】
ここで、q0/λ=4kconとおくと、式(26)は、
【数21】

と書けるが、r=0の時、温度の傾きは0となるので、c=0となる。
【0097】
結局、発熱体の内側(0≦r≦R1)の温度θは、式(27)から、
【数22】

と表すことができる。この式(28)がステップS107において用いられる方程式であり、演算式記憶部25にあらかじめ記憶されている。なお、a=−kである。
【0098】
モデル化されたヒートシンクの温度θaは、上記した式(24)と式(28)との解析接続によって、
【数23】

で表される。この式のうち、a,b,C,Dが未知数であるため、これらの値が
定まれば、目的とするヒートシンクの温度θaを得ることができる。
【0099】
そこで、上記した式(24)と式(28)における境界条件を定めることによって(ステップS108に相当する)、a,b,C,Dを求める(ステップS109に相当する)。まず、端部での断熱条件として、r=R2において、
【数24】

が成り立つ。
【0100】
すなわち、
【数25】

となり、Cは、Dで表すことができる。ここで、k=K'(mR2)/I'(mR2)である。なお、K’(mR2)とI'(mR2)は、通常知られている変形ベッセル関数の計算方法(アレン(Allen)の近似式)を用いて既知の値として導出できるが、ここではその説明を省略する。
【0101】
発熱体の外側と内側の温度を一つの方程式で表すために、上記した式(24)と式(28)とを解析接続するには、境界条件として、r=R1において滑らかに接続すること、すなわち両式のθが一致する必要がある(熱量の保存則)。すなわち、
【数26】

が成り立つ。
【0102】
ここで、I(mR1)、K(mR1)、I’(mR1)、K’(mR1)は通常知られている変形ベッセル関数の計算方法を用いて既知の値として導出することができる。すなわち、式(33)と式(31)によって、aは、
【数27】

のようにDで表わされる。
【0103】
また、この式(34)と、式(32)と式(31)によって、bもまた、
【数28】

のようにDで表わされる。結局、上記した係数C,a,bはいずれもDの関数と
して表すことができ、未知数Dが定まれば、温度θaが求まる。
【0104】
そこで、さらなる条件として、ヒートシンクの放熱量が発熱体の発熱量に一致する必要があるため、
【数29】

というエネルギーバランスが成り立つ。この式(36)に、上記した式(29)
を代入すると、
【数30】

が得られる。
【0105】
Qは、図6に示した入力項目として既知であり、α’はステップS103によって決定しており、さらに、a,b,Cが式(31)、式(34)、式(35)に示したようにDで表されるため、結局は、この式(37)によって、未知数Dが定まり、ヒートシンクの温度θaが求まる。なお、式(37)の積分計算は、シンプソン(Simpson)の式を用いて解を得ることができる。
【0106】
次に、モデル化されたヒートシンクの厚さ方向の方程式を立てる(ステップS110に相当する)について説明する。図10は、厚さ方向の方程式を説明するための説明図である。厚さ方向の方程式は、図10に示すように、円柱形状にモデル化されたヒートシンクにおいて、上から発熱体の発熱量に相当する熱量Qiが入るが、出て行く熱量Qtは、上記した式(30),式(32),式(33)の条件を用いて求められる。
【0107】
横方向から、熱を奪われるが、仮想的なる熱伝達率α”を用いて、
【数31】

とおくと(但し、外周をu、断面積をSとする)、
解は、
【数32】

と書ける。ここで、m’を場所によらずに一定値となるとして仮定している。
【0108】
境界条件は、
【数33】

【数34】

【数35】

の3つで、変数が3個なので原理的に解ける。
【0109】
上記式(41)で、β=1/[S×(−λ)×m’]とおくと、e2=e1−βQiと書ける。
【0110】
よって、上記式(42)より、
【数36】

