説明

熱交換器の製造方法

【課題】流動性のある熱硬化型接着剤23を用いて熱交換器1を接着接合することに起因する問題点を発生させることのない熱交換器の製造方法を提供する。
【解決手段】略対向する複数の接着接合部が略天地方向となる姿勢にて熱硬化型接着剤23を加熱硬化させるとともに、その加熱途中にて姿勢を天地反転させている。
これによれば、姿勢を加熱途中で天地反転させることにより、上側接合部と下側接合部とのフィレットFの形成状態を均一化することができ、接合部にフィレットFが形成されなかったり不完全であったりすることによる洩れ不良や耐圧強度不足など、流動性のある熱硬化型接着剤23を用いて熱交換器1を接着接合することに起因する問題点を発生させることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の構成部材を接着接合させて製造する熱交換器(コンデンサ、エバポレータ、ヒータ、ラジエータなど)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱交換器を製造する場合、アルミニウムの板材を材料としてある形状に部品加工し、その加工部品同士を組み合せてろう付け接合にて完成させることが一般に行われている。このようにろう付け接合する場合、アルミニウム製のろう材の溶融温度が通常577℃程度であるため、接合時にその温度、あるいはそれ以上のろう付け温度(約600℃)まで上昇させなければならず、ろう付け時に消費するエネルギーが大きい。
【0003】
このため下記特許文献1には、アルミニウム製のろう材に代えて300℃以下で加熱硬化可能な樹脂をコーティングしたアルミニウム材料を用いた熱交換器、および樹脂コーティングしたアルミニウム材料を熱交換器の構成部材に使用し、構成部材同士をコーティング樹脂の融着によって接着接合する熱交換器の製造方法が提案されている。
【0004】
また近年、車両用空調装置などでは特に熱交換器の軽量化が求められており、そのためには芯材であるアルミニウム材料を500μm以下の厚みにすることが有効である。ところが、アルミニウム材料を薄くすると強度が低下するので、芯材の強度を向上させるためにマグネシウム、銅、ケイ素などの元素を添加した高強度アルミニウム合金を用いる必要がある。
【0005】
しかしながら、このような高強度アルミニウム合金は、元素添加量を増やすと強度は向上するものの融点が低下するなどし、ろう材を積層したアルミニウムシートにおいてはろう付け性が著しく低下するという問題がある。そこで、本発明者らは、下記特許文献2、3では隙間充填性(=流動性)と強度とを両立するエポキシ系の熱硬化型接着剤を用いた接着剤被覆部材、および下記特許文献4ではその接着剤被覆部材を用いた熱交換器の製造方法を提案している。
【特許文献1】特開2002−243395号公報
【特許文献2】特開2004−237556号公報
【特許文献3】特開2005−14380号公報
【特許文献4】特開2004−42247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱交換器の構造として通常、図1に例示するように、熱交換媒体の導入・導出部であるタンク部2と、熱交換部であるコア部3とを備えており、それぞれの部位で多数の接合箇所を有している。このため、接合中に上(天)側となる接合箇所と、下(地)側となる接合箇所とが混在している。このような熱交換器を、流動性のある熱硬化型接着剤を用いて接着接合する場合、加熱時に接着剤が接合部に流動した後に硬化して接着される。
【0007】
図8の(a)〜(e)は、図1中A部のタンク部2での断面を例に採ってモデル的に示した従来の工程図であり、後述する本発明を表す図3に対応するものである。しかしながら、図8(d)に示すように、加熱時に重力の影響を受けるため、通常の加熱方法では上側の接着剤が下側へと流動する。
【0008】