となる。
【0111】
この式を上記式(43)に代入すると、
【数37】

が得られる。
【0112】
左辺はm'tが大きいと、βすなわち1/m'の挙動を示すので(要するにy=1/xの形のグラフになる)ので、ニュートン法にとっては“良い性質の関数”と言える。
【0113】
m'が十分小さいところから、ニュートン法で解を求めると、5回程度で収束するが、実際の演算では、念のため10数回分をプログラミングするのが好ましい。
【0114】
このように算出されたヒートシンクの温度は、本実施形態2では、環境温度からの温度上昇値として求められる(ステップS113)。この温度上昇値は、具体的には、図6に示す出力項目表103内に表示された温度項目のように、発熱体が接触した部分のヒートシンクの温度として出力される。なお、図6では、ヒートパイプ(HP)がない場合、並質のHPを用いた場合、上質のHPを用いた場合、特上質のHPを用いた場合のそれぞれについてのヒートシンクの温度上昇値を表示している。このように、冷却効果が既知であるいくつかの種類のHP情報をあらかじめ記憶させておくことにより、HPを追加した場合のヒートシンクの性能を提示することもできる。
【0115】
また、図6に示す出力項目表103には、上記したフィン情報処理部15から提供される情報として、フィンピッチ、フィン間隔およびフィン効率が表示される。特に、このフィン情報に関する情報は、ヒートシンクを実際に製造する上での困難性を示す指標として有用なものとなる。
【0116】
また、図6に示す出力項目表103では、ベースに関する情報として、スプレッド効率も表示される。ここで、スプレッド効率とは、フィン効率と同様の概念で、ベースにおいてどれだけ熱が行き渡っているかを示す無次元数であり、ベースデータ22aに基づいて所定の演算式により算出可能なデータである。
【0117】
さらに、図6に示す出力項目表103には、上記したファン情報処理部16から提供される情報として、風速(前面)、風速(フィン間)、空気の温度上昇値、風量および圧損が表示される。特に、このファン情報と上記したヒートパイプに関する情報は、ヒートシンクの直接の性能を示す指標ではないが、ファンやヒートパイプはヒートシンクを使用するにあたり併用される可能性が高いため、それら情報の提示は、ヒートシンクを利用する側にとって有用なものとなる。
【0118】
なお、図6の出力項目表103に示した項目以外にも、発熱体とヒートシンクとの間に介在させる熱伝導性緩衝部材(シリコーングリースやシリコーンラバー等)に関する情報や、ヒートシンクを取り付ける電熱素子(ペルチェモジュール等)に関する情報などを提示してもよい。
【0119】
図11は、従来のシミュレーションソフトによる熱解析結果と本発明による熱解析結果との比較を説明するための説明図である。図11(a)に示す表は、銅製のヒートシンクのサイズ=88[mm]×64[mm]であり、フィン高さ=40[mm]、フィン厚さ=0.5[mm]、フィン枚数=32枚、フィンピッチ=2.0[mm]、発熱体の発熱量=79[W]、前面風速=3.71[m/s]、環境温度=0℃を条件とし、さらに、ヒートシンクの厚さと、発熱体がヒートシンクに接触する部分のサイズ(熱源サイズ)とを同表内に示す条件とした場合の温度上昇値の比率について、他ソフトシミュレーションで解析した場合と、本発明にかかるヒートシンク熱解析装置で解析した場合を示している。
【0120】
また、本発明にかかるヒートシンク熱解析装置で解析した温度上昇値については、その誤差も同時に示されている。ここで、誤差は、100×(温度上昇値の差)/(基準の温度上昇値)で算出している。図11(b)は、図11(a)の表に示す誤差をグラフ化した図である。
【0121】
図11に示すように、他ソフトシミュレーションによる解析結果と、本発明にかかるヒートシンク熱解析装置による解析結果との差も、基準となる温度上昇値に対する誤差についてもともに3%以下であり、本発明が高速な熱解析と簡便な操作とを実現するという効果を考えれば、代償として失う解析精度の低下は無視できる程度に小さい。
【0122】
以上に説明したとおり、実施形態2にかかるヒートシンク熱解析装置およびヒートシンク熱解析方法によれば、ヒートシンクを数学的に取り扱い易い円柱形状にモデル化し、そのモデル化に対して適用可能な数個の熱伝導方程式をあらかじめ記憶させておくことで、ヒートシンクの温度分布を僅かな時間で演算することができ、しかもヒートシンクの一端に取り付けられる冷却用ファンの風上・風下温度分布の影響も取り入れることができる。
【0123】
特に、従来の熱解析シミュレーションが、わずかな仕様変更に対しても数分から数十分の解析時間を必要としていたのに対し、本発明にかかるヒートシンク熱解析装置では、熱伝導方程式を簡略化したことからその解析を数秒で終わらせることができる。これは、例えば、ノートパソコン等の携帯可能なコンピュータによって本発明にかかるヒートシンク熱解析装置を実現した場合に、顧客先等で、仕様変更に対するヒートシンクの性能を即座に提示することができることを意味する。逆に顧客側(ユーザ側)にとっても、種々の形状や大きさのヒートシンクについて、その放熱特性等を即座に確認することができるため、自己の欲する最適な仕様のヒートシンクを選別することができる。