このため、上側の接合部を接着させるための接着剤量が不足して上側接合部の接着状態が不充分となり、最悪隙間Sが発生する。その結果、図8(e)に示す完成した熱交換器としては、上側接合部にフィレットFが形成されなかったり不完全であったりすることにより、洩れ不良や耐圧強度不足が発生するという問題点がある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、流動性のある熱硬化型接着剤を用いて熱交換器を接着接合することに起因する問題点を発生させることのない熱交換器の製造方法を提供することにある。なお、図1、図8で説明しなかった符号は、後述する本発明の実施形態中の符号と対応しているため、ここでは説明を省略する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、請求項1ないし請求項10に記載の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、複数の構成部材(21、22、31)を接着接合させて実質的な接着構造体である熱交換器を製造する方法であり、
複数の構成部材(21、22)の略対向する複数の接着接合部を熱硬化型接着剤(23)にて接着接合させて熱交換媒体流路(2a)を形成するものにおいて、
略対向する複数の接着接合部が略天地方向となる姿勢にて熱硬化型接着剤(23)を加熱硬化させるとともに、その加熱途中にて姿勢を天地反転させることを特徴としている。
【0011】
発明者らは、加熱時に重力が一方向に掛かる影響を回避する方法に着目して検討した結果、加熱時の適正な温度で、上下の姿勢を反転させることにより、上側接合部と下側接合部の接着状態を均一化させることが可能であることが判明した。
【0012】
この請求項1に記載の発明によれば、姿勢を加熱途中で天地反転させることにより、上側接合部と下側接合部とのフィレット形成状態を均一化することができ、接合部にフィレットが形成されなかったり不完全であったりすることによる洩れ不良や耐圧強度不足など、流動性のある熱硬化型接着剤(23)を用いて熱交換器(1)を接着接合することに起因する問題点を発生させることがない。
【0013】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の熱交換器の製造方法において、天地反転させるタイミングとして、複数の構成部材(21、22、31)の温度が熱硬化型接着剤(23)の硬化特性における発熱反応のピーク温度(Tp)よりも低い温度のときに天地反転させることを特徴としている。この請求項2に記載の発明によれば、熱硬化型接着剤(23)が加熱によって軟化して流動性を有しており、硬化する以前に天地反転させることが有効である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の熱交換器の製造方法において、熱硬化型接着剤(23)としてエポキシ系接着剤を用いたことを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、エポキシ系接着剤は接着剤として汎用性に富み、要求特性に応じたものを入手し易いことによる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法において、複数の構成部材(21、22、31)の温度が120〜210℃、より好ましくは190〜200℃のときに天地反転させることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、エポキシ系接着剤においては上記温度帯が上記した天地反転させるタイミングとして適していることによる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法において、加熱雰囲気温度を250℃以下とすることを特徴としている。この請求項5に記載の発明によれば、加熱温度が250℃以下であれば構成部材(21、22、31)が加熱影響を受ける可能性がほとんどない。
【0017】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法において、構成部材(21、22、31)のいずれかを接着剤被覆部材(20)から形成したことを特徴としている。この請求項6に記載の発明によれば、接着剤被覆部材(20)をプレス加工して、構成部材(21、22、31)を容易に形成することができる。
【0018】
また、請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の熱交換器の製造方法において、接着剤被覆部材(20)の接着接合部となる部分の熱硬化型接着剤層(23)を他部よりも厚肉としたことを特徴としている。この請求項7に記載の発明によれば、容易かつ安定的に接着接合部のみフィレットを厚くすることができ、少ない熱硬化型接着剤(23)で有効にシール性および耐圧強度を確保することができる。
【0019】
また、請求項8に記載の発明では、請求項6または請求項7に記載の熱交換器の製造方法において、接着剤被覆部材(20)の母材(B)として高強度アルミニウム合金材を用いたことを特徴としている。この請求項8に記載の発明によれば、高強度アルミニウム合金材を母材(B)として用いることにより、熱交換器(1)の小型化・軽量化に寄与することができる。
【0020】
また、請求項9に記載の発明では、請求項6または請求項7に記載の熱交換器の製造方法において、接着剤被覆部材(20)の母材(B)として非金属部材を用いたことを特徴としている。この請求項9に記載の発明によれば、非金属部材を母材(B)として用いることにより、熱交換器(1)の小型化・軽量化に寄与することができる。
【0021】
また、請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の熱交換器の製造方法において、非金属部材として樹脂部材を用いたことを特徴としている。この請求項10に記載の発明によれば、構成部材(21、22、31)を軽量に形成することができる。ちなみに、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、添付した図1〜7を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法を適用する熱交換器1の一例を示す斜視図であり、図2は、図1の熱交換器1の製造工程概要を示す流れ図である。また、図3の(a)〜(e)は、図1中A部のタンク部2での断面を例に採ってモデル的に示した工程図である。
【0023】
なお、本実施形態の熱交換器1は、実質的な接着構造体である。ここでの実質的な接着構造体とは、熱交換器1の主要構成部材が接着結合されておればよく、図示しないブラケットなどの付属的部品が溶接ないし脱着可能なビス・クリップ止めなどの機械的結合を含んでいても良いことを意味する。
【0024】
本実施形態は、車両用空調装置などの冷凍サイクルに用いられる冷媒蒸発器に本発明の熱交換器1を適用したものである。図1に示すように、熱交換器1は、熱交換媒体(本実施形態では冷媒)の導入・導出部であるタンク部2と、熱交換部であるコア部3とを備えている。
【0025】
タンク部2は、図3(c)に示すように、熱交換用のチューブ(構成部材)31の端部31aが挿入されて接着接合されるヘッダプレート(構成部材)21と、類似形状のタンクヘッダプレート(構成部材)22とを組み合せ、略対向する複数(図例では上下)の接合部を接合させて熱交換媒体流路2aを形成している。
【0026】
コア部3は、端部31aを両側のタンク部2内の熱交換媒体流路2aに連通させたチューブ31と、そのチューブ31間に配された熱交換用のフィン32とを複数積層して形成している。そしてこれらの構成部材相互を接着接合にて一体として熱交換器1を形成している。
【0027】
本発明の製造方法の一実施形態は、下記(1)プレコートシート材調製工程、(2)構成部材調製工程、および(3)組み立て接合工程からなる(図2、図3参照)。
【0028】
(1)プレコートシート材調製工程:
図3(a)に示すように、母材(心材)Bの片面、または両面(図例では両面)に、未架橋状態の熱硬化型接着剤からなる未硬化固状被膜(熱硬化型接着剤層)23を被覆させてプレコートシート材(接着剤被覆部材)20を調製する。
【0029】
図4は、接着接合部となる部分に熱硬化型接着剤層23を厚肉被覆したプレコートシート材20の平面図および側面断面図である。このように、接着接合部となる部分を他の部分より厚肉に被覆させてプレコートシート材20を調製しても良い。例えば一般部位は、通常、5〜100μm、望ましくは10〜50μmとし、接着接合部は、それより厚肉、通常、10〜200μm、望ましくは40〜80μmとしている。なお、図4中の二点鎖線は、ブランクないしヘッダプレート21、22の裁断位置である。
【0030】
母材Bとして、本実施形態では伝熱性および軽量化の見地からAl系金属を使用している。上記Al系金属とは、AlおよびAl系合金を含み、Al合金としては、熱交換器素材とする場合、例えば、A2000系(Al−Cu系)、A3000系(Al−Mn系)、A5000系(Al−Mg系)、A6000系(Al−Mg−Si系)、A7000系(Al−Zn系)などを使用できる。
【0031】