【0124】
さらに、図6に示した入出力表示と図5に示した種々の処理部が行なう演算は、ワードプロセッサや表計算ソフト等のいわゆるオフィスアプリケーション上で実現できる程度の処理であるため、営業担当者等の利用者が使い慣れたアプリケーションによるユーザインターフェースを利用することができ、従来の熱解析シミュレーションソフトウェアにおける操作の習熟度の必要性や煩雑さといった問題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の実施形態1に係る熱交換器の熱解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の熱交換器の熱解析装置における温度分布のモデル化を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る熱交換器の熱解析装置における結果表示例を示す図である。
【図4】本発明の熱交換器の熱解析方法で採用している回路網法を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態2に係るヒートシンク熱解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態2に係るヒートシンク熱解析装置において入出力されるデータの表示例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態2に係るヒートシンク熱解析装置による熱解析処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態2において、熱伝達率の換算と後述する面積の換算とを説明するための説明図である。
【図9】本発明の実施形態2において、発熱体の外側と内側の方程式を説明するための説明図である。
【図10】本発明の実施形態2において、厚さ方向の方程式を説明するための説明図である。
【図11】本発明の実施形態2において、従来のシミュレーションソフトによる熱解析結果と本発明による熱解析結果との比較を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0126】
11 入力部
12 風上・風下温度差を考慮しない熱伝達率算出部
13 面積換算部
14 風上・風下温度差を考慮しない温度演算部
15 フィン情報処理部
16 ファン情報処理部
17 表示部
18 温度分布算出部
21発熱体データ
22a ベースデータ
22b フィンデータ
23 風上・風下を考慮した熱伝達率算出部
24 環境データ
25 演算式記憶部
26 風上・風下温度演算部
101 ヒートシンク表示枠
102、202 入力項目表
103 出力項目表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器の所定面方向についての温度分布を演算する熱解析装置において、
前記熱解析装置は、前記熱交換器の前記所定面に平行な一方向に流れる冷却媒体の方向Xについての熱交換器の一次元的な温度分布T(X)を求める風上・風下温度分布演算手段を含み、前記風上・風下温度分布演算手段は、前記熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率を用いてT(X)を導出する演算を含むものであることを特徴とする熱交換器の熱解析装置。
【請求項2】
前記T(X)を導出する演算は、前記所定面を複数の領域に分割し、各領域においてT(X)をそれぞれ所定の解析式で近似したモデルに基づいて行われることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器の熱解析装置。
【請求項3】
前記複数の領域数は2であり、かつ、前記所定の解析式は、
冷却媒体が前記熱交換器に流入する位置をX=-X1、冷却媒体が熱交換器から流出する位置をX=+X1として、
区間-X1≦X≦0においては T=p(X+X1)2+q-pX12 式(1)
区間0≦X≦+X1においては T=p(X-X1)2+q+pX12 式(2)
(但し、p、qは、熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率、発熱体からの発熱量、熱交換器の放熱面積及び熱交換器の前記面方向における断面積によって決まる係数である。)で表されることを特徴とする請求項2に記載の熱交換器の熱解析装置。
【請求項4】