特に、上記タンク部材の場合は、軽量化などの見地から、高強度Al合金、例えばA5052、A5182(Al−Mg系)、A2017(Al−Cu−Mg系)、A3003(Al−Mn−Cu系)などを使用することが望ましい。ここで材料記号は、JIS記号である。なお、母材Bはこれらに限らず、熱交換器1の要求特性に応じて、Cu系、鉄系さらにはMg系、Ti系などの金属材であっても良いし、さらには樹脂部材などの非金属部材であっても良い。
【0032】
金属板材は圧延材とし、その板厚(肉厚)は、Al系の場合、通常のチューブ材で0.02〜1mm、望ましくは、0.05〜0.5mmとしている。但し、耐内圧破壊強度が要求される部位、本実施形態では、タンク構成部材についてはこの限りではない。そして、使用する熱硬化型接着剤23としては、金属構造用熱硬化型接着剤として、未硬化固状(Bステージ状態)のものを入手可能、もしくは製造可能なものなら特に限定しない。
【0033】
例えば、固形エポキシ、エポキシ/フェノリック、ナイロン/エポキシ、ニトリル/エポキシ、ポリビニルホルマール/フェノリック、ニトリルゴム/フェノリックなどを使用できる(接着協会編「接着ハンドブック」昭55−11−20、日刊工業、p350−353参照)。これらのうち、前四者のエポキシ系のものが、汎用性があり、各種特性のものを選択できるため望ましい。特に、耐熱性の見地からは、熱安定性に優れているエポキシ/フェノリックのものが望ましい。
【0034】
被膜の形成方法は、ローラー塗り、刷毛塗り、スプレー塗り、浸漬塗りなど任意である。図5は、ローラー塗りによりプレコートシート材20を作る場合の説明図である。安定した塗膜厚を得る見地から、通常、図5に示す如く、バックアップローラー31の上を搬送される母材(心材、圧延材)Bの表面に、ドクターローラー32によって付着量(被膜厚)を調節しながらコーティングローラー33によって塗布している。コーティングローラー33への液状接着剤23Aの供給は、図示しないピックアップローラーなどによって行っている。
【0035】
そして、接着接合部を厚肉に接着剤を塗布するには、二回塗り(重ね塗り)しても良いが、ドクターローラー32の接着接合部に対応する端部を小径にして、ドクターローラー32とコーティングローラー33の隙間を大きくする。または、接着接合部に要求塗膜厚に塗布後、ドクターブレードなどによって一般部位の接着剤を掻き取って一般部位の要求塗膜厚に形成しても良い。
【0036】
図6は、フィルム状接着剤23Bを用いてプレコートシート材20を作る場合の説明図である。このように、未架橋状態(Bステージ状態)で固状のフィルム状接着剤23Bを使用する場合は、図6に示す如く、バックアップロール31の上を搬送される母材(心材、圧延材)Bの表面に、フィルム状接着剤23Bを載せながら、必要によって若干加熱(100℃程度)した圧接ローラー(圧着ローラー)34で圧着して、未硬化固状被膜23を形成する。
【0037】
なお、フィルム状接着剤23Bは、キャスト、乾燥させて作ったものを使用する。そして、フィルム状接着剤23Bを使用して厚肉塗膜部を形成する場合は、母材全面にフィルム状接着剤を圧接ローラー34で圧着させた後、所定幅のテープ状とした圧接ローラー34でフィルム状接着剤23Bを圧着させても良い。
【0038】
(2)構成部材調製工程:
図3(b)に示すように、プレコートシート材20からプレス加工によってヘッダプレート21、タンクヘッダプレート22を形成する。また同時に、ヘッダプレート21には、チューブ31を挿入するチューブ挿入孔21aを形成する。このとき、接着剤層23は実質的に粘着性を有しない未硬化固状層であるため、プレコートシート材20が他部品と干渉・接触しても接着剤23が付着したりすることなく、取り扱い性が良好である。
【0039】
(3)組み立て接合工程:
チューブ31とフィン32とを積層したものに対し、図3(c)に示すように、チューブ31の端部31aをヘッダプレート21のチューブ挿入孔21aに挿入し、タンクヘッダプレート22を組み合わせることで熱交換媒体流路2aを形成してタンク部2および熱交換器1の仮組み立てを行う。
【0040】
次に、図3(d)に示すように、加熱雰囲気において、未硬化被膜(接着剤層)23を完全硬化(架橋)のCステージ状態にさせる接着結合を行う。このとき、加熱雰囲気の温度は、母材の金属に熱影響を与えない250℃以下としている。図7は、熱硬化型接着剤23の硬化反応特性の一例を示すグラフである。
【0041】
接着剤23の種類によって異なるが、エポキシ系の熱硬化型接着剤23を用いた本実施形態の場合、図7に示すように、発熱反応が170℃位から始まり、210℃が発熱反応のピーク温度Tpとなっている。加熱温度が低すぎると、接着剤23の硬化速度が遅く、生産性的見地から望ましくなく、加熱温度が高すぎると、母材の金属に対してばかりでなく、接着剤ポリマーも熱影響(熱劣化)を受け易い。
【0042】
このとき、加熱雰囲気は、ろう付けの場合の如く、N雰囲気で600℃前後の如く高温にする必要がない。すなわち、Nを封入可能な高出力電気加熱炉が不要で、汎用の加熱炉Kが使用可能である。また、この加熱硬化工程において、プレス加工時に使用した加工油の大気加熱脱脂も兼用することができる。
【0043】
次に、本発明の要部を説明する。本発明では、図3(c)に示すように、略対向する複数の接着接合部が略天地方向となる姿勢にて熱硬化型接着剤23を加熱硬化させるとともに、その加熱途中にて姿勢を天地反転させるようにしている。また、その天地反転させるタイミングとして、各構成部材21、22、31の温度が熱硬化型接着剤23の硬化特性における発熱反応のピーク温度Tpよりも低い温度のときに天地反転させるようにしている。
【0044】
より具体的には、各構成部材21、22、31の温度が120〜210℃、より好ましくは190〜200℃のときに天地反転させるようにしている。これは、加熱炉K内で加熱中の熱交換器1の温度を熱伝対などで検出し、所定の温度に達したら熱交換器1を保持している治具を反転させて行っているものである。
【0045】
なお、上述の実施形態においては、未硬化固状被膜(接着剤層)23の接着接合部における塗膜厚を一般部位に比して厚肉に形成して接着接合部の補強対策を行ったが、未硬化固状被膜23を均一に形成しておいて、熱交換器1を仮組み立て後、加熱硬化工程前に、接着接合部の外周に補強用接着剤塗布しても良い(図2中の二点鎖線参照)。
【0046】
この場合に使用する接着剤は、前述の固状被膜形成に使用した液状接着剤23Aやフィルム状接着剤23Bを使用できる。塗布方法は、浸漬塗り、スプレー塗り、刷毛塗りなどより行うことが望ましい。なお、図3(e)は、完成した熱交換器1での接合状態を示している。
【0047】
次に、本実施形態での特徴と、その効果について述べる。まず、略対向する複数の接着接合部が略天地方向となる姿勢にて熱硬化型接着剤23を加熱硬化させるとともに、その加熱途中にて姿勢を天地反転させている。発明者らは、加熱時に重力が一方向に掛かる影響を回避する方法に着目して検討した結果、加熱時の適正な温度で、上下の姿勢を反転させることにより、上側接合部と下側接合部の接着状態を均一化させることが可能であることが判明した。
【0048】
これによれば、姿勢を加熱途中で天地反転させることにより、上側接合部と下側接合部とのフィレットFの形成状態を均一化することができ、接合部にフィレットFが形成されなかったり不完全であったりすることによる洩れ不良や耐圧強度不足など、流動性のある熱硬化型接着剤23を用いて熱交換器1を接着接合することに起因する問題点を発生させることがない。
【0049】
また、天地反転させるタイミングとして、複数の構成部材21、22、31の温度が熱硬化型接着剤23の硬化特性における発熱反応のピーク温度Tpよりも低い温度のときに天地反転させている。これによれば、熱硬化型接着剤23が加熱によって軟化して流動性を有しており、硬化する以前に天地反転させることが有効である。
【0050】
また、熱硬化型接着剤23としてエポキシ系接着剤を用いている。これによれば、エポキシ系接着剤は接着剤として汎用性に富み、要求特性に応じたものを入手し易いことによる。また、複数の構成部材21、22、31の温度が120〜210℃、より好ましくは190〜200℃のときに天地反転させている。これによれば、エポキシ系接着剤においては上記温度帯が上記した天地反転させるタイミングとして適していることによる。
【0051】
また、加熱雰囲気温度を250℃以下としている。これによれば、加熱温度が250℃以下であれば構成部材21、22、31が加熱影響を受ける可能性がほとんどない。また、構成部材21、22、31のいずれかを接着剤被覆部材20から形成している。これによれば、接着剤被覆部材20をプレス加工して、構成部材21、22、31を容易に形成することができる。
【0052】