前記熱交換器は、発熱体に接触するベースに複数の放熱フィンが取り付けられてなるヒートシンクであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱交換器の熱解析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の熱交換器の熱解析装置において、前記熱交換器の熱解析装置は、さらに、
放熱フィン部分の熱伝達率をベース部分の熱伝達率に含めることでモデル化されるベース部分のみの熱交換器の熱伝達率を算出する熱伝達率算出手段と、
前記ベース部分の主面の面積と同じ面積を有する第1の円形状と、前記発熱体の接触面積と同じ面積を有する第2の円形状と、を導出し、前記熱交換器を、前記第1の円形状と前記第2の円形状とを同心円として配置した形状にモデル化するモデル化手段と、
前記モデル化手段によってモデル化されたヒートシンクの温度分布を演算する温度演算手段と、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の熱交換器の熱解析装置。
【請求項6】
前記冷却媒体による冷却が自然冷却である場合に、熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率は、前記冷却媒体の浮力と圧力との関係から求められた前記冷却媒体の風速を用いて算出されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱交換器の熱解析装置。
【請求項7】
熱交換器の所定面方向についての温度分布を求めるための熱解析方法において、
前記熱解析方法は、前記熱交換器の前記所定面に平行に流れる冷却媒体の方向Xについての熱交換器の一次元的な温度分布T(X)を求める風上・風下温度分布演算ステップを含み、前記風上・風下温度分布演算ステップは、前記熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率を用いてT(X)を導出する演算を含むものであることを特徴とする熱交換器の熱解析方法。
【請求項8】
前記T(X)を導出する演算は、前記所定面を複数の領域に分割し、各領域においてT(X)をそれぞれ所定の解析式で近似したモデルに基づいて行われることを特徴とする請求項6に記載の熱交換器の熱解析方法。
【請求項9】
前記複数の領域数は2であり、かつ、前記所定の解析式は、
冷却媒体が前記熱交換器に流入する位置をX=-X1、冷却媒体が熱交換器から流出する位置をX=+X1として、
区間-X1≦X≦0においては T=p(X+X1)2+q-pX12 式(1)
区間0≦X≦+X1においては T=p(X-X1)2+q+pX12 式(2)
(但し、p、qは、熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率、発熱体からの発熱量、熱交換器の放熱面積及び熱交換器の前記面方向における断面積によって決まる係数である。)で表されることを特徴とする請求項7に記載の熱交換器の熱解析方法。
【請求項10】
前記熱交換器は、発熱体に接触するベースに複数の放熱フィンが取り付けられてなるヒートシンクであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の熱交換器の熱解析方法。
【請求項11】
請求項9に記載の熱交換器の熱解析方法において、前記熱交換器の熱解析方法は、さらに、
放熱フィン部分の熱伝達率をベース部分の熱伝達率に含めることでモデル化されるベース部分のみの熱交換器の熱伝達率を算出する熱伝達率算出ステップと、
前記ベース部分の主面の面積と同じ面積を有する第1の円形状と、前記発熱体の接触面積と同じ面積を有する第2の円形状と、を導出し、前記熱交換器を、前記第1の円形状と前記第2の円形状とを同心円として配置した形状にモデル化するモデル化ステップと、
前記モデル化手段によってモデル化されたヒートシンクの温度分布を演算する温度演算ステップと、
を含んだことを特徴とする請求項9に記載の熱交換器の熱解析方法。
【請求項12】
前記冷却媒体による冷却が自然冷却である場合に、熱交換器表面と冷却媒体からなる系の熱伝達率は、前記冷却媒体の浮力と圧力との関係から求められた前記冷却媒体の風速を用いて算出されることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の熱交換器の熱解析方法。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれかに記載された方法をコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−177870(P2006−177870A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373218(P2004−373218)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】