また、接着剤被覆部材20の接着接合部となる部分の熱硬化型接着剤層23を他部よりも厚肉としている。これによれば、容易かつ安定的に接着接合部のみフィレットFを厚くすることができ、少ない熱硬化型接着剤23で有効にシール性および耐圧強度を確保することができる。 また、接着剤被覆部材20の母材Bとして高強度アルミニウム合金材を用いている。これによれば、高強度アルミニウム合金材を母材Bとして用いることにより、熱交換器1の小型化・軽量化に寄与することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の効果を確認するために従来の製造方法での比較例とともに行った実施例について説明をする。表1に示すように、天地反転の有無と、天地反転を行うものについてはその反転時の温度を可変して、それぞれ表示の条件で熱交換器を製造した。そして、その完成した熱交換器の評価として、図3、図8のようにタンク部断面での上下接着接合部でのフィレットの形成状態、0.2MPa加圧状態での洩れ、および内圧破壊強度で評価した。
【0054】
それらの結果を表1に示す。従来の天地反転を行わない製造方法での熱交換器では、上側接着接合部でのフィレットが未形成であり、当然最初から洩れが発生して内圧破壊強度を評価できるものではなかった。これに対して、本発明の天地反転を行った熱交換器は、いずれも0.2MPa加圧状態での洩れは無く良好であった。
【0055】
さらに、120℃で反転をしたものは上側接着接合部でのフィレットが小さく、内圧破壊強度は0.5MPaで評価は○、190℃と200℃で反転をしたものは上下とも接着接合部でのフィレットは均一であり、内圧破壊強度は190℃反転で1.7MPaで評価は◎、200℃反転で2.2MPaで評価は◎、210℃で反転をしたものは下側接着接合部でのフィレットが小さく、内圧破壊強度は1.0MPaで評価は○となった。この結果より、本発明の加熱途中にて姿勢を天地反転させることは上下フィレットの均一化に有効であり、洩れ、破壊強度とも良好となることが確認できた。
【0056】
【表1】

(その他の実施形態)
上述の実施形態では、接着剤被覆部材20の母材Bとして金属部材を用いているが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、接着剤被覆部材20の母材Bとして樹脂部材(より具体的にはPPS系樹脂や液晶樹脂など)やなどの非金属部材を用いても良い。これによれば、構成部材21、22、31を軽量に形成することができ、熱交換器の小型化・軽量化に寄与することができる。非金属部材としては他に、例えばセラミックなどであっても良い。
【0057】
また、上述の実施形態では、本発明の製造方法による熱交換器をエバポレータに本発明を適用しているが、コンデンサ、ヒータ、ラジエータなど他の熱交換器に適用しても良い。また、上述の実施形態では、チューブ31とタンク部材21、22で構成された熱交換器としたが、多数枚の伝熱プレートを接着結合させて熱交換媒体流路群(コア部)と熱交換媒体導入・導出部(分配・集合タンク部)とを一体形成した熱交換器に適用しても良い。
【0058】
すなわち、本発明は、当該構成のものに限られるものではなく、多管式、二重管式、渦巻き式、プレートフィン式など各種熱交換器に適用できるものである(熱交換器の種類は、化学工学協会編「化学装置便覧」丸善、昭52−3−20、p1167−1174参照)。
【0059】
また、上述の実施形態では、両面に未硬化固状被膜23を形成したタンク部構成部材21、22同士を接着接合しているが、未硬化固状被膜23は構成部材表面の少なくとも一部に形成されるものであれば良く、片面にだけ未硬化固状被膜23を形成したものであっても良いし、一部の構成部材(上述の実施形態ならば例えばヘッダプレート21)のみを接着剤被覆部材20から形成したものにして本発明の製造方法を適用しても良いし、母材Bから形成した複数の構成部材間の接着接合部間だけに、例えばフィルム状接着剤23Bを載置して接着接合を行うものに本発明の製造方法を適用しても良い。
【0060】
また、上述の実施形態では、母材Bの表面に未硬化固状被膜23を形成した後にプレス成形工程を行うことで、タンク部材21、22の表面に熱硬化型接着剤層23を形成していたが、プレス成形工程を完了した後に未硬化固状被膜23の形成を行うものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の製造方法を適用する熱交換器1の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の熱交換器1の製造工程概要を示す流れ図である。
【図3】(a)〜(e)は、図1中A部のタンク部2での断面を例に採ってモデル的に示した工程図である。
【図4】接着接合部となる部分に熱硬化型接着剤層23を厚肉被覆したプレコートシート材20の平面図および側面断面図である。
【図5】ロール塗りによりプレコートシート材20を作る場合の説明図である。
【図6】フィルム状接着剤23Bを用いてプレコートシート材20を作る場合の説明図である。
【図7】熱硬化型接着剤23の硬化反応特性の一例を示すグラフである。
【図8】(a)〜(e)は、図1中A部のタンク部2での断面を例に採ってモデル的に示した従来の工程図である。
【符号の説明】
【0062】
2a…熱交換媒体流路
20…プレコートシート材(接着剤被覆部材)
21…ヘッダプレート(構成部材)
22…タンクヘッダプレート(構成部材)
23…未硬化固状被膜(熱硬化型接着剤、接着剤層)
31…チューブ(構成部材)
B…母材、心材
Tp…発熱反応のピーク温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構成部材(21、22、31)を接着接合させて実質的な接着構造体である熱交換器を製造する方法であり、
前記複数の構成部材(21、22)の略対向する複数の接着接合部を熱硬化型接着剤(23)にて接着接合させて熱交換媒体流路(2a)を形成するものにおいて、
前記略対向する複数の接着接合部が略天地方向となる姿勢にて前記熱硬化型接着剤(23)を加熱硬化させるとともに、その加熱途中にて前記姿勢を天地反転させることを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項2】
天地反転させるタイミングとして、前記複数の構成部材(21、22、31)の温度が前記熱硬化型接着剤(23)の硬化特性における発熱反応のピーク温度(Tp)よりも低い温度のときに天地反転させることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化型接着剤(23)としてエポキシ系接着剤を用いたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項4】
前記複数の構成部材(21、22、31)の温度が120〜210℃、より好ましくは190〜200℃のときに天地反転させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項5】
加熱雰囲気温度を250℃以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記構成部材(21、22、31)のいずれかを接着剤被覆部材(20)から形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記接着剤被覆部材(20)の前記接着接合部となる部分の熱硬化型接着剤層(23)を他部よりも厚肉としたことを特徴とする請求項6に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記接着剤被覆部材(20)の母材(B)として高強度アルミニウム合金材を用いたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項9】
前記接着剤被覆部材(20)の母材(B)として非金属部材を用いたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項10】
前記非金属部材として樹脂部材を用いたことを特徴とする請求項9に記載の熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−192478(P2007−192478A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11712(P2006−11712)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度〜平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 エネルギー使用合理化技術戦略的開発エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発アルミ熱交換器の低温接合技術の研究開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】